従来の市販されている家庭用冷蔵庫においては過冷却状態での保存を意図していないこともあって、食品を過冷却状態の保存することはできない。したがって、食品の保存によって旨み成分の増強が図られるとされる効果を期待することはできなかった。本実施例は食品を過冷却状態で保存するための構成及び制御を示すものである。
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。図1は、本実施例の冷蔵庫の扉を省略して示した正面図である(扉については図2あるいは図3に符号を付して示す)。冷蔵庫本体1内の最上段に冷蔵室2が、最下段に野菜室6が、それぞれ区画されている。これらの冷蔵室2及び野菜室6は冷蔵温度帯の貯蔵室である。
冷蔵室2と野菜室6との間には、これらの両室と断熱的に仕切られた貯蔵室3〜5が配設されている。これらの貯蔵室は0℃以下の冷凍温度帯の貯蔵室であり、上方の左側に製氷室3が、右側に過冷却室4が配設されている。また、左右に配設された製氷室3と過冷却室4の下側には冷凍室5が配設される。なお、本明細書においては、過冷却状態を実現可能な貯蔵室の意で過冷却室と称している。
最上段の冷蔵室2は、回転式の冷蔵室扉7によって閉塞される。回転扉は観音開き式の両開きの扉としてもよく、あるいは、一枚の扉体によって閉塞する片開きの扉としてもよい。製氷室3、冷凍室5、野菜室6は、引出し式の扉によって閉塞され、引出し扉とともに、貯蔵室内の容器が引き出される構成となっている。
製氷室3内には貯氷容器13を備え、貯氷容器の13の上方には図示しない製氷皿が配設されている。冷蔵室2内の給水タンクから製氷皿へと供給された水は、製氷室3内で凍結する。製氷皿3内で凍結した氷は、製氷皿が捻られて離氷し、下側に置かれた貯氷容器13内に落下する。製氷室3の扉8を引き出すことで貯氷容器13が引き出され、氷を取り出すことができる。
製氷室3の右側には、過冷却室4が配設されている。過冷却室4は、空間内に保存される食品を0℃より低い温度で冷却する貯蔵室であり、食品を過冷却状態に冷却可能な貯蔵室として過冷却容器24を内部に備えている。この過冷却容器24は、引出し式扉によって閉塞される構成としてもよく、回転式扉によって閉塞される構成としてもよい。
過冷却室扉9を引出し式扉とした場合には、扉を引き出すと、過冷却室扉9とともに過冷却容器24が引き出される構成とすることが望ましい。また、回転式扉とした場合には、回転式扉を引き出すと過冷却容器24が引き出される構成としてもよく、回転式扉を開いた後に、過冷却容器24を別途引き出す構成としてもよい。
冷凍室5内には冷凍室容器14〜16を備えている。冷凍室扉10を引き出すと、これらの容器14〜16の全て、あるいは一部が冷凍室扉10とともに引き出され、食品の収納あるいは取出しが可能である。なお、本実施例の冷凍室容器は、最下段の容器14が最も深く、次いで中段の容器15、そして最上段の容器16が最も浅い容器となっており、多様な収納形態に合わせ、食品収納の整理がしやすいものとしている。
野菜室6内も複数の容器を備え、野菜室扉11を引き出すと、容器が引き出される構造となっている。また、野菜室6の後方には、冷凍サイクルを構成する圧縮機21が配設される。
冷蔵室2と野菜室6との間に挟まれた製氷室3、過冷却室4、冷凍室5は、いずれも0℃以下の温度が保持される冷凍温度帯の貯蔵室であるが、過冷却室4は、後述するように、設定される温度によっては、0℃以上の冷蔵温度帯となるように構成しても差し支えない。
次に、図2及び図3を用いて冷凍温度帯の貯蔵室(製氷室3、過冷却室4、冷凍室5)の冷却のための構成について説明する。図2は図1のA−A断面図であり、図3は図1のB−B断面図である。
冷凍温度帯の貯蔵室の後方には冷却器室17が配設される。冷却器室17内には、圧縮機21とともに冷凍サイクルを構成する蒸発器18が設置され、蒸発器の上方には送風ファン20が備えられている。蒸発器18によって冷却された冷気は、送風ファン20によって冷蔵室2、製氷室3、過冷却室4、冷凍室5、野菜室6の各貯蔵室へと送られる。詳述すると、送風ファン20によって送られる冷気の一部は、開閉可能なダンパー装置19を介して冷蔵室2及び野菜室6の冷蔵温度帯の貯蔵室へと送られ、他の一部が製氷室3及び冷凍室5の冷凍温度帯の貯蔵室へと送られる。ダンパー装置19の開閉は図示しない制御装置によって制御され、冷蔵温度帯の貯蔵室への冷気の供給が必要な場合には開状態となる。過冷却室4への冷気供給については後述する。
蒸発器18から送風ファン20によって製氷室3へ送られる冷気は、図示しない製氷皿内に貯められた水を冷却して製氷を行う。その後、下方の冷凍室5へと送られる。冷凍室5の背面に位置する仕切部材22には冷気吐出口が設けられ、送風ファン20からの冷気が冷気吐出口から冷凍室5内へと吐出される。冷凍室5へ送られ、室内を冷却した冷気は、図示しない冷気戻り通路から冷却器室17へと戻される。なお、仕切部材22は冷凍室5と冷却器室17との間を仕切り、冷凍室5の背面を構成している。
蒸発器18から送風ファン20によって冷蔵室2や野菜室6へと送られる冷気は、冷蔵室2及び野菜室6を冷却後、図示しない冷気戻り通路から冷却器室17へと戻される。このように、本実施例の冷蔵庫は冷気の循環構造を有しており、各貯蔵室を適切な温度に維持する。
次に、図2を用いて過冷却室4について説明する。過冷却室4内には、過冷却容器24が配置される。過冷却容器24は、容器部材25とカバー部材27とを備えており、過冷却容器24内の貯蔵空間26に冷気が直接流入しないように構成される。過冷却室4の背面を構成する部材には冷気吐出口28が設けられており、蒸発器18からの冷気が冷気吐出口28から吹き出される。また、冷気吐出口28よりも上流側には、過冷却室4への冷気の流れを制御するためのダンパー装置41が設けられている。このダンパー装置41の開閉は図示しない制御装置によって制御され、過冷却室4への冷気供給量が制御される。
さらに、貯蔵空間26内の温度を上昇させるためにヒータ43を備えている。このヒータ43は、過冷却容器24の下方投影面に設けられており、本実施例では、過冷却容器24の底面とほぼ同程度の面積のヒータとしている。冷気吐出口28が過冷却室4の背面に設けられている関係上、貯蔵空間26内は手前側より奥側が温度が低くなってしまう傾向がある。そこで、本実施例のヒータ43は、ヒータ線密度を手前側が疎で奥側が密となるようにしている。
また、冷気吐出口28は、カバー部材27よりも上側に開口しており、過冷却室4へ吐出される冷気がカバー部材27の上方を通って前方まで導かれながら、側面及び前面から下方へと流れる。そして、過冷却容器24の周囲を冷却しながら図示しない冷気戻り通路を介して冷却器室17へと戻される。
換言すれば、過冷却室4内は冷凍温度帯の間接冷却ルームであり、該構成によって過冷却室4内に収納される飲料を過冷却状態で保存することができる。なぜなら、飲料に冷気が直接吹き付けられると、冷気の当たる部分が最も冷却されやすく、その部分から凍結が開始するからである。本例では、部分的な冷却がなるべく生じないように、過冷却室4を冷凍温度帯の間接冷却ルームとした。これによって、過冷却状態を維持しながら食品を保存可能としている。また、過冷却室4は、過冷却状態を維持するための温度帯が他の冷凍室と異なるため、製氷室3及び冷凍室5との間、及び冷蔵室2との間を断熱壁で仕切り、独立した貯蔵室としている。
次に、過冷却状態の維持及び解除について説明する。図4は水から氷へ相変化する際の温度変化を示す図である。水を冷却してゆくと、曲線に示すように温度が推移する。水は0℃で凍結を開始し、相変化過程では凍結が完了するまで0℃で推移し、凍結が完了すると周囲の温度にしたがって温度が低下してゆく。相変化過程は、氷の生成のためのエネルギーを奪う過程であり、相変化の進行中はほぼ一定の温度を保つ。この現象はよく知られているところであるが、この相変化過程(領域A)へ至る前段階として、過冷却領域が存在する。
すなわち、水を冷却し、0℃を下回ると直ちに相変化が起るのではなく、0℃より低い温度であっても液状態を保つ領域が存在する。過冷却水の準安定状態が解除されると、一部が直ちに凍結し、凍結温度(0℃)での相変化が始まる。この原理は次のように説明される。
図5は、過冷却状態における水分子のクラスターを示すイメージ図である。過冷却状態においては、複数の水分子が集まってクラスターを形成している。水分子クラスターは温度が低くなるほど大きくなる傾向があり、氷の結晶構造に徐々に近づいてゆく。そして、臨界半径を超えるほどに水分子クラスターが成長すると、氷核となる。氷核が形成されると凍結が連鎖的に進行し、相変化過程を経て完全な凍結状態に至る。
過冷却状態では、水分子クラスターが流動性を保っているため、過冷却水は液状態を維持している。過冷却状態が解除されると、氷の結晶を生成するためにマイナス温度の低温が使われ、温度は直ちに凍結温度まで上昇する。
過冷却状態が解除される原因としては、(1)温度低下によって水分子クラスターが臨界半径を超える程度に成長すること、(2)氷核を生成するための核となる不純物が存在すること、あるいは、(3)外的衝撃によって水分子クラスターが連鎖的に衝突すること、が挙げられる。したがって、飲料を過冷却状態で保存するには、これらの3点を考慮しなければならない。
本実施例の過冷却室4は、上述のように、冷凍温度の間接冷却としている。貯蔵空間26内の収納物に冷気が直接的に吹き付けられると、冷気が当たる部分の温度が低下してしまい、当該部分に氷核が形成されてしまう。このとき、凍結が始まってしまい、過冷却状態を維持することができない。したがって、上記(1)の条件を満たすために冷凍温度の間接冷却構造を採用した。
上記(2)については、純水は得られにくいこと及び実際に保存される飲料は使用者が購入するものであること等を考慮し、想定される飲料について過冷却状態を保持可能な温度を設定することとした。過冷却状態を保持するための制御については後述する。また、上記(3)については、過冷却容器24は容器部材25の上方の開口部を覆うカバー部材27を備える、あるいは後述する吸収材50等、外的衝撃を受けにくい構造とした。
過冷却室4は食品を過冷却状態に保存可能な構造を採用しているが、冷蔵庫本体1に外的な衝撃が与えられた場合や、扉7〜11を勢いよく開閉した場合などに、その衝撃が過冷却容器24内に保存される飲料に伝わって、過冷却状態が解除されることが想定される。また、局所的な低温部分が生ずると過冷却状態が解除しやすくなってしまう。このとき、過冷却室4内は0℃より低い雰囲気温度(例えば、−5℃)となっているため、過冷却室4に収納された飲料が凍結してしまう。そこで、次のような制御を行う。
図4に示すように、過冷却状態にある飲料は、過冷却状態が解除されると凍結点まで温度が上昇する。本実施例の過冷却室4は間接冷却を採用しているため、過冷却運転モードの設定時において、過冷却室扉9を開閉することなく保存飲料の温度が急激に上昇することは、通常は考えられない。すなわち、温度の上昇があれば過冷却状態が解除されたと判断することができる。そこで、本実施例では、収納される食品の温度を検出するために温度センサを備えた(後述)。
次に、実際に過冷却を行う構成及び制御を実現するために、過冷却状態から凍結する際のエネルギーの変化について考察した。図6は、水分子クラスターが臨界半径を超えて凍結するときのエネルギーを示す図である。図6において、線1は氷相出現による表面エネルギーを示す曲線であり、線2は過冷却水が氷になるときの自由エネルギーを示す曲線である。クラスター半径が臨界半径rより大きくなる部分が過冷却水が氷に相変化する領域である。
図6からわかるように、氷相出現による表面エネルギーは過冷却水が氷に相変化するまでは減り続ける曲線を描く。線3は水が過冷却水になるために必要とするエネルギーを示しており、過冷却が解除された後はエネルギーを必要としないことを示している。すなわち、過冷却が解除されるエネルギーが必要ないことを示している。また、クラスター半径が臨界半径rに達したときに氷相に変化し、クラスター半径が臨界半径rに達するまでは過冷却水が存在することを示している。したがって、準安定状態である過冷却状態が維持されるには、臨界半径rよりも小さい領域で冷却することが必要である。また、図6からわかるように、局所的に臨界半径rを超えてしまうとその部分から過冷却が解除し、一気に凍結に至ってしまうため、内部の温度の分布を小さく抑えることが必要となることがわかる。
図7は果汁30%のオレンジジュースを用いて冷却試験を行ったときの飲料の温度推移を示す図である。この冷却試験は、過冷却室4内の雰囲気温度を−5℃とし、アルミ缶入りオレンジジュースの凍結温度(凝固点降下のため−1℃となる)までの時間を変えて測定したものである。
曲線αは、凍結温度に達するまで6時間かけて冷却した例を示し、曲線βは凍結温度まで2時間以上の時間をかけて冷却した例を示している。曲線γは、凍結温度まで2時間より早く達するように冷却した例である。図7からわかるように、曲線αと曲線βは過冷却状態が実現でき、曲線γは過冷却状態が解除されてしまい、凍結状態となってしまった。
曲線γでは、冷却を急ぐあまりに缶内の液体に温度のバラツキが生じ、缶内で対流が生じてしまっていた。これらの冷却試験を含め、各種飲料において試験を行ったところ、2時間以上の時間をかけて冷却を行えば、過冷却状態を維持できることが確認できた。さらに詳述すれば、3℃から−5℃まで冷却する際に、0.17〜0.05℃/分の冷却速度で冷却すれば、高い確率で過冷却状態を維持したまま保存できることがわかった。
なお、曲線αと曲線βのような過冷却状態が実現された場合と、曲線γのように凍結状態となってしまった場合とでは、温度の推移が明らかに相違している。曲線α及び曲線βでは、氷点以上の飲料水が徐々に冷却されてゆき、−5℃まで単調的に温度が下がっている。そして、雰囲気温度に達すると、その温度が維持される。一方、曲線γでは氷点以下の過冷却状態に達した後に解除されており、このときに温度が凍結温度まで上昇する。その後、液体から固体へと相変化を起こしている間は−1℃の状態が維持される。この傾向の相違は、果汁30%のオレンジジュースに限らず、水、お茶、酒類でも同様であり、この傾向の相違に着目すれば過冷却状態の解除を検知することができる。
これらの検討によって得られた知見に基づいて、過冷却状態で保存するための具体的構成をさらに説明する。図8は、過冷却室4の構成を示す断面図である。上述のように、本実施例の過冷却室4は、貯蔵空間26内の食品の間接冷却を行うため、容器部材25とカバー部材27とからなる過冷却容器24を備えている。そして、ダンパー装置41とヒータ43を制御することによって、貯蔵空間26内の温度を管理する。
過冷却容器24は、過冷却室扉9を引き出すことによって、容器部材25が扉とともに引き出され、このとき、カバー部材27を庫内側に残す構成としている。具体的には、容器部材25は、過冷却室扉9に取り付けられた枠部材9aに載置されており、扉とともに引き出される。一方、カバー部材27は過冷却室4内に取り付けられる構成としている。
このような容器部材25とカバー部材27との関係について図9〜図11を用いて説明する。図9〜図11は、図8のA部、すなわち、過冷却容器24の後方におけるカバー部材27と容器部材25との位置関係を拡大した図である。これらはそれぞれ異なる例を示している。
まず図9について説明する。カバー部材27はフランジ部27bが設けられ、このフランジ部27bには下側に垂下するフランジ垂下部27aを備えている。このフランジ垂下部27aは容器部材25の後端部をさらに後方側から覆うように垂下している。一方、容器部材25も後方上端部にフランジ部25b′が設けられ、フランジ部25b′には垂下部25a′を有している。すなわち、カバー部材27及び容器部材25の後端部には、いずれも下方に垂下する垂下部が設けられている。また、カバー部材27のフランジ部27bと容器部材25のフランジ部25bとの間には、小さな隙間が設けられる。したがって、過冷却室4内の冷気流通空間と貯蔵空間26との間を連通する微小な連通路26aが形成される。
図9に示す構成では、カバー部材27のフランジ部27bと容器部材25のフランジ部25b′との間の連通路26aは前後方向に延伸しており、両フランジ部に設けられた垂下部27aと垂下部25a′との間の連通路26aは上下方向に延伸している。したがって、連通路26aには屈曲部26a′が存在し、通風抵抗を高める効果がある。該構成によれば、貯蔵空間26内への冷気の流入量を極めて小さいものにすることができる。このとき、カバー部材27の垂下部27aを、容器部材25の垂下部25a′よりも下方側に延伸させれば、貯蔵空間26への冷気流入量をさらに低減することができる。
このように、カバー部材27と容器部材25とを上記のような位置関係とすることによって、容器部材25が過冷却室扉9とともに引き出されても、庫内側に設置されるカバー部材27と干渉することはなく、取扱い性も良好なものとなる。
図10は、カバー部材27と容器部材25との関係については、図9に示すものと同様である。異なる点は、カバー部材27及び容器部材25の内部に断熱層29を設けたことである。先に示したように、貯蔵空間26内には、過冷却室4へ吐出される冷気が直接流入しないようにし、間接冷却を可能としている。しかし、貯蔵空間26の周囲の冷気流通空間を通る冷気の低温が、過冷却容器24の壁面を介して貯蔵空間26内に伝達され、容器壁の近傍が局所的に冷却されることが懸念される。
そこで、このような低温の伝達を低減するために、断熱層29を設けたものである。断熱層29としては、発泡スチロールや発泡ウレタンなどの発泡断熱材、真空断熱材などの断熱材として一般に用いられる各種のものが使用できる。これらは、例えば、プラスチック製の容器部材25あるいはカバー部材27内に埋め込まれるように配設することができる。ただし、これらに限られることはなく、例えば、空気層による空気断熱であっても十分な断熱作用が期待できる。空気断熱層を実現するための具体的構成については、後述する。
この断熱層は、容器部材25又はカバー部材27のいずれかに設けてもよいが、両者に設けると貯蔵空間26内の均温化効果をより高めることができる。また、断熱層29を設けたことによって、冷凍サイクルの停止時などにおける貯蔵空間26の温度上昇を抑制することができる。
図11は、カバー部材27と容器部材25との関係については、図9及び図10に示すものと同様である。異なる点は、容器部材25及びカバー部材27の外表面に金属板29′を設けたことである。金属板29′を容器部材25あるいはカバー部材27に設けることによって、過冷却室4の冷気流通空間から貯蔵空間26内へ伝達する低温を一様にすることができる。すなわち、貯蔵空間26内の温度のバラツキを低減する効果がある。冷凍サイクルの停止時などの温度上昇抑制効果はあまり期待できないが、図10に示した断熱層29と合わせて用いることができ、このときは両構成の長所が期待できる。
図12は、図8とは異なる例の過冷却室4の構成を示す断面図である。冷蔵庫の実使用時に過冷却状態が解除されることを極力防止するために、この例では、容器部材25だけではなく、カバー部材27も過冷却室扉9とともに引き出される構成としている。過冷却室扉9を引き出したとき、容器部材25の上面に蓋となる部材がない場合、外気によって容器部材25内の貯蔵空間26が暖められてしまう。このとき、外気に当たる部分の温度が局所的に上昇して、食品(飲料水)内部に対流が生ずることが懸念される。食品内部の温度のバラツキは過冷却解除の要因となる。図12の例はこれを解決するものである。
カバー部材27を容器部材25とともに引き出す構成とすれば、過冷却室扉9を引き出したときでも収納食品には外部の空気が直接当たることはない。実際の食品の取出しは、カバー部材27を手動で開閉して行えばよい。したがって、過冷却室扉9を引き出したときには過冷却は解除されず、使用者が手に取ったとき以降に初めて過冷却が解除されるため、使用者の意に反した過冷却の解除を極力防ぐことができる。
図13は、振動や衝撃によって過冷却が解除されることを抑制する構成を示したものである。本実施例の冷蔵庫は、過冷却室扉9以外にも冷蔵室扉7、製氷室扉8、冷凍室扉10、野菜室扉11など、多くの扉を備えているため、これらの扉の開閉によって過冷却室4内に収納された食品に衝撃や振動が伝わることがある。そこで、過冷却室扉9に取り付けられた枠部材9aと容器部材25との間に、バネやゴムなどの弾性体からなる吸収材50を介在させた。図13に示すように、容器部材25を枠部材9aに取り付けられた吸収材50で支持する構成のほか、枠部材9aに載置される容器部材25のフランジ部25b′と枠部材9aとの間に吸収材50を挟む構成でもよい。
図14は、過冷却室4のさらなる一例を示す図であり、過冷却室扉9を引き出した状態における斜視図(図14(a))及び断面図(図14(b))である。この例は、カバー部材27は庫内側に取り付けられ、過冷却室扉9を引き出した場合でも、カバー部材27は引き出されず、容器部材25が引き出される。過冷却室4の背面のカバー部材27よりも上方には冷気吐出口28が設けられる。したがって、過冷却室4へと吐出された冷気は、カバー部材27の上側の冷気流通空間を流れる。
また、カバー部材27には、貯蔵空間26の温度を検出する温度センサ30が設けられる。温度センサ30は赤外線センサやサーミスタなどを用いることができる。この温度センサ30によって貯蔵空間26の温度を検出することで、収納物の温度を検出する。
冷気吐出口28から過冷却室4へと吐出された冷気は、カバー部材27の上方を流通するため、この吐出冷気の低温を温度センサ30が検出してしまうことが想定される。このとき、貯蔵空間26内の温度と温度センサ30によって検出される温度が乖離し、過冷却を維持するのに必要な温度制御が困難になってしまう。そこで、温度センサ30を吐出冷気の低温から保護するための保護部材31を備えている。この保護部材31はカバー部材27と一体に設けてもよい。
具体的には、カバー部材27の下面(貯蔵空間26側)に設けられた温度センサ30の上方投影面を囲むようなリブ状の保護部材31を設け、冷気吐出口28から吐出される冷気が温度センサ30に与える影響を低減させている。
冷気吐出口28から吐出された冷気は、貯蔵空間26の上側を通って前方(過冷却室扉9の方向)へと向かい、過冷却容器24の側面から一部が降下しながら、容器部材25の周囲を冷却し、貯蔵空間26内の間接冷却を行う。カバー部材27の上側を前方に向かった冷気は、カバー部材27の前方側(過冷却室扉9側)に設けられた突起部27cに至って、流れが規制される。したがって、この位置で過冷却容器24の両側へと冷気が導かれる。突起部27cを設けることによって、過冷却室4の開口周縁部と過冷却室扉9との間からパッキンを介して低温が庫外へ漏洩することを抑制できる。
突起部27cの位置は、少なくとも温度センサ30の取付位置よりも前方であり、好ましくは過冷却容器24の中央部より前方が良く、カバー部材27の前端部であっても良い。突起部27cの高さについては後述する。
容器部材25は、外側容器25aと内側容器25bとが重ねられる構成としている。これらの両容器25a、25bの間には空気の断熱層29が形成されるようにしており、貯蔵空間26と過冷却室4内の空気流通空間との間の断熱を図っている。上述したように、断熱層29には発泡断熱材や真空断熱材を用いても良いが、外側容器25aと内側容器25bとを空気層を形成するように重ねる構成とすれば、容器部材25の取り出して洗浄することも容易であり、取扱い性が向上する。また、カバー部材27にも断熱層29を有しており、貯蔵空間26の上方を流れる冷気による低温によって収納物が局所的に冷却されることを抑制している。
過冷却室4と、下側の冷凍室10との間を仕切る断熱仕切壁の上方にはヒータ43が設置され、このヒータ43のON/OFFの制御や通電率の制御は図示しない制御装置によって制御される。したがって、前述のダンパー装置41と合わせて制御されることで、温度センサ30の検出温度と照らしながら、過冷却室4内の温度を細かく管理することができる。
また、貯蔵空間26の底面となる内側容器25bの底面には凸部が設けられており、収納食品と容器底面との接触面積を小さくしている。本実施例の容器部材25は、内部を間接冷却とするために冷気の進入を抑え、また、周囲に断熱層29を設けているが、容器壁との接触面から冷却されてしまうことが考えられる。そこで、貯蔵空間26の底面を、凸部を有する凹凸底面部25′とし、例えば、ラップに包まれた魚肉類のような食品が収納されても、底面との接触部分を小さくすることができる。該構成によれば、食品内部における温度のバラツキをさらに抑制することができる。
容器部材25の前方フランジ部には上方に延出する突起部25cが設けられる。この突起部25cの作用効果について、図15を用いて説明する。図15は過冷却室扉9を引き出した状態における過冷却室4の斜視図(図15(a))及び断面図(図15(b))であり、図14と同一符号は同一の構成を示している。
この例は、過冷却室扉9を引き出してもカバー部材27は庫内に止まる構成を採用している。したがって、カバー部材27と容器部材25の前方側の端部の位置関係を、図9に示したようなカバー部材27と容器部材25の位置関係と同様のものとすることはできない。そこで、容器部材25には前方フランジ部を設け、この前方フランジ部の上方投影面の一部がカバー部材27の一部で覆われるように構成するとともに、カバー部材27の前方端部よりもさらに前側に位置する容器部材25の前方フランジ部に、上方へ延出する突起部25cを設けている。
この構成によれば、図9に示した例(後方側の端部)と同様に、過冷却室4内の冷気流通空間と貯蔵空間26との間の連通路に屈曲部を形成することができる。また、過冷却室扉9を引き出すと、カバー部材27と容器部材25とが干渉することなく、容器部材25を引き出すことができる。さらに、カバー部材の突起部27cの高さを、容器部材25の突起部25cよりも高くし、冷気吐出口28から吐出された冷気が貯蔵空間26内に入りにくいようにした。また、冷気吐出口28の開口部の前方投影面上に突起部27cが位置するようにし、吐出冷気の効率よい規制を図っている。
図16は本実施例の冷蔵庫の制御ブロック図である。温度センサ30は制御装置40と接続され、温度センサ30によって検出される温度を監視する。図10に示す温度調節部44は、冷蔵庫の使用者が過冷却室4の温度を設定可能とするために設けられている。したがって、過冷却室4の温度を、例えば、「−3℃」、「−4℃」、「−5℃」などの−1℃〜−5℃の温度帯に設定を可能とし、さらに、「−18℃以下の通常冷凍」「0℃以上の冷蔵温度帯」など、様々な設定が可能である。
制御装置40は温度センサ30で検出される温度と、温度調節部44によって設定された温度とを比較し、ダンパー装置41及びヒータ43を制御する。ダンパー装置41は、バッフルとモータからなっており、モータの駆動を制御することでバッフルの動きを制御することができる。
センサ検出温度が低い場合には、ダンパー装置41の開度を小さくし、あるいは完全に閉じることで、冷気量を制御する。また、温度が低くなりすぎた場合には、ヒータ43を通電させる。センサ検出温度が高すぎる場合には、ダンパー装置41の開度を大きくして過冷却室4内の冷気流通空間へと冷気を供給して、貯蔵空間26内の温度を下げる。
なお、この制御装置40は、送風ファン20や圧縮機21、あるいは図示しない除霜ヒータなどとも接続されている。したがって、ダンパー装置41の開度やヒータ43の通電率の判断は、他の機器の稼動状態を監視しながら行われる。
次に、過冷却を実現するために適した温度について図7を用いて説明する。本実施例では、貯蔵空間26を間接冷却によって冷却することで過冷却状態による保存を行うものであるが、曲線αと曲線βのような過冷却状態が実現された場合と、曲線γのように凍結状態となってしまった場合とでは、温度の推移が明らかに相違している。したがって、温度センサ30で過冷却容器24内の貯蔵空間26の温度を検出することによって、収納物が過冷却状態を維持しているか否かを判断しながら、過冷却状態で保存することができる。
図17〜図20は、過冷却解除の検知におけるさらなる一例を示す図である。図17は水が入った500mlのペットボトルを過冷却室4内に収納した場合における水温の推移とともに温度センサによって検出された温度を示している。図17(a)は過冷却が維持された場合における水温の変化と温度センサ30によって検出された温度の変化であり、図17(b)は、何らかの要因によって過冷却状態が解除されてしまった場合の水温の変化と温度センサ30によって検出された温度の変化を示している。図において横軸は経過時間を示し、縦軸は温度を示している。図に示すように、4℃を通過する時点で短時間ではあるが、温度変化が緩やかになる部分がある。これは、水の密度が約4℃で最大となり、ペットボトル内部で対流が起こるためと考えられる。
図17から明らかなように、過冷却状態が維持された場合と過冷却状態が解除されてしまった場合とでは、温度の推移が異なり、温度センサ30によって検出される値も傾向が異なっている。図17は、過冷却室4内の温度を−5℃となるようにして、ペットボトル内の水を−5℃に冷却するように制御したものであるが、過冷却状態が解除されると温度センサ30の検出値は−5℃よりも高い温度となってしまっている(図17(b))。したがって、この傾向の変化を把握することによって、過冷却状態が維持されているのか、あるいは解除されてしまったのかを判別することができる。
次に、過冷却状態が解除される制御及びその後の制御について図18〜図20を用いて説明する。図18〜図20は本実施例の制御を示すフロー図である。図18(a)は、過冷却の制御を行うにあたって、予め設定される温度の設定値を示したものである。具体的には、高温側から、リセット温度、過冷却開始温度、制御開始温度、温度調節部設定温度(最終目標温度)が設定される。このうち、最終目標温度は、温度調節部44によって設定される温度であるが、温度調節部44によって設定される温度は、−5℃近傍の過冷却温度に限られない。すなわち、過冷却室4を−18℃以下の冷凍室として使用したり、あるいは0℃以上の冷蔵室として使用することも可能である。ただし、過冷却保存モードとしては、「−3℃」「−5℃」などのような−1℃〜−5℃の範囲内とすることが必要である。
リセット温度とは、例えば、過冷却状態が解除されてしまった場合に、再び過冷却を実現するために、必要な温度まで上昇させる際の設定値である。例えば、7℃である。過冷却開始温度とは、過冷却運転を始めるための基準となる温度であり、例えば、5℃である。
制御開始温度とは、既に過冷却運転が実施されている状態において、所望の温度まで徐々に冷却していく制御を行う基準となる温度であり、例えば、3℃〜0℃の間が好適である。上述のように、水は4℃で密度が最大となり、0℃が凝固点である。したがって、以下に述べるように階段状に目標値を下げてゆき、緩やかに冷却する場合には、3℃〜0℃の間を制御開始温度とすると都合が良い。3℃から緩やかに温度を下げていく場合を想定すると、4℃を通過しないことから密度反転による対流が発生することはない。また、0℃に到達するまでに一気に冷却してしまうと、局所的に氷核が発生することが懸念されるが、0℃の手前で一度、内部の温度が一様となるように制御することで、これを抑制できるからである。
温度調節部設定温度(最終目標温度)とは、過冷却運転がなされ、最終的に過冷却状態で保存する温度であり、例えば−5℃である。
図18(b)は、過冷却運転を行う場合の第一段階の制御を示している。過冷却運転をスタートするに当たって、まず、温度調節部44の設定が確認される(ステップS101)。過冷却室4を通常の冷凍室として使用する場合などは、過冷却運転を行う必要がないため、この段階で過冷却運転を行うモードになっているかどうかを判別する。
過冷却運転モードとなっている場合には、温度センサ30によって検出された温度と過冷却開始温度(5℃)との比較がなされる(ステップS102)。過冷却開始温度より低温である場合には、一部が凍結している場合などが考えられるため、ダンパー装置41を閉じて、リセット温度(7℃)以上となるまで冷却を停止する。この際、ヒータ43を高い通電率で通電させると、短い時間でリセット温度まで上昇させることができる(ステップS112〜S113)。
温度センサ30によって検出された温度が過冷却開始温度よりも高い場合、あるいは、冷却が停止されてリセット温度より高くなった場合には、この状態で安定させるために、タイマーをスタートさせる(ステップS103)。
タイマーが計時されている間は、過冷却開始温度よりも低くならないようにダンパー装置41やヒータ43が制御される(ステップS105〜109)。具体的には、過冷却開始温度よりも低温のときはヒータをONにし(ステップS107)、過冷却開始温度よりも高温のときはリセット温度と比較し(ステップS108)、リセット温度より高温であれば、ヒータをOFFにする(ステップS109)。
この状態で一定時間が経過すると、次に制御開始温度との比較を行い(ステップS110)、制御開始温度よりも低温となると、第二段階としての過冷却制御を行う。制御開始温度よりも高温であった場合には、センサ検出温度が低くなるまでダンパー装置41を開状態として冷気を供給する(ステップS111)。このとき、ヒータ43はOFFとしておくと冷却が促進されるが、貯蔵空間26内の温度にバラツキが生じやすい。そこで、ヒータ43は低い通電率で通電しておくとよい(つまり「ダンパー開・ヒータON」とするとよい)。この状態で貯蔵空間26内の温度が制御開始温度よりも低くなったときに、図15に示すような過冷却制御を行う。
図19は、過冷却制御の第二段階の制御を示すフロー図である。この例では、最終目標温度まで段階的に貯蔵空間26内の温度を下げていく場合のフロー図である。まず、制御開始温度(例えば、3℃〜0℃)を目標温度として設定し、この目標温度に対して、ダンパー装置41を開にする温度、及び閉にする温度をそれぞれ設定する(ステップS121)。ダンパー装置41を開にする温度とは、温度センサ30によって検出される温度が、目標温度よりも高い場合に、ダンパー装置41を開にして冷気を供給する温度である(例えば、制御開始温度が2℃であれば3℃)。ダンパー装置41を閉にする温度とは、温度センサ30によって検出される温度が、目標温度よりも低い場合に、ダンパー装置41を閉にして冷気供給を停止する温度である(例えば、制御開始温度が2℃であれば1℃)。ヒータ43は、低い通電率で通電しておくことで、貯蔵空間26内の冷却を緩やかに行うことができ、貯蔵空間26内の温度のバラツキを低減できる。
目標温度(例えば2℃)及びダンパーの開閉値が設定されるとタイマーをスタートし(ステップS122)、温度センサ30によって検出される温度がダンパー開の温度(例えば、3℃)、ダンパー閉の温度(例えば、1℃)の間に一定時間保持されるように、ダンパー装置41が制御される(ステップS124〜127)。
一定時間が経過してタイマーが終了すると、ダンパー閉の温度(1℃)に一回以上は到達したか否かが判断される(ステップS128)。ダンパー閉の温度に一回以上到達していれば、ステップS129において目標温度を下げ(例えば、2℃→0℃)、新たな目標温度に対してダンパー開/閉の温度が設定され(例えば、それぞれ1℃、−1℃)、再び上記の制御が繰り返される。
ステップS128において、ダンパー閉の温度に到達しない場合には、過冷却が解除されてしまったことが懸念される。目標温度0℃の場合を例に取ると、ダンパー閉の温度は、例えば−1℃である。しかし、水が0℃で凍結を開始して相変化が起こってしまうと、一定時間を経過しても凝固が完了するまでは温度が低下せず(潜熱)、ダンパー閉の温度に達しないことが想定されるからである。
ただし、他の原因によって到達しなかったことも考えられるため、リトライ回数を更新し(ステップS131)、タイマーをスタートして同様の制御を行う。同様の制御を複数回行っても、ダンパー閉の温度に到達しない場合には(リトライ回数が所定回数を超えた場合;ステップS132)、いよいよ凍結が開始されたものと判断し、過冷却リセットの制御を行う。
ダンパー閉の温度に一回以上は到達した場合には、ステップS129に示すように目標温度をさらに低温側へと変更する(例えば0℃→−3℃)。この目標温度に対し、再びダンパーの開閉値を設定し(例えば、それぞれ−2℃、−4℃)、ステップS122へと戻り、同様の制御を行う。これらを繰り返し、目標温度が最終目標温度(−5℃)まで変更されると、過冷却状態に冷却する制御は終了し(ステップS130)、当該温度で保持する制御へと至る。
図19に示す例は、その目標温度を設定してこの温度で安定した状態となった後、目標温度を下げるという、階段状の制御を行って食品を過冷却状態に保持するものである。したがって、ステップS122〜S123におけるタイマーの設定時間と、ステップS129における目標温度の変更幅を適宜設定することで、冷却速度を変更することができる。
上述したように、実験の結果から、3℃から−5℃まで冷却する際に、0.17〜0.05℃/分の冷却速度で冷却すれば、高い確率で過冷却状態を維持したまま保存できることが判明しているため、食品を過冷却状態で保存するためには、平均の冷却速度が0.17〜0.05℃/分の範囲となるように、タイマー設定時間と目標温度の変更幅を設定すればよい。
図20は、過冷却状態に冷却された食品を過冷却温度に保持する制御を示している。最終目標温度に対しても、ダンパー装置41が開状態とする温度、及び閉状態とする温度が設定されているため、温度調節部設定温度から大きく変化しないようにダンパー装置41の開閉を制御する(ステップS140、S147、S148)。
さらに、ここでは、「Err上昇温度」が制御に用いられる。図17に示したように、過冷却状態が解除してしまった場合には貯蔵空間26内の温度が最終目標温度よりも高い温度が検出される。したがって、貯蔵空間26内における温度のバラツキを考慮した上限温度として、Err上昇温度を定め、温度センサ30によって検出された温度が、温度のバラツキとして想定される範囲を超えて高くなった場合には、過冷却状態が解除されたと判断することにした。
このErr上昇温度は、温度センサ30によって検出された温度が、一般的な変動の範囲に収まっている場合の上限温度がErr上昇温度を超えないような値に設定される。本実施例では、貯蔵空間26が間接冷却ルームであることや、容器部材25やカバー部材27に断熱層29を有しているため、過冷却が解除されない場合には大きな温度変動が生じないようになっている。そこで、Err上昇温度を1℃、より好ましくは0.6℃とし、この範囲を超えた温度上昇が検出された場合に、「過冷却が解除された」と判断する。
具体的な制御は次の通りである。ダンパー開温度よりも高温が検出された場合に、この検出温度が最終目標温度にErr上昇温度を加えたものよりも高いか否かを判断する(ステップS142)。低い場合にはステップS140へと戻り、上記と同様の制御が繰り返される。
最終目標温度にErr上昇温度(上限温度)を加えたものよりも高い温度が検出された場合には、過冷却の解除が懸念されるため、タイマーを設定する(ステップS143)。このとき、具体的に想定される現象としては次の2つが考えられる。第一は、過冷却が解除されていないにもかかわらず、温度センサ30によって高温が検出されてしまった場合であり、第二は、過冷却が実際に解除されたために、高温となった場合である。
第一の場合は、単なる温度のバラツキが原因であったことが考えられるため、最終目標温度に保持するための制御が行われれば、最終目標温度にErr上昇温度を加えたものよりも低温になるものと思われる。したがって、タイマー設定時間中に、最終目標温度に
Err上昇温度を加えたものよりも低温になればタイマーをクリアし(ステップS146)、最終目標温度に保持するための制御が継続される。
第二の場合は、過冷却が解除され、凍結が開始していることが考えられる。このとき、凍結が完了するまでは潜熱として凍結に低温が使われるため、ダンパー装置41の開閉等によっても温度が最終目標温度にErr上昇温度を加えたものよりも低温となることはない。したがって、所定時間、最終目標温度にErr上昇温度を加えたものよりも高温状態が継続すると、過冷却が解除されたものと判断し、過冷却のリセットが行われる(ステップS144〜S145)。
過冷却が解除されない場合には、過冷却室4内には過冷却状態に保持された食品・飲料を、冷蔵庫の使用者が適宜取り出すことができる。
上記の制御において、圧縮機が停止中である場合には異なる制御を行うことが必要である場合がある。圧縮機の運転の制御は、過冷却室4の制御以外にも、冷凍室5の冷却程度によって制御されることが想定されるからである。特に、ステップS123〜127の制御、あるいはステップ140〜142&147〜148の制御において圧縮機が停止している場合には、ダンパー装置41は閉状態を保持し、ヒータ43を低い通電率のままでONしておくとよい。
さて、過冷却解除後の運転としては、次の2つに大別できる。すなわち、第一は過冷却状態を実現するために冷却をやり直す場合であり、第二は他の運転モードに移行する場合である。
まず、第一の場合について説明する。過冷却状態が解除されると氷が生成されてしまうため、融点以上に温度を上げて生成された氷を融解させなければならない。温度を上昇させるためには、過冷却室4内への冷気の供給を止める、ヒータによって過冷却室4内又は収納物を暖める、あるいはこれらを併せて実施することが必要である。収納物の温度を上げて凍結状態から脱した後は、再び間接冷却によって収納物が過冷却状態になるまで冷却する。
この再冷却は一度目の冷却と全く同様に行ってもよいが、一度目の冷却と異なる環境を提供して行ってもよい。一度目と異なる環境で過冷却運転を行う場合の第一例としては、周囲温度を上げた状態で行う制御が挙げられる。すなわち、一度目の周囲温度が−5℃とすると、二度目の過冷却運転では周囲温度を−4℃とするように制御する。
既に述べたように、温度が低くなればなるほど、水分子クラスターが大きくなって過冷却状態が解除されやすくなるため、一度失敗した温度よりも高い温度で二度目の過冷却運転を行うものである。三度目以降も同様に制御が可能である。
一度目と異なる環境で過冷却運転を行う場合の第二例としては、冷却速度の緩和が挙げられる。一度目の冷却速度を0.1℃/分とすれば、二度目の過冷却運転では0.05℃/分となるように制御する。具体的にはステップS129において目標温度を低温側に設定する際に、移動幅を小さくすればよい。
冷却速度が遅い場合には、飲料の均一な冷却が行いやすく、部分的な温度低下が生じにくいため、過冷却状態を実現しやすくなる。したがって、二度目の過冷却運転では冷却速度を低速側にシフトするものである。三度目以降も同様に制御が可能である。
これらの第一例、第二例は組み合わせて実施することも可能であり、両制御を併せて実施するか、あるいは択一的に交互に実施するなど、様々なバリエーションがある。
次に第二の場合、すなわち、他の運転モードに移行する場合について説明する。以下に示す各例も、上述の第一の場合と組み合わせた制御が可能であることはいうまでもない。すなわち、二度目の過冷却運転においても過冷却が解除されてしまった場合等は、三度目の過冷却運転は行わず、他の運転モードに移行する、などの制御が可能である。
第一例としては、過冷却が解除されると二度目の過冷却運転を自動的には行わず冷蔵運転に移行する制御が挙げられる。飲料を通常の冷蔵室と同様に保存することができる。第二例としては、チルド運転に移行する制御が挙げられる。この場合は、一般の冷蔵室よりは低温で飲料を保存することができる。第三例としては、氷温運転に移行する制御が挙げられる。この場合は、部分的な凍結があったとしても、長期にわたって収納された場合を除けば完全な凍結状態には至らず、飲料を飲むことができる。
第四例としては、過冷却が解除されたことを冷蔵庫の使用者に対して報知する制御である。この第四例は上記の第一の場合の各制御や第二の場合の第一例から第三例までの各制御と併せて実施することができる。過冷却が解除されたことを冷蔵庫の使用者に報知することによって、次に飲料をどのように保存するかを使用者の選択に委ねることができる。
報知手段としては、冷蔵室扉7に設けたLEDあるいは液晶ディスプレイ等の表示によるものの他、音声による報知でもよく、使用者に対して過冷却の解除を伝達できるものであれば、特に手段は問わない。
上記の各例はどれを採用してもよいが、簡単に上記第一の場合の制御フローを示す。図15に示すように、過冷却状態に冷却中に過冷却が解除されてしまった場合(ステップS132)、あるいは、図16に示すように、過冷却状態を保持している最中に過冷却状態が解除されてしまった場合(ステップS143)には、図14(b)に示すステップS112へと至り、ダンパー装置41を閉じ、ヒータ43をON状態にして、貯蔵空間26内の温度を上昇させる。凍結してしまった食品を融解するためである。
そして、温度センサ30の検出温度がリセット温度(例えば、7℃)以上になるまで上昇すると、ステップS103から再び過冷却運転を行うことによって同様の制御が可能である。
上記の実施例によれば、次の如き効果が期待できる。
過冷却室4を−1℃から−5℃の間に設定し、その設定温度の温度変動幅を1℃以内、より好ましくは0.6℃ 以内の範囲で制御するようにしたものであるから、食品の長期保存によるうま味成分の劣化を防止することができる。また、熟成が進んで旨み成分が増強されることも期待できる。また、飲料水にあっては、注ぐと同時にシャーベット状となる飲み物を提供することができる。
また、過冷却室4内の温度を検出する温度センサ30を貯蔵空間26の上面に取り付けたものであるから貯蔵空間26内に収納される食品の温度を高い精度で検出することができる。したがって、ダンパー装置41やヒータ43を制御することによって、貯蔵空間26内の温度管理を簡単に行うことができる。
また、過冷却室4の貯蔵空間26を形成する容器部材25の上面を、開閉自在のカバー部材27により閉塞される構成、あるいは、カバー部材27が庫内側に設置される構成としたので、容器部材25の引出しが可能でありながらも、容器部材25内に収納された食品を間接冷却することができる。したがって、過冷却状態が空間内の対流等によって解除されることを極力防ぐことができる。
また、容器部材25の上面をカバー部材27のフランジ部でオーバーラップするように閉塞したので、貯蔵空間26内への部分的な冷気進入を抑制することができる。
さらに、貯蔵空間26を形成する容器部材25及びカバー部材27に断熱層29を備えたため、圧縮機の運転が断続運転となっても、貯蔵空間26内の温度変動幅を±1℃、より好ましくは±0.6℃の範囲に維持することができる。
4…過冷却室、9…過冷却室扉、9a…枠部材、24…過冷却容器、25…容器部材、25′…凹凸底面部、25a…外側容器、25a′…垂下部、25b…内側容器、25b′…フランジ部、25c…突起部、26…貯蔵空間、26a…連通路、26a′…屈曲部、27…カバー部材、27a…垂下部、27b…フランジ部、27c…突起部、28…冷気吐出口、29…断熱層、29′…金属板、30…温度センサ、31…保護部材、40…制御装置、41…ダンパー装置、43…ヒータ、44…温度調節部、50…吸収材。
上記目的を達成するために、本発明の冷蔵庫は、空間内に保存される食品を0℃より低い温度で冷却する貯蔵室を備え、前記貯蔵室の前面開口部を閉塞する開閉可能な扉と、前記貯蔵室内に配置され内部が食品を貯蔵する空間となる容器部材と、この容器部材の上面の開口を覆うカバー部材と、前記カバー部材よりも上方に冷気を吐出する冷気吐出口とを有し、前記貯蔵室内の前記空間の周囲を前記冷気吐出口から吐出される冷気が流通する冷気流通空間となし、前記容器部材は前記扉とともに引き出され、前記カバー部材は前記貯蔵室内に取り付けられて前記扉が開かれても前記貯蔵室内にとどまる構成とし、前記カバー部材は、前記容器部材の後端よりもさらに後方に延伸し、前記容器部材の後端より奥側で下方に延伸する垂下部を有し、かつ、前記容器部材は後方の端部にフランジ部を備え、このフランジ部から下方に延伸する垂下部を有し、前記カバー部材の前記垂下部を、前記容器部材の前記垂下部よりも下方側に延伸させ、前記容器部材の後端には前記空間と前記冷気流通空間との間を連通する連通路が構成され、前記連通路は屈曲部を有する構成とした。