JP2007070448A - エマルション型粘着剤組成物、並びにこれから得られる粘着シートおよび該粘着シートの製造方法 - Google Patents

エマルション型粘着剤組成物、並びにこれから得られる粘着シートおよび該粘着シートの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 高速塗工でも、はじきなどが発生せず、また気泡混入が少ない、より良好で均一な粘着剤層を基材上に形成することができるエマルション型粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】 低剪断粘度(η1)が5,000〜20,000mPa・sであり、増速過程における剪断速度5,000s-1での高剪断粘度(η2)が350mPa・s以下であり、減速過程における剪断速度10,000s-1での高剪断粘度(η3)が120mPa・s以上であるエマルション型粘着剤組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、粘着シートを製造するために好適なエマルション型粘着剤組成物、殊に高速でも基材に良好に塗工することができるエマルション型粘着剤組成物、並びにこれから得られる粘着シートおよび該粘着シートの製造方法に関するものである。
従来から、エマルション型粘着剤組成物が、粘着テープ、粘着シートおよびラベル等の粘着剤層を有する製品を得るために用いられている。これらの粘着シートなどを効率よく製造するために、エマルション型粘着剤組成物を基材に高速塗工することが好ましい。しかし高速塗工では、エマルション型粘着剤組成物から得られる粘着剤層中に気泡が混入したり、はじきやかすれ、または粘着剤の抜けが生じ易い。
そこで従来、高速塗工でも良好な粘着剤層を形成することができる粘着剤組成物が提案されている。例えば特許文献1は、はじきの低減または防止を目的として、一定の条件下で高剪断を加え、続いて低剪断を加える条件で測定した際の粘度が所定値以上を示す水分散型粘着剤組成物を提案している(特に請求項1および段落[0010]参照)。
特許文献2は、気泡混入を防ぐために、ハーキュレス高剪断粘度計を用いて測定される所定の高剪断速度(4×104-1および104-1)での応力比またはそれらの平均粘度が所定値をとる粘着剤を塗工して得られる粘着シートを提案している(特に請求項4および5、並びに段落[0016]および[0017]参照)。
特許文献3は、気泡の発生等を防止して良好な粘着剤層を得るために、剪断速度1.0×105-1における粘度が20〜200cps(=20〜200mPa・s)である所定のアクリル系共重合体エマルションからなる粘着剤組成物を、300〜700m/minの高速で基材に塗工する方法を提案している(特に請求項1および段落[0003]参照)。
特開2004−269699号公報、請求項1、段落[0010] 特開2001−49203号公報、請求項4および5、段落[0016]および[0017] 特許第2924695号公報、請求項1、段落[0003]
本発明の目的は、高速塗工でも、はじきなどが発生せず、また気泡混入が少ない、より良好で均一な粘着剤層を基材上に形成することができるエマルション型粘着剤組成物を提供することにある。
さらに本発明は、高速塗工に好適な本発明のエマルション型粘着剤組成物を用いて得られる、優れた粘着特性を示す粘着シートを提供することを目的とする。
また本発明は、エマルション型粘着剤組成物が高速塗工に好適か否かを判定する方法を提供することも目的とする。
前記目的を達成し得た本発明のエマルション型粘着剤組成物は、低剪断粘度(η1)が5,000〜20,000mPa・sであり、増速過程における剪断速度5,000s-1での高剪断粘度(η2)が350mPa・s以下であり、減速過程における剪断速度10,000s-1での高剪断粘度(η3)が120mPa・s以上であることを特徴とする。このような粘度を有するエマルション型粘着剤組成物を用いることにより、高速塗工で基材上に良好な粘着剤層を形成することができる。
本発明の好ましいエマルション型粘着剤組成物は、ポリマーエマルション(A)、並びにポリマーエマルション(A)の固形分100質量部に対して、固形分換算で0.1〜10質量部のチキソトロピー付与型増粘剤(B)、および固形分換算で0.1〜10質量部のニュートン流動性付与型増粘剤(C)を含む。好適なチキソトロピー付与型増粘剤(B)は、その重量平均分子量が300,000以上のポリマー増粘剤であり、好適なニュートン流動性付与型増粘剤(C)は、その重量平均分子量が500,000未満のオリゴマーまたはポリマー増粘剤である。ポリマーエマルション(A)として、カルボキシル基含有モノマーを、モノマーの合計量100質量%中に0.1〜5質量%含む原料モノマー混合物から合成されたものを使用することが望ましい。
本発明のさらなる好ましい実施態様のエマルション型粘着剤組成物は、
ポリマーエマルション(A)として、
アルキル基の炭素数4〜12のアルキル(メタ)アクリレート(i−1)50〜99.9質量%、カルボキシル基含有モノマー(i−2)0.1〜5質量%、およびその他のモノマー(i−3)0〜49.9質量%(ただし、これらのモノマーの合計量は100質量%である)からなる原料モノマー混合物(i)の重合により得られ、ガラス転移温度(Tg)が−40℃未満である低Tgポリマーエマルション(I)、および
アルキル基の炭素数1〜12のアルキル(メタ)アクリレート(ii−1)50〜99.9質量%、カルボキシル基含有モノマー(ii−2)0.1〜5質量%、およびその他のモノマー(ii−3)0〜49.9質量%(ただし、これらのモノマーの合計量は100質量%である)からなる原料モノマー混合物(ii)の重合により得られ、ガラス転移温度(Tg)が−40℃〜0℃である高Tgポリマーエマルション(II)を含み、
さらに、1分子中に2個以上のオキサゾリン基を有する水溶性架橋剤(D)、および粘着付与樹脂(E)を含み、
低Tgポリマーエマルション(I)と高Tgポリマーエマルション(II)との固形分の質量比が65:35〜80:20であるものである。
前記の本発明の粘度要件に加えて、このような好ましい組成要件をも満たすエマルション型粘着剤組成物は、高速塗工に好適であることに加えて、粘着付与樹脂の使用量を少なくしても、ポリオレフィンのような難接着性の被着体と段ボールのような粗面被着体との両方に対して高い粘着力を示し、凝集力およびタック等もバランスよく良好な粘着シート等の粘着剤層を形成することができる。
水溶性架橋剤(D)が、低Tgポリマーおよび高Tgポリマーがそれぞれ有するカルボキシル基の合計当量を1としたときに水溶性架橋剤のオキサゾリン基が0.005〜0.3当量となる量で、エマルション型粘着剤組成物中に含まれているものや、粘着付与樹脂(E)が、低Tgポリマーエマルション(I)および高Tgポリマーエマルション(II)の固形分の合計100質量部に対し1〜10質量部の量で、エマルション型粘着剤組成物中に含まれているものが、さらなる好ましいエマルション型粘着剤組成物である。
さらに本発明は、本発明のエマルション型粘着剤組成物を用いて製造されたことを特徴とする粘着シート、および本発明のエマルション型粘着剤組成物を、塗工速度200〜600m/minでシートに塗工することを特徴とする粘着シートの製造方法も提供する。
また前記の粘度要件を満たすエマルション型粘着剤組成物が高速塗工に適しているという知見から、本発明は、エマルション型粘着剤組成物の低剪断粘度および高剪断粘度を測定し、低剪断粘度(η1)が5,000〜20,000mPa・sであり、増速過程における剪断速度5,000s-1での高剪断粘度(η2)が350mPa・s以下であり、減速過程における剪断速度10,000s-1での高剪断粘度(η3)が120mPa・s以上であるエマルション型粘着剤組成物が、高速塗工に好適であると判定することを特徴とするエマルション型粘着剤組成物の高速塗工性の判定方法、および該判定方法で高速塗工に好適であると判定したエマルション型粘着剤組成物を、塗工速度200〜600m/minでシートに塗工することを特徴とする粘着シートの製造方法も提供する。
前記のような粘度要件を満たす本発明のエマルション型粘着剤組成物は、高速塗工(例えば塗工速度200〜600m/min)で基材に塗工しても、粘着剤層中への気泡の混入が少なく、はじき、ちぢみ、かすれ、粘着剤の抜け(非塗工部分の発生)を防ぐことができる。本発明のエマルション型粘着剤組成物を用いて、殊に高速塗工により製造した粘着シートは、粘着剤層が均一に形成されるため、優れた粘着特性を示す。さらに前記のような好ましい組成要件をも満たす本発明のエマルション型粘着剤組成物は、高速塗工に好適であることに加えて、粘着付与樹脂の使用量を少なくしても、難接着性の被着体と粗面被着体との両方に対して高い粘着力を示し、凝集力およびタック等もバランスよく良好な粘着シート等の粘着剤層を形成することができる。
発明を実施するための形態
以下、本発明のエマルション型粘着剤組成物について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施することができる。本発明のエマルション型粘着剤組成物は、乾燥させる(水分を除去する)ことによって粘着剤となるものである。
本発明のエマルション型粘着剤組成物は、その低剪断粘度(η1)が5,000〜20,000mPa・sであり、増速過程における剪断速度5,000s-1での高剪断粘度(η2)が350mPa・s以下であり、減速過程における剪断速度10,000s-1での高剪断粘度(η3)が120mPa・s以上であることを要旨とする。本発明の組成物は、このような粘性を有することにより、高速塗工でも、基材上にはじきや粘着剤の抜け(非塗工部分)の無い高品質な粘着シートを製造することができる。
ここで、本発明における低剪断粘度(η1)とは、エマルション型粘着剤組成物を、25℃でBM型粘度計(No.4ローター使用、12rpm)にて測定して得られる粘度をいう。
また本発明における高剪断粘度とは、エマルション型粘着剤組成物を、20℃で、熊谷理機工業(株)製ハーキュレス高剪断粘度計(Fボブ使用)にて10秒間で8,800rpmまで増速した後、10秒間で0rpmまで減速させる過程で測定して(測定間隔0.1秒)得られる粘度をいい、その中で、増速過程において剪断速度5,000s-1の時点で測定される粘度を、高剪断粘度(η2)とし、減速過程において剪断速度10,000s-1の時点で測定される粘度を高剪断粘度(η3)とする。なお測定間隔0.1秒で増速過程における剪断速度5,000s-1の時点または減速過程における剪断速度10,000s-1の時点で粘度が測定されない場合、各剪断速度の前後の粘度測定値から内挿法による直線近似で求められる値を、それぞれη2およびη3とする。
本発明のエマルション型粘着剤組成物において、好ましい低剪断粘度(η1)の下限は5,000mPa・s、より好ましくは7,000mPa・sであり、η1の好ましい上限は20,000mPa・s、より好ましくは18,000mPa・sである。増速過程における剪断速度5,000s-1での高剪断粘度(η2)は、好ましくは350mPa・s以下、より好ましくは330mPa・s以下である。減速過程における剪断速度10,000s-1での高剪断粘度(η3)は、好ましくは120mPa・s以上、より好ましくは130mPa・s以上である。
本発明の好ましい実施態様において、エマルション型粘着剤組成物は、チキソトロピー付与型増粘剤(B)を1種または2種以上、およびニュートン流動性付与型増粘剤(C)を1種または2種以上含有する。ここで、本発明におけるチキソトロピー付与型増粘剤とは、液体の粘度を向上させる増粘剤であって、チキソトロピー(揺変性)を付与する作用を有するものをいう。一方ニュートン流動性付与型増粘剤とは、エマルションのような非ニュートン粘性の液体の性質を、ニュートン粘性に近づけるもの、即ち非ニュートン粘性の液体にニュートン流動性を付与する作用を有する増粘剤をいう。
本発明は、エマルション型粘着剤組成物が上記粘性を有することに要旨があるが、そのような粘性は、チキソトロピー付与型増粘剤(B)およびニュートン流動性付与型増粘剤(C)を併用することによって、より容易に達成することができるからである。この点、チキソトロピー付与型増粘剤(B)は、低剪断粘度(η1)を増大させる作用が強く、それに比べて高剪断粘度(η2および3)をあまり増大させないため、増粘剤(B)のみで本発明の粘度要件、特に高剪断粘度(η3)の要件を満たそうとすると、低剪断粘度(η1)の上限を超えることがある。逆に、ニュートン流動性付与型増粘剤(C)は、高剪断粘度(η2および3)を増大させる作用が強いため、増粘剤(C)のみで本発明の粘度要件、特に低剪断粘度(η1)の要件を満たそうとすると、高剪断粘度(η2)の上限を超えることがある。
本発明のエマルション型粘着剤組成物中のチキソトロピー付与型増粘剤(B)量は、ポリマーエマルション(A)の固形分100質量部に対する固形分換算で、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.25質量部以上で、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。一方ニュートン流動性付与型増粘剤(C)量は、ポリマーエマルション(A)の固形分100質量部に対する固形分換算で、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上で、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
好ましいチキソトロピー付与型増粘剤(B)は、ポリマー増粘剤である。この増粘剤(B)の重量平均分子量は、好ましくは300,000以上、より好ましくは500,000以上、さらに好ましくは700,000以上、最も好ましくは1,000,000以上である。また、好ましいニュートン流動性付与型増粘剤(C)は、オリゴマーまたはポリマー増粘剤である。この増粘剤(C)の重量平均分子量は、好ましくは500,000未満、より好ましくは400,000未満、さらに好ましくは300,000未満、最も好ましくは200,000未満である。これらの重量平均分子量は、GPCにより測定することができる。
チキソトロピー付与型増粘剤(B)の具体例として、不飽和カルボン酸(共)重合体系の増粘剤、例えばプライマル(登録商標)ASE−60、プライマルTT−615(ローム&ハース社製)、ゾーゲン(登録商標)100、ゾーゲン150、ゾーゲン200、ゾーゲン250、ゾーゲン350(第一工業製薬(株)製)、RHEOLATE1、RHEOLATE101、RHEOLATE430(RHEOX社製)、SNシックナーA−815、SNシックナーA−818(サンノプコ(株)製)、RHEOVIS CR(一方社油脂工業(株)製)、アロンB−300K、アロンA−7070(東亞合成(株)製)、チクゾールK−150B(共栄社油脂化学工業(株)製)、アクリセット(登録商標)WR−503、アクリセットWR−650((株)日本触媒製)、ポリエーテルウレタン変性物系の増粘剤、例えばアデカノール(登録商標)UH−462、アデカノールUH−752(旭電化工業(株)製)、RHEOLATE266、RHEOLATE288(RHEOX社製)が挙げられる。増粘剤(B)として、これらの1種または2種以上を使用することができる。
ニュートン流動性付与型増粘剤(C)の具体例として、不飽和カルボン酸(共)重合体系の増粘剤、例えばプライマルASE−75、プライマルASE−95、プライマルASE−108、プライマルRM−5(ローム&ハース社製)、SNシックナーA−850(サンノプコ(株)製)、ポリエーテルポリオール系の増粘剤、例えばRHEOLATE300、RHEOLATE310、RHEOLATE350(RHEOX社製)、SNシックナーA−801、SNシックナーA−806、SNシックナーA−816(サンノプコ(株)製)、チクゾールT−210、チクゾールT−212(共栄社油脂化学工業(株)製)、ポリエーテルウレタン変性物系の増粘剤、例えばアデカノールUH−140S、アデカノールUH−420、アデカノールUH−438、アデカノールUH−472、アデカノールUH−450、アデカノールUH−540、アデカノールUH−550、アデカノールUH−541、アデカノールUH−526、アデカノールUH−530(旭電化工業(株)製)、RHEOLATE244、RHEOLATE255、RHEOLATE278(RHEOX社製)、SNシックナーA−803、SNシックナーA−804、SNシックナーA−807、SNシックナーA−812、SNシックナーA−814(サンノプコ(株)製)が挙げられる。上記のもの以外のニュートン流動性付与型増粘剤の具体例(C)として、さらに、DKシックナーSCT−200、DKシックナーSCT−270(第一工業製薬(株)製)を挙げることができる。増粘剤(C)として、これらの1種または2種以上を使用することができる。
本発明のエマルション型粘着剤組成物は、ポリマーエマルションを含有する。本発明におけるポリマーには、ホモポリマーはもとより、コポリマーや三元以上の共重合体も含まれる。本発明のポリマーエマルション(A)として、カルボキシル基含有モノマーを、モノマーの合計量100質量%中に0.1〜5質量%含む原料モノマー混合物から合成されたものが好ましい。
本発明の好ましいエマルション型粘着剤組成物は、ポリマー(A)として、ガラス転移温度(Tg)が−40℃未満である低Tgポリマーエマルション(I)を含む。この低Tgポリマーは、粗面に対する濡れ性を確保し、高い粘着力を示すための成分である。この低Tgポリマーエマルション(I)は、アルキル基の炭素数4〜12のアルキル(メタ)アクリレート(i−1)50〜99.9質量%、カルボキシル基含有モノマー(i−2)0.1〜5質量%およびその他のモノマー(i−3)0〜49.9質量%(ただし、これらのモノマーの合計量は100質量%である)からなる原料モノマー混合物(i)をラジカル重合することによって得られる。
アルキル(メタ)アクリレート(i−1)は、粘着特性の観点から、アルキル基の炭素数が4〜12であることが重要である。この炭素数は、好ましくは4〜10、より好ましくは4〜8である。上記炭素数が4未満(3以下)であるか、または、12を超える(13以上)と、粘着力およびタックが低下するおそれがある。具体的には、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの中でもブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレートおよびイソオクチルアクリレートがより好ましい。これらは、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。
このアルキル(メタ)アクリレート(i−1)は、粘着力発現のためのモノマーであり、原料モノマー混合物(i)100質量%中、好ましくは50〜99.9質量%の範囲で用いられる。より好ましくは60〜99.7質量%、さらに好ましくは70〜99.5質量%である。アルキル(メタ)アクリレート(i−1)の使用量が上記範囲内であれば、得られる粘着剤は、充分な粘着力およびタックを示すものとなるが、50質量%より少ないと、粘着力・タック・粗面被着体への濡れ性が不足するおそれがあり、99.9質量%を超えると架橋点となるカルボキシル基含有モノマー(i−2)の量が少なくなりすぎて、粘着剤の凝集力および耐水性が低下するおそれがある。
カルボキシル基含有モノマー(i−2)は、分子中に少なくとも1個のカルボキシル基と、少なくとも1個の重合性不飽和基とを有するものであればよく、(メタ)アクリル酸、ケイ皮酸およびクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびシトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸;これら不飽和ジカルボン酸のモノエステル等が挙げられ、これらのうちの1種以上を用いることができる。中でも、(メタ)アクリル酸およびイタコン酸が好ましい。このカルボキシル基含有モノマー(i−2)は、オキサゾリン系架橋剤との架橋反応点となるカルボキシル基を低Tgポリマーに導入するために用いられる。よってその使用量は、原料モノマー混合物(i)100質量%中、0.1〜5質量%が望ましい。カルボキシル基が少ないと、架橋反応の速度が遅くなったり、粘着剤が凝集力不足となるが、5質量%を超えて使用すると、粘着剤の粘着力・タック・粗面被着体への濡れ性が低下傾向となるため好ましくない。
その他のモノマー(i−3)とは、上記アルキル(メタ)アクリレート(i−1)およびカルボキシル基含有モノマー(i−2)と共重合することができ、かつ、これら以外のモノマーである。例えば、前記アルキル(メタ)アクリレート(i−1)以外のアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、フタル酸とプロピレングリコールとから得られるポリエステルジオールのモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類;アミノ基、アミド基、エポキシ基およびエーテル基等のいずれかを有する(メタ)アクリレート類;エチレンおよびブタジエン等の脂肪族不飽和炭化水素類ならびに塩化ビニル等の脂肪族不飽和炭化水素類のハロゲン置換体;スチレンおよびα−メチルスチレン等の芳香族不飽和炭化水素類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルエーテル類;アリルアルコールと各種有機酸とのエステル類;アリルアルコールと各種アルコールとのエーテル類;アクリロニトリル等の不飽和シアン化化合物;等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。中でも、水酸基含有モノマーを用いると、カルボキシル基との間で水素結合を形成し、低Tgポリマーの内部で擬似架橋のように働いて、凝集力を高めることができる。この水酸基含有モノマーは、好ましくは0.1〜10質量%(より好ましくは0.3〜8質量%、さらに好ましくは0.5〜6質量%)の範囲で使用する。
上記その他のモノマー(i−3)量は、原料モノマー混合物(i)100質量%中、0〜49.9質量%が好ましい。49.9質量%を超えると、結果的に、アルキル(メタ)アクリレート(i−1)やカルボキシル基含有モノマー(i−2)の量が少なくなるため、所望の粘着特性が得られない。より好ましい上限は40質量%、さらに好ましい上限は30質量%である。
低Tgポリマーエマルション(I)合成の際は、低Tgポリマーのガラス転移温度(Tg)が−40℃未満になるように、上記各種モノマーを選択する。ただし、Tgが−80℃より低くなると、凝集力が低下して、糊残りが起こりやすくなる傾向にあるため好ましくない。Tg(K)は、例えば、「POLYMER HANDBOOK 第3版」(John Wiley & Sons,Inc.発行)に記載された各ホモポリマーのTg(K)を基にして、下記式から簡単に求めることができ、またDSC(示差走査熱量測定)やDTA(示差熱分析)によって求めることができる。
Figure 2007070448
ここで Wn ;各単量体の質量分率
Tgn;各単量体のホモポリマーのTg(K)
なお、主要ホモポリマーのTg(℃)を示せば、ポリアクリル酸は106℃、ポリメタクリル酸は228℃、ポリメチルアクリレートは8℃、ポリエチルアクリレートは22℃、ポリブチルアクリレートは−54℃、ポリ2−エチルヘキシルアクリレートは−70℃、ポリ2−ヒドロキシエチルアクリレートは−15℃、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレートは55℃、ポリメチルメタクリレートは105℃、ポリ酢酸ビニルは32℃、ポリスチレンは100℃である。
低Tgポリマーの重量平均分子量(Mw)は、15万〜100万程度が好ましい。ただし、乳化重合されたポリマーは、若干自己架橋するため、GPCでの分子量測定が不可能になることがある。
本発明の好ましいエマルション型粘着剤組成物は、ポリマー(A)としてさらに、ガラス転移温度(Tg)が−40℃〜0℃である高Tgポリマーエマルション(II)を含む。本発明のエマルション型粘着剤組成物を皮膜化して粘着剤層を形成すると、たとえ同じアクリル系であっても低Tgポリマーと高Tgポリマーとは非相溶であり、高Tgポリマーが低Tgポリマー中に島状に分散したいわゆる海島構造を採ると考えられる。そして、被着体に貼着した後、剥離する際には、高Tgポリマーが粘着剤層の変形に対する抵抗点となって、充填剤的な働きを示すため、結果として大きな粘着力数値を示す。ただし、高Tgポリマー量が多すぎると、剥離する際の抵抗は大きくなるものの、粘着剤層を被着体に貼り付ける際、粘着剤層が被着体へ濡れようとする現象に対しても抵抗を示すため、濡れ性が不足して粗面に対する粘着力が低下してしまう。よって、低Tgポリマー(固形分)65〜80質量部に対し、高Tgポリマー(固形分)は20〜35質量部とすることが好ましい。高Tgポリマー量を上記範囲より多くしたり、Tgが0℃を超えるポリマーを用いると、段ボールのような粗面に対する粘着力が低下するため好ましくない。高Tgポリマーが少な過ぎると、添加効果が発揮されず、例えばポリオレフィン系被着体に対する粘着力が不足する。
高Tgポリマーエマルション(II)は、アルキル基の炭素数1〜12のアルキル(メタ)アクリレート(ii−1)50〜99.9質量%、カルボキシル基含有モノマー(ii−2)0.1〜5質量%およびその他のモノマー(ii−3)0〜49.9質量%(ただし、これらのモノマーの合計量は100質量%である)からなる原料モノマー混合物(ii)をラジカル重合することにより得られるものである。原料モノマーの種類と量を適宜調整して、高TgポリマーのTgを−40〜0℃に設定する。
アルキル基の炭素数1〜12のアルキル(メタ)アクリレート(ii−1)として、前記アルキル(メタ)アクリレート(i−1)に加えて、メチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらを、1種または2種以上で使用することができる。これらを、好ましくは50〜99.9質量%の量で使用する。
カルボキシル基含有モノマー(ii−2)は、前記カルボキシル基含有モノマー(i−2)と同じものが例示でき、これらは、高Tgポリマーを架橋するために用いられる。よって、低Tgポリマーの場合と同様に0.1〜5質量%の範囲で使用される。
その他のモノマー(ii−3)は、前記その他のモノマー(i−3)と同じものが例示でき、これらも低Tgポリマーの場合と同様に、好ましくは0〜49.9質量%の範囲で使用される。
低Tgポリマーエマルション(I)および高Tgポリマーエマルション(II)は、それぞれの原料モノマー混合物(i)および(ii)を別々にラジカル重合することにより得ることができる。好ましい重合方法は、乳化剤の存在下または不存在下における乳化重合法である。また、懸濁重合法のほか、塊状重合法や溶液重合法で得られたポリマーを、後分散する方法によってエマルション化しても構わない。
上記乳化重合を行う際に用い得る乳化剤としては、限定はされないが、公知の乳化剤、例えば、各種アニオン性乳化剤、各種カチオン性乳化剤および各種非イオン性乳化剤等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。乳化剤を用いる場合、その使用量は、例えば、原料モノマー混合物(i)または(ii)の合計量に対し、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。なお、必要に応じて保護コロイド類を単独または乳化剤と共に使用することもできる。また、重合可能な乳化剤、いわゆる反応性乳化剤を用いることも可能である。
上記乳化重合を行う際に用い得る重合触媒(重合開始剤)としては、限定はされないが、例えば、過硫酸アンモニウムや過酸化水素等の無機の過酸化物;t−ブチルハイドロパーオキシド等の有機の過酸化物;その他のラジカル生成重合開始剤等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。重合触媒の使用量は、原料モノマー混合物(i)または(ii)100質量部に対し、0.01〜3質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜2質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部である。重合触媒として過酸化物を使用する場合に、重合速度を調整する必要があれば、可溶性亜硫酸塩やアスコルビン酸等の還元剤あるいは硫酸第1鉄等の水中で重金属イオンを発生する金属化合物を上記過酸化物と組合せて、レドックス系の開始剤とすることができる。また、例えば、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類に代表される公知の分子量調節剤を用いてもよい。
乳化重合の反応温度は適宜設定できるが、一般に、0〜100℃であることが好ましく、より好ましくは50〜95℃、さらに好ましくは60〜90℃である。また、水系溶媒(水や、アルコール等の親水性溶媒と水との混合溶媒等)の使用量は、一般に、原料モノマー混合物(i)または(ii)100質量部に対し、300〜40質量部であることが好ましく、より好ましくは200〜40質量部、さらに好ましくは150〜40質量部である。なお、具体的な重合方法としては、例えば、モノマー滴下重合法、プレエマルシヨン滴下重合法、シード重合法および多段重合法等を挙げることができる。
本発明の好ましいエマルション型粘着剤組成物は、さらに、1分子中に2個以上のオキサゾリン基を有する水溶性架橋剤(D)を含む。水溶性架橋剤(D)を用いることで、架橋速度や架橋効率が高まり、粘着力の経時変化等の不都合を抑制することができる。このような水溶性架橋剤(D)としては、例えば、2−オキサゾリン基、3−オキサゾリン基および4−オキサゾリン基のうちの少なくとも1種を分子内に有する水溶性化合物が挙げられ、これらの中でも、分子内に2−オキサゾリン基を有する水溶性化合物が好ましい。市販品としては、(株)日本触媒製の「エポクロス(登録商標)WS−500」や「エポクロスWS−700」がある。また、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンのようなオキサゾリン基含有モノマーを、他のモノマーと共重合して水溶性ポリマー型架橋剤とすることも可能である。
この水溶性架橋剤(D)は、ポリマーエマルション(A)中の低Tgポリマーおよび高Tgポリマーがそれぞれ有するカルボキシル基の合計当量を1としたときに、水溶性架橋剤(D)のオキサゾリン基が0.005〜0.3当量となるように添加することが好ましい。水溶性架橋剤(D)が少なすぎると、架橋反応速度が遅くなったり、得られる粘着剤の凝集力が不足するが、多すぎると粘着力が不足したり、粗面に対する濡れ性が低下する。カルボキシル基1当量に対し、オキサゾリン基0.01〜0.25当量とすることがより好ましく、0.02〜0.2当量がさらに好ましい。
本発明の好ましいエマルション型粘着剤組成物は、さらに粘着付与樹脂(E)を含むが、その固形分量は、ポリマーエマルション(A)(低Tgポリマーエマルションおよび高Tgポリマーエマルションの合計)の固形分100質量部に対し、好ましくは1〜10質量部である。本発明の好ましい実施態様では、低Tgポリマーおよび高Tgポリマーの各Tgと使用量を最適範囲に設定したことで、粘着力・凝集力・タックがいずれも良好である粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物を提供することができたため、粘着付与樹脂(E)の使用量を低減することができる。より好ましい上限は8質量部、さらに好ましい上限は6質量部である。コスト的に問題がなければ、10質量部以上添加しても構わない。
粘着付与樹脂(E)としては、軟化点が60℃程度以上の樹脂が好ましく、(重合)ロジン系、(重合)ロジンエステル系、テルペン系、テルペンフェノール系、クマロン系、クマロンインデン系、スチレン樹脂系、キシレン樹脂系、フェノール樹脂系、石油樹脂系等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用できる。粘着付与樹脂(E)は、前記した乳化剤を用いてエマルション化するか、エマルションタイプの市販品、例えば、荒川化学工業(株)製の「スーパーエステル(登録商標)E」シリーズ等を用いることができる。
本発明のエマルション型粘着剤組成物の製造方法については、限定はされず、例えば、低Tgポリマーエマルション(I)および高Tgポリマーエマルション(II)を合成した後に混合し、必要に応じて固形分を水系溶媒の増減等により調整した後、これに増粘剤(B)、増粘剤(C)、水溶性架橋剤(D)および粘着付与樹脂(E)を加えることにより得る方法や、乳化重合等により得られた低Tgポリマーおよび高Tgポリマーを一旦ろ過等により単離し、水系溶媒に分散(再分散)させるとともに、これに増粘剤(B)、増粘剤(C)、水溶性架橋剤(D)および粘着付与樹脂(E)を加えることにより得る方法等が挙げられる。
本発明のエマルション型粘着剤組成物は、保存安定性(一液での保存安定性)をより高めるなどの理由により、必要に応じて、例えばアンモニア等の塩基性物質(pH調整剤)を添加し、pHを7〜10に調整しておくことが好ましい。このようにpHを調整しておくことで、水溶性架橋剤(D)が有するオキサゾリン基と、低Tgポリマーや高Tgポリマーが有するカルボキシル基との反応による架橋構造の形成が、本発明の組成物を(塗工した後等)乾燥するときまで効果的に抑制できるからである。その結果、本発明の組成物の長期にわたる保存安定性(一液での保存安定性)をより一層高めることができる。塩基性物質の添加時期は、限定はされないが、水溶性架橋剤(D)をエマルションに添加する前に、添加しておくのが好ましい。
本発明のエマルション型粘着剤組成物の固形分は、特に限定はされないが、例えば、25〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは33〜70質量%、さらに好ましくは40〜70質量%である。上記含有割合が、25質量%未満であると、塗工した後等の乾燥が長時間となり、生産性が低下するおそれがある。また、70質量%を超えると、組成物の粘度を本発明に必要な範囲に調整することが困難となり、ハンドリング性および塗工性に欠け、実用性に乏しくなるおそれがある。
本発明のエマルション型粘着剤組成物には、公知の架橋剤、粘着付与剤、湿潤剤、粘性調節剤、増粘剤、消泡剤、改質剤、顔料、着色剤、充填剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で加えてもよい。
本発明のエマルション型粘着剤組成物は、粘着製品、殊に粘着シートの製造に用いられる。例えば、プラスチックフィルム、紙、不織布、発泡体等の基材あるいは離型紙の上に粘着剤組成物を塗工し、その乾燥皮膜を形成することによって、基材の片面に粘着剤層が形成されている粘着製品(粘着テープまたはシート)、基材の両面に粘着剤層が形成されている粘着製品、基材を有しない粘着剤層のみの粘着製品を得ることができる。加熱に弱いプラスチックフィルム基材や発泡体基材、あるいは水分を吸収し易い紙基材や不織布基材の粘着製品を製造する場合は、離型紙の上に粘着剤組成物を塗工し、粘着剤層を形成した後、該基材に転写する方法を採用できる。粘着剤層の形成にあたっては、水が飛散する条件(例えば100〜120℃で60〜180秒程度)での加熱乾燥を行うことが望ましい。
前記のような粘度特性を有する本発明のエマルション型粘着剤組成物は、粘着製品、殊に粘着シートを高速塗工により製造するために好適である。本発明のエマルション型粘着剤組成物を基材、殊に離型紙の上に塗工する速度は、好ましくは200m/min以上、より好ましくは250m/min以上、さらに好ましくは300m/min以上で、好ましくは600m/min以下、より好ましくは550m/min以下、さらに好ましくは500m/min以下である。このような高速で本発明のエマルション型粘着剤組成物を基材上に塗工しても、気泡の混入が少なく、はじき、ちぢみ、かすれ、粘着剤の抜け(非塗工部分の発生)の無い高品質な粘着剤層を形成することができる。そのため本発明により得られる粘着製品、殊に本発明の粘着シートは、より優れた粘着特性を発揮することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
なお、以下の合成例および実施例では、特にことわりがない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を表す。
[ポリマーエマルションのTg]
以下の合成例でそれぞれ製造したポリマーエマルションのTg(℃)の値は、POLYMER HANDBOOK 第3版」(John Wiley & Sons,Inc.発行)に記載された各ホモポリマーのTg(K)に掲載されているホモポリマーのTg(K)の値から、前述の数式を用いて計算した。
[増粘剤の重量平均分子量]
実施例で使用した増粘剤の重量平均分子量を、GPCで測定した。測定条件および測定された重量平均分子量の値を以下に記載する。
(1)チキソトロピー付与型増粘剤(B)
増粘剤:ローム&ハース社製「プライマル(登録商標)ASE−60」
注入試料:テトラヒドロフラン溶液(増粘剤固形分濃度0.2%)
試料溶液フィルター:東ソー製「マイショリディスク H−13−5」(0.45μm)
注入量150μl
測定装置:東ソー製「HLL−8120GPC」
カラム:東ソー製「TSK−GEL G5000HXL」および「TSK−GEL GMHXL−L」の連結カラム
移動相:テトラヒドロフラン
標準:ポリスチレン
増粘剤(B)の重量平均分子量:23,500,000
(2)ニュートン流動性付与型増粘剤(C)
増粘剤:旭電化工業(株)製「アデカノール(登録商標)UH−420、UH−526、UH−540」
注入試料:テトラヒドロフラン溶液(増粘剤固形分濃度0.2%)
試料溶液フィルター:倉敷紡績株式会社製「クロマトディスク 13N」(0.45μm)
注入量150μl
測定装置;ポンプ:Waters N62011、コントローラー:Waters 600、検出器:Waters 410
カラム:Polymer Laboratories Inc.製「PLgel 10μm MIXED−B」
移動相:テトラヒドロフラン
標準:ポリスチレン
増粘剤(C)の重量平均分子量;
アデカノールUH−420:29,000
アデカノールUH−526:29,000
アデカノールUH−540:42,000
合成例1(ポリマーエマルション(A)の合成)
ビーカーに、ブチルアクリレート92部、メチルメタクリレート4部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3部、アクリル酸1部と、乳化剤として「ハイテノール(登録商標)LA−16」(第一工業製薬(株)製;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)1.5部と、t−ドデシルメルカプタン0.02部と、脱イオン水30部とを入れ、撹拌してプレエマルションを作製した。
次いで撹拌機、温度計、還流冷却器、滴下ロートおよび窒素ガス導入管を備えたフラスコに、脱イオン水24部を仕込み、窒素置換して70℃に昇温した。ここに、過硫酸アンモニウムの10%水溶液0.2部と、重亜硫酸水素ナトリウムの10%水溶液0.2部とを添加した後、前記プレエマルションを3時間かけて滴下すると共に、並行して過硫酸アンモニウムの10%水溶液3.8部と重亜硫酸水素ナトリウムの10%水溶液3.8部とを滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、70℃で3時間熟成した後、室温まで冷却し、固形分62.0%、Tg−49℃のポリマーエマルション(A)を得た。
実施例1
ポリマーエマルション(A)100部に、消泡剤「ノプコ8034」(サンノプコ(株)製)0.3部を添加した後、25%のアンモニア水で中和し、さらにオキサゾリン基を有する水溶性架橋剤「エポクロス(登録商標)WS−700」((株)日本触媒製)0.5部、湿潤剤「ペレックス(登録商標)OT−P」(花王(株)製)0.5部、粘着付与樹脂「スーパーエステル(登録商標)E−788」(荒川化学工業(株)製)6.2部、チキソトロピー付与型増粘剤(B)「プライマル(登録商標)ASE−60」(ローム&ハース社製)0.9部、ニュートン流動性付与型増粘剤(C)「アデカノール(登録商標)UH−420」(旭電化工業(株)製)0.8部を順次添加しながら混合して、固形分60.5%、pH8.0のエマルション型粘着剤組成物を得た。
得られたエマルション型粘着剤組成物の低剪断粘度(η1)を、25℃でBM型粘度計(No.4ローター使用、12rpm)にて測定し、増速過程における剪断速度5,000s-1での高剪断粘度(η2)および減速過程における剪断速度10,000s-1での高剪断粘度(η3)を、20℃で、熊谷理機工業(株)製ハーキュレス高剪断粘度計(Fボブ使用)にて10秒間で8,800rpmまで増速した後、10秒間で0rpmまで減速させる過程で測定した(測定間隔0.1秒)。得られた結果を表1に示す。
次にこのエマルション型粘着剤組成物を、リップコーター((株)ヒラノテクシード製)にて乾燥後の塗工量が18g/m2となるように、離型紙「K−80HS」((株)サンエー化研製)上に350m/minの速度で塗工し、高速塗工性(塗工面の状態、即ちはじき、微細気泡、かすれ、粘着剤の抜け(非塗工部分)の有無)を調べた。得られた結果を表1に示す。
実施例2および比較例1〜3
表1に示す種類および量の増粘剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエマルション型粘着剤組成物を得て、粘度および高速塗工性を調べた。得られた結果を表1に示す。
Figure 2007070448
表1の結果から示されるように、本発明の要件を満たす実施例1および2では、塗工面において、はじき、微細起泡、かすれ、粘着剤の抜けのいずれも認められず、良好な粘着剤層が形成されており、本発明のエマルション型粘着剤組成物は高速塗工性に優れている。
一方、比較例1〜3は、良好な高速塗工性を示さなかった。具体的には、低剪断粘度(η1)が低い比較例1では、はじきが多数生じ、増速過程における剪断速度5,000s-1での高剪断粘度(η2)が高い比較例2では、かすれおよび粘着剤の抜けが生じ、減速過程における剪断速度10,000s-1での高剪断粘度(η3)が低い比較例では、微細気泡およびかすれが生じた。
合成例2(低Tgポリマーエマルション(I)の合成)
ビーカーに、2−エチルヘキシルアクリレート45部、ブチルアクリレート53.4部、メチルメタクリレート1部、アクリル酸0.6部と、乳化剤として「エマルゲン(登録商標)1150S−70」(花王(株)製;ポリオキシエチレンアルキルエーテル)1.4部および前記「ハイテノールLA−16」1部と、脱イオン水28部とを入れ、撹拌してプレエマルションを作製した。
次いで撹拌機、温度計、還流冷却器、滴下ロートおよび窒素ガス導入管を備えたフラスコに、脱イオン水23部を仕込み、窒素置換して70℃に昇温した。ここに、過硫酸アンモニウムの10%水溶液0.18部と、重亜硫酸水素ナトリウムの10%水溶液0.18部とを添加した後、前記プレエマルションを3時間かけて滴下すると共に、並行して過硫酸アンモニウムの10%水溶液5部と重亜硫酸水素ナトリウムの10%水溶液5部とを滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、70℃で3時間熟成した後、室温まで冷却し、固形分62.9%、Tg−61℃の低Tgポリマーエマルション(I)を得た。
合成例3(高Tgポリマーエマルション(II)の合成)
ビーカーに、ブチルアクリレート55部、メチルメタクリレート43部、アクリル酸2部と、乳化剤として「ハイテノールNF−17」(第一工業製薬(株)製;ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム)1部と前記「ハイテノールLA−16」0.5部、および脱イオン水26部とを入れ、撹拌してプレエマルションを得た。
次いで撹拌機、温度計、還流冷却器、滴下ロートおよび窒素ガス導入管を備えたフラスコに、脱イオン水26部を仕込み、窒素置換して70℃に昇温した。ここに、過硫酸アンモニウムの10%水溶液0.18部と、重亜硫酸水素ナトリウムの10%水溶液0.18部とを添加した後、前記プレエマルションを3時間かけて滴下すると共に、並行して過硫酸アンモニウムの10%水溶液5部と重亜硫酸水素ナトリウムの10%水溶液5部とを滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、70℃で3時間熟成した後、室温まで冷却し、固形分62.6%、Tg−5℃の高Tgポリマーエマルション(II)を得た。
実施例3
ポリマーエマルション(A)としてポリマーエマルション(I)80.0部およびポリマーエマルション(II)20.0部を均一に混合し、得られた混合ポリマーエマルション100部に、前記消泡剤「ノプコ8034」0.3部を添加した後、25%のアンモニア水で中和し、さらに前記水溶性架橋剤「エポクロスWS−700」1.0部、前記湿潤剤「ペレックスOT−P」0.5部、前記粘着付与樹脂「スーパーエステルE−788」5.0部、チキソトロピー付与型増粘剤(B)「プライマルASE−60」(ローム&ハース社製)0.7部、ニュートン流動性付与型増粘剤(C)として「アデカノールUH−420」1.2部および「アデカノールUH−526」0.6部(共に旭電化工業(株)製)を順次添加しながら混合して、エマルション型粘着剤組成物を得た。得られたエマルション型粘着剤組成物の粘度および高速塗工性を実施例1と同様に調べた。得られた結果を表2に示す。また実施例3で得られたエマルション型粘着剤組成物の高剪断粘度の測定グラフを図1に示す。
実施例4および比較例4〜6
表2に示す種類および量の増粘剤を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてエマルション型粘着剤組成物を得て、粘度および高速塗工性を調べた。得られた結果を表2に示す。また比較例5および6で得られたエマルション型粘着剤組成物の高剪断粘度の測定グラフを図1に示す。
Figure 2007070448
表2の結果から、本発明の要件を満たす実施例3および4では、塗工面におけるはじき、微細起泡、かすれ、粘着剤の抜けのいずれも認められず、本発明のエマルション型粘着剤組成物は高速塗工性に優れることが分かる。一方、比較例4〜6は、良好な高速塗工性を示さなかった。
実施例3並びに比較例5および6で得られたエマルション型粘着剤組成物の高剪断粘度の測定グラフである。

Claims (8)

  1. 低剪断粘度(η1)が5,000〜20,000mPa・sであり、増速過程における剪断速度5,000s-1での高剪断粘度(η2)が350mPa・s以下であり、減速過程における剪断速度10,000s-1での高剪断粘度(η3)が120mPa・s以上であることを特徴とするエマルション型粘着剤組成物。
  2. ポリマーエマルション(A)、並びにポリマーエマルション(A)の固形分100質量部に対して、固形分換算で0.1〜10質量部のチキソトロピー付与型増粘剤(B)、および固形分換算で0.1〜10質量部のニュートン流動性付与型増粘剤(C)を含む請求項1に記載のエマルション型粘着剤組成物。
  3. チキソトロピー付与型増粘剤(B)の重量平均分子量が、300,000以上である請求項2に記載のエマルション型粘着剤組成物。
  4. ニュートン流動性付与型増粘剤(C)の重量平均分子量が、500,000未満である請求項2または3に記載のエマルション型粘着剤組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のエマルション型粘着剤組成物を用いて製造されたことを特徴とする粘着シート。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のエマルション型粘着剤組成物を、塗工速度200〜600m/minでシートに塗工することを特徴とする粘着シートの製造方法。
  7. エマルション型粘着剤組成物の低剪断粘度および高剪断粘度を測定し、
    低剪断粘度(η1)が5,000〜20,000mPa・sであり、増速過程における剪断速度5,000s-1での高剪断粘度(η2)が350mPa・s以下であり、減速過程における剪断速度10,000s-1での高剪断粘度(η3)が120mPa・s以上であるエマルション型粘着剤組成物が、高速塗工に好適であると判定することを特徴とするエマルション型粘着剤組成物の高速塗工性の判定方法。
  8. 請求項7に記載の方法で高速塗工に好適であると判定したエマルション型粘着剤組成物を、塗工速度200〜600m/minでシートに塗工することを特徴とする粘着シートの製造方法。
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