上述した従来のX線検査装置においては、X線検出器のメンテナンスを行うべきか否かの判断をすることができなかった。
すなわち、X線検出器を稼働し続けるとX線を蛍光に変換する蛍光変換部や当該蛍光を電気信号に変換する光電変換部とにおける性能が劣化する。この劣化が僅かであれば、X線検出器によって取得した画像やその画像に基づくサンプルの良否判定等の検査精度は高く、また、前記特許文献1のような技術でそのずれを補償できる場合がある。しかし、X線検出器を稼働し続ければ前記性能の劣化はさらに進み、最終的には性能の劣化に起因する検査の精度の低下が許容範囲を超えることになる。
このように、検査の精度の低下が許容範囲を超えたときには、X線検出器の稼働を停止し、X線検出器を交換する作業が必要となる。しかし、この作業が必要になった時点でサービス要員を呼び出したり、交換部品の発注を行うと、X線検出器の稼働を停止してから作業を開始するまでに多くの時間がかかってしまう。特に、24時間の連続操業を行ってあるサンプルを製造する工場内で、このサンプルを検査するためにはX線検出器を24時間稼働し続ける必要があるが、前記交換のために長い間X線検出器の稼働を停止すると、サンプルの製造に甚大な影響を及ぼす。
また、X線検出器の性能の劣化要因には複数の要因があり、これらは複雑に影響を及ぼし合っている。従って、特定の劣化要因について単体で検査したときに許容される劣化の程度と複数の劣化要因を総合的に検査したときに許容される劣化の程度とは異なっている。例えば、蛍光変換部単体でみたときには程度Aまで劣化が許容されるが、蛍光変換部と光電変換部との劣化を複合的に評価する場合には、蛍光変換部の劣化は程度a、光電変換部の劣化は程度bまで許容される(a<A)というような状況が起こり得る。
従って、ある特定の劣化要因のみに基づいてX線検出器の劣化を評価したとしてもX線検出器の性能劣化を正確に判定することはできず、また、X線検出器の稼働停止時期を事前に予測するための情報としては全く利用できない。特に、X線検出器は一般に高価であることから交換時期を適切に判断する必要性が高く、また、交換周期が長いのでその使用状況によって劣化の程度は著しく異なり、交換を行うタイミングを適切に判定するのが困難であった。
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、X線検出器の交換タイミングを適切に把握し、また、X線検出器の稼働を停止させる時間をできるだけ短くするために予防的な措置を講じることが可能なX線検出器診断装置およびX線検出器診断方法の提供を目的とする。
前記目的を達成するため、本発明では、X線出力手段とサンプル配置手段とX線画像取得手段とによってサンプルの検査を実施可能な構成において、X線画像取得手段における性能の劣化を示す複数のパラメータを取得し、性能の劣化に関する出力を行う。従って、稼働中のX線画像取得手段における性能の劣化を正確に把握することができ、X線画像取得手段(およびX線出力手段)の停止時間をできるだけ少なくするための予防措置を講じることができる。
例えば、経時変化によってX線画像取得手段の性能が徐々に劣化していくと、ある時点でX線画像取得手段の性能がサンプルの検査に耐えられない(あるいは好ましくない)性能となる。また、経時的な性能の劣化が蓄積すると、画像処理や機構の自動調整によって性能の劣化を抑えることは不可能になる。このとき、X線画像取得手段の稼働を停止してX線画像取得手段の修理や交換等のメンテナンスを行う必要がある。一般に、X線画像取得手段においてこのメンテナンスが必要になってから交換部品の発注やサービス要員への通知を行うと、X線画像取得手段の停止からメンテナンス作業を開始するまでに多大な時間がかかり、X線画像取得手段の停止時間が極めて長くなってしまう。
さらに、単一のパラメータに基づいて性能の劣化を判断していると、多様な要素によって性能が保証されているX線画像取得手段の性能劣化原因を正確に特定することができず、メンテナンスを行うべきタイミングやメンテナンスによって解消すべき劣化要因を正確に知ることは不可能である。
しかし、本発明においては、複数のパラメータに基づいて性能の劣化を評価するので、
性能の劣化原因を予め正確に特定することができ、X線画像取得手段が停止する以前に前記交換部品の発注やサービス要員への通知を正確に行うことが可能であり、X線画像取得手段の停止後、即座にメンテナンス作業を開始することができる。また、性能の劣化要因が予め特定されるため、最小限のメンテナンス後にX線画像取得手段を稼働させることが可能になる。従って、X線画像取得手段の停止時間を最小限に抑えることができる。
ここで、X線出力手段は、X線を出力することができればよく、開放管や密閉管など種々のX線源を採用可能である。さらに、サンプル配置手段は、X線の照射範囲にサンプルを配置することができればよく、サンプルの移動を行う機構であっても良いし、サンプルの向きを変更する機構であっても良い。すなわち、X線による検査手法およびX線画像取得手段の構造に応じて適宜好ましい形式を選択すればよい。例えば、2次元的な透過像を評価するためにサンプルを平面移動させるためのX−Yステージを構成してもよいし、3次元的な像を評価するために複数の角度からサンプルを撮影する検出器とX−Yステージを構成してもよいし、サンプルを回転させる機構を採用しても良い。むろん、多数のサンプルを連続的に検査するために、サンプルの搬送機構と連動するように構成することも可能である。
X線画像取得手段においては、蛍光変換部と光電変換部とによってX線画像を取得することができればよい。例えば、蛍光変換部はX線を取得して蛍光に変換するシンチレータによって構成可能であり、光電変換部は蛍光を電気信号に変換するCMOSやCCD等のセンサによって構成することができる。なお、本発明では、複数のサンプルを同時に撮影し、検査するため、2次元センサを採用することが好ましい。また、複数の方向からサンプルを撮影するため、センサを回転あるいは移動させる構成を採用しても良いし、複数のセンサを備える構成であっても良い。むろん、複数のセンサを回転あるいは移動させる構成を採用しても良い。
この構成によれば、前記照射範囲内にサンプルを配置することにより、サンプルのX線画像を取得することができる。また、前記照射範囲内にサンプルを配置せず、あるいは、基準サンプルを配置してX線を取得することにより、X線量に対応したX線画像を取得することができる。
当該X線画像取得手段において、蛍光変換部はX線を効率的に蛍光に変換することが好ましいが、一般に、当該変換を行うシンチレータ等の材料は経時的に劣化する。例えば、この材料が変色し、蛍光への変換効率が低下する。従って、当該蛍光変換部は経時的な劣化要因を備えている。また、光電変換部にX線が到達すると、CMOSやCCD等が破壊されることによって性能が劣化する。さらに、光電変換部として多用されるセンサにおいては、X線を取得していない状態で暗電流が発生し、X線画像を生成する際のノイズとなるが、この暗電流成分は前記光電変換部が損傷をうけることによって増加する。従って、光電変換部の性能も経時的に劣化する。
性能診断手段は、X線画像に基づいてこれらの性能の劣化を示す複数のパラメータを取得して性能の劣化に関する出力を行うことができればよい。ここで、性能の劣化に関する出力は性能の劣化を判定可能な出力であればよく、性能の劣化を示す警告を行っても良いし、パラメータ自体をディスプレイ等に出力しても良いし、パラメータの経時変化(ログ)を出力しても良い。
すなわち、パラメータの出力に基づいて利用者がメンテナンスのタイミングを判断しても良いし、警告によってメンテナンスのタイミングを把握できるようにしても良い。後者の構成であれば、X線画像取得手段の性能が検査に耐え得る状態であることを極めて容易に知ることができるので、極めて容易にメンテナンスを行うべきタイミングを事前に知ることが可能になる。むろん、前記メンテナンスを行うべきタイミングを事前に知るためには、X線画像取得手段の性能がメンテナンスを行う必要がある性能に達する前に警告がなされることが好ましい。従って、X線画像取得手段においてメンテナンスが必要とされる性能と比較して、より性能の劣化が少ない状態で警告がなされるように所定の基準を設定する必要がある。
このための構成としては、種々の構成が採用可能であり、例えば、X線画像取得手段の性能の経時的な劣化の進み具合を考慮して、所定の警告を行ってからメンテナンスを行う人員の準備が完了するまでに充分な時間を確保できるように所定の基準を設定したり、メンテナンスを行う際に必要となる交換部品を用意するまでの期間を充分に確保できるように所定の基準を設定するなどの構成を採用可能である。この構成は、メンテナンスを行う人員の派遣元や交換部品の発送元が海外などの遠隔地である場合に特に好適である。
また、警告の態様としても種々の態様を採用可能である。例えば、メンテナンスを行う人員を呼ぶべきである旨の表示や交換部品の発注を行うべき旨の表示を所定の表示装置にて行う構成を採用可能である。むろん、このとき、メンテナンスを行う人員や交換部品の発注先等の連絡先を併せて表示するなどの構成を採用しても良い。また、所定の警告の出力先は、X線検査装置のオペレータに限定されることはない。例えば、所定の通信装置によってメンテナンスを行う人員へ警告を送信したり、交換部品の発注を行うことによって所定の警告を出力する構成としても良い。
上述の性能診断手段においては、性能の劣化を示す複数のパラメータを取得するように構成可能であり、その構成例として、複数の判断指標についてパラメータを取得する構成を採用可能である。このように、複数の判断指標に基づいて性能の劣化を評価すれば、複雑な要因によって劣化するX線画像取得手段の性能を総合的に評価することが可能になる。
さらに、サンプルを配置せずにX線を出力して撮影を行ったX線画像と、X線を出力しないで撮影を行った画像との差分に基づいて性能の劣化を診断するためのパラメータを取得しても良い。すなわち、画像の輝度はX線量に対応しているため、これらの画像の差分はX線画像取得手段におけるダイナミックレンジに相当する情報となる。上述のように蛍光変換部や光電変換部における性能の劣化が発生すると、当該性能の劣化を反映してダイナミックレンジが狭くなるので、当該ダイナミックレンジの程度によって性能の劣化を診断することが可能になる。
なお、ここでは、X線を出力した状態で撮影したX線画像とX線を出力しない状態で撮影した画像とを比較することによってダイナミックレンジに対応した情報を取得することができればよく、X線出力手段におけるX線量は限定されない。例えば、初期状態でX線画像取得手段による輝度値が飽和する直前のX線量とする構成を採用可能である。
さらに、既知の厚さの基準サンプルをX線画像取得手段にて撮影して取得したX線画像に基づいて当該既知の厚さに対応した情報をパラメータとして取得しても良い。すなわち、X線画像として取得される基準サンプルの透過像において、当該透過像における輝度は当該基準サンプルの厚さに対応している。従って、上述のようにダイナミックレンジが狭くなったときには、その劣化の程度が当該透過像における輝度に反映され、前記透過像によって既知の厚さに対応する情報を取得することによって性能の劣化を診断することが可能になる。
なお、基準サンプルは既知の厚さであり、この厚さに対応した透過像の輝度に関する情報が予め得られていればよい。従って、既知の厚さとなっている部分が複数個形成された基準サンプルであっても良い。また、当該基準サンプルはX線の透過像を解析するための物質であればよく、X線検査装置における検査対象と同じ物質等、例えば、検査対象が半田バンプであるとき、このバンプと同じ物質のサンプルによって基準サンプルを構成することが可能である。基準サンプルは、X線画像取得手段の性能診断のためにX線の照射範囲に配置されればよいので、当該基準サンプルを基板上に形成し、サンプル配置手段によって所望の位置に配置できるように構成してもよい。
さらに、透過像を評価する際の構成例として、検出すべき厚さの最大値の部位を透過したX線のX線画像が所定の基準を満たすか否かに基づいて性能の劣化を診断しても良い。すなわち、透過像の輝度は既知の厚さに対応した値になっており、検出すべき厚さの最大値に対応した部位は輝度値の最低値として検出可能であることが必要とされる。しかし、ダイナミックレンジが狭くなると、そのレンジの最低値が前記輝度値の最低値を上回るおそれがある。そこで、当該レンジの最低値が前記輝度値の最低値を上回らないように、当該輝度値の最低値として許容できる範囲を予め決めておけば、性能の劣化が許容できるか否か、すなわち、上述の予防的措置を講じるべきか否かの判断を行うことが可能である。
さらに、基準サンプルにおける既知の厚さを反映したコントラストに基づいて透過像を評価しても良い。すなわち、既知の厚さの基準サンプルを透過したX線のX線画像において、その透過像は当該既知の厚さを反映したコントラストを有している。そこで、このコントラストとして許容できる範囲を決めておけば、性能の劣化が許容できるか否か、すなわち、上述の予防的措置を講じるべきか否かの判断を行うことが可能である。なお、透過像のコントラストとしては、基準サンプルを透過したX線と透過していないX線との画像における輝度値の差分や異なる厚さの基準サンプルにおける透過像の輝度値の差分等を採用可能である。
さらに、X線画像におけるS/NによってX線画像取得手段の性能劣化を評価しても良い。例えば、X線画像に含まれるノイズ成分が大きくなるとX線画像から取得すべき情報(シグナル成分)がノイズに埋もれてしまうので、透過像のコントラストとノイズとの比に対応した値を取得することによってX線画像取得手段の性能劣化を評価することができる。
なお、前記コントラストを取得するためには、X線画像から既知の厚さの差に対応した部位の像を抽出して差分を取得すればよい。すなわち、既知の厚さの差が与えられている基準サンプルの透過像においては、既知の厚さの差に対応したコントラストを有している。しかし、X線画像取得手段の劣化によってノイズ成分が増大したり、経時劣化によってダイナミックレンジが小さくなると、コントラストがノイズに対して相対的に小さくなる。そこで、コントラストとノイズとの比に対応した値に対して予め許容範囲を設定しておけば、この値によって性能の劣化が許容できるか否か、すなわち、上述の予防的措置を講じるべきか否かの判断を行うことが可能である。
さらに、X線画像取得手段における暗電流成分に基づいて性能の劣化を診断しても良い。すなわち、光電変換部を備えるX線画像取得手段においては、X線を出力しない状態で画像を取得したとしてもその輝度値が0より大きなあるレベルとして出力され、このレベルは性能の劣化によって増大する。そこで、X線を出力していない状態で取得した画像の輝度値について所定の基準を予め決定しておけば、性能の劣化が許容できるか否か、すなわち、上述の予防的措置を講じるべきか否かの判断を行うことが可能である。
さらに、フラットパネルセンサなど、比較的大きな検出面を有するX線画像取得手段において、センサがブロック毎に構成されている場合がある。この場合、センサの特性はブロック毎に類似した特性となるため、前記暗電流の評価もブロック毎に行うのが好ましい。例えば、X線を出力しない状態で取得した画像の輝度値をブロック毎に平均化し、予め決められた基準を満たすか否かを判定すればよい。
なお、以上の各判断指標において、画像に基づいて性能劣化を評価する際には、X線画像取得手段におけるセンサの画素のばらつきを抑えるため、その像の輝度値について適宜平均化処理を行っても良い。例えば、基準サンプルにおいて同じ厚さの部位の透過像においてその輝度値を平均化する処理等を行っても良い。
本発明においては、以上のようにX線画像取得手段の性能を診断し、その劣化に関する情報を出力することができるが、その好ましい構成例として、通信部によって外部の機器に前記性能の劣化に関するデータを送信し、外部の機器において当該データに基づいて前記性能の劣化に関する情報を出力する構成を採用可能である。この構成において、メンテナンスを行う人員や交換部品の発送を行う業者が当該外部の機器を利用する構成とすれば、X線画像取得手段が停止する以前に前記交換部品の発注やサービス要員への通知を行うことが極めて容易に実施可能になる。なお、前記外部の機器は、少なくとも性能の劣化に関するデータを受信する通信部と当該データに基づいて性能の劣化に関する情報を出力する出力部を備えていればよく、汎用的なコンピュータ等によって構成することが可能である。
さらに、前記性能の劣化に関する出力を行う際の構成例として、X線画像取得手段における性能の経時的な劣化によってサンプルの測定が不可能になる前に警告を出力する構成を採用可能である。この構成によれば、X線画像取得手段によってサンプルの測定が不可能になる前に警告を出力することができ、X線画像取得手段の停止時間を最小限に抑えることができる。なお、ここで、サンプルの測定が不可能になる状態とは、X線画像取得手段の性能がサンプルの検査に耐えられない(あるいは好ましくない)性能となっている状態である。
さらに、前記警告を行うために、X線画像取得手段を稼働している際に取得した複数のパラメータに関するログ保持し、これらのパラメータが所定の基準を超えて変化したときに警告を出力する構成を採用しても良い。すなわち、パラメータが所定の基準を超えて変化したときには、X線画像取得手段の性能に影響を与える要素に大きな変化があった可能性があるので、前記警告によってこの変化の発生を知ることで、X線画像取得手段における故障や許容範囲を超えた性能の劣化が発生する前にメンテナンスを行うことができる。
なお、所定の基準は、X線画像取得手段の性能に影響を与える要素において、X線画像取得手段における故障や許容範囲を超えた性能の劣化が発生し得る変化が生じていることを特定できるように設定できればよく、パラメータの変化率等について予め基準を設定することができればよい。
以上においては、本発明が装置として実現される場合について説明したが、かかる装置を実現する方法においても本発明を適用可能である。むろん、その実質的な動作については上述した装置の場合と同様である。また、以上のようなX線検出器診断装置は単独で実現される場合もあるし、ある方法に適用され、あるいは同方法が他の機器に組み込まれた状態で利用されることもあるなど、発明の思想としてはこれに限らず、各種の態様を含むものである。従って、ソフトウェアであったりハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。
発明の思想の具現化例として前記方法を制御するためのソフトウェアとなる場合には、かかるソフトウェアあるいはソフトウェアを記録した記録媒体上においても当然に存在し、利用される。また、ソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。一次複製品、二次複製品などの複製段階についても同等である。その他、供給装置として通信回線を利用して行う場合でも本発明が利用されていることにはかわりない。さらに、一部がソフトウェアであって、一部がハードウェアで実現されている場合においても発明の思想において全く異なるものではなく、一部を記録媒体上に記憶しておいて必要に応じて適宜読み込まれるような形態であってもよい。
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)本発明の構成:
(2)X線検査処理:
(3)性能診断処理:
(3−1)ダイナミックレンジに基づく診断:
(3−2)S/Nに基づく診断:
(3−3)暗電流に基づく診断:
(4)他の実施形態:
(1)本発明の構成:
図1は本発明にかかるX線検出器診断装置を備えたX線検査装置10の概略ブロック図である。同図において、このX線検査装置10は、X線発生器11とX−Yステージ12とX線検出器13aと搬送装置14とを備えており、各部をCPU25によって制御する。すなわち、X線検査装置10はCPU25を含む制御系としてX線制御機構21とステージ制御機構22と画像取得機構23と搬送機構24とCPU25と入力部26と出力部27とメモリ28とを備えている。この構成において、CPU25は、メモリ28に記録された図示しないプログラムを実行し、各部を制御し、また所定の演算処理を実施することができる。
メモリ28はデータを蓄積可能な記憶媒体であり、予め検査位置データ28aと撮像条件データ28bと閾値データ28eとが記録されている。検査位置データ28aは、サンプルの位置を示すデータであり、本実施形態においては、検査対象のバンプをX線検出器13aの視野に配置するためのデータである。撮像条件データ28bは、X線発生器11にてX線を発生させる際の条件を示すデータであり、X線管に対する印加電圧,撮像時間等を含む。閾値データ28eは、X線画像取得手段の性能を診断するために、後述のパラメータに対して設定された閾値を示すデータであり、この閾値は予め決定されてメモリ28に記録される。
また、メモリ28には、CPU25の処理過程で生成される各種データを記憶することが可能である。例えば、前記X線検出器13aによって取得したX線画像を示すX線画像データ28cや、当該X線画像データ28cに基づいて再構成演算を行った3次元画像データ28dを記憶することができる。なお、メモリ28はデータを蓄積可能であればよく、RAMやHDD等種々の記憶媒体を採用可能である。
X線制御機構21は、前記撮像条件データ28bを参照し、X線発生器11を制御して所定のX線を発生させることができる。X線発生器11は、いわゆる透過型開放管であり、X線の出力位置である焦点Fからほぼ全方位、すなわち、立体角2πの範囲にX線を出力する。
ステージ制御機構22はX−Yステージ12と接続されており、前記検査位置データ28aに基づいて同X−Yステージ12を制御する。また、搬送機構24は、搬送装置14を制御して基板12aをX−Yステージ12に搬送する。すなわち、搬送装置14によって一方向に基板12aを搬送し、X−Yステージ12において基板12a上のバンプを検査し、搬送装置14にて検査後の基板12aを搬送する処理を連続的に実施できるように構成されている。
本実施形態において、検査対象のサンプルはバンプであり、バンプが配設された基板をX−Yステージ12上に載置して良否判定を行う。なお、上述のように検査位置データ28aは検査対象のバンプをX線検出器13aの視野に配設するためのデータであり、ステージ制御機構22は、検査対象のバンプがX線検出器13aの視野に含まれるようにX−Yステージ12を制御する。
画像取得機構23はX線検出器13aに接続されており、同X線検出器13aが出力する検出値によってサンプルのX線画像を取得する。図2は、本実施形態におけるX線検出器13aの構造を示す模式図である。X線検出器13aは、2次元的に並べられたセンサによってX線量を取得可能であり、同図2においてはセンサの断面の一部を模式的に示している。
すなわち、X線検出器13aにおいては、X線が照射される側の面にシンチレータ130aが備えられており、シンチレータ130aの内側にCMOSセンサ131aが備えられている。X線がシンチレータ130aに到達すると、当該X線が蛍光に変換されるとともに当該蛍光がCMOSセンサ131aに到達し、CMOSセンサ131aからは当該蛍光に対応した電気信号が出力される。各CMOSセンサ131aからの電気信号は増幅器132aによって増幅され、A/D変換器133aによってデジタル信号に変換される。この結果、CMOSセンサ131aの画素毎にX線量に対応した輝度値が対応付けられたX線画像が取得される。取得したX線画像は、X線画像データ28cとしてメモリ28に記憶される。
シンチレータ130aは、X線に曝されることによって次第に色が濃くなり、X線を蛍光に変換する効率が低下する。また、CMOSセンサ131aにおいては、シンチレータ130aを透過したX線等の影響によって暗電流が増加する。図3は、X線量を予め決められた最小レベルから最大レベルまで変化させたときに得られる輝度の範囲の時間変化を例示する図である。同図3において、破線で示す直線は計測される輝度の最大値、実線で示す直線は計測される輝度の最小値である。従って、破線と実線との間隔DはX線検出器13aにおけるダイナミックレンジである。
上述のようにシンチレータ130aにおける変換効率が低下すると、同じX線量であってもCMOSセンサ131aに入射する蛍光の量が低下するので、X線画像として得られる輝度値は低下する。また、上述のようにCMOSセンサ131aにおける暗電流が増加すると、同じX線量であってもCMOSセンサ131aから出力される電気信号は嵩上げされるので、X線画像として得られる輝度値は増大する。
一般に、シンチレータ130aにおける変換効率の低下よりCMOSセンサ131aにおける暗電流の増加の方が大きいので、時間の経過とともにダイナミックレンジは図3に示すように小さくなる。また、シンチレータ130aにおける変換効率が低下するとCMOSセンサ131aにおける暗電流の増加によりノイズが増大するので、輝度値におけるS/N比は悪化する。このように、経時的な性能劣化には複数の要因があるが、各要因の発生程度は完全に連動しているわけではなく、ある劣化要因については劣化の程度が大きいが他の劣化要因についてはあまり劣化が進んでいないという状況が起こりえる。従って、ダイナミックレンジ等の劣化は時間に対して一様に変化するとは言えない。そこで、本発明は後述するように各判断指標についてパラメータを取得して劣化の診断を行っている。
X線検出器13aはアームを介して回転機構13bに接続されており、X線検出器13aは、X線発生器11の焦点Fから鉛直上方に延ばした軸Aを中心に半径Rの円周上を回転可能である。この回転機構13bは、画像取得機構23のθ制御部23aによって制御される。また、X線発生器11の焦点FからX線検出器13aにおける検出面の中心に対して延ばした直線と、当該検出面とが直交するように検出面が配向される。
出力部27は前記X線画像や3次元画像から生成した断面画像等を出力するディスプレイであり、入力部26は利用者の入力を受け付ける操作入力機器(例えば、キーボードやマウス等)である。すなわち、利用者は入力部26を介して種々の入力を実行し、CPU25の処理によって得られる種々の演算結果やX線画像、3次元画像から生成した断面画像を適宜切り替えて出力部27に出力することができ、利用者はこの出力部27における出力内容に基づいて検査を行う。なお、本実施形態においては、後述するようにしてX線画像取得手段の性能の劣化を示す複数のパラメータを取得し、その性能の劣化に関する出力として、性能が劣化している旨の警告を出力部27に出力することが可能である。
CPU25は、メモリ28に蓄積された各種制御プログラムに従って所定の演算処理を実行可能であり、サンプルの検査を行うために、図1に示す搬送制御部25aとX線制御部25bとステージ制御部25cと画像取得部25dとにおける演算を実行する。また、X線画像取得手段の性能の劣化を診断するために、性能診断部25eにおける演算を実行する。搬送制御部25aは、搬送機構24を制御して、適切なタイミングで基板12aをX−Yステージ12に供給し、また、適切なタイミングで搬送装置14を駆動して検査済みの基板12aをX−Yステージ12から取り除く。
X線制御部25bは、前記撮像条件データ28bを取得し、前記X線制御機構21を制御して所定のX線をX線発生器11から出力させる。ステージ制御部25cは、前記検査位置データ28aを取得し、検査対象のバンプや後述する基準サンプルを逐次X線検出器13aの視野内に配置するための座標値を算出し、ステージ制御機構22に供給する。この結果、ステージ制御機構22は、この座標値がX線検出器13aのいずれかの視野に含まれるようにX−Yステージ12を移動させる。
画像取得部25dは、画像取得機構23に指示を行い、X線検出器13aが取得するX線画像データ28cをメモリ28に記録する。また、画像取得部25dは、前記X線画像データ28cに基づいて所定の演算処理を行い、3次元画像データ28dを生成し、当該3次元画像データ28dに基づいてサンプルの断面画像を出力部27に出力する。従って、利用者は当該出力部27における出力内容に基づいてサンプルの検査(良否判定)を行うことが可能である。なお、本実施形態においては、利用者が当該出力部27に出力された3次元画像を視認して良否判定を行う構成を採用しているが、むろん、3次元画像に基づいて自動で良否判定を行ってもよい。
本実施形態において、性能診断部25eは、X線検査装置10の稼働中に定期的に、あるいは、指示に応じて実施され、後述のように、X線画像取得手段の性能の劣化を示す複数のパラメータを取得し、サービス要員への通知や交換部品の発注等が必要になったときにその旨の警告を出力部27に出力する。なお、この警告は、X線検出器13aの停止時間をできるだけ短くするように、X線検出器13aを停止する必要が生じる状態になる前に出力されるようになっている。従って、本実施形態にかかるX線検査装置10を連続運転し続け、かつ、その停止時間をできるだけ短くすることが可能である。
(2)X線検査処理:
本実施形態においては、上述の構成において図4に示すフローチャートを実施することによって検査対象品の検査を行う。このときに、X線検出器13aの性能診断を行う。本実施形態においては、バンプの検査を行う前に性能診断処理を行う(ステップS100)。この処理の詳細は後述する。性能診断処理が終了すると、搬送制御部25aが搬送機構24に指示を出し、検査対象となるサンプル(本実施形態においてはバンプ)をX−Yステージ12上の予め決められた位置に搬送する(ステップS105)。
次に、検査対象のバンプをX線検出器13aの視野内に移動させてX線画像を取得するため、変数nを”0”に初期化する(ステップS107)。続いて、画像取得部25dはθ制御部23aに指示を行い、回転機構13bを駆動して予め決められた回転位置にX線検出器13aを移動させる(ステップS110)。本実施形態においては、回転角θnをθn=(n/N)×360°と定義しており、θ=0°におけるX線検出器13aの配置は予め決めてある。
また、前記変数nは最大値をNとする整数である。従って、X線検出器13aは360°/Nずつ回転することになる。N+1は、X線画像を撮影する回転位置の数であり、要求される検査の精度から決定すればよい。X線検出器13aの回転動作を行うと、当該回転後の検出器の視野内に検査対象である検査対象のバンプが含まれるようにX−Yステージ12を移動させる(ステップS115)。このとき、ステージ制御部25cは前記検査位置データ28aを参照し、検査対象のバンプの位置を示す座標(xi,yi)がX線検出器13aの視野中心となるようにステージ制御機構22に指示する。この結果、ステージ制御機構22はX−Yステージ12を移動させ、座標(xi,yi)をX線検出器13aの視野中心に配置する。
すなわち、座標(xi,yi)は、検査対象のバンプをX線検出器13aの視野内に移動させるために予めX−Yステージ12上に設定された座標であり、X線検出器13aが前記回転角θnに配設されているときの視野中心は、X線検出器13aとX線発生器11の焦点Fとの相対関係から取得することができる。そこで、座標(xi,yi)をX線検出器13aの視野内に移動させることで、検査対象のバンプの透過像がX線検出器13aで取得されるようにX−Yステージ12を制御することができる。
図5,図6は、この例を説明するための図であり、座標系およびX線検出器13a、X線発生器11の位置関係を示す図である。これらの図においては、X−Yステージ12による移動平面をx−y平面とし、この平面に垂直な方向をz方向としている。図5は、z−x平面を眺めた図であり、図6はx−y平面を眺めた図である。
図5に示すように、X線検出器13aの検出面は、その中心と焦点Fとを結ぶ直線lに対して垂直になるように配向されている。すなわち、軸Aに対して傾斜され、x−y平面と検出面とに対して所定の角度(傾斜角)αが与えられている。前記直線lは、X線検出器13aの視野中心に相当するので、X線検出器13aの回転角θnから図6に示すように視野領域FOVを特定することができる。
すなわち、前記直線lと前記x−y平面との交点を含む所定の領域がX線検出器13aの視野領域FOVとなるので、図6に破線の矩形で示すように、視野領域FOV1〜4を特定することができる。そこで、前記ステージ制御機構22は図6の各矩形における中心と座標(xi,yi)とが一致するように、X−Yステージ12を移動させることになる。なお、ここでは、変数nが0〜3である場合について示しているが、むろん、検査の精度に応じて変数nの最大値を調整可能である。
また、図6においては、中心Oから−y方向に延ばした直線をθ=0とし、時計回りの回転角がθnであり、θn=0°,90°,180°,270°の視野領域をそれぞれFOV1〜FOV4としている。むろん、ステップS115においては、X線検出器13aの視野内に検査対象のバンプを配設することができる限りにおいて種々の制御手法を採用可能である。
ステップS115にて、座標(xi,yi)をX線検出器13aの視野中心に配置したら、X線制御部25bおよび画像取得部25dの制御により、X線検出器13aにて回転角θnのX線画像Pθnを撮影する(ステップS120)。すなわち、X線制御部25bは、前記撮像条件データ28bを取得し、当該撮像条件データ28bに示される条件でX線を出力するようにX線制御機構21に対して指示を行う。この結果、X線発生器11が立体角2πの範囲でX線を出力するので、画像取得部25dはX線検出器13aが検出したX線画像(X線画像データ28c)を取得する。
ステップS120にて回転角θnのX線画像Pθnを撮影すると、変数nが最大値Nに達しているか否かを判別し(ステップS125)、最大値Nに達していると判別されなければ変数nをインクリメントして(ステップS130)、ステップS110以降の処理を繰り返す。ステップS125にて変数nが最大値Nに達していると判別されたときには必要な回数の撮影が終了しているので、画像取得部25dはX線画像Pθ0〜PθNを用いて3次元画像の再構成演算を行い(ステップS135)、3次元画像データ28dとしてメモリ28に記録する。
再構成演算は、検査対象のバンプの3次元構造を再構成することができれば良く、種々の処理を採用可能である。例えば、フィルタ補正逆投影法を採用可能である。この処理においては、まず、X線画像Pθ0〜PθNのいずれかに対してフーリエ変換を実施し、フーリエ変換で得られた結果に対して周波数空間でフィルタ補正関数を乗じる。さらに、この結果に対して逆フーリエ変換を実施することで、フィルタ補正を行った画像を取得する。なお、このフィルタ補正関数は、画像のエッジを強調するための関数等を採用可能である。
続いて、フィルタ補正後の画像を、それが投影された軌跡に沿って3次元空間へ逆投影する。すなわち、X線検出器13aの検出面におけるある位置の像に対応する軌跡は、X線発生器11の焦点Fとこの位置とを結ぶ直線であるので、この直線上に前記画像を逆投影する。以上の逆投影をX線画像Pθ0〜PθNの全てについて行うと、3次元空間上で検査対象のバンプが存在する部分のX線吸収係数分布が強調され、検査対象のバンプの3次元形状を示す3次元画像データ28dが得られる。続いて、画像取得部25dは、3次元画像データ28dを参照し、出力部27に検査対象の3次元画像を表示し、利用者はこの画像に基づいて良否判定を行う(ステップS140)。
(3)性能診断処理:
次に、前記ステップS100における性能診断処理の詳細な例を説明する。以下では、本実施形態で採用し得る複数の判断指標について説明する。本実施形態では、これらの判断指標から任意の指標を選択可能であり、性能の劣化を示す複数のパラメータを取得することによって、X線検出器13aの性能を総合的に診断することができればよい。
(3−1)ダイナミックレンジに基づく診断:
図7は、ターゲット電流値とX線量との関係を判断指標としてダイナミックレンジを採用する例のフローチャートである。すなわち、シンチレータ130aにおける変換効率の低下とCMOSセンサ131aにおける暗電流の増加とが生じた場合の性能の劣化はダイナミックレンジに反映されるので、ダイナミックレンジを性能の劣化を示すパラメータとして取得する。
ダイナミックレンジを評価するため、図7に示す例では、まず、X線制御部25bがX線制御機構21に指示を出し、X線を停止させる(ステップS200)。次に、画像取得部25dは画像取得機構23に指示を出し、X線検出器13aを制御してX線画像を撮影してX線検出器13aの表面上の位置(x,y)に対応した輝度F(x,y)を取得する(ステップS205)。また、各位置(x,y)の輝度を平均化して平均輝度DLALLを算出する(ステップS210)。
さらに、X線制御部25bはX線制御機構21に指示を出し、X線発生器11の管電圧および管電流を所定の値に設定し(ステップS215)、X線を出力する(ステップS220)。本実施形態において、出力されるX線量は、初期状態においてX線画像の最大値となるX線量である。次に、画像取得部25dは画像取得機構23に指示を出し、X線検出器13aを制御してX線画像を撮影してX線検出器13aの表面上の位置(x,y)に対応した輝度F(x,y)を取得する(ステップS225)。また、各位置(x,y)の輝度を平均化して平均輝度LLALLを算出する(ステップS230)。
次に、性能診断部25eはダイナミックレンジ(DR=LLALL−DLALL)を算出する(ステップS235)。ダイナミックレンジDRに対しては、予めその閾値DRMINが設定されて閾値データ28eとしてメモリ28に記録されており、性能診断部25eは、ダイナミックレンジDRが閾値DRMINより大きいか否かを判別する(ステップS240)。そして、当該ステップS240にてダイナミックレンジDRが閾値DRMINより大きいと判定されないときには、性能診断部25eがサービス要員への通知や交換部品の発注等が必要である旨の警告を出力部27に表示する(ステップS245)。当該ステップS240にてダイナミックレンジDRが閾値DRMINより大きいと判定されたときには警告を行わない。
以上の処理において、前記閾値は、X線検出器13aの性能が劣化してX線発生器11の稼働を停止せざるを得なくなる状態より前の状態におけるダイナミックレンジの値である。従って、ステップS240においてこの閾値によって判定を行い、この判定に基づいて警告を表示することによって、X線検出器13aの稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。また、本実施形態においては、上述した判別と後述する判別とを組み合わせることによって、単一の判断指標に基づいて性能の劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。
以上の例においては、サンプルの透過像を用いることなくダイナミックレンジを評価していたが、サンプルの透過像を取得し、その輝度値やコントラストがダイナミックレンジに対応したパラメータであるとして性能診断を行っても良い。すなわち、ダイナミックレンジが狭くなると、サンプルの透過像において得られるべき輝度値が得られなかったり、サンプルの厚さに対応したX線画像のコントラストが狭くなるなどの劣化が生じる。
そこで、既知の厚さを含む基準サンプルの透過像に基づいて劣化を評価するため、図8に示す処理を行っても良い。当該図8に示す処理では、搬送制御部25aがステージ制御機構22を制御してX線検出器13aの視野範囲に基準サンプルを配置する(ステップS300)。図9Aは、本実施形態における基準サンプルの構造を示す模式図である。同図9Aに示すように、基準サンプルSは予め決められた複数の厚さの部分を備えたサンプルであり、検査対象と同じ材料の半田によって構成されている。なお、基準サンプルSにおいて最も厚い部分に相当する厚さTはX線検査装置10にて測定可能な半田の厚さの限界値(最も低レベルの輝度値として観測可能な厚さ)となっている。
また、本実施形態において、基準サンプルSは基板P上に形成されており、当該基板PをX−Yステージ12にて搬送することによってX線検出器13aの視野領域に基準サンプルを配置するようになっている。また、基板Pの材料は基準サンプルSの材料と比較してX線吸収が小さく、基板Pを透過し、基準サンプルSを透過していないX線は、無サンプル状態でのX線と略同輝度の画像となる。
ステップS300にて基準サンプルSをX線検出器13aの視野領域に配置すると、X線制御部25bがX線制御機構21に指示を出し、X線を停止させる(ステップS305)。次に、画像取得部25dは画像取得機構23に指示を出し、X線検出器13aを制御してX線画像を撮影してX線検出器13aの表面上の位置(x,y)に対応した輝度F(x,y)を取得する(ステップS310)。また、各位置(x,y)の輝度を平均化して平均輝度DLALLを算出する(ステップS315)。
さらに、X線制御部25bはX線制御機構21に指示を出し、X線発生器11の管電圧および管電流を所定の値に設定し(ステップS320)、X線を出力する(ステップS325)。次に、画像取得部25dは画像取得機構23に指示を出し、X線検出器13aを制御してX線画像を撮影してX線検出器13aの表面上の位置(x,y)に対応した輝度F(x,y)を取得する(ステップS330)。
この輝度F(x,y)は、基準サンプルSの透過像が含まれ、上述のように基準サンプルSは複数の厚さの部分を備えている。従って、この透過像における基準サンプルSの像は各厚さを反映した輝度値となっている。上述のように基準サンプルSにおいて最も厚い部分の厚さTはX線検査装置10にて測定可能な半田の厚さの限界値であることから、X線画像にて得るべき輝度値の略最低値となる。しかし、CMOSセンサ131aの性能劣化によって暗電流が増加すると、X線を出力していないときに観測される輝度値が当該略最低値を超えてしまう。従って、当該略最低値とX線無出力時の輝度値とを比較することによって性能の劣化を検出することができる。
一方、基準サンプルSを透過していないプリント基板Pの透過像は、X線画像にて得られる輝度値の略最大値となる。従って、前記輝度値の略最低値と当該輝度値の略最大値の差分を取得すれば、サンプルの撮影時のダイナミックレンジに相当するパラメータを取得することができる。そこで、性能診断部25eは、ステップS330にて取得した輝度値F(x,y)に基づいて基準サンプルSを透過していない部分の輝度値LT1を算出する(ステップS335)。また、性能診断部25eは、ステップS330にて取得した輝度値F(x,y)に基づいて基準サンプルSの最も厚い部分の輝度値LT2を取得する(ステップS340)。むろん、以上の輝度値は、複数の輝度値を平均化した値であっても良い。これらの輝度値が得られたら、両者の差分によってダイナミックレンジ(DR=LT1−LT2)を算出する(ステップS345)。
以上の例においては、輝度値LT2およびダイナミックレンジDRに対して予め閾値が設定されており、前者の輝度値LT2については前記平均輝度DLALLに所定の値αを加えた値が閾値であり、ダイナミックレンジDRに対しては、予めその閾値DRMINが設定されており、閾値データ28eとしてメモリ28に記録されている。そこで、性能診断部25eは、輝度値LT2が閾値DLALL+αより大きいか否かを判別し(ステップS350)、ダイナミックレンジDRが閾値DRMINより大きいか否かを判別する(ステップS355)。
そして、ステップS350で輝度値LT2が閾値DLALL+αより大きいと判定されないとき、およびステップS355にてダイナミックレンジDRが閾値DRMINより大きいと判定されないときには、性能診断部25eがサービス要員への通知や交換部品の発注等が必要である旨の警告を出力部27に表示する(ステップS360)。
以上の処理において、前記閾値は、X線検出器13aの性能が劣化してX線発生器11の稼働を停止せざるを得なくなる状態より前の状態における輝度値およびダイナミックレンジの値である。従って、ステップS350,S355においてこの閾値によって判定を行い、この判定に基づいて警告を表示することによって、X線検出器の稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。また、本実施形態においては、上述した判別と後述する判別とを組み合わせることによって、単一の判断指標に基づいて性能の劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。例えば、他の判断指標におけるパラメータ値と前記閾値とを対応付けておき、当該他の判断指標におけるパラメータ値に応じて閾値を選択し、警告を行うか否かを決定する。この結果、特定のパラメータのみに基づいて性能劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。
(3−2)S/Nに基づく診断:
図10は、サンプルの厚さに相当する輝度値のS/Nをパラメータとして採用する例のフローチャートである。すなわち、シンチレータ130aにおける変換効率の低下とCMOSセンサ131aにおける暗電流の増加とが生じた場合には輝度値に含まれるノイズが増大する。本実施形態における輝度値はサンプルの厚さに対応しているため、ここでは、サンプルの厚さを適切に測定できるか否かを判定するパラメータとして当該S/Nを取得し、評価する。
当該S/Nを評価するため、図10に示す例では、搬送制御部25aがステージ制御機構22を制御してX線検出器13aの視野範囲に前記基準サンプルSを配置する(ステップS400)。次に、X線制御部25bはX線制御機構21に指示を出し、X線発生器11の管電圧および管電流を所定の値に設定し(ステップS402)、X線を出力する(ステップS405)。さらに、画像取得部25dは画像取得機構23に指示を出し、X線検出器13aを制御してX線画像を撮影してX線検出器13aの表面上の位置(x,y)に対応した輝度F(x,y)を取得する(ステップS410)。
次に、性能診断部25eは、厚さを評価するための基準となる輝度値を取得するため、ステップS410にて取得した輝度値F(x,y)に基づいて基準サンプルSを透過していない部分の輝度値LT1を算出する(ステップS415)。本実施形態においては、この輝度値と基準サンプルSの各厚さ(図9Aに示す異なる厚さのそれぞれ)との差分についてS/Nを評価する。図9Bは、本実施形態におけるS/Nを説明するための図であり、同図においては、ある直線上の位置を横軸、輝度値を縦軸として示している。同図9Bにおいては、基準サンプルSのm番目の厚さに相当する部位についてのコントラストCmを示しており、このコントラストが基準サンプルの厚さTmに対応している。図9Bに示すように、各輝度値は位置によって変動し、同じ厚さの部位であっても特定の値になるとは限らない。この変動はノイズであり、標準偏差N(m)にて評価することができる。
このような分析のもとでコントラストCmと標準偏差N(m)との関係に基づく評価を行うため、本実施形態においては、まず、各厚さの部位を示すに番号mを定義し、mを初期値1に設定する(ステップS420)。そして、性能診断部25eは、ステップS410にて取得した輝度値F(x,y)に基づいて基準サンプルSのm番目の部分の輝度値L(m)を取得する(ステップS425)。むろん、この輝度値は、複数の輝度値を平均化した値であっても良い。この輝度値が得られたら、基準サンプルSのm番目の輝度値について標準偏差N(m)を取得する(ステップS430)。
次に、性能診断部25eは、S/N値(SNR(m))を算出する(ステップS435)。ここで、SNR(m)はm番目の厚さに相当する輝度のコントラストについてS/Nを定義した値であればよく、例えば、以下の式(1)にて算出可能である。
むろん、この式(1)は一例であり、式(1)のようにdBであることが必須というわけではないし、他の式であっても良い。
当該SNR(m)に対しては予め閾値SNRMIN(m)が設定されており、閾値データ28eとしてメモリ28に記録されている。すなわち、以上の式(1)は、基準サンプルSを透過しない部分の輝度値LT1とm番目の厚さの部分の輝度値L(m)との差がノイズレベルに対応した標準偏差と比較してどれほど大きいのかを評価する値である。この値が小さくなると、厚さを示すコントラストがノイズに埋もれて適切に評価できなくなるので、式(1)によってサンプル厚測定時の性能劣化を診断することができる。
そこで、性能診断部25eは、SNR(m)が閾値SNRMIN(m)より大きいか否かを判別する(ステップS440)。そして、ステップS440でSNR(m)が閾値SNRMIN(m)より大きいと判定されないときには、性能診断部25eがサービス要員への通知や交換部品の発注等が必要である旨の警告を出力部27に表示する(ステップS455)。一方、ステップS440でSNR(m)が閾値SNRMIN(m)より大きいと判定されたときには、番号mが予め設定された最大値mMAXを超えているか否かを判断し(ステップS445)、超えていない場合には番号mをインクリメント(ステップS450)してステップS425以降の処理を繰り返す。
なお、前記式(1)において、コントラストに相当するLT1−L(m)は、基準サンプルが厚い場合の方が薄い場合より大きくなるが、標準偏差N(m)も基準サンプルが厚い場合の方が薄い場合より大きくなる。そこで、閾値SNRMIN(m)は、予め特定されるコントラストLT1−L(m)について適切な情報を得るために許容される標準偏差N(m)に基づいて決定すればよい。
むろん、以上の処理において、前記閾値は、X線検出器13aの性能が劣化してX線発生器11の稼働を停止せざるを得なくなる状態より前の状態におけるSNR(m)の値である。従って、ステップS440においてこの閾値によって判定を行い、この判定に基づいて警告を表示することによって、X線検出器13aの稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。
また、本実施形態においては、上述した判別と後述する判別とを組み合わせることによって、単一の判断指標に基づいて性能の劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。例えば、他の判断指標におけるパラメータ値と前記閾値とを対応付けておき、当該他の判断指標におけるパラメータ値に応じて閾値を選択し、警告を行うか否かを決定する。この結果、特定のパラメータのみに基づいて性能劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。
(3−3)暗電流に基づく診断:
図11は、暗電流をパラメータとして採用する例のフローチャートである。すなわち、CMOSセンサ131aにおける暗電流の増加は、ダイナミックレンジの低下など、X線画像の劣化要因となる。そこで、暗電流に基づく診断を行うため、まず、X線制御部25bがX線制御機構21に指示を出し、X線を停止させる(ステップS500)。次に、画像取得部25dは画像取得機構23に指示を出し、X線検出器13aを制御してX線画像を撮影してX線検出器13aの表面上の位置(x,y)に対応した輝度F(x,y)を取得する(ステップS505)。また、各位置(x,y)の輝度を平均化して平均輝度DLALLを算出する(ステップS510)。
当該平均輝度DLALLはX線検出器13aの全域における暗電流に対応しており、この平均輝度DLALLに対しては予め閾値DLMAX1が設定され、閾値データ28eとしてメモリ28に記録されている。そこで、性能診断部25eは、前記平均輝度DLALLが閾値DLMAX1より大きいか否かを判別し(ステップS515)、平均輝度DLALLが閾値DLMAX1より大きいと判別されたときには、性能診断部25eがサービス要員への通知や交換部品の発注等が必要である旨の警告を出力部27に表示する(ステップS520)。
ステップS515で平均輝度DLALLが閾値DLMAX1より大きいと判定されないときには、より詳細な暗電流の評価を行う。すなわち、本実施形態におけるX線検出器13aは、複数の画素を含む複数のブロックを利用して一枚のセンサを形成している。暗電流の特性はブロック毎に類似しているため、上述のようにX線検出器13aの全域についてその暗電流が閾値より小さいと判定されたとしても、ある特定のブロックについては性能の劣化が進行している場合がある。
そこで、本実施形態においては、ブロック毎の暗電流も評価することとしており、この評価のために、まずブロックを特定するための番号iを初期値1に設定する(ステップS525)。そして、性能診断部25eは、前記ステップS505にて取得した輝度値F(x,y)からi番目のブロックにおける輝度値を抽出し、その平均輝度値DL(i)を取得する(ステップS530)。
この平均輝度DL(i)に対しては予め閾値DLMAX2が設定され、閾値データ28eとしてメモリ28に記録されている。そこで、性能診断部25eは、前記平均輝度DL(i)が1つのブロックに対する閾値DLMAX2より大きいか否かを判別し(ステップS535)、平均輝度DL(i)が閾値DLMAX2より大きいと判別されたときには、性能診断部25eがサービス要員への通知や交換部品の発注等が必要である旨の警告を出力部27に表示する(ステップS520)。
一方、ステップS535で平均輝度DL(i)が閾値DLMAX2より大きいと判定されないときには、番号iが予め設定された最大値iMAXを超えているか否かを判断し(ステップS540)、超えていない場合には番号iをインクリメント(ステップS545)してステップS530以降の処理を繰り返す。
むろん、以上の処理において、前記閾値は、X線検出器13aの性能が劣化してX線発生器11の稼働を停止せざるを得なくなる状態より前の状態における暗電流に対応した輝度値である。従って、ステップS515,S535においてこの閾値によって判定を行い、この判定に基づいて警告を表示することによって、X線検出器13aの稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。
また、本実施形態においては、上述した判別と組み合わせることによって、単一の判断指標に基づいて性能の劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。例えば、他の判断指標におけるパラメータ値と前記閾値とを対応付けておき、当該他の判断指標におけるパラメータ値に応じて閾値を選択し、警告を行うか否かを決定する。この結果、特定のパラメータのみに基づいて性能劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。
(4)他の実施形態:
本発明においては、X線検出器13aにおける性能の劣化を示すパラメータを複数個取得し、X線検出器13aの性能の劣化を高精度に診断することができればよく、上述の実施形態以外にも種々の構成を採用可能である。例えば、複数のパラメータについてログを記録し、ログに基づいて警告を行う構成を採用しても良い。
より具体的には、上述のようにして取得した平均輝度DLALL、LLALL、DL(i)、輝度値LT1、LT2、L(m)、標準偏差N(m)、S/N値(SNR(m))、ダイナミックレンジDR(=LLALL−DLALL)、ダイナミックレンジDR(=LT1−LT2)等を取得する度にその値を記録する。図12は、パラメータのログの一例を示しており、縦軸がパラメータ値、横軸が時間である。このグラフにおいて実線に示す変化がパラメータの通常の変化である。この例に示すように、通常は、経時変化によって単調にパラメータ値が変化し、やがてX線発生器11を停止させるべきパラメータ値Sに達するので、それ以前のパラメータ値をもって閾値T1を設定し、パラメータ値がこの閾値T1を下回った段階で警告を出力する。
しかし、X線発生器11において適正な設定がなされていない場合や性能を劣化させる種々の要因が存在するときには、図12のグラフにおいて破線で示すようにパラメータが急激に変化する場合がある。そこで、パラメータが時間に対して変化する際の変化率について閾値を予め設定しておき、パラメータを算出する度にログを参照し、閾値を超える変化率で変化したときには警告を行う。この結果、X線検出器13aの稼働中、突然に当該X線発生器11を停止すべき状態(前記パラメータの値がSとなる状態)に至ることを未然に防ぐことが可能である。
さらに、X線検出器13aの性能の劣化を示す情報を出力するための手法としては、出力部27における警告の表示以外にも種々の手法を採用可能である。図13は、X線検出器13aの劣化を示す情報を通信部によって外部に出力する構成の一例を示す図である。同図に示す構成において、X線検査装置10の構成は図1に示す構成とほぼ同様の構成である。但し、図1に示す構成に対して、外部のネットワークN(インターネット等)に接続可能なインタフェース29(I/F)が追加され、CPU25にて実施可能なモジュールとして、当該I/F29を介した通信の制御を実施可能な通信制御部25fが追加されている。
ネットワークNには外部のコンピュータPが接続可能であり、ネットワークNを介してX線検査装置10から送信される情報を受信することができる。また、コンピュータPは、ディスプレイ等の出力部とキーボード等の入力部とを備えており、各種の情報をディスプレイ等に表示可能であり、キーボード等によって各種の入力を行うことができる。このコンピュータは、前記サービス要員の派遣元や交換部品の発送元によって利用される。
本実施形態においては、前記性能診断部25eによって図4等に示す処理とほぼ同様の処理を実施するが、警告の出力に際しては、通信制御部25fがI/F29を介してその警告を示す情報をコンピュータPに対して送信する。このとき、コンピュータPは前記警告を示す情報を受信する処理を行い、その警告の内容をディスプレイに表示する。そこで、このコンピュータPを利用する利用者は、この警告に応じてサービス要員をX線検査装置10の利用場所に派遣したり、交換部品を発送する作業を行う。この結果、X線検査装置10の利用者自身は何ら作業を行うことなく、X線発生器11の停止時間をなるべく短くするための予防措置を講じることが可能である。
さらに、上述の実施形態においては、X線検出器13aの性能の劣化について警告を行う構成を採用していたが、性能の劣化を示す情報の内容としては、警告のみならず他にも種々の態様を採用可能である。例えば、図12に示すようなX線検出器13aの性能に関するパラメータの経時的な変化を出力する構成等を採用可能である。むろん、このとき、併せて上述の閾値を出力することが好ましい。
さらに、X線検査装置10の構成としては、図1に示す構成に限定されず、他の構成を採用しても良い。例えば、回転機構13bの下部にX線発生器11の方向に検出面が向けられたX線検出器を配置しても良い。この構成においては、2次元的な画像に基づく良否判定を行うことが可能であり、この検査装置においても本発明によって性能の劣化を診断することが可能である。
さらに、上述の実施形態においては、サンプルの良否判定をする度に性能診断処理を実施する構成としていたが、一定時間毎に性能診断処理を実施するなど、他のタイミングで性能診断処理を実施しても良い。むろん、判断指標によって異なるタイミングで性能診断処理を行っても良い。