JP2007105807A - 難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】被覆サーメット切削工具の硬質被覆層の表面層として、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す改質Cr2O3層、を形成する。
【選択図】図4
Description
(a)下部層として、炭化チタン(以下、TiCで示す)層、窒化チタン(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)層、炭酸化チタン(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化チタン(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム(以下、α型Al2O3層という)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を、化学蒸着装置で蒸着形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられることは良く知られている。
(a)従来、一般に、酸化クロム(以下、Cr2O3で示す)層(以下、従来Cr2O3層という)は、通常の化学蒸着装置で、
反応ガス組成:容量%で、CrCl3:2〜4%、CO2:4.5〜7%、HCl:2.5〜5%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
の条件で形成され、かつ、格子点にCrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造、すなわち図1にCr2O3の単位格子の原子配列が模式図[(a)は斜視図、(b)は横断面1〜9の平面図]で示される結晶構造を有する結晶粒で構成されるが、黒鉛質材料と同等に潤滑性を有するものの、脆い材料であるために、被覆サーメット工具の硬質被覆層の表面層として適用し、高速切削加工に用いた場合、摩耗進行がきわめて速く、実用に供し得ないこと。
反応ガス組成:容量%で、CrCl3:2〜4%、CO2:4.5〜7%、HCl:2.5〜5%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1040〜1080℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件、すなわち反応雰囲気温度および圧力を相対的に高温および低圧の条件で形成すると、この結果のCr2O3層(以下、改質Cr2O3層という)は、上記従来Cr2O3層のもつ結晶構造と同じコランダム型六方最密晶の結晶構造を有すると共に、これの具備する潤滑性と同等のすぐれた潤滑性を有し、さらに、一段と高温強度の向上したものになっており、したがって、これを上記の硬質被覆層の表面層として蒸着形成してなる被覆サーメット工具は、上記の粘性の高い難削材の高い高熱発生を伴う高速切削加工でも、切刃部に切粉が溶着することがなく、この結果チッピングの発生なく、さらに具備するすぐれた高温強度によって摩耗進行が著しく抑制された状態を維持するので、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角[図2(a)には前記結晶面の傾斜角が0度の場合、同(b)には傾斜角が45度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角]を測定し、この場合前記結晶粒は、上記の通り格子点にCrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成した場合(この場合前記の結果から、Σ5、Σ9、Σ15、Σ25、およびΣ27の構成原子共有格子点形態は存在しないことになる)、上記従来Cr2O3層は、図5に例示される通り、Σ3の分布割合が30%以下の相対的に低い構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、前記改質Cr2O3層は、図4に例示される通り、Σ3の分布割合が60%以上のきわめて高い構成原子共有格子点分布グラフを示し、この高いΣ3の分布割合は、前記改質Cr2O3層の形成条件を変化させることにより変化すること。
なお、上記の改質Cr2O3層および従来Cr2O3層において、相互に隣接する結晶粒の界面における構成原子共有格子点形態のうちのΣ3、Σ7、およびΣ11の単位形態を模式図で例示すると図3(a)〜(c)に示される通りとなる。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)下部層として、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、1〜15μmの平均層厚を有するα型Al2O3層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる、被覆サーメット工具において、
上記硬質被覆層の表面層として、2〜5μmの平均層厚を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にCrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す改質Cr2O3層、
を蒸着形成してなる、難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)下部層のTi化合物層
Ti化合物層は、α型Al2O3層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層の高温強度向上に寄与するほか、工具基体とα型Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性を向上させる作用を有するが、その平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速切削では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その平均層厚を3〜20μmと定めた。
α型Al2O3層は、Al2O3自体のもつすぐれた高温硬さと耐熱性によって、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、所望のすぐれた耐摩耗性を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
改質Cr2O3層の成原子共有格子点分布グラフにおけるΣ3の分布割合は、上記の通り、その形成条件を調整することにより60%以上とすることができるが、この場合Σ3の分布割合が60%未満では、特に粘性の高い難削材の高速切削加工で、摩耗進行を抑制し、長期に亘って潤滑性を保持するに十分な高温強度を確保することができず、この結果比較的早期に摩滅し、硬質被覆層にチッピングが発生し、これが原因で使用寿命に至るようになることから、Σ3の分布割合を60%以上と定めたものであり、また、その平均層厚が2μm未満では、所望のすぐれた潤滑性を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が5μmを越えて厚くなりすぎると、チッピング発生の原因となることから、その平均層厚を2〜5μmと定めた。
すなわち、上記構成原子共有格子点分布グラフは、上記のCr2O3層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記表面研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を求めることにより作成した。
なお、図2は、本発明被覆サーメット工具3の硬質被覆層の表面層である改質Cr2O3層の構成原子共有格子点分布グラフ、図3は、比較被覆サーメット工具3の硬質被覆層の表面層である従来Cr2O3層の構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ示すものである。
被削材:JIS・SS490の丸棒、
切削速度:420m/min、
切り込み:3.5mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Aという)での軟鋼の乾式連続高速切削試験(通常の切削速度は250m/min)、
被削材:JIS・SUS310Sの長さ方向等間隔4本縦溝入丸棒、
切削速度:270m/min、
切り込み:2mm、
送り:0.35mm/rev、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Bという)でのステンレス鋼の乾式断続高速切削試験(通常の切削速度は130m/min)、さらに、
被削材:JIS・SMnC443の長さ方向等間隔4本縦溝入丸棒、
切削速度:320m/min、
切り込み:2.5mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Cという)での高マンガン鋼の乾式断続高速切削試験(通常の切削速度は180m/min)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、炭化チタン層、窒化チタン層、炭窒化チタン層、炭酸化チタン層、および炭窒酸化チタン層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる、表面被覆サーメット製切削工具において、
上記硬質被覆層の表面層として、2〜5μmの平均層厚を有すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10-10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にCrおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す改質酸化クロム層、
を蒸着形成してなる、難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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