図1から図19を用いて、本発明の実施例1である焦点検出方法について説明する。まず、図1には、本実施例の焦点検出装置を搭載した光学機器としてのカメラの構成を示している。
本実施例のカメラは、CCDセンサ又はCMOSセンサなどの光電変換素子である撮像素子を用いた単板式のデジタルカラーカメラである。撮像素子を連続的又は単発的に駆動することにより、動画像又は静止画像を表わす画像信号を得ることができる。撮像素子は、画素ごとに受けた光を電気信号に変換して、受光量に応じた電荷を蓄積し、その電荷が読み出されるタイプのエリアセンサである。
図1において、1は撮影光学系、2は撮影光学系からの被写体光束を分割する主ミラーである。主ミラー2の一部はハーフミラーになっており、一部の被写体光束を透過し、残りの被写体光束を上方に反射する。3は主ミラー2を透過した被写体光束を下方に反射する。サブミラー3の下方には、撮影光学系1の焦点状態を検出する焦点検出装置20が配置されている。サブミラー3での反射光は焦点検出装置20に導かれる。4は撮像素子であり、撮影光学系1により形成された被写体光束を受光して画像信号に変換する。
本実施例の撮像素子4は、パッケージ化されたものであり、増幅型固体撮像素子の1つであるCMOSプロセスコンパチブルのセンサ(CMOSセンサ)である。CMOSセンサの特長の1つに、エリアセンサ部のMOSトランジスタと、撮像素子駆動回路、AD変換回路、画像処理回路といった周辺回路を同一工程で形成できるというものがある。これにより、マスク枚数、プロセス工程がCCDセンサと比較して大幅に削減できる。また、任意の画素へのランダムアクセスが可能といった特長も有する。これにより、ディスプレイ用に間引いた電荷蓄積信号の読み出しも容易であり、高い表示レートでリアルタイム表示が行える。撮像素子4は、この特長を利用し、ディスプレイ画像の出力動作や高精細画像の出力動作を行う。
焦点検出装置20は、位相差検出方式による焦点検出を行う。位相差検出方式では、撮影光学系1の一対の異なる瞳領域を透過した光束で形成される2つの被写体像の相対位置関係(位相差)を検出し、これを撮影光学系1の焦点状態を表す情報として用いる。撮影光学系の一対の異なる瞳領域から得られる2つの被写体像の位相差によって撮影光学系の焦点状態を検出する技術は、特開昭52−138924号公報等に開示されているように良く知られた技術である。
主ミラー2は、図示しないカメラ本体に軸部2aによって支持され、カメラ本体に対して回転可能である。また、サブミラー3は、主ミラー2の保持部材に軸部3aで支持され、主ミラー2に対して回転可能である。このため、主ミラー2が軸部2a回りで、またサブミラー3が軸部3a回りで回転することにより、主ミラー2は撮影光学系1の光軸に対して45度傾斜した位置に、サブミラー3が下方に約45度傾斜した位置に配置される(以下、この状態をミラーダウン状態という)。また、主ミラー2およびサブミラー3をともに上方に格納することによって、被写体光束の光路から退避した状態に配置される(以下、この状態をミラーアップ状態という)。
ミラーダウン状態では、撮影光学系1からの被写体光束は上方のファインダー光学系と下方の焦点検出装置の二つに分割される。一方、ミラーアップ状態では、撮影光学系1からの被写体光束はすべて撮像素子4に導かれる。
撮影光学系1から撮像素子4に至る光路中には、撮像素子4上に物体像の必要以上に高い空間周波数成分が伝達されないように撮影光学系1のカットオフ周波数を制限する光学ローパスフィルター22が設けられている。また、光学ローパスフィルター22には赤外線カットフィルターも形成されている。
光学ローパスフィルター22の光入射面側には、撮像素子4に入射する被写体光束の露光秒時を制限するシャッターユニット21が配置されている。それぞれ複数のシャッタ羽根で構成される先幕21aと後幕21bが、撮像素子4の短辺方向に走行し、先幕21aと後幕21bの走行間隔でシャッター秒時を制御する。
5はサブミラー3で反射した被写体光束を制限する遮光部材(以下、カバーという)である。カバー5は、被写体光束のうち焦点検出に必要な光束だけを透過する開口を有する。該開口は撮影光学系1の結像面付近に配置され、必要な被写体光束を以下に述べる焦点検出光学系に導き、不必要な被写体光束を遮光する。カバー5の上面は、カメラ本体の内壁に露出するため、反射光が撮像素子4に到達しないように遮光線が施されている。
6はカバー5の開口を透過した光束をさらに制限する遮光シート、7は後述する焦点検出光学系の瞳を撮影光学系の瞳に投影するフィールドレンズである。8は焦点検出装置20の各部品を保持する保持部材、9は保持部材8をカメラ本体に取り付けるプレートである。
11はIR−CUTフィルターである。IR−CUTフィルター11では、ガラス表面に赤外成分の光を反射する多層蒸着膜が形成されている。
12は折り返しミラーである。折り返しミラー12では、ガラス表面にアルミの蒸着膜が形成され、該ミラー12は、波長400〜800nmの光をほぼ同じ反射率で反射する。カメラ下部の限られたスペースに焦点検出装置20を収納するために、折り返しミラー12は被写体光束を折り返し、焦点検出装置20の小型化を図っている。
13は再結像光学系の絞りである。絞り13には一対の開口が形成され、再結像レンズ14の一対のレンズ部に入射する光束を制限している。
14は再結像レンズである。絞り13の一対の開口に対応して一対のレンズを備え、撮影光学系1の異なる瞳領域からの光束をそれぞれ焦点検出センサ17上に結像させる。
16は焦点検出センサ17を保持するセンサホルダー、15はセンサホルダー16と保持部材8の間に介在して、焦点検出センサ17の傾き調整機構を構成する当接部材である。
センサホルダー16は、焦点検出センサ17を保持する部材である。焦点検出センサ17とセンサホルダーは瞬間接着剤や溶着剤などにより固定される。
40は焦点検出センサ17からの信号に基づいて、後述する評価値の演算を行い、該評価値に基づいて焦点検出情報を生成する演算回路である。また、演算回路40は、焦点検出情報に基づいて撮影光学系1に含まれるフォーカスレンズ(図示せず)の合焦位置への駆動方向と駆動量を演算し、不図示のレンズ制御回路を通じて焦点調節動作を制御する。すなわち、演算回路40は焦点調節制御を行う制御回路としても機能する。但し、焦点検出演算を行う演算回路と、焦点調節制御を行う制御回路とをカメラ内で分けて設けてもよい。
カバー5、遮光シート6、フィールドレンズ7、保持部材8、プレート9、偏心カム10、IR−CUT11、折り返しミラー12、絞り13、再結像レンズ14、当接部材15、センサホルダー16、焦点検出センサ17および演算回路40によって、焦点検出装置20が構成される。
ここで、IR−CUTフィルター11は、折り返しミラー12で折り返された後の光軸に対して垂直に配置されず、所定角度だけ傾いて配置されている。これは、焦点検出センサ17の受光面で反射した光がIR−CUTフィルター11の表面で反射して再び焦点検出センサ17の受光面に到達してしまうことによるゴーストの発生を防止するためである。IR−CUTフィルター11を所定角度だけ傾けることで、焦点検出センサ17から戻ってきた光はIR−CUTフィルター11の表面で反射して焦点検出センサ17の受光面から外れたところに到達するため、ゴーストとして観測されない。
図2には、本実施例の焦点検出装置20を分解して示している。カバー5は、被写体光束のうち焦点検出に必要な光束だけを透過する開口を有し、該開口は撮影光学系1の結像面付近に配置されている。これにより、焦点検出に必要な被写体光束だけが焦点検出光学系に導かれ、不必要な被写体光束は遮光される。
カバー5には穴部5aが2箇所に形成されている。保持部材8は、突起部8eをこれらの穴部5aに挿入してカバー5を固定している。カバー5の上面は、カメラ本体の内壁に露出するため、反射光が撮像素子4に到達しないように遮光線が施されている。
遮光シート6は、カバー5の開口を透過した光束をさらに制限する。フィールドレンズ7は、絞り13を撮影光学系の瞳に投影する。保持部材8は、焦点検出装置20を構成する各部品を保持する。
プレート9は、保持部材8をカメラ本体に取り付けるために用いられる。偏心カム10は、保持部材8の軸部8aに回転可能に保持されている。
保持部材8は、前述したカバー5、遮光シート6、フィールドレンズ7、偏心カム10、IR−CUTフィルター11、折り返しミラー12、絞り13、再結像レンズ14、当接部材15、センサホルダー16、焦点検出センサ17およびセパレータ18,19を保持している。
保持部材8はプレート9を介してカメラ本体に取り付けられる。カメラ本体と保持部材8とで材質が異なる場合、線膨張係数も異なることが多い。この場合、温度変化でカメラ本体と保持部材8で伸縮率が異なり、カメラ本体の変形により保持部材8が歪んでしまう恐れがある。焦点検出光学系の各部品は保持部材8に保持されているため、保持部材8の歪みは焦点検出結果の誤差に直結してしまう。そこで本実施例では、保持部材8をカメラ本体に直接固定するのではなく、保持部材8と線膨張係数が近い材質でできているプレート9を介して固定する。これにより、カメラ本体とプレート9とで線膨張係数が異なる場合には、プレート9でその変形を吸収し、保持部材8には歪みを生じさせない。
プレート9は、カメラ本体の変形を保持部材8に伝えにくくするために、ヤング率が大きい材質であることが望ましい。このため、ステンレスや鉄などの金属製のプレートをプレス加工により曲げて製作したものが用いられる。
さらに、プレート9の強度を保つためには、環状につながった形状であることが望ましい。このため、プレート9は、全体としてはL字形状でありながらも、保持部材8を囲むような環状につながった形状に形成されている。これにより、カメラ本体の変形を吸収するのに十分な強度を保つことができ、保持部材8の歪みを防ぐことができる。
プレート9には、撮像素子4の短辺方向に当接部を有するU字穴形状の軸受け部9a,9bが形成されている。軸受け部9a,9bは、カメラ前後方向(被写体−像面方向)の幅が軸部8a,8bを係合させることができる寸法に設定されている。軸部8a,8bが軸受け部9a,9bに係合している状態では、保持部材8のプレート9に対するカメラ前後方向の位置が一意的に決まる。軸受け部9aのU字穴は、軸受け9bのU字穴より長い。このため、保持部材8をプレート9に対して設計値の位置に配置すると、軸部8aと軸受け部9aは撮像素子4の短辺方向においては当接しないが、軸部8bと軸受け部9bは当接した状態となる。つまり、軸部8bと軸受け部9bは、カメラ前後方向および撮像素子4の短辺方向に当接して一意的に位置が決まり、軸部8aと軸受け部9aは、撮像素子4の短辺方向にだけ移動可能である。
保持部材8の軸部8aに保持された偏心カム10は、その外周でプレート9と当接してプレート9に対する軸部8aの高さ位置を決めている。これにより、前述のように撮像素子4の短辺方向に移動可能である軸部8aの位置は、偏心カム10の回転角度によって一意的に決まる。
保持部材8は、軸部8a,8bを中心としてプレート9に対して回動可能である。さらに保持部材8は、偏心カム10の回転により軸部8aの高さ位置を変えることにより、撮影光学系1の光軸を中心軸とするような回転動作も可能である。
焦点検出装置20は、前述した軸8a,8bを中心軸とする回転と、偏心カム10の回転による軸部8aの高さ位置の調整とにより、2方向の傾き調整が可能である。この2方向の傾き調整によって、焦点検出光学系の光軸と撮影光学系1の光軸とのずれを修正する、いわゆる瞳出し調整を行うことができる。瞳出し調整完了後は、保持部材8とプレート9と偏心カム10の当接面に瞬間接着剤や溶着剤を流し込み、これらを固定する。
なお、プレート9の軸受け部9a,9bと保持部材8の軸部8a,8bとが当接している状態でカバー5を取り付けると、カバー5がプレート9の抜けを防ぐ。このため、接着していなくても保持部材8からプレート9が外れない。
IR−CUTフィルター11は、前述したように、ガラス表面に赤外成分の光を反射する多層蒸着膜が形成されたものである。焦点検出センサ17は、可視光より波長が長い光に対しても感度を有する。一方、撮像素子4の光入射面側には赤外カットフィルターも備えた光学ローパスフィルター22が配置されているため、可視光よりも波長が長い光はカットされてしまい、撮像素子4に到達しない。焦点検出センサ17と撮像素子4とで受光する光の分光特性が異なると、これらの合焦位置が変わってしまう。この場合、焦点検出装置20によって得られる合焦位置に撮影光学系1のフォーカスレンズを駆動すると、撮像素子4ではピントがずれているという現象が生じてしまう。このため、IR−CUTフィルター11は、撮像素子4と焦点検出センサ17に到達する光の分光特性を揃え、前述のような不具合を防ぐ役目を果たしている。
折り返しミラー12は、前述したように、ガラス表面にアルミの蒸着膜が形成されたものであり、波長400〜800nmの光をほぼ同じ反射率で反射する。
再結像光学系の絞り13には一対の開口が形成され、再結像レンズ14の一対のレンズ部に入射する光束を制限する。絞り13は、フィールドレンズ7により撮影光学系1の瞳上に投影される。投影された絞り13の一対の開口により、撮影光学系1の瞳における一対の異なる瞳領域からの光束を透過する。絞り13の材料は、リン青銅などの金属板や遮光用樹脂シートを用いることが好ましい。リン青銅板を用いる場合には、まず型で打ち抜き、打ち抜いた後のリン青銅板に黒色メッキを施し、絞り13を製作する。遮光用樹脂シートの場合には、型で打ち抜くだけ製作が可能である。
再結像レンズ14は、絞り13の一対の開口に対応した一対のレンズを備え、撮影光学系1の異なる瞳領域からの光束をそれぞれ撮像素子17上に結像させる。再結像レンズ14は2つの位置決めダボを備え、該ダボが保持部材8に設けられた基準穴と絞り13に設けられた基準穴とに係合することで、再結像レンズ14が保持部材8と絞り14に対して位置決めされる。保持部材8の受け面で絞り13を挟んで保持部材8と当接することで、再結像レンズ14の光軸方向の位置も決まる。
絞り13と再結像レンズ14は、接着剤で保持部材8に固定される。再結像レンズ14は透明樹脂により、射出成型によって製作される。再結像レンズ14の材料である透明樹脂と、保持部材8の材料である樹脂とでは線膨張係数が異なり、温度変化で伸縮率が異なる。このため、保持部材8と再結像レンズ4を強固に接着してしまうと、温度変化が生じたときに再結像レンズ14が歪んでしまう恐れがある。再結像レンズ14の変形は焦点検出結果に大きく影響してしまうため、焦点検出精度の低下を引き起こす恐れがある。このため、絞り13と再結像レンズ14を保持部材8に接着する際には、ヤング率が10kgf/mm2以下の柔らかい接着剤を用い、温度下での再結像レンズ14の変形を防いでいる。
センサホルダー16は、焦点検出センサ17を保持し、当接部材5は、センサホルダー16と保持部材8の間に介在して焦点検出センサ17の傾き調整機構を構成する。当接部材15には、被写体光束を透過させるための開口部15aと、保持部材8に当接するための一対の球面部15bが形成されている。開口部15aは、被写体光束を制限する役割を持たないため、被写体光束の有効径より大きな開口として形成されている。球面部15bは、当接部材15の両端に形成されており、それぞれ球面の一部を切り出したような形を有する。つまり、当接部材15の両端に球が2つ設けられて、これらが保持部材8と当接する。
焦点検出センサ17とセンサホルダー16は、瞬間接着剤や溶着剤などにより固定される。センサホルダー16には、被写体光束を透過させるための開口部16aが形成されている。開口部16aは、被写体光束を制限する役割を持たないため、被写体光束の有効径より大きな開口として形成されている。
次に、図3を用いて、再結像レンズ14と焦点検出センサ16の5軸調整機構について説明する。図3は図1におけるA−A断面を示している。再結像レンズ14は、2つの位置決めダボ14aを備え、該ダボ14aが保持部材8に設けられた位置決め穴8fに係合することで、再結像レンズ14の保持部材8に対する位置が決まる。さらに再結像レンズ14は、保持部材8の再結像レンズ受け面で絞り13を挟んで保持部材8と当接することで、その光軸方向の位置も決められる。
当接部材15には一対の球面部15bが形成されている。球面部15bは当接部材15の両端に設けられ、それぞれ球面の一部を切り出したような形をしている。つまり、当接部材15の両端に球が2つ設けられ、これらが保持部材8と当接する。
一方、保持部材8には、所定の曲率半径を有する球面状の一対の当接部8cが形成されている。このときの曲率半径は、当接部材15の球面部15bの曲率半径と同じである。保持部材8の当接部8cと当接部材15の球面部15bとが摺動することで、当接部材15は保持部材8に対して30aの方向と30bの方向に回転可能である。30aの方向に回転する場合には、当接部材15は、その球面部15bの曲率中心を回転中心として回転する。一方、30bの方向に回転する場合には、保持部材8の当接面8cに沿って当接部材15が移動するため、当接面8cの球面の曲率中心を回転中心として回転する。
センサホルダー16は、焦点検出センサ17を保持する。焦点検出センサ17はセラミックパッケージである。16bが積層タイプのセラミックパッケージ、16cがカバーガラスであり、チップ16aをセラミックパッケージ16bの中に置き、カバーガラス16cで蓋をして周囲を接着剤で固定および封止することでパッケージが構成される。
焦点検出センサ17とセンサホルダー16は、セラミックパッケージ16bの光入射面側のカバーガラス16cで覆われていない箇所で、瞬間接着剤などにより固定される。23はその接着箇所である。接着箇所23を確保するために、セラミックパッケージ17bは、カバーガラス17cよりも大きめに設定されている。これにより、接着箇所23がカバーガラス17cの光束透過領域から遠ざかるため、接着剤による白化などによりカバーガラス17cの光束透過領域が汚れてしまうのを防ぐことができる。
当接部材15とセンサホルダー16は互いに当接しており、光軸を中心として回転可能であるとともに、光軸に垂直な面上を移動可能である。
再結像レンズ14は保持部材8に固定されている。一方、焦点検出センサ17はセンサホルダー17と一体となって、当接部材15に対して光軸を中心とする回転と、光軸に垂直な面上を移動が可能となっている。さらに、焦点検出センサ17とセンサホルダー16と当接部材15は一体となって、保持部材8に対して30aと30bの向きに回転可能となっている。
上述のような回転機構と、光軸を法線とする面上でのシフト機構を設けることで、再結像レンズ14と焦点検出センサ17の5軸調整機構を実現できる。5軸調整完了後は、瞬間接着剤やモールド溶着剤などを摺動面に流し込み、保持部材8と当接部材15とセンサホルダー16を固定する。
図2において、18,19は中央視野の被写体光束と周辺視野の被写体光束とが混ざることを防ぐセパレータである。フィールドレンズ7の中央レンズ部を透過した光束が絞り13の周辺視野用の開口を透過して焦点検出センサ17に到達してしまうと、ゴースト光となって検出誤差を招く。そこで、フィールドレンズ7とIR−CUTフィルター11との間の光路で、中央視野用の光束と周辺視野用の光束の隙間にセパレータ18,19を介在させ、これらの光束が混ざることを防いでいる。
図4は、撮影画面における焦点検出視野のレイアウトを示している。24は撮像素子4による撮影範囲を示している。それぞれがライン状の焦点検出視野(以下、焦点検出ラインという)は21ライン存在する。1ラインに対して一対の被写体像が焦点検出センサ17の受光面上に形成されるため、42個の被写体像が再結像レンズ14により焦点検出センサ17の受光面上に形成される。撮影画面の中央には、縦方向に長い焦点検出ライン(以下、縦目という)がL1,L2の2ラインあり、横方向に長い焦点検出ライン(以下、横目という)がL3,L4の2ラインある。縦目は、相関方向が縦方向(撮像素子4の短辺方向)であり、縦方向の輝度分布から撮影光学系1の焦点状態を検出する。一方、横目は、相関方向が横方向(撮像素子4の長辺方向)であり、横方向の輝度分布から撮影光学系1の焦点状態を検出する。
縦方向に2ライン並んだ焦点検出ラインL1,L2は、縦方向に微小量だけずれて配置されている。このずれ量は、相関方向に並ぶ画素のピッチの半分である。画素ピッチの半分量だけずれて配置された焦点検出ラインL1,L2から得られる2つの焦点検出結果の両方を加味して検出結果を算出することで、検出のバラツキを軽減している。横方向に2ライン並んだ焦点検出ラインL3,L4についても、焦点検出ラインL1,L2と同様に画素ピッチの半分量だけずれて配置することで、検出バラツキを軽減している。
さらに画面中央には、基線長が長い(これについては図6に示す)、F2.8の光束を用いて焦点検出を行う焦点検出ラインL19を横方向に1ライン備えている。焦点検出ラインL19は、焦点検出ラインL3やL4に比べて基線長が長いため、焦点検出センサ17の受光面上での像の移動量が大きい。このため、焦点検出ラインL3,L4よりも高精度な検出を実現することができる。ただし、焦点検出ラインL19はF2.8光束を用いているため、F2.8以上の明るいレンズが装着されたときのみ動作する。また、像の移動量が大きいため、焦点検出ラインL3,L4に比べて、大きいデフォーカスを検出する能力は劣る。上述のようにF2.8用の焦点検出ライン(以下、F2.8目という)L19を備えることで、高い検出精度が要求されるF2.8以上の明るいレンズが装着されたときに、それに応じた高精度の検出を実現することができる。
本実施例の焦点検出装置20では、画面中央については焦点検出ラインを縦横クロス形態で配置することで、縦横両方向の輝度分布を検出することができる。縦横両方向の輝度分布を得ることで、輝度分布があまりない被写体で無理に焦点検出を行う必要がなくなるため、検出バラツキを軽減することができる。これにより、焦点検出可能な被写体の種類を広げると共に、検出精度の向上を実現することができる。
次に、画面上下方向に配置された焦点検出ラインについて説明する。画面上部には、横目L5,L11が配置されており、画面上部に位置する被写体像の横方向の輝度分布から、撮影光学系1の焦点状態を検出する。また、下部には横目L6,L12が配置されており、画面下部に位置する被写体像の横方向の輝度分布から、撮影光学系1の焦点状態を検出する。また、焦点検出ラインL5の同じ位置にF2.8用の横目L20が、横目L6と同じ位置にF2.8の横目L21がそれぞれ配置されている。これにより、高い検出精度が要求されるF2.8以上の明るいレンズが装着するときに、高精度の焦点検出を実現することができる。
焦点検出ラインL3,L4,L5,L6,L11,L12の左端に接するように焦点検出ラインL7,L9が、焦点検出ラインL3,L4,L5,L6,L11,L12の右端に接するように焦点検出ラインL8,L10が、それぞれ縦方向に並んで配置されている。焦点検出ラインL7,L9,L14,L16は縦目であり、縦方向の輝度分布から撮影光学系1の焦点状態を検出する。
焦点検出ラインL7,L9の左側には焦点検出ラインL13,L15が、焦点検出ラインL8,10の外側には焦点検出ラインL14,16が縦方向に並んで配置されている。焦点検出ラインL13,L14,L15,L16も縦目であり、縦方向の輝度分布から撮影光学系1の焦点状態を検出する。
画面の横方向の一番外側に焦点検出ラインL17,L18が配置されている。焦点検出ラインL17,L18は縦方向の中央が光軸上にあり、撮影画面の横方向に位置する被写体像の縦方向の輝度分布から撮影光学系1の焦点検出状態を検出する。
図5には、再結像レンズ14をその光射出面側から見て示している。光射出面側には一対の被写体像を再結像するための一対のレンズ部が複数組形成されている。それぞれのレンズ部は球面レンズであり、光射出方向に凸の形状を有する。
レンズ部14−1A,14−1Bは、画面中央の縦目の焦点検出光束を再結像するためのものあり、図4の焦点検出ラインL1,L2,L7,L8,L9,L10に対応している。焦点検出ラインL1,L2,L7,L8,L9,L10の光束はそれぞれ、レンズ部14−1A,14−1Bで再結像され、焦点検出センサ17の受光面上に縦方向に並んだ一対の被写体像を形成する。
レンズ部14−2A,14−2Bは、画面中央の横目の焦点検出光束を再結像するためのものあり、焦点検出ラインL3,L4,L5,L6,L11,L12に対応している。焦点検出ラインL3,L4,L5,L6,L11,L12に対応する光束はそれぞれ、レンズ部14−2A,14−2Bで再結像され、焦点検出センサ17の受光面上に横方向に並んだ一対の被写体像を形成する
レンズ部14−3A,14−3Bは、F2.8の焦点検出光束を再結像するためのものであり、焦点検出ラインL19,L20,L21に対応している。F2.8目は基線長が長いため、レンズ部14−3A,14−3Bの間隔はレンズ部14−1A,14−1Bに比べて長く、レンズ部14−3A,14−3Bはレンズ部14−1A,14−1Bの外側に配置されている。
レンズ部14−4A,14−4Bは焦点検出ラインL13,L15に対応し、レンズ部14−5A,14−5Bは焦点検出ラインL14,L16に対応している。さらにこれらレンズ部の外側に配置されたレンズ部14−6A,14−6Bは、焦点検出ラインL17に対応し、レンズ部14−7A,14−7Bは焦点検出ラインL18に対応している。これら焦点検出ラインの光束も、対応するレンズ部によって再結像され、焦点検出センサ17の受光面上に縦方向に並んだ一対の被写体像を形成する。
図6は、焦点検出センサ17のチップ(受光面)を、その光入射面側から見て示している。図5で説明した再結像レンズ14で再結像された一対の被写体像の各結像位置に対応して、複数対の受光部が配置されている。
焦点検出ラインL1の光束は、図5のレンズ部14−1Aと14−1Bにより、図6の受光部L1A,L1B上に再結像される。また、焦点検出ラインL2の光束は、レンズ部14−1Aと14−1Bにより、受光部L2A,L2B上に再結像される。同様に、焦点検出ラインL7,L8,L9,L10の光束は、レンズ部14−1Aにより受光部L7A,L8A,L9A,L10A上に再結像され、レンズ部14−1Bにより受光部L7B,L8B,L9B,L10B上に再結像される。
横目についても同様である。焦点検出ラインL3,L4.L5,L6,L11,L12の光束は、レンズ部14−2Aにより受光部L3A,L4A.L5A,L6A,L11A,L12A上に再結像される。また、レンズ部14−2Bにより受光部L3B,L4B.L5B,L6B,L11B,L12B上に再結像される。
F2.8横目についても同様である。焦点検出ラインL19,L20,L21の光束は、レンズ部14−3Aにより受光部L19A,L20A,L21A上に再結像され、レンズ部14−3Bにより受光部L19B,L20B,L21B上に再結像される。
画面周辺の縦目についても同様である。焦点検出ラインL13,L15の光束は、レンズ部14−4Aにより受光部L13A,L15A上に再結像され、レンズ部14−4Bにより受光部L13B,L15B上に再結像される。焦点検出ラインL14,L16の光束は、レンズ部14−5Aにより受光部L14A,L16A上に再結像され、レンズ部14−5Bにより受光部L14B,L16B上に再結像される。
焦点検出ラインL17の光束は、レンズ部14−6Aにより受光部L17A上に再結像され、またレンズ部14−6Bにより受光部L17B上に再結像される。
焦点検出ラインL18の光束は、レンズ部14−7Aにより受光部L18A上に再結像され、レンズ部14−7Bにより受光部L18B上に再結像される。
焦点検出センサ17の各受光部は画素列で構成されており、各対の受光部の出力信号波形の間には、焦点検出ライン上に撮像光学系1によって形成された物体像の結像状態に応じて、相対的に横シフトした状態が観測される。前ピン、後ピンでは出力信号波形のシフト方向が逆になり、相関演算などの手法を用いてこの位相差(シフト量)を、方向を含めて検出するのが焦点検出の原理である。
図7Aと図7Bは焦点検出センサ17の出力信号波形を表す図である。横軸は画素の並びを、縦軸は出力値を表している。図7Aは物体像にピントが合っていない状態での出力信号波形、図7Bは物体像にピントが合った状態での出力信号波形である。相関演算を用いた公知の手法、例えば特公平5−88445号公報に開示されている手法を用いて位相差を検出することにより、デフォーカス方向の情報を含むデフォーカス量を求めることができる。得られた焦点検出結果(焦点調節情報)としてのデフォーカス量を撮像光学系1のフォーカスレンズを駆動すべき量(および方向)に換算すれば、自動焦点調節が可能である。この位相差検出方式によれば、フォーカスレンズを駆動すべき量と方向がフォーカスレンズを駆動する前に分かるので、通常、合焦位置までのレンズ駆動は1回で済み、極めて高速な焦点調節が可能である。
図4、図5および図6で説明したように、画面中央には、縦目(L1,L2)と、横目(L3,L4)と、F2.8目(L19)による3つの焦点検出結果を得ることができる。しかし、画面中央という同一視野領域に存在するこれら3つの検出結果からどのように最終の検出結果、すなわち実際に焦点調節に使用する焦点検出結果を導くかが非常に重要になる。導き方が悪いと、検出精度を向上させるどころか、検出バラツキを増大させてしまうおそれがある。
このため、本実施例の焦点検出装置20では、1)一対の被写体像の一致度、2)被写体像のエッジの数、3)被写体像のシャープネス、および4)被写体像の明暗比をパラメータとした評価値であるSレベル(SELECT LEVEL)を算出する。そして、該Sレベルの値に基づいて、画面中央においては、縦目(L1,L2)、横目(L3,L4)およびF2.8目(L19)のうち、最終検出結果とすべき焦点検出結果を得る焦点検出ラインを決定する。なお、焦点検出ラインを決定することは、焦点検出センサ17上での一対の受光部を決定すること、および最終的に焦点調節に用いる焦点検出結果を決定するという意味でもある。これにより、上記4つの要素(パラメータ)を考慮した焦点検出ラインの選択が可能になるため、焦点検出バラツキの少ない適切な焦点検出ラインを選ぶことができる。以下の説明において、最終検出結果とすべき焦点検出結果を得る焦点検出ラインを、特定焦点検出ラインという。
まず、1)一対の被写体像の一致度について、図8を用いて説明する。一対の被写体像を、図6で説明した焦点検出センサ17の一対の受光部で光電変換すると、一対の像信号が得られる。この一対の像信号を、以下、A像およびB像という。ここでは、図8に示すようなA像、B像が得られたとする。図8では、一致度の説明を分かりやすくするため、A像、B像のどちらかにゴースト光等が入射し、2像が同じ波形にならなかった場合を示している。A像、B像は形状が異なるため、合焦状態でも一致しない部分が生じる。この一致しない部分の面積を、一致度として定義する。
受光部を構成する画素列の数をN、合焦時のA像、B像のi番目の画素の出力をa[i],b[i]すると、一致度Uは下記のように表せる。
図8および式(1)に示すように、A像とB像の画素出力差の絶対和を一致度Uと定義することで、A像とB像の一致度合いを的確に表現することができる。A像とB像の一致度が低い場合には一致度Uは大きくなり、A像とB像の一致度が高い場合には、一致度Uは小さくなる。
このように定義された一致度Uを考慮して特定焦点検出ラインを決定することで、AB像の一致度が良好で信頼性の高い焦点検出ラインを選びやすくすることが可能となる。また、ゴースト光の入射などでAB像が異なり、信頼性の低い焦点検出ラインを選びにくくすることが可能となる。これにより、焦点検出精度の向上を図ることができる。
次に、2)被写体像のエッジの数について、図9Aおよび図9Bを用いて説明する。本実施例の焦点検出装置20では、エッジの数を示すパラメータとして、相関演算において算出される相関変化量を用いる。図9Aは、合焦状態のA像、B像である。これに対し図9Bは、A像、B像の相対位置関係を、合焦状態から1画素ずらした場合のA像、B像である。それぞれの状態における相関量を算出し、その変化量を計算ことで、相関変化量を求める。図9Aの相関量をV1、図9Bの相関量をV2、相関変化量をΔVとすると、それぞれ下記の通り求まる。
相関変化量ΔVは、合焦状態から1画素分ずれて、A像とB像のエッジが一致した状態からずれた状態に移行したことにより生じる一致しない部分の面積である。このため、A像とB像のエッジの数が増えると、ずれたことにより生じる一致しない部分の面積も増える。このことから相関変化量ΔVはエッジの数を表すパラメータとして適切であることが分かる。なお、ずらし量は、1画素より多くてもよい。
相関演算では、相関変化量がゼロになるシフト量を算出し、撮影光学系1のデフォーカス量を検出する。そのため相関変化量が大きい程、シフト量の算出の誤差が小さくなり、検出バラツキを抑えられる。このことからも、最終結果に選ぶラインを決定する際に、相関変化量ΔVを用いるというのは理に適っている。
このように定義された相関変化量ΔVを考慮して特定焦点検出ラインを決定することで、エッジの数が多くて情報量が多く、より信頼性の高い被写体に対応した焦点検出ラインを選びやすくすることができる。これにより、焦点検出精度の向上を図ることができる。
次に、3)被写体像のシャープネスについて、図10を用いて説明する。本実施例でいうシャープネスとは、A像、B像(信号値)があるボトム値からピーク値に変化する波形するときに、急峻に値が変わるか、徐々に値が変わっていくかを表している。本実施例では、シャープネスをA像、B像から得られる1次コントラスト評価値C1と2次コントラスト評価値C2の比とする。1次コントラスト評価値とは、AB像における隣接画素の出力差の絶対値の和を、2次コントラスト評価値とはAB像における隣接画素の出力差の二乗和とする。焦点検出センサ17の受光部を構成する画素列の数をN、合焦時のA像、B像のi番目の画素出力をa[i],b[i]すると、一次コントラスト評価値C1、二次コントラスト評価値C2は下記のように表せる。
一次コントラスト評価値C1は、隣接画素出力差の絶対和であるため、波形のエッジ部分から得られる一次コントラスト評価値C1は、エッジ部の階調変化が急峻であってもなだらかであっても、エッジ部のピーク値とボトム値が同じであれば同じとなる。例えば、半分が白、半分が黒、境界線で白と黒が接しているような被写体から得られる一次コントラスト評価値C1と、一方端が白、他方端が黒、白端から黒端にかけてなだらかに色味が変化するような被写体から得られる1次コントラスト評価値C1とは同じである。
一方、二次コントラスト評価値C2は、隣接画素出力差の二乗和であるため、階調変化が急峻なエッジ部から得られるものは、階調変化がなだらかなエッジ部から得られるものよりも大きくなる。これは式(6)からも明らかである。このため、二次コントラスト評価値C2に基づいてエッジ部の階調変化の大きさを推定することは適切である。
被写体像のシャープネスをSHとすると、シャープネスSHは、一次コントラスト評価値C1、二次コントラスト評価値C2の比として下記のように表せる。
ここで、二次コントラスト評価値C2でシャープネスSHを表現せず、一次コントラスト評価値C1で割った値とするのは、エッジの数の影響を排除するためである。例えば、半分が白、半分が黒、境界線で白と黒が接しているような被写体から得られる二次コントラスト評価値をC2_1、両端が黒、中央が白、白と黒が2つの境界線で接しているような被写体から得られる二次コントラスト評価値をC2_2とする。シャープネスとは、AB像があるボトム値からピーク値に変化する波形するときに、急峻に値が変わるか、徐々に値が変わっていくかを表しているものであるため、エッジの数が1本であろうと2本であろうと、同じ値になるべきである。今、エッジチャートの二次コントラスト評価値C2_1と1本バーチャートの二次コントラスト評価値C2_2との間には以下の関係が成り立つ。
式(8)に示すように、二次コントラスト評価値C2は、エッジの数が増えると、その分だけ増えてしまう。そのため、二次コントラスト評価値C2だけでシャープネスを表現するのは不適切である。そこでエッジの数の影響をなくすため、一次コントラスト評価値C1で割って正規化する。半分が白、半分が黒、境界線で白と黒が接しているような被写体から得られる一次コントラスト評価値をC1_1、両端が黒、中央が白で白と黒が2つの境界線で接しているような被写体から得られる一次コントラスト評価値をC1_2とすると、以下の関係が成り立つ。
また、半分が白、半分が黒で境界線で白と黒が接しているような被写体から得られるシャープネスをSH_1、両端が黒、中央が白、白と黒が2つの境界線で接しているような被写体から得られるシャープネスをSH_2とすると、以下の通り表せる。
式(11)に式(8)、式(9)を代入すると、SH_2は以下の通り表せる。
式(12)から、半分が白、半分が黒で境界線で白と黒が接しているような被写体から得られるシャープネスSH_1と、両端が黒、中央が白で白と黒が2つの境界線で接しているような被写体から得られるシャープネスSH_2は、同じであることがわかる。同様に考えることで、エッジの数がいくつ増えても、シャープネスSHの値は変わらないことが分かる。
以上のことから、1次コントラスト評価値と2次コントラスト評価値の比をシャープネスとすることで、被写体像のシャープネスを的確に表現することができる。そして、シャープネスを考慮して特定焦点検出ラインを決定することで、バラツキの多いなだらかに色味が変化するような被写体などに対応する焦点検出ラインを選びにくくすることが可能となる。これにより、焦点検出精度の向上を図ることができる。
次に、4)被写体像の明暗比について、図11を用いて説明する。本実施例にいう明暗比とは、被写体像の濃淡がはっきりしているかどうかを表すパラメータである。具体的には、被写体像(信号値)のボトム値からピーク値までの高さが、センサ出力のダーク値からピーク値までの高さに比べてどれだけの大きさになっているかを表している。
合焦状態でのA像のダーク値、ボトム値、ピーク値をそれぞれ、DARK_A,BOTTOM_A,PEAK_Aとし、B像のダーク値、ボトム値、ピーク値をDARK_B,BOTTOM_B,PEAK_Bとする。この場合、A像から得られる明暗比PBD_Aと、B像から得られる明暗比PBD_Bは下記の通りに表せる。
上記のようにA像、B像それぞれから得られた明暗比のうち、大きい方を明暗比PBDとして定義する。
式(15)に示した明暗比PBDにより、被写体像のボトム値からピーク値までの高さが、センサ出力のダーク値からピーク値までの高さに比べて、どれだけの大きさになっているかを表現することができる。図11と式(15)から分かるように、明暗比PBDは0以上1以下の数字となる。明暗比PBDが1に近い場合は、被写体像のボトム値からピーク値までの高さとセンサ出力のダーク値からピーク値までの高さがほぼ同じであることを意味する。この場合は、濃淡のはっきりした被写体像であると判定する。
逆に、明暗比が0に近い場合は、ボトム値からピーク値までの高さがダーク値からピーク値までの高さに比べて非常に小さいことを意味する。この場合は、濃淡がはっきりしない被写体であると判定する。
以上のように、被写体像のダーク値、ボトム値、ピーク値に基づいて算出した明暗比PBDを用いることで、被写体像が濃淡のはっきりしたものであるかどうかを的確に判定できる。この明暗比PBDを考慮して特定焦点検出ラインを決定することで、バラツキの多い濃淡のはっきりしない被写体に対応した焦点検出ラインを選びにくくすることが可能となる。これにより、焦点検出精度の向上を図ることができる。
本実施例の焦点検出装置では、以上のような4つのパラメータに基づいて、特定焦点検出ラインを選択するためのSレベルを算出する。ここで、1)一致度Uは、値が小さいほど信頼性が高い。2)相関変化量ΔVは、値が大きいほど信頼性が高い。3)シャープネスSHは、値が大きいほど信頼性が高い。4)明暗比PBDは、値が大きいほど信頼性が高い。そこで、Sレベルを下記のように定義する。
ここで、一致度Uを分子とし、相関変化量ΔVとシャープネスSHと明暗比PBDの積を分母とすることで、各パラメータから信頼性が高いと判定されると、Sレベルが小さくなるように定義している。このように定義したSレベルを各焦点検出ラインについて算出し、このSレベルが最も小さい焦点検出ラインを特定焦点検出ラインとし、そこでの焦点検出結果を最終結果として選ぶ。
縦目(L1,L2)、横目(L3,L4)のように2ラインで構成される焦点検出ラインについては、2ラインの平均をとったり、大きい方もしくは小さい方のどちらかを採用したりすることで、Sレベルを確定する。一致度、エッジ数、シャープネスおよび明暗比の全てを考慮して特定焦点検出ラインを選択することができるため、信頼性が高く、バラツキの小さい焦点検出ラインを特定焦点検出ラインとして選択することが可能となる。このようなSレベルに基づいて特定焦点検出ラインを選択することで、焦点検出精度の向上を図ることができる。
次に、Sレベルに基づいてライン選択することで、従来に比べてどれだけ焦点検出バラツキが小さくなったかを、図14〜17を用いて説明する。
図14は、シャープネスSHだけを考慮して焦点検出ラインを選択した場合に、どれくらいの焦点検出バラツキが生じるかを示したグラフである。横軸は複数回焦点検出を行った場合のバラツキを示す3σ、縦軸は各種被写体を焦点検出した場合のシャープネスSHの値を示す。ここでは9種類の被写体について焦点検出を行い、バラツキ3σとシャープネスSHとの関係をプロットした。同じ被写体についてプロットが複数個存在するのは、輝度を変えてデータを複数個取ったためである。
ここで、9種類に被写体について説明する。「白黒E1」の「白黒」とは、被写体に白い部分と黒い部分があるという意味であり、「E1」とは、白い部分と黒い部分が1つのエッジを境界線として接しているという意味である。つまり「白黒E1」とは、白部と黒部が1つの境界線で接しているような被写体であるという意味である。
「白黒E2」の「白黒」とは、被写体には白い部分と黒い部分があるという意味であり、「E2」とは、白い部分と黒い部分が2つのエッジを境界線として接しているという意味である。つまり「白黒E2」とは、白部と黒部が2つの境界線で接しているような被写体であるという意味である。
「白黒E2_2」は、同様に、白部と黒部が2つの境界線で接しているような被写体であるが、模様が「白黒E2」とは異なるため別名をつけている。
「白黒E4」の「白黒」とは、被写体には白い部分と黒い部分があるという意味であり、「E4」とは、白い部分と黒い部分が2つのエッジを境界線として接しているという意味である。つまり「白黒E4」とは、白部と黒部が2つの境界線で接しているような被写体であるという意味である。
「白黒E0」の「白黒」とは、被写体には白い部分と黒い部分があるという意味であり、「E0」とは、白い部分と黒い部分の境界部はエッジではなく、白部から黒部にかけてなだらかに変化しているという意味である。つまり「白黒E0」とは、白部から黒部にかけてなだらかに変化している被写体であるという意味である。
「白灰色E1」の「白灰色」とは、被写体には白い部分と灰色部分があるという意味であり、「E1」とは、白い部分と灰色部分が1つのエッジを境界線として接しているという意味である。つまり「白灰色E1」とは、白部と灰色部が1つの境界線で接しているような被写体であるという意味である。
「白灰色E1_2」は、同様に、白部と灰色部が1つの境界線で接しているような被写体であるが、模様が「白灰色E1」とは異なるため別名をつけている。
「白灰色E2」の「白灰色」とは、被写体には白い部分と灰色部分があるという意味であり、「E2」とは、白い部分と灰色部分が2つのエッジを境界線として接しているという意味である。つまり、「白灰色E2」とは、白部と灰色部が2つの境界線で接しているような被写体であるという意味である。
「黒に線傷」とは、全面黒の上に、細かい線傷が多数ついた被写体である。基本的には一様に黒色であるが、線傷の反射で低コントラストの細かい模様がついている。
横軸をバラツキ3σ、縦軸をあるパラメータとしてデータをプロットした際に、あるパラメータがバラツキ3σを推定するのに適切なものであるならば、そのパラメータとバラツキ3σとは正の相関関係を有する。このため、プロットデータは右肩上がりの一直線上に分布する。このようなパラメータが探し出せれば、そのパラメータが小さい焦点検出ラインを特定焦点検出ラインとして選ぶことにより、バラツキ3σの小さい方を選ぶことが可能となる。
図14を見てみると、大まかには右肩上がりの分布になっているものの、その広がりはかなり大きい。被写体ごとの傾向を見てみると、「白黒E1」、「白灰色E1」、「白灰色E1_2」などエッジを1箇所しか有さない被写体は、シャープネスSHが比較的小さい値となるが、バラツキ3σが大きい。これは、シャープネスSHというパラメータが、エッジ数に影響されないためである。エッジ数が多い方が相関演算する際の情報量が多いため、バラツキも小さくなるにもかかわらず、シャープネスSHはそのことを考慮してない。そのため、「白黒E2」や「白黒E4」の方がバラツキ3σが小さいにもかかわらず、バラツキ3σの大きい「白黒E1」、「白灰色E1」、「白灰色E1_2」などエッジを1箇所しか有さない被写体が選ばれやすくなる。図14の結果から、シャープネスSHを考慮しただけでは、焦点検出結果バラツキ3σの小さい焦点検出ラインを選択することはできないことが分かる。
図15は、明暗比PBDだけを考慮してライン選択した場合に、どれくらいの焦点検出バラツキが生じるかを示したグラフである。図14と同様に、横軸は複数回焦点検出した場合のバラツキ3σを、縦軸は各種被写体を焦点検出した場合の明暗比PBDの値を示す。
図15から分かるように、明暗比は、「白灰色E1」、「白灰色E1_2」「白灰色E2」、「黒に線傷」のように、黒い部分と白い部分の両方を有さない被写体に対して1より小さい値を取るだけで、黒い部分と白い部分の両方を有する被写体に対しては全てほぼ1になる。これは、明暗比というパラメータは、黒い部分と白い部分のセンサ出力値の差がダーク値と白い部分のセンサ出力値との差と比べて、どれくらいの大きさであるかというのを表しているだけだからである。このため、黒い部分と白い部分を有する被写体であれば、明暗比が全てほぼ1になるのは当然である。このことから、明暗比PBDと焦点検出バラツキ3σとは全く相関関係がなく、明暗比PBDのみから焦点検出バラツキ3σを推定することは難しい。
図16は、一致度Uと相関変化量ΔVだけを考慮して焦点検出ラインを選択した場合に、どれくらい焦点検出バラツキが生じるかを示したグラフである。図14と同様に、横軸は複数回焦点検出した場合のバラツキ3σを、縦軸は各種被写体を焦点検出した場合の一致度U/相関変化量ΔVの値を示す。
図16から分かるように、大まかには右肩上がりの分布になっているものの、その広がりはかなり大きい。被写体ごとの傾向を見てみると、「白黒E0」や「黒に線傷」は、一致度U/相関変化量ΔVの値が比較的小さいにもかかわらず、焦点検出バラツキ3σは大きい。「白黒E0」の一致度U/相関変化量ΔVの値が小さいのは、図12に示すように、位置関係によっては非常に一致度が高くなってしまい、パラメータとしての一致度Uの値が非常に小さくなってしまうためである。
また、「黒に線傷」の一致度U/相関変化量ΔVが小さいのは、焦点検出センサ17に搭載されたピーク・ボトム処理機能の影響である。ピーク・ボトム処理機能とは、被写体像(像信号)のボトム値がセンサ出力の最小値になるように、ピーク値がセンサ出力の最高値になるように被写体像を引き伸ばし、明暗度の低い被写体でもセンサ出力の階調をフルに使用する機能である。これにより、明暗度の低い被写体の階調を上げることができる。「黒に線傷」は、黒地に細かい線傷が多数存在するため、明暗度は非常に低い。このような明暗度が非常に低い被写体は、ピーク・ボトム処理で引き伸ばしたとしても、ほとんど階調のないものを無理矢理に引き伸ばしているだけなので、非常に焦点検出バラツキが大きい。
さらに、多数の細かい線傷は、高周波数成分からなる像信号であるが、そもそも画素開口から決まるナイキスト周波数以上の高周波数成分はセンサによって検出できないため、折り返し成分となって検出誤差の原因となる。それにもかかわらず、「黒に線傷」は、無数の線傷がピーク・ボトム処理により引き伸ばされ、図13に示すように、明暗のくっきりしたエッジが沢山存在するような波形になってしまう。すると、相関変化量ΔVが非常に大きな値となり、結果として一致度U/相関変化量ΔVが非常に小さくなってしまう。
このように汚れた「黒に線傷」は、ピーク・ボトム処理とナイキスト周波数以上の高周波数成分の影響により、一致度U/相関変化量ΔVが小さいにもかかわらず、焦点検出バラツキ3σが小さくなってしまう。
以上のような理由から、一致度U/相関変化量ΔVは、焦点検出バラツキの大きい「白黒E0」や「黒に線傷」のときに値が小さくなってしまう。図16の結果から、一致度U/相関変化量ΔVを考慮しただけでは、焦点検出結果バラツキ3σの小さい焦点検出ラインを選択することは難しいことが分かる。
そこで、図17を用いて、本実施例のSレベルに従ってライン選択を行えば、焦点検出バラツキが抑えられることを説明する。図17の横軸は複数回焦点検出した場合のバラツキ3σ、縦軸は各種被写体を焦点検出した場合のSレベルの値を示す。
図17の結果から分かるように、Sレベルに従って焦点検出ラインの選択を行えば、焦点検出バラツキ3σとSレベルとの間には正の相関関係が成り立ち、プロットデータは右肩上がりの一直線上に分布している。前述したシャープネスSHおよび明暗比PBDを単独で焦点検出ラインの選択パラメータとした場合と一致度U/相関変化量ΔVを焦点検出ラインの選択パラメータとした場合に比べて、分布の広がりもかなり小さくなっている。つまり、本実施例のSレベルが小さい方の焦点検出ラインを特定焦点検出ライン(最終検出結果)として選ぶことにより、焦点検出バラツキ3σの小さい焦点検出ラインを選ぶことが可能となる。
本実施例の焦点検出装置20では、図4、図5および図106の説明で述べたように、同一視野領域である画面中央には、縦目(L1,L2)、横目(L3,L4)およびF2.8目(L19)の3つの焦点検出ラインが存在する。そして、該3つの焦点検出ライン(言い換えれば、3つの焦点検出結果)のそれぞれについて、一致度U、エッジ数(相関変化量ΔV)、シャープネスSHおよび明暗比PBDのすべてをパラメータとしたSレベル(SELECT LEVEL)を算出する。さらに、該3つの焦点検出ライン(焦点検出結果)のうち、このSレベルの値が最も小さいものを特定焦点検出ライン(最終検出結果)として選択する。これにより、焦点検出バラツキの少ない適切な焦点検出ラインを選択することが可能となる。
以上説明したように、本実施例によれば、一致度U、エッジ数(相関変化量ΔV)、シャープネスSHおよび明暗比PBDのすべてをパラメータとしたSレベルに基づいて特定焦点検出ラインを決定することにより、被写体の略同一部位に対する複数の焦点検出結果から精度の高い適切な結果を選択することができ、焦点検出精度の向上を図ることができる。
以下、本実施例の焦点検出装置20における演算回路40での焦点検出動作および焦点調節と動作の流れの概要を、図20に示したフローチャートを用いて簡単に説明する。この動作は、演算回路40内又はその外部に設けられたメモリに格納されたコンピュータプログラムに従って実行される。
カメラのメイン撮影フロー(図示せず)において、カメラのレリーズスイッチの第1ストローク操作(いわゆる半押し操作)を検出すると、演算回路40は、焦点検出装置20を動作させる(START)。
ステップ(図では、「S」と略す)201では、画面内に設けられた21の焦点検出ラインの中から、撮影者のマニュアル操作(若しくは視線検出結果)を受けて、又は所定のアルゴリズムに従って焦点検出ラインを指定する。
次にステップ201では、指定された焦点検出ラインが画面中央に含まれる焦点検出ライン(L1〜L4およびL19)か否かを判別する。画面中央の焦点検出ラインでなければ、ステップ203に進み、該指定された焦点検出ラインに対応するセンサ17上の一対の受光部からの光電変換信号に基づいて、焦点検出結果(デフォーカス量)を算出する。そして、ステップ207に進む。一方、指定された焦点検出ラインが画面中央の焦点検出ラインであれば、ステップ204に進む。
ステップ204では、画面中央に含まれる各焦点検出ラインに対応するセンサ17上の各対の受光部からの光電変換信号に基づいて、該各焦点検出ラインでの焦点検出結果(デフォーカス量)を算出する。
次に、ステップ205では、画面中央に含まれる各焦点検出ラインに対応するセンサ17上の各対の受光部からの光電変換信号に基づいて、一致度U、エッジ数(相関変化量ΔV)、シャープネスSHおよび明暗比PBDを算出する。さらにこれら4つのパラメータの値からSレベルを算出する。
次にステップ206では、各焦点検出ラインのSレベル値のうち最も小さい値に対応する焦点検出ラインを特定焦点検出ラインとして決定(選択)する。
そして、ステップ207では、特定焦点検出ラインでのデフォーカス量から合焦状態を得るために必要なフォーカスレンズの駆動量(駆動方向を含む)を算出する。具体的には、フォーカスレンズを駆動するアクチュエータ(例えば、振動型モータ)の駆動パルス数を算出する。
次に、ステップ208では、該算出された駆動量分、フォーカスレンズを駆動する。これにより、通常の場合は合焦状態を得ることができる。この後、所定の合焦判定を行い、合焦が得られていればカメラのメイン撮影フローに戻って、撮影動作を開始させるためのレリーズスイッチの第2ストローク操作(いわゆる全押し操作)を待つ。合焦が得られていなければ、ステップ202に戻り、焦点検出および焦点調節動作を繰り返す。
なお、ここでは、まず画面中央の3つの焦点検出ラインでの焦点検出結果を算出し、次に特定焦点検出ラインを決定(Sレベル値の算出および比較)し、上記3つの焦点検出結果の中から決定された特定焦点検出ラインでの焦点検出情報を最終検出結果として選択するようにした。しかし、本発明においては、他の手順で特定焦点検出ラインを決定してもよい。例えば、まず画面中央の3つの焦点検出ライン中から特定焦点検出ラインを決定し、その後、決定された特定焦点検出ラインに対して焦点検出結果を求めるようにしてもよい。