JP2007238568A - 機能性リポソームおよび赤血球由来のHb含有ベシクル - Google Patents
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Abstract
【課題】合成機能性脂質を含む新規な機能性リポソームの提供、および該機能性リポソームと赤血球の相互作用により得られるヘモグロビン(Hb)を含有するHb含有ベシクルの提供。
【解決手段】リポソームと赤血球をインキュベーションすることを含む、赤血球由来の球状のベシクルであって、平均粒子径が100nm〜200nmであり、膜構造を有し、さらにヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
【選択図】なし
【解決手段】リポソームと赤血球をインキュベーションすることを含む、赤血球由来の球状のベシクルであって、平均粒子径が100nm〜200nmであり、膜構造を有し、さらにヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、機能性脂質を用いて製造された機能性リポソームに関し、さらに該リポソームと赤血球の相互作用により得られるHb含有ベシクルに関する。
リポソームの調製が初めて可能になって以来(Bangham A. D. et al., J. Mol. Biol.8, 660,(1954))、近年にいたるまでさまざまな機能性リポソームの開発が進んできた。機能的な分子構造を有する両親媒化合物を用いたリポソームや、高分子化合物からなるリポソーム、大きさを目的のサイズに合わせたリポソーム(Robert C. MacDonald et al.,Biochim Biophys Acta,1061, 297-303, (1991))などがそれにあたる。また、その機能もpH応答性(非特許文献1参照)、温度応答性、標的部位への特異的認識能に優れたものなどさまざまである。
これらの機能性リポソームを実際の臨床の場面やドラッグデリバリーシステム、あるいは生化学の分野で用いることを考えれば、これらが生体組織とどのような相互作用様態を呈するのか、ということは重大な関心事である。
リポソームと細胞の相互作用様態は、大きく分けて吸着、脂質などの物質交換、融合およびエンドサイトーシスの4つが存在する。
実際には、これら4つの相互作用のうち複数が並行して進行する場合が多い。
実際には、これら4つの相互作用のうち複数が並行して進行する場合が多い。
リポソームと細胞が上記の相互作用をした際に、ある特定の分子がどのようなふるまいをするのか、という点についての報告はこれまでにもいくつかあった。たとえば、生体膜脂質を構成する一成分であるコレステロールについてはすでに多くの研究がなされており(Bruckdorfer H. R. et al, Eur. J. Biochem., 4, 506-511, (1968))、どのようにして細胞-リポソーム間を移行するのか、などについてかなりのことがわかってきている段階にある。しかし後述するように、生体膜は非常に多くの成分から構成されているため、それら一つ一つの成分について、リポソームと細胞が上記の相互作用をした際にどのような挙動を示すのか、ということについてはわかっていない場合が多く、そのほとんどが今後の研究課題となっているのが現状である。
さらに、リポソームと細胞の相互作用の結果として、よりマクロな視点から見たときに、系全体にどのような現象が起こるのかということについても未知の部分が多く、同様に今後の検討課題となっている。
近年、膜タンパク質を抽出・精製する方法として、界面活性剤による可溶化法を用いる従来型とは別の方法、すなわち、リポソームを用いて膜タンパク質を再構築する方法が考案されている(非特許文献2参照)。
先行の研究(非特許文献3参照)によると、生体膜上に分布する膜タンパク質は、スフィンゴミエリンやガングリオシドのような、ある特種のリン脂質(境界脂質)に取り囲まれるようにして存在している。これは、境界脂質が膜タンパク質の存在を安定化していると解釈することができる。このように、生体膜中で特定の物質が局所的に集合する状態・概念を、ラフトあるいはマイクロドメインと呼ぶことがある(非特許文献3参照)。ラフトとは、「いかだ」の意であり、海上に浮かぶ島のような概念を表したものである。すなわち、生体膜の脂質二分子膜という海の中で、ある小領域にスフィンゴミエリンやガングリオシド、膜タンパク質が局所的に集合していると考えてよい。
境界脂質を適当な割合で構成成分とするリポソームを用いることで、生体膜上に存在する膜タンパク質のリポソーム側への輸送が実現されることが期待される。実際に、境界脂質と天然ホスファチジルコリンからなる複合型リポソームを赤血球とインキュベーションすることによって、赤血球膜上に存在する膜タンパク質グリコフォリンが効率的に輸送されたという報告がある(非特許文献4参照)。
この報告により、天然に存在する境界脂質が、リポソームへの膜タンパク質の輸送において重要な働きをすることが結論づけられたが、この輸送の一連の過程における詳細な機構は未だに明らかになっておらず、したがってこの問題を解決することは、リポソーム内への膜タンパク質の効率的な再構築を実現するために極めて重要であるといえる。
そこで、この境界脂質の特異性を検証するために、人工的にデザインした機能性の境界脂質を用いた研究がいくつか為されている(非特許文献1参照)。このように人工的にデザインした境界脂質は、分子設計の面でも応用が利く上に、天然の境界脂質に比べて多量に生産することが可能であるという点で優れている。
Connor J., et al., J. Cell. Biol., 101, 582-589, (1985)
Junzo Sunamoto et al, Chemistry. Letters, 1249-1252, 1990
Sato Toshinori, Trends in Glycoscience and Glycotechnology, 13, 71, 231-238, (2001)
Junzo Sunamoto et al, Biochemica et Biophysica Acta, 1024, 209-219, (1990)
本発明は、合成機能性脂質を含む新規な機能性リポソームの提供、該機能性リポソームと赤血球の相互作用により得られるヘモグロビン(Hb)を含有するHb含有ベシクルの提供を目的とする。
本発明者らは、(1)HeustisやSunamotoらが報告した、細胞とリポソーム間での膜タンパク質の直接転移現象が実際に起こるのか否か、(2)細胞とリポソームの相互作用がもたらす新しい現象の発見、(3)両親媒性化合物の分子デザインが、ミセルやベシクルの物理的な巻く物性に与える影響、等を調べるためにリポソームについて詳細な解析を行った。本発明者らは、両親媒性化合物の分子デザインを行う上で、天然脂質スフィンゴミエリンの構造に着目し、分子設計に関するヒントを得た。
スフィンゴミエリンは、本来的に天然のリン脂質の一つである。生体では、脳や腎にて糖脂質と一体となって存在していることが多い。スフィンゴミエリンは、上述した通りラフト形成に必須の構成要素であることが近年分かってきているが、その機能、すなわち、ラフトにおけるシグナル伝達などにおいて分子が機能する理論的メカニズムについては、ほとんどが分かっていない。
ラフト形成にスフィンゴミエリンが必須の構成要素であることの理由はいくつか考えられる。その一説として、スフィンゴミエリンの特異な分子構造が関与していると考える説がある。
スフィンゴミエリンは、分子中親水基と疎水基の間に水酸基とアミド基を有する点で特徴的である。他のバルク脂質、例えばホスファチジルコリンなどは、親水基と疎水基の間にエステル結合を有するが、これらとスフィンゴミエリンの最大の相違点は、水素結合能を有するか否かという点にある、ということができる。
エステル結合はプロトン求引性のC=O結合しかない反面、アミド結合や水酸基はプロトン供与性基とプロトン求引性基の両方を併せ持つ。これが理由で、スフィンゴミエリンは分子間で水素結合をする能力が非常に大きいと考えられている。実際の生体膜上では、境界脂質が膜タンパク質の周囲に局在化していることが分かっているが、これは境界脂質のアミド結合とタンパク質の主鎖中のアミド結合が水素結合帯を形成させることによって、膜タンパク質は安定に生体膜上に存在することができるからであると考えられる。
また、膜の水平方向への相分離状態も、上述した膜タンパク質の再構成系を構築するうえで非常に重要であると考えられる。実際の生体膜上においても、膜タンパク質が存在するとその周囲の境界脂質は二分子膜脂質と相分離しやすいことがわかっている(野島庄七他、リポソーム、p.202、(1988))。このことから、膜タンパク質の再構築には、リポソーム側の脂質の相分離状態が関与していると考えられる。
これらの考えに基づき、本発明者らは、比較的安価で調達が容易なアミノ酸の一種であるL-セリンを出発原料として、分子内に二つのアミド基を有するスフィンゴミエリン様人工リン脂質(Sphingomyelin Analogue、SMA)を合成し、これと天然のホスファチジルコリンとを複合化したリポソームの設計を試みた。そしてこの複合型リポソームと細胞モデルとして用意した赤血球とを相互作用させることで、どのような相互作用様態を呈するのか、及び、その結果としてどのような現象が誘発されるのか、という点についてより詳細に考察することとした。
同時に、当該リポソームの物理化学的特性を様々な視点から検討することによって、人工リン脂質の境界脂質としての機能性を評価し、生体膜上における天然境界脂質の役割・重要性を検討した。
本発明者らは、SMAとDMPCの複合脂質からなるリポソームを調製し、これと赤血球とをインキュベーションした際の両者の相互作用態様について検討を行い、2つの現象を見出した。1つは、SMAを構成成分とするリポソームは、赤血球膜に対する強い損傷効果を有している点であり、もう1つはSMAを構成成分とするリポソームは、赤血球膜から100〜180nmの小胞体(ベシクル)の放出を促進する効果がある点である。このベシクルは、その内部にヘモグロビンを高濃度に含有しており、膜成分も赤血球膜と同等であることから、このベシクル自体が人工赤血球として利用することができることを見出した。さらに、ベシクルは人体が有する赤血球と同じ膜構造を有する小胞であり、小胞に種々の薬剤を封入することにより、ドラックデリバリーシステムにおける薬剤送達用キャリアとして用いることができることを見出した。
すなわち、本発明の態様は以下の通りである。
[1] 一般式(1)
[式中、R1およびR2は独立にC10〜C20、好ましくはC13またはC14のアルキル基を表す。]
で表されるスフィンゴミエリン類縁化合物を構成脂質成分として含むリポソーム。
[2] スフィンゴミエリン類縁化合物がNα-ミリストイル-N’-ミリスチル-L-セリンアミド-O-ホスフォコリンである[1]のリポソーム。
[3] さらに、フォスファチジルコリン類脂質を構成脂質として含む[1]または[2]のリポソーム。
[4] ジミリストイルフォスファチジルコリンを構成脂質として含む[3]のリポソーム。
[5] スフィンゴミエリン類縁化合物の含有量が構成脂質全体の25〜60%である[1]〜[4]のいずれかのリポソーム。
[6] リポソームと赤血球をインキュベーションすることを含む、赤血球由来の球状のベシクルであって、平均粒子径が100nm〜200nmであり、膜構造を有し、さらにヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
[7] 赤血球由来のベシクルの膜の脂質構成が、赤血球膜と同等である[6]のヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
[8] 以下の工程(a)〜(d)を含む[6]または[7]のヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法:
(a) リポソームと赤血球懸濁液とを混合し、20〜40℃で1分〜10時間インキュベーションする工程;
(b) インキュベーション後、1500〜3000gで遠心分離を行い、赤血球および赤血球残骸を分離する工程;
(c) 遠心分離上清を回収し、さらに10000g以上で遠心分離を行う工程;および
(d) 赤色の沈殿を回収する工程。
[9] リポソームが[1]〜[5]のいずれかのスフィンゴミエリン類縁化合物を構成脂質成分として含むリポソームである[6]〜[8]のいずれかのヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
[10] [6]〜[9]のいずれかの方法で作製される赤血球由来の球状のベシクルであって、平均粒子径が100nm〜200nmであり、膜構造を有し、さらにヘモグロビンを含有するベシクル。
[11] [10]のヘモグロビンを含有するベシクルからなる人工酸素運搬体。
[1] 一般式(1)
で表されるスフィンゴミエリン類縁化合物を構成脂質成分として含むリポソーム。
[2] スフィンゴミエリン類縁化合物がNα-ミリストイル-N’-ミリスチル-L-セリンアミド-O-ホスフォコリンである[1]のリポソーム。
[3] さらに、フォスファチジルコリン類脂質を構成脂質として含む[1]または[2]のリポソーム。
[4] ジミリストイルフォスファチジルコリンを構成脂質として含む[3]のリポソーム。
[5] スフィンゴミエリン類縁化合物の含有量が構成脂質全体の25〜60%である[1]〜[4]のいずれかのリポソーム。
[6] リポソームと赤血球をインキュベーションすることを含む、赤血球由来の球状のベシクルであって、平均粒子径が100nm〜200nmであり、膜構造を有し、さらにヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
[7] 赤血球由来のベシクルの膜の脂質構成が、赤血球膜と同等である[6]のヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
[8] 以下の工程(a)〜(d)を含む[6]または[7]のヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法:
(a) リポソームと赤血球懸濁液とを混合し、20〜40℃で1分〜10時間インキュベーションする工程;
(b) インキュベーション後、1500〜3000gで遠心分離を行い、赤血球および赤血球残骸を分離する工程;
(c) 遠心分離上清を回収し、さらに10000g以上で遠心分離を行う工程;および
(d) 赤色の沈殿を回収する工程。
[9] リポソームが[1]〜[5]のいずれかのスフィンゴミエリン類縁化合物を構成脂質成分として含むリポソームである[6]〜[8]のいずれかのヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
[10] [6]〜[9]のいずれかの方法で作製される赤血球由来の球状のベシクルであって、平均粒子径が100nm〜200nmであり、膜構造を有し、さらにヘモグロビンを含有するベシクル。
[11] [10]のヘモグロビンを含有するベシクルからなる人工酸素運搬体。
リポソームを赤血球とインキュベーションすることにより、赤血球よりヘモグロビンを含む平均粒子系100〜200nm程度のHb含有ベシクルが形成される。特に、分子内に二つのアミド基を有するスフィンゴミエリン類縁化合物(SMA)を含むリポソームを用いた場合に、短時間で多量のHb含有ベシクルを得ることができる。Hb含有ベシクルは、膜で囲まれた球状構造を有しており、人工赤血球として利用することができる。さらに、医薬を含ませることによりDDSにおける薬物送達担体として用いることができる。
本発明の機能性リポソームは、スフィンゴミエリン様の合成機能性脂質を含む。合成機能性脂質は親水性のホスファコリンと疎水性の長鎖アルキル基の間にアミド結合を導入した分子内に二つのアミド基を有するスフィンゴミエリン類縁化合物(Sphingomyelin Analogue、SMA)である両親媒性物質であり、一般式(1)で表される。
式中、R1およびR2は独立にC10〜C20、好ましくはC13またはC14のアルキル基を表す。好ましくは、本発明で用いるスフィンゴミエリン類縁化合物は以下の式で表されるNα-Myristoyl-N’-Tetradecyl-L-O-[2’-(N,N,N-trimethyl-amino-ethyl]phosphoryl-serylamide amide(Nα-ミリストイル-N’-ミリスチル-L-セリンアミド-O-ホスフォコリン)である。
SMAは、L-セリンを出発化合物として、合成することができる。
本発明の機能性リポソームは、構成脂質として上記SMAの他に、フォスファチジルコリン類、フォスファチジルエタノールアミン類、フォスファチジン酸類もしくは長鎖アルキルリン酸塩類、ガングリオシド類、糖脂質類もしくはフォスファチジルグリセロール類、コレステロール類等を含む。フォスファチジルコリン類としては、ジミリストイルフォスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルフォスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルフォスファチジルコリン(DSPC)、DBPC等が、また、フォスファチジルエタノールアミン類としては、ジミリストイルフォスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミン等が、フォスファチジン酸類もしくは長鎖アルキルリン酸塩類としては、ジミリストイルフォスファチジン酸、ジパルミトイルフォスファチジン酸、ジステアロイルフォスファチジン酸、ジセチルリン酸等が、ガングリオシド類としては、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGT1b等が、糖脂質類としては、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、フォスファチド、グロボシド等が、フォスファチジルグリセロール類としては、ジミリストイルフォスファチジルグリセロール、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール、ジステアロイルフォスファチジルグリセロール等が挙げられる。本発明の機能性リポソームの構成脂質中のSMAの構成比率は、10〜90%、好ましくは25〜80%、さらに好ましくは40〜60%である。
本発明の機能性リポソームは、超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法、薄膜法、逆層蒸発法、エタノール注入法、脱水−再水和法等の公知の方法に従い製造することができる。例えば、構成脂質を含むクロロホルム溶液を調製し、フラスコ等に入れ、エバポレーターを用いて乾燥させることにより、フラスコ底に脂質の薄膜を形成させ、Tris緩衝液等の緩衝液を入れ、超音波処理することによりリポソームを形成させることができる(超音波法)。また、Tris緩衝液中に分散させ、市販のエクストルーダーを用いて形成させることもできる。本発明の機能性リポソームの平均粒子径は、数十nm〜数百nm、好ましくは50nm〜150nmである。
スフィンゴミエリン様の合成機能性脂質(SMA)を含む本発明の機能性リポソームをSM-like lipidsリポソームと呼ぶ。
本発明は、さらにリポソームと赤血球とを相互作用させて赤血球からヘモグロビンを含有する小胞(Hb含有ベシクル)を作製する方法および該方法により作製されたHb含有ベシクルを包含する。
用いるリポソームは上記のSMAを構成脂質として含む機能性リポソームが望ましいがこれには限定されず、SMAを含まず、フォスファチジルコリン類、フォスファチジルエタノールアミン類、フォスファチジン酸類もしくは長鎖アルキルリン酸塩類、ガングリオシド類、糖脂質類もしくはフォスファチジルグリセロール類、コレステロール類、スフィンゴミエリン類等を含むリポソームも用いることができる。
Hb含有ベシクルは、以下の方法により製造することができる。
(1) リポソームと赤血球懸濁液とを混合し、インキュベーションする。この際、赤血球は10〜75%程度の分散液を用いればよい。インキュベーション温度は限定されないが、リポソームの構成脂質の相転移温度以上が好ましく、具体的には20〜40℃が好ましい。また、インキュベーション時間は限定されないが、好ましくは1分〜10時間、さらに好ましくは5分〜5時間である。リポソーム中のSMAの含有率が高いほど、インキュベーション時間が短くてもHb含有ベシクルが効率的に形成される。
(2) インキュベーション後、遠心分離により残った赤血球および赤血球残骸を分離する。遠心分離は、500〜5000g、好ましくは1500〜3000gで数分から10分程度行えばよい。
(3) 遠心分離上清を回収し、さらに遠心分離を行う。この際の遠心分離条件は、10000g以上で、10〜60分程度である。
(4) Hb含有ベシクルは、赤色の沈殿として得られるので、これを回収すればよい。
(1) リポソームと赤血球懸濁液とを混合し、インキュベーションする。この際、赤血球は10〜75%程度の分散液を用いればよい。インキュベーション温度は限定されないが、リポソームの構成脂質の相転移温度以上が好ましく、具体的には20〜40℃が好ましい。また、インキュベーション時間は限定されないが、好ましくは1分〜10時間、さらに好ましくは5分〜5時間である。リポソーム中のSMAの含有率が高いほど、インキュベーション時間が短くてもHb含有ベシクルが効率的に形成される。
(2) インキュベーション後、遠心分離により残った赤血球および赤血球残骸を分離する。遠心分離は、500〜5000g、好ましくは1500〜3000gで数分から10分程度行えばよい。
(3) 遠心分離上清を回収し、さらに遠心分離を行う。この際の遠心分離条件は、10000g以上で、10〜60分程度である。
(4) Hb含有ベシクルは、赤色の沈殿として得られるので、これを回収すればよい。
得られたHb含有ベシクルの量は、Hb含有ベシクル中のヘモグロビンを測定することにより測定することができ、例えば、Hb含有ベシクルを適当な濃度で懸濁させ、540nmの吸光度を測定すればよい。
本発明のHb含有ベシクルは、ヘモグロビンを含有した球状の膜粒子構造を有しており、膜の脂質構成等は赤血球と同等である。従って、本発明のHb含有ベシクルは生体適合性に優れている。また、Hb含有ベシクルの平均粒子径は100〜200nmである。さらに、本発明のHb含有ベシクルに含まれるHbは通常の赤血球と同等で、10〜15g/dlである。本発明のHb含有ベシクルはTris緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液や生理食塩水中で長期間保存することが可能である。
本発明のHb含有ベシクルは、人工赤血球または人工酸素運搬体として用いることができる。医療分野において、虚血部位や腫瘍組織への酸素供給用、大量出血患者の輸血用、臓器保存灌流液、体外循環液、細胞培養液として使用することが可能である。
さらに、本発明のHb含有ベシクルは医薬を体内に送達するためのドラッグデリバリーシステム(DDS)の医薬送達用担体として用いることができる。本発明のHb含有ベシクルに、医薬効果を有する化合物を含ませることにより、特定の組織または器官にベシクルが到達し、その組織または器官の細胞にベシクルが取り込まれ、医薬効果を有する化合物を放出する。
医薬効果を有する化合物は限定されず、抗癌剤等の特定の疾患に対する医薬化合物等を用いることができる。遺伝子治療用DNA、RNA、siRNA等も用いることができる。
医薬効果を有する化合物は、Hb含有ベシクルの中に封入させてもよいし、Hb含有ベシクルの表面に結合させてもよい。医薬効果を有する化合物をHb含有ベシクル中に封入させるには、例えばリポソームと赤血球をインキュベーションする際に、医薬効果を有する化合物を添加すればよい。
本発明の医薬効果を有する化合物を含むHb含有ベシクルは、医薬組成物として、種々の形態で投与することができる。このような投与形態としては、点眼剤等による点眼投与、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬などによる非経口投与を挙げることができる。これらの医薬組成物は、公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、ゲル化剤、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、本発明の糖鎖結合リポソームを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。
本発明のHb含有ベシクルを含む医薬組成物の投与経路は、限定されず、点眼、経口投与、静脈注射、筋肉注射等がある。投与量は、疾患の重篤度等により適宜決定できるが、本発明の組成物の医薬的に有効量を患者に投与すればよい。ここで、「医薬的に有効量を投与する」とは、各種疾患を治療するのに適切なレベルの薬剤を患者に投与することをいう。本発明の医薬組成物の投与回数は適宜患者の症状に応じて選択される。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1 スフィンゴミエリン様人工脂質Nα-Myristoyl-N’-Tetradecyl-L-O-[2’-(N,N,N-trimethyl-amino-ethyl]phosphoryl-serylamide amide(Nα-ミリストイル-N’-ミリスチル-L-セリンアミド-O-ホスフォコリン)の合成
図1Aに、スフィンゴミエリン様人工脂質の全合成経路を示す。
図1Aに、スフィンゴミエリン様人工脂質の全合成経路を示す。
(i) Nα-(Benzyloxycarbonyl)-L-serine(化合物2)の合成
L-serine(1) 4.00g(38mmol)とNaHCO3 7.98g(95mmol)を100mlの蒸留水に溶かし、Benzylchloroformate(Z-Cl)7.78g(45.6mmol)をゆっくり滴下して、25℃にて4時間撹拌した。
反応終了後、30mlのエーテルを加えて水層を洗浄した。氷浴中で、pH2〜3になるまで6N HCl水溶液を徐々に添加した。得られた乳濁液を300mlの酢酸エチルにより抽出し、酢酸エチル層を濃縮後ヘキサンにて再沈殿することで、目的とするN-(Benzyloxycarbonyl)-L-serine(化合物2)を得た(yield; 88%)。
L-serine(1) 4.00g(38mmol)とNaHCO3 7.98g(95mmol)を100mlの蒸留水に溶かし、Benzylchloroformate(Z-Cl)7.78g(45.6mmol)をゆっくり滴下して、25℃にて4時間撹拌した。
反応終了後、30mlのエーテルを加えて水層を洗浄した。氷浴中で、pH2〜3になるまで6N HCl水溶液を徐々に添加した。得られた乳濁液を300mlの酢酸エチルにより抽出し、酢酸エチル層を濃縮後ヘキサンにて再沈殿することで、目的とするN-(Benzyloxycarbonyl)-L-serine(化合物2)を得た(yield; 88%)。
(ii) N'-Tetradecyl-Nα-(Benzyloxycarbonyl)-L-serylamide(化合物3)の合成
3.23gの化合物2(13.5mmol)とN-hydroxysuccinimide(HONSu)1.56g(13.5mmol),1-(3-dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide(EDAP)2.73g(14.2mmol)を、0℃にてDMF/クロロホルム(2:1)混合溶媒30mlに溶解し、室温で20時間攪拌した。続いてTetradecylamine 2.9g(mmol)をDMF/クロロホルム(2:1)混合溶媒45mlに溶解し、先の混合溶媒30ml中にゆっくり滴下して、25℃にて1.5時間攪拌した。反応の終了はTLCで確認した。
反応終了後、水100mlで希釈し、クロロホルム側へ抽出した。Na2SO4を加え乾燥させたあと、濃縮して得られた粗結晶をメタノールで再結晶することにより、目的とするN'-Tetradecyl-Nα-(Benzyloxycarbonyl)-L-serylamide(化合物3)を得た(yield; 50.1%)。
3.23gの化合物2(13.5mmol)とN-hydroxysuccinimide(HONSu)1.56g(13.5mmol),1-(3-dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide(EDAP)2.73g(14.2mmol)を、0℃にてDMF/クロロホルム(2:1)混合溶媒30mlに溶解し、室温で20時間攪拌した。続いてTetradecylamine 2.9g(mmol)をDMF/クロロホルム(2:1)混合溶媒45mlに溶解し、先の混合溶媒30ml中にゆっくり滴下して、25℃にて1.5時間攪拌した。反応の終了はTLCで確認した。
反応終了後、水100mlで希釈し、クロロホルム側へ抽出した。Na2SO4を加え乾燥させたあと、濃縮して得られた粗結晶をメタノールで再結晶することにより、目的とするN'-Tetradecyl-Nα-(Benzyloxycarbonyl)-L-serylamide(化合物3)を得た(yield; 50.1%)。
(iii) 2-bromoethyl-dichlorophosphate(5)の合成
氷浴中でよく冷却したトリクロロエチレン4ml中にオキシ塩化リン(化合物4)4.42g(28.6mmol)を溶解し、続いて窒素ガスでbubblingしながら2-ブロモエタノール2.39g(19.1mmol)をゆっくり滴下し、室温で12時間攪拌した。
得られた混合物から、減圧蒸留により目的物質2-bromoethyl-dichlorophosphate(化合物5)を得た(yield; 40%)。
氷浴中でよく冷却したトリクロロエチレン4ml中にオキシ塩化リン(化合物4)4.42g(28.6mmol)を溶解し、続いて窒素ガスでbubblingしながら2-ブロモエタノール2.39g(19.1mmol)をゆっくり滴下し、室温で12時間攪拌した。
得られた混合物から、減圧蒸留により目的物質2-bromoethyl-dichlorophosphate(化合物5)を得た(yield; 40%)。
(iv) N’-Tetradecyl-Nα-(Benzyloxycarbonyl)-L-serylamide(化合物6)の合成
2.1gの化合物5(8.68mmol)を氷浴中dry THF 20mlに溶解し、続いて1.91mlのEt3N(13.7mmol)をゆっくり滴下した(系内白濁)。15分攪拌後冷却を止め、30mlのdry THFに溶解した1.5gの化合物3(3.45mmol)を50mlシリンジでゆっくり滴下し、室温で48時間攪拌した。反応の進行状況はTLCによって追跡した。
反応終了後、ET3N・HCl塩などの沈殿物をろ別した。ろ液に0.1M 酢酸ナトリウム水溶液30ml、0.1M EDTAナトリウム水溶液10mlを添加して室温で一晩攪拌した。加水分解の進行状況はTLCによって追跡した(Rf=0.4-0.7(CDCl3/メタノール=65/35))。
2.1gの化合物5(8.68mmol)を氷浴中dry THF 20mlに溶解し、続いて1.91mlのEt3N(13.7mmol)をゆっくり滴下した(系内白濁)。15分攪拌後冷却を止め、30mlのdry THFに溶解した1.5gの化合物3(3.45mmol)を50mlシリンジでゆっくり滴下し、室温で48時間攪拌した。反応の進行状況はTLCによって追跡した。
反応終了後、ET3N・HCl塩などの沈殿物をろ別した。ろ液に0.1M 酢酸ナトリウム水溶液30ml、0.1M EDTAナトリウム水溶液10mlを添加して室温で一晩攪拌した。加水分解の進行状況はTLCによって追跡した(Rf=0.4-0.7(CDCl3/メタノール=65/35))。
続いて一旦溶媒を留去し、クロロホルム50ml、メタノール20ml、水30mlを加え分液抽出した。得られたクロロホルム層をNa2SO4で乾燥した後再び溶媒を留去し、黄色の油状物を得た。
この段階ではこれ以上の精製は試みず、次の四級アンモニウム塩化の反応に進んだ。
この段階ではこれ以上の精製は試みず、次の四級アンモニウム塩化の反応に進んだ。
(v) Nα-Myristoyl-N’-Tetradecyl-L-serylamide(化合物7)の合成
上記(iv)で得られた化合物6の混合物を15mlのクロロホルムに溶解し、アセトニトリル20ml、2-プロパノール20mlを加えオートクレーブに添加した。28wt%トリメチルアミン水溶液25ml(109mmol)を加え密閉し、65℃で48時間加熱攪拌した。反応終了後、一旦溶媒を留去(突沸注意)し、再度クロロホルム50mlに溶解したのちに30mlの水で洗浄した。Na2SO4で乾燥後再び溶媒を留去し、ガラス状の黄色結晶を得た。これを微量のクロロホルムで溶解した後、加えたクロロホルムの10倍量のアセトンを添加し、沈殿物をろ取した。得られた沈殿物をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:NH3aq=100:0:0→90:10:0→80:20:0.5→65:35:5→0:90:10)で精製し、目的とする化合物7を得た(yield, 11.0%)。
上記(iv)で得られた化合物6の混合物を15mlのクロロホルムに溶解し、アセトニトリル20ml、2-プロパノール20mlを加えオートクレーブに添加した。28wt%トリメチルアミン水溶液25ml(109mmol)を加え密閉し、65℃で48時間加熱攪拌した。反応終了後、一旦溶媒を留去(突沸注意)し、再度クロロホルム50mlに溶解したのちに30mlの水で洗浄した。Na2SO4で乾燥後再び溶媒を留去し、ガラス状の黄色結晶を得た。これを微量のクロロホルムで溶解した後、加えたクロロホルムの10倍量のアセトンを添加し、沈殿物をろ取した。得られた沈殿物をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:NH3aq=100:0:0→90:10:0→80:20:0.5→65:35:5→0:90:10)で精製し、目的とする化合物7を得た(yield, 11.0%)。
(vi) Nα-Myristoyl-N’-Tetradecyl-L-O-(2’-bromoethyl)phosphoryl-serylamide (化合物8)の合成
系内を水素置換したフラスコに、先に得た化合物7の167mg(0.27mmol)とPd/C(10wt%)72mgを添加し、続いてTHF/エタノール(3:1)混合溶媒10mlを注入し、室温で3時間攪拌した。反応の終了はTLCで確認した。
反応終了後、セライトろ過によりPd/Cを除去し、エバポレータで溶媒およびトルエンを除去し、目的とする化合物8を得た(yield; 82.4%)。
Rf=0(クロロホルム/メタノール=65/35)
なお、触媒としてPd/Cの代わりにPd(OH)2/C(25%)を用いても、同様に反応は進行して化合物8を得ることができた。
系内を水素置換したフラスコに、先に得た化合物7の167mg(0.27mmol)とPd/C(10wt%)72mgを添加し、続いてTHF/エタノール(3:1)混合溶媒10mlを注入し、室温で3時間攪拌した。反応の終了はTLCで確認した。
反応終了後、セライトろ過によりPd/Cを除去し、エバポレータで溶媒およびトルエンを除去し、目的とする化合物8を得た(yield; 82.4%)。
Rf=0(クロロホルム/メタノール=65/35)
なお、触媒としてPd/Cの代わりにPd(OH)2/C(25%)を用いても、同様に反応は進行して化合物8を得ることができた。
(vii) Nα-Myristoyl-N’-Tetradecyl-L-O-[2’-(N,N,N-trimethyl-amino)ethyl]phosphoryl-serylamide amideの合成(化合物9)
化合物8の129mg(0.277mmol)を5mlのdry THFに溶解し、これに0.156mlのEt3Nを加えた。続いてMyristoylchloride 0.075ml(0.28mmol)を加え、65℃で2時間加熱還流した。反応の進行はTLCで追跡した。
化合物8の129mg(0.277mmol)を5mlのdry THFに溶解し、これに0.156mlのEt3Nを加えた。続いてMyristoylchloride 0.075ml(0.28mmol)を加え、65℃で2時間加熱還流した。反応の進行はTLCで追跡した。
反応終了後、Et3N・HCl沈殿をろ別し、母液を濃縮した。これに10mlのクロロホルム、2mlのメタノール、3mlの水を加え、分液抽出した。クロロホルム層を再度濃縮し、目的とする化合物9を得た(yield; 90.7%)。
m.p.; 158.5-160℃, Rf=0.2 (クロロホルム:メタノール=65:35), MS(MULDI-TOF); 676.38(Calc.; 676.00)
図1Bに得られた化合物9のNMRスペクトル、図1CにMSスペクトルを示す。
m.p.; 158.5-160℃, Rf=0.2 (クロロホルム:メタノール=65:35), MS(MULDI-TOF); 676.38(Calc.; 676.00)
図1Bに得られた化合物9のNMRスペクトル、図1CにMSスペクトルを示す。
実施例2 Hb含有ベシクルの製造および特性付け
1. 赤血球とリポソームのインキュベーション
(i) 赤血球の調製
採取した血液20mlを2.8mlのCPD液(血液保存液)と混合したものを用いた。CPD液を含む適量の血液(2〜10ml)をキャップ付の15ml遠心チューブに移し、遠心分離処理(2000g、3分、4℃または室温)をした。赤血球沈澱に、2倍体積量程度のTris緩衝液((Tris(10mM)-KCl(150mM)、pH7.4)を加えてよく馴染ませ、4℃で10分静置したのち再度遠心分離処理(2000g、3分、4℃または室温)をして血漿とbuffy coatの層を除去した。この洗浄操作を3〜4回繰り返し、上澄み液が無色になることを確認した。これを洗浄赤血球とした。
1. 赤血球とリポソームのインキュベーション
(i) 赤血球の調製
採取した血液20mlを2.8mlのCPD液(血液保存液)と混合したものを用いた。CPD液を含む適量の血液(2〜10ml)をキャップ付の15ml遠心チューブに移し、遠心分離処理(2000g、3分、4℃または室温)をした。赤血球沈澱に、2倍体積量程度のTris緩衝液((Tris(10mM)-KCl(150mM)、pH7.4)を加えてよく馴染ませ、4℃で10分静置したのち再度遠心分離処理(2000g、3分、4℃または室温)をして血漿とbuffy coatの層を除去した。この洗浄操作を3〜4回繰り返し、上澄み液が無色になることを確認した。これを洗浄赤血球とした。
(ii) リポソームの調製
リポソームの構成脂質としてジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、牛脳スフィンゴミエリン(SM)および参考例1で合成したスフィンゴミエリンを模倣した化合物(sphingomyelin analogue.以下、SMAと表記)を用いた。図2にDMPC、SMおよびSMAの化学式を示す。
リポソームの構成脂質としてジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、牛脳スフィンゴミエリン(SM)および参考例1で合成したスフィンゴミエリンを模倣した化合物(sphingomyelin analogue.以下、SMAと表記)を用いた。図2にDMPC、SMおよびSMAの化学式を示す。
リポソームの調製は、超音波法またはExtruder法により行った。
超音波法によるリポソームの調製の詳細は以下の通りである。
DMPCまたはSMAのクロロホルム溶液(5mg/ml)をそれぞれ調製した。このクロロホルム溶液から1mlをスリ付50mlナスフラスコにとり、これをエバポレーターで濃縮・乾燥し、フラスコの底に脂質の薄膜を形成させた。
超音波法によるリポソームの調製の詳細は以下の通りである。
DMPCまたはSMAのクロロホルム溶液(5mg/ml)をそれぞれ調製した。このクロロホルム溶液から1mlをスリ付50mlナスフラスコにとり、これをエバポレーターで濃縮・乾燥し、フラスコの底に脂質の薄膜を形成させた。
脂質の薄膜をデシケーターで一昼夜乾燥させたのち、3.69mlのTris緩衝液を添加してよく振とうした。続いて50℃の水浴でフラスコを温めながら、ボルテクスミキサーで膨潤させ、薄膜を完全に剥離させて脂質の懸濁液を調製した(2mM)。
この懸濁液を45℃の水浴中で加温しながらプローブ型ソニケーターを用いて5分間超音波照射した。
超音波照射終了後、分散液を試験管に移し、遠心分離処理(2000g,3分,室温)によりチタンチップを沈殿させ除去した。上澄み液をディスポーサブルメンブレンフィルター(φ0.80μm、セルロースアセテートタイプ、ADVANTEC)に2回通過させ、不純物を除去し、これをリポソーム分散液とした。
Extruder法によるリポソームの調製の詳細は以下の通りである。
超音波法と同様の方法により、DMPC、SM及びSMAの混合脂質のTris緩衝液分散液(2mM)を調製した。この懸濁液を、50℃の環境下、直径100nmの孔を有するポリカーボネートメンブランに30回透過させ、100nmの大きさに揃えたリポソームを調製した。尚、リポソームの粒子系は動的光散乱測定器により確認した。
超音波法と同様の方法により、DMPC、SM及びSMAの混合脂質のTris緩衝液分散液(2mM)を調製した。この懸濁液を、50℃の環境下、直径100nmの孔を有するポリカーボネートメンブランに30回透過させ、100nmの大きさに揃えたリポソームを調製した。尚、リポソームの粒子系は動的光散乱測定器により確認した。
上記のリポソームの調製におけるDMPC、SMおよびSMAの混合比は表1の通りであった。本発明において、例えば、調製時のDMPC:SMA比が0.9:0.1の場合、DMPC/SMA(90/10)のように表現し、得られたリポソームをDMPC/SMA(90/10)リポソームのように表す。また、SMAのみを用いて得られたリポソームをSMAリポソームのように表す。
リポソームの形態は、透過型電子顕微鏡により直接的に観察し、リポソームが形成されている様子を確認した。さらに、リポソームの粒子径は動的光散乱測定により求めた。リポソームの粒子径は104±17nmであった(図3)。
上記洗浄赤血球を再度Tris緩衝液に分散させ、25vol%となるように調整し、これをA液とした。次に、上記のリポソーム懸濁液を2倍に希釈し、1mMとなるよう調整し、これをB液とした。
A液とB液をそれぞれ1mlずつわけ取り、15mlの遠心分離用チューブ中で十分に混和させ、ただちに37℃でインキュベーションを開始した。
5時間後、インキュベーションをやめて遠心分離処理(2000g, 3分,室温)により上澄み液と赤血球の沈殿とに分離し、この赤血球の沈殿をFraction 1とした。
上澄み液は、さらに遠心分離処理(12000g,30分,4℃)を施して上澄み液と赤沈とに分離し、この上澄み液をFraction 2、赤沈をFraction 3とした。
赤血球とリポソームのインキュベーションの方法の工程を図4に示す。
赤血球とインキュベーションする前後で、リポソームの粒子径等に影響が及ぼされるのかどうかをDLSで確認した。
赤血球とリポソームのインキュベーションの方法の工程を図4に示す。
赤血球とインキュベーションする前後で、リポソームの粒子径等に影響が及ぼされるのかどうかをDLSで確認した。
DMPCリポソームは、インキュベーション前後で目立った粒子径の変化等を起さなかった。ところが、DMPCとSMAの混合リポソームの場合において、SMAの割合が高くなる(〜60%)と、インキュベーション後のリポソームの粒子径が小さくなってしまうことがわかった。具体的には、100nmのリポソームが20nm程度のリポソームへと変化し、もとの大きさのリポソームは一切観測されなくなってしまった(図5)。図5Aは、インキュベーション前のリポソームを、図5Bはインキュベーション後のDMPCリポソームを、図5Cはインキュベーション後のDMPC/SMA(40/60)リポソームを示す。
2. 赤沈粒子の分析
上記1.に記載の方法で調製したDMPCリポソーム(1mM)のTris緩衝液分散液0.5mlと上記1.に記載の方法で調製した洗浄赤血球のTris緩衝液分散液0.5mlを37℃の水浴中2時間インキュベーションした。その後、遠心分離処理(2000g、3分、室温)により赤血球残骸を除去し、上澄みを得た。上澄みを再度遠心分離処理(12000g、30分、4℃)して上澄みと沈殿に分離し、沈殿物として赤沈粒子を得た。
上記1.に記載の方法で調製したDMPCリポソーム(1mM)のTris緩衝液分散液0.5mlと上記1.に記載の方法で調製した洗浄赤血球のTris緩衝液分散液0.5mlを37℃の水浴中2時間インキュベーションした。その後、遠心分離処理(2000g、3分、室温)により赤血球残骸を除去し、上澄みを得た。上澄みを再度遠心分離処理(12000g、30分、4℃)して上澄みと沈殿に分離し、沈殿物として赤沈粒子を得た。
(i) 脂質の抽出
以下の方法で、洗浄赤血球および赤沈粒子から脂質を抽出した。
洗浄赤血球または赤沈粒子の250μlをマイクロピペットで取り、遠沈管にチップごと入れた。ここに蒸留水1.75mlをいれ、チップ内に付着した赤血球を完全に遊出させ、チップをピンセットで取り出した。37℃の水浴で加温しながら1分ほどボルテクスミキサーにかけよく混和し、完全に溶血させた。
以下の方法で、洗浄赤血球および赤沈粒子から脂質を抽出した。
洗浄赤血球または赤沈粒子の250μlをマイクロピペットで取り、遠沈管にチップごと入れた。ここに蒸留水1.75mlをいれ、チップ内に付着した赤血球を完全に遊出させ、チップをピンセットで取り出した。37℃の水浴で加温しながら1分ほどボルテクスミキサーにかけよく混和し、完全に溶血させた。
続いて、遠沈管をよく攪拌しながら2-プロパノール11mlをゆっくり加えた。遠沈管の底にたまっていた赤色付着物がなくなるまでよく混合したら、30分間4℃で静置した。その後、クロロホルム7mlをゆっくり加えてよく攪拌した。さらに30分間4℃で静置した後に、Tris緩衝液4mlを加え、ボルテクスミキサーで5分間十分に攪拌した。
これを遠心分離(2000g,5分)すると、上層より水層(A層)、赤褐色物浮遊層(B層)および有機溶媒層(C層、脂質抽出物が含まれる)とに分かれたので、A層およびB層を吸引除去した。C層を桐山ろ紙(No.5A)で吸引ろ過した後に溶媒をエバポレーターで濃縮し、続いて50℃で真空乾燥をして赤血球脂質抽出物の薄膜を得た。尚、赤血球脂質抽出物は常に真空またはAr雰囲気下で保存した。
(ii) 薄層クロマトグラフィーによる成分の同定
(i)で得た赤血球および赤沈粒子脂質抽出物を再度1〜2mlのクロロホルム/メタノール混合溶媒(2/1)に溶解し、抽出液とした。抽出液を毛細管により吸い上げ、薄層クロマトグラフィー用シリカゲルプレートにうつし、クロロホルム/メタノール/水(65/25/4)の展開溶媒により展開した。
(i)で得た赤血球および赤沈粒子脂質抽出物を再度1〜2mlのクロロホルム/メタノール混合溶媒(2/1)に溶解し、抽出液とした。抽出液を毛細管により吸い上げ、薄層クロマトグラフィー用シリカゲルプレートにうつし、クロロホルム/メタノール/水(65/25/4)の展開溶媒により展開した。
抽出物を展開したTLCプレートを図6AおよびBに示す。図6Aおよび6Bは、それぞれクロロホルム/メタノール/水(65/25/4)の展開溶媒による展開の結果、およびヘキサン/エーテル/酢酸(80/20/1)の展開溶媒による展開の結果を示す。図6Aおよび6Bの左レーンは赤血球脂質抽出物であり、右レーンは赤沈粒子から抽出した脂質抽出物である。
抽出液をヘキサン/エーテル/酢酸(80/20/1)の混合溶媒で展開した際には、Rf=0と0.2にスポットが観察された。文献データ(野沢義則他、日本膜学界編 膜学実験シリーズ第一巻 生体膜編 共立出版株式会社 p.173-174)と比較した結果、Rf=0.2のスポットは中性脂質群、Rf=0のスポットはリン脂質群に由来するものであると考えられた。
次に,抽出液をクロロホルム/メタノール/水(65/25/4)の混合溶媒で展開した際には、少なくとも7つ以上のスポットが観察された。中でも、Rf=0.48、0.39、0.30のスポットが相対的に非常に濃く、これらが主成分であると考えられた。赤血球膜の構成成分はSM;26%、PC;28%、PE;27%の3成分が赤血球膜の主成分であること及びこれら3成分をクロロホルム/メタノール/水(65/25/4)展開溶媒のもと薄層クロマトグラフィーで展開した際に得られるスポットの位置に関する公知事項から、Rf=0.48、0.39、0.30のスポットはそれぞれPE、PC、SMに由来するものであると考えられた。また、他のスポットに関しても同様にして文献データと照合した結果、カルジオリピン、ホスファチジルセリンなどの脂質であると推測できた。
図6AおよびBに示すように、赤血球膜の脂質抽出物と赤沈粒子の脂質抽出物とは、スポットが完全に一致する結果となった。以上より、赤沈粒子は赤血球膜から生成したものであることが判明した。
また、赤沈粒子は、目視で確認できるほど濃厚な赤色を呈しており、ヘモグロビン(Hb)を含有していることが予測できた。
3. インキュベーションに用いる赤血球分散液濃度を変えたときの赤沈粒子の生成量変化
本検討においては、物理化学的に安定なリポソームを確保するため、DMPC/SMA(90/10)を用いた。洗浄赤血球およびリポソームの調製は上記1.に記載の方法で行った。
本検討においては、物理化学的に安定なリポソームを確保するため、DMPC/SMA(90/10)を用いた。洗浄赤血球およびリポソームの調製は上記1.に記載の方法で行った。
洗浄赤血球からマイクロピペットを用いて0.5mlを取り出し、チップごとバイアル管に移した。ここに、0.5mlのTris緩衝液を加え、よく混合して赤血球濃度50%の分散液を得た。この分散液をA液とした。この方法に準じて、赤血球濃度が35、20、10または5%の赤血球分散液を調製し、それぞれ、B、C、DおよびE液とした。
次に、調製したリポソーム懸濁液をトリス緩衝液で2倍に希釈し、1mMとなるよう調整し、リポソーム分散液とした。
A〜E液をそれぞれ0.5mlずつ、15mlの遠心分離用チューブにわけ取り、ここにリポソーム分散液0.5mlを加えて十分に混和させ、37℃でインキュベーションを開始した。2時間後、直ちにインキュベーションをやめ、遠心分離処理(2000g、3分、室温)により上澄み液と赤血球の沈殿とに分離した。この赤血球の沈殿をFraction 1とした。上澄み液は、さらに遠心分離処理(12000g、30分、4℃)を施して上澄み液と赤沈とに分離した。この上澄み液をFraction 2、赤沈をFraction 3とした(図4参照)。
Fraction 3の赤沈はトリス緩衝液(pH7.4)で洗浄(12000g、30分、4℃)した。洗浄後得た沈殿に50μlのトリス緩衝液を加え、加温しながら完全に膨潤させた。この赤沈分散液を検体として用いた。
上記のように調製したリポソーム(DMPC/SMA=90/10)とさまざまな濃度に設定した洗浄赤血球A〜E液をインキュベーションした際に生成する赤沈粒子の量を図7に示す(左軸)。同時に、赤血球膜内からバルク水中へ漏洩した全ヘモグロビン量(mg)を示す(右軸)。
図7の結果より、赤沈粒子の生成量が赤血球濃度に比例して増大することが分かった。これは、赤沈粒子が赤血球から放出されているものであることを表しており、これまでの考察及び生成メカニズムに関する推測と合致する。さらに、図7に示したHbベシクル生成とHb漏洩の関係から、赤沈粒子の生成と赤血球膜の内封物保持能の低下は連動して起こることがわかった。赤沈粒子が生成する過程で、赤血球膜になんらかの損傷が生じ、このときにヘモグロビンが漏洩し、赤沈粒子に含まれたものと予測される。本発明において、赤沈粒子をHb含有ベシクルと呼ぶ。
4. 様々な構成脂質からなるリポソームを用いたときのHb含有ベシクル生成量の変化
構成脂質の種類と比率を様々に変えたリポソームを調製し、これと赤血球を相互作用させることで,生成するHb含有ベシクルの量がどのように変化するのかを検討した。本検討では、構成脂質として汎用のジアシルホスファチジルコリン(DMPC、DPPC)、スフィンゴミエリン、スフィンゴミエリンの構造を模倣したスフィンゴミエリン類縁化合物(Sphingomyelin analogue,SMA)を用いてリポソームを調製し、赤血球とのインキュベーションに用いた。上記1.に記載の方法にしたがって、表2に示す構成成分からなるリポソーム分散液(2mM,in Tris緩衝液(pH7.4))を調製した。洗浄赤血球の調製も上記1.に記載の方法で行った。
構成脂質の種類と比率を様々に変えたリポソームを調製し、これと赤血球を相互作用させることで,生成するHb含有ベシクルの量がどのように変化するのかを検討した。本検討では、構成脂質として汎用のジアシルホスファチジルコリン(DMPC、DPPC)、スフィンゴミエリン、スフィンゴミエリンの構造を模倣したスフィンゴミエリン類縁化合物(Sphingomyelin analogue,SMA)を用いてリポソームを調製し、赤血球とのインキュベーションに用いた。上記1.に記載の方法にしたがって、表2に示す構成成分からなるリポソーム分散液(2mM,in Tris緩衝液(pH7.4))を調製した。洗浄赤血球の調製も上記1.に記載の方法で行った。
上記方法で得た洗浄赤血球に適量のトリス緩衝液を加え、よく混合して赤血球濃度25%の分散液を得、A液とした。
次に、リポソーム懸濁液をトリス緩衝液で2倍に希釈し、1mMとなるよう調整し、B液とした。
次に、リポソーム懸濁液をトリス緩衝液で2倍に希釈し、1mMとなるよう調整し、B液とした。
AおよびB液をそれぞれ0.5mlずつ、15mlの遠心分離用チューブにわけ取り,十分に混和させてから37℃でインキュベーションを開始した。2時間後、インキュベーションをやめ、遠心分離処理(2000g、3分、室温)により上澄み液と赤血球の沈殿とに分離した。この赤血球の沈殿をFraction 1とした。上澄み液は、さらに遠心分離処理(12000g、30分、4℃)を施して上澄み液と赤沈とに分離した。この上澄み液をFraction 2、赤沈をFraction 3とした(図4参照)。
Fraction 3の赤沈はトリス緩衝液(pH7.4)で洗浄(12000g、30分、4℃)した。洗浄後得た沈殿に50μlのトリス緩衝液を加え、加温しながら完全に膨潤させた。この赤沈分散液を検体として用いた。
赤沈粒子の生成量は、5. DMPCリポソームおよびSMAリポソームを用いた場合における赤沈粒子生成量の経時変化に記載の方法で測定した。
様々な構成脂質からなるリポソームと赤血球をインキュベーションした際に生成する赤沈粒子の量を図8に示した。また、赤沈粒子の生成と同時に、赤血球膜からバルク水中へ漏洩したヘモグロビンの全量(mg)を求めた結果を図9に示した。尚、比較のしやすさのため、DMPC/SMA混合リポソームの場合については、DMPC/SMA=70/30リポソームを用いた場合に得られた結果のみを併記している。
図8の結果より、赤沈粒子の生成量は用いるリポソームの種類によって大きく異なることがわかった。第一に、DPPCのリポソームを用いた場合には、他の脂質を用いた場合に比べて赤沈粒子の生成量が著しく低いことがわかった。これは、脂質自体の熱物性が関係していると考えられる。DPPCリポソームは脂質二分子膜構造からなっており、Bangham法で調製される脂質懸濁液と同様の集合体を形成すると考えられているが、この昇温過程における相転移温度は41℃である。一方で、DMPC、SMおよびSMAの昇温過程における相転移温度はそれぞれ23℃、33℃、24℃〜35℃である。本検討ではインキュベーションを37℃で行っているため、この温度条件においてDPPCリポソームは所謂ゲル状態に、DMPC、SMおよびSMAリポソームは所謂液晶状態にあると考えられ、両者は膜の柔軟性・流動性等の点でその物性が大きく異なる。膜面が流動的な液晶状態の時には、細胞との相互作用(吸着・融合・エンドサイトーシス等)が起こりやすいと考えられる。
これらの公知事実と本検討の結果から、用いるリポソームの脂質二分子膜の相転移温度以上でリポソームと赤血球をインキュベーションさせると赤沈粒子が生成するのに対し、相転移温度以下でインキュベーションすると、細胞とリポソームがほとんど相互作用せず、結果として赤沈粒子もほとんど生成しないということがわかった。同時に、これまで赤沈粒子の生成と並行して観察されていた赤血球内ヘモグロビンの漏洩も、DPPCの場合においてはほとんど観察されないことが図9からわかった。
このことは、赤血球とリポソームの、互いに「柔軟」で「流動的」な膜面同士の相互作用こそが赤沈粒子を生成させる駆動力となっている、という仮説を裏付ける結果である。
さらに、図8から明らかなように、DMPCリポソームよりもDMPC/SMAを用いた場合のほうが、生成する赤沈粒子の量が大きくなることがわかった。そしてその量は、SMAの割合が大きくなればなるほど増大し、SMA含有率60%の段階では、DMPCリポソームを用いた場合に比べて2倍以上の赤沈粒子を生成させる結果となった。
すなわち、SMAは赤沈粒子の生成を促す効果があることがわかった。これは、SMAの有する特性であるといえる。DMPCもSMAも水懸濁液の相転移温度は37℃以下であり、この温度では脂質膜は流動状態にあると考えられ、この点では両者に決定的な差異があるとは考えられない。そこで,両リポソームのいかなる物性の違いが、赤沈粒子の生成量に違いを与えたのかという点が問題となった。
リポソームと赤血球は、融合、吸着、エンドサイトーシスなどにより相互作用する。ここでいう融合とは、二つ以上のリポソームが互いに吸着した後、脂質二分子膜本来の形状が崩壊し、片方の二分子膜がもう片方の二分子膜に吸収されるようにして消失する現象のことをさす。このとき、リポソームの脂質と細胞膜の脂質が混ざり合う結果となるため、両脂質の交換が起こることが考えられる。この現象を脂質移行(lipid transfer)という。
Heustisらは、細胞とリポソームを相互作用させると、両者の間で一過性の膜融合が起こることがあるということを報告している(Huestis W. H. et al., Biochemistry, 27, 4655-4659, (1988))。このとき、上述した原理でリポソームには赤血球由来の脂質が、赤血球にはリポソーム由来の脂質が組み込まれることがあると考えられる。これらの公知事実と本検討の結果から、リポソームと赤血球をインキュベーションすると、両者は一過性の膜融合という相互作用様態を経て脂質移行が起こり、赤血球膜にSMAが混入することが契機となって赤沈粒子が生成するのではないかと考えられる。このメカニズムとして、異種分子の混入により赤血球膜の曲率が乱れ、熱力学的に不安定になった赤血球膜が、小さな赤沈粒子を放出することでエネルギー的に安定な状態に遷移したことが予測される。
5. DMPCリポソームおよびSMAリポソームを用いた場合における赤沈粒子生成量の経時変化
DMPC/SMA混合脂質リポソームの構成比率をさまざまに変化させたときに生成する赤沈粒子の量を詳細に求め、脂質分子が実際にどのように赤血球膜に相互作用しているのかについて検討を行った。
DMPC/SMA混合脂質リポソームの構成比率をさまざまに変化させたときに生成する赤沈粒子の量を詳細に求め、脂質分子が実際にどのように赤血球膜に相互作用しているのかについて検討を行った。
赤血球膜との相互作用挙動において顕著な差異がみられたスフィンゴミエリン類縁化合物(Sphingomyelin analogue、SMA及び標準の脂質の代表としてのDMPCとの2種類の脂質を用いてリポソームを調製した。洗浄赤血球およびリポソームは上記1.に記載の方法により行った。
DMPCまたはSMAのクロロホルム溶液(5mg/ml)をそれぞれ別個に調製した。このクロロホルム溶液から表3に示すように適当な量をスリ付50mlナスフラスコにとり、エバポレーターで濃縮・乾燥し、フラスコの底に脂質の薄膜を形成させた。
脂質の薄膜をデシケーターで一昼夜乾燥させたのち、3.69mlのTris緩衝液を添加してよく振とうした。続いて50℃の水浴でフラスコを温めながら、ボルテクスミキサーで膨潤させ、薄膜を完全に剥離させて脂質の懸濁液を調製した(脂質濃度2mM)。この懸濁液を50℃の環境下、直径100nmの孔を有するポリカーボネートメンブランに30回透過させ、100nmの大きさに揃えたリポソームを調製した。リポソームの粒子径は動的光散乱測定器により確認した。実際のインキュベーションでは、これを2倍に希釈した1mMのリポソーム懸濁液を使用した。
リポソーム懸濁液の最終的なリン脂質濃度は、コリンオキシダーゼ法(Takayama M. et al., Clin. Chim. Acta, 79, 93-98, (1977))により定量した。
上記方法により調製した洗浄赤血球を再度Tris緩衝液に分散させ、25vol%となるように調整し、これをA液とした。次に、調製したリポソーム懸濁液を2倍に希釈し、1mMとなるよう調整し、これをB液とした。
A液とB液をそれぞれ0.5mlずつわけ取り、15mlの遠心分離用チューブ中で十分に混和させ、ただちに37℃でインキュベーションを開始した。インキュベーション開始から一定時間経過後(1、3、5、7、10、20、30、60、120、180、240、300分)にインキュベーションをやめ、遠心分離処理(2000g、3分、室温)により上澄み液と赤血球の沈殿とに分離した。この赤血球の沈殿をFraction 1とした。上澄み液は、さらに遠心分離処理(12000g、30分、4℃)を施して上澄み液と赤沈とに分離した。この上澄み液をFraction 2、赤沈をFraction 3とした。
Fraction 3の赤沈はトリス緩衝液(pH7.4)で洗浄(12000g 30分、4℃)し、洗浄した沈殿に50μlのトリス緩衝液を加え、加温しながら完全に膨潤させた。この赤沈分散液を検体とした。
赤沈の生成量は、内包ヘモグロビン濃度を求めることにより測定した。その方法は以下の通りである。
使用液の調製
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)6g、トリトンX-100 7mlを1/30 Mリン酸緩衝液(pH7.2)100mlに溶解し、これをSDS原液とした。SDS原液から1mlをマイクロピペットで採り、100ml三角フラスコにチップごと移しとった。全量が100mlになるように蒸留水を加え、よく混合した。これを使用液とした。尚、このときのSDS濃度は2.08mMである。
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)6g、トリトンX-100 7mlを1/30 Mリン酸緩衝液(pH7.2)100mlに溶解し、これをSDS原液とした。SDS原液から1mlをマイクロピペットで採り、100ml三角フラスコにチップごと移しとった。全量が100mlになるように蒸留水を加え、よく混合した。これを使用液とした。尚、このときのSDS濃度は2.08mMである。
検体中のヘモグロビン濃度の測定
使用液3mlを試験管にとり、37℃の水浴に浸しながら検体50μlを加え、静かに混和した。5分後、2面透過型石英セルに移し、紫外可視分光光度計により540nmの吸光度を測定した。あらかじめ作成した検量線から、検体中のヘモグロビン濃度を算出した。
使用液3mlを試験管にとり、37℃の水浴に浸しながら検体50μlを加え、静かに混和した。5分後、2面透過型石英セルに移し、紫外可視分光光度計により540nmの吸光度を測定した。あらかじめ作成した検量線から、検体中のヘモグロビン濃度を算出した。
種々の脂質構成からなるリポソームと洗浄赤血球をインキュベーションした際に生成する赤沈粒子の量の経時変化を図10に示した。図10中、x軸はインキュベーション時間を、y軸はリポソーム中のSMAの含有割合( - )を、z軸は生成した赤沈粒子の量(μl)を示す。また、図11に図10のx軸に示すインキュベーション時間の対数値をとってプロットしたグラフを示す。
インキュベーションを続けた結果、赤血球内容物であるヘモグロビン等のタンパク質が漏洩する現象が観察された。ヘモグロビンの漏洩量の経時変化を求め、赤沈粒子の生成量とを比較した。図12A〜12Dに結果を示す。図12A〜12D中、左軸は赤沈粒子の生成量(μl)を示し、右軸は漏洩したヘモグロビン量(mg/ml)を示す。図12A、12B、12Cおよび12Dは、それぞれDMPCリポソーム、DMPC/SMA(75/25)リポソーム、DMPC/SMA(60/40)リポソームおよびDMPC/SMA(40/60)リポソームの結果を示す。
図10より、赤沈粒子の生成量は赤血球とインキュベーションさせるリポソームの種類に強く依存する傾向があることがわかった。具体的に述べると、SMAを高比率で含有した混合脂質からなるリポソームは、赤血球からの赤沈粒子の生成量を飛躍的に増大させる効果があることがわかった。その生成量の違いについて言及すると、DMPCリポソームを用いた場合に比べてSMAのリポソームを用いた場合には、およそ2倍量の赤沈粒子が生成することがわかった。
同時に、赤沈粒子の生成開始までの誘導期間(Induction Period)は、SMAを高比率で含有した混合脂質からなるリポソームを用いた場合に大幅に短縮された。DMPCリポソームを用いた場合には、誘導期間はおよそ30〜60分であったが、SMAを60%含有するリポソームを用いた場合には、誘導期間は3〜5分に短縮された。
このように、赤沈粒子の生成量に顕著な差異がみられることは、赤沈粒子が赤血球とリポソームの直接的な相互作用によって生成するものであることを示している。赤血球とリポソームが衝突する際に、何らかの相互作用を経、赤血球膜の曲率が乱され、そのことが駆動力となって赤沈粒子を生成する、という過程をたどっていると考えられる。実際、インキュベーション後の赤血球の電子顕微鏡観察の様子(後述)からは、100〜200nmの赤沈粒子が5〜7μmの赤血球膜から放出されるようにして生成している過程がはっきりと観察された。
図11および図12A〜12Dより、赤血球からのヘモグロビンの漏洩開始時間や漏洩量は、インキュベーションさせるリポソームの種類に強く依存する傾向があることがわかった。具体的に述べると、DMPCリポソームを用いた場合には、赤血球からのヘモグロビンの漏洩はほとんど起こらない反面、リポソーム中のSMAの含有率を高めるとヘモグロビンの漏洩量は飛躍的に上昇することがわかった。ヘモグロビンの漏洩はインキュベーション開始後およそ60〜120分で起こり、いずれの場合においても赤沈粒子の生成開始よりはるかに遅れて起こることがわかった。
このように、ヘモグロビンの漏洩が赤沈粒子の精製よりはるかに遅れて起こることは、上述した赤沈粒子の生成が赤血球膜に何らかの障害が起こって生成するものであることを示していると予測される。ヘモグロビンの漏洩は、言い換えれば赤血球膜の内封物保持能の低下であると考えることができ、それはすなわち赤血球膜の損傷レベルの指標と捉えることができる。したがって、ヘモグロビンの漏洩が徐々に起こることは、赤血球膜が徐々に侵食されていることを示していると考えることができる。
ただし、赤沈粒子の生成とヘモグロビンの漏洩は完全に別個独立のタイミングで起こるものではないことが図10、図11および図12A〜12Bからわかる。特に図12A〜12Dからわかるように、赤沈粒子の生成が未だ完結していないうちからヘモグロビンの漏洩が開始(60分の時点)している。
6.インキュベーション後の赤血球残骸の電子顕微鏡観察および粒径測定
赤血球のリポソームとのインキュベーションの前後で赤血球の形態がどのように変化するのかを電子顕微鏡観察により調べた。インキュベーションは、上記1.に記載の方法で行い、図4の赤血球の残骸を試料として用いた。インキュベーションに用いたリポソームは、DMPCリポソーム、DMPC/SMA(90/10)リポソーム、DMPC/SMA(75/25)リポソームおよびDMPC/SMA(40/60)リポソームであった。
赤血球のリポソームとのインキュベーションの前後で赤血球の形態がどのように変化するのかを電子顕微鏡観察により調べた。インキュベーションは、上記1.に記載の方法で行い、図4の赤血球の残骸を試料として用いた。インキュベーションに用いたリポソームは、DMPCリポソーム、DMPC/SMA(90/10)リポソーム、DMPC/SMA(75/25)リポソームおよびDMPC/SMA(40/60)リポソームであった。
電子顕微鏡観察は走査電子顕微鏡観察(FE-SEM)により行った。リポソームとのインキュベーション前後の赤血球をスライドガラス上に公知の方法で固定し、凍結乾燥固定し、オスミウムコーターでオスミウムコーティングして、電子顕微鏡観察用の試料とした。
洗浄赤血球の顕微鏡観察(FE-SEM)の像を図13および14に異なる倍率で示す。
DMPCリポソームを用いた場合のリポソームと赤血球をインキュベーションした後の、Fraction 1の顕微鏡観察(FE-SEM)の像を図15および16に異なる倍率で示す。
DMPCリポソームを用いた場合のリポソームと赤血球をインキュベーションした後の、Fraction 1の顕微鏡観察(FE-SEM)の像を図15および16に異なる倍率で示す。
DMPCリポソームとインキュベーションした後の赤血球は、本来の円盤状の形態を逸脱し、球状に近い形態をとっていた。また、その大きさはおよそ3〜4μmとなり、本来の形態(5〜8μm)より若干小さくなっていた。赤血球の表面に直径100〜200nm程度の球状粒子が付着していた。図4に示すFraction 3で得られた赤沈粒子の大きさをDLS測定で求めた結果(180nm)と、赤血球表面に付着している粒子の大きさと一致すること、および、赤沈粒子がこのようなメカニズムで生成するとするなら、図4のFraction 3で得る赤沈粒子がその内部に多量のヘモグロビンを内包していることと整合する。粒子は、赤血球膜から放出されたものであり、図4のFraction 3の赤沈粒子と同一のものであると判断された。また、赤血球膜に付着しているものは、完全に赤血球膜から脱離・放出されなかったものであると判断された。
DMPC/SMA(90/10)リポソームを用いた場合のリポソームと赤血球をインキュベーションした後の、図4のFraction 1の顕微鏡観察(FE-SEM)の像を図17および18に異なる倍率で示す。DMPC/SMA(90/10)リポソームとインキュベーションした後の赤血球の形態は、DMPCリポソームとインキュベーションした場合と同様、一貫して球状形態をとっており、表面からは数百nm程度の粒子が付着している様子が観察できた。赤血球の大きさはおよそ3〜4μmのものがほとんどであり、従来の赤血球の大きさ(5〜8μm)よりも若干小さいという点で特徴的である。ただし、従来の赤血球は中央がくぼんだ扁平型であり、図に示した赤血球は正球状である点を考慮すると、従来の赤血球が単に膨張したような形態をとっているために粒子径が5〜8μmから3〜4μmへと若干変化したと推測される。
DMPC/SMA(75/25)リポソームを用いた場合のリポソームと赤血球をインキュベーションした後の、図4のFraction 1の顕微鏡観察(FE-SEM)の像を図19および20に異なる倍率で示す。DMPC/SMA(75/25)リポソームとインキュベーションした後の赤血球の形態は、DMPC/SMA(90/10)リポソームと同様、一貫して球状形態をとっているものがほとんどであった。ただし、赤血球表面から球状粒子が放出する様子はあまり観察できなかった。一方で、赤血球膜がある程度損傷を受けている様子が観察された。赤血球膜表面には、結晶片のような物体が付着しており、これら結晶片が赤血球膜に突き刺さっている様子がよく観察された。結晶片が何に由来する物質であるかは不明であるが、DMPCリポソーム、DMPC/SMA(90/10)リポソームの場合には観察されなかったことから、緩衝液中に溶解していた物質ではないと推測された。
また、SMAを25%混合するリポソームを用いてインキュベーションを行った際には、赤血球内タンパク質であるヘモグロビンがある程度漏洩する現象が観察された。さらに詳細に検討を行った結果、SMAの含有比率をさらに高めると、ヘモグロビンの漏洩量は飛躍的に増加することもわかった。ヘモグロビンの漏洩は、赤血球膜の内封物保持能の低下であると考えられ、赤血球膜が何らかの損傷を受けることに起因すると考えることができる。
DMPC/SMA(40/60)リポソームを用いた場合のリポソームと赤血球をインキュベーションした後の、図4のFraction 1の顕微鏡観察(FE-SEM)の像を図21および22に異なる倍率で示す。DMPC/SMA(40/60)リポソームとインキュベーションした後の赤血球の形態は、上記の他の場合と大きく異なり、赤血球本来の形状がほとんど維持されていないものであった。赤血球内タンパク質や膜構成成分の残骸が散乱し、赤血球膜が大きなダメージを受けている様子が伺える。また、赤血球表面にHb含有ベシクル(100〜200nm粒子)が付着している様子も観察できなかった。
以上の電子顕微鏡観察の結果よい、SMAを10%含む程度のリポソームは生成するHb含有ベシクルの量が多かった。また、いずれのリポソームを用いた場合でもHb含有ベシクルは放出された点、得られるHb含有ベシクルの性質等は不変であった点から、Hb含有ベシクルの放出と赤血球膜の損傷は時間的に連動して起こるのではなく、ある程度の時間差をもって起こるものと考えられた。
7. インキュベーション後に生成する赤沈粒子の電子顕微鏡観察
赤沈粒子について、顕微鏡観察(FE-TEM)を行った。
赤沈粒子は、固定しないで、または固定して顕微鏡観察を行った。
赤沈粒子について、顕微鏡観察(FE-TEM)を行った。
赤沈粒子は、固定しないで、または固定して顕微鏡観察を行った。
固定処理しない場合は、図4のFraction 3の赤沈に2〜3mlのTris緩衝液(pH7.4)を加えて分散させた。この分散液をカーボン蒸着済みの銅メッシュ(プラスチック支持膜、200-Aメッシュ、カーボン補強済、応研商事(株))上に一滴垂らし、3分静置した。3分後、メッシュ上の水滴をろ紙で吸い取り、除去した。この後、特別な染色を施さず、そのまま透過電子顕微鏡観察(TEM-120、中央試験所)に用いた。固定処理する場合は、赤沈を公知の方法でぐるたるアルデヒド固定し、固定処理済の赤沈に、2〜3mlのトリス緩衝液(pH7.4)を加えてサイド分散させた。この分散液をカーボン蒸着済みの銅メッシュ(プラスチック支持膜、200-Aメッシュ、カーボン補強済、応研商事(株))上に一滴垂らし、3分静置した。3分後、メッシュ上の水滴をろ紙で吸い取り、除去した。この後、特別な染色を施さず、そのまま透過電子顕微鏡観察(TEM-120、中央試験所)に用いた。
さらに、動的光散乱(DLS)測定器による粒子径分布測定を行った。
さらに、動的光散乱(DLS)測定器による粒子径分布測定を行った。
図4のFraction 3の赤沈を、37℃の水浴中で温めながら1〜2滴のトリス緩衝液に再度分散させた。その際に、必要に応じてボルテクスミキサーを併用した。この分散液に、室温にてさらに2〜3mlのトリス緩衝液を加え、よく混和し、四面透過型石英セルに移しとり、37℃で30分ほど静置してから動的光散乱(DLS)測定器により粒子径分布を測定した。また、調製するリポソームの種類を変えたとき(DMPC/SMA=100/0〜40/60)に生成した赤沈についても、同様にして粒子径分布測定を行った。
リポソームとしてDMPCリポソームを用いたときに生成した赤沈について、GAMMA、Number、Weight平均粒子径分布をそれぞれ図23に示す。調製するリポソームの種類を変えたとき(DMPC/SMA=100/0〜40/60)も生成する赤沈粒子のDLS測定結果は、図23に示す結果(粒子径)とほぼ同一であった。さらに、赤沈粒子をリン酸緩衝液中、4℃で保存し、2週間以上後に再度動揺にしてDLS測定を行ったが、粒子径は保たれたままであった。
固定処理を行わずに顕微観察を行った結果を図24および25に示す。
グルタルアルデヒドによる固定処理を行って、赤沈の顕微観察を行った結果を図26および27に示す。
グルタルアルデヒドによる固定処理を行って、赤沈の顕微観察を行った結果を図26および27に示す。
固定処理せずに行った場合は、図24および25に示すように、はっきりとした球状粒子を観察することもできた。球状粒子は、直径110〜120nmの粒子であり、粒子の外側が厚さ10nm程度の膜で覆われていた。
Robertsonらは赤血球の四酸化オスミウム処理薄切標本(thin section)を作成してこれを透過電子顕微鏡(TEM)により観察し、赤血球膜が厚さ8〜10nmで、膜自身が三重構造からなることを報告している(Robertson JD, et. al., Biochem Soc Symp, 16, 3-43, (1959))。この点を考慮すると、粒子の外側の膜は、赤血球膜そのものと構造的に同一であると予測される。すなわち、赤沈粒子はあたかも小さな赤血球であると表現することができる。
グルタルアルデヒド固定処理を行った場合は、図26および27に示すように、鮮明な粒子を観察することができた。黒色に映し出された粒子が、薄灰色の媒体で集合させられているように観察されるが、この薄灰色の媒体は水分であると考えられる。乾燥過程で水分が完全に蒸発・気化しきらなかったため、像として映し出されてしまったことが原因であると考えられる。特別な染色を施さずに赤沈粒子が黒い像を映し出しているのは、ヘモグロビンが有するFe分子]が電子線を吸収しているためであると考えられる。すなわちこのことは、赤沈粒子の内部にはヘモグロビンが高濃度に包含されていることを示している。
球状粒子の大きさは、およそ120nm程度のものがほとんどで、全体としては90〜180nmの分布を有していた(Scion Image(近藤啓介, 田畑慶人, 笠井俊文,医療画像処理実践テキストScion Image・NIH Image活用法 オーム社,2004.11, : 2004.11)による画像処理の結果)。さらに詳細な分布をScion imageの粒子径解析により求めると、およそ120nmの粒子集団と180nmの粒子集団に大別されることがわかった。一方で、DLS測定の結果は、おおよそ180nmの粒子集団の存在を示す結果となり、電子顕微鏡画像から求めた粒子径は若干小さいことがわかった。これは、電子顕微鏡観察において、グルタアルアルデヒドで組織のアミノ基を架橋して固定する過程で、粒子内の水分の放出などの理由により若干粒子が収縮した結果ではないかと考えられる。
なお、赤沈粒子の観察においては、オスミウム酸(1%OsO4-0.1Mリン酸緩衝液、3時間、4℃)で固定を行うと、赤沈粒子の膜が崩壊し、内部のヘモグロビンなどのタンパク質が漏洩してしまった現象が確認された。さらに、赤沈粒子はリン酸緩衝液中に分散させておくことで、4℃のもとで2週間以上構造を維持できることがわかった。このことは、人工血液の材料として用いることを考えると、保存の面で都合がよい結果といえる。
サンプルの立体的形状や表面の微細構造を観察するうえでは、TEMは不向きであり、このような目的で実験を行う場合には走査型電子顕微鏡(SEM)が多様される場合が多い。
さらに、サンプルの立体的形状や表面の微細構造を観察するために、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察を行った。
グルタルアルデヒドによる固定処理を行った赤沈の分散液から作成したTEM観察用銅メッシュを、エタノールで十分に洗浄したスライドガラス片(8mm×8mm)上に乗せ、SEM観察用カーボン両面テープ(応研商事(株))を用いて固定した。中央試験所のオスミウムコーターで8秒間オスミウムコーティングを行い、これをSEM観察用試料としてそのまま測定に用いた。
FE-SEMで観察して得たSEM像を、図28および29に示す。FE-SEM観察では、粒子が実際に球状形態をとっていることを直接的に観察できた。図28および29で観察された粒子径に関するデータは、FE-TEM像から求めた粒子径データとよく一致した。赤沈粒子はほとんどが100〜200nmの範囲内のものであった。これらの粒子についてさらに詳細な分布を求めると、100〜140nmの粒子と180〜220nmの粒子に大別され、両者の相対量としては前者のほうが大きかった。
8. 示差走査熱量分析(DSC)による各種脂質のゲル-液晶相転移挙動の解析
脂質分子が水中で集合して形成する膜構造においては、特徴的な物性として相転移が示される。脂質膜の相転移は構成する分子の種類、組成、膜内での分布状態に依存し、膜に作用する物質の影響も受ける。そこで、生体膜および脂質モデル膜の相転移挙動を調べるとこれらの情報が得られるが、それには、DSC測定が直接的で最もふさわしい方法である。そこで、様々な天然脂質と本研究で独自に合成した人工脂質Sphingomyelin analogue (SMA)のDSC測定を行い、これら両脂質の熱物性を比較し、脂質膜構造を推測した。
脂質分子が水中で集合して形成する膜構造においては、特徴的な物性として相転移が示される。脂質膜の相転移は構成する分子の種類、組成、膜内での分布状態に依存し、膜に作用する物質の影響も受ける。そこで、生体膜および脂質モデル膜の相転移挙動を調べるとこれらの情報が得られるが、それには、DSC測定が直接的で最もふさわしい方法である。そこで、様々な天然脂質と本研究で独自に合成した人工脂質Sphingomyelin analogue (SMA)のDSC測定を行い、これら両脂質の熱物性を比較し、脂質膜構造を推測した。
DSC測定用サンプルの作製
測定用サンプルはBangham法(Bangham, A.D. et al., J. Mol. Biol., 13, 238, 1965に従って調製した。
測定する脂質の10mg/mlクロロホルム溶液(クロロホルムだけで脂質が溶解しない場合には、適量のメタノールを含む混合溶媒を用いて調製した溶液)を調製した。ここからマイクロピペットを用いて300μlとり、ミクロ試験管にうつした。このとき、ミクロ試験管の内部には3mgの脂質が存在する。2種以上の脂質からなる混合脂質のDSC測定を行う場合には、それぞれの脂質の10mg/mlクロロホルム溶液を調製し、そこから全量が300μlとなるように適量をとった。
測定用サンプルはBangham法(Bangham, A.D. et al., J. Mol. Biol., 13, 238, 1965に従って調製した。
測定する脂質の10mg/mlクロロホルム溶液(クロロホルムだけで脂質が溶解しない場合には、適量のメタノールを含む混合溶媒を用いて調製した溶液)を調製した。ここからマイクロピペットを用いて300μlとり、ミクロ試験管にうつした。このとき、ミクロ試験管の内部には3mgの脂質が存在する。2種以上の脂質からなる混合脂質のDSC測定を行う場合には、それぞれの脂質の10mg/mlクロロホルム溶液を調製し、そこから全量が300μlとなるように適量をとった。
このミクロ試験管を50℃の環境下12時間自然乾燥し、続いて真空処理によりクロロホルムを完全に蒸発させ、ミクロ試験管底部に脂質の薄膜を形成させた。さらにデシケーターで一昼夜乾燥させた後、12μlの超純水を加え、50℃の湯浴中で膨潤・振とうし、さらに必要であればボルテクスミキサーでよく攪拌・混合し、脂質懸濁液(20wt%)を調製した。
この懸濁液から5〜10mgをアルミ容器に移しとり、示差走差熱分析を行った。測定は、はじめに系の温度を液体窒素で−20℃以下まで冷却し、水分が完全に凝固してから1℃/minの速度で50℃まで昇温した。
図30に、上記方法で調製、測定して得られたDSCチャートを示す。
DMPCは、0〜30℃の領域で明瞭な吸熱ピークを有する。その温度は、13.6℃と23.5℃であった。この温度に関するデータは、先行文献で既に調べられている14℃、23℃という温度とよく一致する。DMPC懸濁液は、0〜30℃の温度領域で3種の相状態を経ることがX線解析等の結果より明らかになっている。上記2点での吸熱ピークは、ある相から別の相へ状態が変化する際に系が吸収する熱量であると考えることができる。DMPC懸濁液が経由する3種の相として、Lα相、Lβ相およびPβ’相がある。DMPC懸濁液の昇温過程において、まず14℃付近でLβ’相からPαβ’相への転移が起こる。このとき、相の状態はアルキル鎖が膜面に垂直に並んだ、薄板状からさざ波状へと変化する。さらに温度を上昇させると、23℃付近においてPαβ’相からLα’相への転移が起こる。このとき、相の状態はさざ波状から再び薄板状に戻るが、アルキル鎖の状態は液体のように自由に動き回ることができる形態となる。この転移は、前者に比べて非常に大きな吸熱を伴うものであるため、一般に主転移と呼ばれる。SMA懸濁液のDSCチャートは、DMPC懸濁液のチャートとはピーク位置、吸熱量ともに大部分の点で異なる。ただし、例外的にSMA懸濁液のチャートで見られた24℃のピークは、DMPCの23℃のピークに形状、位置ともによく一致する。これは、DMPC及びSMAに共通するピークと考えることができる。そこで、SMA懸濁液の24℃のピークが何に由来するものであるかについて検討をした。一般に、アルキル鎖長の異なる天然PCの主転移温度を比較すると、アルキル鎖長が長くなるにつれてアルキル鎖間の相互作用が強まり、主転移温度は高くなる傾向がある。例えば、C14からなるホスファチジルコリン(DMPC)は相転移温度が23℃付近であることは既に述べたが、C16からなるホスファチジルコリン(DPPC)は41℃、C18からなるDSPCは58℃、C20からなるDBPCは75℃に相転移ピークを有する。すなわち、ホスファチジルコリンの相転移温度は、アルキル鎖長に強く依存する傾向があるということがわかる。DMPC懸濁液がこの位置にピークを有するのは、アルキル鎖のパッキング状態の転移であることがわかっている以上、SMA懸濁液の24℃のピークも、これと同様に、アルキル鎖のパッキング状態の転移に伴うものであると考えるのが妥当である。実際、DMPCとSMAはアルキル鎖長の長さという点では共通している点も、この仮説を裏付ける証拠となりうるだろう。SMA懸濁液はDMPC懸濁液が呈するような13.6℃付近のピークを呈さない代わりに、35℃にブロードピーク、45℃に小さなピークを示した。これらのピークが何に由来するものであるかは不明であるが、DMPCとSMAの分子構造の比較という観点から、ある程度ピークの帰属が可能であると考えられた。DMPCとSMAの分子構造の相違は、スペーサー部位に導入された官能基の相違のみである。DMPCはグリセロール骨格のC2、C3位の水酸基に、同方向にエステル結合を伸ばしている反面、SMAは骨格となるセリンのアミノ基とカルボキシル基にアミド結合を導入している。エステル結合は、それ単独ではプロトンの受容体(C=O部位)としかなりえないが、アミド結合は、それ単独でプロトン受容体(C=O部位)とプロトン供与体(N-H部位)の両役割を担うことができる。したがって、SMAのアミド結合、特に水素結合が35℃及び45℃のピークに関与している可能性が高いと考えられた。
DMPCは、0〜30℃の領域で明瞭な吸熱ピークを有する。その温度は、13.6℃と23.5℃であった。この温度に関するデータは、先行文献で既に調べられている14℃、23℃という温度とよく一致する。DMPC懸濁液は、0〜30℃の温度領域で3種の相状態を経ることがX線解析等の結果より明らかになっている。上記2点での吸熱ピークは、ある相から別の相へ状態が変化する際に系が吸収する熱量であると考えることができる。DMPC懸濁液が経由する3種の相として、Lα相、Lβ相およびPβ’相がある。DMPC懸濁液の昇温過程において、まず14℃付近でLβ’相からPαβ’相への転移が起こる。このとき、相の状態はアルキル鎖が膜面に垂直に並んだ、薄板状からさざ波状へと変化する。さらに温度を上昇させると、23℃付近においてPαβ’相からLα’相への転移が起こる。このとき、相の状態はさざ波状から再び薄板状に戻るが、アルキル鎖の状態は液体のように自由に動き回ることができる形態となる。この転移は、前者に比べて非常に大きな吸熱を伴うものであるため、一般に主転移と呼ばれる。SMA懸濁液のDSCチャートは、DMPC懸濁液のチャートとはピーク位置、吸熱量ともに大部分の点で異なる。ただし、例外的にSMA懸濁液のチャートで見られた24℃のピークは、DMPCの23℃のピークに形状、位置ともによく一致する。これは、DMPC及びSMAに共通するピークと考えることができる。そこで、SMA懸濁液の24℃のピークが何に由来するものであるかについて検討をした。一般に、アルキル鎖長の異なる天然PCの主転移温度を比較すると、アルキル鎖長が長くなるにつれてアルキル鎖間の相互作用が強まり、主転移温度は高くなる傾向がある。例えば、C14からなるホスファチジルコリン(DMPC)は相転移温度が23℃付近であることは既に述べたが、C16からなるホスファチジルコリン(DPPC)は41℃、C18からなるDSPCは58℃、C20からなるDBPCは75℃に相転移ピークを有する。すなわち、ホスファチジルコリンの相転移温度は、アルキル鎖長に強く依存する傾向があるということがわかる。DMPC懸濁液がこの位置にピークを有するのは、アルキル鎖のパッキング状態の転移であることがわかっている以上、SMA懸濁液の24℃のピークも、これと同様に、アルキル鎖のパッキング状態の転移に伴うものであると考えるのが妥当である。実際、DMPCとSMAはアルキル鎖長の長さという点では共通している点も、この仮説を裏付ける証拠となりうるだろう。SMA懸濁液はDMPC懸濁液が呈するような13.6℃付近のピークを呈さない代わりに、35℃にブロードピーク、45℃に小さなピークを示した。これらのピークが何に由来するものであるかは不明であるが、DMPCとSMAの分子構造の比較という観点から、ある程度ピークの帰属が可能であると考えられた。DMPCとSMAの分子構造の相違は、スペーサー部位に導入された官能基の相違のみである。DMPCはグリセロール骨格のC2、C3位の水酸基に、同方向にエステル結合を伸ばしている反面、SMAは骨格となるセリンのアミノ基とカルボキシル基にアミド結合を導入している。エステル結合は、それ単独ではプロトンの受容体(C=O部位)としかなりえないが、アミド結合は、それ単独でプロトン受容体(C=O部位)とプロトン供与体(N-H部位)の両役割を担うことができる。したがって、SMAのアミド結合、特に水素結合が35℃及び45℃のピークに関与している可能性が高いと考えられた。
9. DMPCおよびSMAから作成したキャスト膜のFT-IR測定による分子間相互作用様態の解析
SMAが構成するリポソーム膜内にアミド基由来の水素結合ネットワークが存在するのか否かをIRにより検討した。IRは水の影響を受けやすいため、本検討においては、系に水の存在しないキャスト膜の環境でIR測定を行った。キャスト膜は、試料(脂質や微粒子などが主)の水溶液を高速回転する基板上にゆっくり滴下し、遠心力を利用して資料水溶液が均一に基板上に広がるように塗布することで得られる薄膜である。
SMAが構成するリポソーム膜内にアミド基由来の水素結合ネットワークが存在するのか否かをIRにより検討した。IRは水の影響を受けやすいため、本検討においては、系に水の存在しないキャスト膜の環境でIR測定を行った。キャスト膜は、試料(脂質や微粒子などが主)の水溶液を高速回転する基板上にゆっくり滴下し、遠心力を利用して資料水溶液が均一に基板上に広がるように塗布することで得られる薄膜である。
10mlバイアル管にSMA及びDMPCのクロロホルム/エタノール(1/3)溶液(6mg/ml)を調製した。表4に示すように、各々のバイアル管から溶液を取り、混合して脂質混合溶液A〜Fを調製した。
脂質混合溶液A-Fからそれぞれ200μlをマイクロピペットでとり、IR測定用Si基板上均一にスピンコートして脂質の薄膜を形成させた。薄膜を作成したSi基板を十分に自然乾燥させ(12h, r.t.),そのままFT-IR測定に用いて赤外光の反射率を測定した。
さまざまな混合比からなるDMPC、SMA混合脂質の薄膜をのせたSi基板のIRチャートのうち、2500cm-1〜-3500cm-1領域のピークを図31に示す。尚、この領域はアミド基のN−H伸縮振動やメチレン鎖のC-H伸縮振動などによる吸収ピークが観察される位置に相当する。図31中、CH2は非対称及び対称振動を、C-Hは伸縮振動を、N-Hは伸縮振動を示し、DMPC/SMAの混合比はそれぞれ(a)0/100、(b)20/80、(c)40/60、(d)60/40、(r)80/20、(f)100/0であった。
次に、脂質成分比を変えたときのアミドI吸収帯(C=O伸縮)のピーク位置のシフトの様子を図32に示す。
メチレン鎖の構造について
2918cm-1と2850cm-1に見られる吸収は、脂質のメチレン鎖の構造を表すピークとしてよく知られている。2918cm-1の吸収ピークは非対称振動に由来するもの、2850cm-1のピークは対称振動に由来するものである。通常、今回の方法で作製したキャスト膜では、リン脂質のアルキル鎖は主にトランス構造の状態を構成している。SMAとDMPCを混合したところで、C-H伸縮振動の様子に目立った変化は現れなかった。すなわち、SMAとDMPCを混合してもアルキル鎖はトランス構造を形成していると考えられる。
2918cm-1と2850cm-1に見られる吸収は、脂質のメチレン鎖の構造を表すピークとしてよく知られている。2918cm-1の吸収ピークは非対称振動に由来するもの、2850cm-1のピークは対称振動に由来するものである。通常、今回の方法で作製したキャスト膜では、リン脂質のアルキル鎖は主にトランス構造の状態を構成している。SMAとDMPCを混合したところで、C-H伸縮振動の様子に目立った変化は現れなかった。すなわち、SMAとDMPCを混合してもアルキル鎖はトランス構造を形成していると考えられる。
また、3300cm-1に見られるピークはアミド基のN-H基に由来するピークである。そのため、N-H基を有しないDMPCの場合はこの位置にピークが得られず、SMAの割合が大きくなるにつれてピークが大きくなっている様子が観察される。
Amide I吸収帯の波数シフトについて
SMAのアミドI(C=O)伸縮振動(1640cm-1)とN-H伸縮振動(3300cm-1)の変化は、アミド結合の変化の様子を反映する。図32から、SMAの割合が低くなるにつれてアミドI吸収帯が高波数側にシフトしている(1636cm-1→1658cm-1)様子がわかる。定性的な理解をすると、アミドI吸収帯が高波数側にシフトすることは、C=Oの結合の力が強まることを意味する。逆に、アミドI吸収帯が低波数側にシフトすることはC=Oが外部の環境と水素結合することで、C=O結合が弱められることを意味する。すなわち、分子間のアミド結合力が強まるほど、アミドIの吸収帯は低波数側にシフトするのである。本実験で、DMPCの割合が高くなるにつれてアミドI吸収帯が高波数シフトしたことは、異種分子であるSMAとDMPCが共存することで立体的な相互作用が働き、それによってSMA同士のアミド−アミド水素結合(C=O…H−N)が減少することを表していると考えられる。
SMAのアミドI(C=O)伸縮振動(1640cm-1)とN-H伸縮振動(3300cm-1)の変化は、アミド結合の変化の様子を反映する。図32から、SMAの割合が低くなるにつれてアミドI吸収帯が高波数側にシフトしている(1636cm-1→1658cm-1)様子がわかる。定性的な理解をすると、アミドI吸収帯が高波数側にシフトすることは、C=Oの結合の力が強まることを意味する。逆に、アミドI吸収帯が低波数側にシフトすることはC=Oが外部の環境と水素結合することで、C=O結合が弱められることを意味する。すなわち、分子間のアミド結合力が強まるほど、アミドIの吸収帯は低波数側にシフトするのである。本実験で、DMPCの割合が高くなるにつれてアミドI吸収帯が高波数シフトしたことは、異種分子であるSMAとDMPCが共存することで立体的な相互作用が働き、それによってSMA同士のアミド−アミド水素結合(C=O…H−N)が減少することを表していると考えられる。
同様に、図31におけるN-H伸縮振動ピーク(3300cm-1)の吸収帯は、混合脂質中のDMPCの割合が増えるにつれて高波数側にシフトしながら消滅していくことがわかった。高波数側にシフトするのは、分子間の水素結合の弱まりを意味するものと解される。また、ピークの消滅はN-Hの存在が減少することを意味する。
これらの結果は、さらに次の二つの点を明らかにする。第一に、上記考察の反対解釈として、SMAは分子間で水素結合する能力があるという点である。このことについては、DSCによる熱物性の評価でも予測できたことであったが。IR測定からも実証されたという意味で意義深いと考える。第二に、SMAとDMPCはキャスト膜中で十分に均一に混合しているという点である。均一に混合しているからこそ、アミドIの高波数シフトが明瞭に現れるのである。
以上の結果より、少なくとも脂質の混合比を変えることで、SMA由来の水素結合の環境の様子が変化していることがわかった。
10. DMPCおよびSMAから作製した単分子膜とそのπA曲線からの分子集合状態の解析
DMPCおよびSMAから作製した単分子膜を作成し、物理化学的性質の違いを比較検討した。
DMPCおよびSMAから作製した単分子膜を作成し、物理化学的性質の違いを比較検討した。
単分子膜
DMPC、SMAおよび混合脂質のクロロホルム溶液(0.5mg/ml)を調製した。ここから40μlをマイクロピペットでとり、恒温槽中に満たした十分に清浄な純水(10.58℃)面上にゆっくりと滴下した。その後15分静置して水面上のクロロホルムを蒸発させた後、稼動バリアーを移動することにより滴下した水面の面積を減少させたときの水面の表面圧の変化を測定し、表面圧-面積曲線(π-A 等温線)を描いた(図33)。尚、具体的な実験条件は表5に示すとおりであった。
DMPC、SMAおよび混合脂質のクロロホルム溶液(0.5mg/ml)を調製した。ここから40μlをマイクロピペットでとり、恒温槽中に満たした十分に清浄な純水(10.58℃)面上にゆっくりと滴下した。その後15分静置して水面上のクロロホルムを蒸発させた後、稼動バリアーを移動することにより滴下した水面の面積を減少させたときの水面の表面圧の変化を測定し、表面圧-面積曲線(π-A 等温線)を描いた(図33)。尚、具体的な実験条件は表5に示すとおりであった。
不溶性単分子膜の表面圧πは、清浄な水面の表面張力γωと、単分子膜で覆われた水面の表面張力γとの差として次式により定義される。
π=γω−γ
π=γω−γ
ただし、上式が成立するためには不溶性単分子膜が熱力学的平衡状態にあるか、少なくとも準平衡状態にある場合に限る。その際、πは同じ温度における純粋の表面張力の値を超えることはない。
不溶性単分子膜は、既知量の膜物質を面積のあらかじめわかっている清浄な水面に展開して得られるから、膜物質一分子あたりの占める面積Aを簡単な計算で求めることができる。
温度一定で、仕切り板により単分子膜の面積を変化させ、表面圧を分子占有面積の関数として測定したものを表面圧-面積等温線または簡単にπ-A曲線という。これらは、三次元における圧力-体積等温線に相当する。
AFMによる表面観察
両面テープを用いて、専用の雲母片(1cm×1cm)をスライドガラスに接着し、雲母片側が内側に向くように単分子膜作製のための水浴中に垂直に浸した。続いて、同水面上に脂質のクロロホルム溶液を適量たらし、5分静置してクロロホルムを蒸発させた後、バリアーを稼動した。あらかじめ目標に定めておいた膜圧を呈したときにバリアーの稼動を止め、雲母のスライドガラスをゆっくり引き上げて、雲母基板上に単分子膜をうつしとった。
この雲母基板を一昼夜自然乾燥し、そのままAFM測定に用いた。
両面テープを用いて、専用の雲母片(1cm×1cm)をスライドガラスに接着し、雲母片側が内側に向くように単分子膜作製のための水浴中に垂直に浸した。続いて、同水面上に脂質のクロロホルム溶液を適量たらし、5分静置してクロロホルムを蒸発させた後、バリアーを稼動した。あらかじめ目標に定めておいた膜圧を呈したときにバリアーの稼動を止め、雲母のスライドガラスをゆっくり引き上げて、雲母基板上に単分子膜をうつしとった。
この雲母基板を一昼夜自然乾燥し、そのままAFM測定に用いた。
π-A等温線の作図
天然の脂質の代表としてDMPCを選択し、これとSMAが描くπ-A等温線をグラフ化した(図34)。
天然の脂質の代表としてDMPCを選択し、これとSMAが描くπ-A等温線をグラフ化した(図34)。
AFM画像の取得
SMAからなる単分子膜のπ-A曲線において、バリアーを狭めていくうちにπ=58.5mN/m付近で一度変極点を向かえ、その後さらにπ値を上昇させていく現象が観察される。このような現象は、他の生体膜脂質では一切みられない現象であるため、このときの膜の状態を観察する必要があった。
SMAからなる単分子膜のπ-A曲線において、バリアーを狭めていくうちにπ=58.5mN/m付近で一度変極点を向かえ、その後さらにπ値を上昇させていく現象が観察される。このような現象は、他の生体膜脂質では一切みられない現象であるため、このときの膜の状態を観察する必要があった。
単分子膜のπ値が62mN/mを示したときにバリアーの稼動を止め、膜を雲母基板上に写し取り、そのままAFM観察を行った結果を図35に示す。
気体膜から液体膨張膜への転移について
図34は、DMPC、SMAの両脂質がつくる膜の物性の共通点・相違点を表している。以下にその詳細を述べる。
まず、いずれの脂質の場合においても、気体膜から液体膨張膜へ転移する際の有効分子面積はほぼ90Å2/moleculeで等しい。気体膜では、脂質分子は全く規則的な配向をなさず、水面上で無秩序に存在している。一方、トラフが狭まり一分子当たりの占める面積が小さくなるにつれ、ある時点を境に脂質分子が無秩序・均一に存在することができなくなる。このとき、それぞれの分子が親水部、疎水部を同一方向に配列させ、一分子当たりの占める面積が小さい環境でも存在できるよう、エネルギー的に安定な状態をとろうとする。この状態が液体膨張膜である。
図34は、DMPC、SMAの両脂質がつくる膜の物性の共通点・相違点を表している。以下にその詳細を述べる。
まず、いずれの脂質の場合においても、気体膜から液体膨張膜へ転移する際の有効分子面積はほぼ90Å2/moleculeで等しい。気体膜では、脂質分子は全く規則的な配向をなさず、水面上で無秩序に存在している。一方、トラフが狭まり一分子当たりの占める面積が小さくなるにつれ、ある時点を境に脂質分子が無秩序・均一に存在することができなくなる。このとき、それぞれの分子が親水部、疎水部を同一方向に配列させ、一分子当たりの占める面積が小さい環境でも存在できるよう、エネルギー的に安定な状態をとろうとする。この状態が液体膨張膜である。
本検討にて、DMPCとSMAの気体膜→液体膨張膜への転移時点がほぼ等しいことは、両分子の大まかな構造がほぼ同一であることに起因すると考えられる。両分子の分子量を比較すると、DMPC、SMAの分子量はそれぞれ677.93、675.96でほぼ等しい。分子構造を比較すると、親水基はホスフォコリンで等しく、アルキル鎖長も炭素-炭素結合14個からなるメチレンでこの点でいえば等しい。唯一の違いは親水基と疎水基のスペーサー部分であり、DMPCの場合はエステル結合になっているのに対し、SMAはアミド基になっている点である。
液体膨張膜、中間膜、液体凝縮膜への転移について
DMPC、SMAともにπ=20〜30mN/m付近で一時的な圧力緩和現象が起こる。これは、液体膨張膜から液体凝縮膜への転移現象である。この状態を中間膜という。
液体膨張膜は、多数の分子が互いに親水基、疎水基をそれぞれ同一の方向に向けて規則的に配向している状態をとる。ただしこのとき、長鎖アルキル基のメチレンの立体構造は不規則で、トランス、ゴーシュ、シスのいずれをもとると考えられている。この状態から、トラフがさらに狭まり一分子当たりの占める面積が小さくなると、分子はメチレン鎖の立体構造を揃え、より規則的に配向することで自由エネルギーを最小にしようとする。このとき、各々のメチレン鎖はより密にパッキングする。この状態を液体凝縮膜という。
DMPC、SMAともにπ=20〜30mN/m付近で一時的な圧力緩和現象が起こる。これは、液体膨張膜から液体凝縮膜への転移現象である。この状態を中間膜という。
液体膨張膜は、多数の分子が互いに親水基、疎水基をそれぞれ同一の方向に向けて規則的に配向している状態をとる。ただしこのとき、長鎖アルキル基のメチレンの立体構造は不規則で、トランス、ゴーシュ、シスのいずれをもとると考えられている。この状態から、トラフがさらに狭まり一分子当たりの占める面積が小さくなると、分子はメチレン鎖の立体構造を揃え、より規則的に配向することで自由エネルギーを最小にしようとする。このとき、各々のメチレン鎖はより密にパッキングする。この状態を液体凝縮膜という。
本検討は、DMPC、SMAのいずれもが当該実験条件下において液体膨張膜から液体凝縮膜への転移をすることを示している。通常この転移現象は、脂質の水懸濁液が熱に対する相転移現象を示すときに、当該相転移温度以下でπ-A等温線を描いたときに観察されるものであるが、前項で示したとおりDMPC、SMAの相転移温度はそれぞれ24℃、23℃(またはそれ以上の温度)である点を考慮すれば、本検討の結果はそれらとよく符合する。
また、この転移現象は単分子膜作製時の温度と脂質水懸濁液の相転移温度の差が大きいとき(特に、脂質水懸濁液の相転移温度が大きいとき)ほど、低圧力時に起こる現象であることが知られているが、図34ではDMPC、SMAいずれの場合においてもほぼ同圧力時(20-25mN/m)で起こることがわかる。これは、DMPCとSMAの相転移温度は24℃、23℃とほぼ等しいことの表れである。
分子占有面積の比較
図34より、DMPC、SMAそれぞれの分子占有面積を求め、表6に示した。ただし、ここでは分子占有面積の値を、次に示す理由から、液体凝縮膜段階の曲線からx軸に向けて外挿することで求めることとした。
図34より、DMPC、SMAそれぞれの分子占有面積を求め、表6に示した。ただし、ここでは分子占有面積の値を、次に示す理由から、液体凝縮膜段階の曲線からx軸に向けて外挿することで求めることとした。
気体膜、液体膨張膜の段階では、分子の方向性の秩序性が低く、分子同士が完全に密に充填された状態とはいえない。したがってこの段階では、表面積の減少は表面張力の低下能に十分な影響を与えないと解される。一方で、液体凝縮膜の段階では脂質のメチレン鎖の方向性も制御され、分子がかなり密にパッキングされた状態であるといえる。したがってこの段階では、表面積の減少が十分に表面張力の減少に反映されていると考えることができる。この段階でのπ-A曲線からx軸に外挿して求めた分子占有面積は、分子一つひとつの方向・配列が液体凝縮膜時の状態を保ったまま、側方方向への圧力を事実上0としたときの一分子が占める面積ということになり、他の分子の場合と比較するうえで都合がよい指標となる。
実験の結果から、分子占有面積はDMPCの単分子膜の方がSMAのそれよりも小さいことがわかった。これは、DMPC分子のほうがより密にパッキングする傾向にあることを表している。
本数値は、液体凝縮膜経由時の曲線から外挿して求めた値である以上、液体凝縮膜の物理状態をそのまま反映したものであると解釈できる。液体凝縮膜では、その前段階までと比べて分子のパッキングがより密になり、規則的に配向するため、分子構造のより繊細な部分の差異の影響度合いが大きくなると考えられる。具体的にいうと、分子中の官能基の種類・位置・向きなどが影響する。したがって分子構造の若干の違いが、大きな結果の差異となって現れると解される。
SMAは親水基と疎水基のスペーサー部位に二つのアミド結合を有しており、分子同士が密に集合したときにはこれら隣り合う官能基同士で分子間水素結合を形成する可能性も考えられた。すなわち、その結果として分子占有面積は(分子間水素結合能が弱いと考えられる)DMPCより小さくなるのではないか、と予測した。
しかし、結果は予測の逆で、SMAの分子占有面積の値はDMPCのそれよりもはるかに大きかった。予測を誤ったのは、SMAと水分子との相互作用を考慮に入れていなかったことが原因であると考えられる。すなわち、単分子膜は水上で作成している以上、親水基あるいはそれと隣接するスペーサー部位の周囲には十分量の水分子が存在することが考えられる。これら水分子とSMAのアミド基の親和性が高いことから、SMAの分子の周囲には多くの水分子が安定に存在し、その水分子が隣接する他の脂質分子を追いやることで、分子占有面積は予測したほど小さくならなかったのだと考えられる。
崩壊圧の比較
図34より、DMPC、SMAそれぞれの崩壊圧を求め、表7に示した。ただし、ここでは崩壊圧の値を、液体凝縮膜の曲線がバリアーの稼動の過程で不連続になった時点での圧力と定義する。
図34より、DMPC、SMAそれぞれの崩壊圧を求め、表7に示した。ただし、ここでは崩壊圧の値を、液体凝縮膜の曲線がバリアーの稼動の過程で不連続になった時点での圧力と定義する。
液体凝縮膜状態からさらにトラフを狭めると、単分子膜はもはや一枚膜の状態を維持できなくなってしまい、やがて崩壊してしまう。この崩壊時の圧力を崩壊圧という。崩壊圧が大きいということは、膜の側方方向へより大きな圧力をかけても膜の構造を維持できるということであり、膜の安定性を評価する上での重要な指標となる。
崩壊圧は物質固有の値であるため、混合脂質膜の崩壊圧を求めるなどすれば、物質同士の混合状態についてある程度の知見を得ることができることもある。
崩壊圧は物質固有の値であるため、混合脂質膜の崩壊圧を求めるなどすれば、物質同士の混合状態についてある程度の知見を得ることができることもある。
表7に示すとおり、単分子膜の崩壊圧はDMPCのものよりもSMAのもののほうが大きかった。すなわち、SMAからなる単分子膜のほうが、側方方向からの圧力に対して安定であると評価できる。
SMAの特徴は、スペーサー部位のアミド基にある。上述したとおり、アミド基は単独でプロトン受容体、プロトン供与体の両役割を担うことができるため、分子内及び分子内で水素結合を形成させることができると考えられる。したがって、SMAのアミド基-水分子-SMAのアミド基の間で働く連鎖的な水素結合が、側方方向からの圧力に対する耐性を維持していると考えられた。
π=60mN/m以上の時点でのSMAがつくる単分子膜について
図34から、SMAが作る単分子膜はπ=58.5mN/mで一旦圧力緩和の状態を呈するが、さらにトラフを狭めていくと圧力はさらに上昇し続け、最終的にはπ=72〜-73 mN/mに達することがわかった。当該現象は、同様の実験を何度行っても再現性よく観察された。π=72mN/mという値は、水の表面張力と同一の値であり、すなわち単分子膜が水の表面張力を0にまで押し下げたことを意味する。通常、単分子膜の崩壊圧がπ=72mN/mにまで上昇することは他の生体膜脂質の中でも類がなく、きわめて珍しい現象であるといえる。
図34から、SMAが作る単分子膜はπ=58.5mN/mで一旦圧力緩和の状態を呈するが、さらにトラフを狭めていくと圧力はさらに上昇し続け、最終的にはπ=72〜-73 mN/mに達することがわかった。当該現象は、同様の実験を何度行っても再現性よく観察された。π=72mN/mという値は、水の表面張力と同一の値であり、すなわち単分子膜が水の表面張力を0にまで押し下げたことを意味する。通常、単分子膜の崩壊圧がπ=72mN/mにまで上昇することは他の生体膜脂質の中でも類がなく、きわめて珍しい現象であるといえる。
そこで、実際にπ=58.5mN/mにおける圧力緩和が生じたのちにも単分子膜の構造が維持されているのかを確認するために、π=58.5mN/m以上の圧力を呈した状態の単分子膜をそのまま雲母基板上にうつしとり、AFM観察を行った。
図35に示すように、本来の平滑な面を有する単分子膜の構造は崩壊し、膜の余剰部分が垂直方向に押し出されている様子が観察された。したがって、π=58.5[mN/m]で膜が事実上崩壊していると考えることができる。
興味深いのは、単分子膜が図35に示すような事実上の崩壊をしているのに、その後の更なるバリアーの稼動によりπ値は依然として上昇し続ける点である。これらの現象は、次のように解釈された。SMAの単分子膜は、π=58.5[mN/m]で側方方向からの強い圧力に耐え切れず、崩壊して平滑な面を有する単分子膜ではなくなるのだが、その後、図35に示すように膜を折りたたむようにして再度自己集合し、側方方向からの圧力に耐え続ける。
では、なぜSMAの場合に限って当該現象が観察されたのか。これまでにも述べてきたとおり、DMPCとSMAの構造上の差異は、親水基と疎水基の間のスペーサー部位の化学構造の差異のみである。したがって、SMAのアミド結合が、隣り合う分子同士で膜の側方方向における強い分子間相互作用(水素結合)を働かせ、膜面が湾曲した状態のときにも一枚膜の構造を維持する状態を引起したのではないかと考えられた。
ただし、牛脳スフィンゴミエリンで同様にして単分子膜を作成した場合には、当該現象は観察されなかったことから、スペーサー部位にアミド結合が存在することだけでなく、その方向性までもが重要な要素となると考えることができた。
いずれにせよ、SMAの特異な構造は、天然の脂質とは大幅に異なる膜物性を呈することがあることがわかった。
Claims (11)
- スフィンゴミエリン類縁化合物がNα-ミリストイル-N’-ミリスチル-L-セリンアミド-O-ホスフォコリンである請求項1記載のリポソーム。
- さらに、フォスファチジルコリン類脂質を構成脂質として含む請求項1または2に記載のリポソーム。
- ジミリストイルフォスファチジルコリンを構成脂質として含む請求項3記載のリポソーム。
- スフィンゴミエリン類縁化合物の含有量が構成脂質全体の25〜60%である請求項1〜4のいずれか1項に記載のリポソーム。
- リポソームと赤血球をインキュベーションすることを含む、赤血球由来の球状のベシクルであって、平均粒子径が100nm〜200nmであり、膜構造を有し、さらにヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
- 赤血球由来のベシクルの膜の脂質構成が、赤血球膜と同等である請求項6記載のヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
- 以下の工程(a)〜(d)を含む請求項6または7に記載のヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法:
(a) リポソームと赤血球懸濁液とを混合し、20〜40℃で1分〜10時間インキュベーションする工程;
(b) インキュベーション後、1500〜3000gで遠心分離を行い、赤血球および赤血球残骸を分離する工程;
(c) 遠心分離上清を回収し、さらに10000g以上で遠心分離を行う工程;および
(d) 赤色の沈殿を回収する工程。 - リポソームが請求項1〜5のいずれか1項に記載のスフィンゴミエリン類縁化合物を構成脂質成分として含むリポソームである請求項6〜8のいずれか1項に記載のヘモグロビンを含有するベシクルを作製する方法。
- 請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法で作製される赤血球由来の球状のベシクルであって、平均粒子径が100nm〜200nmであり、膜構造を有し、さらにヘモグロビンを含有するベシクル。
- 請求項10記載のヘモグロビンを含有するベシクルからなる人工酸素運搬体。
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JP2006066711A JP2007238568A (ja) | 2006-03-10 | 2006-03-10 | 機能性リポソームおよび赤血球由来のHb含有ベシクル |
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CN114469865A (zh) * | 2022-03-17 | 2022-05-13 | 中国医学科学院输血研究所 | 一种与血细胞膜结合的脂质体药物载体及其制备方法和用途 |
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2006
- 2006-03-10 JP JP2006066711A patent/JP2007238568A/ja active Pending
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WO2023174173A1 (zh) * | 2022-03-17 | 2023-09-21 | 中国医学科学院输血研究所 | 一种与血细胞膜结合的脂质体药物载体及其制备方法和用途 |
CN114469865B (zh) * | 2022-03-17 | 2023-09-22 | 中国医学科学院输血研究所 | 一种与血细胞膜结合的脂质体药物载体及其制备方法和用途 |
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