まず、本発明を詳細に説明する。一般的に、窒化物系化合物半導体を結晶成長する際は、サファイア、SiC、GaN、GaAs、スピネル(MgAl2O4)等が基板として用いられる。また、結晶成長を行う方法としては、有機金属気相成長法(MOCVD)、分子線エピタキシー法(MBE)、ハイドライド気相成長法(HVPE)で行うのが通例である。
中でも、作製する窒化物系化合物半導体の結晶性や、生産性を考慮すると、基板としては、サファイアまたはGaNを使用し、成長方法としてはMOCVD法を使用するのが最も一般的な方法である。
図3に本願実施例の製造に使用したMOCVD装置の概略図を示す。図中、301は<0001>方向から<11−20>あるいは<1−100>方向に0.05°から0.2°傾斜した(0001)面サファイア基板であり、カーボンサセプタ(302)上に配置されている。サセプタの中には、やはりカーボン製抵抗加熱用ヒーターが配置されており、熱電対により基板温度をモニターし、制御することができる。303は二重の石英でできた水冷反応管である。V族原料としては、アンモニア(306)を使用し、III族原料としては、トリメチルガリウム(以下、TMGと言う)、トリメチルアルミニウム(以下、TMAと言う)、トリメチルインジウム(以下、TMIと言う)(307a〜307c)を窒素ガスまたは水素ガスでバブリングして使用した。また、n型のドーピング原料としてはSiH4(309)を使用し、p型のドーピング原料としては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(以下、Cp2Mgと言う)(307d)を使用した。各原料は、マスフローコントローラ(308)で正確に流量を制御して原料入り口(304)より反応管に導入されて、排気ガス出口(305)より排出される。
次に、窒化物系化合物半導体レーザ/発光ダイオードを形成する結晶成長手順について、代表的な例を図4を参照しながら説明する。まず、基板(401)を洗浄して、結晶成長装置内に設置する。基板は、水素雰囲気中1100℃程度の温度で約10分程度熱処理を施し、その後温度を500℃〜600℃程度に降温する。温度が一定になれば、キャリアガスを窒素に替え、窒素ガスの全流量を10l/min、アンモニアを約3l/min流し、数秒後、TMGを約20μmol/min流し、約1分間低温でのバッファー層としてのGaN膜(402)の成長を行った。成長した膜の厚さは約20nmである。
その後、TMGの供給を停止し、温度を1050℃まで昇温し、再びTMGを約50μmol/minとSiH4ガスを約10nmol/min供給してn型のGaN膜(403)を約4μm成長する。次に、TMAを10μmol/min供給し、0.5μmの厚さのn型Al0.15Ga0.85N膜(404)を成長する。この層は光閉じ込め層であり、発光ダイオードを製造する際には不要である。
次に、TMAの供給を停止し、約0.1μm厚さのGaN膜(405)を成長する。この層は、光ガイド層であり、発光ダイオードを製造する際には不要である。その後、SiH4とTMGの供給を停止し、基板の温度を850℃〜700℃程度まで低下させる。この温度は、発光素子の発光波長を決定する一つのパラメータとなり、低温ほど発光波長が長くなる傾向を示す。上述した基板温度は、紫〜緑の発光素子を作製するための温度であり、必要な波長帯が紫〜緑の波長帯になければ、基板温度をかえても問題はない。温度が安定すると、TMGを10μmol/min、TMIを10μmol/minで供給し、In0.05Ga0.95Nからなる活性層(406)を形成する障壁層を約5nmの厚さになるように成長する。活性層成長時には、SiH4を10nmol/min程度流しても良い。
障壁層の成長終了後、一旦TMGとTMIの供給を停止し、キャリアガスとNH3ガスを流しながら、1秒〜60分間の成長中断を行う。その後、再び、TMGを10μmol/min、TMIを50μmol/min供給し、In0.2Ga0.8Nからなる活性層の井戸層を約3nmの厚さになるように成長する。井戸層成長後、再びTMGとTMIの供給を停止し、キャリアガスとNH3ガスを流しながら、1秒〜60分間の成長中断を行う。この活性層となる井戸層と障壁層の成長を繰り返し、必要な層数の多重量子井戸を成長した後、最後に障壁層を成長して活性層(406)の成長を終了する。通常の場合、井戸層の層数は、2層から5層にするのが最も発光効率の良い素子ができることがわかっている。
活性層成長後に、InGaN膜の昇華を防止する目的で、TMGを10μmol/min、TMAを5μmol/min、及びCp2Mgを供給し、約30nmの厚さのAlGaN層(407)を成長する。その後、TMG、TMA、Cp2Mgの供給を停止し、基板温度を再び1050℃に昇温する。昇温後、TMGを50μmol/minとCp2Mgを供給し、p型のGaNよりなる光ガイド層(408)を0.1μm成長する。本層は発光ダイオードを製造する際には不要である。次に、TMAを10μmol/min供給し、0.5μmの厚さのp型Al0.15Ga0.85N膜(409)を成長する。この層は光閉じ込め層であり、発光ダイオードを製造する際には不要である。成長終了後、TMAの供給を停止し、p型のGaNよりなるコンタクト層(410)を約0.5μm成長し、終了後、TMGとCp2Mgの供給を停止して基板加熱を終了する。
図5に活性層近傍の成長温度と各原料の供給量を示す。図中、501、502、503、504、505及び506は各々、成長中断、障壁層の成長、井戸層の成長、n型GaN膜の成長、p型GaNの成長、及びAlGaN昇華防止層の成長を行っている期間を示す。
温度が室温になれば、結晶成長装置より基板を取りだし、反応性イオンエッチングを用いて、一部のn型GaNを露出し、必要な形状の絶縁膜(411)とp型電極(412a)とn型電極(412b)を蒸着法により形成する。また、光を取り出す端面は、基板を劈開することで形成する。発光ダイオードを作製する場合は、劈開による端面は必要なく、p型電極側またはn型電極側から光を透過させて使用する。
上記の例では微傾斜基板を用いた上で成長中断を行っているが、成長中断を行わなくても、従来と比較して結晶性は十分によくなった。
さらに、微傾斜基板上に発光素子を作製し、活性層成長時に成長中断を行うことによって、発光素子の発光強度が増加する原因について、詳細は解らないが、Inを含む窒化物系化合物半導体は高温では化学的に不安定な状態で成長しており、さらに膜中を貫通する転位がInを凝集させる作用を持ち、Inを含む窒化物系化合物半導体層成長直後は結晶が良好な状態で存在していない。そのため、まず、微傾斜基板を用いて貫通転位密度を減少させ、さらに窒素雰囲気中で熱にさらされることにより、Inを含む窒化物系化合物半導体中のIn凝集が解消されて安定な相状態に自然に落ち着き、結晶の状態が良好なものに移行するのではないかと思われる。特に発光に寄与する井戸層に隣接している障壁層の結晶状態が井戸層の結晶質の向上に大きく影響を与えているのではないかと推測している。
また、本例では、低温バッファ層としてGaN膜を成長した場合について記述したが、低温バッファ層としてはAlxGa1-xN(0≦x≦1)を使用しても発光素子を作製する上で何ら問題がない。
また、基板としてGaNを使用する場合には、水素雰囲気中の熱処理と低温でのバッファ層の成長は行う必要がなく、昇温は、不活性ガスを主とするキャリアガスとNH3雰囲気中で行い、TMG及び/またはSiH4の導入と同時に下層のGaN膜の成長から行うことができる。
(実施例1)<0001>方向から<1−100>方向に0.05°傾斜させて鏡面研磨したサファイア(0001)基板を通常の横形MOCVD装置反応炉にセットして、水素を供給しつつ1100℃まで昇温し10分間サーマルクリーニングを行う。その後600℃まで降温してGaNバッファ層を50nm堆積させ、アンモニアを供給しつつ1000℃まで昇温し、アンドープGaN層を5μm厚成長した。このGaN膜は、段差計による測定で平均表面粗さが1.0nm、二結晶X線回折ピークの半値幅2.5arcmin、電子濃度4×1015cm-3、移動度500cm2/V・secであり、良好な結晶特性が得られた。
また、上記と同じ基板を用いて、上記実施形態で用いたGaNバッファ層の代わりに、基板温度600℃で50nm厚堆積したAlNバッファ層を適用した場合でも、バッファ層上に成長されたGaN層では上述と同等の良好な結晶特性が得られた。また、上記工程のサーマルクリーニング後に引き続き、アンモニア雰囲気中でサファイア基板表面を1100℃で10分間初期窒化をした後に上記と同様の方法でバッファ層とGaN層を成長させても、形成されたGaN層の結晶特性は上記と同等の良好な特性であった。
(比較例1)比較のため、<0001>から<1−100>方向へ2.1°傾斜したサファイア基板を用いて実施例1と全く同様の工程でアンドープGaN層を成長したところ、二次元成長が阻害されたことによる凹凸が発生し、平均表面粗さ2.0nm、二結晶X線回折ピークの半値幅4arcmin、電子濃度1016cm-3、移動度90cm2/V・secと結晶としての特性が劣化した。
そこで、さらに上述の工程において、バッファ層の堆積温度を550℃、厚さを40nmに変更したとしても、平均表面粗さが2.0nmと変化せず、結晶特性は3.5arcmin、8×1015cm-3、200cm2/V・secであり、実施例1で示した0.05°の傾斜角を有するサファイア基板を用いてGaN層を形成した場合の結晶の特性には及ばない。
ここで、サファイア基板の表面方位を<0001>方向から<1−100>方向への傾斜角を0.02°から0.5°まで変化させ、実施例1および比較例1と同様の工程により形成したGaN層の表面粗さ(平坦性)および貫通転位密度を調べた結果を図6の●で示す。0.02°から0.045°および0.21°から0.5°の範囲では、サファイア基板表面の傾斜角によって引き起こされる結晶成長不良により表面に凹凸が発生した。
また、表面粗さと貫通転位密度はほぼ一対一に対応しており、表面粗さが1.5nm以下のGaN層では貫通転位密度は109cm-2台に抑制できるが、表面粗さが1.5nmを超える層においては5×1010cm-2以上と大きくなることも分かった。すなわち、サファイア基板の表面の面方位の傾きが0.05°から0.2°の範囲の場合には、表面粗さも小さく、かつ、貫通転位も比較的小さく抑制することができた。
これは、この傾斜角度範囲内においては、GaN層成長時に良好な2次元成長が実現され(GaN層が一原子層ずつ積層される状況が実現され)、3次元核成長時に見られる局所的に進行する成長はなく、かつ、3次元核成長時特有の局所的成長領域のGaN結晶同士が隣接して接する領域での貫通転位の発生も抑制できた効果であると考えられる。
(実施例2)次に実施例1とは傾斜方向が90°異なる方向に傾斜させたサファイア基板を用いた場合の本発明の実施形態について説明する。本実施例では、<0001>方向から<11−20>方向に0.15°傾斜させて鏡面研磨したサファイア(0001)基板を通常の横形MOCVD装置反応炉にセットして、実施例1と同様の工程によりアンドープGaN層を成長した。本実施例で作製されたGaN層の結晶特性は、平均表面粗さ1.1nm、二結晶X線回折半値幅2.6arcmin、電子濃度4×1015cm-3、移動度500cm2/V・secと良好であった。
また、本実施例において上述と同じ基板を用いて、GaNまたはAlNまたはAlGaNバッファ層の堆積温度を500℃〜650℃、厚さを40nm〜70nmの範囲で変化させても、形成されたGaN層の特性にほとんど変化が見られず、良好なGaN層を得ることができた。また、バッファ層形成前にサファイア基板表面をアンモニア雰囲気中で初期窒化する工程を追加しても、GaN層の結晶特性は同様であった。
(比較例2)実施例2との比較のために、<11−20>方向に1.8°傾斜したサファイア(0001)基板を用いて実施例2と同様の工程でGaN層の成長を行ったが、GaN層の結晶特性が実施例2の場合より著しく劣化して、表面に2.0nm以上の平均粗さを有する凹凸が発生した。さらに、実施例2と同様にGaNまたはAlNまたはAlGaNバッファ層の堆積温度を500℃〜650℃、厚さを40nm〜70nmの範囲で変化させたが、GaN層の結晶特性に大きな改善は見られなかった。
ここで、表面方位を<0001>から<11−20>方向への0.02°から0.5°の範囲で傾斜角を変化させたサファイア基板を用いて実施例2と同様の工程によりGaN層を成長させた場合のGaN層の表面粗さと貫通転位密度の測定結果を図6○に示す。<1−100>方向への傾斜の時と同様に<11−20>方向へ傾斜させた場合も、傾斜角を0.045°以下、及び0.21°以上の場合には、平均表面粗さが1.5nm以上と大きくなった。
また、この場合の貫通転位密度も5×1010cm-2以上と多くなることが分かった。一方、サファイア基板の面方位を(0001)面から<11−20>方向に0.05°から0.2°範囲内で傾けた場合には、GaN層の平均表面粗さは顕著に低減され約0.8nmまで平坦化が実現できた。また、このような平均表面粗さの小さなGaN層の貫通転位密度は3×109cm-2と比較的少なく抑制することができた。
以上のように、サファイア基板の表面方位が、その上に形成するGaN結晶層の平均表面粗さ、および貫通転位密度に大きな影響を及ぼすことが分かった。この結晶性の改善は、バッファ層の成長条件(基板温度や厚さ)、さらにはGaN層自体の成長温度を上記実施例の1100℃から950℃、1000℃、1150℃、1200℃と変化させた場合にも確認でき、サファイア基板の面方位の傾斜角を0.05°から0.2°の範囲内とすることが最も肝要であることが確かめられた。
(実施例3)図7に本願の半導体窒化物化合物半導体を用いて作製したLEDの例を示す。図において、701はサファイア(0001)基板、702はGaNバッファ層、703はn型GaNコンタクト層、704はIn0.2Ga0.8N単一量子井戸層からなるInGaN活性層、705はp型AlGaN保護層、706はp型GaNコンタクト層、707はp型電極、708はn型電極である。<0001>方向から<1−100>方向に0.05°傾斜させて鏡面研磨したサファイア(0001)基板701を用いて、基板温度600℃でGaNバッファ層702を50nm厚堆積させ、続いて基板温度を1000℃に上昇させアンモニア、TMGおよびSiH4を用いてn型GaNコンタクト層703を5μm厚成長した。この時のn型GaNコンタクト層703はn型不純物が1×1018cm-3の密度で含まれるようにした。
続いて、750℃まで基板温度を降温し、アンモニア、TMG、TMI、を用いてIn0.2Ga0.8N単一量子井戸層のInGaN活性層704を3.5nm厚、Mg添加のp型Al0.1Ga0.9N保護層705を30nm厚成長した後、再度1000℃まで基板温度を昇温し、アンモニア、TMGおよびCp2Mgを用いて0.5μm厚のp型GaNコンタクト層706を成長した。成長終了後、ウェハー基板を取り出して窒素雰囲気中で800℃、20分間の熱処理を行い、常法に従ってエッチング、電極形成の工程を用いてLEDを作製した。n型電極708はAl、p型電極707はAu/Niである。
完成したLEDに20mAの順方向電流を流したところ、発光ピーク波長450nm、発光スペクトルの半値幅13nm、輝度は2cdであった。また、本実施例のLED素子での発光パターンを観測したところ、InGaN活性層704のほぼ全面で均一に発光しており、微細な発光強度の分布は見られなかった。この場合の、発光強度のばらつきは±20%以下に抑えられていた。
本実施例においても、InGaN活性層704を成長する直前の状態であるところのn型GaNコンタクト層703の表面の結晶性を評価した。実施例1および2とは異なり、InGaN活性層704の下地となるn型GaNコンタクト層703にはSiが不純物として添加されているが、平均表面粗さと貫通転位密度を評価したところ、実施例1とほぼ同様の良好な特性が確認できた。ただし、この場合Siを添加しない実施例1の状態に比べて多少の表面粗さの悪化が見られたが、高々1.1nmから1.3nmの範囲であり、InGaN活性層704の厚さ3.5nmより小さく制御できていることを確認した。またこの時の貫通転位密度も5×109cm-2と比較的低レベルに抑制されていた。
また、本実施例と同様の方法を用いて、基板の傾斜角のみ変更したLED素子を評価した結果、0.05°から0.2°の傾斜角の範囲にある素子では、本実施例と同様の発光スペクトルの半値幅の狭帯域化と、発光強度分布の均一化、発光効率の向上が観測できた。この場合の傾斜角の方向としては<1−100><11−20>のいずれの場合も、同様の効果が確認できた。この効果は、図6で示したように、成長された窒化物半導体層の表面粗さが低減され、非常に平坦な膜上に活性層を形成できた結果であると考えられる。
(比較例3)比較のため、<0001>方向から<1−100>方向に0.25°傾斜させたサファイア基板を用いて実施例3と同様の方法手法で作製したLEDに20mAの順方向電流を流したところ、発光波長450nmと実施例3と同じであったが、発光スペクトルの半値幅は35nmと実施例3より広がっており、輝度は900mcdと発光効率が低下していることが分かった。さらに、発光パターン評価においても、発光強度の素子面内での分布が±70%と非常に大きいことが分かった。よって、本発明により発光スペクトルの半値幅が大幅に狭帯域化し、色純度と発光強度の著しい向上が実現できた。また、発光強度の素子面内での分布も均一にすることが可能となった。
これは、InGaN活性層704の下地であるn型GaNコンタクト層703の表面が、量子井戸704の厚さより十分小さな平均粗さになるように平坦化された結果、InGaN活性層704の厚さが面内で均一化された結果である。このような、発光スペクトルの半値幅を狭くする効果は、n型GaNコンタクト層703の平均表面粗さがInGaN活性層704の厚さより小さい時に確認でき、特に、InGaN活性層704の厚さの半分以下になった場合に顕著であった。
上記実施例3では、n型GaNコンタクト層表面の平均粗さは1.1nmから1.2nmであり、InGaN活性層704の厚さ(3.5nm)の30〜40%程度の粗さとなっていることが分かる。さらに、発光パターンの均一性に関しても、同様に、n型GaNコンタクト層703の表面粗さをInGaN活性層704の厚さより小さくすることにより、発光強度の素子面内での分布が±50%より小さくすることが可能であり、望ましくはこの粗さをInGaN活性層704厚の半分以下にすることにより、発光強度分布を±25%以下に均一化することができた。
上記のような量子井戸活性層を有する窒化物系化合物半導体発光素子において、活性層の厚さは3.5nm以上に設定する方が発光効率が高く望ましい。したがって、その下地となるn型GaNコンタクト層703の表面粗さは活性層の厚さのおよそ半分である1.8nm以下の場合に発光均一化の効果が顕著となった。すなわち、図6に示したように(0001)面からのサファイア基板表面の傾斜角度が0.05゜以上0.2゜以下であればこの条件を満たし、均一性が高く、かつ高い発光効率を実現できることがわかった。
(実施例4)図8に本発明を適用した窒化物化合物半導体を用いて作製した半導体レーザの例を示す。図において、801はサファイア基板、802はGaNバッファ層、803はn型コンタクト層、804はn型クラッド層、805は活性層、806はp型蒸発防止層、807はp型クラッド層、808はp型コンタクト層、809は電流狭窄層、810はp型電極、811はn型電極である。
<0001>方向から<1−100>方向に0.05°傾斜させて鏡面研磨したサファイア(0001)基板をMOCVD装置の反応炉にセットし、基板温度500℃でアンモニアおよびTMGを用いて50nm厚のGaNバッファ層802を成長させた。
次に基板温度を1000℃に昇温し、アンモニア、TMGおよびSiH4を用いて0.4μm厚のGaNからなるn型コンタクト層803を成長させた後、アンモニア、TMG、TMAおよびSiH4により0.2μm厚のn型Al0.15Ga0.85Nからなるn型クラッド層804を成長させた。この層の電子濃度は2×1018cm-3である。TMG、TMA、SiH4を止めて基板温度を700℃まで降温し、アンモニア、TMG、TMIにより1.5nm厚のIn0.25Ga0.75N井戸層2層と3.0nm厚のIn0.05Ga0.95Nバリア層3層からなる活性層805を成長させた。
続いて、アンモニア、TMG、TMA、Cp2Mgを用いて6nm厚のp型Al0.1Ga0.9Nからなるp型蒸発防止層806を成長させる。p型蒸発防止層806成長後、基板温度を1050℃まで上昇させ、アンモニア、TMG、TMAおよびCp2Mgを用いて0.2μmのp型Al0.15Ga0.85Nからなるp型クラッド層807を成長させ、TMA供給を停止し、0.5μmのp型GaNからなるp型コンタクト層808を成長させる。
以上の工程終了後、基板をMOCVD装置反応炉より取り出して、窒素雰囲気中で800℃にて20分間の熱処理によりp型Al0.15Ga0.85Nからなるp型クラッド層807、p型コンタクト層808のp型化を行う。続いて常法に従ってエッチング、電極形成を行いスクライビングまたはダイシングにより分割してレーザ素子を作製した。n型電極811はTi/Al、p型電極810はAu/Niである。
完成した素子に室温で電流を流したところ、40mAの閾値電流で432nm波長でのレーザ発振が観測され、このときの立ち上がり電圧は4Vであった。また、5mW出力時の駆動電流は47mA、駆動電圧は4.6Vであった。また、室温における素子寿命は10000時間以上であることが確認できた。
このように、低発振閾値電流が実現でき、信頼性が改善されるのは、多重量子井戸の活性層805の下地となるn型クラッド層804の表面の平均粗さが小さくできたことによるものである。この場合、実施例3の場合と比べ、活性層805直下の層がAl0.15Ga0.85NとAlを15%含んでいる点、およびサファイア基板801と活性層805の間にGaNバッファ層802を含め3層が挿入されている点が異なる。しかし、実際に本実施例素子の活性層805成長直前の状態であるところのn型クラッド層804の表面を評価した結果、図6の●で示したアンドープGaN層の場合とほぼ同様の結果が得られた。
すなわち、実施例4でのn型クラッド804の表面の平均粗さは1.1〜1.3nmと小さく、貫通転位密度も5×109cm-2と少なかった。このときのn型クラッド層804の平均表面粗さは、多重量子井戸の活性層805を構成する個々の量子井戸層の厚さ(1.5nm)よりも小さくできている。このことが、発光パターンの均一化(すなわち半導体レーザにおける光導波路方向のゲインの均一化と吸収損失の低減)、および発光スペクトルの半値幅(すなわち半導体レーザでのゲインの半値幅)の狭帯域化を実現する。
よって、半導体レーザで効率良くレーザ発振を実現することが可能となった。このように、本発明はGaN層の高品質化に留まらず、AlGaNの場合にも同様の効果を有することが確認できた。
さらに、本実施例において、サファイア基板の傾斜角度のみを上記の0.05°から0.15°、0.20°に変更し、同様の素子を作製して評価した場合にも、それぞれの素子の発振閾値電流45mA、50mA、室温での素子寿命が12000時間、7000時間であり、いずれも良好な特性の半導体レーザが実現できた。
(比較例4)比較のために<0001>方向から<1−100>方向に0.25°傾斜させたサファイア基板を用いて上記手法で作製したレーザ素子に電流を流したところ、閾値電流250mAで432nmのレーザ発振が観測された。立ち上がり電圧は4Vであった。また、5mW出力時の駆動電流は280mA、駆動電圧は4.9Vであった。室温における素子寿命は100時間以下であった。
さらに、同様に傾斜角を0.03°のサファイア基板を適用して実施例4と同様の半導体レーザを作製した場合にも、発振閾値電流が100mA以上、室温での素子寿命が300時間未満と、実施例4に比べて著しく素子特性の悪化が観測された。
(実施例5)本実施例では、微傾斜基板を用いて作製した発光ダイオードについて、基板微傾斜角と素子中に存在する貫通転位密度、表面粗さおよび電流注入時の発光強度の関係を示す。
基板として<0001>方向から<11−20>および<1−100>方向に0.02°から0.5°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面サファイア基板を用い、実施形態で示した方法で順次、窒化物系化合物半導体層を成長する。
活性層の成長条件は、まず、n型GaN層を成長後、NH3を流しながら基板温度を一定の温度になるように調整する。基板温度が安定した時点で、TMG、TMI及びSiH4を各々10μmol/min、10μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層の障壁層となるIn0.05Ga0.95Nを約5nmの厚さで成長した。続いて、TMG、TMI及びSiH4を各々10μmol/min、50μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層の井戸層となるIn0.2Ga0.8Nを約3nmの厚さで成長した。井戸層成長後、TMGの供給量を10μmol/minに減少し、再び活性層の障壁層を成長した。障壁層成長後、井戸層を成長する過程を繰り返し、最後に障壁層を成長して実施の形態に記した方法にてInGaNの昇華を防止する目的のAlGaN膜を30nm程度成長した。本実施例では、活性層を形成する井戸層の層数は3層で素子を作製した。AlGaN成長後は、実施の形態に示す方法でp型層を成長したもの及び、電極形成等の過程を経て発光ダイオードとした試料を作製した。
この方法で作製し、電極形成していない試料を断面TEM観察して貫通転位密度を評価し、段差計にて表面粗さを測定したところ、図6と同様の結果が得られた。いずれの場合も、基板傾斜角が0.02°から0.045°および0.21°から0.5°の範囲では基板表面の傾斜によって引き起こされる結晶成長不良により高密度の貫通転位と表面荒れが発生している。また、活性層中にInの凝集による数nm径のドット状領域が多数見られた。0.05°から0.2°の傾斜では貫通転位が著しく減少し、表面荒れが個々の量子井戸層厚より十分小さい1.8nm以下に改善された。断面TEM観察より、下地層のn型GaNの成長段階から表面平坦性が向上していることがわかった。貫通転位の減少によって、活性層中のIn凝集が解消された結果、ドット状領域がほとんど見られなくなり、下地層の平坦性向上によって、量子井戸活性層の層厚揺らぎが改善された。
電極を形成して素子化した試料に20mAの電流を流した場合の発光強度を<0001>方向から<11−20>および<1−100>方向への基板傾斜角に対して調査した結果を図9に示す。●は<0001>から、<1−100>への傾斜、○は<0001>から<11−20>への傾斜角をあらわしている。図9からわかるように傾斜角度が0.05°から0.2°の範囲で、発光強度が増大している。
また、図10は<0001>から<1−100>への傾斜において、多重量子井戸活性層の成長温度の影響を調べた結果である。●は成長温度が700℃の時、○は750℃の時、△は800℃の時である。図10に示すように、基板微傾斜角の発光強度への影響は、成長温度により若干変化するが、いずれも0.05°から0.2°の基板傾斜で発光強度が増加している。図6と図9及び図10の比較から、貫通転位と発光強度の相関が明らかであり、本発明により、従来技術で作製した場合に比べてより低い駆動電流で同等以上の発光強度が得られることがわかる。これは、本発明によって、発光に寄与しない電流経路が減少した事を意味する。
本実施例では、活性層の井戸層の層数が3層の例について記述したが、2層、及び4層から10層までの多重量子井戸についての効果は本実施例と同様であった。
また、同様の方法でレーザを作製した場合、0.05°から0.2°の微傾斜基板上に作製したレーザは、同一電流値に対する発光強度が高く、発光強度に応じて発振を開始する閾値電流密度が低くなる傾向を示した。
(実施例6)本実施例では、微傾斜基板上に成長中断を用いて作製した障壁層と活性層を持つ発光ダイオードについて電流注入時の発光強度と、活性層及び障壁層成長後の成長中断時間との関係を示す。
基板として<0001>方向から<1−100>方向に0.15°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面サファイア基板を用い、実施形態で示した方法で順次、窒化物系化合物半導体層を成長した。
活性層は、まず、n型GaN層を成長後、NH3を流しながら基板温度を一定の温度になるように調整して、基板温度が安定した時点で、TMG、TMI及びSiH4を各々10μmol/min、10μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層を形成する障壁層であるIn0.05Ga0.95Nを約5nmの厚さで成長した。その後、TMG、TMI及びSiH4の供給を一旦停止し、キャリアガス及びNH3ガスを供給したまま一定の成長中断を行う。その後、再びTMG、TMI及びSiH4を各々10μmol/min、50μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層の井戸層となるIn0.2Ga0.8Nを約3nmの厚さで成長した。井戸層成長後、TMIの供給量を10μmol/minに減少し、再び活性層の障壁層を成長した。障壁層成長後、一定期間の成長中断を介し井戸層を成長する過程を繰り返し、最後に障壁層を成長して実施の形態に記した方法にてInGaNの昇華を防止する目的のAlGaN膜を30nm程度成長した。本AlGaN膜と活性層が終端するInGaN障壁層の間には成長中断を設けても構わないし、設けなくても構わない。但し、井戸層の層数が2層以下の場合には、終端する障壁層成長後にも成長中断を設けたほうが発光素子の電流注入による発光強度が高くなることがわかっている。本実施例では、活性層を形成する井戸層の層数は3層で素子を作製した。
AlGaN成長後は、実施の形態に示す方法でp型層を成長し、電極形成等の過程を経て発光ダイオードを作製した。
この方法で作製した発光ダイオードに20mAの電流を流した際の発光強度を、障壁層成長後の成長中断時間をパラメータとして調査した結果を図11に示す。図中、●は多重量子井戸活性層の成長温度が700℃の時、○は750℃の時、△は800℃の時であり、また、強度10の所に引いてある破線は、各々の成長温度での成長中断時間が0秒の場合の発光強度であり、丸または三角で示した強度が発光強度の平均値である。
図9及び図11との比較で明らかなように、微傾斜基板に加えて、成長中断を用いることにより、さらに発光強度が増大することがわかる。
図11に示すように、成長中断による発光強度への影響は、成長温度により若干変化するが、いずれも1秒以上の成長中断により発光強度は増加している。活性層の成長温度が高い場合、成長中断期間は短く、逆に成長温度が低い場合には成長中断期間が長い方が効果が大きい。図に示されているように、成長温度が700℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約60分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は、1秒以上10分以下である。また、成長温度が750℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約15分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は、1秒以上5分以下であった。
また、成長温度が800℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約5分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は、1秒以上2分以下であった。
本実施例では、<0001>方向から<1−100>方向に0.15°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面サファイア基板を使用した例について記述したが、傾斜角が0.05°から0.2°の範囲であれば、他の方向への傾斜でも同様の効果を発揮することを確認した。
また、本実施例では、活性層の井戸層の層数が3層の例について記述したが、2層、及び4層から10層までの多重量子井戸についての効果は本実施例と同様傾向であり、同様の方法でレーザを作製した場合、障壁層の成長中断をいれて活性層を作製したレーザは、同一電流値に対する発光強度が高く、発光強度に応じて発振を開始するしきい値電流密度が低くなる傾向を示した。
(実施例7)本実施例では、<0001>方向から<1−100>方向に0.15°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面サファイア基板を用いて、活性層の障壁層成長後に一定の成長中断時間をおいて成長し、その後、活性層の井戸層成長後にも同様に、一定の成長中断期間を設けて成長した場合の発光ダイオードの電流注入に於ける発光強度と井戸層成長後の成長中断時間との関係を調査した例について報告する。発光ダイオードを形成する各層の成長方法は実施例2に示した方法と同様である。以下、活性層を成長する条件について記述する。
まず、n型GaNを成長後、NH3を流しながら基板温度を一定の温度になるように調整する。基板温度が安定した時点で、TMG、TMI及びSiH4を各々10μmol/min、10μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層の障壁層となるIn0.05Ga0.95Nを約5μmの厚さで成長した。その後、TMG、TMI及びSiH4の供給を一旦停止し、キャリアガス及びNH3ガスを供給したまま一定の成長中断を行う。その後、再びTMG、TMI及びSiH4ガスを各々10μmol/min、15μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層の井戸層となるIn0.2Ga0.8Nを約5μmの厚さで成長した。その後、TMG、TMI及びSiH4の供給を一旦停止し、キャリアガス及びNH3ガスを供給したまま一定の成長中断を行う。障壁層成長後及び井戸層成長後、各々一定期間の成長中断を介し、各々の層が隣接するように成長する過程を繰り返し、最後に障壁層を成長して実施の形態に記した方法にてInGaNの昇華を防止する目的のAlGaN膜を30nm程度成長した。本AlGaN膜と、活性層が終端するInGaN障壁層の間には、成長中断を設けても構わないし、設けなくても構わない。但し、井戸層の層数が2層以下の場合には、終端する障壁層成長後にも成長中断を設けたほうが、発光素子への電流注入による発光強度が強くなることがわかっている。本実施例では、活性層を形成する井戸層の層数は3層で素子を作製した。また、障壁層成長後の成長中断時間は、60秒とした。
この方法で作製した発光ダイオードに20mAの電流を流した際の発光強度を、井戸層成長後の成長中断時間をパラメータとして調査した結果を図12に示す。図中、●は多重量子井戸活性層の成長温度が700℃の時、○は750℃の時、△は800℃の時、強度10の所に引いてある破線は、各々の成長温度での成長中断時間が0秒の場合の発光強度であり、丸または三角で示した強度が発光強度の平均値である。
図9と図12との比較で明らかなように、微傾斜基板に加えて、成長中断を用いることにより、さらに発光強度が増大することがわかる。
図12に示されているように、井戸層成長後の成長中断による発光強度への影響は成長温度により若干変化するが、いずれも1秒以上の成長中断により発光強度は増加している。活性層の成長温度が高い場合、成長中断時間は短く、逆に成長温度が低い場合、成長中断時間は長い方が効果的である。
図12に示されているように、成長温度が700℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約60分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は1秒以上10分以下である。また、成長温度が750℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約15分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は1秒以上5分以下であった。
成長温度が800℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約5分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は1秒以上2分以下であった。
また、障壁層を成長後、成長中断を行わずに井戸層を成長後のみ成長中断を行った場合には、発光強度への若干の効果はあったものの、図10に示した程の大きな効果は確認できず、最大で3倍程度の発光強度の増加に止まるのみであった。
(実施例8)本実施例では、基板として<0001>方向から<1−100>方向に0.15°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面サファイアを用いて、実施例5に示す方法で、発光ダイオードを作製した際、活性層を形成する障壁層成長後の成長中断を行う期間に流すキャリアガスの水素ガスと窒素ガスの混合比を変化させた場合の発光ダイオードの発光特性を調査した結果について記述する。
図13に、活性層の成長温度を750℃に固定し、障壁層成長後の成長中断時間を60秒とし、成長中断中に流すキャリアガスの総量を変えずに窒素ガスと水素ガスの比率を変えて供給し作製した発光ダイオードの発光波長と強度の関係を示す。●は発光強度を、○は発光波長を示す。図13に示すように、キャリアガスのN2比率が減少するに従って、発光波長は短波長化する傾向にあり、また、発光強度も減少する傾向にある。本傾向は、活性層の成長温度が800℃程度の高温や700℃程度の低温でも同様の傾向を示す。また、障壁層成長後の成長中断だけでなく、井戸層成長後に成長中断を設ける場合においても、成長中断中のキャリアガスとしてN2を使用する方が、発光素子の発光強度が強く、波長も長波長になる傾向を示した。
(実施例9)本実施例では、基板として<0001>方向から<1−100>方向に0.15°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面サファイアを用いて、実施例1に示す方法で、発光ダイオードを作製した際、活性層を形成する障壁層成長後の成長中断を行う期間に流すNH3ガスの導入量を変化させた場合の成長中断時間と発光強度の関係を調査した結果について記述する。
図14に、活性層の成長温度を750℃に固定し、NH3導入量と成長中断時間を変化させた場合の発光ダイオードの発光強度を測定した結果について示す。●はNH3=5l/minの時、○はNH3=3l/minの時、△はNH3=0l/minの時である。
図14に示すように、NH3導入量がゼロの場合においても、発光強度が増加する事が確認されたが、NH3の導入により、発光強度増加の効果がより顕著に現われており、また、成長中断時間も長く設定できるため製造が容易となる。本傾向は、活性層の成長温度が800℃程度の高温や700℃程度の低温でも同様の傾向を示す。また、障壁層成長後の成長中断だけでなく、井戸層成長後に成長中断を設ける場合においても同様の傾向を示した。
(実施例10)本実施例では、GaN微傾斜基板を用いて作製した発光ダイオードについて、GaN基板の微傾斜角と素子中に存在する貫通転位密度、表面粗さおよび電流注入時の発光強度の関係を示す。
基板として<0001>方向から<11−20>および<1−100>方向に0.02°から0.5°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面GaN基板を用い、実施形態で示した方法で順次、窒化物系化合物半導体層を成長し、実施例5で説明した手順で各層間の成長中断を入れずに活性層を成長した。活性層を形成する井戸層の層数は3層である。素子構造成長後、実施の形態に示す方法でp型層を成長したもの及び、電極形成等の過程を経て発光ダイオードとした試料を作製した。
前記方法で作製し、電極形成していない試料を断面TEM観察して貫通転位密度を評価し、段差計にて表面粗さを測定した。結果を図15に示す。図中、●は<1−100>方向への傾斜を表し、○は<11−20>方向への傾斜を表す。いずれの場合も、基板傾斜角が0.02°から0.045°および0.21°から0.5°の範囲では基板表面の傾斜によって引き起こされる結晶成長不良により高密度の貫通転位と表面荒れが発生している。一方、0.05°から0.2°の傾斜では貫通転位が著しく減少し、表面荒れが個々の量子井戸層厚より十分小さく、微傾斜サファイア基板上の素子よりもさらに改善され、4nm以下であった。断面TEM観察より、下地層のn型GaNの成長段階から表面平坦性が向上していることがわかった。貫通転位の減少によって、活性層中のIn凝集が解消され、下地層の平坦性向上によって、量子井戸活性層の層厚揺らぎが改善された。
次に、前記試料に電極を形成して素子化した試料に20mAの電流を流した場合の発光強度を<0001>方向から<11−20>および<1−100>方向への基板傾斜角に対して調査した結果を図16に示す。●は<0001>から<1−100>への傾斜、○は<11−20>への傾斜である。0.05°から0.2°の傾斜で発光強度が増大していることがわかる。
図17に<0001>から<1−100>への傾斜基板において、多重量子井戸活性層の成長温度の影響を示す。図に示すように、基板微傾斜角の発光強度への影響は成長温度により若干変化するが、いずれも0.05°から0.2°の基板傾斜で発光強度が増加している。この傾向は微傾斜サファイア基板と同じであるが、改善効果はより大きいことがわかる。図6と図9、図10、図15、図16および図17の比較から、微傾斜GaN基板上に作製した素子においても貫通転位と発光強度の相関が明らかであり、本発明により、従来技術で作製した場合に比べてより低い駆動電流で同等以上の発光強度が得られることがわかる。これは、本発明によって、発光に寄与しない電流経路が減少した事を意味するものである。
本実施例では、活性層の井戸層の層数が3層の例について記述したが、2層、及び4層から10層までの多重量子井戸についての効果は本実施例と同様であった。
また、同様の方法でレーザを作製した場合、0.05°から0.2°の微傾斜基板上に作製したレーザは、同一電流値に対する発光強度が高く、発光強度に応じて発振を開始するしきい値電流密度が低くなる傾向を示し、低下の度合は微傾斜サファイア基板上に作製した場合に比べてより顕著であった。
(実施例11)本実施例では、微傾斜GaN基板上に成長中断を用いて作製した障壁層と活性層を持つ発光ダイオードについて電流注入時の発光強度と、活性層及び障壁層成長後の成長中断時間との関係を示す。
基板として<0001>方向から<1−100>方向に0.15°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面GaN基板を用い、実施形態で示した方法で順次、窒化物系化合物半導体層を成長した。
活性層は、まず、n型GaN層を成長後、NH3を流しながら基板温度を一定の温度になるように調整して、基板温度が安定した時点で、TMG、TMI及びSiH4を各々10μmol/min、10μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層を形成する障壁層であるIn0.05Ga0.95Nを約5nmの厚さで成長した。その後、TMG、TMI及びSiH4の供給を一旦停止し、キャリアガス及びNH3ガスを供給したまま一定の成長中断を行う。その後、再びTMG、TMI及びSiH4を各々10μmol/min、50μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層の井戸層となるIn0.2Ga0.8Nを約3nmの厚さで成長した。井戸層成長後、TMGの供給量を10μmol/minに減少し、再び活性層の障壁層を成長した。障壁層成長後、一定期間の成長中断を介し井戸層を成長する過程を繰り返し、最後に障壁層を成長して実施の形態に記した方法にてInGaNの昇華を防止する目的のAlGaN膜を30nm程度成長した。本AlGaN膜と活性層が終端するInGaN障壁層の間には成長中断を設けても構わないし、設けなくても構わない。但し、井戸層の層数が2層以下の場合には、終端する障壁層成長後にも成長中断を設けたほうが発光素子の電流注入による発光強度が高くなることがわかっている。本実施例では、活性層を形成する井戸層の層数は3層で素子を作製した。
AlGaN成長後は、実施の形態に示す方法でp型層を成長し、電極形成等の過程を経て発光ダイオードを作製した。
この方法で作製した発光ダイオードに20mAの電流を流した際の発光強度を、障壁層成長後の成長中断時間をパラメータとして調査した結果を図18に示す。●は多重量子井戸活性層の成長温度が700℃の時、○は750℃の時、△は800℃の時である。図中、強度400の位置に引いてある破線は、各々の成長温度での成長中断時間が0秒の場合の発光強度であり、丸または三角で示した強度が発光強度の平均値である。
図16と図18との比較で明らかなように、微傾斜GaN基板に加えて、成長中断を用いることにより、さらに発光強度が増大することがわかる。
図18に示すように、成長中断による発光強度への影響は、成長温度により若干変化するが、いずれも1秒以上の成長中断により発光強度は増加している。活性層の成長温度が高い場合、成長中断期間は短く、逆に成長温度が低い場合には成長中断期間が長いほど効果が大きい。図に示されているように、成長温度が700℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約60分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は、1秒以上10分以下である。また、成長温度が750℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約15分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は、1秒以上5分以下であった。また、成長温度が800℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約5分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は、1秒以上2分以下であった。
本実施例では、<0001>方向から<1−100>方向に0.15°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面GaN基板を使用した例について記述したが、傾斜角が0.05°から0.2°の範囲であれば、他の方向への傾斜でも同様の効果を発揮することを確認した。
また、本実施例では、活性層の井戸層の層数が3層の例について記述したが、2層、及び4層から10層までの多重量子井戸についての効果は本実施例と同様傾向であり、同様の方法でレーザを作製した場合、障壁層の成長中断を入れて活性層を作製したレーザは、同一電流値に対する発光強度が高く、発光強度に応じて発振を開始するしきい値電流密度が低くなる傾向を示した。
(実施例12)本実施例では、<0001>方向から<1−100>方向に0.15°傾斜角をつけて鏡面研磨した(0001)面GaN基板を用いて、活性層の障壁層成長後に一定の成長中断時間をおいて成長し、その後、活性層の井戸層成長後にも同様に、一定の成長中断期間を設けて成長した場合の発光ダイオードの電流注入に於ける発光強度と井戸層成長後の成長中断時間との関係を調査した例について報告する。発光ダイオードを形成する各層の成長方法は実施例6に示した方法と同様である。以下、活性層を成長する条件について記述する。
まず、n型GaNを成長後、NH3を流しながら基板温度を一定の温度になるように調整する。基板温度が安定した時点で、TMG、TMI及びSiH4を各々10μmol/min、10μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層の障壁層となるIn0.05Ga0.95Nを約5μmの厚さで成長した。その後、TMG、TMI及びSiH4の供給を一旦停止し、キャリアガス及びNH3ガスを供給したまま一定の成長中断を行う。その後、再びTMG、TMI及びSiH4ガスを各々10μmol/min、15μmol/min及び5nmol/min導入し、活性層の井戸層となるIn0.2Ga0.8Nを約5μmの厚さで成長した。その後、TMG、TMI及びSiH4の供給を一旦停止し、キャリアガス及びNH3ガスを供給したまま一定の成長中断を行う。障壁層成長後及び井戸層成長後、各々一定期間の成長中断を介し、各々の層が隣接するように成長する過程を繰り返し、最後に障壁層を成長して実施の形態に記した方法にてInGaNの昇華を防止する目的のAlGaN膜を30nm程度成長した。本AlGaN膜と、活性層が終端するInGaN障壁層の間には、成長中断を設けても構わないし、設けなくても構わない。但し、井戸層の層数が2層以下の場合には、終端する障壁層成長後にも成長中断を設けたほうが、発光素子の電流注入による発光強度が高くなることがわかっている。本実施例では、活性層を形成する井戸層の層数は3層で素子を作製した。また、障壁層成長後の成長中断時間は、60秒とした。
この方法で作製した発光ダイオードに20mAの電流を流した際の発光強度を、井戸層成長後の成長中断時間をパラメータとして調査した結果を図19に示す。●は多重量子井戸活性層の成長温度が700℃の時、○は750℃の時、△は800℃の時である。図中、強度400の位置に引いてある破線は、各々の成長温度での成長中断時間が0秒の場合の発光強度であり、丸または三角で示した強度が発光強度の平均値である。
図16と図19との比較で明らかなように、微傾斜GaN基板に加えて、成長中断を用いることにより、さらに発光強度が増大することがわかる。
図19に示されているように、井戸層成長後の成長中断による発光強度への影響は成長温度により若干変化するが、いずれも1秒以上の成長中断により発光強度は増加している。活性層の成長温度が高い場合、成長中断時間は短く、逆に成長温度が低い場合、成長中断時間は長い方が効果的である。また、成長温度が700℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約60分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は1秒以上10分以下であり、成長温度が750℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約15分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は1秒以上5分以下であった。
成長温度が800℃の場合においては、成長中断時間は1秒から約5分程度で効果があり、特に効果が現われる期間は1秒以上2分以下であった。一方、障壁層を成長後、成長中断を行わずに井戸層を成長後のみ成長中断を行った場合には、発光強度への若干の効果はあったものの、図17に示した程の大きな効果は確認できず、最大で3倍程度の発光強度の増加に止まるのみであった。
以上、実施例を用いて説明したが、本発明は上記本実施例で示した材料、層構造の組み合わせに限らず、GaN活性層/AlGaNクラッド層等の組み合わせで構成されるダブルヘテロ構造および、窒化物系化合物半導体で構成される単一量子井戸および多重量子井戸を活性層として有する半導体レーザ装置においても同様の効果が得られる。中でも量子井戸活性層を用いた場合の効果が顕著であり、特に量子井戸活性層厚よりも小さな平均表面粗さを有する下地層の適用による発光素子の特性改善は顕著である。