JP2007197759A - 大入熱溶接時のhaz靱性および耐食性に優れた船舶用鋼材 - Google Patents

大入熱溶接時のhaz靱性および耐食性に優れた船舶用鋼材 Download PDF

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Abstract

【課題】塗装や電気防食を施さなくても実用化できるほど耐食性に優れると共に、大入熱溶接時のHAZ靱性にも優れた船舶用鋼材を提供すること。
【解決手段】C:0.01〜0.2%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜2%、Al:0.05〜0.5%、Cu:0.010〜1.5%、Cr:0.010〜1%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.003〜0.015%を夫々含有する他、P:0.02%以下およびS:0.01%以下に夫々抑制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、単位面積あたりのTiN系介在物の個数が、1.0×108(個/mm2)以上である耐食性および大入熱溶接時のHAZ靱性に優れた船舶用鋼材。
【選択図】なし

Description

本発明は、原油タンカー、貨物船、貨客船、客船、軍艦等の船舶において、主要な構造材として用いられる船舶用耐食鋼に関するものであり、特に海水による塩分や高温多湿に曝される環境下における耐食性に優れ、かつ大入熱溶接時のHAZ(熱影響部)靱性に優れた船舶用鋼材に関するものである。
上記各種船舶において主要な構造材(例えば、外板、バラストタンク、原油タンク等)として用いられている鋼材は、海水による塩分や高温多湿に曝されることから腐食損傷を受けることが多い。こうした腐食は、浸水や沈没などの海難事故を招く恐れがあることから、鋼材には何らかの防食手段を施す必要がある。これまで行われている防食手段としては、(a)塗装や(b)電気防食等が従来からよく知られている。
このうち重塗装に代表される塗装では、塗膜欠陥が存在する可能性が高く、製造工程における衝突等によって塗膜に傷が付く場合もあるため、素地鋼材が露出してしまうことが多い。このような鋼材露出部においては、局部的にかつ集中的に鋼材が腐食してしまい、内容されている石油系液体燃料の早期漏洩に繋がることになる。
一方、電気防食においては、海水中に完全に浸漬された部位に対しては、非常に有効であるが、大気中で海水飛沫を受ける部位などでは防食に必要な電気回路が形成されず、防食効果が充分に発揮されないことがある。また、防食用の流電陽極が異常消耗や脱落して消失した場合には、直ちに激しい腐食が進行することがある。
上記技術の他、鋼材自体の耐食性を向上させるものとして、例えば特許文献1のような技術も提案されている。この技術では、鋼材の化学成分を適切に調整することによって、耐食性を優れたものとし、無塗装であっても使用できる造船用耐食鋼が開示されている。また特許文献2には、鋼材の化学成分組成を適切なものとすることによって、塗膜寿命性を向上させた船舶用鋼材について開示されている。これらの技術では、従来に比べてある程度の耐食性は確保できるようになったといえる。
しかしながら、より厳しい腐食環境下での耐食性については依然として充分なものとはいえず、更なる耐食性向上が要求されることになる。特に、異物と鋼材との接触部分、構造的な理由や防食塗膜の損傷部分等で形成される「すきま」部分における腐食(いわゆるすきま腐食)が顕著になり、寿命を低下させる場合があるが、これまで提案されている技術ではこうした部分における耐食性が不充分である。
また特許文献2は、化学成分組成を調整することにより、鋼材の塗膜寿命性に加えて、母材および溶接部の靱性をも向上させることも開示している。この点、特許文献2は、靱性の向上させるための手段として、化学成分組成を調整することしか記載していない。また特許文献2の実施例では、5kJ/mmという小入熱溶接時での母材および溶接部の靱性を調べている。
船舶用鋼材が、バラストタンクに使用できるような厚肉材として使用される場合、大入熱溶接特性、殊に大入熱溶接時のHAZ靱性が良好であることが必要である。しかしながらこれまで提案されている技術では、耐食性に加えて大入熱溶接時のHAZ靱性も優れた船舶用鋼材は、ほとんど得られていない。
特開2000−17381号公報、特許請求の範囲等 特開2002−266052号公報、特許請求の範囲および実施例等
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、塗装や電気防食を施さなくても実用化できるほど耐食性に優れると共に、大入熱溶接時のHAZ靱性にも優れた船舶用鋼材を提供することにある。本発明の鋼材は、殊に耐食性について、電気防食が作用しないバラストタンク内の上部や原油タンク上甲板等の湿潤の大気雰囲気における、すきま腐食などに対して優れた耐久性を発揮する。
上記目的を達成することのできた本発明の船舶用鋼材とは、C:0.01〜0.2%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜2%、Al:0.05〜0.5%、Cu:0.010〜1.5%、Cr:0.010〜1%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.003〜0.015%を夫々含有する他、P:0.02%以下(0%を含まない)およびS:0.01%以下(0%を含まない)に夫々抑制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、単位面積あたりのTiN系介在物の個数が、1.0×108(個/mm2)以上である点に要旨を有するものである。この船舶用鋼材においては、Crの含有量[Cr]とAlの含有量[Al]の比の値([Cr]/[Al])を1〜15の範囲に調整することが好ましい。
また本発明の船舶用鋼材においては、必要に応じて、(1)Ni:2%以下(0%を含まない)および/またはCo:1%以下(0%を含まない)、(2)Ca:0.02%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.02%以下(0%を含まない)、(3)Se:0.5%以下(0%を含まない)、(4)Sb:0.5%以下(0%を含まない)および/またはSn:0.5%以下(0%を含まない)、(5)B:0.01%以下(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)およびNb:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、等を含有させることも有効であり、含有させる成分の種類に応じて船舶用鋼材の特性が更に改善されることになる。
所定量のAlとCrを併用させて含有させると共に、化学成分組成を適切に調整することによって、塗装および電気防食を施さなくても実用化できるほど耐食性に優れた造船用鋼が実現できた。特にすきま腐食に対する耐久性の向上を図ると共に、電気防食が作用しないバラストタンク内の上部や原油タンク上甲板等の湿潤大気雰囲気において、すきま腐食などに対して優れた耐久性を発揮する船舶用鋼材を実現できた。さらに本発明の船舶用鋼材は、多数のTiN系介在物を含むことにより、大入熱溶接でも良好なHAZ靱性を示すことができる。こうした船舶用鋼材は、上記用途の他、原油タンカー、貨物船、貨客船、客船、軍艦等の船舶における外板等の素材として有用である。
発明を実施するための形態
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、所定量のAlとCrを併用させて含有させると共に、化学成分組成を適切に調整すれば、上記課題を解決することのできる造船用鋼材が実現でき、かつTiN系介在物を多数存在させることにより、大入熱溶接時のHAZ靱性を向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
本発明の鋼材においては、AlとCrを併用させて含有させることが重要であり、これらの成分のいずれを欠いても、本発明の目的を達成することができない。これらの成分における各作用効果は後述するが、これらを併用することによって、耐食性が向上した理由は次のように考えることができる。
Alは鋼表面に安定な酸化物防食皮膜を形成する効果がある。鋼中より腐食溶解したAl3+イオンが溶存酸素などと結びついてAl酸化物となり、これが表面に堆積して防食皮膜を形成することになる。この皮膜による防食効果は、船舶における高塩化物環境においては充分とはいえない。一方、Crは上記Alと同様に表面に安定な酸化物皮膜を形成して鋼材を防食する効果を発揮するが、Cr酸化物単独ではその防食効果が充分であるとはいえない。
上記Al酸化皮膜は、pHが5〜8.5程度のほぼ中性域では非常に安定性が高いのであるが、pHが8.5を超えるあたりから溶解性が高くなる。船舶用鋼材が曝される海水は、清浄な場合にはpHは8程度であるが、海藻などが繁殖している海域ではpHは9.5程度にまでアルカリ化することがある。また、腐食のカソード反応が起こっているサイトでは溶存酸素の還元で生成したOH-イオンのために、pHが上昇する傾向にある。こうしたことから、船舶環境でのAl酸化物は必ずしも安定には存在できず、むしろ容易に溶解してその保護性が失われる場合の方が多い。これに対して、Cr酸化物はアルカリ領域での安定性が高いことに加えて、微量に溶解したCrイオンの加水分解平衡でpHを低下させる効果があるため、海水のpH上昇によるAl酸化物の溶解を抑止して、その保護性を確保する作用を発揮することになる。従って、Cr酸化物とAl酸化物とが適切な量で共存することによって、鋼材の防食効果は相乗的に高くなるものと考えられる。
こうした効果は、後述する適切な量に制御することによって発揮されることになるのであるが、これらの含有量の比の値([Cr]/[Al]:質量比)も適切に制御することが好ましい。即ち、この値([Cr]/[Al])が1未満であると、腐食均一性が不充分となりやすく、15を超えると耐すきま腐食性が不充分となる。この[Cr]/[Al]の値は、より好ましくは3〜10程度とするのが良い。
さらに本発明では、鋼材中にTiN系化合物を多数存在させることによりHAZ靱性を向上させている。そもそも溶接によりHAZ靱性が低下するのは、溶接時に鋼材が受ける熱サイクルにより、その部分のγ粒が粗大化して脆化するためである。そこで微細なTiN系介在物が多数存在すると、そのピンニング効果によりγ粒の粗大化を抑制することができる。本発明において、鋼材の単位面積あたりのTiN系介在物の個数は、好ましくは1.0×108(個/mm2)以上、より好ましくは5.0×108(個/mm2)以上、さらに好ましくは1.0×109(個/mm2)以上である。
本発明におけるTiN系介在物とは、介在物中にTiおよびNが共に0.3%以上で存在しているものをいい、介在物が、0.3%以上のTiおよびNを含有するか否かは、例えばエネルギー分散型検出器(EDX)により判定することができる。本発明における「単位面積あたりのTiN系介在物の個数」は、鋼材表面から深さ方向へ全厚tの4分の1の位置(t/4)で測定した値である。この介在物の個数は、例えば鋼材を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより測定できる。本発明においてこの個数の値は、顕微鏡の観察倍率を6万倍以上および観察視野を1.5μm×1.5μm以上で、5箇所以上観察した各個数の値を平均したものである。なぜなら観察倍率を大きくすることで、より正確な介在物の個数を計測できるからであり、観察視野を広く、かつ観察数を多くしてその平均をとることにより、観察箇所による介在物の個数のバラツキを少なくできるからである。
単位面積あたりのTiN系介在物の個数を1.0×108(個/mm2)以上にするには、溶鋼を急速に冷却して、微細なTiN系介在物を多数析出させればよい。そのために、溶鋼を冷却して凝固させる際の1500℃から1000℃までの冷却速度を、1.0×10-3(℃/秒)以上、好ましくは1.0×10-2(℃/秒)以上にすることが推奨される。この冷却速度は、例えば連続鋳造機の冷却水量や冷却方法を変えることにより調整することができる。
本発明の鋼材では、その鋼材としての基本的特性を満足させるために、C、Si、Mn、Cu、P、S等の成分も適切に調整する必要がある。これらの成分の範囲限定理由について、上記Al、Cr、TiおよびNの各元素による作用効果と共に、以下に記載する。
[C:0.01〜0.2%]
Cは、材料の強度確保のために必要な元素である。船舶の構造部材としての最低強度、即ち概ね400MPa程度(使用する鋼材の肉厚にもよるが)を得るためには、0.01%以上含有させる必要がある。しかし0.2%を超えて過剰に含有させると、靱性、溶接性が劣化する。こうしたことから、C含有量の範囲は0.01〜0.2%とした。尚、C含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.04%以上とするのが良い。また、C含有量の好ましい上限は0.18%であり、より好ましくは0.17%以下とするのが良い。
[Si:0.01〜0.5%]
Siは脱酸と強度確保のための必要な元素であり、0.01%に満たないと構造部材としての最低強度を確保できない。しかし、0.5%を超えて過剰に含有させると溶接性、HAZ靱性が劣化する。尚、Si含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上とするのが良い。また、Si含有量の好ましい上限は0.45%であり、より好ましくは0.40%以下とするのが良い。
[Mn:0.01〜2%]
MnもSiと同様に脱酸および強度確保のために必要であり、0.01%に満たないと構造部材としての最低強度を確保できない。しかし、2%を超えて過剰に含有させると靱性が劣化する。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.05%であり、より好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.3%以上とするのが良い。また、Mn含有量の好ましい上限は1.80%であり、より好ましくは1.60%以下とするのが良い。
[Al:0.05〜0.5%]
上述したように、Alは表面に安定な酸化物防食皮膜を形成する効果がある。Al含有量が少なくなると、腐食溶解したAl3+イオンは海水中に飛散して鋼材表面に堆積されず、防食皮膜が形成されないことになる。Cr酸化物との共存下で充分な防食効果を発揮させるためには、Alは0.05%以上含有させる必要がある。通常の鋼材であれば、Al含有量が0.10%を超えると溶接部の靭性がやや低下するなど溶接性の点で問題があったが、本発明の鋼材のようにC、Si、P、Sを適正範囲とすることによって、Al含有量が0.10%超〜0.5%までの範囲であっても従来鋼と同等の溶接性を確保することができる。しかしながら、Al含有量が0.5%を超えて過剰になると、溶接性を害することになる。こうしたことから、Al含有量の範囲は0.05〜0.5%とした。尚、Al含有量の好ましい下限は0.06%であり、より好ましくは0.07%以上、さらに好ましくは0.08%以上とするのが良い。また、Al含有量の好ましい上限は0.45%であり、より好ましくは0.40%以下、さらに好ましくは0.35%以下とするのが良い。
[Cu:0.010〜1.5%]
Cuは、耐食性向上に大きく寄与する緻密な表面錆皮膜を形成するのに有効な元素である。また、Cuを含有させることによって形成される緻密な錆皮膜とAl酸化物とCr酸化物とが共存する安定な酸化物防食皮膜とが母材の保護性を相乗的に高めて、優れた耐食性が発揮されることになる。こうした効果を発揮させるためには、0.010%以上含有させることが必要であるが、過剰に含有させると溶接性や熱間加工性が劣化することから、1.5%以下とすることが好ましい。尚、Cuを含有させるときの好ましい下限は0.05%であり、好ましい上限は1.3%であり、より好ましくは1.0%以下とするのが良い。
[Cr:0.010〜1%]
Crは、Alと同様に表面に安定な酸化物皮膜を形成して、鋼材を防食する効果を発揮する。本発明では上述のように、Al酸化物とCr酸化物を共存させることによって、鋼材の耐食性が飛躍的に向上することになるのであるが、こうした効果を発揮させるためには、Crを0.010%以上含有させる必要がある。しかしながら、過剰に含有させると溶接性が劣化することから、Cr量は1%以下とする必要がある。尚、Cr含有量の好ましい下限は0.05%であり、より好ましくは0.10%以上とするのが良い。Cr含有量の好ましい上限は0.9%であり、より好ましくは0.8%以下とするのが良い。
[Ti:0.005〜0.030%]
Tiは、耐食性向上に大きく寄与する表面錆被膜を緻密化して、その環境遮断性を向上させると共に、すきま内部における腐食を抑制して、耐すきま腐食性も向上させる元素である。またTiは窒化物を形成することにより、溶接時におけるHAZでのγ粒の粗大化を防止するピンニング効果も発揮する。こうした耐食性およびHAZ靱性を確保するためには、0.005%以上含有させることが好ましい。しかし0.030%を超えて過剰に含有させると、固溶Tiが増えすぎて、HAZ靱性を劣化させることになる。Tiを含有させるときのより好ましい下限は0.008%であり、より好ましい上限は0.025%である。
[N:0.003〜0.015%]
Nは、Tiと共にTiNを形成してピンニング効果を発揮することで、HAZ靱性を向上させる。N量が0.003%未満では、TiNの生成量が不充分であり、HAZ靱性の向上効果が小さい。一方、0.015%を超えると、固溶Nが増えすぎて、かえってHAZ靱性が劣化する。Nを含有させるときのより好ましい下限は0.004%であり、より好ましい上限は0.010%である。
[P:0.02%以下(0%を含まない)]
Pは、靭性や溶接性を劣化させる元素であり、可能な限り含有量を抑えることが好ましい。P含有量の許容される上限は0.02%までであり、これを超えると船舶用鋼材としての溶接性を確保できない。こうしたことから、P含有量は0.02%以下とした。尚、P含有量の好ましい上限は0.018%であり、より好ましくは0.015%以下とするのが良い。
[S:0.01%以下(0%を含まない)]
Sも、Pと同様に靭性や溶接性を劣化させる元素であり、可能な限り含有量を抑えることが好ましい。S含有量の許容される上限は0.01%までであり、これを超えると船舶用鋼材としての溶接性を確保できない。こうしたことから、S含有量は0.01%以下とした。尚、S含有量の好ましい上限は0.008%である。
本発明の船舶用鋼材における基本成分は上記の通りであり、残部は鉄および不可避的不純物(例えば、O等)からなるものであるが、これら以外にも鋼材の特性を阻害しない程度の成分(例えば、Zr等)も許容できる。但し、これら許容成分は、その量が過剰になると靭性が劣化するので、0.1%程度以下に抑えるべきである。
また、本発明の船舶用鋼材には、上記成分の他、必要に応じて、(1)Ni:2%以下(0%を含まない)および/またはCo:1%以下(0%を含まない)、(2)Ca:0.02%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.02%以下(0%を含まない)、(3)Se:0.5%以下(0%を含まない)、(4)Sb:0.5%以下(0%を含まない)および/またはSn:0.5%以下(0%を含まない)、(5)B:0.01%以下(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)およびNb:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、等を含有させることも有効であり、含有させる成分の種類に応じて船舶用鋼材の特性が更に改善されることになる。
[Ni:2%以下(0%を含まない)および/またはCo:1%以下(0%を含まない)]
NiおよびCoは、耐食性向上に大きく寄与する緻密な表面錆被膜を形成するのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、いずれも0.01%以上含有させることが好ましいが、過剰に含有させると溶接性や熱間加工性が劣化し、さらには大幅なコストアップとなることから、Niについては2%以下、Coについては1%以下とすることが好ましい。Ni量の下限は、より好ましくは0.05%、さらに好ましくは0.10%であり、その上限は、より好ましくは1.5%、さらに好ましくは1.0%である。である。Co量の下限は、より好ましくは0.015%、さらに好ましくは0.03%であり、その上限は、より好ましくは0.8%、さらに好ましくは0.6%である。
[Ca:0.02%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.02%以下(0%を含まない)]
CaおよびMgは、溶解することによってpH上昇作用を示し、鉄の溶解が起こっている局部アノードにおける加水分解反応によるpH低下を抑制して、腐食反応を抑制し、耐食性向上に有効な元素である。こうした効果は、いずれも0.0005%以上含有させることによって有効に発揮されるが、0.02%を超えて過剰に含有させると加工性と溶接性とを劣化させることになる。これらのより好ましい下限は0.0010%である。またこれらのより好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.010%以下とするのが良い。
[Se:0.5%以下(0%を含まない)]
Seは、腐食の溶解反応が起こっているサイトのpH低下を抑制して、腐食反応を抑制し、耐食性を向上させる作用を発揮する元素である。こうしたSeを含有させることによって、局部的なpH変化が起こりにくくなるため、腐食均一性を向上させる作用がある。また物質移動が制限されて、局所的なpH低下が起こりやすい「すきま部」においては、上記した理由によって、その効果(局部腐食抑制効果)が有効に発揮される。こうした環境で要求される耐食性を確保するためには、Seの含有量は0.005%以上とすることが好ましい。しかしながら、0.5%を超えて過剰に含有させると加工性と溶接性が劣化する。尚、Se含有量のより好ましい下限は0.008%であり、更に好ましくは0.010%以上とするのが良い。また、Se含有量のより好ましい上限は0.45%であり、更に好ましくは0.40%以下とするのが良い。
[Sb:0.5%以下(0%を含まない)および/またはSn:0.5%以下(0%を含まない)]
SbおよびSnは、Cu、Ni、Ti等による生成錆緻密化作用や、Se、Ca、Mg等によるpH低下作用を助長して、耐食性を向上させる元素である。こうした作用を発揮させるためには、いずれも0.01%以上含有させることが好ましいが、過剰に含有させると加工性と溶接性が劣化することから、0.5%以下とすることが好ましい。これらの元素のより好ましい下限はいずれも0.02%であり、より好ましい上限は0.40%である。
[B:0.01%以下(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)およびNb:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
船舶用鋼材では適用する部位によって、より高強度化が必要な場合があるが、B、VおよびNbは強度向上に有効な元素である。このうちBは、0.0001%以上含有させることによって焼入性が向上して強度向上に有効であるが、0.01%を超えて過剰に含有させると母材靭性が劣化するため好ましくない。Vは、0.003%以上含有させることによって強度向上に有効であるが、0.1%を超えて過剰に含有させると鋼材の靭性劣化を招くことになるので好ましくない。Nbは、0.003%以上含有させることによって強度向上に有効であるが、0.05%を超えて過剰に含有させると鋼材の靭性劣化を招くことになる。尚、これらの元素のより好ましい下限は、Bについては0.0003%、Vについては0.005%、Nbについては0.005%である。またより好ましい上限は、Bについては0.0090%、Vについては0.07%、Nbについては0.045%である。
本発明の船舶用鋼材は、基本的には塗装を施さなくても鋼材自体が優れた耐食性を発揮するものであるが、必要に応じて、以下の実施例に示すタールエポキシ樹脂塗料、或はそれ以外の代表される重防食塗装、ジンクリッチペイント、ショッププライマーなどの他の防食方法と併用することも可能である。こうした防食塗装を施した場合には、以下の実施例に示すように塗装膜自体の耐食性(塗装耐食性)も良好なものとなる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含されるものである。
[1.鋼板の製造]
以下の表1に示す化学成分組成の鋼を、通常の溶製法により溶製した後、溶鋼を連続鋳造機で直接スラブにし、これを熱間圧延に供して各種鋼板を製造した。この際、1500℃から1000℃までの冷却速度(表4中で「冷却速度」と記載)を変えて溶鋼を凝固させることにより、単位面積あたりのTiN系介在物の個数(表4中で「TiN系介在物」と記載)を変化させた。この冷却速度は、連続鋳造機の冷却水量や冷却方法を変えることにより調整した。このようにして得た鋼板を切断および表面研削して、以下の耐食性および溶接性評価のための試験片を作成した。
[2.耐食性の評価]
上記のようにして得た鋼板から、100×100×25(mm)の大きさの試験片を作製した(試験片A)。試験片Aの外観形状を図1に示す。
また図2に示すように20×20×5(mm)の小試験片4個を、100×100×25(mm)の大試験片(前記試験片Aと同じもの)に接触させて、すきま部を形成した試験片Bを作製した。すきま形成用の小試験片と大試験片とは同じ化学成分組成の鋼材として、表面仕上げも前記試験片Aと同じ表面研削とした。そして小試験片の中心に5mmφの孔を、基材側(大試験片側)にねじ孔を開けて、M4プラスチック製ねじで固定した。
更に、平均厚さ250μmのタールエポキシ樹脂塗装(下塗り:ジンクリッチプライマー)を全面に施した試験片C(図3)も用いた。そして防食のための塗膜に傷が付いて、素地の鋼材が露出した場合の腐食進展度合いを調べるために、試験片Cの片面には素地まで達するカット傷(長さ:100mm、幅:約0.5mm)をカッターナイフで形成した。
前記表1に示した各化学成分組成の供試材について、試験片A、試験片Bおよび試験片Cを夫々5個ずつ用い腐食試験に供した。このときの腐食試験の方法は次の通りである。
(腐食試験の方法)
(腐食試験A)
電気防食が作用しないバラストタンク内の上部などの湿潤大気雰囲気を模擬して、海塩粒子を付着させて湿潤状態に保持する腐食試験を行った。具体的には、兵庫県加古川市にて採取した実海水7.5mLをほぼ均一に試験面に滴下して、乾燥させた試験片を温度:50℃、湿度:95%RHの恒温恒湿試験槽内に水平に設置して腐食させた。試験時間は6ヶ月間であり、1ヶ月毎に実海水5.0mLを追加で試験面に滴下した。この試験には、前記試験片Aおよび試験片Bを用いて、耐全面腐食性、腐食均一性および耐すきま腐食性を評価した。
(腐食試験B)
原油タンク内の上甲板の腐食環境を模擬して、温度を50℃に保持した試験槽内に試験片を水平に設置して、組成:5vol%O2−10vol%CO2−0.01vol%SO2−0.3vol%H2Sの腐食性ガスを1L/min通気させて、試験片を腐食させた。このとき、試験槽内は常時水蒸気飽和状態となるように湿度は98%RH以上に制御して、湿潤状態を保持した。試験時間は6ヶ月間である。この試験には、1ヶ月毎に実海水5.0mLを追加で試験面に滴下した。この試験には、前記試験片Aおよび試験片Cを用いて、耐全面腐食性、腐食均一性および塗装腐食性を評価した。
(1)試験片Aについては、試験前後の重量変化を平均板厚減少量D−ave(mm)に換算し、試験片5個の平均値を算出して、各供試材の全面腐食性を評価した。また、触針式三次元形状測定装置を用いて、試験片Aの最大侵食深さD−max(mm)を求め、平均板厚減少量[D−ave(mm)]で規格化して(即ち、D−max/D−aveを算出して)、腐食均一性を評価した。尚、試験後の重量測定および板厚測定は、クエン酸水素二アンモニウム水溶液中での陰極電解法[JIS K8284]により鉄錆等の腐食生成物を除去してから行った。
(2)試験片Bについては、すきま部(接触面)の目視観察を行って、すきま腐食発生の有無を調べ、すきま腐食が認められる場合には、上記陰極電解法により腐食生成物を除去し、触針式三次元形状測定装置を用いて、最大すきま腐食深さD−crev(mm)を測定した。
(3)塗装処理を施した試験片C(カット傷付き)については、カット傷に垂直方向の塗膜膨れ幅をノギスで測定し、試験片5個の最大値を最大膨れ幅と定義した。
上記耐全面腐食性(D−ave)、腐食均一性(D−max/D−ave)、耐すきま腐食性(D−crev)、塗装耐食性(膨れ面積率および最大膨れ幅)の評価基準は以下の表2に示す通りである。腐食試験の結果を以下の表3に示す。
これらの結果から次のように考察できる。いずれの腐食試験においても、Al、CuおよびCrの含有量が本発明で規定する適正範囲を満足しないもの(No.2〜6)は、従来の普通鋼(No.1)に比べて耐全面腐食性はやや改善しているが、腐食均一性と塗装耐食性について改善効果は認められない。
これに対してAl、CuおよびCrを適正量含有させたもの(No.7〜28)はいずれも、これらの元素の添加による相乗効果で、耐全面腐食性が大きく向上しており、腐食均一性、耐すきま腐食性および塗装耐食性も向上していることが分かる。こうした耐食性向上には、Al酸化物とCr酸化物とが共存する安定な酸化物防食皮膜と、Cu含有により形成される緻密な錆皮膜の保護作用が相乗的に寄与しているものと考えられる。
このうちAl、CuおよびCrの併用に加えて、更にNi、Co、Ti、Ca、Mg等の耐食性向上元素を含有させることによって(No.10〜28)、鋼材の耐全面腐食性が大幅に向上していることが分かる。特に、CaやMgを含有させることによって、腐食均一性や耐すきま腐食性の向上が認められており(No.12、13、15、16)、これらの元素の局部pH低下を抑制する作用によって、局所的な腐食が抑制されたものと推察される。
またNiまたはCoを含有することによって、塗装耐食性の向上効果が認められ(No.10、11等)、これらの元素の錆緻密化作用の相乗効果により塗膜傷部における腐食進行が阻止されたものと推察される。
更にSeを含有させることによって、耐食性は大幅に向上することが明らかであり(No.24、25)、Seによる局所的なpH変化の抑制効果がすきま腐食等の局部腐食に対する耐食性の向上に寄与しているものと考えられた。尚、No.7、8の結果から明らかなように、([Cr]/[Al])の値を適切に調整することによって、各種耐食性が大幅に優れた結果となっていることが分かる。
[3.溶接性試験]
上記のようにして得た鋼板から、50(mm)の厚みの試験片Dを作成した。この試験片の単位面積あたりのTiN系介在物の個数を以下のようにして計測し、またHAZ靱性を評価するため、溶接性試験に供した。
(TiN系介在物の個数の計測)
試験片DをTEMおよびTEMに付属するEDXで観察することにより、TiN系介在物の個数を計測した。具体的には観察倍率6万倍および観察視野1.5μm×1.5μmでのTEMにより、試験片の表面から深さ方向へt/4(表面から12.5mm)の位置を観察し、その位置で存在する介在物の中で、EDXによりTiおよびNを、それぞれ0.3%以上含有するTiN系介在物を確認し、その個数を測定して、単位面積(mm2)あたりの個数を計算して求め、5つの計測箇所からTiN系介在物の個数の平均値を求めた。結果を表4に示す。
(溶接性試験)
試験片Dを、1400℃に加熱して50秒保持した後、800℃から500℃までを400秒で冷却する熱サイクルに供した後(入熱60kJ/mmのエレクトロガスアーク溶接におけるボンド部に相当)、JIS4号試験片を3本採取した。このJIS4号試験を用いて、−40℃でのVシャルピー衝撃試験を行い、3本の吸収エネルギー(vE-40)の平均値を求めた。結果を表4に示す。この溶接性試験では、vE-40が55J以上のものがHAZ靱性に優れると評価した。
表4に示されるように、TiN系介在物(Ti)を含有しないもの(No.1等)や、本発明で規定する適正範囲を超えてTiまたはNを含有するもの(No.12、18、20、22、24および25)は、55J未満のvE-40を有し、HAZ靱性に劣っている。
次に、本発明で規定する適正範囲内でTiおよびNを含有するもの(No.14、16、17、19、21、23、27および28)の、1500℃から1000℃までの冷却速度、TiN系介在物の個数、およびHAZ靱性(vE-40)の関係について考察する。まずこれらについて、1500℃から1000℃までの冷却速度と鋼材の単位面積あたりのTiN系介在物の個数との関係を示すグラフを図4に、鋼材の単位面積あたりのTiN系介在物の個数とvE-40との関係を示すグラフを図5に示す。
表4、並びに図4および5から示されるように、本発明で規定する適正範囲内でTiおよびNを含有するものの中で、冷却速度が1.0×10-3(℃/秒)以上であり、TiN系介在物の個数が1.0×108(個/mm2)以上であるもの(No.14、16、17、21、23および27)は、いずれもvE-40が55J以上であり、大入熱溶接(入熱60kJ/mmの溶接におけるボンド部に相当)におけるHAZ靱性が良好である。しかし冷却速度が1.0×10-3(℃/秒)未満であり、そのためにTiN系介在物の個数が1.0×108(個/mm2)未満であるもの(No.19および27)は、HAZ靱性が劣っている。
腐食試験に用いた試験片Aの外観形状を示す説明図である。 腐食試験に用いた試験片Bの外観形状を示す説明図である。 腐食試験に用いた試験片Cの外観形状を示す説明図である。 TiおよびNを適正範囲で含有する実施例の、1500℃から1000℃までの冷却速度とTiN系介在物の個数との関係を示すグラフである。 TiおよびNを適正範囲で含有する実施例の、鋼材の単位面積あたりのTiN系介在物の個数とvE-40との関係を示すグラフである。

Claims (7)

  1. C:0.01〜0.2%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜2%、Al:0.05〜0.5%、Cu:0.010〜1.5%、Cr:0.010〜1%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.003〜0.015%を夫々含有する他、P:0.02%以下(0%を含まない)およびS:0.01%以下(0%を含まない)に夫々抑制し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    単位面積あたりのTiN系介在物の個数が、1.0×108(個/mm2)以上であることを特徴とする耐食性および大入熱溶接時のHAZ靱性に優れた船舶用鋼材。
  2. Crの含有量[Cr]とAlの含有量[Al]の比の値([Cr]/[Al])が1〜15である請求項1に記載の船舶用鋼材。
  3. 更に、Ni:2%以下(0%を含まない)および/またはCo:1%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の船舶用鋼材。
  4. 更に、Ca:0.02%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.02%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の船舶用鋼材。
  5. 更に、Se:0.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の船舶用鋼材。
  6. 更に、Sb:0.5%以下(0%を含まない)および/またはSn:0.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の船舶用鋼材。
  7. 更に、B:0.01%以下(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)およびNb:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の船舶用鋼材。
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