以下に、本発明の呼吸運動検出装置の一実施形態について図1〜図13を参照して説明する。
本実施形態の呼吸運動検出装置1は、例えば睡眠時無呼吸症候群の検査に用いられるものであって、睡眠時無呼吸症候群を判定する指標として、主に無呼吸・低呼吸指数(AHI〔Apnea Hypopnea Index〕)を用いて睡眠時無呼吸症候群の判定を行うように構成されている。ここで、AHIは、睡眠1時間あたりに無呼吸又は低呼吸が何回起こったかを表す値であり、AHI=5以上15未満が軽度、AHI=15以上30未満が中低度、AHI=30以上が重度と診断される。
呼吸運動検出装置1は、図1に示すように、被験者H(図2(a),(b)参照)の身体に装着される3次元の加速度センサ(3軸の加速度センサ)2a,2bと、各加速度センサ2a,2bの出力から交流成分(AC成分)と直流成分(DC成分)とを取り出すフィルタ部3a,3bと、加速度センサ2a,2bの交流成分を元にして呼吸運動の検出を行う呼吸運動検出部4と、加速度センサ2a,2bの直流成分を元にして被験者Hの姿勢の検出を行う姿勢検出部5と、呼吸運動検出部4により得られた呼吸運動情報と姿勢検出部5より得られた姿勢情報に基づいて総合的な呼吸運動の判定を行う総合判定部6と、総合判定部6で得られた結果をPC等の外部装置(図示せず)に出力する結果出力部7とを有している。
さらに、呼吸運動検出装置1は、上記の加速度センサ2a,2bの他に、被験者Hの鼻による呼吸運動(鼻フロー)検出用のサーミスタ等の温度センサ(図示せず)と、被験者Hの口による呼吸運動(口フロー)検出用のサーミスタ等の温度センサ(図示せず)と、被験者Hの血中酸素飽和度(SPO2)を測定するための血中酸素飽和度測定器(図示せず)と、被験者Hのいびき(気管音)を測定するための集音装置(図示せず)と、被験者Hの脈拍測定用の脈拍計(図示せず)とを備えている。したがって、総合判定部6では、呼吸運動検出部4により得られた呼吸運動情報と姿勢検出部5より得られた姿勢情報だけではなく、上記の両温度センサと、血中酸素飽和度測定器と、集音装置と、脈拍計とから得られる情報を用いて総合的な呼吸運動の判定を行うように構成されている。
上記の血中酸素飽和度測定器は、AHIと同様に、睡眠時無呼吸症候群を判定する指標となる無呼吸動脈血酸素飽和度低下指数(ODI〔Oxygen Desaturation index〕)を算出するためのものである。このODIは、睡眠1時間あたり血中酸素濃度が何回低下したかを指す指標であり、5以上であれば、睡眠時無呼吸症候群であると判定される。尚、血中酸素濃度の低下のカウントは、血中酸素濃度が3〜4%低下し、低下する直前と同等レベルに戻るまでを1回とカウントすることによって行うのが一般的である。
尚、上記の被験者Hの口による呼吸運動検出用の温度センサと、脈拍計とは必ずしも必要ではないが、睡眠時無呼吸症候群の判定の際には、鼻フローと、SPO2と、いびきの3つのデータを計測しなければならないと薬事法で定められているため、鼻フロー用の温度センサと、血中酸素飽和度測定器と、いびき測定用の集音装置は必須である。
以下に本実施形態の呼吸運動検出装置1について詳細に説明する。
加速度センサ2aは、互いに直交する3方向における加速度を検出可能な3次元の加速度センサ(3軸加速度センサ)であり、このような加速度センサとしては、例えば、小型で低消費電力なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を利用したピエゾ抵抗型の加速度センサ等を用いることができる。そして、このような加速度センサ2aによれば、図5(a)に示すように、互いに直交する3方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)の加速度(すなわち3次元の加速度)に対応する出力(電圧値)が得られ、この出力が3次元の加速度データとして用いられる。一方、加速度センサ2bは、加速度センサ2aと同様のものを用いているため、加速度センサ2bの説明は省略する。
そして、加速度センサ2aは、図2(a)に示すように被験者Hの胸部に装着され、加速度センサ2bは、図2(a)に示すように被験者Hの腹部に装着される。このとき、各加速度センサ2a,2bは、図2(a),(b)に示すように、水平面内において仰臥(仰向け)姿勢にある被験者Hの身長方向と略平行な方向がY軸方向(頭部側を正側、足部側を負側とする)、水平面内において前記身長方向(Y軸方向)と直交する方向である被験者Hの幅方向がX軸方向(左肩側を正側、右肩側を負側とする)、水平面の法線と平行な方向がZ軸方向(背面側を正側、前面側を負側とする)となるように被験者Hに装着されている。
フィルタ部3aは、図3に示すように、加速度センサ2aの各出力を、直流成分と交流成分とに分けて出力する成分抽出用フィルタ30と、成分抽出用フィルタ30により抽出された交流成分から高周波ノイズを除去するためのノイズフィルタ31とで構成されている。そして、成分抽出用フィルタ30により抽出された直流成分は姿勢検出部5に、ノイズフィルタ31を通過した交流成分は呼吸運動検出部4に、それぞれ出力されるようになっている。ここで、成分抽出用フィルタ30としては、オペアンプを用いたバンドパスフィルタ等を用いることができ、ノイズフィルタとしては、加速度センサ2aの交流成分を通過させ、高周波を遮断するローパスフィルタ(例えば、生体力学のデータ処理にてよく用いられるbryantのフィルタ等)を用いることができる。尚、本実施形態では、加速度センサ2aの各出力を直流成分と交流成分に分けているが、この直流成分は、交流成分に比べて大きいため、加速度センサの各出力をそのまま直流成分として用いるようにしてもよい。
一方、フィルタ部3bは、フィルタ部3aと同様の構成のものであり、加速度センサ2bの各出力の交流成分を呼吸運動検出部4に、加速度センサ2bの各出力の直流成分を姿勢検出部5にそれぞれ出力するように構成されている。
呼吸運動検出部4は、各フィルタ部3a,3bより得られた各加速度センサ2a,2bの出力の交流成分を用いて、呼吸運動の検出処理を行い、各加速度センサ2a,2bより得た呼吸運動に関する情報を総合判定部6に出力するように構成されている。このような呼吸運動検出部4は、例えばCPU等を備えており、図1に示すように、1次元化手段4aと、有効ピーク検出手段4bと、呼吸運動検出手段4cとをソフトウェア等により実現している。
ところで、睡眠時無呼吸症候群の検査においては、エポックと称する時間単位が用いられており、1エポックは、30秒、1分、2分のいずれかとするのが一般的である。したがって、本実施形態の呼吸運動検出装置1では、30秒を1エポックとし、呼吸運動検出部4では、3次元の加速度データを、20エポック(すなわち10分)毎に処理するようにしている。
1次元化手段4aは、時系列順に並べられた加速度センサ2aの各出力の交流成分からなる3次元の加速度データを元にデータ処理を行うことで、1次元の加速度データを生成する1次元化過程を行うものであり、以下に、この1次元化手段4aによる具体的な加速度センサのデータ処理方法について、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
1次元化手段4aにより行われる加速度センサのデータ処理方法は、3次元の加速度センサより得られた3次元の加速度データを元に加速度の変動の主軸(すなわち運動の主方向)を算出する主軸算出過程と、該主軸算出過程で算出した主軸上に3次元の加速度データを投影することで、1次元の加速度データを生成する1次元データ生成過程とで構成されている。そして、1次元化手段4aにより生成された1次元の加速度データは、有効ピーク検出手段4bに出力される。
主軸算出過程は、3次元の加速度センサより得られた3次元の加速度データを元に、加速度の変動の主軸を算出する過程であり、図4のフローチャートに示すステップS1〜S3からなる。
ここで、被験者に装着された3次元の加速度センサから得られる3次元の加速度データは、図5(a)に示すように、一見複雑な変化を示しているように見えるが、ある方向から見れば、図5(b)に示すように、平面内の運動であるとみなすことができる。つまり、3次元の加速度データの近似平面を求めれば、3次元の加速度データを2次元の加速度データに変換することができる。したがって、主軸算出過程では、上記の点に注目して主軸の算出を行うようにしている。
ステップS1は、3次元の加速度データを元に近似平面を算出する過程であり、以下にステップS1における近似平面の算出方法について説明する。ステップS1では、まず3次元の加速度データのうち任意の点(少なくとも3つ以上の点で、且つ時系列的に並んだデータであることが好ましい)を用いて法線ベクトルを算出する。例えば、3次元の加速度データのうち時系列的に並んだ任意の3つの点を、A1=(x1、y1、z1)、A2=(x2、y2、z2)、A3=(x3,y3,z3)とすると、これらの点A1,A2,A3を通る平面の法線ベクトルMは、外積を用いて式(1)のように表される。
ここで、3次元の加速度データのデータ数がn(nは整数)であれば、n−2本の法線ベクトルMが得られる。
次に、このようにして得られた法線ベクトルMの平均を算出することで、近似平面の法線ベクトルW=(xn,yn,zn)を求め、この後に法線ベクトルWにそれぞれ直交するベクトルU,V(但しベクトルU≠ベクトルV)を求める。ここでベクトルU,Vは、例えばそれぞれ式(2),(3)で表すことができる。
次のステップS2は、ステップS1にて算出した法線ベクトルWを有する近似平面に、3次元の加速度データを投影することで、2次元の加速度データを生成する過程であり、以下にステップS2における2次元の加速度データの生成方法について説明する。
このステップS2では、ステップS1で得たベクトルU,V,Wの単位ベクトルを算出し、この単位ベクトルを元にしてXYZ座標系上の任意の点P=(px,py,pz)を、UVW座標系上の点P’=(pu,pv,pw)に変換する行列Tを求める。このような行列Tは、式(4)で示すような、UVW座標系上の点P’=(pu,pv,pw)をXYZ座標系上の点P=(px,py,pz)に変換する行列Sの逆行列として求めることができる(式(5)参照)。
上記の行列Tを用いることによりXYZ座標系の点PをUVW座標系に変換した(投影した)点P’を求めることができ、ここで、点P’においてpwを無視することで(つまりW軸を無視して、U,V軸のみの平面とみなすことで)、2次元のデータ(pu,pv)が得られる。
したがって、XYZ座標系の3次元の加速度データを、行列TによりUVW座標系に投影し、このUVW座標系に投影した3次元の加速度データにおいてU軸上の点と、V軸上の点のみを抽出することで、図6(a)に示すような2次元の加速度データ(u,v)を得ることができる(図6(a)では、10エポック分の2次元の加速度データの一例を示している)。
ステップS3は、ステップS2で生成した2次元の加速度データ(図6(a)参照)を元に、主軸として用いる近似直線を求める計算を行う過程であり、以下にステップS3における近似直線の計算方法について説明する。このステップS3では、2次元の加速度データ(u,v)を用いて最小二乗法近似を行うことで、図7に示すような近似直線Lを求め、この近似直線の方向を主軸の方向として用いる。
ところで、上記のような主軸は、1分程度の短い時間でも変化するという結果が得られている。例えば、図6(a)は、5分間(10エポック間)の2次元の加速度データ(u,v)の時間変化を示しているが、図6(a)中にE1で示す2エポック間の加速度の変化は、図6(b)に示すようになっており、図6(b)では、矢印a1で示す方向が主軸の向きであると考えられる。一方、図6(a)中にE2で示す2エポック間の加速度の変化は、図6(c)に示すようになっており、図6(c)では、矢印a2で示す方向が主軸の向きであると考えられる。同様に、図6(a)中にE3で示す2エポック間の加速度の変化は図6(d)に、図6(a)中にE4で示す2エポック間の加速度の変化は図6(e)に、図6(a)中にE5で示す2エポック間の加速度の変化は図6(f)に、それぞれ示すようになっており、図6(d)〜(f)のそれぞれにおいて矢印a3〜a5で示す方向が主軸の向きであると考えられる。
図6(b)〜(f)の矢印a1〜a5を見れば明らかなように、1分間のような短い時間であっても、加速度の軌跡(主軸の向きや、楕円の長さや幅等の形状)は大きく変化していることがわかる。かかる点に鑑みれば、ステップS3にて行う主軸の算出は、ステップS1にて行う近似平面の算出よりも、より短い時間間隔で行うことが好ましい。
そのため、本実施形態では、ステップS3では、1エポック毎に2次元の加速度データ(u,v)を元に主軸を算出するようにしている。
ここで、所定時間内(本実施形態では1エポック内)における2次元の加速度データ(u,v)を、(u1,v1)、(u2,v2)、(u3,v3)、・・・(ui,vi)の集合、nを2次元の加速度データの数とすれば、図7に示すように、近似直線Lは、v=au+bで与えられ、この係数a,bは、次式(6)で定義される。尚、i,nはともに整数であり、n≦iである。
したがって、係数a,bは、逆行列を計算すれば次式(7)のように表すことができる。
そして、このようにして得られた係数aを用れば、近似直線v=au+bの方向ベクトルR=(s,t)は、次式(8)で表すことができる。
このようにして得られた方向ベクトルR=(s,t)が、加速度の変動の主軸の方向ベクトルとして用いられる。
主軸算出過程は、以上述べたステップS1〜S3からなり、これらステップS1〜S3により、3次元の加速度データを元に、加速度の変動の主軸が算出される。
一方、1次元データ生成過程は、上記の主軸算出過程で算出した主軸上に3次元の加速度データを投影することで1次元の加速度データを生成する過程であり、図4のフローチャートに示すステップS4からなる。すなわちステップS4では、ステップS3で得られた方向ベクトルR=(s,t)を用いて2次元の加速度データ(ui,vi)を1次元化することで(すなわち、2次元の加速度データ(ui,vi)を近似直線上に投影することで)、次式(9)で表される1次元の加速度データriを生成する。
これにより所定の1エポック間の1次元の加速度データriが得られ、全エポック間のデータを時系列順につなぎ合わせることで、図8に示すような、1次元の加速度データrが得られる。尚、図8では、2エポック分の1次元の加速度データrの一例を示している。
1次元化手段4aにより得られた1次元の加速度データrによれば、図8に示すように、2次元の加速度データ(u,v)が、ともにゼロを中心として振動するような波形であっても、従来の図14(a)に示す1次元の加速度データNとは異なり、波形の凹凸(波)の数が2倍程度に多くなってしまったりすることがなく、3次元の加速度データが1次元の加速度データに正しく反映されていることがわかる。また、図14(a)に示す1次元の加速度データNとは異なり、元の加速度データの波形に比べて振幅が小さくなってしまうことがなく、これによりノイズ等による振動の影響を小さくできる。
さらに、図8においてC1で示す区間のように、2次元の加速度データ(u,v)の各波形間において位相がずれているような場合であっても、従来の図14(b)に示す1次元の加速度データNとは異なり、互いに打ち消しあって振幅が小さくなってしまうことがなくなっている。そのため、図8中においてC1で示すように2次元の加速度データ(u,v)の各波形において振幅が大きい区間と、C2で示すように2次元の加速度データ(u,v)の各波形において振幅が小さい区間とが、1次元の加速度データrの振幅に高精度に反映されている。
このように本実施形態の1次元化手段4aにおける加速度センサのデータ処理方法によれば、従来のように多次元の加速度データのノルムを計算して1次元の加速度データを生成するのではなく、多次元の加速度データを元に加速度の変動の主軸を算出し、この主軸上に多次元の加速度データを投影することで、加速度の変動の主軸、すなわち運動の主方向を考慮した1次元の加速度データを生成しているので、単に多次元の加速度データのノルムを計算するものとは異なり、加速度の変動が高精度に反映された1次元の加速度データを得ることができるという効果を奏する。
また、この1次元化手段4aでは、主軸算出過程が、所定時間毎(本実施形態では1エポック毎)に行われているので、所定時間毎に算出しなおした主軸を用いて1次元の加速度データが生成され、これにより運動の主方向が時間的に変化するような場合でも、加速度の変動が高精度に反映された1次元の加速度データを得ることができるという効果を奏する。
以上述べた1次元化手段4aにより生成された1次元の加速度データは、有効ピーク検出手段4bに出力される。
有効ピーク検出手段4bは、1次元化手段4aによる1次元化過程で生成した1次元の加速度データを元にして、1次元の加速度データの変動のピークを検出し、該検出したピークの中から、ピーク間の強度差が所定の閾値以上のピークを有効ピークとして検出する有効ピーク検出過程を行うものである。ここで、有効ピーク検出過程は、1次元化手段4aより得た1次元の加速度データの変動のピークを検出するピーク検出処理と、該ピーク検出処理により検出したピークの中から、呼吸運動検出手段4cにおいて検出する呼吸運動、例えば、無呼吸や、呼吸の強さ(呼吸の強度)、呼吸数等を検出するために有効に用いることができるピークを有効ピークとして選出する有効ピーク選出処理と、該有効ピーク選出処理により得られた有効ピークを整列処理する有効ピーク整列処理とで構成されている。また、有効ピーク検出手段4bは、1次元の加速度データより得た有効ピーク情報を呼吸運動検出手段4cに送るように構成されている。
ピーク検出処理は、1次元の加速度データrの変動のピークを検出する過程であり、微分値の正負が反転する点(換言すれば、前後の点よりも大きい点又は前後の点よりも小さい点)をピークであると判断する。そしてピークであると判断した際には、その点に関する情報が、すなわちその点における加速度データの値(これをピークの強度とする)と、その点における時刻と、ピークの種類(山ピーク又は谷ピーク)とが、ピークP1(j)として記憶される(但し、jは整数)。
以下に、ピーク検出処理によるピークの検出方法について、図9(a)に示すような点d1〜点d22からなる1次元の加速度データを参照して説明する。尚、以下の説明では、点dn(n=1〜22)における加速度データをrdn(≧0)で表すとする。また尚、説明の簡略化のために、点d1及び点d22はピークではないとする。
ピーク検出処理によれば、まず、点d2がピークであるか否かの判断が行われる。ここで、rd2−rd1>0、rd3−rd2>0であるから、点d2はピークとして判断されない。次に点d3に着目してピークの判断が行われ、点d3に関しては、rd3−rd2>0,rd4−rd3<0であるから、点d3はピークとして判断される。また、点d3に対応する加速度データrd3の値は、前後の点d2,d4にそれぞれ対応する加速度データrd2,rd4の値よりも大きいので、山ピークであると判断される。そして、点d3に関する情報である加速度データrd3の値と、点d3における時刻と、山ピークであるという情報とが、ピークP1(k)として記憶される(但し、kは整数)。
次に点d4に着目してピークの判断が行われ、点d4に関しては、rd4−rd3<0、rd5−rd4<0であるから、点d4はピークとして判定されない。同様にして、点d5〜d7もピークとして判定されない。
一方、点d8に関しては、rd8−rd7<0,rd9−rd8>0であるから点d8はピークとして判断される。このとき、点d8に対応する加速度データrd8の値は、前後の点d7,d9にそれぞれ対応する加速度データrd7,rd9の値よりも小さいので、谷ピークであると判断される。そして、点d8は、加速度データrd8の値と、時刻と、山ピークであるという情報とが、ピークP1(k+1)として記憶される。
以後、同様の処理が繰り返されることになり、その結果、点d10は、山ピークであると判断されて、加速度データrd10の値と、時刻と、山ピークであるという情報とが、ピークP1(k+2)として記憶される。また、点d12は谷ピークであると判断されて、加速度データrd12の値と、時刻と、谷ピークであるという情報とが、ピークP1(k+3)として記憶される。さらに、点d15は、山ピークであると判断されて、加速度データrd15の値と、時刻と、山ピークであるという情報とが、ピークP1(k+4)として記憶される。加えて、点d17は、谷ピークであると判断されて、加速度データrd17の値と、時刻と、山ピークであるという情報とが、ピークP1(k+5)として記憶され、点d19は、山ピークであると判断されて、加速度データrd19の値と、時刻と、山ピークであるという情報とが、ピークP1(k+6)として記憶される。尚、残りの点d9,d11,d13,d14,d16,d18,d20,d21はピークとして判断されない。
このようにしてピーク検出処理を行った結果、図9(a)に示すような点d1〜点d22からなる1次元の加速度データより、図9(b)に示すように、ピークP1(k),P1(k+1),P1(k+2),P1(k+3),P1(k+4),P1(k+5),P1(k+6)が得られることになる。
以上述べたように、ピーク検出処理によれば、1次元の加速度データにおいてピークと判定された点の情報(ピーク強度と、時刻と、ピークの種類)を有するピークP1(j)が得られるのである。
有効ピーク選出処理は、ピーク検出処理により検出したピーク、すなわちピークP1(j)の中から、呼吸運動を検出するために有効に用いることができるピークを有効ピークP2(l)として選出する過程である(但し、lは整数)。
この有効ピーク選出処理では、呼吸運動を検出するために有効に用いることができるピークのみを選出するために、ピークが有効ピークとして適しているか否かの判定を行っており、有効ピークの判定は、着目したピークの振幅(該着目したピークと、最後に有効ピークであると判定されたピークとの加速度データの値の差、換言すればピークの強度差)が、所定の閾値dA以上であるか否かによって有効ピークの仮判定を行う1次判定過程と、1次判定過程で有効ピークとして判定されたピークが真に有効ピークとして適しているか否かが判定される2次判定過程とからなる。
上記の1次判定過程は、上述したように着目したピークの振幅が、閾値dA以上であるか否かによって、着目したピークが有効ピークとして適しているか否かの判定を行う過程であり、ピーク検出処理により検出したピークP1(j)に対して順次行われる。ここで、着目したピークの振幅が閾値dA以上であれば、着目したピークを有効ピークとして判定して次のピークの判定に移り、着目したピークの振幅が閾値dA未満であれば、2次判定過程が開始されるようになっている。尚、一番初めのピークP1(1)に対しては、比較対象となるピークが存在しないため、1次判定過程では、ピークP1(1)は有効ピークとして判定するようにしている。
上記の閾値dAは、1次元の加速度データにおいて、そのピークが被験者の通常の呼吸によるものか、又は低呼吸や無呼吸等の他の要因によるものかを判断するための値である。
そして閾値dAとしては、AASM(アメリカ睡眠学会、American Academyof Sleep Medicine)により定義された無呼吸、低呼吸の判断基準となる値を用いており、AASMによれば、無呼吸、低呼吸の定義は、以下のように定義されている。
(1)睡眠中の適正に計測された呼吸の振幅がベースラインより50%以下低下する。
(2)振幅の低下は50%未満だが、酸素飽和度が3%以上低下する。又は、覚醒する。
(3)(1)又は(2)が10秒以上継続する。
ここで、上記のベースラインは、判定しようとする区間の直前2分間の平均振幅であるが、2分間の間に無呼吸区間が含まれる場合は、直前3呼吸の平均振幅で代用するとされている。
したがって、閾値dAとしては、有効ピークを選出しようとするエポックの直前2分間(換言すれば直前の4エポック間)の1次元の加速度データにおける平均振幅の1/2の値(50%の値)を用いている。ここで、1次元の加速度データのはじめの(1番目の)エポックでは、その2分前のエポックに該当するデータが存在しないため、閾値dAとしては、1次元の加速度データの最大値から最小値を減じたものに0.01を乗じた値を用いている。また、2番目〜4番目のエポックでは、1次元の加速度データが2分間に満たないので、直前のエポック全ての1次元の加速度データにおける平均振幅の1/2の値を用いている。尚、本実施形態の有効ピーク検出手段4bでは、1番目〜4番目のエポックを除いては、有効ピークを選出しようとするエポックの直前2分間の1次元の加速度データにおける平均振幅の1/2の値を閾値dAとして用いているが、直前2分間の間に無呼吸区間が含まれる場合は、AASMの定義に倣って、直前の3つの呼吸(ピーク)の平均振幅で代用することが望ましい。
一方、2次判定過程は、1次判定過程により、着目したピークの振幅が閾値dA未満であると判断された際に開始され、着目したピークと、最後に有効ピークとして判定されているピークとのどちらが有効ピークとして適しているかを判定する過程である。
以下に、2次判定過程における具体的な有効ピークの判定方法について説明する。すなわち、2次判定過程では、最後に判定した有効ピークの1つ前の有効ピーク(すなわち有効ピークであることが確定している有効ピーク)と最後に判定した有効ピークとの強度差(以下、説明の簡略化のため強度差I1と略記する)と、最後に判定した有効ピークの1つ前の有効ピークと着目しているピークとの強度差(以下、説明の簡略化のため強度差I2と略記する)との大小を比較することで、最後に有効ピークとして判定されているピークと着目しているピークとのどちらが有効ピークとして適しているかを判定する。
ここで、強度差I1が強度差I2以上であれば、着目しているピークよりも最後に判定した有効ピークのほうが有効ピークとして適していると判定し、着目しているピークを有効ピークの候補から除外する。一方、強度差I1が強度差I2未満であれば、最後に選出した有効ピークよりも着目しているピークのほうが有効ピークとして適していると判定し、最後に判定した有効ピークの代わりに、着目しているピークを有効ピークとして採用する。尚、強度差I1が強度差I2を超過した際に、着目しているピークを有効ピークの候補から除外し、強度差I1が強度差I2以下であれば、最後に判定した有効ピークの代わりに、着目しているピークを有効ピークとして採用するようにしてもよい。つまり、強度差I1と強度差I2が同値となった際の処理は、状況に応じて適宜変更すればよいのである。
このような2次判定過程によれば、元来一つであるはずのピークが割れ等により2つに割れた際等であっても、ピークを正しく評価することが可能になる。
以下に、1次判定過程及び2次判定過程による有効ピークの判定方法について図9(b)を参照してさらに詳細に説明する。ここで、既にピークP1(k)が有効ピークP2(m)として選出されており、ピークP1(k)とピークP1(k+1)との強度差をh1、ピークP1(k+1)とピークP1(k+2)との強度差をh2、ピークP1(k+2)とピークP1(k+3)との強度差をh3、ピークP1(k+1)とピークP1(k+3)との強度差をh4、ピークP1(k+1)とピークP1(k+4)との強度差をh5、ピークP1(k+2)とピークP1(k+4)との強度差をh6、ピークP1(k+4)とピークP1(k+5)との強度差をh7、ピークP1(k+1)とピークP1(k+5)との強度差をh8、P1(k+4)とP1(k+6)との強度差をh9とする。また、強度差h1,h2,h9は、閾値dA以上であり、強度差h3,h7は閾値dA未満であるとし、さらに、強度差h2は強度差h4より大きく、強度差h5は強度差h2,h8より大きいとする。
まず、1次判定過程により、ピークP1(k+1)が有効ピークとしての条件を満たしているかが判定される。この判定は、上述したように着目したピークP1(k+1)の振幅、すなわちピークP1(k+1)と、最後に選出した有効ピークP1(k)との強度差h1が、所定の閾値dA以上であるか否かによって行われる。ここで、強度差h1は所定の閾値dA以上であるから、ピークP1(k+1)は有効ピークであると判定されて、有効ピークP2(m+1)として記憶される。このとき、強度差h1は所定の閾値dA以上であるから2次判定過程は行われない。
次に、ピークP1(k+2)に着目して1次判定過程が行われ、ここで、ピークP1(k+2)と、最後に検出した有効ピークP2(m+1)であるピークP1(k+1)との強度差h2は、所定の閾値dA以上であるから、ピークP1(k+2)は、有効ピークP2(m+2)として記憶される。このとき、強度差h2は所定の閾値dA以上であるから上記の場合と同様に2次判定過程は行われない。
この後に、ピークP1(k+3)に着目して1次判定過程が行われる。ここで、ピークP1(k+3)と、最後に検出した有効ピークP2(m+2)であるピークP1(k+2)との強度差h3は、所定の閾値dA未満であるから、2次判定過程が行われることになる。
そして、2次判定過程では、最後に判定した有効ピークP2(m+2)の1つ前の有効ピークP2(m+1)と最後に判定した有効ピークP2(m+2)との強度差、すなわちピークP1(k+1)とピークP1(k+2)との強度差h2と、有効ピークP2(m+1)と着目しているピークP1(k+3)との強度差、すなわちピークP1(k+1)とピークP1(k+3)との強度差h4との大小が比較される。このとき、強度差h2>強度差h4であるから、ピークP1(k+3)は、有効ピークの候補から除外されることになる。尚、強度差h2<強度差h4であれば、ピークP1(k+2)の代わりにピークP1(k+3)が有効ピークP2(m+2)として採用される。
次に、ピークP1(k+4)に着目して1次判定過程が行われ、ここでピークP1(k+4)と、最後に検出した有効ピークP2(m+2)であるピークP1(k+2)との強度差h6は、所定の閾値dA未満であるから、2次判定過程が行われることになる。
そして、2次判定過程では、最後に判定した有効ピークP2(m+2)の1つ前の有効ピークP2(m+1)と最後に判定した有効ピークP2(m+2)との強度差、すなわちピークP1(k+1)とピークP1(k+2)との強度差h2と、有効ピークP2(m+1)と着目しているピークP1(k+4)との強度差、すなわちピークP1(k+1)とピークP1(k+4)との強度差h5との大小が比較される。このとき、強度差h5>強度差h2であるから、ピークP1(k+2)の代わりにピークP1(k+4)が有効ピークP2(m+2)として採用される。尚、強度差h2>強度差h4であれば、ピークP1(k+4)は、有効ピークの候補から除外されることになる。
この後に、ピークP1(k+5)に着目して1次判定過程が行われ、ここで、ピークP1(k+5)と、最後に検出した有効ピークP2(m+2)であるピークP1(k+4)との強度差h7は、所定の閾値dA未満であるから、2次判定過程が行われることになる。
そして、2次判定過程では、最後に判定した有効ピークP2(m+2)の1つ前の有効ピークP2(m+1)と最後に判定した有効ピークP2(m+2)との強度差、すなわちピークP1(k+1)とピークP1(k+4)との強度差h5と、有効ピークP2(m+1)と着目しているピークP1(k+5)との強度差、すなわちピークP1(k+1)とピークP1(k+5)との強度差h8との大小が比較される。このとき、強度差h5>強度差h8であるから、ピークP1(k+5)は、有効ピークの候補から除外されることになる。尚、強度差h5<強度差h8であれば、ピークP1(k+4)の代わりにピークP1(k+5)が有効ピークP2(m+2)として採用される。
最後に、ピークP1(k+6)に着目して1次判定過程が行われ、ここで、ピークP1(k+6)と、最後に検出した有効ピークP2(m+2)であるピークP1(k+4)との強度差h9は、所定の閾値dA以上であるから、ピークP1(k+6)は、有効ピークP2(m+3)として記憶される。このとき、強度差h9は所定の閾値dA以上であるから2次判定過程は行われない。
このようにして有効ピーク選出処理を行った結果、図9(b)に示すように、ピーク検出処理により検出されたピークP1(k),P1(k+1),P1(k+2),P1(k+3),P1(k+4),P1(k+5),P1(k+6)の中から、図10(a)に示すように、ピークP1(k),P1(k+1),P1(k+4),P1(k+6)が、それぞれ有効ピークP2(m),P2(m+1),P2(m+2),P2(m+3)として選出されることになる。
以上述べたように、有効ピーク選出処理によれば、1次判定過程と2次判定過程とが行われることで、ピーク検出処理により検出したピークP1(j)の中から、有効ピークP2(l)を選出することができるのである。
有効ピーク整列処理は、有効ピーク選出処理により得られた有効ピークP2(l)を整列処理する過程である。ここで、整列処理とは、有効ピークP2(l)を、山ピークと谷ピークとが交互に並んだ状態、すなわち異種のピークが交互に並んだ状態にする処理であり、同種ピーク検出過程と、ピーク除去過程とで構成されている。
同種ピーク検出過程は、各有効ピーク2(l)のピークの種類を参照し、ピークの種類が同じ有効ピークが並んでいる際に、これらピークの種類が同じ有効ピークを同種ピークとして検出する過程であり、例えば図10(a)に示すような有効ピークP2(m),P2(m+1),P2(m+2),P2(m+3)では、有効ピークが、山、谷、山、山の順に並んでいるため、ピークの種類(ここでは山ピーク)が同じである有効ピークP2(m+2),P(m+3)を同種ピークとして検出する。
ピーク除去過程は、同種ピーク検出過程により検出した同種ピークのうち1つのみを残して残りを除去する(間引く)処理を行い、有効ピークP3(o)を生成する(但し、oは整数)。ここで、同種ピークのうち1つだけ残すピークの選択方法としては、直前の異種のピークとの強度差を比較して、強度差が一番大きいピークのみを残す方法を採用している。例えば、図10(a)に示す場合であれば、同種ピークである有効ピークP2(m+2),P2(m+3)に対して直前の異種のピークとなる有効ピークP2(m+1)と、各有効ピークP2(m+2),P2(m+3)との強度差を比較し、強度差が大きいほうを残して、小さいほうを除去する。この場合、有効ピークP2(m+1)と有効ピークP2(m+2)との強度差H1は、有効ピークP2(m+1)とP2(m+3)との強度差H2よりも小さいため、有効ピークP2(m+3)が残されて、有効ピークP2(m+2)が除去されることになる。
したがって、ピーク除去処理を行った結果、図10(a)に示すように、有効ピーク選出処理により選出された有効ピークP2(m),P2(m+1),P2(m+2),P2(m+3)の中から有効ピークP2(m+2)が除去されて、ピークP2(m),P2(m+1),P2(m+3)からなる有効ピークP3(p),P3(p+1).P3(p+2)が得られる(但し、pは整数)。
このような有効ピーク整列処理は、2回行うようにしてある。すなわち、上記の有効ピークP3(o)に対して、再度、同種ピーク検出過程及びピーク除去過程を行うようにしてあり、これにより図11に示すような、確実に異種のピークが交互に並んだ有効ピークP4(q)を得ることができる(但し、qは整数)。
そして、このようにして得られた有効ピークP4(q)は、呼吸運動検出手段4cに出力される。
呼吸運動検出手段4cは、図11に示すような、有効ピーク検出手段4bより出力された有効ピークP4(q)を用いて呼吸運動を検出する呼吸運動検出過程を行うものであり、呼吸運動検出過程は、無呼吸区間の検出を行う無呼吸検出過程と、無呼吸検出過程で検出した無呼吸区間の開始時刻(すなわち呼吸停止時刻)及び終了時刻(呼吸開始時刻)を検出する無呼吸期間検出過程と、呼吸の強さを算出する呼吸強度算出過程と、単位時間当たりの呼吸数を算出する呼吸数算出過程とを有している。
無呼吸検出過程は、有効ピーク検出手段4bより得たピーク情報、すなわち有効ピークP4(q)を元に無呼吸区間を検出する過程であり、隣接する有効ピーク間の時間差(すなわち、有効ピークP4(n)と有効ピークP4(n+1)との時間差(但し、nは整数)が、基準値以上である場合に、当該隣接する有効ピーク間の区間を無呼吸区間として検出するように構成されている。例えば、図11に示すように、有効ピークP4(18)と有効ピークP4(19)との時間差D1を計算し、この時間差D1が、無呼吸区間の判断となる基準値以上であれば、有効ピークP4(18)と有効ピークP4(19)との間の区間を、無呼吸区間として認定する。そして、この無呼吸検出過程では、このようにして無呼吸が検出された際には、その回数をカウントするように構成されている。
ここで、上記の基準値は、無呼吸区間であるか否かを判断するための値であり、上述したように、本実施形態の呼吸運動検出装置1は、AHIを用いて睡眠時無呼吸症候群の判定を行うことを主目的としているので、前記基準値としては、AASMにより定義された無呼吸、低呼吸の判断基準となる値を用いている。すなわち、上述したようにAASMの定義によれば、睡眠中の適正に計測された呼吸の振幅がベースラインより50%以下低下した状態が、10秒間以上継続されたときが、無呼吸(低呼吸)であると定義されているため、上記の基準値としては10秒を用いている。
無呼吸期間検出過程は、上記無呼吸検出過程により認定した有効ピーク間の区間の開始時刻(無呼吸区間の開始時刻)と、終了時刻(無呼吸区間の終了時刻)とを検出する過程である。例えば、上記無呼吸検出過程により有効ピークP4(n)と有効ピークP4(n+1)との間の区間が、無呼吸区間であると認定された際には、無呼吸区間に対応する隣接する有効ピーク間の区間において、時系列が前の有効ピークP4(n)の時刻を無呼吸区間の開始時刻(呼吸停止時刻)として取得し、時系列が後の有効ピークP4(n+1)の時刻を無呼吸区間の終了時刻(呼吸開始時刻)として取得する。
呼吸強度算出過程は、隣接する有効ピーク間の強度差(すなわち、有効ピークP4(n)と有効ピークP4(n+1)との強度差)を用いて呼吸の強さを算出する過程であり、例えば、図11に示すように、有効ピークP4(27)と、有効ピークP4(28)との強度差を有効ピークP4(28)における呼吸の強さの指標として算出する。このようにして得られた呼吸の強さは、全ての有効ピークP4(q)について算出された後に平均が求められ、これが次のエポックにおける閾値dAの算出に用いられる。
呼吸数算出過程は、有効ピーク検出手段4bで検出した有効ピークP4(q)のうち、所定の山ピークと当該山ピークの次の山ピークとの間の時間差(例えば、有効ピークP4(2q’)が山ピークであれば、有効ピークP4(2q’)と有効ピークP4(2q’+2)との間の時間差、但しq’は整数)、又は所定の谷ピークと当該谷ピークの次の谷ピークとの間の時間差(例えば、有効ピークP4(2q’+1)が谷ピークであれば、有効ピークP4(2q’+1)と有効ピークP4(2q’+3)との間の時間差)を用いて単位時間(本実施形態では1分)当たりの呼吸数を算出する過程である。例えば、図11に示すように、谷ピークである有効ピークP4(8)と、当該有効ピークP4(8)の次の谷ピークである有効ピークP4(10)との間の時間差D3〔sec〕を算出し、60/D3の値を、単位時間当たりの呼吸数として得る。
以上述べたように、呼吸運動検出手段4cによれば、有効ピーク検出手段4bにより検出した有効ピークP4(q)を元に、無呼吸区間の有無が判断され、無呼吸区間があった場合には、その回数と各無呼吸区間の開始時刻及び終了時刻が算出されることになる。さらに、呼吸運動検出手段4cによれば、有効ピークP4(q)を元に、呼吸の強度、及び呼吸数の算出が行われ、このようにして得られた呼吸運動に関する情報が、総合判定部6へと出力されることになる。
姿勢検出部5は、フィルタ部3a,3bでそれぞれ抽出された各加速度センサ2a,2bの出力の直流成分を元に被験者の姿勢を検出し、検出した姿勢情報を、総合判定部6に出力するように構成されている。
ここで、上述したように、加速度センサ2aは被験者Hの胸部に、加速度センサ2bは被験者Hの腹部にそれぞれ装着され、各加速度センサ2a,2bは、図2(a),(b)に示すように、水平面内において仰臥姿勢にある被験者Hの身長方向と略平行な方向がY軸方向、水平面内において前記身長方向(Y軸方向)と直交する方向である被験者Hの幅方向がX軸方向、水平面の法線と平行な方向がZ軸方向となるように被験者Hに装着されている。
したがって、姿勢検出部5では、図12(a)に示すように、水平方向に対するY軸方向の角度である体幹角度θ(但し、−180°≦θ≦180°)と、図12(b)に示すように、水平面の法線と平行な方向に対するZ軸方向の角度である寝姿勢角度f(但し、−180°≦f≦180°)とを用いて姿勢の検出を行う。ここで、本実施形態の呼吸運動検出装置1において、体幹角度θの値に対する姿勢名称は、図13(a)に示すように定義されており、体幹角度θが−22.5°〜22.5°又は157.5°〜180°又は−157.5°〜−180°であれば横臥位、22.5°〜67.5°又は112.5°〜157.5°であればファウラー体位(ファーラー体位、逆トレンデレンブルグ体位)、67.5°〜112.5°であれば立位(座位)、−22.5°〜−67.5°又は−112.5°〜−157.5°であればトレンデレンブルグ体位、−67.5°〜−112.5°であれば倒立位と定義している。同様に、本実施形態の呼吸運動検出装置1において、寝姿勢角度fの値に対する姿勢名称は、図13(b)に示すように、寝姿勢角度fが−22.5°〜22.5°であれば仰臥位(背臥位)、22.5°〜67.5°であれば第一斜位(RAO〔Right Anterior Oblique Position〕)、67.5°〜112.5°であれば右上側臥位、−112.5°〜112.5°であれば伏臥位(腹臥位)、−22.5°〜−67.5°であれば第二斜位(LAO〔Left Anterior Oblique Position〕)、−67.5°〜−112.5°であれば左上側臥位と定義している。
このように姿勢検出部5では、体幹角度θ及び寝姿勢角度fを用いて被験者Hの姿勢を検出するように構成されており、以下に、各加速度センサ2a,2bの直流成分を元に、体幹角度θ及び寝姿勢角度fを算出する方法について説明する。尚、体幹角度θ及び寝姿勢角度fの算出方法は加速度センサ2a,2bで共通であるから、以下の説明では加速度センサ2aの場合についてのみ説明する。
まず、フィルタ部3aから得た加速度センサ2aの各軸(X軸、Y軸、Z軸)における直流成分を元に、重力加速度の単位ベクトルを算出する。ここで、加速度センサ2aの各軸の直流成分の出力(電圧値)を(DCx,DCy,DCz)とし、加速度センサ2aにおいて重力加速度(約9.8m/s2)に相当する出力(電圧値)をGとすると、加速度センサ2aにより重力加速度の単位ベクトルGA=(Gx,Gy,Gz)が得られ、Gx,Gy,Gzの値は、次式(10)で表される。
例えば、フィルタ部3aにより加速度センサ2aの直流成分が、10bitのデジタル信号として与えられ、デジタル信号の値が1024(2進数で1000000000)であるときの加速度センサ2aの出力値が2500mVであり、重力加速度Gに対応する値が333mVであれば、Gx=DCx×2500/(1024×333)で与えられる。
そして、上記の計算により得られた単位ベクトルGA=(Gx,Gy,Gz)を用いれば、体幹角度θは、次式(11)で表すことができる。尚、piは円周率である。
ここで、姿勢検出部5では、式(11)により得られた体幹角度θにより横臥位であると判断された場合(又は、Gy≒0である場合)に、被験者Hが寝姿勢にあると判断して、寝姿勢角度fの算出を行うようになっている。
寝姿勢角度fは、Gz及びGxの正負によって場合分けされ、Gz≧0の場合、次式(12)で表される。
また、寝姿勢角度fは、Gz<0の場合に、Gx≧0であれば次式(13)で表され、Gx<0であれば次式(14)で表される。
以上述べたように、姿勢検出部5によれば、加速度センサ2aの各軸の直流成分(DCx,DCy,DCz)より算出した単位ベクトルGA=(Gx,Gy,Gz)を用いて、体幹角度θ及び寝姿勢角度fを求めることができ、体幹角度θ及び寝姿勢角度fの値によって、被験者Hの姿勢を検出することができる。そして、姿勢検出部5では、上述した方法によって検出した加速度センサ2a,2b毎の被験者Hの姿勢を、総合判定部6に出力するように構成されている。
総合判定部6は、マイコン等が用いられており、各加速度センサ2a,2bの出力に基づき呼吸運動検出部4で検出した呼吸運動情報と、各加速度センサ2a,2bの出力に基づき姿勢検出部5で検出した姿勢情報に加えて、上述した被験者Hの鼻による呼吸運動(鼻フロー)検出用のサーミスタ等の温度センサと、被験者Hの口による呼吸運動(口フロー)検出用のサーミスタ等の温度センサと、被験者HのSPO2を測定するための血中酸素飽和度測定器と、被験者Hのいびき(気管音)を測定するための集音装置と、被験者Hの脈拍測定用の脈拍計とから得られる情報とを用いて、無呼吸の判定を行うように構成されている。また、総合判定部6は、判定結果を結果出力部7に出力するように構成されている。
以下に、総合判定部6による無呼吸の判定方法の一例について説明する。例えば、総合判定部6では、鼻フロー検出用の温度センサより得た鼻フローの停止の有無に基づいて、無呼吸区間の回数、時刻、継続時間を算出し、鼻フローによる呼吸情報と、口フローの呼吸情報、さらに呼吸運動検出部4より得た呼吸運動情報(すなわち、胸部〔加速度センサ2a〕及び腹部〔加速度センサ2b〕の呼吸運動を示す情報)と、血中酸素飽和度測定器より得たSPO2情報とを用いて、無呼吸の判定を行う。
無呼吸の判定は、鼻フロー及び口フローがいずれも停止しているかどうかによって行われ、鼻フロー及び口フローがいずれも停止している場合に、無呼吸であると判定する。そして、無呼吸であると判定した際には、呼吸運動検出部4より得た情報に基づいて無呼吸の種類の判定が行われる。すなわち、胸部及び腹部の呼吸運動が両方とも停止している場合、脳からの呼吸命令が停止していることが原因である中枢性無呼吸であると判定する。一方、胸部及び腹部の呼吸運動の波形の乱れ(呼吸運動を行ってはいるものの、規則性がなくなっているようなケース)や、胸部及び腹部の呼吸運動の位相のずれ(胸部では呼気運動を行っているのに対して腹部では吸気運動を行っているようなケース)が生じている場合、気道閉塞が原因である閉塞性無呼吸であると判定する。或いは、胸部及び腹部の呼吸運動が停止した後であって、鼻フロー及び口フローが開始する前に、胸部及び腹部の呼吸運動が開始された場合、混合性無呼吸であると判定する。
さらに、無呼吸であると判定した際には、当該無呼吸の情報に、その無呼吸区間おける被験者Hの姿勢情報が付される。これにより、被験者Hが、起きているか、寝ているかの判断や、寝る方向(仰向けや横寝等)により無呼吸の出現を低減できる可能性について評価することが可能となる。
また、各無呼吸(中枢性無呼吸、閉塞性無呼吸、混合性無呼吸)の回数を被験者Hの睡眠時間で割ることで、1時間当たりの無呼吸(低呼吸)の回数、すなわちAHIを算出するとともに、SPO2の低下回数を被験者Hの睡眠時間で割ることで、1時間当たりのSPO2低下回数、すなわちODIを算出する。そして、これらAHI及びODIの各数値を元に、睡眠時無呼吸症候群の重症度の判定を行う。
ここで、被験者Hの睡眠時間としては、データ取得期間のうち、姿勢検出部5によって被験者Hの姿勢が、上述したように寝姿勢にあると判断された期間(すなわち、寝姿勢角度fの算出が行われた場合)の累計時間を用いている。
尚、被験者Hの睡眠時間は、上記のように被験者Hが寝姿勢にある累計時間により評価しても良いが、脈拍計により求めた心拍数や、加速度センサ2a,2bの出力の変動の頻繁さ等から求めた体動等を用いて、データ取得期間内における被験者Hの覚醒状態、レム睡眠状態、及び睡眠段階(スリープステージ)1〜4からなるノンレム睡眠状態の推定を行うことで睡眠の区間を判断し、データ取得期間内において被験者Hが覚醒している期間を除いた期間の累計時間を睡眠時間として用いることが望ましい。
以上述べた判定方法により、中枢性無呼吸と、閉塞性無呼吸と、混合性無呼吸とが、被験者Hの睡眠時間において発生した回数と、AHI及びODIの数値と、AHI及びODIにより判定した睡眠時無呼吸症候群の重症度とが得られ、総合判定部6は、これらの結果を、結果出力部7に出力するように構成されている。また、総合判定部6は、呼吸運動検出部4により得た呼吸運動の情報、すなわち、無呼吸区間と、当該無呼吸区間の開始時刻である呼吸停止時刻と、無呼吸区間の終了時刻である呼吸開始時刻と、被験者Hの呼吸の強さと、被験者Hの単位時間当たりの呼吸数とを、結果出力部7に出力するように構成されている。さらに、総合判定部6は、被験者Hのいびき(気管音)を測定するための集音装置と、被験者Hの脈拍測定用の脈拍計とから得られる情報を結果出力部7に出力するように構成されている。
結果出力部7は、呼吸運動検出装置1をPC等の外部装置(図示せず)に接続するためのものであり、総合判定部6により得られた結果を、外部装置に出力するように構成されている。
本実施形態の呼吸運動検出装置1は、上述した3次元の加速度センサ(3軸の加速度センサ)2a,2bと、各加速度センサ2a,2bの出力から交流成分(AC成分)と直流成分(DC成分)とを取り出すフィルタ部3a,3bと、加速度センサ2a,2bの交流成分を元にして呼吸運動の検出を行う呼吸運動検出部4と、加速度センサ2a,2bの直流成分を元にして被験者Hの姿勢の検出を行う姿勢検出部5と、呼吸運動検出部4と姿勢検出部5より得られた情報に基づいて総合的な呼吸運動の判定を行う総合判定部6と、総合判定部6で得られた結果をPC等の外部装置(図示せず)に出力する結果出力部7とを主な構成要素として有している。
呼吸運動検出装置1において、上記の呼吸運動検出部4の1次元化手段4aで用いた加速度センサのデータ処理方法によれば、上述したように、加速度の変動が高精度に反映された1次元の加速度データを得ることができるという効果を奏し、しかも主軸が時間的に変化するような場合でも、加速度の変動が高精度に反映された1次元の加速度データを得ることができるという効果を奏する。尚、主軸を算出しなおす時間間隔としては、上記の1エポックに限られるものではなく、加速度センサが取着される物体や、場所に応じて好適な値に設定すればよい。
そして、呼吸運動検出部4によれば、1次元化手段4aで生成した1次元の加速度データを元にして1次元の加速度データの変動のピークを検出し、該検出したピークの中から、ピーク間の強度差が所定の閾値以上のピークを有効ピークとして検出する有効ピーク検出手段4bと、該有効ピーク検出処理により得られた有効ピークを用いて呼吸運動を検出する呼吸運動検出手段4cとを有し、これらにより加速度の変動が高精度に反映された1次元の加速度データを用いて呼吸運動の検出を行うから、呼吸運動の高精度な検出が行えるという効果を奏する。
また、呼吸運動検出部4では、1次元化手段4aで生成した1次元の加速度データから、無呼吸状態又は低呼吸状態が規定時間以上継続していることを示す無呼吸区間の有無を検出することができるという効果を奏し、また、無呼吸区間を検出した際に、当該無呼吸区間の開始時刻である呼吸停止時刻と、無呼吸区間の終了時刻である呼吸開始時刻とを得ることが可能になるという効果を奏する。さらに、呼吸運動検出部4では、被験者Hの呼吸の強さを得ることができるとともに、被験者Hの単位時間当たりの呼吸数を得ることができるという効果を奏する。
このように、本実施形態の呼吸運動検出装置1によれば、呼吸運動の高精度な検出が行えるという効果を奏する。
ところで、上記の加速度センサのデータ処理方法の発明では、主軸算出過程は、3次元の加速度データを元に近似平面を算出し、該近似平面に3次元の加速度データを投影して2次元の加速度データを生成し、該2次元の加速度データを元に近似直線を求めるように構成され、1次元データ生成過程は、2次元の加速度データを主軸算出過程で求めた近似直線上に投影することで1次元の加速度データを生成するように構成されている。しかしながら、本発明の加速度センサのデータ処理方法は、上記のものに限られるものではない。例えば、加速度センサのデータ処理方法において、主軸算出過程を、3次元の加速度データを用いて近似直線を算出し、算出した近似直線を主軸として用いるように構成し、1次元データ生成過程を、主軸算出過程で算出した主軸上に3次元の加速度データを投影することで、1次元の加速度データを生成するように構成してもよい。すなわち、本実施形態の加速度センサのデータ処理方法では、3次元の加速度データから2次元の加速度データを生成した後に、1次元の加速度データを生成しているが、3次元の加速度データから1次元の加速度データを直接的に生成するようにしてもよい。
尚、上記の例では、3次元の加速度センサを用いているが、平面内での運動であれば、2次元の加速度センサを用いるようにしてもよく、多次元の加速度センサであれば、同様の技術的思想の元にデータ処理を行うことができる。
また尚、本実施形態の加速度センサのデータ処理方法は、上述したような呼吸運動検出装置1に用いる用途に限られるものではなく、例えば車両に搭載した加速度センサのデータ処理にも用いることができ、車両の衝突試験等、特に加速度の方向が頻繁に変わることが想定される場合に有効なデータを得ることができ、主軸の変化を観察することも可能となる。