JP2007100100A - 熱硬化性粉体塗料組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アクリル系共重合体を含む連続相(海相)と、熱可塑性エラストマー(a-2)を含む分散相(島相)から成る海島型ミクロ相分離構造を有する樹脂組成物(A)及び硬化剤(B)を含有し、熱可塑性エラストマー(a-2)は芳香族ビニル炭化水素を重合して成るハードセグメントS及び共役ジエンを重合して成るソフトセグメントBから構成されるS-B-S型3元ブロック共重合体の水素添加物であるスチレン系熱可塑性エラストマー(a-2-1a)を主鎖とした熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a-2-2a)であり、熱可塑性エラストマー(a-2)の量は樹脂組成物(A)100重量部に対し0.5〜20重量部である熱硬化性粉体塗料組成物。
【選択図】なし
Description
従来、物の塗装には溶剤型の塗料が使用され、自動車用などの厳しい品質が要求される分野に使用するために、種々の要求を満足させる塗料が開発され、使用されてきた。また近年、塗料の技術分野において、ローカル又はグローバルな環境保全、労働安全衛生環境改善、火災や爆発の予防、省資源等の観点から、溶剤型塗料にかわって、粉体型塗料(以下「粉体塗料」という。)への変更が期待されてきた。
従来の粉体塗料の具体例としては、例えば、ビスフェノ−ルAを主体とするエポキシ樹脂及びポリエステル樹脂粉体塗料が挙げられる。しかしながら、これらは耐候性に問題があるばかりでなく、最近特に問題となってきた酸性雨に対する耐性にも問題があり、自動車車体塗装等の屋外での使用を前提とした用途において問題があった。
アクリル系粉体塗料に関する開発経緯の中、例えば、特許文献2(特開平5−112743号公報)に、二塩基酸等を混合することにより、また例えば、特許文献3(特開昭63−165463号公報)に、アルキルチタネートを混合する事により、それぞれ、低温硬化性やリコート性の改善を図る技術が開示された。しかし、いずれも、耐衝撃性は二次的な効果にとして挙げているに過ぎず、その効果は必ずしも充分なものではなかった。以下、特許文献2、特許文献3について説明する。
ここには、硬化性に優れた粉末形の被覆組成物を得る技術が開示されている。すなわち、(A)グリシジル基を含有する共重合体、(B)脂肪族又は脂環式二塩基酸、その無水物又は二塩基酸のポリオール変性無水物、及び、(C)場合により顔料及び他の添加剤、を含む粉末形の被覆組成物が開示されている。この共重合体(A)は、1,000〜10,000の数平均分子量(Mn)及び30〜90℃のガラス転移温度を有し、(a)少なくとも20重量%のグリシジルアクリレート又はグリシジルメタアクリレート、(b)35〜50重量%のスチレン、(c)10〜45重量%の脂肪族不飽和モノカルボン酸又はジカルボン酸の1又は多数のアルキルエステル、及び、(d)0〜50重量%の不飽和な一又は多数の他のオレフィン単量体、から得られる共重合体である。
ここには、特定のグリシジル基官能性アクリル樹脂、脂肪族二塩基酸(無水物)及びアルキルチタネート化合物を主成分とする、低温で溶融、硬化し、しかも、硬度、耐衝撃性、耐屈曲性等に優れた塗膜を与える熱硬化性アクリル粉体塗料組成物が開示されている。すなわち、(A)(メタ)アクリル酸の炭素原子数1〜14のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸のグリシジルエステルとを主成分として共重合させて得られるグリシジル基官能性アクリル樹脂、(B)脂肪族二塩基酸(好ましくはアジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ムコン酸等)もしくはその酸無水物、及び、(C)Ti(OR)4(Rは、炭素原子数15〜20のアルキル基)で示されるアルキルチタネート化合物(例えばテトラペンタデシルチタネート)を主成分とする熱硬化性アクリル樹脂粉体塗料組成物が開示されている。
熱可塑性エラストマーを含有する塗料塗膜の耐衝撃性の改良については、例えば、以下のような技術が特許文献4〜特許文献7に開示されている。しかしながら、これらの技術を熱硬化性粉体塗料組成物やアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物に応用することは困難である。
ここには、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、又は、マレイン酸又はその酸無水物でグラフト変性されたスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物(A)を溶解した不活性溶媒中で、炭素原子数1〜8のアルキル基又はシクロヘキシル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを50重量%以上含有するビニル単量体(B)を重合して得られる塗料用樹脂組成物〔重量比(A/B)=2/8〜7/3〕が開示されている。この塗料用樹脂組成物は、耐候性に優れ、金属やプラスチックの被着に好適とされている。
ここには、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、又は、その水素添加物に、α,β−不飽和カルボン酸、又は、その無水物をグラフト重合して得られた樹脂(A)と、アミノ樹脂、重合性不飽和基含有化合物、カルボキシル基・水酸基・アミノ基・メチロール基含有アクリル樹脂、ポリイソシアネート化合物、及び、ブロック化イソシアネート化合物からなる群から選択された少なくとも一種からなる架橋剤(B)と、エポキシ化合物(C)とを必須成分とし、固形分重量比で、A/B=99/1〜60/40、かつ、(A+B)/C=100/1〜100/50としたプライマー組成物が開示されている。
ここには、(A)共重合ポリエステル100重量部に対して、(B)共役ジエンの水添重合体、又は、共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素の水添共重合体に対し0.01〜10重量%の不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフトして得た変性オレフィン系重合体0.5〜30重量部、を混合した樹脂組成物からなる熱可塑性粉体塗料用ポリエステル組成物が開示されている。ここで、「水添」とは、水素添加、不飽和二重結合に水素原子を付加する概念を包含する。このポリエステル組成物は、良好な接着性、耐衝撃性、耐ヒートサイクル性を有するとされている。
本出願において用いる「チッピング」なる語の概念は、ピンポイントに短時間で荷重を負荷したの際の衝撃破壊の現象を包含し、特に自動車塗料の技術分野においては、飛来してくる小石と衝突した際に自動車車体塗膜が被る傷付きの現象をも包含する。「耐チッピング性」なる語の概念は、「チッピング」に対する塗膜の抵抗性を包含する。
本出願において用いる「耐衝撃性」なる語の概念は、広い面積に短時間で荷重を負荷した際の衝撃破壊の現象を包含し、特に自動車塗料の技術分野においては、大きな物と衝突した際に自動車車体塗膜が被る傷付きの現象をも包含する。
従来、粉体塗料の技術分野においては、塗膜の耐衝撃性と耐チッピング性の概念の違いがほとんど認識されず、また、塗膜の耐衝撃性が重視されることはあったが、塗膜の耐チッピング性の重要性については、ほとんど注意されることがなかった。
樹脂組成物(A)と硬化剤(B)を含有してなる熱硬化性粉体塗料組成物であって、
樹脂組成物(A)は、アクリル系共重合体(a−1)を含有する連続相と、熱可塑性エラストマー(a−2)を含有する分散相とから構成される海島型ミクロ相分離構造を有し、
連続相を構成するアクリル系共重合体(a−1)は、分子内に硬化剤(B)に対して反応性のある官能基を有さず、且つ、ラジカル重合性ビニル基を少なくとも1つ有するビニル単量体(a−1−1)40〜99重量%、及び、分子内に硬化剤(B)に対して反応性のある官能基を有し、且つ、ラジカル重合性ビニル基を少なくとも1つ有するビニル単量体(a−1−2)60〜1重量%を重合して成るものであり、
分散相を構成する熱可塑性エラストマー(a−2)は、主鎖に不飽和二重結合を有さない共重合体であって、芳香族ビニル炭化水素を重合して成るハードセグメントS、及び、共役ジエンを重合して成るソフトセグメントBから構成されるS−B−S型3元ブロック共重合体の水素添加物から構成されるスチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)を主鎖とした熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a−2−2a)であり、
分散相を構成する熱可塑性エラストマー(a−2)の合計量は、樹脂組成物(A)100重量部を基準として、0.5〜20重量部である熱硬化性粉体塗料組成物により達成される。
本発明で用いる熱可塑性エラストマー(a−2)の主鎖は、不飽和二重結合を有さず、ポリオレフィン鎖を分子内に少なくとも50重量%以上含有する、ポリオレフィンが主体のものであることが好ましい。主鎖が不飽和二重結合を有さない場合は、塗膜の耐候性が向上する。この熱可塑性エラストマー(a−2)は、スチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)を主鎖とした熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a−2−2a)である。
スチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)は、主鎖に不飽和二重結合を有さない共重合体であって、芳香族ビニル炭化水素を重合して成るハードセグメントS、及び、共役ジエンを重合して成るソフトセグメントBから構成されるS−B−S型3元ブロック共重合体の水素添加物から構成される。
スチレン熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a−2−2a)は、上述したスチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)を主鎖とした熱可塑性エラストマーのグラフト化物である。
熱可塑性エラストマー(a−2)の重量平均分子量は、2,000〜400,000が好ましく、10,000〜200,000がより好ましい。この重量平均分子量が上記範囲であると、塗膜の耐チッピング性が良好で、且つ、塗膜の平滑性が損なわれない。この重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
分散相(島相)を構成する熱可塑性エラストマー(a−2)の使用量は、粉体塗料用樹脂成分(A)100重量部を基準として、0.5〜20重量部である。この使用量が0.5重量部未満では耐チッピング性の改良が不十分であり、20重量部を越えると連続相(海相)であるアクリル系共重合体(a−1)中への分散が不十分となり、塗膜の平滑性や耐候性、粉体塗料の耐ブロッキング性が損なわれる傾向にある。この使用量は0.5〜15重量部であることが好ましい。
アクリル系共重合体(a−1)は、分子内に硬化剤(B)に対して反応性のある官能基を有さず、且つ、ラジカル重合性ビニル基を少なくとも1つ有するビニル単量体(a−1−1)40〜99重量%、及び、分子内に硬化剤(B)に対して反応性のある官能基を有し、且つ、ラジカル重合性ビニル基を少なくとも1つ有するビニル単量体(a−1−2)60〜1重量%を重合して成る。
ビニル単量体(a−1−1)は、分子内に硬化剤(B)に対して反応性のある官能基を有さず、且つ、ラジカル重合性ビニル基を少なくとも1つ有する単量体であれば、特に制限されない。このビニル単量体(a−1−1)は、得られる塗膜の耐候性の向上、基剤への密着性、硬度に寄与すると考えられる。
ビニル単量体(a−1−2)は、分子内に硬化剤(B)に対して反応性のある官能基を有し、且つ、ラジカル重合性ビニル基を少なくとも1つ有する単量体であれば特に制限されない。硬化剤(B)に対して反応性のある官能基としては、例えば、グリシジル基、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基等の非ラジカル重合性の官能基を挙げることができる。
ビニル単量体(a−1−1)(例えば、(メタ)アクリル系モノマー)の使用量は、アクリル系共重合体(a−1)の全量に対し40〜99重量%であり、60〜99重量%が好ましく、80〜99重量%がより好ましい。
本願において用いる「誘導体」なる語の概念には、特定の化合物の水素原子が、他の原子あるいは原子団Rによって置換されたものを包含する。ここでRは、少なくとも1個の炭素原子を含む1価の炭化水素基であり、より具体的には、脂肪族、実質的に芳香族度の低い脂環族、これらを組み合わせた基、又はこれらが水酸基、カルボキシル基、アミノ基、窒素、硫黄、けい素、りんなどで結合されるような2価の残基であってもよく、これらのうち特に、狭義の脂肪族系の構造のものが好ましい。Rは、上記のものに、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリル基、アルコキシル基、シクロアルコキシル基、アリルオキシル基、ハロゲン(F、Cl、Br等)基等が置換した基であってもよい。
粉体塗料組成物の貯蔵安定性、粉体塗料焼付時に塗料組成物流動性低下に起因する塗膜平滑性等を考慮して、アクリル系共重合体(a−1)のガラス転移点計算値(Tg)が、30〜120℃(好ましくは40〜110℃)になるように、ビニル単量体(a−1−1)及び(a−1−2)を選択することが望ましい。ここで、ガラス転移点計算値は、ビニル単量体(a−1−1)及び(a−1−2)のみを共重合させた場合の計算値をいう。
特定の単量体組成を有する重合体のガラス転移点(Tg)は、フォックス(Fox)の式により計算により求めることができる。ここで、フォックスの式とは共重合体を形成する個々の単量体について、その単量体の単独重合体のTgに基づいて、共重合体のTgを算出するためのものであり、その詳細は、ブルテン・オブ・ザ・アメリカン・フィジカル・ソサエティー, シリーズ2(Bulletin of the American Physical Society, Series 2)1巻・3号・123頁(1956年)に記載されている。
アクリル系共重合体(a−1)の数平均分子量は、約1,000〜約20,000の範囲が好ましく、約2,000〜約10,000の範囲がより好ましい。この数平均分子量が約1,000以上であると、一般的には、塗料組成物の貯蔵安定性が良好になる。この数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準として評価することができる。
アクリル系共重合体(a−1)の合成法は、実質的に所望の特性を有するものが得られるのであれば、特に限定されないが、ラジカル溶液重合法が好適に用いられる。
ラジカル重合を行う際に使用する、ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾニトリル等を挙げることができる。有機過酸化物には、アルキルパーオキシド、アリールパーオキシド、アシルパーオキシド、アロイルパーオキシド、ケトンパーオキシド、パーオキシカボネート、パーオキシカーボキシレート等が含まれる。アルキルパーオキシドとしては、ジイソプロピルパーオキシド、ジターシャリーブチルパーオキシド、ジターシャリーアミルパーオキシド、ターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ターシャリーアミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ターシャリーブチルヒドロ−パーオキシド、アリールパーオキシドとしては、ジクミルパーオキシド、クミルヒドロパーオキシド、アシルパーオキシドとしては、ジラウロイルパーオキシド、アロイルパーオキシドとしては、ジベンゾイルパーオキシド、ケトンパーオキシドとしては、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等を挙げることができる。アゾニトリルとしては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。
連続相(海相)であるアクリル系共重合体(a−1)中に、分散相(島相)である熱可塑性エラストマー(a−2)を、特定の重量比で分散させ樹脂組成物(A)を製造する方法としては、特に制限は無く、実質的に所望の樹脂組成物(A)を製造できればよい。ただし、好ましい方法としては、具体的に、次のような方法(1)〜(4)が挙げられる。
可塑性エラストマー(a−2)により構成される分散相において、その一次粒子としての平均直径が1nm〜30μmであることが好ましく、1nm〜10μmがより好ましい。その平均直径が上記範囲であると、塗膜の耐チッピング性の改良が充分で、且つ、塗膜の平滑性が良好である。
硬化剤(B)としては、ビニル単量体(a−1−2)の反応性官能基の種類により適宜選択すればよい。ビニル単量体(a−1−2)が有する反応性官能基が水酸基の場合は、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのアミノ樹脂、あるいはε−カプロラクタムでブロックされたイソホロンジイソシアネート等のブロック化ポリイソシアネート等などが挙げられ、カルボキシル基である場合は、ポリエポキシ化合物等が挙げられ、エポキシ基及び/又はグリシジル基である場合は、多価カルボン酸(b−1)及び/又は多価カルボン酸無水物(b−2)が代表的なものである。
多価カルボン酸(b−1)としては、脂肪族、芳香族、脂環族の何れの化合物も使用できる。芳香族多価カルボン酸の具体例としては、例えば、イソフタル酸、トリメリット酸等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用する事ができる。脂環式多価カルボン酸の具体例としては、例えば、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−ヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用する事ができる。また、カルボキシル基を有するポリエステル樹脂等も使用できる。但し、本発明においては、脂肪族多価カルボン酸を用いることが、平滑性、耐候性等の塗膜特性の点で好ましい。
脂肪族多価カルボン酸は、実質的に、分子内にカルボキシル基を、少なくとも2個有する脂肪族化合物であれば、特に制限されず、1種類又は2種類以上を用いることができる。
本願明細書において用いる「酸無水物」、「アンヒドリド基」、「アンヒドリド結合」及び「ポリアンヒドリド」なる語の概念には、「MARUZEN高分子大辞典−Concise Encyclopedia of PolymerScience and Engineering(Kroschwitz編、三田 達監訳、丸善、東京、1994年)」・996〜998頁の「ポリアンヒドリド」の項に記載されているそれぞれの語に関する概念をも包含する。本願の明細書において用いる「酸無水物」なる語の概念には、化学大辞典・第3巻(共立出版刊・1963年)・996頁左欄〜997頁右欄記載の「酸無水物」の項に記載されている概念をも包含する。
ここでmは1以上、nは2以上の、それぞれ自然数であり、好ましくはmは30以下である。
無水こはく酸や無水フタル酸のような、多価カルボン酸の環状無水物を、アクリル系共重合体(a−1)中のグリシジル基と反応させると、この無水物はアクリル系共重合体(a−1)分子中の特定のグリシジル基のエポキシ環とのみ反応する確率が高いため、複数のアクリル系共重合体(a−1)分子を橋架けする効果が小さい。
樹脂組成物(A)中のグリシジル基1当量に対し、多価カルボン酸(b−1)中のカルボキシル基は、0.1〜1.2当量が好ましく、0.2〜1.1当量がより好ましく、0.3〜1.0当量が最も好ましい。また、樹脂組成物(A)中のグリシジル基1当量に対し、多価カルボン酸無水物(b−2)中の酸無水物基は、0.1〜1.2当量が好ましく、0.2〜1.1当量がより好ましく、0.4〜1.0当量が最も好ましい。さらに、樹脂組成物(A)中のグリシジル基1当量に対し、多価カルボン酸系化合物分子中に存在するカルボキシル基及び/又は酸無水物基の合計当量は、0.5〜1.3当量が好ましく、0.6〜1.2当量がより好ましく、0.7〜1.0当量が最も好ましい。多価カルボン酸系化合物の使用量がこの範囲内であれば、塗膜の耐溶剤性や耐衝撃性などの特性が優れる傾向にある。
本発明の熱硬化性粉体塗料組成物には、通常、塗料に添加される種々の添加剤を添加することができる。例えば、目的に応じ、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドなどを包含する合成樹脂組成物、繊維素又は繊維素誘導体などを包含する天然樹脂又は半合成樹脂組成物を配合して塗膜外観又は塗膜物性を向上させることもできる。
樹脂組成物(A)及び硬化剤(B)を含む組成物を機械的に混練する際の被混練物の温度は、実質的に均一な粉体塗料組成物を製造できれば特に制限されない。溶融混練装置としては、通常、加熱ロール機、加熱ニーダー機、押出機(エクストルーダー)等を使用する。
粉砕により得られた粉体塗料は、静電塗装法、流動浸漬法等の塗装方法によって、熱硬化性粉体塗料組成物の粉末を、塗装対象物に付着せしめ、加熱して熱硬化させ塗膜を形成させる。本発明の熱硬化性粉体塗料組成物の焼き付けは、通常、約100℃〜約180℃、より好ましくは、約120℃〜約160℃の温度において、通常、約10分間〜約60分間行うことにより、共重合体(a−1)と硬化剤(B)との架橋反応を行うことができる。焼き付け後、室温までに冷却後、優れた特性を有する塗膜を得ることができる。
ポリエステル−メラミン架橋の黒色溶剤型塗料を、りん酸亜鉛処理を施した0.8mm厚の梨地鋼板に、20μm厚で塗装し、その後、170℃、30分間焼付けをして、下地処理鋼板を調製した。
性能評価は、次のようにして行なった。
JIS K5400 6.13.3に従って実施した。おもりの重量は1kgと、評価結果の数値は、塗膜に割れやはがれの発生した落下高さで示した。
米国の自動車用塗膜の試験法SAE−J400及びASTM D−370に従ったグラベロメーター(スガ試験機(株)製)を使用した。ここでは、塗装した鋼板を−30℃の冷凍庫中4時間放置し、さらに、その後、直ちに−30℃のドライアイス・メタノール浴中で5分間冷却し、塗装鋼板をドライアイスメタノール浴から引き上げ、グラベロメ−タ−にセット、直ちに砕石を吹き付けて試験した。ドライアイスメタノール浴からの引き上げから、砕石を吹き付けまでの所要時間は5秒以内とした。砕石はJIS A5001に規定された道路用砕石7号を使用した。塗装鋼板毎に50gの砕石を使用し、一気に衝突させた。吹き付けのために使用した圧縮空気の圧力は、390kPa(ゲージ)とした。砕石の衝突により傷を受けた鋼板は、10分間室温で放置した後、剥離しかけた塗膜をマスキングテープを用いて完全に剥した。耐チッピング性の良否は、傷の平均直径により表した。したがって、傷の直径が小さいほど、耐チッピング性が良好である。この傷の平均直径が2.0mm未満であれば耐チッピング性が優れており、2.0mm以上では耐チッピング性が劣るものと判定される。
QUVテスターによる2000時間の促進テストを行い、促進テスト前後の塗膜の光沢度を測定し、光沢残存率(%)を求めた。光沢残存率は次式により計算した。
(促進試験後の60゜光沢度)÷(促進試験前の60°光沢度)×100
(4)耐酸性試験
10vol%の硫酸を塗膜表面に滴下し、室温にて1日放置した後拭き取り、外観を観察した。その結果、痕跡の無いものを○、痕跡の付いているものを×として示した。
塗膜外観を観察して、特に平滑性が優れているものを◎、平滑性が良好なものを○、平滑性が普通のものを△、平滑性が劣るものを×として示した。
光沢計での測定値(60°グロス)で示した。
キシロールを含浸させたガーゼで塗膜表面を往復50回擦った後、その塗膜を観察して、痕跡がないものを○、痕跡があるものを×として示した。
JIS K5400 6.14により実施した。表示は鉛筆の硬度記号で示した。
粉体塗料6.0gを内径20mmの円筒形容器に入れ、30℃で7日間貯蔵後粉体を取り出し粉体塗料のブロッキング状態を目視及び指触で観察し、全く異常がないものを◎、ややブロッキングが観測されるものを○、劣るものを×として示した。
撹拌機、温度計、還流コンデンサ−及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコにキシレン66.7部を仕込み、還流温度まで昇温した。ここに、表1に示す単量体(部)に、重合開始剤としてt−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエート(商標名パーブチルO、日本油脂株式会社製)4.5重量部を溶解し、その混合溶液を5時間に渡り滴下して、さらに、その後パーブチルOを0.5部滴下し、100℃で5時間保持した。得られた重合溶液の溶剤を加熱減圧下で除去することにより固体のアクリル系共重合体(製造例1〜3)を得た。表1に、得られた共重合体の特性値も併せて記載した。
(1)ガラス転移温度(Tg):モノマー組成に基き、Foxの式に計算により求めた。
(2)数平均分子量(Mn):GPCにより、ポリスチレンを標準として測定した。
撹拌機、温度計、環流コンデンサー及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコにキシレン1,000部、シェルケミカル社製のスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物(商標名KRATON G1652)100部を仕込み、系内を窒素ガス置換し、130℃に昇温した後、ポンプを用いて、ヒドロキシエチルメタクリレート6.6g及びジクミルパーオキシド0.6gを溶解したキシレン溶液100gを、5時間かけて系内に供給した。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、アセトンを加えてヒドロキシエチルメタクリレートグラフト変性熱可塑性エラストマーを濾取後、さらに、アセトンで沈殿を繰り返し洗浄した。洗浄後の沈殿物を昇温下に減圧乾燥すると、白色粉末状の変性樹脂が得られた。この変性樹脂の水酸基価測定を行った結果、ヒドロキシエチルメタクリレートの含量は2.3重量%であった。
撹拌機、温度計、環流コンデンサー及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコにキシレン1,000部、シェルケミカル社製のスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物(商標名KRATON G1652)100部を仕込み、系内を窒素ガス置換し、130℃に昇温した後、ポンプを用いて、グリシジルメタクリレート6.5g及びジクミルパーオキシド0.6gを溶解したキシレン溶液100gを、5時間かけて系内に供給した。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、アセトンを加えてグリシジルメタクリレートグラフト変性熱可塑性エラストマーを濾取後、さらに、アセトンで沈殿を繰り返し洗浄した。洗浄後の沈殿物を昇温下に減圧乾燥すると、白色粉末状の変性樹脂が得られた。この変性樹脂のエポキシ価測定を行った結果、グリシジルメタクリレートの含量は2.0重量%であった。
製造例1〜3で製造したアクリル系共重合体(a−1)と、熱可塑性エラストマー(a−2)を表2に示す配合比で配合し、ヘンシェルミキサーで均一にドライブレンドした後、ブッス社のエクストルーダーTCS30を用い、シリンダー温度を140℃、スクリューの回転数を280rpmに設定し、3回混練(3パス)する事により粉体塗料用樹脂組成物(製造例6〜8)を得た。
TUFTEC M1962:(旭化成工業株式会社製のスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物の無水マレイン酸グラフト変性品、商標名)。
撹拌機、温度計、環流コンデンサー及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコにキシレンを66.7部を仕込み系内を窒素ガス置換し、さらに、熱可塑性エラストマー成分(a−2)を表3、表4に示す重量部で仕込み、環流温度まで昇温した。そして表3、表4に示す単量体に、重合開始剤としてt−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエート(商標名パーブチルO、日本油脂株式会社製)7.0重量部を溶解し、その混合溶液を5時間にわたり滴下して、さらに、その後パーブチルOを0.5部滴下し、100℃で5時間保持した。得られた重合溶液の溶剤を加熱減圧下で除去することにより、固体の粉体塗料用樹脂組成物(製造例9〜16)を得た。
撹拌機、温度計、環流コンデンサー及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコにキシレンを100重量部を仕込み、さらに製造例1で製造したアクリル系共重合体と熱可塑性エラストマー成分(a−2)を表5に示す配合比で添加し、系内を窒素ガス置換し、環流温度まで昇温した。昇温後5時間保持し、アクリル系共重合体及び熱可塑性エラストマー成分を均一に溶解した。得られた樹脂のキシレン溶液中の溶剤を加熱減圧下で除去する事により、固体の粉体塗料樹脂組成物(製造例17〜20)を得た。
ドデカン2酸1モル、無水酢酸0.8モルを反応容器に装入し、150℃まで昇温し、無水酢酸が系外に流失しないように、生成してくる酢酸を真空ラインで除去しながら、5時間反応させた。その後、直ちに、冷却し、白色の固形物を回収した。この化合物の融点は73〜82℃であった。
製造例で製造した粉体塗料用樹脂(A)とドデカン2酸及び酸化チタン(商標名タイピュアR960、デュポン社製)を表6に示す割合(部)配合比で配合し、RESIMIX RL−4(三井化学株式会社製、商標名、低粘度アクリル樹脂、流動調整剤)、TINUVIN 144(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、商標名)、及び、ベンゾイン(ワキ防止剤)を各1重量部ずつ、TINUVIN 900(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、商標名)を2重量部添加し、上記混合物をヘンシェルミキサーを用いて均一にドライブレンドした後、加熱ロールにて90℃の条件下で溶融混練を行った。溶融混練物を冷却後、粉砕機にて微粉砕し、150メッシュの篩いを通過した区分を集め粉体塗料を得た。
製造例で製造した粉体塗料用樹脂(A)、硬化剤(B)としてIPDI・B1530(ε−カプロラクタム・ブロックド・イソホロンジイソシアネート、ダイセル・ヒュルス株式会社製)を表6に示す配合比で配合し、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート(商標名ネオスタンU−100、日東化成株式会社製)を0.1重量部添加した以外は、実施例1と同様の手法でテスト板を得た。
製造例1で製造したアクリル系共重合体及び硬化剤としてドデカン2酸を表7に示す配合比で用いた以外は、実施例1と全く同様な手法でテスト板を得た。
製造例2で製造したアクリル系共重合体、及び、硬化剤(B)として、製造例21で製造したドデカン2酸無水物を表7に示す配合比で配合し、硬化触媒としてオクタン酸錫(商標名ネオスタンU−28、日東化成株式会社製)を0.2重量部添加した以外は、実施例1と同様の手法でテスト板を得た。
製造例3で製造したアクリル系共重合体、硬化剤としてIPDI・B1530(ε−カプロラクタム・ブロックド・イソホロンジイソシアネート、ダイセル・ヒュルス株式会社製)を、表7に示す配合比で配合し、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート(商標名ネオスタンU−100、日東化成株式会社製)を0.1重量部添加した以外は、実施例2と同様の手法でテスト板を得た。
各製造例で製造した粉体塗料用樹脂組成物、硬化剤としてドデカン2酸を表7に示す配合比で用いた以外は、実施例1と同様の手法でテスト板を得た。
ポリエステル系粉体塗料の主剤(商品名ER−8105、ユニチカ株式会社製)74.1部と硬化剤であるトリグリシジルイソシアヌレート5.9部と二酸化チタン(商標名タイピュアR−960、デュポン社製)20.0部とを配合した。これに実施例1と同様の添加剤を加え、さらに、実施例1と同様の方法により粉体塗料とし、下地処理鋼板に静電スプレーにて60〜70μmの膜厚になるよう塗装後、200℃で20分間加熱しテスト板を得た。
Claims (10)
- 樹脂組成物(A)と硬化剤(B)を含有してなる熱硬化性粉体塗料組成物であって、
樹脂組成物(A)は、アクリル系共重合体(a−1)を含有する連続相と、熱可塑性エラストマー(a−2)を含有する分散相とから構成される海島型ミクロ相分離構造を有し、
連続相を構成するアクリル系共重合体(a−1)は、分子内に硬化剤(B)に対して反応性のある官能基を有さず、且つ、ラジカル重合性ビニル基を少なくとも1つ有するビニル単量体(a−1−1)40〜99重量%、及び、分子内に硬化剤(B)に対して反応性のある官能基を有し、且つ、ラジカル重合性ビニル基を少なくとも1つ有するビニル単量体(a−1−2)60〜1重量%を重合して成るものであり、
分散相を構成する熱可塑性エラストマー(a−2)は、主鎖に不飽和二重結合を有さない共重合体であって、芳香族ビニル炭化水素を重合して成るハードセグメントS、及び、共役ジエンを重合して成るソフトセグメントBから構成されるS−B−S型3元ブロック共重合体の水素添加物から構成されるスチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)を主鎖とした熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a−2−2a)であり、
分散相を構成する熱可塑性エラストマー(a−2)の合計量は、樹脂組成物(A)100重量部を基準として、0.5〜20重量部である熱硬化性粉体塗料組成物。 - 熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a−2−2a)が、スチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)ビニル単量体を押し出し機内であるいは溶媒中で反応させることによりグラフト変性させて得たグラフト化物(コア/シェル構造を有する粒子を除く)である請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
- 熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a−2−2a)が、ビニル単量体(a−1−2)又は硬化剤(B)との架橋反応が可能である請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
- 熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a−2−2a)が、スチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)にビニル単量体をグラフト重合してなるグラフト化物である請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
- 熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a−2−2a)が、スチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)の側鎖として反応性官能基を含む化合物をまず導入し、これをアクリル系重合体(a−1)の官能基と結合させ、あるいはビニル単量体をグラフト重合してなるグラフト化物である請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
- 熱可塑性エラストマーのグラフト化物(a−2−2a)が、主鎖に対し0.1〜10重量%のα,β−不飽和カルボン酸又はその無水物でグラフト変性された構造を含む請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
- スチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)が、スチレン−ブタジエン−スチレン3元ブロック共重合体の水素添加物、及び/又は、スチレン−イソプレン−スチレン3元ブロック共重合体の水素添加物である請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
- 樹脂組成物(A)が、スチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)にグラフト変性の為の基を導入して得たエラストマーの存在下で、単量体(a−1−1)及び単量体(a−1−2)をラジカル重合せしめることにより得られる海島型ミクロ相分離構造を有する組成物である請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
- スチレン系熱可塑性エラストマー(a−2−1a)に対し0.1〜10重量%のα,β−不飽和カルボン酸又はその無水物を用いてグラフト変性することにより、前記グラフト変性の為の基を導入したエラストマーを得る請求項8に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
- 請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物を製造するための方法であって、樹脂組成物(A)及び硬化剤(B)を含む原料を溶融混練する工程、並びに、該溶融混練物を冷却し粉砕する工程を有する熱硬化性粉体塗料組成物の製造方法。
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