従来から知られている固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質に高分子膜を用いる燃料電池であり、出力密度が高い、電池寿命が長い等の優れた特徴を有している。
図9は従来の固体高分子型燃料電池の基本構成例を模式的に示した分解断面図である。図9に示すように、従来の固体高分子型燃料電池では、固体高分子電解質膜1の両主面に電極2が熱圧着せしめられ、電解質膜・電極接合体が形成されている。更に、電解質膜・電極接合体と、一対の集電体3とが、一対のセパレータ4によって狭持せしめられ、単セルが構成されている。また、セパレータ4の内面には、反応ガスを流すためのガス流通溝7が形成されている。詳細には、アノード側のセパレータ4のガス流通溝7には水素を含む燃料ガスが供給され、カソード側のセパレータ4のガス流通溝7には酸素を含む酸化剤ガスが供給される。
更に、セパレータ4の外面には、冷却水流通溝8が形成されている。この冷却水流通溝8に冷却水を流すことにより、発電に伴って発生する熱が除去され、単セルが所定の運転温度に維持される。また、セパレータ4および固体高分子電解質膜1の上部および下部には、2種類の反応ガスおよび冷却水のそれぞれのために専用のマニホールド6が形成されている。このマニホールド6は、燃料電池積層体を構成する複数の単セルに連通しており、反応ガスおよび冷却水のそれぞれは、専用の入口側マニホールドから出口側マニホールドへとセパレータ4のガス流通溝7あるいは冷却水流通溝8を流れる。
また、図9において、5は例えばフッ素ゴムからなるOリング状のシール部材を示している。このシール部材5は、セパレータ4で狭持された単セルにおいて、電極2に達した反応ガスが外部へ漏洩してしまうこと、および、マニホールド6を流れる反応ガスあるいは冷却水が外部へ漏洩してしまうことを防止する役割を果たしている。
すなわち、図9に示した従来の固体高分子型燃料電池では、固体高分子電解質膜1とセパレータ4との間にOリング状のシール部材5が配置され、セパレータ4によって固体高分子電解質膜1およびシール部材5が加圧されて狭持されている。それにより、電極2に達した反応ガスが外部へ漏洩してしまうこと、および、マニホールド6を流れる反応ガスあるいは冷却水が外部へ漏洩してしまうことが防止されている。
ところが、図9に示した従来の固体高分子型燃料電池では、シール部材5が、セパレータ4にも固体高分子電解質膜1にも固定されていないため、セルの組立時に、シール部材5が位置ずれしてしまうおそれがある。
特に、固体高分子電解質膜1の厚さが30〜50μmと極めて薄く、その剛性も小さいため、シール部材5が及ぼす応力によって、固体高分子電解質膜1が変形してしまうおそれがある。また、固体高分子電解質膜1の両面のシール部材5の位置にずれがある場合には、固体高分子電解質膜1とシール部材5とが加圧されて狭持される時に、その位置ずれが増大してしまうおそれがある。
このように、シール部材5の組み込み位置にずれが生じると、シール機能が不完全となり、反応ガスや冷却水の漏洩が生じてしまうおそれがある。
シール部材5の位置ずれの発生を防止するために、シール部材5をセパレータ5または固体高分子電解質膜1の所定の位置に予め接着した後、固体高分子電解質膜1およびシール部材5をセパレータ6によって加圧狭持する方法が考えられるが、この方法を採ると、組立工数が増加し、製作コストが高くなってしまう。
また、Oリング状のシール部材5を収納するための例えば矩形のシール部材収納溝(図示せず)をセパレータに形成し、シール部材5をシール部材収納溝に密着させて装着することにより、シール部材5を位置決めする方法も考えられる。ところが、この方法では、固体高分子電解質膜1およびシール部材5がセパレータ6によって加圧狭持される時に、弾性変形するOリング状のシール部材5の逃げ場が矩形のシール部材収容溝内に十分に確保されていないために、必要な締付力が増大してしまい、それに伴って、締付のための構造部材が大型化してしまう。
また、固体高分子電解質膜1およびシール部材がセパレータ6によって加圧狭持される時に固体高分子電解質膜1が変形してしまうのを抑制するために、シール部材を図9に示したようにOリング状に形成するのではなく、シール部材のうちの、シール部材収納溝側(つまり、セパレータ側)の部分をリップ状に形成し、固体高分子電解質膜1の側の部分を矩形に形成する方法が考えられる。ところが、この方法では、リップ状のシール部材を矩形のシール部材収納溝内に固定するのが困難であり、シール部材が位置ずれしてしまうおそれがある。シール部材が位置ずれすると、固体高分子電解質膜1にシワが発生してしまうおそれがある。
図10は他の従来の固体高分子型燃料電池の基本構成例を模式的に示した分解断面図である。図10に示すように、他の従来の固体高分子型燃料電池では、電解質膜・電極接合体(MEA)の中心部に、枠状の保護シートに支持された固体高分子電解質膜が配置されている。集電およびガスを拡散する役割を有する拡散層に触媒層が形成され、電極が構成されている。この電極が固体高分子電解質膜の両側に接合せしめられ、電解質膜・電極接合体(MEA)が構成されている。
更に、ガス流通路が形成されたセパレータによって電解質膜・電極接合体(MEA)が狭持せしめられ、電池単セルが構成されている。セパレータは、燃料ガス(水素)と酸化剤ガス(酸素)とを分離すると共に、ガスおよび冷却水を供給する流路を有し、燃料電池で発電した電気を外部へ伝導する役割を有している。セパレータの材料としては、炭素複合材料が一般的に用いられるが、カーボン板からの機械加工の他にモールド成形による加工も採用されている。セパレータの成形方法の例としては、例えばモールド成形法、射出成形法などがある。
セルのガスシールは、セル端部のセパレータと保護シートとの間に配置されたシールパッキン(シール部材)によって行われる。図11は図10に示したセパレータを図10の右側または左側から見た図である。図11に示すように、シールパッキンは、異なる種類の流体が混合してしまうのを防止すると共に、燃料ガス、酸化剤ガスおよび冷却水がセルの外部へ漏洩してしまうのを防止するために、燃料ガスマニホールド、酸化剤ガスマニホールドの周囲に配置されている。
図10および図11に示すように、この従来の固体高分子型燃料電池では、Oリング状のシールパッキン(シール部材)を所定の位置に固定するために、断面形状が矩形のシール部材収納溝(シールパッキン溝)がセパレータに形成されている。詳細には、この従来の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)がシール部材収納溝に収納された後に、電解質膜・電極接合体(MEA)がセパレータによって狭持せしめられ、単セルが構成されている。また、この従来の固体高分子型燃料電池では、Oリング状のシールパッキン(シール部材)が、例えばフッ素ゴムによって成形されているが、他の従来の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)の材料として、例えばエチレンプロピレンゴムなどが用いられ、シールパッキン(シール部材)の断面形状が、図10に示した例のようにOリング状ではなく、例えば矩形に形成されている。
図10および図11に示した従来の固体高分子型燃料電池では、図10に示した単セルを複数個積層することにより、燃料電池スタックが構成され、発電が行われる。図12は従来の固体高分子型燃料電池の燃料電池スタックの模式図である。
図12に示すように、従来の固体高分子型燃料電池の燃料電池スタックは、複数の単セルを積層することにより構成され、積層された複数の単セルの両端には、直流電流を取り出すための集電板が配置され、集電板の外側には、集電板および燃料電池スタックを構造体(枠体)から電気的に絶縁するための絶縁板が配置されている。更に、絶縁板の外側には締め付け板が配置され、締め付け板の外側には、締め付け板を一定の加圧力で押圧するためのコイルばねが配置されている。コイルばねの外側には端板が配置され、それらがスタッドによって一体化せしめられている。
図10〜図12に示した従来の固体高分子型燃料電池では、セパレータと電解質膜・電極接合体(MEA)の拡散層との間、隣り合うセル間などの積層部品間の接触抵抗を低減して電気的な抵抗ロスを少なくするために、燃料電池スタックが一定の締め付け圧で押圧されている。この締め付け圧により、シールパッキン(シール部材)も同時に圧縮せしめられ、気密構造が維持されている。
図10〜図12に示した従来の固体高分子型燃料電池では、上述したように、シールパッキン(シール部材)がシール部材収納溝に収納された後に、電解質膜・電極接合体(MEA)がセパレータによって狭持せしめられ、単セルが形成される。次いで、多数の単セルが積層されて、燃料電池スタックが形成される。この積層組立の作業は、図10および図12に示したように単セルが垂直に立てられた状態では困難なため、実際には、左右いずれかの締め付け板を下側にした状態で、複数の単セルが積層せしめられる。
図13は従来の固体高分子型燃料電池の積層組立作業を説明するための図である。図13に示すように、従来の固体高分子型燃料電池では、燃料電池スタックの積層組立作業中に、下向きに開口しているシール部材収納溝からシールパッキン(シール部材)が自重によって脱落し、所定の位置からずれてしまうおそれがあった。Oリング状のシールパッキン(シール部材)の直径よりもシール部材収納溝の幅を小さくし、Oリング状のシールパッキン(シール部材)をシール部材収納溝内に圧入して組み立てる方法も考えられるが、もしそのように構成すると、燃料電池スタックの締め付け時に、圧縮せしめられたOリング状のシールパッキン(シール部材)がシール部材収納溝の幅方向に広がるように変形する。その結果、圧縮変形せしめられたOリング状のシールパッキン(シール部材)が、シール部材収納溝部に空隙無く充満した場合には、パッキン反力が増大して、電解質膜に物理的損傷を与えるおそれがある。
つまり、Oリング状のシールパッキン(シール部材)が用いられている図10〜図13に示した従来の固体高分子型燃料電池では、燃料電池スタックの締め付け時に圧縮変形せしめられたOリング状のシールパッキン(シール部材)によるパッキン反力を低減するために、圧縮後のシールパッキン容積よりもシール部材収納溝の容積を大きくしていた。
同様に、燃料電池スタックの締め付け時に圧縮変形せしめられたシール部材による電解質膜の物理的損傷を回避するために、圧縮変形せしめられたシール部材を逃がすための空間が設けられた燃料電池が知られている。この種の燃料電池の例としては、例えば特開2002−141082号公報に記載されたものがある。特開2002−141082号公報に記載された燃料電池のシール部材には、コア部分の他に、シール部材収納溝の幅方向に突出した突出部が形成されている。更に、燃料電池スタックの締め付け時に圧縮変形せしめられたシール部材を逃がすための空間として、突出部の根元部分に切欠部が形成されている。
ところが、特開2002−141082号公報に記載された燃料電池では、突出部の先端が、シール部材収納溝の側面に接触せしめられるか、あるいは、近接せしめられているものの、シール部材がシール部材収納溝内に圧入せしめられるように構成されていない。そのため、特開2002−141082号公報に記載された燃料電池では、図9に示したようにシール部材収納溝が下向きに開口せしめられるようにして複数の単セルが積層組立せしめられる場合に、シール部材収納溝からシール部材が脱落してしまい、シール部材が位置ずれしてしまうおそれがある。
複数の単セルの積層組立時にシール部材収納溝からシールパッキン(シール部材)が脱落するのを回避するために、接着剤によってシールパッキン(シール部材)をセパレータに固定する方法が考えられる。
接着剤が用いられる方法では、接着剤の溶出成分が触媒を被毒するおそれがあるとともに、陽イオン溶出の場合には、電解質膜のプロトン導電性が低下して、膜抵抗が増大する問題が生じてしまう。
前記問題点に鑑み、本発明は、組立時にシール部材収納溝からシール部材が脱落するのを防止することができる固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
換言すれば、本発明は、反応ガスまたは冷却水の漏洩を生じるおそれがなく、かつ、組立作業の容易な固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
請求項1に記載の発明によれば、電解質膜・電極接合体と、前記電解質膜・電極接合体の両側に配置された一対のセパレータと、前記セパレータに形成された媒体流通溝を流れる反応ガスまたは冷却水の漏洩を防止するためのシール部材とを具備し、前記シール部材を収納するためのシール部材収納溝を前記セパレータに形成した固体高分子型燃料電池において、固体高分子型燃料電池の組立時に前記シール部材収納溝から前記シール部材が脱落するのを防止するための突起部を前記シール部材に形成したことを特徴とする固体高分子型燃料電池が提供される。
請求項2に記載の発明によれば、電解質膜・電極接合体と、前記電解質膜・電極接合体の両側に配置された一対のセパレータと、前記セパレータに形成された媒体流通溝を流れる反応ガスまたは冷却水の漏洩を防止するためのシール部材とを具備し、前記シール部材を収納するためのシール部材収納溝を前記セパレータに形成した固体高分子型燃料電池において、前記シール部材に突起部を形成し、前記シール部材が前記シール部材収納溝に取り付けられる時には前記突起部が弾性変形せしめられ、前記シール部材が前記シール部材収納溝に取り付けられている時には、弾性変形せしめられた前記突起部が前記シール部材収納溝の側面を押圧することにより、前記シール部材収納溝からの前記シール部材の脱落を防止することを特徴とする固体高分子型燃料電池が提供される。
請求項3に記載の発明によれば、前記突起部を前記シール部材の外周側に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池が提供される。
請求項4に記載の発明によれば、前記シール部材が前記シール部材収納溝に取り付けられる時に、前記突起部の先端が前記シール部材収納溝の底側に弾性変形せしめられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池が提供される。
請求項5に記載の発明によれば、前記シール部材が前記シール部材収納溝に取り付けられる時に、前記突起部が前記シール部材収納溝の幅方向に圧縮せしめられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池が提供される。
請求項6に記載の発明によれば、前記シール部材収納溝の内周側の側面の一部にノッチ部を形成し、前記ノッチ部と嵌合可能なリップ部を前記シール部材に形成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池が提供される。
請求項7に記載の発明によれば、前記シール部材が前記シール部材収納溝に取り付けられる時に、前記突起部の先端が前記シール部材収納溝の入口側に弾性変形せしめられることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池が提供される。
請求項8に記載の発明によれば、前記突起部の根元部分の厚さを前記突起部の先端部分の厚さよりも小さく設定したことを特徴とする請求項5に記載の固体高分子型燃料電池が提供される。
請求項9に記載の発明によれば、前記突起部を「V」形状または「U」形状に形成したことを特徴とする請求項5に記載の固体高分子型燃料電池が提供される。
請求項1に記載の固体高分子型燃料電池では、固体高分子型燃料電池の組立時にシール部材収納溝からシール部材が脱落するのを防止するための突起部がシール部材に形成されている。そのため、組立時にシール部材収納溝からシール部材が脱落するのを防止することができる。
好ましくは、請求項1に記載の固体高分子型燃料電池では、突起部の他にシールリップがシール部材に形成されている。更に、シールリップが形成されている部分の厚さよりも突起部の厚さが小さく設定されている。また、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時には突起部が例えば「く」形状に弾性変形せしめられ、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられている時には、弾性変形せしめられた突起部がシール部材収納溝の側面を押圧することにより、シール部材がシール部材収納溝から脱落することが防止される。
更に、好ましくは、請求項1に記載の固体高分子型燃料電池では、突起部の厚さがシール部材収納溝の深さよりも小さく設定されている。つまり、弾性変形せしめられた突起部を収納するためのバッファ空間がシール部材収納溝内に確保されている。
請求項2に記載の固体高分子型燃料電池では、シール部材に突起部が形成され、突起部を含めたシール部材全体の幅がシール部材収納溝の幅よりも大きく設定されている。詳細には、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時には突起部が弾性変形せしめられ、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられている時には、弾性変形せしめられた突起部によってシール部材収納溝の側面が押圧せしめられる。そのため、組立時にシール部材収納溝からシール部材が脱落するのを防止することができる。
請求項3に記載の固体高分子型燃料電池では、突起部が、シール部材の外周側に配置され、シール部材の内周側には配置されていない。換言すれば、突起部が、シールリップを隔てて電極の反対側にのみ配置されている。つまり、弾性変形せしめられた突起部の押圧力によってシールリップがシール部材収納溝の一方の側面に突き当てられて位置決めされている。そのため、コア部分(シールリップ)の両側に突出部(突起部)が形成されている特開2002−141082号公報に記載された燃料電池よりも正確にシールリップ(コア部分)を位置決めすることができる。
請求項4に記載の固体高分子型燃料電池では、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に、突起部の先端がシール部材収納溝の底側に弾性変形せしめられる。そのため、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に突起部の先端がシール部材収納溝の入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、突起部の先端がシール部材収納溝の側面から外れてしまうおそれを低減することができる。
請求項5に記載の固体高分子型燃料電池では、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に、突起部がシール部材収納溝の幅方向に圧縮せしめられる。そのため、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に突起部の先端がシール部材収納溝の底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、弾性変形せしめられた突起部がシール部材収納溝の側面を押圧する力を増大させることができる。つまり、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に突起部の先端がシール部材収納溝の底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、シール部材がシール部材収納溝から脱落してしまうおそれを低減することができる。
請求項6に記載の固体高分子型燃料電池では、シール部材収納溝の内周側の側面の一部にノッチ部が形成され、そのノッチ部と嵌合可能なリップ部がシール部材に形成されている。詳細には、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時には、シール部材のリップ部がシール部材収納溝のノッチ部と嵌合せしめられ、それにより、シール部材がシール部材収納溝に適正に装着されたことを確認することができる。つまり、シール部材収納溝に対するシール部材の装着性を向上させることができる。
請求項7に記載の固体高分子型燃料電池では、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に、突起部の先端がシール部材収納溝の入口側(開口側)に弾性変形せしめられる。そのため、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられている時に、シール部材の突起部の先端が突っ張り部材として機能することにより、シール部材収納溝からシール部材が脱落するのを防止することができる。
請求項8に記載の固体高分子型燃料電池では、突起部の根元部分の厚さが突起部の先端部分の厚さよりも小さく設定されている。そのため、突起部の根元部分の厚さが突起部の先端部分の厚さと同程度に大きく設定されている場合よりも、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に突起部をシール部材収納溝の幅方向に圧縮させるのに要する力を低減することができる。つまり、突起部の根元部分の厚さが突起部の先端部分の厚さと同程度に大きく設定されている場合よりも、シール部材収納溝に対するシール部材の取り付けを容易にすることができる。
請求項9に記載の固体高分子型燃料電池では、突起部が「V」形状または「U」形状に形成されている。詳細には、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に、突起部が湾曲部(「V」または「U」の最下点)において屈曲せしめられる。そのため、突起部が「−」形状に形成されている場合、つまり、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に突起部が屈曲せしめられない場合よりも、シール部材がシール部材収納溝に取り付けられる時に突起部をシール部材収納溝の幅方向に圧縮させるのに要する力を低減することができる。つまり、突起部が「−」形状に形成されている場合よりも、シール部材収納溝に対するシール部材の取り付けを容易にすることができる。
以下、本発明の固体高分子型燃料電池の第1の実施形態について説明する。図1は第1の実施形態の固体高分子型燃料電池の基本構成例を模式的に示した分解断面図である。図1に示すように、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、固体高分子電解質膜1の両主面に電極2が熱圧着せしめられ、電解質膜・電極接合体が形成されている。更に、電解質膜・電極接合体と、一対の集電体3とが、一対のセパレータ4によって狭持せしめられ、単セルが構成されている。また、セパレータ4の内面には、反応ガスを流すためのガス流通溝7が形成されている。詳細には、アノード側のセパレータ4のガス流通溝7には水素を含む燃料ガスが供給され、カソード側のセパレータ4のガス流通溝7には酸素を含む酸化剤ガスが供給される。
更に、セパレータ4の外面には、冷却水流通溝(図示せず)が形成されている。この冷却水流通溝(図示せず)に冷却水を流すことにより、発電に伴って発生する熱が除去され、単セルが所定の運転温度に維持される。また、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池においても、図9に示した従来の固体高分子型燃料電池と同様に、2種類の反応ガスおよび冷却水のそれぞれのために専用のマニホールド(図示せず)が形成されている。このマニホールド(図示せず)は、燃料電池積層体を構成する複数の単セルに連通しており、反応ガスおよび冷却水のそれぞれは、専用の入口側マニホールドから出口側マニホールドへとセパレータ4のガス流通溝7あるいは冷却水流通溝(図示せず)を流れる。
また、図1において、5は例えばフッ素ゴムからなるシール部材を示している。このシール部材5は、セパレータ4で狭持された単セルにおいて、電極2に達した反応ガスが外部へ漏洩してしまうこと、および、マニホールド(図示せず)を流れる反応ガスあるいは冷却水が外部へ漏洩してしまうことを防止する役割を果たしている。
すなわち、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、図9に示した従来の固体高分子型燃料電池と同様に、固体高分子電解質膜1とセパレータ4との間にシール部材5が配置され、セパレータ4によって固体高分子電解質膜1およびシール部材5が加圧されて狭持されている。それにより、電極2に達した反応ガスが外部へ漏洩してしまうこと、および、マニホールド(図示せず)を流れる反応ガスあるいは冷却水が外部へ漏洩してしまうことが防止されている。
更に、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、反応ガスまたは冷却水の漏洩を防止するためのシールリップ5bの他に、固体高分子型燃料電池の組立時にシール溝4aからシール部材5が脱落するのを防止するためのシール固定部位5aが、シール部材5に形成されている。
詳細には、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール部材5がシール溝4aに取り付けられる時には、シール固定部位5aが弾性変形せしめられ、シール部材5がシール溝4aに取り付けられている時には、弾性変形せしめられたシール固定部位5aがその反発力によってシール溝4aの側面を押圧することにより、シール部材5がシール溝4aから脱落してしまうことが防止されている。
また、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールリップ5bが形成されている部分の厚さよりもシール固定部位5aの厚さが小さく設定されている。更に、シール部材5がシール溝4aに取り付けられる時にはシール固定部位5aが概略「く」形状に弾性変形せしめられ、シール部材5がシール溝4aに取り付けられている時には、概略「く」形状に弾性変形せしめられたシール固定部位5aがシール溝4aの側面を押圧することにより、シール部材5がシール溝4aから脱落してしまうことが防止されている。
また、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール固定部位5aの厚さがシール溝4aの深さよりも小さく設定されている。つまり、弾性変形せしめられたシール固定部位5aを収納するためのバッファ空間がシール溝4a内に確保されている。
更に、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール固定部位5aが、シール部材5の外周側に配置され、シール部材5の内周側には配置されていない。換言すれば、シール固定部位5aが、シールリップ5bを隔てて電極2の反対側にのみ配置されている。つまり、弾性変形せしめられたシール固定部位5aの押圧力によってシールリップ5bがシール溝4aの一方の側面(図1の左側の側面)に突き当てられて位置決めされている。そのため、コア部分(シールリップ)の両側に突出部(突起部)が形成されている特開2002−141082号公報に記載された燃料電池よりも正確にシールリップ(コア部分)を位置決めすることができる。
また、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール部材5がシール溝4aに取り付けられる時に、シール固定部位5aの先端がシール溝4aの底側に弾性変形せしめられる。そのため、シール部材5がシール溝4aに取り付けられる時にシール固定部位5aの先端がシール溝4aの入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、シール固定部位5aの先端がシール溝4aの側面から外れてしまうおそれを低減することができる。
更に、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、電解質膜・電極接合体および集電体3を狭持するセパレータ4を所定圧力まで加圧してシール部材5を圧縮した場合も、シール溝4aがシール固定部位5aの圧縮ガイドとして働くため、ずれを微小に抑えることができ、シール部材5の位置ずれを防止することができる。
また、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、接着剤を用いることなくシール部材5をセパレータ4に固定することができる。更に、シール部材5をセパレータ4に装着した状態でのハンドリングが容易となるため、組立作業工程を簡略化し、短縮化することができる。一方、燃料電池セルが加圧され、シール部材5に加圧力が加わった場合には、シール部材5が接着剤によって固定されていないため、シール部材5の圧縮変形が阻害されることはない。そのため、固体高分子電解質膜1のずれまたは変形を抑制することができ、反応ガスまたは冷却水の漏洩を防止することができる。
更に、第1の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール固定部位5aの先端が、75〜90°のエッジ形状に形成されている。また、シール溝4aの断面形状が矩形とされ、シール溝4aの側面が底面に対して垂直に形成されている。そのため、シール固定部位5aが「く」形状に弾性変形せしめられてシール部材5がシール溝4aに取り付けられると、シール固定部位5aのエッジ形状の先端がシール溝4aの側面に接触する。その結果、弾性変形せしめられたシール固定部位5aの反発力により、シール部材5がシール溝4aに対して密着固定される。詳細には、シール固定部位5aが弾性変形せしめられてシール部材5がシール溝4aに取り付けられる時には、シール固定部位5aの先端がシール溝4aの側面に接触しながらシール部材5がシール溝4aの底面側に移動せしめられ、シール部材5がシール溝4a内に収納される。
セパレータ4が樹脂含有カーボンの型成形によって形成され、シール溝4aの側面に型の抜き勾配が生じている第2の実施形態の固体高分子型燃料電池においても、75〜90°のエッジ形状に形成されているシール固定部位5aの先端により、シール溝4aに対してシール固定部位5aを固定可能である。詳細には、セパレータ4のシール溝4aの抜き勾配に応じて、シール固定部位5aの先端に成型セパレータの抜き勾配に応じた75〜90°の傾斜を設けることにより、シール部材5の収納性が改善される。
以下、本発明の固体高分子型燃料電池の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態の固体高分子型燃料電池は、後述する点を除き、上述した第1の実施形態の固体高分子型燃料電池と同様に構成されている。従って、第3の実施形態の固体高分子型燃料電池によれば、後述する点を除き、上述した第1の実施形態の固体高分子型燃料電池と同様の効果を奏することができる。
図2は第3の実施形態の固体高分子型燃料電池の基本構成例を模式的に示した分解断面図である。図2において、図1に示した参照番号と同一の参照番号は、図1に示した部品または部分と同一の部品または部分を示している。図2に示すように、第3の実施形態の固体高分子型燃料電池では、反応ガスまたは冷却水の漏洩を防止するためのシールリップ5bの他に、固体高分子型燃料電池の組立時にシール溝4aからシール部材5が脱落するのを防止するためのシール固定部位5aが、シール部材5に形成されている。
詳細には、第3の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール部材5がシール溝4aに取り付けられる時には、シール固定部位5aが弾性変形せしめられ、シール部材5がシール溝4aに取り付けられている時には、弾性変形せしめられたシール固定部位5aがその反発力によってシール溝4aの側面を押圧することにより、シール部材5がシール溝4aから脱落してしまうことが防止されている。
また、第3の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールリップ5bが形成されている部分の厚さよりもシール固定部位5aの厚さが小さく設定されている。更に、シール部材5がシール溝4aに取り付けられる時に、シール固定部位5aがシール溝4aの幅方向に圧縮せしめられる。そのため、シール部材5がシール溝4aに取り付けられる時にシール固定部位5aの先端がシール溝4aの底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、弾性変形せしめられたシール固定部位5aがシール溝4aの側面を押圧する力を増大させることができる。つまり、シール部材5がシール溝4aに取り付けられる時にシール固定部位5aの先端がシール溝4aの底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、シール部材5がシール溝4aから脱落してしまうおそれを低減することができる。
また、第3の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール固定部位5aの厚さtがシール溝4aの深さdよりも小さく設定されている。つまり、弾性変形せしめられたシール固定部位5aを収納するためのバッファ空間4bがシール溝4a内に確保されている。詳細には、第3の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール固定部位5aの厚さtがシール溝4aの深さdの25%〜75%に設定されている。シール部材5のシール固定部位5aを圧縮した場合には、燃料電池セルの加圧方向(図2の上下方向)とは垂直の図2の左右方向にシール固定部位5aが圧縮変形するが、第3の実施形態の固体高分子型燃料電池では、圧縮変形せしめられたシール固定部位5aが逃げるためのバッファ空間4bが確保されているため、シール溝4a内の空間が密閉状態になるのに伴って、シール反力が急増してしまうのを回避することができる。
更に、第3の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール固定部位5aが、シール部材5の外周側に配置され、シール部材5の内周側には配置されていない。換言すれば、シール固定部位5aが、シールリップ5bを隔てて電極2の反対側にのみ配置されている。つまり、弾性変形せしめられたシール固定部位5aの押圧力によってシールリップ5bがシール溝4aの一方の側面(図2の左側の側面)に突き当てられて位置決めされている。そのため、コア部分(シールリップ)の両側に突出部(突起部)が形成されている特開2002−141082号公報に記載された燃料電池よりも正確にシールリップ(コア部分)を位置決めすることができる。
以下、本発明の固体高分子型燃料電池の第4の実施形態について説明する。第4の実施形態の固体高分子型燃料電池では、上述した第1または第3の実施形態の固体高分子型燃料電池に対して後述する改良が加えられている。従って、第4の実施形態の固体高分子型燃料電池によれば、上述した第1または第3の実施形態の固体高分子型燃料電池と同様の効果を奏することができる。
図3は第4の実施形態の固体高分子型燃料電池のセパレータ4およびシール部材5の斜視図である。図3において、図1に示した参照番号と同一の参照番号は、図1に示した部品または部分と同一の部品または部分を示している。図3に示すように、第4の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール溝4aの内周側の側面の一部に固定ノッチ4cが形成され、その固定ノッチ4cと嵌合可能な固定リップ5cがシール部材5に形成されている。詳細には、シール部材5がシール溝4aに取り付けられる時には、シール部材5の固定リップ5cがシール溝4aの固定ノッチ4cと嵌合せしめられ、それにより、シール部材5がシール溝4aに適正に装着されたことを確認することができる。つまり、シール溝4aに対するシール部材5の装着性を向上させることができる。換言すれば、シール部材5をシール溝4aに装着する場合の面内の位置決めが容易となり、シール部材5の装着性を更に改善することができる。
第1から第4の実施形態の固体高分子型燃料電池によれば、接着層をセパレータ4に設けることなく、シール部材5を装着、位置決めすることが可能となり、シール部材5の装着性および燃料電池セルのハンドリング性を改善することができる。また、シール部材5の圧縮変形による膨張分を吸収するバッファ空間4bをシール溝4a内に確保できるため、シール反力の増大を防止でき、低い面圧で長期間反応ガスおよび冷却水のシール性を良好に保つことができる。
以下、本発明の固体高分子型燃料電池の第5の実施形態について説明する。図4は第5の実施形態の固体高分子型燃料電池のシール構造の拡大図である。図4に示すように、第5の実施形態の固体高分子型燃料電池では、反応ガスまたは冷却水の漏洩を防止するためのシールリップの他に、固体高分子型燃料電池の組立時にセパレータのシール溝からシールパッキン(シール部材)が脱落するのを防止するための固定用突起が、シールパッキン(シール部材)に形成されている。
詳細には、第5の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)がセパレータのシール溝に取り付けられる時には、固定用突起が弾性変形せしめられ、シールパッキン(シール部材)がセパレータのシール溝に取り付けられている時には、弾性変形せしめられた固定用突起がその反発力によってシール溝の側面を押圧することにより、シールパッキン(シール部材)がシール溝から脱落してしまうことが防止されている。
また、第5の実施形態の固体高分子型燃料電池では、固定用突起の厚さがシール溝の深さよりも小さく設定されている。つまり、弾性変形せしめられた固定用突起を収納するためのバッファ空間がシール溝内に確保されている。
更に、第5の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールリップが形成されている部分の厚さよりも固定用突起の厚さが小さく設定されている。また、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に、固定用突起がシール溝の幅方向に圧縮せしめられる。そのため、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に固定用突起の先端がシール溝の底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、弾性変形せしめられた固定用突起がシール溝の側面を押圧する力を増大させることができる。つまり、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に固定用突起の先端がシール溝の底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、シールパッキン(シール部材)がシール溝から脱落してしまうおそれを低減することができる。
以下、本発明の固体高分子型燃料電池の第6の実施形態について説明する。図5は第6の実施形態の固体高分子型燃料電池のシール構造の拡大図である。図5に示すように、第6の実施形態の固体高分子型燃料電池では、反応ガスまたは冷却水の漏洩を防止するためのシールリップの他に、固体高分子型燃料電池の組立時にセパレータのシール溝からシールパッキン(シール部材)が脱落するのを防止するための固定用突起が、シールパッキン(シール部材)に形成されている。
詳細には、第6の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)がセパレータのシール溝に取り付けられる時には、固定用突起が弾性変形せしめられ、シールパッキン(シール部材)がセパレータのシール溝に取り付けられている時には、弾性変形せしめられた固定用突起がその反発力によってシール溝の側面を押圧することにより、シールパッキン(シール部材)がシール溝から脱落してしまうことが防止されている。
また、第6の実施形態の固体高分子型燃料電池では、固定用突起の厚さがシール溝の深さよりも小さく設定されている。つまり、弾性変形せしめられた固定用突起を収納するためのバッファ空間がシール溝内に確保されている。
更に、第6の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に、固定用突起の先端がシール溝の入口側(開口側)に弾性変形せしめられる。そのため、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられている時に、シールパッキン(シール部材)の固定用突起の先端が突っ張り部材として機能することにより、シール溝からシールパッキン(シール部材)が脱落するのを防止することができる。
換言すれば、第6の実施形態の固体高分子型燃料電池では、セパレータに収納されたシールパッキン(シール部材)の固定用突起が、収納時(取り付け時)の摩擦抵抗により、表面側(シール溝の入口側)に湾曲しながらシール溝の側面に弾性接触している。シールパッキン(シール部材)が自重によって脱落しそうになると、固定用突起が更に圧縮されることになるため、脱落に対する抵抗力が増大し、それにより、シール溝からシールパッキン(シール部材)が脱落するのを防止することができる。
以下、本発明の固体高分子型燃料電池の第7の実施形態について説明する。図6は第7の実施形態の固体高分子型燃料電池のシール構造の拡大図である。図6に示すように、第7の実施形態の固体高分子型燃料電池では、反応ガスまたは冷却水の漏洩を防止するためのシールリップの他に、固体高分子型燃料電池の組立時にセパレータのシール溝からシールパッキン(シール部材)が脱落するのを防止するための固定用突起が、シールパッキン(シール部材)に形成されている。
詳細には、第7の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)がセパレータのシール溝に取り付けられる時には、固定用突起が弾性変形せしめられ、シールパッキン(シール部材)がセパレータのシール溝に取り付けられている時には、弾性変形せしめられた固定用突起がその反発力によってシール溝の側面を押圧することにより、シールパッキン(シール部材)がシール溝から脱落してしまうことが防止されている。
また、第7の実施形態の固体高分子型燃料電池では、固定用突起の厚さがシール溝の深さよりも小さく設定されている。つまり、弾性変形せしめられた固定用突起を収納するためのバッファ空間がシール溝内に確保されている。
更に、第7の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールリップが形成されている部分の厚さよりも固定用突起の厚さが小さく設定されている。また、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に、固定用突起がシール溝の幅方向に圧縮せしめられる。そのため、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に固定用突起の先端がシール溝の底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、弾性変形せしめられた固定用突起がシール溝の側面を押圧する力を増大させることができる。つまり、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に固定用突起の先端がシール溝の底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、シールパッキン(シール部材)がシール溝から脱落してしまうおそれを低減することができる。
更に、第7の実施形態の固体高分子型燃料電池では、固定用突起の根元部分の厚さが固定用突起の先端部分の厚さよりも小さく設定されている。そのため、固定用突起の根元部分の厚さが固定用突起の先端部分の厚さと同程度に大きく設定されている場合よりも、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に固定用突起をシール溝の幅方向に圧縮させるのに要する力を低減することができる。つまり、固定用突起の根元部分の厚さが固定用突起の先端部分の厚さと同程度に大きく設定されている場合よりも、シール溝に対するシールパッキン(シール部材)の取り付けを容易にすることができる。
換言すれば、第7の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)が自重によって脱落しそうになると、固定用突起の先端部分の広い接触面の上部で圧縮力が増大し、それにより、シール溝からシールパッキン(シール部材)が脱落するのを防止することができる。
以下、本発明の固体高分子型燃料電池の第8の実施形態について説明する。図7は第8の実施形態の固体高分子型燃料電池のシール構造の拡大図である。図7に示すように、第8の実施形態の固体高分子型燃料電池では、反応ガスまたは冷却水の漏洩を防止するためのシールリップの他に、固体高分子型燃料電池の組立時にセパレータのシール溝からシールパッキン(シール部材)が脱落するのを防止するための固定用突起が、シールパッキン(シール部材)に形成されている。
詳細には、第8の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)がセパレータのシール溝に取り付けられる時には、固定用突起が弾性変形せしめられ、シールパッキン(シール部材)がセパレータのシール溝に取り付けられている時には、弾性変形せしめられた固定用突起がその反発力によってシール溝の側面を押圧することにより、シールパッキン(シール部材)がシール溝から脱落してしまうことが防止されている。
また、第8の実施形態の固体高分子型燃料電池では、固定用突起の厚さがシール溝の深さよりも小さく設定されている。つまり、弾性変形せしめられた固定用突起を収納するためのバッファ空間がシール溝内に確保されている。
更に、第8の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールリップが形成されている部分の厚さよりも固定用突起の厚さが小さく設定されている。また、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に、固定用突起がシール溝の幅方向に圧縮せしめられる。そのため、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に固定用突起の先端がシール溝の底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、弾性変形せしめられた固定用突起がシール溝の側面を押圧する力を増大させることができる。つまり、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に固定用突起の先端がシール溝の底側または入口側(開口側)に弾性変形せしめられる場合よりも、シールパッキン(シール部材)がシール溝から脱落してしまうおそれを低減することができる。
更に、第8の実施形態の固体高分子型燃料電池では、固定用突起が「V」形状または「U」形状に形成されている。詳細には、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に、固定用突起が湾曲部(「V」または「U」の最下点)において屈曲せしめられる。そのため、固定用突起が「−」形状に形成されている図4に示した場合、つまり、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に固定用突起が屈曲せしめられない場合よりも、シールパッキン(シール部材)がシール溝に取り付けられる時に固定用突起をシール溝の幅方向に圧縮させるのに要する力を低減することができる。つまり、固定用突起が「−」形状に形成されている図4に示した場合よりも、シール溝に対するシールパッキン(シール部材)の取り付けを容易にすることができる。
換言すれば、第8の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)の固定用突起が「V」形状または「U」形状に成形されているため、固定用突起をシール溝の幅方向に容易に圧縮させることができる。それゆえ、シールパッキン(シール部材)およびシール溝の寸法公差を大きく設定することができ、生産性を向上させることができる。
図8は第9の実施形態の固体高分子型燃料電池の固定用突起を説明するための図である。第5から第8の実施形態の固体高分子型燃料電池では、固定用突起がシールパッキン(シール部材)の全長にわたって連続的に形成されているが、図8に示すように、第9の実施形態の固体高分子型燃料電池では、固定用突起をシールパッキン(シール部材)の全長にわたって断続的に形成する、つまり、固定用突起が存在しない部分を設けることも可能である。第9の実施形態の固体高分子型燃料電池によれば、材料費を節約することができ、コストを抑制することができる。
また、第5から第9の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シール部材の内周側および外周側の両方に固定用突起が設けられているが、第10の実施形態の固体高分子型燃料電池では、代わりに、シール部材の内周側および外周側のいずれか一方のみに固定用突起を設けることも可能である。
更に、第5から第10の実施形態の固体高分子型燃料電池では、シールパッキン(シール部材)のシールリップの断面形状がOリング状に形成されているが、第11の実施形態の固体高分子型燃料電池では、代わりに、シールパッキン(シール部材)のシールリップの断面形状を例えば矩形、台形、三角形などのOリング状以外の形状に形成することも可能である。
第5から第11の実施形態の固体高分子型燃料電池によれば、シール溝の側面と接触する弾性的な固定用突起の反力により、シール溝からシールパッキン(シール部材)が脱落するのを防止することができる。また、シール溝の側面と固定用突起との接触方法を工夫することにより、シールパッキン(シール部材)の脱落防止の効果を更に向上させることができる。そのため、余分な工程を追加することなく組立ミスを防止することができ、低価格で信頼性の高い固体高分子型燃料電池を提供することができる。
第12の実施形態では、上述した第1から第11の実施形態を適宜組合わせることも可能である。