JP2007267703A - 霜降り状食肉用油脂組成物及び霜降り状食肉の製造方法 - Google Patents

霜降り状食肉用油脂組成物及び霜降り状食肉の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 注入工程におけるインジェクション針の目詰まりを防ぎ、注入後に肉中で油脂を霜降り状に析出させることができる霜降り状食肉用油脂組成物を提供する。
【解決手段】 下記のA〜C成分からなる霜降り状食肉用油脂組成物。
A成分:10℃におけるSFCが10〜50、かつ30℃におけるSFCが1〜20である油脂 100質量部、
B成分:油脂の結晶遅延剤 0.1〜2質量部、
C成分:炭素数20〜22の脂肪酸が結合したポリオールエステル 0.01〜0.1質量部、
ただし、C成分/B成分の質量比 0.005〜1
【選択図】なし

Description

本発明は、霜降り状食肉用油脂組成物及び霜降り状食肉の製造方法に関する。
霜降り肉は、高級なものとされて好まれており、価格の比較的安い赤身等肉に脂肪を注入し、外観・食感を付加価値の高い霜降り牛肉に近づける試みがなされている。例えば、(1)油脂を加熱溶解し、肉類に直接注入する方法(特許文献1)、(2)油脂を水に乳化した乳化液を注入する方法(特許文献2)がある。しかしながら、文献1に開示される油脂を直接食肉に注入する方法は、溶解した油脂が肉中で急激に固化するために、天然の霜降り肉と同様の細かな網状の組織は得られない。さらに食肉に油脂を注入する際には、ピックルインジェクターを使用するが、この方法では、注入工程中に油脂が固化しやすく、インジェクション針の目詰まりを引き起こし、作業性において問題点がある。また注入工程は、油脂の融点以上の温度で維持する必要性があり、高い温度条件下で油脂を食肉中に直接注入するため、注入した肉の品温が上昇し、品質的及び衛生的に好ましくない問題があった。
文献2に開示される、油脂を乳化してエマルジョンを注入する方法も、注入時の温度が油脂の固化温度より高くしなければ乳化状態がくずれインジェクション針の目詰まりを起こしやすく、この方法も作業工程中に肉温が上昇し、品質的及び衛生的に好ましくない問題があった。
また、ナタネ油・大豆油のような液状油のみを注入する方法なども提案されているが、液状油の使用では、肉中で固体脂の結晶が析出しないため、外観上霜降り状とならない。
特開昭60−41467号公報 特開昭59−162853号公報
従って、霜降り肉を製造する際に、常温で固体状である油脂を溶解して、直接注入させた場合、肉の品温が上昇して食肉の色調や微生物増殖等の悪影響が考えられ、食肉の品質を低下させる。また注入工程時にインジェクション針の目詰まりを防止させるために、液状油脂を使用すると、肉中で固体脂の結晶が析出しないため、霜降り状食肉を製造できなかった。霜降り状食肉を製造する際に求められる油脂組成物の性質は、(1)常温で流動性を有すること、および(2)肉中で固体脂として析出することであるが、現在のところ、この2点を兼ね備えた油脂組成物は見出されていない。本発明は、霜降り状食肉を製造する際、注入工程中に油脂組成物が固化してインジェクション針の目詰まりを起こすことがなく、一方で、注入終了後に油脂組成物が肉中で霜降り状に析出することのできる油脂組成物を提供することにある。そして、注入工程において食肉を高温にすることもなく、風味、食感および外観上、優れた霜降り状食肉を作業効率よく製造できる方法を提供することにある。
本発明では、上記のような課題を解決するために、特定のSFC(固体脂含量)の油脂に、結晶遅延剤を添加し、さらに炭素数20〜22の脂肪酸が結合したポリオールエステルを添加することにより、食肉への注入工程中に油脂が凝固しないようさせる一方で、注入後に肉中で油脂を霜降り状に析出させることで、風味、食感および外観上に優れた霜降り状食肉の製造方法を見出した。
即ち本発明は、下記の(1)〜(3)の霜降り状食肉の製造方法である。
(1)下記のA〜C成分からなる霜降り状食肉用油脂組成物。
A成分:10℃におけるSFCが10〜50でかつ、30℃におけるSFCが1〜20である油脂 100質量部、
B成分:油脂の結晶遅延剤 0.1〜2質量部、
C成分:炭素数20〜22の脂肪酸が結合したポリオールエステル 0.01〜0.1質量部、
ただし、C成分/B成分の質量比 0.005〜1
(2)加熱溶解した前記(1)の油脂組成物を、食肉に10〜30℃の温度で注入することを特徴とする霜降り状食肉の製造方法。
(3)加熱溶解したA〜C成分からなる前記(1)の油脂組成物を水に乳化し、食肉に10〜30℃の温度で注入することを特徴とする霜降り状食肉の製造方法。
本発明の(1)の発明によれば、インジェクション針の目詰まりを防ぎ、注入後に肉中で油脂を霜降り状に析出させることができる霜降り状食肉用油脂組成物を提供できる。
本発明の(2)の発明によれば、注入工程において高温にすることもなく肉温の上昇を抑制でき、風味、食感および外観上、優れた霜降り状食肉を作業効率よく製造できる。さらに、加熱調理しても油脂分のドリップが少なくて多汁性に富み、ジューシー感及び風味のよい霜降り状の食肉を製造することができる。
本発明の(3)の発明によれば、本発明の(2)において、油脂をより低いインジェクション圧で注入することができ、より霜降り状態にすることが可能であり、穀物肥育牛に近い食感の食肉を製造することができる。
本発明は、下記のA〜C成分からなる霜降り状食肉用油脂組成物である。
A成分:10℃におけるSFCが10〜50でかつ、30℃におけるSFCが1〜20である油脂、
B成分:油脂の結晶遅延剤、
C成分:炭素数20〜22の脂肪酸が結合したポリオールエステル
(A成分)
本発明において使用できる油脂として、例えば、牛脂、豚脂、鶏油、魚油等の食用動物油脂やパーム油、パーム核油、ヤシ油等の食用植物油が挙げられる。これらの硬化油、分別油、エステル交換油等の食用加工油脂も使用できる。A成分として、具体的には、融点が10〜45℃の油脂の使用が好ましい。牛脂、豚脂など食肉と同じ由来の食用動物油脂を用いると肉組織に馴染み易く、また食肉の風味にも影響しないのでより好ましい。牛脂、豚脂、パーム油、硬化油、分別油、エステル交換油等からなる固体脂とナタネ油、コーン油、大豆油等の食用植物油の液状油とを混合した油脂も使用できる。SFC(固体脂含量)を本発明の範囲に調整する目的で固体脂と液状油とを混合する場合、固体脂を主成分とし、これに液状油を配合した油脂の使用が好ましい。例えば、牛脂や豚脂などの固体脂30〜80質量%とナタネ油やコーン油などの植物油20〜70質量%の混合油を挙げることができる。またA成分に風味・呈味成分等または着色料が含まれていてもかまわない。
A成分は、10℃におけるSFCが10〜50でかつ、30℃におけるSFCが1〜20である油脂であるが、SFCは、それぞれの温度における油脂中の固体脂と液体油の割合を百分率で表したものである。
SFCは、以下の方法(基準油脂分析試験法 2.2.9 固体脂含量(NMR法))で測定したものである。その概要を以下に説明する。
SFC測定時のサンプル調整法は、試料を70℃の恒温槽で加熱し、均一に試験管に入れ、ゴム栓をする。試験管に詰めた試料および対照試料(オリーブ油)を、60℃に30分間テンパリング後、それぞれの試料のNMRシグナルを測定する。これらの試料を、0℃で30分間保持し、さらに25℃で30分間保持する。再び0℃に移して30分間テンパリングを行った後、10℃又は30℃の測定温度で30分間テンパリングし、それぞれの試料のNMRシグナルを測定する。
本発明では、SFCが10℃において10〜50の油脂を使用するのが好ましく、15〜40の油脂を使用することがより好ましい。ナタネ油、大豆油のような常温で液状、すなわち10℃におけるSFCが0のような液状油もしくはそれに近い数値の油脂では、肉中で固体脂の結晶が析出しないため、外観上霜降り状にならない。一方、10℃におけるSFCが50以上の固体脂を含有する油脂では、加熱溶解しても、すぐに固体脂の析出が始まり、注入工程中に固化してインジェクション注入針の目詰まりの原因となるので使用に適さない。
本発明では、SFCが30℃において1〜25の油脂を使用するのが好ましく、5〜20の油脂を使用することがより好ましい。30℃におけるSFCが20を超える固体脂を含有する油脂では、加熱溶解しても、すぐに固体脂の析出が始まり、注入工程中に固化してインジェクション注入針の目詰まりの原因となるので使用に適さない。
(B成分)
本発明においてB成分に使用する結晶遅延剤として、パルミチン酸、ステアリン酸の飽和脂肪酸、およびオレイン酸の不飽和脂肪酸が、結合したグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
構成脂肪酸が炭素数12〜18の脂肪酸であり、エステル化率が60%以上であるグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルが使用に好ましい。
B成分は溶解した油脂の固化を遅延させる効果を有する成分である。B成分をA成分に添加することにより、A成分を加熱溶解後に析出する油脂の結晶化を抑制させ、注入工程中に結晶の粗大化を抑制できるので、インジェクション針の目詰まりがなく油脂の注入が容易にできる。
B成分としては、具体的には、脂肪酸がラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸からなるショ糖混合脂肪酸エステル、ソルビタン混合脂肪酸エステル、ポリグリセリン混合脂肪酸エステルが挙げられる。
B成分の使用量は、A成分100質量部に対して、0.1〜2質量部であることが好ましい。特に好ましくは、0.5〜1質量部である。B成分の使用量が0.1質量部未満では、十分な添加効果が得られず、2質量部を超えると、製造される食肉の霜降り状態が悪くなるばかりか、食肉本来の風味が損なわれ、食味に影響することになる。
(C成分)
本発明においてC成分は、ベヘン酸(炭素数22)、エルカ酸(炭素数22:1)が結合したポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
エステル化率が50%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、又はソルビタン脂肪酸エステルが使用に好ましい。
A成分にC成分を添加することにより、B成分の添加にかかわらず、−40〜10℃という低温度で静置したときに、溶解したA成分の結晶化を促進させる効果を有する。したがって、C成分をA成分に添加することにより、A成分中の固体脂の油脂結晶を速やかに微細化するため、製造される食肉の霜降り状態を鮮明にすることができる。
具体的にはショ糖ベヘン酸エステル、ソルビタンベヘン酸エステル、テトラグリセリンヘキサベヘネート、デカグリセリンヘプタネート、デカグリセリンドデカネートが挙げられる。
C成分の使用量は、A成分100質量部に対して、0.01〜0.1質量部であることが好ましい。特に0.02〜0.05質量部が好ましい。C成分の使用量が0.01質量部未満では、霜降りの状態が不鮮明になりやすく、十分な添加効果が得られない。0.1質量部を超えると、C成分の添加にかかわらず注入工程中に油脂の結晶が析出してインジェクション針の目詰まりを起こしやすくなる。
さらに本発明において、C成分とB成分との質量比(C成分/B成分比)は0.005〜1となることが好ましい。特に、C成分とB成分との質量比は0.05〜0.5が好ましい。0.005未満では、注入工程後も食肉中でA成分中の固体脂の結晶化が抑制され続けるため、注入された油脂組成物が流出し、最終的に霜降りの状態が不鮮明になりやすい。一方、1を超えると注入工程中で、C成分の影響が強くために、A成分中の固体脂が固化しやすい状態となり、注入工程時の作業性に大きく影響してしまう。
本発明においては、A〜C成分からなる油脂組成物を加熱溶解したものを、直接に食肉に注入することができる。加熱溶解した油脂組成物は、10〜30℃の温度で注入することが好ましい。
10℃未満では注入工程中に油脂組成物が固化してしまい、注入することが困難となりやすく、30℃を超えた高い温度条件下で油脂組成物を食肉に注入させると、注入工程中に肉温が上昇し、品質的及び衛生的に好ましくない。
加熱溶解し製造した油脂組成物は、製造後に直ちに食肉に注入することが好ましいが、そのまま放置していても、20℃の粘度が1000mPa・s以下であれば、結晶が析出した油脂組成物も使用することができる。
本発明において、A〜C成分からなる油脂組成物を注入することにより目的の霜降り状食肉を製造することができるが、加熱溶解したA〜C成分からなる油脂組成物を水に乳化して使用すると、油脂をより低いインジェクション圧で注入することができ、より霜降り状態のよい、穀物肥育牛に近い食感の食肉などを製造することができる。
本発明に使用する水中油滴型乳化液としては、油脂組成物10〜75質量部、即ち水25〜90質量部からなる水中油滴型乳化液が好ましい。さらに油脂組成物30〜60質量部、即ち水70〜40質量部の水中油滴型乳化液の使用が好ましい。乳化液の使用は、注入工程を容易とするばかりか、製造させる食肉の食感、霜降り状態を良好にする。しかし、油脂組成物が10質量部未満の乳化液の使用では食感において十分なジューシー感が得られず、また霜降り状になり難い。一方、75質量部以上を超えると安定的な水中油滴型乳化組成物を得ることが難しくなる。
本発明において、水中油滴型乳化液はA〜C成分からなる油脂組成物を、水に乳化して製造させる。この際に使用できる乳化剤として、HLB値7〜15のポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
重合度2〜10のポリグリセリンと炭素数12〜18の脂肪酸のモノエステル又はジエステルが使用に好ましい。
具体的には、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、テトラグリセリンモノステアレート、ペンタグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリンモノオレエート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレエート等が挙げられる。乳化液におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの使用量は、油脂組成物100質量部に対して0.1〜3質量部が好ましい。製造される食肉の風味の点において2質量部以下がさらに好ましい。
本発明において、水にA〜C成分からなる油脂組成物を加えて、水中油滴型乳化液の状態で使用することができる。
本発明に使用する水中油滴型乳化液は例えば以下の方法で製造することができる。
第1の方法は、A成分の油脂にB〜C成分の所定量添加し、70〜80℃で加熱させて溶解し、油脂組成物を作製する。次に、水に上記の乳化剤を所定量添加し、70℃で加熱し溶解させ、作製した水相部にA〜C成分からなる上記の油脂組成物を徐々に加えてプロペラ式攪拌機で10〜20分間攪拌して水中油滴型乳化組成物液を作製し、25〜35℃の範囲まで冷却して調温する。
第2の方法は、A成分の油脂にB〜C成分及び上記の乳化剤を添加し、70〜80℃で加熱し、溶解又は分散させる。これを冷水に徐々に加えてプロペラ式攪拌機で10〜20分間攪拌して水中油滴型乳化液を作製し、25〜35℃の範囲まで冷却して調温する。
本発明で用いる水中油滴型乳化液の外相にあたる水相には、乳化安定剤、ビーフエキス、グルタミン酸ナトリウム、食塩等の調味料類、着香料、着色料、保存料、抗酸化剤、糖類、亜硝酸塩、L−アスコルビン酸ナトリウムなどの発色剤、発色助剤、リン酸塩などの結着剤、カラギーナン、カラヤガム、キサンタンガムなどの保水剤を任意に添加することができる。さらにビタミン類、微量金属成分、薬効成分、動植物の抽出エキス類を配合してもかまわない。例えば、乳化安定剤としては、カゼイン、サポニン、乳タンパク、結晶セルロースなどの公知のものを使用することができる。また必要に応じて、パパイン、アクチニジンなどのタンパク分解酵素を添加してもよい。
本発明において、製造した水中油滴型乳化液は、10〜30℃の温度で注入することが好ましい。10℃未満では、注入工程中に油脂組成物が固化してしまい、インジュクション針が目詰りし注入を行うことが困難となりやすい。30℃を超えた高い温度条件下で油脂組成物を食肉に注入させると、注入工程中に肉温が上昇し、品質的及び衛生的に好ましくない。
また水中油滴型乳化液は、製造後に直ちに食肉に注入することが好ましいが、放置して20℃の粘度が1000mPa・s以下であれば、乳化液中の液滴粒子が固体化した油脂となる分散液でも使用することができる。
水中油滴型乳化液の乳化安定性は、注入時の作業性及び品質に大きく影響するため、安定した物性が良好に保たれるように必要に応じて、ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置を用いてもよい。
本発明の霜降り状食肉の製造法は、油脂組成物または水中油滴型乳化液を、ピックルインジェクターで食肉へ注入する。食肉への注入方法は、2〜10℃の品温である食肉に対して、10〜30℃の温度で0.1〜2MPaの圧力で加圧注入することが好ましい。また注入の前後にテンダライザーにより機械的に軟化する方法や、注入後ロータリーマッサージングマシンなどにより油脂組成物を均一に拡散する方法を併用してもよい。
本発明に使用する食肉は、牛肉、豚肉、羊肉、馬肉、鹿肉、山羊肉などの畜肉、鶏肉、あひる肉、ガチョウ肉などの家禽肉、さらには鯨肉、鮪肉、蛙肉等の比較的脂身の少ない部位をあげることができる。
本発明で製造される食肉や食肉加工品は、食肉100質量部に対して、油脂組成物を10〜30質量部注入した食肉は、霜降り状態が良好で、加熱調理しても油脂分のドリップが少なくて多汁性に富み、ジューシー感及び風味のよい霜降り状の食肉となる。
参考例1〜3
B成分の遅延効果を確認するために、下記の実験を実施した。
A成分の精製牛脂(10℃におけるSFCが35、30℃におけるSFCが18)を70℃で溶解した中に、B成分であるショ糖混合脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルPOS−135、三菱化学フーズ株式会社製)を油脂100質量部に対して1質量部(参考例2)添加し、20℃の調温庫内で入れて、結晶調整の状態変化を確認した。また同様にポリグリセリン混合脂肪酸エステル(リョートーポリグリエステルLOP−120DP、三菱化学フーズ株式会社製)についても油脂100質量部に対して1質量部(参考例3)添加し、20℃の調温庫内で入れて、状態変化を観察した(表1)。POS−135およびLOP−120DPには、A成分の油脂結晶の遅延剤(B成分)としての効果が確認できた。
Figure 2007267703
参考例4〜16
表2の組成で、A成分の精製牛脂とナタネ油の混合油(10℃におけるSFCが20、30℃におけるSFCが11)100質量部を70℃に溶解した中に、B成分のショ糖混合脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルPOS−135、三菱化学フーズ株式会社製)、C成分のテトラグリセリンヘキサベヘネート(ポエムJ−46B、理研ビタミン株式会社製)を添加した油脂組成物を作製し、20℃及び5℃の調温庫内に入れて、状態変化を観察した。
A成分に対して、B成分、C成分を特定量、特定比で含む油脂組成物(参考例4〜10)では、20℃においてA成分の結晶遅延効果が確認される一方で、5℃においては容易に固体となることが確認できた。
Figure 2007267703
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳しく説明する。
実施例1〜4及び比較例1〜4
牛脂もしくは豚脂にナタネ油を表3に示す混合比率で配合したA成分100質量部に対してショ糖混合脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルPOS−135、三菱化学フーズ株式会社製)0.5質量部、テトラグリセリンヘキサベヘネート(ポエムJ−46B、理研ビタミン株式会社製)0.05質量部を添加した試料を70〜80℃で加熱溶解した後、30℃まで徐冷して油脂組成物を作製した。得られた油脂組成物について、スーパーミニインジェクター(株式会社トーニチ製、TN−SP18型)を用いて注入工程における作業性及び肉の状態を確認した。
品温5℃のオーストラリア産牛モモ肉に対して0.15MPaの圧力で注入し、油脂組成物の注入量は、肉100質量部に対し、20質量部とした。注入後−35℃まで急速凍結を行い、厚さ1.5cmにスライスして霜降り状食肉を製造して、霜降り状への効果を確認した。
Figure 2007267703
<注入工程>
○…目詰まりせずにインジェクションできる。
△…やや困難
×…油脂が目詰まりを起こし、連続的に作業ができない。
<霜降り状態(目視)>
○…油脂が鮮明かつ太い状態で注入され、霜降り状になっている。
△…油脂が組織中にやや鮮明で、細い状態で注入される。
×…油脂が不鮮明であり、全く効果なし。
表3の結果より、A成分として、本発明の範囲である10℃におけるSFCが15〜30及び30℃におけるSFCが1〜20の油脂を使用すると注入工程時に作業性がよく、製造される食肉の霜降り状態に優れていた。
10℃におけるSFCが10未満の場合(比較例1、3,4)、注入工程における作業は容易であるもの、食肉へ注入した際の霜降り状への効果は認められなかった。一方、比較例2のように、10℃及び30℃におけるSFCが高い場合は、注入工程における作業が極めて難しく、連続的に油脂組成物を注入させることができなかった。
実施例5〜12及び比較例5〜8
A成分である精製牛脂とナタネ油の混合油(10℃におけるSFCが20、30℃におけるSFCが10)100質量部を70℃に溶解した中に、表4に示す割合でB成分であるショ糖混合脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルPOS−135、、三菱化学フーズ株式会社製)、ポリグリセリン混合脂肪酸エステル(リョートーポリグリエステルLOP−120DP、三菱化学フーズ株式会社製)、C成分であるテトラグリセリンヘキサベヘネート(ポエムJ−46B、理研ビタミン株式会社製)を添加して加熱溶解して油脂組成物を作製した。得られた油脂組成物について、スーパーミニインジェクター(株式会社トーニチ製、TN−SP18型)を用いて注入工程(25℃)における作業性及び肉の状態を確認した。
品温5℃のオーストラリア産牛モモ肉に対して0.15MPaの圧力で注入し、油脂組成物の注入量は、肉100質量部に対し、20質量部とした。注入後−35℃まで急速凍結を行い、厚さ1.5cmにスライスして霜降り状食肉を製造して、霜降り状への効果を確認した。
注入工程の作業性及び霜降り状態は、表3の場合と同様に評価した。
Figure 2007267703
表4の結果より、A成分に対して、本発明の範囲及び比率でB成分、C成分含む油脂組成物(実施例5〜12)を使用すると、注入工程時に作業性がよく、また製造される食肉の霜降り状態が優れていた。
B成分の使用量が0.01質量部未満の場合(比較例6)、注入工程時に作業性が悪かった。一方、比較例7のようにC成分の使用量が0.1を超える場合、注入工程中に目詰まりしやすい物性となった。また比較例8のようにB成分の使用量が2質量部を超える場合、霜降り状態が悪くなった。
実施例13〜16
油脂組成物(A〜C成分)と水の比率を変えて、水中油滴型乳化液を製造して、その乳化液を25℃に調温し、実施例1〜4と同様の条件で霜降り状食肉を製造した。解凍後200℃の鉄板上で焼成し、ステーキ肉として試食して官能評価を行った。結果を表5に示す。
なお、水中油滴型乳化液の製造は、実施例8の油脂組成物の配合によりA成分の油脂にB〜C成分の所定量添加し、70〜80℃で加熱させて溶解し、油脂組成物を作製した。次に、水に乳化剤(サンソフトA−181E、HLB:13、太陽化学株式会社製、)を油脂組成物100部に対して1質量部となるように添加し、70℃で加熱し溶解させた。作製した水相部に上記の油脂組成物を徐々に加えてプロペラ式攪拌機で10〜20分間攪拌して水中油滴型乳化液を作製し、25℃に冷却して調温した。
Figure 2007267703
(水中油滴型乳化組成物の乳化安定性)
○…作製後、安定した乳化状態を維持
△…作製直後は乳化するが、1日放置すると二層に分離する。
×…直ちに二層に分離し乳化することができない。
(注入工程)
◎…目詰まりせずに長時間連続的にインジェクションできる。
○…目詰まりせずにインジェクションできる。
△…やや困難
×…油脂が目詰まりを起こし、連続的に作業ができない。
<霜降り状態(目視)>
◎…油脂が組織全体に鮮明かつ太い状態で注入され、霜降り状になっている。
○…油脂が鮮明かつ太い状態で注入され、霜降り状になっている。
△…油脂が組織中にやや鮮明で、細い状態で注入される。
×…油脂が不鮮明であり、全く効果なし。
<食感の評価基準>
◎…硬さが著しい改善され、極めてソフトである。
○…かなり改善され、ソフトである。
△…硬さが少し改善されたが、未だに硬い。
×…全体に硬く、ソフト感に欠ける。
〈牛脂肪区分の目安〉
「0〜1−」⇔グラスフェッド
「1〜2−」⇔ホルス
「2〜3−」⇔グレインフェッド
「3〜4」⇔和牛
「5」⇔高級和牛(松坂牛)
〈ジューシー感〉
◎:格段にジューシー感が感じられる。
○:かなり改善され、ジューシー感がある。
△:ある程度ジューシー感が改善されたが、未だ不十分である。
×:ジューシー感に欠ける。
表5から明らかなように、本発明による油脂組成物を水中油滴型乳化液で注入する霜降り状食肉の製造法によれば、注入時の作業効率を高め、理想的な霜降り状食肉が製造できることがわかる。

Claims (3)

  1. 下記のA〜C成分からなる霜降り状食肉用油脂組成物。
    A成分:10℃におけるSFCが10〜50、かつ30℃におけるSFCが1〜20である油脂 100質量部、
    B成分:油脂の結晶遅延剤 0.1〜2質量部、
    C成分:炭素数20〜22の脂肪酸が結合したポリオールエステル 0.01〜0.1質量部、
    ただし、C成分/B成分の質量比 0.005〜1
  2. 加熱溶解した請求項1記載の油脂組成物を、食肉に10〜30℃の温度で注入することを特徴とする霜降り状食肉の製造方法。
  3. 加熱溶解したA〜C成分からなる請求項1記載の油脂組成物を水に乳化し、食肉に10〜30℃の温度で注入することを特徴とする霜降り状食肉の製造方法。
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