JP5065756B2 - 被覆切削工具 - Google Patents
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1. 平均粒径1μm以下のWC粒子を硬質相とするWC基超硬合金からなる微粒層と、平均粒径3μm以上のWC粒子を硬質相とするWC基超硬合金からなる粗粒層とが積層された積層部を有する基材を用意する工程。
2. 上記積層部の微粒層を基材の表面側とし、この積層部の表面の少なくとも一部に希ガスのイオンを用いてボンバードメント処理を施す工程。
3. 上記ボンバードメント処理が施された微粒層上に物理蒸着法により成膜する工程。
《組成》
基材は、WCを主成分とする硬質相と、CoやNiといった鉄族金属を主成分とする結合相とからなるWC基超硬合金で構成される。基材は、更に、周期律表IVa,Va,VIa族の金属元素群から選択される1種以上の元素や、同金属元素群から選択される1種以上の元素と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群から選択される1種以上の元素とからなる化合物(固溶体)を含有していてもよい。具体的には、元素:Cr,Ta,V,Ti、化合物:(Ta,Nb)C,VC,Cr2C3,NbC,TiCNなどが挙げられ、これらの元素や化合物は、焼結中においてWC粒子の粒成長を抑制する働きを有するものが多い。WC粒子が少な過ぎると、耐摩耗性や靭性が低下したり、PVD膜を構成する結晶粒がWC粒子に倣って形成され難くなるため、微粒層及び粗粒層のWC粒子の含有量はいずれも、70〜98質量%が好ましい。公知の組成の超硬合金を利用してもよい。微粒層の組成と粗粒層の組成とは同じでも異なっていてもよい。
基材は、WC粒子の平均粒径が異なる複数種の超硬合金を積層してなる積層部を有するものとする。基材の少なくとも一部、特に、刃先及びその近傍は積層部からなり、すくい面側に微粒層が配された構造が好ましい。基材全体が積層構造でもよいし、刃先及びその近傍のみが積層部で構成され、ブレーカ部などの刃先及びその近傍以外の箇所が粗粒層又は微粒層のみで構成されていてもよい。基材全体を積層構造とすると、基材の製造性がよい。具体的な積層構造としては、例えば、微粒のWC粒子を硬質相とする微粒層と粗粒のWC粒子を硬質相とする粗粒層とが積層された断面二層構造や、二つの微粒層で一つの粗粒層を挟んだ断面三層構造が挙げられる。また、粗粒層を直方体状といった多角柱状とする場合、粗粒層を構成する面において隣接する少なくとも二面側に微粒層が配された構造や、粗粒層を構成する全面を覆うように微粒層が配された内包構造が挙げられる。基材の表面側、即ち被覆膜が形成される側に積層部の微粒層が配される。
[WC粒子の大きさ]
微粒層のWC粒子は、平均粒径1μm以下とする。平均粒径が小さいほど基材が高硬度になり易く、耐摩耗性を高められるため、特に下限を設けない。0.8μm以下がより好ましい。逆に、1μm超となると摩耗の進行が速まる。微粒層のWC粒子の平均粒径を1μm以下とするには、原料として、平均粒径1μm以下の微細なWC粒子を利用することが挙げられる。原料となる微細なWC粒子は、市販のものでも、市販のものを粉砕して細かくして利用してもよい。また、原料として、粒成長抑制剤を含有するものを利用してもよい。
微粒層は、基材自体の高硬度化や耐摩耗性の向上に寄与すると共に、基材の表面側に配されて、基材と被覆膜(特に、PVD膜)との密着性を高め、かつ被覆膜の特性を向上させることにも寄与する。このような効果を十分に得るためには、微粒層の厚さは比較的薄いことが好ましい。また、微粒層が厚過ぎると、耐クレーター摩耗性や靭性が低下する傾向にある。従って、微粒層の厚さは、100μm以下、特に10μm以下が好ましい。耐クレーター摩耗性の低下を抑制するために究極的には、微粒層のWC粒子が厚さ方向に一つ存在する構成、即ち、微粒層の厚さがWC粒子の最大径と同等な構成が好ましい。
粗粒層のWC粒子は、平均粒径3μm以上とする。平均粒径が大きいほど基材が高靭性になり易く、3μm未満では靭性向上効果が十分に得られない。より好ましい平均粒径は、3μm以上10μm以下である。粗粒層のWC粒子の原料は、市販のものや、市販のものを所定の大きさとなるように粉砕したものを利用できる。
微粒層と粗粒層とを積層した積層部を有する基材は、例えば、微粒層用のプレス成形体と粗粒層用のプレス成形体とをそれぞれ別個に形成し、所望の箇所が積層部となるようにこれらを重ね合わせて焼結して一体にしたり、微粒層用の原料と粗粒層用の原料とを用意し、所望の箇所が積層部となるように両原料を成形型に積層配置して一体のプレス成形体を形成して焼結することで製造できる。特に、一体のプレス成形体を形成すると、微粒層と粗粒層とを十分に接合させ易く好ましい。
《前処理》
上記基材の少なくとも一部に被覆膜を形成する。被覆膜の形成箇所は適宜選択することができ、基材表面の一部、特に刃先及びその近傍にのみ被覆膜を形成してもよいし、基材表面の全面に亘って被覆膜を形成してもよい。そして、基材に被覆膜を形成する前に、希ガスのイオンを用いたボンバードメント処理を基材表面の少なくとも被覆膜を形成する箇所、特に基材表面側に配された積層部の微粒層に施して基材表面を清浄にすると共に、微粒層の表面側に存在する複数のWC粒子のうち、少なくとも一部のWC粒子は、その基材表面側部分が露出されるようにする。希ガスは、Ar,Kr,Xeなどの種々のものが利用できる。特に、この処理は、希ガスに対して電子源から熱電子を放出しながら希ガスのイオンを発生させて行うと、WC粒子表面の清浄化を高品位に行うことができ、WC粒子と膜の密着力を高めることができる上、エッチングレートを向上することができ、生産性に優れる。電子源は、タングステンフィラメントといった熱電子を放出可能な熱フィラメントが利用できる。なお、処理時間を長くしたり、バイアス電圧を大きくすると、WC粒子の基材表面側部分が露出されたWC粒子の数を多くすることができ、WC粒子に直接接して形成された結晶粒の数を多くすることができる。
被覆膜は、PVD法にて形成された膜(PVD膜)を含むものとする。少なくとも基材直上、特に基材表面側に配置された微粒層上にPVD膜が存在することが好ましく、基材側から表面側に亘って全てPVD膜でもよいし、基材側をPVD膜、表面側をCVD法にて形成された膜(CVD膜)というようにCVD膜を組み合わせてもよい。具体的なPVD法としては、バランスドマグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。特に、原料元素のイオン化率が高いアーク式イオンプレーティング(カソードアークイオンプレーティング)法が好適である。なお、成膜時の基材温度が高過ぎたり低過ぎると、PVD膜の結晶粒が大きくなったり小さくなることで、基材のWC粒子に倣って結晶粒が形成され難くなる。基材において被覆膜を形成しない箇所は、マスキングなどを施してから成膜する。
被覆膜の組成は、特に問わない。PVD膜は、PVD法で形成可能なあらゆる組成が適用できる。特に、被覆膜は、周期律表IVa、Va、VIa族の金属元素,Al,Si及びBからなる群から選択される1種以上の元素と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群から選択される1種以上の元素との化合物からなる化合物膜を少なくとも一つを有することが好ましい。具体的には、TiCN,Al2O3,TiAlN,TiN,AlCrNなどが挙げられる。被覆膜は、一つの組成からなる膜だけでも、組成の異なる複数種の膜からなる多層構造でもよい。厚さ(多層構造の場合合計厚さ)は、1〜10μmが好ましい。厚さは、成膜時間を調整することで変化させることができる。
上述のように特定の前処理後にPVD法で成膜することで、被覆膜を構成する結晶粒のうち、基材直上に存在するPVD膜の結晶粒(以下、直上結晶粒と呼ぶ)の中には、微粒層の表面側に存在するWC粒子(以下、表面WC粒子と呼ぶ)に直接接して形成され成長したもの(以下、連続結晶粒と呼ぶ)が存在する。特に、表面WC粒子が基材表面側に密に分散している場合、直上結晶粒は、主として連続結晶粒により構成される。そして、連続結晶粒は、概ね表面WC粒子と同程度の大きさである。具体的には、微粒層のWC粒子(表面WC粒子を含む)の平均粒径をd1とし、PVD膜の連続結晶粒の平均粒径をd2とするとき、d1/d2が0.7以上1.3以下を満たす。
PVD膜を構成する直上結晶粒が表面WC粒子に倣って形成されることで、膜成長が安定し、PVD膜の表面が滑らかになる。具体的には、面粗さがRaで0.1μm以下を満たす。このような平滑なPVD膜を工具表面に具えることで、本発明被覆切削工具は、加工精度を向上することができる。面粗さRaは、微粒層のWC粒子の平均粒径d1が小さくなると、小さくなる傾向にある。
上記構成を具える本発明被覆切削工具は、耐摩耗性、耐欠損性、靭性に優れることから、例えば、熱亀裂が生じ易い鋼のフライス加工用工具に適する。また、本発明工具は、耐チッピング性にも優れる。従って、チッピングが生じ易いため高靭性が望まれる断続切削を行う工具、即ち断続旋削用工具に本発明工具は適する。
微粒のWC粒子を硬質相とするWC基超硬合金からなる微粒層と粗粒のWC粒子を硬質相とするWC基超硬合金からなる粗粒層とを積層してなる基材表面にPVD法で被覆膜を形成した被覆切削工具を作製し、耐摩耗性と被覆膜の耐剥離性とを調べた。
Scatter Diffraction Patterns)法が挙げられる。ここではEBSD法により解析した。
試験例1で作製した基材に代えて、微粒層のWC粒子の大きさと粗粒層のWC粒子の大きさを変化させた基材を作製し、この基材を具える被覆切削工具について耐摩耗性と耐欠損性とを調べた。
試験例1で作製した基材に代えて、微粒層の厚さを変化させた基材を作製し、この基材を具える被覆切削工具について、耐摩耗性と耐欠損性とを調べた。
被覆膜を柱状組織とする場合、被覆膜の成膜条件を変化させて結晶粒のアスペクト比を異ならせ、この被覆膜を具える被覆切削工具について、耐摩耗性を調べた。
試験例1で作製した基材に対し、被覆膜形成前のクリーニング条件を変化させた被覆切削工具を作製し、クリーニング条件と被覆膜の面粗さとの関係を調べた。
更に、ガスボンバードメント処理の効果を確認するために、ガスボンバードメント処理を行った場合、メタルボンバードメント処理を行った場合、ボンバードメント処理を行わない場合を比較した。
試験例1で作製した基材に対し、被覆膜の組成や形成方法を変化させた被覆切削工具を作製し、耐摩耗性を調べた。
2 被覆膜 20 被覆膜の結晶粒 20p WC粒子に直接接して成長した結晶粒
Claims (9)
- 微粒のWC粒子を硬質相とするWC基超硬合金からなる微粒層と粗粒のWC粒子を硬質相とするWC基超硬合金からなる粗粒層とが積層された積層部を有する基材と、この基材表面の少なくとも一部に形成された被覆膜とを具える被覆切削工具であって、
前記微粒層は、平均粒径1μm以下のWC粒子を硬質相とし、
前記粗粒層は、平均粒径3μm以上のWC粒子を硬質相とし、
前記被覆膜は、基材の表面側に配された前記積層部の微粒層上に物理蒸着法により形成された膜を含み、この膜は、微粒層の表面側に存在するWC粒子であって、その粒子の基材表面側部分が結合相から露出された粒子に直接接して成長した結晶粒を具え、
前記微粒層のWC粒子の平均粒径をd1、前記結晶粒の平均粒径をd2とするとき、d1/d2が0.7以上1.3以下であることを特徴とする被覆切削工具。 - 前記微粒層は、その厚さが100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
- 前記微粒層は、その厚さが10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
- 前記物理蒸着法により形成された膜を構成する結晶粒のうち、基材直上の結晶粒が柱状組織であることを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
- 前記柱状組織を構成する結晶粒は、そのアスペクト比が5以上であることを特徴とする請求項4に記載の被覆切削工具。
- 前記物理蒸着法により形成された膜表面の面粗さがRaで0.1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
- 被覆切削工具は、鋼のフライス加工用工具、又は断続旋削用工具であることを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
- WC基超硬合金からなる基材表面の少なくとも一部に被覆膜を形成して被覆切削工具を製造する被覆切削工具の製造方法であって、
平均粒径1μm以下のWC粒子を硬質相とするWC基超硬合金からなる微粒層と、平均粒径3μm以上のWC粒子を硬質相とするWC基超硬合金からなる粗粒層とが積層された積層部を有する基材を用意する工程と、
前記積層部の微粒層を基材の表面側とし、この積層部の表面の少なくとも一部に希ガスのイオンを用いてボンバードメント処理を施して、前記微粒層の結合相の一部を除去することで前記微粒層におけるWC粒子の基材表面側部分を露出させる工程と、
前記ボンバードメント処理が施された微粒層上に物理蒸着法により以下の条件を満たす前記被覆膜を成膜する工程とを具えることを特徴とする被覆切削工具の製造方法。
・前記被覆膜は、前記ボンバードメント処理により結合相から露出されたWC粒子に直接接して成長した結晶粒を具える。
・前記微粒層のWC粒子の平均粒径をd1、前記結晶粒の平均粒径をd2とするとき、d1/d2が0.7以上1.3以下である。 - 前記ボンバードメント処理は、前記希ガスに対して電子源から熱電子を放出しながら希ガスのイオンを発生させて行うことを特徴とする請求項8に記載の被覆切削工具の製造方法。
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