JP2007184227A - 二次電池用活物質層及びその形成方法並びに二次電池用活物質層形成用塗布液 - Google Patents

二次電池用活物質層及びその形成方法並びに二次電池用活物質層形成用塗布液 Download PDF

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Abstract

【課題】 電解液に対する耐性及び親和性を兼ね備え、長寿命かつ安定な二次電池用活物質層及びその形成方法並びに二次電池用活物質層形成用塗布液を提供する。
【解決手段】 ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を含有する塗布液を基材に塗布して前記ラジカル化合物を含むラジカル化合物層を形成し、その後、前記反応性部位を反応させて二次電池用活物質層とする。
【選択図】 なし

Description

本発明は、二次電池用活物質層及びその形成方法並びに二次電池用活物質層形成用塗布液に関する。
安定ラジカル分子を高分子化したラジカルポリマーが、酸化還元樹脂の一つとして1970年代から多く合成されてきている。このようなラジカルポリマーは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ(以下「TEMPO」と略す。)が置換したアクリレートやスチレン誘導体のポリマーに代表され、このポリマーは、例えばアルコールのアルデヒドやケトンへの酸化触媒能等を示す。
ラジカルポリマーの作用メカニズムは、可逆的な酸化還元(レドックス)対にある。ニトロキシドラジカルを例として、作用メカニズムを下記に示す。下記に示すように、ニトロキシドラジカルは一電子酸化されてオキソアンモニウムカチオンになり、このオキソアンモニウムカチオンが還元されるとラジカルが再生する。もう一方のレドックス対では、ニトロキシドラジカルが一電子還元されてアミノキシアニオンに変換され、このアミノキシアニオンが酸化されるとラジカルに戻るという酸化還元が生起する。
Figure 2007184227
近年、このラジカルのレドックス対を蓄電材料、すなわち、少なくとも正極、負極及び電解液を構成要素とする二次電池の電極活物質として着眼した研究が活発になっており、例えば、ラジカル化合物を電極活物質として用いた二次電池が開示されている(特許文献1〜3参照)。ラジカルのレドックス対を電極活物質として組み込むので、有機ラジカル電池と呼ばれている(非特許文献1及び2参照)。電極活物質として用いるラジカル化合物は、電極としての成形性や接着性だけでなく、電解液が容易に浸透するという性質(電解液との親和性)、及び電解液中に溶出しないという性質(電解液への耐性)、さらに電池の高容量化を実現するエネルギー密度の高さが求められている。
上記ニトロキシドラジカルを分子構造に有するポリマーを電極活物質に用いる利点は次のようにまとめられる。(1)化学的に極めて安定である。例えばラジカル濃度が室温大気下で半年以上にわたり減少しないポリマーが存在する。(2)スピン密度はN−Oに局在しており、ラジカル当たりの分子量が小さいため、重量当たりの電荷容量が大きい。(3)すべてのモノマー単位で電荷を担えるので、100%近い究極のヘビードーピングが可能となる。(4)純有機物であり、焼却可、無臭、低毒性は従来の電極材料にはない利点である。(5)レドックスの速度が極めて速く、電池として高いレート特性・高出力を発現する。このような、ニトロキシドラジカルを分子構造に有するポリマーとして、ごく最近TEMPO部位がモノマー構造単位に置換したノルボルネンポリマーが報告されており、間接酸化触媒(メディエーター)としての利用が開示されている(非特許文献3参照)。また、先に述べたアクリレートやスチレン誘導体のポリマーに比べ、ノルボルネン系ポリマーには様々な利点がある。例えば、重合触媒の選択によって分子量制御が容易であり、比較的高分子量のラジカルポリマーが得られる。また、成膜性・薄膜形成能に優れ、他材料との接着・密着性が高く、有機溶媒に対する親和性も高い。しかしながら、この非特許文献3に記載されたTEMPO置換ノルボルネンポリマーは、ラジカル電池用電極活物質としての利用を検討された例はなく、また、このポリマーをそのまま電極活物質に用いると、有機溶媒への本質的な溶解性の高さに起因して有機溶媒を含有する電解液中へ容易に溶出し安定した酸化還元挙動(充放電特性)が得られ難く、実用的な寿命・耐久性が得られないという問題が生じる。
ここで、有機溶媒に対して溶解性の高いラジカルポリマーとその有機溶媒とを用いてラジカル電池の電極活物質を形成する場合、有機溶媒に対して溶解性が高いラジカルポリマーがそのまま活物質層の構成成分となるため、有機溶媒を含有する電解液中へラジカルポリマーが溶出しやすく、安定した酸化還元挙動を得難く、実用的な寿命・耐久性が得られない。一方、有機溶媒に対して不溶性又は難溶性のラジカルポリマーとその有機溶媒を用いてラジカル電池の電極活物質を形成する場合は、スラリー状にして集電体等の基材に塗布し、乾燥により溶媒を除去するという方法で活物質層を作製する。この方法では、ラジカルポリマーの有機溶媒への溶解性は低いのでラジカルポリマーは有機溶媒を含有する電解液中へ溶出し難くなるが、スラリーの分散状態を均一かつ安定に保つことが必要になるため、塗布方法、例えば、各種の印刷方法の種類やプロセス的な制限を受けやすく成型加工性にも劣るという欠点があり、より簡便で安価な製造プロセスの実現を阻害する要因となる。なお、スラリー均一性の欠如は、均一で密な電極活物質層を形成するためには不利であり、結果として充放電サイクルの不安定化、電池特性のバラツキ、電池容量の低下を招き、不安定で寿命の短い二次電池になるという問題が生じる。
特開2002−151084号公報 特開2002−110168号公報 特開2002−117853号公報 K. Nakahara et al., Chem. Phys. Lett., 359, 351-354 (2002). H. Nishide et al., Electrochim. Acta, 50, 827-831 (2004). C. Tanyeli et al. Tetrahedron Letters, Vol. 44, 1639 (2003)
本発明はこのような事情に鑑み、電解液に対する耐性及び親和性を兼ね備え、長寿命かつ安定な二次電池用活物質層及びその形成方法並びに二次電池用活物質層形成用塗布液を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために研究を重ねた結果、ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を含有する塗布液を基材に塗布してラジカル化合物を含むラジカル化合物層を形成し、その後、ラジカル化合物の反応性部位を架橋又は重合することにより、電解液に対する耐性及び親和性が高く、長寿命かつ安定な二次電池の活物質として有用な電極活物質層を形成できることを知見し、本発明を完成させた。
かかる本発明の第1の態様は、ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を含有する塗布液を基材に塗布して前記ラジカル化合物を含むラジカル化合物層を形成し、その後、前記反応性部位を反応させて二次電池用活物質層とすることを特徴とする二次電池用活物質層の形成方法にある。
本発明の第2の態様は、前記塗布液が、架橋剤及び重合開始剤の少なくとも一方を含有することを特徴とする第1の態様に記載の二次電池用活物質層の形成方法にある。
本発明の第3の態様は、前記塗布液が、導電補助材を含有しないことを特徴とする第1又は2の態様に記載の二次電池用活物質層の形成方法にある。
本発明の第4の態様は、前記塗布液が、有機溶媒を含有し、前記ラジカル化合物が前記有機溶媒に溶解していることを特徴とする第1〜3の何れかの態様に記載の二次電池用活物質層の形成方法にある。
本発明の第5の態様は、前記二次電池用活物質層が、前記有機溶媒に実質的に不溶であることを特徴とする第4の態様に記載の二次電池用活物質層の形成方法にある。
本発明の第6の態様は、前記ラジカル化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする第1〜5の何れかの態様に記載の二次電池用活物質層の形成方法にある。
Figure 2007184227
(式(1)中、R1〜R8は置換又は無置換のアルキル基を表し、nは整数を表す。)
本発明の第7の態様は、ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を含有することを特徴とする二次電池用活物質層形成用塗布液にある。
本発明の第8の態様は、前記塗布液が、架橋剤及び重合開始剤の少なくとも一方を含有することを特徴とする第7の態様に記載の二次電池用活物質層形成用塗布液にある。
本発明の第9の態様は、前記塗布液が、導電補助材を含有しないことを特徴とする第7又は8の態様に記載の二次電池用活物質層形成用塗布液にある。
本発明の第10の態様は、前記塗布液が、有機溶媒を含有し、前記ラジカル化合物が前記有機溶媒に溶解していることを特徴とする第7〜9の何れかの態様に記載の二次電池用活物質層形成用塗布液にある。
本発明の第11の態様は、前記ラジカル化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする第7〜10の何れかの態様に記載の二次電池用活物質層形成用塗布液にある。
Figure 2007184227
(式(1)中、R1〜R8は置換又は無置換のアルキル基を表し、nは整数を表す。)
本発明の第12の態様は、ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を基材に塗布した後、前記反応性部位を反応させることにより得られることを特徴とする二次電池用活物質層にある。
本発明の第13の態様は、ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を有機溶媒に溶解した塗布液を基材に塗布した後、前記反応性部位を反応させて前記有機溶媒に対して実質的に不溶性としたことを特徴とする第12の態様に記載の二次電池用活物質層にある。
本発明の第14の態様は、前記ラジカル化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする第12又は13の態様に記載の二次電池用活物質層にある。
Figure 2007184227
(式(1)中、R1〜R8は置換又は無置換のアルキル基を表し、nは整数を表す。)
本発明のラジカル化合物を含有する二次電池用活物質層形成用塗布液を塗布した後、ラジカル化合物を架橋又は重合することにより、有機溶媒を含有する電解液に対する耐性及び親和性を兼ね備え、安定かつ長寿命な二次電池用活物質層を容易に形成することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の二次電池用活物質層の形成方法は、ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を含有する塗布液を基材に塗布してラジカル化合物層を形成する工程と、そのラジカル化合物層のラジカル化合物の反応性部位を反応させて二次電池用活物質層とする工程を具備する。なお、二次電池用活物質層とは、少なくとも正極、負極及び電解液を構成成分とする二次電池に用いられ、充電・放電反応といった電極反応に直接関与する活物質からなる層を意味する。本発明の二次電池用活物質層は、二次電池の電極活物質の役割を果たす層であり、正極活物質、負極活物質の何れに用いることもできる。
ラジカル化合物の架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を反応させる、即ち、ラジカル化合物を架橋又は重合することにより、ラジカル化合物が網目状架橋構造又は三次元架橋構造を形成するため、電解液への溶出がなく、かつ適度に膨潤する親和性の高い活物質層とすることができ、この活物質層を用いると安定かつ効率的な充放電が可能な二次電池となる。また、塗布液を基材に塗布した後で、重合又は架橋させて有機溶媒に不溶化させるので、ラジカル化合物を有機溶媒に溶解させた均一な溶液を塗布液として用いることができ、均一で平坦なラジカル化合物層になるため、ラジカル化合物が存在しない不活性部位が生起し難い。したがって、形成される活物質層は高い安定性の確保と高密度化が達成でき、二次電池の活物質層とすると、安定した充放電サイクルを有し、電池特性のバラツキが少なく、電池容量が大きい二次電池を製造することができる。また、スラリー状の塗布液を用いた場合、スラリーの分散状態が悪いと、塗布方法に制限、例えば、インクジェットのノズルが詰まる等の問題が生じ、プロセス的な制限を受けやすいが、ラジカル化合物を有機溶媒に溶解させた均一な塗布液を用いることにより、そのような制限は生じず、容易に二次電池用活物質層を形成することができるという効果も奏する。さらに、スラリー状の塗布液を用いた場合に比べて、活物質層の基材に対する密着性が高く、剥がれ落ち難いという利点もある。
基材に塗布する塗布液は、ラジカル化合物を含有する。ラジカル化合物は、分子中に反応性部位とラジカル部位とを有する化合物であれば、その構造は特に制限はない。また、ラジカル化合物は、ラジカル化合物の前駆体となる化合物、すなわち、電極反応等で酸化又は還元されてラジカル状態となる化合物でもよく、この場合、塗布した後に電極反応等の酸化もしくは還元反応によりラジカル部位を生起させればよい。
ここで、ラジカル部位とは、不対電子対を有する化学種としてのラジカルを化学構造中に含むもの、又は、電極反応等の酸化もしくは還元反応によってラジカルを生起するものを意味する。このラジカル部位は電気化学的に可逆的な酸化還元反応が可能であるため、二次電池の電極活物質として作用する。二次電池の電極活物質としての機能を考慮すると、平衡状態におけるラジカル濃度(電子スピン共鳴スペクトル等で求められる)が、少なくとも1020spins/g以上である状態が1秒以上継続されるラジカル化合物が好ましい。なお、このような安定なラジカル化合物は、通常周囲の化学構造中に存在する置換基の立体障害や電子の非局在化によって安定化されている。ラジカル部位としては、例えば、カチオンラジカル、アニオンラジカル又は中性ラジカルの何れのラジカル種でもよい。このようなラジカルとしては、ニトロキシラジカル、窒素ラジカル、オキシラジカル、硫黄ラジカル、ホウ素ラジカル等が挙げられる。また、電極反応等の酸化もしくは還元反応によってラジカルを生起する化学構造としては、例えば、ヒドロキシルアミン、オキソアンモニウムカチオン、ヒドロキシル基、チオール基、アミノ基等を含む化学構造が挙げられる。
また、反応性部位は、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方である。架橋性部位とは、化学反応による共有結合の生成、あるいは水素結合やイオン結合の生成により分子間に結合を生じる架橋性の反応点を意味し、ラジカル化合物がこの反応点を介して架橋反応すると高分子量化する。架橋性部位の反応は、架橋性部位同士が直接反応する場合の他に、架橋剤等の他の化合物を介して反応してもよい。ラジカル化合物が高分子化合物である場合、高分子鎖中の架橋点の割合に依存して、ある程度の架橋点間距離で、三次元的又は網目状の架橋高分子構造が形成されることになる。このような架橋性部位は、架橋反応が起きる官能基を有する化学構造を含み、官能基の組み合わせ、又は官能基と架橋剤との組み合わせによって、様々な結合様式で結合する。結合様式としては共有結合、イオン結合、配位結合、金属結合、水素結合、分子間力による結合があるが、共有結合による架橋が好ましい。架橋性部位の化学構造としては、例えば、エチレンやアセチレン等の不飽和結合や、メチレン等のアルキレン基、ニトリル基、メルカプト基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、メチル基等のアルキル基、アミド基、アルキルハライド、チオニルクロライド、スルホン酸、カルボン酸、クロロスルホン基、エステル基、メチロール基、スルホン酸残基、スルホン酸塩残基、アジド基、イソシアネート基、ハロゲン置換基、アルコール残基、フェノール残基、チオール残基、スルホン基、シラノール基、シンナモイル基、シンナミリデン基、アクリロイル基、ジアゾ基、ジチオカルバメート基、酸無水物基、活性メチレン基、クマリン基等の官能基を含む化学構造が挙げられる。
重合性部位とは、重合反応によって共有結合が生成する反応点を意味し、ラジカル化合物がこの反応点を介して重合反応すると高分子量化する。重合性部位の反応は、重合性部位同士が直接反応する場合の他に、架橋剤等の他の化合物を介して反応してもかまわない。重合部位が一分子内に複数存在する場合は、重合反応により、網目状又は三次元的な架橋高分子構造が形成される。このような重合性部位としては、例えば、エチレンやアセチレン等の不飽和結合やエポキシ基、イソシアネート基等の官能基を含む化学構造が挙げられる。
ラジカル化合物としては、例えば、ニトロキシラジカル、窒素ラジカル、オキシラジカル、硫黄ラジカル、ホウ素ラジカル等のラジカル種を含むラジカル部位と、不飽和結合部位を有する化学構造を含む反応性部位とを有する低分子化合物、オリゴマー、高分子化合物などが挙げられ、それぞれ単独でも混合物であってもよい。なお、架橋反応や重合反応によって有機溶媒からなる電解液に対して不溶な活物質層を形成するためには、オリゴマーや高分子化合物、即ち分子量が大きい化合物がラジカル化合物の主成分となっていることが好ましい。このようなオリゴマーや高分子化合物としては、例えば、下記式(1)に示す構造を有する高分子化合物や、下記式(1)の繰り返し単位と反応性部位を有する(1)式以外の繰返し単位とを有する高分子化合物等が挙げられる。なお、下記式(1)の構造を有する高分子化合物はノルボルネン骨格を有するモノマーを、第二世代Grubbs触媒等のメタセシス触媒を用いて開環重合させることにより製造することができる。
Figure 2007184227
(式(1)中、R1〜R8は置換又は無置換のアルキル基を表す。また、nは整数を表し、好ましくはn=5〜200、更に好ましくはn=10〜100である。)
上記一般式(1)のR1〜R8は、置換又は無置換のアルキル基であればよく、鎖状、環状又は分岐状アルキル基の何れでもよいが、好ましくはC1〜C10、より好ましくはC1〜C4のアルキル基である。C1〜C4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。また、アルキル基は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子等で置換されていてもよい。
塗布液は、形成される二次電池用活物質層の有する活物質としての性能や形成の容易性を高めるために、有機溶媒や、重合開始剤、架橋剤、導電補助材、結着剤、又は電解質等の添加剤を含有してもよい。なお、塗布液がラジカル化合物を有機溶媒に溶解した溶液状であると、有機溶媒に不溶性である添加剤が添加されていても、ラジカル化合物を溶液中に均一に分散させることができ、ラジカル化合物と添加剤との混合が十分になされる。
有機溶媒としては、一般的な有機溶媒を用いることができる。例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロクロロエチレン、テトラクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。その他、二硫化炭素、酢酸エチル、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン、アニソール、スルホラン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等が挙げられる。特に、二次電池の構成要素である電解液で用いられる有機溶媒を用いて、ラジカル化合物を溶解することが好ましい。なお、ラジカル化合物が液状の場合は、ラジカル化合物そのもの及び必要に応じて添加する添加剤からなり、有機溶媒を含有しない塗布液とすることもできる。
架橋剤は、ラジカル化合物の架橋性部位と架橋反応を起こす化合物群、架橋反応の触媒となる化合物群、又は、それら化合物群の前駆体である。ラジカル化合物を架橋反応と共に重合反応させる化合物群も含まれる。例えば、熱や光による分解によって架橋反応を開始させる化学種を発生させる化合物、分解を伴わず架橋反応の触媒になる化合物、ラジカル化合物と結合して架橋構造を構築する化合物等が挙げられる。したがって、重合反応や架橋反応に関与する重合性あるいは架橋性の単官能モノマー又は多官能モノマー等の反応性希釈剤も、架橋剤である。これらの架橋剤の例としては、硫黄、有機過酸化物、単官能ビニル化合物、多官能ビニル化合物、単官能エポキシ化合物、多官能エポキシ化合物、ジアゾニウム塩、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩、アリールセレノニウム塩、スルホン酸エステル、イミドスルホネート類、ビスアジド等の多官能アジド化合物、ナフトキノンジアジド誘導体、多官能イソシアネート、多官能アルコール、多官能アミン、酸無水物類等が挙げられる。また、「架橋剤ハンドブック」(山下晋三、金子東助 編、(株)大成社発行、1981年)に記載の架橋剤が挙げられる。
重合開始剤は、熱や光によってラジカル化合物の重合性部位の重合反応を開始させる化合物群や、熱や光による分解によって重合反応を開始させる化学種を発生させる前駆体である。例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤が挙げられ、具体的には、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイルに代表されるアゾ化合物や過酸化物等、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン、チオキサントン、キノン、チオアクリドン、ジアゾニウム塩、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩、アリールセレノニウム塩、スルホン酸エステル、イミドスルホネート類が例示される。
導電補助材は、電子伝導性を補助して集電を容易にし、電気抵抗を低減する効果があるものである。例えば、炭素素材、金属材料、導電性高分子、イオン伝導材などが挙げられ、具体的には、グラファイト、ケッチェンブラック、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素素材、ニッケル、チタン、銅、ステンレススチール、銀、金、白金、アルミニウム、コバルト、鉄、クロム等の金属材料、ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子、高分子ゲル電解質、高分子固体電解質等が例示できる。
結着剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリフッ化ビリニデン、テトラフルオロエチレンポリマー、フッ化ビリニデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合ポリマー等のフッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン−ポリビニルアルコール共重合体、スチレン−ブタジエンラバー、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
電解質としては、室温で液状又は固体の電解質塩を有機溶媒に溶解した電解液、高分子材料に電解液を保持したゲル電解質が挙げられる。電解質塩としては、例えば、リチウム塩類、四級アンモニウム塩類が挙げられる。リチウム塩としては、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22等が例示される。四級アンモニウム塩類としては、カチオン部としてテトラエチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、メチルプロピルピロリジニウム、メチルブチルピロリジニウム、メチルプロピルピペリジニウム、メチルブチルピペリジニウム等のアルキルアンモニウムカチオン、エチルメチルイミダゾリウム、ジメチルエチルイミダゾリウム、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム等の芳香族アンモニウムカチオン、アニオン部としてBF4 -、PF6 -、(CF3SO22-、(C25SO22-、AlCl4 -,ClO4 -が例示され、これらアニオン部とカチオン部を組み合わせた四級アンモニウム塩類等が挙げられる。溶媒としては、例えば、スルホラン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等が挙げられる。また、イオン液体を電解質又は電解質塩として用いてもよい。
このような塗布液を基材に塗布してラジカル化合物層を形成した後、ラジカル化合物を架橋又は重合反応させることにより、二次電池用活物質層を形成することができる。二次電池用活物質層の膜厚に特に制限は無く、塗布液の粘度等を制御することにより、様々な膜厚の二次電池用活物質層にすることができる。ラジカル化合物を溶媒に溶解した均一な溶液を塗布液として用いる場合、二次電池用活物質層を薄膜にすることができ、例えば、二次電池用活物質層の膜厚を100μm以下、更には50μm以下とすることもできる。このように薄膜にすると、電子のホッピングで二次電池用活物質層に導電性が付与されるため、導電補助材を含有しなくても、二次電池に適した導電性を有する活物質層となる。
塗布液を塗布する基材の種類に制限はなく、例えば、電極集電体や、表面に電極集電体層が形成された基材が用いられる。例えば、アルミニウム及びその合金、リチウム及びその合金、ニッケル、ステンレス、金、銀、銅、導電性の炭素電極素材、ガラス、プラスチック等が挙げられる。ガラスやプラスチックなど、通常、表面が絶縁体である場合は原則として表面に導電性層を設ける。導電性層としては、アルミニウム及びその合金、リチウム及びその合金、ニッケル、金、銀、銅、ITO等の導電体や、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子が好適に利用できる。なお、基材及びその表面が絶縁体であっても、最終的に蓄電デバイスを構成したときに電極活物質層として機能すればよく、例えば、対極との間に積層されるセパレーターを基材として、その上に、塗布液を塗布してもよい。セパレーターとしては、例えば、不織布や多孔性フィルムが挙げられる。
塗布する方法に特に制限はないが、例えば、スピンコート、ブレードコート、スプレーコート等の各種コーティング法、さらに、インクジェット印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷などの各種印刷法を好適に利用することができる。また、塗布工程又はその後に圧力をかけてローラー延伸する方法も用いることができる。
塗布後、ラジカル化合物を架橋又は重合させる方法に特に制限はない。例えば、加熱や、光照射や電子線等の放射線照射により、ラジカル化合物の反応性部位を架橋又は重合させればよく、また、架橋反応及び重合反応の両方を行ってもよい。架橋反応としては、熱架橋反応あるいは光架橋反応等で化学結合を形成する形態が好ましい。また、重合反応としては光重合反応や熱重合反応が挙げられ、重合形態としてはラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合などが挙げられる。なお、ラジカル重合は、ラジカル部位の欠損を招く場合があるので、カチオン重合、アニオン重合がより好ましい。系中の水分の影響を受けやすいという点ではカチオン重合がより好ましく、その場合、例えば、アリールヨードニウム塩やアリールスルホニウム塩に代表させる酸発生剤を添加した塗布液を用いることにより、カチオン重合させることができる。
また、塗布液を塗布して得たラジカル化合物層の一部を選択的に架橋又は重合させて不溶化し、未架橋又は未重合部分を溶媒で洗い流すことにより、所望の部分にだけ活物質層を形成するパターニングも可能となる。部分選択的な架橋や重合を行うには、例えば、部分的な加熱、又はマスク等を介した部分的な光照射、放射線照射を行えばよい。所望の部分にだけ、活物質層を形成することができ、材料の無駄がなく低コストの製造プロセスが実現できる。このような活物質層の作製プロセスを含む電池製造プロセスにおいて、加熱冷却サイクルが律速になる場合は、高スループット化を図るために、光又は放射線照射による光架橋や光重合を用いることが好ましい。なお、光照射による光架橋又は光重合の効率を高めるために、増感剤を塗布液に添加してもよい。
このようにして形成された二次電池用活物質層は、塗布液に含有させた有機溶媒に実質的に不溶であることが好ましい。有機溶媒に実質的に不溶であるとは、二次電池用活物質層が電池を使用する温度範囲内で有機溶媒へ溶出しないことをいう。少なくとも30℃以下の温度範囲で不溶であることが好ましく、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは120℃以下の温度範囲で不溶であることが好ましい。二次電池用活物質層が溶解しない有機溶媒を、二次電池の電解液を構成する溶媒にすると、二次電池用活物質層の電解液への溶出が実質的になく、その結果、安定かつ効率的な充放電が可能となる。
上記本発明の形成方法で得られた二次電池用活物質層は、二次電池中の有機溶媒を含有する電解液に対する耐性及び親和性を兼ね備えるため、二次電池の活物質とすると安定かつ効率的な充放電が可能な二次電池となる。例えば、上記本発明の形成方法で得られた二次電池用活物質層を正極活物質とし、負極活物質としてリチウム等を、電解液としてリチウム塩の有機溶媒溶液等を用いて、二次電池とすることができる。
本発明の二次電池用活物質層及びその形成方法並びに二次電池用活物質層形成用塗布液を以下に示す実施例に基づいて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(実施例1−1) TEMPO置換ノルボルネンモノマーの合成
5−ノルボルネン−2,3−カルボン酸無水物2.0g(12.2mmol)をベンゼン180mlに溶解し、4−ヒドロキシ−TEMPO 4.2g(24.4mmol)、トリエチルアミン(TEA)2.4ml(17.2mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.63g(5.15mmol)を加え、12時間還流撹拌した。放冷後、2−クロロ−1−メチルピリジニウムヨージド3.9g(15.2mmol)を加え、室温で12時間反応させた。反応後沈殿をろ過し、ろ液をエーテルで抽出、水洗浄後、溶媒を除去した。この残留物をクロロホルム/ヘキサン/酢酸エチル(混合体積比6/3/1)を展開溶媒としてシリカゲルによるカラム精製した後、ヘキサン/ジクロロメタン(混合体積比8/2)により再結晶し、下記式(2)で表されるTEMPO置換ノルボルネンモノマーを橙色結晶として得た(Yield:40%)。
Figure 2007184227
得られたTEMPO置換ノルボルネンモノマーは、endo−,endo−誘導体とendo−,exo−誘導体との混合物であり、それぞれカラム精製により単離後、二次元NMRより同定した結果を以下に示す。
endo−,endo−誘導体
1H−NMR(CDCl3,600MHz,ppm,reduced with phenylhydrazine):d=6.26(bs,2H,olefinic=CH),5.01(m,2H,piperidine methine),3.22(bs,2H,endo−methine),3.14(bs,2H,bridgehead CH),1.93(m,4H,piperidine CH2),1.65(m,4H,piperidine CH2),1.47(m,1H,bridgecarbon CH2),1.31(m,1H,bridgecarbon CH2),1.27(s,12H,TEMPO CH3),1.21(d,12H,TEMPO CH3);13C−NMR(CDCl3,150MHz,ppm):d=175.9,138.7,70.2,64.5,52.5,52.1,50.3,47.4,35.4,24.3;IR(cm−1):2974(nC−H),1740(nC=O),1178,1159(nC−O);Mass:m/z 490(found),490.6(calcd);Found:C,66.0;H,8.8;N,5.7%.Calcd for C27H42N2O4:C,66.1;H,8.6;N,5.7%;Rf 0.65(ethyl acetate/hexane=1/1).
endo−,exo−誘導体
1H−NMR(CDCl3,600MHz,ppm,reduced with phenylhydrazine):d=6.29(dd,1H,olefinic=CH),6.07(dd,1H,olefinic=CH),5.08(m,1H,piperidine methine),5.01(m,1H,piperidine methine),3.33(t,1H,endo−methine),3.25(bs,1H,bridgehead CH),3.10(bs,1H,bridgehead CH),2.63(dd,1H,exo−methine),1.93(b,4H,piperidine CH2),1.68(b,4H,piperidine CH2),1.60(d,1H,bridgecarbon CH2),1.45(dd,1H,bridgecarbon CH2),1.28(bs,12H,TEMPO CH3),1.24(s,6H,TEMPO CH3),1.22(s,6H,TEMPO CH3);13C−NMR(CDCl3,150MHz,ppm):d=177.8,176.7,141.5,138.8,70.7,70.5,64.5,64.2,51.9,51.6,51.3,51.2,49.5,47.3,35.1,24.5;Mass:m/z 490(found),490.6(calcd);Rf0.70(ethyl acetate/hexane=1/1).
(実施例1−2) 実施例1−1で得られたモノマーの重合によるTEMPO置換ノルボルネンポリマーの合成
10mlナス型フラスコ中で実施例1−1で得られたTEMPO置換ノルボルネン100mg(0.20mmol)をトルエン1.0mlに溶解した。なお、実施例1−1で得られたモノマー(TEMPO置換ノルボルネンモノマー)は、endo−,endo−誘導体とendo−,exo−誘導体との2つの異性体から成るが、混合物のまま重合に使用した。この溶液に、第二世代Grubbs触媒2.3mg(0.00270mmol)を加え、Ar雰囲気下、40℃で12時間撹拌した。その後、室温にした後、ジエチルエーテル200mlを使用して再沈殿精製し、生じた薄橙色粉末をグラスフィルターG4でろ集し、50℃で10時間減圧乾燥を行うことにより、下記式(3)で表される繰り返し単位からなるTEMPO置換ノルボルネンポリマーを得た。得られたTEMPO置換ノルボルネンポリマーの分子量を、クロロホルムを溶離液としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(カラム:東ソー株式会社製TSKgelGMHXL)を使用して測定した結果、数平均分子量13100(ポリスチレン換算)、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は1.2であった。ラジカル濃度は、ESR測定により192%、SQUID磁化測定により195%と見積もられ、定量的であった。また、得られた単独重合体は、ジクロロメタン、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、プロピレンカーボネート等の有機溶媒や、1mol/lのLiPF6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)に可溶であった。
Figure 2007184227
(実施例1−3) 塗布液の調製と活物質層の作製
実施例1−2で得られたラジカル化合物50mgと下記式(4)で表される架橋剤2,6−ビス−(4−アジドベンザル)−4−t−アミルシクロヘキサノン 2.5mgをクロロホルム2.5mlに溶解させて、塗布液を調製した。
Figure 2007184227
得られた塗布液をITO基板上にスピンコートで塗布後、ホットプレート(45℃)で1分間加熱乾燥した後、超高圧水銀ランプ(露光装置:(株)住田光学ガラス、LS−140UV)を使用して、2J/cm2(照度45mW/cm2、露光時間44秒)光照射した。得られた塗膜(二次電池用活物質層)はクロロホルム等の溶媒に不溶であり、光照射によりラジカル化合物が架橋・不溶化したことが確認された。また、触針式膜厚計で測定した膜厚は、100nmであった。
また、塗膜の電気化学的酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリー(測定条件:過塩素酸テトラブチルアンモニウムを支持電解質としてアセトニトリル溶液中、得られた塗膜を0.4〜1.2V vs.Ag/AgClの範囲を5mV/sの掃引速度で測定)により確認した。この結果、アノード側0.75Vに酸化還元波が現れ、繰り返し掃引してもピーク電流値は減少せず、極めて安定であった。ピーク電位差は5mV/s掃引時に104mV、1mV/s掃引時に49mVと狭く、電子移動の速い系であることが示唆された。
また、ビーカーセルを用いた充放電測定(条件:塗膜を作用極、リチウム金属を対極、参照極とし、1 M LiPF6 エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(混合体積比1/1)溶液を電解液としてビーカーセルを作製、定電流0.03mAで、充放電測定した。)からも安定した充放電曲線が繰り返し得られ、得られた塗膜が電極活物質層として安定に長期間機能することが確認された。なお、活物質層と電解液との親和性は高く、電解液は活物質層に容易に染み込んだ。
(光架橋によるラジカル部位の欠損の確認)
上記式(4)で表される架橋剤(ビスアジド誘導体)を用いた不溶化の際にラジカル部位への副反応が生起しているか否かを検証した。より正確に定量するために、架橋剤を多く(ラジカル化合物に対して20重量部)加え不溶化させ、得られた膜を削り取り、ラジカル濃度をSQUID磁化測定を使用して定量した。
まず、実施例1−2で得られたラジカル化合物 50mg(100重量部)と上記式(4)で表される架橋剤2,6−ビス−(4−アジドベンザル)−4−t−アミルシクロヘキサノン 10mg(20重量部)をクロロホルム2.5mlに溶解させて塗布液を調製した。次に、得られた塗布液をITO基板上にスピンコートで塗布後、ホットプレート(45℃)で1分間加熱乾燥した後、超高圧水銀ランプ(露光装置:(株)住田光学ガラス、LS−140UV)を使用して、2J/cm2(照度45mW/cm2、露光時間44秒)光照射した。得られた塗膜はクロロホルム等の溶媒に不溶であり、光照射によりラジカル化合物が架橋・不溶化したことが確認された。
得られた塗膜のラジカル濃度をSQUID磁化測定により定量した。その結果、ラジカル濃度は174%であった。添加した架橋剤(ビスアジド誘導体)の重量増加分を換算するとラジカル化合物のラジカル濃度は204%となり、ラジカル部位への副反応が生起していないことが示された。
(比較例1)
実施例1−2で得られたラジカル化合物50mg(100重量部)をクロロホルム2.5mlに溶解させて架橋剤を含有させずに塗布液を調製した。得られた塗布液をITO基板上にスピンコートで塗布後、ホットプレート(45℃)で1分間加熱乾燥し、塗膜を形成した。この塗膜はラジカル化合物の反応部位が反応していなかった。塗膜の電気化学的酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリー(測定条件:過塩素酸テトラブチルアンモニウムを支持電解質としてアセトニトリル溶液中、得られた塗膜を0.4〜1.2V vs. Ag/AgClの範囲を5mV/sの掃引速度で測定)により確認した。アノード側0.75Vに酸化還元波が現れ、繰り返し掃引するとピーク電流値がすみやかに減少し、電解液への溶出が示唆された。ビーカーセルを用いた充放電測定(条件 塗膜を作用極、リチウム金属を対極、参照極とし、1M LiPF6エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(混合体積比1/1)溶液を電解液としてビーカーセルを作製、定電流0.03mAで、充放電測定した。)でも、速やかに容量低下し、得られた塗膜が電極活物質として安定に機能しないことが確認された。
(実施例2)導電補助材を含有する電極活物質層(炭素複合電極)の作製
実施例1−2で得られたラジカル化合物50mgと上記式(4)で表される架橋剤2,6−ビス−(4−アジドベンザル)−4−t−アミルシクロヘキサノン 5mgをクロロホルム2.5mlに溶解させて、塗布液を調製した。
得られた塗布液2.5mlに、導電補助材(気相成長炭素繊維:VGCF)400mg、さらに結着剤溶液500mg(ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解した10重量%溶液)を加え、メノウ乳鉢を使用し10分間混練した。得られた混合体を、アルミ箔集電体上に塗布・成膜した。得られた塗膜を減圧下、50℃で加熱乾燥した後、超高圧水銀ランプ(露光装置:(株)住田光学ガラス、LS−140UV)を使用して、3.5J/cm2(照度45mW/cm2、露光時間78秒)光照射した。得られた塗膜はクロロホルム等の溶媒に不溶であり、光照射によりラジカル化合物が架橋・不溶化したことが確認された。また、接触式膜厚計で測定した膜厚は、150μmであった。なお、この塗膜、すなわち炭素複合電極を電子顕微鏡像(SEM)で観察した結果、炭素繊維がラジカル化合物で均一に被覆されている様子が観測され、ラジカル化合物と炭素繊維との相容性が良好であった。
また、この炭素複合電極の電気化学的酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリー(測定条件:過塩素酸テトラブチルアンモニウムを支持電解質としてアセトニトリル溶液中、得られた塗膜を0.4〜1.5V vs.Ag/AgClの範囲を5mV/sの掃引速度で測定)により確認した。この結果、アノード側0.85Vに酸化還元波が現れ、繰り返し掃引してもピーク電流値は減少せず、極めて安定であった。
(比較例2)
実施例1−2で得られたラジカル化合物50mgをクロロホルム2.5mlに溶解させて、塗布液を調製した。得られた塗布液2.5mlに、導電補助材(気相成長炭素繊維:VGCF)400mg、さらに結着剤溶液500mg(ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解した10重量%溶液)を加え、メノウ乳鉢を使用し10分間混練した。得られた混合体を、アルミ箔集電体上に塗布・成膜した。得られた塗膜を減圧下、50℃で加熱乾燥した。
得られた塗膜、すなわち炭素複合電極の電気化学的酸化還元挙動を、サイクリックボルタンメトリー(測定条件 過塩素酸テトラブチルアンモニウムを支持電解質としてアセトニトリル溶液中、得られた塗膜を0.4〜1.5V vs.Ag/AgClの範囲を5mV/sの掃引速度で測定)により確認した。この結果、アノード側0.85Vに酸化還元波が現れ、繰り返し掃引するとピーク電流値がすみやかに減少し、ベースラインがシフトするなど安定した酸化還元挙動が得られず、電解液への溶出が示唆された。
[実施例3]
(実施例3−1) クマリン置換ノルボルネンモノマーの合成
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物3.0gにメタノール7.0mlを加えて撹拌し、0℃にてトリエチルアミン9.0gを滴下した後、室温下で12時間反応させた(加水分解)。溶媒除去、クロロホルム抽出、希塩酸による洗浄後、ヘキサン/クロロホルム4/1混合溶媒より再結晶精製し、モノメチルエステル2.6gを無色結晶として得た。得られたモノメチルエステル(1.1g)と7−ヒドロキシクマリン1.0gをジクロロメタン50mlに溶解させ、2−クロロ−1−メチルピリジニウムヨージド1.6g、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.33g、トリエチルアミン1.6gを加え、室温下12時間反応させた。反応後、塩を除去、トリエチルアミンを留去後、クロロホルムにより抽出、食塩水で洗浄した。その後、クロロホルムを展開溶媒としてシリカゲルによるカラム精製し、下記式(5)で表されるクマリン置換ノルボルネンモノマーを無色粘稠液体として得た(Yield:70%)。
Figure 2007184227
得られたクマリン置換ノルボルネンモノマーのNMR測定データを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3,500MHz,ppm):d=7.68(d,J=9.4Hz,1H,coumarin olefin),7.45(d,J=8.5Hz,1H,Ph),7.13(s,1H,Ph),7.10(dd,J=8.4,1.7Hz,1H,Ph),6.42(dd,5.5,3.1Hz,1H,norbornene olefin),6.37(d,J=9.8Hz,1H,coumarin olefin),6.21(dd,J=5.6,2.9Hz,1H,olefinic=CH),3.64(s,3H,OCH3),3.49(bs,2H,CHCOO),3.29(d,J=10Hz,2H,bridgehead),1.57(bd,J=8.5Hz,1H,bridgecarbon CH2),1.43(bd,J=8.5Hz,1H,bridgecarbon CH2);13C−NMR(CDCl3,125MHz,ppm):172.5,176.6,160.5,154.6,153.5,142.9,135.6,134.4,128.4,118.6,116.5,115.8,110.4,51.9,48.7,48.4,48.0,46.9,46.1;Mass(m/z):340(found),340.3(calcd);elemental analysis, Found:C,66.6;H,4.7;N,0.3%.Calcd for C19H1606:C,67.1;H,4.7;N,0%.
(実施例3−2) TEMPO置換ノルボルネンモノマーとクマリン置換ノルボルネンモノマーの共重合ポリマーの合成
10ml試験管に、実施例1−1で得られたTEMPO置換ノルボルネンモノマー100mg(203μmol)と、実施例3−1で得られたクマリン置換ノルボルネンモノマー3.7mg(11μmol)を加え、ジクロロメタン2mlに溶解させた。Ar雰囲気下、第二世代Grubbs触媒10.5mg(両モノマーに対して5mol%)を加え、40℃で12時間反応させた。ヘキサンへの再沈殿精製後、微橙色粉末として下記式(3)および(6)の繰り返し単位から構成される共重合ポリマーを得た(Yield 73%)。得られた共重合ポリマーの分子量を、クロロホルムを溶離液としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(カラム:東ソー株式会社製TSKgelGMHXL)を使用して測定した結果、数平均分子量13700(ポリスチレン換算)、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は1.3であった。ラジカル濃度は、SQUID磁化測定により177%(スピン密度:2.17×1021spin/g)と見積もられ、ほぼ仕込み比に対応した組成比と一致、定量的であった。また、得られた共重合ポリマーは、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトニトリル、プロピレンカーボネート等の有機溶媒や、1mol/lのLiPF6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)に可溶であった。
Figure 2007184227
(実施例3−3) 塗布液の調製と活物質層の作製
実施例3−2で得られたラジカル化合物50mgをクロロホルム2.5mlに溶解させて、塗布液を調製した。得られた塗布液をITO基板上にスピンコートで塗布後、ホットプレート(45℃)で1分間加熱乾燥した後、超高圧水銀ランプ(UVロングパスフィルター:Schott WG−320使用)を使用して、0.9J/cm2(照度15mW/cm2、露光時間60秒)光照射した。得られた塗膜はクロロホルム等の溶媒に不溶であり、光照射によりラジカル化合物が架橋・不溶化したことが確認された。また、触針式膜厚計で測定した膜厚は、100nmであった。副反応の有無を確認するため、光照射前後におけるラジカル濃度の変化をSQUID磁化測定より定量した結果、ラジカル濃度の減少はなく、副反応は見られなかった。
また、塗膜の電気化学的酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリー(測定条件:過塩素酸テトラブチルアンモニウムを支持電解質としてアセトニトリル溶液中、得られた塗膜を0.4〜1.2V vs.Ag/AgClの範囲を10mV/sの掃引速度で測定)により確認した。この結果、アノード側0.83Vに酸化還元波が現れ、繰り返し掃引してもピーク電流値は減少せず、極めて安定であった。

Claims (14)

  1. ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を含有する塗布液を基材に塗布して前記ラジカル化合物を含むラジカル化合物層を形成し、その後、前記反応性部位を反応させて二次電池用活物質層とすることを特徴とする二次電池用活物質層の形成方法。
  2. 前記塗布液が、架橋剤及び重合開始剤の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項1に記載の二次電池用活物質層の形成方法。
  3. 前記塗布液が、導電補助材を含有しないことを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池用活物質層の形成方法。
  4. 前記塗布液が、有機溶媒を含有し、前記ラジカル化合物が前記有機溶媒に溶解していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の二次電池用活物質層の形成方法。
  5. 前記二次電池用活物質層が、前記有機溶媒に実質的に不溶であることを特徴とする請求項4に記載の二次電池用活物質層の形成方法。
  6. 前記ラジカル化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の二次電池用活物質層の形成方法。
    Figure 2007184227
    (式(1)中、R1〜R8は置換又は無置換のアルキル基を表し、nは整数を表す。)
  7. ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を含有することを特徴とする二次電池用活物質層形成用塗布液。
  8. 前記塗布液が、架橋剤及び重合開始剤の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項7に記載の二次電池用活物質層形成用塗布液。
  9. 前記塗布液が、導電補助材を含有しないことを特徴とする請求項7又は8に記載の二次電池用活物質層形成用塗布液。
  10. 前記塗布液が、有機溶媒を含有し、前記ラジカル化合物が前記有機溶媒に溶解していることを特徴とする請求項7〜9の何れかに記載の二次電池用活物質層形成用塗布液。
  11. 前記ラジカル化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項7〜10の何れかに記載の二次電池用活物質層形成用塗布液。
    Figure 2007184227
    (式(1)中、R1〜R8は置換又は無置換のアルキル基を表し、nは整数を表す。)
  12. ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を基材に塗布した後、前記反応性部位を反応させることにより得られることを特徴とする二次電池用活物質層。
  13. ラジカル部位を有すると共に、架橋性部位及び重合性部位の少なくとも一方からなる反応性部位を有するラジカル化合物を有機溶媒に溶解した塗布液を基材に塗布した後、前記反応性部位を反応させて前記有機溶媒に対して実質的に不溶性としたことを特徴とする請求項12に記載の二次電池用活物質層。
  14. 前記ラジカル化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項12又は13に記載の二次電池用活物質層。
    Figure 2007184227
    (式(1)中、R1〜R8は置換又は無置換のアルキル基を表し、nは整数を表す。)

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