JP2007257882A - 電解質膜およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高温低湿度下でも十分なプロトン伝導度を発現させることのできる電解質膜を提供する。
【解決手段】電解質を溶媒に溶解してなる電解質含有溶液を、疎水性基板に塗工することにより得られる電解質膜により達成ができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、固体高分子型燃料電池の電解質膜およびその製造方法に関するものである。とりわけ、高温低湿度状態におかれることの多い燃料電池自動車用の電源用途として用いられる固体高分子型燃料電池の電解質膜およびその製造方法に関するものである。
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動して高出力密度が得られる燃料電池が移動体用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。特に、固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動することから、燃料電池自動車から携帯機器(例えば、携帯電話、携帯情報端末、携帯音楽プレイヤー、ノート型パソコンなど)まで幅広い分野での移動体用電源として期待されている。
こうした固体高分子型燃料電池の電解質膜を作成するにあたり、従来技術として、特許文献1に見られるように、高温での寸法安定性、加工性、イオン伝導性にすぐれた、特にイオン伝導膜として有用な高分子材料を用いた製造方法が記載されている。これによれば、電解質溶液を塗工(キャスト)するにあたり、基板としてガラス(親水性のもの)を用いており、疎水性の基板についての知見は、これまで報告されていない。
特開2004−244437号公報(段落「0047」「0051」)
しかしながら、特許文献1に見られるように、ガラス基板にキャストして作成した場合、得られる電解質膜のプロトン伝導度の充分な性能を引き出すことが出来ない。とりわけ最も乾燥しやすい高温低湿度下では十分なプロトン伝導度を発現させることが困難である。
そこで、本発明の目的は、高温低湿度下でも十分なプロトン伝導度を発現させることのできる電解質膜およびその製造方法を提供するものである。
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、電解質膜を作成するにあたり、電解質を溶媒、好ましくは高沸点溶媒に溶解した電解質含有溶液を用い、この電解質含有溶液を塗工する際に疎水性のものを用いることで、プロトン伝導度を飛躍的に向上させることができることを見出したものである。こうした知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の上記目的は、電解質を溶媒に溶解してなる電解質含有溶液に、疎水性基板に塗工することにより得られる電解質膜によって達成される。
本発明の電解質膜では、電解質含有溶液を塗工する際に使用する溶媒と基板を、それぞれ高沸点溶媒と疎水性基板にすることにより、得られる電解質膜のプロトン伝導度を大幅に向上させることができる。とりわけ、高温低湿度(膜が乾燥しやすい)条件下でのプロトン伝導度を格段に向上することができる。
本発明の電解質膜は、電解質を溶媒に溶解してなる電解質含有溶液に、疎水性基板に塗工することにより得られてなることを特徴とするものである。本発明では、疎水性基板を用いることで、該基板の疎水部と電解質成分中の疎水部等との間の相互作用等により、膜内部に蓄えられる水分量(吸湿・保水作用等による)を十分確保することできる。その結果、高温低湿度でも、こうした水分が失われにくく長期間保持することができ、高温低湿度状態のままでも、高いプロトン伝導性を長く保持することができる。なお、本発明でいう高温低湿度とは、使用する燃料電池の種類や使用用途などによって異なるため、一義的に規定することはできない。1例を挙げれば、燃料電池の中でもとりわけ、高温低湿度状態におかれることの多い燃料電池自動車用の電源用途として用いられる固体高分子型燃料電池の電解質膜の場合、相対湿度60〜100%RH、温度60〜150℃の状態を、高温低湿度と呼ぶことにする。
また、本発明の電解質膜は、電解質を溶媒、好ましくは高沸点溶媒に溶解させて電解質含有溶液を調製する工程(以下、電解質溶液調製工程とも略記する)と、
前記電解質含有溶液を疎水性基板に塗工して電解質膜を形成する工程(以下、電解質膜形成工程とも略記す)と、を含むことを特徴とするものである。
以下、本発明の電解質膜及びその製造方法を、上記工程に即して説明する。
I.本発明の電解質膜の代表的な作製手順(第1実施形態)について
図1は、電解質を高沸点溶媒に溶解してなる電解質含有溶液を、疎水性基板に塗工することにより得られる本発明の電解質膜の代表的な作製手順(第1実施形態)を模式的に表した工程概略図である。
[電解質溶液調製工程]
電解質溶液調製工程では、電解質を溶媒に溶解させて電解質含有溶液を調製するものである。
好ましくは、図1に示すように、溶媒として高沸点溶媒11を用い、該溶媒11を攪拌しながら、該溶媒11に電解質13を少量ずつ投入し、全量投入後、一定時間以上攪拌することで電解質含有溶液15を調製するのが望ましい。
ここで、電解質としては、特に制限されるものではなく、プロトン伝導性を示す有機高分子であれば、特に限定されるものではないが、側鎖にプロトン解離性基を有するポリマーが、プロトン伝導性、製膜性の観点から好ましい。この場合のプロトン解離性基としては、スルホン酸基、ホスホン酸基、スルホンアミド基、スルホンイミド基およびそれらの誘導体を例示できる。
そのような高分子の具体例としては、全フッ素系スルホン酸などのフッ素系樹脂;炭化水素系プロトン伝導性高分子などの芳香族系炭化水素樹脂;具体的にはスルホン化エチレンテトラフルオロエチレン共重合体−グラフトーポリスチレン、スルホンアミド型エチレンテトラフルオロエチレン共重合体−グラフトーポリスチレン、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホンアミド型ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホンアミド型ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化架橋ポリスチレン、スルホンアミド型架橋ポリスチレン、スルホン化ポリトリフルオロスチレン、スルホンアミド型ポリトリフルオロスチレン、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホンアミド型ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリ(アリールエーテルスルホン)、スルホンアミド型ポリ(アリールエーテルスルホン)、スルホン化ポリイミド、スルホンアミド型ポリイミド、スルホン化4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン、スルホンアミド型4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン、ホスホン酸型4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホンアミド型ポリベンゾイミダゾール、ホスホン酸型ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホンアミド型ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリビフェニレンスルフィド、スルホンアミド型ポリビフェニレンスルフィド、スルホン化ポリフェニレンスルホン、スルホンアミド型ポリフェニレンスルホン、スルホン化ポリフェノキシベンゾイルフェニレン、スルホン化ポリスチレン−エチレン-プロピレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリフェニレンイミド、ポリベンズイミダゾール−アルキルスルホン酸、スルホアリル化ポリベンズイミダゾールなどを用いることができる。ただし、これらに何ら制限されるものではなく、従来公知のあらゆる電解質につき適用することができるものである。これらは1種単独で用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。このうち、フッ素系樹脂を用いる場合には、200℃以下で融解できる点で優れている。一方、芳香族系炭化水素樹脂を用いる場合には、材料コストが低減できる点で優れている。
また、本発明では、電解質含有溶液の調製に用いる溶媒としては、使用する電解質を溶解できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エトキシエタノール等の各種アルコール、アセトン等のケトン類、トルエン、キシレン類、N−メチル−2−ピロリドン(単にNMPとも略記する。)、ジメチルホルムアミド(単にDMFとも略記する。)、ジメチルアセトアミド(単にDMAcとも略記する。)、ジメチルスルホキシド(単にDMSOとも略記する)などを用いることができる。ただし、これらに何ら制限されるものではなく、従来公知のあらゆる溶媒につき適用することができるものである。これらは1種単独で用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。好ましくは高沸点溶媒である。これは、高沸点溶媒を用いることにより、溶媒の蒸発を抑え、高分子電解質の高次構造制御が促進され、得られる電解質のプロトン伝導度を向上させることが出来る。特に高湿度よりも低湿度(膜が乾燥しやすい状態)におけるプロトン伝導度の向上が顕著である点で特に優れている。なお、高沸点溶媒によるプロトン伝導性向上効果に関する作用機序は必ずしも明確ではないが、低沸点溶媒だと製膜過程の乾燥段階で高分子(電解質成分)の高次構造(三次元的な構造)ができる前に、溶媒が蒸発するので高次構造ができ難くなるおそれがある。これに対し、高沸点溶媒を用いる場合には、溶媒が蒸発するまでに所定の時間を要することになる。そのため製膜過程の乾燥段階で、電解質中に高次構造(図3参照のこと)ができるようにゆっくりと乾燥させることができる。その結果、高温低湿度下でのプロトン導電性に優れた高次構造膜(図3参照のこと)とすることができるものと思われる。
上記高沸点溶媒とは、沸点が80℃以上の溶媒をいい、具体的には、NMP、DMF、DMAc、DMSOなどの非プロトン性極性溶媒が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
溶媒11への電解質13の投入速度としては、特に制限されるものではないが、溶媒10mlに対し、20g/分以下、好ましくは0.1〜10g/分程度で少量ずつ投入するのが望ましい。投入速度が10g/分以下であると、溶媒が不足することなく均一に溶解することができる点で優れている。一方、投入速度の下限は特に制限されないが、0.01g/分以上の場合には、電解質の投入に長時間を要することなく行えるため経済である。
調製時の溶液温度は、特に制限されるものではなく、溶液の凝固点よりも高く、溶媒(溶液)の沸点よりも低い範囲内であればよいが、通常0〜200℃、好ましくは30〜120℃の範囲である。調製時の溶液温度が0℃以上の場合には、使用する溶媒の種類が凝固などにより制約されることもなく最適な溶媒を適宜選択することができる。一方、製時の溶液温度300℃以下の場合でも、使用する溶媒の種類が沸騰などにより制約されることも少ないので最適な溶媒を適宜選択することができる点で優れている。
電解質13を全量投入後の攪拌時間は、溶液の温度、電解質の投入量などにより異なるため一義的に規定されるものではないが、電解質13が溶媒11に完全に溶解されていればよい。ただし、常温下での攪拌だけでは、電解質を完全に溶解させにくく、溶け残りを生じる恐れがある。また攪拌時間が非常に長くなる恐れがある。そこで、好ましくは、図1に示すように、電解質13を全量投入後、一定時間攪拌した後に、高温下で更に所定時間攪拌を行った後、常温に戻すことで電解質含有溶液15を調製するのがより望ましい。これは、電解質を完全に溶解させ、溶け残りをなくすためである。電解質の溶け残りがあると、膜厚がうまく制御できなくなる為、加熱等により高温下に長時間置くのが望ましいものである。その後、常温に戻すのは、後工程で塗工する際に高次構造膜を形成しやすい為である。塗工する際に高温(例えば、80℃程度)のままでは、溶媒の蒸発(揮発・蒸散)速度が早すぎて高次構造膜を形成するのが困難となるおそれがある。なお、一度、完全に溶けた高分子(電解質成分)は、常温に戻してもすぐには析出してこないため、以下に説明する以後の工程を順次進める上で、支障が生じないようにすればよい。また、例えば、工業的に量産する際には、こうした原材料などは一度にまとめて大量生産して貯蔵しておき、その中から必要に応じて少量ずつ使用するような形態もある。そうした場合には、貯蔵中に高分子が析出しない程度の温度で保存管理するのが望ましいといえる。
上記の場合、具体的には、全量投入後、0〜200℃、好ましくは常温下で1〜72時間攪拌した後、加熱等により0〜200℃、好ましくは30〜120℃、より好ましくは80〜120℃の高温下で更に1〜72時間攪拌を行った後、自然放冷ないし冷却(熱交換など)にて、0〜50℃、好ましくは常温に戻すことで、電解質含有溶液15を調製するのが望ましいといえる。
本工程で調製される電解質含有溶液15中の電解質濃度は、特に制限されるものではないが、0.1〜50wt/v%、好ましくは1〜30wt/v%の範囲である。該濃度が0.1wt/v%以上であると、溶媒を大量に必要とせず経済的であるほか、溶液粘度が低くなり過ぎず、適度な粘性を保持することができる。そのため、膜の形成がスムーズかつ容易に行える点で優れている。一方、50wt/v%以下であると、電解質の溶解が十分に行えるほか、ゲル化を生じるおそれもなく、膜の成形がスムーズかつ容易に行える点で優れている。さらに適度な濃度であるため、高濃度化したときのように添加物中の金属成分等が凝集することもないので、電解質膜中に図3に示すような高次構造を効率よく形成することができ、プロトン導電性に優れる電解質膜とすることができる。
本発明では、上記電解質含有溶液に、更に必要に応じて各種添加剤を含有しても良い。具体的には、例えば、金属、金属アルコキシド、無機酸化物、天然鉱物、合成鉱物、カーボンナノチューブ、フラーレン、DNA、タンパク質、高分子、有機化合物などを適時適量を添加してもよい。以下に説明する第2実施形態は、上記した電解質含有溶液に、添加剤として、所定の濃度の金属アルコキシド、シラン化合物および水ガラスよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の無機物前駆体を含有してなる無機物前駆体含有溶液を加えることにより、複合電解質膜を調製し、該無機物前駆体含有溶液を疎水性基板に塗工することにより、無機物ゲルを含有する複合電解質膜を作製する例を説明するものである。ただし、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
[電解質膜形成工程]
電解質膜形成工程では、図1に示すように、前記電解質含有溶液15(あるいは上記したような複合電解質含有溶液)を疎水性基板17に塗工することにより電解質膜19を形成するものである。これにより、高温低湿度下で優れたプロトン伝導度を有する電解質膜19を得ることができる。
好ましくは、図1に示すように、電解質含有溶液15を疎水性基板17に適当な塗工手段を用いて塗布する工程(塗布工程)と、塗布工程により形成された塗膜19a(ウェット状態)を所定条件で熱処理する工程(熱処理工程)と、熱処理により得られた膜19b(ドライ状態)を純水等の溶液21を使って疎水性基板17から剥離する工程(剥離工程)と、剥離された純水等の溶液を含んだ膜19cを適当な乾燥手段で乾燥する工程(乾燥工程)とを行って、所望の電解質膜19を形成するのが望ましい。以下、各工程に即して説明する。
(塗布工程)
まず、塗布工程では、図1に示すように、電解質含有溶液15を疎水性基板17に適当な塗工手段(例えば、スプレー16等)を用いて塗布するものである。
電解質含有溶液15を塗工・製膜する際に用いることのできる疎水性基材17としては、疎水性を有するものであれば特に制限されるものではない。好ましくは、更に電解質含有溶液15に対して不活性であり、熱処理温度に対して安定性を有するなど、電解質膜の製膜用基材に求められる特性を備えてなるものである。上記不活性には、電解質含有溶液に対する反応活性がなく、薬品耐性を有するなどの特性が含まれるものとする。上記安定性には、熱処理温度下でも十分な耐熱性を有し、表面平滑性が損なわれにくく、寸法変化を受けにくいなどの特性が含まれるものとする。
上記疎水性基材は、少なくとも基板表面に疎水部を有し、該疎水部が疎水性を持つもの、または疎水性を付与したものであればよく、基材全体がこうした疎水部だけで構成されていてもよいが、疎水部だけで構成されていなくてもよい。
上記疎水性基板の疎水部としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリジシクロペンタジエン、ポリブチレン(PBu)などのオレフィン類、ウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、マレイン酸樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ノルボルネン樹脂などの疎水性樹脂を用いて形成されているもの等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。好ましくは、疎水性基板の疎水部が、ポリエステル類およびオレフィン類よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種を用いて形成されていることが望ましい。電解質膜の基材に接触している部分の性質を制御するためである。
上記疎水性基材としては、例えば、上述した各種疎水性樹脂を少なくとも表面(表層部)に用いた基材、あるいはガラス基材等の疎水性基材表面を改質(疎水処理)して適当な疎水基を導入して疎水性を付与した基材などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。何度も繰り返して上記に記載の一連の塗布工程に供されても疎水性が損なわれにくく、耐久性に優れるなどの点を勘案すれば、基材全体がポリエステル類やオレフィン類などの疎水性樹脂を用いて形成されているものがより望ましいが、これらに制限されるものではない。
本発明では、上記疎水性基板の疎水部が、上記電解質に含まれる疎水部と似た化学構造を有するものを用いて形成されていることが望ましい。これにより、得られた電解質膜の三次元的な構造は、ガラス板を基板に用いた場合よりも、親水部と疎水部の相分離がより顕著である。このように、三次元の高次構造を制御することにより、高湿度よりも低湿度におけるプロトン伝導度を大幅に向上させることができる点で優れている。例えば、電解質が、芳香族系炭化水素樹脂のように芳香族環を有する構造を有する場合には、疎水性基材の疎水部に用いられる疎水性樹脂にも、芳香族環を有する構造を有するものが、該電解質と化学構造が類似していることから望ましいものである。具体的には、電解質に上述したような芳香族系炭化水素樹脂を用いる場合には、疎水性基材の疎水部に用いられる疎水性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの芳香族環を有するポリエステル類がより好ましいものといえる。
また、疎水性基板としては、電解質膜と熱膨張係数が近い材料を用いるのが望ましい。これは、塗膜(ウェット状態)から乾燥等を行う際に、膜の熱膨張に追従して基板側が熱膨張することで、膜へのそりやしわなどが発生するのを防止することができる点で優れているためである。よって、疎水性基板としては、上記した電解質に含まれる疎水部と似た化学構造を有するものであって、電解質膜と熱膨張係数が近い材料がより望ましいといえる。ただし、後述する乾燥やその後の冷却などにおいて、昇温速度や降温速度が大きくならないようにして、急激な熱膨張や熱収縮が生じないようにすることで十分に対処することができる。
本発明のように疎水性基材を用いて製膜された電解質膜では、親水性表面のガラス基材を用いて製膜されたものに比して、プロトン伝導性を格段に高めることができるものである。例えば、ポリエチレンテレフタレート基材では、ガラス基材に比して約1.7倍向上することができる。かかる作用機序は明らかではないが、疎水性表面の基材に塗工された電解質は、ウェット状態で電解質成分中のスルホン酸基が外側を向くように配向されて基材側の膜表面から順次高次構造化(図3参照)されることで、新たなプロトン伝導経路が反対側の膜表面まで製膜過程で効率よく形成されると考える。
また、疎水性基板の接触角は、材料によっても異なることから、特に制限されるものではない。材料別に見ると、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル類では、30〜75°であり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系ポリマーでは、70〜135°の範囲である。これらから、おおよその接触角は、30〜135°、好ましくは60〜135°の範囲となるが、これらの範囲に制限されるものではない。ただし、溶媒に高沸点溶媒以外に、水などを用いる場合、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等は撥水性が高く、こうした水(溶媒)をはじくことになり、薄い電解質膜の塗工(キャスト)による製膜が困難となるような場合には、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル類を用いるのが望ましいといえる。なお、ガラス基板(親水性基板)の接触角は、4〜30°である。
同様に、疎水性基板の表面自由エネルギーは、材料によっても異なることから、特に制限されるものではない。材料別に見ると、例えば、PENなどのポリエステル類では、20〜35mJ/mであり、PTFEなどのフッ素系ポリマーでは、5〜20mJ/mの範囲である。これらから、おおよその表面自由エネルギーは、5〜35mJ/m、好ましくは5〜25mJ/mの範囲となるが、これらの範囲に制限されるものではない。なお、ガラス基板(親水性基板)の表面自由エネルギーは、35〜60mJ/mである。
上記基材の厚さは、フィルム状基材の場合には、通常5〜200μm、好ましくは10〜100μmである。特に、基板側(例えば、基板下部の台座内部)に加熱手段などを内設するような場合には、熱伝導性などを勘案してフィルム状基材を用いるのが望ましい。フィルム状基板では、可塑性に優れており、各工程での取り扱いが容易であり、基板から膜を剥離させるのも容易であるなどの点でも優れている。一方、表面が疎水化されたガラス基材や表面に疎水性フィルムがコーティングされた金属基材(樹脂基材を除くものではない)のようにフィルム状に成形し難く、取り扱いが難しくなるような場合には、通常0.1〜30mm、好ましくは0.1〜10mmの範囲とするのがよいなど、使用目的に応じて適宜決定すればよい。
また、塗工手段としては、特に制限されるものではなく、例えば、スプレーコーティング法(図1参照);転写法;インクジェット法やスクリーン印刷法などの印刷塗工技術を用いた塗工法;コーターやローラーなどによる塗工法などを用いることができる。また塗装装置としても上記した各塗工手段に適用した自動塗工装置を用いることができる。なお、押し出し法などのように高温状態にして製膜する方法では、電解質のスルホン酸基が切断されるおそれがあるので、上記したように基材にキャスティングして製膜する方法がよい。
なお、塗工に際しては、一度に所望の厚さになるように塗工してもよいし、所望の厚さになるように2回以上に分けて重ね塗り塗工してもよい。電解質膜の膜厚が厚くなってくると一度に塗工すると塗工むらや比重差による分離の進行などが生じやすくなる為、何回かに分けて重ね塗りした方が、表面が平滑で均一(均質)な高次構造膜を形成することができる点で優れている。
塗工時の温度としては、塗布直後に急激な温度上昇などにより溶媒が急激に蒸発(飛散)するなどして、製膜性能(例えば、平滑性や高次構造など)に影響を与えない範囲内であれば、特に制限されるものではなく、常温で行ってもよいし、適当に加熱して行ってもよいし、適当に冷却して行ってもよい。具体的には、0〜250℃、好ましくは20〜150℃の範囲で行うのが望ましい。加熱または冷却する場合には、基材側にヒーターや冷媒通路形成するなどして加熱・冷却してもよいし、装置内部全体を温度管理可能な装置としてもよいなど、特に制限されるものではない。
塗工時の圧力としては、塗布直後に急激な圧力変化などにより溶媒が急激に蒸発(飛散)するなどして、製膜性能に影響を与えない範囲内であれば、特に制限されるものではなく、減圧下、大気圧下、加圧下のいずれで行ってもよい。好ましくは大気圧下で行うのがよい。
塗工時の雰囲気としては、塗膜性能に影響を与えない雰囲気であれば特に制限されるものではなく、大気雰囲気、不活性雰囲気、酸素雰囲気のいずれで行ってもよい。作業性の観点から、好ましくは大気雰囲気で行うのが望ましい。
塗工後の塗膜(ウェット状態)の厚さは、ウェット・ドライ間の膨潤・収縮割合を考慮した上で、使用目的に応じて適宜調整すればよく特に制限されるものではない。
なお、本工程では、次工程の熱処理を行う前に、塗工後の塗膜(ウェット状態)を予熱処理してもよい。なお、かかる予熱処理は、本工程と熱処理工程との間に別途行ってもよいし、または熱処理工程にて、(1)所定の熱処理温度まで昇温速度をコントロールしたり、あるいは(2)熱処理温度を段階的に変化させて、予熱温度を含む低温熱処理を経て所望の高温熱処理を行うようにすることで、上記予熱処理と同様の効果を奏するようにしてもよい。
これら予熱処理は、塗工時の温度よりも高く、尚且つ熱処理温度よりも低い温度で塗膜を予熱して、急激な温度上昇による塗膜へのダメージを抑えることが目的である。かかる目的を達成できるものであれば、いかなる温度に設定してもよく、昇温速度も任意に設定すればよい。なお、塗工時の温度と熱処理温度の差が小さいような場合には、特に予熱処理を行わなくてもよい。
(熱処理工程)
熱処理工程は、図1に示すように、塗布工程により疎水性基板17上に形成された塗膜19a(ウェット状態)を適当な熱処理手段(例えば、熱処理器18等)を用いて所定条件で熱処理するものである。
本熱処理工程では、塗膜19a(ウェット状態)内の高分子(電解質など)が高次構造を形成することができるように、塗膜19a(ウェット状態)の乾燥をゆっくりすることが極めて望ましいものである。なお、高次構造が形成されていくイメージは、図3A〜Eに順を追って図解しているように、いわば糸(高分子鎖)41が、一本から二本、三本と部分的に絡んでいき、太い糸になるイメージである。図3Eに示す太い部分は、やや結晶性の挙動を示す。かかる高次構造では各糸41間(電解質の高分子鎖間)で架橋とまでは言えないが、分子間相互作用により、緩やかな結合を形成して、これらの糸41が絡み合って3次元構造を形成しているものといえる。こうした構造をとることで、ウォータークラスターの形成に必要な吸湿・保水性能が付与され、高温低湿度下でも新たなプロトン伝導経路に必要十分なウォータークラスターが保持されているため、ガラス基板などの親水性基板を用いた場合に比して2倍近いプロトン伝導度を発現させることができるものといえる(図4、5参照)。
以上のことから、本工程での熱処理温度としては、0℃〜350℃、好ましくは30℃〜150℃、より好ましくは50〜120℃の範囲で行うのが望ましい。熱処理温度が0℃以上であると、乾燥をゆっくりすることがでるため、高次構造を形成する上で都合である。例えば、図3Eに示す緩やかな結合を促進させるだけの熱量(エネルギー量)を供給することができるため、図3Aから図3Eに示す状態にまでスムーズに成長させることができる。また、反応を進行させるために長時間を要することもなく経済的である。熱処理温度が350℃以下であると、電解質の分解を生じさせることなく良好に熱処理することができる。また、使用する基材や溶媒の種類が制限されることもない。更に、塗膜(ウェット状態)の乾燥をゆっくりすることができ、高次構造を形成する上で優れている。即ち、高次構造を形成する前に溶媒が飛んでしまったり、基材が塑性変形したりして、所望の膜構造を形成することなく、良好な高次構造膜を形成することができる点で優れている。その結果、電解質膜のプロトン伝導性を格段に高めることができる。
熱処理圧力としては、乾燥をゆっくりすることができ、膜性能に影響を与えない範囲内であれば、特に制限されるものではなく、減圧下、大気圧下、加圧下のいずれで行ってもよい。好ましくは大気圧下で行うのがよい。
熱処理雰囲気としては、膜性能に影響を与えない雰囲気であれば特に制限されるものではなく、大気雰囲気、不活性雰囲気、酸素雰囲気のいずれで行ってもよい。作業性の観点から、好ましくは大気雰囲気で行うのが望ましい。
(剥離工程)
剥離工程は、図1に示すように、熱処理により得られた膜19b(ドライ状態)を純水等の溶液21を使って疎水性基板17から剥離するものである。
これは、疎水性基板17に固定された膜が破れたりしないように、純水等の溶液21で膨潤させて膜にテンションが加わらないようにして疎水性基板17から外すものである。
上記溶液21としては、次の乾燥工程で揮発させることで除去することができるものであればよく、特に制限されるものではない。具体的には、純水、有機溶媒などが挙げられる。好ましくは、膜内部に一部残留しても膜性能に影響しないものが望ましく、具体的には、純水である。
また、該溶液21の温度は、特に制限されるものではなく、常温のままでもよいし、加熱して用いてもよいし、冷却して用いてもよい。好ましくは、次の乾燥工程での時間短縮が容易なように、加熱して用いるのが望ましい。例えば、純水を加熱した熱水などを用いてもよい。かかる観点から、該溶液の温度は、0〜120℃、好ましくは20〜80℃の範囲である。
また、膜19bへの溶液21の供給方法としては、特に制限されるものではなく、スプレー法、含浸法などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
剥離の仕方は、例えば、膨潤により剥離するのが、しわや破れおよびピンホール発生などの問題が無く、きれいに剥離することが出来る。
更に、当該剥離工程においては、未反応物の洗浄処理を兼ねて剥離処理を行うのが望ましい。例えば、(1)洗浄を兼ねて純水中に疎水性基材ごと入れて洗浄処理を行いながら疎水性基材17から膜19cを剥離してもよい。あるいは(2)弱酸水溶液に疎水性基材ごと漬けて、未反応物の洗浄(好ましくは洗浄処理を行いながら剥離)を行い、その後、純水に疎水性基材ごと、ないし剥離された膜19cのみを入れて、弱酸水溶液や該弱酸と未反応物の中和物を洗浄・除去する(剥離されていなければ、ここで剥離も一緒に行う)ようにしてもよいなど、特に制限されるものではない。
(乾燥工程)
乾燥工程では、図1に示すように、剥離された純水等の溶液を含んだ膜19cを適当な乾燥手段(例えば、真空ないし減圧乾燥器20)で乾燥するものである。これにより、所望の電解質膜19を得ることができる。特に、上述したように疎水性基板17を用いることにより、得られる電解質膜19内での高次構造化による保水性が向上し、プロトン伝導性に優れた電解質膜19を得ることができる。
本工程での乾燥温度は、用いる溶液の種類(沸点)によっても異なる為、一義的に規定することはできないが、通常0〜300℃、好ましくは20〜120℃の範囲である。乾燥温度が0℃以上であると、溶媒が凍結することもなく良好に使用することができる。また使用可能な溶媒の種類が制限されることもない。一方、300℃以下であると、電解質が分解することなく良好に膜乾燥を行うことができる。
乾燥時の圧力は、膜性能に影響を与えない範囲内であれば特に制限されるものではなく、減圧下、大気圧下、加圧下のいずれで行ってもよい。好ましくは、乾燥時間が短縮可能な減圧下で行うのが望ましい。
乾燥時の雰囲気としては、特に制限されるものではなく、膜性能に影響を与えない雰囲気であれば特に制限されるものではなく、大気雰囲気、不活性雰囲気、酸素雰囲気のいずれで行ってもよい。作業性の観点から、好ましくは大気雰囲気で行うのが望ましい。
以上が、第1実施形態により本発明の電解質膜の作成手順の説明である。
II.本発明の電解質膜の代表的な作製手順(第2実施形態)について
図2は、電解質を高沸点溶媒に溶解してなる電解質含有溶液に添加剤として所定の濃度の金属アルコキシド、シラン化合物および水ガラスよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の無機物前駆体を含有してなる無機物前駆体含有溶液を加えることにより得られた無機物ゲルが分散された複合電解質含有溶液を、疎水性基板に塗工することにより得られる本発明の無機物ゲルを含有する複合電解質膜の代表的な作成手順(第2実施形態)を模式的に表した工程概略図である。
[電解質含有溶液調製工程]
本実施形態での電解質含有溶液調製工程は、図2に示すように、電解質含有溶液15を調製するまでは、第1実施形態で説明したと同様にして、電解質を高沸点溶媒に溶解してなる電解質含有溶液15を調製することができる。
次に、本実施形態では、電解質含有溶液15に、後工程の無機物前駆体の反応(加水分解反応及び縮合反応)に触媒として作用する成分(以下、加水分解・縮合反応触媒25、または単に触媒とも称する。)ないし該触媒含有溶液を適量添加して触媒を含有する電解質含有溶液23を調製する工程(触媒添加工程)を更に行うのが望ましい。なお、後述する複合電解質含有溶液ないし複合電解質膜中のゾルゲル反応では、電解質の自己触媒作用による無機物ゲルの高分散化も生じている。すなわち、電解質のスルホン酸基が酸触媒としても作用するので、高分散化(実際には親水・疎水による相分離との協調による)が実現する。そのため、必ずしも、以下に説明する酸触媒と中性触媒を添加する必要はないが、好ましくは、以下に説明する酸触媒と中性触媒を併用する方が、より一層優れた高分散を実現でき利点で望ましいものである。
かかる触媒添加工程につき説明する。
(触媒添加工程)
ここで、上記加水分解・縮合反応触媒としては、無機物前駆体の反応(加水分解反応及び縮合反応)に触媒として作用する成分であればよく、特に制限されるものではないが、好ましくは酸触媒および/または中性触媒を加えることが望ましく、より好ましくは酸触媒および中性触媒の両方を加えるものである。
ここで、酸触媒用の酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸等が使用できるが、これらに制限されるものではない。当該酸触媒は、その後の加水分解反応および縮合反応の触媒として必要である。
上記酸触媒用の酸の添加量は、上記無機物前駆体1モルに対して0.005〜100モル、好ましくは0.01〜20モルである。触媒用の酸の添加量が100モル以下であると、加水分解反応速度が速くなり過ぎないように調整(制御)されているので、膜の表面性を良好に保持することができる点で優れている。また触媒用の酸の添加量が0.005モル以上であると、反応速度が遅くなり過ぎないように調整(制御)されているので、成膜時間が長く掛かりすぎることもなく経済的である。
また、上記中性触媒としては、例えば、水、などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。当該水(中性触媒)は、その後の加水分解反応の触媒として必要である。
上記中性触媒の添加量は、上記無機物前駆体1モルに対して0.005〜100モル、好ましくは0.01〜20モルである。中性触媒の添加量が100モル以下、好適には20モル以下であると、膜が多孔質化して緻密性が失われることもなく、適正な多孔質膜を形成することができる点で優れている。中性触媒の添加量が0.005モル以上であると、反応速度が遅くなったり、未反応物が残りやすくなることもなく、適正な反応速度に制御されているので良好な無機物前駆体含有溶液を調整することができる。ここで、2種以上の無機物前駆体を用いる場合、例えば、3官能アルコキシシラン化合物と4官能アルコキシシラン化合物の両方を用いた場合には、その総量1モルに対して上記の中性触媒の添加量があてはまる。
前記酸触媒と中性触媒からなる加水分解・縮合反応触媒の合計添加量は、無機物前駆体含有溶液中の無機物前駆体1モルに対して、0.005〜100モル、好ましくは0.01〜20モルの範囲が望ましい。該加水分解・縮合反応触媒の添加量が0.005モル以上であると、反応の進行が遅くなりすぎず、良好に反応を進行させることができる。100モル以下であると、良好に反応を制御することができる点で優れている。
加水分解・縮合反応触媒の加え方としては、特に制限されるものではないが、10mlの電解質含有溶液15に対して、滴下速度0.001〜10ml/min、好ましくは0.01〜0.5ml/minの範囲の速度でゆっくりと滴下するのが望ましい。攪拌しながらゆっくり加えるのは、電解質が析出しないようにする観点から望ましいためである。一気に加えると、電解質の沈殿が生じる場合があり、上述したように膜厚がうまく制御できなくなるおそれがあるなど製膜性能に影響を及ぼすおそれがある。即ち、触媒の滴下速度が10ml/min以下であると、良好に反応を制御することができる点で優れている。そのため、電解質の沈殿が生じないで均一に滴下できる。その結果、上述したように膜厚をうまく制御することができるなど、製膜性能を良好に制御することができる。一方、滴下速度0.001ml/min以上の場合には、沈殿を生じないで均一に滴下できる。
なお、加水分解・縮合反応触媒として、上記酸触媒と中性触媒を併用する場合には、それぞれ上記滴下速度にて別々に添加してもよいが、好ましくは、酸触媒と中性触媒を混合した触媒(水溶液)を滴下するのが、滴下時間を短縮することができるため望ましい。即ち、酸触媒と中性触媒を混合した触媒(水溶液)は、上記に規定するような、ゆっくりとした滴下を行う必要はない。従って、例えば、水(中性触媒)に塩酸など(酸触媒用の酸)を滴下したり、市販の塩酸水溶液等を用いる方が、当該工程に要する時間を大幅に短縮できるためである。
また、電解質含有溶液15に加水分解・縮合反応触媒25を加える時期としては、後述する複合電解質溶液作製工程で無機物前駆体含有溶液を加える前であれば、特に制限されるものではない。好ましくは無機物前駆体含有溶液を加える数時間前、好ましくは0.1〜72時間前に加水分解・縮合反応触媒を滴下し終えるようにするのが望ましい。こうすることで、溶液が均一化し、望ましい。したがって、上記触媒を加える開始時期は、無機物前駆体含有溶液を加える数時間前に触媒を滴下し終えるように、上記触媒の添加量及び触媒の滴下速度から求めることができる。
[無機物前駆体溶液調製工程]
無機物前駆体溶液調製工程では、図2に示すように、金属アルコキシド、シラン化合物および水ガラスよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の無機物前駆体を溶媒(好ましくは前記高沸点溶媒ないし前記高沸点溶媒と相溶性のある溶媒)に溶解させて所定の濃度の無機物前駆体含有溶液を調製するものである。
好ましくは、図2に示すように、(高沸点)溶媒27を攪拌しながら、該溶媒27に金属アルコキシド、シラン化合物および水ガラスよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の無機物前駆体29を投入後、一定時間以上攪拌して溶解させることで所定の濃度の無機物前駆体含有溶液31を調製するのが望ましい。
本発明に用いることのできる無機物前駆体29としては、金属アルコキシド、シラン化合物および水ガラス(ケイ酸ナトリウム)よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の無機物前駆体であればよい。これらは、上述したように本発明の製造方法を適用することにより得られる複合電解質膜に、ナノメートルレベル〜数百ミクロンメートルレベルの無機物ゲルとして均一に高分散させることができる。その結果、当該複合電解質膜では、プロトン伝導性、とりわけ高温低湿度(膜が最も乾燥されやすい環境)下でのプロトン伝導性が格段(飛躍的)に向上(無機物無添加に比して2倍ないしそれ以上の性能向上を達成)し得ることができるものである。
ここで、金属アルコキシドを構成する金属としては、チタン、アルミニウムおよびジルコニウムからなる群から選ばれた少なくとも一つの金属を含むことが好ましい。これらの金属のアルコキシドは、反応性が高く、また、無機物前駆体含有溶液の濃度及び添加速度並びに無機物前駆体の反応温度を調整することにより、無機物前駆体の反応性(加水分解速度及び縮合反応速度)を制御することができる。その結果、得られる複合電解質膜に、ナノメートルレベル〜数百ミクロンメートルレベルの無機物ゲルとして均一に高分散させることができ、高温低湿度下でのプロトン伝導性を格段に向上することができる。
上記金属アルコキシドとしては、具体的には、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタンといったチタニウムアルコキシド、トリ−イソプロポキシアルミ、トリ−n−ブトキシアルミといったアルミニウムアルコキシド、テトラ−n−ブトキシジルコニウムといった加水分解速度の速いチタニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド等を挙げることができるが、これらに制限されるものではなく、さらに、その親水性部分に多価金属原子(例えば、Ti,Alなど)を含むものであって、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタノール、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、及びイソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネートなどのチタネート化合物、並びに、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどのアルミニウム化合物を包含する。
更に、本発明の金属アルコキシドには、有機官能基を有する金属アルコキシドを用いてもよい。有機官能基を有する金属アルコキシドは、その分子構造において、Si、Ti、Zr又はAl原子を含み、無機物質に対して高い反応性又は親和性を有する無機部分(SiOH、TiOH、ZrOH、AlOHなどの金属性水酸基=高い親水性を示す)と、有機化合物に対して高い反応性又は親和性を有する有機部分とを有する。有機官能基を有する金属アルコキシドは、シラン化合物と水ガラスの合計を100質量部とした時に0.01〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜75質量部、より好ましくは5〜50質量部である。有機官能基を有する金属アルコキシドの使用量が1質量部以上であると、有機官能基を有する金属アルコキシドによる柔軟性向上の効果が十分に得られる点で優れている。またそれが100質量部以下であると、優れたガスバリヤー性、更には無機物ゲルに吸湿、保水性能などの特性を有効に保持させることができる。
また、シラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(以下、単にTEOSとも略記する。)、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラアセチルオキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ペンチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランメチルトリアセチルオキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、n−ペンチル・メチルジメトキシシラン、n−ペンチル・メチルジエトキシシラン、シクロヘキシル・メチルジメトキシシラン、シクロヘキシル・メチルジエトキシシラン、フェニル・メチルジメトキシシラン、フェニル・メチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン、ジメチルジアセチルオキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。これらは単独で使用しても、混合物として使用してもよい。
さらに、プロトン伝導性を向上させる目的で、シラン化合物として、プロトン解離性の官能基を含有するシラン化合物を含めてもよい。
プロトン解離性の官能基としては、スルホン酸誘導体基、ホスホン酸誘導体基、スルホンアミド誘導体基もしくはスルホンイミド誘導体基が挙げられる。こうしたプロトン解離性の官能基を含有するシラン化合物としては、例えば、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン、ジエチルホスフェートエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
プロトン解離性の官能基であるスルホン酸基、ホスホン酸基は、例えば、ヘテロポリ酸のような無機固体酸を更に併用する場合には、該無機固体酸との縮合反応の前に加水分解により生成させてもよく、縮合反応後に生成させてもよい。
上記無機固体酸は、無機物であって、陽子供与体または電子受容体として働く固体から適宜選択することができる。好ましくはヘテロポリ酸である。中でも、タングステンとモリブデンとの少なくともいずれか一つと、ケイ素とリンとの少なくともいずれか一つとを適宜含めたヘテロポリ酸が特に好ましい。
具体的には、タングストリン酸、タングストケイ酸、モリブドリン酸等のヘテロポリ酸を挙げることができる。これらは、単独または二種以上の組み合わせで使用してもよく、またそれらと、リン酸、亜リン酸およびそれらの誘導体からなる群の内の少なくとも一つのリン酸化合物とを含めるようにしてもよい。
この際、リン酸化合物の100モル部に対しヘテロポリ酸が1〜5000モル部の範囲にあることが好ましい。さらに好ましくは5〜2000モル部の範囲である。5000モル部以下であると、未反応の無機固体酸が残留することもなく、燃料電池の運転時に発生する水により、無機プロトン伝導材料からの無機固体酸の漏洩の問題もなく、優れたプロトン伝導度を安定して維持することができる点で優れている。また1モル部以上であると、無機プロトン伝導材料におけるプロトン伝導キャリアである無機固体酸の密度は低くなることなく適切に維持できる為、高いプロトン伝導度を有効に発現することができる。
このようなリン酸化合物としては、下記一般式(1)で表されるリン酸またはその誘導体、あるいは下記一般式(2)で表される亜リン酸またはその誘導体が好ましい。
式中、Rは炭素数1〜6の1価の有機基を示し、Yは0〜3の整数である。
式中、R’は炭素数1〜6の1価の有機基を示し、Zは0〜3の整数である。
一般式(1)における、炭素数1〜6の1価の有機基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、フェニル基等を挙げることができる。
一般式(1)において、Yは0〜3であるが、Yが0の具体的な例としては、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル、リン酸トリプロピルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル等を挙げることができる。
また、一般式(1)において、Yが1または2の具体的な例としては、リン酸ジメチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸ジプロピルエステル、リン酸ジブチルエステル、リン酸ジフェニルエステル、リン酸メチルエステル、リン酸エチルエステル、リン酸プロピルエステル、リン酸ブチルエステル、リン酸フェニルエステル等に加え、Pをメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、フェノール等に溶解することにより調製されるものが挙げられる。更にYが3の具体的な例としては、オルトリン酸を挙げることができる。
一般式(2)における、炭素数1〜6の1価の有機基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、フェニル基等を挙げることができる。
一般式(2)において、Zは0〜3であるが、Zが0の具体的な例としては、亜リン酸トリメチルエステル、亜リン酸トリエチルエステル、亜リン酸トリプロピルエステル、亜リン酸トリブチルエステル、亜リン酸トリフェニルエステル等を挙げることができる。
また、一般式(2)において、Zが1の具体的な例としては、亜リン酸ジメチルエステル、亜リン酸ジエチルエステル、亜リン酸ジプロピルエステル、亜リン酸ジブチルエステル、亜リン酸ジフェニルエステル等、また、Zが2の具体的な例としては、亜リン酸メチルエステル、亜リン酸エチルエステル、亜リン酸プロピルエステル、亜リン酸ブチルエステル、亜リン酸フェニルエステル、更にZが3の具体的な例としては、亜リン酸を挙げることができる。
これらプロトン解離性の官能基を有するシラン化合物は、上記シラン化合物の一部として使用する。使用するシラン化合物の全量におけるモル比で80モル%以下であることが好ましい。80モル%以下であると、該プロトン解離性の官能基が酸触媒の作用を呈することもなく、無機物前駆体溶液の調整過程でゲル化が生じるのを抑制することができる。そのため、その後の複合電解質含有溶液調製工程のように無機物ゲルをナノメートルレベル〜数百ミクロンメートルレベルまで効果的に分散させることができる点で優れている。また、良好な製膜を行うことができるほか、得られた電解質膜のプロトン伝導性の大幅な向上を達成することができる。
上記無機物前駆体は、粉末形状のものを用いるのが、溶解しやすいため望ましい。
上記溶媒27としては、上記無機物前駆体を溶解できる溶媒であればよいが、好ましくは上記高沸点溶媒と相溶性のあるもの、ないしは上記高沸点溶媒と同じものが望ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エトキシエタノール等の各種アルコール、アセトン等のケトン類、トルエン、キシレン類、NMP、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などの塩基性溶媒、ジメチルスルホキシド(以下、単にDMSOとも略記する)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリルなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。好ましくは、NMP、DMSO、DMFなどの非プロトン性極性溶媒から適切なものを選ぶのが望ましい。また、単独使用もしくは共沸溶媒可能な組み合わせ使用するのが望ましい。乾燥段階での溶媒沸点の違いにより製膜過程での膜の高次構造に影響を及ぼす恐れがないためである。
無機物前駆体の投入速度としては、特に制限されるものではない。一度に全量を加えてもよいし、溶媒10mlに対し、0.001〜10g/分、好ましくは0.01〜5g/分程度で少量ずつ投入してもよい。投入速度が10g/分以下であると、無機物の沈殿を生じさせることなく、所望の大きさの無機物を分散させることができる点で優れている。投入速度が0.001g/分以上であると、当該無機物前駆体の投入を、長時間を要することもなく経済的に行うことができる。
無機物前駆体含有溶液の調製時の反応溶液の温度は、特に制限されるものではなく、反応溶液の凝固点よりも高く、反応溶液の沸点よりも低い範囲内であればよいが、通常0〜200℃、好ましくは0〜120℃の範囲である。加熱ないし冷却手段(装置)が不要であることから、常温で行うのがよい。
無機物前駆体を全量投入後の攪拌時間は、溶液温度、無機物前駆体の投入量などにより異なるため一義的に規定されるものではないが、無機物前駆体が溶媒21に完全に溶解されていればよい。また、無機物前駆体の投入初期から溶解終了時点まで攪拌するのが望ましい。
本工程で得られる無機物前駆体含有溶液31は、所定の濃度に調製されているものである。具体的には、無機物前駆体29が溶媒27により1〜50倍、好ましくは1〜25倍の範囲で希釈されているのが望ましい。言い換えれば、無機物前駆体含有溶液31中の無機物前駆体29の濃度は、2〜100wt/v%、好ましくは4〜100wt/v%の範囲である。該無機物前駆体29の(希釈)濃度が1倍以上ないし100wt/v%以下の場合には沈殿を生じさせることなく、所望の大きさの無機物を分散させることができる点で優れている。また、その後の無機物前駆体29の反応性(加水分解反応および縮合反応)を効率よく良好に制御することができる。一方、該無機物前駆体29の(希釈)濃度が50倍以下ないし2wt/v%を上回る場合には、(希釈)溶媒量が多くなり過ぎず経済的である。また、溶媒を留去するまでに長時間を要することもなく、この点でも経済的に優れている。また、その後の無機物前駆体29の反応性(加水分解反応および縮合反応)を効率よく良好に制御することができる。
なお、上記電解質溶液調製工程と無機物前駆体溶液調製工程との工程順序は、上述した順に行ってもよいし、この逆でもよい。また、図2に示すように、各工程を同時並行して進めてもよいなど、特に制限されるものではない。
[複合電解質溶液作製工程]
複合電解質溶液作製工程では、電解質含有溶液15、好ましくは触媒を含有してなる電解質含有溶液23に無機物前駆体含有溶液31を加えることにより、無機物ゲルが分散された複合電解質含有溶液33を調製するものである。好ましくは、本工程、更には電解質膜形成工程により、無機物前駆体の反応性(加水分解反応および縮合反応)を制御することが望ましい。そこで、複合電解質溶液作製工程では、図2に示すように、電解質含有溶液15、好ましくは触媒を含有してなる電解質含有溶液23を攪拌しながら、該電解質含有溶液15(23)に所定の濃度に調製されてなる無機物前駆体含有溶液31をゆっくりと滴下し、全量滴下後にも、一定時間以上攪拌することで複合電解質含有溶液33を作製するのが望ましい。本工程での、こうした条件では加水分解は、滴下した後の所定時間(具体的には、数十時間以内)に進行し、加水分解された後に縮合反応が進行する。縮合反応も、滴下した後の数十時間で進行し縮合していくが、あまり反応率は高くない。よって、縮合反応ともに、滴下した後、所定時間攪拌中(例えば、一日攪拌中)に1/10から1/2くらい進行し、残りが、次工程での熱処理(例えば、80℃加熱)で進行するように、無機物前駆体の反応性(加水分解反応および縮合反応)を制御するのが望ましい。但し、上記に示した具体的な数値は、あくまで1例であり、かかる数値に何ら制限されるものではない。
即ち、無機物前駆体の反応性(加水分解反応および縮合反応)を制御するには、具体的には、無機物前駆体の濃度、添加する触媒、反応温度(次工程の熱処理温度を含む)等の条件を特定することで行うことが出来るものである。このうち、無機物前駆体の濃度、添加する触媒については、既に説明しているので、以下、かかる反応性を制御するための反応温度や無機物前駆体の加え方などを中心に説明する。
ここで、電解質含有溶液15、触媒を含有してなる電解質含有溶液23、無機物前駆体含有溶液31に関しては、既に説明したとおりである。
所定の濃度に調製された無機物前駆体含有溶液の加え方としては、無機物前駆体の反応性制御の観点からは、電解質含有溶液(好ましくは、触媒を含有してなる電解質含有溶液である。以下、同様であり、単に電解質含有溶液とした場合には、好適な触媒を含有してなる電解質含有溶液も含まれるものとする。)10ml当たり、滴下速度(添加速度)が0.001〜10ml/min、好ましくは0.01〜1ml/minの範囲の速度でゆっくりと滴下するのが望ましい。滴下速度(添加速度)が10ml/min以下であると、反応が早く進みすぎて沈殿を生じさせることもなく、適切に反応を進行させることができる。一方、滴下速度(添加速度)が0.001ml/min以上であると、当該無機物前駆体含有溶液の滴下(添加)に長時間を要することもなく経済的である。
電解質含有溶液15(23)に無機物前駆体含有溶液31を添加して行う、本工程での無機物前駆体29の反応温度(反応溶液温度)は、0〜80℃、望ましくは0℃〜30℃の範囲である。なお、ここでの反応温度は、反応溶液温度をいい、次工程の熱処理温度は含めないものとする。(次工程の熱処理温度も含めた無機物前駆体の反応温度としては、0〜200℃囲、好ましくは20℃〜80℃の範囲である。)。該反応温度が0℃以上であると、溶媒が凍結することなく、良好に利用することができる。一方、80℃以下であると、溶媒が蒸発することなく、良好に利用することができる。また、無機物前駆体の反応性制御が容易であり、反応が早すぎて沈殿が生じることもなく、所望の大きさの無機物を分散させることができる。即ち、単分散されたナノメートルレベル〜数百ミクロンメートルレベルの無機物を形成保持でき、製膜により、こうした無機物ゲルを均一に高分散させることができ(これらがネットワーク化を形成している場合を含む)、所望のプロトン伝導性向上効果を十分に発揮させることができる。望ましくは、無機物前駆体の反応性制御が容易となる30℃以下で行うのがよい。
また、電解質含有溶液15(23)への前記無機物前駆体含有溶液31の加え方において、滴下側の無機物前駆体含有溶液31は、いずれも0〜80℃の範囲、望ましくは0〜30℃の範囲、より望ましくは電解質が沈殿しないできるだけ低い温度で滴下することが望ましい。なお、被滴下(母液)側の電解質含有溶液15(23)の温度は、上記無機物前駆体29の反応温度(反応溶液温度)と同様であり、無機物前駆体含有溶液31の滴下時、更には滴下後の攪拌時にも上記に規定する0〜80℃、望ましくは0℃〜30℃の範囲に保持すればよい。滴下する無機物前駆体含有溶液31の温度が0℃以上であると、溶媒が凍結することなく、良好に利用することができる。一方、80℃以下、更に30℃以下であると、反応が急激に進行し沈殿を生じさせることもなく、所望の大きさの無機物を分散させることができる。また、滴下側の無機物前駆体含有溶液31の温度は、被滴下(母液)側の電解質含有溶液15(23)の温度以下で滴下するのが望ましい。これにより、電解質が沈殿しないできるだけ低い温度を確保しやすく、また無機物前駆体29の反応性の制御も容易となる点で優れている。
無機物前駆体含有溶液31を、上記滴下速度にてゆっくりと全量滴下した後の攪拌時間は、反応溶液温度、無機物前駆体含有溶液31の投入量などにより異なるため一義的に規定されるものではない。好ましくは、上記したように無機物前駆体29の反応性(加水分解反応および縮合反応)制御の観点から、通常0.001時間以上、好ましくは0.001〜72時間、より好ましくは0.1〜48時間の範囲である。全量滴下後の攪拌時間が0.001時間以上であれば、溶液全体を均一に保持することができる。また、無機物前駆体の反応性制御を良好に行うことができる。そのため、ナノメートルレベル〜数百ミクロンメートルレベルの無機物ゲルが高分散されている電解質膜を形成することができる。その結果、高温低湿度状態下でのプロトン伝導性の大幅な向上を達成することができる。一方、全量滴下後の攪拌時間の上限は特に制限されないが、72時間以下であれば、当該処理における無機物前駆体の反応性(加水分解反応および縮合反応)制御が十分になされており、更なる攪拌を継続しなくてもよいことから経済的である。
無機物前駆体含有溶液31と電解質含有溶液15(23)との混合比率は、それぞれの濃度によっても異なるため一義的に規定することはできない。また、無機物前駆体含有溶液31中の無機物前駆体29と電解質含有溶液15(23)中の電解質13との混合比率は、目的とする無機物ゲルを含有する複合電解質膜19’の組成、即ち、本発明の作用効果を達成することのできる組成となるように適宜決定すればよく、特に制限されるものではない。具体的には、無機物ゲルを含有する複合電解質膜19’中の無機物含有量が、電解質膜全重量100重量に対して0.01〜70重量部の範囲となるように、さらに好ましくは電解質膜中の無機物含有量が、電解質膜全重量100重量に対して1〜50重量部の範囲となるように無機物前駆体含有溶液31中の無機物前駆体29と電解質含有溶液15(23)中の電解質13との混合比率を調製すればよい。
同様に、本工程で調製される無機物ゲルが分散された複合電解質含有溶液33中の電解質濃度及び無機物ゲルの濃度も、目的とする無機物ゲルを含有する複合電解質膜19’の組成、即ち、本発明の作用効果を達成することのできる組成となるように適宜決定すればよく、特に制限されるものではない。具体的には、無機物ゲルを含有する複合電解質膜19’中の無機物ゲルの含有量が、電解質膜全重量100重量に対して0.01〜50重量部の範囲となるように、複合電解質含有溶液33中の電解質13の濃度及び無機物ゲルの濃度を調製すればよい。さらに、製造過程における問題が生じないように溶液粘度やその後の製膜性なども十分に勘案して最適な濃度に調製すればよい。
具体的には、複合電解質含有溶液33中の電解質13の濃度としては、0.1〜100wt/v%、好ましくは1〜50wt/v%の範囲である。該濃度が0.1wt/v%以上であれば、溶媒を大量に使用することもなく経済的である。また、溶液粘度が低くなり過ぎず、適当な粘度に調整されているため、膜形成を迅速かつ容易になし得るものである。100wt/v%以下であると、高粘度になり過ぎず、適切な粘度に調整されているため、ゲル化を生じることなく、高分散された無機物を形成することができ、膜の形成が迅速かつ容易に行える点で優れている。さらに高粘度化により金属成分が凝集するのを制御することができるため、無機物ゲルを含有する複合電解質膜19’中にな無機物ゲルが(ネットワーク化されて)高分散された高次構造を有するものを良好に形成することができる。
また、複合電解質含有溶液33中の無機物ゲルの濃度としては、0.0001〜70wt/v%、好ましくは0.01〜50wt/v%の範囲である。該濃度が0.0001wt/v%以上であると、無機物添加による良好な効果を発現させることができる。70wt/v%以下であると、ひび割れのない電解質膜を得ることができる点で優れている。
[電解質膜形成工程]
次に、本実施形態の電解質膜形成工程は、図2に示すように、第1実施形態と同様にして、行うことができるものである(図1と図2とを対比参照のこと。)。すなわち、第1実施形態で用いた前記電解質含有溶液15に変えて、上記したような複合電解質含有溶液33を疎水性基板17に塗工することにより無機物ゲルを含有する複合電解質膜19’を形成することができるものである。これにより、高温低湿度下で優れたプロトン伝導度を有する、無機物ゲルを含有する複合電解質膜19’を得ることができる。従って、本電解質膜形成工程の説明に関しては、上記第1実施形態の電解質膜形成工程と同様である為、ここでの説明は省略する。
次に、本発明に係る電解質膜は、上記した本発明の製造方法により作製されてなることを特徴とするものである。本発明の電解質膜では、上述したよう疎水性基板を用いて製膜することにより、電解質膜内での高次構造化による保水性が向上してなる電解質膜を得ることができる。その結果、高温低湿度下でも十分なプロトン伝導度を発現させることのできるものである(図4、5参照)。
これは、上述したように本発明の電解質膜では、図3に示すような糸状の電解質高分子鎖41が高次構造化される際に、疎水性基板の疎水部と、親水性基板を用いた場合とは異なる分子間相互作用が複合的に関与するものと考えられる。そのため、得られる糸状の電解質高分子鎖の高次構造が変化していると考えられる。こうした分子間相互作用としては、主に疎水−疎水性相互作用と考えられるが、この他にも疎水性基板と電解質高分子鎖中に含まれる疎水部との間で、静電的相互作用、π−π相互作用、双極子−双極子相互作用、電荷移動相互作用等の分子間相互作用が複合的に関与することにより、高分子鎖同士がネットワーク化されて絡み合っているものと考えられる。
即ち、従来のガラス基板等の親水性基板を用いた場合には、親水性基板の親水部と、電解質高分子鎖中に含まれる親水部との間の親水−親水相互作用により高次構造膜が形成されていたものと思われる。これに対し、本発明のように疎水性基板を用いた場合には、疎水性基板の疎水部と、電解質高分子鎖中に含まれる疎水部との間の疎水−疎水相互作用を中心とした分子間相互作用により、高次構造膜が形成されているものと考えられる。
例えば、疎水性基板の疎水部との間の疎水−疎水相互作用の働きにより、高分子鎖中のスルホン酸基等の配向が外向きから内向きに変化することで、膜内への水分の吸湿(吸水)性を向上させることができる。また、膜内の疎水部配向制御等により、高次構造膜内に形成されるウォータークラスター領域を押し広げ、これを保持する能力が高められるものと考えられる。言い換えれば、電解質膜の三次元的な構造が、ガラス基板(親水性のもの)を用いて得られる電解質膜に対して、親水部と疎水部がより相分離されている構造であるともいえる。場合によっては、こうしたウォータークラスターが連続されることで新規なプロトンパスが形成されていることも考えられる。こうしたことにより、高温低湿度下にあっても、吸湿(吸水)された水分が排水され難く、膜内の保水力を長期にわたって保持することができるものと考えられる。その結果、高温低湿度下でのプロトン伝導性を大幅に高めることができるものと考える。このことは、通常の高湿度下では、既存のガラス基板を用いて得られた電解質膜と差異がないことからもいえる。即ち、通常の高湿度下では、乾燥されることはなく、むしろ外部から十分な量の水分がいつでも供給される環境にあり、こうした元では、本発明の高次構造膜のような優れた吸湿性・保水性を持たないガラス基板を用いて得られた電解質膜でも、十分なプロトン伝導性を発現できていたと考えられる。ところが、高温低湿度下では、優れた吸湿性・保水性を持たないガラス基板を用いて得られた電解質では、保水能力が低く、こうした水分も排水されやすいため、乾燥が進みやすく、大幅なプロトン伝導性の低下を招くことになっていたと考えられる。
次に、本発明に係る電解質膜は、前記電解質含有溶液をガラス基板(親水性のもの)に塗工することにより得られる電解質膜に対して、より高いプロトン伝導度を有することを特徴とするものとして捕らえることもできる。好ましくは、プロトン伝導度測定による相対湿度30%RH、温度80℃でのプロトン伝導度の向上分が、前記電解質含有溶液をガラス基板に塗工することにより得られる電解質膜に対して、5%以上、好ましくは10%以上高いことが望ましい。なお、本発明に係る電解質膜(あるいは同意の意味で使われている、本発明の疎水性基板を用いて得られた電解質膜など)と、電解質含有溶液をガラス基板(親水性のもの)に塗工することにより得られる電解質膜(あるいは同意の意味で使われている、ガラス基板(親水性のもの)を用いて得られた電解質膜など)とは、基板が異なる以外は全く同じ製造方法により作製したものとする(以下同様である。)。
本発明の電解質膜のプロトン伝導度の向上分が、ガラス基板(親水性のもの)に塗工することにより得られる電解質膜に対して、5%以上であれば、低湿度におけるプロトン伝導度として十分である。
また、本発明に係る電解質膜は、少なくとも膜の片面の接触角が70°以上、好ましくは75°以上、より好ましくは80°以上であることを特徴とするものとして捕らえることもできる。望ましくは基板と接していた膜裏面の接触角が、70°以上、好ましくは75°以上、より好ましくは80°以上であり、特に望ましくは膜両面の接触角が、いずれも70°以上、好ましくは75°以上、より好ましくは80°以上である。
かかる接触角を持つ電解質膜は、いわば疎水性基板を用いて形成された電解質膜に由来する特性といえるものであり、こうした特性を備えた電解質膜であれば、高温低湿度下にあっても、吸湿(吸水)された水分が排水され難く、膜内の保水力を長期にわたって保持することができる。その結果、高温低湿度下でのプロトン伝導性を大幅に高めることができるものである。また、接触角の上限については特に規定していないが、これは電解質の種類によって異なる為であり、炭化水素系樹脂の電解質では、100°程度である。フッ素系樹脂の電解質では、より大きな接触角になる。但し、あまり大きくなると水を弾くようになり、吸湿(吸水)性に影響するおそれがあることから60〜100°程度であれば問題なく使用することができる。ただし、本発明は、電解質の種類により異なることから、上記接触角の範囲を外れる場合であっても、本発明の作用効果を奏することができるものであれば本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。なお、ガラス基板(親水性のもの)に塗工することにより得られる電解質膜の接触角は、電解質の種類にもよるが、例えば、スルホン化ポリフェノキシベンゾイルフェニレン(S−PPBP)で60°である。
また、膜の接触角は、電解質の種類により異なることから、本発明の電解質膜表面の接触角が、ガラス基板(親水性のもの)に塗工することにより得られる電解質膜表面の接触角に対して、10°%以上、好ましくは15°以上、より好ましくは20°以上あることが望ましい。例えば、電解質にスルホン化ポリフェノキシベンゾイルフェニレン(S−PPBP)を用いた場合、ガラス基板(親水性のもの)により得られる電解質膜の裏面(基板と接する面)の接触角は60°であるのに対し、疎水性樹脂のPEN基板(疎水性基板)によりて得られる電解質膜の裏面(基板と接する面)の接触角は80°である。ただし、本発明は、電解質の種類により異なることから、上記接触角の範囲を外れる場合であっても、本発明の作用効果を奏することができるものであれば本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。
本発明に係る電解質膜は、燃料電池の電解質膜として利用することができる。
ここで、本発明に係る電解質膜を利用することのできる燃料電池としては、特に限定されず、高分子電解質型(固体高分子型)燃料電池;アルカリ型燃料電池、リン酸型燃料電池に代表される酸型電解質の燃料電池;ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。また、こうした燃料電池は、高温低湿度でのプロトン伝導性に優れることから、高温低湿度でも所望の電池性能を発現することできる。そのため、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。特にシステムの起動停止や出力変動が頻繁に発生し、高温低湿度で運転(アイドル(idle)停止運転を想定したOCV保持時などの起動停止〜連続運転までの各種の運転状態を含むものとする)されることのある自動車用途で特に好適に使用できる。特に高分子電解質型(固体高分子型)燃料電池は、小型かつ高密度・高出力化が可能であることから、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。
実施例1
以下に示す工程手順で、電解質膜を作製した。
1.電解質含有溶液の調製(電解質含有溶液調製工程)
高沸点溶媒であるNMP20mlを攪拌しながら、該NMP溶媒に電解質としてスルホン化ポリエーテルスルホン(以下、単にS−PESともいう。)5.0gを少量ずつ投入し、全量投入後、常温下で、30分以上攪拌した。その後、ヒーター加熱により80℃の高温下で更に12時間攪拌を行った後、自然放冷にて常温に戻すことで、電解質含有溶液として25wt/v%のS−PES含有NMP溶液を調製した。
ここで、S−PESの投入速度は、溶媒10mlに対し、0.5g/分とした。
2.電解質膜の形成(電解質膜形成工程)
2−1.電解質含有溶液の塗布
上記1で作製された電解質含有溶液のS−PES含有NMP溶液を、自動塗工装置を用いて、50μm厚の疎水性基材であるポリエチレンナフタレート(PEN)基材(接触角30〜75°、表面自由エネルギー20〜35mJ/m)に塗工して塗膜(ウェット状態)を形成した。塗布処理は、大気雰囲気下、常温、常圧で行った。
2−2.塗膜(ウェット状態)の熱処理
上記2−1により形成された塗膜(ウェット状態)を、乾燥機を用いて80℃で最低12時間以上熱処理することで膜(ドライ状態)を得た。熱処理は、大気雰囲気下、常圧にて行った。
2−3.膜(ドライ状態)の純水剥離
上記2−2で得られた膜を常温(室温)下で基材に固定された膜が破れたりしないように、純水に5分浸漬し、洗浄も兼ねて膨潤させて膜にテンションが加わらないようにして、基材から剥離した。ここでも、大気雰囲気下、常温、常圧で行った。
2−4.膜の乾燥
剥離された純水を含んだ膜を、乾燥器に入れ、常温(室温)で3時間以上、真空乾燥を行って、膜厚10〜100μmの所望の電解質膜を形成した。
3.電解質膜の性能評価
以下に示すプロトン伝導度測定により、得られた電解質膜につき温度及び相対湿度を変えてプロトン伝導度を測定した。得られた結果を図4、5に示す。また、得られた電解質膜につき、その接触角を測定した。その結果、疎水性基板としてPEN基板を用いた形成された電解質膜の該基板と接していた面の接触角は60〜100°であった。
<プロトン伝導度測定>
40・60・80℃×30・60・95%RHの9条件で測定を実施した。インピーダンスの測定にはソーラトロン社のインピーダンスアナライザーを用い、交流法にて行った。振幅10mV、10k〜100kHzの周波数掃引を行い、得られたcole−coleプロットの実軸との切片を抵抗とした。
非導電性の基材上に、上記の電解質膜を配置し、その上に、白金線を0.5cm間隔で5本並行に巻き付けた非導電性電極支持基材を配置し、白金線の間を適宜通電し、白金線間距離を0.5cm、1cm、1.5cm、2cmと変えて抵抗を測定し、得られたそれぞれの抵抗値を電極間距離に対しプロットした。このプロットは直線になった。この勾配から以下の式にて、プロトン伝導度を算出した。
比較例1
1.電解質溶液の調製
高沸点溶媒であるNMP20mlを攪拌しながら、該NMP溶媒に電解質としてS−PES5.0gを少量ずつ投入し、全量投入後、常温下で、30分以上攪拌した。その後、ヒーター加熱により80℃の高温下で更に12時間攪拌を行った後、自然放冷にて常温に戻すことで、電解質含有溶液として25wt/v%のS−PES含有NMP溶液を調製した。
ここで、S−PESの投入速度は、溶媒10mlに対し、0.5g/分とした。
2.電解質膜の形成
2−1.電解質含有溶液の塗布
上記1で作製された電解質含有溶液を、自動塗工装置を用いて、親水性基板であるガラス基材(接触角4〜30°、表面自由エネルギー35〜60mJ/m)に塗工して塗膜(ウェット状態)を形成した。塗布処理は、大気雰囲気下、常温、常圧で行った。
2−2.塗膜(ウェット状態)の熱処理
上記2−1により形成された塗膜(ウェット状態)を、乾燥機を用いて80℃で最低12時間以上熱処理することで膜(ドライ状態)を得た。熱処理は、大気雰囲気下、常圧にて行った。
2−3.膜(ドライ状態)の純水剥離
2−2で得られた膜を常温(室温)下で基材に固定された膜が破れたりしないように、純水に5分浸漬し、洗浄を兼ねて膨潤させて膜にテンションが加わらないようにして、基材から剥離した。ここでも、大気雰囲気下、常温、常圧で行った。
2−4.膜の乾燥
剥離された純水を含んだ膜を、真空乾燥器に入れ、常温(室温)で3時間以上、真空乾燥を行って、膜厚30μmの比較用の電解質膜を形成した。
3.電解質膜の性能評価
実施例1に示すプロトン伝導度測定により、得られた比較用の電解質膜についても温度及び相対湿度を変えてプロトン伝導度を測定した。得られた結果を図4、5に示す。また、得られた比較用の電解質膜につき、その接触角を測定した。その結果、親水性基板としてガラス基板を用いた形成された比較用の電解質膜の該基板と接していた面の接触角は50°であった。
図4、5の結果から明らかなように、比較例1のガラス基板を用いて得られた比較用の電解質膜に比して、本発明の疎水性基板(PEN基板)を用いて得られた実施例1の電解質膜では、低湿度条件下でプロトン伝導度を約1.7倍に向上できることが確認できた。このことから、低湿度条件での運転が行われ得る燃料電池自動車などの用途に極めて有用に適用できることが確認できた。特に、実施例1のS−PES電解質膜は、芳香族系炭化水素樹脂製の電解質膜であり、既存の芳香族系炭化水素樹脂製の電解質膜の製造方法と同じ手法をそのまま採用することができる。そのため、ナフィオンなどのフッ素系樹脂製の電解質膜に比して安価に製造することができ、なおかつプロトン伝導度を格段に高めることが出来るものである。
本発明の電解質膜の製造方法の代表的な製造手順を模式的に表した工程概略図である。 電解質を高沸点溶媒に溶解してなる電解質含有溶液に添加剤として所定の濃度の金属アルコキシド、シラン化合物および水ガラスよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の無機物前駆体を含有してなる無機物前駆体含有溶液を加えることにより得られた無機物ゲルが分散された複合電解質含有溶液を、疎水性基板に塗工することにより得られる本発明の無機物ゲルを含有する複合電解質膜の代表的な作成手順(第2実施形態)を模式的に表した工程概略図である。 本発明の製造方法により、高分子(電解質)が高次構造化されていく様子を段階的に表したイメージ概略図である。 実施例1の電解質膜と比較例1の電解質膜につき、温度80℃におけるプロトン伝導度と相対湿度の関係を表すグラフである。 実施例1の電解質膜と比較例1の電解質膜につき、相対湿度ごとのプロトン伝導度と温度の関係を表すグラフである。
符号の説明
11 (高沸点)溶媒、
13 電解質、
15 電解質含有溶液、
16 塗工手段(スプレー等)、
17 疎水性基板、
18 熱処理手段(熱処理器など)、
19a、19’a 塗膜(ウェット状態)、
19b、19’b 熱処理後の膜(ドライ状態)、
19c、19’c 純水等の溶液を含んだ膜、
19 電解質膜、
19 無機ゲルを含有する複合電解質膜、
20 乾燥手段(真空ないし減圧乾燥器など)、
21 純水等の溶液、
23 触媒を含有する電解質含有溶液、
25 加水分解・縮合反応触媒、
27 (高沸点)溶媒、
29 無機物前駆体、
31 所定の濃度の無機物前駆体含有溶液、
33 複合電解質含有溶液、
41 糸状の電解質高分子鎖。

Claims (18)

  1. 電解質を溶媒に溶解してなる電解質含有溶液を、疎水性基板に塗工することにより得られる電解質膜。
  2. 前記疎水性基板は、少なくとも基板表面に疎水部を有し、該疎水部が疎水性を持つもの、または疎水性を付与したものであることを特徴とする請求項1に記載の電解質膜。
  3. 前記疎水性基板の疎水部が、ポリエステル類およびオレフィン類よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種を用いて形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電解質膜。
  4. 前記ポリエステル類が、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の電解質膜。
  5. 前記オレフィン類が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリジシクロペンタジエン及びポリブチレンよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の電解質膜。
  6. 前記疎水性基板の疎水部が、電解質に含まれる疎水部と似た化学構造を有するものを用いて形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解質膜。
  7. 前記溶媒が、高沸点溶媒であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電解質膜。
  8. 前記高沸点溶媒が、非プロトン性極性溶媒から選ばれてなるものであることを特徴とする請求項7に記載の電解質膜。
  9. 前記非プロトン性極性溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシドよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の電解質膜。
  10. 前記電解質が、フッ素系樹脂であること特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電解質膜。
  11. 前記電解質が、芳香族系炭化水素樹脂であること特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電解質膜。
  12. 電解質膜の三次元的な構造が、前記電解質含有溶液をガラス基板(親水性のもの)に塗工することにより得られる電解質膜に対して、親水部と疎水部がより相分離されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の電解質膜。
  13. プロトン伝導度が、前記電解質含有溶液をガラス基板(親水性のもの)に塗工することにより得られる電解質膜に対して、より高いプロトン伝導度を有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の電解質膜。
  14. プロトン伝導度試験による相対湿度30%RH、温度80℃でのプロトン伝導度が、前記電解質含有溶液をガラス基板に塗工することにより得られる電解質膜に対して、5%以上高いことを特徴とする請求項13に記載の電解質膜。
  15. 少なくとも電解質膜の片面の接触角が75°以上であることを特徴とする請求項1〜14に記載の電解質膜。
  16. 前記親水性基板と接していた電解質膜の面の接触角が、75°以上であることを特徴とする請求項15に記載の電解質膜。
  17. 少なくとも電解質膜の片面の接触角が、75°以上であることを特徴とする電解質膜。
  18. 電解質を高沸点溶媒に溶解させて電解質含有溶液を調製する工程と、
    前記電解質含有溶液を疎水性基板に塗工して電解質膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の電解質膜の製造方法。
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