JP2007309661A - クロマトグラフ質量分析装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】
複数のピークが近接するプロファイルスペクトルから、質量数を補正した正確なセントロイドスペクトルを得る。
【解決手段】
質量分析装置によって得られるプロファイルスペクトルについて、近接のピークとの重なりが発生し、その重なり度合いが異なる複数のピークを有する試料を測定して
複数のピークについて重なり度合いと質量数のずれの関係から補正関数を作成し、プロファイルスペクトルをセントロイドスペクトルに変換する際にセントロイドピークを前記補正関数により補正する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、クロマトグラフ質量分析装置に関し、さらに詳細にはセントロイドスペクトルの補正処理に関する。
質量分析装置(MS)は、液体クロマトグラフ(LC)やガスクロマトグラフ(GC)と組み合わせて使用されることが多い。液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)は、液体クロマトグラフの検出器として質量分析装置を利用したものであり、複数の成分を含む試料を液体クロマトグラフに導入してカラムにより各成分を時間方向に分離し、カラムから溶出する試料液をインタフェイス部を介して質量分析装置に導入し、イオン化した後にそのイオンを質量数毎に分離して検出する。
LCにイオントラップ型質量分析計(IT)および飛行時間型質量分析計(TOF)を結合させたイオントラップ飛行時間型質量分析装置の場合、スペクトルの測定にはイオントラップに蓄積したイオンをあるタイミングでTOF部へ排出すると、イオンの質量数(m/z)が小さいものから順に検出器に到達し、信号として検出される。従って、イオントラップからイオンの排出を行った時間から検出器へ到達するまでの時間を計測し、その時間での検出器に到達した強度を測定することにより、イオンの質量数に対するイオンの検出器の信号強度が図3に示すようなMSプロファイルスペクトルとして計測することができる。
質量分析装置によるスペクトル情報としては、図5に示すように、MSプロファイルスペクトル(折れ線部)をそのまま表示する場合と、測定されたMSプロファイルスペクトル中の各ピークの質量数を求め、各ピークの代表質量数とその強度に変換されたMSセントロイドスペクトル(縦棒部)を表示する場合がある。MSセントロイドスペクトルへ変換された場合の質量数は、ピークにおける重心位置で示し、強度はピークの面積値で示される。
通常、LC/MSではイオン化手法がソフトなイオン化法(電子スプレーイオン化法(Electrospray, "ESI")、大気圧化学イオン化法(Atmospheric Pressure Chemical Ionisation, "APCI")等)を使用するため、マススペクトルはGC/MSにおける電子衝撃イオン化法(Electron Impact , "EI")の場合と異なり、正イオン測定時には、成分にプロトンや溶媒中の塩が付加した[M+H]+や[M+Na]+のようなイオンのみが、負イオン測定時には、成分から脱水素された[M-H]-のようなイオンのみが測定されるシンプルなマススペクトルが得られる。また、ESI法に場合には、サンプルによっては複数のプロトンや溶媒中の塩が成分に付加した[M+nH]n+や[M+nNa]n+のような多価イオン(n≧2)のスペクトルが測定される。
APCIモードのように1価のイオンしか生成されないイオン化モードで測定した場合、カラムより溶出された成分のスペクトルはモノアイソトピックピークより成分の構成元素の同位体質量数差だけ離れた質量数の位置にピークが検出される。質量分析計で測定を実施するのは炭化水素系のサンプルが多く、このようなサンプルの場合は、図4(a)に示すようにモノアイソトピックピークより1m/zはなれた質量数に水素1つが同位体2Hで構成されたイオンが、2m/zはなれた質量数に水素2つが同位体2Hで構成されたイオンといったように約1m/zずつはなれて同位体ピークが観測される。ESIモードのように多価のイオンが生成される場合には、そのイオンの価数によって同位体ピークとの質量差が変化し、図4(b)に示すように、2価のイオンの場合は同位体ピークとの質量差は約0.5m/z、3価の場合は約0.333m/zの間隔で同位体ピークが観測されることになる。
MS測定において得られたスペクトルのイオンピークから特定のイオンのピークを選択し、選択された特定のイオンをプリカーサイオンとして2回目の測定を行うMS/MS測定も行なわれる。MS/MS測定により成分の構造解析を実施するような定性分析の場合は、カラムから分離されてくる成分の質量数が不明であることが多い。そこで、MSスペクトル中に溶媒以外のピークが検出された時点で、スペクトル中の複数のピークからユーザーが指定したMS/MS測定のためのプリカーサイオン選択条件に合致するピークを探索し、そのピークのMS/MSスペクトル測定を実施する「データ依存測定モード(Data Dependent Acquisition,"DDA")」と呼ばれる手法を用いてMS/MSスペクトルを測定し、ユーザーの構造解析のための情報が提供される。DDAは、特許文献1,2などにも記載されるように、複雑な構造の化合物の解析に用いられるMS/MS測定に有効である。
DDAでは、ユーザーがMS/MS測定を実施するための測定条件を設定する必要がある。その条件の代表的なものとしては、i)プリカーサイオンの探索を開始するタイミング(スペクトルの強度しきい値)、ii)プリカーサイオンの探索質量範囲、iii)プリカーサイオンのイオン価数といった項目が挙げられる。このような測定条件の設定を行い、サンプルを注入すると、測定が開始される。カラムから溶出された成分について、質量分析計でMSスペクトルが測定される。このMSスペクトルデータを使用して、DDAの測定条件に合致したプリカーサイオンが存在するか探索を行い、存在した場合に、プリカーサイオンのMS/MSスペクトルの測定を行なう。
DDAの測定条件に合致したプリカーサイオンを探索する際に、MSスペクトル中の各ピークのイオン価数が選択条件で指定されたイオン価数と一致している必要がある。各ピークのイオン価数を計算する手法としては、さまざま手法が検討されているが、DDAを行う場合のように測定中に次に測定を実行するためのプリカーサイオン質量数を探索する等、高速に価数判定処理を実施する手法は限られている。その1つの手法として、セントロイドスペクトルを使用して隣り合うピークとの質量数の差より価数を推定する手法がある。この手法は、飛行時間型質量分析計のような精密な質量数が測定できる質量分析計において、測定/変換されたMSセントロイドスペクトル中の各ピーク間の質量差よりそのピークのイオン価数を推定するものである。
米国特許6,498,340号 米国特許7,009,174号
価数が大きくなるに従ってピーク間隔が狭くなるので、セントロイドスペクトルを生成するプロファイルスペクトルにおける近接ピークとのオーバラップの影響が発生する。プロファイルスペクトルにおいて、前後のピークとスペクトルが完全に分離されている場合には問題はないが、価数が大きくなり前後のピークの立ち下がりや立ち上がりが他のピークと重なってきた場合には、図6(a)に示したようにセントロイドで表現されるピーク位置(2)が真のピーク位置(1)よりずれることになる。ピークが重なり合うことによりセントロイド位置がずれるため、DDAにおける価数推定処理において隣り合うピークとの間隔より価数を推定する場合、このずれの影響が価数が大きくなるに従って無視することができなくなる。例えば、価数10価の場合は隣り合うピークとの間隔は0.100m/zであるが、11価の場合は0.091m/zであるので、10価のピークがピークの重なり合いで0.005m/zずつずれるとピークの間隔が0.09 m/zになってしまい、推定処理で11価と推定する可能性がある。重なり合ったピークについては、「波形分離」と呼ばれる手法を用いて、図6(a)のプロファイルスペクトル(実線)を点線で示される2つのピークデータに分離を行い、その後、それぞれのピークデータの情報を用いてセントロイドに変換を行うことが可能である。しかし、この手法は、波形の微分処理(通常3次微分まで)を行って波形分離処理を行うので処理に時間がかかるため、測定処理を行っている最中に実施することはできない。
本発明は、このような課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、質量分析におけるDDAなど、分析条件によってMS/MS測定を実施する際のプリカーサイオンを変えながら分析を行った場合において、指定された測定条件で正確にプリカーサイオンを探索できる質量分析装置を提供することにある。
本発明は、上記課題に鑑み成されたものである。すなわち、本発明は、1度の質量走査で設定条件に基く質量範囲のプロファイルスペクトルを得る分析を実行し、前記プロファイルスペクトルからセントロイドスペクトルへ変換し、前記設定条件に合致する前記セントロイドスペクトルのピークのイオンをプリカーサイオンとするプリカーサイオンを選択し、前記プリカーサイオンについて前記分析実行手段により質量走査を行う質量分析装置の質量分析方法において、既知の質量数の試料及び近接のピークとの重なりが発生しその重なり度合いが異なる複数のピークを有する既知の試料を測定し、前記複数のピークについて重なり度合いと質量数のずれの関係から補正関数を作成し、プロファイルスペクトルをセントロイドスペクトルに変換する際に前記セントロイドピークを前記補正関数により補正するこを特徴とする。
本発明によれば、性状が既知の試料を測定することで、所望の試料を測定した際にピークの重なりによって生ずる質量数のずれを補正する関数が作成される。所望の試料について測定したピークの重なりにより生ずるずれを補正することで、質量数の真値を算出される。
また、別の観点での本発明は、1度の質量走査で設定条件に基く質量範囲のプロファイルスペクトルを得る分析実行手段と、前記プロファイルスペクトルからセントロイドスペクトルへ変換する変換手段と、前記設定条件に合致する前記セントロイドスペクトルのピークのイオンをプリカーサイオンとするプリカーサイオン選択手段と、前記プリカーサイオンについて前記分析実行手段により質量走査を行う質量分析装置において、既知の質量数の試料及び近接のピークとの重なりが発生しその重なり度合いが異なる複数のピークを有する既知の試料を測定し、前記複数のピークについて重なり度合いと質量数のずれの関係から補正関数を作成する手段とプロファイルスペクトルをセントロイドスペクトルに変換する際に前記セントロイドピークを前記補正関数により補正する補正手段を有するこを特徴とする。
本発明によれば、性状が既知の試料を測定することで、所望の試料を測定した際にピークの重なりによって生ずる質量数のずれを補正する関数が作成される。所望の試料について測定したピークの重なりにより生ずるずれを補正することで、質量数の真値を算出される。補正された質量数を用いて、価数判定を行なうのでピークの重なりによる質量数のずれを原因とする価数判定の誤りが減少し、MS/MS測定による測定精度が向上する。
本発明により、MSプロファイルスペクトルよりセントロイドスペクトルへ変換をする際に求める質量数の精度を高めることが可能になる。また、DDAのように、ユーザが指定した条件に合致したプリカーサイオンのMS/MSスペクトル測定を実行する際には、プロファイルスペクトルの重なりによるセントロイドスペクトルの質量数のずれが補正されるため、イオンの価数判定処理においても正確に各ピークのイオン価数を判定することが可能となる。ずれを補正した真の質量数のイオンをプリカーサイオンとしてMS/MS測定を行なうので、所望の試料について、より正確な解析結果を得ることが可能になる。
以下、DDAを利用してMS/MS測定を行なう場合の本発明の動作を図に沿って説明する。図1はIT-TOFの全体構成、図2はイオントラップ部11の構成例である。LCのカラム4から溶出した試料液は流路切換バルブ18を経由してMS部5へと導かれる。MS部5は、イオンスプレー部6が配設された霧化室7と、イオントラップ部11及びイオン飛行電極12、イオン検出器14が配設されたイオン分析室10とを含み、霧化室7と分析室10との間に二つのイオン導入室9が設けられている。霧化室7と一段目のイオン導入室15は脱溶媒管8で連通している。MS部5のイオン検出器14の検出信号は信号処理部15に入力され、信号処理部15で後述のような処理を行ってパラメータ入力・データ表示部17にクロマトグラムデータを与える。制御部16は、MS部5の各部の動作を制御する。
MS部5の動作は次の通りである。カラム4から供給される試料溶液がイオンスプレー部6に達すると、イオンスプレー部に印加された高圧電圧を帯びた液滴として霧化室7内に噴霧される。飛び出した液滴は大気圧のガス分子と衝突し、更に微細な液滴に粉砕され、速やかに乾燥して(脱溶媒化されて)試料分子が気化する。この気体微粒子はイオン蒸発反応を生じてイオン化される。発生したイオンを含む微細液滴は脱溶媒管8に飛び込み、脱溶媒管8を通過する間に一層脱溶媒化が進行する。イオンは二つのイオン導入室9を通ってイオン分析室10へ送られる。イオンは一旦、イオン分析室10内に配設されたイオントラップ部11内に蓄積され、その後、イオン飛行電極部12へと排出される。イオン分析室10では、イオントラップ部11を構成する電極に印加する電圧を変化させることにより、MS測定、MS/MS測定、MS/MS/MS測定等を実行することができる。MS測定時には、先ず、イオントラップ部にイオンを蓄積するために、正イオンの場合、入口エンドキャップ電極21は−数Vの電位、出口エンドキャップ電極23には+数Vの電位を印加し、イオンを閉じ込める。イオンがイオントラップ内に入った時点で、リング電極22に高周波電位を印加し、閉じ込めたイオンはクーリングガス導入部24から導入されるガスとリング電極22に印加された高周波電位によりイオントラップ電極の中心部に集められる(クーリングと呼ぶ)。その後、リング電極22の高周波電位をOFFし、入口エンドキャップ電極21は+数KVの電位、出口エンドキャップ電極23には後段に配設されたイオン飛行電極部12の電位を印加することで、イオントラップ部11よりイオンが排出される。
イオン飛行電極部12では、イオン飛行電極部12に印加された電圧によりエネルギー保存の法則に従ってドリフト空間(Drift Space)を飛行する。飛行途中、イオントラップ部11の反対側に配設されたリフレクトロン電極13にてイオンは再度イオン飛行電極部12へ押し戻され、その後イオン検出器14へ到達する。イオン検出器14へ到達するまでの時間はm/z値が小さい(軽い)イオンほど速く到達するので、イオントラップ部11より排出後、イオン検出器14へ到達するまでの時間を計測し、演算部15の信号処理部15aで時間情報が質量数情報へと変換され、イオン検出器14では到達したイオン数に応じた電流が取り出される。
実際の測定動作を開始する前に、装置の調整処理を実施する。装置の調整処理には標準サンプル液槽20に満たされた標準サンプルを使用する。標準サンプルは、質量数の較正を実施するためのサンプル(プロファイルスペクトルで近接のピークとの重なりが発生しないサンプル。例えば、三フッ化酢酸ナトリウム)と、補正関数を求めるためのサンプル(プロファイルスペクトルで近接のピークとの重なりが発生し、その度合いが異なる複数のプロファイルスペクトルが測定できるサンプル。例えば、ミオグロビン)を混合したものである。
図9に示したフローチャートを参照しつつ質量分析装置の調整動作を説明する。標準サンプル液槽20からMS部5へ送液するように流路切換バルブ18を切替えた後、標準サンプル送液ポンプ19を動作し、標準サンプル液槽20内の標準サンプルをMS部5へ導入する(S101)。この状態で、MS部5において検出感度が最大になるようにイオン導入室9、イオントラップ部11の各電極およびリフレクトロン電極13の制御値を最適化する(S102)。その後、質量数較正サンプルのピーク数だけ次の処理S103〜S105を繰り返す(質量数較正処理)。
質量数較正サンプルの較正質量数近傍のMSプロファイルスペクトルの測定を行う(S103)。
得られたMSプロファイルを変換処理部15bにてセントロイドスペクトルに変換を行う(S104)。
得られたセントロイドスペクトル中のピークのリストから較正質量数に対応するピークを探し出し、そのピークの飛行時間を記憶部26に記憶する(S105)。
質量数較正処理により、質量数較正サンプルの較正質量数と飛行時間の関係を示す表1が作成され、既知の質量数と測定された飛行時間との関係を得ることができる。
Figure 2007309661
表1を基に、飛行時間と質量数の関係式を作成する(S106)。
飛行時間(t) =g(質量数(m/z)の平方根) (1)
測定の際には、式(1)の逆関数式(2)を使用してセントロイドピークの飛行時間より質量数への変換を行う。
質量数(m/z)の平方根 =g’(飛行時間(t)) (2)
さらに、標準サンプル中に含まれた質量数補正サンプルのピーク数だけ処理S107〜S110を繰り返す(質量数補正処理)。
質量数補正サンプルの補正質量数近傍のMSプロファイルスペクトルの測定を行なう(S107)。
得られたMSプロファイルスペクトルより補正関数作成用サンプルのピークのセントロイド変換を実施し、式(2)によりセントロイドピークの飛行時間を質量数へ変換する(S108)。
近接ピークとのピークの重なり度合いを求める(S109)。
ピークの重なり度合い = 重なり強度 / ピーク強度 (3)
得られたセントロイドピークの質量数とそのピークの真の質量数との差を求める(S110)。
真値からのずれ = セントロイドピークの質量数 - ピークの真の質量数 (4)
質量数補正処理を補正関数作成用サンプルのピークの数だけ実行することで、図7に示すような図を得る。これは、重なり度合いと真値からのずれの関係は、概ね2次関数となることを示している。ここで、重なり合い度合いが0ならば、セントロイドピークの真値からのずれはなく、ずれの値は0となる。
ピークの重なり度合いと真値からのずれの相関関数(式5)を作成する。プロファイルスペクトルのピークが図6(b)のように重なり合う既知の質量数のサンプルを使用してMS測定処理を行い、真の質量数とセントロイドスペクトルの質量数との差、及び、その時の重なり合い度合い(プロファイルスペクトルにおける谷となる部分の強度とピークトップの強度との比)について求める。重なり合い度合いの異なる複数のピークについてこれらのデータの測定を行い、複数の[重なり合い度合いと質量数のずれ]の情報を用いて補正関数(5)を作成する(S111)。
質量数のずれ = f(重なり合い度合い) (5)
対象とするピークの重なり度合いとして、ピークの立ち上がり部分における重なり度合いとピークの立ち下がり部分における重なり度合いについても同時に求めて、最終的に、各ピークのセントロイドピーク位置を補正する式(6)を作成し、記憶部26に記憶する。
セントロイドピーク位置 = 従来のとおりのセントロイドピーク位置
+f(立ち上がり部分の重なり合い度合い)
−f(立ち下がり部分の重なり合い度合い) (6)
ここで、立ち上がり部分の重なり合い度合いは+(プラス)方向に、立ち下がり部分の重なり合い度合いは−(マイナス)方向に補正されるので、補正関数を3次以上の関数で表す場合にも、補正関数は負の値をとらない。
以上で、装置の調整処理は終了である。次は、実際の測定動作を行なう。図10に示したフローチャートを参照しつつ実際の測定動作を説明する。実際の測定を行なう際には、パラメータ入力・データ表示部17により、測定終了条件、MSスペクトル測定における測定質量範囲(以降、「MS測定条件」とする)、MS/MSスペクトルを測定するためのプリカーサイオン選択条件、MS/MSスペクトル測定質量範囲の測定条件(「DDA条件」とする)を作成する。作成された、MS測定条件やDDA条件は、記憶部に記憶される。
図8は、MS測定条件、DDA条件の設定画面である。MS測定質量数のm/z範囲を100.0000-1000.0000としており、得られたm/z値について、許容値を0.050と設定している。イベント実行トリガは、トータルイオンクロマトグラム(TIC)若しくはベースピーククロマトグラム(BPC)のモードのいずれかにおいて、クロマトグラムのピーク開始後に信号強度が10000を超えた時点から、ピーク終了前に信号強度が9000を下回るまでの間、すなわち、液体クロマトグラフ部で時間方向に成分が分離されてある程度の濃度で成分が溶出している時間帯に、DDA条件に合致するイオンがMS測定により見つかればMS/MS測定を行なう、という条件である。この条件が満たされない間は、MS/MS測定は行なわれない。プリカーサイオン選択は、MS測定を行いMS/MS測定のためのプリカーサイオンのm/z範囲を設定する項目である。価数フィルタは、何価のイオンの計算を行うかを設定する項目で、イオン化の種類や測定対象に応じて適宜設定する。モノアイソトピックの項目は、モノアイソトピック質量のもののみを対象とするか否かを設定する。MSn条件は、特定の質量数のイオンのみを選択したり、選択したイオンを開裂させたりする条件を設定する部分である。
試料導入部3より試料が導入された時点から測定処理を開始する(S201)。測定実行手段は、先ず、1回のMSスペクトル測定をMS測定条件に従って実行する(S202)。次いで、MS/MSスペクトル測定のため、得られたMSプロファイルスペクトルをセントロイドスペクトルへと変換し(S203)、ピークの立ち上がり及び立下りの部分での重なり度合いを求め(S204)る。そして、先の調整処理によって求めた補正関数(式(6))を用いて、補正処理部15cでセントロイドピークの位置補正処理を行い、得られた結果を対象ピークの質量数とする(S205)。
1回のMS測定により得たMSプロファイルスペクトルの全領域についてセントロイド変換処理が完了した時点で、記憶部26に記憶された条件を参照し、変換処理により得たセントロイドスペクトルが設定されたDDA条件のイベントトリガ条件を満たしているかどうかを判定処理部15dで判定する。判定の結果、条件を満たしていない時には、MS/MS測定を行わずにMSスペクトルを測定(S202)〜セントロイドピークの位置補正処理(S205)を繰り返す。
イベントトリガ条件を満たしている場合、DDA条件で指定されたピークを探索するために、得られたセントロイドピークの価数判定処理を実施する(S206)。価数判定処理については様々な方法があるが、いずれの方法による処理を行ってもよい。セントロイドデータ上のピークを強度の強いものから順に同位体同定のための基準ピークとして指定し、基準ピークの前後に並ぶピークの出現パターンを各価数を仮定した場合に予定される同位体クラスターの出現パターンと比較することにより、同位体クラスターを検出する処理(特願2005-141845の発明)を行えば、高速に価数判定処理が可能になる。
プリカーサイオン選択条件に合致するプリカーサイオンを価数判定処理を実施したセントロイドスペクトルより探索する(S207)。条件に合致したプリカーサイオンが見つかった場合にはMS/MSスペクトル測定を実行し、条件に合致したプリカーサイオンが見つからなかった場合にはMS/MSスペクトル測定は実行せず、再度MSスペクトル測定(S202)を実行する。このような測定処理を測定終了条件に合致するまで繰り返す。
上記の測定動作により、所望のプリカーサイオンについてLC/MS/MS測定を行なうことができ、得られたセントロイドスペクトルの質量数は補正された真の値を得ることができる。
以上、液体クロマトグラフ質量分析装置を例にとり本発明の説明を行なったが、他の分離装置と質量分析装置との結合での処理におけるセントロイドピーク位置の補正についても、本願発明を適用することはできる。上記実施例は本発明の単に一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正したものも本発明に包含されることは明らかである。
HPLCを利用した液体クロマトグラフ質量分析装置の構成図である。 イオントラップ質量分析部の構成図である。 MSプロファイルスペクトルの例である。 MSセントロイドスペクトルの例である。a)APCIモード、b)ESIモード MSプロファイルスペクトルとセントロイドスペクトルの説明である。 セントロイドスペクトルのずれを補正する補正関数作成のための各パラメータである。 補正関数作成用サンプルのピークで求めた相関関係の例である。 DDA条件設定画面の例である。 装置調整処理フローチャートである。 測定処理フローチャートである。
符号の説明
1・・・溶離液槽
2・・・ポンプ
3・・・試料導入部
4・・・カラム
5・・・MS部
6・・・イオンスプレー部
7・・・霧化室
8・・・脱溶媒管
9・・・イオン導入室
10・・・イオン分析室
11・・・イオントラップ部
12・・・イオン飛行電極
13・・・リフレクトロン電極
14・・・イオン検出器
15・・・演算部
15a・・信号処理部
15b・・変換処理部
15c・・補正処理部
15d・・判定処理部
16・・・制御部
17・・・パラメータ入力・データ表示部
18・・・流路切換バルブ
19・・・標準サンプル送液ポンプ
20・・・標準サンプル液槽
21・・・入口エンドキャップ電極
22・・・リング電極
23・・・出口エンドキャップ電極
24・・・クーリングガス導入部
25・・・コリジョンガス導入部
26・・・記憶部

Claims (2)

  1. 1度の質量走査で設定条件に基く質量範囲のプロファイルスペクトルを得る分析実行手段と、
    前記プロファイルスペクトルからセントロイドスペクトルへ変換する変換手段と、
    前記設定条件に合致する前記セントロイドスペクトルのピークのイオンをプリカーサイオンとするプリカーサイオン選択手段と、
    前記プリカーサイオンについて前記分析実行手段により質量走査を行う質量分析装置において、
    既知の質量数の試料及び近接のピークとの重なりが発生しその重なり度合いが異なる複数のピークを有する既知の試料を測定し、前記複数のピークについて重なり度合いと質量数のずれの関係から補正関数を作成する手段と
    プロファイルスペクトルをセントロイドスペクトルに変換する際に前記セントロイドピークを前記補正関数により補正する補正手段を有する
    ことを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
  2. 1度の質量走査で設定条件に基く質量範囲のプロファイルスペクトルを得る分析を実行し、
    前記プロファイルスペクトルからセントロイドスペクトルへ変換し、
    前記設定条件に合致する前記セントロイドスペクトルのピークのイオンをプリカーサイオンとするプリカーサイオンを選択し、
    前記プリカーサイオンについて前記分析実行手段により質量走査を行う質量分析装置の質量分析方法において、
    既知の質量数の試料及び近接のピークとの重なりが発生しその重なり度合いが異なる複数のピークを有する既知の試料を測定し、
    前記複数のピークについて重なり度合いと質量数のずれの関係から補正関数を作成し、
    プロファイルスペクトルをセントロイドスペクトルに変換する際に前記セントロイドピークを前記補正関数により補正する
    ことを特徴とするクロマトグラフ質量分析方法。
JP2006136100A 2006-05-16 2006-05-16 クロマトグラフ質量分析装置 Active JP4577266B2 (ja)

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