JP2007228927A - グリコール酸の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 効率的なグリコール酸の生化学的製造方法を提供する。
【解決手段】 グリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させて、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する。
【選択図】 なし

Description

本発明は微生物及び/または微生物由来の酵素を用いることによるグリコールアルデヒド又はエチレングリコールからグリコール酸を製造する方法に関する。グリコール酸は化粧品の原料、農薬、更には医薬品の合成の中間体としても有用な化合物である。
グリコール酸は、洗浄剤、生分解性ポリマーへの配合、農薬や医薬品の合成の中間体などへの利用の他に、最近、肌への弾力性の付加、しわ防止効果などがあることが示され化粧品成分や毛髪染色剤への配合などへの利用が拡大している。このようなグリコール酸の製造に関しては、安価に製造することと同時に、化学合成法で得られるグリコール酸にみられるホルムアルデヒドなどの刺激性物質が混入しない製品の製造方法が望まれている。グリコール酸の生化学的製造方法としては、酵母を利用してエチレングリコールからグリコール酸を一工程で生産する方法が知られているが、反応に関与する酵素についての記載はない(特許文献1、2)。
特開平10−174593号公報 特開平10−174594号公報
本発明は、効率的なグリコール酸の生化学的製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素を見出し、当該酸化酵素を用いたグリコール酸の製造について詳細な検討を行うことにより本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、グリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させることにより、グリコール酸へ変換することを特徴とするグリコール酸の製造方法に関する。
更に、本発明は、下記第1反応および第2反応からなる酸化反応を連続して行うことを特徴とするエチレングリコールからのグリコール酸の製造方法に関する。
(第1反応)エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコールアルデヒドを生成させる。
(第2反応)第一反応で生じたグリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコール酸へ変換する。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のグリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素としては、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有するものであれば特に限定されない。我々は、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、セルロシミクロビウム(Cellulosimicrobium)属、モルガネラ(Morganella)属、バークホルデリア(Burkholderia)属に属する微生物が、グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素(アルデヒドオキシダーゼ)を産生することを見出したが(国際公開第04/072281号パンフレット)、更にこれら酸化酵素について詳細な検討を行った結果、これら酸化酵素はグリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有することを今回明らかにした。
本発明のグリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する酸化酵素としては、例えば、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、セルロシミクロビウム(Cellulosimicrobium)属、モルガネラ(Morganella)属、バークホルデリア(Burkholderia)属等に属する微生物が産生するアルデヒドオキシダーゼが挙げられる。
上記微生物の代表的なものとして、国際公開第2004/072281号パンフレット記載のステノトロフォモナス・スピーシーズ(Stenotrophomonas sp.)KNK235(FERM P−19002)、ストレプトミセス・スピーシーズ(Streptomyces sp.)KNK269(FERM BP−08556)、シュードモナス・スピーシーズ(Peudomonas sp.)KNK058(FERM BP−08555)、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)KNK254(FERM P−19003)、ミクロバクテリウム・スピーシーズ(Microbacterium sp.)KNK011(FERM BP−08554)、アクロモバクター・スピーシーズ(Achromobacter sp.)NBRC 13495、セルロモナス・スピーシーズ(Cellulomonas sp.)JCM 2471、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 13506、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 15012、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 15014、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 15015、セルロシミクロビウム・セルランス(Cellulosimicrobium cellulans)NBRC 15013、セルロシミクロビウム・セルランス(Cellulosimicrobium cellulans)NBRC 15516、セルロシミクロビウム・セルランス(Cellulosimicrobium cellulans)JCM 6201、モルガネラ・モルガニ(Morganella morganii)NBRC 3848等が挙げられる。
そのほか、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)AIU 362(FERM P−20363)、バークホルデリア・スピーシーズ(Burkholderia sp.)AIU 129(FERM P−20787)等も挙げることが出来る。
尚、上記微生物KNK235、KNK269、KNK058、KNK254、KNK011、AIU 362、AIU 129は本発明者らにより土壌から分離・同定され、前記寄託番号にて独立法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地 中央第6)に寄託されている。NBRC 13495、NBRC 13506、NBRC 15012、NBRC 15014、NBRC 15015、NBRC 15013、NBRC 15516およびNBRC 3848は独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部・生物遺伝資源部門(NBRC;〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に保存されており、同機関より入手可能である。JCM 2471およびJCM 6201は、独立行政法人理化学研究所微生物系統保存施設(JCM;〒351−0198 埼玉県和光市広沢2−1)に保存されており、同機関より入手可能である。
本発明では、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素として、グリコール酸に対する活性を実質的に持たないものを使用することが好ましい。
一方、本発明のもう一つの大きな特徴は、エチレングリコールに作用してグリコールアルデヒドに変換する能力を有する酸化酵素と上記グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素を組合せて用いることによりエチレングリコールからグリコール酸を製造することである。すなわち、エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコールアルデヒドを生成させる第1反応を行い、グリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコール酸へ変換する第2反応を行うことを特徴とするグリコール酸の製造方法である。
尚、本発明は、反応に使用する酵素が酸化酵素(オキシダーゼという場合もある)であることも大きな特徴の一つである。酸化酵素(オキシダーゼ)の反応様式を以下の化学反応式に示すが、本反応では、基質以外には酸素または酸素と水があれば反応は進行する。一方、同様な酸化反応を脱水素酵素(デヒドロゲナーゼとも言う場合もある)を用いて行うことも可能な場合もあるが、この場合、反応にはNAD+やNADP+などの高価な補酵素が必要であるが、酸化酵素(オキシダーゼ)を用いれば、このような補酵素を必要としない点で有利である。
Figure 2007228927
上記第1反応、すなわちエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素としては、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有するものであれば特に限定されないが、例えば、アルコールオキシダーゼ、グリセロールオキシダーゼが挙げられる。
アルコールオキシダーゼの起源としては特に限定されないが、酵母、カビ、細菌が産生するアルコールオキシダーゼが挙げられ、例えばピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、トルロプシス(Toluropsis)属、オガタエア(Ogataea)属に属する酵母が産生するアルコールオキシダーゼが挙げられる。
グリセロールオキシダーゼとしては、酵母、カビ、細菌が産生するグリセロールオキシダーゼが挙げられ、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属が産生するグリセロールオキシダーゼが挙げられる。
上記以外の酵素では、アスペルギルス属に属する微生物、例えばアスペルギルス・オクラゼウス(Aspergillus ochraceus)、その一例としてアスペルギルス・オクラゼウス(Aspergillus ochraceus)AIU 031株(FERM P−20785)が産生するエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素が挙げられる。同該AIU 031株は本発明者らにより土壌から分離・同定され、前記寄託番号にて独立法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地 中央第6)に寄託されている。
本発明では、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素として、グリコールアルデヒド又はグリコール酸に対する活性を実質的に持たないものを使用することが好ましい。しかし、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する活性を有する酸化酵素がグリコールアルデヒドにも作用し、グリオキサールへ変換する活性を有する場合も、反応条件を好適に設定することにより、これらの酵素も本発明に使用することが可能である。好適な条件の一つとして、これら第1反応に使用する酵素に比べ、第2反応に使用する酵素の量を多くし、反応の流れをグリコールアルデヒドからグリコール酸へ傾けること挙げられる。
上記第2反応、すなわちグリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素としては、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有するものであれば特に限定されないが、先に述べた、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、セルロシミクロビウム(Cellulosimicrobium)属、モルガネラ(Morganella)属、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属に属する微生物から得られる酸化酵素(アルデヒドオキシダーゼ)を挙げることが出来る。
本発明で使用する「酸化酵素」は、単一にまたは部分的に精製された酵素であってもよい。本発明で使用する微生物は、これら酵素の産生能を有する微生物の培養物またはその処理物を使用することも可能である。「微生物の培養液」とは、菌体を含む培養液あるいは培養菌体を意味し、「その処理物」とは、例えば、粗抽出液、凍結乾燥菌体、アセトン乾燥菌体、またはそれら菌体の磨砕物等を意味する。さらに上記酸化酵素又は微生物は、公知の方法で固定化されて用いることができる。固定化は、当業者に周知の方法(例えば架橋法、物理的吸着法、包括法等)で行うことができる。上記酸化酵素の産生能を有する微生物としては、野生株または変異株、あるいは上記酵素のDNAをベクターに組込み、これを宿主内に導入してなる形質転換体(組替え体)であってもよい。また、本発明で使用する酸化酵素の産生能を有する形質転換体は、酸化酵素をコードするDNAを宿主のゲノムに安定的に組み込むことによっても製造できる。一方で、本発明で使用する複数の酸化酵素を同一宿主細胞内に導入した形質転換微生物の培養物またはその処理物を用いれば、別々に両酵素を発現する微生物を培養する必要はないため、より低コストでグリコール酸が製造できる。このような形質転換体は、使用する酸化酵素をコードするDNAを、同一のベクターに組込み、これを宿主に導入することにより製造できるし、また、それぞれのDNAを不和合性の異なったベクターにそれぞれ組込み、それらを同一の宿主に導入することによっても製造できる。一方、宿主としては、大腸菌などの細菌、酵母、カビ、放線菌などを使用することが可能である。
本発明のエチレングリコールからグリコール酸を製造する方法において、第1および第2の各々の反応をそれぞれ別々の反応容器中で行うことによりバッチ方式で実施することも出来るが、各反応を行う酵素又は微生物を単一容器中に添加し、ワン・ポット方式で両反応を同時進行させることにより実施することが可能である。その場合、第1および第2反応を行う酵素又は微生物の量を調整することにより、第1反応により生成するグリコールアルデヒドを速やかに変換することが可能であり、グリコールアルデヒドが反応系に高濃度に蓄積することがないため、酵素の失活が押さえられ好ましく、また、生産工程の効率化においても好ましい。
第一反応及び第二反応の反応条件は使用する酵素、基質濃度により異なるが、反応は酸素存在下で行い、反応温度は10〜70℃、熱安定性の観点から10〜50℃が好ましく、pHは4〜12、酵素の最適反応pH、pH安定性の観点からpH5〜9が好ましい。基質であるエチレングリコールは、第一反応のエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する酵素を効率的に働かせるために、高く設定した方かよく、100mM以上、更に1M以上が好ましい。また酸素の反応液への溶解を促進するため、反応は振とう、攪拌条件下で行なわれることが好ましい。さらに大気圧以上の加圧下で反応を行うことにより、反応液への酸素の溶解度が向上し、反応がより進む場合もある。
尚、酸化酵素による酸化反応によって、過酸化水素が生成するが、この過酸化水素は酵素を失活させる場合がある。しかし、反応系にカタラーゼを添加することにより生成した過酸化水素を分解、除去することが可能である。使用するカタラーゼは、過酸化酵素を速やかに分解、除去するという観点から、使用する酸化酵素の活性の10倍以上、好ましくは100倍以上、さらに好ましくは1000倍以上の活性量を使用する事が望ましい。また、さきに述べた形質転換体に酸化酵素と共にカタラーゼを組換え発現させることにより効率良く過酸化水素を分解することが可能である。一方、形質転換体の宿主として、もともとカタラーゼを産生する能力を有する微生物を使用することが好ましい。メタノール酵母は、もともと菌体内にカタラーゼを産生すると同時に、本発明のエチレングリコールからグリコール酸を製造する方法において、第1反応、すなわちエチレングリコールをグリコール酸へ変換する能力を有するアルコールオキシダーゼを菌体内に高濃度に産生することが知られており、これらメタノール酵母を形質転換体の宿主として利用することは、反応の効率化の点で好ましい。
本発明に使用する酸化酵素の活性(オキシダーゼ活性)の検出、定量は、以下の化学反応式に示すように、酸化反応により生成する過酸化水素を4−アミノアンチピリン(以下4−AA)とN−エチル−(2−ヒドロキシ−3−スルフォプロピル)−m−トルイジン(以下TOOS)を反応させ、生成するキノンイミン色素を検出、定量することにより行うことができる。
Figure 2007228927
具体的には、100mMリン酸緩衝液(pH7)中、基質(エチレングリコール、グリコールアルデヒド、グリオキサール、グリコール酸、又は、グリオキシル酸;エチレングリコールは1000mM、それ以外は20mM)、0.69mM 4−アミノアンチピリン(4−AA)、1.09mM N−エチル−(2−ヒドロキシ−3−スルフォプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、5U/ml ペルオキシダーゼ(POD)および酸化酵素を含む1.0mlの反応液を30℃でインキュベートし、反応液の色の変化(紫色へ変化)の目視による確認または、555nmの吸光度の増加を測定することにより行った。尚、本発明において、1分間に1μmolのHを生成する酵素活性を1unitと定義する。
本発明の方法によれば、安価な原料であるエチレングリコール又はグリコールアルデヒドからグリコール酸を効率的に製造することが可能となる。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する酸化酵素の取得
酵母エキス5g、硝酸アンモニウム2g、リン酸水素2カリウム1g、リン酸水素1ナトリウム・2水和物1.3g、硫酸マグネシウム・7水和物0.2g、塩化カルシウム0.1g(いずれも1リットル当り)の組成よりなる培地(pH7)10mlを大型試験管に分注し、高圧滅菌後、表1記載の微生物を1白金耳植菌し、28℃で2日間振とう培養した。得られた培養液を遠心分離し、菌体を集め、1mlの0.1Mリン酸緩衝液(pH7)に懸濁した。この菌体懸濁液を超音波破砕し、遠心分離により菌体残渣を除き、無細胞抽出液を得た。このようにして得られた無細胞抽出液について、グリコールアルデヒド、グリオキサールに対する酸化活性(オキシダーゼ活性)を測定した。その結果を表1にまとめる。その結果、これら菌株の無細胞抽出液には、グリオキサールと共にグリコールアルデヒドに対して酸化活性(オキシダーゼ活性)が存在することが明らかとなった。
[酸化活性測定方法]
100mMリン酸緩衝液(pH7.0)中、20mM 基質(無添加、グリコールアルデヒド、又は、グリオキサール)、0.69mM 4−アミノアンチピリン(4−AA)、1.09mM N−エチル−(2−ヒドロキシ−3−スルフォプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、2U/ml ペルオキシダーゼ(POD)、および0.2mlの上記無細胞抽出液を含む1.0mlの反応液を試験管中で、30℃で振とうし、目視で生成するキノンイミン色素を検出した。
Figure 2007228927
(実施例2)グリコールアルデヒドからのグリコール酸の合成
300mMリン酸緩衝液(pH8.0)中、20mMグリコールアルデヒド、5000U/mlカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)および0.2mlの実施例1で得た無細胞抽出液を含む1.0mlの反応液を試験管中で、30℃で6時間振とうしながら反応を行った後、反応液100μlに200μlの200mM過塩素酸水溶液を添加し、遠心分離後(15000rpm、10分間)、上清をHPLCにより分析した。その結果を表2に示す。いずれの無細胞抽出液においても、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する活性が見出された。本反応では、反応系にNAD+、NADP+などの補酵素を添加していないことからデヒドロゲナーゼタイプの酵素では反応が進行しないこと、更に実施例1で示したように、反応に使用した無細胞抽出液中にはグリコールアルデヒドに対するオキシダーゼ活性が存在することより、本実施例におけるグリコール酸の生成は、オキシダーゼすなわち酸化酵素によるものであると推測される。
[HPLC分析条件]
カラム:Shodex Rspak KC−811(昭和電工社製)を二本連結
検出:RI(エチレングリコール、グリコールアルデヒド、グリコール酸、グリオキサール、グリオキシル酸)
UV(グリコール酸、グリオキシル酸)
カラム温度:40℃
溶離液:50mM過塩素酸水溶液
流速:1ml/min
検出時間:エチレングリコール;22.6分、グリコールアルデヒド;17.9分、グリオキサール;15.7分、グリコール酸;18.5分、グリオキシル酸;15.7分
Figure 2007228927
(実施例3)セルロシミクロビウム・セルランスNBRC15516株が産生するグリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する酸化酵素の粗酵素液の調製
酵母エキス10g、硝酸アンモニウム2g、リン酸水素2カリウム1g、リン酸水素1ナトリウム1.3g、硫酸マグネシウム・7水和物0.2g、塩化カルシウム0.1g(いずれも1リットル当たり)の組成からなる培地(pH7.0)60mlを500ml坂口スラスコに入れ(3本)、高圧蒸気滅菌後、同培地で予め培養したセルロモナス・セルランスNBRC15516の培養液1.2mlを植菌し、30℃、130rpmで48時間、振盪培養した。得られた培養液を集め、遠心分離により菌体を集め、0.05Mリン酸緩衝液(pH7)に懸濁した(50ml)。この菌体懸濁液を超音波破砕し、遠心分離により菌体残渣を除き、30ml無細胞抽出液を得た。本無細胞抽出液をセントリプラス YM−10(ミリポア社製)を用いて濃縮し、4mlの濃縮液(粗酵素液)を得た。
(実施例4)セルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株からの、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する酸化酵素の精製
酵母エキス10g、硫酸アンモニウム2g、リン酸水素2カリウム1g、リン酸水素1ナトリウム1g、硫酸マグネシウム・7水和物0.2g、塩化カルシウム・2水和物0.1g(いずれも1リットル当り)の組成よりなる培地(pH7.0)60mlを500ml坂口フラスコに入れ高圧蒸気滅菌後、Cellulosimicrobium cellulans NBRC15516株を1白金耳植菌し、28℃で2日間振とう培養し、前培養液を得た。次いで、5Lミニジャーに上記組成の培地3Lを入れ、高圧蒸気滅菌後、前培養液60mlを植菌し、28℃、通気0.5vvm、攪拌400rpmで27時間培養を行った。同様の培養を繰返して得た合計45Lの培養液のpHを7に調整し、遠心分離により、菌体と45Lの培養液上清を得た。菌体と培養液上清に、グリオキサールおよびグリコールアルデヒドに対する酸化活性が検出されたが、精製の容易さを考慮し、培養液上清から目的の酸化酵素を精製することとした。
得られた培養液上清を攪拌型ウルトラホルダーUHP150(アドバンテック東洋社製)を用いて2.4Lに濃縮後、氷冷下、攪拌しながら所定量の硫酸アンモニウムを添加し、硫酸アンモニウム0〜60%飽和の範囲で沈澱する蛋白質を遠心分離により集めた。得られた蛋白質を20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)で溶解し、充分量の同緩衝液に対して透析を行った後、同緩衝液で予め平衡化したDEAE−トヨパール650Mカラム(300ml)にアプライし、塩化ナトリウム0〜0.5Mの濃度勾配により溶出し、活性画分を集めた。この活性画分に硫酸アンモニウムを終濃度1Mとなるよう添加し、予め1M硫酸アンモニウムを含む20mMリン酸カリウム緩衝液pH7で平衡化したPhenyl−トヨパール650M(60ml)にアプライし、硫酸アンモニウム1〜0.5Mの直線濃度勾配で溶出し、活性画分を集めた。得られた酵素液を20mMリン酸カリウム緩衝液pH7に透析し、次いで、予め同緩衝液で平衡化したResourceQ(アマシャムファルマシアバイオテック社製)カラム(6ml)にアプライし、塩化ナトリウム0.35Mを含む同緩衝液で洗浄後、塩化ナトリウム0.35〜0.5Mの直線濃度勾配で溶出し、活性画分を集めた。得られた酵素液を限外濾過濃縮し、0.15M塩化ナトリウムを含む20mMリン酸カリウム緩衝液pH7で平衡化したSuperdex200HRカラム(24ml)(アマシャムファルマシアバイオテック社製)にアプライし、同緩衝液で溶出し、280nmのタンパク吸収と活性が一致する溶出ピークを得た。活性フラクションを集めることにより、電気泳動的に単一な酵素標品を得た。
(実施例5)セルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株から得た精製酵素を用いたグリコール酸の合成反応
20mMグリコールアルデヒド、0.1U(グリコールアルデヒドオキシダーゼ活性)/mlの実施例4で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株由来の酸化酵素、10000U/mlカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMTris−HCl(pH8.0)0.5mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例2と同様な方法でHPLC分析を行った。その結果、18mMグリコール酸が生成していた。
(実施例6)セルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株粗酵素液を用いたグリコール酸の合成反応
20mMグリコールアルデヒド、0.1U(グリコールアルデヒドオキシダーゼ活性)/mlの実施例3で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株由来の酸化酵素の粗酵素液、10000U/ml カタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMTris−HCl(pH8.0)0.5mlを試験管中、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例2と同様な方法でHPLC分析を行った。その結果、17mMグリコール酸が生成していた。
(実施例7)エチレングリコールからのグリコール酸の合成反応
1Mエチレングリコール、0.6U(エチレングリコール酸化活性)/mlのピキア属酵母(Pichia pastris)由来のアルコールオキシダーゼ(シグマ社製)、0.1U(グリコールアルデヒドオキシダーゼ活性)/mlの実施例3で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株由来の酸化酵素(グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換)の粗酵素液、10000U/mlカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMTris−HCl(pH8.0)0.5mlを試験管中、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例2と同様な方法で、HPLC分析を行った。その結果、30mMのグリコール酸が生成しており、上記2種の酸化酵素によりエチレングリコールからグリコール酸が合成されることがわかった。
(実施例8)エチレングリコールからのグリコール酸の合成反応
1Mエチレングリコール、0.6U(エチレングリコール酸化活性)/mlのピキア属酵母(Pichia pastris)由来のアルコールオキシダーゼ(シグマ社製)、0〜0.5U(グリコールアルデヒドオキシダーゼ活性)/mlの実施例3で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株から得た酸化酵素の粗酵素液(グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換)、10000U/mlカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMTris−HCl(pH8.0)0.5mlを試験管中、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例2と同様な方法で、HPLC分析を行った。その結果を表3に示す。
Figure 2007228927
(実施例9)アスペルギルス・スピーシーズ(Aspergillus sp.)AIU 031(FERM P−20785)株からのエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する酸化酵素の粗酵素液の調製
コレステロール2g、硝酸アンモニウム2g、リン酸水素二カリウム2g、リン酸二水素ナトリウム1g、硫酸マグネシウム・7水和物0.2g、酵母エキス1g、Tritn X−100 1g(いずれも1L当り)の組成よりなる培地(pH6.5)を調整し、500ml容坂口フラスコに150ml分注し、高圧蒸気滅菌を行った(120℃、20分)。これら培地に予め同培地で前培養しておいたアスペルギルス・スピーシーズ (Aspergillus sp.)AIU 031の培養液を1ml植菌し、30℃で2日間振盪培養を行った。このようにして得られた培養液から遠心分離により菌体を集め、20mMリン酸緩衝液(pH7)で洗浄後、同緩衝液5mlに懸濁し、0.5mmガラスビーズを用いて細胞破砕し、遠心分離により菌体残渣を除き、約5mlの無細胞抽出液を得た。本無細胞抽出液をセントリプラス YM−10(ミリポア社製)を用いて濃縮し、0.5mlの濃縮液(粗酵素液)を得た。
(実施例10)エチレングリコールからのグリコール酸の合成反応
1Mエチレングリコール、1U(エチレングリコール酸化活性)/mlの実施例9で得たアスペルギルス・スピーシーズ(Aspergillus sp.)AIU 031の酸化酵素の粗酵素液(エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換)、0.5U(グリコールアルデヒド酸化活性)/mlの実施例3で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516由来の酸化酵素の粗酵素液(グリコールアルデヒドからグリコール酸への変換)、10000U/mlのカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMトリス−HCl酸緩衝液(pH8.0)0.2mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例2と同様な方法で、HPLC分析を行った。その結果、67mMのグリコール酸が生成していた。
(比較例1)
グルコース10g、酵母エキス2g、Nutrient broth8g(いずれも1リットル当り)の組成よりなる培地(pH7)10mlを大型試験管に入れ高圧蒸気滅菌後、カンジダ・ボイディニー(Candida boidinii)NBRC 10035、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polynorpha)NBRC 1024、ピキア・パストリス(Pichia pastris)NBRC 1013を1白金耳植菌し、28℃、40時間振盪培養し、前培養液を得た。次いで、酵母エキス10g、塩化アンモニウム2g、リン酸水素2カリウム1g、リン酸水素1カリウム1g、硫酸マグネシウム・7水和物0.5g(いずれも1リットル当り)の組成よりなる培地(pH6.5)50mlを500ml坂口フラスコに入れ高圧蒸気滅菌後、0.6g(60ml培地当り)のメタノールを添加後、上記前培養液0.5mlを添加し、28℃、130rpmで30時間振盪培養を行った。得られた、培養液(50ml)から、遠心分離により菌体を集め、0.05Mリン酸緩衝液(pH7)に懸濁した(5ml)。この菌体懸濁液の一部(2.5ml)をミニビートビーター(BIOSPEC社製)で破砕し、遠心分離により菌体残渣を除き、無細胞抽出液を得た。
次いで、以下に示す方法により、上記菌体懸濁液又は無細胞抽出液をエチレングリコールに作用させ、実施例2と同様な方法でHPLC分析を行い、生成物を調べた。
(菌体懸濁液を用いた反応)
1Mエチレングリコール、0.2mlの上記菌体懸濁液を含む300mMリン酸緩衝液(pH8)1mlを、試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応。
(無細胞抽出液を用いた反応)
1Mエチレングリコール、5000U/mlのカタラーゼおよび0.2mlの上記無細胞抽出液を含む300mMリン酸緩衝液(pH8)1mlを、試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応。
その結果を表4に示す。いずれの菌株においても、菌体懸濁液での反応では、エチレングリコールからグリコール酸が主生成物として生成したが、無細胞抽出液での反応では、グリコールアルデヒドが主生成物である。これは、これらメタノール酵母によるエチレングリコールの酸化反応においては、エチレングリコールからグリコールアルデヒドへの酸化は従来から知られているように、アルコールオキシダーゼにより進行するが、グリコールアルデヒドからグリコール酸への酸化は酸化酵素(オキシダーゼ)タイプの酵素ではなく、反応に何らかの補酵素を必要とする脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)タイプの酵素が関与していると考えられる。
Figure 2007228927

Claims (6)

  1. グリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させて、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換することを特徴とするグリコール酸の製造方法。
  2. エチレングリコールをグリコール酸へ変換するグリコール酸の製造方法であって、下記第1反応、第2反応からなる酸化反応を連続して行うことを特徴とする製造方法:
    (第1反応)エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコールアルデヒドを生成させる。
    (第2反応)第一反応で生じたグリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコール酸へ変換する。
  3. グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素が、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、セルロシミクロビウム(Cellulosimicrobium)属、モルガネラ(Morganella)属、及び、バークホルデリア(Burkholderia)属からなる群から選ばれる少なくとも1つの微生物から得られる酸化酵素である請求項1又は2記載のグリコール酸の製造方法。
  4. エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素が、アルコールオキシダーゼ、グリセロールオキシダーゼ、及び、アスペルギルス・オクラゼウス(Aspergillus ochraceus)から得られる酸化酵素からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化酵素である請求項2又は3記載のグリコール酸の製造方法。
  5. 前記アルコールオキシダーゼがピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、トルロプシス(Toluropsis)属、及び、オガタエア(Ogataea)属からなる群から選ばれる少なくとも1つの微生物から得られるアルコールオキシダーゼであり、前記グリセロールオキシダーゼがアスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物から得られるグリセロールオキシダーゼである請求項4記載のグリコール酸の製造方法。
  6. エチレングリコールを含む反応液に、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物、及び、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を添加して、同一反応容器中、第1反応及び第2反応を同時進行させて行うことからなる請求項2〜5いずれか記載のグリコール酸の製造方法。
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