JP2007147070A - 遊星ローラねじ装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】遊星ローラねじ装置を高負荷用として用いる場合の耐久性を向上させる手段を提供する。
【解決手段】外周面に軸ねじ3を形成した中央ねじ軸2と、内周面にナットねじ5を形成した円筒状のナット4と、遊星ピニオンギア8を有し、外周面に軸ねじ3とナットねじ5とに噛合うローラねじ9を形成した複数の遊星ローラ6と、ナット4に固定され、遊星ピニオンギア8に噛合うリングギア13とを備え、軸ねじ3の軸ねじ呼び有効径をDs、ナットねじ5のナットねじ呼び有効径をDn、ローラねじ9のローラねじ呼び有効径をDr、ローラねじ9のローラ条数をJr、遊星ピニオンギア8の歯数をZp、リングギア13の歯数をZr、ナットねじ5のナット条数をJnとしたときに、Dn=2Dr+Ds、Dn/Dr=Zr/Zp=Jn/Jr=N(Nは、正の整数)なる関係を有する遊星ローラねじ装置1において、軸ねじ3の軸ねじ有効径を、軸ねじ呼び有効径Dsより小さくする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、遊星ローラねじ装置全般に関するが、特に射出成形機やプレス成形機等の高負荷用途、およびブレーキ機構やステアリング機構等の自動車用アクチュエータに用いられる遊星ローラねじ装置に関する。
従来の遊星ローラねじ装置は、外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面に多条のナットねじを形成した円筒状のナットとの間に、これらのねじと噛合うローラねじを有する複数の遊星ローラの突起軸部を保持器に保持させて配置し、遊星ローラの両側に設けた歯車をナットに固定したリングギアに噛合わせて遊星ローラの中央ねじ軸周りの公転を案内し、ナットねじとローラねじのねじ面傾斜角を同一とし、軸ねじの溝形状をV字状としたV字溝としてこれに接触する遊星ローラのねじ山のねじ面を遊星ローラの軸芯を中心とした円弧面として構成している。
また、外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面に軸ねじと同じ捻れ方向を有するナットねじを形成した円筒状のナットとの間に、これらのねじと噛合う軸ねじと逆の捻れ方向を有するローラねじを形成した複数の遊星ローラを配置し、遊星ローラの両側に設けた歯車を中央ねじ軸に形成したリングギアに噛合わせて遊星ローラの中央ねじ軸周りの公転を案内しているものもある(例えば、特許文献1参照。)。
米国特許第2683379号明細書(第2欄−第7欄、第1図、第5図、第10図)
しかしながら、上述した従来の技術においては、軸ねじのねじ面を平面的なV字溝とし、これにねじ面を円弧面としたローラねじを噛合わせているため、遊星ローラねじ装置を高負荷の用途に用いる場合は、ローラねじの円弧面の曲率半径を小さくし過ぎるとローラねじと軸ねじとの接触面の接触面圧が高くなり、耐久性が低下するという問題がある。
一方、特許文献1の記載の上段に示した、ナットに設けたリングギアに遊星ローラの遊星ピニオンギアが噛合う内歯リングギア式の遊星ローラねじ装置において、リード精度を確保するためには、ナットねじとローラねじおよび軸ねじの捩れ方向を全て同じ方向にし、溝の条数を所定の関係にすることが有利であり、この場合にナットねじとローラねじの噛合は捩れ方向が同方向であると、それぞれの溝筋が同方向となるのでねじ面の接触部の弾性変形による接触面積は適正に保たれるが、ローラねじと軸ねじの捩れ方向を同じにすると、その接触部においては溝筋が交差する交差噛合の状態になり、凸面同士の接触であるから、Herzの接触理論によって接触面積は凹と凸との接触であるナット側に比べて狭くなる。
このため、ローラねじと軸ねじの捩れ方向を同じにして遊星ローラねじ装置を高負荷の用途に用いるためには、ローラねじと軸ねじとの接触部の接触面積を確保することが重要であり、そのためには軸ねじの溝形状をV字溝とし、ローラねじのねじ面の曲率半径を無限大にしてねじ面を平面的にしたV字溝とすることが有効である。
一般に、遊星ローラねじ装置のねじ設計においては、各ねじ面の接触部の圧力角とそれぞれのねじ面のねじ呼び有効径における接線方向とを一致させることが行われる。
ねじ溝をV字溝として場合には、ねじ面のねじ呼び有効径における接線方向はねじ面傾斜角と一致する。
ここに、交差噛合とは、噛合う2つのねじの溝筋が並行でない噛合をいい、雄ねじ同士の嵌合、つまり中央ねじ軸の軸ねじと遊星ローラのローラねじとの嵌合の場合は、捻れ方向が逆方向でリード角の絶対値が同一の場合を除く全ての組合せで生じ、雄ねじと雌ねじとの嵌合、つまり遊星ローラのローラねじとナットのナットねじとの嵌合の場合は、捻れ方向が同方向でリード角が同一の場合を除く全ての組合せで生じる。
上記のねじ呼び有効径は、遊星ピニオンギアを有する遊星ローラのローラねじのローラねじ呼び有効径Drと、リングギアが設けられたナットのナットねじのナットねじ呼び有効径Dnとの場合は、遊星ピニオンギアとリングギアとの噛合におけるそれぞれの有効径と同一になり、リングギアが設けられていない中央ねじ軸の軸ねじの軸ねじ呼び有効径Dsは、
Ds=Dn−2Dr ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
で求められる。
この場合に、特許文献1の記載の下段に示した、中央ねじ軸に設けたリングギアに遊星ローラの遊星ピニオンギアが噛合う外歯リングギア式の遊星ローラねじ装置においては、遊星ピニオンギアを有する遊星ローラのローラねじ呼び有効径Drと、リングギアが設けられた中央ねじ軸の軸ねじ呼び有効径Dsとの場合は、遊星ピニオンギアとリングギアとの噛合におけるそれぞれの有効径と同一になり、リングギアが設けられていないナットのナットねじ呼び有効径Dnは、
Dn=Ds+2Dr ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
で求められる。
なお、通常の場合に、ねじ呼び有効径は、図9に示すリード角に直交する方向の断面(溝直角断面という。)において、ねじ部を、その軸芯に中心線が一致する円筒面で切断した場合に実部と空間部の距離が等しくなる円筒面の直径をいう。
また、ねじ面傾斜角γとは、図9に示す溝直角断面において、ねじ山のそれぞれの高さにおけるねじ面の半径方向に対する傾斜角をいい、圧力角は、噛合う互いのねじ面同士の接触部の接線方向と半径方向との角度をいう。
従って、ねじ面が湾曲面の場合は、接触部の圧力角はその部位のねじ面傾斜角γに一致し、溝形状がV字溝の場合は、圧力角およびそれぞれの高さにおけるねじ面傾斜角γはねじ山の頂角の半分の角度に一致することになる。
上記したナットねじとローラねじおよび軸ねじの捩れ方向を全て同じ方向にし、ナットねじとローラねじとのリード角を同一にし、それぞれの溝形状をV字状とした場合には、ナットねじとローラねじの接触部の圧力角、つまりローラねじ呼び有効径Dr(またはナットねじ呼び有効径Dn)における圧力角と、ナットねじのナットねじ面傾斜角γnおよびローラねじのローラねじ面傾斜角γrとを同一にしてもそれぞれの溝筋の方向が同じで、リード角が同一であるのでねじ山同士は干渉がない状態、つまり交差噛合とはならない状態で噛合うが、ローラねじと軸ねじとの接触部の圧力角、つまりローラねじ呼び有効径Dr(または軸ねじ呼び有効径Ds)における圧力角と、軸ねじの軸ねじ面傾斜角γsおよびローラねじのローラねじ面傾斜角γrとを同一にすると、それぞれの溝筋の方向が交差する交差噛合となるので、図10に示す溝直角断面のように、軸ねじとローラねじとの間でねじ山同士の干渉(図10に網掛けで示す部位)が生ずることになる。
図11は軸ねじ面傾斜角γsとローラねじ面傾斜角γrをともに40度とした場合の軸ねじとローラねじとの干渉率を計算によって求めたグラフである。
計算に用いた各ねじの諸元は、ナットねじはナットリード角βn=3.64度、ナット条数Jn=5、ナットねじ面傾斜角γn=40度、ローラねじはローラリード角βr=3.64度、ローラ条数Jr=1、ローラねじ面傾斜角γr=40度、軸ねじの軸リード角βs=6.05度、軸条数Js=5、軸ねじ面傾斜角γs=40度である。
この場合のローラねじ、ナットねじおよび軸ねじの溝形状はいずれもV字溝であり、それぞれのねじのピッチPは同一である。
また、遊星ローラねじ形状定数αiは、
αi=Dn/Dr=Ds/Dr+2=N(Nは、正の整数) ・・・・(3)
で定義され、本計算においては、αi=5である。
計算は、図10に示すように、軸ねじとローラねじがローラねじ呼び有効径Dr付近(ねじ溝の深さ方向の中央付近)で噛合っていると仮定した場合に、軸ねじ溝の深さ方向の各ねじ面におけるローラねじのねじ面の法線方向の干渉量を求めることによって行った。
図11において、横軸は軸ねじ溝の深さ方向の深さ位置(%)を示しており、深さ位置0%が軸ねじの山を示し、100%および−100%はそれぞれ軸ねじの山の両側の谷を示している。
また、干渉率(単位:%)は、干渉率=100×干渉量/軸ねじ呼び有効径Dsで定義してその干渉率を縦軸に示し、正の値はねじ面が互いに食込む方向の干渉率を示す。
図11に示すように、軸ねじの谷とローラねじの山との干渉率は、0.014%程度であり、例えば軸ねじ呼び有効径Ds=100mmとすると、軸ねじの谷とローラねじの山との干渉量は14μm程度となり、許容できる範囲(数μm程度)を大幅に超えている。
この交差噛合の場合の図12に示す軸ねじとローラねじとの噛合部(A部)における干渉の様子の3次元シミュレーションの結果を図13に示す。この場合に軸ねじおよびローラねじはいずれも右捩れである。
図13に示すように、網掛けを付して示した接触部は、中央ねじ軸と遊星ローラの軸芯を含む断面において、回転方向の前後方向にずれて生ずることが判る。
このことは、実際には軸ねじの谷とローラねじの山とが噛合時に接触することを示しており、この状態では中央ねじ軸に遊星ローラを組付けることができないので、例えば図14に示すように、ローラねじのねじ有効径をローラねじ呼び有効径Drに対して小径となるように修正すると、ローラねじと軸ねじとの接触時に片当たりが生じ、ローラねじと軸ねじとの接触位置がローラねじ呼び有効径Drに対してずれ、遊星ピニオンギアとリングギアとの噛合における有効径と不一致になって、ねじとギアがそれぞれ離れた位置で接触しながら回転するため、ローラねじ面と軸ねじ面との間に滑りが生じ、遊星ローラねじ装置の作動効率が低下する他、ねじ面の摩耗が促進され、耐久性が低下する結果になる。
特許文献1に記載された外歯リングギア式の遊星ローラねじ装置においては、軸ねじとナットねじとの捩れ方向を同じにし、軸ねじとローラねじとの捩れ方向を逆にしているため、軸ねじとローラねじとのリード角を同じにし、それぞれの溝形状をV字溝とした場合には、軸ねじとローラねじとの接触部における圧力角と、軸ねじの軸ねじ面傾斜角γsおよびローラねじ面傾斜角γrとを同一にしても、それぞれの溝筋が同方向となるのでねじ山同士は干渉がない状態で噛合い、ねじ面の接触部の弾性変形による接触面積は適正に保たれるが、ナットねじとローラねじの接触部の圧力角、つまりローラねじ呼び有効径Dr(またはナットねじ呼び有効径Dn)における圧力角と、ナットねじのナットねじ面傾斜角γnおよびローラねじのローラねじ面傾斜角γrとを同一にすると、それぞれの溝筋の方向が交差する交差噛合となるので、ナットねじとローラねじとの間でねじ山同士の干渉が生ずることになる。
この場合も、前述の内歯リングギア式の遊星ローラねじ装置と同様に、ねじ面の摩耗が促進され、耐久性が低下する結果になる。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、遊星ローラねじ装置を高負荷用として用いる場合の耐久性を向上させる手段を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するために、外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、少なくとも1箇所に遊星ピニオンギアを有し、外周面に前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを形成した複数の遊星ローラと、前記ナットに固定され、前記遊星ピニオンギアに噛合うリングギアとを備え、前記軸ねじの軸ねじ呼び有効径をDs、前記ナットねじのナットねじ呼び有効径をDn、前記ローラねじのローラねじ呼び有効径をDr、前記ローラねじのローラ条数をJr、前記遊星ピニオンギアの歯数をZp、前記リングギアの歯数をZr、前記ナットねじのナット条数をJnとしたときに、Dn=2Dr+Ds、Dn/Dr=Zr/Zp=Jn/Jr=N(Nは、正の整数)なる関係を有する遊星ローラねじ装置において、前記軸ねじの軸ねじ有効径を、前記軸ねじ呼び有効径Dsより小さくしたことを特徴とする。
これにより、本発明は、軸ねじとローラねじとの接触部における干渉量を許容範囲とすることができ、干渉に伴う摩耗を防止して高負荷用の遊星ローラねじ装置の寿命を延長するができるという効果が得られる。
以下に、図面を参照して本発明による遊星ローラねじ装置の実施例について説明する。
図1は実施例1の遊星ローラねじ装置を示す断面図である。
図1において、1は遊星ローラねじ装置である。本実施例の遊星ローラねじ装置1は内歯リングギア式の遊星ローラねじ装置である。
2は遊星ローラねじ装置1の中央ねじ軸であり、合金鋼等の鋼材で製作された棒状部材であって、その外周面には1条または多条の軸ねじ3が所定のピッチPおよびリードで螺旋状に形成されている。
4は遊星ローラねじ装置1のナットであり、合金鋼等の鋼材で製作された円筒状部材であって、その内周面には多条のナットねじ5が所定のリードで軸ねじ3と同じピッチPに形成されている。
6は遊星ローラであり、合金鋼等の鋼材で製作された棒状部材であって、両端部に円柱状の突起軸部7が形成されており、両方の突起軸部7の内側に隣接して遊星ローラ6と同軸に歯車を形成した遊星ピニオンギア8が設けられており、両方の遊星ピニオンギア8の間の外周面には軸ねじ3とナットねじ5とに嵌合する1条または多条のローラねじ9が所定のリードで軸ねじ3と同じピッチPに形成されている。
上記の軸ねじ3、ナットねじ5およびローラねじ9の捩れ方向はいずれも同じ方向であり、右捩れまたは左捩れで各ねじが形成されている。
また、ナットねじ5とローラねじ9とは同じリード角に形成され、その噛合において交差噛合が生じないように構成され、ローラねじ9と軸ねじ3との噛合は、交差噛合となっている。
10は保持器であり、樹脂材料や金属材料で製作された円環状部材であって、遊星ローラ6の突起軸部7が嵌合する保持孔11が所定の角度ピッチで複数設けられており、遊星ローラ6の突起軸部7を保持孔11で保持して中央ねじ軸2とナット4の間に複数の遊星ローラ6を所定の角度ピッチで配置する。
12はC型輪止め等の抜止部材であり、保持器10の外側でナット4の内周面に配置され、保持器10の軸方向の移動を制限する。
13はリングギアであり、保持器10に保持された小径の歯車である遊星ピニオンギア8に噛合う内歯の歯車であって、ナット4の内周面に嵌合して固定され、遊星ピニオンギア8がリングギア13に噛合うことにより遊星ローラ6の公転を案内する。
上記の中央ねじ軸2の軸ねじ3とナット4のナットねじ5とに、保持器10に保持されてリングギア13と遊星ピニオンギア8により公転を案内された遊星ローラ6のローラねじ9が嵌合し、ナット4を回転させることによって遊星ローラ6が中央ねじ軸2の周りを自転しながら公転して中央ねじ軸2を軸方向に移動させる。これによりナット4の回転運動が中央ねじ軸2の直線運動に変換される。
上記の構成において、遊星ローラねじ装置1の負荷容量を増すための手段について説明する。
遊星ローラねじ装置1を回転−直動変換手段として用いる場合には、以下の条件を満足させる必要があることが、一般に知られている。
中央ねじ軸2、ナット4、遊星ローラ6を図1の状態に配置するためには、軸ねじ3の軸ねじ呼び有効径Ds、ナットねじ5のナットねじ呼び有効径Dn、ローラねじ9のローラねじ呼び有効径Drの間に、上記式(1)の幾何学的な条件を満足させることが必要である。
また、遊星ピニオンギア8と噛合うリングギア13が固定されたナット4に対する遊星ローラ6の自転と公転の関係は、遊星ローラ6の遊星ピニオンギア8とナット4に設けられたリングギア13との歯数比によって決められているため、ナットねじ5とローラねじ9のねじ呼び有効径の比、つまり上記式(3)に示した遊星ローラねじ形状定数αiは、遊星ピニオンギア8の歯数をZp、リングギア13の歯数をZr、ローラねじ9のローラ条数をJr、ナットねじ5のナット条数をJnとしたときに、
αi=Dn/Dr=Zr/Zp=Jn/Jr=N(Nは、正の整数)・・・(4a)
を満足させる必要がある。
遊星ローラねじ形状定数αiを正の整数とすれば、ローラねじ9の回転に伴うナットねじ5とローラねじ9との間の相対的な軸方向の移動をなくすことができるからである。
更に、ナット4を回転させたときに、中央ねじ軸2を軸方向に移動させるために、遊星ピニオンギア8に噛合うリングギア13が設けられていない側のねじ、本実施例では中央ねじ軸2の軸ねじ3とローラねじ9とのリード角が異なるように、つまり交差噛合となるように設定する必要がある。
図2は実施例1の軸ねじとローラねじとの干渉率を示すグラフである。
図2は、上記図11と同様の計算により求めた実施例の軸ねじ3とローラねじ9との干渉率を示したグラフであり、参考のために図11に示したねじ面傾斜角を同一の40度とした場合を破線で示してある。
この場合の軸ねじ3の諸元は、軸リード角βs=6.05度、軸条数Js=5、軸ねじ面傾斜角γs=39.720度である。その他のナットねじ5やローラねじ9の諸元等は図11の場合と同様である。
なお、軸ねじ面傾斜角γs=39.720度の場合の軸ねじ3の軸ねじ有効径修正率ΔXsは、ΔXs=0.533%であり、γs=40.000度の場合は、ΔXs=0%である。
ここに、軸ねじ有効径修正率ΔXs(単位:%)は、修正後の軸ねじ有効径をDsdとした場合に
ΔXs=100(Dsd−Ds)/Ds ・・・・・・・・・・・・(5)
で定義され、軸ねじ面傾斜角γsの変更に伴うねじ山の頂部を高くしない、つまり軸ねじ3の外径の増加を抑えて、ローラねじ9の谷部(谷径)との干渉を避けるために、分母の軸ねじ呼び有効径Dsに対する、軸ねじ有効径Dsdの軸ねじ呼び有効径Dsからの修正量の割合を表したものである。
図2に示すように、実線で示す軸ねじ面傾斜角γs=39.720度の場合の干渉率は、参考に破線で示したγs=40.000度の場合に比べて、軸ねじ3の谷とローラねじ9の山との干渉率が1/6以下に減少しており、例えば、軸ねじ呼び有効径Ds=100mmとすると、参考に示したγs=40.000度の場合の干渉量は14μm程度であるのに対してγs=39.720度の場合の干渉量は2.5μm程度となって許容できる範囲内になることが判る。
このように、軸ねじ3とローラねじ9の溝形状がV字溝である場合に、軸ねじ3の軸ねじ面傾斜角γsをローラねじ9のローラねじ面傾斜角γrより小さくなる方向に修正すれば軸ねじ3とローラねじ9の干渉を許容できる範囲内にすることができる。
遊星ローラねじ装置1は、軸ねじ3の軸ねじ呼び有効径Dsが異なっていても、ローラ条数Jr、遊星ローラねじ形状定数αi、軸リード角βsおよびローラねじ面傾斜角γrが等しければ、基本的な諸元は相似形状になる。
従って、ローラ条数Jr毎に、遊星ローラねじ形状定数αi、軸リード角βsおよびローラねじ面傾斜角γrを変化させたときの軸ねじ3とローラねじ9との干渉率が最小となる軸ねじ面傾斜角γsのローラねじ面傾斜角γrからの修正量(軸ねじ面傾斜角修正量Δγs(=修正後のγs−γr、単位:度)という。)を求めておけば、どのような遊星ローラねじ装置1であっても許容できる干渉量となる軸ねじ面傾斜角γsの設定を行うことができる。
図3は、ローラ条数Jr=1とし、ローラねじ面傾斜角γr=35度、40度、45度50度および遊星ローラねじ形状定数αi=3、4、5、6、7として変化させた場合の各軸リード角βsに対応する軸ねじ面傾斜角修正量Δγs求めたグラフである。
なお、修正前の軸ねじ面傾斜角γsはローラねじ面傾斜角γrと一致している。
図4は、軸ねじ面傾斜角γsを図3に示した軸ねじ面傾斜角修正量Δγsで修正したときの軸ねじ3の軸ねじ有効径修正率ΔXsを求めたグラフである。
図3、図4に示すように、軸ねじ面傾斜角修正量Δγsおよびそのときの軸ねじ有効径修正率ΔXsは軸リード角βsに応じて変化することが判る。
この図3、図4に基づいてそれぞれの軸ねじ3の軸リード角βsに応じて軸ねじ面傾斜角修正量Δγsを求めれば、軸ねじ3とローラねじ9との干渉を許容範囲の抑えることができると共に、式(4a)に示す遊星ローラねじ形状定数αi(=Dn/Dr)を整数比としたまま、軸ねじ3、ローラねじ9およびナットねじ5を噛合わせることができる他、そのときの軸ねじ有効径修正率ΔXsを知ることができる。
図3、図4に示す各計算点の主要な近似式を以下に示す。
遊星ローラねじ形状定数αi=7、ローラねじ面傾斜角γr=50度の場合の軸ねじ面傾斜角修正量Δγs(単位:度)および軸ねじ有効径修正率ΔXs(単位:%)は、軸リード角をβs(単位:度)とすると、次に示す近似式で表される。
Δγs=−(0.0017βs+0.0055βs−0.0046)・・・(6)
ΔXs=−0.0049βs−0.0016βs+0.0021 ・・・・(7)
また、αi=3、γr=35度の場合は、次に示す近似式で表される。
Δγs=−(0.0109βs−0.0051βs+0.0107)・・・(8)
ΔXs=−0.0280βs+0.0091βs−0.0167 ・・・・(9)
更に、αi=5、γr=40度の場合は、次に示す近似式で表される。
Δγs=−(0.0067βs−0.0071βs+0.0137)・・(10)
ΔXs=−0.0134βs−0.0009βs+0.0003 ・・・(11)
更に、αi=5、γr=45度の場合は、次に示す近似式で表される。
Δγs=−(0.0043βs+0.0024βs−0.0004)・・(12)
ΔXs=−0.0092βs−0.0021βs+0.0024 ・・・(13)
この場合に、軸ねじ3の軸ねじ面傾斜角γsを、ローラねじ9のローラねじ呼び有効径Drにおけるローラねじ面傾斜角γrに対し、軸リード角βsに応じて式(8)で計算される角度以上、式(6)で計算される角度以下の範囲で設定するとよい。
つまり、遊星ローラねじ形状定数αiおよびローラねじ面傾斜角γrの増加と共に軸ねじ面傾斜角修正量Δγsの絶対値は減少する。式(6)で定義したαi=7、γr=50度は、例えば遊星ローラねじ形状定数αiをこれより大きくすると、軸ねじ3およびナットねじ5の軸条数Jsおよびナット条数Jnを増やさなければならず、小リード化が困難になると共に中央ねじ軸2の直径に対して遊星ローラ6の直径が小さくなるので同じ中央ねじ軸2の直径で比較した場合に負荷容量が小さくなって高負荷の用途に適さなくなり、軸ねじ面傾斜角γsを50度より大きくすると負荷容量が小さくなって高負荷の用途に適さないからである。
また、式(8)で定義したαi=3、γr=35度は、例えば遊星ローラねじ形状定数αiをこれより小さくすると、ナット条数Jnよりもローラ条数Jrを小さくしなければならず、幾何学的に適さなくなり、軸ねじ面傾斜角γsを35度より小さくすると軸ねじ3の頂部が鋭利になりすぎ、強度が低下するからである。
また、上記と同様の理由により、軸ねじ有効径修正率ΔXsを、軸リード角βsに応じて式(9)で計算されるパーセント以上、式(7)で計算されるパーセント以下の範囲に設定するとよい。このような範囲に軸ねじ有効径修正率ΔXsを設定すれば高負荷用として好適になる。
上記の軸ねじ面傾斜角修正量Δγsおよび軸ねじ有効径修正率ΔXsを用いて軸ねじ3を修正すれば、図5に示すように、交差噛合の接触において全面当りが可能になり、軸ねじ有効径に関しても軸ねじ呼び有効径Dsから適正に修正を行うことができ、ねじ間の隙間をゼロに近づけることができる。
なお、本実施例においては、ローラねじ9の溝形状をV字溝とした場合を例に説明したが、ローラねじ9のねじ山形状のねじ面の曲率半径を比較的大きくした湾曲形状からなる湾曲面とした場合も同様である。この場合にローラねじ面傾斜角γrとして図9に示す軸ねじ3とローラねじ9との接触部(ローラねじ呼び有効径Dr)の接線方向の角度、つまりその部位のローラねじ面傾斜角γrを用いれば、上記と同様にして軸ねじ面傾斜角修正量Δγsおよび軸ねじ有効径修正率ΔXsを容易に求めることができる。
以上説明したように、本実施例では、軸ねじの軸ねじ面傾斜角を、ローラねじのローラねじ呼び有効径のローラねじ面傾斜角より小さくしたことによって、ローラねじの溝形状をV字溝またはねじ面を湾曲面とした場合においても、軸ねじとローラねじとの接触部における干渉量を許容範囲とすることができ、干渉に伴う摩耗を防止して高負荷用の遊星ローラねじ装置の寿命を延長するができる他、面圧の大きい接触面の中心を他の部位に比べて滑りが少ないねじ呼び有効径付近にすることができ、作動効率を向上させることができると共に、作動に伴う発熱を減少させることが可能になる。
また、軸ねじ有効径修正率ΔXsを設定して軸ねじ面傾斜角γsを小さくすることに伴うねじ軸の外径の増加を抑えるようにしたことによって、ローラねじの溝形状をV字溝またはねじ面を湾曲面とした場合においても、軸ねじとローラねじの干渉を防止して遊星ローラねじ装置を容易に組立てることができる。
この場合に、軸ねじ有効径修正率ΔXsをそのまま用いると隙間は「0」になるが、適宜隙間を設定して更に軸ねじ有効径修正率ΔXsの絶対値を大きくしてもよい。
なお、上記実施例においては、計算においてローラ条数Jrを「1」として説明したが、ローラ条数Jrを2以上にした場合であっても、遊星ローラねじ形状定数αiおよび軸ねじ面傾斜角γsが同じであれば、軸ねじの軸リード角βsに対して同じ軸ねじ面傾斜角修正量Δγsおよび軸ねじ有効径修正率ΔXsを用いることができる。
また、上記実施例においては、軸ねじとローラねじの溝形状をV字溝、またはねじ面を湾曲面として遊星ローラねじ装置の負荷容量を増大させる場合を例に説明したが、軽負荷用の遊星ローラねじ装置、例えば精密位置決め用の遊星ローラねじ装置の軸ねじとローラねじの溝形状をV字溝等とする場合にも同様に適用することができる。
図6は実施例2の遊星ローラねじ装置を示す断面図である。
なお、上記実施例1と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
図6において、21は遊星ローラねじ装置である。本実施例の遊星ローラねじ装置21は外歯リングギア式の遊星ローラねじ装置である。
22は遊星ローラねじ装置21の中央ねじ軸であり、合金鋼等の鋼材で製作された棒状部材であって、その1箇所の外周面には遊星ローラ6の遊星ピニオンギア8間のローラねじ10に噛合う1条または多条の軸ねじ23が所定のピッチPおよびリードで螺旋状に形成されている。
24は遊星ローラねじ装置21のナットであり、合金鋼等の鋼材で製作された上記実施例1のナット4より長い長さの円筒状部材であって、その内周面には多条のナットねじ25が所定のリードで軸ねじ23と同じピッチPに形成されている。
本実施例の遊星ローラ6は、上記実施例1の遊星ローラ6と同様の遊星ローラであるが、そのローラねじ9の捩れ方向が軸ねじ23と逆方向で、軸ねじ23と同じピッチPおよび絶対値が同じリード角に形成されており、軸ねじ23との嵌合において交差噛合が生じないように構成されている。
本実施例のナットねじ25の捩れ方向は、軸ねじ23と同じ方向であり、それぞれ右捩れまたは左捩れで各ねじが形成されており、ローラねじ9とナットねじ25との噛合は交差噛合となっている。
30は保持器であり、上記実施例1の保持器10と同様に、遊星ローラ6の突起軸部7が嵌合する複数の保持孔11が設けられており、中央ねじ軸22とナット24の間に複数の遊星ローラ6を所定の角度ピッチで配置する。
32はC型輪止め等の抜止部材であり、保持器30の外側の中央ねじ軸22の外周面に設けられた係止溝32aに係止され、保持器30の軸方向の移動を制限する。
33はリングギアであり、保持器30に保持された小径の歯車である遊星ピニオンギア8に噛合う外歯の歯車であって、中央ねじ軸22の外周面の保持器30と軸ねじ23との間に固定され、遊星ピニオンギア8がリングギア33に噛合うことにより遊星ローラ6の公転を案内する。
上記の中央ねじ軸22の軸ねじ23とナット24のナットねじ25とに、保持器30に保持されてリングギア33と遊星ピニオンギア8により公転を案内された遊星ローラ6のローラねじ9が嵌合し、ナット24を回転させることによって遊星ローラ6が中央ねじ軸22の周りを自転しながら公転して、中央ねじ軸22をナット24の長さの範囲で軸方向に移動させる。これによりナット24の回転運動が中央ねじ軸22の直線運動に変換される。
上記の構成において、遊星ローラねじ装置21の負荷容量を増すための手段について説明する。
遊星ローラねじ装置21を回転−直動変換手段として用いる場合には、以下の条件を満足させる必要があることが、一般に知られている。
中央ねじ軸22、ナット24、遊星ローラ6を図6の状態に配置するためには、軸ねじ23の軸ねじ呼び有効径Ds、ナットねじ25のナットねじ呼び有効径Dn、ローラねじ9のローラねじ呼び有効径Drの間に、上記実施例1で示した式(2)の幾何学的な条件を満足させることが必要である。
また、遊星ピニオンギア8と噛合うリングギア33が固定された中央ねじ軸22に対する遊星ローラ6の自転と公転の関係は、遊星ローラ6の遊星ピニオンギア8と中央ねじ軸22に設けられたリングギア33との歯数比によって決められているため、軸ねじ23とローラねじ9のねじ呼び有効径の比で定まる遊星ローラねじ形状定数αoは、遊星ピニオンギア8の歯数をZp、リングギア33の歯数をZr、ローラねじ9のローラ条数をJr、軸ねじ23の軸条数をJsとしたときに、
αo=Ds/Dr=Zr/Zp=Js/Jr=N(Nは、正の整数)・・・(4b)
を満足させる必要がある。
遊星ローラねじ形状定数αoを正の整数とすれば、ローラねじ9の回転に伴う軸ねじ23とローラねじ9との間の相対的な軸方向の移動をなくすことができるからである。
更に、ナット24を回転させたときに、中央ねじ軸22を軸方向に移動させるために、遊星ピニオンギア8に噛合うリングギア33が設けられていない側のねじ、本実施例ではナット24のナットねじ25とローラねじ9とのリード角が異なるように、つまり交差噛合となるように設定する必要がある。
このような、遊星ローラねじ装置21の場合においても、リングギア33を設けた中央ねじ軸22と反対側のナット24の交差噛合となっているナットねじ25のナットねじ面傾斜角γsおよびナットねじ呼び有効径Dnを、上記実施例1と同様の方法で修正すればナットねじ25とローラねじ9との干渉を許容範囲とすることが可能になる。
すなわち、ナットねじ25とローラねじ9の溝形状がV字溝である場合に、ナットねじ25のナットねじ面傾斜角γnをローラねじ9のローラねじ面傾斜角γrより大きくなる方向に修正すればナットねじ25とローラねじ9の干渉を許容できる範囲内にすることができる。
遊星ローラねじ装置21は、ナットねじ25のナットねじ呼び有効径Dnが異なっていても、ローラ条数Jr、遊星ローラねじ形状定数αo、軸リード角βsおよびローラねじ面傾斜角γrが等しければ、基本的な諸元は相似形状になる。
従って、ローラ条数Jr毎に、遊星ローラねじ形状定数αo、軸リード角βsおよびローラねじ面傾斜角γrを変化させたときのナットねじ25とローラねじ9との干渉率が最小となるナットねじ面傾斜角γnのローラねじ面傾斜角γrからの修正量(ナットねじ面傾斜角修正量Δγn(=修正後のγn−γr、単位:度)という。)を求めておけば、どのような遊星ローラねじ装置21であっても許容できる干渉量となるナットねじ面傾斜角γnの設定を行うことができる。
図7は、ローラ条数Jr=1とし、ローラねじ面傾斜角γr=35度、40度、45度50度および遊星ローラねじ形状定数αo=3、4、5、6、7として変化させた場合の各軸リード角βsに対応するナットねじ面傾斜角修正量Δγn求めたグラフである。
なお、修正前のナットねじ面傾斜角γnはローラねじ面傾斜角γrと一致している。
図8は、ナットねじ面傾斜角γnを図7に示したナットねじ面傾斜角修正量Δγnで修正したときのナットねじ25のナットねじ有効径修正率ΔXnを求めたグラフである。
ここに、ナットねじ有効径修正率ΔXn(単位:%)は、修正後のナットねじ有効径をDndとした場合に
ΔXn=100(Dnd−Dn)/Dn ・・・・・・・・・・・・(14)
で定義され、ナットねじ面傾斜角γnの変更に伴うねじ山の頂部を高くしない、つまりナットねじ25の内径の減少を抑えて、ローラねじ9の谷部(谷径)との干渉を避けるために、分母のナットねじ呼び有効径Dnに対する、ナットねじ有効径Dndのナットねじ呼び有効径Dnからの修正量の割合を表したものである。
図7、図8に示すように、ナットねじ面傾斜角修正量Δγnおよびそのときのナットねじ有効径修正率ΔXnは軸リード角βsに応じて変化することが判る。
この図7、図8に基づいてそれぞれの軸ねじ23の軸リード角βsに応じてナットねじ面傾斜角修正量Δγnを求めれば、ナットねじ25とローラねじ9との干渉を許容範囲の抑えることができると共に、式(4b)に示す遊星ローラねじ形状定数αo(=Ds/Dr)を整数比としたまま、軸ねじ23、ローラねじ9およびナットねじ25を噛合わせることができる他、そのときのナットねじ有効径修正率ΔXnを知ることができる。
図7、図8に示す各計算点の主要な近似式を以下に示す。
遊星ローラねじ形状定数αo=7、ローラねじ面傾斜角γr=50度の場合のナットねじ面傾斜角修正量Δγn(単位:度)およびナットねじ有効径修正率ΔXn(単位:%)は、軸リード角をβs(単位:度)とすると、次に示す近似式で表される。
Δγn=0.0061βs−0.0056βs+0.0038 ・・・・(15)
ΔXn=0.0055βs−0.0006βs+0.0005 ・・・・(16)
また、αo=3、γr=35度の場合は、次に示す近似式で表される。
Δγn=0.0098βs+0.0126βs−0.0155 ・・・・(17)
ΔXn=0.0278βs+0.0016βs−0.0026 ・・・・(18)
更に、αo=5、γr=40度の場合は、次に示す近似式で表される。
Δγn=0.0066βs+0.0070βs−0.0096 ・・・・(19)
ΔXn=0.0140βs+0.0003βs−0.0007 ・・・・(20)
更に、αo=5、γr=45度の場合は、次に示す近似式で表される。
Δγn=0.0071βs−0.0006βs−0.0018 ・・・・(21)
ΔXn=0.0101βs−0.0008βs+0.0005 ・・・・(22)
この場合に、上記実施例1と同様の理由で、ナットねじ25のナットねじ面傾斜角γnを、ローラねじ9のローラねじ呼び有効径Drにおけるローラねじ面傾斜角γrに対し、軸リード角βsに応じて式(15)で計算される角度以上、式(17)で計算される角度以下の範囲で設定するとよい。
また、上記と同様の理由により、ナットねじ有効径修正率ΔXnを、軸リード角βsに応じて式(16)で計算されるパーセント以上、式(18)で計算されるパーセント以下の範囲に設定するとよい。
前記の範囲に、ナットねじ面傾斜角γnやナットねじ有効径修正率ΔXnを設定すれば高負荷用として好適になる。
なお、本実施例においては、ローラねじ9の溝形状をV字溝とした場合を例に説明したが、ローラねじ9のねじ山形状のねじ面の曲率半径を比較的大きくした湾曲形状からなる湾曲面とした場合も同様である。この場合にローラねじ面傾斜角γrとしてナットねじ25とローラねじ9との接触部(ローラねじ呼び有効径Dr)の接線方向の角度、つまりその部位のローラねじ面傾斜角γrを用いれば、上記と同様にしてナットねじ面傾斜角修正量Δγnおよびナットねじ有効径修正率ΔXnを容易に求めることができる。
また、本実施例においては、計算においてローラ条数Jrを「1」として説明したが、ローラ条数Jrを2以上にした場合であっても、遊星ローラねじ形状定数αoおよびナットねじ面傾斜角γnが同じであれば、軸ねじの軸リード角βsに対して同じナットねじ面傾斜角修正量Δγnおよびナットねじ有効径修正率ΔXnを用いることができる。
以上説明したように、本実施例では、軸ねじのナットねじ面傾斜角を、ローラねじのローラねじ呼び有効径のローラねじ面傾斜角より大きくしたことによって、ローラねじの溝形状をV字溝またはねじ面を湾曲面とした場合においても、ナットねじとローラねじとの接触部における干渉量を許容範囲とすることができ、干渉に伴う摩耗を防止して高負荷用の遊星ローラねじ装置の寿命を延長するができる他、面圧の大きい接触面の中心を他の部位に比べて滑りが少ないねじ呼び有効径付近にすることができ、作動効率を向上させることができると共に、作動に伴う発熱を減少させることが可能になる。
また、ナットねじ有効径修正率ΔXnを設定してナットねじ面傾斜角γnを大きくすることに伴うねじナットの内径の減少を抑えるようにしたことによって、ローラねじの溝形状をV字溝またはねじ面を湾曲面とした場合においても、ナットねじとローラねじの干渉を防止して遊星ローラねじ装置を容易に組立てることができる。
この場合に、ナットねじ有効径修正率ΔXnをそのまま用いると隙間は「0」になるが、適宜隙間を設定して更にナットねじ有効径修正率ΔXnを大きくしてもよい。
なお、上記実施例1においては、リングギア13が設けられていない側のねじ、つまり交差噛合となる中央ねじ軸2の軸ねじ3の軸ねじ面傾斜角γsおよび軸ねじ有効径を修正するとして説明したが、一方向の荷重が大きく、それに較べて他方向の荷重が非常に小さい用途、例えば射出成形機の型締め用等に用いられる遊星ローラねじ装置1に場合には、図15に示すように、遊星ローラ6のローラねじ9の大きい方の荷重を受ける交差噛合側のねじ面のローラねじ面傾斜角γr、本説明では荷重により軸ねじ3に押圧されるローラねじ9のねじ面(図15に符号Bで示す。)のローラねじ面傾斜角γrのみを修正して、その反対側の非交差噛合となるナットねじ5に押圧されるローラねじ9のねじ面(図15に符号Cで示す。)のローラねじ面傾斜角γrは修正しないで、ローラねじ9のねじ山の溝直角断面における断面形状を非対称にするようにしてもよい。
この場合に、ローラねじ面傾斜角γrの軸ねじ面傾斜角γsからの修正量(ローラねじ面傾斜角修正量γrs(=修正後のγr−γs)という。)は以下の近似式で表される。
遊星ローラねじ形状定数αi=7、軸ねじ面傾斜角γs=50度の場合のローラねじ面傾斜角修正量γrs(単位:度)は、軸リード角をβs(単位:度)とすると、次式で表される。
Δγrs=0.0017βs+0.0055βs−0.0046 ・・・(23)
また、αi=3、γs=35度の場合は、次式で表される。
Δγrs=0.0109βs−0.0051βs+0.0107 ・・・(24)
更に、αi=5、γs=40度の場合は、次式で表される。
Δγrs=0.0067βs−0.0071βs+0.0137 ・・・(25)
更に、αi=5、γs=45度の場合は、次式で表される。
Δγrs=0.0043βs+0.0024βs−0.0004 ・・・(26)
この場合に、上記実施例1と同様の理由で、遊星ローラ6のローラねじ面傾斜角γrの一方を、軸ねじ3の軸ねじ呼び有効径Dsにおける軸ねじ面傾斜角γsに対し、軸リード角βsに応じて式(23)で計算される角度以上、式(24)で計算される角度以下の範囲で設定するとよい。
また、上記実施例2においては、リングギア33が設けられていない側のねじ、つまり交差噛合となるナット24のナットねじ25のナットねじ面傾斜角γnおよびナットねじ有効径を修正するとして説明したが、一方向の荷重が大きく、それに較べて他方向の荷重が非常に小さい用途に用いられる遊星ローラねじ装置21に場合には、遊星ローラ6のローラねじ9の大きい方の荷重を受ける交差噛合側のねじ面のローラねじ面傾斜角γr、本説明では荷重によりナットねじ5に押圧されるローラねじ9のねじ面のローラねじ面傾斜角γrのみを修正して、その反対側の非交差噛合となる軸ねじ3に押圧されるローラねじ9のねじ面のローラねじ面傾斜角γrは修正しないで、ローラねじ9のねじ山の溝直角断面における断面形状を非対称にするようにしてもよい。
この場合に、ローラねじ面傾斜角γrのナットねじ面傾斜角γnからの修正量(ローラねじ面傾斜角修正量γrn(=修正後のγr−γn)という。)は以下の近似式で表される。
遊星ローラねじ形状定数αo=7、ナットねじ面傾斜角γn=50度の場合のローラねじ面傾斜角修正量γrn(単位:度)は、軸リード角をβs(単位:度)とすると、次式で表される。
Δγrn=−(0.0061βs−0.0056βs+0.0038)
・・・・・(27)
また、αo=3、γn=35度の場合は、次式で表される。
Δγrn=−(0.0098βs+0.0126βs−0.0155)
・・・・・(28)
更に、αo=5、γn=40度の場合は、次式で表される。
Δγrn=−(0.0066βs+0.0070βs−0.0096)
・・・・・(29)
更に、αo=5、γn=45度の場合は、次式で表される。
Δγrn=−(0.0071βs−0.0006βs−0.0018)
・・・・・(30)
この場合に、上記実施例1と同様の理由で、遊星ローラ6のローラねじ面傾斜角γrの一方を、ナットねじ25のナットねじ呼び有効径Dnにおけるナットねじ面傾斜角γnに対し、軸リード角βsに応じて式(28)で計算される角度以上、式(27)で計算される角度以下の範囲で設定するとよい。
上記各実施例においては、遊星ローラねじ装置のナットを回転させて中央ねじ軸を軸方向に移動させるとして説明したが、中央ねじ軸を回転させてナットを軸方向に移動させる形式の遊星ローラねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
また、上記各実施例においては、遊星ローラの両方の端部に、遊星ピニオンギアおよびそれに噛合うリングギアを設けるとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、遊星ローラの一方の端部のみに設ける、もしくは遊星ローラの中央部に設ける、等のレイアウトであっても適用できるものである。
実施例1の遊星ローラねじ装置を示す断面図 実施例1の軸ねじとローラねじとの干渉率を示すグラフ 実施例1の軸ねじの軸ねじ面傾斜角修正量を示すグラフ 実施例1の軸ねじの軸ねじ有効径修正率を示すグラフ 実施例1の軸ねじとローラねじとの嵌合状態を示す説明図 実施例2の遊星ローラねじ装置を示す断面図 実施例2のナットのナットねじ面傾斜角修正量を示すグラフ 実施例2のナットのナットねじ有効径修正率を示すグラフ ねじ呼び有効径、圧力角およびねじ面傾斜角を示す説明図 同一のねじ面傾斜角の軸ねじとローラねじとの干渉を示す説明図 同一のねじ面傾斜角の軸ねじとローラねじとの干渉率を示すグラフ 軸ねじとローラねじとの嵌合部を示す斜視図 図12の嵌合部における接触部を示す説明図 ローラねじ有効径を小径としたときのかん軸ねじとローラねじとの嵌合状態を示す説明図 ローラねじ面傾斜角の修正方法を示す説明図
符号の説明
1、21 遊星ローラねじ装置
2、22 中央ねじ軸
3、23 軸ねじ
4、24 ナット
5、25 ナットねじ
6 遊星ローラ
7 突起軸部
8 遊星ピニオンギア
9 ローラねじ
10、30 保持器
11 保持孔
12、32 抜止部材
13、33 リングギア
32a 係止溝

Claims (10)

  1. 外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、少なくとも1箇所に遊星ピニオンギアを有し、外周面に前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを形成した複数の遊星ローラと、前記ナットに固定され、前記遊星ピニオンギアに噛合うリングギアとを備え、
    前記軸ねじの軸ねじ呼び有効径をDs、前記ナットねじのナットねじ呼び有効径をDn、前記ローラねじのローラねじ呼び有効径をDr、前記ローラねじのローラ条数をJr、前記遊星ピニオンギアの歯数をZp、前記リングギアの歯数をZr、前記ナットねじのナット条数をJnとしたときに、
    Dn=2Dr+Ds
    Dn/Dr=Zr/Zp=Jn/Jr=N(Nは、正の整数)
    なる関係を有する遊星ローラねじ装置において、
    前記軸ねじの軸ねじ有効径を、前記軸ねじ呼び有効径Dsより小さくしたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
  2. 請求項1において、
    前記軸ねじの軸リード角をβs、前記軸ねじの小さく修正した後の軸ねじ有効径をDsdとしたときに、
    ΔXs=100(Dsd−Ds)/Dsで定義される軸ねじ有効径修正率ΔXs(単位:パーセント)を、
    (−0.0280βs+0.0091βs−0.0167)≦ΔXs≦
    (−0.0049βs−0.0016βs+0.0021)
    としたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
  3. 外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、少なくとも1箇所に遊星ピニオンギアを有し、外周面に前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを形成した複数の遊星ローラと、前記中央ねじ軸に固定され、前記遊星ピニオンギアに噛合うリングギアとを備え、
    前記軸ねじの軸ねじ呼び有効径をDs、前記ナットねじのナットねじ呼び有効径をDn、前記ローラねじのローラねじ呼び有効径をDr、前記ローラねじのローラ条数をJr、前記遊星ピニオンギアの歯数をZp、前記リングギアの歯数をZr、前記軸ねじの軸条数をJsとしたときに、
    Dn=2Dr+Ds
    Ds/Dr=Zr/Zp=Js/Jr=N(Nは、正の整数)
    なる関係を有する遊星ローラねじ装置において、
    前記ナットねじのナットねじ有効径を、前記ナット呼び有効径Dnより大きくしたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
  4. 請求項3において、
    前記軸ねじの軸リード角をβs、前記ナットねじの大きく修正した後のナットねじ有効径をDndとしたときに、
    ΔXn=100(Dnd−Dn)/Dnで定義されるナットねじ有効径修正率ΔXnを(単位:パーセント)を、
    (0.0055βs−0.0006βs+0.0005)≦ΔXn≦
    (0.0278βs+0.0016βs−0.0026)
    としたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
  5. 外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、少なくとも1箇所に遊星ピニオンギアを有し、外周面に前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを形成した複数の遊星ローラと、前記ナットに固定され、前記遊星ピニオンギアに噛合うリングギアとを備え、
    前記軸ねじの軸ねじ呼び有効径をDs、前記ナットねじのナットねじ呼び有効径をDn、前記ローラねじのローラねじ呼び有効径をDr、前記ローラねじのローラ条数をJr、前記遊星ピニオンギアの歯数をZp、前記リングギアの歯数をZr、前記ナットねじのナット条数をJnとしたときに、
    Dn=2Dr+Ds
    Dn/Dr=Zr/Zp=Jn/Jr=N(Nは、正の整数)
    なる関係を有する遊星ローラねじ装置において、
    前記軸ねじの軸ねじ面傾斜角を、前記ローラねじのローラねじ面傾斜角より小さくしたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
  6. 請求項5において、
    前記軸ねじの軸ねじ有効径を、前記軸ねじ呼び有効径より小さくなるように修正し、
    該修正後の軸ねじ有効径における前記軸ねじ面傾斜角の修正量を、軸ねじ面傾斜角修正量Δγsとし、軸ねじの軸リード角をβsとしたときに、
    軸ねじ面傾斜角修正量Δγs(単位:度)を、
    (−0.0109βs+0.0051βs−0.0107)≦Δγs≦
    (−0.0017βs−0.0055βs+0.0046)
    としたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
  7. 外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、少なくとも1箇所に遊星ピニオンギアを有し、外周面に前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを形成した複数の遊星ローラと、前記中央ねじ軸に固定され、前記遊星ピニオンギアに噛合うリングギアとを備え、
    前記軸ねじの軸ねじ呼び有効径をDs、前記ナットねじのナットねじ呼び有効径をDn、前記ローラねじのローラねじ呼び有効径をDr、前記ローラねじのローラ条数をJr、前記遊星ピニオンギアの歯数をZp、前記リングギアの歯数をZr、前記軸ねじの軸条数をJsとしたときに、
    Dn=2Dr+Ds
    Ds/Dr=Zr/Zp=Js/Jr=N(Nは、正の整数)
    なる関係を有する遊星ローラねじ装置において、
    前記ナットねじのナットねじ面傾斜角を、前記ローラねじのローラねじ面傾斜角より大きくしたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
  8. (申請書の請求項6)
    請求項7において、
    前記ナットねじのナットねじ有効径を、前記ナットねじ呼び有効径より大きくなるように修正し、
    該修正後のナットねじ有効径における前記ナットねじ面傾斜角の修正量を、ナットねじ面傾斜角修正量Δγnとし、軸ねじのリ軸ード角をβsとしたときに、
    ナットねじ面傾斜角修正量Δγn(単位:度)を、
    (0.0061βs−0.0056βs+0.0038)≦Δγn≦
    (0.0098βs+0.0126βs−0.0155)
    としたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
  9. 外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、少なくとも1箇所に遊星ピニオンギアを有し、外周面に前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを形成した複数の遊星ローラと、前記ナットに固定され、前記遊星ピニオンギアに噛合うリングギアとを備え、
    前記軸ねじの軸ねじ呼び有効径をDs、前記ナットねじのナットねじ呼び有効径をDn、前記ローラねじのローラねじ呼び有効径をDr、前記ローラねじのローラ条数をJr、前記遊星ピニオンギアの歯数をZp、前記リングギアの歯数をZr、前記ナットねじのナット条数をJnとしたときに、
    Dn=2Dr+Ds
    Dn/Dr=Zr/Zp=Jn/Jr=N(Nは、正の整数)
    なる関係を有する遊星ローラねじ装置において、
    前記ローラねじの一方のローラねじ面傾斜角を小さくし、
    該修正量をローラねじ面傾斜角修正量Δγrsとし、軸ねじの軸リード角をβsとしたときに、
    ローラねじ面傾斜角修正量Δγrs(単位:度)を、
    (0.0109βs−0.0051βs+0.0107)≧Δγrs≧
    (0.0017βs+0.0055βs−0.0046)
    としたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
  10. 外周面に軸ねじを形成した中央ねじ軸と、内周面にナットねじを形成した円筒状のナットと、少なくとも1箇所に遊星ピニオンギアを有し、外周面に前記軸ねじと前記ナットねじとに噛合うローラねじを形成した複数の遊星ローラと、前記中央ねじ軸に固定され、前記遊星ピニオンギアに噛合うリングギアとを備え、
    前記軸ねじの軸ねじ呼び有効径をDs、前記ナットねじのナットねじ呼び有効径をDn、前記ローラねじのローラねじ呼び有効径をDr、前記ローラねじのローラ条数をJr、前記遊星ピニオンギアの歯数をZp、前記リングギアの歯数をZr、前記軸ねじの軸条数をJsとしたときに、
    Dn=2Dr+Ds
    Ds/Dr=Zr/Zp=Js/Jr=N(Nは、正の整数)
    なる関係を有する遊星ローラねじ装置において、
    前記ローラねじの一方のローラねじ面傾斜角を大きくし、
    該修正量を、ローラねじ面傾斜角修正量Δγrnとし、軸ねじの軸リード角をβsとしたときに、
    ローラねじ面傾斜角修正量Δγrn(単位:度)を、
    (−0.0061βs+0.0056βs−0.0038)≧Δγrn≧
    (−0.0098βs−0.0126βs+0.0155)
    としたことを特徴とする遊星ローラねじ装置。
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