以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
<<< Section 1 角速度の検出原理 >>>
はじめに、本発明に係る多軸角速度センサの基本となる一軸の角速度センサによる角速度の検出原理を簡単に説明しておく。図1は、日本国特許庁監修の雑誌「発明(THE INVENTION)」、vol.90,No.3(1993年)の60頁に開示されている角速度センサの基本原理を示す図である。いま、角柱状の振動子10を用意し、図示するような方向にX,Y,Z軸を定義したXYZ三次元座標系を考える。このような系において、振動子10がZ軸を回転軸として角速度ωで回転運動を行っている場合、次のような現象が生じることが知られている。すなわち、この振動子10をX軸方向に往復運動させるような振動Uを与えると、Y軸方向にコリオリ力Fが発生する。別言すれば、振動子10を図のX軸に沿って運動させた状態で、この振動子10をZ軸を中心軸として回転させると、Y軸方向にコリオリ力Fが生じることになる。この現象は、フーコーの振り子として古くから知られている力学現象であり、発生するコリオリ力Fは、
F=2m・v・ω
で表される。ここで、mは振動子10の質量、vは振動子10の運動についての瞬時の速度、ωは振動子10の瞬時の角速度である。
前述の雑誌に開示された一軸の角速度センサは、この現象を利用して角速度ωを検出するものである。すなわち、図1に示すように、角柱状の振動子10の第1の面には第1の圧電素子11が、この第1の面と直交する第2の面には第2の圧電素子12が、それぞれ取り付けられる。圧電素子11,12としては、ピエゾエレクトリックセラミックからなる板状の素子が用いられている。そして、振動子10に対して振動Uを与えるために圧電素子11が利用され、発生したコリオリ力Fを検出するために圧電素子12が利用される。すなわち、圧電素子11に交流電圧を与えると、この圧電素子11は伸縮運動を繰り返しX軸方向に振動する。この振動Uが振動子10に伝達され、振動子10がX軸方向に振動することになる。このように、振動子10に振動Uを与えた状態で、振動子10自身がZ軸を中心軸として角速度ωで回転すると、上述した現象により、Y軸方向にコリオリ力Fが発生する。このコリオリ力Fは、圧電素子12の厚み方向に作用するため、圧電素子12の両面にはコリオリ力Fに比例した電圧Vが発生する。そこで、この電圧Vを測定することにより、角速度ωを検出することが可能になる。
上述した角速度センサは、Z軸まわりの角速度を検出する1軸の角速度センサであり、X軸あるいはY軸まわりの角速度の検出を行うことはできない。現在、産業界において需要が望まれている多軸角速度センサは、図2に示すように、所定の物体20について、XYZ三次元座標系におけるX軸まわりの角速度ωx、Y軸まわりの角速度ωy、Z軸まわりの角速度ωz、のそれぞれを別個独立して検出することのできる多軸角速度センサである。このような多軸角速度センサを実現するための検出原理を、図3〜図5を参照して説明する。いま、XYZ三次元座標系の原点位置に振動子30が置かれているものとする。この振動子30のX軸まわりの角速度ωxを検出するには、図3に示すように、この振動子30にZ軸方向の振動Uzを与えたときに、Y軸方向に発生するコリオリ力Fyを測定すればよい。コリオリ力Fyは角速度ωxに比例した値となる。また、この振動子30のY軸まわりの角速度ωyを検出するには、図4に示すように、この振動子30にX軸方向の振動Uxを与えたときに、Z軸方向に発生するコリオリ力Fzを測定すればよい。コリオリ力Fzは角速度ωyに比例した値となる。更に、この振動子30のZ軸まわりの角速度ωzを検出するには、図5に示すように、この振動子30にY軸方向の振動Uyを与えたときに、X軸方向に発生するコリオリ力Fxを測定すればよい。コリオリ力Fxは角速度ωzに比例した値となる。
結局、XYZ三次元座標系における各軸ごとの角速度を検出するには、振動子30をX軸方向に振動させる機構、Y軸方向に振動させる機構、Z軸方向に振動させる機構、のそれぞれと、振動子30に作用するX軸方向のコリオリ力Fxを検出する機構、Y軸方向のコリオリ力Fyを検出する機構、Z軸方向のコリオリ力Fzを検出する機構、のそれぞれとを用意すればよいことになる。もっとも、3軸まわりについての角速度を検出するためには、これらの機構がすべて必要かというと、必ずしもそうではない。上述した図3〜図5に示す原理の代わりに、図6〜図8に示す原理を用いた検出も可能である。すなわち、振動子30のX軸まわりの角速度ωxは、図6に示すように、この振動子30にY軸方向の振動Uyを与えたときに、Z軸方向に発生するコリオリ力Fzを測定しても検出できるし、振動子30のY軸まわりの角速度ωyは、図7に示すように、この振動子30にZ軸方向の振動Uzを与えたときに、X軸方向に発生するコリオリ力Fxを測定しても検出できるし、振動子30のZ軸まわりの角速度ωzは、図8に示すように、この振動子30にX軸方向の振動Uxを与えたときに、Y軸方向に発生するコリオリ力Fyを測定しても検出できる。
したがって、2軸まわりの角速度を検出するのであれば、1つの振動機構と2つの検出機構があれば足りる。たとえば、図3に示す原理でX軸まわりの角速度ωxを検出し、図7に示す原理でY軸まわりの角速度ωyを検出するのであれば、Z軸方向に振動させる機構と、Y軸方向のコリオリ力Fyを検出する機構と、X軸方向のコリオリ力Fxを検出する機構と、があればよく、振動子30をZ軸方向に振動させた状態のまま、X軸およびY軸まわりの角速度が検出できる。ところが、振動子30をZ軸方向に振動させた状態のままでは、Z軸まわりの角速度ωzを検出することはできない。Z軸まわりの角速度ωzを検出するためには、振動子30の振動方向をX軸(図8)もしくはY軸(図5)に変える必要がある。
このように、従来提案されている角速度センサにおいて、3軸まわりの角速度を検出するためには、少なくとも振動子30を2方向に振動させる必要がある。しかしながら、実際には、振動子の振動方向を変えるには、重錘体の振動を停止させてから、あらためて新たな振動方向に振動させてやる必要があるため、ある程度の時間が必要になる。特に、精度良い検出値を得るには、振動状態が安定するまで待つ必要があり、応答性はかなり低下せざるを得ない。たとえば、上述の例では、振動子をZ軸方向に振動させた状態において、X軸まわりの角速度ωxとY軸まわりの角速度ωzとを検出することは可能であるが、続いて、Z軸まわりの角速度ωzを検出するには、一度、振動子を静止させた後、あらためて、たとえばX軸方向に振動させる必要がある。しかも、このX軸方向の振動が安定するまで、Z軸まわりの角速度ωzを検出することはできない。したがって、3軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzをリアルタイムで逐次検出する必要がある場合には、かなり応答性の悪いものになってしまう。
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決し、複数の異なる軸についての角速度を、高い応答性をもって検出することのできる角速度センサを提供することにある。
<<< Section 2 本発明に係る角速度センサの検出原理 >>>
続いて、本発明に係る角速度センサの検出原理を説明する。いま、図9に示すように、所定の質量mをもった物体40(以下、本明細書では重錘体と呼ぶ)が、所定の周回軌道41に沿って周回運動を行っているものとする。ここで、周回運動とは、閉ループからなる周回軌道に沿った運動であれば、どのような運動でもかまわない。したがって、楕円運動や、放物線・双曲線・自由曲線を含む軌道上の運動でもかまわないが、実用上は円運動が最も単純で好ましい。そこで、以下の実施例では、いずれも重錘体を円運動させる例について述べるが、本発明は、この円運動だけに限定されるものではない。
重錘体40が円運動をしている場合、周回軌道41は中心O、半径rの円軌道となる。ここで、瞬時における重錘体40の速度成分を考えると、図9に示すように、円軌道41の接線方向Dtを向いていることになる。このとき、この接線方向Dtに対して垂直な2つの方向を考える。この図9の例では、重錘体40が円運動をしているので、円運動の半径方向Drと、円軌道41を含む平面に対して垂直な方向Duと、を考えることにする。ここで、2軸Dt,Drは、ある瞬時においてのみ定義される軸であり、時間が経過すれば、重錘体40が円軌道41に沿って移動してしまうため、各軸の向きは変化してしまうことになる。したがって、以下に説明する2つの検出原理における各物理量は、いずれも瞬時における物理量である。
図10は、本発明の第1の検出原理を説明するための原理図である。上述のように、質量mをもった重錘体40が、円軌道41に沿って円運動しているとき、重錘体40の速度ベクトルVtは、接線方向Dtを向く。このとき、もしこの検出系全体に対して、半径方向Drを向いた軸まわりに角速度ωが作用していたとすると、円軌道41に対して垂直な方向(円を含む平面に対して垂直な方向)Duに沿って、コリオリ力Fcoが発生することになり、このコリオリ力Fcoと、重錘体40の質量mと、重錘体40の接線方向速度Vtと、作用した角速度ωと、の間には、
Fco=2m・Vt・ω
なる関係が成り立つことになる。ここで、mは重錘体40の質量として知ることのできる値である。また、速度Vtも測定可能な値であり、特に、重錘体40を所定の駆動機構によって等速円運動させておけば、常に一定の値となる。したがって、コリオリ力Fcoを検出することができれば、上述の式に基いて、角速度ωを演算によって求めることができる。この例のように、重錘体40が、円軌道41に沿った円運動を行っている場合には、この円軌道41に対して垂直な方向Duについては、遠心力のような円運動のための力は作用しない。したがって、重錘体40に対して、加速度、電磁気力などの外力の作用がないとすれば、重錘体40に対して方向Duの向きに加わっている力Fuは、コリオリ力Fcoに等しい。そこで、この方向Duを向いた力Fuを検出することにより、コリオリ力Fcoを得ることができる。
結局、この第1の検出原理は、重錘体40を円運動させた状態において、重錘体40にDu方向に作用する力Fuを求め、この力Fuをコリオリ力Fcoとして、上述の関係式を用いれば、円運動の半径方向Drに沿った軸まわりの角速度ωが得られることを示している。ここで、円運動の半径方向Drは、中心点Oから外側を指す矢印で示される方向であり、円軌道41を含む平面内において時事刻々と変化してゆく方向である。したがって、この第1の検出原理に基く角速度検出を行えば、重錘体40が円軌道41を一周運動する間に、この平面内のあらゆる方向を向いた軸まわりの角速度を検出することが可能になる。
一方、図11は、本発明の第2の検出原理を説明するための原理図である。前述の第1の検出原理と同様に、質量mをもった重錘体40を、円軌道41に沿って円運動させれば、重錘体40の速度ベクトルVtは、接線方向Dtを向く。このとき、もしこの検出系全体に対して、円軌道41に対して垂直な方向Duに沿った軸まわりに角速度ωが作用していたとすると、円運動の半径方向Drに沿って、コリオリ力Fcoが発生することになり、このコリオリ力Fcoと、重錘体40の質量mと、重錘体40の接線方向速度Vtと、作用した角速度ωと、の間には、やはり
Fco=2m・Vt・ω
なる関係が成り立つことになる。したがって、上述した第1の検出原理と同様に、コリオリ力Fcoを検出することができれば、上述の式に基いて、角速度ωを演算によって求めることができる。ただ、第1の検出原理と異なる点は、半径方向Drには、円運動に基く遠心力Fceが作用する点である。すなわち、重錘体40に対して、加速度、電磁気力などの外力の作用がないとすると、重錘体40に対して半径方向Drに加わっている力Frは、遠心力Fceにコリオリ力Fcoを合成したものになる。ただ、遠心力Fceの大きさは、円運動が特定できれば、計算によって求めることができる。すなわち、重錘体の質量をm、円運動の半径をr、円運動の角速度をΩとすれば、
Fce=m・r・Ω2
によって求めることができる。そこで、半径方向Drを向いた力Frを検出し、そこから遠心力Fceの成分を除去すれば、コリオリ力Fcoを得ることができる。
結局、この第2の検出原理は、重錘体40を円運動させた状態において、重錘体40に対して半径方向Drに作用する力Frを求め、この力Frから遠心力の成分Fceを除去したものをコリオリ力Fcoとして、上述の関係式を用いれば、円軌道41に対して垂直な方向Duに沿った軸まわりの角速度ωが得られることを示している。
なお、この検出系全体に対して、加速度や電磁気力(重錘体40が磁性体の場合に影響を受ける)などの外力が更に作用していた場合には、この角速度センサとは別に、加速度センサや磁気センサなどを併用して加速度や磁気力を検出し、この検出値に基く補正を行えばよい。たとえば、第1の検出原理に基く検出を行う場合には、Du方向に作用する力Fuから、加速度や磁気力に基く成分を除去してコリオリ力Fcoを求めるようにすればよいし、第2の検出原理に基く検出を行う場合には、Dr方向に作用する力Frから、遠心力Fceを除去するとともに、加速度や磁気力に基く成分を除去してコリオリ力Fcoを求めるようにすればよい。
図12は、上述した原理によって、角速度検出を行う角速度センサの基本構成を示すブロック図である。質量をもった重錘体40を、所定の周回軌道41に沿って周回運動させる必要があるため、実用的なセンサとして利用するためには、この周回運動が阻害されないように、重錘体40を筐体42内に収容する必要がある。このとき、重錘体40を筐体42によって支持する必要があるが、重錘体40を筐体42に固着してしまうと周回運動ができなくなるので、所定の自由度をもって移動可能となるように支持する支持手段43が必要になる。また、重錘体40を周回運動させるための駆動手段44と、上述した検出原理に不可欠なコリオリ力を検出するための検出手段45と、上述した検出原理に基く演算を実行する演算手段46と、が必須の構成要素となる。これらの各構成要素を、具体的にどのように実現するかという点については、後述する具体的な実施例において詳述する。
<<< Section 3 XYZ三次元座標系における3軸まわりの角速度検出 >>>
上述した基本原理によれば、任意の軸まわりの角速度検出が可能であるが、実用上は、XYZ三次元座標系におけるX軸まわりの角速度ωx、Y軸まわりの角速度ωy、Z軸まわりの角速度ωz、の3成分を検出できれば必要十分である。そこで、ここでは、このような3軸まわりの角速度検出を行うための原理を説明する。
いま、図13に示すように、XYZ三次元座標系を定義し、原点Oを中心としてXY平面に含まれるような円からなる周回軌道41を考え、この周回軌道に沿って重錘体40が円運動をしているものとする。結局、重錘体40はXY平面内において、原点Oの周囲をまわるように円運動することになる。そこで、円運動中の重錘体40が、X軸を通過する瞬間およびY軸を通過する瞬間に、Section2で述べた基本原理に基く角速度検出を行うのである。
まず、Section2で述べた第1の検出原理による検出を考えてみよう。図13に示すように、重錘体40は点PxにおいてX軸を通過する。このときの重錘体40の瞬時速度ベクトルVyは、点Pxにおける円軌道41の接線方向を向いているためY軸に平行になる。そして、この時点において、重錘体40に作用するZ軸方向の力Fzを求めれば、この力Fzは、この検出系全体に作用しているX軸まわりの角速度ωxに基いて生じるコリオリ力Fcoに等しい。したがって、点Pxにおいて、重錘体40に作用する力Fzを検出すれば、重錘体40の質量をmとして、
Fz=Fco=2m・Vy・ωx
なる関係式を用いて、X軸まわりの角速度ωxを求めることができる。また、重錘体40は点PyにおいてY軸を通過する。このときの重錘体40の瞬時速度ベクトルVxは、点Pyにおける円軌道41の接線方向を向いているためX軸に平行になる。そして、この時点において、重錘体40に作用するZ軸方向の力Fzを求めれば、この力Fzは、この検出系全体に作用しているY軸まわりの角速度ωyに基いて生じるコリオリ力Fcoに等しい。したがって、点Pyにおいて、重錘体40に作用する力Fzを検出すれば、重錘体40の質量をmとして、
Fz=Fco=2m・Vx・ωy
なる関係式を用いて、Y軸まわりの角速度ωyを求めることができる。結局、Section2で述べた第1の検出原理を用いれば、重錘体40がX軸を通過する瞬間においてX軸まわりの角速度ωxを検出することができ、重錘体40がY軸を通過する瞬間においてY軸まわりの角速度ωyを検出することができる。
続いて、Section2で述べた第2の検出原理による検出を考えてみよう。図14に示すように、重錘体40が点PxにおいてX軸を通過する瞬間において、重錘体40に作用するX軸方向の力Fxを求めれば、この力Fxは、この検出系全体に作用しているZ軸まわりの角速度ωzに基いて生じるコリオリ力Fcoと重錘体40に作用する遠心力Fceとの合成力に等しい。したがって、点Pxにおいて、重錘体40に作用する力Fxを検出すれば、重錘体40の質量をmとして、
Fx−Fce=Fco=2m・Vy・ωz
なる関係式を用いて、Z軸まわりの角速度ωzを求めることができる。また、重錘体40が点PyにおいてY軸を通過する瞬間において、重錘体40に作用するY軸方向の力Fyを求めれば、この力Fyは、この検出系全体に作用しているZ軸まわりの角速度ωzに基いて生じるコリオリ力Fcoと重錘体40に作用する遠心力Fceとの合成力に等しい。したがって、点Pyにおいて、重錘体40に作用する力Fyを検出すれば、重錘体40の質量をmとして、
Fy−Fce=Fco=2m・Vx・ωz
なる関係式を用いて、Z軸まわりの角速度ωzを求めることができる。結局、Section2で述べた第2の検出原理を用いれば、重錘体40がX軸を通過する瞬間あるいはY軸を通過する瞬間において、Z軸まわりの角速度ωzを検出することができる(もっとも、この第2の検出原理によれば、どの瞬間においても、Z軸まわりの角速度ωzが検出できる)。
このように、XYZ三次元座標系のXY平面内で重錘体40を円運動させ、重錘体がX軸およびY軸を通過する瞬間にそれぞれコリオリ力の検出を行えば、第1の検出原理あるいは第2の検出原理に基いて、X軸まわりの角速度ωx、Y軸まわりの角速度ωy、Z軸まわりの角速度ωz、の3成分を検出することが可能になる。具体的には、たとえば、図13に示すように、点Pxおよび点Pyを通過するたびに、それぞれZ軸方向の力Fzを検出するようにしておけば、それぞれ角速度ωxおよびωyを求めることができ、更に、図14に示すように、点Pxを通過するたびに、X軸方向の力Fxを検出するようにしておけば、遠心力Fceによる補正を行うことにより角速度ωzを求めることができる(この場合、点Px通過時には、力Fzと力Fxとの双方を検出する必要があるが、それぞれ別個の力センサを用いるようにすれば、何ら問題はない)。結局、重錘体40が円軌道41上を一周回転する間に、3軸についての角速度ωx,ωy,ωzをそれぞれ得ることができる。重錘体40の円運動速度は、比較的高速に維持することが可能であるから、3軸角速度センサとしての応答性は極めて高くなる。もちろん、図示されていないX軸あるいはY軸の負の領域を通過したときにも同様の検出を行うようにすれば、応答性は更に向上する。
<<< Section 4 駆動手段と検出手段 >>>
本発明に係る角速度センサでは、重錘体を周回運動させる駆動手段と、重錘体に作用するコリオリ力を検出する検出手段とが必須の構成要素となる。そこで、ここでは、重錘体をXY平面内において円運動させる場合に適した駆動手段および検出手段の構成および配置を簡単に述べておく。
まず、駆動手段の構成および配置の一例を図15に示す。この例では、XY平面の原点位置に重錘体40が示されており、その周囲に4つの力発生器G1〜G4が配置されている。X軸の正領域に配置された第1の力発生器G1は、重錘体40に対してX軸の正方向に力を作用させる機能を有し、Y軸の正領域に配置された第2の力発生器G2は、重錘体40に対してY軸の正方向に力を作用させる機能を有し、X軸の負領域に配置された第3の力発生器G3は、重錘体40に対してX軸の負方向に力を作用させる機能を有し、Y軸の負領域に配置された第4の力発生器G4は、重錘体40に対してY軸の負方向に力を作用させる機能を有する。そして、重錘体40は、これら4つの力発生器G1〜G4が動作していない中立状態においては、図の原点Oの位置に静止状態となるように、筐体に対して支持されている。ただし、所定の自由度をもって移動可能となるように支持されており、4つの力発生器G1〜G4を動作させることにより、たとえば、図16に示す位置a〜eに示すように変位することが可能である。具体的には、たとえば、ばねなどの弾力性部材によって、重錘体40を筐体に取り付ければよい。
力発生器G1〜G4は、たとえば、電磁石によって構成することができる。この場合、重錘体40は、磁気的な吸引力を受けることができるように、鉄などの磁性体で構成しておく必要がある。4つの電磁石によって、重錘体40に円運動をさせるには、図17に示すように位相がπ/2ずつずれた4つの正弦波半波整流信号S1〜S4を用意し、これらをそれぞれ力発生器G1〜G4に与えて周期的に動作させればよい。図17のグラフの下に示したa〜eの文字は、図16に示した位置a〜eに対応しており、各時点における重錘体40の位置を示すものである。時間軸に示す0〜πの期間に、重錘体40は位置a〜位置eに至るまでの円軌道上を移動することになる。なお、実用上は、この図16に示すように、重錘体40の円運動の半径を、重錘体40そのものの半径よりも小さくした方が角速度センサとして設計がしやすい(重錘体40の重心の軌跡をみれば、重錘体40が円運動していることが理解できよう)。
以上、重錘体に吸引力を作用させて円運動させる例を説明したが、逆に斥力を作用させて円運動させることも可能である。また、吸引力と斥力との双方を作用させる機能をもった力発生器を用いれば、2組の力発生器(たとえば、図16においてX軸上に配置された力発生器G1とY軸上に配置された力発生器G2)だけで重錘体を円運動させることが可能になる。もちろん、吸引力と斥力との双方を作用させる機能をもった力発生器を4組用意し、図16に示すように配置すれば、重錘体をより効率よく円運動させることができる。
続いて、上述した力発生器G1〜G4(駆動手段)に加えて、更に検出手段として、6つの変位検出器を配置した例を図18に示す。既に述べたように、本発明における検出手段は、重錘体40に作用した所定方向のコリオリ力を検出する構成要素であるが、ここでは、重錘体40の変位を検出することにより、間接的に、重錘体40に作用した力を検出し、(必要があれば、遠心力、加速度に基づく力、磁気力などを除去する補正を行い)コリオリ力を検出するような構成をとっている。すなわち、変位検出器D1は、重錘体40のX軸正方向への変位を検出し、変位検出器D2は、重錘体40のY軸正方向への変位を検出し、変位検出器D3は、重錘体40のX軸負方向への変位を検出し、変位検出器D4は、重錘体40のY軸負方向への変位を検出し、変位検出器D5は、重錘体40のZ軸正方向への変位を検出し、変位検出器D6は、重錘体40のZ軸負方向への変位を検出する。
重錘体40が筐体に対してばねによって支持されていた場合には、重錘体40に作用した力と生じる変位との間には、ばね定数を介した線形関係が維持されるので、変位検出器によって検出した各方向への変位は、各方向に作用した力と等価な量として扱うことができる。また、力と変位との間に、このような線形関係が維持されなくても、両者の間の関係は、実際に試作した角速度センサについて実測することができるので、この実測した関係に基いて対応づけることができ、いずれにせよ、変位検出器によって検出した変位を作用した力として取り扱うことが可能になる。したがって、変位検出器D1によってX軸正方向の力+Fxが検出され、変位検出器D2によってY軸正方向の力+Fyが検出され、変位検出器D3によってX軸負方向の力−Fxが検出され、変位検出器D4によってY軸負方向の力−Fyが検出され、変位検出器D5によってZ軸正方向の力+Fzが検出され、変位検出器D6によってZ軸負方向の力−Fzが検出されることになる。
また、所定軸について正負両方向の変位を検出できる機能をもった変位検出器を用いれば、3組の変位検出器によって、±Fx,±Fy,±Fzのすべての力を検出することが可能になる。もちろん、このような変位検出器を6組用意し、図18に示すように配置して、X軸方向の力±Fxを検出器D1,D3の双方の出力により、Y軸方向の力±Fyを検出器D2,D4の双方の出力により、Z軸方向の力±Fzを検出器D5,D6の双方の出力により、それぞれ検出するようにすれば、より高精度の検出が可能になる。
この図18に示す構成要素をもった角速度センサによって、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzを検出するには、次のような検出動作を行えばよい。まず、力発生器G1〜G4に対して、既に説明したように、図17に示す信号S1〜S4を与えることにより、重錘体40を円運動させる。そして、たとえば、図17のグラフの時間軸における位相0の時点(重錘体40は、図16の位置aにくることになり、X軸を通過する瞬間となる)において、変位検出器D5あるいはD6によって、Z軸方向の力+Fzあるいは−Fzを検出すれば、図13に示す点Pxにおける検出原理に基いて、X軸まわりの角速度ωxを求めることができる。また、この同じ時点において、変位検出器D1あるいはD3によって、X軸方向の力+Fxあるいは−Fxを検出すれば、図14に示す点Pxにおける検出原理に基いて、Z軸まわりの角速度ωzを求めることができる。更に、図17のグラフの時間軸における位相 π/2の時点(重錘体40は、図16の位置cにくることになり、Y軸を通過する瞬間となる)において、変位検出器D5あるいはD6によって、Z軸方向の力+Fzあるいは−Fzを検出すれば、図13に示す点Pyにおける検出原理に基いて、Y軸まわりの角速度ωyを求めることができる。なお、この同じ時点において、変位検出器D2あるいはD4によって、Y軸方向の力+Fyあるいは−Fyを検出すると、図14に示す点Pyにおける検出原理に基いて、やはりZ軸まわりの角速度ωzを求めることができる。
ここで、図14に示す点Pxあるいは点Pyにおける検出原理(第2の検出原理)を用いる場合には、検出した力FxやFyから遠心力Fceの成分を除外する補正が必要になるが、具体的な重錘体40の構成および筐体に対する支持構造、力発生器G1〜G4の構成、そしてこれらに与える信号S1〜S4の周期や大きさが定まれば、重錘体40の質量m、円運動の半径r、円運動の角速度Ωは定まるので、
Fce=m・r・Ω2
なる演算によって、遠心力Fceを計算することが可能である。
なお、上述の検出動作において、重錘体40に作用する力を検出するときに符号(すなわち、各軸の正方向か負方向か)を考慮しているが、この符号は、求める角速度ωの回転方向を決定するために必要な情報となる。また、図18の構成例では、合計6個の変位検出器D1〜D6を設け、同じ軸方向の力でも正方向の力検出と、負方向の力検出とを別個の変位検出器で検出するようにしているが、前述したように、単一の変位検出器によって、特定の軸方向に作用した正負両方向の力検出を行うようにしてもかまわない。
続いて、本発明に係る角速度センサのより具体的な構成を示すいくつかの実施例を、Section5以下に示しておくことにする。これらの実施例は、主として、可撓性をもった可撓性基板によって支持手段を構成し、この可撓性基板の周囲部を筐体に固定し、可撓性基板の中心部に重錘体を固着した構造を有するものである。このような構造を採ると、可撓性基板の基板面に平行な平面内で重錘体を円運動させたり、あるいは、この基板面に垂直な平面内で重錘体を円運動させたりすることを、比較的簡単に行うことができ、また、重錘体の各方向への変位を比較的簡単に検出することができるようになる。すなわち、可撓性基板上の複数の所定箇所に力発生器を配置し、これらを周期的に動作させれば、可撓性基板に時事刻々と変化する撓みを生じさせることができ、重錘体を円運動させることができるのである。また、可撓性基板上の複数の所定箇所に変位検出器を配置しておけば、各変位検出器によって可撓性基板の各部の変位を検出することができ、結果的に、重錘体の変位を検出することができるようになるのである。各力発生器や各変位検出器の効果的な配置については、個々の実施例において述べることにする。
なお、以下の実施例では、力発生器および変位検出器として、容量素子や圧電素子を用いている。たとえば、容量素子は、両電極間に所定の電圧を印加することによりクーロン力を発生させる力発生器として利用することもできるし、一方の電極の変位によって電極間距離が変化すれば、この容量素子の静電容量が変化するので、これを変位検出器としても利用できる。同様に圧電素子は、所定の電圧を印加することにより所定方向への応力を発生させる力発生器として利用することもできるし、変位によって圧電素子に応力が加わると、この圧電素子に電荷が発生するので、これを電気的に検出することにより、変位検出器として利用することもできる。
<<< Section 5 容量素子を利用した角速度センサの実施例 >>>
図19に側断面を示す角速度センサ100は、容量素子によって、力発生器および変位検出器を構成した実施例である。この角速度センサ100の中枢として機能する基板は可撓性基板110である。図20に、この可撓性基板110の上面図を示す。図20に示す可撓性基板110を、X軸に沿って切った断面が、図19に示されていることになる。図20において破線で示されているように、可撓性基板110の下面には、円環状の溝が形成されており、この溝が形成された部分は肉厚が薄いために可撓性をもっている(第19図には、可撓部112として示されている)。ここでは、この円環状の可撓部112に囲まれた内側の部分を作用部111と呼び、可撓部112の外側の部分を固定部113と呼ぶことにする。作用部111の下面には、ブロック状の重錘体120が固着されており、固定部113は、台座130によって支持されている(図20では、重錘体120および台座130の位置を破線で示してある)。また、台座130はベース基板140に固定されている。結局、重錘体120は、台座130によって囲まれた空間内において宙吊りの状態となっている。ここで、肉厚の薄い可撓部112が可撓性をもっているため、重錘体120は、ある程度の自由度をもってこの空間内で変位できる。すなわち、固定部113、台座130、ベース基板140からなる装置筐体の中に、支持手段として機能する可撓部112および作用部111を介して、重錘体120が、所定の自由度をもって移動可能になるように支持されていることになる。また、可撓性基板110の上部には、蓋基板150が所定の空間を確保しながら覆うように取り付けられている。
第20図に示すように、可撓性基板110の上面には、力発生器として機能する4枚の電極層G11〜G14と、変位検出器として機能する5枚の電極層D11〜D15が形成されている。なお、図20では、これらの電極層の部分にハッチングを施して示してあるが、これは、各電極層のパターン認識が容易になるようにするための配慮であり、断面部分を示すためのハッチングではない。また、力発生器として機能する電極層と、変位検出器として機能する電極層とでは、異なるハッチングパターンを施した。これは、電極の平面パターンを示す他の図についても同様である。一方、蓋基板150の下面には、これらの各電極層G11〜G14およびD11〜D15のすべてに対向するように、1枚の大きな円盤状の共通電極層E10が形成されており、これら上下に対向する電極層によって、合計9組の容量素子が構成されることになる。ここでは、図19に示すように、重錘体120の重心位置に原点OをもつXYZ三次元座標系を定義し、以後の説明を行うことにする。図20に示されているように、電極層G11〜G14および電極層D11〜D14は、いずれもこの座標系におけるX軸上もしくはY軸上に位置し、しかもこれらの軸に関して線対称な形状をしている。
なお、この実施例では、可撓性基板110側に9枚の個々の電極層G11〜G14,D11〜D15を形成し、蓋基板150側に単一の共通電極層E10を形成したが、逆に、可撓性基板110側に単一の共通電極層E10を形成し、蓋基板150側に9枚の個々の電極層G11〜G14,D11〜D15を形成するようにしてもかまわない。あるいは、共通電極層を用いずに、可撓性基板110側にも、蓋基板150側にも、それぞれ9枚の個々の電極層を形成し、対向する電極層ごとに物理的に独立した容量素子を構成してもかまわない。
さて、はじめに、電極層G11と共通電極層E10との間に、何らかの電圧を印加した場合に起こる現象を考えると、電極層G11/E10間には、クーロン力による引力が作用する。このとき、電極層G11は、肉厚の薄い可撓部112上に位置するため、この引力に基いて、電極層G11/E10の間隔がやや小さくなるように、可撓性基板110は撓みを生じることになる。このような撓みは、重錘体120について、X軸正方向への変位を生じさせる。要するに、共通電極層E10の電位を基準電位として、電極層G11に所定の電圧を印加すると、重錘体120がX軸方向に変位することになる。したがって、この電極層G11および共通電極層E10からなる容量素子は、図18に示した構成例における力発生器G1として機能することになる。同様に、電極層G12および共通電極層E10からなる容量素子、電極層G13および共通電極層E10からなる容量素子、電極層G14および共通電極層E10からなる容量素子、はそれぞれ図18に示した構成例における力発生器G2,G3,G4として機能することになる。そこで、共通電極層E10の電位を基準電位として、電極層G11〜G14に、図17に示す信号S1〜S4に対応する電圧を印加すれば、重錘体120は、ほぼXY平面上において円運動をすることになる。
以上の動作説明では、各電極層G11〜G14と共通電極層E10との間にクーロン引力を作用させて、重錘体120を円運動させているが、逆に、クーロン斥力を作用させて円運動させることも可能である。また、クーロン引力とクーロン斥力との両方を利用すれば、更に効率的な円運動が可能になる。たとえばX軸正方向に変位させるのであれば、電極層G11/E10間にクーロン引力を作用させるとともに電極層G13/E10間にクーロン斥力を作用させればよい。
結局、この実施例では、X軸の正の領域および負の領域、ならびに、Y軸の正の領域および負の領域に、Z軸に沿った方向に力を作用させる力発生器(各容量素子)をそれぞれ配置し、これらの力発生器を周期的に動作させることにより、重錘体120をXY平面内で周回運動させる構成を採っていることになる。
既に述べた検出原理によれば、このように重錘体120を円運動させた状態において、重錘体120に作用する各軸方向の力±Fx,±Fy,±Fzを検出することができれば、各軸まわりの角速度±ωx,±ωy,±ωz(符号は回転方向を示す)を求めることができる。ここで、重錘体120に作用する各軸方向の力±Fx,±Fy,±Fzは、図18に示す変位検出器D1〜D6によって、各軸方向への変位として検出できることは既に述べたとおりである。図20に示す電極層D11〜D15および共通電極層E10からなる5組の容量素子は、この変位検出器D1〜D6として機能することになる。たとえば、重錘体120がX軸の正方向に変位した場合、可撓部112が撓むことにより、電極層D11/E10間の距離が縮まることになり、これら2枚の電極層によって構成される容量素子の静電容量値に変化が生じることになる。したがって、電極層D11/E10間の静電容量値を測定することにより、重錘体120のX軸正方向への変位を求めることができる。具体的には、試作品について、実際に重錘体120に種々の変位を生じさせたときに、静電容量値がどのように変化するかを実測しておけば、この実測値に基いて、静電容量値と変位量との関係を得ることができる。
同様に、電極層D12/E10間の静電容量値を測定することにより、重錘体120のY軸正方向の変位を求めることができ、電極層D13/E10間の静電容量値を測定することにより、重錘体120のX軸負方向の変位を求めることができ、電極層D14/E10間の静電容量値を測定することにより、重錘体120のY軸負方向の変位を求めることができる。また、電極層D15/E10間の静電容量値を測定することにより、重錘体120のZ軸方向の変位を求めることができる。なお、この実施例では、この電極層D15/E10間の静電容量値によって、Z軸の正負両方向の変位を検出するようにしている。すなわち、所定の基準容量値に対して容量値が大きくなれば、電極間距離が縮まったことを示すので、Z軸の正方向への変位が生じたと判断でき、所定の基準容量値に対して容量値が小さくなれば、電極間距離が広がったことを示すので、Z軸の負方向への変位が生じたと判断できる。
なお、実際には、X軸およびY軸方向の変位については、一対の容量素子の容量値の差として検出するのが効率的で好ましい。たとえば、X軸方向の変位は電極層D11/E10間の容量値と電極層D13/E10間の容量値との差として検出するとよい。X軸正方向に変位した場合には、前者の容量値は大きくなるのに対し、後者の容量値は小さくなるため、両者の差を求めればより高精度の検出が可能になる。逆に、X軸負方向に変位した場合には、前者の容量値は小さくなるのに対し、後者の容量値は大きくなり、両者の差は符号が反転することになる。同様に、Y軸方向の変位は電極層D12/E10間の容量値と電極層D14/E10間の容量値との差として検出すれば、やはり高精度の検出が可能になる。
このように、容量素子から構成される各変位検出器は、いずれも直接的には、可撓性基板110の上面の所定箇所についてのZ軸方向の変位(すなわち、容量素子を構成する上下一対の電極のうちの下方電極の上下方向に関する変位)を検出しているにすぎないが、可撓性基板110上に配置された位置に応じて、重錘体120のXYZ各軸方向への変位を間接的に検出していることになる。なお、図20に示すように、変位検出器を構成する各電極層D11〜D14は、いずれもX軸もしくはY軸に関して線対象となっているため、各軸方向の変位検出を行う上で他軸成分の影響を受けることがない。たとえば、X軸方向の変位検出に用いられる電極層D11は、X軸に関して線対称となっているため、Y軸方向の変位が生じた場合に、その半分の領域は共通電極層E10に近付くが、別な半分の領域は共通電極層E10から遠ざかるため、全体的には変位が相殺されることになる。
結局、この実施例では、X軸の正の領域および負の領域、ならびに、Y軸の正の領域および負の領域に、Z軸に沿った方向への変位を検出する変位検出器(各容量素子)をそれぞれ配置し、X軸の正負両領域に配置された変位検出器を用いて重錘体のX軸方向に作用するコリオリ力を検出し、Y軸の正負両領域に配置された変位検出器を用いて重錘体のY軸方向に作用するコリオリ力を検出する構成を採っていることになる。
以上のような角速度センサ100によって、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzを検出するには、次のような検出動作を行えばよい。まず、共通電極層E10の電位を基準電位として、電極層G11〜G14に、図17に示す信号S1〜S4に対応する電圧を印加し、重錘体120をXY平面上において円運動させる。そして、たとえば、図17のグラフの時間軸における位相0の時点(重錘体40が円軌道を移動しながら、X軸を通過する瞬間となる)において、電極層D15/E10間の静電容量値に基いて、重錘体120のZ軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体120に対してZ軸方向に作用した力Fzに対応したものになり、図13に示す点Pxにおける検出原理に基いて、X軸まわりの角速度ωxを求めることができる。また、この同じ時点において、電極層D11/E10間の静電容量値もしくは電極層D13/E10間の静電容量値(あるいは、両静電容量値の差)に基いて、重錘体120のX軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体120に対してX軸方向に作用した力Fxに対応したものになり、図14に示す点Pxにおける検出原理に基いて、Z軸まわりの角速度ωzを求めることができる。更に、図17のグラフの時間軸における位相π/2の時点(重錘体40が円軌道を移動しながら、Y軸を通過する瞬間となる)において、電極層D15/E10間の静電容量値に基いて、重錘体120のZ軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体120に対してZ軸方向に作用した力Fzに対応したものになり、図13に示す点Pyにおける検出原理に基いて、Y軸まわりの角速度ωyを求めることができる。あるいは、この同じ時点において、電極層D12/E10間の静電容量値もしくは電極層D14/E10間の静電容量値(あるいは、両静電容量値の差)に基いて、重錘体120のY軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体120に対してY軸方向に作用した力Fyに対応したものになり、図14に示す点Pyにおける検出原理に基いて、やはりZ軸まわりの角速度ωzを求めることができる。
<<< Section 6 容量素子を利用した角速度センサの別な実施例 >>>
続いて、上述した角速度センサ100の変形例に相当する角速度センサ180の構造および検出動作を、図21の側断面図および図22の上面図を参照しながら説明する。図22は、図21に示す角速度センサ180の構成要素の中の可撓性基板110を上面から見た図を示しており、ここに示す可撓性基板110をX軸に沿って切った断面が図21に示されていることになる。図19および図20に示す角速度センサ100と、図21および図22に示す角速度センサ180と、の構造上の相違は、可撓性基板110上の各電極層の配置だけである。すなわち、角速度センサ180では、角速度センサ100において設けられていた電極層G12およびG14が図22に示すように省略されており、また、角速度センサ100においては変位検出器として機能していた電極層D15が、角速度センサ180では、力発生器として機能する電極G15となっている。
角速度センサ100と角速度センサ180との動作上の大きな相違は、前者が、重錘体120をXY平面内で円運動させているのに対し、後者は、重錘体120をXZ平面内で円運動させる点である。前述したように、電極層G11/E10間に所定の電圧を印加すると、両電極間にクーロン引力が作用し、可撓性基板110が撓みを生じ、重錘体120がX軸正方向に変位することになる。同様に、電極層G15/E10間に所定の電圧を印加すると、両電極間にクーロン引力が作用し、重錘体120はZ軸正方向に変位することになる。更に、電極層G13/E10間に所定の電圧を印加すると、両電極間にクーロン引力が作用し、可撓性基板110が撓みを生じ、重錘体120がX軸負方向に変位することになる。したがって、上記各電極層に位相が少しずつずれた正弦波電圧を与えるようにすれば、図21において、重錘体120は右方位置から徐々に上方位置へと円弧を描いて移動し、更に左方位置へと円弧を描いて移動し、半円軌道上を移動することになる。また、上述のように両電極間に電圧を印加する操作は、両電極にそれぞれ異なる極性をもった電荷を供給する操作になるが、逆に、両電極に同じ極性の電荷が供給されるように工夫すれば、両電極間にはクーロン斥力が作用することになる。そこで、電極層G15と電極層E10とに、同極性の電荷を供給してクーロン斥力を作用させれば、今度は、重錘体120は、図21における下方位置へと移動することになる。このように、電極層G11,G13,G15にそれぞれ適当な電圧信号を供給するようにすれば、図21に矢印で示したような円軌道121に沿って、重錘体120を円運動させることが可能になる。また、前述したように、クーロン引力とクーロン斥力との両方を組み合わせて用いれば、更に効率的な円運動が可能になる。
結局、この角速度センサ180では、X軸の正の領域および負の領域、ならびに、原点近傍領域に、Z軸に沿った方向に力を作用させる力発生器(各容量素子)をそれぞれ配置し、これらの力発生器を周期的に動作させることにより、重錘体120をXZ平面内で周回運動させる構成を採っていることになる。
一方、変位検出器として機能する電極層D11〜D14の配置については、前述した角速度センサ100の配置と全く同様であるから、これらを用いて、X軸方向の力±FxおよびY軸方向の力±Fyを検出することができる。こうして、重錘体120をXZ平面内で円運動させながら、重錘体120がX軸あるいはZ軸を通過する瞬時において、重錘体120に作用するX軸方向の力±FxおよびY軸方向の力±Fyを検出すれば、前述の検出原理に基いて、3軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzのすべてを検出することが可能である。
<<< Section 7 圧電素子の一般的な性質 >>>
続いて、駆動手段および検出手段として、圧電素子を用いた実施例を述べる。一般に、圧電素子は、所定方向に力を加えると所定極性の電荷が発生する性質を有し、逆に、所定極性の電荷を供給すると所定方向に力が発生する性質を有する。力の方向や電荷の極性は、個々の圧電素子のもつ分極特性によってそれぞれ異なる。ここでは、図23に示す圧電素子51および図24に示す圧電素子52について、その固有の性質を説明する。いずれも、図には側断面図が示されており、各圧電素子の上面には上部電極層Aが形成され、下面には下部電極層Bが形成されている。
圧電素子51は、図23(a) に矢印で示すように、横に伸びる方向の力を外部から加えた場合には、上部電極層A側に正の電荷が、下部電極層B側に負の電荷が、それぞれ発生し、逆に、図23(b) に矢印で示すように、横に縮む方向の力を外部から加えた場合には、上部電極層A側に負の電荷が、下部電極層B側に正の電荷が、それぞれ発生する。以上は、所定方向に力を加えたときに所定極性の電荷が発生する性質を示したものであるが、逆に、所定極性の電荷を供給すると所定方向に力が発生する性質も有する。すなわち、この圧電素子51について、上部電極層A側に正の電荷を供給し、下部電極層B側に負の電荷を供給すると、図23(a) に矢印で示すように、横に伸びる方向の力が発生し、逆に、上部電極層A側に負の電荷を供給し、下部電極層B側に正の電荷を供給すると、図23(b) に矢印で示すように、横に縮む方向の力が発生する。ここでは、このような分極特性をもった圧電素子をタイプIの圧電素子と呼ぶことにする。
一方、図24に示す圧電素子52は、上述の圧電素子51とはやや異なった性質をもっている。すなわち、この圧電素子52は、図24(a) に矢印で示すように、縦に伸びる方向の力を外部から加えた場合には、上部電極層A側に正の電荷が、下部電極層B側に負の電荷が、それぞれ発生し、逆に、図24(b) に矢印で示すように、縦に縮む方向の力を外部から加えた場合には、上部電極層A側に負の電荷が、下部電極層B側に正の電荷が、それぞれ発生する。以上は、所定方向に力を加えたときに所定極性の電荷が発生する性質を示したものであるが、逆に、所定極性の電荷を供給すると所定方向に力が発生する性質も有する。すなわち、この圧電素子52について、上部電極層A側に正の電荷を供給し、下部電極層B側に負の電荷を供給すると、図24(a) に矢印で示すように、縦に伸びる方向の力が発生し、逆に、上部電極層A側に負の電荷を供給し、下部電極層B側に正の電荷を供給すると、図24(b) に矢印で示すように、縦に縮む方向の力が発生する。ここでは、このような分極特性をもった圧電素子をタイプIIの圧電素子と呼ぶことにする。
このような圧電素子としては、たとえば圧電セラミックスなどが広く利用されており、最近の技術では、特定の分極処理を施すことにより、所望の分極特性をもった圧電セラミックスを自由に製造することが可能である。また、物理的に単一の圧電セラミックスについて、部分ごとに異なる分極処理を施すことにより、それぞれ部分ごとに分極特性が異なる圧電素子を得ることも可能である。
このように、圧電素子には、「力→電荷」という変換を行う機能と、「電荷→力」という変換を行う機能とが備わっている。以下に示す実施例では、前者の機能をコリオリ力の検出手段(変位検出器)として利用し、後者の機能を重錘体を周回運動させるための駆動手段(力発生器)として利用したものである。
<<< Section 8 タイプIの圧電素子を利用した角速度センサの実施例 >>>
図25に側断面を示す角速度センサ200は、上述したタイプIの分極特性をもった圧電素子によって、力発生器および変位検出器を構成した実施例である。この角速度センサ200の基本部分の構成は、図19に示す角速度センサ100とほぼ同じである。すなわち、可撓性基板210の下面には、円環状の溝が形成されており、この溝が形成された部分は肉厚が薄いために可撓性をもった可撓部212を形成しており、この可撓部212に囲まれた内側の部分が作用部211を形成し、可撓部212の外側の部分が固定部213を形成している。作用部211の下面には、ブロック状の重錘体220が固着されており、固定部213は、台座230によって支持されている。また、台座230はベース基板240に固定されている。ただ、可撓性基板210の上面に形成された構成要素が、前述した角速度センサ100のものとは異なる。すなわち、可撓性基板210の上面には、ワッシャ状の共通電極層E20が固着され、その上に、同じくワッシャ状の圧電素子250が固着され、この圧電素子250の上面に、12枚の電極層G21〜G24,D21〜D28が形成されている。ここで、圧電素子250は、図23に示すタイプIの分極特性をもった圧電セラミックスよりなる。
図26に、この可撓性基板210の上面図を示す。図26に示す可撓性基板210を、X軸に沿って切った断面が、図25に示されていることになる。図26では、ワッシャ状の圧電素子250の上に、12枚の電極層のパターンが明瞭に示されている。圧電素子250の中央部分には、円形の開口部があり、可撓性基板210の中心部211が覗いている。この圧電素子250の下面には、ワッシャ状の共通電極層E20が配置されているが、図26には示されていない。なお、図26においては、各電極層の部分にハッチングを施して示してあるが、これは、各電極層のパターン認識が容易になるようにするための配慮であり、断面部分を示すためのハッチングではない。図26に示す12枚の電極層のうち、電極層G21〜G24は、力発生器として利用するためのものであり、電極層D21〜D28は、変位検出器として利用するためのものである。すなわち、圧電素子250および共通電極層E20はいずれも単一のものであるが、圧電素子250の上面に形成されている12枚の電極層がそれぞれ別個独立したものであるため、動作を考える上では、12組の独立した圧電素子として取り扱うことができる。ここでは、図25に示すように、重錘体220の重心位置に原点OをもつXYZ三次元座標系を定義し、以後の説明を行うことにする。図26に示されているように、電極層G21〜G24および電極層D21〜D28は、いずれもこの座標系におけるX軸上もしくはY軸上に位置し、しかもこれらの軸に関して線対称な形状をしている。
さて、はじめに、この角速度センサ200において、電極層G21〜G24に周期的に電荷の供給を行えば、重錘体220をXY平面内において円運動させることができることを示そう。前述したように、圧電素子250は、図23に示すような分極特性をもったタイプIの圧電素子である。そこで、たとえば、電極層G21に負の電荷が、共通電極層E20に正の電荷が、それぞれ発生するように電圧供給を行えば、圧電素子250のうちの電極層G21の下方に位置する一部分には、図23(b) に示すように、横方向に縮む力が発生することになる。一方、電極層G23に正の電荷が、共通電極層E20に負の電荷が、それぞれ発生するように電圧供給を行うと、圧電素子250のうちの電極層G23の下方に位置する一部分には、図23(a) に示すように、横方向に伸びる力が発生することになる。このように、電極層G21の下方部分においては縮む力が、電極層G23の下方部分においては伸びる力が、それぞれ発生すると、可撓性基板210には、重錘体220をX軸の正方向に変位させるような撓みが生じることになる。また、各電極層に対する供給電荷の極性を逆転させれば、逆に、重錘体220をX軸の負方向に変位させるような撓みを生じさせることができる。
このように、X軸上に配置された電極層G21,G23に対する所定電荷の供給は、図18に示すモデルにおいて、力発生器G1もしくはG3を動作させることと等価になる。同様に、Y軸上に配置された電極層G22,G24に対する所定電荷の供給は、図18に示すモデルにおいて、力発生器G2もしくはG4を動作させることと等価になる。したがって、電極層G21〜G24に、位相がずれた周期的な動作信号を与えれば、重錘体220を、XY平面内において円運動させることが可能になる。なお、実際には、圧電素子250の分極特性を部分ごとに反転させると(上下に発生する電荷の極性が逆転するようにする)、円運動させるための電圧供給が簡便になる。
結局、この実施例では、X軸の正の領域および負の領域に、X軸に沿った方向に力を作用させる力発生器(圧電素子の各部分)をそれぞれ配置し、Y軸の正の領域および負の領域に、Y軸に沿った方向に力を作用させる力発生器(圧電素子の各部分)をそれぞれ配置し、これらの力発生器を周期的に動作させることにより、重錘体220をXY平面内で周回運動させる構成を採っていることになる。
既に述べた検出原理によれば、このように重錘体220を円運動させた状態において、重錘体220に作用する各軸方向の力±Fx,±Fy,±Fzを検出することができれば、各軸まわりの角速度±ωx,±ωy,±ωz(符号は回転方向を示す)を求めることができる。また、重錘体220に作用する各軸方向の力±Fx,±Fy,±Fzは、各軸方向への変位として検出できることは既に述べたとおりである。図26に示す電極層D21〜D28および共通電極層E20によって狭まれた8組の圧電素子は、この各軸方向への変位検出器として機能することになる。この実施例では、電極層D21,D23を、X軸方向に関する変位(力±Fxに相当)を検出するために用いており、電極層D26,D28を、Y軸方向に関する変位(力±Fyに相当)を検出するために用いており、電極層D22,D24,D25,D27を、Z軸方向に関する変位(力±Fzに相当)を検出するために用いている。
たとえば、重錘体220がX軸の正方向に変位した場合、可撓性基板210の撓みが圧電素子250へと伝達され、圧電素子250のうち電極層D21の下方に位置する一部分は横方向に縮むように変形し、電極層D23の下方に位置する一部分は横方向に伸びるように変形する。したがって、図23に示す分極特性から、電極層D21には負の電荷が発生し、電極層D23には正の電荷が発生することになる。これらの発生電荷を測定することにより、重錘体220のX軸正方向への変位を求めることができる。また、重錘体220がX軸の負方向に変位した場合には、発生電荷の極性が上述の場合と比べて逆転することになる。こうして、電極層D21,D23についての発生電荷を測定することにより、重錘体220のX軸方向への変位量を検出することが可能になる。具体的には、試作品について、実際に重錘体220を変位させたときに、どの程度の電荷が発生するかを実測しておけば、この実測値に基いて、発生電荷量と変位量との関係を得ることができる。
同様に、電極層D26,D28についての発生電荷を測定することにより、重錘体220のY軸方向への変位量を検出することが可能になる。なお、この実施例において、Y軸方向の検出に、外側に配置された電極層D22,D24を用いずに、内側に配置された電極層D26,D28を用いるのは、次に述べるZ軸方向への変位量検出において、外側に配置された電極層D22,D24を用いる必要があるためであり、原理的には、外側に配置された電極層D22,D24を用いてY軸方向の検出を行っても何ら問題はない。
さて、Z軸方向への変位量の検出には、この実施例では4枚の電極層D22,D24,D25,D27を用いている。ここで、図26に示されているように、電極層D22,D24は外側に配置された電極層であるのに対し、電極層D25,D27は内側に配置された電極層である。Z軸方向への変位量の検出には、このように、外側に配置された電極層と内側に配置された電極層とを組み合わせて用いるのが好ましい。これは、角速度センサ200においては、重錘体220が、+Z軸方向(図25における上方)に変位すると、圧電素子250の内側部分は横方向に伸び、外側部分は横方向に縮むことになるからである。したがって、図23に示す分極特性から、内側に配置されている電極層D25,D27には正の電荷が発生し、外側に配置されている電極層D22,D24には負の電荷が発生する。逆に、重錘体220が、−Z軸方向(図25における下方)に変位すると、圧電素子250の内側部分は横方向に縮み、外側部分は横方向に伸びることになる。したがって、図23に示す分極特性から、内側に配置されている電極層D25,D27には負の電荷が発生し、外側に配置されている電極層D22,D24には正の電荷が発生する。こうして、電極層D22,D24,D25,D27についての発生電荷を測定することにより、重錘体220のZ軸方向への変位量を検出することが可能になる。
なお、図26に示すように、変位検出器を構成する各電極層D21〜D28は、いずれもX軸もしくはY軸に関して線対象となっているため、各軸方向の変位検出を行う上で他軸成分の影響を受けることがない。たとえば、X軸方向の変位検出に用いられる電極層D21,D23は、X軸に関して線対称となっているため、Y軸方向の変位が生じた場合に、その半分の領域は横方向に伸びるが、別な半分の領域は横方向に縮むため、全体的には発生電荷が相殺されることになる。
結局、この実施例では、X軸の正の領域および負の領域、ならびに、Y軸の正の領域および負の領域に、各軸に沿った方向への変位を検出する変位検出器(圧電素子の各部分)をそれぞれ配置し、X軸の正負両領域に配置された変位検出器を用いて重錘体のX軸方向に作用するコリオリ力を検出し、Y軸の正負両領域に配置された変位検出器を用いて重錘体のY軸方向に作用するコリオリ力を検出する構成を採っていることになる。
以上のような角速度センサ200によって、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzを検出するには、電極層G21〜G24に、それぞれ位相をずらして周期的に所定の電荷を供給して、重錘体220をXY平面上において円運動させる。そして、重錘体220がX軸を通過する瞬間において、電極層D22,D24,D25,D27の発生電荷を測定して、重錘体220のZ軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体220に対してZ軸方向に作用した力Fzに対応したものになり、図13に示す点Pxにおける検出原理に基いて、X軸まわりの角速度ωxを求めることができる。また、この同じ時点において、電極層D21,D23の発生電荷を測定して、重錘体220のX軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体220に対してX軸方向に作用した力Fxに対応したものになり、図14に示す点Pxにおける検出原理に基いて、Z軸まわりの角速度ωzを求めることができる。更に、重錘体220がY軸を通過する瞬間において、電極層D22,D24,D25,D27の発生電荷を測定して、重錘体220のZ軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体220に対してZ軸方向に作用した力Fzに対応したものになり、図13に示す点Pyにおける検出原理に基いて、Y軸まわりの角速度ωyを求めることができる。あるいは、この同じ時点において、電極層D26,D28の発生電荷を測定して、重錘体220のY軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体220に対してY軸方向に作用した力Fyに対応したものになり、図14に示す点Pyにおける検出原理に基いて、やはりZ軸まわりの角速度ωzを求めることができる。
なお、上述の実施例では、圧電素子250の上面に12枚の個々の電極層G21〜G24,D21〜D28を形成し、下面に単一の共通電極層E20を形成したが、逆に、上面に単一の共通電極層E20を形成し、下面に12枚の個々の電極層G21〜G24,D21〜D28を形成するようにしてもかまわない。あるいは、共通電極層を用いずに、圧電素子250の上面にも下面にも、それぞれ12枚の個々の電極層を形成するようにしてもかまわない。ただし、配線を単純化する上では、共通電極層を形成するのが好ましい。
<<< Section 9 タイプIの圧電素子を利用した角速度センサの別な実施例 >>>
続いて、上述した角速度センサ200の変形例に相当する角速度センサ280の構造および検出動作を、図27の側断面図および図28の上面図を参照しながら説明する。図28は、図27に示す角速度センサ280の構成要素の中の可撓性基板210を上面から見た図を示しており、ここに示す可撓性基板210をX軸に沿って切った断面が図27に示されていることになる。図25および図26に示す角速度センサ200と、図27および図28に示す角速度センサ280と、の構造上の相違は、圧電素子250上の各電極層の配置だけである。すなわち、角速度センサ280では、角速度センサ200において設けられていた内側の電極層G22,G24,D25〜D28が、図28に示すように単一の電極層G25に置き換えられている。なお、外側の電極層G21,G23,D21〜D24については、若干形状が異なっているが、本質的には変わりはない。この角速度センサ280では、電極層G21,G23,G25が、力発生器として機能し、電極層D21〜D24が、変位検出器として機能することになる。
角速度センサ200と角速度センサ280との動作上の大きな相違は、前者が、重錘体220をXY平面内で円運動させているのに対し、後者は、重錘体220をXZ平面内で円運動させる点である。前述したように、共通電極層E20を基準として、電極層G21,G23に所定電荷を供給すると、重錘体220をX軸方向に変位させることができる。この角速度センサ280では、更に、電極層G25に所定電荷を供給することによって、重錘体220をZ軸方向にも変位させることができるようにしている。すなわち、電極層G25に正の電荷を供給すると、図23(a) に示す分極特性から、この電極層G25の下方の圧電素子部分には横方向に伸びる力が発生し、結果的に、重錘体220を+Z軸方向(図27における上方)に変位させるような撓みが生じることになり、逆に、電極層G25に負の電荷を供給すると、図23(b) に示す分極特性から、この電極層G25の下方の圧電素子部分には横方向に縮む力が発生し、結果的に、重錘体220を−Z軸方向(図27における下方)に変位させるような撓みが生じることになる。したがって、電極層G21,G23,G25にそれぞれ適当に電荷供給を行えば、図27に矢印で示したような円軌道221に沿って、重錘体220を円運動させることが可能になる。
結局、この角速度センサ280では、X軸の正の領域および負の領域、ならびに、原点近傍領域に、X軸に沿った方向に力を作用させる力発生器(各圧電素子)をそれぞれ配置し、これらの力発生器を周期的に動作させることにより、重錘体220をXZ平面内で周回運動させる構成を採っていることになる。一方、変位検出器として機能する電極層D21〜D24の配置については、前述した角速度センサ200の配置とほぼ同様であるから、これらを用いて、X軸方向の力±FxおよびY軸方向の力±Fyを検出することができる。こうして、重錘体220をXZ平面内で円運動させながら、重錘体220がX軸あるいはZ軸を通過する瞬時において、重錘体220に作用するX軸方向の力±FxおよびY軸方向の力±Fyを検出すれば、前述の検出原理に基いて、3軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzのすべてを検出することが可能である。
もちろん、この実施例でも、Section8で述べた実施例と同様に、圧電素子250の上面側を単一の共通電極層としてもよいし、上面下面ともに個々の独立した電極層を形成するようにしてもよい。
<<< Section 10 タイプIIの圧電素子を利用した角速度センサの実施例 >>>
図29に側断面を示す角速度センサ300は、図24に示したタイプIIの分極特性をもった圧電素子によって、力発生器および変位検出器を構成した実施例である。この角速度センサ300は、円盤状の可撓性基板310と円盤状の固定基板320との間に、タイプIIの分極特性をもつ円盤状の圧電素子330が介挿された構造となっている。可撓性基板310の下面には、円柱状の重錘体340が固着されている。また、可撓性基板310の外周部分および固定基板320の外周部分は、いずれも筐体350によって支持されている。圧電素子330の上面には、5枚の上部電極層E31〜E35(図29には、その一部だけが示されている)が形成され、同様に下面には、5枚の下部電極層E36〜E40(やはり、その一部だけが示されている)が形成されており、上部電極層E31〜E35の上面は固定基板320の下面に固着され、下部電極層E36〜E40の下面は可撓性基板310の上面に固着されている。ここで、固定基板320は十分な剛性をもち、撓みを生じることはないが、可撓性基板310は可撓性をもち、いわゆるダイヤフラムとして機能する。ここでは、図29に示すように、重錘体340の重心位置に原点OをもつXYZ三次元座標系を定義し、以後の説明を行うことにする。図29は、この角速度センサをXZ平面で切った側断面図に相当する。
図30は、圧電素子330の上面および上部電極層E31〜E35を示す上面図であり、図31は、圧電素子330の下面および下部電極層E36〜E40を示す下面図である。図30に示されているように、上部電極層E31〜E34は、いずれも扇状をしており、この座標系におけるX軸上もしくはY軸上に位置し、しかもこれらの軸に関して線対称な形状をしている。また、上部電極層E35は、円形をしており、ちょうど原点の位置に配置されている。一方、下部電極層E36〜E40は、図31に示されているように、それぞれ上部電極層E31〜E35と同じ形状をしており、対向する位置に配置されている。なお、下部電極層E36〜E40は、単一の共通電極層にしてもかまわない。また、可撓性基板310を導電性の材料によって構成しておけば、可撓性基板310自身を単一の共通電極層として用いることができ、下部電極層を物理的に構成する必要はなくなる。
前述したように、圧電素子330は、図24に示すような分極特性をもったタイプIIの圧電素子である。そこで、たとえば、電極層E31に負の電圧を与え、電極層E36に正の電圧を与えれば、図24(b) に示すように、縦方向に縮む力が発生する。また、電極層E33に正の電圧を与え、電極層E38に負の電圧を与えれば、図24(a) に示すように、縦方向に伸びる力が発生する。したがって、これらの電圧供給操作のいずれか一方あるいは双方を行うことにより、重錘体340をX軸に沿った方向に変位させることができる。すなわち、X軸上に配置された各電極層E31,E33,E36,E38に所定の電圧を印加することにより、重錘体340に対してX軸方向に沿った変位を生じさせることができる。同様に、Y軸上に配置された各電極層E32,E34,E37,E39に所定の電圧を印加することにより、重錘体340に対してY軸方向に沿った変位を生じさせることもできる。そこで、これらの各電極に、位相がずれた周期的な電圧を印加するようにすれば、重錘体340をXY平面内において円運動させることが可能になる。
結局、この角速度センサ300では、X軸の正の領域および負の領域、ならびに、Y軸の正の領域および負の領域に、Z軸に沿った方向に力を作用させる力発生器(圧電素子の各部分)をそれぞれ配置し、これらの力発生器を周期的に動作させることにより、重錘体340をXY平面内で周回運動させる構成を採っていることになる。
また、この角速度センサ300では、重錘体340をXZ平面内において円運動させることも可能である。たとえば、電極層E35に負の電圧を与え、電極層E40に正の電圧を与えれば、図24(b) に示すように、縦方向に縮む力が発生するので、重錘体340は、+Z軸方向(図29における上方)に変位する。逆に、電極層E35に正の電圧を与え、電極層E40に負の電圧を与えれば、図24(a) に示すように、縦方向に伸びる力が発生するので、重錘体340は、−Z軸方向(図29における下方)に変位する。結局、原点位置に配置された電極層E35,E40に所定の電圧を印加することにより、重錘体340に対してZ軸方向に沿った変位を生じさせることもできる。そこで、X軸上に配置された各電極層E31,E33,E36,E38と、原点位置に配置された電極層E35,E40とに、位相がずれた周期的な電圧を印加するようにすれば、重錘体340をXZ平面内において円運動させることも可能になる。
この場合、この角速度センサ300では、X軸の正の領域および負の領域、ならびに、原点近傍領域に、Z軸に沿った方向に力を作用させる力発生器(圧電素子の各部分)をそれぞれ配置し、これらの力発生器を周期的に動作させることにより、重錘体340をXZ平面内で周回運動させる構成を採っていることになる。
一方、これらの電極層に発生する電荷を測定することにより、重錘体340に生じた変位(重錘体340に作用した力)を検出することも可能である。たとえば、重錘体340に対してX軸の正方向の力+Fxが作用し、X軸の正方向に変位した場合、図29に示す圧電素子330の右側部分は上下に押しつぶされ、左側部分は上下に引き伸ばされる。したがって、図24に示す分極特性から、電極層E33,E36には正の電荷が発生し、電極層E31,E38には負の電荷が発生することになる。結局、X軸上に配置された各電極層E31,E33,E36,E38に発生する電荷を測定することにより、重錘体340のX軸方向の変位(重錘体340に作用したX軸方向の力±Fx)を検出することができる。同様に、Y軸上に配置された各電極層E32,E34,E37,E39に発生する電荷を測定することにより、重錘体340のY軸方向の変位(重錘体340に作用したY軸方向の力±Fy)を検出することができる。また、Z軸方向の変位(力±Fz)については、原点位置に配置された電極層E35,E40に発生する電荷を測定することにより検出が可能である。すなわち、重錘体340に対して、Z軸方向の力±Fzが作用すれば、電極層E35,E40間の圧電素子は、上下に押しつぶされるか(+Fzの場合)、上下に引き伸ばされる(−Fzの場合)ので、両電極層に発生する電荷量および極性に基いて、作用した力±Fzを検出することが可能である。
このように、角速度センサ300の各電極層は、重錘体340を円運動させるための力発生器の構成要素としての役割と、重錘体340に作用したコリオリ力を検出するための変位検出器の構成要素としての役割と、を兼ね備えることになる。
ここで、電極層E31〜E34,E36〜E39には、力発生器としての役割を与え、電極層E35,E40には、変位検出器としての役割を与えるようにすれば、重錘体340をXY平面内で円運動させた状態において、X軸まわりの角速度ωxとY軸まわりの角速度ωyとを検出する2軸まわりの角速度センサが実現できる。すなわち、重錘体340がX軸を通過する瞬間において、電極層E35,E40における発生電荷を測定して、重錘体340のZ軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体340に対してZ軸方向に作用した力Fzに対応したものになり、図13に示す点Pxにおける検出原理に基いて、X軸まわりの角速度ωxを求めることができる。同様に、重錘体340がY軸を通過する瞬間において、電極層E35,E40における発生電荷を測定して、重錘体340のZ軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体340に対してZ軸方向に作用した力Fzに対応したものになり、図13に示す点Pyにおける検出原理に基いて、Y軸まわりの角速度ωyを求めることができる。
また、電極層E31,E36,E33,E38,E35,E40には、力発生器としての役割を与え、電極層E32,E37,E34,E39には、変位検出器としての役割を与えるようにすれば、重錘体340をXZ平面内で円運動させた状態において、X軸まわりの角速度ωxとZ軸まわりの角速度ωzとを検出する2軸まわりの角速度センサが実現できる。すなわち、重錘体340がX軸を通過する瞬間において、電極層E32,E37,E34,E39おける発生電荷を測定して、重錘体340のY軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体340に対してY軸方向に作用した力Fyに対応したものになり、X軸まわりの角速度ωxを求めることができる。同様に、重錘体340がZ軸を通過する瞬間において、電極層E32,E37,E34,E39おける発生電荷を測定して、重錘体340のY軸方向の変位を検出すれば、この変位は、重錘体340に対してY軸方向に作用した力Fyに対応したものになり、Z軸まわりの角速度ωzを求めることができる。
なお、3軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzのすべてを検出するためには、力発生器としての役割を担う電極層と変位検出器としての役割を担う電極層とを分割した構成とすればよい。たとえば、図32に示す例は、図30における電極層E31を、E31GとE31Dとに分割し、電極層E33を、E33GとE33Dとに分割し、電極層E32,E34の形状をE32D,E34Dのように変更したものである。なお、電極層E32D,E34Dの形状は、電極層E31D,E33Dの形状と同一にしてあり、X軸方向とY軸方向との検出感度が揃うようにしてある。ここで、電極層E31G,E33G,E35Gは、力発生器としての役割を果たし、重錘体340をXZ平面内で円運動させる機能を果たす。また、電極層E31D,E32D,E33D,E34Dは、変位検出器としての役割を果たし、重錘体340のX軸方向およびY軸方向の変位(すなわち、力Fx,Fy)を検出する機能を果たす。
このような構成の角速度センサでは、重錘体340をXZ平面内で円運動させ、重錘体340がX軸を通過する瞬間において、重錘体340のY軸方向の変位を検出してX軸まわりの角速度ωxを求めることができ、同時点において、重錘体340のX軸方向の変位を検出してY軸まわりの角速度ωyを求めることができる。更に、重錘体340がZ軸を通過する瞬間において、重錘体340のY軸方向の変位を検出してZ軸まわりの角速度ωzを求めることができる。
なお、図29に示す角速度センサ300では、圧電素子330の上面には図30に示すように5枚の個々の電極層E31〜E35が形成され、下面には図31に示すように5枚の個々の電極層E36〜E40が形成されているが、いずれか一方は単一の共通電極層にしてもかまわない。
図33に側断面図を示す角速度センサ360は、図29に示す角速度センサ300の変形例である。角速度センサ300との相違点は、可撓性基板310の代わりに、導電性の可撓性基板315が用いられている点と、下部電極層E36〜E40が省略されている点である。可撓性基板315は、可撓性基板310よりも直径が若干小さな円盤状の基板であり、その外周部分は、筐体350には支持されておらず、自由になっている。重錘体340は、この可撓性基板315と、圧電素子330と、上部電極層E31〜E35と、固定基板320とによって、筐体350に支持された状態になっており、図のように宙吊りの状態になっている。したがって、重錘体340は、筐体350内において、ある程度の自由度をもって移動可能である。また、可撓性基板315は導電性をもっているため、共通電極層としての機能を果たし、下部電極層E36〜E40は不要になっている。このように、図33に示す角速度センサ360は、図29に示す角速度センサ300と比べて、構造上、若干の違いはあるが、その動作は全く同じである。
<<< Section 11 駆動手段と検出手段との兼用 >>>
既に述べてきたように、本発明に係る角速度センサでは、重錘体を円運動させるための駆動手段と、円運動中の重錘体に作用するコリオリ力を検出する検出手段とが必要である。たとえば、図18に示すモデルでは、重錘体40をXY平面内において円運動させるための力発生器(駆動手段)G1〜G4と、この重錘体40に対して、各座標軸方向に作用するコリオリ力を検出するための変位検出器(検出手段)D1〜D6とをそれぞれ別個独立して設けている。これまでに説明した種々の実施例においても、力発生器と変位検出器とをそれぞれ別個独立して設けた構造のものを主として例示した。
しかしながら、これまでの実施例を見ればわかるように、力発生器と変位検出器とは物理的には全く同一の構造をもった要素で構成することができる。たとえば、静電容量素子は、電圧を印加することにより一対の電極間にクーロン引力/斥力を発生する性質をもっているため、力発生器として用いることもできるし、両電極間の距離の変化を電気信号として取り出すことができるため、変位検出器として用いることもできる。同様に、圧電素子は、電圧を印加することにより応力を発生する性質をもっているため、力発生器として用いることもできるし、変位によって加えられた応力を電気信号として取り出すことができるため、変位検出器として用いることもできる。
このように、これまでの実施例では、力発生器としての構成要素と変位検出器としての構成要素とを別個のものとして取り扱ってきたが、実際には、両者間には物理的な構造の差はなく、角速度センサとして動作させる上で、便宜的にこれらを別個の要素として取り扱っただけのことである。したがって、両者は互いに可換性をもった構成要素であり、動作態様によって、同一の構成要素を力発生器として利用することも、変位検出器として利用することもできるものである。たとえば、図29〜図31に示す角速度センサでは、既にSection10において述べたように、電極層E31〜E34,E36〜E39に力発生器としての役割を与え、電極層E35,E40に変位検出器としての役割を与えれば、重錘体340をXY平面内で円運動させた状態において、Z軸方向に作用するコリオリ力を検出することができ、X軸まわりの角速度ωxとY軸まわりの角速度ωyとを検出することができるが、一方で、電極層E31,E36,E33,E38,E35,E40に力発生器としての役割を与え、電極層E32,E37,E34,E39に変位検出器としての役割を与えれば、重錘体340をXZ平面内で円運動させた状態において、Y軸方向に作用するコリオリ力を検出することができ、X軸まわりの角速度ωxとZ軸まわりの角速度ωzとを検出することができる。
ただ、このSection10で述べた動作方法は、個々の構成要素を、力発生器として用いるか、変位検出器として用いるか、いずれか一方を選択して用いるものであって、同一の構成要素を力発生器として用いながら同時に変位検出器としても用いるものではない。実は、検出回路を少し工夫すれば、同一の構成要素に対して、力発生器の役割と変位検出器の役割とを同時に兼務させることが可能になるのである。ここでは、このように、同一の構成要素を駆動手段および検出手段として同時に兼用する利用態様を述べることにする。
図34は、力発生と変位検出の兼用器GD1〜GD6を用いた角速度センサの構成例を示す概念図である。ここで、兼用器GD1〜GD6は、力発生器としての機能と変位検出器としての機能とを同時に果たすことになる。まず、これら兼用器GD1〜GD6の力発生器としての機能に着目してみると、兼用器GD1は、駆動信号g1を受けて重錘体40をX軸正方向に移動させる力を発生し、兼用器GD2は、駆動信号g2を受けて重錘体40をY軸正方向に移動させる力を発生し、兼用器GD3は、駆動信号g3を受けて重錘体40をX軸負方向に移動させる力を発生し、兼用器GD4は、駆動信号g4を受けて重錘体40をY軸負方向に移動させる力を発生し、兼用器GD5は、駆動信号g5を受けて重錘体40をZ軸正方向に移動させる力を発生し、兼用器GD6は、駆動信号g6を受けて重錘体40をZ軸負方向に移動させる力を発生する。一方、これら兼用器GD1〜GD6の変位検出器としての機能に着目してみると、兼用器GD1は、重錘体40がX軸正方向に変位すると検出信号d1を出力し、兼用器GD2は、重錘体40がY軸正方向に変位すると検出信号d2を出力し、兼用器GD3は、重錘体40がX軸負方向に変位すると検出信号d3を出力し、兼用器GD4は、重錘体40がY軸負方向に変位すると検出信号d4を出力し、兼用器GD5は、重錘体40がZ軸正方向に変位すると検出信号d5を出力し、兼用器GD6は、重錘体40がZ軸負方向に変位すると検出信号d6を出力する。
さて、ここで駆動信号g1〜g4として、たとえば、図17に示す駆動信号S1〜S4のような互いに位相のずれた周期信号を用いれば、重錘体40はXY平面内において円運動を行うことになる。そこで、全く角速度が作用していない環境において、重錘体40をこのように円運動させ、そのときにどのような検出信号が得られるかを測定しておく。たとえば、このとき、各兼用器GD1〜GD6から、所定の検出信号d1〜d6が出力されたものとする。重錘体40が正確にXY平面内において円運動しているのであれば、当然、検出信号d1〜d4はこの円運動の周期に合わせた周期信号となり、検出信号d5,d6は定常信号となる。ここで、外界から何らかの角速度が作用した場合を考える。この角速度は、円運動している重錘体40に対してコリオリ力を作用させることになる。たとえば、ある瞬間において、この作用した角速度に基づいてX軸正方向のコリオリ力が発生したとしよう。この場合、兼用器GD1の検出信号には、発生したコリオリ力に基づく信号成分Δαが加わることになり、兼用器GD1からは、(d1+Δα)なる検出信号が得られることになる。
すなわち、全く角速度が作用していない環境においては、兼用器GD1に駆動信号g1を与えると、検出信号d1が得られていたのに、角速度が作用した環境においては、同じ駆動信号g1を与えているのに、検出信号(d1+Δα)が得られたことになる。したがって、全く角速度が作用していない環境において、検出信号d1を予め測定しておけば、実際に角速度が作用している環境において得られた検出信号(d1+Δα)に基づいて、X軸正方向のコリオリ力に基づく信号成分Δαを求めることが可能になる。これは、他の兼用器GD2〜GD6についても全く同様である。別言すれば、兼用器GD1〜GD6は、駆動信号g1〜g6を受けて力発生器としての機能を果たしながら、同時に、コリオリ力の成分を含んだ検出信号を出力する変位検出器としての機能を果たしていることになる。
このように、兼用器を用いた角速度センサでは、センサ本体の構成要素の数を低減させることができるため、センサ本体の構造を単純化できるというメリットが得られる。ただ、信号処理回路は、これまでの実施例で述べてきた力発生器と変位検出器とを別個独立して設けたセンサに比べて若干複雑になるというデメリットはある。したがって、実用上は、これらのメリットやデメリットを考慮して、用途に応じて、力発生器と変位検出器とを別個独立した構造にするか、兼用器を用いた構造にするかを適宜使い分けるのが好ましい。
以下、このSection11で述べた基本思想に基づいて、兼用器を用いたいくつかの実施例を、信号処理回路とともに説明することにする。すなわち、Section12では、Section5,6で述べた容量素子を利用した角速度センサに兼用器を適用した実施例について述べ、Section13では、Section8,9で述べたタイプIの圧電素子を利用した角速度センサに兼用器を適用した実施例について述べ、Section14,Section15では、Section10で述べたタイプIIの圧電素子を利用した角速度センサに兼用器を適用した実施例について述べる。
<<< Section 12 兼用容量素子を利用した角速度センサの実施例 >>>
図35に側断面を示す角速度センサ190は、図19に示す容量素子を利用した角速度センサに兼用器を適用することにより、必要な電極層の枚数を低減させ、全体構造を単純化した実施例である。図19に示すセンサとの相違は、可撓性基板110の上面に配置された電極層および蓋基板150の下面に配置された電極層の構成だけである。そこで、以下、この電極層の構成のみを説明し、その他の構成要素の説明は省略する。
可撓性基板110の上面には、図36に示されているように、4枚の扇形の下部電極層L11〜L14が配置されている。下部電極層L11はX軸の正の領域上、L12はY軸の正の領域上、L13はX軸の負の領域上、L14はY軸の負の領域上、にそれぞれ配置されており、いずれも各座標軸に関して対称形をしている。一方、蓋基板150の下面にも、上部電極層U11〜U14が、それぞれ各下部電極層L11〜L14に対向する位置に配置されている。ここで、上部電極層U11〜U14は、下部電極層L11〜L14と全く同一形状をしている。こうして、電極層L11/U11、電極層L12/U12、電極層L13/U13、電極層L14/U14、によってそれぞれ1組ずつの容量素子が形成されていることになる。
さて、このような構成の角速度センサを動作させるために、図37に示すような信号処理回路を用意する。この回路図において、左端に示されている各容量素子は、蓋基板150の下面に形成された上部電極層と可撓性基板110の上面に形成された下部電極層とによって構成される容量素子であり、U11〜U14およびL11〜L14は、各上部電極層および下部電極層を示している。L11〜L14は共通の接地レベルに接続され、互いに導通している。ここで、B11〜B18はバッファ回路であり、R11〜R18は抵抗である。また、C1〜C4は、容量/電圧変換回路であり、各容量素子の静電容量値を電圧値に変換して出力する機能を有する。駆動信号入力端子T11,T13,T15,T17は、それぞれ上部電極層U11,U12,U13,U14に印加するための駆動電圧V11,V13,V15,V17を入力する端子であり、検出信号出力端子T12,T14,T16,T18は、それぞれ容量/電圧変換回路C1,C2,C3,C4から出力された検出電圧V12,V14,V16,V18を出力する端子である。
このような信号処理回路を用いて、重錘体120をXY平面に沿って円運動させるには、たとえば、駆動信号入力端子T11,T13,T15,T17に、それぞれ図17に示す駆動信号S1〜S4を与えればよい。4組の容量素子には、それぞれ位相をずらして順々にクーロン引力が作用することになり、重錘体120はXY平面に沿って円運動する。
一方、このような信号処理回路を用いれば、重錘体120の各軸方向への変位を検出することができる。たとえば、重錘体120がX軸の正方向に変位すると、電極層U11/L11間の距離は短く、電極層U13/L13間の距離は長くなるため、前者における静電容量値は増加し、後者における静電容量値は減少する。したがって、図37の回路において、検出電圧V12は上昇し、検出電圧V16は下降する。そこで、両検出電圧の差(V12−V16)によって、重錘体120のX軸正方向の変位検出が可能になる。逆に、重錘体120がX軸の負方向に変位すると、上述の場合と増減が逆になるため、両検出電圧の差(V12−V16)の符号が逆転することになる。結局、出力端子T12,T16に得られる検出電圧の差(V12−V16)によって、X軸の正負両方向の変位検出が可能になる。全く同様に、出力端子T14,T18に得られる検出電圧の差(V14−V18)によって、Y軸の正負両方向の変位検出が可能になる。更に、この信号処理回路では、Z軸の正負両方向の変位検出も可能である。たとえば、重錘体120がZ軸の正方向に変位すると、4組の容量素子はいずれも電極間距離が短くなり静電容量値が増加し、逆にZ軸の負方向に変位すると、4組の容量素子はいずれも電極間距離が長くなり静電容量値が減少する。したがって、4つの出力端子T12,T14,T16,T18に得られる電圧の総和(V12+V14+V16+V18)の増加または減少により、Z軸の正負両方向の変位検出が可能になる(2つの電圧の和(V12+V16)あるいは(V14+V18)によっても、Z軸方向の変位検出は可能であるが、効率良い安定した検出を行うためには、上述のように4つの電圧の総和を用いるのが好ましい)。
なお、各電極層L11〜L14,U11〜U14はいずれもX軸またはY軸に関して線対称な形状をしているため、上述の検出結果には、他軸成分が干渉することはない。たとえば、重錘体120がX軸方向に変位した場合、電極層U11/L11間と電極層U13/L13間の距離は一方が短く他方は長くなるため、検出電圧の差(V12−V16)としてX軸方向の変位を求めることができる。ところが、重錘体120がY軸方向に変位した場合は、電極層U11/L11間の距離も、電極層U13/L13間の距離も、部分的に短くなったり長くなったりするが、全体的には相殺されて電圧差は発生しない。また、重錘体120がZ軸方向に変位した場合は、電極層U11/L11間の距離も、電極層U13/L13間の距離も、双方ともに短くなったり長くなったりするので、検出電圧の差(V12−V16)をとると相殺されることになる。
以上の説明により、この角速度センサ190では、たった4組の電極対U11/L11,U12/L12,U13/L13,U14/L14を利用して、重錘体120をXY平面に沿って円運動させる機能と、重錘体120のX軸,Y軸,Z軸の正負両方向に関する変位を別個に検出する機能と、を備えていることがわかる。そこで、これらの電極対を、Section11において説明した兼用器として利用すれば、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzの検出が可能になる。すなわち、まず全く角速度が作用しない環境において、入力端子T11,T13,T15,T17に、それぞれ図17に示す駆動信号S1〜S4を与え、重錘体120をXY平面に沿って円運動させた状態にする。そして、このときに、出力端子T12,T14,T16,T18に出力される電圧V12,V14,V16,V18を予め測定しておく。もちろん、これらの電圧値は駆動信号S1〜S4と同じ周期で変化する周期信号となる。続いて、この角速度センサ190を、実際に角速度が作用する環境におき、やはり入力端子T11,T13,T15,T17に、それぞれ駆動信号S1〜S4を与え、重錘体120をXY平面に沿って円運動させた状態にし、そのときに、出力端子T12,T14,T16,T18に出力される電圧を測定する。これらの電圧値が、予め測定した値と異なれば、その差分は作用した角速度に基づくコリオリ力の成分ということになる。たとえば、X軸方向への変位を示す検出電圧差(V12−V16)が予め測定した値よりもΔαだけ増えていれば、X軸の正方向にΔαに相当する大きさのコリオリ力が作用していることになる。
結局、この角速度センサ190では、重錘体120をXY平面に沿って円運動させた状態で、X軸方向のコリオリ力、Y軸方向のコリオリ力、Z軸方向のコリオリ力、をそれぞれ別個独立して検出できることになる。したがって、既に述べた原理により、作用した角速度を、X軸まわりの角速度ωx,Y軸まわりの角速度ωy,Z軸まわりの角速度ωz、と各軸ごとに検出することが可能になる。
なお、上述の説明では、互いに向かい合う上部電極層と下部電極層との間に電圧を印加し、両電極層にそれぞれ極性の異なる電荷を供給してクーロン引力を作用させ、重錘体120を駆動していたが、互いに向かい合う上部電極層と下部電極層とに、それぞれ同極性の電荷を供給できるような構造にしておけば、クーロン斥力によって重錘体120を駆動することも可能である。また、たとえば、電極対U11/L11にクーロン引力を作用させると同時に、電極対U13/L13にクーロン斥力を作用させるようにすれば、重錘体120をX軸の正方向により効率的に変位させることが可能になる。このように、一方で引力、他方で斥力を作用させるようにして重錘体120を円運動させると、より効率的な駆動動作が可能になる。
また、4組の電極対のすべてに、あるいは、同一座標軸上に配置された2組の電極対にクーロン引力を作用させれば、重錘体120をZ軸の正方向に変位させることができ、4組の電極対のすべてに、あるいは、同一座標軸上に配置された2組の電極対にクーロン斥力を作用させれば、重錘体120をZ軸の負方向に変位させることができるので、このZ軸の正負両方向への駆動操作と、たとえば、既に述べたX軸の正負両方向への駆動操作とを組み合わせれば、重錘体120をXZ平面に沿って円運動させることも可能である。
更に、上述の説明では、重錘体120のX軸方向の変位を、検出電圧の差(V12−V16)により求め、重錘体120のY軸方向の変位を、検出電圧の差(V14−V18)により求めているが、このような差分をとっているのは、検出精度を向上させる意味と、Z軸方向の変位成分が検出結果に干渉しないようにするためである。したがって、たとえば、Z軸方向へのコリオリ力が作用しないような検出環境で用いることを前提とするのであれば、たとえば、電圧値V12あるいはV16をX軸方向の変位を示す値として単独で用いることも可能であるし、同様に、電圧値V14あるいはV18をY軸方向の変位を示す値として単独で用いることも可能である。
また、上述の実施例では、上部電極層U11〜U14も、下部電極層L11〜L14も、いずれも物理的に独立した個別の電極層となっているが、いずれか一方は、物理的には単一の共通電極層(この例の場合は、4枚の扇形の電極層のすべてに対向するような円盤状の共通電極層)としてもかまわない。電極層間の配線を単純化するには、このような共通電極層を形成しておくのが好ましい。図37に示される回路ではL11〜L14が共通接地され、電気的には共通電極となっている。
なお、図35および図19〜図22に示すような構造の角速度センサ190は、一般的な半導体装置の製造プロセスの技術やマイクロマシニング技術を適用できる材料によって構成することにより、安価で高性能なものを大量生産することが可能になる。たとえば、図35において、可撓性基板110,重錘体120,台座130,蓋基板150といった部材を、シリコン基板やガラス基板を用いて構成するようにすれば、ガラス基板とシリコン基板との接合には陽極接合技術などを利用することができ、シリコン基板同士の接合にはシリコン・ダイレクトボンディング技術などを利用することができる。ただ、シリコン基板上に物理的に異なる個別の電極層を隣接して配置すると、シリコン基板中の容量による結合により、互いに干渉が起こるおそれがあるので、個別の電極層はできるだけガラス基板上に形成するのが好ましい。物理的に単一の共通電極層であれば、シリコン基板上に形成しても問題はない。
<<< Section 13 タイプIの兼用圧電素子を利用した角速度センサの実施例 >>>
図38に側断面を示す角速度センサ290は、図25に示すタイプIの圧電素子を利用した角速度センサに兼用器を適用することにより、必要な電極層の枚数を低減させ、全体構造を単純化した実施例である。図25に示すセンサとの相違は、圧電素子250の上下両面に配置された電極層の構成だけである。そこで、以下、この電極層の構成のみを説明し、その他の構成要素の説明は省略する。
圧電素子250の上面には、図39に示されているように、4枚の扇形の上部電極層U21〜U24が配置されている。上部電極層U21はX軸の正の領域上、U22はY軸の正の領域上、U23はX軸の負の領域上、U24はY軸の負の領域上、にそれぞれ配置されており、いずれも各座標軸に関して対称形をしている。また、圧電素子250の下面には、上部電極層U21〜U24のすべてに対向するようなワッシャ状の共通下部電極層L20が配置されている。こうして、電極層U21/L20、電極層U22/L20、電極層U23/L20、電極層U24/L20、によってそれぞれ挟まれた4組の部分圧電素子が形成されることになる。
一方、図40に側断面を示す角速度センサ295は、図38に示す角速度センサ290の電極層の配置を若干変えた実施例である。すなわち、この角速度センサ295における圧電素子250の上面には、図41に示されているように、4枚の扇形の上部電極層U26〜U29が配置されている。上部電極層U26はX軸の正の領域上、U27はY軸の正の領域上、U28はX軸の負の領域上、U29はY軸の負の領域上、にそれぞれ配置されており、いずれも各座標軸に関して対称形をしている。また、圧電素子250の下面には、上部電極層U26〜U29のすべてに対向するようなワッシャ状の共通下部電極層L25が配置されている。こうして、電極層U26/L25、電極層U27/L25、電極層U28/L25、電極層U29/L25、によってそれぞれ挟まれた4組の部分圧電素子が形成されることになる。
図38および図39に示す角速度センサ290と、図40および図41に示す角速度センサ295との相違は、各電極層が内側領域に配置されているか、外側領域に配置されているか、という点だけである。この配置領域の意味するところを図42の側断面図を用いて説明しよう。いま、可撓性基板210の固定部213を固定した状態において、作用部211に上方への力Fzを作用させると、可撓部212に図のような撓みが生じる。このとき、可撓部212の内部に生じている応力は、個々の部位によって異なる。いま、図の横に伸びる方向の応力を正、横に縮む方向の応力を負で表すことにすると、図42の下方の応力分布図に示すように、内側のエッジ位置P1において応力は正の最大値となり、外側のエッジ位置P2において応力は負の最大値となる。そして、位置P1〜P2間で応力は徐々に変化し、変極点P3において応力は零になる。ここで、内側のエッジ位置P1から変極点P3までの領域を内側領域A1、変極点P3から外側のエッジ位置P2までの領域を外側領域A2、と定義すると、内側領域A1においては正の応力が発生し、外側領域A2においては負の応力が発生することになる。図43は、この内側領域A1と外側領域A2との分布を示すための可撓性基板210の上面図である。
このような応力分布を考慮すれば、内側領域A1に配置された電極層と、外側領域A2に配置された電極層とでは、作用部211が全く同じ方向に変位しているにもかかわらず、全く正反対の現象が生じることが理解できよう。たとえば、内側領域A1に配置された電極層には正の電荷が発生しているのに、外側領域A2に配置された電極層には負の電荷が発生することになる。したがって、内側領域A1と外側領域A2とに跨がるような単一の電極層を配置するのは、作用部211の変位を検出する上では好ましくない。このように跨がった電極層では、内側領域A1の部分で起こる現象と外側領域A2の部分で起こる現象とが、互いに打ち消し合うように働くため、力発生器として利用する場合には駆動効率が低下し、変位検出器として利用する場合には検出感度が低下することになる。図25および図26に示した角速度センサ200(Section8で述べた角速度センサ)は、内側領域A1内に配置した電極層G22,G24,D25〜D28と、外側領域A2内に配置した電極層G21,G23,D21〜D24と、において正反対の現象が起こることを考慮し、両方を巧妙に組み合わせることにより効率的な検出を可能にしたセンサということになる。
図38および図39に示す角速度センサ290は、すべての電極を内側領域A1内に配置した実施例であり、内側領域A1内に応力を発生させて重錘体220を駆動し、内側領域A1内に発生する応力に基づいて重錘体220の変位を検出することになる。このセンサ290では、外側領域A2の応力は利用されないことになる。一方、図40および図41に示す角速度センサ295は、すべての電極を外側領域A2内に配置した実施例であり、外側領域A2内に応力を発生させて重錘体220を駆動し、外側領域A2内に発生する応力に基づいて重錘体220の変位を検出することになる。このセンサ295では、内側領域A1の応力は利用されないことになる。上述したように、各電極層が、内側領域A1内にあるか、外側領域A2内にあるか、によって、具体的に生じる現象は異なることになるが、センサの検出原理は基本的には同じである。そこで、以下、図38および図39に示す角速度センサ290を代表として、その動作を説明することにし、角速度センサ295の動作説明は省略する。
さて、図38および図39に示す角速度センサ290を動作させるために、図44に示すような信号処理回路を用意する。この回路図において、左端に示されているU21〜U24およびL20は、圧電素子250の上面に形成された上部電極層および下面に形成された下部電極層であり、それぞれ一対の電極層間には、タイプIの圧電素子が挟まれていることになる。また、B21〜B28はバッファ回路であり、R21〜R28は抵抗である。駆動信号入力端子T21,T23,T25,T27は、それぞれ上部電極層U21,U22,U23,U24に印加するための駆動電圧V21,V23,V25,V27を入力する端子であり、検出信号出力端子T22,T24,T26,T28は、それぞれ上部電極層U21,U22,U23,U24の実際の電位を示す検出電圧V22,V24,V26,V28を出力する端子である。
このような信号処理回路を用いて、重錘体220をXY平面に沿って円運動させるには、たとえば、駆動信号入力端子T21,T23,T25,T27に、それぞれ図17に示す駆動信号S1〜S4を与えればよい。4組の各圧電素子の一部分には、それぞれ位相をずらして順々に電圧が供給され、所定方向への変位が生じることになり、重錘体220はXY平面に沿って円運動する。
一方、このような信号処理回路を用いれば、重錘体220の各軸方向への変位を検出することができる。たとえば、重錘体220がX軸の正方向に変位すると、上部電極層U21の形成領域にはX軸に沿って伸びる方向の応力が作用し、上部電極層U23の形成領域にはX軸に沿って縮む方向の応力が作用するため、図23に示すタイプIの圧電素子の分極特性を考慮すれば、検出電圧V22としては正の電圧が、検出電圧V26としては負の電圧が、それぞれ得られることがわかる。そこで、両検出電圧の差(V22−V26)によって、重錘体220のX軸正方向の変位検出が可能になる。逆に、重錘体220がX軸の負方向に変位すると、上述の場合と電圧極性が逆になるため、両検出電圧の差(V22−V26)の符号が逆転することになる。結局、出力端子T22,T26に得られる検出電圧の差(V22−V26)によって、X軸の正負両方向の変位検出が可能になる。全く同様に、出力端子T24,T28に得られる検出電圧の差(V24−V28)によって、Y軸の正負両方向の変位検出が可能になる。更に、この信号処理回路では、Z軸の正負両方向の変位検出も可能である。たとえば、重錘体220がZ軸の正方向に変位すると、図42に示すように、内側領域A1には横に伸びる方向の応力が発生するため、内側領域A1上に形成された上部電極層U21〜U24のすべてについて正の電荷が発生することになる。このため、4組の検出電圧V22,V24,V26,V28はいずれも正の値になる。逆に、重錘体220がZ軸の負方向に変位すると、4組の検出電圧V22,V24,V26,V28はいずれも負の値になる。したがって、4つの出力端子T22,T24,T26,T28に得られる電圧の総和(V22+V24+V26+V28)の増加または減少により、Z軸の正負両方向の変位検出が可能になる(2つの電圧の和(V22+V26)あるいは(V24+V28)によっても、Z軸方向の変位検出は可能であるが、効率良い安定した検出を行うためには、上述のように4つの電圧の総和を用いるのが好ましい)。
なお、各上部電極層U21〜U24はいずれもX軸またはY軸に関して線対称な形状をしているため、上述の検出結果には、他軸成分が干渉することはない。たとえば、重錘体220がX軸方向に変位した場合、X軸上に配置された上部電極層U21,U23の形成領域にはX軸に沿って伸びる方向もしくは縮む方向の応力が作用し、この応力は、検出電圧の差(V22−V26)として求めることができる。ところが、重錘体220がY軸方向に変位した場合は、X軸上に配置された上部電極層U21,U23の形成領域は、それぞれ部分的に伸びたり縮んだりするが、全体的には発生電荷は各電極層ごとに相殺されてしまい、検出電圧V22,V26には影響を与えない。また、重錘体220がZ軸方向に変位した場合は、内側領域A1上の上部電極層にはいずれも正電荷が発生し、検出電圧V22,V26はいずれも正の同じ値になるので、検出電圧の差(V22−V26)をとると相殺されることになる。
以上の説明により、この角速度センサ290では、たった4組の電極対U21/L20,U22/L20,U23/L20,U24/L20(L20は単一の共通電極層)を利用して、重錘体220をXY平面に沿って円運動させる機能と、重錘体220のX軸,Y軸,Z軸の正負両方向に関する変位を別個に検出する機能と、を備えていることがわかる。そこで、これらの電極対を、Section11において説明した兼用器として利用すれば、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzの検出が可能になる。すなわち、まず全く角速度が作用しない環境において、入力端子T21,T23,T25,T27に、それぞれ図17に示す駆動信号S1〜S4を与え、重錘体220をXY平面に沿って円運動させた状態にする。そして、このときに、出力端子T22,T24,T26,T28に出力される電圧V22,V24,V26,V28を予め測定しておく。もちろん、これらの電圧値は駆動信号S1〜S4と同じ周期で変化する周期信号となる。続いて、この角速度センサ290を、実際に角速度が作用する環境におき、やはり入力端子T21,T23,T25,T27に、それぞれ駆動信号S1〜S4を与え、重錘体220をXY平面に沿って円運動させた状態にし、そのときに、出力端子T22,T24,T26,T28に出力される電圧を測定する。これらの電圧値が、予め測定した値と異なれば、その差分は作用した角速度に基づくコリオリ力の成分ということになる。たとえば、X軸方向への変位を示す検出電圧差(V22−V26)が予め測定した値よりもΔαだけ増えていれば、X軸の正方向にΔαに相当する大きさのコリオリ力が作用していることになる。
結局、この角速度センサ290では、重錘体220をXY平面に沿って円運動させた状態で、X軸方向のコリオリ力、Y軸方向のコリオリ力、Z軸方向のコリオリ力、をそれぞれ別個独立して検出できることになる。したがって、既に述べた原理により、作用した角速度を、X軸まわりの角速度ωx,Y軸まわりの角速度ωy,Z軸まわりの角速度ωz、と各軸ごとに検出することが可能になる。
また、電圧V21,V23,V25,V27として、同じ値の正の電圧を同時に供給すれば、4組の上部電極層U21〜U24に対して正の電荷を同時に供給することができ、各電極層の形成領域は同時に横方向に伸びるため、図42に示すように、重錘体220をZ軸の正方向に変位させることができる。逆に、同じ値の負の電圧を同時に供給すれば、4組の上部電極層U21〜U24に対して負の電荷を同時に供給することができ、各電極層の形成領域は同時に横方向に縮むため、重錘体220をZ軸の負方向に変位させることができる(上部電極層U21,U23だけに、あるいは、上部電極層U22,U24だけに上述のような電荷供給を行っても、同様にZ軸方向へ変位させることは可能であるが、効率良い安定した変位を行わせるためには、上述のように4枚の電極層U21〜U24のすべてに電荷供給を行うのが好ましい)。このようなZ軸の正負両方向への駆動操作と、たとえば、既に述べたX軸の正負両方向への駆動操作とを組み合わせれば、重錘体220をXZ平面に沿って円運動させることも可能である。
更に、上述の説明では、重錘体220のX軸方向の変位を、検出電圧の差(V22−V26)により求め、重錘体220のY軸方向の変位を、検出電圧の差(V24−V28)により求めているが、このような差分をとっているのは、検出精度を向上させる意味と、Z軸方向の変位成分が検出結果に干渉しないようにするためである。したがって、たとえば、Z軸方向へのコリオリ力が作用しないような検出環境で用いることを前提とするのであれば、たとえば、電圧値V22あるいはV26をX軸方向の変位を示す値として単独で用いることも可能であるし、同様に、電圧値V24あるいはV28をY軸方向の変位を示す値として単独で用いることも可能である。
また、上述の実施例では、上部電極層U21〜U24をそれぞれ物理的に独立した個別の電極層とし、下部電極層L20をこれら4枚の上部電極層のすべてに対向するような物理的に単一の共通電極層としているが、逆に、下部電極層を物理的に独立した個別の4枚の電極層とし、上部電極層を物理的に単一の共通電極層としてもかまわない。あるいは、共通電極層を用いずに、上部電極層、下部電極層ともに、それぞれ物理的に独立した個別の電極層としてもよい。ただ、電極層間の配線を単純化するには、いずれか一方を共通電極層にするのが好ましい。
<<< Section 14 タイプIIの兼用圧電素子を利用した角速度センサの実施例 >>>
既にSection10において、図29に示すようなタイプIIの圧電素子を利用した角速度センサ300の構成および動作を説明した。ただ、Section10では、3つの軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzのすべてを検出するには、図32に示すように、力発生器としての役割を担う電極層E31G,E33G,E35Gと、変位検出器としての役割を担う電極層E31D〜E34Dと、を別個独立して設ければよいという説明を行った。もちろん、このような分担を行えば、信号処理回路は簡単になるが、逆に、必要な電極層の枚数は増えるため、センサ本体の構造は複雑になる。ここでは、まず、図29〜図31に示した角速度センサ300について、Section11で述べた兼用器の概念を適用することによって、3つの軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzのすべてを検出する動作方法を説明する。
いま、図45に示すような信号処理回路を用意してみる。この回路図において、左側に示されている構成要素は、図29に示す角速度センサ300のうち、圧電素子330およびその両面に形成されている電極層E31,E33,E35,E36,E38,E40の部分だけを抜き出して描いたものである。ここで、B31〜B38はバッファ回路であり、R31〜R38は抵抗である。駆動信号入力端子T31,T32,T33,T34は、それぞれ電極層E33,E31,E36,E38に印加するための駆動電圧V31,V32,V33,V34を入力する端子であり、検出信号出力端子T35,T36,T37,T38は、それぞれ電極層E33,E31,E36,E38に実際に発生する電圧を、検出電圧V35,V36,V37,V38として出力する端子である。
ここで、駆動電圧V31,V33として正の電圧を、駆動電圧V32,V34として負の電圧を印加すると、電極層E33,E36には正の電荷が供給され、電極層E31,E38には負の電荷が供給されることになる。ここで圧電素子330が、図24に示すタイプIIの分極特性を有することを考慮すれば、図45に示す圧電素子330の右側部分は縦方向に縮み、左側部分は縦方向に伸びることが理解できよう。これにより、図45には図示されていない重錘体340(図29参照)は、X軸正方向に変位することになる。
いま、全く角速度が作用しない環境において、上述したように、重錘体340をX軸正方向に変位させたときに、出力端子T35〜T38に出力される検出電圧V35〜V38を予め測定しておく。続いて、この角速度センサ300を、実際に角速度が作用する環境におき、やはり入力端子T31〜T34に、それぞれ所定の極性の駆動電圧を与え、重錘体340をX軸正方向に変位させた状態にし、そのときに、出力端子T35〜T38に出力される電圧を測定する。これらの電圧値が、予め測定した値と異なれば、その差分は作用した角速度に基づくコリオリ力の成分ということになる。
以上は、X軸方向に関する駆動および変位検出についての説明であるが、Y軸およびZ軸方向に関する駆動および変位検出についても全く同様に、図45に示した信号処理回路に準じた回路を用意しておけば、各電極層に力発生器としての役割と変位検出器としての役割とを同時に担わせることが可能になる。
<<< Section 15 タイプIIの兼用圧電素子を利用した角速度センサの別な実施例 >>>
図46に側断面を示す角速度センサ390は、図29に示す圧電素子を利用した角速度センサ300に兼用器を適用することにより、必要な電極層の枚数を低減させ、全体構造を単純化した実施例である。図29に示すセンサとの相違は、圧電素子330の上面および下面に配置された電極層の構成だけである。そこで、以下、この電極層の構成のみを説明し、その他の構成要素の説明は省略する。
圧電素子330の上面には、図47に示されているように、4枚の扇形の上部電極層U41〜U44が配置されている。上部電極層U41はX軸の正の領域上、U42はY軸の正の領域上、U43はX軸の負の領域上、U44はY軸の負の領域上、にそれぞれ配置されており、いずれも各座標軸に関して対称形をしている。一方、圧電素子330の下面にも、上部電極層U41〜L44と全く同一形状をした下部電極層L41〜L44が、それぞれ各上部電極層U41〜U44に対向する位置に配置されている。こうして、電極層U41/L41、電極層U42/L42、電極層U43/L43、電極層U44/L44、によってそれぞれ1組ずつの部分圧電素子が形成されていることになる。
さて、このような構成の角速度センサを動作させるために、図48に示すような信号処理回路を用意する。この回路図において、左端に示されている各電極層U41〜U44,L41〜L44は、それぞれ上述した上部電極層U41〜U44および下部電極層L41〜L44であり、各電極層間には、圧電素子330の一部分が挟まれていることになる。ここで、B41〜B48はバッファ回路であり、R41〜R48は抵抗である。駆動信号入力端子T41,T43,T45,T47は、それぞれ上部電極層U41,U42,U43,U44に印加するための駆動電圧V41,V43,V45,V47を入力する端子であり、検出信号出力端子T42,T44,T46,T48は、それぞれ上部電極層U41,U42,U43,U44の実際の電圧を、検出電圧V42,V44,V46,V48として出力する端子である。
このような信号処理回路を用いて、重錘体340をXY平面に沿って円運動させるには、たとえば、駆動信号入力端子T41,T43,T45,T47に、それぞれ図17に示す駆動信号S1〜S4を与えればよい。4組の部分圧電素子には、それぞれ位相をずらして順々に所定方向の応力が作用することになり、重錘体340はXY平面に沿って円運動する。
一方、このような信号処理回路を用いれば、重錘体340の各軸方向への変位を検出することができる。たとえば、重錘体340がX軸の正方向に変位すると、電極層U41/L41間は縦方向に縮み、電極層U43/L43間は縦方向に伸びるため、検出電圧V42としては負の電圧が、検出電圧V46としては正の電圧が、それぞれ出力されることになる。そこで、両検出電圧の差(V46−V42)によって、重錘体340のX軸正方向の変位検出が可能になる。逆に、重錘体340がX軸の負方向に変位すると、上述の場合と極性が逆になるため、両検出電圧の差(V46−V42)の符号が逆転することになる。結局、出力端子T42,T46に得られる検出電圧の差(V46−V42)によって、X軸の正負両方向の変位検出が可能になる。全く同様に、出力端子T44,T48に得られる検出電圧の差(V48−V44)によって、Y軸の正負両方向の変位検出が可能になる。更に、この信号処理回路では、Z軸の正負両方向の変位検出も可能である。たとえば、重錘体340がZ軸の正方向に変位すると、圧電素子330には、いずれの箇所においても縦方向に縮む方向の応力が作用するため、検出電圧V42,V44,V46,V48としては、いずれも負の電圧が出力される。逆に、重錘体340がZ軸の負方向に変位すると、圧電素子330には、いずれの箇所においても縦方向に伸びる方向の応力が作用するため、検出電圧V42,V44,V46,V48としては、いずれも正の電圧が出力される。したがって、4つの出力端子T42,T44,T46,T48に得られる電圧の総和(V42+V44+V46+V48)の増加または減少により、Z軸の正負両方向の変位検出が可能になる(2つの電圧の和(V42+V46)あるいは(V44+V48)によっても、Z軸方向の変位検出は可能であるが、効率良い安定した検出を行うためには、上述のように4つの電圧の総和を用いるのが好ましい)。
なお、各電極層U41〜U44,L41〜L44はいずれもX軸またはY軸に関して線対称な形状をしているため、上述の検出結果には、他軸成分が干渉することはない。たとえば、重錘体340がX軸方向に変位した場合、電極層U41/L41間は縮み、電極層U43/U43間は伸びるため、検出電圧の差(V46−V42)としてX軸方向の変位を求めることができる。ところが、重錘体340がY軸方向に変位した場合は、電極層U41/L41間も、電極層U43/L43間も、それぞれ部分的に縮んだり伸びたりするため、発生電荷は相殺されてしまい検出電圧V42,V46には変化は生じない。また、重錘体340がZ軸方向に変位した場合は、電極層U41/L41間も、電極層U43/L43間も、双方ともに縮んだりあるいは双方ともに伸びたりするので、検出電圧の差(V46−V42)をとると相殺されることになる。
以上の説明により、この角速度センサ390では、たった4組の電極対U41/L41,U42/L42,U43/L43,U44/L44を利用して、重錘体340をXY平面に沿って円運動させる機能と、重錘体340のX軸,Y軸,Z軸の正負両方向に関する変位を別個に検出する機能と、を備えていることがわかる。そこで、これらの電極対を、Section11において説明した兼用器として利用すれば、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzの検出が可能になる。すなわち、まず全く角速度が作用しない環境において、入力端子T41,T43,T45,T47に、それぞれ図17に示す駆動信号S1〜S4を与え、重錘体340をXY平面に沿って円運動させた状態にする。そして、このときに、出力端子T42,T44,T46,T48に出力される電圧V42,V44,V46,V48を予め測定しておく。もちろん、これらの電圧値は駆動信号S1〜S4と同じ周期で変化する周期信号となる。続いて、この角速度センサ390を、実際に角速度が作用する環境におき、やはり入力端子T41,T43,T45,T47に、それぞれ駆動信号S1〜S4を与え、重錘体340をXY平面に沿って円運動させた状態にし、そのときに、出力端子T42,T44,T46,T48に出力される電圧を測定する。これらの電圧値が、予め測定した値と異なれば、その差分は作用した角速度に基づくコリオリ力の成分ということになる。たとえば、X軸方向への変位を示す検出電圧差(V46−V42)が予め測定した値よりもΔαだけ増えていれば、X軸の正方向にΔαに相当する大きさのコリオリ力が作用していることになる。
結局、この角速度センサ390では、重錘体340をXY平面に沿って円運動させた状態で、X軸方向のコリオリ力、Y軸方向のコリオリ力、Z軸方向のコリオリ力、をそれぞれ別個独立して検出できることになる。したがって、既に述べた原理により、作用した角速度を、X軸まわりの角速度ωx,Y軸まわりの角速度ωy,Z軸まわりの角速度ωz、と各軸ごとに検出することが可能になる。
また、電圧V41,V43,V45,V47として、同じ値の正の電圧を同時に供給すれば、4組の上部電極層U41〜U44に対して正の電荷を同時に供給することができ、圧電素子330は全域にわたって縦方向に伸びるため、重錘体340をZ軸の負方向に変位させることができる。逆に、同じ値の負の電圧を同時に供給すれば、4組の上部電極層U41〜U44に対して負の電荷を同時に供給することができ、圧電素子330は全域にわたって縦方向に縮むため、重錘体340をZ軸の負方向に変位させることができる(上部電極層U41,U43だけに、あるいは、上部電極層U42,U44だけに上述のような電荷供給を行っても、同様にZ軸方向へ変位させることは可能であるが、効率良い安定した変位を行わせるためには、上述のように4枚の電極層U41〜U44のすべてに電荷供給を行うのが好ましい)。このようなZ軸の正負両方向への駆動操作と、たとえば、既に述べたX軸の正負両方向への駆動操作とを組み合わせれば、重錘体340をXZ平面に沿って円運動させることも可能である。
更に、上述の説明では、重錘体340のX軸方向の変位を、検出電圧の差(V46−V42)により求め、重錘体340のY軸方向の変位を、検出電圧の差(V48−V44)により求めているが、このような差分をとっているのは、検出精度を向上させる意味と、Z軸方向の変位成分が検出結果に干渉しないようにするためである。したがって、たとえば、Z軸方向へのコリオリ力が作用しないような検出環境で用いることを前提とするのであれば、たとえば、電圧値V42あるいはV46をX軸方向の変位を示す値として単独で用いることも可能であるし、同様に、電圧値V44あるいはV48をY軸方向の変位を示す値として単独で用いることも可能である。
また、上述の実施例では、上部電極層U41〜U44も、下部電極層L41〜L44も、いずれも物理的に独立した個別の電極層となっているが、いずれか一方は、物理的には単一の共通電極層(この例の場合は、4枚の扇形の電極層のすべてに対向するような円盤状の共通電極層)としてもかまわない。電極層間の配線を単純化するには、このような共通電極層を形成しておくのが好ましい。
最後に、タイプIIの圧電素子を用いたより単純な角速度センサ395の側断面図を図49に示しておく。図46に示す角速度センサ390との相違点は、可撓性基板310および重錘体340の代わりに、導電性の重錘体345が用いられている点と、下部電極層L41〜L44が省略されている点である。導電性の重錘体345は、金属などの円盤状の塊であり、その外周部分は筐体350に接することなく自由になっている。別言すれば、重錘体345は、圧電素子330と、上部電極層U41〜U44と、固定基板320とによって、筐体350に支持された状態になっており、図のように宙吊りの状態になっている。したがって、重錘体345は、筐体350内において、ある程度の自由度をもって移動可能である。図46に示す角速度センサ390における重錘体340は、可撓性基板310の周囲部分が筐体350に固定されていたため、あまり直径を大きくすることができなかったが、図49に示す角速度センサ395における重錘体345は、変位によって筐体345に接しない程度の空間を十分に確保できる範囲内で、直径を大きくとることが可能であり、質量を大きくして感度を高める上では、この角速度センサ395の構造は優れている。また、重錘体345自身が導電性の材料であるため、共通電極層としての機能を果たし、下部電極層L41〜L44は不要になり、全体の構成は非常に単純化されている。このように、図49に示す角速度センサ395は、図46に示す角速度センサ390に比べて、構造上、若干の違いはあるが、その動作は全く同じである。