JP2007301262A - 移植用生体組織 - Google Patents

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Abstract

【課題】 動物から採取した生体組織がほぼ完全に無細胞化するように脱細胞化処理を行うことで、ヒトへの移植後の安全性や耐久性を格段に向上させ、且つ、自己細胞の侵入による再生の場を与えること。
【解決手段】 組織保持部12に保持された血管組織Tに浸漬される細胞除去溶液は、人体の大動脈内を流れる血流にほぼ相当する流れが付与されるとともに、テーブル31の回転により、照射装置32が回転しながら血管組織Tの側方ほぼ全周に満遍なく、周波数2.45GHz、出力800Wのマイクロ波が照射される。これにより、動物から採取した血管組織Tは、ほぼ完全に無細胞化されることになり、DNAレベルで原細胞がほぼ完全に除去されてブタ内在性レトロウィルス及びα−ガラクトース抗原がほぼ完全に除去された異種生体弁が得られることになる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、移植用生体組織に係り、更に詳しくは、動物から採取された生体組織を脱細胞化処理することで、ヒトへの移植を可能とした移植用生体組織に関する。
人体の心臓弁が正常に働かず、弁の開口部位の狭窄や血液の逆流が生じさせる閉鎖不全のような機能障害が生じた場合には、薬剤投与による内科的治療の他に、弁を修復する弁形成術又は弁を代替弁に置換する弁置換術による外科的治療が行われる。
前記弁置換術における代替弁としては、現在、所定の人工材料で形成される機械弁、ブタ等の動物から採取される異種生体弁、他の人体から提供される同種生体弁等がある。ここで、前記機械弁は、耐久性があるものの抗凝固剤を一生飲み続けなければならないという問題がある。一方、前記異種生体弁は、抗凝固剤を一生飲み続けなくても良いが、長期的なカルシウムの沈着(石灰化)等によって弁機能不全を起こし、15年程度で新たな代替弁への交換必要性が生じるという問題がある。また、前記同種生体弁は、ドナー不足により大量確保が難しいという問題がある。これらの中で、異種生体弁は、十分な数を供給でき、且つ、移植後に患者が抗凝固剤を一生飲み続けなくても良いことから、欠点とされている耐久性を向上させれば、他の代替弁より有用になることが期待できる。
そこで、ブタ等の動物から採取した異種生体弁に対し、移植後の免疫拒絶反応を抑制し、且つ、耐久性を向上させる次の処理方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この処理方法では、胆汁酸や界面活性剤等の細胞除去溶液に異種生体弁を浸漬し、動物の内皮細胞、線繊芽細胞等の動物の原細胞を除去する脱細胞化処理が行われる。
しかしながら、前述した処理方法にあっては、動物から採取した異種生体弁に対する脱細胞化処理を効果的に行えず、当該脱細胞化処理後の異種生体弁に十分な生体適合性を付与させることできないという不都合がある。すなわち、前述の脱細胞化処理では、原細胞がある程度残存してしまい、当該原細胞の存在により、処理後の異種生体弁の生体適合性が低下する。
そこで、本発明者らは、前述の不都合を解決するために、鋭意、実験研究を行った結果、前記脱細胞処理時において、異種生体弁が浸漬される前記細胞除去溶液に人体の血流にほぼ相当する流れを付与するとともに、前記細胞除去溶液に浸漬された異種生体弁にマイクロ波を照射したところ、残存する原細胞数が、前述の処理方法より大幅に減少することを知見し、当該知見に基づく新たな脱細胞化処理法を提案した(特許文献2参照)。
特開平6−261933号公報 国際公開第2004/100831号パンフレット
しかしながら、前記特許文献2の脱細胞化方法にあっては、動物の原細胞を電子顕微鏡による目視レベルでほぼ除去することができたが、当該原細胞が目視レベルでほぼ除去されたとしても、DNAレベルで僅かに残っていると、異種生体弁を人体に移植したときに、次のような問題を招来する虞がある。
例えば、ブタから採取した異種生体弁の場合、ブタの染色体に組み込まれて存在する内在性レトロウィルス(porcine endogenous retrovirus:PERV)が移植後の人体に影響を及ぼす虞がある。このレトロウィルスは、ブタの体内では無害であるが、強力な遺伝子導入活性を持つという特徴があることから、ヒトに対しては癌を引き起こす可能性がある他、臓器移植を受けるために免疫抑制を受けたヒト体内において、遺伝子変異による新たなウィルスが出現し、感染症を引き起こす可能性もある。
また、ブタが元来持つα−ガラクトース抗原は、ヒトやサルの体内に入ると超急性拒絶反応を起こすことがわかっている。このため、ブタから採取した異種生体弁に対し、ガラクトース抗原を完全に除去することが必要になるが、従来、ガラクトース抗原が完全に除去された異種生体弁は存在しない。このため、従来における異種生体弁の製造時には、ブタ弁をグルタールアルデヒド溶液で化学固定処理して抗原を不活化することが行われている。従って、このように化学固定処理された異種生体弁は、移植先の自己細胞が侵入することはなく、当該自己細胞による再生の場が与えられなくなる。ここで、当該再生可能な異種生体弁とするには、ブタを遺伝子操作してガラクトース抗原を持たないノックアウトブタを生産し、当該ノックアウトブタから生体弁を採取することが必要となり、異種生体弁の製造が煩雑になる。
また、移植先で再生させない異種生体弁に対しては、脱細胞化処理後にグルタールアルデヒドによる化学固定処理を行うと、拒絶反応が抑制されて組織強度が維持される効果がある。このとき、グルタールアルデヒド溶液で固定された異種生体弁に対して、僅かでも原細胞が存在すると、経時的な石灰化を招来し、移植された異種生体弁の寿命が短くなるという問題がある。
以上の観点から、ブタ等の動物から採取した生体弁を脱細胞化処理することにより得られた移植用生体弁は、原細胞がDNAレベルで完全に取り除かれている必要があり、このことは、心膜や靭帯等の他の生体組織に関しても同様である。
本発明は、以上のような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、動物から採取した生体組織がほぼ完全に無細胞化するように脱細胞化処理を行うことで、ヒトへの移植後の安全性を向上させることができる移植用生体組織を提供することにある。
また、移植先で再生の必要がある場合、簡単な脱細胞化処理によって、安全性を良好にして自己細胞の侵入による再生の場を与える移植用生体組織を提供することにある。
更に、移植先で再生の必要がない場合、拒絶反応を抑制して組織強度が維持されるとともに、石灰化を防止して耐久性が大幅に向上した移植用生体組織を提供することにある。
(1)前記目的を達成するため、本発明は、所定の動物から採取された生体組織を脱細胞化処理して得られた移植用生体組織であって、
DNAの量がほぼ0となる無細胞化状態である、という構成を採っている。
(2)また、所定の動物から採取された生体組織を脱細胞化処理して得られた移植用生体組織であって、
レトロウィルスがほぼ完全に除去された無細胞化状態である、という構成を採っている。
(3)更に、所定の動物から採取された生体組織を脱細胞化処理して得られた移植用生体組織であって、
α−ガラクトース抗原がほぼ完全に除去された無細胞化状態である、という構成を採っている。
(4)以上の移植用生体組織に対し、グルタールアルデヒドにより化学固定処理してもよい。
前記(1)〜(3)の構成によれば、移植用生体組織がDNAレベルでほぼ完全に無細胞化されているため、ブタから採取した異種生体弁を移植先で再生させるような場合、ブタ染色体に組み込まれて存在する内在性レトロウィルスやα−1,3ガラクトース抗原がほぼ完全に存在しなくなり、ヒトへの移植後において、超急性拒絶反応が効果的に抑制されるとともに、感染症等の発症が抑制され、ヒトへの移植後の安全性が格段に向上することになる。換言すれば、ほぼ完全に無細胞化された本発明の生体組織の出現により、ノックアウトブタを生産しなくても、安全性を良好にして、自己細胞の侵入による再生の場を与えることができる。
前記(4)のようにすることで、移植先で再生させない生体組織に対しては、拒絶反応を抑制して組織強度が維持される従来の効果が得られることはもとより、脱細胞化処理後の移植用生体組織がほぼ完全に無細胞化された状態となるため、化学固定処理された生体組織内の細胞の存在に起因する経時的な石灰化を防ぐことができ、従来よりも格段に耐久性が向上することになる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明に係る移植用生体組織を作成するための生体組織処理装置の概略斜視図が示されている。この図において、生体組織処理装置10は、生体組織である異種生体弁を含む血管組織Tの脱細胞化処理を行う際に用いられる装置である。ここで、当該脱細胞化処理は、ブタ等の動物から採取した異種生体弁を人体に移植する前に、当該異種生体弁を胆汁酸等の細胞除去溶液に浸漬することにより、前記動物の細胞(以下、「原細胞」と称する)を除去してコラーゲンやエラスチン等からなる基質のみにする処理である。
前記生体組織処理装置10は、前記細胞除去溶液を所定の回路によって一方向(図中矢印方向)に循環させる溶液循環部11と、この溶液循環部11の途中に設けられ、異種生体弁を含む血管組織Tに対し細胞除去溶液を浸漬した状態で保持する組織保持部12と、組織保持部12の周囲に配置され、血管組織Tにマイクロ波を照射可能なマイクロ波照射手段13とを備えて構成されている。
前記溶液循環部11は、細胞除去溶液に拍動流を付与する拍動ポンプ15と、この拍動ポンプ15から吐出した細胞除去溶液が拍動ポンプ15に戻るように配置された循環路16と、この循環路16内の細胞除去溶液が所望の状態になるように拍動ポンプ15の動作を制御する制御手段17と、循環路16の途中に設けられて細胞除去溶液を冷却する冷却手段18と、組織保持部12から流出した循環路16内の細胞除去溶液の流量及び圧力を測定する計測装置25と、組織保持部12から流出した直後の循環路16内の細胞除去溶液の温度を測定する温度センサ29とを備えて構成されている。
前記拍動ポンプ15は、吐出時に拍動流を生成可能な拍動型ポンプであれば何でも良く、例えば、本出願人によって既提案された(特願2002−167836号等参照)ポンプが挙げられる。
前記循環路16は、図1に示されるように、拍動ポンプ15の流出ポート20から吐出した細胞除去溶液が、外気に非接触となる状態で流入ポート21に流入する閉ループ状に構成されている。この循環路16は、人体の血液の体循環状態を模擬可能となる構造が採用されており、本出願人によって既提案された構造(国際公開第2004/100831号パンフレット)と実質的に同一の構造となっており、この構造は、本発明の要旨ではないため、ここでは、詳細な説明を省略する。
前記制御手段17は、ソフトウェア及びハードウェアによって構成され、プロセッサ等、複数のプログラムモジュール及び処理回路より成り立っている。この制御手段17は、前記計測装置25により測定された細胞除去溶液の流量及び圧力に基づき、循環路16内の細胞除去溶液に所望の拍動流が付与されるように拍動ポンプ15の駆動を制御するようになっている。具体的に、特に限定されるものではないが、拍動ポンプ15の流出ポート20から吐出した直後の循環路16内の細胞除去溶液は、人体の動脈にほぼ相当する流れに制御され、流入ポート21に流入する直前の循環路16内の細胞除去溶液は、人体の静脈に近い流れに制御される。
前記冷却手段18は、流入ポート21に流入する直前の循環路16の一部分を水に浸漬させることで細胞除去溶液を冷却する水槽27と、この水槽27内の水温を低下させる冷却装置28とを備えている。この冷却装置28は、マイクロ波の照射によって加温された循環路16内の細胞除去溶液を冷却するように機能する。
前記組織保持部12は、循環路16内を流れる細胞除去溶液を導き、当該細胞除去溶液に血管組織Tを浸漬させた状態で保持する装置である。本実施形態では、前記脱細胞化処理を行う異種生体弁を含む血管組織Tとして、ヒトの大動脈弁に代替されるブタの大動脈弁を含む血管組織が用いられている。このため、組織保持部12は、人体の大動脈弁部分の血流状態に近い循環路16の部位、すなわち、流出ポート20から吐出した直後の循環路16の部分に接続されている。この組織保持部12の構造は、循環路16内を流れる細胞除去溶液に血管組織Tを浸漬させた状態で保持する構造であれば何でも良い。この構造としては、例えば、本出願人によって既提案された構造(国際公開第2004/100831号パンフレット)が挙げられるが、当該構造は、本発明の要旨ではないため、ここでは、詳細な説明を省略する。
前記マイクロ波照射手段13は、組織保持部12の下側位置に設けられて当該組織保持部12に対して回転可能に設けられた円盤状のテーブル31と、このテーブル31上に載るとともに、組織保持部12の側方からマイクロ波を照射する照射装置32とを備えて構成されている。
前記テーブル31は、図示しないモータ等によって回転速度が制御された状態で回転されるようになっており、テーブル31の回転により、組織保持部12の側方ほぼ全周から異種生体弁を含む血管組織Tに万遍なくマイクロ波が照射されることになる。
前記照射装置32は、マイクロ波の発生源として図示しないマグネトロンを利用した公知の装置であり、その詳細な構造については、ここでは説明を省略する。この照射装置32は、周波数が2.45GHz、出力が0W〜1500W程度のマイクロ波を照射可能となるものが用いられており、前記温度センサ29の計測値に基づき、自動的にマイクロ波の照射を停止若しくは開始するようになっている。すなわち、循環路16内の細胞除去溶液がマイクロ波の照射によって加温されて、ヒトの体温程度(約35℃)以上になった場合には、マイクロ波の照射を自動的に停止するようになっている。そして、前述したように、冷却装置28により、循環路16内の細胞除去溶液の温度がヒトの体温程度(約35℃)未満に低下すると、再びマイクロ波の照射を開始するようになっている。
なお、図中一点鎖線で描かれた部材は、組織保持部12が収容されてテーブル31と一体回転可能なケース34である。当該ケース34は、その内部に照射装置32の照射部32Aが入り込んでおり、当該照射部32Aから照射されたマイクロ波をケース34の外側に漏出させないように設計されている。
また、図中符号35は、テーブル31の回転に伴う照射装置32のコードCの絡まりを防止するために設けられたスリップリングである。このスリップリング35は、照射装置32からのコードCが繋がる内筒部分37と、この内筒部分37に電気的に導通可能に設けられるとともに、内筒部分37に相対回転可能に設けられて図示しない電源側からのコードCが繋がる外筒部分38とからなる。このような構造によれば、テーブル31の回転に伴って、照射装置32からのコードを通じて内筒部分37が回転されるが、このとき、外筒部分37は静止状態となり、テーブル31の回転による前記電源側からのコードCの絡まりが阻止されることになる。
次に、前記生体組織処理装置10を使った脱細胞方法について説明する。
先ず、ブタ等の動物から大動脈弁を含む血管組織Tを採取する。そして、前述したように、当該血管組織Tを組織保持部12にセットして、生体組織処理装置10内に細胞除去溶液を注入し、当該細胞除去溶液を循環させる。ここで、細胞除去溶液として、例えば、デオキシコール酸(胆汁酸)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、トリトンX−100等の界面活性剤が用いられる。このとき、生体組織処理装置10内では、細胞除去溶液が人体の血流に近似した流れの状態で循環することになる。すなわち、図示しない所定のスイッチを投入すると、拍動ポンプ15が駆動し、循環路16内を細胞除去溶液が循環し、拍動ポンプ15から吐出した細胞除去溶液は、人体の一般的な大動脈圧に略相当する圧力で組織保持部12内を流れ、更に循環路16を流れながら人体の末梢抵抗に相当する抵抗が付与され、減圧された細胞除去溶液が拍動ポンプ15に流入する。
この際、組織保持部12に保持された血管組織Tに浸漬される細胞除去溶液は、人体の大動脈内を流れる血流にほぼ相当する流れが付与されるとともに、テーブル31の回転により、照射装置32が回転しながら血管組織Tの側方ほぼ全周に満遍なくマイクロ波が照射される。これにより、動物から採取した血管組織Tは、各種の原細胞(内皮細胞、線維芽細胞、平滑筋細胞)が除去され、コラーゲン、エラスチン等からなる基質のみになる。なお、本実施形態では、照射するマイクロ波の条件を、周波数2.45GHz、出力800W以上としている。
次に、本発明者らは、前記生体組織処理装置10による脱細胞化処理の効果を高める実験を行い、その結果得られた血管組織Tの状態を調べた。
この実験には、細胞除去溶液として、37℃の胆汁酸を用いた。そして、この胆汁酸を循環路16内に注入し、人間の大動脈内での血液の流れ(拍動流)にほぼ相当する状態の流れを胆汁酸に付与し、照射装置32を回転させながら、血管組織Tの側方ほぼ全周に所定のマイクロ波を照射した。このときの条件は、平均流量を毎分5リットルとし、拍動ポンプ15の拍動数を毎分70回とし、胆汁酸の最高液圧、最低液圧を、人間の一般的な最高脈圧、最低脈圧にほぼ相当させて平均液圧を約80mmHgとした。そして、照射装置32で照射されるマイクロ波については、周波数を2.45GHzとし、出力800Wで延べ24時間照射し、照射装置32の回転速度を毎分4回転とした。
以上の脱細胞化処理により得られたブタ大動脈弁に対し、次の測定を行った。
(1)DNA濃度の測定
異種生体弁の弁葉及び弁壁からそれぞれ組織片を120mg程度切り出し、DNAの抽出を行った。すなわち、所定のDNA抽出キットを使用し、所定の溶解液により組織片を溶解して、その内部のDNAを可溶化し、タンパク質を取り除くことにより、DNA抽出液を精製した。そして、このDNA抽出液に対し、吸光度計によりDNA濃度を測定したところ、弁葉及び弁壁共に0μg/mgとなり、DNA量が0であることが確認された。
(2)ブタ内在性レトロウィルスの測定
レトロウィルスは、宿主の細胞内に入り込み、RNA遺伝情報を逆転者酵素により宿主のDNAに組み込んでしまうウィルスである。宿主に組み込まれたDNAは、プロウィルスとして機能し、ウィルスの複製を開始する。ヒトの白血病の原因となるウィルスやエイズの病原体であるヒト免疫不全ウィルス(HIV)などもレトロウィルスの一種である。このレトロウィルスのコアの中には、宿主のDNAを書き換えてしまうRNAゲノムが入っている。RNAゲノムは、LTR(Long Terminal Repeat)と呼ばれる末端繰り返し配列とgag、pol、envと呼ばれる三つの大きな翻訳可能領域から成り立っている。LTR内には、エンハンサー、プロモーターといったRNA合成開始のための信号と転写に関連した信号があり、gag、pol、envには、ウィルス増幅に不可欠な遺伝情報が含まれている。
そこで、前記DNA溶液に対し、公知のPCR法を使ってDNAを増幅した後で、アガロースゲルを用い、DNAを既知分子量のたんぱく質(分子量マーカー)とともに電気泳動させ、その後、得られたゲルをエチジウムブロマイド溶液に浸して染色し、その試料をトランスイルミネーターにセットし、紫外線照射下で発光させ、gag、pol、envの存否を確認した。その結果、弁葉及び弁壁ともに、gag、pol、envに対するバンドが検出されず、gag、pol、envの存在が見られなかった。換言すれば、レトロウィルスの存在が全く確認されず、レトロウィルスがほぼ完全に除去されたことが確認された。
(3)α−ガラクトース抗原の確認
前記脱細胞化処理により得られたブタ大動脈弁に対し、免疫組織染色を行い、電子顕微鏡下で、α−ガラクトース抗原の存否を確認したところ、α−ガラクトース抗原が全く見られず、α−ガラクトース抗原がほぼ完全に除去されたことが確認された。
以上の実験結果については、マイクロ波の出力を800W以上、細胞除去溶液の流量を5l/min以上とすれば、同様の結果が得られると考えられる。
従って、このような実施形態によれば、移植後の人体に対し、拒絶反応や採取した動物からのウィルス感染を抑制する効果の高い移植用生体弁を得ることができる。
また、以上の脱細胞化処理によりほぼ完全に無細胞化された異種生体弁に対し、所定濃度のグルタールアルデヒド溶液に浸して化学固定処理することにより、細胞の抗原を不活化するとともに組織強度を維持するという従来の効果に加え、従来よりも石灰化が起こりにくく耐用年数の長い移植用生体弁を提供することが可能となる。
なお、本発明にあっては、前記実施形態で説明した大動脈弁を含む血管組織の他に、血液が接触する心膜等のその他の生体組織に対する脱細胞化処理にも適用可能である。また、異種生体弁に対する処理の他に、同種生体弁に対する処理にも本発明を適用できる。つまり、ブタの心膜、ウシの心膜、及びヒトの大動脈弁についても、前述の実施形態の場合と同様の条件にて実験を行ったところ、それら全て、DNA量が0となることが確認され、更に、ブタの心膜にあっては、レトロウィルス及びα−ガラクトース抗原がほぼ完全に除去されたことが確認された。
また、本発明に係る脱細胞方法は、前記実施形態での生体組織処理装置10の利用が必須ではなく、同様の手法で脱細胞処理を行える限りにおいて、種々の装置や手段を用いて行うことができる。要するに、脱細胞処理時に、生体組織Tを浸漬させる溶液に対し、所定の拍動流を付与し、且つ、生体組織Tにマイクロ波を照射させる限り、使用する装置は何でも良い。
本実施形態に係る生体組織処理装置に対し要部のみを表した概略斜視図。
符号の説明
10 生体組織処理装置
11 溶液循環部
12 組織保持部
13 マイクロ波照射手段
T 血管組織(生体組織)

Claims (4)

  1. 所定の動物から採取された生体組織を脱細胞化処理して得られた移植用生体組織であって、
    DNAの量がほぼ0となる無細胞化状態であることを特徴とする移植用生体組織。
  2. 所定の動物から採取された生体組織を脱細胞化処理して得られた移植用生体組織であって、
    レトロウィルスがほぼ完全に除去された無細胞化状態であることを特徴とする移植用生体組織。
  3. 所定の動物から採取された生体組織を脱細胞化処理して得られた移植用生体組織であって、
    α−ガラクトース抗原がほぼ完全に除去された無細胞化状態であることを特徴とする移植用生体組織。
  4. グルタールアルデヒドにより化学固定処理されたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の移植用生体組織。
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