JP2008026284A - メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法 - Google Patents

メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、メッキ鋼板の端面耐食性を簡便且つ定量的に評価するための端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記メッキ鋼板の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、これを利用した端面耐食性評価装置及びこれを利用した端面耐食性評価方法である。
【選択図】図3

Description

本発明は、メッキ鋼板の端面耐食性を簡便、迅速且つ定量的に評価するための端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法に関する。
近年、メッキ鋼板を市場で使用するときに最大の弱点とされる端面耐食性の向上技術への要求が高まり、技術開発に際しては端面耐食性のより高度な評価技術が必要になってきた。
端面腐食は端面の鋼板露出面を有する切り板(平板)が腐食するときに見られる腐食形態のひとつである。ここで、端面の鋼板露出面を有する切り板(平板)が腐食する形態を大別すると、(1)切断されてできた端面の鋼板露出面は腐食環境において酸素還元反応を行うカソード面となり、メッキを端面から鋼板面方向(鋼板面と平行な方向)に腐食(アノード反応)を進行させる端面腐食と(2)メッキ面の表面に酸素、水、塩分等の腐食因子が腐食環境から供給され、メッキ表面から鋼板面方向に垂直にメッキの腐食が進行する孔明き腐食との二つに分類される。ただし、孔明き腐食はメッキ表面が露出状態の場合に起こるものであり、メッキ鋼板の表面に塗装や後処理が施されていると腐食因子の透過バリア効果を有するため、メッキ表面全体が同時に錆びずに、塗膜欠陥部から塗膜の下をメッキが這うように腐食が進行(エッジクリープ)する塗膜下腐食の形態をとる。
塗装されたメッキ鋼板の端面部から鋼板面方向のメッキの腐食速度(エッジクリープ速度)は時間の経過と共に、腐食の初期は急激に増加し、その後緩やかな増加をたどる傾向がある。前者の急激なメッキ腐食速度の増加は端面腐食と塗膜下腐食によるものであるが、その主体は端面腐食が支配的な腐食期間であり、露出端面の面積(鋼板厚みに依存)の増加と共に大きくなる。他方、後者の緩やかなメッキ腐食速度の増加は塗膜下腐食が主体の腐食期間であり、露出端面の面積の影響を受けない。前者から後者への腐食速度の移行の境界点およびそれぞれの腐食速度の大きさは、材料(メッキ鋼板種、塗装や後処理の有無や種類)と腐食環境の組み合わせに依存するものと考えられる。上記塗膜下腐食については従来、塗装されたZn系メッキ鋼板の塗膜キズ部(欠陥部)からの腐食挙動を基に、定量的且つ電気化学的な解釈がなされている(例えば、非特許文献1を参照)。
一方、上記端面腐食については、これまでメッキ鋼板の切り板を用途に見合った各種腐食環境に曝露し、定期的に端面部の外観観察により腐食幅や端面部近傍の赤錆発生率等を評価するに留まっており、定量的な解釈はなされていない。上記端面腐食の定量的な取り扱いに際しては、端面の鋼板露出面とメッキとの間に流れる腐食電流(メッキの腐食速度に相当)を観測し、材料間でこの腐食電流や腐食電荷量(腐食電流と腐食時間の積であり、メッキの腐食量に相当)の大小を明らかにすることで定量的に端面耐食性を把握することができるようになる。しかし、実際には鋼板とメッキは接触しているため、メッキと鋼板との間を流れる腐食電流を直接観測することは不可能である。また、腐食の初期は端面腐食と塗膜下腐食乃至孔明き腐食が同時に起こるため、端面腐食のみを進行させる必要がある。この二つの課題を解決できるような端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置、端面耐食性評価方法が必要とされていた。
鉄と鋼、vol.77、p.1122(1991年)
そこで、本発明は、上記現状に鑑み、メッキ鋼板の端面耐食性を簡便且つ定量的に評価するための端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法を提供することを目的とするものである。
本発明は、メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法であって、まずメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料については、端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記メッキ鋼板の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなることを特徴とするメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料である。
また、端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を通電可能に接続してなる積層体、あるいは端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を、隙間なく密着するように積層してなる積層体を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなることを特徴とするメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料である。
また、端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を測定可能に配線してなる積層体を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなることを特徴とするメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料である。
更に、メッキ鋼板の端面耐食性評価装置については、端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を測定可能に配線してなる積層体を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなるメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料と、前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を経時測定及び記録する腐食電流測定記録装置とからなることを特徴とするメッキ鋼板の端面耐食性評価装置である。
更に、メッキ鋼板の端面耐食性評価方法については、請求項4に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価装置で記録された腐食電流と、予め定めておいた腐食電流と試料の露出端面からのメッキの腐食速度との関係式に基いて、前記メッキの腐食速度を求めることを特徴とするメッキ鋼板の端面耐食性評価方法である。
併せて、前記腐食電流と試料の露出端面からのメッキの腐食速度との関係式が次式であることを特徴とする請求項5に記載のメッキ鋼板の端面耐食性の評価方法である。
Figure 2008026284
前記式におけるパラメータは以下のとおりである。
I:観測される腐食電流[A]
V:実際の端面部からのメッキ腐食速度[mm/day] σ:補正係数[−]
M:メッキ金属の分子量[g/mol] n:価数[−]
F:ファラデー定数96500[C/mol] ρ:メッキ金属の比重[g/cm
α:両面メッキは2、片面メッキは1[−]
:端面部メッキ露出部のラフネスファクター[−]
:メッキ厚み[μm] W=Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
:メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
:非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc2:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
:非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc3:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
また、請求項4に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価装置で記録された腐食電流から腐食電荷量を演算し、当該腐食電荷量と、予め定めておいた腐食電荷量と試料の露出端面からのメッキ腐食幅との関係式に基いて、前記メッキの腐食幅を求めることを特徴とするメッキ鋼板の端面耐食性評価方法である。
併せて、前記腐食電荷量と試料の露出端面からのメッキ腐食幅との関係式が次式であることを特徴とする請求項7に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価方法である。
Figure 2008026284
前記式におけるパラメータは以下のとおりである。
L:実際の端面部からのメッキ腐食幅[mm] σ:補正係数[−]
M:メッキ金属の分子量[g/mol] n:価数[−]
F:ファラデー定数96500[C/mol] ρ:メッキ金属の比重[g/cm
α:両面メッキは2、片面メッキは1[−]
:端面部メッキ露出部のラフネスファクター[−]
:メッキ厚み[μm] W=Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
:メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
:非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc2:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
:非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc3:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
Q:観測された腐食電荷量[C]
端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を測定可能に配線してなる積層体を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなるメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料と、前記試料のメッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を経時測定し、当該腐食電流を演算によりメッキの端面腐食速度へ変換するメッキの端面腐食速度演算装置とからなることを特徴とするメッキ鋼板の端面耐食性評価装置である。
前記試料のメッキの端面腐食速度演算式が次式であることを特徴とする請求項9に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価装置である。
Figure 2008026284
前記式におけるパラメータは上述したとおりである。
端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を測定可能に配線してなる積層体を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなるメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料と、前記試料のメッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を経時測定し、当該腐食電流を演算により腐食電荷量を経由し、メッキの端面腐食幅へ変換するメッキの端面腐食速度演算装置とからなることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価装置である。
前記試料のメッキの端面腐食幅演算式が次式であることを特徴とする請求項11に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価装置である。
Figure 2008026284
前記式におけるパラメータは上述したとおりである。
本発明のメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法は、上述した構成よりなるので、簡便且つ定量的に評価するための端面耐食性評価技術として好適である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
これまでメッキ鋼板の端面耐食性評価が定量的な視点から未実施であったことの理由として、前述の二つの課題、すなわち、端面が露出した塗装乃至未塗装平板の腐食の初期は端面腐食と塗膜下腐食乃至孔明き腐食が同時に起こることと、メッキ鋼板単独では鋼板とメッキが接触しているため、端面腐食の定量把握に必要なメッキと鋼板間を流れる腐食電流を直接取り出すことができないことがあげられる。
本発明のメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法によれば、上記二つの課題を解決し、端面腐食の定量的な取り扱いが以下のごとく可能となる。
図1は、本発明の一実施形態におけるメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料のテスト面を示している。ただし、メッキ鋼板は片面メッキ鋼板乃至両面メッキ鋼板のどちらの場合でも発明の原理原則には係わらないため、以下に示される本実施形態に係るメッキ鋼板は両面メッキ鋼板を用いた説明とする。本実施形態に係るメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料は、端面耐食性を評価したいメッキ鋼板1のメッキ面に非メッキ鋼板2を電気絶縁物3層を介して積層することで、メッキ鋼板1のメッキ面と非メッキ鋼板2の鋼板面とが非接触状態を保つ構造となっており、且つ、図2のメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料の立体図に示されるように、上記メッキ鋼板1と非メッキ鋼板2との間の腐食電流をカバー付リード線4を用いて測定可能に配線してなる積層体を電気絶縁物中に上記積層体の端面を露出して埋設してなる構造体を用いるものである。そのため、この端面耐食性評価用試料を腐食環境に曝露しても、メッキ鋼板が塗装乃至未塗装に係わらず酸素、水、塩分等の腐食因子が絶縁物に埋設されたメッキ鋼板表面に供給されないため、孔明き腐食乃至塗膜下腐食は進行できず、露出した端面部からの端面腐食のみが進行することとなる。すなわち、孔明き腐食乃至塗膜下腐食を排して直接、端面腐食のみを観測できる。しかも、上記のごとく端面からのメッキの端面腐食電流はメッキ鋼板単独では取り出せないが、図3のようにメッキ鋼板1と非メッキ鋼板2との間をリード線を用いて電流計測部5の計測装置を介することで、メッキ鋼板1と非メッキ鋼板2との間に流れる腐食電流の観測は可能である。ここで、本実施形態に係る電流計側部5は、本発明に係る腐食電流測定記録装置の一例である。ただし、観測される腐食電流Iはレコーダー等の記録計6を用いて記録される。このときの記録計への出力イメージは所定期間におけるIの経時変化である。この観測される腐食電流値Iを上記V演算式に代入することで、メッキの端面腐食速度(V)を算定でき、同様に腐食電流の時間積分から腐食電荷量を求め、上記L演算式に代入することでメッキの端面腐食幅(L)をそれぞれ算定することができる。これら算定されたV、L値は、メッキ鋼板1と非メッキ鋼板2を配線してなる状態の端面部からのメッキ腐食速度、腐食幅であり、メッキ鋼板単独の場合よりも端面腐食を促進した値となっているが、メッキ鋼板間の端面腐食の相対比較を行う上では充分に意味のある値を提供するものである。メッキ鋼板単独のメッキの端面腐食速度や腐食幅を算出したい場合は、上記算定されたV、L値に面積換算係数(メッキ鋼板の鋼板端面露出面積/非メッキ鋼板端面露出面積)を乗ずることで間接的な算定が可能である。
本発明における「腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物」とは、電子を通さない、あるいは極めて通しにくい(電気が流れない)性質と、腐食因子(例えば、塩化物イオン、水、酸素等)を通さない、あるいは極めて通しにくい性質の双方を有する物質のことである。かかる物質の例としては、プラスチック類等の有機系樹脂やガラス等の無機酸化物などが挙げられる。
勿論のこと、本発明の構造を有する試料を用いた腐食試験による腐食幅は、腐食電流値を取り出さなくても、経時毎に試料を抜き取り、破壊的な腐食断面観察から測定が可能である。しかしながら、破壊観察であるがゆえに同じ試料の腐食幅を経時で測定することは不可能であり、且つ測定は断続的となるため、腐食電流のモニターによる方法の方が連続的でより精度が高く、定量的な測定が可能となる。
従って、本発明のメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法を用いれば、上記二つの課題を解決できる。
更に、上記所定期間にメッキ鋼板と非メッキ鋼板との間で観測された腐食電流Iの経時変化の出力データからメッキの腐食電荷量を求め演算式に代入し、実際のメッキの端面腐食速度および端面腐食幅を導出する方法について示す。演算式の導出にあたり、前提として、(1)カソード部位は端面の鋼板露出面とし、メッキ鋼板上のメッキの腐食過程で露出した鋼板表面の界面近傍は防食効果を有するメッキ腐食生成物で覆われるためカソード反応が起こらない、(2)メッキ腐食生成物層中は、イオン泳動や水、酸素の拡散が起こるものと仮定した。演算式の導出に用いた使用文字説明を以下に示す。
(使用文字説明)
I:観測される腐食電流[A]
V:実際の端面部からのメッキ腐食速度[mm/day]
L:実際の端面部からのメッキ腐食幅[mm] σ:補正係数[−]
M:メッキ金属の分子量[g/mol] n:価数[−]
F:ファラデー定数96500[C/mol] ρ:メッキ金属の比重[g/cm
α:両面メッキは2、片面メッキは1[−]
:端面部メッキ露出部のラフネスファクター[−]
:メッキ厚み[μm] W=Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
:メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
:非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc2:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
:非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc3:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
Q:観測された腐食電荷量[C]
corr.:実際の腐食電荷量[C] r:端面部鋼板露出のラフネスファクター
corr.:実際の端面部メッキ腐食電流[A]
I:観測される端面部メッキ腐食電流[A]
:メッキ溶解のアノード電流密度[A/cm
:鋼板上の酸素還元カソード電流密度[A/cm
なお、ラフネスとは表面粗さのことである。また、ラフネスファクターとは表面粗さ因子(表面粗さ係数)であり、
(ラフネスファクター)=(実際の面積)/(見かけの面積(投影面積))
で表される。ここで、実際の面積が実測できれば、上式からラフネスファクターを算出することができる。しかし、実際には、メッキの端面露出部のメッキ厚みはマイクロメートルオーダーと非常に小さいことに加え、端面を鏡面研磨することでアノード面に相当するメッキ面のラフネスファクタrは、ほぼ1になると考えられる。したがって、本実施形態においては、便宜上アノード面及びカソード面のラフネスファクターは1とおいて演算を行う。
以下にV演算式とL演算式の導出方法の詳細を説明する。
まず、メッキの腐食電流について
Figure 2008026284
ここで、rとrをアノード面とカソード面のラフネスファクターとすると、アノード面積Sa、カソード面積Scはそれぞれ端面露出面を基準とし、
Figure 2008026284
と表され、腐食過程でこの面積が持続するものと仮定する。(1)に(2),(3)を代入して
Figure 2008026284
更に、観測される腐食電流について
Figure 2008026284
(5)の変形から
Figure 2008026284
(6)を(4)に代入して
Figure 2008026284
ここで、Icorr.とメッキの端面腐食速度V=dL/dtとの関係は
Figure 2008026284
(7)を(8)に代入して
Figure 2008026284
ここで、環境補正係数σを定義し、(8´)に導入すると、以下のV−Iの関係式が導かれる。
Figure 2008026284
次に、(4)の変形式に(7)を代入して
Figure 2008026284
一方、時刻0からある時刻tまでに観測される腐食電荷量は
Figure 2008026284
同様に、腐食電流が0となる時刻tまでのメッキ腐食電荷量の式((7)の積分式)に(10)を代入して
Figure 2008026284
他方、メッキ腐食電荷量については以下の式が成り立つ。
Figure 2008026284
(12)を変形して、(2),(11)を代入すると、
Figure 2008026284
ここで、上記環境補正係数σを(13)に導入すると、以下のL−Qの関係式が導かれる。
Figure 2008026284
上記σは、塩濃度変化や濡れ乾きを伴う腐食環境において、端面部の鋼板露出面乃至メッキ露出面全体が腐食回路に寄与しない場合に実際の腐食面積となるように補正を行う項である。
上記(10)式の腐食電荷量Qは、図3の記録計6を用いて記録される時刻0から時刻tまでの所定期間における腐食電流Iの時間に関する積分値に相当し、観測されるこの値を上記L演算式のQに代入することで、実際の端面からのメッキの腐食幅を算出できる。
上記演算式の適用に当たっては当然ながら、片面メッキの場合は、α=1とおくことで演算が可能となる。また、両面メッキで且つ表裏差厚メッキの場合には、上記演算式中のαlを(表の面のメッキ厚み+裏の面のメッキ厚み)に置換することで、適用が可能となる。
上記より、端面腐食の定量的な取り扱いを可能とし、メッキ鋼板の端面耐食性を簡便且つ定量的に評価するためのメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法を提供できる。
上記では、端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置、端面耐食性評価方法について記述したが、電流計測部から記録計、更に経時的に観測された腐食電流を用いてメッキの端面腐食速度の演算を行うソフトウエアまでを搭載したメッキの端面腐食速度演算装置や電流計測部から記録計、更に経時的に観測された腐食電流を用いてメッキの端面腐食幅の演算を行うソフトウエアまでを搭載したメッキの端面腐食幅演算装置を用いて評価しても、課題解決の手段としてもなんら問題はない。
なお、腐食電流のモニターを行わず簡便さと連続的な定量性に欠けるが、メッキ鋼板の端面腐食のみを進行させて端面耐食性を評価する方法としては、以下の3つの方法が挙げられる。
メッキ鋼板単体の端面腐食のみ進行させ、メッキの端面腐食幅を観測しようとすることは、図1、図2に示される非メッキ鋼板2とリード線4を除き、メッキ鋼板端面露出状態の試料を作製し、所定期間、腐食環境に曝露し破壊的に腐食断面観察を行うことで可能となる。
更に、上記L演算式から自明のとおり、メッキ鋼板単体の端面腐食速度を促進させて、メッキの端面腐食幅を評価するためには、図1、図2に示される試料のリード線4を電流計を介さず短絡させて、所定期間、腐食環境に曝露し破壊的に腐食断面観察を行うことで可能となる。
同様に、メッキ鋼板単体の端面腐食速度を促進させて、メッキの端面腐食幅を評価するためには、端面耐食性を評価したいメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を、隙間なく密着するように積層してなる積層体を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に上記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなるメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料を、所定期間、腐食環境に曝露し破壊的に腐食断面観察を行うことで可能となる。
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[端面耐食性評価用試料の作製方法]
用いたメッキ鋼板は軟鋼板をベースとする溶融亜鉛メッキ鋼板(片面40g/m、両面メッキ、鋼板厚み0.8mm)であり、また、用いた非メッキ鋼板は軟鋼板(鋼板厚み0.8mm)であった。鋼板幅は全て25mmであり、高さも全て15mmとした。これらの板は、図1に示す板配置で図2のようにカバー付リード線を用いて配線を行ったあとで、板間に絶縁物として1mm板厚みのプラスチック板を市販のエポキシ接着剤(数十μm厚み)を介して固定し積層体構造とした。接着剤が完全に硬化したら、埋め込み研磨用の市販のエポキシ樹脂に埋め込んで固めたあとで、テスト面を鏡面研磨して、最終的に図2のような試料を作製した。
[端面耐食性評価用試料の腐食電流モニター方法]
図3に示されるように、上記端面耐食性評価用試料からのリード線は電流計(ゼロシャントアンメーター)に結線され、更にレコーダーへと腐食電流がモニターされるように設定された。このあと、塩水噴霧試験機槽内に端面耐食性評価用試料のテスト面が水平面に対して60°の傾斜となるように固定した。この後、塩水噴霧試験を開始し、10日間の間、10分毎に腐食電流の測定を行いデジタル記録式レコーダーに記録した。記録結果を図4に示す。
[メッキの端面腐食幅の算出方法]
10日間記録された腐食電流値Iと時間tの積分値(台形面積の積算法を使用)から腐食電荷量Qを求めた。時間tと腐食電荷量Qの関係を図5に示す。更に、この腐食電荷量QをL演算式に代入して、メッキの端面腐食幅Lを算出した。時間tとメッキの端面腐食幅Lの関係を図6に示す。ただし、用いたメッキ鋼板が両面亜鉛メッキのためα=2とし、演算式中のM、ρ、nは亜鉛の物性値を用いた。ここでは塩水噴霧環境で鋼板露出面が全て腐食に関与していると仮定しσ=1とした。また、試料のテスト面は鏡面研磨しているため各種ラフネスファクターは1とした。
[上記の算出L値と腐食断面からの実測L値の比較]
本発明の精度検証のために、10日間塩水噴霧試験に曝された端面耐食性評価用試料の断面を埋め込み研磨しながら、端面からのメッキの腐食幅をメッキ鋼板の表裏5箇所づつ実測し、上記L演算式で算出されたL値と比較した。実測のL値を下記表1に示した。算出されたL値は4.7mmであるのに対し、実測のL値は表の面では5箇所の最大4.9mm、最小3.8mm、平均4.6mm、同様に裏の面では5箇所の最大5.3mm、最小4.1mm、平均4.6mmであることから、本発明の方法から算出されたL値は実測のL値とほぼ同じ値を示すことがわかった。ここで、上記L演算式で算出されたL値は、上記V演算式で算出されたV値の時間積分値に相当するため、算出されたL値と実測のL値がほぼ一致することは、上記V演算式で算出されたV値の精度も高いことを示すものである。
Figure 2008026284
以上から、本発明のメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置、端面耐食性評価方法は、端面耐食性能を精度良く定量的に評価できることがわかった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明のメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料、端面耐食性評価装置及び端面耐食性評価方法は、新しい着想からなる測定原理に基き、上述した構成よりなる端面耐食性評価用試料と上記評価手順からなるので、簡便且つ定量的に評価するための端面腐食評価技術として好適であり、今後の端面耐食性に優れたメッキ鋼板の開発に応用展開が可能である。
メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料のテスト面を表した模式図である。 メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料の立体図を表した模式図である。 メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料および腐食電流モニター法の概念図である。 腐食モニター電流Iと時間tの関係の実測図である。 腐食モニター電荷量Qと時間tの関係図である。 端面からのメッキ腐食幅L算定値と時間tの関係図である。
符号の説明
1 両面メッキ鋼板
1a メッキ層
1b 鋼板部
2 非メッキ鋼板
3 絶縁物
4 カバー付リード線
5 電流計測部
6 記録計

Claims (12)

  1. 端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記メッキ鋼板の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料。
  2. 端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を通電可能に接続してなる積層体、あるいは端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を、隙間なく密着するように積層してなる積層体を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料。
  3. 端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を測定可能に配線してなる積層体を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価用試料。
  4. 端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を測定可能に配線してなる積層体を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなるメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料と、前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を経時測定及び記録する腐食電流測定記録装置とからなることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価装置。
  5. 請求項4に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価装置で記録された腐食電流と、予め定めておいた腐食電流と試料の露出端面からのメッキの腐食速度との関係式に基いて、前記メッキの腐食速度を求めることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価方法。
  6. 前記腐食電流と試料の露出端面からのメッキの腐食速度との関係式が次式であることを特徴とする、請求項5に記載のメッキ鋼板の端面耐食性の評価方法。
    Figure 2008026284
    前記式におけるパラメータは以下のとおりである。
    I:観測される腐食電流[A]
    V:実際の端面部からのメッキ腐食速度[mm/day] σ:補正係数[−]
    M:メッキ金属の分子量[g/mol] n:価数[−]
    F:ファラデー定数96500[C/mol] ρ:メッキ金属の比重[g/cm
    α:両面メッキは2、片面メッキは1[−]
    :端面部メッキ露出部のラフネスファクター[−]
    :メッキ厚み[μm] W=Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
    :メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
    :非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc2:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
    :非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc3:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
  7. 請求項4に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価装置で記録された腐食電流から腐食電荷量を演算し、当該腐食電荷量と、予め定めておいた腐食電荷量と試料の露出端面からのメッキ腐食幅との関係式に基いて、前記メッキの腐食幅を求めることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価方法。
  8. 前記腐食電荷量と試料の露出端面からのメッキ腐食幅との関係式が次式であることを特徴とする、請求項7に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価方法。
    Figure 2008026284
    前記式におけるパラメータは以下のとおりである。
    L:実際の端面部からのメッキ腐食幅[mm] σ:補正係数[−]
    M:メッキ金属の分子量[g/mol] n:価数[−]
    F:ファラデー定数96500[C/mol] ρ:メッキ金属の比重[g/cm
    α:両面メッキは2、片面メッキは1[−]
    :端面部メッキ露出部のラフネスファクター[−]
    :メッキ厚み[μm] W=Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
    :メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
    :非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc2:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
    :非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc3:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
    Q:観測された腐食電荷量[C]
  9. 端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を測定可能に配線してなる積層体を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなるメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料と、前記試料のメッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を経時測定し、当該腐食電流を演算によりメッキの端面腐食速度へ変換するメッキの端面腐食速度演算装置とからなることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価装置。
  10. 前記試料のメッキの端面腐食速度演算式が次式であることを特徴とする、請求項9に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価装置。
    Figure 2008026284
    前記式におけるパラメータは以下のとおりである。
    I:観測される腐食電流[A]
    V:実際の端面部からのメッキ腐食速度[mm/day] σ:補正係数[−]
    M:メッキ金属の分子量[g/mol] n:価数[−]
    F:ファラデー定数96500[C/mol] ρ:メッキ金属の比重[g/cm
    α:両面メッキは2、片面メッキは1[−]
    :端面部メッキ露出部のラフネスファクター[−]
    :メッキ厚み[μm] W=Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
    :メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
    :非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc2:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
    :非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc3:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
  11. 端面耐食性の評価対象となるメッキ鋼板のメッキ面に非メッキ鋼板を腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物層を介して積層すると共に前記メッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を測定可能に配線してなる積層体を、腐食因子の遮蔽効果を有する電気絶縁物中に前記積層体の一端面のみが腐食環境に曝露するように埋設してなるメッキ鋼板の端面耐食性評価用試料と、前記試料のメッキ鋼板と前記非メッキ鋼板との間の腐食電流を経時測定し、当該腐食電流を演算により腐食電荷量を経由し、メッキの端面腐食幅へ変換するメッキの端面腐食速度演算装置とからなることを特徴とする、メッキ鋼板の端面耐食性評価装置。
  12. 前記試料のメッキの端面腐食幅演算式が次式であることを特徴とする、請求項11に記載のメッキ鋼板の端面耐食性評価装置。
    Figure 2008026284
    前記式におけるパラメータは以下のとおりである。
    L:実際の端面部からのメッキ腐食幅[mm] σ:補正係数[−]
    M:メッキ金属の分子量[g/mol] n:価数[−]
    F:ファラデー定数96500[C/mol] ρ:メッキ金属の比重[g/cm
    α:両面メッキは2、片面メッキは1[−]
    :端面部メッキ露出部のラフネスファクター[−]
    :メッキ厚み[μm] W=Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
    :メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc1:端面露出部メッキ鋼板幅[mm]
    :非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc2:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
    :非メッキ鋼板の鋼板厚み[μm] Wc3:端面露出部非メッキ鋼板幅[mm]
    Q:観測された腐食電荷量[C]


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