JP2007320853A - 無細胞タンパク質合成用細胞抽出液及び該抽出液の調製方法 - Google Patents

無細胞タンパク質合成用細胞抽出液及び該抽出液の調製方法 Download PDF

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Abstract

【課題】内在性夾雑物が低減された無細胞タンパク質合成用細胞抽出液およびその調製方法を提供する。
【解決手段】無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を合成タンパク質の精製に用いるクロマトグラフィー担体とあらかじめ接触させることにより、このクロマトグラフィー担体に吸着する内在性夾雑物を細胞抽出液から除去する。
【選択図】なし

Description

本発明は、内在する夾雑物が低減された無細胞タンパク質合成用細胞抽出液及びその調製方法等に関するものである。詳しくは、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液に含まれる無細胞タンパク質合成系によって合成されたタンパク質を回収する際に、該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物(以後、単に細胞抽出液内在性夾雑物又は単に内在性夾雑物と言うことがある)が実質的に除去された細胞抽出液、及びその調製方法等に関するものである。さらに詳しくは、少なくとも合成タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物が、無細胞タンパク質合成系からの該タンパク質の精製工程において、精製に用いるクロマトグラフィー担体に対して該タンパク質と実質同一の吸脱着挙動を示す夾雑物であることを特徴とし、さらには該細胞抽出液内在性夾雑物の無細胞タンパク質合成用細胞抽出液中からの除去方法に関するものである。
無細胞タンパク質合成系については、細胞をすり潰して得られた抽出液にタンパク質合成能が残存することが40年前に報告されて以来、種々の方法が開発され、大腸菌、コムギ胚芽、ウサギ網状赤血球由来、昆虫由来の細胞抽出物はタンパク質合成等に現在も広く利用されている。無細胞系における翻訳速度はin vivoとほぼ同等で、10ペプチド結合/秒であり高速性及び翻訳の正確性にも優れた反応特性を発揮するものの、いずれの無細胞系においても合成持続時間が短く、得られる収量は反応容量1ml当り数μg乃至数十μgで生細胞の1/100から1/1000程度と極端に低く、タンパク質の合成法としては実用的でなかった。
従来の無細胞タンパク質合成系の最大の欠点は、合成効率がきわめて低いことであるが、この原因について正面から研究されたことはなかった。細胞を物理的に破砕し、人工の緩衝液で調製した細胞抽出物中の活性が低いのは生化学分野ではごく常識のことであったからである。
先に発明者らは、これまでのリボソーム不活性化毒素の研究から得た知見をもとに、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系に見られる極端なタンパク質合成活性の低下の原因究明を進めてきた。その結果、胚芽抽出液調製中に混入する胚乳成分に、様々なタンパク質合成阻害因子(核酸分解酵素、タンパク質分解酵素、トリチン、チオニンなどのリボソーム不活性化タンパク質など)が含まれていること、これらの胚乳由来タンパク質合成阻害因子によって胚芽抽出液のタンパク質合成活性が著しく低下することを明らかにした。そして、胚芽から混入した胚乳成分を排除する新規方法で調製したコムギ胚芽抽出液のタンパク質合成反応が長時間に渡って高いタンパク質合成特性を発揮するようになることを実証した(非特許文献1)(特許文献1)。
また、発明者らは、先にコムギ胚芽抽出液を排除分子量12,000〜14,000ダルトン程度の再生セルロース膜を用い、透析を行うことによって、該抽出液から低分子量物質を取り除いたところ、該細胞抽出液のタンパク質合成活性が著しく促進されることを見出している(特許文献2)。
Madin,K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,559−564(2000) 特開2000−236896号公報 WO03/064672
さらに発明者らは、上記得られた細胞抽出液から、限外ろ過膜を用いて1万ダルトンまでの低分子量物質を徹底的に排除することにより、抽出液のタンパク質合成能がさらに上昇することを見出した。この限外ろ過膜処理によって得られるろ液には、無細胞タンパク質合成系のタンパク質合成を阻害する活性が検出された。発明者らは、これらのことから、上記無細胞タンパク質合成用細胞抽出液には、まだタンパク質合成を阻害する低分子物質が存在することを確認した(特許出願中)。
上記方法により得られた胚芽抽出液は、従来の無細胞タンパク質合成系に比較して高いタンパク質合成能を有するものである。この胚芽抽出液は、上述の処理により1万ダルトン以下の物質は徹底的に排除されているとはいえ、胚芽に元来存在しているタンパク質合成反応に必要な物質も含め、残存する胚乳に由来する物質など様々な物質が、多量に存在している。従って、この胚芽抽出液を用いて合成された所望のタンパク質を高純度に回収する工程において、抽出液中に元来存在している様々な物質が所望のタンパク質含有画分に混入する場合には、何らかの精製操作が必要になる。
発明者らは、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系で合成されたタグ融合タンパク質を効率的に精製するシステムの開発を進めるうちに、コムギ胚芽抽出液には、タグ融合タンパク質の精製工程において、該タンパク質と同様あるいは類似の挙動を示す細胞抽出液内在性夾雑物が複数種、存在することを見出した。このような細胞抽出液内在性夾雑物は、所望のタグ融合タンパク質と同じ条件でアフィニティクロマトグラフィー担体に吸着され、同じ条件で溶出されるため、所望のタンパク質と共精製され、その最終精製標品の不純物となる。例えばコムギ胚芽抽出液で合成したGST融合タンパク質をグルタチオンセファロースで精製した場合、その最終精製標品をSDS-PAGEにより確認すると、GSTタグ融合タンパク質と共に分子量約30kdのタンパク質が検出される。このタンパク質はグルタチオンセファロースにGSTタグ融合タンパク質と同じ条件で吸着し、GSTタグ融合タンパク質と同じグルタチオン濃度で溶出されると考えられる。これらの細胞抽出液内在性夾雑物はタグに特異的に結合する物質に対して、タグ同様あるいは類似の親和性を有するものと考えられる。あるいは、クロマトグラフィー担体となるセファロースや各種ビーズに対して親和性を有するものであるとも考えられる。よって、所望の合成タンパク質の精製度を上げるためには、これらの細胞抽出液内在性夾雑物を除去する必要がある。
以上により、本発明の課題は、内在性夾雑物が低減された無細胞タンパク質合成用細胞抽出液及びその調製方法を提供することである。具体的には、無細胞タンパク質合成系において合成された所望のタンパク質の精製度を高める手段として、該タンパク質の精製工程において、該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示し、該タンパク質と共精製される夾雑物を細胞抽出液から実質的に除去した無細胞タンパク質合成用細胞抽出液及びその調製方法を提供することである。
本発明者は、各種クロマトグラフィー担体に対する細胞抽出液内在性夾雑物の吸脱着挙動性質の検討をもとに、この細胞抽出液内在性夾雑物の除去方法の検討を行った。その結果、細胞抽出液を合成タンパク質の精製に用いるクロマトグラフィー担体とあらかじめ接触させることにより、このクロマトグラフィー担体に吸着する内在性夾雑物を細胞抽出液から除去できることを見出した。さらに、該除去操作によって細胞抽出液の保存あるいは細胞抽出液のタンパク質合成能に大きな影響を与えないことを確認した。本発明に係る細胞抽出液は、特に精製用各種タグを融合した合成タンパク質の合成に有用である。
すなわち本発明は以下よりなる。
「1.無細胞タンパク質合成系に使用する細胞抽出液の調製方法であって、無細胞タンパク質合成系によって合成されたタンパク質を回収する際に、該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物を除去することを特徴とする細胞抽出液の調製方法。
2.合成タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物が、該タンパク質の無細胞タンパク質合成系からの精製工程において実質同一の吸脱着挙動を示す夾雑物である前項1に記載の調製方法。
3.細胞抽出液内在性夾雑物が、分子量14,000ダルトン以上であることを特徴とする前項2に記載の調製方法。
4.細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と実質同一の吸脱着挙動を示すことを特徴とする前項2に記載の調製方法。
1)GSTタグ融合タンパク質、2)ヒスチジンタグ融合タンパク質、3)ストレプ−タグ融合タンパク質
5.細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と実質同一の吸脱着挙動を示すことを特徴とする前項2に記載の調製方法。
1)カルモデュリン結合ペプチド融合タンパク質、2)マルトース結合タンパク質融合タンパク質、3)セルロース結合ドメイン融合タンパク質、4)キチン結合ドメイン融合タンパク質、5)FLAGタグ融合タンパク質
6.細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と実質同一の吸脱着挙動を示すことを特徴とする前項2に記載の調製方法。
1)プロテインA融合タンパク質、2)プロテインG融合タンパク質
7.細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と親和性を示すことを特徴とする前項2に記載の調製方法。
1)グルタチオンSトランスフェラーゼ又はその誘導体を特異的に結合するクロマトグラフィー担体、2)遷移金属をキレート結合したクロマトグラフィー担体、3)ストレプトアビジン若しくはアビジン又はそれらの誘導体を結合したクロマトグラフィー担体
8.遷移金属が、ニッケル又はコバルトである前項7に記載の調製方法。
9.遷移金属が、亜鉛、銅、マンガンのいずれか1から選ばれる前項7に記載の調製方法。
10.細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と親和性を示すことを特徴とする前項2に記載の調製方法。
1)カルモデュリン結合担体、2)アミロース又は架橋アミロース結合担体、3)セルロース結合担体、4)キチン結合担体、5)FLAGタグに対する抗体を結合した担体
11.細胞抽出液内在性夾雑物が、免疫グロブリンのFcフラグメントを結合したクロマトグラフィー担体と親和性を示すことを特徴とする前項2の調製方法。
12.細胞抽出液の原料が、混入する胚乳成分及び低分子タンパク質合成阻害物質が実質的に除去されたコムギ胚芽抽出物である前項1〜11に記載のいずれか1の調製方法。
13.細胞抽出液内在性夾雑物の除去が、細胞抽出液をクロマトグラフィー担体に接触させることである前項1〜12に記載のいずれか1の調製方法。
14.細胞抽出液とクロマトグラフィー担体との接触が、以下から選ばれる少なくとも一の手段である前項13に記載の調製方法。
1)クロマトグラフィー担体を細胞抽出液に添加し、一定時間接触させた後、担体を除去する(バッチ法)手段、2)クロマトグラフィー担体を充填したカラムに細胞抽出液を通す手段
15.クロマトグラフィー担体が、アフィニティクロマトグラフィー担体である前項13又は14に記載の調製方法。
16.アフィニティクロマトグラフィー担体が、以下のいずれか1である前項15に記載の調製方法。
1)グルタチオンSトランスフェラーゼ又はその誘導体を特異的に結合するクロマトグラフィー担体、2)遷移金属をキレート結合したクロマトグラフィー担体、3)ストレプトアビジン若しくはアビジン又はそれらの誘導体を結合したクロマトグラフィー担体
17.遷移金属が、ニッケル又はコバルトである前項16に記載の調製方法。
18.遷移金属が、亜鉛、銅、マンガンのいずれか1から選ばれる前項16に記載の調製方法。
19.アフィニティクロマトグラフィー担体が、以下のいずれか1である前項15に記載の調製方法。
1)カルモデュリン結合担体、2)アミロース又は架橋したアミロース結合担体、3)セルロース結合担体、4)キチン結合担体、5)FLAGタグに対する抗体を結合した担体
20.アフィニティクロマトグラフィー担体が、免疫グロブリンのFcフラグメントを結合した担体である前項15に記載の調製方法。
21.クロマトグラフィー担体が、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトのいずれか1から選ばれる前項13〜20のいずれか1に記載の調製方法。
22.前項1〜21のいずれか1に記載の調製方法によって調製された無細胞タンパク質合成系に使用する細胞抽出液。
23.無細胞タンパク質合成系に使用する細胞抽出液であって、無細胞タンパク質合成系によって合成されたタンパク質を回収する際に該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物が、実質的に除去されていることを特徴とする細胞抽出液。
24.合成タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物が、該タンパク質の無細胞タンパク質合成系からの精製工程において実質同一の吸脱着挙動を示す夾雑物である前項23に記載の細胞抽出液。
25.細胞抽出液内在性夾雑物が、分子量14,000ダルトン以上であることを特徴とする前項24に記載の細胞抽出液。
26.細胞抽出液内在性夾雑物において、以下のいずれか1と実質同一の吸脱着挙動を示すことを特徴とする前項24に記載の細胞抽出液。
1)GSTタグ融合タンパク質、2)ヒスチジンタグ融合タンパク質
27.細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と親和性を示すことを特徴とする前項24に記載の細胞抽出液。
1)グルタチオンSトランスフェラーゼ又はその誘導体を特異的に結合するクロマトグラフィー担体、2)ニッケル又はコバルトをキレート結合したクロマトグラフィー担体

28.細胞抽出液の原料が、混入する胚乳成分および低分子タンパク質合成阻害物質が実質的に除去された植物種子の胚芽抽出物である前項23〜27に記載のいずれか1の細胞抽出液。
29.植物種子が、コムギ、オオムギ、イネ、コーンのいずれか1から選ばれる前項28に記載の細胞抽出液。
30.前項22〜29に記載のいずれか1の細胞抽出液を用いたタンパク質合成方法。
31.前項22〜29に記載のいずれか1の細胞抽出液を含む無細胞タンパク質合成系に使用する試薬キット。」
本発明の調製方法で得られた細胞抽出液を用いて合成されたタンパク質は、従来にない高い純度にまで精製することが可能になった。本発明により提供される細胞抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系は、特に立体構造解析用試料や抗体製造用抗原の調製に最適である。
本発明の無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の調製に用いられる細胞抽出物としては、無細胞タンパク質合成系においてタンパク質合成能を有するものであれば如何なるものであってもよい。ここで、無細胞タンパク質合成系とは、細胞内に備わるタンパク質翻訳装置であるリボソーム等を含む成分を生物体から抽出し、この抽出液に転写または翻訳鋳型、基質となる核酸、アミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、及びその他の有効因子を加えて試験管内で行う方法である。このうち、鋳型としてRNAを用いるもの(これを以下「無細胞翻訳系」と称することがある)と、DNAを用い、RNAポリメラーゼ等転写に必要な酵素をさらに添加して反応を行うもの(これを以下「無細胞転写/翻訳系」と称することがある)がある。本発明における無細胞タンパク質合成系は、上記の無細胞翻訳系、無細胞転写/翻訳系のいずれをも含む。
本発明に用いられる細胞抽出液として具体的には、大腸菌、植物種子の胚芽、ウサギ網状赤血球、昆虫由来細胞等の細胞抽出物等の既知のものが用いられる。これらは市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には大腸菌抽出液は、Pratt,J.M.et al.,Transcription and Translation,Hames,179−209,B.D.&Higgins,S.J.,eds,IRL Press,Oxford(1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。
市販の細胞抽出液としては、大腸菌由来のものは、E.coli S30 extract system(Promega社製)とRTS 500 Rapid Translation System(Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System(Promega社製)等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。このうち、植物種子の胚芽抽出液を用いることが好ましく、植物種子としては、コムギ、オオムギ、イネ、コーン等のイネ科の植物のものが好ましい。本発明の細胞抽出液としては、このうちコムギ胚芽抽出液を用いたものが好適である。また、昆虫由来細胞では、カイコ由来等の細胞抽出液を用いることができる。
コムギ胚芽抽出液の作製法としては、例えばJohnston,F.B.et al.,Nature,179,160−161(1957)、あるいはErickson,A.H.et al.,(1996)Meth.In Enzymol.,96,38−50等に記載の方法を用いることができる。
このような既知の無細胞タンパク質合成用細胞抽出液から、さらに排除分子量12,000〜14,000ダルトン程度の再生セルロース膜を用いた透析操作あるいは限外ろ過膜操作によって低分子物質の除去を行なう。本発明では、これらの透析操作あるいは限外ろ過膜操作によって除去できなかった細胞抽出液内在性夾雑物のうち、無細胞タンパク質合成系によって合成されたタンパク質を回収する際に該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物を排除することを特徴とする。
本発明における細胞抽出液内在性夾雑物とは、その細胞に元来存在する物質であり、排除分子量12,000〜14,000ダルトン程度の再生セルロース膜を用いた透析操作あるいは限外ろ過膜操作によって除去できなかった分子量14,000ダルトン以上の物質が主な対象である。また、細胞抽出液内在性夾雑物は、タンパク質合成阻害活性を示す物質のみを対象とするのではなく、タンパク質合成に影響を与えない物質も対象としている。
無細胞タンパク質合成系によって合成されたタンパク質を回収する際に該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性あるとは、以下によって定義される。
合成されたタンパク質を回収する際に該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性とは、無細胞タンパク質合成手段によって合成されたタンパク質を合成系から回収する際に、精製用クロマトグラフィー担体を用いた場合に、この担体に対する吸着及び/又は脱着において、同一あるいは類似の挙動を示すことを意味する。詳しくは、合成タンパク質の無細胞タンパク質合成系からの精製工程において実質同一、類似又は擬似的の精製用クロマトグラフィー担体に対する吸脱着挙動を示す可能性を意味する。ここで、実質同一、類似又は擬似的の吸脱着挙動を示す可能性とは、合成されたタンパク質と細胞抽出液内在性夾雑物が精製用クロマトグラフィー担体に対する吸脱着挙動において共通性があるため、合成タンパク質と細胞抽出液内在性夾雑物が共に精製用クロマトグラフィー担体に吸着し、溶出液により脱着することを意味する。
また無細胞タンパク質合成系によって合成されたタンパク質を回収する際に該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物は、合成されたタンパク質の精製に用いるクロマトグラフィー担体自体(例えばセファロースやセファデックスなど)や各種ビーズに対して親和性を有することにより、合成タンパク質と共に精製用クロマトグラフィー担体に吸着し、溶出液により脱着する物質も含まれる。
具体的な例としては、無細胞タンパク質合成系によってGSTタグ又はヒスチジンタグを融合したタンパク質を合成する場合に、GSTタグ融合タンパク質又はヒスチジンタグ融合タンパク質と、精製用クロマトグラフィー担体に同一の条件で吸脱着する物質が、これらのタグ融合タンパク質を回収する際に、該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物となる。
合成タンパク質の精製操作は、有機溶媒や硫酸アンモニウムなどによる沈殿分画、各種カラムクロマトグラフィーなどを組み合わせて行なわれる。その方法はタンパク質の性質ごとに異なるため、精製方法や条件を、その都度検討しなくてはならない。このことは、性質も機能も不明な多数の新規タンパク質を対象とする今日のタンパク質研究を妨げる一因になっている。
この点を解消するため、様々なタグ配列と、それぞれのタグにアフィニティーのある物質を結合した担体を用いた精製系が開発されている。すなわち、目的とするタンパク質と特定のタグ(ペプチドあるいはタンパク質)との融合タンパク質を発現させ、タグにアフィニティーのある物質を固定化したクロマトグラフィー担体により、この融合タンパク質を特異的に回収するという方法である。タグ配列とタグ特異的なアフィニティークロマト担体を用いた精製系の例としては、ヒスチジンタグ−ニッケルキレーティングセファロース、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)−グルタチオンセファロース、ストレプタグ−ストレプタクチン(修飾ストレプトアビジン)などが挙げられる。
ヒスチジンタグは、ヒスチジンが複数個並んだ配列であればその個数に限定はないが、好ましくは4個〜10個である。また、ナチュラルヒスチジンアフィニティタグのように、特定のペプチド内に複数個のヒスチジンが点在する配列であってもよい。また、ヒスチジンタグを特異的に結合するクロマトグラフィー担体としてニッケルのほかコバルトを結合した担体例えばTALONTM(BD Biosciences社)を使用することができる。また、鉄、銅など遷移金属をキレート結合した担体も使用することができる。
また、ストレプタグのほか、ストレプトアビジンまたはアビジンに親和性を有するペプチド若しくはタンパク質をタグとして、ストレプトアビジン若しくはアビジン、又はこれらの誘導体を結合したクロマトグラフィー担体を組み合わせることができる。
さらにカルモデュリン結合ペプチド融合タンパク質−カルモデュリン結合担体、セルロース結合ドメイン融合タンパク質−セルロース結合担体、キチン結合ドメイン融合タンパク質−キチン結合担体、マルトース結合タンパク質融合タンパク質−アミロース又は架橋したアミロースを結合した担体、FLAGタグ融合タンパク質−FLAGタグに対する抗体を結合した担体なども用いることができる。プロティンA融合タンパク質、プロティンG融合タンパク質をタグとして、これに特異的に結合する免疫グロブリンFcフラグメントを結合した担体を用いることもできる。また、タグとして特定のタンパク質を用い、この特定タンパク質に対する抗体を固定化したクロマトグラフィー担体により精製する方法、逆に抗体をタグとし、その抗原タンパク質を固定化したクロマトグラフィーにより精製する方法も可能である。
このようにタグと特異的結合をする物質同士を利用したアフィニティー精製法は、一般に容易で、かつ精製効率が高い。このようなアフィニティー精製法と無細胞タンパク質合成系を組み合わせれば、多種類のタンパク質のハイスループット精製も可能であり、プロテオミクス研究における重要な技術になると考えられる。
タグ結合タンパク質の精製には、上記のアフィニティークロマト担体のほか、一般のタンパク質の精製に用いるクロマトグラフィー担体、例えばイオン交換体(例えば陽イオン交換体もしくは陰イオン交換体)、疎水性クロマトグラフィー担体(例えばフェニルセファロースもしくはブチルセファロース)、逆相クロマトグラフィー担体、等電点クロマトグラフィー担体、ゲルろ過クロマトグラフィー担体、無機吸着体(例えばハイドロキシアパタイト)等それ自体は既知の精製用クロマトグラフィー担体を用いることもできる。また、当業者なら、合成するタンパク質の性質(特定の物質に対する親和性、pH、荷電化、疎水性、親水性等)によって、適宜使用する担体を選択可能である。
本発明の、無細胞タンパク質合成系によって合成されたタンパク質を回収する際に、該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物を除去するとは、細胞抽出液を、あらかじめ合成タンパク質の精製に用いるクロマトグラフィー担体と接触させ、内在性夾雑物をクロマトグラフィー担体に吸着させることを示す(以後、前処理と呼ぶことがある)。
クロマトグラフィー担体との接触は、以下の方法が用いられる。
1)細胞抽出液にクロマトグラフィー担体を添加し、一定時間接触させた後担体を除去する(バッチ法)。
適当な緩衝液などで平衡化したクロマトグラフィー担体を直接細胞抽出液に添加し、一定時間、静置あるいは穏やかに攪拌した後、細胞抽出液からクロマトグラフィー担体を除去することによって行なわれる。クロマトグラフィー担体は、自然落下あるいは遠心により、細胞抽出液から除去することができる。また、クロマトグラフィー担体を添加し、懸濁した細胞抽出液を精製用カラムに注ぐことによっても除去できる。
クロマトグラフィー担体の添加量は、細胞抽出液の体積の0.01%〜50%、好ましくは1%〜20%であるが、これらの数値に限定されず、適当な量を選択することができる。
2)クロマトグラフィー担体を充填したカラムに細胞抽出液を通す
クロマトグラフィー担体を適当な溶液に懸濁し、ガラス、プラスチック、金属などでできたクロマトグラフィー精製用カラムに適量を流し込み、さらに適当な緩衝液を流して平衡化を行う。平衡化に用いる緩衝液量は、通常カラム体積の2倍〜10倍であるが、特に限定されない。このカラムに細胞抽出液を流し、カラムに内在性夾雑物を吸着させ、未吸着画分を回収する。
以上のように調製され、さらにクロマトグラフィー担体と接触させ、回収した細胞抽出液に、タンパク質合成に必要な成分を添加して、翻訳反応液を調製する。あるいは細胞抽出液を、タンパク合成に必要な成分を含む溶液で平衡化したセファデックスG25カラムに通すことによって、抽出溶液から翻訳反応液に置換する。タンパク合成に必要な成分とは、具体的には、基質となるアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3',5'−cAMP、葉酸塩、抗菌剤等が挙げられる。また濃度は、ATP100μM〜0.5mM、GTP25μM〜1mM、20種類のアミノ酸それぞれ25μM〜5mMが好ましい。これらは、翻訳反応系に応じて適宜選択して組み合わせて用いることができる。具体的には、細胞抽出物含有液としてコムギ胚芽抽出液を用いた場合には、30mM HEPES-KOH(pH7.8)、100mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、0.4mMスペルミジン(ナカライ・テスク社製)、各0.3mML型アミノ酸20種類、4mMジチオスレイトール、1.2mMATP(和光純薬社製)、0.25mMGTP(和光純薬社製)、16mMクレアチンリン酸(和光純薬社製)、40μg/mlクレアチンキナーゼ(Roche社製)、0.005%アジ化ナトリウムを加え、十分溶解した後に適量の翻訳鋳型mRNAを入れたもの等が例示される。核酸分解酵素阻害剤、各種イオン、基質となるアミノ酸、エネルギー源等(以下、これらを「翻訳反応溶液添加物」と称することがある)及び翻訳鋳型となる特定タンパク質をコードするmRNA、加えて所望によりイノシトール、トレハロース、マンニトール及びスクロースーエピクロロヒドリン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有する安定化剤などである。各成分の添加濃度は、自体公知の配合比で用いることができる
ここで、mRNAは、無細胞タンパク質合成系において合成され得るタンパク質をコードする領域が、適当なRNAポリメラーゼが認識する配列と、さらに翻訳を活性化する機能を有する配列の下流に連結された構造を有していれば如何なるものであってもよい。RNAポリメラーゼが認識する配列とは、T3、T7またはSp6 RNAポリメラーゼプロモーター等が挙げられる。また、無細胞タンパク質合成系において翻訳活性を高めるものとしてΩ配列、Sp6プロモーター配列等をコーディング配列の5'上流側に連結させた構造を有するものが好ましく用いられる。
また、以下の実施例で示すようにタグを融合した合成タンパク質を合成するために、mRNAにヒスチジンタグ(複数個のヒスチジンが並んだ配列)やGST等をコードする配列を導入しても良い。
本発明の最良の細胞抽出液は、コムギ胚芽由来の抽出液であり、さらに混入する胚乳成分や胚芽組織細胞中のタンパク質合成阻害をもたらすグルコースなどの代謝物質が実質的に除去された抽出液であるので、これを例にとって原料の調製方法を以下説明する。
通常、胚芽の部分は非常に小さいので胚芽を効率的に取得するためには胚芽以外の部分をできるだけ除去しておくことが好ましい。通常、まずコムギ種子に機械的な力を加えることにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得、該混合物から、胚乳破砕物、種皮破砕物等を取り除いて粗胚芽画分(胚芽を主成分とし、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物)を得る。種子に加える力は、種子から胚芽を分離することができる程度の強さであればよい。具体的には、公知の粉砕装置を用いて、種子を粉砕することにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得る。
種子の粉砕は、通常公知の粉砕装置を用いて行うことができるが、被粉砕物に対して衝撃力を加えるタイプの粉砕装置、例えばピンミル、ハンマーミルを用いることが好ましい。粉砕の程度は、使用する種子胚芽の大きさに応じて適宜選択すればよいが、例えばコムギの場合は、通常、最大長さ4mm以下、好ましくは最大長さ2mm以下の大きさに粉砕する。また、粉砕は乾式で行うのが好ましい。
次いで、得られた種子粉砕物から、通常公知の分級装置、例えば、篩を用いて粗胚芽画分を取得する。例えば、コムギの場合、通常、メッシュサイズ0.5mm〜2.0mm、好ましくは0.7mm〜1.4mmの粗胚芽画分を取得する。さらに、必要に応じて、得られた粗胚芽画分に含まれる種皮、胚乳、ゴミ等を風力、静電気力を利用して除去してもよい。
また、胚芽と種皮、胚乳の比重の違いを利用する方法、例えば重液選別により、粗胚芽画分を得ることもできる。より多くの胚芽を含有する粗胚芽画分を得るために、上記の方法を複数組み合わせてもよい。さらに、得られた粗胚芽画分から、例えば目視や色彩選別機等を用いて胚芽を選別する。
このようにして得られた胚芽画分は、胚乳成分が付着している場合があるため、通常胚芽純化のために更に洗浄処理することが好ましい。洗浄処理としては、通常10℃以下、好ましくは4℃以下に冷却した水または水溶液もしくは界面活性剤を含有する水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させ、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することが好ましい。また、通常10℃以下、好ましくは4℃以下で、界面活性剤を含有する水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させて、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することがより好ましい。界面活性剤としては、非イオン性のものが好ましく、非イオン性界面活性剤であるかぎりは、広く利用ができる。具体的には、例えば、好適なものとして、ポリオキシエチレン誘導体であるブリッジ(Brij)、トリトン(Triton)、ノニデット(Nonidet)P40、ツイーン(Tween)等が例示される。なかでも、ノニデット(Nonidet)P40が最適である。これらの非イオン性界面活性剤は、胚乳成分の除去に十分且つ胚芽成分のタンパク質合成活性に悪影響を及ぼさない濃度で使用され得るが、例えば0.5%の濃度で使用することができる。水または水溶液による洗浄処理及び界面活性剤による洗浄処理は、どちらか一方でもよいし、両方実施してもよい。また、これらの洗浄処理は、超音波処理との組み合わせで実施してもよい。
本発明においては、上記のように種子粉砕物から選別し、洗浄して得られた発芽能を有する胚芽を好ましくは抽出溶媒の存在下に細分化した後、得られた胚芽抽出液を分離し、更に精製することにより無細胞タンパク質合成用抽出液を得る。
抽出溶媒としては、緩衝液、カリウムイオン、マグネシウムイオンおよび/またはチオール基の酸化防止剤を含む水溶液を用いることができる。また、必要に応じて、カルシウムイオン、L型アミノ酸等をさらに添加してもよい。例えば、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N'−2−エタンスルホン酸(HEPES)−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、L型アミノ酸および/またはジチオスレイトールを含む溶液や、Pattersonらの方法を一部改変した溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、L型アミノ酸および/またはジチオスレイトールを含む溶液)を抽出溶媒として使用することができる。抽出溶媒中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞タンパク質合成用の細胞抽出液の製造に用いられるものを採用すればよい。
必要量の抽出溶媒を胚芽に加え、抽出溶媒の存在下に胚芽を細分化する。抽出溶媒の量は、洗浄前の胚芽1gに対して、通常0.1ミリリットル以上、好ましくは0.5ミリリットル以上、より好ましくは1ミリリットル以上である。抽出溶媒量の上限は特に限定されないが、通常、洗浄前の胚芽1gに対して、10ミリリットル以下、好ましくは5ミリリットル以下である。また、細分化しようとする胚芽は従来のように凍結させたものを用いてもよいが、凍結させていないものを用いるのがより好ましい。
細分化の方法としては、摩砕、圧砕等、従来公知の粉砕方法を採用することができるが、本発明者が開発した衝撃または切断により胚芽を細分化する方法(特願2002−023139)が好ましい。ここで、「衝撃または切断により細分化する」とは、植物胚芽の細胞核、ミトコンドリア、葉緑体等の細胞小器官(オルガネラ)、細胞膜や細胞壁等の破壊を、従来の摩砕または圧砕と比べて最小限に止めうる条件で植物胚芽を破壊することを意味する。
細分化する際に用いることのできる装置や方法は、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、ワーリングブレンダーのような高速回転する刃状物を有する装置を用いることが好ましい。刃状物の回転数は、通常1000rpm以上、好ましくは5000rpm以上であり、また、通常30000rpm以下、好ましくは25000rpm以下である。刃状物の回転時間は、通常5秒以上、好ましくは10秒以上である。回転時間の上限は特に限定されないが、通常10分以下、好ましくは5分以下である。細分化する際の温度は、好ましくは10℃以下で操作が可能な範囲内、特に好ましくは4℃程度が適当である。
このような衝撃または切断による胚芽の細分化では、胚芽の細胞核や細胞壁は全て破壊されず、少なくともその一部は破壊されることなく残る。即ち、胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁が必要以上に破壊されることがないため、それらに含まれるDNAや脂質等の不純物の混入が少なく、細胞質に局在するタンパク質合成に必要なRNAやリボソーム等を高純度で効率的に胚芽から抽出することができる。
このような衝撃または切断による細分化においては、細分化した後に抽出溶媒を添加することもできるが、抽出溶媒の存在下に行うことがより好ましい。
このような方法によれば、従来の胚芽を粉砕する工程と、粉砕された胚芽に抽出溶媒を加えて胚芽抽出液を得る工程とを同時に一つの工程として行うことができるため効率的にコムギ胚芽抽出液を得ることができる。上記の方法を、以下「ブレンダー法」と称することがある。
次いで、胚芽抽出液について2〜4万G、好ましくは2.5〜3.5万G、さらに好ましくは3万Gの遠心分離を行い、遠心上清を取得する。この際、沈殿助剤として無機担体をいれておくことは沈殿物と上清との分離のためにより好ましい。この沈殿物中には、グリコシダーゼなどの酵素とカルシウムの複合体が含まれている。グリコシダーゼをあらかじめ除いておくことは、澱粉からグルコースの生成を最小限に抑えることに役立つ。好適な無機担体としては、ベントナイト、活性炭素、シリカゲル、海砂等が例示される。この無機担体の導入により、沈殿物が上清へ混入することをほぼ完全に防ぐことが出来る。沈殿助剤を遠心時に加えない場合は、沈殿物の上部に不溶性スラリーが存在し、これが混入したS-30画分から調製した抽出液のタンパク質合成活性は低くなる。そこで、遠心後の遠心管からのS-30画分の回収に当たっては混入を避けるために細心の注意が必要となる。
コムギ胚芽抽出液は、ゲルろ過等によりさらに精製することができる。ゲルろ過は、例えば予め適当な溶液で平衡化しておいたゲルろ過装置を用いて行うことができる。ゲルろ過溶液中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞タンパク合成用の細胞胚芽抽出液の製造に用いられるもの(例えば、HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ジチオスレイトールまたはL型アミノ酸を含む溶媒)を採用すればよい。
このようにして得られた胚芽細胞抽出物は、RNase活性及びホスファターゼ活性が極めて低減されたものである。
ゲルろ過後の胚芽抽出物含有液には、微生物あるいは糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあるためこれら微生物などを排除しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞タンパク質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の排除手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入の可能性のある微生物が除去可能なものであれば特に制限はないが、通常0.1〜1マイクロメーター、好ましくは0.2〜0.5マイクロメーターが適当である。ちなみに、枯草菌の胞子のサイズは0.5μmx1μmであることから、0.20マイクロメーターのフィルター(例えばSartorius製のMinisartTM等)を用いるのが胞子の除去にも有効である。ろ過に際して、まずポアサイズの大きめのフィルターでろ過し、次に混入の可能性のある微生物が除去可能であるポアサイズのフィルターを用いてろ過するのが好ましい。
このようにして得られた細胞抽出液は、原料であるコムギ自身が含有または保持するタンパク質合成機能を抑制する物質(各種RNA、翻訳タンパク質因子やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質。例えば各種リボヌクレアーゼ、各種プロテアーゼ、トリチン、チオニン等)が、ほぼ完全に取り除かれている。すなわち、これらの阻害物質が局在する胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されている。胚乳の除去の程度は、コムギ胚芽抽出液中に夾雑するトリチンの活性、すなわちリボソームを脱アデニン化する活性をモニターすることにより評価できる。リボソームが実質的に脱アデニン化されていなければ、胚芽抽出液中に夾雑する胚乳由来成分がない、すなわち胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されていると判断される。リボソームが実質的に脱アデニン化されていない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。
このような胚芽抽出液を原料にして、さらに「胚芽組織細胞内因性の解糖系などの代謝経路や翻訳反応制御機構の排除」のために糖、リン酸化糖、糖のリン酸化酵素、糖分解酵素等を低減した無細胞タンパク質合成用の細胞抽出液調製のための処理を行うこともできる。処理工程の概要は以下である。得られた細胞抽出液、あるいはこの抽出液について、ゲルろ過による溶液の交換あるいは必要成分の添加などにより翻訳反応液としたものを、分子量10kDaカットで分子量分画し、低分子画分を排除する。あるいは、分子量10kDa以上の物質を分子量分画し、回収することも可能である。この分画処理は複数回行い、特に分子量10kDa以下の物質を実質的に除去することが好ましい。複数回の具体的回数としては、1〜10回、好ましくは2〜9回、さらに好ましくは3〜8回、最も好ましくは4〜7回である。このように調製された細胞抽出液は、実質的に糖、リン酸化糖が1mM以下まで低減されていた(260nmにおける吸光度200 OD/mlの抽出液中のグルコース濃度として)。かくして得られたグルコース濃度が低減された抽出液は、従来にない高い無細胞タンパク質合成能を保有する。
本発明の方法を施された無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出液とは、この系により合成されたタンパク質を回収する際に、該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物が、あらかじめ上記の各種除去手段のいずれか1により低減された又は実質的に除去された抽出液である。ここで、細胞抽出液内在性夾雑物が低減又は実質的に除去されたとは、本発明に係る細胞抽出液により合成されたタンパク質の精製画分への細胞抽出液内在性夾雑物の混入が低減されたことを意味する。具体的な例として、GSTタグ融合タンパク質、又はヒスチジンタグ融合タンパク質と、それらの精製工程において、実質同一の吸脱着挙動を示す細胞抽出液内在性夾雑物が著しく除去された当該タンパク質の最終精製品が得られるような、無細胞タンパク質合成用細胞抽出液が挙げられる。また、本発明の方法を施された無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽抽出液あるいはこの抽出液を含む無細胞タンパク質合成用試薬キットを用いて合成されたタンパク質は、従来の精製方法では得ることができない程度の高純度にまで精製することができる。したがって本発明の細胞抽出液を含む無細胞タンパク質合成系に使用する試薬キットは、特に立体構造解析用試料、抗体製造用抗原に要求される高純度のタンパク質の合成系として最適である。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
グルタチオンセファロースによる抽出液の前処理の効果
(1)コムギ胚芽の調製
北海道産チホクコムギ種子または愛媛産チクゴイズミ種子を1分間に100gの割合でミル(Fritsch社製:Rotor Speed Mill pulverisette14型)に添加し、回転数8,000rpmで種子を温和に粉砕した。篩いで発芽能を有する胚芽を含む画分(メッシュサイズ0.7〜1.00mm)を回収した後、四塩化炭素とシクロヘキサンの混合液(容量比=四塩化炭素:シクロヘキサン=2.4:1)を用いた浮選によって、発芽能を有する胚芽を含む浮上画分を回収し、室温乾燥によって有機溶媒を除去した後、室温送風によって混在する種皮等の不純物を除去して粗胚芽画分を得た。
次に、ベルト式色彩選別機BLM−300K(製造元:株式会社安西製作所、発売元:株式会社安西総業)を用いて、次の通り、色彩の違いを利用して粗胚芽画分から胚芽を選別した。この色彩選別機は、粗胚芽画分に光を照射する手段、粗胚芽画分からの反射光及び/又は透過光を検出する手段、検出値と基準値とを比較する手段、基準値より外れたもの又は基準値内のものを選別除去する手段を有する装置である。
色彩選別機のベージュ色のベルト上に粗胚芽画分を1000乃至5000粒/cm2となるように供給し、ベルト上の粗胚芽画分に蛍光灯で光を照射して反射光を検出した。ベルトの搬送速度は、50m/分とした。受光センサーとして、モノクロのCCDラインセンサー(2048画素)を用いた。
まず、胚芽より色の黒い成分(種皮等)を除去するために、胚芽の輝度と種皮の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。次いで、胚乳を選別するために、胚芽の輝度と胚乳の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。吸引は、搬送ベルト上方約1cm位置に設置した吸引ノズル30個(長さ1cm当たり吸引ノズル1個並べたもの)を用いて行った。
この方法を繰り返すことにより胚芽の純度(任意のサンプル1g当たりに含まれる胚芽の重量割合)が98%以上になるまで胚芽を選別した。得られたコムギ胚芽画分を4℃の蒸留水に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄した。次いで、ノニデット(Nonidet:ナカライ・テクトニクス社製)P40の0.5容量%溶液に懸濁し、超音波洗浄機を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄してコムギ胚芽を得た。回収した胚芽湿重量に対して2倍容量の抽出溶媒(80mMHEPES−KOH、pH7.8、200mM酢酸カリウム、10mM酢酸マグネシウム、8mMジチオスレイトール、4mM塩化カルシウム、各0.6mM20種類のL型アミノ酸)を加え、ワーリングブレンダーを用い、5,000〜20,000rpmで30秒間ずつ3回の胚芽の限定破砕を行った。
(2)沈殿助剤を用いたS-30画分の調製
上記得られたホモゲネート(破砕物)に、20%重量の海砂あるいは膨潤させたセファデックスG25粒子を加え、混合した。海砂は、ホモゲネート添加前にあらかじめ以下の処理を行った:水洗→5容の0.1規定のNaOH又はKOH洗浄→水洗→0.1規定のHCl洗浄→水洗→100〜120℃の加熱によりRNase失活処理後、乾燥処理。
海砂を混合したホモゲネートを3万xg、30分で2回遠心、続いて12分間1回の遠心で、半透明な遠心上清を得た(S-30画分)。海砂あるいはセファデックス粒子を遠心前に加えない場合は、沈殿物の上部に不溶性スラリーが存在し、これが混入したS-30画分から調製した抽出液のタンパク質合成活性は低くなった。得られたS-30画分を、溶出溶液(40mM HEPES-KOH、pH7.8、200mM酢酸カリウム、10mM 酢酸マグネシウム、4mM DTT)で平衡化したセファデックスG25にかけ、ゲルろ過し、分子量1000ダルトン以下の低分子物質を排除した胚芽細胞抽出液を調製した。
(3)翻訳鋳型の調製
グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)遺伝子、GST遺伝子とヒトT cell receptor alfa locus (TRA、Accession No. BC063432)のC末端側65アミノ酸をコードするcDNAフラグメントの融合遺伝子(GST−TRA)、GST遺伝子とヒトcaspase 4(CASP4、Accession No.NM_00122512)完全長cDNAの融合遺伝子(GST−CASP4)をそれぞれサブクローニングしたpEU(東洋紡社)を鋳型として転写反応を行なった。すなわち、各pEUを転写反応液(80mM HEPES-KOH pH7.8、16mM酢酸マグネシウム、10mMジチオスレイトール、2mMスペルミジン、プラスミド100ng/ml、Sp6 1U/μl、RNAsin 1U/μl、NTPs 2.5mM)に添加して、26℃、4時間インキュベートして、mRNAを調製した。
(4)グルタチオンセファロースによる抽出液の前処理の効果
(2)で得られたコムギ胚芽細胞抽出液(濃度がOD260nm300)1mlにSMバッファー(30mM HEPES-KOH pH7.8、100mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、4mMジチオスレイトール、0.4mMスペルミジン、16mMクレアチンリン酸、0.3mM 20種類アミノ酸、1.2mM ATP、0.25mM GTP)1mlを加えて希釈し、OD260nmを150に調製した。この細胞抽出液にグルタチオンセファロース4B(Amersham社)200μlを添加し、4℃、一晩、バッチ法にて吸着させた後、細胞抽出液から樹脂を除去した。
この細胞抽出液のOD260nmを測定したところ、OD260nm 141であり、約6%の濃度の減少がみられた。
(5)グルタチオンセファロースを用いた前処理済みの抽出液でのタンパク質合成
(3)で得られたmRNAを翻訳鋳型とし、(4)で得られたグルタチオンセファロース4Bを用いた前処理済みの細胞抽出液(図1中:C)を用い、透析法により翻訳反応を行なった。透析は、透析内液(抽出液:終濃度80OD、転写反応液500μlに相当するmRNA、40ng/μl クレアチンキナーゼ、30mM HEPES-KOH pH7.8、100mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、4mMジチオスレイトール、0.4mMスペルミジン、16mMクレアチンリン酸、0.3mM 20種類アミノ酸、1.2mM ATP、0.25mM GTP)500μl、透析外液(30mM HEPES-KOH pH7.8、100mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、4mMジチオスレイトール、0.4mMスペルミジン、16mMクレアチンリン酸、0.3mM 20種類アミノ酸、1.2mM ATP、0.25mM GTP)5mlを用い、26℃、20時間行なった。コントロールとして前処理を行なわない抽出液(図1中:A)、及びSMバッファーで希釈後、グルタチオンセファロース4Bを添加せずに4℃、overnightで静置した(O/N処理)抽出液(図1中:B)を用いて、同様に透析による翻訳反応を行った。
(6)合成タンパク質の精製
グルタチオンセファロース4FF(Amersham社)100μlをPBS( Phosphate Buffered Saline)で平衡化した。(5)で得られた翻訳反応液(図1中:A,B,C)をPBSで3倍に希釈し、12,000g、15分の遠心により沈殿を除去した。この翻訳反応液を密閉可能なチューブに入れ、平衡化したグルタチオンセファロース4FF100μlを加え、チューブを密閉して約1時間、撹拌した。このサンプルをサンプルリザーバーに移し、5,000g、1分の遠心により、サンプルバイアルに落とした。サンプルバイアルからサンプルを回収し、再びサンプルリザーバーに移し、5,000gの遠心、1分により、サンプルバイアルに落とした。続いて洗浄のために、PBSをサンプルリザーバーに500μl加え、5,000g、1分の遠心を行い、得られたろ液を別のチューブに移した。この洗浄操作を3回繰り返した。次にサンプルリザーバーに溶出バッファー(50mM Tris-HCl、pH 10mM GSH)150μlを加え、5,000gの遠心を行なった。このろ液を精製タンパク質溶液画分として回収した。得られた画分をSDS-PAGEにより解析した。
図1に、3種類の細胞抽出液を用いて合成されたGSTを精製した結果を示した。ここで、図1中のF.Tはグルタチオンセファロース非吸着画分、Washは洗浄画分、Eluateは溶出画分である。A、B、Cいずれの細胞抽出液を用いた場合でも、ほぼ同じ量の精製GSTが得られ、4℃、overnightの処理(O/N 処理)またはグルタチオンセファロースカラムを通すという前処理による合成量の低下は見られなかった。このことから、これらの処理は細胞抽出液のタンパク質合成能を低下させないことがわかった。
またA、Bの細胞抽出液を用いた場合は、最終精製サンプルに分子量3万以下の夾雑タンパク質(GST-likeタンパク質)が含まれていた。このタンパク質は、Cの溶出画分では見られなかった。このことから、この夾雑タンパク質は、細胞抽出液をあらかじめグルタチオンセファロースカラムに通す処理により、効果的に除去されることがわかった。
図2に、B(前処理を行っていないもの)、C(前処理済み)の細胞抽出液を用いて合成したGST−CASP4{図2中:1レーン(B)、2レーン(C)}、GST−TRA{図2中:3レーン(B)、4レーン(C)}を精製した例を示した。さらに、翻訳鋳型をいれない抽出液B、Cにおいても同様な方法で精製した例を示した{図2中:5レーン(B)、6レーン(C)}。いずれのレーンにおいても、前処理によりGST-likeタンパク質が効果的に除去されることが示され、本発明に係る細胞抽出液はGSTをタグとする融合タンパク質の合成に有効であることがわかった。なお、前処理した抽出液Bは、3日間、-80℃にて保存し、再溶解してタンパク質合成に使用された。該保存はタンパク質合成能に影響を与えないことにより、前処理は、抽出液の保存に影響を与えないことが確認できた。
ニッケルキレーティングセファロースによる抽出液の前処理の効果
(1)翻訳鋳型の調製
ヒスチジンタグを付けた緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を有するpEUを鋳型として転写反応を行なった。すなわち、該pEUを転写反応液(80mM HEPES-KOH pH7.8、16mM酢酸マグネシウム、10mMジチオスレイトール、2mMスペルミジン、プラスミド100ng/ml、Sp6 1U/μl、RNAsin 1U/μl、NTPs 2.5mM) に添加して、26℃、4時間インキュベートして、mRNAを調製した。
(2)ニッケルキレーティングセファロースによる抽出液の前処理の効果
実施例1(2)で得られたコムギ胚芽細胞抽出液(濃度がOD260nm300)1mlにSMバッファー(30mM HEPES-KOH pH7.8、100mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、4mMジチオスレイトール、0.4mMスペルミジン、16mMクレアチンリン酸、0.3mM 20種類アミノ酸、1.2mM ATP、0.25mM GTP)1mlを加えて希釈し、OD260nmを150に調製した。この抽出液にNiセファロースハイパフォーマンス(Amersham社)200μlを添加し、4℃、3時間、バッチ法にて吸着させた後、該抽出液から樹脂を除去した。この抽出液のOD260nmを測定したところ、OD260nm 136.4であり、約10%の濃度の減少がみられた。
(3)ニッケルキレーティングセファロースを用いた前処理済みの抽出液でのタンパク質合成
(1)で得られたmRNAを翻訳鋳型とし、(2)で得られたNiセファロースハイパフォーマンスを用いた前処理済みの細胞抽出液(C+)を用い、透析法により翻訳反応を行なった。透析は、透析内液(抽出液:終濃度80OD、転写反応液500μlに相当するmRNA、40ng/μl クレアチンキナーゼ、30mM HEPES-KOH pH7.8、100mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、4mMジチオスレイトール、0.4mMスペルミジン、16mMクレアチンリン酸、0.3mM 20種類アミノ酸、1.2mM ATP、0.25mM GTP)500μl、透析外液(30mM HEPES-KOH pH7.8、100mM酢酸カリウム、2.7mM酢酸マグネシウム、4mMジチオスレイトール、0.4mMスペルミジン、16mMクレアチンリン酸、0.3mM 20種類アミノ酸、1.2mM ATP、0.25mM GTP)5mlを用い、26℃、20時間行なった。コントロールとして前処理を行なわない細胞抽出液をSMバッファーで希釈後、Niセファロースハイパフォーマンスを添加せずに4℃、3時間静置した細胞抽出液(C−)を用いて、同様に透析による翻訳反応を行なった。
(4)合成タンパク質の精製
Niセファロースハイパフォーマンス100μlを平衡化バッファー(20mMリン酸−ナトリウムバッファー pH7.5、300mM塩化ナトリウム、10mM イミダゾール)で平衡化した。前述の各翻訳反応液をPBSで3倍に希釈し、12,000g、15分の遠心により沈殿を除去した。この翻訳反応液を密閉可能なチューブに入れ、平衡化したNiセファロースハイパフォーマンス100μlを加え、チューブを密閉して約1時間、撹拌した。このサンプルをサンプルリザーバーに移し、5,000g、1分の遠心により、サンプルバイアルに落とした。サンプルバイアルからサンプルを回収し、再びサンプルリザーバーに移し、5,000gの遠心、1分により、サンプルバイアルに落とした。続いて洗浄のために、平衡化バッファーをサンプルリザーバーに500μl加え、5,000g、1分の遠心を行い、得られたろ液を別のチューブに移した。この洗浄操作を3回繰り返した。次にサンプルリザーバーに溶出バッファー(20mMリン酸−ナトリウムバッファー pH7.5、300mM塩化ナトリウム、50mM イミダゾールpH 7.5)150μlを加え、5,000g、1分の遠心を行なった。このろ液を精製タンパク質溶液画分として回収した。得られたろ画分について、SDS-PAGEによる解析を行なった。
図3に、翻訳反応液画分(Crude)、Niセファロースハイパフォーマンス非吸着画分(FT)、溶出画分(Eluate)のSDS-PAGEパターンを示した。Niセファロースハイパフォーマンス非吸着画分、翻訳反応液画分では前処理の有無による変化は見られない。Niセファロースハイパフォーマンスによる前処理をしたC+の溶出画分では、GFPのほぼ単一なバンドが確認できた。前処理をしないC−の溶出画分では、GFP以外の細胞抽出液内在性夾雑物によるバンドが複数確認できた。これらの結果から、Niセファロースによる前処理は、精製度を著しく向上させる効果があることが示された。
グルタチオンセファロースによる抽出液の前処理の効果(GSTタンパク質) グルタチオンセファロースによる抽出液の前処理の効果(GST融合タンパク質) ニッケルキレーティングセファロースによる前処理の効果

Claims (31)

  1. 無細胞タンパク質合成系に使用する細胞抽出液の調製方法であって、無細胞タンパク質合成系によって合成されたタンパク質を回収する際に、該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物を除去することを特徴とする細胞抽出液の調製方法。
  2. 合成タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物が、該タンパク質の無細胞タンパク質合成系からの精製工程において実質同一の吸脱着挙動を示す夾雑物である請求項1に記載の調製方法。
  3. 細胞抽出液内在性夾雑物が、分子量14,000ダルトン以上であることを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
  4. 細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と実質同一の吸脱着挙動を示すことを特徴とする請求項2の調製方法。
    1)GSTタグ融合タンパク質、2)ヒスチジンタグ融合タンパク質、3)ストレプ−タグ融合タンパク質
  5. 細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と実質同一の吸脱着挙動を示すことを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
    1)カルモデュリン結合ペプチド融合タンパク質、2)マルトース結合タンパク質融合タンパク質、3)セルロース結合ドメイン融合タンパク質、4)キチン結合ドメイン融合タンパク質、5)FLAGタグ融合タンパク質
  6. 細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と実質同一の吸脱着挙動を示すことを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
    1)プロテインA融合タンパク質、2)プロテインG融合タンパク質
  7. 細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と親和性を示すことを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
    1)グルタチオンSトランスフェラーゼ又はその誘導体を特異的に結合するクロマトグラフィー担体、2)遷移金属をキレート結合したクロマトグラフィー担体、3)ストレプトアビジン若しくはアビジン又はそれらの誘導体を結合したクロマトグラフィー担体
  8. 遷移金属が、ニッケル又はコバルトである請求項7に記載の調製方法。
  9. 遷移金属が、亜鉛、銅、マンガンのいずれか1から選ばれる請求項7に記載の調製方法。
  10. 細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と親和性を示すことを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
    1)カルモデュリン結合担体、2)アミロース又は架橋アミロース結合担体、3)セルロース結合担体、4)キチン結合担体、5)FLAGタグに対する抗体を結合した担体
  11. 細胞抽出液内在性夾雑物が、免疫グロブリンのFcフラグメントを結合したクロマトグラフィー担体と親和性を示すことを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
  12. 細胞抽出液の原料が、混入する胚乳成分および低分子タンパク質合成阻害物質が実質的に除去されたコムギ胚芽抽出物である請求項1〜11に記載のいずれか1の調製方法。
  13. 細胞抽出液内在性夾雑物の除去が、細胞抽出液をクロマトグラフィー担体に接触させることである請求項1〜12に記載のいずれか1の調製方法。
  14. 細胞抽出液とクロマトグラフィー担体との接触が、以下から選ばれる少なくとも一の手段である請求項13に記載の調製方法。
    1)細胞抽出液にクロマトグラフィー担体を添加し、一定時間接触させた後、担体を除去する(バッチ法)手段、2)クロマトグラフィー担体を充填したカラムに細胞抽出液を通す手段
  15. クロマトグラフィー担体が、アフィニティクロマトグラフィー担体である請求項13又は14に記載の調製方法。
  16. アフィニティクロマトグラフィー担体が、以下のいずれか1である請求項15に記載の調製方法。
    1)グルタチオンSトランスフェラーゼ又はその誘導体を特異的に結合するクロマトグラフィー担体、2)遷移金属をキレート結合したクロマトグラフィー担体、3)ストレプトアビジン若しくはアビジン又はそれらの誘導体を結合したクロマトグラフィー担体
  17. 遷移金属が、ニッケル又はコバルトである請求項16に記載の調製方法。
  18. 遷移金属が、亜鉛、銅、マンガンのいずれか1から選ばれる請求項16に記載の調製方法。
  19. アフィニティクロマトグラフィー担体が、以下のいずれか1である請求項15に記載の調製方法。
    1)カルモデュリン結合担体、2)アミロース又は架橋したアミロース結合担体、3)セルロース結合担体、4)キチン結合担体、5)FLAGタグに対する抗体を結合した担体
  20. アフィニティクロマトグラフィー担体が、免疫グロブリンのFcフラグメントを結合した担体である請求項15に記載の調製方法。
  21. クロマトグラフィー担体が、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトのいずれか1から選ばれる請求項13〜20のいずれか1に記載の調製方法。
  22. 請求項1〜21のいずれか1に記載の調製方法によって調製された無細胞タンパク質合成系に使用する細胞抽出液。
  23. 無細胞タンパク質合成系に使用する細胞抽出液であって、無細胞タンパク質合成系によって合成されたタンパク質を回収する際に該タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物が、実質的に除去されていることを特徴とする細胞抽出液。
  24. 合成タンパク質と同一あるいは類似の挙動を示す(潜在的に競合する)可能性のある細胞抽出液内在性夾雑物が、該タンパク質の無細胞タンパク質合成系からの精製工程において実質同一の吸脱着挙動を示す夾雑物である請求項23に記載の細胞抽出液。
  25. 細胞抽出液内在性夾雑物が、分子量14,000ダルトン以上であることを特徴とする請求項24に記載の細胞抽出液。
  26. 細胞抽出液内在性夾雑物において、以下のいずれか1と実質同一の吸脱着挙動を示すことを特徴とする請求項24に記載の細胞抽出液。
    1)GSTタグ融合タンパク質、2)ヒスチジンタグ融合タンパク質
  27. 細胞抽出液内在性夾雑物が、以下のいずれか1と親和性を示すことを特徴とする請求項24の細胞抽出液。
    1)グルタチオンSトランスフェラーゼ又はその誘導体を特異的に結合するクロマトグラフィー担体、2)ニッケル又はコバルトをキレート結合したクロマトグラフィー担体
  28. 細胞抽出液の原料が、混入する胚乳成分および低分子タンパク質合成阻害物質が実質的に除去された植物種子の胚芽抽出物である請求項23〜27に記載のいずれか1の細胞抽出液。
  29. 植物種子が、コムギ、オオムギ、イネ、コーンのいずれか1から選ばれる請求項28に記載の細胞抽出液。
  30. 請求項22〜29に記載のいずれか1の細胞抽出液を用いたタンパク質合成方法。
  31. 請求項22〜29に記載のいずれか1の細胞抽出液を含む無細胞タンパク質合成系に使用する試薬キット。
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