JP2007224192A - 複数のチオール基を有するポリビニルアルコールの製造法 - Google Patents

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清 山内
Tadahiro Ono
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Abstract

【課題】ポリビニルアルコールを原料として使い,複数の水酸基(OH基)がチオール基(SH基)に変換されていて,かつ,水や有機溶媒に可溶な複数のチオール基を有するポリビニルアルコール(PVASHs)を製造すること。
【解決手段】ポリビニルアルコールに対して臭化水素酸などの酸溶液とチオ尿素などのチオール化剤の使用量を一定範囲の組成比で使用し,これら混合物を窒素など不活性気体の下,加熱撹拌した後,アルカリで中和,ついでチオールや硫化化合物とともに処理せしめることによってPVASHsの水性媒体溶液を効率よく製造した。PVASHsの水性媒体溶液を酸素をできるだけ排除した雰囲気にて乾燥したり凍結乾燥することによってフィルム,ゲル,粉体とすることができた。
【選択図】 なし

Description

本発明による複数のチオール基(SH基)を有するポリビニルアルコールはエマルジョン
,ゲル,フィルム,ファイバー,スポンジなどの形態として使われ,接着剤,包装材料,
医療材料,カプセル材料など各種産業の製品の製造に応用される。
複数のチオール基を有するポリビニルアルコール,-[CH2-CH(OH)]m-[CH2CH(SH)]n-,の製
造は1940年代から試みられてきた。例えば,ビニルチオアセテートの重合で得られる
ポリ(ビニルチオアセテート)を加水分解して調製する方法がある[特許文献1;特許文
献2]。しかし,これらの方法により得られる物質は加熱しても溶融しなく,強酸には可
溶とされるものの,水やアルコールやジメチル スルフォキシドなどの極性溶媒は不溶な
ために加工には適していないとされる。
また,ポリビニルアルコールを硫化処理する,たとえば臭化水素酸とチオ尿素と共に加熱
することによる含硫ポリビニルアルコールの調製報告がある[非特許文献1;非特許文献
2]。しかし,この製法による生成物も水や有機溶媒に不溶でかつ加熱しても融解しない
不融不溶性の黄色ないしは褐色の粒状個体として得られており,膜やフィルムなど他の形
態の物質にすることができない。本発明者(山内)はこれらの報告通りに追試実験を行な
ったところ,不融不溶性(高温では褐黒色化し分解した)の淡黄色高分子様物質であるこ
とを確認した。また,これら報告で記述されているように生成物は硫黄元素を多く含むと
されるが,チオール基に基づくSの含量は本明細書の[0008]項に述べているように
非常に少ないことを知った。不融不溶性の原因は製造中においてSH基が酸化されて多数
のジスルフィド結合(S−S結合)を形成し複雑に架橋したところの高分子が実質的な生
成物であると推定される[非特許文献3]。
以上のように,複数のチオール基を分子に有するポリビニルアルコールを合成しようとす
る従来の方法によって得られる物質は,引用した特許や報告でも述べられているように,
おしなべて不融不溶性である状況にある。一方,チオール基を高分子の一方の末端に1個
のみ持つポリビニルアルコールが特殊な重合法によって製造されているが[特許文献3]
,本発明で定義されるところの複数のSH基を持つ複数のチオール基を有するポリビニルア
ルコール物質ではない。
:US-2,377,753 :US-2,378,535 :特開平03-174407 :中村儀郎,工業化学雑誌,58巻, 269 (1955) :大河原信,仲川勤,井本英二,工業化学雑誌,60巻, 73 (1957) :山内 清,高分子加工,50巻, 153 (2001) :中井武,大河原信,高分子,18巻, No.202, 2 (1969) :G.L.Ellman, Arch. Biochem. Biophys., 82巻, 70 (1959) :C.A.Finch, "Polyvinyl alcohol", John Wiley & Sons (1992)
前述したように,従来の硫化法によりポリビニルアルコールから調製される含硫ポリビニ
ルアルコールの不融性と水や有機溶媒に対する不溶性は,特に合成反応が制御することな
く行われて多数のOH基がSH基に変換され,しかも,それらSH基が製造工程中に酸化
されて多数のジスルフィド結合(S−S結合)を生じる結果,高分子間で密な架橋化が起
こることが主たる原因と考えられる。もし,合成反応において生じたSH基のS−S結合
への酸化を抑えることができるならば,その物質は複数のチオール基を有するポリビニル
アルコールそのものであり水や有機溶媒に可溶性を示すことが期待される。PVASHsはフィ
ルムやファイバーなどの調製に適し,かつ,成形中または成形後に酸化処理すればジスル
フィド結合が形成されて架橋構造を成し,ポリビニルアルコールを原料とする製品に比べ
て耐水性が向上した製品が得られると期待される。
以上の観点から,本発明者は従来の含硫ポリビニルアルコール(非特許文献1,非特許文
献2)やジチオカルバメート体(非特許文献4)の製造法等の欠点・特徴を解析して鋭意
実験した結果,複数のSH基を有し,かつ,水などの溶媒に対して可溶性を示す複数のチ
オール基を有するポリビニルアルコール{(-[CH2-CH(OH)]m-[CH2CH(SH)]n-;分子中での
各モノマー分布はランダム;以下,PVASHsと表す}を調製することに成功した。すなわち
,(a工程)ポリビニルアルコールの水溶液に対して塩酸や臭化水素酸などの酸溶液とチ
オ尿素などのチオール化剤を一定範囲の組成比で使用し,これら混合物を窒素など不活性
気体の雰囲気にて加熱撹拌した後,(b工程)不活性気体の雰囲気にてアルカリを加えて
中和し又はアルカリ性とし,ついで,(c工程)不活性気体の雰囲気にてチオールや硫化
化合物とともに常温ないしは加熱状態で撹拌せしめ,最後に,(d工程)還元剤を含む水
性媒体中で透析することによって,または沈殿処理することによってPVASHsを得ることが
できた。PVASHsは還元剤を含む水にとけた溶液の状態で,または,(水に可溶性を示す)
有機溶媒(メタノール,ジメチルフォルムアミド,ジメチル スルフォキシドなど)と還
元剤を含む水溶液にとけた溶液の状態で,あるいは,酸素をできるだけ排除した雰囲気に
て乾燥するか凍結乾燥することによって得られる粉体の状態で得ることができる。
本発明の方法は,非特許文献1,非特許文献2に代表される従来の含硫ポリビニルアルコ
ールの製造法に比べて,主たる使用原料[ポリビニルアルコール,臭化水素酸,チオ尿素
またはチオカルバメートなど]は同じである。しかし,これら既知の方法ではa工程にて
窒素ガスなどの非酸化性の雰囲気では行われていなく,a工程での反応物に過剰のアルカ
リを加えてアルカリ加水分解処理する場面が窒素ガス気流下で行われているのみである。
この方法ではこれらの非特許文献1,非特許文献2に述べられているように不融不溶性の
淡黄灰色粉末が得られてしまう。 実際,これらの非特許文献の調製法を踏襲して(発明
者が)再実験して得た物質は記述された通りに不融不溶であった。この物質について一般
的な燃焼法にて全S元素分析とEllman法[非特許文献5]によるSH基分析をしたところ,そ
れぞれ約20重量%,約0.5重量%であり,互いは大きく異なっていたのでS元素のほと
んどはS-S結合を為していると思われる。なお,非特許文献4はチオール化剤としてチオ
カルバメートを使ってポリ塩化ビニル(PVC)のS-S架橋体を製造することについても述べて
いるが,この物質は本発明が目指す複数のチオール基を有するポリビニルアルコール(PV
ASHs)ではない。
発明者は多くの試行錯誤の実験の結果,PVASHsそのものを製造するために既知の全ての方
法(非特許文献1,非特許文献2など)には欠けていたところの次の配慮と工程を設置し
た。すなわち,a工程は非特許文献1,非特許文献2等の方法では窒素ガス気流下でなさ
れていなかったが,本発明ではこの工程も窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気にてなされた
;その理由は,a工程での主たる反応生成物は,チオ尿素やN−アルキルチオ尿素を使え
ば -[CH2CH(OH)]m-[CH2CH(S-Y)]n[ここでYはC(=N+R2)N R2 X-;XはCl, Brなど]で
あるが,S-Y部は加熱でも一部がチオールき(SH基)に変化してしまい,酸素などがあれ
ばS-S結合を形成してしまうのでa工程も窒素ガスなどの雰囲気でなされねばならないの
である。また,aおよびb工程での不活性ガス雰囲気での操作のみでは不充分であり,本
発明でのc工程の設置も必要である。もちろん,d工程もチオール基の酸化を防ぐべく配
慮されて本発明で設置された。
すなわち,本発明での製造においては,まず,ポリビニルアルコールを水に,好ましくは
5〜20重量%の濃度に,溶解する。ついで,ポリビニルアルコールのOH基のモル数に
対し0.05〜2モル倍,好ましくは0.5〜1モル倍の酸水溶液(後述)と0.1〜4
モル倍,好ましくは0.2〜1.5モル倍のチオール化剤を加えて窒素などの不活性ガス
を反応液上に流しながら,あるいは液中に吹き込みながら加熱還流を2〜20時間,好ま
しくは5〜15時間,行う。ここで酸水溶液とチオール化剤は同時に添加しても,また相
前後して添加してもよい。ついで,窒素ガスなど雰囲気下にて,水酸化ナトリウムなどの
アルカリを加えてほぼ中和ないしはアルカリ性にしてから,0.01〜3モル倍,好まし
くは0.5〜1モル倍のチオールや硫化化合物を添加し1〜12時間,好ましくは3〜9
時間,還流撹拌する。こうして得られる反応液(これを反応液Aと名付ける)は流動状態
にあり,複数のチオール基を有するポリビニルアルコール(PVASHs)を有している。ポリ
ビニルアルコール10gに対して47%濃度の臭化水素酸を30mLとチオ尿素を20g
添加して5時間還流撹拌した場合は全OH基の2−4%をSH基に変換することができる(
ポリビニルアルコールの重合度が2000ならば約40−80個のSH基に相当)。非特
許文献1や非特許文献2などの場合とは異なり,本発明では,本明細書の実施例1,2,
3でも示すように,高分子中のほとんどのS原子はSH基として存在している。 なお,a
工程でのポリビニルアルコールに代えて,-[CH2CH(OY)]m-[CH2CH(X)]n- (X = ClやB
r, Y = HやOC(O)R {R = CH3, C2H5, CH2CH2CH3, CH(CH3)2};モノマー分布はランダム
)を使うこともできるが,この場合はa工程として本ポリマーの中性水溶液に,あるいは
(塩酸または臭化水素酸あるいは硫酸によって溶解せしめて得たところの)酸性水溶液に
,チオール化剤を添加して2〜20時間,好ましくは5〜15時間,加熱還流すればよい
ほかは,b,cおよびd工程はポリビニルアルコールを出発原料とする場合と同様である
。もちろん,これらの工程は窒素ガスなどの雰囲気にて行われねばならない。
本発明での製造法において,ポリビニルアルコールは水溶性あるいは塩酸や臭化水素酸に
可溶のものであればいかなる重合度および加水分解率(ケンカ度)のものでも原料として
使用できる。a工程でのポリビニルアルコールに代えて,[CH2CH(OY)]m-[CH2CH(X)]n-
(X = ClやBr; Y = HやOC(O)R {R = CH3, C2H5, CH2CH2CH3, CH(CH3)2});モノマー
分布はランダム)を使う場合はm:n=100:0.3−20;m + n = 30−20000
の範囲が好ましい。この場合も加水分解率(ケン化度)は特に制限はなく使用できる。
上記[0007]項で述べられたa工程での酸としては塩酸,臭化水素酸,ヨウ化水素酸
が挙げられる。
上記[0007]項で述べられたa工程でのチオール化剤としてはチオ尿素,そのN,N'-ジ
アルキル誘導体とテトラアルキル誘導体(アルキル基:CH3, C2H5)が好適である。また
,R2NCSSNa (R = CH3, C2H5)に代表されるジアルキルジチオカルバメートナトリウムや
その水和物もチオール化剤として使うことができる。
上記[0007]項で述べられたb工程でのアルカリとしては反応液を中性又はアルカリ
性にできるものであればよく,好ましくは5から20重量%の水酸化ナトリウムや水酸化
カリウムの水溶液である。
上記[0007]項で述べられたc工程でのチオールとはSH基を有する有機化合物であ
ればよいが,好ましくは2−メルカプトエタノール,システイン,チオグリコール酸,チ
オリンゴ酸である。硫化化合物としては生成するPVASHs の酸化を防ぐ効果があるもの,
もしくはS−S基を2個のS-イオンや2個のSH基に,ないしは1個のSH基と1個のS2O
3- X+ (X = Na, K)に変換する能力のあるものであり,好適にはH2S,NaSH,KS
H,Na2S,Na2S2O4,NaHSO3,Na2SO3,Na2S2O3,Na2
S2O5,およびそれらの水和物である。また,これらを組み合わせて使用することがで
きる。
上記[00010]項で述べた操作で得られる反応液Aは流動性であり,不純物があれば
遠心分離や濾過によりおおむね除去した後,透析または沈殿処理を行いPVASHsを分離する
。透析処理は公知の手段によって行うことができる。たとえば上記で得た溶液をセロハン
のような半透膜の容器に入れ,これを外液を入れた容器内に浸せばPVASHsの溶液が得られ
る。ここで,外液としては脱酸素水(水から空気,酸素を減圧下で除いた水),または酸
化防止剤または還元剤を微量を含む水を用いることができる。ここでの酸化防止剤または
還元剤とは2−メルカプトエタノール,チオグリコール酸,システインなどのチオール類
やNaHSO3である。沈殿処理によるPVASHsの分離は上記の反応液にメタノール,エタノール
,1−プロパノール,2−プロパノール,アセトンなどの有機溶媒を加えて行われる。た
だし,これら沈殿用の有機溶媒には2−メルカプトエタノール,システイン,チオリンゴ
酸,NaSH,Na2SなどS−S基の形成を防ぐ化合物を,好適には0.01〜1%の
濃度で,含むことが望ましい。分離されたPVASHsは遠心または濾過により回収される。
本発明で生成するPVASHs における置換率(=100 x 全SH基数/(全OH基数+全SH基数)
に対する原料の使用量,反応温度と処理時間の相関は極めて複雑であり,しかもPVASHsの
どの位置にSH基が存在するかは核磁気共鳴装置などを使っても特定できないものの,元
素分析やSH基の定量分析によれば置換率は約20以下であって,また,1分子には少なく
とも2個以上のSH基がランダムに存在している。
透析によって得られたPVASHsの水溶液はそのまま次の利用に使うか,凍結乾燥や不活性気
体雰囲気でのスプレー乾燥によって粉体とした後に減圧密封もしくは窒素などの不活性ガ
スの雰囲気にて密封保存し,使用時に水または水溶性有機溶媒(メタノール,エタノール
,1−プロパノール,2−プロパノール,アセトン,メチルエチルケトン,ジメチルフォ
ルムアミド,ジメチル スルフォキシドなど)の水溶液に再溶解して利用してもよい。こ
れらの水や水溶性有機溶媒には2−メルカプトエタノール,システイン,チオリンゴ酸,
NaSH,Na2SなどのSH基の酸化を抑える化合物を,好適には0.01〜1%の濃
度で,含むことができる。
沈殿法で分離されたPVASHsも減圧,または不活性ガス存在下で乾燥して保存し,使用時に
水またはメタノール,エタノール,1−プロパノール,2−プロパノール,アセトン,メ
チルエチルケトン,ジメチルフォルムアミド,ジメチル スルフォキシドなどの水溶性有
機溶媒の水溶液に再溶解して使用することができる。これらの水や水溶性有機溶媒には2
−メルカプトエタノール,システイン,チオグリコール酸,チオリンゴ酸,NaSH,N
a2SなどS−S基の形成を防ぐ化合物を,好適には0.01〜1%の濃度で,含むこと
ができる。本溶液は,実施例1と2で例示するように,透析法で得られる溶液とほぼ同様
の化学的特徴を示す。
本発明で調製されるPVASHsの溶液は型に入れて(キャスト)空気中で乾燥するとフィルム
やシートやスポンジとなり,また溶液を空気や酸素に晒すか,過酸化水素水や過臭素酸ナ
トリウムなどの酸化剤を添加すればゲル化物が得られる。これらのフィルムやゲル体など
は水や加熱水に溶けないが,2−メルカプトエタノール,チオグリコール酸,チオリンゴ
酸,システインなどのチオール類やNaHSO3などのS-S結合を切断できる物質を加えれば完
全に溶解する。表1に典型的なPVASHsの分析値を示す。表2には実施例4に述べる方法で
調製したPVASHsのフィルムの物性を示す。可逆的な不溶化と再可溶化については表2と実
施例4と5に例示する。
本発明によるPVASHsの水溶液や粉体やゲルの主要用途はポリビニルアルコールと同様な分
野を挙げることができるが[非特許文献6],PVASHsの酸化と還元による可逆的な不溶化
ないしはゲル化と再可溶化はポリビニルアルコール製品の耐水性の低さを改善ないしは克
服するものであり,接着材料,各種ポリマーの乳化剤もしくは乳化安定剤,包装材料,衣
料材料,繊維仕上げ加工材料,医療材料などの各種分野に利用される。
Figure 2007224192
Figure 2007224192
以下,実施例を挙げて,本発明による複数のチオール基を有するポリビニルアルコール(
PVASHs)の製造法をさらに具体的に説明する。
[実施例1] ポリビニルアルコール(重合度1750,ケン化度97.5%)の9.1重
量%水溶液(110g),47%臭化水素酸(30mL),チオ尿素(20g;0.26
mole)を,窒素ガス雰囲気下にて,10時間,加熱還流した。水酸化ナトリウム水溶液で
中和後,Na2S・9H2O(12g)を加え10時間環流した。得られた溶液を室温に冷却し
,セロファン膜チューブに入れて外部液に0.2重量%の2−メルカプトエタノール水溶
液を使って2回透析し,複数のチオール基を有するPVASHsの水溶液(330g)を得た;
濃度,2.6%;収率85%。Ellman法により当該PVASHsはポリビニルアルコールのOH基
100個当たり約2.8個に相当するチオール基(SH基)を有していた(SH基として2.
1重量%)。燃焼法によるSの元素分析値は1.9(プラス・マイナス0.6)重量%で
あった。
[実施例2] ポリビニルアルコール(重合度1750,ケン化度97.5%)の9.1重
量%水溶液(110g),47重量%臭化水素酸(30mL),チオ尿素(MW76;20g
;0.26mole)を,窒素ガス雰囲気下にて,6時間,加熱還流した。水溶液で中和後,
Na2S・9H2O(12g)を加え3時間還流した。得られた溶液を室温に冷却し0.2重量
%の2ーメルカプトエタノールを含むメタノールに加えて沈殿物を分別し,同じ溶液で洗
浄した後,0.2重量%の2−メルカプトエタノール水溶液(100mL)に溶解してPV
ASHsの水溶液を得た;濃度8.7重量%;収率87%。Ellman法によりSH基の定量した
ところ,当該PVASHsはポリビニルアルコールのOH基100個当たり約3個のSH基を有して
いた(SH基として2.2重量%)。Sの元素分析値は2.1(プラス・マイナス0.6)重
量%であった。
[実施例3]
ポリビニルアルコール(重合度1750,ケン化度97.5%)の9.1重量%水溶液(1
10g),37重量%塩酸(15mL),チオ尿素(10g)を,窒素ガス雰囲気下にて
,10時間,加熱還流した。水酸化ナトリウム水溶液で中和後,Na2S・9H2O(8g)を
加え10時間環流した。得られた溶液を室温に冷却し,セロファン膜チューブに入れて外
部液に0.2重量%の2−メルカプトエタノール水溶液を使って2回透析し,PVASHsの水
溶液(160g)を得た;濃度,5.2重量%;収率83%。Ellman法により当該PVASHs
はポリビニルアルコールのOH基100個当たり約3個に相当するSH基数を有していること
を示唆した(SH基として2.3重量%に相当)。燃焼法によるSの元素分析値は2.2重
量%であった。
[実施例4] 実施例1で調製したPVASHsの水溶液(30mL)を水平なポリエチレンテ
レフタレート板上で長方形(3cm x 5cm)に広げ,25摂氏温度にて乾燥した(この間
に空気酸化される)。得られた透明無色フィルムはこのまま使うか,または80摂氏温度
にて20分熱処理した。フィルムの空気酸化前後の力学的特性は表2のようである。空気
酸化によりフィルムは水に対して不溶化したが,0.1重量%の希薄な2−メルカプトエ
タノールの水溶液に完全に溶解した。
[実施例5] 実施例1で調製したPVASHsの水溶液を平滑な2枚の木片[2cmx4cm
x0.5cm(厚さ)]の間に挟み乾燥させることで圧着乾燥せしめた。この2枚の木片
は冷水や熱水中でも剥がれなかったが,0.1−2重量%の希薄な2−メルカプトエタノ
ールの水溶液に浸せば元の2枚の木片に脱接着した。
[実施例6] 実施例1で調製したPVASHsの水溶液を口径2cmの広口シャーレに深さ0
.5cmに入れて,室温,飽和湿度付近のチャンバーに1日放置して無色透明のゲルを得
た。また,実施例1での透析において外部液として溶存酸素を含む水を使ってもセロファ
ン膜チューブ内部にゲル化物を得た。ゲル中のポリマー濃度は約2.4−2.6%であっ
た。Ellmann法によるSH基の分析値は,調製時間で変動したが,0.3−1.2重量%
であることが示された。



Claims (1)

  1. 複数のチオール基を有するポリビニルアルコールの製造法
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