JP2007064916A - 抗凝固活性を有する薬剤の評価方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 抗凝固活性を有する薬剤の新規評価方法の提供。
【解決手段】 本発明は、血小板を含んだ試料に、抗凝固活性を有する又は有すると予想される試験薬剤を添加し、当該血小板から放出される内因性セロトニンの量を測定することを特徴とする、抗血小板活性及び/又は抗凝固活性を持つ薬剤の評価方法を提供する。
【選択図】 なし
【解決手段】 本発明は、血小板を含んだ試料に、抗凝固活性を有する又は有すると予想される試験薬剤を添加し、当該血小板から放出される内因性セロトニンの量を測定することを特徴とする、抗血小板活性及び/又は抗凝固活性を持つ薬剤の評価方法を提供する。
【選択図】 なし
Description
本発明は、血小板からの内因性セロトニン放出を指標とした、抗凝固活性を有する薬剤の評価方法に関する。
動脈硬化が主たる原因である冠動脈疾患、脳血管障害などの治療において、血液の抗凝固活性を有する薬剤はよく使われている。代表的な薬剤としては、血漿中のアンチトロンビンIIIと複合体を形成し、抗トロンビン作用、抗Xa因子作用など強力な抗凝固作用を示すヘパリン、血小板の活性化を阻害するアスピリンなどがある。このような抗凝固活性を有する薬物のスクリーニングおよび性能を評価するための方法は医療及び臨床検査などの分野などにおいて重要視されている。
抗凝固活性を有する薬剤の評価方法では、まずクエン酸3ナトリウムにより凝固を抑制した血小板を含んだ血漿にかかる薬剤を入れ、エピネフリンとADP(アデノシン2燐酸)を入れてから攪拌することにより凝集を開始させる工程を行う。そして、濁度により凝集の進み方をモニターすることにより抗凝固活性の評価を行う方法がある(Goto S et al,J Clin Invest,1998,101,p479(非特許文献1))。凝集を活性化させるものとしては、エピネフリンとADP以外に、カルシウムイオン、コラーゲン、セロトニンなどが挙げられる。また、血小板の活性化を阻害する薬剤の評価方法としては、まず得られた血小板を含んだ血漿から血小板を取り出し、緩衝液中に再度懸濁し、かかる薬剤を入れ、次いでカルシウムイオンを入れてから攪拌することによりずり応力に暴露し、凝集を開始させる方法が挙げられる(非特許文献1)。この場合、凝集を活性化させる試薬を入れずに、ずり応力に暴露するだけでも凝集を開始することも出来る(Goto S et al,Circulation,2002,105,p2531(非特許文献2))。そして、透過光や散乱光の変化により凝集の進み方をモニターし、抗凝固活性の評価を行う。レーザー光を用いると、その透過光の変化は凝集塊の数を反映する。
これらの方法は、凝固の進み具合について時間を追って簡単にモニター出来る利点があるものの、加えた薬物の種類および濃度により、その凝集曲線の形は異なり、定量的に評価するのは困難である。結果を定量的に表す場合には、一定時間後の濁度を凝集の測定値として用いるが、実験条件により凝集曲線が交わる場合があり、時間によりその凝集度の順が逆転することがある。
凝固曲線の形が多様化する理由の1つとしては、凝集の進み方として、小さな塊が出来、更にそれらが凝集して大きな塊になるところに起因する。光源としてレーザーを用いた場合を例にとると、大きく分けて次の2つのパターンが考えられる。なお、前述したようにレーザー光源を用いた場合には、凝集塊の個数が凝集度に反映される。
パターン1;最初の段階で小さな凝集塊が出来て、少し時間をおいて、それらがさらに結合し大きな凝集塊が形成される。この場合、凝集曲線は、ある一定時間まで上昇するが、大きな凝集塊が形成される時間においては、凝集塊の数が減少するため、凝集曲線は下降する。
パターン2:小さな凝集塊が出来ながら、大きな凝集塊も早い段階から形成が始まる。この場合には、凝集曲線はある値まで上昇し、その後は一定となる。
パターン1;最初の段階で小さな凝集塊が出来て、少し時間をおいて、それらがさらに結合し大きな凝集塊が形成される。この場合、凝集曲線は、ある一定時間まで上昇するが、大きな凝集塊が形成される時間においては、凝集塊の数が減少するため、凝集曲線は下降する。
パターン2:小さな凝集塊が出来ながら、大きな凝集塊も早い段階から形成が始まる。この場合には、凝集曲線はある値まで上昇し、その後は一定となる。
このことが原因で、薬剤の種類及びその濃度により、小さな塊が生ずることを主体に抗凝集活性を阻害するのか、大きな塊が生ずることを主体に抗凝集活性を阻害するのかで、その凝集曲線の形が変化する。
コラーゲンで表面を覆ったプレートの表面上に血小板を含んだ試料を流し、プレート表面に現れた凝集塊を観察することにより凝集度の進み具合を評価する方法もある(Abulencia JP et al,Arteriosler Thromb Vasc Biol,2001,21,p149(非特許文献3))。
この方法では、プレート上の凝集塊の面積、高さ、体積などを基準に凝集度の定量化を行えるが、この測定方法は煩雑であり、特別な装置が必要であるという欠点を有する。
C14の含んだ放射同位体を含んだセロトニンで血小板を処理してそれに取り込ませ、この血小板を緩衝液または血漿に再度懸濁し、そして評価すべき薬物および凝集を活性化する試薬を入れ、その際に血小板から放出される放射同位体量を測定することにより薬剤の動態を評価する方法がある(Joseph A et al,Blood,1990,75,p399(非特許文献4); Lassila R et al,Arteriosler Thromb Vasc Biol,1997,17,p3578(非特許文献5))。
しかしながら、この方法は、血小板に放射同位体の含んだセロトニンを取り込ませるためのインキュベート処理する必要がある。また、実験に用いる血小板は凝集実験に用いるために完全に不活化させることができないため、インキュベートの際に少なからず血小板の活性化が亢進される。また、血小板表面にはセロトニンを取り込むトランスポーター以外にセロトニンリセプターがあり、加えたセロトニンがこのセロトニンリセプターを介して血小板を活性化する。このような活性化の進んだ血小板を用いた薬剤の評価結果は、生体内での薬剤の動態を反映しない可能性が高い。
J. Clin. Invest., 1998, 101, p479
Circulation, 2002, 105, p.2531
Arteriosler. Thromb. Vasc. Biol., 2001, 21, p.149
Blood, 1990, 75, p.399
Arteriosler. Thromb. Vasc. Biol., 1997, 17, p.3578
Clin. Biochem, 2004, 37, p.191
本発明は、従来の抗凝固活性を有する薬剤の評価方法のもつ欠点、即ち、定量化が困難であるとか、高度で複雑な設備や面倒な操作を必要とするといった問題の解消された、新規の抗凝固活性を有する薬剤の評価方法の提供を課題とする。
凝集塊は血小板が活性化し、フィブリンを介して互いに結合することにより生ずる。血小板は活性化するときに、α顆粒と濃染顆粒からさまざまな物質を放出する。α顆粒中の物質は、血小板中の蛋白質のリン酸化による活性化のみによって血小板から放出されるが、濃染顆粒からの放出は、リン酸化だけでなく血小板中へのカルシウムイオンの流入が必要である。
我々は、凝集を定量化するために血小板から放出する物質に注目し、そしてキレート剤による処理のみでコントロールすることの出来る濃染顆粒から放出される凝固活性を有する生理活性物質に注目したところ、数あるそのような生理活性物質の中で、セロトニンに限り、抗凝固活性を有する薬剤の定量評価の指標として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本願は以下の発明を包含する。
(1)血小板を含んだ試料に由来する血漿試料に、抗凝固活性を有する又は有すると予想される試験薬剤を添加し、当該血小板から放出される内因性セロトニンの量を測定することを特徴とする、抗血小板活性及び/又は抗凝固活性を持つ薬剤の評価方法。
(2)前記血小板を含んだ試料に凝固促進する試薬をさらに添加する、(1)の方法。
(3)前記血小板を含んだ試料が抗凝固剤を添加することで血小板の凝固活性を阻害したものである、(1)又は(2)の方法。
(4)前記抗凝固剤がクエン酸3ナトリウム及びエチレンジアミン4酢酸2カリウムからなる群から選択される、(3)の方法。
(5)抗凝固活性を有する薬剤を入れた場合と入れない場合について、血小板から放出される内因性セロトニンの量を測定し、比較することにより評価を実施する、(1)〜(4)のいずれかの方法。
(1)血小板を含んだ試料に由来する血漿試料に、抗凝固活性を有する又は有すると予想される試験薬剤を添加し、当該血小板から放出される内因性セロトニンの量を測定することを特徴とする、抗血小板活性及び/又は抗凝固活性を持つ薬剤の評価方法。
(2)前記血小板を含んだ試料に凝固促進する試薬をさらに添加する、(1)の方法。
(3)前記血小板を含んだ試料が抗凝固剤を添加することで血小板の凝固活性を阻害したものである、(1)又は(2)の方法。
(4)前記抗凝固剤がクエン酸3ナトリウム及びエチレンジアミン4酢酸2カリウムからなる群から選択される、(3)の方法。
(5)抗凝固活性を有する薬剤を入れた場合と入れない場合について、血小板から放出される内因性セロトニンの量を測定し、比較することにより評価を実施する、(1)〜(4)のいずれかの方法。
凝集塊の主体である血小板から放出されるものであれば、凝集塊の大きさは関与せずに、凝集した血小板数を反映することにより、抗凝固活性を有する薬剤をより定量的に評価出来る。そして、本方法は、遠心分離機、ずり応力に暴露するための攪拌装置があればよく、比較的簡便である。また、血小板を含んだ試料に試験薬剤を添加後、血小板を除去した試料から、セロトニン測定のみを行う場合については、セロトニンを測定する試薬および機器を準備して測定してもよいし、外部の分析機関に依頼することも出来る。
また、本方法の特徴は、得られた血液を遠心分離することにより血小板を含んだ試料を採取し、放射同位体を含んだセロトニンを血小板に取り込ませるなどの処理することなく、実験に供することができる点にある。この放射標識したセロトニンによる血小板の前操作は、血小板の活性化を亢進させ、評価精度を低下させる。本発明によれば内因性セロトニンの量を測定するために、標識したセロトニンによる血小板の処理が必要ないため、より生体内に近い条件で薬物の動態を反映する結果が得られる。
上述のとおり、本発明は、血漿試料に由来する血小板を含んだ試料に、抗凝固活性を有する又は有すると予想される試験薬剤を添加し、当該血小板から放出される内因性セロトニンの量を測定することを特徴とする、抗血小板活性及び/又は抗凝固活性を持つ薬剤の評価方法、に関する。
具体的には、採血した血液に、クエン酸塩、例えばクエン酸3ナトリウムやエチレンジアミン4酢酸、例えばエチレンジアミン4酢酸2カリウムなどの血小板の凝固活性を阻害するのに有効なキレート系の抗凝固剤を、血小板の凝固活性を阻害するのに有効な量において加えることで血小板の凝固活性を阻害し、次いで遠心分離(例えば120gで15分)などにより活性の阻害された血小板を含んだ試料を得る。また、その血小板を含んだ試料をさらに遠心分離(例えば200gで20分)などにより血小板のみを沈殿画分として取得し、緩衝液(例えば135mmol/l食塩+12mmol/l炭酸1水素2ナトリウム+2.9mmol/l塩化カリウム+0.36mmol/lリン酸2水素1ナトリウム+1mmol/l塩化マグネシウム+5mmol/l HEPES+5mmol/lグルコース pH7.4)に懸濁して血小板を含んだ試料として用いても良い。また、キレート系の抗凝固剤を加えた、採血した血液をそのまま用いても良い。血液は、ヒト、あるいはその他の温血動物、例えばサル、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、などから採血したものであってよい。血小板の凝固活性を阻害するのに有効な他のキレート化剤としては、特に限定することなく、クエン酸3ナトリウム以外の他のクエン酸塩、エチレンジアミン4酢酸2カリウム以外の他のエチレンジアミン4酢酸塩、ジアミノプロパノール4酢酸あるいはその塩、ジアミノプロパン4酢酸あるいはその塩、エチレンジアミン2酢酸あるいはその塩、エチレンジアミン2プロピオン酸あるいはその塩などが挙げられる。また、血小板の凝固活性を阻害するのに有効なキレート系の抗凝固剤の使用量は、使用する抗凝固剤の種類にも依存するが、3.8%のクエン酸3ナトリウム溶液を血液試料に加えるのであれば、血液試料に対し10〜20%容量を、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウムを血液試料に加えるのであれば、全体で1〜5mg/mlになるように加えることが、適当であろう。
これらの血小板を含んだ試料に、抗凝固活性を評価すべき薬剤又は抗凝固活性を示す可能性がある候補薬剤を入れ、更にエピネフリン、ADP、カルシウムイオン、コラーゲン、外因性セロトニンなどといった凝固活性を促進又は刺激する試薬を任意的に混合する。または、これらの凝固活性を促進又は刺激する試薬は入れなくともよい。凝固活性を促進又は刺激する試薬として外因性セロトニンを用いる場合には、最初の投入量との差により内因性セロトニンの放出量を算出するが、測定精度が低下するため、セロトニン以外の物質を入れるか、または凝固活性を促進又は刺激する試薬を全く入れないことが望ましい。
この混合試料を、攪拌などにより、ずりに一定時間暴露し、その後遠心分離などにより血小板を除去して、その中の内因性セロトニン濃度をHPLC法(Hirowatari Y et al,Clin Biochem,2004,37,p191(非特許文献6))やイムノアッセイ(例えば、MP BIOMEDICALS社から市販されているSerotonin ELISAキット)などにより定量することにより、その凝固の進み具合(凝集度)を確認することが出来る。凝集活性を亢進させるために攪拌を用いる場合には、その攪拌によるずり環境への暴露は特に制限されるものではないが、例えば、血小板を含有する試料を円錐平板回転粘度計内において適当なずり速度、例えば100〜50,000s-1、好ましくは1,000〜20,000s-1程度のずり速度に、適当な時間、例えば10秒〜30分、好ましくは1分〜10分程度曝露することにより行う。また、1〜100μm程度の内径のキャピラリー配管に一定時間測定試料を流し、血小板の凝集活性を亢進させることもできる。例えば、シリコン単結晶基板に加工したキャピラリー流路を持つセルを有した装置が販売されている(細胞マイクロレオロジー測定装置MCFANKHシリーズ、日立原町電子工業株式会社製)。また、5mm程度の筒状のセルを持ち、セル中をマグネットスターラにより、単に攪拌するような血小板凝集測定装置を用いて、測定試料の凝集活性を亢進させても良い(例えば、コーワPA−200、興和株式会社製)。一定時間放置して凝集活性を亢進させる時には、通常、凝集活性を亢進させるために、攪拌、細い流路を流すなどの操作を行ってよいが、ただ放置してもかまわない。そして、投入する薬剤を加える、加えない、加える濃度を変更させたりするなどして試験条件を変え、比較検討することでその薬剤の抗凝固活性の評価を行うことが出来る。また、凝固を開始する前と、開始して一定時間たった時点での比較を行ったり、凝固を開始してからの時間を変え、血小板からの放出するセロトニンの変化量により薬物の評価を行うことも出来る。また、この方法は、抗凝固活性を有する候補薬物のスクリーニングにも使用することが出来る。
抗凝固剤としてのクエン酸ナトリウムの使用は、in vitro系の凝固研究において使用する血漿や血小板を採取する際によく使われる抗凝固剤であり、過去のデータの蓄積があることから、実験結果の解釈が容易に行える利点がある。しかしながら、クエン酸3ナトリウムはキレート化力の弱いキレート剤であり、それによる処理では血小板からのセロトニンの放出は完全には止まらない。血液から実験に用いる血小板を含んだ試料を取得する場合には、クエン酸3ナトリウムを用いることは、完全に血小板の活性を止めないで取得できるので、その後に抗凝固活性を有する薬剤の評価を行うために、再度血小板の活性化を促すことが容易であり、利点があるが、セロトニンを測定するための試料を作成する際に、遠心分離などで血小板を除去する時には、更にEDTA2Kなどの強いキレート剤をいれ、血小板からのセロトニンの放出を止めてから操作を行うことが望ましい。
実施例1
2人の健常人から得た血液に抗凝固剤として血液に対して10%容量の3.8%クエン酸3ナトリウム溶液を加える。そして、4℃にて、120g、15分間、遠心し、血小板を含んだ試料を得た。これら血小板を含んだ試料に、何も加えない場合(実験条件1)、フィブリノーゲン、vWF分子と血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIa複合体の結合を阻害する抗体であるLJ−CP8を終濃度4mg/mlを加えた場合(実験条件2)、LJ−CP8終濃度4mg/mlに加えて、vWFと血小板表面にあるGPIb/IX複合体との結合を阻害する抗体LJ−P3終濃度1mg/mlの両者を加えた場合(実験条件3)、フィブリノーゲン、vWFと血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIa複合体との結合、ヒドロネクチンと血小板膜上のインテグリンαvβ3の結合を阻害する抗体でもある血小板凝集阻害剤ABCIXIMAB 2mg/mlを加えた場合(実験条件4)、ADPにより血小板が活性化されるレセプターを阻害する分子AR−C69931MCを10μmol/mlを加えた場合(実験条件5)について、血小板膜表面上における凝固活性を刺激するために血小板を円錐平板回転粘度計内において10,800s-1のずり速度に6分間曝露しながら、レーザー光を用い透過光をモニターすることにより、凝集度を評価した(図1、図2)(Goto S et al,Circulation,2002,105,p2531)。
2人の健常人から得た血液に抗凝固剤として血液に対して10%容量の3.8%クエン酸3ナトリウム溶液を加える。そして、4℃にて、120g、15分間、遠心し、血小板を含んだ試料を得た。これら血小板を含んだ試料に、何も加えない場合(実験条件1)、フィブリノーゲン、vWF分子と血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIa複合体の結合を阻害する抗体であるLJ−CP8を終濃度4mg/mlを加えた場合(実験条件2)、LJ−CP8終濃度4mg/mlに加えて、vWFと血小板表面にあるGPIb/IX複合体との結合を阻害する抗体LJ−P3終濃度1mg/mlの両者を加えた場合(実験条件3)、フィブリノーゲン、vWFと血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIa複合体との結合、ヒドロネクチンと血小板膜上のインテグリンαvβ3の結合を阻害する抗体でもある血小板凝集阻害剤ABCIXIMAB 2mg/mlを加えた場合(実験条件4)、ADPにより血小板が活性化されるレセプターを阻害する分子AR−C69931MCを10μmol/mlを加えた場合(実験条件5)について、血小板膜表面上における凝固活性を刺激するために血小板を円錐平板回転粘度計内において10,800s-1のずり速度に6分間曝露しながら、レーザー光を用い透過光をモニターすることにより、凝集度を評価した(図1、図2)(Goto S et al,Circulation,2002,105,p2531)。
血小板をずりの環境に曝露する前後の測定試料に100mMエチレンジアミン4酢酸2ナトリウムの溶液を5%容量入れ、遠心分離(1500g、15分間、4℃)にて血小板を含まない血漿を取得し、その中のβトロンボグロブリン(βTG)、血小板第4因子(PF4)、セロトニン濃度を測定した。セロトニンの測定方法は、Hirowatari Y et al,Clin Biochem,2004,37,p191に記載された方法により行なった(表3)。βトロンボグロブリン(βTG)(表1)、血小板第4因子(PF4)(表2)の定量評価は、ロッシュ社のイムノアッセイキット(アセラクロムβTG、アセラクロムPF4)を用いて行なった。
凝集曲線の6分間の凝集度(図1、図2)を見ると、コントロール(実験条件1)に比べ、LJ−CP8を加えた実験条件2ではやや低下傾向を示し、LJ−CP8+LJ−P3を加えた実験条件3では更に低下傾向を示している。抗凝固活性を有する薬剤として、生体内においては、ABCIXIMAB(No authors,Circulation,2000,101,p2788)とAR−C69931MC(Jacobsson F et al,Clin Ther,2002,24,p752)は、過去の患者に対する投与実験から推測すると、有効性はABCIXIMABの方が高い。
しかしながら、レーザー光によるモニターによる凝集度の評価においては、健常人Aでは、ABCIXIMAB添加(実験条件4)より、AR−C69931MC添加(実験条件5)の方が凝集度は低く、凝固阻害がより高いという結果になった(図1)。そして、健常人Bについては、6分後においてはABCIXIMAB添加(実験条件4)の方が低下傾向にあったが、2.4分ではAR−C69931MC(実験条件5)の方が低下傾向にあった(図1,2)。この図2のAR−C69931MC(実験条件5)の凝集曲線の解釈としては、約1分後までは小さい凝集塊が出来て、それ以後、その凝集塊がさらに凝集して大きな凝集塊になることにより約2.4分まで凝集曲線は下降している。その後、攪拌する力により、再度、大きな凝集塊がくずれて細かくなっているのであろうと推定される。このことから、添加した薬剤の影響により約1.2分から約2.4分に形成された比較的大きな凝集塊はもろい凝集塊なのであろうと推定される。
ずりに曝露する前(share−)と、ずりに曝露した後(share+)に得られた、遠心分離により血小板を含まない血漿について、βTG、PF4、セロトニンを測定した。攪拌(ずり)前後の差を算出し、薬物を添加しない実験条件1(Control)を100%として他の実験条件を計算したところ(%値が低いほど凝固阻害が高いことになる。)、βTGではAR−C69931MC添加(実験条件5)において凝固阻害が高く、PF4でも同様であり、セロトニンにおいてはABCIXIMAB(実験条件4)において凝集阻害が高かった(表1)。このことは、セロトニンの放出量を評価することにより、生体内に近い条件で薬剤の評価が行えることを示している。また、レーザー光によるモニターでAR−C69931MCにおいて阻害率が高かったのは、AR−C69931MCが大きな凝集塊の形成をより強く阻害していると考えられる。これは、前述したように、凝集曲線の形からも推測される。また、βTG,PF4の測定において、ABCIXIMABの凝固阻害が高くなかった(放出量が少なくなかった)理由は、測定試料の保存において、α顆粒から放出されるβTGやPF4はクエン酸3ナトリウムにより放出を抑えられないことから、これが誤差要因となり正確な凝固阻害が評価出来なかったことによると考えられる。
実施例2
蛭より得られた強力なトロンビン阻害剤であるヒルログについて評価した。健常人1名(健常人C)からの血小板を含んだ試料を用いた。その攪拌後の測定試料に100mMエチレンジアミン4酢酸2ナトリウムの溶液を5%容量およびCTAD溶液(ベクトンディッキンソン製)を10%容量入れ、遠心分離(1500g、15分間、4℃)にて血小板を除去した試料を取得し、その中のβトロンボグロブリン(βTG)、血小板第4因子(PF4)、セロトニン濃度を測定した。その他は、実施例1と同様に実験を行った。ヒルログの添加濃度は0,50,100,500,1000μg/mlで行った。凝集度の曲線はヒルログの添加量が濃くなるにつれて凝集度が低下した、すなわち、凝集阻害が高くなった(図3)。6分後の試料中のβTG,PF4、セロトニン濃度を表4に示す。表4中の%値は、ヒルログを添加しないコントロール実験を100%とした比率を示した。この値が低下するほど凝固阻害が高いことを表す。
蛭より得られた強力なトロンビン阻害剤であるヒルログについて評価した。健常人1名(健常人C)からの血小板を含んだ試料を用いた。その攪拌後の測定試料に100mMエチレンジアミン4酢酸2ナトリウムの溶液を5%容量およびCTAD溶液(ベクトンディッキンソン製)を10%容量入れ、遠心分離(1500g、15分間、4℃)にて血小板を除去した試料を取得し、その中のβトロンボグロブリン(βTG)、血小板第4因子(PF4)、セロトニン濃度を測定した。その他は、実施例1と同様に実験を行った。ヒルログの添加濃度は0,50,100,500,1000μg/mlで行った。凝集度の曲線はヒルログの添加量が濃くなるにつれて凝集度が低下した、すなわち、凝集阻害が高くなった(図3)。6分後の試料中のβTG,PF4、セロトニン濃度を表4に示す。表4中の%値は、ヒルログを添加しないコントロール実験を100%とした比率を示した。この値が低下するほど凝固阻害が高いことを表す。
βTGとセロトニンは濃度依存的に凝固阻害が高くなっているが、PF4は逆に放出量が増え、凝固が進んでいることが認められる。この理由は実施例1と同様に、血小板のα顆粒からPF4の放出を抑えられないことによる誤差要因により、正確な凝固阻害が評価出来なかったのではないかと推測される。この結果は、βTGまたはセロトニンの放出量により抗凝固活性が評価できることを示している。しかしながら、βTGもクエン酸3ナトリウムの採血において、血小板からの放出を止めることが出来ないので、セロトニンの方が安定して評価出来ると考えられる。
実施例3
低分子ヘパリンであるダルテパリンナトリウム(商品名フラグミン、ファルマシア社製)を評価した。健常人2名から得られた血小板を含んだ試料を用いた。その他は、実施例2と同様に実験を行った。ダルテパリンナトリウムの添加なし(Control)と添加濃度0.1,0.5,1.0,5.0IU/mlで行った。凝集度の曲線は、健常人Dにおいては、ほとんど変化はなかったが、健常人Eにおいては、ダルテパリンナトリウム0.1,5.0IU/mlにおいて凝集阻害が確認され、0.5,1.0IU/mlにおいては逆に凝集が亢進していた(図4,5)。βTG,PF4において、90%以下と明らかに凝固阻害が確認されたのは、健常人Dのダルテパリンナトリウム0.1IU/mlだけであった。(表5−7)。セロトニンについては、健常人D,Eともに、ダルテパリンナトリウム0.1IU/mlで90%以下の明らかな凝固阻害が確認された(表5−7)。セロトニンの結果から、健常人Eのダルテパリンナトリウム0.1IU/ml添加においても、健常人Dほどの明確さはないが、凝集阻害が起きていることが推測される。これは、凝集阻害の評価において、セロトニンが凝集曲線、PF4,βTGに比べ、凝集阻害の評価方法として、優れていることを示している。また、凝集曲線の評価において、健常人Eのダルテパリンナトリウム5.0IU/mlで、凝集阻害が認められたのは、高濃度のダルテパリンナトリウムにより、生じた凝集塊が減ったのではなく、小さい凝集塊が数多く生じたことによると考えられる。セロトニンの評価において、ダルテパリンナトリウム1.0IU/mlにおいて凝集が亢進した理由については不明であるが、少なくともダルテパリンナトリウムの抗凝固活性を発揮する濃度はある幅があり、濃度が高すぎると抗凝固活性は見られなくなるのであろうと推測される。
低分子ヘパリンであるダルテパリンナトリウム(商品名フラグミン、ファルマシア社製)を評価した。健常人2名から得られた血小板を含んだ試料を用いた。その他は、実施例2と同様に実験を行った。ダルテパリンナトリウムの添加なし(Control)と添加濃度0.1,0.5,1.0,5.0IU/mlで行った。凝集度の曲線は、健常人Dにおいては、ほとんど変化はなかったが、健常人Eにおいては、ダルテパリンナトリウム0.1,5.0IU/mlにおいて凝集阻害が確認され、0.5,1.0IU/mlにおいては逆に凝集が亢進していた(図4,5)。βTG,PF4において、90%以下と明らかに凝固阻害が確認されたのは、健常人Dのダルテパリンナトリウム0.1IU/mlだけであった。(表5−7)。セロトニンについては、健常人D,Eともに、ダルテパリンナトリウム0.1IU/mlで90%以下の明らかな凝固阻害が確認された(表5−7)。セロトニンの結果から、健常人Eのダルテパリンナトリウム0.1IU/ml添加においても、健常人Dほどの明確さはないが、凝集阻害が起きていることが推測される。これは、凝集阻害の評価において、セロトニンが凝集曲線、PF4,βTGに比べ、凝集阻害の評価方法として、優れていることを示している。また、凝集曲線の評価において、健常人Eのダルテパリンナトリウム5.0IU/mlで、凝集阻害が認められたのは、高濃度のダルテパリンナトリウムにより、生じた凝集塊が減ったのではなく、小さい凝集塊が数多く生じたことによると考えられる。セロトニンの評価において、ダルテパリンナトリウム1.0IU/mlにおいて凝集が亢進した理由については不明であるが、少なくともダルテパリンナトリウムの抗凝固活性を発揮する濃度はある幅があり、濃度が高すぎると抗凝固活性は見られなくなるのであろうと推測される。
本発明により、抗凝固活性を有する薬剤をin vitroで簡便に評価することが出来る。そして、その評価結果は、生体中で生じるより近い条件下での薬物動態を反映するものである。
Claims (5)
- 血小板を含んだ試料に、抗凝固活性を有する又は有すると予想される試験薬剤を添加し、当該血小板から放出される内因性セロトニンの量を測定することを特徴とする、抗血小板活性及び/又は抗凝固活性を持つ薬剤の評価方法。
- 前記血小板を含んだ試料に凝固促進する試薬をさらに添加する、請求項1記載の方法。
- 前記血小板を含んだ試料が抗凝固剤を添加することで血小板の凝固活性を阻害したものである、請求項1又は2記載の方法。
- 前記抗凝固剤がクエン酸3ナトリウム及びエチレンジアミン4酢酸2カリウムからなる群から選択される、請求項3記載の方法。
- 抗凝固活性を有する薬剤を入れた場合と入れない場合について、血小板から放出される内因性セロトニンの量を測定し、比較することにより評価を実施する、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
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JP2005254562A JP2007064916A (ja) | 2005-09-02 | 2005-09-02 | 抗凝固活性を有する薬剤の評価方法 |
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WO2015159623A1 (ja) * | 2014-04-17 | 2015-10-22 | ソニー株式会社 | 血液状態解析装置、血液状態解析システム、血液状態解析方法及びプログラム |
JP2017046685A (ja) * | 2015-09-03 | 2017-03-09 | 東ソー株式会社 | 細胞の分離回収方法 |
-
2005
- 2005-09-02 JP JP2005254562A patent/JP2007064916A/ja active Pending
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