本発明を具体的に説明する前に、概要を述べる。本発明の実施例は、低CNR(Carrier to Noise power Ratio)の無線信号を受信する端末装置に関する。一般的に、端末装置においては、M相PSK方式で変調された信号を受信する際、周波数オフセットがシンボルレートの±1/2M以上生じている場合には、正常な同期を確保せずに、正常な同期から±2π/M×シンボルレート/2πだけ周波数シフトした位置に同期状態が固定されてしまうといった、いわゆる擬似同期の状態に陥る場合がある。さらに、フェージング現象とドップラー現象の影響によって搬送波再生ループにおける基準位相が不必要にシフトしてしまう位相スリップの状態に陥いる場合がある。このような場合、既知信号を同定して、正確同期を捕捉することが困難となる。
上述のような場合を想定し、本実施例に係る端末装置は、受信した無線信号の同期を捕捉するために、2段階に分けて同期処理を実行する。本発明に係る端末装置は、まず第1段階として、既知信号間の相対的な位相差を用いて、位相スリップの影響を除去するとともに、無線信号系列における既知信号が挿入された位置を同定する。すなわち、既知信号のタイミング同期を捕捉する。つぎに、第2段階として、第1段階とは異なる既知信号間の相対的な位相差を用いて、捕捉したタイミング同期が正常同期であるか擬似同期であるかを判定する。ここで、擬似同期とは、端末装置にて再生された搬送波の周波数が正しくないこと、すなわち、正常に周波数同期が捕捉できていないことなどを含む。なお、本実施例においては、説明を簡易なものとするために、一例として無線信号の変調方式をBPSK(Binary Phase Shift Keying)と仮定して説明する。また、無線信号系列に含まれるすべての既知信号は同一のシンボルから構成されていると仮定する。詳細は後述する。
図1は、本発明の実施例にかかる端末装置200の構成例を示す図である。端末装置200は、アンテナ1と、RF部2と、直交検波部3と、信号処理部100と、復号部6と、を含む。アンテナ1は、通信を実行している相手から送信された信号系列を受信する。RF部2は、アンテナ1で受信した信号系列に対し、フィルタなどを用いて、RF帯から中間周波数帯の信号に変換する処理を施す。直交検波部3は、RF部2で処理された信号系列に対し、中間周波数帯からベースバンド帯への周波数変換処理を施す。信号処理部100は、詳細は後述するが、直交検波部3で処理された信号系列に対し、アナログ/デジタル変換、同期処理などを実行して、同期が捕捉された信号系列を復号部6に出力する。
復号部6は、信号処理部100で同期が捕捉された信号系列のうち、既知信号の系列を除く系列に対し、送信側にて実行された誤り訂正符号化処理に対応する復号処理が実行される。たとえば、送信側において、送信信号系列に対し、信号系列の順序を並び替えるインタリーブ処理が実行された場合、復号部6では、受信信号系列に対し、そのインタリーブ処理とは逆の並べ替え処理を実行するデインタリーブ処理が実行される。また、送信側において、信号系列に対し畳み込み符号化がなされた場合には、復号部6は、受信信号系列に対し、ビタビ復号を実行して、送信された信号を推定する。
図2は、図1の信号処理部100の構成例を示す図である。信号処理部100は、復調部20と、部分信号取得部22と、差動間隔決定部25と、同期検出部70と、バッファ40とを含む。
ここで、信号処理部100が受信する信号系列50は、図3に示すような構成となっている。図3は、図2の信号処理部100が受信する信号系列の構成例を示す図である。横軸は時間を表す。この信号系列には、既知信号の系列52とデータ信号54とが含まれている。既知信号の系列52は、周期Lごとにそれぞれ信号系列中に挿入されている。また、それぞれの既知信号の系列52は、M個の既知信号53を含む。Mは正の整数である。また、Mは、信号系列に対して施されたM相PSKにおける相数と同一の値としている。同一の値とする理由は、相数の数だけ、擬似同期の態様が存在するため、擬似同期を判定するには、擬似同期の態様の数だけ規則が必要となるからである。詳細は後述する。本実施例では、変調方式をBPSKとしているので、M=2となる。なお、既知信号の系列52とデータ信号54に含まれるシンボルの個数をLとする。また、Lの整数倍で構成される信号系列をフレームと表現する。
また、信号処理部100で受信する既知信号の系列52は、一般的に、伝送路において発生した連続誤り、もしくは、RF部2などにおいて発生した熱雑音により、送信された既知信号の系列とは異なっている。したがって、以下においては、「既知信号の系列52」を「既知信号の系列52に相当する部分信号の系列」、もしくは、単に、「部分信号の系列」と表記して説明することとする。また、「既知信号53」を「既知信号53に相当する部分信号」、もしくは、単に、「部分信号」と表記して説明することとする。
図2に戻る。復調部20は、信号系列50から搬送波を再生し、再生された搬送波にしたがって、信号系列50を復調する。具体的には、直交検波部3から入力された信号系列50に対して、コスタスループなどを用いた同期検波を実行をして、搬送波を再生する。さらに、信号系列50系列に対して、帯域制限処理、自動利得制御処理、直流オフセット補正、位相推定、などの処理を実行して、部分信号取得部22に出力する。
ここで、図4(a)〜(c)を用いて、搬送波を再生した後におけるBPSK変調された信号系列のシンボル点配置(Symbol Constellation)について説明する。図4(a)〜(c)は、図2の復調部20から出力された信号系列の信号点配置の例を示す図である。図4(a)は、理想的な搬送波再生がされた場合の信号点配置を示す図である。図4(b)は、周波数オフセットに起因した位相誤差θが残存した場合の信号点配置を示す図である。図4(c)は、信号点AとBが互いにπずれた場合の信号点配置を示す図である。いいかえると、周波数オフセットに起因した位相誤差θが±πの整数倍だけ再生した搬送波に残存していることを示している。
図4(b)のような信号点配置になった場合であっても、誤り訂正復号などを用いることによって、図4(a)の状態に訂正することができる。しかしながら、図4(c)のような信号点配置になった場合、復調部20自身では回復することが困難である。また、復号部6によっても訂正するための多大な時間を要する。なお、図4(c)の状態を一般的に位相スリップ、または、サイクルスリップとよぶ。位相スリップは、基準位相が短時間の間に回転する現象であり、BPSK変調の場合は、πだけ回転する現象となる。このような場合、誤り訂正復号を用いても正しく復号することができないため、後述の差動処理により救済する必要がある。
図2に戻る。部分信号取得部22は、復調部20で復調した信号系列50に含まれる部分信号の系列を周期と同じ周期で複数取得する。具体的には、1フレームにわたって信号系列を取得して、バッファ40に書き込む。このとき、部分信号の系列とともに、データ信号もバッファ40に書き込まれる。部分信号取得部22は、すべての信号系列をバッファ40に書き込んだ後、書込が完了した旨を差動間隔決定部25に通知する。
バッファ40は、部分信号取得部22などによって書き込まれた信号系列を保持するメモリ空間である。また、バッファ40は、同期検出部70によって部分信号の系列の同期を判定する際に一時メモリとしても用いられる。バッファ40は、書き込まれる対象ごとに、その書込にかかる開始アドレスが異なってもよい。また、バッファ40は、単一のメモリから構成されていなくともよい。
ここで、部分信号取得部22が信号系列を書き込むバッファ40は、図5に示すようなデータ構造をとる。図5は、図2のバッファ40内に記憶されるデータ構造の例を示す図である。部分信号取得部22は、バッファ40に信号系列を書き込む際、バッファ40の左上から右方向に書き込んでいく。また、部分信号取得部22は、バッファ40のある行の最後まで書き込んだ後、次の行に同じように書き込んでいく。また、復号部6は、後述する同期検出部70にて正常同期が獲得された旨の通知を受けた後に、バッファ40から既知信号の系列に対応する部分信号の系列以外の信号系列を読み出す。復号部6は、バッファ40から信号系列を読み出す際、バッファ40の左上から下方向に読み出していく。また、部分信号取得部22は、バッファ40のある列を最後まで読み込んだ後、次の列を同じように読み込んでいく。このようにバッファ40を用いることによって、効率的にデインタリーブ処理を実現することができる。
バッファ40の1行のサイズを信号系列における既知信号の系列の挿入周期と同じLとすることによって、図5に示すように、既知信号の系列52に対応すべき部分信号の系列を同一の列に位置させることができる。図5においては、フレーム同期がとれているものと仮定しているので、既知信号の系列に相当する部分信号の系列が列の先頭に現れている。フレーム同期がとれていないような場合、部分信号の系列は、図5に示すように、先頭の列に存在することはないものの、同一の列に位置する点では変わらない。ここで、フレーム同期とは、同期検出部70において部分信号の系列の列の位置を判定することなどを含む。
なお、ここでは、説明を簡易なものとするために、図5のバッファ40の構成例を二次元状に配置されているとして説明したが、実際のバッファ40は、一次元的な構成でもよい。また、それぞれの行は、ポインタなどによりそれぞれ関連付けられていれば、物理的に離れているメモリに記憶されてもよい。
図2に戻る。差動間隔決定部25は、部分信号取得部22で取得した部分信号の系列のうち、所定の前後の部分信号の系列に含まれる既知信号53に対応すべき部分信号を複数の差動間隔に関する規則を用いて、それぞれ対応づける。具体的には、後述する同期検出部70において部分信号間の相対的な位相差を算出するにあたり、算出の対象となる2つの部分信号の対応づけを実行する。例を用いて説明する。バッファ40のある行における2つの部分信号をA0とB0と仮定する。また、他の部分信号の系列における部分信号をA1とB1と仮定する。このときに実行される対応づけは、同一の部分信号の系列内では行なわないものとする。また、対応づけは、1対1の関係で実行される。
そうすると、対応づけを実行した結果は、図6(a)〜(b)に示すような関係となる。図6は、図2の差動間隔決定部25における対応づけの例を示す図である。図6(a)においては、A0とB0、A1とB1の対応づけとなる。図6(b)においては、A0とB1、A1とB0となる。ここで、図6(a)のような対応づけを「ストレート」と表記する。また、図6(b)のような対応づけを「クロス」と表記する。言い換えると、ストレートは、「信号系列内において存在するある部分信号は、周期Lだけ離れた部分信号と対応づけられること」を意味する規則となる。さらに言い換えると、ストレートは、「バッファ40内において存在するある部分信号はその直下の行の部分信号と対応づけられること」を意味する規則となる。
また、クロスは、「信号系列内において存在するある部分信号は、周期Lと異なる長さだけ離れた部分信号と対応づけられること」を意味する規則となる。BPSKの場合のクロスは、「信号系列内において存在するある部分信号は、L+1、もしくは、L−1だけ離れた部分信号と対応づけられること」を意味する規則となる。なお、図6(a)〜(b)の場合、クロスは1通りしか存在しないが、1つの部分信号の系列内の部分信号の個数が増加するにつれ、複数通りのクロスが存在することとなる。以下においては、ストレート、クロスの一方を「第1規則」、「第2規則」を「第1規則」とは異なる規則とする。すなわち、第1規則がストレートである場合、第2規則はクロスになる。逆に、第1規則がクロスである場合、第2規則はストレートになる。なお、クロスが複数存在する場合、第1規則と第2規則とでそれぞれ異なるクロスを用いてもよい。
図2に戻る。同期検出部70は、複数の差動間隔に関する規則のうちの第1規則にしたがって対応付けられた部分信号間の相対的な位相差をそれぞれ計算することによって、既知信号の系列52が挿入された位置を推定して仮同期を検出する。具体的には、部分信号取得部22によってバッファ40に書き込まれた信号系列のうち、部分信号の系列がバッファ40のどの列に存在するかを推定する。推定は、第1規則にしたがって対応付けられた、前後の行における部分信号間の相対的な位相差を算出する。
たとえば、ある行における2つの部分信号に対応する位相がA0とB0であり、その行の次の行における部分信号の位相がA1とB1であったと仮定する。また、第1規則をストレートの関係と仮定する。すなわち、A0とA1、B0とB1とが対応づけられていると仮定する。そうすると、後述する第1差動計算部30、第2差動計算部72において、位相差は、以下のとおりに算出される。なお、右辺の|X|は、Xの絶対値を計算する関数を表す。
A0とA1の位相差 = |A0−A1| ・・・式(1)
B0とB1の位相差 = |B0−B1| ・・・式(2)
前述のとおり、各行において、部分信号はM個存在する。ここで、信号系列に含まれるシンボルの個数をNとすると、算出される位相差の個数は、以下のとおりとなる。
算出される位相差の個数 = M×(N/L−1−α) ・・・式(3)
ここで、αとは、信号系列の信号強度によって決まる値で、詳細は後述するが、信号強度が大きいほど大きな値となる。また、右辺の括弧内は行数に相当する値である。上述の例の場合、2行における位相差をもとめているので、算出される位相差の個数は、2×(2−1)=2となる。
また、同期検出部70は、部分信号の理想値である既知信号の相対的な位相差を同様に算出する。さらに、両者の位相差の相関値を求め合算する。さいごに、その合算した結果としきい値とを比較することで部分信号の系列のタイミング同期が推定される。詳細は後述する。また、同期検出部70は、複数の差動間隔に関する規則のうち、第1規則とは異なる差動間隔となる第2規則、すなわちクロスにしたがって対応付けられた部分信号間の相対的な位相差をそれぞれ計算することによって、復調部20で再生された搬送波の周波数が正しいか否かを検出する。第1規則を用いる代わりに第2規則を用いる点以外は、上述の第1規則にもとづく位相差の算出と同様の方法であるので、説明を省略する。
図7は、図2の部分信号取得部22の構成例を示す図である。部分信号取得部22は、書込部62と、信頼度取得部64とを含む。書込部62は、復調部20で復調した信号系列をバッファ40に書き込む。
信頼度取得部64は、復調部20で復調した信号系列に含まれる既知信号の系列に相当する部分信号の系列の信頼度をそれぞれ取得して、順次、バッファ40に書き込む。ここで、信頼度とは、部分信号の系列の確からしさを示す値を含み、たとえば、部分信号の系列の軟判定値、部分信号の系列と既知信号の系列の相関を表す値などを含む。また、部分信号の系列の位相の確からしさを示す値であってもよい。1つの部分信号の系列が複数のシンボルから構成されている場合、部分信号の系列に含まれる複数のシンボルの信頼度を合算することによって、部分信号の系列の信頼度を取得してもよい。
図8は、図2の同期検出部70の構成例を示す図である。同期検出部70は、第1差動計算部30と、第1相関計算部32と、仮同期判定部24と、測定部38と、第2差動計算部72と、第2相関計算部74と、擬似同期判定部26と、制御部42と、周波数補正部28とを含む。なお、図8内の各構成は、図示しない信号バスにより、前述したバッファ40と接続されているものとする。
第1差動計算部30は、複数の差動間隔に関する規則のうちの第1規則にしたがって対応付けられた部分信号間の相対的な位相差をそれぞれ計算する。位相差の計算に用いられるそれぞの部分信号の位相θは、部分信号の系列に含まれるシンボルのI成分とQ成分を用いて、以下のように計算される。
θ = tan−1(Q/I) ・・・式(4)
第1相関計算部32は、第1差動計算部30によって計算されたそれぞれの部分信号間の位相差と、それぞれの部分信号間の位相差と対応すべき既知信号53間の相対的な位相差との第1相関値を計算する。具体的には、前後の行に存在する部分信号間、既知信号間の位相差をバッファ40における式(3)の右辺のかっこ内で示される数だけ計算する。さらに、計算されたすべての行における位相差を加算して相関値を求める。既知信号の系列に対応する部分信号の系列が全て同一のシンボル「0」で構成されている場合は、算出した位相θがそのまま相関値となる。
仮同期判定部24は、第1相関計算部32で計算された第1相関値が仮同期に関するしきい値より大きい場合に、部分信号が存在する位置を既知信号の系列52が挿入された位置として判定する。すなわち、仮同期状態であると判定する。仮同期とは、その同期状態が擬似同期である可能性があるものの、少なくとも既知信号が挿入された信号系列内の位置が判別できた状態に相当する。
制御部42は、第1相関計算部32で計算された第1相関値が仮同期に関するしきい値より小さい場合に、信号系列のうち部分信号の系列とは異なる部分信号の系列を対象として、再度、第1差動計算部30に差動を計算させる。ここで、「異なる部分信号の系列」とは、バッファ40内における他の列を含む。言い換えると、仮同期判定部24によって判定された列が既知信号の系列に対応すべき部分信号の系列でなかった場合、他の列を対象として、その列が既知信号の系列に対応すべき部分信号の系列であるか否かを判定する。なお、既知信号の系列に対応すべき部分信号の系列が複数のシンボルから構成されている場合の「異なる部分信号の系列」とは、すでに判定した部分信号の系列の一部と、判定の対象となっていなかった信号とを含む。たとえば、1列目と2列目が部分信号の系列ではないと判定された場合、次に判定の対象となる列は、2列目と3列目となる。このとき、はじめに判定を行なった2列目についての差動の結果を保持しておくことによって、2回目以降の処理を短縮できる。
測定部38は、信号系列の信号強度を測定する。測定部38で測定された信号強度にしたがって、第1相関計算部32と第2相関計算部74によってそれぞれ計算される相関値の範囲が決定される。信号強度が大きい場合は、各部分信号の信頼度も大きいと考えられることから、相関値を計算する範囲を狭くしてもよいと考えられるからである。すなわち、式(3)の右辺のαが大きな値となる。これにより、相関処理の時間を短縮できる。
第2差動計算部72は、複数の差動間隔に関する規則のうちの第2規則にしたがって対応付けられた部分信号間の相対的な位相差をそれぞれ計算する。第1規則のかわりに第2規則を用いる点以外は、第1差動計算部30と同様であるので、ここでは説明を省略する。
第2相関計算部74は、第2差動計算部72によって計算されたそれぞれの部分信号間の位相差と、それぞれの部分信号間の位相差と対応すべき既知信号間の相対的な位相差との第2相関値を計算する。ここでの処理は、第1相関計算部32と同様であるので、説明を省略する。
擬似同期判定部26は、第2相関計算部74で計算された第2相関値が擬似同期に関するしきい値より大きい場合に、復調部20で再生された搬送波の周波数が正しい正常同期として判定し、図示しない復号部6に対し正常同期が確立できた旨を通知する。第2相関値が擬似同期に関するしきい値より小さい場合は、擬似同期と判定して、その旨、および周波数のシフト量を周波数補正部28に通知する。
周波数補正部28は、擬似同期判定部26の通知にしたがって、第2相関計算部74で計算された第2相関値が擬似同期に関するしきい値より大きい場合に、搬送波の周波数をシフトすることによって、搬送波の周波数を補正する。具体的には、補正する周波数の量に相当する周波数信号を発生し、復調部20に出力する。復調部20は、周波数補正部28で生成された周波数信号を図示しないミキサなどの周波数変換部の一方に入力させることによって、搬送波の周波数を補正する。
ここで、差動間隔決定部25において対応づけられた部分信号間の相対的な位相差を求めることによって、位相スリップを回避するとともに、擬似同期が判定できる原理について説明する。
まず、a(t)とb(t)を送信情報信号、ωcを送信キャリア角周波数としたときのBPSKを包括したQPSK受信信号r(t)を以下のように想定する。
r(t) = a(t)cos(ωct)−b(t)sin(ωct) ・・・式(5)
ここで、式(5)に示す信号を受信し、ベースバンド帯信号に変換すると、同相成分I(t)と直交成分Q(t)は式(6)のようになる。
I(t) = a(t)cos(Δωt+θ0) − b(t)sin(Δωt+θ0)
Q(t) = b(t)cos(Δωt+θ0) + a(t)sin(Δωt+θ0) ・・・式(6)
ここで、Δωは、送信キャリア角周波数ωcと受信ローカル角周波数ω1との誤差を示す。また、θ0は両者の初期位相差を示している。このベースバンド信号I(t)とQ(t)は、その後復調処理が施される。さらに、シンボル周期(Ts)ごとにそれぞれの復調結果が出力される。ここで、復調処理としては、ベースバンド信号I(t)、Q(t)に対して、例えばコスタスループなどの手法により、周波数誤差Δωと初期位相差θ0がどちらも零となるような処理が、実行される。この復調処理は、理想的に動作した場合、すなわち、Δω=0、θ0=0である場合、図4(a)のように位相平面上に得られる。また、周波数誤差Δω=0で位相誤差のみ残留した場合、すなわちθ0≠0である場合や、位相誤差θ0は零に収束するものの周波数誤差ΔωがΔω≠0の場合は、それぞれ図4(b)と図4(c)のようになる。また、この復調結果は、同相成分I(t)と直交成分Q(t)ごとに軟判定値とすることが一般的であるが、後段の処理の都合上、I(t)とQ(t)による位相情報であってもよい。例えば、BPSKの場合は、0とπとなる。
本発明の実施例にて対象としている問題は、図4(c)に示している状況である。また、仮にθ0≠0であっても、その影響は全復調出力共通の位相オフセットであり差動を施すとその影響は見えなくなるため、これ以降ではθ0=0としても支障はない。したがって、式(6)を式(7)に変更できる。
I(t) = a(t)cosΔωt − b(t)sinΔωt
Q(t) = b(t)cosΔωt + a(t)sinΔωt ・・・式(7)
式(7)による復調出力はシンボル周期Ts間隔で得られることから、式(7)を式(8)に変更できる。ここでkは整数である。
I(kTs) = a(kTs)cosΔωkTs − b(kTs)sinΔωkTs
Q(kTs) = b(kTs)cosΔωkTs + a(kTs)sinΔωkTs ・・・式(8)
さらに式(8)は、I(kTs)とQ(kTs)をそれぞれ複素数の実数と虚数として扱うと、式(9)が得られる。
I(kTs)−jQ(kTs)={a(kTs)−jb(kTs)}Exp(−jΔωkTs)
・・・式(9)
式(9)において、{a(kTs)−jb(kTs)}は、送信情報信号における既知信号であり、復調出力と相関処理を行う際の部分信号と対応している。差動相関であっても、参照信号として差動間隔を考慮して用意すれば同様となる。従って、相関の際に問題となるのは、Exp(−jΔωkTs)の部分、即ち、周波数誤差Δωと時刻kTsによる位相であり、差動処理を行う場合では、(k+Δk)による位相変化に着目すれば良い。ここで、Δkは差動間隔である。
BPSKの場合、Δkの差動間隔による位相変化Δφは、式(10)のようになる。
Δφ=0 (Δω=0;正常同期)
Δk・π (Δω=2π・fs/2 ;fs/2だけずれた擬似同期)
Δk・−π (Δω=2π・-fs/2 ;-fs/2だけずれた擬似同期)
Δk・π (Δω=2π・-fs/2 ;-fs/2だけずれた擬似同期)
・・・式(10)
ここでfsはシンボルレートであり、擬似同期が生じる周波数誤差の想定範囲は、図1の直交検波部3後の図示しないLPF(Low Pass Filter)や復調処理前に施されるルートロールオフフィルタなどの帯域を想定すると、-fs/2からfs/2の範囲とすることで十分である。
式(10)から、BPSKの場合には、正常同期時は差動間隔不問で相関出力の位相は0となる。また、擬似同期の場合は、差動間隔Δkにしたがって、0またはπとなる。この性質を利用すると、表1の組み合わせが得られる。
既知信号のみを対象として、差動間隔を偶数の場合と奇数の場合の2通り実行すると、正常同期時はどちらも位相0、擬似同期時はいずれか一方がπとなる。すなわち、互いに反転した位相が得られることから、この両者を比較することで正常同期、もしくは、擬似同期のいずれの状態であるか判定できることとなる。また、Δkが偶数および奇数の場合で、両相関値の絶対的な値、たとえば0やπを用いる場合には、差動をとる方向と間隔に加えて、既知信号であるインタリーブの1行サイズが、偶数か奇数かということも、相関出力位相に影響する。いいかえると、相関出力位相は、Δkが偶数となるか奇数となるかという設定に影響する。したがって、インタリーブのサイズ、すなわち、既知信号の系列が信号系列内に挿入された周期を考慮して、判定する方法を決定する必要がある。
なお、復調出力としては軟判定値を適用するのが一般的ではある。また、その軟判定値を(1、−1)の2値化に変換、すなわち、硬判定化すれば、表1の結果は0又はπといった位相状態が、正負という状態に読みかえられる。また、軟判定値とは別に、復調出力位相(0とπ)を用いれば、表1の関係がそのまま適用できる。
ここで、例を用いて説明する。バッファ40の1行のサイズLが「信号系列の1シンボルあたりの変調多値数(BPSKなら2、QPSKなら4)」の倍数であると仮定する。なお、1つの既知信号の系列に含まれる既知信号の個数は、「信号系列の1シンボルあたりの変調多値数」と等しく、ここでは、2と仮定する。さらに、部分信号の系列に含まれる部分信号は、AとBの2シンボルより構成されていると仮定する。また、全ての既知信号が0であると仮定する。そうすると、正常同期の場合におけるバッファ40に記憶された部分信号の系列の位相は、雑音がない場合、式(11−1)のように表せる。同様に、擬似同期の場合におけるバッファ40に記憶された部分信号の系列の位相は、雑音がない場合、式(11−2)のように表せる。また、括弧内の「A;B;C」は、部分信号の系列AとBとCとがそれぞれ連続した異なる行に配置されている様子を示す。式(11−1)、式(11−2)で示される部分信号の系列に含まれる部分信号は、AとBの2シンボルより構成されていると仮定した。また、全ての既知信号が0であると仮定する。
{0、0;0、0;0、0} ・・・式(11−1)
{0、π;0、π;0、π} ・・・式(11−2)
さらに、差動間隔決定部25において対応づけられる関係は、図6(a)、(b)であると仮定する。以上の仮定のもとにおいて、式(11−1)で示される部分信号間に対して、ストレートとクロスについて差動を計算すると式(12−1S)、式(12−1C)のようになる。また、式(11−2)で示される部分信号間に対して、ストレートとクロスについて差動を計算すると式(12−2S)、式(12−2C)のようになる。
{0、0;0、0} :ストレートの場合 ・・・式(12−1S)
{0、0;0、0} :クロスの場合 ・・・式(12−1C)
{0、0;0、0} :ストレートの場合 ・・・式(12−2S)
{π、π;π、π} :クロスの場合 ・・・式(12−2C)
ここで、式(12−1S)、式(12−1C)、式(12−2S)、式(12−2C)において、それぞれ計算された差動結果を合算すると、以下のようになる。
式(12−1S)を合算した結果 = 0 ・・・式(13−1S)
式(12−1C)を合算した結果 = 0 ・・・式(13−1C)
式(12−2S)を合算した結果 = 0 ・・・式(13−2S)
式(12−2C)を合算した結果 = π ・・・式(13−2C)
以上の例により、式(11−1)の場合、すなわち正常同期の場合は、ストレート、クロスの双方とも「0」となる。また、式(11−2)の場合、すなわち擬似同期の場合は、ストレートは「0」になるものの、クロスは「π」となる。したがって、ストレートについて差動をとることにより、仮同期状態を判別し、さらに、クロスについて差動をとることにより、擬似同期状態であるかどうかを判別できることとなる。
ここで、バッファ40の1行のサイズLが既知信号の系列に含まれる既知信号の個数の倍数でないと仮定した場合の例について説明する。そうすると、正常同期の場合におけるバッファ40に記憶された部分信号の系列の位相は、雑音がない場合、式(14−1)のように表せる。同様に、擬似同期の場合におけるバッファ40に記憶された部分信号の系列の位相は、雑音がない場合、式(14−2)のように表せる。
{0、0;0、0;0、0} ・・・式(14−1)
{0、π;π、0;0、π} ・・・式(14−2)
式(14−1)で示される部分信号間に対して、ストレートとクロスについて差動を計算すると式(15−1S)、式(15−1C)のようになる。式(14−2)で示される部分信号間に対して、ストレートとクロスについて差動を計算すると式(15−2S)、式(15−2C)のようになる。
{0、0;0、0} :ストレートの場合 ・・・式(15−1S)
{0、0;0、0} :クロスの場合 ・・・式(15−1C)
{π、π;π、π} :ストレートの場合 ・・・式(15−2S)
{0、0;0、0} :クロスの場合 ・・・式(15−2C)
さらにここで、式(15−1S)、式(15−1C)、式(15−2S)、式(15−2C)において、それぞれ計算された差動結果を合算すると、以下のようになる。
式(15−1S)を合算した結果 = 0 ・・・式(16−1S)
式(15−1C)を合算した結果 = 0 ・・・式(16−1C)
式(15−2S)を合算した結果 = π ・・・式(16−2S)
式(15−2C)を合算した結果 = 0 ・・・式(16−2C)
以上の例により、式(14−1)の場合、すなわち正常同期の場合は、ストレート、クロスの双方とも「0」となる。また、式(14−2)の場合、すなわち擬似同期の場合は、ストレートは「π」になるものの、クロスは「0」となる。したがって、クロスについて差動をとることにより、仮同期状態を判別し、さらに、ストレートについて差動をとることにより、擬似同期状態であるかどうかを判別できることとなる。
以上、2つの例について原理について説明した。これらの例から導けることは、ストレート、クロスのいずれか一方の対応関係で差動を計算することにより、まず仮同期を確立させる。さらに、仮同期を確立させた対応関係以外の対応関係で差動を計算することにより、擬似同期を判定する。このとき、差動を計算するために用いられる対応関係は、既知信号の系列が挿入されている周期Lと、信号系列の1シンボルあたりの変調多値数により決定されることとなる。
ここで、図9を用いて、信号処理部100の動作について説明する。図9は、図2の信号処理部100の動作例を示すフローチャートである。まず、復調部20は、直交検波部3から送られた信号系列に対し、搬送波の再生処理などの復調処理を実行する(S10)。つぎに、部分信号取得部22は、信号系列をバッファ40に書き込む(S12)。つぎに、差動間隔決定部25は、差動間隔に関する第1規則、第2規則を用いて、部分信号取得部22によって取得された部分信号に対して対応づけを実行する(S13)。同期検出部70は、バッファ40内のある部分信号について差動を計算する(S14)。同期検出部70は、対応する既知信号についても同様に差動を計算する。さらに、同期検出部70は、計算した2つの差動の相関を計算する(S16)。つぎに、同期検出部70は、差動を計算した列の個数だけ、相関結果を合算する。つぎに、同期検出部70は、仮同期に関するしきい値と相関結果を比較して、差動を計算した列が既知信号の系列に相当する部分信号の系列であるか否か、すなわちフレーム同期を判定する(S20)。
判定の結果、しきい値を超えていない場合(S20のN)、同期検出部70は、バッファ40内の列をずらして(S22)、再度、対応付け(S13)、差動計算1(S14)などの処理を繰り返す。判定の結果、しきい値を超えている場合(S20のY)、仮同期とみなせる。この場合、同期検出部70は、S14とは異なる差動間隔で対応づけられた部分信号間の差動を計算する(S23)。さらに、同期検出部70は、対応する既知信号に対しても、同様の差動間隔で差動を計算する。さらに、同期検出部70は、S16と同様に、部分信号間の差動結果と既知信号間の差動結果の相関を計算する(S25)。つぎに、同期検出部70は、相関の結果が擬似同期に関するしきい値より大きい場合に、復調部20で再生された搬送波の周波数が正しい正常同期として判定する(S26のY)。第2相関値が擬似同期に関するしきい値より小さい場合は、擬似同期と判定して(S26のN)、あわせて判定された周波数のシフト量を用いて周波数補正を実行する。なお、図9には図示してないが、正常同期が確立された後は、復号部6においてインタリーブ処理、ビタビ復号処理などの復号処理がなされる。
本実施例によれば、2つの異なる相対的な位相差を用いて同期を2段階に分けて確立させることによって、擬似同期状態の判定処理時間を低減できる。また、最初に粗く同期を確立し、その後、厳密な同期を確立させることによって、効率的に同期が検出できる。また、それぞれの段階における同期判定に差動間隔に関する規則を使い分けることによって、より効率的に同期が検出できる。また、部分信号間の位相の差動を計算することによって、位相スリップが生じた場合でも、正確に同期を捕捉することができる。また、信号強度により相関値を計算する範囲を限定することによって、同期を短時間に捕捉できる。また、仮同期が確立されるまで所定の処理を繰り替えることによって、送信側において挿入された既知信号の位置を正確に捕捉することができる。また、搬送波の周波数を補正することによって、擬似同期状態を脱却することができる。また、それぞれ異なる対象で差動を計算させることによって、スリップ対策だけでなく、擬似同期も判定できる。
つぎに、本発明の実施例の変形例を示す。本発明の実施例の変形例は、低CNRの無線信号の同期を確定する信号処理部100を含む端末装置200に関する。本発明の実施例との相違は、端末装置200が受信する信号系列がBPSK変調ではなく、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調されている点である。なお、前述した実施例と構成は同一であるので、同一の符号を付して説明を簡略化する。本発明の実施例の変形例にかかる端末装置200は、図1に示す構成と同様に、アンテナ1と、RF部2と、直交検波部3と、信号処理部100と、復号部6とを含む。信号処理部100は、図2に示す構成と同様に、復調部20と、部分信号取得部22と、差動間隔決定部25と、同期検出部70と、バッファ40とを含む。また、部分信号取得部22は、図7に示す構成と同様に、書込部62と、信頼度取得部64とを含む。また、同期検出部70は、図8に示す構成と同様に、第1差動計算部30と、第1相関計算部32と、仮同期判定部24と、制御部42と、測定部38と、第2差動計算部72と、第2相関計算部74と、擬似同期判定部26と、周波数補正部28とを含む。
ここで、QPSK変調方式の場合において、差動間隔決定部25において対応づけられた部分信号間の相対的な位相差を求めることによって、位相スリップを回避するとともに、擬似同期が判定できる原理について説明する。
QPSKの場合、Δkの差動間隔による位相変化Δφは、式(17)のようになる。
Δφ=0 (Δω=0;正常同期)
Δk・π/2 (Δω=2π・fs/4 ;fs/4だけずれた擬似同期)
Δk・−π/2 (Δω=2π・-fs/4 ;-fs/4だけずれた擬似同期)
Δk・π (Δω=2π・fs/2 ;-fs/2だけずれた擬似同期)
Δk・−π (Δω=2π・-fs/2 ;-fs/2だけずれた擬似同期)
Δk・π (Δω=2π・-fs/2 ;-fs/2だけずれた擬似同期)
・・・式(17)
ここで、正常同期の場合は、Δkによらず常に0であるのに対し、fs/4ずれた擬似同期ではΔk=4,8,12・・・で0(rad)となる。また、-fs/4ずれた擬似同期でもΔk=4,8,12・・・で0(rad)となる。また、±fs/2ずれた擬似同期ではΔk=2,4,6,8,10・・・で0(rad)となる。以上から、正常同期、および、いずれかの擬似同期であってもΔk=4,8,12,・・・では0(rad)となる。このパターンをパターンAとする。また、Δk=2,6,10,・・・・では正常同期、および、±fs/2ずれた擬似同期で0(rad)となる。このパターンをパターンBとする。さらに、それ以外のΔk(奇数)ではπ/2、-π/2、πのいずれかを算出する。このパターンをパターンCとする。なお、Δk=0は、自己相関となるためここでは除外して考える。
上記のパターンA、B、Cは、換言すると、
パターンA:正常同期およびどの擬似同期でも2nπ=0(rad)となる差動間隔
パターンB:正常同期およびある擬似同期では2nπ=0(rad)となる差動間隔
パターンC:正常同期以外では2nπ=0(rad)とならない差動間隔
とも言える。従って、「パターンAとなるΔkによる差動相関」と「パターンCとなるΔkによる差動相関」の比較によって、正常同期か擬似同期かの判断が可能となる。これを比較方法1とする。あるいは、「パターンAとなるΔkによる差動相関」と「パターンA以外の2種類、または3種類の差動相関の組み合わせ」の比較によって、正常同期か擬似同期かの判断が可能となる。これを比較方法2とする。
ここで、図10(a)〜(d)を用いて、差動間隔決定部25が8つの部分信号をそれぞれ対応づける規則について示す。図10(a)〜(d)は、本発明の実施例の変形例にかかる差動間隔決定部25における対応づけの例を示す図である。図10(a)は、図2の差動間隔決定部25におけるストレートに係る対応づけパターンを示す図である。図10(b)〜(d)は、それぞれ図2の差動間隔決定部25におけるクロスに係る対応づけパターン例を示す図である。なお、1つの既知信号の系列に含まれる既知信号の個数は、「信号系列の1シンボルあたりの変調多値数」と等しく、ここでは、4と仮定している。BPSKの場合について示した図6と異なり、クロスについてのパターンが多いのが特徴である。
ここで、図11(a)〜(d)を用いて、図2の差動間隔決定部25における規則について説明する。図11(a)〜(d)は、本発明の実施例の変形例にかかる差動結果の例を示す図である。図11(a)は、バッファ40の1行あたりの長さLが「信号系列の1シンボルあたりの変調多値数」の倍数である場合についての相関値の例である。この例においては、正常同期もしくは3つの擬似同期のいずれかである場合と、対応づけがストレートもしくは3つのクロスのいずれかである場合との組み合わせについて、計16個の相関値を示している。なお、これらの例は、BPSKにおいて示した差動結果式(16−1S)等に対応している。また、クロス1、クロス2、クロス3とは、図10(b)〜(d)にそれぞれ示した対応付けパターンを指している。また、図示したパターンA、パターンB以外のパターンをパターンCとする。
図11(a)に示すとおり、ストレート(Δk=4,8,12・・・・)の相関値を用いて仮同期を判定できる。また、パターンB(クロス1、クロス3)のうちのいずれかその相関値を比較(比較方法1)することで、正常同期か擬似同期か判断できる。また、このときには、±fs/4、すなわち、±π/2の擬似同期に限り、周波数誤差の極性も把握できる。このような場合、擬似同期判定部26は、周波数補正部28に対し、極性についての情報も通知する。
比較方法2の場合には、クロス1と2,3の各相関出力を絶対値化した後に位相成分をsinとcosに分解した状態で加算し、最後に改めて加算結果のsinとcosから位相を算出すれば良い(絶対値をとらないと、合成時には位相0になる場合もある)。例えば、π/2にて擬似同期した場合には、パターンBとCの組み合わせとして、π/2、π、|−π/2|の位相をsinとcosに分解した上で、sin同士、およびcos同士を加算し、最後に位相を算出すると、その位相結果はtan-1(2/1)≒116(deg)≒2π/3(rad)付近に漸近する。
図11(b)〜(d)は、バッファ40の1行あたりの長さLが「信号系列の1シンボルあたりの変調多値数」の倍数でないそれぞれの場合についての相関値の例で、正常同期もしくは擬似同期である場合と、対応づけがストレートもしくはクロスである場合のあわせて16の相関値を示している。
図11(b)に示すとおり、インタリーブ1行サイズがmod(N,4)=1となる場合、すなわち、バッファ40の1行あたりの長さLを「信号系列の1シンボルあたりの変調多値数」で剰余演算したときに1となる場合は、パターンA(クロス3)の相関値を用いて仮同期を判定できる。また、パターンB(ストレート、クロス2)のうちのいずれかその相関値を比較(比較方法1)することで、正常同期か擬似同期か判断できる。また、このときには、±π/2の擬似同期に限り、周波数誤差の極性も把握できる。
図11(c)に示すとおり、バッファ40の1行あたりの長さLを「信号系列の1シンボルあたりの変調多値数」で剰余演算したときに2となる場合は、パターンA(クロス2)の相関値を用いて仮同期を判定できる。また、パターンB(クロス1、クロス3)のうちのいずれかその相関値を比較(比較方法1)することで、正常同期か擬似同期か判断できる。また、このときには、±π/2の擬似同期に限り、周波数誤差の極性も把握できる。
図11(d)に示すとおり、バッファ40の1行あたりの長さLを「信号系列の1シンボルあたりの変調多値数」で剰余演算したときに3となる場合は、パターンA(クロス1)の相関値を用いて仮同期を判定できる。また、パターンB(ストレート、クロス2)のうちのいずれかその相関値を比較(比較方法1)することで、正常同期か擬似同期か判断できる。また、このときには、±π/2の擬似同期に限り、周波数誤差の極性も把握できる。
なお、比較方法2の場合については、図11(b)〜(d)に示すいずれの場合においても、考え方は図11(a)の場合と同様である。実際に差動処理を行う際には、シンボル毎の復調出力に対しては4通りの位相(0、±π/2、π)に変換しておけば良い。
以上、QPSKの場合について原理を説明した。これらの例から導けることは、QPSKの場合であっても、BPSKの場合と同様に、ストレート、クロスのいずれか一方の対応関係で差動を計算することにより、まず仮同期を確立できる。さらに、仮同期を確立させた対応関係以外の対応関係で差動を計算することにより、擬似同期を判定できる。このとき、差動を計算するために用いられる対応関係は、既知信号の系列が挿入されている周期Lと、信号系列の1シンボルあたりの変調多値数により決定されることとなる。なお、信号系列の1シンボルあたりの変調多値数は、1つの既知信号の系列に含まれる既知信号の個数とよみかえることができるものとする。
本実施例の変形例によれば、2つの異なる相対的な位相差を用いて同期を2段階に分けて確立させることによって、擬似同期状態の判定処理時間を低減できる。また、既知信号の系列が挿入されている周期Lと、信号系列の1シンボルあたりの変調多値数により相関値を計算する対応関係を決定することにより、どのような場合であっても、擬似同期状態を判定できる。また、BPSKの場合と同様に、最初に粗く同期を確立し、その後、厳密な同期を確立させることによって、効率的に同期が検出できる。また、それぞれの段階における同期判定に差動間隔に関する規則を使い分けることによって、より効率的に同期が検出できる。周波数誤差の極性も把握できる。
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本実施例においては、一面のバッファ40に信号系列を書き込むとして説明した。しかしながらこれにかぎらず、二面構成のバッファ40を用いてもよい。また、差動処理において、バッファ40に書き込まれた上下について実行するとして説明した。しかしながらこれにかぎらず、2つおき、3つおきの行との差動を実行してもよい。
また、本実施例、本実施例の変形例では、信号系列がBPSK、もしくは、QPSK変調されているとして説明した。しかしながらこれにかぎらず、OQPSK(Offset QPSK)、DBPSK(Diffential BPSK)、DQPSK(Differential QPSK)、π/4シフトQPSK、M−PSK、M−DPSK(Differential PSK)、M−APSK(Amplitude PSK)、M−ADPSK(Amplitude DPSK)、2L-QAM(Quadrature Amplitude Modulation)であってもよい。その場合、下記のような原理で動作させることで、上述と同様の効果を得ることができる。
OQPSKの場合、復調時には、一般的にI(t)またはQ(T)のいずれか一方をTs/2だけ遅延させ、通常のQPSKのように変換して復調処理される。このとき、通常のQPSK同様に擬似同期が生じる可能性があるが、上述のQPSKの場合と同様に考えることができる。ただし、Ts/2シンボル遅延を施していることから、QPSKの場合のように相関方向に応じた一律の相関位相にならないと言う、OQPSK固有の状況が生じる場合がある(±fs/4にて擬似同期した場合)。例えば、インタリーブ1行サイズがmod(N,4)=1において、fs/4にて擬似同期(位相変化はπ/2)の場合に、1行間隔のストレート方向の差動相関を施すと、0→3π/4、3π/4→π、π→-π/4、-π/4→0と変化する。しかしながら、位相の各変化量に対してsinとcosに分解して合成すると、合成値として最終的にはπ/2に漸近することとなる。そのため、QPSKの場合と比較して、「位相分解処理が増える」「相関の合成値の精度が低い」という問題はあるものの、基本的にはQPSKと同様な判断が可能である。
DBPSKやDQPSKの場合、すなわち、変調側にて差動符号化された場合は、受信側においては図1のような準同期検波構成によってベースバンド帯信号に変換し、復調処理後、差動符号化の部分は復号しない状態で、復調出力に対して差動相関を行うことで、正常同期と擬似同期とによらずにフレーム同期確立を行い、その後、依然として差動符号化の部分は復号しない状態のまま、上述のようなΔkなる間隔の差動出力との相関を実行すればよい。なお、信号系列に含まれる既知信号の系列以外のデータ部分については、正常同期段階で復合すれば良い。なお、差動符号化部分を復号してしまうと、擬似同期では誤り伝播が多発してフレーム同期がとれなくなる。また、正常同期と擬似同期の判断においても、差動符号化部分を復号してしまうと、上述のような関係が得られない。また、IF信号を遅延検波方式でベースバンド帯信号に変換する方法も、復調方式として差動符号化信号には適用できるが、遅延検波実行段階で、差動符号化部分の復号が行われてしまうため、本考案はそのような回路構成では適用できない。
π/4シフトQPSKの場合において、変調側にて施されたπ/4ラジアンのシフト操作の部分は、1/(8Ts)なる周波数成分のオフセットによって、検波出力の同相成分と直交成分では解除されおり、その後はQPSKやDQPSKと同じ方法で復調できる。即ち、上述のQPSKやDQPSKの場合と同様な方法が適用できる。
M−PSK、M−DPSKの場合、たとえば、8PSKや16PSKの場合であっても、擬似同期の発生メカニズムは同じ。また、差動間隔Δkによる相関位相の関係を把握することで、QPSKの場合の拡張として本方式が適用できることは、当該業者であれば容易に考えられる。更に、8DPSKや16DPSKという差動符号化を行っている場合であっても、上述のDBPSKやDQPSKの考えを踏まえれば、当該業者であれば適用方法は容易に考えられる。
M−APSK、M−ADPSKの場合も、擬似同期発生メカニズムは同様である。8APSKや16APSKの場合、同一半径のシンボルに既知信号を配置する方式であれば、上述の説明から適用方法が容易に考えられ、振幅が異なるシンボルを用いたとしても、差動相関時の出力として位相情報を用いれば、適用方法は容易に考えられる。また、差動符号化が施されている場合であっても、これまでの方法を踏襲することで、当該業者であれば容易に適用方法は考えられる。
2L-QAMの場合、たとえば、16QAMといった、いわゆる多値直交振幅変調方式であっても、キャリア再生方式としてPSK方式と同様な方式を適用すると、擬似同期が生じる。この場合であっても、フレーム同期に適用する既知信号をouterシンボル(四隅)に配置されていれば、QPSKと同じ考え方が適用できる。また、outer以外のシンボルに配置されていたとしても、差動間隔Δkと、想定する周波数誤差範囲内にて生じる擬似同期にて発生する1シンボル間の位相変化パターン全てとの対応を踏まえれば、上述のQPSKと同様な判断基準が得られることから、このような変調方式であっても適用することは当該業者であれば可能である。
1 アンテナ、 2 RF部、 3 直交検波部、 6 復号部、 20 復調部、 22 部分信号取得部、 24 仮同期判定部、 25 差動間隔決定部、 26 擬似同期判定部、 28 周波数補正部、 30 第1差動計算部、 32 第1相関計算部、 38 測定部、 40 バッファ、 42 制御部、 50 信号系列、 52 既知信号の系列、 53 既知信号、 54 データ信号、 62 書込部、 64 信頼度取得部、 70 同期検出部、 72 第2差動計算部、 74 第2相関計算部、 100 信号処理部、 200 端末装置。