JP2007080774A - 有機エレクトロルミネッセンス素子 - Google Patents

有機エレクトロルミネッセンス素子 Download PDF

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Hikari Yokoyama
光 横山
Kojiro Sekine
孝二郎 関根
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Abstract

【課題】 有機発光層から発せられる光を回折又は散乱させる構成を有する有機EL素子において、より多くの光を取り出されるようになされた有機EL素子を提供する。
【解決手段】 透明基板上に透明電極、有機発光層、金属電極の順に積層し、金属電極は光を反射し、有機発光層から発せられる光が回折又は散乱される構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、金属電極の金属材料が、nを屈折率、kを消衰係数とすると、k≧1.8の場合はk≧5×n1/2+1.8、k<1、8の場合はk≦0.015×n-3+0.3の条件式を満たす。
【選択図】 図3

Description

本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と呼ぶ。)は、自発光素子であるため、高コントラストなディスプレイ用光源、バックライトや照明用の光源として期待され、最近では、より高い発光輝度、輝度ムラが少なく、さらに壊れにくいといった高性能、高品質な有機EL素子が求められるようになってきた。
有機EL素子は、空気よりも高い屈折率(1.7〜2.1程度)を有する発光層で発光するので、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せない。すなわち、臨界角以上の角度で界面(透明基板と空気との界面)に入射する光が全反射を起こして取り出せなかったり、透明電極ないし発光層と透明基板の間で光が全反射を起こして透明電極ないし発光層の間を導波する結果、光が有機EL素子の側面方向より漏出するといった損失を起こした。このため、有機EL素子では光を効率よく取り出す、いわゆる光取出し効率の改善が必要不可欠であった。
光取出し効率を改善する方法の中で、回折により光の向きを変える回折格子を構成要素とする有機EL素子がある(例えば、特許文献1参照)。回折格子を用いた有機EL素子を図5に示す。
図5は、ガラス基板1と透明電極2の間に周期性を有する凹凸構造を有するレリーフ型回折格子を設けた有機EL素子Aである。図中、4は有機発光層、5は電子注入層、6は光を反射する陰極である。有機発光層4は、正孔輸送層4aと電子輸送層4bとで構成され、この場合、電子輸送層4bが発光層となる。
回折格子を用いて光取り出し効率を改善する方法は、回折格子におけるブラッグ回折を利用して回折格子への入射光の向きを屈折方向と異なる特定方向に変え、出射角を全反射を起こさない方向にするものである。回折格子を用いた方法をより具体的に説明する。
有機発光層4から発光する光は、全方位に向かってランダムに発光し、透明電極2に向かう光と陰極6の方向に向かう光とが含まれる。透明電極2に向かう光は回折格子に入射し、反射光と透過光とに分けられる。反射光は、回折格子により反射の法則に従わない小さい角度で反射され陰極6に入射し、陰極6で反射することで再び回折格子に入射されるため、最終的には有機EL素子Aの外に光が取り出される。透過光は、回折格子が存在しなくてもそのまま外に取り出される光もあるが、回折格子が存在しない場合ガラス基板1と空気の屈折率の関係により全反射され外に出ることができない光が、回折格子により屈折の法則に従わない出射角で出射されることで全反射されることなく外に出ることができるようになる。また、陰極6に向かう光は、陰極6で反射された後、透明電極2に向かう光となり回折格子に入射した後は上記と同様に振る舞うこととなる。この回折格子を用いて有機発光層4から光を取り出す方法は効果的な方法であるとして注目されている。
上記のレリーフ型回折格子に代わりに周期性を有さない凹凸構造を持つ散乱部を設けて散乱効果を生じさせ、上述の回折格子と同様に光取り出し効率を改善させる有機EL素子もある。散乱とは、一方向に進んできた光が障害物に出会った時、光がその障害物を中心として様々な方向に広がる現象を示している。
このように従来全反射により有機EL素子の内部に閉じこめられていた光は、回折格子や散乱部を設けることにより、有機EL素子の外により多く取り出されるようになって光取り出し効率を改善させている。
特許2991183号公報
しかしながら、特許文献1に記載された技術において、回折格子を用いた回折効果により外に取り出されるとされている光は、回折格子と陰極との間に挟まれて位置する透明電極ないし有機発光層の間を行き来する導波状態になり、この光の光路を構成する材料が有する光吸収である導波損失により回折効果でもって外に取り出されるまでに減少してしまっている。従って回折格子がその機能を発揮しようにも対象となる光自体が減少してしまっていることから期待されるほどに光取り出し効率が大きくならないという問題があった。この問題は、散乱部を設けた有機EL素子の場合でも同様であった。
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、有機発光層から発せられる光を回折又は散乱により取り出す構成を有する有機EL素子において、より多くの光を取り出せるようにした有機EL素子を提供することを目的とする。
上記目的は、以下の手段の何れかによって達成される。
(1) 透明基板上に透明電極、有機発光層、金属電極の順に積層し、該金属電極は光を反射し、該有機発光層から発せられる光が回折又は散乱される構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記金属電極の金属材料が下記の条件式を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
k≧1.8の場合、k≧5×n1/2+1.8
k<1.8の場合、k≦0.015×n-3+0.3
但し、
n:金属材料の屈折率
k:金属材料の消衰係数
(2) 前記金属電極の前記有機発光層と面する側と反対側の面に該金属電極の材料が有する比抵抗より低い比抵抗を有する材料からなる補助電極を設けることを特徴とする(1)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(3) 前記金属電極は陰極であって、前記有機発光層との間に該陰極の材料が有する仕事関数より低い仕事関数を有する電子注入層を設けてあることを特徴とする(1)又は(2)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
請求項1に記載の発明によれば、有機発光層から発せられる光を回折又は散乱させる構造を有する有機EL素子の金属電極として、条件式を満足させる屈折率n、消衰係数kを有する金属材料が選定されることで、有機発光層から発せられ、透明電極ないし有機発光層と透明基板間の全反射により透明電極ないし有機発光層の間に閉じこめられる導波光のうち、導波損失が大きい表面プラズモンモード光の導波損失が抑えられる。従って、回折効果や散乱効果により有機EL素子の外に取り出されるまでに導波損失により消滅されていた光が消滅しなくなることからより多くの光が有機EL素子の外に取り出されることができる。
本発明の実施の形態について、図1で示す有機EL素子Bを一例として説明する。本発明に係わる金属電極は陽極でも陰極でもよい。以下、金属電極が陰極である場合について説明する。金属電極を陽極として機能させる場合は、透明電極を陰極として機能させればよい。
図1に示す有機EL素子Bの構成は、ガラス基板101上に透明電極(陽極)102/有機発光層104/電子注入層105/陰極層106を有し、更に透明電極102とガラス基板101との間に回折格子が設けられている。有機発光層104は、正孔輸送層104aと電子輸送層104bとで構成されており、この場合、電子輸送層104bが発光層となる。また、陰極層106は、陰極106aと補助電極106bとで構成されている。陽極は通常正孔輸送層等に正孔を供給する機能を有していればよく、陰極は電子輸送層等に電子を供給する機能を有しておればよい。電子注入層は、駆動電圧の低下のため陰極と有機発光層との間に設けてある。
図1で示す有機発光層104から発せられる光が回折される構成を有する有機EL素子Bにおいて、回折効果により有機EL素子の外に取り出される光に注目する。回折効果により取り出される光は、回折格子を一度通過した後そのまま外に取り出される光以外のほとんどは、ガラス基板101と空気(以降、ガラス/空気と称する。)の界面や透明電極102とガラス基板101(以降、透明電極/ガラスと称する。)との間にある回折格子と陰極106aとの間を行き来している。この様に行き来している光は、光が進む構造体を成している材料からなる光媒質としての物性である吸収等により損失されている。
特に透明電極ないし有機発光層を挟んでいる回折格子と陰極106aとの間を行き来している光は、その間が光の波長相当の薄い層で構成されているため光が行き来する回数は多く、また導波状態であることから光が進む透明電極、有機発光層、回折格子及び陰極106aを構成する材料が持つ光吸収作用によって大きな損失を生じていると予測される。
発明者らは上記の透明電極/ガラスに設けてある回折格子と陰極106aとの間の行き来する光の損失に着目して、この損失を抑えることで、回折効果により外に取り出されるまでに損失により消滅していた光を消滅しないようにすることで有機EL素子Bの外に取り出される光をより多くし光取り出し効率の改善を行った。具体的には、陰極106aに使用する金属材料を回折格子と陰極106aとの間の導波光に対する損失の観点から選択することで有機発光層から発せられる光の導波損失を抑える方法である。
従来の回折格子等を用いていない有機EL素子では、有機発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出すことができなかった。ここで、このような従来の有機EL素子における光の配分をシミュレーションした。シミュレーション方法は、文献であるA.Chutinan,K.Ishihara,T.Asano,M.Fujita,S.Noda,”Theoretical analysis on light−extraction efficiency of organic light−emitting diodes using FDTD and mode−expansion methods”,Organic Electronics,Vol.6,2005,pp.3−9.の記載に基づいて行った。
シミュレーションを行った従来の有機EL素子の具体的な構成は、周知とされるもので、ガラス基板(厚み0.8mm)上に順に、透明電極(陽極)としてITO(Indium Tin Oxide、インジウムティンオキサイド)膜、有機発光層として正孔輸送層をα−NPD(4,4’−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル)厚み55nm及び電子輸送層をAlq3(トリス(8−キノリノール)アルミニウム)厚み60nm、金属陰極としてAl(アルミニウム)厚み500nmを積層されたものとした。またシミュレーションにおける光の波長は520nmに固定とし、ITO膜の厚みは0〜300nmと変化させた。
このシミュレーションの結果を図2に示す。透明電極(ITO膜)の厚みを横軸に、光の配分(有機発光層から発光される光を100%とした場合、各光の配分を%で示す。)を縦軸にしている。図2で示すように、光の配分は、(1)導波光、(2)ガラス光、(3)空気光の3種類に分類され、各光について以下に説明する。
(1)導波光
導波光とは、透明電極(ITO膜)/ガラスの界面で全反射する光のことで、ガラス基板上に積層されている透明電極(ITO膜)、有機発光層(電子輸送層及び正孔輸送層)が光導波構造を成している様に働くことで透明電極(ITO膜)ないし有機発光層に閉じこめられて透明電極(ITO膜)より外部へは出られない性質のものである。また透明電極(ITO膜)と有機発光層からなる厚みが有機発光層から発光される光の波長と同等程度であることから、この閉じこめられた光はモードと呼ばれる離散的な状態をとることになる。
この閉じこめられた光は偏光状態によってTMモードとTEモードとに分類される。TMモード(Transverse Magnetic mode)とは、波の伝搬方向に磁場成分を持たない導波路のモードであり、TEモード(Transverse Electric mode)とは、波の伝搬方向に電場成分を持たない導波路のモードである。さらにTMモード及びTEモードそれぞれにおいて、各モードの伝搬定数の大きいものから順に0次、1次といった次数を持ち、TM0次モード、TM1次モードやTE0次モード、TE1次モードといったように表記される。以降、例えばTMモード、TM0次モードである光をそれぞれTMモード光、TM0次モード光と称する。この中でTM0次モード光は、表面プラズモンモード光とも称され、以後このTM0次モード光は、表面プラズモン(TM0次)モード光と称する。
この次数は、光の波長及び透明電極(ITO膜)と有機発光層とを加えた厚みに関係し、光の波長が長いほど、透明電極(ITO膜)と有機発光層とを加えた厚みが薄いほど少なく、有機EL素子の場合、概ね3次程度までとされている。上記のシミュレーションにおいては図2が示す通り、TMモード及びTEモードとも0次及び1次の光が存在している。
(2)ガラス光
ガラス光とは、ガラス/空気の界面で全反射されるため、有機EL素子の内部に閉じこめられて有機EL素子の外に出ることができない光で、幾何光学的な扱いができる。
(3)空気光
空気光とは、全反射されることなく、有機EL素子の外に出ることができる光で、幾何光学的な扱いができる。
シミュレーション結果である光の配分を示す図2より明らかのように、空気光である外に取り出される光の割合は約20%であり、残りの約80%は有機EL素子の内部にとどまっている。この有機EL素子の内部にとどまっている光の内、陰極材料による導波損失が密接に係わる導波光の占める割合は約50%であることが分かる。さらに、導波光の中で表面プラズモン(TM0次)モード光が占める割合が最も大きいことが分かる。これより、導波光の占める割合が最も大きい表面プラズモン(TM0次)モード光の陰極材料による導波損失が抑えられることで回折効果により有機EL素子の外に取り出されるまでに導波損失により消滅されていた光が消滅しなくなくなることから、より多くの光が有機EL素子の外に取り出されることができると十分予測される。
尚、このシミュレーションを行った有機EL素子の構成は、回折格子を有していないが、回折格子を有する有機EL素子であっても、導波光の各TMモード光,TEモード光の占める割合はほぼ同様である。
次に、波長520nmにおける表面プラズモン(TM0次)モード光に対する光の吸収係数を金属材料の屈折率n、消衰係数kを変数にして波動光学を扱う当業者においては周知の導波モード解析法である転送行列法を用いて計算した結果を図3に示す。図3の横軸は、金属材料の屈折率n、縦軸は金属材料の消衰係数kとし、示された曲線上の数値は、表面プラズモン(TM0次)モード光に対する光の吸収係数である。この光の吸収係数を示す例えば6E3は、6×103/cm-1であることを示しており、他の数値も同様である。
ここで、表面プラズモン(TM0次)モード光の導波損失が少なく、光取り出し効率が大きくなる効果があると考えられる吸収係数は6×103/cm-1以下とするのが好ましい。図3においてこの好ましい吸収係数の範囲は、太線の曲線F以上及びG以下であって斜線で示す領域となり、この領域は下記の条件式(1a)及び(1b)にて示される。
k≧1.8の場合、k≧5×n1/2+1.8 (1a)
k<1.8の場合、k≦0.015×n-3+0.3 (1b)
但し、
n:金属材料の屈折率
k:金属材料の消衰係数
である。
ここで、消衰係数kとは、複素屈折率Nの虚部の係数で、光の吸収の度合いを示すものであり、屈折率nと共に、複素屈折率N(n−ik)を表すものである。屈折率n及び消衰係数kは、物質の表面で光が反射する際の偏光状態の変化を観測して、その物質の光学定数(屈折率n、消衰係数k)を決定する方法である周知のエリプソメトリを用いた市販の分光エリプソメーター(例えば、ホリバ・ジョバンイボン製UVISEL)にて計測することができる。
参考として主な金属材料における表面プラズモン(TM0次)モード光の吸収係数を求めた結果をTM1次モード光及びTE0次モード光と併せて以下の表1に示し、また図3に表1に示した主な金属材料の該当する位置を示している。条件式(1a)及び(1b)を満足する具体的な金属材料としては、例えばSn(スズ)、Ag(銀),K(カリウム)がある。尚、表1に示す、例えば4.58E+04とする表記は4.58×104を表している。
Figure 2007080774
更に、吸収係数は5×103/cm-1以下とするのがより好ましい。この領域は下記の条件式(2a)及び(2b)にて示される。
k≧1.8の場合、k≧6×n1/2+1.8 (2a)
k<1.8の場合、k≦0.01×n-2.2+0.28 (2b)
但し、
n:金属材料の屈折率
k:金属材料の消衰係数
である。条件式(2a)及び(2b)を満足する具体的な金属材料はSn(スズ)、K(カリウム)があるが、取り扱いが容易な観点からはSn(スズ)がより好ましく、更に金属材料の組成をSn(スズ)のみとするだけではなく、Sn(スズ)をベースとするSn(スズ)合金としてもよい。
また、吸収係数の波長依存性に関して、例として本発明に係わるSn(スズ)と陰極として従来から使用されているAl(アルミニウム)とを図4に示す。図4より、ほぼ可視域とする光の波長が400nmから650nmの範囲において、表面プラズモン(TM0次)モード光及びTM1次モード光共にSn(スズ)の吸収係数がAl(アルミニウム)の吸収係数より小さいことが分かる。尚、TEモード光においては、0次モード光及び1次モード光共にSn(スズ)及びAl(アルミニウム)の吸収係数は、ほぼ同程度となっていることが分かる。
上記の条件式(1a)及び(1b)を満足する金属材料の吸収係数が本発明に係わる陰極としての効果を現すには、その金属材料の厚みが50nm以上とするのが好ましい。この厚みの上限値は特にないが、必要以上に厚くすることもないといった実用上の観点から概ね100nm以下が好ましい。
本実施の形態の例である有機EL素子Bの陰極に、条件式(1a)及び(1b)を満足する金属材料として、例えばSn(スズ)を使用する場合、Sn(スズ)は比抵抗(体積抵抗率とも称する。)が11.4×10-8Ω・mと大きいため、電極として使用すると電力の供給位置から離れるに従い電圧降下が生じ、有機発光層に一様な電圧が印加されないことから発光輝度が一様にならないという問題が発生する。この問題に対し、Sn(スズ)の電極上に、例えば比抵抗が2.75×10-8Ω・mといった小さいAl(アルミニウム)を補助電極106bとして設け、この補助電極106bに電力供給用の配線を設けるようにするのが好ましい。この補助電極106bの厚みは特に限定されるものではないが、概ね20nmから200nmの範囲が好ましい。Al(アルミニウム)の様な小さい比抵抗を有する補助電極を設けることで、Sn(スズ)の様な比抵抗が大きい材料からなる陰極を介し一様な電圧が有機発光層に印加され、有機EL素子の発光輝度が一様な状態とされることができる。
また、Sn(スズ)の仕事関数(4.4eV)は有機EL素子用の陰極材料としては、比較的大きく、有機EL素子を発光させるために必要な印加電圧が大きくなり、この結果、消費電力が大きくなってしまうといった問題が生じる。この問題に対し、有機EL素子を発光させるために必要な印加電圧を低くし消費電力を小さくするために、有機発光層104と陰極106aとの間に電子注入層105として陰極の材料が有する仕事関数より低い仕事関数を有する層を設けるのが好ましい。
電子注入層105の具体的な材料としては、陰極の材料が有する仕事関数にもよるが、例えば、アルカリ金属であればLi、Na、K、アルカリ土類金属であればCa、Sr、Ba、アルカリハロゲン化物であればLiFやCsI等を用いることができ、条件式(1a)及び(1b)を満足する陰極材料に積層して設ける電子注入層105の材料として上記の仕事関数に関する以外は特に規定されることはない。上記の電子注入層105の材料の中でも、Caは特に低仕事関数(2.9eV)であるため非常に好ましい。電子注入層105の膜厚は有機発光層104へ充分に電子を注入できる厚さで0.1〜100nm程度が好ましく、陰極106aでの光の導波の観点から、1〜20nmがより好ましい。
上記の陰極106a、補助電極106b及び電子注入層105の形成は、例えば真空蒸着やスパッタリング等の周知の方法に形成することができる。
本発明の実施の形態の例として有機EL素子Bの構成について、上記で説明した電子注入層105及び陰極層106に係わる以外に関して以下に説明する。
透明基板101の材料は、回折または散乱を生じさせる凹凸を表面に形成可能なものであれば良く、ガラス基板、樹脂フィルム等がある。
回折格子の構造は、凹凸に周期性を有しており、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは、有機発光層104で発光する光は全方位にランダムに発生するので、二次元的な屈折率分布を持つ回折格子にすることで、全方位に進む光が回折され、光の取り出し効率を一次元回折格子に比較して大きくすることが出来るからである。回折格子の具体的な配列の例としては、二次元的に配列が繰り返される正方形の格子状、三角形の格子状、ハニカム(六角)格子状などがある。
回折効果に代わって散乱効果を生じさせる方法として、例えば任意の大きさの凹凸をランダムに配置したランダム凹凸が形成されたものがある。このランダム凹凸形状を有する散乱部は、光の進行方向をランダムな凹凸面により不規則な方向に変えることで前述の回折格子による効果と同様な効果を得ることができるが、前述のレリーフ型回折格子による光の進行方向の変化は規則性を持つのに対して、この散乱部の場合、光の進行方向の変化に規則性を持たないといった特徴がある。
上記の回折や散乱を生じる凹凸構造において、例えば凹の最深部から隣の凹の最深部まで又は凸の最頂部から隣の凸の最頂部までの距離で表せる様な周期、凹及び凸の大きさ(大きさとは、例えば円形状のくぼみであれば凹凸形成面内での直径を示す。)、凹の最深部から凸の最頂部までの深さは光取り出し効率の対象とする光の波長、光路となる媒質の屈折率、回折であれば回折次数等を参考にして決定すれば良い。
次に、回折格子又は散乱部の形成方法を説明する。ガラス基板上に直接凹凸を形成する場合は、例えば、インプリント法又はフォトリソグラフィ法にてパターニングした後、ドライエッチング法を用いて表面レリーフ型の回折格子を形成することが出来る。また、散乱部の場合は、露光方法としてスペックル干渉露光を用いたフォトリソグラフィ法とドライエッチング法を用いる方法やサンドブラストにより直接ガラス基板を処理する方法等によりランダム凹凸を形成することが出来る。
樹脂フィルムの場合は、例えば、上記の方法により得たガラス基板上の凹凸を例えば、ニッケルによる電鋳法を用いて金型に転写した後、周知の成形方法を用いて凹凸を形成する方法がある。また、基板の上に直接凹凸を設けるのではなく、例えば、ガラス基板、又は樹脂フィルム上に透明な樹脂層を設けて、この層に先ほどの金型を用いて凹凸を一般的な樹脂成形方法で形成してもよい。
基板101に回折格子又は散乱部を形成後、透明電極102以降を順次積層形成して有機EL素子Bを得る。以下、これに関して説明する。
透明電極102の材料は、高仕事関数の電極材料を用いるのが好ましく、具体例としてはCuI、ITO、SnO2、IZO等の透明導電材料が挙げられる。また、IDIXO(商品名、出光興産株式会社製)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。これらの透明導電材料を用いて薄膜を形成(成膜とも呼ぶ。)するには、一般的に、蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成する。
本実施の形態での透明電極102の厚み(膜厚とも呼ぶ。)は材料にもよるが、例えば、ITO膜の場合、ITO膜の下地となる回折格子等による凹凸面の凸部の先端から通常10〜1000nmの範囲で、望ましくは10〜250nmの範囲が選ばれる。また、透明導電膜の成膜後、必要に応じてその表面を研磨等で平坦にする。
透明電極102の形成後は、有機発光層104として、正孔輸送層104a、電子輸送層104bを順次に形成する。
正孔輸送層104aは、正孔を輸送する機能を有する材料(以下、正孔輸送材料という。)からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。
正孔輸送材料としては、特に制限はなく、従来、光導伝材料において、正孔の電荷注入輸送材料として慣用されているものや、有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層に使用される公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。正孔輸送材料は、正孔の注入もしくは輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。
具体的には、たとえばトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、または導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマーなどが挙げられる。
これらのうちでは、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物が好ましく、特に芳香族第三級アミン化合物を用いることが好ましい。
上記芳香族第三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)ビフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、たとえば4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)などが挙げられる。また、p型−Si、p型−SiCなどの無機半導体も正孔輸送材料として使用することができる。
この正孔輸送層104aは、上記正孔輸送材料を、たとえば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により成膜して形成することができる。
正孔輸送層104aの膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲で選ばれる。この正孔輸送層104aは、上記材料の一種または二種以上からなる一層構造であってもよく、同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
電子輸送層104bは、電子を輸送する機能を有する材料(以下、電子輸送材料という。)からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。
従来、有機発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる。)として、下記の材料が知られている。また、電子輸送層104bは、陰極より注入された電子を有機発光層に伝達する機能を有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して電子輸送材料として用いることもできる。
電子輸送材料としては、例えばニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。また、このオキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。
さらに、8−キノリノール誘導体の金属錯体、たとえばトリス(8−キノリノール)アルミニウム(以下、Alq3と略す。)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛など、およびこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基などで置換されているものも電子輸送材料として好ましく用いることができる。
また、従来、有機発光層104の材料として用いられているジスチリルピラジン誘導体も電子輸送材料として用いることができるし、正孔輸送層と同様にn型−Si、n型−SiCなどの無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
この電子輸送層104bは、上記化合物を、たとえば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により成膜して形成することができる。
電子輸送層104bの膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲で選ばれる。この電子輸送層104bは、これらの電子輸送材料の一種または二種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
この電子輸送層104bの形成の後に、電子注入層105及び陰極層106を、先に説明した様に形成する。
この陰極層106を設けることで所望の有機EL素子が得られる。作製した有機EL素子は、周知の保護膜(パッシべーション膜)で封止する。
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
陰極の材料としてSn(スズ)を用いて図1に示す構成を有する有機EL素子の作製に関して以下に具体的に述べる。
基板101としては、ガラス基板(石英ガラス、大きさ:30mm×30mm、厚み:1.0mm)を使用した。
このガラス基板面上に、次の様にしてレリーフ型回折格子を形成する凹凸面を設けた。ガラス基板上にレジストを塗布した後、電子ビームリソグラフィーとドライエッチングを用いて、正方格子状に300nmの周期を持つ直径220nmで、基板の上面から穴の底面までの深さ200nmの円筒状の穴をガラス基板面に対して垂直に形成した。
上記の通り用意したガラス基板101に公知のスパッタリング法にて透明電極102としてITO膜を厚み130nm形成し、その表面を平坦にした。
上記のITO膜の上に、以下に述べるように、正孔輸送層104a、電子輸送層104b、電子注入層105、陰極層106を順次に公知の真空蒸着法を用いて成膜した。
具体的には、正孔輸送層104aとして、αーNPD(4,4’−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル)を厚み55nm、電子輸送層104bとして、Alq3(トリス(8−キノリノール)アルミニウム)を厚み60nm、電子注入層105としてCa(カルシウム)を厚み1nmを順次成膜した。
陰極層106は、陰極106aとしてSn(スズ)を厚み60nm成膜した後、補助電極としてAl(アルミニウム)を厚み200nm成膜することで、所望の有機EL素子を完成させた。作製した有機EL素子は、公知の保護膜(パッシべーション膜)で封止した。
(比較例1)
電子注入層105であるCa(カルシウム)の上にAl(アルミニウム)のみを設けて陰極層とした以外は実施例1と同じとした。
(比較例2)
電子注入層105であるCa(カルシウム)の上に陰極106aとしてSn(スズ)を設け、補助電極としてAl(アルミニウム)を設けることなく陰極層とした以外は実施例1と同じとした。
(評価結果)
実施例1、比較例1及び2それぞれを観察用光源として昼光色蛍光灯、照度500ルクス(lx)の下にて評価した。
実施例1及び比較例1により作製された有機EL素子を同じ注入電流2.5mA/cm2にて発光させ、発光面を正面より発光面に対してほぼ垂直方向から輝度計(コニカミノルタ製LS−100)を用いて輝度値を測定したところ、比較例1より実施例1の方が約13%輝度が向上していることが確認できた。従って、条件式(1a)に適合するSn(スズ)を陰極材料とすることで、条件式(1a)及び(1b)どちらにも適合しないAl(アルミニウム)より多くの光が取り出せることが確認できた。
実施例1及び比較例2により作製された有機EL素子を同じ印加電圧8.5Vにて発光させて、目視にて評価したところ、比較例2の有機EL素子においては陰極層に電力供給線が接続されている位置近傍は、実施例1と同等の明るさが観察されたが、電力供給線が接続されている位置より遠ざかるにつれて発光面がそれより暗くなる様子が観察された。実施例1の有機EL素子においては陰極層106に電力供給線が接続されている位置より遠ざかるにつれて発光面が暗くなるといった輝度ムラは観察されなかった。従って、Sn(スズ)より比抵抗の小さいAl(アルミニウム)を用いた補助電極106bの効果が確認できた。
本発明に係わる有機EL素子の1例の構成を模式的に示す図である。 有機EL素子の1例における光配分のシミュレーション結果を示す図である。 有機EL素子の1例における導波光の表面プラズモン(TM0次)モード光の吸収係数を金属の屈折率と消衰係数との関係で表した図である。 吸収係数の波長依存性をSn(スズ)とAl(アルミニウム)を例として示す図である。 従来の有機EL素子の1例の構成を模式的に示す図である。
符号の説明
101 透明基板
102 透明電極
104 有機発光層
104a 正孔輸送層
104b 電子輸送層
105 電子注入層
106 陰極層
106a 陰極
106b 補助電極
A 従来の有機EL素子
B 本発明に係わる有機EL素子の1例
F k≧1.8の場合、式k=5×n1/2+1.8が表す曲線
G k<1.8の場合、式k=0.015×n-3+0.3が表す曲線

Claims (3)

  1. 透明基板上に透明電極、有機発光層、金属電極の順に積層し、該金属電極は光を反射し、該有機発光層から発せられる光が回折又は散乱される構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
    前記金属電極の金属材料が下記の条件式を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
    k≧1.8の場合、k≧5×n1/2+1.8
    k<1.8の場合、k≦0.015×n-3+0.3
    但し、
    n:金属材料の屈折率
    k:金属材料の消衰係数
  2. 前記金属電極の前記有機発光層と面する側と反対側の面に該金属電極の材料が有する比抵抗より低い比抵抗を有する材料からなる補助電極を設けることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  3. 前記金属電極は陰極であって、前記有機発光層との間に該陰極の材料が有する仕事関数より低い仕事関数を有する電子注入層を設けてあることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
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