JP2007056356A - 硬質皮膜及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】硬質皮膜は、4a、5a、6a族、Al、B、Siから選択される1種以上の金属元素と、Cを含みN、Oから選択される1種以上の非金属元素によって構成され、該硬質皮膜は柱状組織構造を有し、該柱状組織構造の結晶粒はC成分に組成差を有する多層構造を有し、少なくとも該多層構造における層間の境界領域で結晶格子縞が連続している領域があり、各層の厚みT(nm)が0.1≦T≦100、であることを特徴とする硬質皮膜である。
【選択図】図1
Description
本発明の目的は、硬質皮膜の有する密着性を犠牲にすることが無く、特に硬質皮膜の潤滑特性と耐欠損性を改善することである。またこの硬質皮膜の製造方法を提供することである。
本願発明の硬質皮膜は、柱状組織構造を有し、結晶粒成長方向に対して界面を形成することなく境界領域で結晶粒が連続的に成長した硬質皮膜である。ここで、柱状組織構造とは、膜厚方向に伸びた縦長成長結晶組織である。該硬質皮膜は多結晶材料であるが、結晶粒1つ1つの単位で捉えれば、単結晶材料の成長に類似した形態となっている。しかも、該硬質皮膜の柱状組織構造における結晶粒は、結晶粒成長方向に対してC成分に組成差を有する多層構造であって、少なくとも該多層構造における層間の境界領域で結晶格子縞が連続している領域がある。硬質皮膜の結晶粒がS成分に組成差を有する多層構造であることによって、硬質皮膜全体として靭性を持たせることができる。例えば、C成分の含有量が多い層では、比較的軟らかい硬質皮膜が形成される。この軟らかい層が、潤滑特性を向上させるだけでなく、他の比較的硬い層の層間に存在するとクッション効果を示し、硬質皮膜全体として靭性に富むようになる。更に、最適化された硬質皮膜を用いてCの特徴である高潤滑特性と融合させることによって、強靭性による耐欠損性、且つ高潤滑特性を有する硬質皮膜を得ることができる。しかし、この時の好ましいC成分の組成差は、最大でも10%である。
本願発明における硬質皮膜の各層の厚みT(nm)が0.1≦T≦100、となっていることが好ましい。Tが100nmを超えると、各層の境界領域に歪が発生し、結晶粒中の格子縞が不連続となり、硬質皮膜の機械的強度が低下するため不都合である。特に金属成分とC、Nを硬質皮膜にした場合、金属成分とNの硬質皮膜より、原子半径の差から結晶格子の歪が大きくなりやすい。その結果、場合によっては格子縞が不連続となることがある。そのような場合、例えば本願発明の硬質皮膜を切削工具に適用すると、切削初期において硬質膜表面に切削衝撃による皮膜の層状破壊が発生し、硬質皮膜の機械的強度に問題がある。各層の境界領域の歪発生を回避することは、硬質皮膜と基体との密着性の改善に有効である。一方、Tの下限値を0.1nmとしたのは、現在の層構造を確認する手段にX線回折装置や透過電子顕微鏡を用いた場合、層構造を確認できる最小厚みが0.1nmである。また、被覆を行う際に0.1nm未満の積層周期で被覆を行うと、皮膜特性のばらつきが発生し、安定品質の製品を供給することが出来ない。そこで、Tの下限値を0.1nmに規定した。
Cの添加方法は、4a、5a、6a族、B、Si、Alから選択される元素が主体のターゲットを用いたAIP法による硬質皮膜被覆工程と、Cを含有したターゲットを用いたMS法による硬質皮膜被覆工程とを両者同時に行うことである。この理由は、MS法の発生するプラズマ密度が比較的低いため、硬質皮膜に容易にCを添加できるからである。MS法によってターゲット材より蒸発したC成分は、一旦はイオンレベルにまで分解される。この状態でC成分は基体表面に到達すると、AIP法によって蒸発した他の金属イオンやガス成分のイオンとともに結晶粒を構成する。この時、結晶粒は界面を形成することなく連続的に成長し、C成分は原子レベルで結晶粒の構造内に取り込まれてゆくのである。
本願発明の硬質皮膜の柱状組織構造からなる結晶粒はC成分に組成差を有し、これを最大でも10%に制御し、更にTを100nm以下に制御し、且つ結晶格子縞が連続して成長し多層構造を有するためには、MS法の蒸着源の放電出力を8.5kW以下に設定することが望ましい。MS法による蒸発源に設置される炭化物の放電によって得られる硬質皮膜は、AIP法主体で得られる硬質皮膜よりも若干軟らかい。特にC含有量が多い領域では、比較的軟らかい硬質皮膜が形成される。このように最適化された硬質皮膜を用いれば被覆部材の耐衝撃特性が向上して、強靭性、且つ高潤滑特性を有する硬質皮膜を得ることが可能となる。一方、プラズマ密度が比較的高いAIP法は、放電時のエネルギーが非常に大きいため、硬質皮膜にCを添加させるためには、炭化水素系の反応ガスを用いることが一般的である。しかし、AIP法の場合、プラズマ中で炭化水素系のガス成分をもイオン価させなければならない。炭化水素系のガスをイオン価させるためには、AIP蒸発源に取り付けられる金属ターゲットを放電させるのに非常に不安定な領域の低反応圧力状態が好ましい。したがって、AIP蒸発源における放電安定性が低下することになり、その蒸発源に設置するターゲットの金属種によっては、放電が困難である。また放電によって得られた硬質皮膜の表面にマクロパーティクルが多くなり、品位上の問題が発生する。更には、低反応圧力領域によって得られる硬質皮膜は残留圧縮応力が非常に大きく、密着性を劣化させる。炭化水素系のガスを取り扱うにあたり、環境上の面、また安全性など取り扱いの制約を受ける。そのため、硬質皮膜中にCを添加させる手段としては、MS法の蒸発源に設置される金属ターゲット材にあらかじめCを添加したものを使用することが望ましい。しかもMS法を利用すれば、C、TiC、WC、CrCなどターゲット材単体を用いることができる。AIP法では、Cを含むターゲット材単体は、融点の問題から放電が非常に困難である。そのためMS蒸発源に設置されるターゲット種は、4a、5a、6a族、B、Si、Alから選択される1種以上の金属マトリックス中にC添加したターゲット材、もしくはC単体のターゲットを用いる必要がある。PVD法に対して化学蒸着法では、AIP法同様、やはり炭化水素系のガスを使用することが一般的である。この場合、環境上、また安全性など問題がある。硬質皮膜中にCを添加させると、硬質皮膜表面に酸化物層を形成しやすくなるが、このような有効な物理現象を考慮して、あらかじめ酸素を含む硬質皮膜を表面に被覆しても効果がある。硬質皮膜に酸化物を形成させるためには、主体となる反応ガス中にOを含有させて得ることが好ましい。
AIP法とMS法とを同時に行うことにより得られる硬質皮膜は、結晶格子縞が連続した多層構造を有する。更にこれによって得られる硬質皮膜は、結晶格子縞が連続した多層構造を有する。しかし、両者を間欠的に用いた場合、例えばAIP法とMS法とを交互に放電させることによってCを添加すると、界面をもつ多層構造が生じ、その界面に発生する歪が影響して、各層の接合が脆弱化するため好ましくない。
本願発明の硬質皮膜を例えば切削工具等、高硬度が要求される耐摩耗部材や耐熱部材の表面に適用すると、特に潤滑特性が著しく向上するため、切削加工の高温状態での耐溶着性並びに硬質皮膜への被削材元素の拡散を抑制することができる。更に、切削加工の乾式化、高速化、高送り化に対応する硬質皮膜被覆工具を提供することができる。ここでの高送り加工とは、切削条件における1刃当たりの送り量が0.3mm/刃を超えるような切削を言う。
工具:正面フライス
インサート形状:SDE53タイプ特殊形状
切削方法:センターカット方式
被削材形状:巾100mm×長さ250mm
被削材:SKD61、硬さ、HRC45
切り込み量:1.5mm
切削速度:100m/min
1刃送り量:0.6mm/刃
切削油:なし
表2は、評価結果であり、本発明例1から14、比較例15から28、従来例29から35を示す。表2の結果より、本発明例1から14は、硬質皮膜が柱状組織構造を有し、結晶粒がC成分に組成差を有する多層構造を有し、少なくとも該多層構造における層間の境界領域で結晶格子縞が連続している領域があり、各層の厚みT(nm)が0.1≦T≦100を満たすことによって、優れた切削性能を有することを確認した。2種以上の物理蒸発源を用いてCを硬質皮膜に添加させた時のC含有量の範囲が、切削性能に影響を及ぼすことも確認した。本発明例1から14に示した様に、本願発明の硬質皮膜は、従来実現が困難であった切削加工を行うことが可能となった。本発明例9に示したグラファイトターゲットによってCが添加された硬質皮膜は、今回の評価の中で最も良い結果を示した。本発明例9の硬質皮膜を成膜するにあたり、グラファイトターゲットの放電出力を6.5kWに設定した。その結果、硬質皮膜を全体的に見た場合、C含有量は4.8%であり、本願発明で規定するC添加量の範囲内であった。図1に示す様に、硬質皮膜の破断面組織を倍率15000倍で観察した結果、柱状組織構造であった。従って、高送り加工などの衝撃の激しい切削加工において、せん断方向に対する機械的強度も得られた。図2は、本発明例9の硬質皮膜の破面を透過電子顕微鏡により2万倍で観察した結果であり、硬質皮膜の柱状組織構造を有する結晶粒は多層構造を有していた。図3は、図2に示した結晶粒の1部を更に拡大して20万倍で観察を行った結果であり、結晶粒はコントラストの異なる黒色層と灰色層とが複数存在している多層構造を有していることを確認した。ここで、1つ1つの結晶粒は同一方向に結晶成長したものであり、電子回折によって確認することができる。ここで、図2の観察で見られたコントラストの縞模様の数と、図3の観察で見られたコントラストの縞模様の数との間には、観察倍率が異なっている点から相関性は無い。また図2に示したコントラストの縞模様から、膜厚方向の層の厚さを得ることができる。測定の結果、各層の層厚は、3から4nm程度であった。図3の観察状態から更に観察倍率を高くして、結晶格子縞の状態を200万倍で観察した。この時の観察結果を図4に示す。図4の観察領域は、図3の観察形態を参照しながら進めていった。即ち、図3で見られた黒色層と灰色層とが交互に積層されている領域を確認し、観察倍率を高くした場合でも観察視野には、常に黒色層、灰色層とその境界領域とが含まれるように配慮した。図4に便宜的に示した線は、夫々黒色層と灰色層とに対応する領域を区別するために使用した。更に、図5に図4の概略図を示した。図4より、多層構造における層間の境界領域で結晶格子縞が連続している領域があることを確認した。ここで、格子縞の連続性はすべての境界領域で成立する必要はなく、透過電子顕微鏡により層の境界領域を観察した時に、格子縞の連続性が認められる領域が存在すれば本願発明の優れた作用効果を得ることができる。図4には、左側の領域の1部に黒色のコントラストを示す領域が存在しているが、これは図5に示した黒色層、灰色層とは観察倍率が異なっている点から関連はない。更に、図4で観察した領域に配慮しながら、電子回折像を調べた。電子回折像を調べるにあたり、調査領域が、黒色層と灰色層との境界領域となるように配慮した。観察によって得られた電子回折像を図6に示す。図6では、略単一の電子回折像が得られた。この観察結果について考察を行うと、略単一の電子回折像が得られたことは、図7の概略図で示す様に、星印で示した黒色層の電子回折図形と、丸印で示した灰色層の電子回折図形とが一致していることを示し、これよりこの調査領域ではエピタキシャルな関係により格子縞が連続していることを確認した。従って、多層構造を有する結晶粒について層の境界領域の電子回折を行った結果、マクロ的には多結晶構造ではあるが、ミクロ的な観察により単結晶の様な形態をなしていることを見いだしたのである。更に、表3は本発明例9の多層構造の各層における組成分析を行った結果である。
Claims (3)
- 硬質皮膜は、4a、5a、6a族、Al、B、Siから選択される1種以上の金属元素と、Cを含みN、Oから選択される1種以上の非金属元素によって構成され、該硬質皮膜は柱状組織構造を有し、該柱状組織構造の結晶粒はC成分に組成差を有する多層構造を有し、少なくとも該多層構造における層間の境界領域で結晶格子縞が連続している領域があり、各層の厚みT(nm)が0.1≦T≦100、であることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1記載の硬質皮膜において、該硬質皮膜のC含有量が原子%で、0.1%以上、30%以下であることを特徴とする硬質皮膜。
- PVD法により被覆される硬質皮膜において、該PVD法はアーク放電型イオンプレーティング法とマグネトロンスパッタリング法であり、該硬質皮膜は4a、5a、6a族、Al、B、Siから選択される1種以上の金属元素と、Cを含みN、Oから選択される1種以上の非金属元素によって構成され、該硬質皮膜は柱状組織構造を有し、該柱状組織構造の結晶粒はC成分に組成差を有する多層構造を有し、該多層構造は、上記PVD法の蒸着源を同一チャンバー内で同時に放電させることにより形成することを特徴とする硬質皮膜の製造方法。
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