JP2007320269A - 耐食性に優れたクロメートフリー表面処理Al−Zn系合金めっき鋼板及びその製造方法 - Google Patents

耐食性に優れたクロメートフリー表面処理Al−Zn系合金めっき鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐食性、耐水密着性に優れたAl−Zn合金めっき鋼板のクロメートフリー表面処理材を得る。
【解決手段】Al−Zn系合金めっき鋼板の表面に4価のバナジウム化合物(A)とリン酸又はリン酸系化合物(B)と水系有機樹脂(C)とを主成分とし、水系有機樹脂(C)が、双官能型シラン化合物と、(メタ)アクリル酸と、炭素数1〜6のアルキル鎖を持つ(メタ)アクリル酸エステルと、前記各成分と共重合可能なビニルモノマーとから得られる共重合樹脂である表面処理皮膜を有する。処理剤中に双官能型シラン化合物を含有することにより処理液安定性が向上し、表面処理皮膜のバリア性とめっき皮膜との密着性が強化されるため、調製してから経時した処理液で処理したものであっても優れた耐食性と耐水密着性が得られる。
【選択図】なし

Description

本発明は、建材や家電分野の用途において主として無塗装で用いられるAl−Zn系合金めっき鋼板の表面処理材、特に、所謂55%Al−Zn系合金めっき鋼板に代表される高Al−Zn系合金めっき鋼板に好適な、皮膜中にクロムを含まないクロメートフリー表面処理材に関するものである。
家電、建材、自動車用鋼板には、従来から亜鉛系めっき鋼板の表面に耐食性を向上させる目的で、クロム酸、重クロム酸又はその塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理が施された鋼板が幅広く用いられている。クロメート皮膜は主として難溶性のクロム水酸化物により耐食性や密着性等を発現し、皮膜形成方法としては電解処理を伴わない塗布法や電解処理法等が採られる。
所謂55%Al−Zn系合金めっき鋼板に代表される高Al−Zn系合金めっき鋼板は、めっき外観が美麗で且つ耐食性にも優れていることから、建材用途として屋根材や外壁材等に、また家電用途として例えば冷蔵庫の裏板等に、いずれも無塗装のままで用いられている。これらの用途では、めっき鋼板に長期にわたる防食性が必要となり、湿潤環境に曝されても優れた密着性、耐食性を有することが求められる。また、建材用途の場合には、めっき鋼板がロールフォーミングにより成形されるため、めっきがロールにピックアップしないこと(すなわち、ロールフォーミング性が良好であること)が求められ、また家電用途の場合には、プレス成形後の外観が金型との摺動により黒化しない特性が必要である。さらに、屋根材に適用される場合には、ペフと呼ばれる断熱材と貼り合わせた場合の密着性、特に湿気等により湿った環境で濡れた状態での密着性が求められる。
従来、このような用途に対しては、有機樹脂と6価クロムを含むクロム化合物を含有する表面処理層をめっき表面に形成することにより対応してきた(例えば、特許文献1〜3)。
特公平1−53353号公報 特公平4−2672号公報 特公平6−146001号公報
クロメート処理は公害規制物質である6価クロムを使用しているが、この6価クロムはいずれの皮膜形成方法においてもクローズドシステムで処理されること、さらに塗布法ではその上層に形成する有機皮膜によるシーリング作用、電解法ではカソード電解による6価クロムの3価クロムへの還元反応により、クロメート皮膜中からのクロム溶出もほぼゼロにできることから、実質的には6価クロムによって人体や環境が汚染されることはない。しかしながら、近年の地球環境問題に対する関心の高まりとともに、従来の作業環境や排水処理を重視した法規制だけではなく、環境負荷や環境調和を重視した法規制もはじまりつつある。また、製造者を環境貢献度で評価する時代背景もあり、6価クロムの使用を削減しようとする動きが高まりつつある。
このような背景の下で、6価クロムを用いない亜鉛系めっき鋼板の耐食性向上技術としてクロメートフリー技術が数多く提案されている。クロメートフリー皮膜では、クロメート皮膜と同様に難溶性化合物による皮膜形成が性能発現にとって不可欠であり、例えば以下に示すような、バナジウムを含有した処理液を塗布乾燥して化成皮膜を形成する方法が提案されている。
特許文献4〜6には、2〜4価のバナジウム化合物と、Zr、Ti、Mo、W、Mn、Ceの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物と、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂と、リン酸やフッ化水素酸等のエッチング剤を含有する処理剤で化成皮膜を形成する方法が提案されている。また、特許文献7〜10には、4価のバナジウム化合物と、リン酸化合物と、シラン化合物と、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂を含有する処理剤で化成皮膜を形成する方法が提案されている。
特開2001−181860号公報 特開2002−30460号公報 特開2004−183015号公報 特開2005−48199号公報 特開2005−290436号公報 特開2005−290534号公報 特開2005−290535号公報
しかし、特許文献4〜6に示されている方法は、化成皮膜中に可溶性の2、3価のバナジウム化合物が不可避的に混在してしまい、十分な耐食性が得られない。また、湿潤環境下において2、3価のバナジウムが容易に溶出して化成皮膜が着色するため、外観品質が極めて劣ったものとなり、使用に堪え得ない。
また、特許文献7に示されている方法は、化成皮膜中に2、3価のバナジウム化合物を含んでいないため、上記のような問題は生じない。特に、エッチング剤であるリン酸化合物を含有させることにより、4価のバナジウムの難溶化を促進し、極めて高い外観品質が得られる。しかし、製造後に鋼板を積み重ねて保管(スタック状態)する際、温度や湿度変化によって鋼板間に結露水が溜まることがあり、これにより化成皮膜中のエッチング剤が溶出してめっき皮膜を変質させ、外観が白化する現象が生じることがある。
一方、特許文献8〜10に示されている方法は、エポキシ基又は/及びアミノ基を有するシラン化合物を含有することにより、上記スタック状態での保管でも優れた外観品質(耐水性)が得られる。さらに、特定の樹脂と組み合わせることにより、特許文献9では湿潤環境下での皮膜密着性(耐水密着性)が、特許文献8では湿潤環境下での断熱材密着性(耐水ペフ密着性)が、それぞれ付与される。上記シラン化合物中のアルコキシシランは処理液中で加水分解してシラノール(Si−OH)基となり、めっき皮膜上に塗布すると水素結合によりめっき皮膜と水素結合する。さらに、皮膜形成時には、乾燥により脱水縮合反応が起こり、化学結合して強固な密着性が得られる。このため、たとえ湿潤環境に曝されても優れた耐水性、耐水密着性、耐水ペフ密着性が得られる。しかし、上記シラン化合物から得られたシラノール基は不安定であるため、処理液安定性に乏しい欠点がある。すなわち、処理液中のシラノール基は経時により自己縮合反応を起してシロキサン結合が生じるため、調製してまもない処理液から得られた化成皮膜では良好な耐食性と耐水性、耐水密着性、耐水ペフ密着性を示したとしても、数日間経時した処理液では、ゲル化が生じて塗布困難となったり、たとえ塗布できたとしても、上記性能が著しく低下してしまう。このため、比較的高価なシラン化合物を含有するにも関わらず、処理液の再利用化ができず、コストアップに繋がってしまう。
したがって本発明の目的は、調製してから経時した処理液で処理したものであっても優れた耐食性と耐水密着性が得られるAl−Zn合金めっき鋼板のクロメートフリー表面処理材及びその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明の特徴は以下のとおりである。
[1]Alを25〜75質量%含有するAl−Zn系合金めっき皮膜を有するAl−Zn系合金めっき鋼板の前記めっき皮膜表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)と、リン酸又は/及びリン酸系化合物(B)と、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)とを主成分とし、前記有機樹脂(C)が、双官能型シラン化合物(i)と、アクリル酸又は/及びメタクリル酸(ii)と、炭素数1〜6のアルキル鎖を持つアクリル酸エステル又は/及びメタクリル酸エステル(iii)と、前記成分(i)〜(iii)と共重合可能なビニルモノマー(iv)とから得られる共重合樹脂であり、前記バナジウム化合物(A)の金属V換算での付着量が1〜100mg/m、前記有機樹脂(C)の付着量が0.5〜5g/mである表面処理皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れたクロメートフリー表面処理Al−Zn系合金めっき鋼板。
[2]Alを25〜75質量%含有するAl−Zn系合金めっき皮膜を有するAl−Zn系合金めっき鋼板の前記めっき皮膜表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)と、リン酸又は/及びリン酸系化合物(B)と、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)とを主成分とし、前記有機樹脂(C)が、双官能型シラン化合物(i)と、アクリル酸又は/及びメタクリル酸(ii)と、炭素数1〜6のアルキル鎖を持つアクリル酸エステル又は/及びメタクリル酸エステル(iii)と、前記成分(i)〜(iii)と共重合可能なビニルモノマー(iv)とから得られる共重合樹脂である処理液を塗布した後、水洗することなく乾燥することを特徴とする、耐食性に優れたクロメートフリー表面処理Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
[3]Alを25〜75質量%含有するAl−Zn系合金めっき皮膜を有するAl−Zn系合金めっき鋼板の前記めっき皮膜表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)とリン酸又は/及びリン酸系化合物(B)とを主成分とする処理液を塗布した後、水洗することなく乾燥し、さらにその上部に、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)を主成分とし、該有機樹脂(C)が、双官能型シラン化合物(i)と、アクリル酸又は/及びメタクリル酸(ii)と、炭素数1〜6のアルキル鎖を持つアクリル酸エステル又は/及びメタクリル酸エステル(iii)と、前記成分(i)〜(iii)と共重合可能なビニルモノマー(iv)とから得られる共重合樹脂である処理液を塗布した後、水洗することなく乾燥することを特徴とする、耐食性に優れたクロメートフリー表面処理Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
本発明によるAl−Zn合金めっき鋼板のクロメートフリー表面処理材は、処理剤中に双官能型シラン化合物を含有することにより処理液安定性が向上し、表面処理皮膜のバリア性とめっき皮膜との密着性が強化されるため、調製してから経時した処理液で処理したものであっても優れた耐食性と耐水密着性が得られる。
本発明によれば、Alを25〜75質量%含有するAl−Zn系合金めっき皮膜を有するAl−Zn系合金めっき鋼板のめっき皮膜表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物とリン酸又は/及びリン酸化合物と特定の水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂を含有する表面処理皮膜を形成させることにより、皮膜自体のバリア性とめっき皮膜との密着性を強化することができ、優れた耐食性と耐水密着性を発揮するクロメートフリー皮膜を形成することができる。
本発明のクロメートフリー表面処理Al−Zn系合金めっき鋼板のベースとなるめっき鋼板は、めっき皮膜中にAlが25〜75mass%含まれるAl−Zn系合金めっき鋼板であり、所謂55%Al−Zn系合金めっき鋼板が最も代表的なものとして知られている。通常、この種のめっき皮膜中には、SiがAl量の0.5mass%以上含まれている。また、所謂55%Al−Zn系合金めっき鋼板とは、通常、Al−Zn系合金めっき皮膜中にAlが50〜60mass%程度含まれるAl−Zn系合金めっき鋼板(以下の説明において、「高Al−Zn系合金めっき鋼板」という場合、上記Al含有量のAl−Zn合金めっき鋼板を指すものとする)を指し、そのめっき皮膜中には通常Siが1〜3mass%程度含まれている。
本発明において、めっき皮膜中のAl含有量が25〜75mass%のAl−Zn系合金めっき鋼板を対象とするのは、このAl含有量の範囲において、特に優れた耐食性(耐赤錆性)が得られるためである。但し、このめっき鋼板には、めっき皮膜中にAlを多く含むことに由来する問題として、Alに腐食が生じると黒錆が発生し、赤錆に対しては防錆性を保つものの外観品質が著しく損なわれるという難点がある。また、このめっき鋼板を無塗装で用いる場合、めっきままの外観であることが好まれるためにスキンパスによる表面の著しい平滑化が行われず、このためめっき表面は微細な凹凸が形成されたままの状態になっている。この状態で例えばロールフォーミング加工を受けると、ロールとの接触によってめっき表面にかじりが生じ、ロール損傷の原因となるほか、成形後の外観が劣るという品質面での問題がある。したがって、これらを解消するために、めっき表面にさらに皮膜を形成することが必要となる。
以下に述べるように、本発明による特性改善効果は、めっき皮膜中のAl含有量が25〜75mass%のAl−Zn系合金めっき鋼板において顕著に得られるものであるが、そのなかでも上記高Al−Zn系合金めっき鋼板において特に顕著な特性改善効果が得られる。
次に、Al−Zn系合金めっき皮膜の表面に形成する表面処理皮膜について説明する。
本発明において、Al−Zn系合金めっき皮膜の表面に形成する表面処理皮膜は、クロム化合物を含まず、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)と、リン酸又は/及びリン酸系化合物(B)と、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)とを主成分とするものである。なお、この表面処理皮膜には、上記成分(A)〜(C)を主成分とする処理液を塗布して乾燥させて得られる皮膜のほか、上記成分(A)及び(B)を主成分とする処理液を塗布して乾燥させた後、その上に上記成分(C)を主成分とする処理液を塗布して乾燥させて得られる皮膜も含まれる。
本発明が対象とするAl−Zn系合金めっき鋼板(特に、高Al−Zn系合金めっき鋼板)の耐食性を向上させるためには、Znめっき鋼板、低Al−Zn系合金めっき鋼板(例えば、5%Al−Zn系合金めっき鋼板)、Al系めっき鋼板とは異なり、めっき皮膜中のAl、Zn双方の耐食性を向上させることが必要となる。無機化合物の防食効果について検討を行った結果、本発明が対象とするようなAl−Zn系合金めっき、とりわけ高Al−Zn系合金めっきに対しては、周期表5Aに属する元素(V,Nb,Ta)の化合物に顕著な防食効果があることが判った。これら特定元素の化合物による顕著な防食効果は、本発明が対象とするAl−Zn系合金めっき(特に、高Al−Zn系合金めっき)に特有のものであり、Znめっき等の他めっき種においては認められない効果である。すなわち、Znめっき等の他めっき種においては、上記化合物と周期表5Aに属さない他の元素の化合物の効果の違いは認められない。
以上の理由から、表面処理皮膜中には周期表5Aに属する元素の化合物を用いることが好ましいが、そのなかでもTa系化合物とNb系化合物は、V系化合物と較べて非常に高価であるため、V系化合物が実用性(防食効果及びコスト)の面から最も有望である。そこで、このバナジウム化合物に着目した検討を行った結果、バナジウム化合物の中でも、バナジウムの価数によって得られる耐食性に著しい違いがあることが判明した。具体的には、5価のバナジウム化合物(例えば、バナジン酸アンモン、バナジン酸ナトリウム等)では大きな耐食性向上効果は認められないのに対して、4価のバナジウム化合物(例えば、硫酸酸化バナジウム、水溶液中で5価のバナジウム化合物を還元したもの)では耐食性が顕著に向上することが判明した。また、4価のバナジウム化合物は、5価のバナジウム化合物に較べて溶解性が低く、このため耐水性に優れた皮膜を形成できる特徴を有している。このため、5価のバナジウム化合物を含む表面処理皮膜は水に濡れることによりバナジウムが溶解し、外観品質が著しく低下するが、4価のバナジウム化合物を含む表面処理皮膜は耐水性が向上し、外観品質の向上効果が認められる。以上の理由から本発明では、表面処理皮膜中に4価の価数を有するバナジウム化合物(A)を添加する。
4価の価数を有するバナジウム化合物としては、バナジウムの酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸物、炭酸物、ハロゲン化物、窒化物、フッ化物、炭化物、シアン化物(チオシアン化物)及びこれらの塩などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。具体的には、硫酸酸化バナジウム水溶液中で5価のバナジウム化合物を還元したバナジン酸還元生成物等が挙げられる。
表面処理皮膜中にリン酸又は/及びリン酸系化合物(B)を添加する理由は、リン酸又は/及びリン酸系化合物の添加により、4価のバナジウム化合物による防食効果をさらに飛躍的に高めることができるからである。
リン酸及びリン酸系化合物としては、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸などのほか、リン酸とMg、Zn、Ni、Co等の1種以上の金属との金属塩、その他のリン酸化合物(いずれも処理液中に溶解可能なもの)の1種又は2種以上を用いることができる。
4価のバナジウム化合物(A)とともにリン酸又は/及びリン酸系化合物(B)を添加することによって耐食性が飛躍的に向上する理由は必ずしも明らかではないが、リン酸又は/及びリン酸系化合物が4価のバナジウム化合物とめっき皮膜との反応性を高める作用をすること、4価のバナジウム化合物とリン酸又は/及びリン酸系化合物の複合皮膜が形成されること、等の理由が考えられる。また、4価のバナジウム化合物とリン酸又は/及びリン酸系化合物を複合添加した皮膜では、上記のような耐食性の向上効果が得られるだけでなく、皮膜の耐溶解性が向上する結果、皮膜の外観品質(着色防止)及び耐黒変性も向上し、さらにペフ密着性も向上する。
表面処理皮膜中に水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)を添加する理由は、主に耐食性と耐水密着性を向上させる点にある。
皮膜中に有機樹脂を含むことによりロールフォーミングやプレス加工におけるロール、金型とのかじりや摺動傷を防止することが可能となる。また、本表面処理材は屋外で使用されることが多いため、有機樹脂には優れた耐候性を必要とされる。このような観点から、有機樹脂としては脂肪族ポリエステル又は脂肪族ポリカーボネートを主骨格とするウレタン系樹脂或いはアクリル系樹脂が有望である。特にウレタン系樹脂は、アクリル系樹脂よりも優れた耐食性等の特性を有しているが、高価な樹脂であるため汎用的に用いるには支障がある。したがって、アクリル系樹脂の耐食性等の特性をウレタン系樹脂と同等のレベルまで高め、そのようなアクリル系樹脂を用いることが好ましい。そこで、アクリル系樹脂の特性を高めることを目的としてモノマー組成の検討を行った結果、双官能型シラン化合物(i)と、アクリル酸又は/及びメタクリル酸(ii)と、炭素数1〜6のアルキル鎖を持つアクリル酸エステル又は/及びメタクリル酸エステル(iii)と、前記成分(i)〜(iii)と共重合可能なビニルモノマー(iv)とから得られる、すなわち、これら成分を共重合して得られる共重合アクリル系樹脂を用いることにより、ウレタン系樹脂と同等以上の優れた特性が得られることを見出した。
シラン化合物は加水分解してシラノール(Si−OH)基を生じるアルコキシシラン(Si(OR)、Rはメチル基、エチル基)を有する有機アルキル化合物である。アルキル基の一端にSiに結合した3個のアルコキシ基があり、他端にアミノ基、グリシジル基、ビニル基、メルカプト基などの有機官能基を有すものを単官能型シラン化合物という。一方、有機官能基がなく、アルキル基の両端にアルコキシシランを有するもの(中間にアミノ基やS結合などを有するものを含む)を双官能型シラン化合物という。有機シラン化合物は水に溶解し、そのアルコキシシランは加水分解してシラノール(Si−OH)基となる。この溶液を高Al−Zn系合金めっき鋼板表面に塗布し加熱すると、シラノール基がめっき金属や皮膜中の金属成分であるバナジウム表面のOH基と水素結合して密着性を発現するとともに、脱水縮合反応により高分子化してポリシロキサン皮膜を形成し、バリア性も発現する。そして、双官能型シラン化合物は1分子当たりに含まれるアルコキシシランの数が単官能型シラン化合物に比べ2倍であるため、極めて効果的に上記作用を発揮できる。また、有機樹脂中では架橋剤としても作用し、表面処理皮膜の強靱化にも寄与する。これらの作用の結果、優れた耐食性と耐水密着性を発揮できる。
双官能型シラン化合物(i)としては、bis-1,2-[triethoxysilyl]ethane(以下、「BTSE」という)、bis-1,2-[triethoxysilylpropyl]amine(以下、「BTSPA」という)、bis-1,2-[triethoxysilylpropyl]tetrasulfide(以下、「BTSPS」という)等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。但し、これらの双官能型シラン化合物の中でも、処理液安定性の観点からは特にBTSEが好ましい。
双官能型シラン化合物(i)の配合量は、共重合樹脂の固形分100質量部に対する固形分の割合で0.1〜30質量部とすることが望ましい。双官能型シラン化合物(i)の配合量が、共重合樹脂の固形分100質量部に対する固形分の割合で0.1質量部未満では、特性の向上効果が十分に認められず、一方、30質量部を超えると耐食性、耐水密着性が低下する傾向がある。
前記アクリル酸又は/及びメタクリル酸(ii)の配合量は、共重合樹脂の固形分100質量部に対する固形分の割合で0.5〜10質量部、好ましくは0.5〜7質量部、より好ましくは1〜4質量部とすることが望ましい。アクリル酸又は/及びメタクリル酸の固形分の割合が0.5質量部未満ではエマルジョンの安定性及び金属表面との密着性が低下する傾向があり、一方、10質量部を超えると、得られる皮膜の親水性が強くなり耐水密着性が低下し、加工性も劣る傾向がある。
前記炭素数1〜6のアルキル鎖を持つアクリル酸エステル又は/及びメタクリル酸エステル(iii)としては、メチルメタクリレート及びその異性体、(メタ)アクリル酸−n−プロピル及びその異性体、(メタ)アクリル酸−n−ブチル及びその異性体、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル及びその異性体、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル及びその異性体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。この(メタ)アクリル酸エステル(iii)は皮膜の加工性向上に寄与する。アルキル鎖が7以上の(メタ)アクリル酸エステルから得られる有機樹脂を含む皮膜は、加工性が劣るために加工時の金型との摺動により皮膜が剥離しやすい。したがって、(メタ)アクリル酸エステルは炭素数1〜6、好ましくは3〜5のアルキル鎖を持つものを用いる必要がある。
前記アクリル酸エステル又は/及びメタクリル酸エステル(iii)の配合量は、共重合樹脂の固形分100質量部に対する固形分の割合で20〜95質量部とすることが望ましい。(メタ)アクリル酸エステルの固形分の割合が20質量部未満或いは95質量部を超えると加工性が劣る傾向がある。
前記成分(i)〜(iii)と共重合可能なビニルモノマー(iv)としては、例えば、−OH基を有する2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、エポキシ基を有するグリシジルメタクリレート、アミノ基を有するアクリルアミド、ニトリル基を有するアクリルニトリル、或いは高疎水性を示すスチレン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。−OH基、エポキシ基、アミド基等の官能基を有するビニルモノマーを重合させることにより、皮膜の密着性や耐食性が向上する。その一方で、これらの官能基は親水性が高いため、鋼板表面にペフと称す断熱材を貼り合わせた場合、その耐水密着性を低下させる傾向がある。その場合、樹脂の親水性を調整する目的で疎水性のスチレンを重合させることにより耐水密着性を向上させることが可能となる。本発明においては、これらビニルモノマーの組成を制限するものではないが、通常、−OH基、エポキシ基を有するビニルモノマーでは0〜20%、アミド基を有するビニルモノマーでは0〜30%、スチレンは0〜50%程度の重合が可能である。
表面処理皮膜は、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)と、リン酸又は/及びリン酸系化合物(B)と、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)とを主成分とするものであるが、それ以外に、耐食性のさらなる向上等を目的として適宜な添加成分を添加してもよい。例えば、コロイダルシリカ及びその派生化合物、リン酸塩系防錆剤及びその複合化化合物、Zn,Mg,Co,Ni,Fe,Sr,Y,Nb,Ta,Ca,Ba系の金属化合物等を添加することが可能である。また、Ta系化合物、Nb系化合物、4価のバナジウム化合物以外のバナジウム化合物を添加してもよい。
次に、表面処理皮膜の付着量について述べると、まず、表面処理皮膜中の有機樹脂(C)の付着量は0.5〜5g/mとする。有機樹脂の付着量が0.5g/m未満では耐食性、加工性が著しく低下する。一方、有機樹脂を5g/mを超えて付着させると、耐水密着性が低下するとともに、ロールフォーミングやプレス加工の際のロールや金型に皮膜が付着しやすくなる。また、以上の観点から有機樹脂(C)の付着量のより好ましい範囲は1.0〜4.5g/m、さらに望ましくは1.5〜4.0g/mである。
また、バナジウム化合物(A)の付着量は、金属V換算で1〜100mg/mとする。バナジウム化合物の付着量が1mg/m未満では耐食性向上効果が認められず、一方、100mg/mを超えて付着させても耐食性向上効果が飽和し、逆に、皮膜の耐水密着性、加工性が低下する傾向が認められる。また、以上の観点からバナジウム化合物(A)の金属V換算での付着量のより好ましい範囲は3〜50mg/m、さらに望ましくは5〜40mg/mである。
また、リン酸又は/及びリン酸系化合物(B)の付着量は、PO換算で5〜200mg/mとすることが好ましい。付着量が5mg/m未満では耐食性やペフ密着性の向上効果が十分ではなく、一方、過剰に添加すると皮膜の耐水密着性が低下し、水との接触により皮膜が白化する傾向がある。但し、この白化に関しては樹脂の物性によっても大きく影響されるため、これらの観点から添加量を選択することができる。
さらに、Zn、Ni、Mg等のリン酸塩を用いる場合は、処理液に溶解することが必要であり、また、過剰に多いと処理液安定性が低下するため、適正範囲に収めることが必要である。
次に、本発明の表面処理材の製造方法について説明する。
本発明の第1の製造方法では、上述したようなAl−Zn系合金めっき鋼板のめっき皮膜表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)と、リン酸又は/及びリン酸系化合物(B)と、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)とを主成分とする処理液(上記成分(A)〜(C)を水に溶解又は/及び分散させた処理液)を塗布した後、水洗することなく乾燥する。
また、本発明の第2の製造方法では、上述したようなAl−Zn系合金めっき鋼板のめっき皮膜表面に、まず、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)とリン酸又は/及びリン酸系化合物(B)とを主成分とする処理液(上記成分(A)及び(B)を水に溶解又は/及び分散させた処理液)を塗布した後、水洗することなく乾燥し、さらにその上部に、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)を主成分する処理液(有機樹脂(C)を水に溶解又は/及び分散させた処理液)を塗布した後、水洗することなく乾燥する。
この2つの製造方法のうち、耐食性の観点からは第2の製造方法の方が優れる傾向を示すが、設備的負荷の観点では第1の製造方法が有利である。但し、いずれにおいても必要レベルの品質が得られる。
また、上記第2の製造方法においては、有機樹脂(C)を主成分とする処理液中に、バナジウム化合物(A)とリン酸又は/及びリン酸系化合物(B)のうちの1種以上を添加することも可能である。
処理液は、水に対して各成分(A)〜(C)を添加することにより調整される。各成分(A)〜(C)の種類、各成分を添加する際の化合物の形態や添加方法は先に述べたとおりである。また、処理液には、上記成分(A)〜(C)以外に、必要に応じて先に述べた添加成分を添加することができる。
処理液の塗布方法は、例えば、スプレー+ロール絞り、ロールコーターなど任意であり、また、塗布後の乾燥方式についても、例えば、熱風方式、誘導加熱方式、電気炉方式など任意である。
処理液の乾燥温度は60〜250℃程度とすることが好ましい。乾燥温度が60℃未満では、皮膜形成が不十分となり耐食性等に劣る皮膜となる。一方、250℃を超える板温で乾燥させても耐食性等の品質を高める効果が得られず、逆に低下する場合がある。これは、特に有機樹脂の耐熱限界を超えているために皮膜が熱により損傷されるためであると考えられる。
表1及び表2に示す4価のバナジウム化合物(硫酸酸化バナジウム(IV))とリン酸(オルトリン酸)と有機樹脂が添加された処理液を、調製直後と調製して1ヶ月後にそれぞれ55%Al−Zn系合金めっき鋼板に塗布し、板温120℃で乾燥したものを供試材とした。
処理液に配合した有機樹脂は、シラン化合物(i):1〜15部、(メタ)アクリル酸(ii)としてアクリル酸:5部、(メタ)アクリル酸エステル(iii)としてメチルメタクリレート、ブチルアクリレート:50〜64部、ビニルモノマー(iv)として2−ヒドロキシエチルメタクリレート、スチレン、2−エチルヘキシルアクリレート:30部で合成した。シラン化合物(i)としては下記A〜Gの中から選ばれる1種を用いた。これらのうちE〜Gが双官能型シラン化合物である。
A:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
B:3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
C:3−アミノプロピルトリメトキシシラン
D:3−アミノプロピルトリエトキシシラン
E:BTSE
F:BTSPA
G:BTSPS
得られた供試材について、以下の試験条件で耐食性と耐水密着性を評価した。その結果を表1及び表2に併せて示す。
(1)耐食性
塩水噴霧試験(SST:JIS Z
2371)を240時間実施し、白錆の発生状況を下記基準にて評価した。
○:白錆(黒錆)発生面積率10%未満
△:白錆(黒錆)発生面積率10%以上、50%未満
×:白錆(黒錆)発生面積率50%以上
(2)耐水密着性
幅30mmのサンプルを20時間水中に浸漬した後、ビード先端5mmR、ビード高さ6mm、押付け荷重150kgfで引抜き試験を行い、さらに摺動部をテープ剥離した状態のものについて、下記基準により目視で評価した。
○:異常なし(テープに付着物ごくわずか)
△:剥離あり(サンプル表面に明らかなテープ剥離跡あり)
×:ドロービードを行った時点で明らかな剥離あり
Figure 2007320269
Figure 2007320269

Claims (3)

  1. Alを25〜75質量%含有するAl−Zn系合金めっき皮膜を有するAl−Zn系合金めっき鋼板の前記めっき皮膜表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)と、リン酸又は/及びリン酸系化合物(B)と、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)とを主成分とし、前記有機樹脂(C)が、双官能型シラン化合物(i)と、アクリル酸又は/及びメタクリル酸(ii)と、炭素数1〜6のアルキル鎖を持つアクリル酸エステル又は/及びメタクリル酸エステル(iii)と、前記成分(i)〜(iii)と共重合可能なビニルモノマー(iv)とから得られる共重合樹脂であり、前記バナジウム化合物(A)の金属V換算での付着量が1〜100mg/m、前記有機樹脂(C)の付着量が0.5〜5g/mである表面処理皮膜を有することを特徴とする耐食性に優れたクロメートフリー表面処理Al−Zn系合金めっき鋼板。
  2. Alを25〜75質量%含有するAl−Zn系合金めっき皮膜を有するAl−Zn系合金めっき鋼板の前記めっき皮膜表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)と、リン酸又は/及びリン酸系化合物(B)と、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)とを主成分とし、前記有機樹脂(C)が、双官能型シラン化合物(i)と、アクリル酸又は/及びメタクリル酸(ii)と、炭素数1〜6のアルキル鎖を持つアクリル酸エステル又は/及びメタクリル酸エステル(iii)と、前記成分(i)〜(iii)と共重合可能なビニルモノマー(iv)とから得られる共重合樹脂である処理液を塗布した後、水洗することなく乾燥することを特徴とする、耐食性に優れたクロメートフリー表面処理Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
  3. Alを25〜75質量%含有するAl−Zn系合金めっき皮膜を有するAl−Zn系合金めっき鋼板の前記めっき皮膜表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物(A)とリン酸又は/及びリン酸系化合物(B)とを主成分とする処理液を塗布した後、水洗することなく乾燥し、さらにその上部に、水溶性有機樹脂又は/及び水分散性有機樹脂からなる有機樹脂(C)を主成分とし、該有機樹脂(C)が、双官能型シラン化合物(i)と、アクリル酸又は/及びメタクリル酸(ii)と、炭素数1〜6のアルキル鎖を持つアクリル酸エステル又は/及びメタクリル酸エステル(iii)と、前記成分(i)〜(iii)と共重合可能なビニルモノマー(iv)とから得られる共重合樹脂である処理液を塗布した後、水洗することなく乾燥することを特徴とする、耐食性に優れたクロメートフリー表面処理Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
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