JP2007100834A - 動圧軸受装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】高温時におけるスラスト軸受剛性の向上と、低温時におけるトルク低減とを図ることが可能な動圧軸受装置を提供する。
【解決手段】スリーブ部の軸方向の線膨張係数を、軸部材の軸方向の線膨張係数以上に設定した。これにより、高温時には、スリーブ部の軸方向熱膨張量が軸部材の軸方向熱膨張量を上回ることにより、スラスト軸受隙間の隙間幅が小さくなり、高温時におけるスラスト方向の軸受剛性の低下を抑制することが可能となる。反対に低温時には、スリーブ部の軸方向熱収縮量が軸部材の軸方向熱収縮量を上回ることにより、スラスト軸受隙間の隙間幅が大きくなり、低温時におけるモータトルクの上昇を抑制することが可能となる。
【選択図】図2

Description

本発明は、動圧軸受装置に関するものである。
動圧軸受装置は、軸受隙間に充填された潤滑流体(例えば潤滑油)に動圧作用を発生させ、この圧力で軸部材を支持する軸受装置である。この動圧軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を備えるものであり、情報機器、例えばHDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等におけるディスクドライブ用のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイールモータ、あるいは軸流ファンなどの小型モータ用の軸受装置として好適である。
例えばHDD等においては、高容量化の要請に応えるべく磁気ディスクの搭載枚数が増加する傾向にあり、これに伴って動圧軸受装置においてもより高い軸受剛性が求められる傾向にある。特にスラスト軸受隙間の隙間幅の精度は、スラスト軸受部の動圧作用に大きな影響を与えるため、この隙間幅を精度良く設定するために、様々な努力がなされている。
例えば特許文献1では、軸受部材とハウジングの内底面との間に位置決め部材を介装することにより、スラスト板と軸受スリーブ及びハウジング内底面との間スラスト軸受隙間を精度良く設定している。
特開2002−061637号公報
しかし、スラスト軸受隙間を精度良く設定しても、動圧軸受装置の運転状況による温度変化によって、以下のような問題が生じる。例えば、特許文献1の動圧軸受装置において、スラスト板が耐摩耗性を考慮してステンレス鋼で形成され、位置決め部材は加工性を考慮して黄銅で形成される場合、ステンレス鋼と黄銅とでは黄銅の線膨張係数の方が大きいため、昇温時における軸方向の熱膨張量は、黄銅製の位置決め部材の方がステンレス鋼製のスラスト板よりも大きくなり、スラスト軸受隙間の隙間幅は拡大する。一般に動圧軸受装置では、高温時に流体(例えば潤滑油)の粘度が低下するため、特にスラスト方向での軸受剛性の低下が問題となるが、位置決め部材の線膨張係数がスラスト板よりも大きいと、高温時にスラスト軸受隙間の隙間幅が拡大するため、スラスト方向の軸受剛性がさらに低下する。一方、低温時には、潤滑油の粘度上昇によりモータトルクが増大するが、上記線膨張係数の差は、このトルクを増大させる方向に働く。このような構造では、スラスト板と位置決め部材との熱膨張量差が、高温時および低温時の何れでもそれぞれの不具合を助長する方向に作用する点が問題となっている。
本発明の課題は、高温時におけるスラスト軸受剛性の向上と、低温時におけるトルク低減とを図ることが可能な動圧軸受装置を提供することである。
前記課題を解決するため、本発明の動圧軸受装置は、スリーブ部を有する軸受部材と、スリーブ部の内周に挿入した軸部材と、軸部材の外周に固定され、外径方向に突出した第1及び第2スラスト部材と、スリーブ部の一端面と対向する第1スラスト部材の端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に支持する第1スラスト軸受部と、スリーブ部の他端面と対向する第2スラスト部材の端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に支持する第2スラスト軸受部とを備え、少なくとも第1および第2スラスト部材で挟まれた軸方向領域で、スリーブ部の軸方向の線膨張係数を、軸部材の軸方向の線膨張係数以上に設定した。
このように本発明では、少なくとも第1および第2スラスト部材で挟まれた軸方向領域で、スリーブ部の軸方向の線膨張係数を、軸部材の軸方向の線膨張係数と同じか、もしくはそれよりも大きく設定した。スリーブ部と軸部材の軸方向の線膨張係数が同じ場合、温度が変化してもスラスト軸受隙間は変動せず、安定した軸受剛性が得られる。また、スリーブ部の軸方向の線膨張係数を、軸部材の軸方向の線膨張係数よりも大きく設定した場合、高温時には、スリーブ部の軸方向熱膨張量が軸部材の軸方向熱膨張量を上回ることにより、スラスト軸受隙間の隙間幅が小さくなる。よって、高温時におけるスラスト方向の軸受剛性の低下を抑制することが可能となる。反対に低温時には、スリーブ部の軸方向熱収縮量が軸部材の軸方向熱収縮量を上回ることにより、スラスト軸受隙間の隙間幅が大きくなる。よって、低温時におけるモータトルクの上昇を抑制することが可能となる。
上記の動圧軸受装置において、第1及び第2スラスト部材の何れか一方、あるいは両方の外周面でシール空間を形成すると、軸受内部に充填された潤滑流体の漏れ出しを防ぐことができる。
上記の動圧軸受装置と、ステータコイルと、ロータマグネットとからなるモータは、高温時における高い軸受剛性と、低温時における低トルク性を有する。
以上のように、本発明によれば、高温時におけるスラスト軸受剛性の向上と、低温時におけるトルク低減とを図ることが可能な動圧軸受装置を提供することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態を示す動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。この情報機器用スピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、動圧軸受装置1と、動圧軸受装置1の軸部材2に取り付けられたロータ(ディスクハブ)3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4aおよびロータマグネット4bと、ブラケット5とを備えている。ステータコイル4aはブラケット5の外周に取り付けられ、ロータマグネット4bは、ディスクハブ3の内周に取り付けられている。ディスクハブ3は、その外周に磁気ディスク等のディスクDを一枚または複数枚保持する。ステータコイル4aに通電すると、ステータコイル4aとロータマグネット4bとの間に発生する電磁力でロータマグネット4bが回転し、それに伴ってディスクハブ3、および軸部材2が一体となって回転する。
図2は、上記スピンドルモータで使用される動圧軸受装置1を示す断面図である。この動圧軸受装置1は、軸部材2と、軸受部材6と、軸部材2の外周面に軸方向に離間して固定された第1スラスト部材9及び第2スラスト部材10とを主要構成部品として構成される。本実施形態では、軸受部材6はハウジング7とスリーブ部8とで別体に構成されている場合を例示する。なお、以下では、説明の便宜上、ハウジング7の開口部から軸部材2の端部が突出している側を上側、その軸方向反対側を下側として説明を進める。
スリーブ部8の内周面8aと軸部材2の外周面2aとの間に第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが軸方向に離隔して設けられる。また、スリーブ部8の上側端面8bと第1スラスト部材9の下側端面9bとの間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、スリーブ部8の下側端面8cと第2スラスト部材10の上側端面10bとの間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。
軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で形成される。軸部材2は全体として概ね同径の軸状をなし、その中間部分には、他所よりも僅かに小径に形成した逃げ部2bが形成されている。軸部材2の外周面2aのうち、第1および第2スラスト部材9、10の固定位置には、凹部、例えば円周溝2cが形成されている。なお、軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料に限らず、金属と樹脂のハイブリッド構造として形成することもできる。
ハウジング7は、例えば、樹脂材料を射出成形して円筒状に形成され、その内周面7aは、同径でストレートな円筒面となっている。図1に示すブラケット5の内周面にハウジング7の外周面が圧入、接着、圧入接着等の手段で固定される。
ハウジング7を形成する樹脂は主に熱可塑性樹脂であり、例えば、非晶性樹脂として、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSF)、ポリエーテルイミド(PEI)等、結晶性樹脂として、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を用いることができる。また、上記の樹脂に充填する充填材の種類も特に限定されないが、例えば、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を用いることができる。これらの充填材は、単独で用い、あるいは、二種以上を混合して使用しても良い。この実施形態では、ハウジング7を形成する材料として、結晶性樹脂としての液晶ポリマー(LCP)に、導電性充填材としてのカーボンファイバー又はカーボンナノチューブを2〜8wt%配合した樹脂材料を用いている。
この他、黄銅やアルミニウム合金等の軟質金属材料、その他の金属材料でハウジング7を形成することもできる。
スリーブ部8は、例えば、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング7の内周面7aの所定位置に圧入、接着、あるいは圧入接着等の手段で固定される。なお、スリーブ部8は、焼結金属以外にも銅合金等の金属材料あるいは樹脂で形成することもできる。
スリーブ部8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられ、この2つの領域には、例えば図3(a)に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2がそれぞれ形成される。また、スリーブ部8の上側端面8b及び下側端面8cには、第1及び第2スラスト軸受部T1、T2のスラスト軸受面となる領域が設けられ、この領域には、例えば図3(b)及び図3(c)に示すようなスパイラル状の動圧溝8b1、8c1が形成される。
第1スラスト部材9および第2スラスト部材10は、何れも真ちゅう(黄銅)等の軟質金属材料やその他の金属材料、あるいは、樹脂材料で同形状のリング状に形成され、軸部材2の外周面2aの所定位置に、例えば接着剤で固定される。接着剤としては、熱硬化性接着剤を使用することができ、この場合、軸部材2に対する第1及び第2スラスト部材9、10の位置決めを行った後、軸部材2を加熱処理(ベーキング)することで、第1及び第2スラスト部材9、10を確実に軸部材2に固定することができる。このとき、軸部材2に塗布した接着剤が、接着剤溜まりとしての円周溝2cに充填されて固化することにより、第1及び第2スラスト部材9、10の軸部材2に対する接着強度が向上する。
第1スラスト部材9の外周面9aは、ハウジング7の上端開口部の内周面7aとの間に所定の容積をもった第1シール空間S1を形成し、第2スラスト部材10の外周面10aは、ハウジング7の下端開口部の内周面7aとの間に所定の容積をもった第2シール空間S2を形成する。この実施形態において、第1スラスト部材9の外周面9aおよび第2スラスト部材10の外周面10aは、それぞれハウジングの開口側に向かって漸次縮径したテーパ面状に形成される。そのため、両シール空間S1、S2は、互いに接近する方向に漸次縮小したテーパ形状を呈する。軸部材2の回転時、両シール空間S1、S2内の潤滑流体(例えば潤滑油)は毛細管力による引き込み作用と、回転時の遠心力による引き込み作用とにより、シール空間が狭くなる方向に向けて引き込まれる。これにより、ハウジング7の内部からの潤滑油の漏れ出しが効果的に防止される。ハウジング7の上側端面7bと下側端面7c、第1スラスト部材9の上側端面9c、および第2スラスト部材10の下側端面10cにそれぞれ撥油剤の被膜を形成すると、より確実に油漏れが防止される。
第1および第2シール空間S1、S2は、ハウジング7の内部空間に充満された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有する。想定される温度変化の範囲内では、油面は常時両シール空間S1、S2内にある。これを実現するために、両シール空間S1、S2の容積の総和は、少なくとも内部空間に充満された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量よりも大きく設定される。
このように、ハウジング7の両端に第1及び第2スラスト部材9、10を配置すると、スラスト部材が一端のみに配置されている場合に比べ、シール空間の総和が大きい分、潤滑油のバッファ機能を高めることができる。よって、第1及び第2スラスト部材9、10の軸方向寸法を縮小することができるため、軸受全体の軸方向寸法を縮小することが可能となる。あるいは、軸受全体の軸方向寸法は変えずに、スリーブ部の軸方向寸法をスラスト部材の軸方向寸法縮小分だけ拡大し、第1、第2ラジアル軸受部R1、R2の軸方向間隔を増すと、モーメント荷重に対する負荷能力を高めることができる。
上記のようにして、軸部材2にスリーブ部8を挟んで第1及び第2スラスト部材9,10を固定した後、この組み付け体をハウジング7の内周面7aに挿入し、スリーブ部8の外周面をハウジング7の内周面7aに固定する。スリーブ部8のハウジング7に対する固定は、接着、圧入、圧入接着、溶着(超音波溶着)等の適宜の手段によって行うことができる。このようにして組立が完了すると、第1及び第2スラスト部材9、10で密閉されたハウジング7の内部空間に、スリーブ部8の内部気孔も含め、潤滑流体として例えば潤滑油を充満させる。
潤滑油の注油は、例えば未注油状態の動圧軸受装置を真空槽内で潤滑油中に浸漬した後、大気圧に開放することにより行われる。このとき、図2に示すように、ハウジング7の両端が開放されているので、ハウジングの一端を閉じた場合に比べ、内部空間のエアを確実に潤滑油で置換することができ、残存エアによる弊害、例えば高温時の油漏れ等を確実に回避することができる。また、このような減圧を利用した注油方法だけでなく、常圧下での注油(例えば潤滑油の加圧注油)も可能となり、注油装置および工程を簡略化して製造コストの低廉化を図ることができる。
軸部材2の回転時には、スリーブ部8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、それぞれ軸部材2の外周面2aとラジアル軸受隙間を介して対向する。また、スリーブ部8の上側端面8bのスラスト軸受面となる領域が第1スラスト部材9の下側端面9bと所定のスラスト軸受隙間を介して対向し、スリーブ部8の下側端面8cのスラスト軸受面となる領域は、第2スラスト部材10の上側端面10bと所定のスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2がラジアル軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが構成される。同時に、上記スラスト軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2および第1及び第2スラスト部材9、10が上記スラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってスラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をスラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが構成される。
また、以上の説明では、第1および第2のラジアル軸受部R1、R2および第1および第2のスラスト軸受部T1、T2の動圧発生部として、ヘリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑流体の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、第1および第2のラジアル軸受部R1、R2の動圧発生部として、いわゆるステップ軸受や多円弧軸受を採用することもでき、第1および第2のスラスト軸受部T1、T2の動圧発生部として、動圧溝を放射状に配置したいわゆるステップ軸受や、いわゆる波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等で構成することもできる。
本発明では、スリーブ部8の軸方向の線膨張係数を、軸部材2の軸方向の線膨張係数以上に設定した。本実施形態において、スリーブ部8は銅を主成分とする焼結金属で形成され、軸部材2はステンレス鋼等の金属材料で形成されている。焼結金属は、金属の種類と配合量を調整すれば、任意の線膨張係数が得られるので、スリーブ部8を形成する焼結金属の成分の配合割合を調整し、上記条件を満たす組成とすればよい。例えば、スリーブ部8を形成する焼結金属の組成を、銅:57.7%、鉄:40%、錫:1.50%、炭素:0.80%とし、軸部材2をマルテンサイト系ステンレス鋼製とすると、スリーブ部8の軸方向の線膨張係数が軸部材2のそれを上回り、上記条件を満たす。
スリーブ部8及び軸部材2の材料の選択肢は上記に限らない。例えば、スリーブ部8は銅合金等の金属材料あるいは樹脂で形成することができ、軸部材2は金属と樹脂のハイブリッド構造に形成することができる。
軸部材2が、金属と樹脂のハイブリッド構造に形成されている場合は、軸部材2の構造や、金属と樹脂それぞれの材質、金属と樹脂との固着力などの様々な要因によって線膨張係数は変動する。このような場合には、少なくとも第1および第2スラスト部材で挟まれた軸方向領域L(図2参照)において、スリーブ部8の軸方向の線膨張係数が、軸部材のスリーブ部の内径側にある部分の軸方向の線膨張係数以上となる範囲内で、材質や構造などを決めればよい。
このようにして、スリーブ部8の軸方向の線膨張係数を、軸部材2の軸方向の線膨張係数より大きく設定すると、高温時には、スリーブ部8の軸方向の熱膨張量が軸部材2の軸方向の熱膨張量よりも大きくなるため、スラスト軸受隙間の隙間幅が小さくなる。従って、潤滑油の粘度低下によるスラスト方向の軸受剛性の低下を抑制することができる。反対に低温時には、軸方向の熱膨張量差によってスラスト軸受隙間の隙間幅が大きくなるので、低温時におけるモータトルクの上昇を抑制することができる。
スリーブ部8の線膨張係数と軸部材2の線膨張係数とが等しいとき、例えば両部材が同種金属で形成されているときは、温度が変化しても両部材の同じ軸方向距離における熱膨張量は常に等しいため、スラスト軸受隙間は変動しない。よって、組立時にスラスト軸受隙間を精度良く設定しておけば、環境温度が変化しても常に高い軸受剛性が得られる。
スリーブ部8と軸部材2の素材は上記条件を満たす範囲で選定できるが、両部材間の線膨張係数の差が余りに大きいと、スラスト軸受隙間幅が過小になる等の不具合が生じる恐れがある。例えば、スリーブ部8を樹脂材料で形成し、軸部材2を金属材料で形成する場合、一般的に樹脂材料の線膨張係数は金属材料のそれと比して大幅に大きいため、上記問題が発生する恐れが高まる。よって、環境温度により各部材の軸方向寸法が変動しても、各スラスト軸受隙間の隙間幅が不具合を起こさない範囲内、具体的には常温でスラスト軸受隙間の隙間幅が11〜25μmの範囲内に収まるように、スリーブ部8及び軸部材2の材質を選定すればよい。
図4は、本発明の第2の実施形態を示す動圧軸受装置11の断面図である。この実施形態の動圧軸受装置11が動圧軸受装置1と異なる点は、ハウジング7およびスリーブ部8を一体化し、軸受部材6を単一部品とすることで、部品点数および組立工数の削減を通じて更なる低コスト化を図った点にある。この軸受部材6は、軸方向の線膨張係数が軸部材2のそれより大きくなるように材料が選択され、鍛造や機械加工、あるいは射出成形、さらにはMIM成形などにより形成することができる。
この場合、軸受部材6のうち、スリーブ部8の内周面8aと軸部材2の外周面2aとの間にラジアル軸受隙間が形成され、スリーブ部8の上側端面8bと第1スラスト部材9の下側端面9bとの間、およびスリーブ部8の下側端面8cと第2スラスト部材10の上側端面10bとの間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成される。また、軸受部材6の両端開口部(ハウジングに相当する部分7の両端開口部)の内周面7aと第1及び第2スラスト部材9、10の外周面との間にそれぞれシール空間S1、S2が形成される。
本発明の第1の実施形態を示す動圧軸受装置1を組み込んだモータの一例を示す断面図である。 動圧軸受装置1の断面図である。 (a)は、スリーブ部8の断面図、(b)は、(a)図中のb矢印方向から見た平面図、(c)は、(a)図中のc矢印方向から見た平面図である。 本発明の第2の実施形態を示す動圧軸受装置11の断面図である。
符号の説明
1 動圧軸受装置
2 軸部材
3 ディスクハブ
4a ステータコイル
4b ロータマグネット
5 ブラケット
6 軸受部材
7 ハウジング
8 スリーブ部
9 第1スラスト部材
10 第2スラスト部材
L 軸方向領域
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S1、S2 シール空間

Claims (3)

  1. スリーブ部を有する軸受部材と、スリーブ部の内周に挿入した軸部材と、軸部材の外周に軸方向に離間して固定された第1及び第2スラスト部材と、スリーブ部の一端面と対向する第1スラスト部材の端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に支持する第1スラスト軸受部と、スリーブ部の他端面と対向する第2スラスト部材の端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に支持する第2スラスト軸受部とを備える動圧軸受装置において、
    少なくとも第1および第2スラスト部材で挟まれた軸方向領域で、スリーブ部の軸方向の線膨張係数を、軸部材の軸方向の線膨張係数以上に設定したことを特徴とする動圧軸受装置。
  2. 第1及び第2スラスト部材のうち、少なくとも何れか一方の外周面にシール空間を形成した請求項1記載の動圧軸受装置。
  3. 請求項1又は2記載の動圧軸受装置と、ステータコイルと、ロータマグネットとを有するモータ。
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