JP2007335619A - 電磁波シールド成形体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 プライマコート層を設けることなく、熱可塑性樹脂からなる基材、または、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、高い密着力を有する電磁波シールド膜を形成する。
【解決手段】 基材の表面に、酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、プラズマ処理を施し、かつ、真空成膜法により電磁波シールド膜の一部を成膜し、その後、アルゴン雰囲気中において、真空成膜法により電磁波シールド膜の残部を成膜し、電磁波シールド成形体を得る。
【選択図】 なし
【解決手段】 基材の表面に、酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、プラズマ処理を施し、かつ、真空成膜法により電磁波シールド膜の一部を成膜し、その後、アルゴン雰囲気中において、真空成膜法により電磁波シールド膜の残部を成膜し、電磁波シールド成形体を得る。
【選択図】 なし
Description
本発明は、熱可塑性樹脂基材、または、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂基材からなり、該基材の表面に電磁波シールド処理が施されている電磁波シールド成形体の製造方法に関する。
携帯電話など電波を発信および受信する機器を含む、電気機器および電子機器には、機器の誤動作を避けるために、筺体を構成する成形体の内側に電磁波シールド処理が施されることが多い。
電磁波シールド処理としては、成形体の基材に導電性金属を混入する方法、基材の表面に導電性塗料を塗布する方法、あるいは、湿式めっき法や真空成膜法により金属薄膜からなる電磁波シールド膜を基材の表面に形成する方法などが知られている。
このうち、導電性塗料の塗布では、Ni−Cu系、Cu−Ag系のシールド膜が形成されるが、そのシールド効果が低いという問題がある。
湿式めっき法としては、一般的には、無電解めっき法が用いられている。この方法では、クロム酸エッチング、パラジウム触媒付加などを行うため、成形品と薄膜との密着性は強固である。しかし、廃液の処理の問題、処理時間が長いという問題、成形品の両面にめっきが施されてしまうという問題がある。
これらに対して、真空成膜法は、真空蒸着またはイオンプレーティングにより、基材の表面に金属薄膜を形成する方法であり、電磁波シールド処理としては、たとえば、膜厚が2μm〜3μmのアルミニウム膜を形成したり、または、第1層に銅膜を形成し、第1層の保護膜として、第2層にニッケル膜などを成膜したりすることが行われている。
成形体に使用される基材としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、または、ABSとPCの混合樹脂などが使用されている。
ABS樹脂は、真空成膜法を用いて、その表面に金属薄膜を比較的容易に形成できる素材である。しかしながら、ABSとPCの混合樹脂からなる基材に対しては、PC樹脂表面の官能基が少ないため、その表面にアンダーコートを塗布し、その上に金属薄膜を形成している。また、これらの基材にガラス繊維が含有されている場合には、樹脂とガラス繊維の官能基が違うため、真空成膜法では、その基材の表面に密着良く金属薄膜を形成するのは困難である。
近年、成形体の基材として、ABS樹脂やPC樹脂などに代わって、高い耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、機械的強度を有するエンジニアリングプラスチックを用いることが要求されている。しかしながら、エンジニアリングプラスチックス基材に対する湿式めっき法は、いまだ確立されていない。また、エンジニアリングプラスチックス基材に対して真空成膜法を用いた場合には、基材と金属薄膜との間の密着性が悪いという問題がある。基材と金属薄膜の間にアンダーコートを設けることも考えられるが、エンジニアリングプラスチックの種類が多いために、一般的な塗料をアンダーコートとして用いることは困難である。このため、エンジニアリングプラスチックスは、一般的に電磁波シールド用途には用いられていない。
特に、熱可塑性樹脂からなるエンジニアリングプラスチック基材、または、エンジニアリングプラスチックに限らず、熱可塑性樹脂にガラス繊維が含有されている基材を用いた成形体に電磁波シールド処理が施されている製品は見受けられない。
電磁波シールド処理に関連する従来技術として、以下の文献が存在する。
特許文献1(特開平07−133361号公報)には、電磁波シールド膜の密着性を上げるために、ABS/PC基材表面を溶剤で拭き取り処理した後、真空槽内でアルゴンなどの不活性ガスの導入による高周波励起プラズマにより、基材表面をボンバード処理し、アルミニウム膜または銅膜および保護膜を成膜することが開示されている。しかしながら、ポリアミド樹脂などの表面官能基をほとんど含んでいないエンジニアリングプラスチックの場合、基材の表面改質がなされないため、この方法を適用することができない。
特許文献2(特開平07−70345号公報)には、ガラス繊維やカーボン繊維のようなフィラー含有のプラスチック基材の表面に、水溶性塗料からなるプライマコート層を設けた後、同様に高周波励起プラズマによりアルミニウム膜や銅膜を成膜する方法が開示されている。しかしながら、水溶性塗料ではエンジニアリングプラスチック基材の表面を改質できず、基材とプライマコート層の間で、強い密着性が得られない。
特許文献3〜8(特開平06−145396号公報、特開平06−157797号公報、特開平06−240027号公報、特開平06−240034号公報、特開平06−240035号公報、特開平07−7283号公報)には、プラスチック基材の表面をあらかじめ洗浄することなく、さらに、プライマコート層を設けることなく、高周波励起プラズマにより、基材の表面を洗浄しながら、銅膜を成膜することが開示されている。しかしながら、表面官能基が多く含まれるABS樹脂やそのポリマーアロイには適用できるが、表面官能基をほとんど含まないエンジニアリングプラスチックからなる基材には、膜が付着せず、適用することが困難である。
特許文献9〜12(特開2001−32150号公報、特開平10−046443号公報、特開平10−8317号公報、特開平06−330677号公報)には、ポリアミド樹脂繊維などに、スパッタリングや銀めっきにより、銀膜を成膜することが開示されている。しかしながら、熱可塑性樹脂、特に、表面官能基をほとんど含まないエンジニアリングプラスチックからなる基材の表面に、単にめっきやスパッタリングにより成膜しても、膜と基材との間に強い密着力を得ることはできず、電気機器および電子機器などの産業用用途に用いることはできない。
特許文献13(特開2004−304039号公報)には、物理的蒸着による金属薄膜を有する、電磁波シールドボックスが記載されている。シールドボックスを構成する材料の1つとしてポリアミド樹脂が記載されている。しかしながら、ポリアミド樹脂のように表面官能基をほとんど含まないエンジニアリングプラスチックに対して、単に物理的蒸着により金属薄膜を成膜しても、膜と基材の間に強い密着力は得られず、同様に、産業用用途に適用することは困難である。
特開平07−133361号公報
特開平07−070345号公報
特開平06−145396号公報
特開平06−157797号公報
特開平06−240027号公報
特開平06−240035号公報
特開平06−240034号公報
特開平07−007283号公報
特開2001−032150号公報
特開平10−046443号公報
特開平10−008317号公報
特開平06−330677号公報
特開2004−304039号公報
本発明は、プライマコート層を設けることなく、熱可塑性樹脂からなる基材、または、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、高い密着力を有する電磁波シールド膜を形成することを目的とする。
本発明に係る電磁波シールド成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂からなる基材、または、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、プラズマ処理を施し、かつ、真空成膜法により電磁波シールド膜を成膜することを特徴とする。
または、熱可塑性樹脂からなる基材、または、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、プラズマ処理を施し、かつ、真空成膜法により電磁波シールド膜の一部を成膜し、その後、アルゴン雰囲気中において、真空成膜法により電磁波シールド膜の残部を成膜することを特徴とする。
前記電磁シールド膜の成膜において、酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、全体膜厚の15〜60%を成膜し、アルゴン雰囲気中において、残部を成膜することが好ましい。
前記電磁波シールド膜を成膜した後、さらに、真空成膜法により保護膜を成膜することが好ましい。
前記プラズマ処理が、高周波励起プラズマ処理であることが好ましい。この場合、高周波出力を1.0kW以上とすることが好ましい。
前記真空成膜法が、イオンプレーティング法であることが好ましい。
前記混合ガスにおけるアルゴンガスの比率を体積比で80%以下とすることが好ましい。
なお、前記プラズマ処理から電磁波シールド膜または電磁波シールド膜および保護膜の成膜まで、イオンプレーティング装置において連続的に行うことができる。
前記熱可塑性樹脂としては、ABS、ABSとポリカーボネートの混合樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルニトリル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどのエンジニアリングプラスチックがあげられる。また、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材にも、本発明は適用できる。
また、電磁波シールド膜の成膜には、銅を用いることが好ましく、保護膜の成膜には、ニッケル、ニッケル合金、クロム、クロム合金、錫−銅−ニッケル合金、または、錫−銅−クロム合金から選択される1種以上の金属を用いることが好ましい。
本発明の製造方法により、プライマコート層を設けることなく、基材の表面に電磁波シールド膜が直接形成された電磁波シールド成形体を得ることができる。電磁波シールド膜の上にさらに保護膜が形成されていることが好ましい。
前記電磁波シールド膜の膜厚は、0.5μm〜2μmであることが好ましく、前記保護膜の膜厚は、0.1μm〜0.4μmであることが好ましい。
本発明により、熱可塑性樹脂、特に、難接着性のエンジニアリングプラスチックからなる基材、並びに、ガラス繊維を含有するこれらの基材の表面に、アンダーコート層を設けることなく、高い密着力をもって電磁波シールド膜が形成された成形体を、生産性の高いイオンプレーティング法などにより作成することが可能となる。よって、電気機器および電子機器の分野において、低コストで、シールド特性に優れた電磁波シールド成形体が提供される。
本発明の特徴は、熱可塑性樹脂からなる基材、または、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材に対して、電磁波シールド処理を施すに際して、該基材の表面に電磁波シールド膜を成膜する前に、酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、該基材の表面にプラズマ処理を施すことに特徴がある。
酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中においてプラズマ処理を施すことにより、励起された酸素やアルゴン、ないしは、イオン化され高速に加速化された酸素イオンやアルゴンイオンによる表面ボンバード効果により、基材の表面に付着している金型油や摺動油などが洗浄され、また、基材に含まれる添加剤も容易に除去、蒸発させられる。さらに、基材の表面が粗化される。よって、従来のように、フロンやアルコール系溶剤による洗浄を基材に対して予め行う必要がなくなる。
また、高速に加速化されたイオンの存在により、基材の表面が活性化されるとともに、酸素イオンの存在により、基材の表面に酸素官能基が生成され、電磁波シールド金属と基材表面の酸素との反応が生ずる。これらにより、電磁波シールド膜と基材の間に強い密着力が生ずる。よって、従来のように、真空蒸着前に行っていた基材表面へのプライマコート層の形成が不要となる。
このように、励起プラズマによるボンバード効果、洗浄効果、および、励起イオン種による活性化堆積作用により、電磁波シールド膜の密着強度は十分となり、さらには、成膜中の電磁波シールド金属と酸素との結合により、さらに強い密着力が得られる。
本発明におけるプラズマ処理には、酸素または酸素およびアルゴンの混合ガスを低周波で励起させる場合も含むが、上述の効果を十分に得るためには、これらを高周波で励起させる高周波プラズマ処理とすることが好ましい。アンテナを使い、高周波の電波をチャンバー内に放射することで、さらに高密度のプラズマが得られる。
高周波(13.5MHz)を用いる場合、プラズマ処理は、高周波出力を1.0kW以上として、3分以上行うことが望ましい。高周波出力が1.0kW未満では、基材の洗浄が不十分になるため、好ましくない。なお、2.0kWを超えると、電源に大きく、高価格なものが要求され、また、必要以上に出力を上げることとなるので、高周波出力を2.0kW以下とすることが好ましい。
一方、この場合の処理時間が3分未満では、基材の洗浄と表面活性化効果が不十分となり、電磁波シールド膜と基材との密着性が低くなる可能性が生ずる。なお、5分を超えても、これらの効果に変化はないため、コストの面から処理時間は5分以下とすることが好ましい。
本発明は、プラズマ処理を反応ガスである酸素ガスの存在下で行うことにより、基材の表面に酸素官能基を付与する点に特徴があり、当該効果の観点から、導入する雰囲気ガスは酸素ガス単独とすることもできる。酸素のみで処理した方が、酸素官能基の生成が多くなるので、流量が少なくて済む利点がある。しかしながら、酸素ガスとして、高純度の酸素ガスを用いているため、アルゴンガスよりも高価である。アルゴンは、酸素よりも重い気体なので、基材のエッチング効果が高い。酸素は多く入れすぎると、汚れなどと反応し、酸化、炭化させるので、量産化の際には、コスト面も考えその使用量を抑制することが望ましい。
この観点から、酸素およびアルゴンの混合ガスを用いることが好ましい。ただし、該混合ガスにおけるアルゴンガスの比率を体積比で80%以下とすることが好ましい。すなわち、電磁波シールド金属が酸素と反応することで、電磁波シールド膜と基材との間に強固な密着力が得られるのであるから、その効果を得るためには、酸素の量が体積比で20%未満とならないように調整することが好ましい。アルゴンガスが多いと基板を洗浄する力は強くなるが、酸素の量が体積比で20%未満となってしまうと、基材表面の活性化が不十分となり、また、酸素官能基の量も不十分となり、良好な密着性を得られない可能性がある。
プラズマ処理における、ガス流量は、酸素ガスの場合、150〜260cc/minとすることが望ましく、混合ガスの場合、150〜400cc/minとすることが望ましい。ただし、混合ガスにおいても、酸素ガスの量が260cc/minを超えないようにする。ガス流量が150cc/min未満では、生成するイオンの量が少なく、基材表面の洗浄と活性化が不十分になる可能性がある。一方、酸素ガスの流量が260cc/minを超えると、基材の表面が活性化しすぎ、また、その後に成膜される電磁波シールド膜を必要以上に酸化させ、その抵抗値の低下を招くことになるので、好ましくない。さらに、混合ガスの全体量が400cc/minを超えると、真空度が悪化するため、好ましくない。
基板表面の洗浄と該表面に官能基を付与する工程が完了した後、電磁波シールド膜を成膜する工程を行う。電磁波シールド金属には、比抵抗が小さく、安価なことから、銅を用いることが好ましい。
当該成膜工程においても、前処理工程と同様に、酸素ガスまたは酸素とアルゴンの混合ガスを導入し、酸素雰囲気または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、電磁波シールド膜の成膜を行なう。ガス量とガスの混合比率を前処理工程と同一にすることが、量産の観点からは望ましい。
成膜工程における、ガス流量は、酸素ガスの場合、150〜260cc/minとすることが望ましく、混合ガスの場合、150〜400cc/minとすることが望ましい。ただし、混合ガスにおいても、酸素ガスの量が260cc/minを超えないようにする。ガス流量が150cc/min未満では、生成するイオンの量が少なく、基材と膜の活性化が不十分になる可能性がある。一方、酸素ガスの流量が260cc/minを超えると、膜が活性化しすぎて、電磁波シールド膜を必要以上に酸化させ、その抵抗値の低下を招くことになるので、好ましくない。さらに、酸素イオンが堆積した膜と反応して、膜の色が黒くなってしまうおそれがある。また、混合ガスの全体量が400cc/minを超えると、真空度が悪化するため、好ましくない。
前記電磁波シールド膜、特に銅膜の成膜において、酸素雰囲気または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中での成膜を、全体膜厚の15〜60%に抑え、残部の成膜をアルゴン雰囲気中で行なうことが望ましい。酸素を含む雰囲気中で成膜された銅は、基材表面の酸素と結合することで、膜と基材の間に強い密着力をもたらし、一方、アルゴン雰囲気中で成膜された銅は、酸化されないので、純粋な銅と同様な抵抗値を得ることができる。混合ガス雰囲気中での成膜が全体膜厚の15%未満となると、基材との十分な密着力が得られない。一方、60%を超えると、目的の抵抗値を得るためには、成膜時間が長くなる。また、比抵抗を十分に低くするためには、全体の膜厚を厚くする必要が生じる。かかる膜厚の増加は、膜応力が高まって、膜の剥離の起因となるため、好ましくない。
なお、プラズマ処理工程、成膜工程のいずれにおいても、酸素ガス、アルゴンガスとして、不純物ガスの混入を防止する観点から、その純度が99.9%以上のものを用いることが望ましい。
形成される銅膜の膜厚を、0.5〜2μmとすることが望ましい。銅膜の膜厚が0.5μm未満では、膜本来の構造が粗になり、その耐食性が著しく低下し、十分な電磁波シールド特性を得られない。銅膜の膜厚が2.0μmを超えると、電磁波シールド特性がほとんど変化しないにもかかわらず、膜応力が強くなり、基材や保護膜との密着力が低下し、成膜後に自然剥離を生ずるおそれが高くなる。また、必要以上に厚くすると、成膜に時間がかかり、生産性が低下してしまう。
電磁波シールド膜の成膜を完了した後、その上に保護膜の成膜を行うことが望ましい。保護膜の材料は、ニッケル、ニッケル合金、クロム、クロム合金、錫−銅−ニッケル合金、錫−銅−クロム合金から選択される1種以上の金属である。ニッケルは、高い耐食性を有する点で好ましく、錫−銅−クロム合金および錫−銅−ニッケル合金は、錫の融点の低いために、成膜速度を速くできる点で好ましい。
耐食性と銅のカバーリングの点で、保護膜の膜厚を0.1〜0.4μmとすることが望ましい。保護膜の膜厚が0.1μm未満では、膜にピンホールが発生するおそれがある。特に、製品の立ち面では、膜が薄くなり未着部分が発生しやすいので、注意が必要である。一方、保護膜の膜厚を0.4μmより厚くしても、耐食性にほとんど変化はない。逆に、膜応力が大きくなり、膜にクラックが入りやすくなる。
保護膜の成膜時には、アルゴンガスのみの雰囲気中で成膜することが望ましい。酸素が存在すると保護膜まで酸化されて、その表面が黒くなり、金属外観が低下するばかりでなく、抵抗値まで低下してしまうためである。
本発明の適用は、成形体を構成する基材が、熱可塑性樹脂、特に、エンジニアリングプラスチックからなる場合に、その効果が大きい。なお、エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリアセタール、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルニトリル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドまたはポリイミドがあげられる。これらは、表面官能基をほとんど含まないために、難接着性の材料であるが、本発明を適用することにより、これらを用いた基材の表面に酸素官能基が導入され、膜との密着性を向上させることができる。なお、ガラス繊維を含有するこれらの基材にも本発明を好適に適用できる。
また、ABS樹脂とPC樹脂からなる基材、PC樹脂からなる基材、または、ガラス繊維を含有するこれらの基材についても、本発明を好適に適用できる。従来は耐湿などの二次密着試験で合格するためにアンダーコートを塗布していたが、この工程を省ける。
なお、成形体は、各種プラスチックを射出成形、押出成形、注型成形することにより得られ、本発明は何れの成形体にも適用しうる。
成膜法としては、均一に膜を形成させることができ、かつ、耐環境性に優れた膜とすることができる真空成膜法により行うことが好ましい。成膜材料としての銅は、抵抗加熱、誘導加熱、電子ビーム照射、ホロカソード放電などの手段で蒸発させることができる。
これらの蒸発粒子を励起させ、イオン化してプラスチック成形品表面に付着成膜させる。このような励起プラズマ処理については、これまでの公知技術を踏まえつつ、適宜実施することができる。低周波励起プラズマ処理を用いることもできるが、高周波励起プラズマ処理を用いることが、効果の観点から好ましい。
真空成膜法としては、電子銃で高融点ターゲットを溶解し、金属を蒸発させ、基板に膜を形成するイオンプレーティング法が好ましい。イオンプレーティング法は、広い面積について速い成膜速度で膜を形成することができる。成膜は、バッチ方式、あるいは連続方式のいずれでも行うことが可能である。さらに、必要に応じて、混合膜の上に、さらに金属、無機物、ポリマーなどの保護膜を形成してもよい。
また、本発明の実施に際しては、高周波イオンプレーティング装置を用いることで、高周波を用いたプラズマ処理から成膜処理までを同じチャンバーで連続的に行うことができる。
(実施例1)
ポリアミド樹脂とガラス繊維とが50質量%ずつ配合された、レニー(登録商標)2051DS(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)からなり、大きさ70×50mm、厚さ2mmの基材を用いた。
ポリアミド樹脂とガラス繊維とが50質量%ずつ配合された、レニー(登録商標)2051DS(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)からなり、大きさ70×50mm、厚さ2mmの基材を用いた。
この基材を、イオンプレーティング装置(神港精機株式会社製、AAIH−W36200SBT)に取り付け、1×10-2Paまで真空排気後、最初に、酸素ガスとアルゴンガスを、各150ccずつ、合計流量が300cc/minの割合となるように導入し、混合ガス雰囲気において、高周波出力1kWをかけて、高周波(13.5MHz)励起プラズマ処理を5分間行い、生成したイオンで基板を洗浄し、活性化させた。
次に、1層目として、酸素ガスとアルゴンガスを、各150ccずつ、合計流量が300cc/minの割合となるように導入し、基材の表面に銅膜を0.3μm成膜した。続けて、アルゴンガスのみを流量300cc/minの割合で導入し、アルゴン雰囲気中で銅膜を0.9μmさらに成膜した。
2層目として、続けてアルゴンガスのみを流量150cc/minの割合で導入し、錫−銅−クロム合金からなる保護膜を、0.2μm成膜した。
このようにして作製した成形体に、次の試験を実施した。
[初期付着の確認試験]
碁盤目テープ試験により、初期付着を確認する試験を実施した。具体的には、成形体に形成した金属層の面に、ナイフで1×1mmの切れ目を入れ、100マスにセロファンテープ(ニチバン株式会社製、CT1835)を貼り付けた。そして、該テープを引き剥がした時に、基材と金属層との間で剥離が生じるか否かを調べることで、基材と金属層との密着性について評価した。
碁盤目テープ試験により、初期付着を確認する試験を実施した。具体的には、成形体に形成した金属層の面に、ナイフで1×1mmの切れ目を入れ、100マスにセロファンテープ(ニチバン株式会社製、CT1835)を貼り付けた。そして、該テープを引き剥がした時に、基材と金属層との間で剥離が生じるか否かを調べることで、基材と金属層との密着性について評価した。
実施例1のサンプルについては、マス目100個中1つも剥離は生じなかった。
[耐湿試験]
基材と金属層との密着性に対する湿度の影響を調べた。具体的には、温度60℃、湿度95%の環境に、成形体を240時間および600時間保持した後、成形体の外観の変化を観察するとともに、前記した碁盤目テープ試験を実施した。
基材と金属層との密着性に対する湿度の影響を調べた。具体的には、温度60℃、湿度95%の環境に、成形体を240時間および600時間保持した後、成形体の外観の変化を観察するとともに、前記した碁盤目テープ試験を実施した。
実施例1のサンプルについては、240時間および600時間保持した後であっても、外観に変化はなく、また、碁盤目テープ試験でも、マス目100個中1つも剥離は生じなかった。
[耐熱試験]
基材と金属層との密着性に対する温度の影響を調べた。具体的には、温度85℃の環境に、成形体を240時間保持した後、外観の変化を観察するとともに、前記した碁盤目テープ試験を実施した。
基材と金属層との密着性に対する温度の影響を調べた。具体的には、温度85℃の環境に、成形体を240時間保持した後、外観の変化を観察するとともに、前記した碁盤目テープ試験を実施した。
実施例1のサンプルについては、240時間保持した後であっても、外観に変化はなく、また、碁盤目テープ試験でも、マス目100個中1つも剥離は生じなかった。
[シート抵抗の測定]
シート抵抗を測定することにより、シールド特性について評価を行った。具体的には、基材上に形成した金属層のシート抵抗を、表面抵抗計(三菱化学株式会社製、Loresta(登録商標) MP MCP−T350)を用い、4端子測定法の原理で測定した。
シート抵抗を測定することにより、シールド特性について評価を行った。具体的には、基材上に形成した金属層のシート抵抗を、表面抵抗計(三菱化学株式会社製、Loresta(登録商標) MP MCP−T350)を用い、4端子測定法の原理で測定した。
実施例1のサンプルについては、シート抵抗は、0.3×10-2Ω/□以下であった。
実施例1のサンプルについての評価結果を表1に示す。
(実施例2)
基材として、ABS(50%)とPC(50%)の混合樹脂からなる基材を用いた以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。
基材として、ABS(50%)とPC(50%)の混合樹脂からなる基材を用いた以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。
(実施例3)
保護膜として、ニッケルを0.2μm成膜した以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。
保護膜として、ニッケルを0.2μm成膜した以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。
(実施例4)
基材として、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂であるTS401(東洋紡績株式会社製)からなる基材を用いた以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行なった。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。
基材として、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂であるTS401(東洋紡績株式会社製)からなる基材を用いた以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行なった。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。
(実施例5)
保護膜として、ニッケル合金であるモネル合金(63Ni−37Cu、住友金属鉱山株式会社、No.H−110 モネル合金相当品)を用いたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。
保護膜として、ニッケル合金であるモネル合金(63Ni−37Cu、住友金属鉱山株式会社、No.H−110 モネル合金相当品)を用いたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。
(実施例6)
成膜工程において、酸素ガスとアルゴンガスを導入した雰囲気において、基材の表面に銅膜を0.6μm成膜したこと、および、アルゴンガスを導入した雰囲気において、銅膜を0.9μmさらに成膜したこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。しかしながら、実施例1と比較して、成膜時間が1.5倍であった。
成膜工程において、酸素ガスとアルゴンガスを導入した雰囲気において、基材の表面に銅膜を0.6μm成膜したこと、および、アルゴンガスを導入した雰囲気において、銅膜を0.9μmさらに成膜したこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。しかしながら、実施例1と比較して、成膜時間が1.5倍であった。
実施例1〜6は、本発明に係る電磁波シールド成形体の範囲に含まれるので、初期付着の確認試験、耐湿試験(240時間保持、600時間保持)、耐熱試験のいずれにおいても、碁盤目テープ試験による剥離は生じなかった。また、実施例1〜5のシート抵抗は、0.3×10-2Ω/□以下であり、30dB以上の電磁波シールドが得られることを確認した。ただし、電磁波シールド膜の成膜工程において、混合ガス雰囲気における成膜量が多くなるにつれて、全体の成膜時間が延びる傾向にある。
(実施例7)
プラズマ処理工程、成膜工程を通じて、雰囲気ガスとして、酸素ガス100%を流量120cc/minとしたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。また、この実施例においては、混合ガスの場合より少ない流量で、目的の性能を得ることができた。
プラズマ処理工程、成膜工程を通じて、雰囲気ガスとして、酸素ガス100%を流量120cc/minとしたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。得られた成形体の性能は、実施例1と同様であった。また、この実施例においては、混合ガスの場合より少ない流量で、目的の性能を得ることができた。
(比較例1)
プラズマ処理工程、成膜工程を通じて、雰囲気ガスとして、アルゴンガスだけを流量300cc/minの割合で導入したこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、初期付着で、マス目100個中50個の剥離があった。
プラズマ処理工程、成膜工程を通じて、雰囲気ガスとして、アルゴンガスだけを流量300cc/minの割合で導入したこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、初期付着で、マス目100個中50個の剥離があった。
(比較例2)
プラズマ処理工程、成膜工程の前半における混合ガスを、酸素ガス260cc、アルゴンガスを40ccの割合としたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、銅の成膜中に真空度が9×10-2Paまで悪化した。また、得られた成形体の膜の抵抗値も、実施例1の場合より、20%高かった。
プラズマ処理工程、成膜工程の前半における混合ガスを、酸素ガス260cc、アルゴンガスを40ccの割合としたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、銅の成膜中に真空度が9×10-2Paまで悪化した。また、得られた成形体の膜の抵抗値も、実施例1の場合より、20%高かった。
(比較例3)
プラズマ処理における高周波出力を0.5kWとしたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、初期付着で、マス目100個中2個の剥離があった。耐湿試験(240時間)後では、5個の剥離があった。
プラズマ処理における高周波出力を0.5kWとしたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、初期付着で、マス目100個中2個の剥離があった。耐湿試験(240時間)後では、5個の剥離があった。
(比較例4)
成膜工程において、酸素ガスとアルゴンガスを導入した雰囲気において、基材の表面に銅膜を0.15μm成膜したこと、および、アルゴンガスを導入した雰囲気において、銅膜を0.9μmさらに成膜したこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、初期付着で、マス目100個中7個の剥離があった。
成膜工程において、酸素ガスとアルゴンガスを導入した雰囲気において、基材の表面に銅膜を0.15μm成膜したこと、および、アルゴンガスを導入した雰囲気において、銅膜を0.9μmさらに成膜したこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、初期付着で、マス目100個中7個の剥離があった。
(比較例5)
高周波プラズマ処理時間を2.5分としたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、耐湿試験(240時間)後においては、基材の外観に変化はなかった。しかし、碁盤目テープ試験では、マス目100個中10個の剥離があった。
高周波プラズマ処理時間を2.5分としたこと以外は、実施例1と同様に、高周波励起プラズマ処理および成膜を行った。その結果、耐湿試験(240時間)後においては、基材の外観に変化はなかった。しかし、碁盤目テープ試験では、マス目100個中10個の剥離があった。
(比較例6)
高周波プラズマ処理時間を8.0分としたこと以外は、実施例1と同様に、高周波プラズマ処理および成膜を行った。その結果、耐湿試験(240時間、600時間)後においては、基材の外観に変化はなかった。また、基盤目テープ試験では、マス目100個中において剥離が見られなかった。ただし、効果において、実施例1とは差がなかった。
高周波プラズマ処理時間を8.0分としたこと以外は、実施例1と同様に、高周波プラズマ処理および成膜を行った。その結果、耐湿試験(240時間、600時間)後においては、基材の外観に変化はなかった。また、基盤目テープ試験では、マス目100個中において剥離が見られなかった。ただし、効果において、実施例1とは差がなかった。
(比較例7)
プラズマ処理工程、成膜工程を通じて、流量を酸素250cc/min、アルゴン200cc/minの割合で合計450cc/minとしたこと以外は、実施例1と同様に、高周波プラズマ処理および成膜を行った。その結果、銅の成膜中に、真空装置の真空度が1.0×10-2Paまで低下した。このことにより、銅の膜中にガスが取り込まれ、基材の外観が少し黒味を帯びた。
プラズマ処理工程、成膜工程を通じて、流量を酸素250cc/min、アルゴン200cc/minの割合で合計450cc/minとしたこと以外は、実施例1と同様に、高周波プラズマ処理および成膜を行った。その結果、銅の成膜中に、真空装置の真空度が1.0×10-2Paまで低下した。このことにより、銅の膜中にガスが取り込まれ、基材の外観が少し黒味を帯びた。
Claims (8)
- 熱可塑性樹脂からなる基材、または、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、プラズマ処理を施し、かつ、真空成膜法により電磁波シールド膜を成膜する電磁波シールド成形体の製造方法。
- 熱可塑性樹脂からなる基材、または、ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、プラズマ処理を施し、かつ、真空成膜法により電磁波シールド膜の一部を成膜し、その後、アルゴン雰囲気中において、真空成膜法により電磁波シールド膜の残部を成膜する電磁波シールド成形体の製造方法。
- 前記電磁シールド膜の成膜において、酸素雰囲気中または酸素およびアルゴンの混合ガス雰囲気中において、全体膜厚の15〜60%を成膜し、アルゴン雰囲気中において、残部を成膜する請求項2に記載の電磁波シールド成形体の製造方法。
- 前記電磁波シールド膜を成膜した後、さらに、真空成膜法により保護膜を成膜する請求項1〜3の何れかに記載の電磁波シールド成形体の製造方法。
- 前記プラズマ処理が、高周波励起プラズマ処理である請求項1〜4の何れかに記載の電磁波シールド成形体の製造方法。
- 前記高周波励起プラズマ処理における高周波出力を1.0kW以上とする請求項5に記載の電磁波シールド成形体の製造方法。
- 前記真空成膜法が、イオンプレーティング法である請求項1〜4の何れかに記載の電磁波シールド成形体の製造方法。
- 前記混合ガスにおけるアルゴンガスの比率を体積比で80%以下とする請求項1〜4の何れかに記載の電磁波シールド成形体の製造方法。
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