JP2007214484A - 磁気記憶装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】外部磁界による誤書込み等を低減させる。
【解決手段】任意の方向に延在する配線5に対して、その一部に磁気抵抗効果素子4を隣接配置し、更に、配線5の一部以外の要因で生じる外部磁界から磁気抵抗効果素子4を保護する外部磁界保護構造20を備えるようにする。
【選択図】図10
【解決手段】任意の方向に延在する配線5に対して、その一部に磁気抵抗効果素子4を隣接配置し、更に、配線5の一部以外の要因で生じる外部磁界から磁気抵抗効果素子4を保護する外部磁界保護構造20を備えるようにする。
【選択図】図10
Description
本発明は、磁気抵抗効果素子に情報を記憶する磁気記憶装置に関するものである。
近年、コンピュータや通信機器等の情報処理装置に用いられる記憶デバイスとして、MRAM(Magnetic Random Access Memory)が注目されている。MRAMは、磁気によってデータを記憶することから、電気的な手段を用いなくてもその磁化方向が維持することができるので、揮発性メモリであるDRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static RAM)のように電源断によって情報が失われるといった不都合を回避できる。また、従来のフラッシュEEPROMやハードディスク装置のような不揮発性記憶手段と比較して、MRAMはアクセス速度、信頼性、消費電力等において優れている。従って、MRAMは、DRAMやSRAMなどの揮発性メモリとしての機能と、フラッシュEEPROMやハードディスク装置などの不揮発性記憶手段の機能のすべてを代替できると言われている(特許文献1)。
例えば、どこにいても情報処理を可能とするいわゆるユビキタスコンピューティングを目指した情報機器を開発する場合、高速処理に対応可能としながらも消費電力を小さくし、そして、電源断が生じても情報消失を回避できるような記憶装置が求められるが、MRAMはこのような要求を同時に満足できる可能性があり、今後、多くの情報機器に採用されることが期待されている。
特に、日常持ち歩くカードや携帯情報端末等については、十分な電源を確保できない場合が多い。従って、厳しい利用環境において大量の情報処理を実行するには、低消費電力とされるMRAMであっても、情報処理中の電力消費を一層低減させることが求められている。
MRAMにおける低消費電力化を進展される技術の一例として、例えば特許文献2又は特許文献3に記載された磁気記憶装置がある。これらの磁気記憶装置は、各記憶領域(メモリセル)毎に、ビット線と、ビット線と直行するように配置されたワード線と、このビット線とワード線の間であって、且つ交差する位置に配置されたトンネル磁気抵抗効果(TMR:Tunneling Magneto−Resistive)素子等を備える。更にこれらの磁気記憶装置では、ビット線又はワード線におけるTMR素子近傍に、これら配線の周りを取り囲むヨーク(磁界制御層)が配置されている。ヨークは高透磁率の強磁性体によって構成されており、ビット線又はワード線から生じる磁束の漏れを低減させ、TMR素子に磁束を集中させる役割を果たす。この結果、TMR素子の磁化状態の反転に必要な磁界が、低消費電力でも得ることが出来る。また、磁束をTMR素子に集中させることができる。
なお、TMR素子とは、外部磁界によって磁化方向が変化する第1磁性層(感磁層)と、磁化方向が固定された第2磁性層と、第1磁性層と第2磁性層との間に挟まれた非磁性絶縁層とを備え、第1磁性層の磁化方向が第2磁性層の磁化方向に対して平行または反平行に制御されることにより二値データを記憶する素子である。
特許第3466470号公報
特開2000−90658号公報
特開2004−128430号公報
磁気記憶装置において、書き込み電流を低減するには、TMR素子の第1磁性層(感磁層)の保磁力を可能な限り小さくすることが好ましい。一方、第1磁性層の保磁力を下げてしまうと、外部からの磁界や、隣接する配線等からの磁界によって第1磁性層の磁化状態が誤って反転してしまうという、いわゆる誤書込みが発生してしまう可能性が高くなる。
この誤書込みを回避するために、パッケージとしての磁気記憶装置全体を磁気シールドなどで覆い、外部磁界を遮蔽することが考えられる。しかしながら、この種の磁気シールドを用いた場合、パッケージ外からの磁界を遮蔽できるものの、パッケージ内の隣接配線等による磁界を相互に遮蔽することが困難であった。即ち、集積された複数のTMR素子間の書込み磁界の影響を個別に遮断することが出来ないという問題があった。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、TMR素子毎に外部磁界の影響を抑制できる磁気記憶装置を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、本発明による磁気記憶装置は、任意の方向に延在する配線と、前記配線の一部に隣接配置された磁気抵抗効果素子と、前記配線の一部以外の要因で生じる外部磁界から前記磁気抵抗効果素子を保護する外部磁界保護構造と、を含むことを特徴とするものである。
又上記発明の磁気記憶装置では、前記磁気抵抗効果素子の保磁力をHc、前記外部磁界をHext、正規化外部磁界を|Hext/Hc|と定義した場合、前記正規化外部磁界|Hext/Hc|が略1となる前記外部磁界Hextが作用した際に、前記磁気抵抗効果素子の磁化状態が反転不能に設定されていることが好ましい。
更に上記発明では、前記磁気抵抗効果素子の保磁力をHc、前記外部磁界をHext、正規化外部磁界を|Hext/Hc|、前記外部磁界が作用しない場合に前記配線に要求される前記磁気抵抗効果素子の書き込み電流をIsw[H0]、前記外部磁界を受けた状態で前記配線に要求される磁気抵抗効果素子の書き込み電流をIsw[Hext]、正規化書き込み電流を|Isw[Hext]/Isw[H0]|と定義した場合、前記正規化外部磁界|Hext/Hc|増加時の前記正規化書き込み電流|Isw[Hext]/Isw[H0]|の変化率が−1より大きく且つ零より小さく設定されることが好ましい。
又上記発明では、前記外部磁界保護構造として略環状の強磁性ヨーク構造体を備えており、前記強磁性ヨーク構造体の一部に前記磁気抵抗効果素子が近接配置されていることが好ましい。
更に又上記発明では、強磁性ヨーク構造体が、前記配線の一部の外周を囲むように配設されていることが好ましく、又前記強磁性ヨーク構造体の周方向の一部に空隙が形成されており、前記空隙に前記磁気抵抗効果素子が収容されていることも望ましい。
又更に、更に前記磁気抵抗効果素子の素子平面を基準とした前記強磁性ヨーク構造体の最大高さが、前記磁気抵抗効果素子の素子平面方向最大外寸と比較して小さく設定されているようにする。特に、前記磁気抵抗効果素子の素子平面を基準とした前記強磁性ヨーク構造体の高さが400nm以下に設定されていることが好ましい。
上記目的を達成する本発明による磁気記憶装置は、任意方向に延在する配線と、該配線の一部に隣接配置される磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に近接配置される素子側ヨークと、前記磁気抵抗効果素子の素子平面に対して所定の間隔を設けて配置される反素子側ヨークと、前記反素子側ヨークと前記素子側ヨークを連結し、前記反素子側ヨークに生じる内部磁界と反対方向の内部磁界を前記素子側ヨークに生じさせるヨーク接合部と、を備えることを特徴とするものである。
上記発明では、更に前記磁気抵抗効果素子の素子平面を基準とした前記反素子側ヨークの最大高さが、前記磁気抵抗効果素子の素子平面方向最大外寸と比較して小さく設定されていることが好ましい。更に上記発明では、前記反素子側ヨークの厚みが、前記素子側ヨークと比較して大きく設定されていることが好ましい。
又上記発明では、前記反素子側ヨークにおける前記ヨーク接合部近傍が、前記素子側ヨーク側に傾倒されていることが好ましい。
又上記目的を達成する本発明の磁気記憶装置は、任意の方向に延在する配線と、前記配線の一部に隣接配置される磁気抵抗効果素子と、を備え、前記磁気抵抗効果素子の保磁力をHc、前記配線の一部以外の要因で生じる外部磁界をHext、正規化外部磁界を|Hext/Hc|、前記外部磁界が作用しない場合に前記配線に要求される前記磁気抵抗効果素子の書き込み電流をIsw[H0]、前記外部磁界を受けた状態で前記配線に要求される磁気抵抗効果素子の書き込み電流をIsw[Hext]、正規化書き込み電流を|Isw[Hext]/Isw[H0]|と定義した場合、前記正規化外部磁界|Hext/Hc|増加時の前記正規化書き込み電流|Isw[Hext]/Isw[H0]|の変化率が−0.5より大きく且つ零より小さく設定されることを特徴とするものである。
上記発明において、好ましくは、前記磁気抵抗効果素子の素子平面に対して所定の間隔を設けて配置される反素子側ヨークを更に備え、前記反素子側ヨークの厚みが50nm以上に設定されるようにする。
本発明によれば、外部磁界による誤書き込み等の影響を低減させる事ができるという効果を奏し得る。
以下、添付図面を参照しながら本発明による磁気記憶装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気記憶装置1の全体構成を示す概念図である。磁気記憶装置1は、記憶部2、ビット選択回路11、ワード選択回路12、ビット配線13、14、並びにワード配線15、16を備える。記憶部2には、複数の記憶領域3がm行n列(m、nは2以上の整数)の二次元状(アレイ状)に配列されている。図2に拡大して示されるように、各記憶領域3は、TMR素子4、読み書き兼用配線5、読み書き兼用トランジスタ6、読み出し配線7、強磁性ヨーク構造体20等を有する。なお、読み書き兼用配線5は、ビット配線13から引き込まれるように配設されていることから、記憶領域3毎に、読み書き兼用配線5、強磁性ヨーク構造体20などが独立して配設されるようになっている。
TMR(磁気抵抗効果)素子4は、磁化方向を変化させると、それに基づいて自身の抵抗値が変化する機能を有する。この抵抗値の変化状態によって、TMR素子4に二値データが書き込まれる。このTMR素子4の磁化方向を変化させる外部磁界は、読み書き兼用配線5によって発生させる。
読み書き兼用配線5の一端は、読み書き兼用トランジスタ6を介してビット配線13に電気的に接続されている。読み書き兼用配線5の他端は、ビット配線14に電気的に接続される。読み書き兼用トランジスタ6は、読み書き兼用配線5における書き込み電流及び読み出し電流の導通を制御するためのスイッチ手段であり、ドレイン及びソースの一方に読み書き兼用配線5が接続され、他方にビット配線13が接続される。更に、ゲートにはワード配線15が接続される。これにより、読み書き兼用配線5には、読み書き兼用トランジスタ6によって電流が流され、その電流によって周囲に磁界を生じさせる。
読み出し配線7は、一方がTMR素子4に接続されると共に、他方がワード配線16に接続され、両端間にはダイオードが配置されている。TMR素子4において、このワード配線16が接続される側と反対側の面には、読み書き兼用配線5に接続されるので、TMR素子4に読み出し電流を供給できるようになる。なお、読み出し配線7のダイオードの存在により、ワード配線16からTMR素子4側に流れる回り込み電流を防止することができる。
ビット配線13、14は、アレイ状に配置される複数の記憶領域3の列毎に配設されている。ビット配線13は、対応列に属する全記憶領域3の読み書き兼用トランジスタ6に接続され、この読み書き兼用トランジスタ6を介して読み書き兼用配線5の一端に接続される。また、ビット配線14は、対応列に属する全記憶領域3の読み書き兼用配線5の他端に接続される。ビット配線13とビット配線14間に電位差を付与しつつ、読み書き兼用トランジスタ6によって導通を許可すれば、読み書き兼用配線5に電流が流れるようになる。
ワード配線15、16は、記憶領域3の各行に配設される。ワード配線15は、対応行に属する全記憶領域3において、読み書き兼用トランジスタ6のゲートに接続されている。また、ワード配線16は、対応行に属する全記憶領域3において、読み出し配線7を介してTMR素子4に接続される。
図1に戻って、ビット選択回路11は、各記憶領域3の読み書き兼用配線5に正または負の書き込み電流を提供する機能を備える。具体的にビット選択回路11は、内部または外部から指示されたアドレスに応じて、アレイ状に配置される記憶領域3から所定列を選択するアドレスデコーダ回路と、この選択した所定列に対応するビット配線13、14間に正または負の電位差を付与して、この所定列のビット配線13、14間に設置される読み書き兼用配線5に書き込み電流を供給するカレントドライブ回路を含んでいる。
ワード選択回路12は、内部または外部から指示されたアドレスに応じて、アレイ状に配置される記憶領域3から所定行を選択するアドレスデコーダ回路と、この所定行に対応するワード配線15、16に所定の電圧を供給するカレントドライブ回路を含んでいる。従って、ワード選択回路12を用いて、所定行に相当するワード配線15に制御電圧を印加すれば、読み書き兼用トランジスタ6を導通状態にすることができる。この導通制御により、上記ビット選択回路11によって選択されたアドレスの読み書き兼用配線5に対して、書込み電流を流すか流さないかを選択できるようになる。更にワード選択回路12は、ワード配線16に所定の電圧を印加する事で、読み出し電流の制御も可能となっている。具体的には、ビット選択回路11において、内部または外部から指示されたアドレスに対応する列をアドレスデコーダ回路によって選択し、そのビット配線13に所定電圧を印加する。これと同時に、ワード選択回路12では、アドレスデコーダ回路によってアドレスに対応する行を選択して、その行に対応するワード配線16に所定電圧を印加する事で、このビット配線13とワード配線16との間に読み出し電流を供給する。この際に、選択された所定行のワード配線15にも電圧を印加して、読み書き兼用トランジスタ6に基づいて読み出し電流を流すように制御する。
次に、この磁気記憶装置1における記憶領域3の具体的構造について詳細に説明する。図3は、記憶領域3の配線状態等を立体的に示した斜視図である。記憶領域3は、大きくは下側から半導体層、配線層、磁性材料層を備えている。半導体層は特に図示しない半導体基板を含み、記憶領域3全体の機械的強度を維持しながら、読み書き兼用トランジスタ6等の半導体デバイスが形成される。最上位の磁性材料層には、TMR素子4、TMR素子4に磁界を効率的に与えるための強磁性ヨーク構造体20といった磁性素材による構成物が形成される。中間に位置する配線層は、ビット配線13及び14並びにワード配線15及び16、読み書き兼用配線5の一部、読み出し配線7等が形成される。
半導体層における読み書き兼用トランジスタ6は、絶縁領域に取り囲まれるように形成されており、隣接する複数の読み書き兼用トランジスタ6が互いに電気的に分離されている。絶縁領域には例えばSiO2といった絶縁性材料が用いられ、又、半導体基板は例えばSi基板から構成され、そこにp型またはn型の不純物がドープされることになる。
図4に拡大して示されるように、読み書き兼用トランジスタ6は、半導体基板30の反対導電型となるドレイン領域6A、ソース領域6B、ゲート電極6C等によって構成されている。従って、ドレイン領域6Aとソース領域6Bの間には半導体基板30が介在しており、その半導体基板30上に所定の間隔を空けてゲート電極6Cが配置されている。このゲート電極6Cはワード配線15によって構成されており、この構成により、ワード配線15に電圧が印加されると、読み書き兼用トランジスタ6のドレイン領域6A及びソース領域6Cが互いに導通して、ビット配線13から供給される電流が読み書き兼用配線5に流れるようになっている。
図3に戻って、配線層におけるビット配線13及び14、ワード配線15及び16等の各配線以外の領域は、すべて絶縁領域によって占められる。この絶縁領域の材料としては、半導体層の絶縁領域と同様にSiO2といった絶縁性材料を用いる。また、配線の材料としては例えばWやAlを用いることができる。
TMR素子4に隣接する読み書き兼用配線5は、記憶領域3のアレイ面(平面)方向に延在しながらも、この平面内でL字上に屈曲した形状となっている。更に、読み書き兼用配線5の一端は平面に対して垂直方向に屈曲して垂直配線となり、その下方側においてビット配線14に接続される。読み書き兼用配線5の他端は、同様に平面に対して垂直方向に屈曲して垂直配線となり、その下端において読み書き兼用トランジスタ6のドレイン領域6Aとオーミック接合される。
また、ビット配線13には、各記憶領域3の引き込み線13Aが平面方向に分岐形成されており、その先方で垂直方向に屈曲して、読み書き兼用トランジスタ6のソース領域6Bにオーミック接合される。読み出し配線7も平面方向に延在しており、その一端はTMR素子4に電気的に接続され、他端は垂直方向に屈曲して下方側においてワード配線16に接続される。
行方向に延びるワード配線15は、その一部がゲート電極6Cを兼ねている。このことは、ワード配線15が読み書き兼用トランジスタ6のゲート電極6Cに電気的に接続されることと同義である。
次に、図5等を用いて磁性材料層について説明する。磁性材料層は、TMR素子4と、強磁性ヨーク構造体20と、読み書き兼用配線5の一部と、読み出し配線7の一部等を有する。なお、磁性材料層においては、以下に説明する構成や他の配線以外の領域は、絶縁領域24によって占められている。
図6に拡大して示されるように、TMR素子4は、外部磁界によって磁化方向が変化する第1磁性層(フリー層/感磁層)4Aと、磁化方向が固定された第2磁性層(ピンド層)4Bと、第1磁性層4A及び第2磁性層4Bに挟まれた非磁性絶縁層(絶縁体層)4Cと、第2磁性層4Bの磁化方向を固定(ピン止め)する反強磁性層4Dとを備える。このTMR素子4は、外部磁界を受けて第1磁性層4Aの磁化方向が変化すると、第1磁性層4Aと第2磁性層4Bとの間の抵抗値が変化するようになっている。この抵抗値の差によって、二値データを記録することができる。なお、第1磁性層41の材料としては、例えばCo、CoFe、NiFe、NiFeCo、CoPtなどの強磁性材料を用いることができる。
第2磁性層4Bは、反強磁性層4Dによって磁化方向が固定されている。すなわち、反強磁性層4Dと第2磁性層4Bとの接合面における交換結合によって、第2磁性層4Bの磁化方向が一方向に配向された状態で安定化されている。第2磁性層4Bの磁化容易軸方向は、第1磁性層4Aの磁化容易軸方向に沿うように設定される。第2磁性層4Bの材料としては、例えばCo、CoFe、NiFe、NiFeCo、CoPtなどの強磁性材料を用いることができる。また、反強磁性層4Dの材料としては、IrMn、PtMn、FeMn、PtPdMn、NiO、またはこれらを任意に組み合わせた材料を用いることができる。
非磁性絶縁層4Cは、非磁性且つ絶縁性の材料からなる層であり、第1磁性層4Aと第2磁性層4Bとの間に介在して、トンネル磁気抵抗効果(TMR)が生じるようにしている。詳細には、第1磁性層4Aと第2磁性層4Bの磁化方向との相対関係(即ち、平行または反平行)によって、電気抵抗値が異なる特性を有している。非磁性絶縁層4Cの材料としては、例えばAl、Zn、Mgといった金属の酸化物または窒化物が好適である。
なお、特に図示しないが、第2磁性層4Bの磁化方向を安定化させることを目的として、第2磁性層4Bを、第2磁性層/非磁性金属層/第3磁性層の3層構造に変えても良い。ここで、第3磁性層が反強磁性層4Dと接する事とする。非磁性金属層の厚さを適切に設定すると、第3磁性層が第2磁性層との間の交換相互作用で、第3磁性層と第2磁性層との磁化方向が反平行な状態に保たれ、第2磁性層の磁化方向を安定化させることができる。このような第3磁性層の材料としては特に制限はないが、例えばCo、CoFe、NiFe、NiFeCo、CoPtなどの強磁性材料を単独で、或いは複合させて用いることが好ましい。また、第2磁性層と第3磁性層との間に設けられる非磁性金属層の材料としては、Ru、Rh、Ir、Cu、Agなどが好適である。
TMR素子4の反強磁性層4Dは、金属層19を介して読み書き兼用配線5と電気的に接続されている。TMR素子4の第1磁性層4Aは読み出し配線7に電気的に接続される。この構成により、読み出し電流を、読み書き兼用配線5からTMR素子4を介して読み出し配線7へ流すことが可能となり、TMR素子4の抵抗値の変化を検出する事が出来るようになる。なお、強磁性ヨーク構造体20は、読み書き兼用配線5におけるTMR素子4との隣接領域5A(図3参照)を取り囲むように配置されている。なお、TMR素子4の第1磁性層4Aの磁化容易軸は、読み書き兼用配線5の長手方向と交差する方向(すなわち、書き込み電流の方向と交差する方向)に沿うよう設定される。
図5に戻って、強磁性ヨーク構造体20はTMR素子4の外部磁界保護構造として機能するものであり、延在する読み書き兼用配線5におけるTMR素子4側に近接配置される素子側ヨーク20Aと、読み書き兼用配線5におけるTMR素子4の反対側に近接配置される反素子側ヨーク20Bを備える。又、素子側ヨーク20Aの両端と反素子側ヨーク20Bの両端には、両者を連結して略環状とする一対のヨーク接合部20C、20Cが構成されている。従って、TMR素子4を基準に考えると、素子側ヨーク20AはTMR素子4に近接しており、反素子側ヨーク20BはTMR素子4から離れている。又、この強磁性ヨーク構造体20自体は読み書き兼用配線5の外周を覆っていることになる。反素子側ヨーク20Bは、読み書き兼用配線5の上方に位置するトップ領域20Tと、このトップ領域20Tの両端側、即ちヨーク接合部20C、20Cの近傍に位置するする傾斜領域20S、20Sとを備えて構成される。
素子側ヨーク20Aは、環状方向の中間に空隙20Eが形成されており、その空隙20EにTMR素子4が介在配置されている。従って、強磁性ヨーク構造体20を軸視した場合、周方向の一部に空隙20Eによる開放端を備えた略C字形状となっている。
更にこの強磁性ヨーク構造体20は、TMR素子4の素子平面(TMR素子4のヨーク側表面)4Aを基準とした反素子側ヨーク20Bの最大高さHがTMR素子4の素子平面方向最大外寸(ここでは磁化容易軸方向の外寸MX:図6参照)と比較して小さく設定されている。例えば、TMR素子4の外寸MXが300nmである場合、反素子側ヨーク20Bの最大高さを300nm以下に設定する。このようにTMR素子4側に対する反素子側ヨーク20Bの距離を可能な範囲内で小さくすることで、後述するように、外部磁界に対する応答性を向上させることができる。
傾斜領域20S、20S及びヨーク接合部20C、20Cは、トップ領域20Tに生じる磁界を素子側ヨーク20A側(即ちTMR素子4側)に誘導する。従って、トップ領域20Tに生じた内部磁界は、傾斜領域20S、20S及びヨーク接合部20C、20Cを介して反転し、素子側ヨーク20Aでは反対方向の内部磁界となる。又、反素子側ヨーク20Bにおいては、傾斜領域20S、20Sが、素子側ヨーク20A側に傾倒するようになっている。詳細には、トップ領域20Tと傾斜領域20S、20Sの角度P(図7参照)が鈍角に設定され、一方、ヨーク接合部20C、20Cにおける素子側ヨーク20Aと傾斜領域20S、20Sの連結角度が鋭角に設定される。また、傾斜領域20Sの厚みは、素子側ヨーク20Aと比較して大きく設定されている。
図7に示されるように、反素子側ヨーク20Bのトップ領域20Tの厚みTZは、素子側ヨーク20Aの厚みBZと比較して大きく設定されている。具体的に、厚さTZは、50nm以上、100nm以下に設定される。また、反素子側ヨーク20Bよりも薄い素子側ヨーク20Aの厚さBZは10nmより大きく且つ30nmより小さい範囲内に設定されている。また、傾斜領域20Sの厚さSZは、平均すると20nmより大きく且つ100nmより小さい範囲内に設定されている。
また本実施形態におけるTMR素子4の素子平面方向の外寸は300nm×200nmであり、厚さは4nmとなっている。従って、素子平面4Aを基準とした反素子側ヨーク20Bの最大高さHは300nm以下に設定することが好ましい。
次に、本実施形態の磁気記憶装置1におけるTMR素子4への情報書き込み動作について説明する。
図7の状態において、読み書き兼用配線5に電流が流れていない場合、この読み書き兼用配線5による磁界が生じない。従って、強磁性ヨーク構造体20の形状効果により、強磁性ヨーク構造体20の磁化状態Xは、読み書き兼用配線5の延在方向と略一致した状態で単磁区化されているか、又は、各種方向の磁区が複数形成されている。従って、強磁性ヨーク構造体20が、読み書き兼用配線5の周方向に単磁区化することが抑制されている。又、TMR素子4における第2磁性層4Bの磁化方向Bと第1磁性層4Aの磁化方向Aが、ここでは互いに一致している。本実施例では、磁化方向A、Bが一致している場合、二値データの0が書き込まれていると定義する。
図8に示されるように、読み書き兼用配線5に書き込み電流I1が流れると、読み書き兼用配線5の周囲に、周方向磁界F1が発生する。磁界F1は、その周囲に設けられた強磁性ヨーク構造体20の内部を周回して閉じた経路を形成する。強磁性ヨーク構造体20の磁化状態Xは、この磁界F1に誘導されるようにして、内部磁界の影響力に抗しながら、滑らかに磁化方向を90度回転させて磁界F1の方向に一致する。この際、反素子側ヨーク20B(特にトップ領域20T)が肉厚に設定されているので、磁界F1の漏れが効果的に抑制され、TMR素子4側に誘導できることになる。
この結果、読み書き兼用配線5から生じる磁化状態F1と、強磁性ヨーク構造体20に生じる磁化状態Xが合成された強い磁界が、薄肉の素子側ヨーク20Aで集中化され、TMR素子4における第1磁性層4Aに作用してその磁化方向Aを反転させる。この状態で読み書き兼用配線5の電流I1を止めると、TMR素子4の磁化方向Aは、図8のように反転したまま維持される。磁化方向A、Bが反対となったまま維持されることから、ここでは二値データの1が書き込まれた事になる。
次に、図9に示されるように、読み書き兼用配線5において、I1と反対方向となる書き込み電流I2が流れると、読み書き兼用配線5の周囲に周方向の磁界F2が発生する。磁界F2は、その周囲に設けられた強磁性ヨーク構造体20の内部を周回する閉じた経路を形成する。強磁性ヨーク構造体20の磁化状態Xは、この磁界F2に誘導されるようにして、滑らかに磁化方向を90度回転させて磁界F2の方向に一致させる。
この結果、読み書き兼用配線5から生じる磁化状態F2と、強磁性ヨーク構造体20に生じる磁化状態Xが合成され、その強い磁界がTMR素子4における第1磁性層4Aに作用し、磁化方向Aが反転して再び第2磁性層4Bの磁化方向Bと一致する。TMR素子4は、磁化方向A、Bが一致しているので、ここでは二値データの0が再び書き込まれた事になる。
なお、本実施形態では、反素子側ヨーク20Bを肉厚にすることで、TMR素子4の反対側に対する磁束の漏れを効果的に抑制する事ができるようになる。また、傾斜領域20Sとトップ領域20Tを一連のプロセスで一体的に製膜することが可能とになり、製造コストを低減することも可能になる。なお、強磁性ヨーク構造体20を構成する強磁性材料としては、例えばNi、Fe、Coのうち少なくとも一つの元素を含む金属が好適である。
なお、TMR素子4に書き込まれた二値データを読み出す際には、読み書き兼用配線5と読み出し配線7との間に読み出し電流を流し、その両配線間の電位差の変化を検出する。これによりTMR素子4の抵抗値が明らかとなり、二値データのいずれかを記録しているか(すなわち、第1磁性層4Aの磁化方向Aが第2磁性層4Bの磁化方向Bと平行か反平行か)を判別する。例えば、第1磁性層4Aの磁化方向Aが第2磁性層4Bの磁化方向Bと同方向である場合、非磁性絶縁層4Cにおけるトンネル磁気抵抗効果(TMR)によって、第1磁性層4Aと第2磁性層4Bとの間の抵抗値が比較的小さくなる。反対に、磁化方向Aと磁化方向Bが対向方向となる場合、トンネル磁気抵抗効果によって、第1磁性層4Aと第2磁性層4Bとの間の抵抗値が比較的大きくなる。
更に、この読み書き兼用配線5による書込み用電流I1、I2以外の要因によって生じる外部磁界の影響について説明する。
図1で示したように、複数の記憶領域3がアレイ状に配置されている場合、特定のTMR素子4に対する書き込み用の磁界が、隣接するTMR素子4に作用してしまう状況が生じる。特に記憶領域3を高密度に配置すると互いの距離が近づくので、その影響は顕著になる。
例えば図10に示されるように、TMR素子4に対してその書込み方向(磁化容易軸方向)と一致する外部磁界Vが作用した場合、この外部磁界Vは、TMR素子4の第1磁性層4Aに対して直接作用して磁化方向Aを反転させようとする。一方、強磁性ヨーク構造体20にも外部磁界Vが印加されるので、反素子側ヨーク20Bにおけるトップ領域20Tの内部磁界X1が積極的に回転して外部磁界Vと一致するようになる。また、傾斜領域20S、20Sの内部磁界X2についても、トップ領域20Tに対して緩やかに傾倒していることから、トップ領域20Tの内部磁界X1と連続する方向に向かう。即ち、反素子側ヨーク20Bでは、トップ領域20Tと傾斜領域20S、20Sが一体となって外部磁界Vに沿った周方向内部磁界(X1、X2)を生じさせる。この周方向内部磁界は、ヨーク接合部20C、20Cを介して素子側ヨーク20A側に誘導される。従って、素子側ヨーク20Aには、反素子側ヨーク20Bの内部磁界X1、X2と反対方向の内部磁界X3が生じる。素子側ヨーク20Aは、この内部磁界X3をTMR素子4に付与する。
この結果、外部磁界VがTMR素子4に直接作用して書込みを行おうとすると、強磁性ヨーク構造体20がその外部磁界Vと反対方向の内部磁界X3を素子側ヨーク20A内に発生させて、外部磁界Vを打ち消すように機能するので、TMR素子4に対する誤書込みを抑制することができる。
特に、本実施形態では、反素子側ヨーク20Bの最大高さHを所定の範囲内に設定しているので、TMR素子4近傍の外部磁界Vを正確に受けることが出来る。この場合、強磁性ヨーク構造体20に空隙20EにTMR素子4を収容すると、TMR素子4に対して反素子側ヨーク20Bを一層接近させることができる。
また本実施形態では、反素子側ヨーク20Bにおけるトップ領域20Tの厚みTZが大きく設定され、素子側ヨーク20Aの厚みBZが小さく設定されているので、素子側ヨーク20A自体は外部磁界Vの影響を受け難い。これにより、強磁性ヨーク構造体20の内部磁界は、実質的に反素子側ヨーク20B(トップ領域20T及び傾斜領域20S、20S)の内部磁界X1、X2に支配されるようになる。
なおここでは、配線5とTMR素子4とは金属層19によって電気的に接続するようにしたが、配線5とTMR素子4の間は絶縁状態として書込み専用配線としておき、TMR素子4の一方の面に読み出し専用電流を導通させるための金属薄膜配線等を別途形成するようにしてもよい。また、強磁性ヨーク構造体20とその内部の読み書き兼用配線5との間、及び、素子側ヨーク20AとTMR素子4との間は、絶縁体22が挿入されており、互いに接触して電気的にショートしないようになっている。
次に、この磁気記憶装置1の特性について説明する。
TMR素子4の保磁力をHc、外部磁界Vの磁力をHextとし、これらの値から設定される正規化外部磁界を|Hext/Hc|と定義した場合、本磁気記憶装置1では、正規化外部磁界|Hext/Hc|=1(実施する際に現実的な程度の1を意味する)となるような外部磁界Hextが仮に作用した際に、TMR素子4の磁化状態Xが自然に反転しないように設定されている。具体的には、本実施形態のTMR素子4の保磁力が80(Oe)に設定されているので、この保磁力と同等の外部磁界Vが作用しても、磁化状態Xの反転が出来ないようにする。このような特性に設計する結果、各記憶領域3が個別に外部磁界からシールドされるようになる。
また、外部磁界Vが作用しない場合に読み書き兼用配線5に要求されるTMR素子4の書き込み電流をIsw[H0]、外部磁界Vを受けた状態において要求されるTMR素子4の書き込み電流をIsw[Hext]とし、これらの値から導かれる正規化書き込み電流を|Isw[Hext]/Isw[H0]|と定義した場合、この磁気記憶装置1では、上記正規化外部磁界|Hext/Hc|を増加させた時の正規化書き込み電流|Isw[Hext]/Isw[H0]|の変化率が−1より大きく且つ零より小さくなるように設定されている。このようにすると、外部磁界Vの磁力Hextの増大に対して、必要となる書込み電流Isw[Hext]の減少幅が小さくなり、結局、外部磁界Vの影響よりも、読み書き兼用配線5の電流に基づく書込み動作が優先されることになる。
図11(A)には、本実施形態の磁気記憶装置1に対して、読み書き兼用配線5と同方向の外部磁界V(即ち、TMR素子4における磁化容易軸と垂直方向の外部磁界)を作用させた際の、上記正規化外部磁界|Hext/Hc|に対する正規化書き込み電流|Isw[Hext]/Isw[H0]|の変化状態が示されている。なお、比較例として強磁性ヨーク構造体20が存在しない場合の変化状態も併記している。
図から分かるように、強磁性ヨーク構造体20が存在しない場合の変化率は約−0.5であるが、強磁性ヨーク構造体20を備えた本実施形態の磁気記憶装置1では変化率が−0.5より大きくなり、約−0.1程度となっている。つまり、外部磁界Vが書き込み電流に与える影響が通常の約5分の1に抑制されることがわかる。
図11(B)には、本実施形態の磁気記憶装置1に対して、読み書き兼用配線5と垂直の外部磁界V(即ち、TMR素子4における第1磁性層4Aの磁化容易軸方向と同方向の外部磁界)を作用させた際の、上記正規化外部磁界|Hext/Hc|に対する正規化書き込み電流|Isw[Hext]/Isw[H0]|の変化状態が示されている。なお、比較例として、強磁性ヨーク構造体20が存在しない磁気記憶装置1の変化状態も併記している。強磁性ヨーク構造体20が存在しない場合の変化率は約−1.0であるが、強磁性ヨーク構造体20を備えた本実施形態の磁気記憶装置1では、変化率が−1.0よりも大きくなり、約−0.5程度となっている。つまり、外部磁界Vが書き込み電流に与える影響が通常の約2分の1に抑制されることがわかる。
この結果、本実施形態に係る磁気記憶装置1は、外部磁界保護構造を採用することによって、上記正規化外部磁界|Hext/Hc|が増大した場合であっても、正規化書き込み電流|Isw[Hext]/Isw[H0]|の減少幅が小さくなり、外部磁界Vが書き込み電流に与える影響が抑制される。
図12には、本実施形態の磁気記憶装置1において、上記正規化外部磁界|Hext/Hc|に対するTMR素子4のMR比の変動状態を解析した結果が示されている。ここでは反素子側ヨーク20Bの厚さが50nmと100nmとなる2種類の磁気記憶装置1を用い、TMR素子4の磁化方向(磁化容易軸方向)と同方向の外部磁界Vを印加した状態を解析している。なお、MR比とは、第1磁性層4Aの磁化方向Aと第2磁性層4Bの磁化方向Bが一致している場合におけるTMR素子4の抵抗値をR(a=b)、第1磁性層4Aの磁化方向Aと第2磁性層4Bの磁化方向Bが反対となる場合のTMR素子4の抵抗値をR(a≠b)とした場合に、{R(a≠b)−R(a=b)}/R(a=b)で示される比率である。
図から分かるとおり、反素子側ヨーク20Bの厚さが50nmの場合、正規化外部磁界|Hext/Hc|が2以下のとき、即ち外部磁界Vの磁力HextがTMR素子4の保磁力Hcの2倍以下の範囲であればMR比が常に安定している。つまり、同磁力Hextが2倍となるまでは、外部磁界Vが作用してもTMR素子4の読み出し特性が安定することになる。
また、反素子側ヨーク20Bの厚さが100nmの場合、正規化外部磁界|Hext/Hc|が3以下のとき、即ち外部磁界Vの磁力HextがTMR素子4の保磁力Hcの3倍以下の範囲であればMR比が常に安定する。つまり、同磁力Hextが3倍となるまで、詳細には約4倍となるまでは、外部磁界Vが作用しても、pTMR素子4の読み出し特性が安定している。
以上のことから、本磁気記憶装置1では、外部磁界保護構造となる強磁性ヨーク構造体20の作用によって、TMR素子4の特性も安定させることが可能になる。特に、反素子側ヨーク20Bの厚さが大きいほど、外部磁界Vに対するシールド効果が増大し、読み取り特性を安定させることができる。このようにTMR素子4の特性が安定化される理由は、外部磁界Vが印加された際に強磁性ヨーク構造体20によって素子側ヨーク20Aに反対方向の内部磁界が生じさせることができるので、この外部磁界Vの影響を打ち消し合うからであると考えられる。
図13は、強磁性ヨーク構造体20について、TMR素子4の素子平面4Aを基準とした反素子側ヨーク20Bの最大高さを3種類(サンプルNo1:400nm、サンプルNo2:320nm、サンプルNo3:240nm)設定し、書き込み電流値Iw(mA)をシミュレーションして比較したものである。
反素子側ヨーク20Bの最大高さを400nmに設定したサンプルNo1の強磁性ヨーク構造体20では書き込み電流Iwが12(mA)となり、反素子側ヨーク20Bの最大高さを320nmに設定したサンプルNo2の強磁性ヨーク構造体20では、書き込み電流Iwが10(mA)となり、反素子側ヨーク20Bの最大高さを240nmに設定したサンプルNo3の強磁性ヨーク構造体20では、書き込み電流Iwが6mAとなった。つなり、反素子側ヨーク20Bの最大高さが低いほど、少ない書込み電流IwでTMR素子4の磁化状態を反転させることができる。これは、反素子側ヨーク20BがTMR素子4に近いほど、強磁性ヨーク構造体20の磁界応答性が向上することを意味している。これは外部磁界Vに対する影響についても同様であるので、結果として、反素子側ヨーク20Bの高さが低いほど、即ちTMR素子4と反素子側ヨーク20Bが接近するほど外部磁界Vを効果的に取り込み、この外部磁界Vに対して反対方向の強い内部磁界をTMR素子4に付与できることになる。
本実施形態の磁気記憶装置1によれば、外部磁界保護構造を採用することによって、正規化外部磁界|Hext/Hc|=1となるような外部磁界Hextが作用した場合でも、TMR素子4の磁化状態Xが勝手に反転しないように設定されているので、各記憶領域3の誤書込みを個別に抑制することが可能となっている。特に、正規化外部磁界|Hext/Hc|を増加させた時の正規化書き込み電流|Isw[Hext]/Isw[H0]|の変化率が−1より大きく且つ零より小さくなるように設定されているので、外部磁界Vの磁力Hextの増大に対して、要求される書込み電流Isw[Hext]の減少幅が小さくなり、結局、外部磁界Vの影響よりも、読み書き兼用配線5の電流に基づく書込み動作を優先されることができる。
また、外部磁界保護構造として、略環状の強磁性ヨーク構造体20を採用しているので、外部磁界Vの影響を利用して、この外部磁界Vと反対の磁界をTMR素子4に付与することが可能になる。この結果、外部磁界Vを打ち消すことが可能となり、各TMR素子4に対する誤書込みを個別に防止できる。また、この強磁性ヨーク構造体20の内部に読み書き兼用配線5が挿入されているので、強磁性ヨーク構造体20が、配線5から生じる書込み用の磁界の外部への漏れを抑制できるので、書込み動作と無関係な外部磁界Vの影響を低減させつつ、書込み磁界自体の有効活用も達成できる。
また、本実施形態では、素子側ヨーク20Aの一部に空隙20Eが形成されており、その空隙20EにTMR素子4が収容されている。従って、外部磁界Vと反対方向の内部磁界を、素子側ヨーク20Aの開放端面からTMR素子4に対して直接的に付与することが可能となり、外部磁界Vの打ち消し効果を高めることが可能となる。また、空隙20EにTMR素子4を収容することで、反素子側ヨーク20BをTMR素子4に接近させることができ、TMR素子4の近傍に作用する外部磁界Vを的確にシールドすることが可能になる。
更に本実施形態では、素子側ヨーク20Aの厚みに対して反素子側ヨーク20Bの厚みを大きく設定することで、トップ領域20T及び傾斜領域20S、20S内に外部磁界Vと同方向の内部磁界を効率よく発生させると共に、この内部磁界を素子側ヨーク20Aで反転させてTMR素子4に印加することが可能となる。また、傾斜領域20S、20Sを緩やかに傾倒させることで、傾斜領域20S、20Sとトップ領域20Tの磁界が互いに打ち消されないようにして、同方向の内部磁界を発生させやすいようにしている。
なお、本実施形態に係る磁気記憶装置1の製造工程では、絶縁体に覆われた読み書き兼用配線5に対して、トップ領域20Tと傾斜領域20Sを同時に形成することができる。従って、傾斜領域20Sを直立させるように個別形成する場合と比較して、反素子側ヨーク20Bにおけるトップ領域20Tの最大高さを低くすることが可能となり、外部磁界Vに対するシールド効果を高めることができる。
図14には、本発明の第2の実施形態に係る磁気記憶装置101の全体構成が示されている。なお、磁気記憶装置101の説明は、第1実施形態と異なる点を中心に行うものとし、第1実施形態と共通する部分・部材については、図面の符号下2桁を一致させる事で説明を省略する。
図15に拡大して示されるように、この磁気記憶装置101における記憶部102の各記憶領域103は、TMR素子104、書込み専用配線105A、読み出し専用配線105B、書込み専用トランジスタ106A、読み出し専用トランジスタ106B等を有する。従って、読み書き兼用配線を利用した第1実施形態と異なり、第2実施形態の磁気記憶装置101では、書込み専用配線105Aと読み出し専用配線105Bを別々に配置することで、回り込み電流等のノイズ要因を低減できるようになっている。
書込み専用配線105Aの両端は、2本のビット配線113、114に接続されており、更にこの両端の間に書込み専用トランジスタ106Aが配置されている。従って、ビット配線113、114間に電圧を印加して、書込み専用トランジスタ106AをONにすることで、書込み専用配線105Aに電流を流す事が可能となり、近接配置されるTMR素子104の周囲に磁界を発生させる事ができる。また、読み出し専用配線105Bの両端も2本のビット配線113、114に接続されており、更に、この両端間に読み出し専用トランジスタ106B及びTMR素子104が配置されている。従って、ビット配線113、114間に電圧を印加して、読み出し専用トランジスタ106BをONにすることで、読み出し専用配線105Bに電流を流す事が可能となり、TMR素子104の抵抗値の変化を検出する事ができる。なお、書込み専用トランジスタ106Aはワード配線115に接続されており、読み出し専用トランジスタ106Bはワード配線116に接続されている。従って、このワード配線115、116に印加する電圧を利用して、各トランジスタ106A、106Bの導通状態を個別に切り替えるようになっている。この結果、必要に応じてビット配線113、114からワード配線115に対して電流を流すこともできる。
図16には、強磁性ヨーク構造体120が拡大して示されている。この強磁性ヨーク構造体120は、外部磁界保護構造となっており、書込み専用配線105AにおけるTMR素子104側に近接配置される素子側ヨーク120Aと、書込み専用配線105AにおけるTMR素子104の反対側に近接配置される反素子側ヨーク120Bと、素子側ヨーク120Aの両端と反素子側ヨーク120Bの両端を連結して略環状とする一対のヨーク接合部120C、120Cとを備えて構成される。なお、素子側ヨーク120Aに形成される空隙には、TMR素子104が配置されている。
このTMR素子104と書込み専用配線105Aは、絶縁体122によって相互に絶縁状態となっている。一方、このTMR素子104の上端面及び下端面は読み出し専用配線105Bに接続されている。なお、上端側の読み出し専用配線105Bは、断面が下に凸となる薄膜構造となっており、書込み専用配線105AとTMR素子104を可能な限り接近させるようにしている。なお、強磁性ヨーク構造体120の詳細寸法等は第1実施形態と同様である。
この第2実施形態の磁気記憶装置101においても、第1実施形態と同様の強磁性ヨーク構造体120を備えているので、外部磁界Vに対するシールド効果を得ることができる。また、これに加えて書込み専用配線105Aと読み出し専用配線105Bが独立しているので、書込み動作時には、書込み専用配線105Aのみに電流を流すことができる。一方、読み出し動作時には、読み出し専用配線105Bのみに電流を流すことができる。この結果、ダイオード等を配置しなくても回り込み電流等を回避することが可能になるので、書き込み及び読み出し動作を更に安定させることができる。
以上、第1及び第2実施形態に係る磁気記憶装置を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では磁気抵抗効果素子としてTMR素子を用いているが、巨大磁気抵抗(GMR:Giant magneto−Resistive)効果を利用したGMR素子を用いてもよい。GMR効果とは、非磁性層を挟んだ2つの強磁性層の磁化方向のなす角度により、積層方向と直交する方向における強磁性層の抵抗値が変化する現象である。すなわち、GMR素子においては、2つの強磁性層の磁化方向が互いに平行である場合に強磁性層の抵抗値が最小となり、2つの強磁性層の磁化方向が互いに反平行である場合に強磁性層の抵抗値が最大となる。なお、TMR素子やGMR素子には、2つの強磁性層の保磁力の差を利用して書き込み/読み出しを行う疑似スピンバルブ型と、一方の強磁性層の磁化方向を反強磁性層との交換結合により固定するスピンバルブ型とがある。また、GMR素子におけるデータ読み出しは、積層方向と直交する方向における強磁性層の抵抗値の変化を検出することにより行われる。また、GMR素子におけるデータ書き込みは、書き込み電流により生じる磁界によって一方の強磁性層の磁化方向を反転させることにより行われる。
また、上記実施形態では、書き込み電流及び読み出し電流を制御するためのスイッチ手段としてトランジスタ(読み書き兼用トランジスタ)を用いているが、このスイッチ手段としては、必要に応じて電流を遮断/導通させる機能を有する様々な手段を適用することができる。
なお、本発明でいう「素子側ヨークに形成されている空隙」は、強磁性ヨーク構造体20の最終的な形状を意味しており、連続的な素子側ヨーク20Aを形成した後に、空隙を形成するために分断加工を行う場合に限定されるものではない。例えば、(分断されたような状態となり得る)一対の素子側ヨーク20Aを個別に形成するようにして、その間にTMR素子4を介在させてもよい。
また、本発明の磁気記憶装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
本発明は、磁気抵抗効果素子によって各種情報を記録・保持するような分野で広く利用する事が出来る。
1、101 ・・・磁気記憶装置
4、104 ・・・磁気抵抗効果素子
5 ・・・読み書き兼用配線
13、14、113、114・・・ビット配線
15、16、115、116・・・ワード配線
20、120 ・・・強磁性ヨーク構造体
20A、120A ・・・素子側ヨーク
20B、120B ・・・反素子側ヨーク
20C、120C ・・・ヨーク接合部
20E ・・・隙間
20S、120S ・・・傾斜領域
20T、120T ・・・トップ領域
105A ・・・書込み専用配線
105B ・・・読み出し専用配線
4、104 ・・・磁気抵抗効果素子
5 ・・・読み書き兼用配線
13、14、113、114・・・ビット配線
15、16、115、116・・・ワード配線
20、120 ・・・強磁性ヨーク構造体
20A、120A ・・・素子側ヨーク
20B、120B ・・・反素子側ヨーク
20C、120C ・・・ヨーク接合部
20E ・・・隙間
20S、120S ・・・傾斜領域
20T、120T ・・・トップ領域
105A ・・・書込み専用配線
105B ・・・読み出し専用配線
Claims (14)
- 任意の方向に延在する配線と、前記配線の一部に隣接配置された磁気抵抗効果素子と、前記配線の一部以外の要因で生じる外部磁界から前記磁気抵抗効果素子を保護する外部磁界保護構造と、を備えることを特徴とする磁気記憶装置。
- 前記磁気抵抗効果素子の保磁力をHc、前記外部磁界をHext、正規化外部磁界を|Hext/Hc|と定義した場合、前記正規化外部磁界|Hext/Hc|が略1となる前記外部磁界Hextが作用した際に、前記磁気抵抗効果素子の磁化状態が反転不能に設定されていることを特徴とする請求項1記載の磁気記憶装置。
- 前記磁気抵抗効果素子の保磁力をHc、前記外部磁界をHext、正規化外部磁界を|Hext/Hc|、前記外部磁界が作用しない場合に前記配線に要求される前記磁気抵抗効果素子の書き込み電流をIsw[H0]、前記外部磁界を受けた状態で前記配線に要求される磁気抵抗効果素子の書き込み電流をIsw[Hext]、正規化書き込み電流を|Isw[Hext]/Isw[H0]|と定義した場合、前記正規化外部磁界|Hext/Hc|増加時の前記正規化書き込み電流|Isw[Hext]/Isw[H0]|の変化率が−1より大きく且つ零より小さく設定されることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気記憶装置。
- 前記外部磁界保護構造として略環状の強磁性ヨーク構造体を備えており、前記強磁性ヨーク構造体の一部に前記磁気抵抗効果素子が近接配置されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の磁気記憶装置。
- 前記強磁性ヨーク構造体が、前記配線の一部の外周を囲むように配設されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の磁気記憶装置。
- 前記強磁性ヨーク構造体の周方向の一部に空隙が形成されており、前記空隙に前記磁気抵抗効果素子が収容されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の磁気記憶装置。
- 前記磁気抵抗効果素子の素子平面を基準とした前記強磁性ヨーク構造体の最大高さが、前記磁気抵抗効果素子の素子平面方向最大外寸と比較して小さく設定されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか記載の磁気記憶装置。
- 前記磁気抵抗効果素子の素子平面を基準とした前記強磁性ヨーク構造体の高さが400nm以下に設定されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか記載の磁気記憶装置。
- 任意方向に延在する配線と、
該配線の一部に隣接配置される磁気抵抗効果素子と、
前記磁気抵抗効果素子に近接配置される素子側ヨークと、
前記磁気抵抗効果素子の素子平面に対して所定の間隔を設けて配置される反素子側ヨークと、
前記反素子側ヨークと前記素子側ヨークを連結し、前記反素子側ヨークに生じる内部磁界と反対方向の内部磁界を前記素子側ヨークに生じさせるヨーク接合部と、
を備えることを特徴とする磁気記憶装置。 - 前記磁気抵抗効果素子の素子平面を基準とした前記反素子側ヨークの最大高さが、前記磁気抵抗効果素子の素子平面方向最大外寸と比較して小さく設定されていることを特徴とする請求項9記載の磁気記憶装置。
- 前記反素子側ヨークの厚みが、前記素子側ヨークと比較して大きく設定されていることを特徴とする請求項9又は10記載の磁気記憶装置。
- 前記反素子側ヨークにおける前記ヨーク接合部近傍が、前記素子側ヨーク側に傾倒されていることを特徴とする請求項9、10又は11記載の磁気記憶装置。
- 任意の方向に延在する配線と、前記配線の一部に隣接配置される磁気抵抗効果素子と、を備え、
前記磁気抵抗効果素子の保磁力をHc、前記配線の一部以外の要因で生じる外部磁界をHext、正規化外部磁界を|Hext/Hc|、前記外部磁界が作用しない場合に前記配線に要求される前記磁気抵抗効果素子の書き込み電流をIsw[H0]、前記外部磁界を受けた状態で前記配線に要求される磁気抵抗効果素子の書き込み電流をIsw[Hext]、正規化書き込み電流を|Isw[Hext]/Isw[H0]|と定義した場合、前記正規化外部磁界|Hext/Hc|増加時の前記正規化書き込み電流|Isw[Hext]/Isw[H0]|の変化率が−0.5より大きく且つ零より小さく設定されることを特徴とする磁気記憶装置。 - 前記磁気抵抗効果素子の素子平面に対して所定の間隔を設けて配置される反素子側ヨークを更に備え、
前記反素子側ヨークの厚みが50nm以上に設定されることを特徴とする請求項13記載の磁気記憶装置。
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