JP2007147329A - ぜんまい構造体及びこれを備えた時計 - Google Patents

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Abstract

【課題】蓄積エネルギを高めることを可能にするぜんまい構造体及び該ぜんまい構造体を備えた時計を提供すること
【解決手段】時計のぜんまい構造体1,1aは、ばね材からなり使用状態では渦巻状の形態を有すべきぜんまい本体10,10aと、該ぜんまい本体10,10aが渦巻き状に巻締められた際に外表面11,11a又は内表面13,13aとなるべき表面のうちの少なくとも一方の表面11,13aに付着された補助膜40,40aとを有し、この補助膜40,40aは、ぜんまい構造体10,10aが渦巻き状に巻締められた際に外表面側に位置すべきぜんまい本体10,10aの表面に対して、ぜんまい構造体10,10aに外力がかかっていない状態において圧縮応力を予め付与すべく、内部に応力が残留する状態でぜんまい本体10,10aに付着形成されている。
【選択図】図1

Description

本発明は、ぜんまい、該ぜんまいを用いた時計に関わる。
機械式時計の動力源となるぜんまいは、その曲げ弾性に抗して香箱真の回転により巻締められることによって弾性歪みエネルギを蓄え、該歪みエネルギが放出される際トルクを発生する。このような、渦巻状のばねの形態のぜんまいは、古くから、知られている。
ぜんまいのトルクは、ぜんまい材料の特性(ヤング率,弾性歪み限界等)やサイズ・形状(厚さ、幅、長さ、事前のクセ付け状態及び巻き形状、巻数等)によって、決定される。従って、ぜんまいのトルクを高めようとすると、ぜんまいの材料又はサイズ・形状を変更する必要がある。
ぜんまいのトルクは、ヤング率と歪み量との積に依存する。従って、古くからヤング率の高い材料の開発が進められてきたけれども(例えば、特許文献1)、最近では、目立った改良はなくなってきている。一方、ぜんまい材料の歪みについても、材料の破断限界に近い条件下、すなわちその限度に近い状態で利用されており、材料面からのトルク又は蓄積エネルギの向上は難しくなっている。
なお、ぜんまいのトルクや蓄積エネルギは、ぜんまいのサイズ・形状により高めることができるものの、いずれにしてもサイズの増大を伴うものであるから、ある程度、薄く小さいことが望まれる時計としては、通常は、採り難い選択である。
一方、ぜんまい本体に、靭性等の高い薄膜を積層して、全体として、ぜんまいの蓄積エネルギないしトルクを高めるようにすることも提案されている(特許文献2)。
しかしながら、この提案の積層構造体は、靭性の高い材料に大きな伸びを負担させるように該積層体を構成する二つの素材層を単に重ね合わせたものであり、その改良は限られたものにならざるを得ない。
一方、DLC膜等が被膜として積層される場合に、積層条件次第では、DLC膜のような積層被膜が、大きな歪みエネルギ(すなわち、引張又は圧縮の内部応力ないし残留応力)をもった状態で、積層される場合があること自体は、知られている(例えば、非特許文献1)。
なお、特許文献2においても靭性の高い膜としてDLC膜を用いること自体は提案されているけれども、特許文献2では、DLC膜とその基材となるぜんまい本体を構成するバネ材との間に応力が残るのを極力避けるようにして、積層体が形成されているものと考えられる。
特開平9−13136号公報 特表2004−502910号公報 三木靖浩、足立茂寛、西村芳美、杉原雅彦、堀野祐治、プラズマイオン注入・成膜(PBIID)法によって作成したDLC膜の残留応力測定、奈良県工業技術センター 研究報告 No.31、2005年、pp.10−pp.15
本発明は、前記諸点に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、蓄積エネルギを高めることを可能にするぜんまい構造体及び該ぜんまい構造体を備えた時計を提供することにある。
本発明のぜんまい構造体は、前記目的を達成すべく、ばね材からなり使用状態では渦巻状の形態を有すべきぜんまい本体と、該ぜんまい本体が渦巻き状に巻締められた際に外表面又は内表面となるべき表面のうちの少なくとも一方の表面に付着された補助膜とを有するぜんまい構造体であって、前記補助膜は、ぜんまい構造体が渦巻き状に巻締められた際に外表面側に位置すべきぜんまい本体の表面に対して、ぜんまい構造体に外力がかかっていない状態において圧縮応力を予め付与すべく、内部に応力が残留する状態でぜんまい本体に付着形成されている。
本発明のぜんまい構造体では、「ぜんまい構造体が渦巻き状に巻締められた際に外表面側に位置すべきぜんまい本体の表面に対して、ぜんまい構造体に外力がかかっていない状態において圧縮応力を予め付与すべく、内部に応力が残留する状態で補助膜がぜんまい本体に付着形成されている」ので、少なくとも、ぜんまい本体をその外表面側が補助膜の残留応力により圧縮変形された状態から補助膜がない場合にぜんまい本体が採るべき状態(ぜんまい本体自体に内部応力が実際上ない状態)まで補助膜の残留応力に抗して変形させる必要があるから、例えば、補助膜の引張又は圧縮に要する力を無視しても、少なくとも、この変形の際に要するエネルギ分だけぜんまい構造体の蓄積エネルギ及びトルクが増加する。従って、ぜんまい本体が、当初の状態からその限界に近い状態まで曲げられるまでの総蓄積エネルギ量が高められる。なお、実際には、ぜんまい構造体の曲げ歪みの総量が大きくなるから、それに応じて、蓄積エネルギやトルクも増大する。
なお、ここで、ぜんまい本体の材料を予め逆方向に余分に曲げておきその状態でぜんまい本体の素材の内部応力を除去しておく場合には、ぜんまい本体が最終的に採るべき状態まで曲げようとすると、ぜんまい本体の外表面側等にかかる引張荷重ないしその引張歪みがその限界を超える虞れがあるのに対して、上述のように引張応力を受ける外表面側に残留応力のある補助膜を利用して予め圧縮歪みを付与しておく場合には、ぜんまい本体が最終的に採るべき状態まで曲げられても、ぜんまい本体にかかる応力ないし歪みは、その限界内に止められ得る。
以上において、積層された補助膜自体が担う力ないし蓄積エネルギは前記特許文献2に記載の従来技術と同程度であると仮定する場合、本発明では、該特許文献2に記載の従来技術と比較して、ぜんまい構造体の曲げの量をより大きく採り得ることから、結果的に、ぜんまい構造体に蓄積されるエネルギが高められる点にある。
本発明のぜんまい構造体において、前記補助膜がぜんまい本体の外表面側に位置し該補助膜の残留応力が引張応力であっても、前記補助膜がぜんまい本体の内表面側に位置し該補助膜の残留応力が圧縮応力であってもよく、所望ならば、ぜんまい本体の外表面側に残留引張応力のある補助膜が形成され内表面側に残留圧縮応力のある補助膜が形成されていてもよい。
なお、前記補助膜がぜんまい本体の外表面側や内表面側の全体に一様に形成される代わりに、補助膜の残留応力の大きさや厚さや種類が外表面側や内表面側の部位によって異なっていてもよく、場合によっては、外表面側や内表面側の一部に連続的に又は外表面側や内表面側の複数箇所に相互に離間した状態で設けられていてもよい。
ぜんまい本体の材料は、典型的には、Fe系合金又はCo−Ni系合金からなる。但し、所望ならば、他の種類の合金(好ましくは非磁性合金)でもよい。Fe系合金としては、例えば、特許文献2に記載のように、Co,Ni,Cr,W,Mo,C,Ti,Mn,Siが、重量割合で、夫々、30〜45%,10〜20%,8〜15%,3〜5%,3〜12%,0.03%未満,0.1〜2%,0.1〜2%,0.1〜2%で、残部がFeからなるものが用いられる。但し、所望ならば、他のFe系合金でもよい。Co−Ni系合金としては、例えば、特許文献1に記載のように、Co,Ni,Cr,Moが、重量割合で、夫々、30〜40%,27〜36%,12〜26%,8〜13%で、Mn,Ti,Al,Feの一種又は二種以上が夫々0.1〜3%,Nb及びミッシュメタルが夫々0.5〜3%及び0.005〜0.05%、並びに不可避不純物からなるものを、真空溶解したものから形成したものが用いられる。但し、所望ならば、他のCo−Ni系合金でもよい。
補助膜は、典型的には、大きな残留引張応力のある状態でぜんまい本体の外表面側(ぜんまい構造体の巻締め時に外表面となるべき側)に付着形成されるDLC膜や、大きな残留圧縮応力のある状態でぜんまい本体の内表面側(ぜんまい構造体の巻締め時に内表面となるべき側)に付着形成されるDLC膜や、大きな残留引張応力のある状態でぜんまい本体の外表面側に付着形成されるNiP膜や、大きな残留圧縮応力のある状態でぜんまい本体の内表面側に付着形成されるNiP膜等からなる。但し、ぜんまい本体の表面に十分な付着強度で且つ十分大きな引張応力又は圧縮応力が残る状態で付着形成されるものであれば、他のどのようなものでもよい。
補助膜は、該補助膜と基材(ぜんまい本体)との付着性の良否や補助膜の生成の際に該補助膜が予め有すべき歪みないし内部応力の付与可能性等を考慮して、補助膜形成方法に応じて、基材となるぜんまい本体の表面に対して、直接的に付着形成されても中間層を介して間接的に付着形成されてもよい。中間層は、補助膜との付着性の良否や補助膜の生成の際に該補助膜が予め有すべき歪みないし内部応力の付与可能性等を考慮して選択される。例えば、補助膜がDLC膜からなる場合、ぜんまい本体が例えば上述のような材料からなるときは、接合用中間層としては、例えば、Si又はCrを主成分とする接合材料層が用いられる。一方、補助膜がNiPからなる場合、ぜんまい本体が例えば上述のような材料からなるときは、接合用中間層としてのNi層を用いても、中間層を用いることなく補助膜をぜんまい本体に直接付着形成してもよい。中間層を用いる場合、ぜんまい本体の表面への中間層の形成が完了した後補助膜を形成しても、組成が中間層の組成から補助膜の組成に組成が徐々に連続的に変化するように合金化してもよい。
以上のようなぜんまい構造体は、典型的には、ぜんまいとして香箱内に配置され、機械式時計に用いられる。
本発明の好ましい一実施の形態を添付図面に示した好ましい一実施例に基づいて説明する。
本発明の好ましい一実施例のぜんまい構造体としてのぜんまい1は、例えば、図2に示したように、香箱50内に配設される。ぜんまい1は、内周端2で香箱真51に取付けられ、外周端3で香箱50の周壁52にスリッピングアタッチメント57を介して摩擦係合される。なお、外周端3が周壁52に係止されるようになっていてもよい。ぜんまい1は、図2に示したようにほぼ完全に解けた状態から角穴車(図示せず)の回転に伴う香箱真51のC1方向回転に応じて、符号4で示したように香箱真51に巻付け・巻締められ、香箱車53のC1方向回転に応じて、徐々に解けて、図2において符号5で示したように、香箱50の周壁52の内周面に張付く状態になる。
本発明の一実施例のぜんまい1の特徴を説明する前に、ぜんまいのこのような巻上げないし巻締め及び解けについて、まず、従来のぜんまい110について、図8の(a)及び(b)に基づいて説明する。図8の(a)や(b)において、ぜんまい110は、その変形状態がわかり易いように、その厚さが厚く誇張して示されている。
図8の(a)は、例えば、図2において「A」で示したようにぜんまいのうち香箱真に巻き付けられる部分を拡大して示したものである。説明の簡明化のために、香箱真に固定した系で見るとすると、ぜんまい110が巻付け・巻締められる場合、ぜんまい110のうち細い実線で示した非巻締め状態PAから香箱真のまわりにBA方向に渦巻状に巻付け・巻締められて、太い実線で示したような状態QAを採る。ここで、非巻締め状態PAにあるぜんまい部分を符号PA110で表し、巻締め状態QAにあるぜんまい部分を符号QA110で表す。すなわち、非巻締め部PA110が矢印BAで示したように曲げられることにより実線で示した巻締め状態QAを採る。
ぜんまい110が、非巻締め状態PAから巻締め状態QAになるに際して、ぜんまい110はBA方向の曲げ応力を受けるので、ぜんまい110の外表面111の側にある外周側部分ないし外周側表層部分112が図8の(a)において矢印UAで示したように大きな引張応力を受けて伸び、ぜんまい110の内表面113の側にある内周側部分ないし内周側表層部分114が図8の(a)において矢印VAで示したように圧縮応力を受けて圧縮される。なお、ぜんまい110は、厚さ方向に沿ってみると、内側から外側に向かって、圧縮歪みのある状態から歪みのない状態を経由し引張歪みのある状態に変化している。
通常は、大まかには、ぜんまい110のパワーリザーブ量が最大限になるように、ぜんまい110は、バネ材の許容する範囲内で、曲げエネルギを最大限蓄積し得るように設計され、使用される。すなわち、ぜんまい110は、巻締め部QA110の外層部112が、その引張歪みの限界に近い状態になる条件下で、使用される。
ここでは、説明の簡明化のために、図8の(a)において非巻締め部PA110として示した状態では、該非巻締め部PA110に実際上外力がかかっておらず非巻締め部QA110の外層部112及び内層部114に実際上引張り歪みも圧縮歪みもないと、仮定する。
以上のような条件下で、横断面形状が同一で同一材料からなるバネ材(長さも実際上同一とする)を用いて、ぜんまい110の蓄積エネルギを更に上げることを想定する。その場合、非巻締め部として、図8の(b)において細い実線で示した状態PAの代わりに、例えば、想像線で示した状態PAiを取らせればよい(可能であれば)。ここで、仮想的非巻締め部PA110iは、図8の(a)において実線で示した非巻締め部PA110と同様に、外力がかかっていない状態では、その外層部112及び内層部114に実際上引張り歪みも圧縮歪みもない。このような仮想的非巻締め部PA110iに対して、BA方向の大きな曲げ力を加えて、仮想的非巻締め部PA110iを太い実線で示した仮想的巻締め部QA110iの状態QAiに巻締めることができれば、その外層部112及び内層部114は、夫々、図8の(a)の巻締め部120の外層部112及び内層部114よりも大きな引張り応力及び圧縮応力を受けた状態で、より大きい引張り歪み及び圧縮歪みのある状態を採ることになる。なお、ここで、巻締め状態QA,QAiでは、ぜんまい110の平面形状(図8の(a)及び(b)の面で見た形状)は、実際上同一であるとする。
ところが、図8の(a)のような使用状況において、ぜんまい110がそのバネ材の弾性的な歪みの限界に近いところで使用されていることを考慮すると、図8の(b)で示した仮想的巻締め部QA110iの外側表層部112において想定すべき引張り歪み及び引張り応力はバネ材の限界を超えることになる。従って、図8の(b)において、想像線PA110iでしめした初期状態(非巻締め状態)を前提にし且つ太い実線QA110iで示した巻締め状態を実現することは不可能、即ち状態PA110i及びQA110iは同時には実現できないことになる。これが、従来は、バネ材の材料や断面形状や長さを変えない限り、ぜんまい110の蓄積エネルギを上げることができない理由である。
なお、仮に、図8の(b)において、ぜんまい110の外周側に状態PAiにおいて歪みのないDLC膜が所望厚さだけ付着形成されている場合を想定しても、状態QAiにおいてぜんまい110の外表面側の表層部112にかかる引張応力ないしその引張歪みは大まかにはDLC膜がない場合と同様になることから、ぜんまい110はDLC膜があっても破壊されることになる(ここで、状態QAにおいて引張状態にあるDLC膜がぜんまい本体110の外表面に多少の圧縮力を及ぼす点は無視する)。従って、特許文献2に記載の技術でも、状態PAiにあるぜんまい110を状態QAiまで曲げることはできないことは大まかには同様である。
次に、本発明の好ましい一実施例のぜんまい構造体としてのぜんまい1を、このような従来のぜんまい110と比較しつつ、図1の(a)及び図2に基づいて、説明する。
図1の(a)に示したぜんまい構造体としてのぜんまい1は、ぜんまい本体10と補助膜40とを有する。典型的には、ぜんまい本体10が0.1mm程度、補助膜40が1〜5μm程度で、ぜんまい本体10は補助膜40よりも相当厚い。但し、所望ならば、補助膜40の厚さがぜんまい本体10の厚さの10〜20%程度に達してもよい。
ぜんまい本体10は、図8の(a)で示した従来のぜんまい110と同一の材料で同一の横断面形状及び長さを備え、外力がかかっていない状態において、従来のぜんまい110と同一の形状を採るように、予めクセ付けされている。すなわち、ぜんまい本体10は、図8の(a)のぜんまい110と同一の条件下では、ぜんまい110と同様に、図1の(a)において破線で示したような形態P0を採る。
ぜんまい本体10の外表面11には、補助膜40が引張り応力を有する状態で付着形成されている。すなわち、補助膜40には、内部応力として引張り応力が残っており、ぜんまい本体10の外表面11に補助膜40が付着形成されてなるぜんまい構造体としてのぜんまい1は、全体として、実際上外力を受けていない非巻締め状態Pでは、図1の(a)において細い実線で示したような形態ないし状態を採る。この状態Pにあるぜんまい1の部分を非巻締め部として、以下では符号P1で表す。同様に、非巻締め状態Pにあるぜんまい本体10の部分は、符号P10で表す。
ぜんまい1が非巻締め状態Pにある場合、ぜんまい本体10は、当初の状態P0から状態P(すなわちP10)へとB2方向に曲げられていることから、ぜんまい本体10の外表面11の近傍の外周側部分ないし外層部12は全長にわたって圧縮応力を受けて圧縮変形され、ぜんまい本体10の内表面13の近傍の内周側部分ないし内層部14は全長にわたって引張応力を受けて引張変形されている。
但し、ぜんまい構造体1の全体については、状態Pにおいて、内部応力として引張応力が残る補助膜40に起因するB2方向の曲げモーメントとぜんまい本体10の内部において外層部12の側に生じている圧縮歪み及び内層部14の側に生じている引張歪みに起因する反対方向の曲げモーメントとが釣合っている。従って、ぜんまい構造体1を状態Pから曲げる場合、該状態Pを起点(始点)としていずれの方向に曲げるとしても、外力を要し、その外力による仕事分が曲げ弾性のエネルギとしてぜんまい構造体1に蓄積されることになる。
それ故、補助層40がぜんまい本体10と比較して十分薄く且つ補助層40のヤング率やポアソン比がぜんまい本体10と比較して同程度である場合(ぜんまい本体10及び補助層40の全体の厚さが従来のぜんまい110と同程度の厚さであるとする)、状態Pにあるぜんまい構造体1を曲げるに要する外力は、ぜんまい110を同程度だけ曲げるに要する外力と、大まかには、同程度になる。
次に、状態Pにあるぜんまい構造体1をB方向に状態Qまで曲げるとする。ここで、状態Pは、ぜんまい構造体1の部分P1の非巻締め状態であり、状態Qは、ぜんまい構造体1の部分Q1の巻締め状態である。この巻締め状態Qにあるぜんまい部分Q1は、図8の(a)において巻締め状態QAにあるぜんまい部分QA110と実際上同一の曲げ形状であるとする。
図1の(a)に示したぜんまい構造体の場合、従来のぜんまい110と同一の寸法・形状を有するぜんまい本体10の外表面11に引張応力が残留するタイプの補助膜40を付着・形成してなるぜんまい構造体1を、その当初の状態Pから従来のぜんまい110の巻締め位置と同一の巻締め位置になる状態QまでB方向に曲げて巻締めを行うことになる。
すなわち、図1の(a)に示したぜんまい構造体1の場合、状態Pから状態P0を越えて状態Qまでぜんまい構造体1が曲げられることにより、巻締めが完了する。従って、大まかには、図8の(a)のぜんまい110において、状態PAにあるぜんまいを、状態QAまで曲げた後、更に、状態QAから状態P0と状態Pとの差異に相当する分だけ曲げるに要するエネルギ分だけ、巻締めに要するエネルギが大きくなる。換言すれば、図8の(b)において、形態PAiが図1の(a)の形態Pに対応すると仮定すると、従来のぜんまい110を状態PAiから状態QAiに曲げるに要するエネルギ分だけ、ぜんまい構造体1に曲げ弾性エネルギが蓄積されることになる。図8の(b)のような曲げないし巻締めは、従来のぜんまい110では初期歪みのないDLC膜の有無に係らず、実現不可能な状況であったのに対して、このぜんまい構造体1では、正に、そのような巻締めが可能になることになる。
ここで、ぜんまい本体10に生じる歪みないし内部応力についてみると、ぜんまい本体10は、状態P0では内部応力ないし内部歪みがない状態である。一方、ひげぜんまい構造体が状態Qにありぜんまい本体10が状態Q10にある場合、状態QAにあるぜんまい110と同一の形状であるから、該ぜんまい本体10の内部応力ないし内部歪みは、状態QAにあるぜんまい110の内部応力ないし内部歪みと実際上一致する。すなわち、巻締め状態Qでは、ぜんまい本体10の外側層12は、図8の(a)の状態QAにある場合のぜんまい110の外側層112と同一の引張応力下ないし引張歪み(伸び)の状態にある。すなわち、ぜんまい構造体1では、図8の(b)の仮想事例とは異なり、ぜんまい本体10の外側層12がその弾性限界を超えるような過度の引張歪みないし引張応力を受ける虞れはない。従って、ぜんまい構造体1では、図8の(b)の仮想事例と同様な変形が実現されるにもかかわらず、ぜんまい本体10に過度の歪みが生じたりぜんまい本体10が過度の応力を受ける虞れがない。その結果、ぜんまい構造体1は、従来のぜんまい110と実際上同様に、但しより大きい蓄積エネルギを備え得る状態で、巻締め・巻解きされ得る。
以上において、ぜんまい本体としては、従来のぜんまい110と同様に、例えば、Fe系合金又はCo−Ni系合金が用いられる。但し、所望ならば、他の種類の合金でもよい。Fe系合金としては、例えば、特許文献2に記載のように、Co,Ni,Cr,W,Mo,C,Ti,Mn,Siが、重量割合で、夫々、30〜45%,10〜20%,8〜15%,3〜5%,3〜12%,0.03%未満,0.1〜2%,0.1〜2%,0.1〜2%で、残部がFeからなるものが用いられる。但し、所望ならば、他のFe系合金でもよい。Co−Ni系合金としては、例えば、特許文献1に記載のように、Co,Ni,Cr,Moが、重量割合で、夫々、30〜40%,27〜36%,12〜26%,8〜13%で、Mn,Ti,Al,Feの一種又は二種以上が夫々0.1〜3%,Nb及びミッシュメタルが夫々0.5〜3%及び0.005〜0.05%、並びに不可避不純物からなるものを、真空溶解したものから形成したものが用いられる。但し、所望ならば、他のCo−Ni系合金でもよい。
一方、応力残留性の被膜ないし補助膜40の材料としては、例えば、DLCやNiP等が用いられる。すなわち、DLC等が内部に引張歪みが残る状態でぜんまい本体10の外表面11上に被着ないし付着堆積されるような条件下でPVD(物理蒸着)等によりぜんまい本体10の表面11上に補助膜40として付着形成される。なお、このように内部歪みが残る状態でのDLC膜等の形成方法自体は周知である。
補助膜40の材料としてDLCが用いられる場合、基材となるぜんまい本体10が上記のように鉄系やCo−Ni系の合金からなるときには、必要に応じて、両者の接合を高めるための中間層として、SiやCr等が用いられ得る。補助膜40の材料としてNiPが用いられる場合、基材となるぜんまい本体10が上記のように鉄系やCo−Ni系の合金からなるときには、中間層はなくてもよい。但し、所望ならば、NiP膜に引張歪みを付与した状態で両者の付着強度を高め得るようにNi等からなる中間接合層を設けてもよい。
なお、補助膜40は、この例では、付着形成の際に残留引張応力が十分に大きいもので、ぜんまい構造体1の初期状態Pにおいて内部に引張歪みが残り、且つその状態Pから大きな引張歪みを受ける状態Qまで引張変形されてもその弾性限界を超えないような材料であれば、それ自体のヤング率は比較的低くてもよく、またそれ自体は単独ではバネ材に適さない材料でよい。
以上においては、補助膜は、ぜんまい本体の外表面側に付着形成され残留歪みとして引張歪みが残る膜ないし層であるとして説明したけれども、その代わりに、ぜんまい本体の内表面側に付着形成され残留歪みとして圧縮歪みが残る膜ないし層であってもよい。ここで、「外」又は「内」とは、夫々、ぜんまい構造体が最終的に渦巻状のぜんまいとして香箱内に配置される場合に、その「外」周側又は「内」周側となるべき側をいう。従って、ぜんまい構造体のうち通常は逆向きにクセ付けされる外周端部に近い領域の場合、組付け前の状態では、外表面と内表面とが、一見、逆になることになる。
図1の(b)には、図1の(a)にように引張歪みのある補助膜40がぜんまい本体10の外周側に付着・形成される代わりに、圧縮歪みのある補助膜40aがぜんまい本体10aの内周側に付着形成されてなるぜんまい構造体1aが示されている。図1の(b)のぜんまい構造体1aにおいて、図1の(a)のぜんまい構造体1の対応する部材や部位や要素には、添字「a」が末尾に付加されている。但し、状態ないし形態については、同一の符号P,Q等が用いられている。
補助膜40をつける前の状態P0では、ぜんまい本体10aはぜんまい本体10と同一の形状を有する。非巻締め状態Pでは、引張残留歪みのある外周側の補助膜40がぜんまい本体10をB2方向に曲げる代わりに圧縮残留歪みのある内周側の補助膜40aがぜんまい本体10aをB2方向に曲げる点を除いて、ぜんまい構造体1aは、ぜんまい構造体1と同様である。すなわち、状態Pでは、残留歪みのある補助膜40aの及ぼす応力により、ぜんまい本体10aの外層部12aに圧縮歪みが形成され、内層部14aに引張歪みが形成される点も、ぜんまい構造体1の場合と同様である。また、巻締め状態Qにおいても、内周側にある補助膜40aの圧縮残留歪みが大きくなる点を除いて、ぜんまい構造体1aは、ぜんまい構造体1と同様である。すなわち、状態Qでは、巻締めに伴うB方向の曲げに応じて、ぜんまい本体10aの外層部12aに引張歪みが形成され内層部14aに圧縮歪みが形成されるけれども、外層部12aの引張歪みが図8の(a)の従来のぜんまい110の外層部112の引張歪みと同程度に抑えられ得る点もぜんまい1と同様である。
次に、以上の如く構成されたぜんまい構造体1及びこれを備えた香箱50の製造方法を、図3の(a)〜(m)(但し、(i),(l)はない)に基づいて説明する。
まず、図3の(a)に示したように、円形横断面の線材のような長尺母材61を圧延機71により圧延加工して引き伸ばし、ぜんまい本体10の厚さT1に相当する厚さの帯状素母材62を形成する。
次に、図3の(b)及び(c)に示したように、切断機72により帯状素母材62の両側縁部62a,62aを切断してぜんまい本体10の幅Wに一致する幅の帯状母材63を形成する。
次に、図3の(d)に示したように、帯状母材63の一方の主面64に被膜73を形成する。ここで、他方の主面65は露出状態に保たれる。この被膜73は主面65上への補助膜40の形成の際に補助膜材料の付着を避けるべく主面64を覆いその後剥離されるべきもので、通常、レジスト膜と呼ばれるものがこれに対応するけれども、他の名称で呼ばれるものであってもよい。なお、主面65の全面を露出状態に保ち得る限り、被膜73は、母材63の主面64のみでなく側面にも形成されてもよい。
次に、図3の(e)に示したように、帯状母材63にクセ付けをしてぜんまい本体10の素体67を形成する。このクセ付けに際しては、母材63のうちぜんまい本体10の内端ないし内周端となるべき端部及びそれに近い部分を、ぜんまい本体10の巻締め方向に一致する方向に曲げると共に、母材63のうちぜんまい本体10の外端ないし外周端となるべき端部及びそれに近い部分を、太い巻込み軸74に引掛け、ぜんまい本体10の巻締め方向とは反対向きに巻込み軸74のまわりに巻付ける。これにより、帯状母材63は、図3の(e)において巻付き母材66として示した形態を採る。
次に、このような巻付状態に保たれた帯状母材66を、高温下でアニールして、曲げクセが付いた状態で内部の残留応力をほぼ除去することにより、被膜64付きのぜんまい本体10すなわちぜんまい本体素体67(次の図3の(f)参照)を形成する。
以上のようなぜんまい本体10の素体67の形成プロセスは、被膜73の形成プロセスを除いて、従来のぜんまい110の形成プロセスと同じである。但し、ぜんまい本体10は、次の補助膜により湾曲して最終的な形状が変るので、所望ならば、該形状変化を見込んで、ぜんまい本体10(又は同素体67)を従来のぜんまい110とは異なる形状にしておいてもよい。
次に、図3の(f)に示したように、クセ付けされてなるぜんまい本体素体67の露出表面65を含む全表面に補助膜40を堆積ないし付着・形成して、ぜんまい構造体1の素体68を形成する。ここで、補助膜40の付着・形成は、少なくとも表面65上に付着・形成された場合、補助膜40の内部に大きな残留応力が残るような条件下で行われる。補助膜40は、例えば、DLC膜からなる。補助膜40の付着形成は、例えば、生成させるべき内部応力に応じた所望の条件下でPVDやCVD等により行う。膜形成に際しては、気相の代わりに液相を利用してもよい。例えば、補助膜40がNiP膜からなる場合、例えば、メッキ処理でもよい。図3の(f)のうち破線で四角に囲んだ部分A2の拡大図が、図3の(g)である。
補助膜40は、可能であれば、ぜんまい本体素体67の表面65等の上に直接形成されてもよいけれども、ぜんまい本体素体67との密着性を高めるために、必要に応じて、中間層80を介してぜんまい本体素体67の表面65等の上に形成される。補助膜40の形成材料がDLCからなり且つぜんまい本体10の形成材料が前述のようなFe系又はNi−Co系の合金である場合、中間層80の形成材料は、Si又はCrを主成分とする材料からなる。図3の(h)は、中間層80がある場合における図3の(g)の破線で四角に囲んだ部分A3の拡大図である。
図3の(j)の二つの図(模式的グラフ)は、中間層材料及び補助膜材料について横軸に割合を示し縦軸に厚さ方向の位置を示したものある。図3の(j)は、厚さ方向にみて表面側程中間層材料の割合が少なくなり補助膜材料(DLCの場合C)の割合が大きくなるような濃度勾配を有するように、中間層80及び補助膜40を形成する例を示す。濃度勾配は図示したように直線的(線形)である代わりに、曲線的(非線形)でもよく、また、表面に補助膜のみからなる層が所望厚さだけ堆積するようにしてもよい。
図3の(g)に示したように補助膜40を付着形成した後、レジスト膜の如き被膜73をその上に堆積した膜40等と共にレジスト剥離剤等を用いて剥離ないし除去することにより、図3の(k)に一部を拡大して示したような最終的なぜんまい構造体1を形成する。典型的には、このとき、素体66の側面に付着した補助膜材料層も取り除く。但し、アイランド状に部分的に残っていてもよい。このようにして形成したぜんまい構造体1は、以上の説明からわかるように、クセ付けされた後内部応力残留性補助膜40により撓み状態及び内部応力状態が矯正された形態を有する。
最後に、図3の(m)に示したように、ぜんまい構造体1を、香箱50の本体53内に巻込むことにより、ぜんまい構造体1が組込まれてなる香箱50を形成する。
以上の如く構成されたぜんまい構造体1では、ぜんまい本体10の引張限界の影響を避けつつぜんまい構造体1の曲げ変形可能な範囲が拡げられ得るので、該ぜんまい構造体1を備えた香箱50では、蓄積エネルギやトルクが従来よりも増大せしめられ得る。従って、ぜんまい構造体1の断面形状(厚さ又は幅)を小さくしうるから、ぜんまい構造体1の長さや巻数を増加させ得、香箱50のパワーリザーブ量ないしぜんまい構造体1の解けに際しての持続時間を大きくし得る。なお、蓄積エネルギや持続時間を従来と同程度にする場合には、香箱50の大きさを小さくし得るから、この香箱50が組込まれる時計(図示せず)の厚さや平面サイズを小さくすることも可能になる。
バネ材からなるぜんまい本体10と該ぜんまい本体10の一方の表面上に密着した引張応力残留補助層40とを備えた以上のようなぜんまい構造体10について、解析用ソフトウエアMSC.Marc(商品名、MARCは登録商標)を用いて行ったシミュレーション試験例について、次に、説明する。
[シミュレーション試験]
シミュレーション試験の概要は次のとおりである。
図4の図表及び図5の(a)〜(c)に示した前提条件の下で、図7の(a)〜(d)に示したような被検体に対して、図5の(d)に示したような試験方法で、曲げに対する抗力を求める試験を行い、図6のグラフに示すような試験結果を得た。そのときの被検体の曲がりの状態は、図7の(e)〜(h)に示した。
以下に、より詳しく説明する。
1.[試験条件]
(1)[被検体]
本発明の効果を確認するためには曲げ変形に係る力を評価すればよいことから、図4の図表において「モデル形状」として記載したように、被検体は、簡易化のために渦巻状の代わりに直線状(平面状)であるとした。これは、図5の(a)において、四角A4で囲んで示したような多少湾曲した部分R1を、図5の(a)において、右側の拡大図において符号R2で示したように、直線状(細長い平板状)であると仮定することに相当する。
対比されるべき比較例のぜんまいとして、厚さが0.100mmで、幅が0.990mm、長さが2.000mmの帯状ぜんまいを採用した(図5の(b)及び後述の図7の(a)において符号S110で示したもの)。一方、試験例としては、上記サイズに一致するサイズのぜんまい本体の外側主面に引張応力残留型のDLC膜が密着したぜんまい構造体(図5の(c)において符号S1で示したもの)を採用した。より詳しくは、試験例としては、DLC膜の厚さが、0.001mmの試験体<1>(後述の図6及び図7の(b)において符号S1−1で示したもの)、0.003mmの試験体<2>(後述の図6及び図7の(c)において符号S1−1で示したもの)、及び0.005mmの試験体<3>(後述の図6及び図7の(d)において符号S1−1で示したもの)を採用した。被検体S110(比較例)、及び被検体S1−1,S1−2,S1−3(本発明の実施例に該当)を総称するときは、符号Sで表す。
なお、図4の図表に示した通り、比較例のぜんまい及び試験例(本発明の実施例)のぜんまい本体は、Fe系のバネ材であって試験範囲内では完全弾性を有すると想定し、そのヤング率は250GPa、ポアソン比は0.3とし、且つ当初は歪みがないはずであるから初期引張応力は0とした(試験例のぜんまい構造体のうちぜんまい本体は比較例のぜんまいと同じである)。一方、試験例のDLC膜も試験範囲内では完全弾性を有すると想定し、そのヤング率は210GPa、ポアソン比は0.3とし、且つ当初から引張歪みがあるものとして初期引張応力は2GPaとした。このようなDLC膜が、ぜんまい本体の一方の表面に密着することにより、試験例のぜんまい構造体すなわち被検体S1−1,S1−2,S1−3が形成されるとした。
(2)[試験方法]
試験方法は、次のとおりである。
図5の(d)に誇張して示したように、一端(図の右端)の固定端において水平に支持され他端(図の左端)が自由端になった細長い板状の帯状被検体Sに対して、その自由端近傍の所定部位(水平方向にみて自由端よりも0.3mmだけ内側の部位)を円柱状押圧部材Gによって一定長だけ押し曲げて、被検体を下方に曲げる。このとき、被検体が押圧部材Gに及ぼす垂直抗力F(N/mm)の大きさを求めた。なお、被検体S即ちS110,S1−1,S1−2,S1−3の初期形状にかかわらず、押し曲げは、固定端上端を中心に反時計回りに2deg.押し曲げた。
図7において、(a),(b),(c)及び(d)は、夫々、比較例のぜんまいS110、厚さ1μmの引張応力残留性DLC膜が外(上)表面側に付着形成されてなる試験例1のぜんまい構造体S1−1,厚さ3μmの引張応力残留性DLC膜が外(上)表面側に付着形成されてなる試験例2のぜんまい構造体S1−2,及び厚さ5μmの引張応力残留性DLC膜が外(上)表面側に付着形成されてなる試験例3のぜんまい構造体S1−3について、押圧部材Gによる押し曲げ前の状態を示す。ここで、各被検体S110,S1−1,S1−2,S1−3の右端は固定端として水平に固定されている。なお、この状態において、試験例の各被検体S1−1,S1−2,S1−3のぜんまい本体の上面における圧縮歪みは、夫々、0.0003%,0.0009%,0.0014%程度である。図7の(a)〜(d)では、水平な比較例の被検体S110に対して各被検体S1−1,S1−2,S1−3が上向き(巻締めの場合の外側)に予め湾曲される程度がわかり易いように、押圧部材Gは、固定端に対して同一の相対高さ位置に示してある。その結果、図7の(c)や(d)では、押圧部材Gが被検体S1−2やS1−3の上層と重なって見えるけれども、実際の押圧に際しては、当然ながら、押圧部材Gが被検体S1−2やS1−3に入り込むことはない。
2.[試験結果]
試験の結果は図6のグラフに示したとおりである。図6において、縦軸は垂直抗力F(N/mm)の大きさで、横軸に沿って示した比較用被検体S110、試験体S1−1,S1−2,S1−3のそれぞれについての垂直抗力Fが、図6に棒グラフの形で示されている。なお、参考のために、垂直抗力F(N/mm)の大きさを各棒グラフの先端近傍に数値で示した。
この結果からわかるように、DLC膜は、ぜんまい本体の厚さの1/100〜1/20程度であって数%以下と薄いにもかかわらず、所定の曲げを付与するために要する力が残留引張応力のあるDLC膜の存在によって大きく増加すること、及びDLC膜が厚くなるとその影響が大幅に増大することがわかる。なお、試験条件の欄に記載した通り、DLC膜のヤング率はぜんまい本体と同程度又はそれより小さいと想定しているので、このような増加は、DLC膜自体の剛性(ヤング率の大きさ)に起因するものではなく、DLC膜に引張応力が残留していることに起因するものである。
念のために、DLC膜を積層したことによる厚さ分だけぜんまい本体が厚いと仮定すると、垂直抗力Fは、夫々、図6のグラフにおいて菱形の点で示した大きさになる。この菱形の点と棒グラフの大きさとの差異は、大まかには、引張応力が内部に残留したDLC膜が外側(上側)面に密着されていることによる。従って、この試験例1〜3でいえば、引張応力残留型のDLC膜がぜんまい本体の外側に密着されると、同程度の形状になるように曲げるに要する力が大幅に増大することがわかる。
図7において、(e),(f),(g)及び(h)は、夫々、比較例のぜんまいS110、試験例1のぜんまい構造体S1−1,試験例2のぜんまい構造体S1−2,及び試験例3のぜんまい構造体S1−3について、自由端近傍の所定部位を押圧部材Gにより、固定端の上面に一致する高さ位置よりも一定量(この例では、固定端上端を中心に反時計回りに2deg.押し曲げた)状態を示す。なお、押し曲げ後においては、全ての被検体S110,S1−1,S1−2,S1−3について自由端(近傍の押し曲げ部位)及び固定端の位置が同じであることから、各被検体S110,S1−1,S1−2,S1−3の湾曲形状は大まかには同様である。この状態における被検体S1−1,S1−2,S1−3のぜんまい本体の上面における引張歪みは、いずれも、被検体S110の上面に生じる引張歪みと同程度であり、その大きさは0.001%程度である。但し、被検体S1−1,S1−2,S1−3の場合、上方への湾曲は自由端にかかる力ではなくて上面の全域にかかる引張応力によることから、押し曲げ後の湾曲形状は、厳密には、相互に異なる。
いずれにしても、巻締め前に対応する押し曲げ前の状態(図7の(a),(b),(c),(d))を巻締め後に対応するほぼ同様な押し曲げ後の状態(図7の(e),(f),(g),(h))に移行させるに要する力が、図6のグラフで示したとおり、図7の下方の被検体程大きくなり、該変形により蓄積される弾性曲げエネルギが図7の下方の被検体程大きくなることが、このシミュレーション試験によって確認された。
なお、以上においては、ぜんまい構造体が、機械式時計の香箱に組込まれて時計の駆動源となるぜんまいである例について説明したけれども、駆動源その他となる他の種類のぜんまいであってもよい。
勿論、本発明は、所望ならば、一方向に曲げ負荷がかかる板ばねのようなばねとしても、適用可能である。
本発明による好ましい実施例の時計用のぜんまい構造体の一部を示したもので、(a)は外表面側に引張応力残留型の補助膜を備えた一実施例のぜんまい構造体の一部の側面説明図、(a)は内表面側に圧縮応力残留型の補助膜を備えた別の一実施例のぜんまい構造体の一部の側面説明図。 本発明の一実施例のぜんまい構造体を備えた香箱の平面断面説明図。 本発明の一実施例のぜんまい構造体及び該構造体を組込んだ香箱の製造方法ないし手順を説明したもので、(a)は圧延工程、(b)及び(c)は切断工程、(d)はレジスト膜の如き被膜被着工程、(e)はクセ付け工程、(f),(g)及び(h)は補助膜堆積工程、(k)は被膜剥離工程完了により製造されたぜんまい構造体、並びに(m)はぜんまい構造体の組付工程完了により製造された香箱を示す説明図。 本発明の試験例のぜんまい構造体及び比較例のぜんまいについての曲げのシミュレーション試験の条件を示した図表。 本発明の試験の前提条件及び試験方法を示したもので、(a)香箱のぜんまいの曲げを平面状の板ばねの曲げで代替評価することを示した説明図、(b)及び(c)は夫々評価対象とした比較例のぜんまい及び試験例のぜんまい構造体についての模式的な側面説明図、(d)は曲げ試験の方法を示した説明図。 比較例の被検体及び三種類の試験例の被検体についての試験結果を示したグラフ。 比較例の被検体及び三種類の試験例の被検体についての押圧荷重付与前及び付与後の状態を示したもので、(a)〜(d)は比較例の被検体及び三種類の試験例の被検体についての押圧荷重付与前の状態(形態)を示した側面図、(e)〜(h)は比較例の被検体及び三種類の試験例の被検体についての押圧荷重付与後の状態(形態)を示した側面図。 比較例のぜんまいについての図1と同様な説明図で、(a)は従来のぜんまいについての図1の(a)と同様な側面説明図、(b)は従来のぜんまいを用いてより大きな曲げエネルギの蓄積をしようとすると想定した場合の仮想的な状況に関する側面説明図。
符号の説明
1,1a ぜんまい構造体
2 内周端
3 外周端
4 巻締め部
5 解け部
10,10a ぜんまい本体
11,11a 外表面
12,12a 外側表層部
13,13a 内表面
14,14a 内側表層部
40,40a 補助膜
50 香箱
51 香箱真
52 周壁
53 香箱本体
57 スリッピングアタッチメント
61 線材
62 帯状素母材
63 帯状母材
64,65 主面
66 被膜付き帯状母材
67 ぜんまい本体素体
68 ぜんまい構造体素体
71 圧延機
72 切断機
73 被膜(レジスト膜)
74 巻込み軸
B,B2 曲げ(曲がり)方向
F 垂直抗力
G 押圧部材
P 非巻締め状態
P0 ぜんまい本体の初期状態
P1,P1a 非巻締め状態にあるぜんまい構造体
P10,P10a 非巻締め状態にあるぜんまい本体
Q 巻締め状態
Q1,Q1a 巻締め状態にあるぜんまい構造体
Q10,Q10a 巻締め状態にあるぜんまい本体
S 被検体
S1,S1−1,S1−2,S1−3 試験体
S110 比較例の試験体

Claims (10)

  1. ばね材からなり使用状態では渦巻状の形態を有すべきぜんまい本体と、該ぜんまい本体が渦巻き状に巻締められた際に外表面又は内表面となるべき表面のうちの少なくとも一方の表面に付着された補助膜とを有するぜんまい構造体であって、
    前記補助膜は、ぜんまい構造体が渦巻き状に巻締められた際に外表面側に位置すべきぜんまい本体の表面に対して、ぜんまい構造体に外力がかかっていない状態において圧縮応力を予め付与すべく、内部に応力が残留する状態でぜんまい本体に付着形成されているぜんまい構造体。
  2. 前記補助膜がぜんまい本体の外表面側に位置し該補助膜の残留応力が引張応力である請求項1に記載のぜんまい構造体。
  3. 前記補助膜がぜんまい本体の内表面側に位置し該補助膜の残留応力が圧縮応力である請求項1又は2に記載のぜんまい構造体。
  4. 前記補助膜と該補助膜が付着形成されるぜんまい本体の表面との間に、両者を接合する中間層が設けられている請求項1から3までのいずれか一つの項に記載のぜんまい構造体。
  5. 中間層の材料と補助膜の材料との間に、中間層の割合が連続的に変る合金層が形成されている請求項4に記載のぜんまい構造体。
  6. 前記補助膜がダイアモンド・ライク・カーボン(以下、「DLC」という)からなり、中間層がSi又はCrからなる請求項4又は5に記載のぜんまい構造体。
  7. 前記補助膜がDLC又はNiPからなる請求項1から5までのいずれか一つの項に記載のぜんまい構造体。
  8. ぜんまい本体が、Fe系合金又はCo−Ni系合金からなる請求項1から7までのいずれか一つの項に記載のぜんまい構造体。
  9. ぜんまい構造体が、香箱内に配置されるぜんまいからなる請求項1から8までのいずれか一つの項に記載のぜんまい構造体。
  10. 請求項1から9までのいずれか一つの項に記載のぜんまい構造体を備えた時計。
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