以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
(実施形態1)
実施形態1は、過給圧力の上昇等によって内燃機関の点火時における燃焼室内圧力が上昇した場合には、ボア側に配置される点火プラグの放電を停止し、中央部に配置される点火プラグのみによって点火する点に特徴がある。なお、実施形態1は、過給あるいは圧縮比可変機構等によって、点火時における圧縮比が変化する内燃機関であれば適用できる。
図1は、実施形態1に係る内燃機関及びその制御系を示す断面図である。図2−1〜図2−4は、実施形態1に係る内燃機関の点火プラグ配置例を示す平面図である。なお、実施形態1では、内燃機関が備える単一の気筒を取り出して説明するが、本発明は多気筒、単気筒を問わず、また、多気筒の場合には、気筒数及びその配置は問わない。また、実施形態1では、過給機を備える内燃機関を例として説明するが、圧縮比可変機構を備える内燃機関や、過給機と圧縮比可変機構とを備える内燃機関に対しても適用できる。
この内燃機関1は、気筒1s内をピストン5が往復運動する、いわゆるレシプロ式の内燃機関である。そして、この内燃機関1は、同一の燃焼室1bに複数の点火プラグを備え、運転条件に応じて複数の点火プラグのうち少なくとも一つを選択して放電させ、燃焼室1b内の混合気に点火する。この実施形態においては、燃焼室1bの中央部及び燃焼室1bのボア側に、それぞれ1以上の点火プラグを備えていればよい。
この内燃機関1は、気筒1sの燃焼室1b内へ直接燃料Fを噴射する直噴噴射弁3を備える、いわゆる直噴の内燃機関である。なお、吸気通路を構成する吸気ポート4内に燃料Fを噴射するポート噴射弁を備える内燃機関にも本発明は適用でき、また、ポート噴射弁と直噴噴射弁3とにより燃料を噴射する、いわゆるデュアル噴射弁の内燃機関にも本発明は適用できる。
この内燃機関1は、過給手段を備える。この実施形態においては、内燃機関1の排気Exによって駆動されるターボチャージャー(以下ターボという)60を過給手段として備える。このターボ60は、コンプレッサ60cと、内燃機関1の排気Exによりコンプレッサ60cを駆動するタービン60tと、両者を連結する回転軸60sとで構成される。タービン60tは、エキゾーストマニホールド(タービン上流側排気通路)9から供給される内燃機関1の排気Exにより駆動される。なお、過給手段には、前記ターボ60の他にも、いわゆる電動アシストターボや、いわゆるスーパーチャージャーも用いることができる。
この内燃機関1は、吸気通路21に設けられる電子スロットル弁70により、吸入空気量が調整される。電子スロットル弁70は、バタフライバルブ71と、これを駆動するアクチュエータ72と、バタフライバルブ71の開度を検出する開度センサ73とで構成される。機関ECU(Engine Control Unit)30は、アクセル開度センサ44からの出力を取得して、アクチュエータ72に制御信号を送り、開度センサ73からのバタフライバルブ開度のフィードバック信号に基づいて、バタフライバルブ71を適切な開度に制御する。
内燃機関1に取り付けられたクランク角センサ41によってクランク軸6のクランク角度CAが検出される。機関ECU30は、クランク角センサ41、カムポジションセンサ42、ノックセンサ43、アクセル開度センサ44、水温センサ45、吸気温度センサ46、エアフローセンサ47、吸気圧力センサ48その他のセンサ類からの出力を取得して、点火時期や燃料噴射量を決定する。そして、機関ECU30は、決定値に基づき、直噴噴射弁3から燃料Fを噴射させる。また、機関ECU30は、内燃機関1のシリンダヘッド1hに取り付けられ、かつ内燃機関1の点火系50を構成する第1及び第2点火プラグ71、72から放電させて、燃焼室1b内の混合気に点火する。
エアクリーナ81によって塵やごみが除去された空気Aは、エアフローセンサ47で流量が計測された後、吸気通路20を通ってコンプレッサ60cで圧縮される。ここで圧縮された空気Aは、インタークーラー82で冷却された後、電子スロットル弁70を通過して吸気通路22へ導かれる。空気Aは、吸気通路22につながる吸気ポート4から吸気弁8iを通って燃焼室1b内に導入される。そして、直噴噴射弁3から噴射される燃料噴霧Fmと混合気を形成し、この混合気が第1点火プラグ71又は第2点火プラグ72の少なくとも一方で着火されて、火炎伝播により燃焼する。なお、点火時期は、クランク角センサ41、及び吸気弁8iを駆動する吸気カムシャフトの回転角を検出するカムポジションセンサ42からの信号に基づいて決定される。
混合気の燃焼圧力はピストン5に伝えられ、ピストン5を往復運動させる。ピストン5の往復運動はコネテクティングロッド6cを介してクランク軸6に伝えられ、ここで回転運動に変換されて、内燃機関1の出力として取り出される。燃焼後の混合気は排気Exとなり、排気弁8eを通ってエキゾーストマニホールド9へ排出される。そして、この排気Exは排気通路24を通って浄化触媒83へ導かれ、ここで浄化されて空気中へ排出される。
エキゾーストマニホールド9と、タービン60tの下流側における排気通路24とは、バイパス通路23bによりつながれている。そして、過給圧制御弁85を開くことにより、タービン60tをバイパスさせて排気Exを浄化触媒83へ流す。過給圧制御弁85の単位時間あたりにおける開閉回数を制御することで、ターボ60の過給圧を制御することができる。ここで、実施形態1に係る内燃機関1では、大量の空気を燃焼室1b内へ導入し、圧縮行程で内燃機関1の燃焼室1b内へ直噴噴射弁3から燃料Fを噴射すれば、リーンバーン運転が実現できる。
実施形態1に係る内燃機関1は、いわゆる多点点火式の内燃機関である。多点点火式の内燃機関は、リーンバーン運転やEGR(Exhaust Gas Recirculation:排気還流)時等のように、内燃機関1の燃焼が悪化する運転条件であるとき、混合気への着火性を向上させて燃焼を改善できる。また、リーンバーン運転においては、リーン限界を拡大して低NOxを実現するため、多点点火が好ましい。
実施形態1に係る内燃機関は、燃焼室1bの中央部1cと、燃焼室1bのボア1t側とに、それぞれ少なくとも1個の点火プラグを備える。燃焼室1bの中央部1cに配置される点火プラグは第1点火プラグであり、燃焼室1bのボア1t側に配置される点火プラグは第2点火プラグ(以下サイドプラグ)である。図2−1に示すように、内燃機関1のシリンダヘッド1hには、第1点火プラグ(以下センタプラグ)71が燃焼室1bの中央部1cに配置され、第2点火プラグ72が燃焼室1bのボア1t側であって、吸気弁8i2と排気弁8e2との間に配置される。
ここで、燃焼室1bの中央部1cについて説明する。まず、図2−1に示すように、交差して配置される吸気弁8i1と排気弁8e2との外周上において吸気弁8i1と排気弁8e2とが最短距離となる点i1、e2、及び、交差して配置される吸気弁8i2と排気弁8e1との外周上において吸気弁8i2と排気弁8e1とが最短距離となる点i2、e1上で接線L1、L2、L3及びL4を結ぶ。そして、各接線L1、L2、L3、L4と、各接線L1、L2、L3、L4の交点とで囲まれる領域の内側が、燃焼室1bの中央部1cに相当する。また、各接線L1、L2、L3、L4と、各接線L1、L2、L3、L4の交点とで囲まれる領域の外側が、燃焼室1bのボア1t側に相当する。
なお、図2−2に示すような、吸気弁8iと排気弁8eとをそれぞれ1個ずつ備える場合には、燃焼室1bの中央部1c及びボア1t側は次のように扱う。吸気弁8iと排気弁8eとの最短距離Lminを1辺とする四角形の内側の領域が、燃焼室1bの中央部1cに相当する。また、吸気弁8iと排気弁8eとの最短距離Lminを1辺とする四角形の内側の領域が、燃焼室1bの中央部1c及びボア1t側に相当する。
また、この実施形態において、図2−3、図2−4に示すように、内燃機関1は、3以上の点火プラグを用いてもよい。例えば、図2−3に示す例では、2本のサイドプラグ72、73を、燃焼室1bのボア1t側であって、吸気弁8i1と排気弁8e1との間、及び吸気弁8i2と排気弁8e2との間にそれぞれ配置する。図2−4に示す例では、2本のセンタプラグ71、72を燃焼室1bの中央部1cに配置し、サイドプラグ73を気筒1sのボア1t側であって、吸気弁8i2と排気弁8e2との間に配置する。次に、実施形態1に係る内燃機関1が備える点火系について説明する。
図3は、実施形態1に係る内燃機関が備える点火系を示す説明図である。ここで、点火系50は、センタ及びサイドプラグ71、72と、イグニッションコイル51と、イグナイター52と、バッテリー53とを含む。イグニッションコイル51は、1次コイル511と2次コイル512とで構成されている。イグニッションコイル51は、1次コイル511に接続されたバッテリー53の電圧を2次コイル512で昇圧して、センタ及びサイドプラグ71、72に供給する。イグナイター52は機関ECU30に接続されており、機関ECU30から送られる点火信号に基づきイグニッションコイル51に通電し、機関ECU30によって決定されるタイミングで、各燃焼室1b1、1b2等が備えるセンタプラグ71、サイドプラグ72から放電させる。次に、この実施形態に係る内燃機関の運転制御装置の構成を説明する。
図4は、実施形態1に係る内燃機関の運転制御装置を示す説明図である。実施形態1に係る内燃機関の運転制御は、この内燃機関の運転制御装置10を用いて実現できる。図2に示すように、内燃機関の運転制御装置10は、機関ECU30に組み込まれて構成されている。機関ECU30は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)30Pと、記憶部30Mと、入力ポート36及び出力ポート37と、入力インターフェイス38及び出力インターフェイス39とから構成される。
なお、機関ECU30とは別個に、この実施形態に係る内燃機関の運転制御装置10を用意し、これを機関ECU30に接続してもよい。そして、この実施形態に係る内燃機関の運転制御を実現するにあたっては、機関ECU30が備える内燃機関1の制御機能を、前記内燃機関の運転制御装置10が利用できるように構成してもよい。
この実施形態に係る内燃機関の運転制御装置10は、運転状態判定部11、点火パラメータ決定部12と、点火制御部13とを含む。これらのうち、運転状態判定部11、点火パラメータ決定部12と、点火制御部13とは、この実施形態に係る内燃機関の基本となる運転制御を実行する部分となる。この実施形態において、内燃機関の運転制御装置10は、機関ECU30を構成するCPU30Pの一部として構成される。この他に、CPU30Pには、内燃機関1の運転を制御する制御部30Cが含まれている。
CPU30Pと、記憶部30Mとは、バス353により接続される。また、内燃機関の運転制御装置10と制御部30Cとは、バス351、352及び入力ポート36及び出力ポート37を介して接続される。これにより、内燃機関の運転制御装置10を構成する運転状態判定部11と点火パラメータ決定部12と点火制御部13と制御部30Cとは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。また、内燃機関の運転制御装置10は、機関ECU30が有する内燃機関1の運転制御に関するデータを取得したり、内燃機関の運転制御装置10の制御を機関ECU30の内燃機関の運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
入力ポート36には、入力インターフェイス38が接続されている。入力インターフェイス38には、クランク角センサ41、カムポジションセンサ42、ノックセンサ43、アクセル開度センサ44、水温センサ45、吸気温度センサ46、エアフローセンサ47、吸気圧力センサ48その他の、内燃機関1の運転状態に関する情報を取得する各種センサ類が接続されている。これらのセンサ類から出力される信号は、入力インターフェイス38内のA/Dコンバータ38aやディジタルバッファ38dにより、CPU30Pが利用できる信号に変換されて入力ポート36へ送られる。これにより、CPU30Pは、燃料供給制御や内燃機関1の運転制御に必要な情報を取得することができる。
出力ポート37には、出力インターフェイス39が接続されている。出力インターフェイス39には、内燃機関1の点火系50その他の、内燃機関1の制御に必要な制御対象が接続されている。出力インターフェイス39は、制御回路391、392等を備えており、CPU30Pで演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。このような構成により、前記センサ類からの出力信号に基づき、機関ECU30のCPU30Pは、内燃機関1の運転を制御することができる。
記憶部30Mには、この実施形態に係る内燃機関の運転制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ、あるいは点火時期マップ等が格納されている。ここで、記憶部30Mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、CPU30Pへ既に記録されているコンピュータプログラムと組み合わせによって、この実施形態に係る内燃機関の運転制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この内燃機関の運転制御装置10は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、運転状態判定部11、点火パラメータ決定部12及び点火制御部13の機能を実現するものであってもよい。次に、この実施形態に係る内燃機関の運転制御について説明する。この説明においては、適宜図1〜図3を参照されたい。
図5は、実施形態1に係る内燃機関の運転制御の手順を説明するフローチャートである。図6−1は、実施形態1に係る内燃機関の運転制御に用いる制御マップ例を示す説明図である。図6−2は、点火時期を補正するための点火時期補正定数を記載したマップの一例を示す説明図である。以下の説明において、点火パラメータというときには、燃焼室に複数設けられる点火プラグの本数、配置位置、点火時期、放電時間その他の、点火に関するパラメータをいう。
この実施形態に係る内燃機関1を運転するにあたり、この実施形態に係る内燃機関の運転制御装置10の運転状態判定部11は、内燃機関1が始動時であるか否かを判定する(ステップS101)。始動時であるか否かは、例えば、クランク角度センサ41から取得された情報に基づいて計算される内燃機関1の機関回転数NEが、所定の機関回転数NEi(アイドリング回転数)以下である場合には、始動時であると判定する。
内燃機関1の始動時(ステップS101:Yes)であれば、点火パラメータ決定部12は、センタプラグ71及びサイドプラグ72を用いる2点点火により内燃機関1を始動するように点火パラメータを決定する(ステップS102)。そして、点火制御部13は、これに基づいて、センタプラグ71及びサイドプラグ72を用いて内燃機関1を始動する。これにより、混合気を安定して燃焼させることができるので、確実に内燃機関1を始動させることができる。なお、内燃機関1の始動時において、例えばバッテリー53の充電状態に応じて、1点点火(例えばセンタプラグ71のみを用いる)としてもよい。例えばバッテリー53の充電量が減少している場合には、2点点火から1点点火とすることで、より確実に点火プラグから放電させることができる。
内燃機関1の始動時に用いる点火プラグを決定したら、内燃機関1の始動時における点火時期を決定する。この実施形態においては、内燃機関1の運転条件に応じて2点点火、サイドプラグのみの1点点火、センタプラグのみの1点点火等、点火形態を変化させて内燃機関1が運転される。点火形態が異なる場合、それぞれの点火形態に対して最適な点火時期が存在する。このため、異なる点火形態に対して、それぞれ最適な点火時期で内燃機関1を運転する。
次に、この実施形態に係る点火時期の決定手順を説明する。図7は、実施形態1に係る点火時期の決定手順を示すフローチャートである。図8−1〜図8−4は、実施形態1に係る点火時期の決定において用いる基本点火時期決定マップである。点火時期を決定するにあたり、点火パラメータ決定部12は、始動時であるか否かを判定する(ステップS201)。なお、上記ステップS101で始動時であると判定された場合、このステップS201でも始動時と判定される。
内燃機関1の始動時である場合(ステップS201:Yes)、始動時用の点火時期マップ(以下始動時用点火マップという)95を用いて点火時期を決定する(ステップS207)。始動時用点火マップ95は、図8−4に示すように、機関回転数NEが増加するにしたがって点火時期が遅角するように設定される。このように点火時期を設定することによって、燃焼室1b内の混合気へ確実に点火して、内燃機関1を始動させることができる。なお、この実施形態においては、内燃機関1の始動時においては2点点火とするが、センタプラグ71の点火時期とサイドプラグ72の点火時期とを同じにしてもよいし、火炎伝播を考慮してサイドプラグ72の点火時期を、センタプラグ71の点火時期よりも進角させてもよい。
内燃機関1の始動時でない場合(ステップS201:No)、すなわち、内燃機関1が始動した後においては、後述するように、内燃機関1の過給圧力又は圧縮比によって点火に用いる点火プラグを選択し、選択された点火プラグの本数や選択された点火プラグの位置に応じて、最適な点火時期を決定する。内燃機関1が始動した後において内燃機関1の点火時期を決定するにあたり、点火パラメータ決定部12は、2点点火か否かを判定する(ステップS202)。
2点点火でない場合(ステップS202:No)は1点点火である。この場合、点火パラメータ決定部12は、センタプラグ71のみを用いる1点点火であるか否かを判定する(ステップS203)。センタプラグ71のみを用いる1点点火でない場合(ステップS203:No)、サイドプラグ72のみを用いる1点点火である。この場合、点火パラメータ決定部12は、図8−1に示すサイドプラグ1点点火用の点火時期マップ(以下サイド1点点火用マップという)92を用いて点火時期を決定する(ステップS204)。
サイド1点点火用マップ92は、アクセル開度及び機関回転数NEから決定される内燃機関1の要求トルクTq_d及び機関回転数NEに応じて、点火時期が記述してある。ここで、CPは点火時期(BTDC:Before Top Dead Center、圧縮上死点からの角度で表すクランク角度)を表し、点火時期CPに付される添え字が大きくなるにしたがって、すなわち、CP1、CP2、CP3・・・の順に点火時期は進角側に移行する(以下同様)。
センタプラグ71のみを用いる1点点火である場合(ステップS203:Yes)、点火パラメータ決定部12は、図8−2に示すセンタプラグ1点点火用の点火時期マップ(以下センタ1点点火用マップという)93を用いて点火時期を決定する(ステップS205)。センタ1点点火用マップ93は、内燃機関1の要求トルクTq_d及び機関回転数NEに応じて決定される点火時期が記述してある。
ここで、センタ1点点火用マップ93に記述される点火時期は、同じ要求トルクTq_d及び機関回転数NEであれば、サイド1点点火用マップ92に記述される点火時期よりも遅角している。すなわち、同じ要求トルクTq_d及び機関回転数NEであれば、サイド1点点火用マップ92に記述される点火時期の方がセンタ1点点火用マップ93に記述される点火時期よりも進角している。これは、サイドプラグ72による1点点火の場合、センタプラグ71による1点点火よりも火炎伝播時間を要するため、センタプラグ71による1点点火よりも点火時期を進角させる必要があるからである。
2点点火である場合(ステップS202:Yes)、点火パラメータ決定部12は、図8−3に示す、センタプラグ71及びサイドプラグ72を用いる2点点火用の点火時期マップ(以下2点点火用マップという)94を用いて点火時期を決定する(ステップS206)。2点点火用マップ94は、内燃機関1の要求トルクTq_d及び機関回転数NEに応じて決定される点火時期が記述してある。なお、上記サイド1点点火用マップ92、センタ1点点火用マップ93等は、機関ECU30の記憶部30Mに格納されている。また、この実施形態において、センタプラグ71の点火時期とサイドプラグ72の点火時期とは同じ時期に設定しているが、両者を異なる時期に設定してもよい。
このように、放電させる、すなわち点火に供する点火プラグの本数又は放電させる点火プラグが配置されている位置の少なくとも一方に基づいて、放電させる点火プラグの点火時期を設定する。すなわち、点火形態が異なる場合、それぞれの点火形態に対して最適な点火時期により点火するので、点火形態が異なっても良好な燃焼が得られる。また、後述するように、この実施形態においては、点火系50に故障が発生した場合、故障の発生していない点火系を用いて点火することにより、点火系の故障によるドライバビリティの悪化を最小限に抑える。この場合、点火形態が異なることになるが、異なる点火形態に対して最適な点火時期により点火するので、点火系の故障によるドライバビリティの悪化をさらに小さく抑えることができる。
内燃機関1の始動時でない場合(ステップS101:No)、運転状態判定部11は、内燃機関1の点火系50に故障が発生しているか否かを判定する(ステップS103)。なお、ここでは、一つの気筒において、点火系50の故障を判定する。点火系50の故障には、例えばセンタプラグ71やサイドプラグ72の故障や、イグニッションコイル51やイグナイター52の故障がある。例えば、イグニッションコイル51からの2次の放電波形を機関ECU30に取り込み、当該放電波形によって点火系50の故障を判定することができる。
点火系50に故障が発生していない場合(ステップS103:No)、運転状態判定部11は、現在センタプラグ71及びサイドプラグ72を用いる2点点火によって内燃機関1が運転されているか否かを判定する(ステップS104)。点火パラメータ決定部12は、運転状態判定部11の判定結果、及び図6−1に示す点火プラグ数決定マップ90を用いて、内燃機関1の点火に用いる点火プラグの数を決定する。
ここで、この実施形態においては、図6−1の点火プラグ数決定マップ90に示すように、内燃機関1に対する過給圧力Piが、所定の基準値よりも大きい場合には、ボア1t端部に配置される点火プラグの放電を停止する。そして、燃焼室1bの中央部1cに配置される点火プラグのみを用いて点火する。このとき、過給圧力Piが所定の基準値の近傍で変化すると、点火プラグの本数が頻繁に切り替えられてトルク変動等が発生する結果、ドライバビリティを悪化させるおそれがある。
このため、この実施形態においては、ヒステリシスを設けて点火プラグの本数を切り替える。より具体的には、点火プラグ数決定マップ90において、点火に供する点火プラグの本数を減らす場合(図6−1の90a)と、点火に供する点火プラグの本数を増やす場合(図6−1の90b)とで、所定の基準値を異ならせる。これによって、所定の基準値の近傍における点火プラグの本数の切り替え頻度が低減されるので、ドライバビリティの悪化を抑制できる。なお、点火プラグ数を決定するにあたり、ヒステリシスを設けなくてもよい。
2点点火で内燃機関1が運転されている場合(ステップS104:Yes)、運転状態判定部11は、点火時における燃焼室内圧力が所定の基準値よりも大きいか否かを判定する。この実施形態では、過給により点火時における燃焼室内圧力を上昇させるので、点火時における燃焼室内圧力は過給圧力Piで表すことができる。すなわち、過給圧力Piが大きくなれば、点火時における燃焼室内圧力も大きくなる。また、圧縮比可変機構を用いる場合には、点火時における燃焼室内圧力は圧縮比によって表すことができる。すなわち、圧縮比が大きくなれば、点火時における燃焼室内圧力も大きくなる。なお、筒内圧力センサ等によって、点火時における燃焼室内圧力を直接測定し、この実施形態に係る内燃機関の運転制御に用いてもよい。
運転状態判定部11は、現在の過給圧力Piと第1の所定の基準値(以下第1基準過給圧力という)Ps1とを比較する(ステップS105)。過給圧力Piは、内燃機関1に取り付けられる吸気圧力センサ48から取得する。なお、内燃機関1が圧縮比可変機構を備える場合、内燃機関1の圧縮比と所定の基準値(基準圧縮比)とを比較する。
Pi>Ps1である場合(ステップS105:Yes)、点火パラメータ決定部12は、センタプラグ71のみを用いる1点点火で内燃機関1を運転するように決定する(ステップS111)。なお、この場合は、点火に供する点火プラグの本数を減らす場合に相当する。ここで、一般に、点火プラグの点火要求電圧は、式(1)で表されるパッシェンの法則により決定される。
Vr=K×P×d+C・・・(1)
ここで、Vrは点火要求電圧、Kは比例定数、Pは点火時における燃焼室内圧力、dはプラグギャップ、Cは定数であり、点火プラグ電極温度、電極形状、混合気濃度によって決定される。
ターボ60等による過給や、圧縮比可変機構による圧縮比の増加によって、点火時における燃焼室内圧力Pは増加する。式(1)からわかるように、このような場合には点火要求電圧Vrが高くなる。また、ボア壁面温度や吸気流速等の影響によって、燃焼室1bの中央部1cに配置される点火プラグよりも、燃焼室1bのボア1t側に配置される点火プラグの方が、点火要求電圧Vrが高くなる。
このため、2点点火で内燃機関1を運転している場合において、過給圧力Piが第1基準過給圧力Ps1よりも高い場合、あるいは圧縮比が所定の基準値よりも高い場合には、点火要求電圧の大きいサイドプラグ72からの放電を停止し、点火要求電圧の低いセンタプラグ71のみを用いた1点点火とする。なお、3本の点火プラグを図2−4に示すような配置とした場合にも、サイドプラグ73の放電を停止し、センタプラグのみで点火する。この場合、2本のセンタプラグ71、72の両方を用いてもよいし、2本のセンタプラグ71、72のうち1本を用いてもよい。
このように、過給圧力Piが第1基準過給圧力Ps1よりも高い場合等には、点火要求電圧の大きいサイドプラグ72からの放電を停止し、点火要求電圧の低いセンタプラグ71のみを用いた1点点火とすることによって、点火プラグの碍子内リークを抑制できる。これによって、失火を抑制して、安定して燃焼室1b内の混合気に点火して燃焼させることができるので、内燃機関1を運転することができる。また、消費電力も低減できるので、内燃機関1の燃料消費も抑制できる。
次に、運転状態判定部11は、現在の過給圧力Piが、第1の最大過給圧力Pmax1よりも小さいか否かを判定する(ステップS108)。ここで、第1の最大過給圧力Pmax1は、内燃機関1が許容できる最大の過給圧力である。そして、内燃機関1が許容できる最大の過給圧力は、内燃機関1が許容できる、点火時における燃焼室内圧力の最大値である。
Pi≧Pmax1である場合(ステップS108:No)、内燃機関1を保護するため、機関ECU30の制御部30Cは、過給圧力Piを低下させて第1の最大過給圧力Pmax1以上にならないように制限する(ステップS109)。なお、図1に示す機関ECU30の制御部30Cが過給圧制御弁85(図1)を開くことにより、過給圧力Piを低下させることができる。
Pi<Pmax1である場合(ステップS108:Yes)、点火パラメータ決定部12は、点火時期を決定する(ステップS115)。点火時期は、上述した、この実施形態に係る点火時期の決定手順(図7のフローチャート参照)に基づいて決定する。この場合には、センタプラグ71のみを用いた1点点火なので、点火パラメータ決定部12は、図8−2に示すセンタ1点点火用マップ93を用いて点火時期を決定する。
すなわち、点火パラメータ決定部12は、センタ1点点火用マップ93に、機関回転数NEと、アクセル開度から定まる要求トルクTq_dとを与え、対応する点火時期を取得する。ここで、センタ1点点火用マップ93は、過給あるいは圧縮比の変更がない場合における点火時期が記述してある。過給等がある場合には、ノッキングを抑制するため、過給等がない場合と比較して、点火時期を遅角させる。図6−2の過給時点火時期マップ91には、過給がない場合に対する遅角量が、点火時期補正定数Aとして記述してある。
内燃機関1が過給されている場合の点火時期CPpは、次のように決定される。まず、過給がない場合の点火時期をセンタ1点点火用マップ93から取得する。このとき点火時期をCPとする。次に、現在の過給圧力を過給時点火時期マップ91に与え、対応する点火時期補正定数Aを取得する。そして、過給されているときの点火時期CPpは、CP−Aで求めることができる。
ここで、図6−2に示すように、点火時期補正定数Aは、過給圧力が大きくなるにしたがって大きくなる。すなわち、過給圧力が大きくなるにしたがって、点火時期を遅角させる量が大きくなる。これによって、ノッキングの発生を効果的に抑制する。点火時期が決定されたら、点火制御部13は、決定された点火時期でセンタプラグ71から放電させて、内燃機関1を運転する(ステップS116)。
Pi≦Ps1である場合(ステップS105:No)、点火パラメータ決定部12は、センタプラグ71及びサイドプラグ72の両方を用いた2点点火による内燃機関1の運転を継続するようにする(ステップS107)。次に、運転状態判定部11は、過給圧力Piが第1の最大過給圧力Pmax1よりも小さいか否かを判定する(ステップS108)。Pi≧Pmax1である場合(ステップS108:No)、機関ECU30の制御部30Cは、過給圧力Piを低下させて第1の最大過給圧力Pmax1以上にならないように制限する(ステップS109)。
Pi<Pmax1である場合(ステップS108:Yes)、点火パラメータ決定部12は、点火時期を決定する(ステップS115)。点火時期の決定手順は上述した通りである。この場合には、センタプラグ71及びサイドプラグ72の両方を用いる2点点火なので、点火パラメータ決定部12は、図8−3に示す2点点火用マップ94を用いて点火時期を決定する。
点火パラメータ決定部12は、2点点火用マップ94に、機関回転数NEと、アクセル開度から定まる要求トルクTq_dとを与え、対応する点火時期を取得する。ここで、2点点火用マップ94は、過給あるいは圧縮比の変更がない場合における点火時期が記述してある。このため、点火パラメータ決定部12は、図6−2の過給時点火時期マップ91から決定される点火時期補正定数Aによって、2点点火用マップ94から取得した点火時期を補正する。この補正方法は、上述した通りである。点火時期が決定されたら、点火制御部13は、決定された点火時期でセンタプラグ71及びサイドプラグ72から放電させて、内燃機関1を運転する(ステップS116)。
2点点火で内燃機関1が運転されていない場合(ステップS104:No)、すなわち、1点点火で内燃機関1が運転されている場合、運転状態判定部11は、現在の過給圧力Piと第2の所定の基準値(以下第2基準過給圧力という)Ps2とを比較する(ステップS106)。Pi>Ps2である場合(ステップS106:Yes)、点火パラメータ決定部12は、センタプラグ71のみを用いる1点点火での内燃機関1の運転を維持するように決定する(ステップS111)。
次に、運転状態判定部11は、過給圧力Piが第1の最大過給圧力Pmax1よりも小さいか否かを判定する(ステップS108)。Pi≧Pmax1である場合(ステップS108:No)、機関ECU30の制御部30Cは、過給圧力Piを低下させて第1の最大過給圧力Pmax1以上にならないように制限する(ステップS109)。
Pi<Pmax1である場合(ステップS108:Yes)、点火パラメータ決定部12は、点火時期を決定し(ステップS115)、点火制御部13は、決定された点火時期でセンタプラグ71から放電させて、内燃機関1を運転する(ステップS116)。この手順は、既に述べたので、説明を省略する。
Pi≦Ps2である場合(ステップS106:No)、点火パラメータ決定部12は、センタプラグ71及びサイドプラグ72を用いる2点点火で内燃機関1の運転をするように決定する(ステップS107)。なお、この場合は、点火に供する点火プラグの本数を増やす場合に相当する。
ここで、図6−2に示すように、点火に供する点火プラグの本数を減らす場合の判定に用いる第1基準過給圧力Ps1は、点火に供する点火プラグの本数を増やす場合の判定に用いる第2基準過給圧力Ps2よりも大きい。これによって、点火プラグの本数を切り替える条件の近傍において、点火プラグの本数の切り替え頻度が低減されるので、ドライバビリティの悪化を抑制できる。
次に、運転状態判定部11は、過給圧力Piが第1の最大過給圧力Pmax1よりも小さいか否かを判定する(ステップS108)。Pi≧Pmax1である場合(ステップS108:No)、機関ECU30の制御部30Cは、過給圧力Piを低下させて第1の最大過給圧力Pmax1以上にならないように制限する(ステップS109)。
Pi<Pmax1である場合(ステップS108:Yes)、点火パラメータ決定部12は、点火時期を決定し(ステップS115)。点火制御部13は、決定された点火時期でセンタプラグ71及びサイドプラグ72から放電させて、内燃機関1を運転する(ステップS116)。この手順は、既に述べたので、説明を省略する。
次に、点火系50に故障が発生している場合(ステップS103:Yes)について説明する。この場合、運転状態判定部11は、点火系50の故障位置を判定する(ステップS110)。サイドプラグ72あるいはサイドプラグ72に電力を供給するイグニッションコイルやイグナイターが故障した場合、点火パラメータ決定部12は、センタプラグ71による1点点火で内燃機関1を運転するようにする(ステップS111)。
次に、運転状態判定部11は、過給圧力Piが第1の最大過給圧力Pmax1よりも小さいか否かを判定する(ステップS108)。Pi≧Pmax1である場合(ステップS108:No)、機関ECU30の制御部30Cは、過給圧力Piを低下させて第1の最大過給圧力Pmax1以上にならないように制限する(ステップS109)。
Pi<Pmax1である場合(ステップS108:Yes)、点火パラメータ決定部12は、点火時期を決定する(ステップS115)。点火制御部13は、決定された点火時期でセンタプラグ71から放電させて、内燃機関1を運転する(ステップS116)。この手順は、既に述べたので、説明を省略する。
運転状態判定部11が点火系50の故障位置を判定した結果、センタプラグ71あるいはセンタプラグ71に電力を供給するイグニッションコイルやイグナイターが故障した場合、点火パラメータ決定部12は、サイドプラグ72による1点点火で内燃機関1を運転するようにする(ステップS112)。
次に、運転状態判定部11は、現在の過給圧力Piが第2の最大過給圧力Pmax2よりも小さいか否かを判定する(ステップS113)。ここで、第2の最大過給圧力Pmax2が、点火時における燃焼室内圧力の最大値になる。また、第2の最大過給圧力Pmax2は、第1の最大過給圧力Pmax1よりも小さい。すなわち、Pmax1>Pmax2である。なお、Pmax2/Pmax1は、例えば、最大で0.95程度とすることが好ましい。
このように、サイドプラグ72のみの放電よる1点点火の場合には、内燃機関が許容できる、点火時における燃焼室内圧力の最大値(すなわち第1の最大過給圧力Pmax1)よりも、点火時における燃焼室内圧力の最大値を小さくする。これによって、サイドプラグ72の要求点火電圧が高くなることを抑制して、碍子内リークを抑えることができる。その結果、サイドプラグ72の失火を抑制できるので、安定して着火して内燃機関1を運転できる。
現在の過給圧力Piが、第2の最大過給圧力Pmax2以上である場合(ステップS113:No)、過給圧力Piを制限する(ステップS114)。そして、過給圧力Piが、第2の最大過給圧力Pmax2よりも小さくなるようにして、サイド1点点火における要求点火点圧の上昇を抑制する。これによって、サイドプラグ72の碍子内リークを抑制して失火を抑制できる。現在の過給圧力Piが、第2の最大過給圧力Pmax2よりも小さい場合(ステップS113:Yes)、点火パラメータ決定部12は、点火時期を決定する(ステップS115)。
点火時期の決定手順は上述した通りであり、この場合には、サイドプラグ72のみを用いる1点点火なので、点火パラメータ決定部12は、図8−1に示すサイド1点点火用マップ92を用いて点火時期を決定する。なお、サイドプラグ72のみを用いる1点点火の場合、火炎の伝播距離を考慮して、センタプラグ71のみを用いる1点点火の場合よりも点火時期を進角させてもよい。点火制御部13は、決定された点火時期でサイドプラグ72から放電させて、内燃機関1を運転する(ステップS116)。
以上、この実施形態によれば、過給圧力の上昇等によって内燃機関の点火時における燃焼室内圧力が上昇した場合には、ボア側に配置される点火プラグの放電を停止し、中央部に配置される点火プラグのみによって点火する。これによって、過給等によって、点火時における燃焼室内圧力が上昇した場合において失火を抑制できるので、確実に混合気へ着火して良好な燃焼状態を維持することができる。なお、実施形態1で開示した構成は、以下の実施形態でも適宜適用できるものとする。また、実施形態1で開示した構成と同一の構成を備えるものは、実施形態1の奏する作用、効果と同様の作用、効果を奏する。
(実施形態2)
実施形態2は、空燃比に基づいて点火に用いる点火プラグを決定する点に特徴がある。次に、実施形態2に係る内燃機関の運転制御について説明する。実施形態2に係る内燃機関の運転制御は、実施形態1で説明した内燃機関の運転制御装置10(図4参照)で実現できる。なお、次の説明においては、適宜図1〜図4を参照されたい。
図9は、実施形態2に係る内燃機関の運転制御の手順を示すフローチャートである。図10−1は、空燃比を決定する際に用いるデータマップの一例を示す説明図である。図10−2は、冷間時における空燃比を決定する際に用いるデータマップの一例を示す説明図である。この実施形態に係る内燃機関の運転制御を実行するにあたり、内燃機関の運転制御装置10が備える運転状態判定部11は、内燃機関1が始動時であるか否かを判定する(ステップS301)。始動時であるか否かの判定は、実施形態1で説明した判定方法と同様である。
内燃機関1の始動時(ステップS301:Yes)であれば、内燃機関1の始動時における制御に移行して(ステップS308)、内燃機関1を始動する。内燃機関1の始動時における制御は、上記実施形態1で説明したように、センタプラグ71及びサイドプラグ72を用いる2点点火により内燃機関1を始動する。また、点火時期は、機関回転数NEが増加するにしたがって点火時期が遅角するように設定される始動時用点火マップ95(図8−4)から決定される。
内燃機関1の始動時でない場合(ステップS301:No)、内燃機関1は運転中である。この場合、運転状態判定部11は、内燃機関1の冷却水温度Twを取得し、これに基づいてA/F(空燃比)を決定する。冷却水温度Twは、内燃機関1に取り付けられる水温センサ45によって測定する。
冷却水温度Twを取得したら、運転状態判定部11は、予め定めた所定の基準水温(以下暖機終了判定温度)Twsと取得した冷却水温度Twとを比較する(ステップS302)。その結果、Tw≧Twsである場合(ステップS302:No)、運転状態判定部11は、内燃機関1の暖機が終了したと判定して、点火パラメータ決定部12は、図10−1に示す基本A/Fマップ96によって仮A/Fを設定する。
基本A/Fマップ96は、内燃機関1の機関回転数NEと、内燃機関1に対する要求トルクTq_dとによってA/Fを決定する。内燃機関1に対する要求トルクTq_dは、機関ECU30の制御部30Cがアクセル開度を取得し、これに基づいて算出する。点火パラメータ決定部12は、この要求トルクTq_dと、機関回転数NEとを基本A/Fマップ96に与えて、対応するA/Fを取得する。ここで、基本A/Fマップ96中のA/F_Rはリッチ(燃料過多)、A/F_Sはストイキ(理論空燃比)、A/F_L1〜A/F_L3はリーン(酸素過多)を表す。また、A/F_L1<A/F_L2<A/F_L3である。
基本A/Fマップ96により仮A/Fを決定したら(ステップS303)、運転状態判定部11は、内燃機関1の点火系50に故障が発生しているか否かを判定する(ステップS304)。点火系50の故障判定方法は上述した通りである。点火系50に故障が発生していない場合(ステップS304:No)、点火パラメータ決定部12は、上記ステップS303で設定した仮A/Fを、内燃機関1の運転制御に用いるA/Fとして設定する(ステップS306)。
一方、点火系50に故障が発生している場合(ステップS304:Yes)、点火パラメータ決定部12は、仮A/Fを、ストイキでの空燃比A/F_S(例えば14.5)以下の空燃比とする(ステップS305)。すなわち、ストイキあるいはストイキよりもリッチ(燃料過多)で内燃機関1を運転する。これによって、放電可能な点火プラグの本数が減少しても、確実に混合気に着火して、内燃機関1を運転することができる。次に、点火パラメータ決定部12は、ステップS305で設定した仮A/Fを、内燃機関1の運転制御に用いるA/Fとして設定する(ステップS306)。
ステップS302において、運転状態判定部11が、予め定めた所定の基準水温Twsと取得した冷却水温度Twとを比較した結果、Tw<Twsである場合(ステップS302:Yes)、運転状態判定部11は、内燃機関1の暖機は終了していないと判定する。すなわち、内燃機関1は、冷間時であると判定できる。この場合、点火パラメータ決定部12は、図10−2に示す冷間時A/Fマップ97に内燃機関1の冷却水温度Twを与え、冷間時A/Fマップ97から対応するA/Fを取得し、これを仮A/Fを設定する(ステップS307)。
図10−2に示す冷間時A/Fマップ97は、内燃機関1の冷却水温度Twが上昇するにしたがって、A/Fを大きくするようになっている。そして、冷却水温度Twが暖機終了判定温度Twsに到達したときには、ストイキにおける空燃比A/F_Sとなるように記述されている。内燃機関1の暖機中は燃料が霧化しにくいが、内燃機関1に供給する燃料の量を増量することで、これを補う。
冷間時A/Fマップ97から仮A/Fを設定したら(ステップS307)、運転状態判定部11は、内燃機関1の点火系50に故障が発生しているか否かを判定する(ステップS304)。点火系50の故障判定方法は上述した通りである。点火系50に故障が発生していない場合(ステップS304:No)、点火パラメータ決定部12は、上記ステップS307で設定した仮A/Fを、内燃機関1の運転制御に用いるA/Fとして設定する(ステップS306)。点火系50に故障が発生している場合(ステップS304:Yes)については上述した通りである。
次に、点火に用いる点火プラグの本数、位置及び放電時間を決定する手順を説明する。図11は、点火に用いる点火プラグの本数、位置及び放電時間を決定する手順を示すフローチャートである。図12−1は、点火に用いる点火プラグの本数及び位置を決定する際に用いるマップの一例を示す説明図である。図12−2は、放電時間を記述したマップの一例を示す説明図である。図12−3は、放電時間を補正するための放電時間係数を記述したマップの一例を示す説明図である。
この実施形態においては、空燃比に応じて点火に用いる点火プラグの本数、位置及び放電時間を決定する。まず、運転状態判定部11は、内燃機関1の点火系50に故障が発生しているか否かを判定する(ステップS401)。点火系50の故障判定方法は上述した通りである。点火系50に故障が発生していない場合(ステップS401:No)、設定したA/Fから、点火に用いる点火プラグの本数、点火プラグの位置及び放電時間を決定する(ステップS402)。なお、放電時間は、機関回転数NEに応じて変更するので、ここでは、基本放電時間τBを決定する。
点火パラメータ決定部12は、設定したA/Fを図12−1に示す点火プラグ決定マップ98に与える。そして、設定したA/Fに対応する点火プラグを決定する。この点火プラグ決定マップ98は、原則として、リーン燃焼領域で2点点火として着火性を向上させ、確実に燃焼させる。一方、A/Fが17程度までの燃焼領域(ストイキあるいは弱リーン燃焼領域)においては1点点火(この例ではセンタプラグ71を用いる)として、電力消費を抑制して燃料消費を低減し、また点火プラグの電極摩耗を抑制する。
この点火プラグ決定マップ98では、1点点火から2点点火に移行する際には、A/F=17を基準としてセンタプラグ71のみの1点点火からセンタプラグ71及びサイドプラグ72を用いる2点点火に切り替える。一方、2点点火から1点点火に移行する際には、A/F=16を基準としてセンタプラグ71及びサイドプラグ72を用いる2点点火からセンタプラグ71のみの1点点火に切り替える。
このように、1点点火から2点点火に移行する場合と2点点火から1点点火に移行する場合とで、点火プラグの本数を切り替える基準となるA/Fを変更することにより、点火プラグの本数を切り替える際にヒステリシスをもたせる。これによって、点火プラグの本数を切り替える基準となるA/Fの近傍における点火プラグの本数の切り替え頻度が低減されるので、トルク変動等によるドライバビリティの悪化を抑制できる。
なお、実施形態1で説明したように、決定した点火プラグの本数及び位置に対応して点火時期を設定してもよい。この場合、図8−1、図8−2、図8−3に示すサイド1点点火用マップ92、センタ1点点火用マップ93、2点点火用マップ94を用いて、点火プラグの本数及び位置に対応した点火時期を設定する。このようにすれば、より好ましいタイミングで燃焼室内の混合気に点火できるので、より確実に、かつ効率よく混合気を燃焼させることができる。
基本放電時間τBは、図12−2に示す基本放電時間マップ99aを用いて決定する。基本放電時間τBは、内燃機関1が低回転(2000rpm以下、例えばアイドリング回転数)で運転される場合の放電時間である。基本放電時間τBは、空燃比A/Fの増加にしたがって長くする。すなわち、A/Fが17程度までの燃焼領域(ストイキあるいは弱リーン燃焼領域)では燃料が比較的多いため、基本放電時間τBは短くても着火性の悪化はほとんど発生しない。このため、A/Fが17程度までの燃焼領域では、基本放電時間τBを短くして、電力消費を抑制する。
一方、弱リーン燃焼領域よりもA/Fが大きくなると、空気量に対して燃料の量が低下する結果、着火性が悪化して失火等を引き起こすおそれがある。このため、A/Fが17程度までの燃焼領域よりも基本放電時間を長くして、確実に混合気へ着火する。点火パラメータ決定部12は、設定したA/Fを基本放電時間マップ99aに与え、基本放電時間τBを決定する(ステップS402)。
点火に用いる点火プラグの本数、点火プラグの位置及び放電時間を決定したら(ステップS402)、点火パラメータ決定部12は、放電時間係数マップ99bに内燃機関1の機関回転数NEを与えて、対応する放電時間係数aSを取得する(ステップS403)。機関回転数NEが上昇すると放電可能な時間は短くなるため、機関回転数NEが上昇した場合には、内燃機関1が低回転で運転される場合の放電時間である基本放電時間τBをそのまま用いると放電時間が長すぎる場合がある。そこで、放電時間係数aSを用いて基本放電時間τBを修正し、修正した後の放電時間で点火プラグから放電させる。ここで、図12−3に示すように、放電時間係数aSは、機関回転数NEの上昇とともに小さくなるように設定されており、最大値は1.0である。
点火パラメータ決定部12は、基本放電時間τBに放電時間係数aSを乗じて、内燃機関1の運転に用いる放電時間τを決定する(ステップS404)。そして、点火制御部13は、上記手順で決定された点火プラグの本数、位置及び放電時間で、内燃機関1を運転する。
点火系50に故障が発生している場合(ステップS401:Yes)、運転状態判定部11は、点火系50の故障位置を判定する(ステップS405)。サイドプラグ72あるいはサイドプラグ72に電力を供給するイグニッションコイルやイグナイターが故障した場合、点火パラメータ決定部12は、センタプラグ71による1点点火で内燃機関1を運転するようにする(ステップS406)。一方、運転状態判定部11が、センタプラグ71あるいはセンタプラグ71に電力を供給するイグニッションコイルやイグナイターが故障していると判定した場合、点火パラメータ決定部12は、サイドプラグ72による1点点火で内燃機関1を運転するようにする(ステップS407)。
その後、点火パラメータ決定部12は、放電時間τを予め設定した放電時間τ1に設定する(ステップS408)。1点点火の場合には、A/F及び機関回転数NEに関わらず放電時間を一定として、確実に混合気へ着火するためである。なお、センタプラグ71を用いる場合と、サイドプラグ72を用いる場合とで放電時間τを変更してもよい。例えば、燃焼室1b内における混合気の流れや、ボア1t近傍における温度低下等により、センタプラグ71と比較してサイドプラグ72の着火性が悪くなる場合は、サイドプラグ72の放電時間をセンタプラグ71より長くしてもよい。このように、使用する点火プラグの位置に応じて放電時間τを変更することで、より着火性を改善することができる。次に、放電時間τを変更する一例を説明する。
図12−4は、放電時間を変更する方法の概念を示す説明図である。この方法は、一つの点火プラグに対してイグニッションコイルを2系統用意し、これらを交互に用いることで放電時間τを変更するものである。より具体的には、第1のイグニッションコイルで放電させている間に第2のイグニッションコイルを充電する。そして、第1のイグニッションコイルによる放電が終了したら、第2のイグニッションコイルによって放電する。この繰り返し回数を変更することによって、放電時間を変化させることができる(図12−4のτv)。なお、放電時間を変化させる方法はこれに限られない。
以上、この実施形態では、空燃比に応じて点火に用いる点火プラグの本数及び配置位置を決定する。これによって、むやみに多点点火を用いることはなくなるので、電力消費を抑制できるとともに、電極の摩耗も抑制できる。また、リーン燃焼領域においては、ストイキやリッチ燃焼領域と比較して放電時間を長くするので、リーン燃焼領域を拡大できる。
ここで、実施形態2においては、次の発明が開示される。これらの発明は、複数の点火プラグを備え、かつリーン燃焼が可能な内燃機関において、点火に要する電力の消費を抑制することを目的としている。
第1の発明は、同一の燃焼室に点火プラグを複数備える内燃機関であって、燃料と空気との混合気を燃焼させる燃焼室の中央部に少なくとも1個配置される第1点火プラグと、前記燃焼室のボア端部側に少なくとも1個配置される第2点火プラグと、を備え、前記内燃機関に対する空燃比に応じて、放電させる点火プラグの本数及び位置を決定するとともに、放電時間を決定することを特徴とする内燃機関である。
このような構成により、リーン燃焼を行う運転条件のときに多点点火をすることによりリーン燃焼の改善を実現でき、また、リーン燃焼を行わない運転条件のときには点火に供する点火プラグの本数を低減して、電力消費を抑制する。また点火プラグの電極摩耗も抑制できる。
第2の発明は、前記第1の発明において、前記第1点火プラグ又は前記第2点火プラグの点火系が故障した場合には、前記内燃機関の空燃比を理論空燃比以下とすることを特徴とする内燃機関である。
これにより、上記発明の作用、効果に加え、点火プラグの本数が減少しても、ストイキ又はリッチの状態で燃焼させるため、確実に混合気へ着火して燃焼させることができる。その結果、点火系に故障が発生した場合でも、内燃機関を安定して運転できるので、点火系の故障によるドライバビリティの悪化を最小限に抑えることができる。なお、点火系には、第1点火プラグ又は第2点火プラグも含まれる。
また、第3の発明は、前記第1の発明又は前記第2の発明において、前記空燃比に応じて放電時間を変更することを特徴とする内燃機関である。
これにより、上記発明の作用、効果に加え、リーン燃焼領域においては放電時間を長くすることができるので、確実に混合気に着火させて、安定して内燃機関を運転できる。また、リーン燃焼領域において着火性が向上するので、リーン燃焼領域を拡大することができる。
また、第4の発明は、前記第1の発明〜前記第3の発明のいずれか一つにおいて、放電させる点火プラグの本数又は放電させる点火プラグが配置されている位置の少なくとも一方に基づいて、放電させる点火プラグの点火時期を設定することを特徴とする内燃機関である。
これにより、上記発明の作用、効果に加え、点火プラグの本数、あるいは配置場所の異なる点火形態において、最適な点火時期で燃焼室内の混合気へ着火することができる。その結果、より良好な燃焼状態が得られるので、熱効率の向上、リーン領域の拡大といった効果が得られる。