図1は、本発明が適用された車両の動力伝達装置8の構成を説明する骨子図である。図1において、例えば内燃機関にて構成されている走行用駆動力源としてのエンジン10の出力は、クランク軸12、流体伝動装置としてのトルクコンバータ14を経て車両用自動変速機(以下、自動変速機)16に入力され、図示しない差動歯車装置および車軸等を介して駆動輪へ伝達されるようになっている。このようにエンジン10の出力が駆動輪へ伝達されるまでが動力伝達経路であり、その動力伝達経路を構成する動力伝達装置8はトルクコンバータ14、自動変速機16、および上記差動歯車装置等である。
トルクコンバータ14は、クランク軸12に連結されたポンプ翼車20と、自動変速機16の入力軸22に連結されたタービン翼車24と、それらポンプ翼車20およびタービン翼車24の間を直結するためのロックアップクラッチ26と、一方向クラッチ28によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車30とを備えている。ロックアップクラッチ26は、係合側油室25内の油圧と解放側油室27内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合させられることにより、ポンプ翼車20およびタービン翼車24は一体回転させられる。
自動変速機16は複数の変速段が選択的に成立させられるすなわち切り換えられる有段変速機であり、ハイおよびローの2段の切り換えを行う第1変速部32と、後進変速段および前進4段の切り換えが可能な第2変速部34とを備えている。第1変速部32は、サンギヤS0、リングギヤR0、およびキャリアK0に回転可能に支持されてそれらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合わされている遊星ギヤP0から成るHL遊星歯車装置36と、サンギヤS0とキャリアK0との間に設けられたクラッチC0および一方向クラッチF0と、サンギヤS0およびハウジング38間に設けられたブレーキB0とを備えている。
第2変速部34は、サンギヤS1、リングギヤR1、およびキャリアK1に回転可能に支持されてそれらサンギヤS1およびリングギヤR1に噛み合わされている遊星ギヤP1から成る第1遊星歯車装置40と、サンギヤS2、リングギヤR2、およびキャリアK2に回転可能に支持されてそれらサンギヤS2およびリングギヤR2に噛み合わされている遊星ギヤP2から成る第2遊星歯車装置42と、サンギヤS3、リングギヤR3、およびキャリアK3に回転可能に支持されてそれらサンギヤS3およびリングギヤR3に噛み合わされている遊星ギヤP3から成る第3遊星歯車装置44とを備えている。
サンギヤS1とサンギヤS2とは互いに一体的に連結され、リングギヤR1とキャリアK2とキャリアK3とが一体的に連結され、そのキャリアK3は出力軸46に連結されている。また、リングギヤR2とサンギヤS3は互いに一体的に連結されている。そして、リングギヤR2およびサンギヤS3と中間軸48との間にクラッチC1が設けられ、サンギヤS1およびサンギヤS2と中間軸48との間にクラッチC2が設けられている。また、サンギヤS1およびサンギヤS2の回転を止めるためのバンド式のブレーキB1がハウジング38に設けられている。また、サンギヤS1およびサンギヤS2とハウジング38との間には、一方向クラッチF1およびブレーキB2が直列に設けられている。この一方向クラッチF1は、サンギヤS1およびサンギヤS2が入力軸22と反対の方向へ逆回転しようとする際に係合させられるように構成されている。
キャリアK1とハウジング38との間にはブレーキB3が設けられており、リングギヤR3とハウジング38との間には、ブレーキB4と一方向クラッチF2とが並列に設けられている。この一方向クラッチF2は、リングギヤR3が逆回転しようとする際に係合させられるように構成されている。
以上のように構成された自動変速機16では、例えば図2に示す作動表に従って後進1段および変速比γ(入力軸22の回転速度NIN/出力軸46の回転速 度NOUT) が順次小さくなる前進5段(1st〜5th)の変速段(ギヤ段)のいずれかに切り換えられる。図2において「○」は係合で、空欄は解放を表し、「◎」はエンジンブレーキ時の係合を表し、「△」は動力伝達に関与しない係合を表している。クラッチC0〜C2、およびブレーキB0〜B4は何れも油圧アクチュエータによって係合させられる油圧式摩擦係合装置である。この図2から明らかなように、前進5段(1st〜5th)の変速段のいずれに切り換えられる場合でもクラッチC1が係合されている。したがって、このクラッチC1は前進走行時に必ず係合される前進クラッチ(以下、前進クラッチC1と表す)と言うべきものであり、言い換えれば少なくとも前進クラッチC1が解放されることによってシフトレバー66の操作位置「N(ニュートラル)」に対応する自動変速機16内の動力伝達経路が遮断された中立状態すなわちニュートラル状態とされる。
図3は、図1の動力伝達装置8などを制御するために車両に設けられた電気的な制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン10の出力制御や自動変速機16の変速制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や自動変速機16およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
図3には電子制御装置100に入力される信号およびその電子制御装置100から出力される信号を例示した。例えば、電子制御装置100には、アクセル開度センサ50により検出されたアクセルペダル52の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、スロットル弁開度センサ54により検出された電子スロットル弁56のスロットル弁開度θTHを表すスロットル弁開度信号、出力軸回転速度センサ58(図1参照)により検出された出力軸46の回転速度NOUTすなわち車速Vに対応する車速信号、タービン回転速度センサ60(図1参照)により検出されたタービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を表す信号、クランク角度センサ62(図1参照)により検出されたクランク軸回転角度(位置)ACR(°)およびエンジン回転速度NEに対応するクランク軸回転速度を表す信号、シフト検出スイッチ64により検出されたシフトレバー66の操作位置PSHを表す操作位置信号などが供給されている。
また、電子制御装置100からは、アクセル開度Accに応じた大きさのスロットル弁開度θTHとするためのスロットルアクチュエータ68を駆動する信号、燃料噴射弁70から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号、自動変速機16の変速段を切り換えるために油圧制御回路72内のシフト弁を駆動するシフトソレノイドを制御する信号およびライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁を駆動するための指令信号、ロックアップクラッチ26の係合、解放、スリップ量を制御する油圧制御回路72内のリニアソレノイド弁を駆動するための指令信号などが出力されている。
このライン油圧PLは、エンジン10により回転駆動される機械式オイルポンプ78から発生する油圧を元圧として油圧制御回路72内の図示しない例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、アクセル開度或いはスロットル開度で表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
また、図3に示すように、エンジン10にはスロットルアクチュエータ68によって開閉制御される電子スロットル弁56が備えられている吸気管74および排気管76が設けられている。電子スロットル弁56は、基本的には図4に示すように運転者の加速要求量を表すアクセル開度Accに対応するスロットル弁開度θTHとなるように制御される。
シフトレバー66は、例えば運転席の近傍に配設され、図5に示すように5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、および「S」のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は自動変速機16内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機16内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸46の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機16の出力軸46の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機16内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機16の第1変速段乃至第5変速段の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて第1変速段「1st」〜第5変速段「5th」の総ての前進変速段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「S」ポジションは変速可能な高速側の変速段が異なる複数の変速レンジ或いは異なる複数の変速段を切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。
この「S」ポジションにおいては、シフトレバー66の操作毎に変速範囲或いは変速段をアップ側にシフトさせるための「+」ポジション、シフトレバー66の操作毎に変速範囲或いは変速段をダウン側にシフトさせるための「−」ポジションが備えられている。
例えば、「S」ポジションにおいては、「D」レンジ、「4」レンジ、「3」レンジ、「2」レンジ、「L」レンジの何れかがシフトレバー66の「+」ポジション或いは「−」ポジションへの操作に応じて変更される。この「4」レンジは第1変速段乃至第4変速段の範囲で自動変速され、「3」レンジは第1変速段乃至第3変速段の範囲で自動変速され、「2」レンジは第1変速段乃至第2変速段の範囲で自動変速され、「L」レンジは第1変速段で走行させられ、各レンジともそれぞれ各ギヤ段で一層エンジンブレーキが作用させられるエンジンブレーキレンジでもある。
上記「P」乃至「S」ポジションに示す各シフトポジションにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、自動変速機16内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする動力伝達遮断ポジション(位置)であって、車両を走行させないときに選択される非走行ポジション(位置)である。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「S」ポジションは、自動変速機16内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする動力伝達可能ポジション(位置)であって、車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。
図6は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、変速制御手段102は、例えば図7に示すような予め記憶された変速線図から実際の車速Vおよびアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて変速判断を行い、すなわち自動変速機16の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速機16の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速機16の自動変速制御を実行する。このとき、変速制御手段102は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速機16の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)SPを油圧制御回路72へ出力する。
油圧制御回路72は、その指令に従って、自動変速機16の変速が実行されるように油圧制御回路72内のシフト弁を駆動するシフトソレノイドを作動させて、その変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
図7の変速線図は、車速Vおよびアクセル開度Accを変数として変速段が判断される為の複数の領域を定める境界線としてのアップシフト用変速線とダウンシフト用変速線とをそれぞれ有する予め記憶された関係(変速マップ)である。図7において、実線はアップシフトが判断されるためのアップシフト用変速線であり、破線はダウンシフトが判断されるためのダウンシフト用変速線である。これらアップシフト用変速線およびダウンシフト用変速線は、同じ変速段間のアップシフトとダウンシフトとが短時間に繰り返し行われる変速ハンチングを防止するための所謂ヒステリシスを有するように、例えばn速と(n+1)速との間の変速線においては、ダウンシフト用変速線(n←(n+1)変速線)の方がアップシフト用変速線(n→(n+1)変速線)よりも低車速側或いは高アクセル開度側に設定されている。
変速制御手段102では、車速Vが上昇したり、或いはアクセルペダル52の戻し操作が行われてアクセル開度Accが小さくなったときには、アップシフト用変速線を高車速側へ横切ることに基づいてアップシフトが判定され、それまでの変速段からそれよりも高速側の変速段となるように自動変速機16がアップシフトされる。また、車速Vが低下したり、或いはアクセルペダル52の踏込み操作が行われてアクセル開度Accが大きくなったときには、ダウンシフト用変速線を低車速側へ横切ることに基づいてダウンシフトが判定され、それまでの変速段からそれよりも低速側の変速段となるように自動変速機16がダウンシフトされる。
変速制御手段102は、例えば車両状態が1速→2速アップシフト用変速線と2速→3速アップシフト用変速線とで定められる領域R2Uに位置してその領域R2Uに対応する第2変速段にて車両走行中に、アクセルペダル52の戻し操作が行われてアクセル開度Accが小さくなったことにより車両状態が2速→3速アップシフト用変速線を横切って2速→3速アップシフト用変速線と3速→4速アップシフト用変速線とで定められる領域R3Uに位置したときには、その領域R3Uに対応する第3変速段への2速→3速アップシフトを判断し、その第3変速段が得られるようにブレーキB3を解放させると共にクラッチC0およびブレーキB2を係合させる指令を油圧制御回路72に出力する。
アップシフト禁止手段104は、アクセル開度Accが所定の変化率Acc'F以上で低下したか否かに基づいてアクセルペダル52の急戻し操作を判定するアクセル急戻し判定手段106を備え、アクセル急戻し判定手段106によりアクセル開度Accが所定の変化率Acc'F以上で低下したと判定された場合には図7に示すような変速線図からアクセル開度Accの低下に基づいて実行される自動変速機16のアップシフトを禁止する指令を変速制御手段102に出力する。言い換えれば、アップシフト禁止手段104は、アクセル急戻し判定手段106によりアクセル開度Accが所定の変化率Acc'F以上で低下したと判定された場合には、その判定直前の自動変速機16の変速段に保持する指令を変速制御手段102に出力する。
例えば、上記所定の変化率Acc'Fは、アクセルペダル52の急戻しに応答したアップシフトによる空走感が解消されるように、変速制御手段102による自動変速機16のアップシフトが禁止される為の予め実験的に求められたアクセルペダル52の急戻し判定値である。よって、アクセル急戻し判定手段106は、変速制御手段102による自動変速機16のアップシフトがアップシフト禁止手段104により禁止される為の条件を判定するアップシフト禁止実行条件判定手段でもある。
アップシフト禁止解除条件判定手段108は、アップシフト禁止手段104により変速制御手段102への自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件が成立したか否かを判定する。
例えば、アップシフト禁止解除条件判定手段108は、アクセルペダル52が再び踏み込まれたときに自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件が成立したと判定する。その他、降坂路走行によって車速Vが上昇しエンジン回転速度NEが過回転領域まで上昇したときや、アクセル急戻し判定手段106によるアクセル開度Accが所定の変化率Acc'F以上で低下した急戻し操作の判定直前の変速段に保持できずフェールセーフとしてアップシフトが必要なとき等に、アップシフト禁止解除条件判定手段108は自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件が成立したと判定する。
前記アップシフト禁止手段104は、上記アップシフト禁止解除条件判定手段108により自動変速機16のアップシフトを禁止する指令を解除する為の条件が成立したと判定された場合には、変速制御手段102へ出力していたそのアップシフトを禁止する指令を解除する。このように、アップシフト禁止解除条件判定手段108は、アップシフト禁止手段104に変速制御手段102へのアップシフトを禁止する指令を解除させる解除手段でもある。
ところで、アップシフト禁止の解除がアクセルペダル52の再踏込みが行われたことによる場合には、変速制御手段102によりダウンシフト用変速線から実際の車両状態に基づいて変速段が判断される、すなわちダウンシフト用変速線に基づいて定められる領域に対応する変速段が判断される。そうすると、アクセルペダル52の急戻し操作に伴う自動変速機16のアップシフトが禁止されて保持されているアクセルペダル52の急戻し直前の変速段と、アクセルペダル52の再踏込みによって自動変速機16のアップシフトの禁止が解除されたときに変速線図から実際の車両状態に基づいて判断される変速段すなわちアップシフトの禁止から復帰したときにダウンシフト用変速線から実際の車両状態に基づいて判断される変速段とが、相違する可能性がある。
具体的に、図7に一点鎖線で示した、ドライバ操作に関連する車両状態を示す点の軌跡すなわち運転者によるアクセルペダル52の操作に伴うアクセル開度Accおよび車速Vを示す点の変化を示す軌跡を用いて上述した変速段が相違する点を以下に説明する。ここでは、その相違点を明確に説明するために、アクセルペダル52の踏込操作は全閉(Acc=0%)から全開(Acc=100%)への急踏込とし、アクセルペダル52の戻し操作は全開(Acc=100%)から全閉(Acc=0%)への急戻しとした。
まず車両停止状態からアクセルペダル52が踏込操作されたt1時点では車両状態においては既に達成されている第1変速段が維持される。アクセルペダル52の踏込操作による車速Vの上昇に伴って車両状態が領域R2Uに位置する過程で車両状態を示す点が1速→2速アップシフト用変速線を高車速側へ横切ると第2変速段が判断されて1速→2速アップシフトが実行される。この状態からアクセルペダル52が急戻し操作されたt2時点での車両状態においてはアクセルペダル52の急戻し操作によるアップシフトがアップシフト禁止手段104によって禁止されていることから急戻し操作直前の第2変速段が保持される。
そして、アクセルペダル52の戻し操作により車速Vが低下した状態からアクセルペダル52が再踏込操作されたt3時点での車両状態においては、或いはそのt3時点から所定時間連続してアクセルペダル52が踏込操作されたt4時点での車両状態においては、アクセルペダル52の踏込操作に伴ってダウンシフト用変速線に基づいてアップシフトの禁止から復帰したときの変速段が判断されることから、5速→4速ダウンシフト用変速線と4速→3速ダウンシフト用変速線とを低車速側へ横切った第3速領域R3Dに位置するので第3変速段が判断される。
このように、アクセルペダル52の急戻し操作によるアップシフト禁止時の変速段(この例では第2変速段)とそのアップシフト禁止から復帰したときの変速段(この例では第3変速段)とが相違すると、アクセルペダル52の踏込操作によるアップシフト禁止からの復帰時にアップシフトが行われる。この例では、1段のアップシフトであるが例えば複数段のアップシフトとなる場合には、アクセルペダル52が所定時間連続して踏込操作される毎に1段ごとアップシフトされるようにしても良い。
しかしながら、アクセルペダル52の再踏込操作が大きな踏込操作でないときにはアップシフト禁止からの復帰時にアップシフトが行われたとしても違和感が生じ難いと考えられるが、アクセルペダル52の再踏込操作が大きな踏込操作であるときには、運転者がエンジン高回転域での変速を期待してアクセルペダル52を大きく踏込操作していると考えられ、アップシフト禁止からの復帰時にエンジン低回転領域でアップシフトが行われてしまうと運転者の加速意図が十分に反映されない可能性がある。
そこで、ダウンシフト用変速線間で定められる領域に対応する変速段に比べて同じ車両状態であってもアップシフト用変速線間で定められる領域に対応する変速段の方が低車速側の変速段が得られやすいので、特に、アクセル開度Accが所定量AccF以上となるようなアクセルペダル52の踏込操作によってアップシフト禁止手段104によるアップシフトの禁止が解除されたときには、変速制御手段102はアップシフト用変速線を低車速側へ横切ったことに基づいてすなわちアップシフト用変速線間にて定められる領域に基づいてその禁止から復帰する変速段を判断する。
アップシフト用変速線に基づいてアップシフト禁止からの復帰時の変速段を判断することについて、図7に示したドライバ操作軌跡を用いて以下に説明する。アクセルペダル52が再踏込操作されたt3時点、或いはそのt3時点から所定時間連続してアクセルペダル52が踏込操作されたt4時点での車両状態において、4速→3速ダウンシフト用変速線を低車速側へ横切ったことに基づいてアップシフトの禁止から復帰したときの変速段が判断されると領域R3Dに対応する第3変速段が判断されるが、2速→3速アップシフト用変速線を低車速側へ横切ったことに基づいてアップシフトの禁止から復帰したときの変速段が判断されると領域R2Uに対応する第2変速段が判断される。そして、t4時点から更にアクセルペダル52が継続して踏込操作され、車速Vが上昇して車両状態が領域R3U内に位置すると第3変速段が判断される。つまり、アップシフト禁止からの復帰時には少なくともt5時点までは第2変速段が維持される。
従って、アクセルペダル52の再踏込操作が大きな踏込操作であるときのアップシフト禁止からの復帰時に、ダウンシフト用変速線に替えてアップシフト用変速線に基づいてアップシフト禁止からの復帰時の変速段が判断されると、よりエンジン高回転領域までアップシフトが行われないので運転者の加速意図が十分に反映される。
上記所定量AccFは、アップシフト禁止手段104による変速制御手段102への自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件の1つであって、例えば運転者の加速意思が十分に反映されるようにアップシフト禁止からの復帰時にダウンシフト用変速線に替えてアップシフト用変速線に基づいて変速段が判断される為の予め実験的に求めて定められたアクセルペダル52の踏込操作量判定値である。
具体的には、前記アップシフト禁止解除条件判定手段108は、アクセル開度Accが所定量AccF以上となったか否かに基づいて、自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件が成立したか否かを判定する。或いは、運転者の加速意思が一層確かなものとされる為に、アップシフト禁止解除条件判定手段108は、所定時間例えば2〜3秒程度連続してアクセル開度Accが所定量AccF以上となったか否かに基づいて、自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件が成立したか否かを判定する。また、アップシフト禁止解除条件判定手段108は、アップシフト禁止手段104によるアップシフトの禁止から復帰する為の条件が成立したか否かを判定する復帰条件成立判定手段でもある。
前記変速制御手段102は、前記アップシフト禁止解除条件判定手段108により少なくともアクセル開度Accが所定量AccF以上となって 前記アップシフト禁止手段104による変速制御手段102へ出力していたアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件が成立したと判定されたときには、アップシフト用変速線に基づいて変速段を判断する。そして、変速制御手段102は、アップシフト用変速線に基づいて変速段を判断した後は、アップシフトの禁止が解除された復帰直後以外の通常走行時には自動変速機16が適切に変速されるように、図7に示すような変速線図から実際のアクセル開度Accおよび車速Vに基づいて変速段を判断する。
図8は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちアクセル急戻しによるアップシフト禁止が解除される際に変速段を適切に判断するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図9は、図8のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートであって、時間軸におけるt1時点〜t5時点はそれぞれ前記図7に示すt1時点〜t5時点に対応している。
先ず、前記アクセル急戻し判定手段106に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、自動変速機16のアップシフトが禁止される為の条件であるアクセル開度Accが所定の変化率Acc'F以上で低下したか否かが判定される。
図9のt1時点は、車速Vが零の車両停止状態からアクセルペダル52が全閉(アクセルオフ)から全開へと急踏込操作されたことを示している。このt1時点では、第1変速段が判断されたことを示している。そして、t1時点からt2時点の間において、連続してアクセルペダル52が踏込操作されることにより車速Vが上昇し、車両状態が領域R2U(図7参照)に位置したところで第2変速段が判断されて1速→2速アップシフトが実行されたことを示している。更に、t2時点は、アクセルペダル52が全開からアクセルオフへと急戻し操作され、アクセルオフに伴うアップシフトが禁止されるオフアップ禁止制御の実行条件が成立したと判定されたことを示している。
前記S1の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記アップシフト禁止手段104に対応するS2において、アクセル開度Accの低下に基づいて実行される自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が変速制御手段102に出力される。言い換えれば、S1の判断が肯定される直前の自動変速機16の変速段に保持する指令が変速制御手段102に出力される。
図9のt2時点は、オフアップ禁止制御が実行されてアクセルペダル52の急戻し操作直前の第2変速段が保持されたことを示している。また、t2時点からt3時点の間は、第2変速段が保持されたまま、アクセルオフに伴って車速Vが低下したことを示している。
次いで、前記アップシフト禁止解除条件判定手段108に対応するS3において、前記S2にて実行されている変速制御手段102への自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件が成立したか否かが判定される。例えば、運転者の加速意思が十分に反映される為に、所定時間例えば2〜3秒程度連続してアクセル開度Accが所定量AccF以上となったか否かに基づいて、自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件が成立したか否かが判定される。
図9のt3時点は、アクセルペダル52がアクセルオフから全開へと再度急踏込操作されたことを示している。このt3時点では、未だアップシフトの禁止から復帰する為の条件すなわち復帰条件が成立したと判断されておらず、第2変速段が保持されていることを示している。そして、t3時点から連続してアクセルペダル52が踏込操作されることにより車速Vが上昇すると共に、このt3時点から所定時間連続してアクセルペダル52が踏込操作されたt4時点において、上記復帰条件が成立したと判断されたことを示している。
前記S3の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記アップシフト禁止手段104および前記変速制御手段102に対応するS4において、前記S2における変速制御手段102へ出力されている自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される。同時に、アップシフト用変速線にて定められる領域に基づいて変速段が判断される。
図9のt4時点は、自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除されたことを示している。
図9において、破線に示す従来例においては、アップシフトの禁止から復帰したときの変速段がダウンシフト用変速線に基づいて判断されることから、アップシフト禁止からの復帰時となるこのt4時点にて、車両状態が領域R3D(図7参照)に位置していることにより第3変速段が判断される。これによって、アクセル開度Accが全開乃至略全開にも拘わらずエンジン低回転速度で2速→3速アップシフトが実行されてしまい、運転者の加速意図が十分に反映されない。
他方、実線に示す本実施例においては、アップシフトの禁止から復帰したときの変速段がアップシフト用変速線に基づいて判断されることから、アップシフト禁止からの復帰時となるこのt4時点では、車両状態が領域領域R2U(図7参照)に位置していることにより第2変速段が判断されて、アップシフト禁止からの復帰直前と同じ第2変速段が維持される。そして、t4時点から更に連続してアクセルペダル52が踏込操作されることにより車速Vが上昇し、車両状態が領域R3U(図7参照)に位置したt5時点にて第3変速段が判断される。これによって、アップシフト禁止からの復帰時には少なくともt5時点までは第2変速段が維持され、従来例に比べよりエンジン高回転速度領域まで2速→3速アップシフトが実行されないので運転者の加速意図が十分に反映される。
上述のように、本実施例によれば、アクセル踏み込み操作によりアップシフト禁止手段104による自動変速機16のアップシフトの禁止が解除されたときには、アップシフト用変速線に基づいて変速制御手段102により変速段が判断されるので、アップシフトの禁止が解除された復帰直後には少なくともアップシフトが行われる高車速側の変速段が判断されることはなく、ダウンシフト用変速線に基づいて変速段が判断されてエンジン低回転速度領域でアップシフトが行われることが回避され、エンジン高回転速度領域での変速を期待してアクセルペダル52を大きく踏込操作するような運転者の加速意図が適切に反映される。
また、本実施例によれば、少なくともアクセル開度Accが所定量AccF以上となったことにより前記アップシフト禁止手段による前記車両用自動変速機のアップシフトの禁止が解除されるので、運転者の加速意図が一層適切に反映される。
また、本実施例によれば、変速制御手段102によりアップシフト用変速線に基づいて変速段が判断された後は図7に示すような変速線図から実際のアクセル開度Accおよび車速Vに基づいて変速段が判断されるので、アップシフトの禁止が解除された復帰直後以外の通常走行時には自動変速機16が適切に変速される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、アクセル急戻しによるアップシフト禁止が解除される際に変速段を適切に判断するための制御作動を、図7のドライバ操作軌跡や図9に示したように、運転者によるアクセルペダル52の操作に伴うアクセル開度Accを全閉と全開との間の変化で説明したが、必ずしもアクセル開度Accが全閉と全開との間の変化でなくとも、本発明は適用され得る。
例えば、アクセルペダル52の急戻しがアクセルオフでなくともよく、アクセル開度Accが所定の変化率Acc'F以上で低下したことにより自動変速機16のアップシフトが禁止される為の条件が成立したと判定される。また、アクセルペダル52の再踏込操作がアクセルオフから全開への再度急踏込操作でなくともよく、少なくともアクセル開度Accが所定量AccF以上となったことにより自動変速機16のアップシフトを禁止する指令が解除される為の条件が成立したと判定される。
また、前述の実施例において、流体伝動装置としてロックアップクラッチ26が備えられているトルクコンバータ14が用いられていたが、ロックアップクラッチ26は必ずしも設けられなくてもよく、またトルクコンバータ14に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式動力伝達装置が用いられてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。