JP2007332500A - ポリエステル繊維 - Google Patents

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Abstract

【課題】高温時、特にポリエステルの融点以上においても形態を保持することが可能な高耐熱性のゴム補強用ポリエステル繊維を、生産性を落とすことなく提供する。
【解決手段】芯/鞘構造からなるポリエステル複合繊維であって、芯成分にエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を、芯成分のポリエステル中のカルボキシル基端末量よりエポキシ基量が多くなるよう含有した芯/鞘構造ポリエステル複合繊維。前記芯/鞘複合ポリエステル繊維に電離放射線の照射を施すことで繊維の少なくとも一部に架橋構造を形成させることができる。
【選択図】なし

Description

本発明は優れた耐熱性を有するポリエステル繊維を提供するものであり、更に詳しくは、ゴム補強材としてゴム中に埋め込まれた後の劣化が抑制され、高温時、特にポリエステルの融点以上において形態を保持することが可能な耐熱性に優れたゴム補強用ポリエステル繊維を提供するものである。
一般にゴム補強材として、特にタイヤ用ゴム補強材として使用されている繊維の代表的な例としては、有機繊維としてポリエステル、ナイロン、レーヨンが良く知られており、無機繊維としてはスチール、ガラス繊維が代表的なものである。これら素材はその固有物性により適所に使用されている。
近年、タイヤ構造のラジアル化が進み、カーカス材に用いる繊維素材には、高弾性率、低収縮、耐疲労性、さらには低価格化などの要求が高まった。その結果、物性面、コスト面でのバランスに優れた有機繊維であるポリエステル繊維が、レーヨンやナイロンの代替として、広く使用されている。
さらに近年では、パンクしてタイヤ内圧が0kPaになっても、ある程度の距離を所定のスピードで走行が可能な、ランフラットタイヤが開発されている。このランフラットタイヤにはタイヤサイドウォールのビード部からショルダー区域にかけてカーカスの内面に断面が三日月状の比較的硬質なゴム層を配置して補強したサイド補強タイプと、タイヤ空気室におけるリムの部分に、金属、合成樹脂製の環状中子を取り付けた中子タイプとが知られている。
このうちサイド補強型は走行中にタイヤがパンクして空気が抜けてしまうと、補強ゴム層で強化したサイドウォール固有の剛性によって荷重を支持し、所定の距離を所定のスピードで走行することが可能である。しかしながら、ランフラット走行を継続すると、補強ゴム層には圧縮と伸長の繰り返しによる発熱が起こり、タイヤ内部温度が200℃以上、さらに局所的にはそれ以上の極めて高温状態になることがある。そのため、ランフラットタイヤのカーカスプライコードとしては耐熱溶融性に優れるレーヨン繊維やアラミド繊維、スチールなどが好ましいコード材料として提案され使用されている。
ポリエステル繊維やナイロン繊維からなるタイヤコードは、150〜200℃の高温下においてタイヤゴムとの接着界面が破壊され始め、また強度、弾性率が急激に低下し、さらに融点以上の高温になると繊維としての形状を保持できずに溶融破断に至るという問題があることからランフラットタイヤ用のコード材料としては不適とされていた。ところが、これら繊維は供給量が非常に豊富であり、価格も安く、軽量であるという特徴があることから、ランフラットタイヤがより広く普及するにはこれらポリエステル繊維やナイロン繊維からなるタイヤコードを用いることが望まれている。
これまでに、タイヤゴム中でのポリエステルタイヤコードの耐熱性を向上させる方法が種々提案されている。例えば、ポリエステル繊維のカルボキル基末端量の低減化をはかることによってゴム中での加水分解を抑制する方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、アクリル酸および/またはメタクリル酸からなる重合体を付与する方法(例えば、特許文献3参照)、フッ素系重合体を含有させる方法(例えば、特許文献4参照)、環状オレフィン重合体を含有させる方法(例えば、特許文献5参照)などが挙げられる。しかしながら、これらはいずれも150〜160℃での耐熱性に関する強度物性の改良であって、ポリエステルの融点以上において形状を保持し、所定の強度、弾性率を保持できるというものではなかった。
また、ポリエステルに架橋剤を導入し、後処理により耐熱性を向上させる方法は古くから成されており、例えば、溶融成形後に活性線を照射する方法(例えば、特許文献6参照)などは公知の方法である。しかしながら、この方法によると、活性線照射により、ポリエステルの主鎖が分解してカルボキシル基末端が新たに生成してしまう。そのため、タイヤ中での劣化反応が促進されてしまうという問題点を有している。さらには、溶融紡糸後に架橋剤を含浸処理した後に電子線を照射する方法(例えば、特許文献7参照)も提案されている。しかしながら、溶融紡糸後の含浸処理では、繊維内部まで架橋剤が浸透せず、十分な耐熱性、特に融点以上の温度であっても形状を保持し得るようなものではなかった。
特開昭61−252332号公報 特開平7−166420号公報 特開昭55−166235号公報 特開平6−264307号公報 特開平8−74126号公報 特許139702号公報 特開平6−248521号公報
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は高温時、特にポリエステルの融点以上においても形態を保持することが可能な高耐熱性のゴム補強用ポリエステル繊維を、生産性を落とすことなく提供するものである。
前記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ポリエステル分子鎖末端に不飽和結合を有する化合物を反応させたポリエステルを使用した芯/鞘複合ポリエステル繊維を得、それに電離放射線の照射を施すことで繊維の少なくとも一部に架橋構造を形成せしめることにより本課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.芯/鞘構造からなるポリエステル複合繊維であって、芯成分にエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を、芯成分のポリエステル中のカルボキシル基末端量よりエポキシ基量が多くなるよう含有することを特徴とする芯/鞘構造ポリエステル複合繊維。
2.芯/鞘重量比率が50/50〜90/10であることを特徴とする上記1に記載の芯/鞘構造ポリエステル複合繊維。
3.エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物がジアリルモノグリシジルイソシアヌレートであることを特徴とする上記1または2に記載の芯/鞘構造ポリエステル複合繊維。
4.上記1〜3のいずれかに記載のポリエステル繊維を用いたタイヤコード。
5.上記4に記載のタイヤコードをカーカス材として用いたラジアルタイヤ。
本発明によれば、高温時、特にポリエステルの融点以上においても形態を保持することが可能な高耐熱性のゴム補強用ポリエステル繊維を、生産性を落とすことなく提供できる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、パンクして内圧が低下しタイヤ内部温度が200℃以上、さらに局所的にはポリエステルの融点以上の極めて高温になることがあるランフラットタイヤのカーカスプライコードとしても使用可能な、高温時、特に架橋構造を有しないポリエステルの融点以上において形態を保持し、所定の強度、弾性率を保持できる高度に耐熱性が改善されたゴム補強用ポリエステル繊維を提供するものである。
本発明におけるポリエステル繊維は、芯/鞘構造からなるポリエステル繊維であって、芯成分と鞘成分のエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物の含有量を異なる量配合することを特徴とする繊維である。
本発明におけるポリエステルは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、少なくとも一種のグリコール、好ましくはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とする。また、テレフタル酸の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えたポリエステルであってもよく、および/またはグリコール成分の一部を主成分以外の上記グリコールもしくは他のジオール成分で置き換えたポリエステルであってもよい。ここで使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸を挙げることができる。また上記グリコール以外のジオール成分としては、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコールビスフェノールA、ビスフェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。さらに、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオール、5−ヒドロキシイソフタル酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸の如き三官能以上のエステル形成基を有するモノマーを使用することができる。
さらに前記ポリエステル中には少量の他の任意の重合体や酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、制電剤、染色改良剤、染料、顔料、艶消し剤、蛍光増白剤、不活性微粒子その他の添加剤が含有されてもよい。
かかるポリエステルを得る方法としては、特別な重合条件を採用する必要はなく、ジカルボン酸成分および/またはそのエステル形成性誘導体とジオール成分との反応生成物を重縮合してポリエステルにする際に採用される任意の方法で合成することができる。重合の装置は回分式であっても連続式であってもよい。さらに前記液相重縮合工程で得られたポリエステルを粒状化し予備結晶化させた後に不活性ガス雰囲気下あるいは減圧真空下、融点以下の温度で固相重合することもできる。
重合触媒は所望の触媒活性を有するものであれば特に限定はしないが、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物が好ましく用いられる。これらの触媒を使用する際には単独でも、また2種類以上を併用してもよく、使用量としてはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対して0.002〜0.1モル%が好ましい。
本発明の繊維において耐熱性は、芯成分のポリエステルの分子末端に脂肪族不飽和基を導入し、溶融紡糸によって得られた芯/鞘構造からなるポリエステル繊維に電離放射線を照射することによって主に達成される。すなわち、本発明のポリエステル繊維の芯部はポリエステル分子鎖間の少なくとも一部に架橋構造を有しており、該架橋構造はポリエステル分子末端に導入された脂肪族不飽和基が電離放射線の照射により反応し、三次元網目構造を形成し、そのため耐熱性が発現されるものである。電離放射線としては、照射透過力が大きい電子線やγ線が好ましいが、これらに限定されるものではない。
芯成分のポリエステルの分子末端に脂肪族不飽和基を導入する方法としては、エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を配合し溶融紡糸することによって得られることが好ましいが、予め公知の方法により該化合物とポリエステルとを溶融混練りしてペレット化しておき、これを溶融紡糸に用いても構わない。またこの混練り樹脂をマスターバッチとして他の芳香族ポリエステル樹脂とブレンドして使用することもできる。
上記エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物とは公知のものを含め特に限定されるものではないが、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−アリルフェニルグリシジルエーテル、2,4−ジアリルフェニルグリシジルエーテル、2,6−ジアリルフェニルグリシジルエーテル、2,4,6−トリアリルフェニルグリシジルエーテル、2−クロチルフェニルグリシジルエーテル、2,4−ジクロチルフェニルグリシジルエーテル、2,6−ジクロチルフェニルグリシジルエーテル、2,4,6−トリクロチルフェニルグリシジルエーテル、4−ビニルフェニルグリシジルエーテル、1,4−ジグリシジルオキシ−2,6−ジアリルベンゼン、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルメタアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルブチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルブチルメタアクリレート、アリル2,3−オキシプロピルカルボネート、プロペニル2,3−オキシプロピルカルボネート、ブテニル2,3−オキシプロピルカルボネート、ジアクリルモノグリシジルシアヌレート、ジメタクリルモノグリシジルシアヌレート、ジアリルモノグリシジルシアヌレート、ジアクリロイルモノグリシジルシアヌレート、ジクロチルモノグリシジルシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジメタクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリロイルモノグリシジルイソシアヌレート、ジクロチルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアクリルジグリシジルシアヌレート、モノメタクリルジグリシジルシアヌレート、モノアリルジグリシジルシアヌレート、モノアクリロイルジグリシジルシアヌレート、モノクロチルジグリシジルシアヌレート、モノアクリルジグリシジルイソシアヌレート、モノメタクリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、モノアクリロイルジグリシジルイソシアヌレート、モノクロチルジグリシジルイソシアヌレート、及び上記化合物のグリシジル基を2,3−エポキシブチル基、2,3−エポキシ−2−メチルプロピル基、2,3−エポキシ−2−メチルブチル基等で置き換えた化合物、N−アリルグリシジルオキシベンズアミド、N,N−ジアリルグリシジルオキシベンズアミド、N,N−ジアリルグリシジルオキシイソフタラミド、N,N−ジアリルグリシジルオキシテレフタラミド、ジアリルグリシジルアミン、ジアリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジアクリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジメタクリルビスフェノールAジグリシジルエーテル、2,2−ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3、5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3、5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)エーテル、ビス(3−アリル−4−グリシジルオキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジアリル−4−グリシジルオキシフェニル)スルホン、3,3'−ジアリル−4,4’−ジグリシジルオキシベンゾフェノン、N−〔4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンジル〕アクリルアミドなどが例示される。上記化合物のうち、分子内に2個以上の脂肪族系不飽和基を有するジアリルフェニルグリシジルエーテル、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジメタクリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアクリロイルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルビスフェノールAジグリシジルエーテルなどが好ましく用いられる。上記化合物は単独で用いても構わないし2種類以上を併用して用いても構わない。さらには上記化合物の重合体であってもよく、1種類のホモポリマーあるいは2種類以上の共重合体であっても構わない。
本発明では、芯成分のポリエステルにエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を配合することにより、エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物とポリエステルのカルボキシル基末端とが反応することにより、ポリエステル分子末端に脂肪族系不飽和基が導入される。そして、この反応によって架橋基が導入されるだけでなく、ポリエステルのカルボキシル基末端量が減少することも耐熱性向上に寄与している。すなわち、タイヤコード用ポリエステル繊維材料のカルボキシル基末端はタイヤ中で自己触媒作用によってポリエステルの劣化反応を引き起こすと考えられているが、上記化合物の反応によってカルボキシル基末端が封鎖されることによりこの劣化反応も抑えられる。
本発明における芯成分のポリエステルにエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を配合する量は、芯成分のポリエステルのカルボキシル基末端量よりも多いエポキシ基量を配合することとなるよう配合量を決定することが好ましい。
すなわち、芯成分のポリエステルのカルボキシル基末端量より多いエポキシ基を配合することにより、芯成分には未反応のエポキシ基が残存し、この未反応エポキシ基と、電離放射線照射によって新たに生じるカルボキシル基末端が反応することで、芯成分のポリエステルのカルボキシル基末端量はほぼ0となり、ポリエステルの劣化反応もほとんど発生しなくなるためである。
芯成分のポリエステルに配合するエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物の好ましい配合量は芯成分のポリエステル100重量部に対して0.1〜30重量部、更に好ましくは0.5〜10重量部である。配合量が0.1重量部未満の場合にはエポキシ基量が不足し好ましくない。また、配合量が30重量部を超える場合には糸強度が低下することおよびコストの面から好ましくない。
上記エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物をポリエステルに配合する際には、種々の安定剤を併用することが好ましい。安定剤としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら安定剤は1種類または2種類以上を併用して使用することができ、配合量はポリエステル100重量部に対して0.001〜10重量部、更に好ましくは0.01〜2重量部である。0.01重量部以下では安定剤としての効率が悪く、10重量部を超えると、架橋反応を阻害するため好ましくない。
本発明において重要な点は、芯成分のポリエステルにエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を配合し、鞘成分にはポリエステルのカルボキシル基末端量より少ないエポキシ基量となる範囲でエポキシ基および脂肪族不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を配合することである。本来、耐熱性だけを求めるのであれば、エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物をポリエステルのカルボキシル基末端量よりエポキシ基量が多くなる量配合し、溶融紡糸するだけの単成分繊維で得ることは可能である。
しかしながらこの方法では、上記化合物を含むポリエステルが溶融紡糸時に繊維表面に存在するため、上記化合物に起因する発煙問題が考えられる。また、上記化合物を含むポリエステルを溶融紡糸時にノズルから吐出する際、化合物がノズルと直接接触することによるノズル孔周辺への化合物の熱劣化物の蓄積が考えられ、糸切れ等紡糸操業性に悪影響を与える等の問題が考えれるため好ましくない。
それに対し、本発明の繊維は、芯/鞘構造であり、その鞘成分がポリエステルのカルボキシル基末端量より少ないエポキシ基量となるようエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を配合しているため、発煙問題、糸切れ等紡糸操業性が問題ないものである。
すなわち、鞘成分のポリエステルのカルボキシル基末端量より少ないエポキシ基量を配合することにより、エポキシ基はほぼ全量がカルボキシル基と反応しポリエステル末端に導入されるため、鞘成分のポリエステルに含まれるエポキシ基量はほぼ0となる。結果として、発煙および紡糸操業性悪化の主原因である、未反応のエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物量がほぼ0であるため、上記問題が解消されるのである。
鞘成分のポリエステルにエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を全く配合しない繊維でも構わない。エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物の配合量は、鞘成分のポリエステルのカルボキシル基末端量より少ないエポキシ基量となる範囲であれば配合可能であるが、得られる繊維の強度および耐熱性を考慮して決定することが好ましい。すなわち、化合物の配合量が増加すれば、耐熱性は向上するが、強度は低下するためである。
鞘成分のポリエステルに配合するエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物の好ましい配合量は鞘成分のポリエステル100重量部に対して0〜5重量部、更に好ましくは0〜1.5重量部である。配合量が5重量部を超える場合にはカルボキシル基末端量よりエポキシ基量が多くなり好ましくない。
さらにゴムとの接着性の観点から芯/鞘構造であることが好ましい。一般にポリエステル繊維は、ポリアミド繊維に比べてゴムとの接着性が劣るため、ゴムと繊維の接着に広く用いられているレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)で処理してもゴムとの接着は不十分である。そのため、RFLとの反応性を有し、ポリエステルとも親和性を有する、エポキシ化合物やイソシアネート化合物等の反応性が高い物質で処理した後にRFLで処理する方法が用いられている。
本発明では、芯成分のポリエステルはエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物とポリエステルのカルボキシル基末端とが反応することにより、カルボキシル基末端が消費されてしまうが、鞘成分のポリエステルの特に表面付近はカルボキシル基末端が消費されないため、従来のポリエステルに用いられている処理方法がそのまま適用可能であるためである。
本発明の芯/鞘構造からなるポリエステル繊維の芯/鞘比率は芯成分の比率が50%以上90%以下であることが好ましく、より好ましくは70%以上90%以下である。芯成分の比率が50%を下回ると、繊維全体での耐熱性が低下するため好ましくなく、90%を超えると、公知の芯/鞘複合紡糸では安定した紡糸が困難になるため好ましくない。
本発明のポリエステル繊維の製造方法は、芯/鞘複合紡糸による常法の製糸条件を採用できるが、紡糸速度は500〜6000m/分、好ましくは1500〜4000m/分で紡糸される。紡糸したあと、引き取った糸条は一旦巻き取ったあとに延伸するか、あるいは紡糸に連続して延伸するスピンドロー法により熱延伸することで得ることができる。
さらに本発明におけるポリエステル繊維の強度は4cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは5cN/dtex以上、さらに好ましくは6cN/dtexである。強度が4cN/dtexを下回ると、最終製品の物性はもとより、生産工程における工程通過性を低下させるため好ましくない。
一般に高分子に架橋構造を形成させることによって耐熱溶融性が向上したり、あるいは溶媒に対する溶解性が低下することは良く知られており、これらは架橋の程度(架橋度)を示す指標となる。本発明におけるポリエステル繊維の熱溶融流動開始温度は、架橋構造を形成させる前のポリエステル樹脂の融点以上であり、好ましくは265℃以上、より好ましくは280℃以上である。融点以上の温度で熱溶融流動すると、補強ゴム中で形態を保持することはできず破断してしまうため好ましくない。
また本発明のポリエステル繊維は、所定溶媒に対する不溶解残物の割合を示すゲル分率が1重量%以上であることが好ましく、さらには5重量%以上であることが好ましい。ゲル分率が1重量%より低いと架橋度が低すぎて高温におけるゴム補強用ポリエステル繊維の寸法安定性や強度が不十分となり好ましくない。
本発明におけるゴム補強用ポリエステル繊維の架橋構造は、ポリエステル分子末端に導入された脂肪族系不飽和基に起因する構造であり、該架橋構造は電離放射線照射により形成される。この電離放射線照射は、ポリエステル繊維の紡糸工程から、ゴム補強材の製造工程までの任意の工程で施すことが可能であるが、電離放射線の照射効率や品質安定の点において、繊維の状態もしくは織物の状態で照射することが好ましい。電離放射線の照射線量は所望の物性を満足するものであれば特に限定はしないが、20〜5000kGy、好ましくは100〜3000kGyである。電離放射線の照射線量が低すぎると架橋度が不十分となりやすく、また高すぎる場合にはポリエステルが分解してしまい、耐熱性、強度物性が低下してしまうので好ましくない。
以下、実施例で本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、各種特性の評価方法は下記に従った。
(1)熱流動開始温度
一定温度に設定可能なホットプレートにサンプルを1分間置いた後、熱溶融流動しているか目視あるいは顕微鏡にて判断し、熱流動が生じている温度を熱流動開始温度(℃)とした。
(2)ゲル分率
試料0.1g(秤量)に25mlのパラクロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=3/1の混合溶媒を加え90℃で100分間浸漬した後、30℃で30分間おき、ガラスフィルターで吸引ろ過した残渣を減圧乾燥し、不溶解物の重量%をゲル分率(%)とした。
(3)強度
オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長20mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で、応力−歪曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力を繊度で割り返した値を強度(cN/dtex)として求めた。なお、各値は5回の測定の平均値を使用した。
(4)カルボキシル基末端量およびエポキシ基量
試料は紡糸後の芯/鞘複合糸とし、鞘成分については、試料を重クロロホルム(CDCL)/ヘキサフルオロイソプロパノール混合溶媒に溶解し、CDCLを加え、更にトリエチルアミン(TEA)0.2M/CDCL溶液を添加し、よく混ぜた後、H−NMR測定をし、得られたピークからテレフタル酸を100%として、モル%で算出した。芯成分については、IRスペクトルにおける、添加物由来のピークと、ポリエステル由来のピーク強度比から、モル%で算出した。
<実施例1>
固有粘度1.05のポリエチレンテレフタレートチップを、芯鞘複合溶融紡糸機に供給し、重量比で芯鞘比率が70/30になるように調整し、同時に芯成分側エクストルーダー入口から50〜60℃に加温したジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを芯成分ポリマーに対して1.5重量%になるよう一定流量で添加した。310℃で押出後、冷却固化し、2000m/分の速度で巻取り、未延伸糸を得た。巻き取った未延伸糸は一段延伸温度80℃、二段延伸温度150℃、熱処理温度200℃で所定の倍率に延伸をし、延伸糸を得た。さらにこの延伸糸に一定張力下、窒素雰囲気中で、加速電圧165keVの電子線を照射した。電子線照射後の物性を表1に示す。
<実施例2>
ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートの添加量をポリエチレンテレフタレートに対して1.0重量%としたこと以外は実施例1と同様の方法でサンプルを得た。物性を表1に示す。
<実施例3>
ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートの添加量をポリエチレンテレフタレートに対して5.0重量%としたこと以外は実施例1と同様の方法でサンプルを得た。物性を表1に示す。
<実施例4>
芯鞘比率を50/50とし、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートの添加量を5.0重量%としたこと以外は実施例1と同様の方法によりサンプルを得た。物性を表1に示す。
<実施例5>
固有粘度1.05のポリエチレンテレフタレートチップを、芯鞘複合溶融紡糸機に供給し、重量比で芯鞘比率が70/30になるように調整し、同時に芯成分側エクストルーダー入口から50〜60℃に加温したジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを芯成分ポリマーに対して1.0重量%になるよう一定流量で添加し、さらに鞘成分側エクストルーダー入口から50〜60℃に加温したジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを鞘成分ポリマーに対して0.7重量%になるよう一定流量で添加し310℃で押出後、冷却固化し、2000m/分の速度で巻取り、未延伸糸を得た。巻き取った未延伸糸は一段延伸温度80℃、二段延伸温度150℃、熱処理温度200℃で所定の倍率に延伸をし、延伸糸を得た。さらにこの延伸糸に一定張力下、窒素雰囲気中で、加速電圧165keVの電子線を照射した。電子線照射後の物性を表1に示す。
<実施例6>
添加剤をグリシジルメタクリレートとし、添加量を4.5重量%としたこと以外は実施例1と同様の方法によりサンプルを得た。得られたサンプルに加速電圧300keVの電子線を2000kGy照射した。物性を表1に示す。
<実施例7>
添加剤を3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレートとし、添加量を3.0重量%したこと以外は実施例1と同様の方法によりサンプルを得た。得られたサンプルに加速電圧300keVの電子線を2000kGy照射した。物性を表1に示す。
<比較例1>
ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを添加しないこと以外は実施例1と同様の方法でサンプルを得た。得られた繊維に一定張力下、空気雰囲気中で加速電圧300keVの電子線を1000kGy照射した。表1に結果を示すが、ゲル分率は0%、熱流動開始温度も260℃であって、通常のポリエチレンテレフタレート繊維に1000kGyの電子線を照射しても架橋構造は形成しないことが分かった。
<比較例2>
芯鞘複合比率を40/60としたこと以外は実施例3と同様の方法でサンプルを得た。得られたサンプルに一定張力下、空気雰囲気中で加速電圧300keVの電子線を1000kGy照射した。表1に結果を示すが、鞘成分が多いために、熱流動開始温度が260℃であって、繊維全体での架橋構造が不足していることが分かった。
Figure 2007332500
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維はポリエステル分子鎖間の少なくとも一部に架橋構造を有していることを特徴とし、ポリエステルの融点以上の高温においても熱溶融することがなく、形態の保持が可能であるので、高温化にさらされるゴム補強用途に好適である。

Claims (5)

  1. 芯/鞘構造からなるポリエステル複合繊維であって、芯成分にエポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物を、芯成分のポリエステル中のカルボキシル基末端量よりエポキシ基量が多くなるよう含有することを特徴とする芯/鞘構造ポリエステル複合繊維。
  2. 芯/鞘重量比率が50/50〜90/10であることを特徴とする請求項1に記載の芯/鞘構造ポリエステル複合繊維。
  3. エポキシ基および脂肪族系不飽和基をそれぞれ少なくとも1個以上有する化合物がジアリルモノグリシジルイソシアヌレートであることを特徴とする請求項1または2に記載の芯/鞘構造ポリエステル複合繊維。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル繊維を用いたタイヤコード。
  5. 請求項4に記載のタイヤコードをカーカス材として用いたラジアルタイヤ。
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