JP2007223915A - ダイゼイン類に富むイソフラボン組成物の製造法 - Google Patents

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安史 金田
Teruhiro Nakamura
彰宏 中村
Setsuko Nishiyama
節子 西山
Wataru Kugimiya
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Abstract

【課題】
ダイゼイン類の比率がゲニステイン類などに比べて低い大豆ホエーなどの大豆抽出液を原料とし、ダイゼイン類に富むイソフラボン組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】
大豆抽出液を吸着剤に接触させイソフラボンを吸着せしめた後に、溶出させる含水低級アルコールの濃度を特定の範囲とすることにより、ゲニステイン類をできるだけ吸着剤に保持させつつ、ダイゼイン類を選択的に溶出させることができ、ダイゼイン類が高度に濃縮されたイソフラボン組成物を得られる知見を見出し、本発明を完成させた。
【選択図】なし

Description

本発明は、ゲニステイン類の比率がダイゼイン類よりも大きい大豆抽出液から、ダイゼイン類に富むイソフラボン組成物を製造する方法に関する。
イソフラボンは、大豆に多く含まれるフラボノイド系化合物である。大豆中のイソフラボンにはダイゼイン類、ゲニステイン類、グリシテイン類が含まれている。ダイゼイン類には、アグリコンであるダイゼインとその配糖体であるダイジン、アセチルダイジン、マロニルダイジンが存在する。グリシテイン類には、アグリコンであるグリシテインとその配糖体であるグリシチン、アセチルグリシチン、マロニルグリシチンが存在する。ゲニステイン類には、アグリコンであるゲニステインとその配糖体である、ゲニスチン、アセチルゲニスチン、マロニルゲニスチンが存在する。
中でも、ダイゼイン類は、腸内菌叢で、女性ホルモン(エストロゲン)様の作用の効果が特に高いエクオールに変換される事が知られている(非特許文献1)。この事から、ダイゼイン類は更年期障害や、骨粗しょう症の予防に特に有効であることが期待されている。
イソフラボンを濃縮したイソフラボン組成物は、種々のものが製品として市販されており、イソフラボンが比較的多く含まれる大豆胚軸を原料としたものが現在中心となっている。
一方、大豆を豆乳、豆腐、味噌、醤油、及び大豆蛋白製品類などに加工する工程において生ずる副産物として、大豆抽出液(大豆ホエー)が多く産出されており、その処理と有効利用が問題となっている。そして大豆抽出液にもイソフラボンが含まれているが、その含量が大豆胚軸に比べて微量であるため、ほとんど利用されることはなかった。
しかし、大豆胚軸以外にも、従来廃棄されるだけであった大豆抽出液から、上述の通り付加価値の高いダイゼイン類を高濃度に得ることができればメリットも大きい。
ところが、大豆抽出液は子葉由来であるため、胚軸部分に豊富に含まれるダイゼイン類の比率がゲニステイン類に比べて低いことが問題である。
従来のイソフラボンの分離技術は、イソフラボンの純度の向上を目的としたものが多く、イソフラボンからダイゼイン類を選択的に分離・濃縮することを報告した例は少ない。
例えば特許文献1は、大豆胚軸原料から陰イオン交換樹脂を用いて、イソフラボン純度60%以上の濃縮物を得ているが、ダイゼイン類とゲニステイン類を選択的に分離濃縮することまでは行われていない。
また特許文献2は、ゲニステイン類の比率がダイゼイン類よりも大きい大豆抽出液を合成吸着剤に接触させてイソフラボンを濃縮することを開示しているが、ゲニステイン類の分離・濃縮を行うことを特徴としている。
また特許文献3は、同じく大豆蛋白抽出時の大豆抽出液をUF膜によって処理した後に、樹脂精製あるいは結晶化により、イソフラボンの濃縮を行っている。樹脂精製では、溶出条件がイソフラボンを全て溶出する条件であり、ダイゼイン類を選択的に分離することが出来ていない。また、イソフラボン成分の結晶化によるイソフラボンの高純度化も行なわれているが、結晶化するのはゲニステイン類であり、ダイゼイン類を濃縮出来るものではない。
また特許文献4では、大豆抽出液からダイゼインを濃縮することが行われているが、大豆抽出液を一旦アグリコンしてからダイゼイン類の濃縮を行う必要があり、操作が煩雑である。また濃縮も高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法が使用されているため、ダイゼインに富むイソフラボンの大量製造には不向きである。
(参考文献)
特開2002-80474号公報 特開2000-262244号公報 特開平10-23878号公報 特開平10-99089号公報 荒井祐介, 上原万里子, 大島菊枝, 高田典子, 君羅満, 渡邊昌, 大豆たん白質研究, Vol.3, 79-86 (2000).
本発明は、ダイゼイン類の比率がゲニステイン類などに比べて低い大豆ホエーなどの大豆抽出液を原料とし、ダイゼイン類に富むイソフラボン組成物を得ることを目的とする。
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、大豆抽出液を吸着剤に接触させイソフラボンを吸着せしめた後に、溶出させる含水低級アルコールの濃度を特定の範囲とすることにより、ゲニステイン類をできるだけ吸着剤に保持させつつ、ダイゼイン類を選択的に溶出させることができ、ダイゼイン類が高度に濃縮されたイソフラボン組成物を得られる知見を見出し、本発明を完成させた。
すなわち上記課題を解決する本発明は、
1.イソフラボン中のダイゼイン類の比率が50重量%未満である大豆抽出液を吸着剤に接触させてイソフラボンを吸着せしめた後、炭素数が1〜3の含水低級アルコールで溶出させる方法であって、該含水低級アルコールのアルコール濃度が、以下の(A)かつ(B)の条件を満たす濃度範囲であることを特徴とするダイゼイン類に富むイソフラボン組成物の製造法;
(A)含水低級アルコールによる溶出液中の総イソフラボン含量が少なくとも乾燥重量あたり10重量%となる程度に高いアルコール濃度であること、
(B)含水低級アルコールによる溶出液に含まれるイソフラボン中のダイゼイン類の比率が少なくとも50重量%となる程度に低いアルコール濃度であること。
2.吸着剤がジビニルベンゼン系の非極性合成吸着剤であり、低級アルコールがエタノールであって、溶出時の含水エタノールのエタノール濃度が5〜40容量%である前記1.記載のダイゼイン類に富むイソフラボン組成物の製造法。
を提供するものである。
本発明により、ダイゼイン類の比率がゲニステイン類などに比べて低い大豆抽出液、特に大豆製品の副産物である大豆ホエーなどから、栄養生理機能的に付加価値の高いダイゼイン類に富むイソフラボン組成物を簡便な方法で効率的に得ることが可能となった。
まず、イソフラボン中のダイゼイン類の比率が50重量%未満である大豆抽出液を吸着剤に接触させて、イソフラボンを吸着させる。
吸着方法はバッチ法、カラム法のいずれも採用可能であり、通常行われている条件を用いることができる。カラム法を選択する場合、吸着速度、通過処理量については、液の粘度、固形分濃度、及び破過曲線などから適宜決定することが出来る。
イソフラボン中のダイゼイン類の比率が50重量%未満である大豆抽出液としては、丸大豆、脱皮大豆、脱皮脱胚軸大豆などの子葉部分が多く含まれる大豆原料から水やアルコールなどの水性溶媒で抽出した液が利用できる。この大豆抽出液には大豆浸漬水、大豆ホエー、豆腐製造時に副生する「ゆ」等も含まれる。大豆浸漬水は、豆乳、豆腐、味噌、醤油、煮豆などを製造する際に大豆を水浸漬し、廃液として処分される浸漬水などが挙げられる。大豆ホエーは大豆モラセスとも呼ばれており、濃縮大豆蛋白を製造する際に酸やアルコールで脱脂大豆を洗浄したときの洗浄液や、分離大豆蛋白を製造する際に脱脂豆乳から大豆蛋白質を酸で沈殿させた際の上清などが挙げられる。なお、大豆胚軸のみからの抽出液はもともとイソフラボン中のダイゼイン類の比率が50重量%以上あるので本発明の大豆抽出液には含まれない。
大豆抽出液の中でも大豆浸漬水を用いることは、不純物である蛋白質含量が少なく、イソフラボン濃度が比較的高いため好ましい。大豆を浸漬する際の水の温度は70℃以上であることがより好ましい。
この大豆抽出液におけるイソフラボン中のダイゼイン類の比率は、一般的に50重量%未満であり、より具体的には30重量%以上50重量%未満である。大豆抽出液は吸着剤に接触させる前に、予め溶剤接触などによる脱脂及び等電点沈殿などによる除蛋白質を行うことが、吸着操作上好ましい。更に、イソフラボンの吸着剤への吸着が物理的な吸着によるものであるから、大豆抽出液を予め濃縮しておくことにより吸着容量が増加し、効率的な調製になることが期待できる。
本発明に使用される吸着剤としては、合成吸着剤、活性炭などを使用することができる。合成吸着剤はいずれの種類でも利用可能であるが、疎水性の表面を有するジビニルベンゼン系の非極性合成吸着剤が好ましい。ジビニルベンゼン系重合体としては、例えばスチレン・ジビニルベンゼン重合体や、アクリル・ジビニルベンゼン重合体、フェノール・ジビニルベンゼン重合体などがある。具体例としては「ダイヤイオンHP樹脂」(三菱化学社製)、「アンバーライトXAD樹脂」(ロームアンドハース社製)、「デュオライトS樹脂」(ダイヤモンドシャムロック社製)などが挙げられる。合成吸着剤は、イオン交換基などの官能基で修飾したタイプのものも用いる事が出来る。
次に、イソフラボンを吸着させた吸着剤を水で洗浄し、未吸着成分を除く。水量は適宜選択出来るが、吸着剤の1〜3倍量が一般的である。
次に、吸着剤に炭素数が1〜3の含水低級アルコールを接触させ、イソフラボンを溶出させる。低級アルコールの具体例としてメタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。食品用途であることを考慮し、エタノールが好ましい。
上記低級含水アルコールのアルコール濃度は、該含水アルコールにより吸着剤から溶出される溶出液に含まれるイソフラボン中のダイゼイン類の比率が少なくとも50重量%となる程度に低いアルコール濃度であることが重要である。
これにより溶出液におけるイソフラボン中ダイゼイン類比率を高めることができる。具体的なアルコール濃度は吸着剤の種類やアルコールの種類によっても変動するが、当業者であれば簡易な試験を行うにより使用する吸着剤とアルコールの種類に適した数値範囲を容易に設定することができる。特にエタノールを用いる場合、40容量%以下が好適であり、25容量%以下がさらに好適である。
ただし、含水アルコールのアルコール濃度が低すぎると、溶出液中の総イソフラボン含量や収率が低下してしまうため好ましくない。
すなわち、上記低級含水アルコールのアルコール濃度は、該含水アルコールにより吸着剤から溶出される溶出液中の総イソフラボン含量が少なくとも乾燥重量あたり10重量%となる程度に高い濃度であることも重要である。
具体的な数値は吸着剤の種類やアルコールの種類によっても変動するが、上記に述べたとおり吸着剤とアルコールに適した数値範囲は当業者であれば容易に設定することができる。特にエタノールを用いる場合、5容量%以上が好適であり、15容量%以上がさらに好適である。
以上の条件を満たすアルコール濃度を有する含水アルコールで吸着剤からイソフラボンを溶出することにより、総イソフラボン含量が乾燥重量あたり10重量%以上であって、かつイソフラボン中のダイゼイン類の比率が50重量%以上である、ダイゼイン類に富むイソフラボン組成物を得ることが可能となる。
含水アルコールの好ましいアルコール濃度の設定により、総イソフラボン含量はさらに15重量%以上、より好ましくは20重量%以上とする事が出来、またイソフラボン中のダイゼイン類の比率は60重量%以上、より好ましくは65重量%以上とする事が出来る。
本発明のイソフラボン類の分析はHPLC法により以下の通り行う。
イソフラボンとして1〜10mgに対応する試料を正確に秤量し、これに70%(v/v)エタノールを25mL加える。30分間室温で撹拌抽出した後、遠心 分離して抽出液を得る。残渣は同様の抽出操作を更に2回行う。計3回分の抽出液を70%(v/v)エタノールで100mLに定容し、 0.45μmPVDFフィルターにて濾過したものを試験溶液とする。
HPLCのカラムにはYMC pack ODS-AM-303(ワイエムシイ社製、φ4.6mm×250mm)を使用する。0.1%酢酸含有リニアグラジエント(15%から35%へのアセトニトリル勾配:50分間)をかけて、流速1ml/min、検出254nm、カラム温度35℃、試料濃度0.05mg/ml、注入量10μlの条件下で行う。
市販の12種類の標準物質(ダイジン、ゲニスチン、グリシチン、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン、マロニルダイジン、マロニルゲニスチン、マロニルグリシチン、アセチルダイジン、アセチルゲニスチン、アセチルグリシチン)(和光純薬工業(株))を用い、ほぼ同じリテンションタイムを有するイソフラボンのピークを同定する。ダイジンの標準品を用いて検量線を作成し、12種類のイソフラボン濃度(ダイジン換算値)を算出し、下記のモル吸光係数を乗じることにより各種イソフラボン濃度を換算する。そして、各種イソフラボン濃度を総和して総イソフラボン含量を求める。

(各種イソフラボンのモル吸光係数)
ダイジン(1.000)、ゲニスチン(0.814)、グリシチン(1.090)、マロニルダイジン(1.444)、マロニルゲニスチン(1.095)、マ ロニルグリシチン(1.351)、アセチルダイジン(1.094)、アセチルゲニスチン(1.064)、アセチルグリシチン(1.197)、ダイゼイン(0.583)、ゲニステイン(0.528)、グリシテイン(0.740)
以下に本発明の実施例を記載するが、あくまで実施の一態様であり、これらにより本発明の請求範囲が限定されることはない。
■実施例1
半割れ脱皮脱胚軸大豆を熱水抽出し、大豆抽出液を得た。pH4.5とし、蛋白質を凝集させ、遠心分離により不溶物を除去した。その後、30Brixまで濃縮し、再度凝集物の除去を行った。このときの大豆抽出液中の総イソフラボン含量は乾燥重量あたり0.7重量%であり、そのうちダイゼイン類(ダイゼイン、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジンの総和)の40.5重量%を占めるに過ぎなかった。
次に、スチレンジビニルベンゼン非極性合成吸着剤HP-20(三菱化学(株)製)55mlをカラムに充填し、上記の大豆抽出液をSV=1で305ml通液し、イソフラボンを吸着させた。
その後、カラムを3倍量の水で洗浄し、10容量%の含水エタノール溶液550mlをカラムに通液し、イソフラボンを溶出させた。
溶出液中の溶媒除去後、乾燥し、0.8gのイソフラボン濃縮物が得られた。この総イソフラボン含量は、乾燥重量当たり12%であり、イソフラボン中のダイゼイン類の比率は79%であった。
■実施例2
溶出時の含水エタノール溶液のエタノール濃度を20容量%に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、1.2gのイソフラボン濃縮物が得られた。この総イソフラボン含量は、乾燥重量当たり25%であり、イソフラボン中のダイゼイン類の比率は72%であった。
■実施例3
溶出時の含水エタノール溶液のエタノール濃度を30容量%に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、1.7gのイソフラボン濃縮物が得られた。この総イソフラボン含量は、乾燥重量あたり22%であり、イソフラボン中のダイゼイン類の比率は54%であった。
■比較例1
溶出時の含水エタノール溶液のエタノール濃度を50容量%に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行い、2.6gのイソフラボン濃縮物が得られた。この総イソフラボン含量は、乾燥重量あたり17%であり、イソフラボン中のダイゼイン類の比率は44%であった。
■比較例2
溶出時の含水エタノール溶液のエタノール濃度を2容量%に変更する以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、イソフラボンの溶出はほとんど見られなかった。エタノール2容量%では、イソフラボンの回収は実用的に困難であると考えられた。
以上、実施例1−3と比較例1,2の結果を表1にまとめた。ダイゼイン類の比率が低い大豆抽出液を原料とした場合でも、含水エタノール濃度が10〜30容量%にて溶出することにより、総イソフラボン含量が乾燥重量あたり10%以上で、かつイソフラボン中のダイゼイン類の比率が50%以上である、ダイゼイン類に富むイソフラボン濃縮物を得ることができた。
含水エタノール濃度が50容量%では(比較例1)、総イソフラボン含量が乾燥重量あたり10%以上であるものの、イソフラボン中のダイゼイン類の比率は50%を下回り、ダイゼイン類に富むイソフラボン濃縮物は得られなかった。
Figure 2007223915

Claims (2)

  1. イソフラボン中のダイゼイン類の比率が50重量%未満である大豆抽出液を吸着剤に接触させてイソフラボンを吸着せしめた後、炭素数が1〜3の含水低級アルコールで溶出させる方法であって、該含水低級アルコールのアルコール濃度が、以下の(A)かつ(B)の条件を満たす濃度範囲であることを特徴とするダイゼイン類に富むイソフラボン組成物の製造法;
    (A)含水低級アルコールによる溶出液中の総イソフラボン含量が少なくとも乾燥重量あたり10重量%となる程度に高いアルコール濃度であること、
    (B)含水低級アルコールによる溶出液に含まれるイソフラボン中のダイゼイン類の比率が少なくとも50重量%となる程度に低いアルコール濃度であること。
  2. 吸着剤がジビニルベンゼン系の非極性合成吸着剤であり、低級アルコールがエタノールであって、溶出時の含水エタノールのエタノール濃度が5〜40容量%である請求項1記載のダイゼイン類に富むイソフラボン組成物の製造法。
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