本出願は、1992年3月9日出願の出願番号07/850357号の一部継続出願である1992年8月4日出願の出願番号07/925369号の一部継続出願である1993年8月4日出願の出願番号08/102385号の一部継続出願である。
発明の背景
本発明はシアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーに関する。当該遺伝子ファミリーは、触媒ドメイン内に相同性をもつ保存領域を含む糖蛋白、糖脂質およびオリゴ糖の炭水化物基の末端にシアル酸付加(sialylation)を引き起こす一群のグリコシルトランスフェラーゼである。シアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーに属するメンバーは、Galβ1,3GalNAcα2,3シアリルトランスフェラーゼおよびGal1,3(4)GlcNAcα2,3シアリルトランスフェラーゼを含む。本発明はさらに、その新規な形および組成物に関し、具体的には、シアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーに属するメンバーの同定および極めて有用な量で均質であるそれらの産生の手段および方法に関する。本発明はまた、シアリルトランスフェラーゼの産生をコードする単離デオキシリボ核酸(DNA)の調製、シアリルトランスフェラーゼをコードするDNA分子獲得方法、そのようなDNAを用いたヒトおよび哺乳類シアリルトランスフェラーゼの発現に関し、それ以外にも、シアリルトランスフェラーゼまたはそのフラグメントをコードする新規な核酸を含む新規な化合物にも関する。本発明はまた、シアリルトランスフェラーゼ誘導体、特に当該蛋白の細胞質部分および/または膜通過部分を欠く誘導体、および組換え体DNA技術によるそれらの製造も目的とする。
シアリルトランスフェラーゼは、以下の一般的反応で糖脂質およびオリゴ糖の炭水化物基の末端部分にシアル酸(SA)の伝達を触媒する酵素ファミリーである:
シチジジン5モノホスフェート−シアル酸(CMP−SA)+
HO−受容体→CMP+SA−O−受容体
(T.A. Beyerら、Adv. Enzynol., 52:23−175(1981))
シアリルトランスフェラーゼは主として細胞のゴルジ装置で見出され、そこで、シアリルトランスフェラーゼは翻訳後糖付加経路に加わる(B.J. Fleischer, Cell Biol., 89:246−255(1981))。それらはまた体液、例えば乳汁、初乳および血液にも見出される。少なくとも10−12種の異なるシアリルトランスフェラーゼが、全ての既知のシアリルオリゴ糖配列を合成するために必要である。4種のシアリルトランスフェラーゼが精製された(J. Weinsteinら、J. Biol. Chem.,257:13835−13844(1982); T. Miagi & S. Tsuiki, Eur. J. Biochem., 125:253−261(1982); およびD.H. Joziasseら、J. Biol. Chem., 260:4941−4951(1985))。より具体的には、Galβ1,4GlcNAcα2−6シアリルトランスフェラーゼおよびGalβ1,3(4)GlcNAcα2−3シアリルトランスフェラーゼが、ラット肝臓膜から精製された(Weinsteinら、同書)。
他のグリコシルトランスフェラーゼが、血清、乳汁または初乳中の可溶性酵素として分離されたが、これらにはシアリル−、フコシル−、ガラクトシル−、N−アセチルグルコサミニル−およびN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼを含む(Beyerら、同書)。ウシおよびヒトβ−N−アセチルグルコサミドβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼが分離された(H. Natimatsuら、Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 83:4720−4724(1986); N.L. Shaperら、Proc. Nat.Acad. Sci. USA, 83:1573−1577(1986); H.E. Appertら、Biochem. Biophys. Res. Common, 139:163−168(1986); M.G. Humphreys−Beyerら、Proc. Nat. acad. Sci. USA, 83:8918−8922(1986))。これら精製グリコシルトランスフェラーゼは大きさが異なるが、これは、活性に必須でない膜スパンニングドメインのような蛋白部分の除去によるものであろう。
グリコシルトランスフェラーゼ(ガラクトシルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、フコシルトランスフェラーゼおよびN−アセチルガラクトサミニル−トランスフェラーゼを含む)をコードするcDNAクローンの推定アミノ酸配列の比較によって、これらの酵素は実質的に配列相同性を持たないことが明らかになった。この種類のグリコシルトランスフェラーゼは構造的に関係があるかもしれないという考えは、クローニングされたシアリルトランスフェラーゼの一次構造の最近の分析から出てきた(J. Weinsteinら、同書)。しかしながら、それらは全て、短いNH2−末端の細胞質尾部、16−20個のアミノ酸のシグナルアンカードメインおよび長いCOOH−末端触媒ドメインを伴う伸長幹領域を有する(J. Weinsteinら、J. Biol. Chem., 262:17735−17743(1987); J.C.Paulsonら、J. Biol. Chem., 264:17615−17618(1989))。シグナルアンカードメインは、切断不能シグナルペプチドと膜スパンニング領域の両方として働き、ゴルジ装置の管腔内のこれらグリコシルトランスフェラーゼの触媒ドメインの方向を定める。同様な受容体またはドナー基質を共有するグリコシルトランスフェラーゼ間では、共通のアミノ酸配列が期待されるであろう;しかしながら、驚くべきことには、グリコシルトランスフェラーゼの触媒ドメイン内には相同性をもつ領域は殆ど見出されず、さらにGenBankの他のいずれの蛋白についても顕著な配列相同性は認められていない(N.L. Shaperら、J. Biol. Chem., 216:10420−10428(1988); G. D’Agostasoら、Eur.J. Biochem., 183:211−217(1989) ;J. Weinsteinら、J. Biol. Chem., 263:17735−17743(1987))。このことは、特にGalα1,3−GTおよびGlcNAcβ1,4−GT、2種のガラクトシルトランスフェラーゼについては驚くべきことである。しかしながら、これらのガラクトシルトランスフェラーゼは全体的な相同性を全く示さないが一方、Galα1,3−GT(ウシ、304−309)についてはKDKKND、さらにGlcNAcβ1,4−GT(ウシ、ヒト、ネズミ、アミノ酸346−351)についてはRDKKNEという共通のヘキサペプチドが存在する(Joziasseら、J. Biol. Chem., 264:14290−14297(1989))。
シアル酸は糖蛋白および糖脂質上に存在する炭水化物基の末端の糖であり、動物組織に広く分布する(T. Momolら、J. Biol. Chem., 261:16270−16273(1986))。シアル酸は、その末端位置のゆえに炭水化物構造物の生物学的機能において重要な役割を果たす。例えば、シアル酸は、インフルエンザウイルスの宿主細胞への結合のためのリガンドとして機能する(J.C. Paulson, レセプター(The Receptors)、2巻、P.M, Conn編、131−219ページ、アカデミックプレス(1985))。シアル酸結合における変化でも宿主特異性を変えるために十分である(G.N. Rogerら、Nature, 304:76−78(1983))。神経細胞接着分子(NCAM)は、神経系の発生中にNCAm仲介細胞粘着を調節すると考えられている、発生によって調節されるシアル酸多付加反応を受ける(U. Rutishauserら、Science, 240:53−37(1988);U. Rutishauser, Adv. Exp. Med. Biol., 265:179−18(1990))。最近、炭水化物構造物、シアリルルイスX(sialyl lewis X(SLex)は、活性化内皮細胞に好中球結合を仲介する内皮性白血球粘着分子(“ E−セレクチン”)のためのリガンドとして機能することが分かった(Loweら、(1990); Phillipsら、(1990);Goelz ら、(1990); Walzら、(1990);Brandleyら、(1990)) 。P−セレクチン(外部膜蛋白に対する血小板活性化依存顆粒;CD62)、セレクチンファミリーに属する別のメンバー(L.M. Stoolman, Cell, 56:907−910(1989))は、単球およびPMNs上に存在するSLexを認識することが示された(Larsenら、Proc. Natl.Acad. Csi. USA, 87:6674−6678(1990); Momolら、J. Biol.Chem., 261:16270−16273(1986); Polleyら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:6224−6228(1991); K.F.J. Chan, J. Biol. Chem., 263:568−574(1988); T.A. Beyerら、Adv. Enzymol.,52:23−175(1981))。両方の例で、シアル酸は、炭水化物構造物がリガンドとして機能するためのキー成分である。細胞粘着において役割を果たすことに加えて、炭水化物構造を含むシアル酸は、分化において直接的役割を果たすと考えられてきた。造血系細胞株HL−60は、糖脂質GM3による処置で分化を誘発できる。ガングリオシドはまた、増殖因子−プロテインキナーゼ活性の調節および細胞サイクルの制御に役割を果たすと考えられている。
ある程度の精製シアリルトランスフェラーゼは入手できたが、一つには、それが小胞体およびゴルジ装置の膜結合蛋白であるがゆえに、その量は極めて少ない。これらのシアリルトランスフェラーゼを精製するための大きな犠牲(経済的および労力の両方で)のために、それらは稀少物質となっている。
本発明の目的は、シアリルトランスフェラーゼをコードするDNAを単離すること、および有用な量の哺乳類、特にヒトのシアリルトランスフェラーゼを組換え体DNA技術を用いて製造することである。別の目的は、種々の組織同様他の種からもこのシアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーに属するその他のメンバーをコードするDNAを得る手段を提供することである。本発明のさらに別の目的は、新規な形のシアリルトランスフェラーゼを調製することである。本発明のさらにまた別の目的は、ある炭水化物基上の末端位にシアル酸の転移を触媒する改良方法を提供することである。本発明のこのような目的およびその他も目的は、全体的な明細書から明らかになるであろう。
発明の要旨
本発明の目的は、以下の工程を含む方法によって達成された:哺乳類シアリルトランスフェラーゼ(以下で規定される)をコードする遺伝子を同定しクローニングすること、ここで、このトランスフェラーゼには、ブタGalβ1,3GalNAcα2,3シアリルトランスフェラーゼ、およびラットGalβ1,3(4)GlcNAcα2,3シアリルトランスフェラーゼ(ラットGalβ1,4GlcNAcα2,6シアリルトランスフェラーゼ以外のもの)が含まれるが、これらに限定されるものではない;組換え体DNAベクターに当該遺伝子を組み込むこと;この遺伝子を含むベクターで宿主を形質転換させること;そのような宿主で哺乳類シアリルトランスフェラーゼ遺伝子を発現させること;産生された哺乳類シアリルトランスフェラーゼを回収すること。また別に、その他の種々の組換え体技術を用いて、シアリルトランスフェラーゼを発現させてもよい。同様に、本発明は、哺乳類シアリルトランスフェラーゼおよび/またはその誘導体を組換え体技術を用いて製造することを可能にし、同様にそのようなシアリルトランスフェラーゼを製造する手段も提供する。シアリルトランスフェラーゼは、豊富な蛋白ではなく精製が困難である。シアリルトランスフェラーゼ遺伝子の単離および同定は極めて困難である。そのmRNAは稀少であり、大量のmRNAのための細胞株またはその他の起源材料は入手できない。本発明ではまず、この酵素の触媒ドメインにおける保存相同領域によって規定されるシアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーを設定した。
本発明は、組換え体DNA技術によって哺乳類シアリルトランスフェラーゼを製造する組成物および方法に対するものである。これには以下が含まれる:1)酵素の完全なDNA配列およびその5’−隣接領域の発見と同定;2)当該DNA配列を含むクローニングと発現用担体(ビヒクル)の構築、これは哺乳類シアリルトランスフェラーゼ蛋白の他、その融合共役物またはシグナルN−末端共役物の発現を可能にする;3)そのような担体を含むことによって遺伝的に変化し、哺乳類のシアリルトランスフェラーゼを産生することができる活動(viable)細胞培養物および他の発現系。本発明はさらに、哺乳類シアリルトランスフェラーゼの細胞性産生をコードするDNAを製造する組成物および方法に対するものである。本発明のまた別の態様は新規な化合物であり、これには、シアリルトランスフェラーゼを発現することができるクローンを得るために用いられるデオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドが含まれる。本発明のさらにまた別の態様は、血液および/または組織でシアリルトランスフェラーゼとともに見出される天然に生じる一切の物質を実質的に含まないシアリルトランスフェラーゼである。すなわち、組換え体の手段によって製造されるシアリルトランスフェラーゼは、インビボの生理学的環境で典型的に見出される夾雑物を含まないであろう。さらに、製造方法に依存して、本明細書のシアリルトランスフェラーゼは、そのインビボ環境(すなわち血液および/または組織)から得られる物質と比較して多かれ少なかれ付随する糖付加を含むかもしれない。本発明はさらに、新規なシアリルトランスフェラーゼ誘導体、特にシアリルトランスフェラーゼアミノ末端残基を欠く誘導体、例えば短いNH2細胞質ドメインまたは疎水性N−末端シグナルアンカー配列(これはシアリルトランスフェラーゼの膜通過ドメインおよび幹領域を構成する)を欠く誘導体に対するものである。
本発明の哺乳類シアリルトランスフェラーゼおよびその誘導体は、糖蛋白および糖脂質に存在する炭水化物基にシアル酸を付加するために有用である。さらに、シアリルトランスフェラーゼおよびその誘導体は、シアル酸を糖鎖に付加して生物学的認識のための決定基として機能する炭水化物を製造するうえで酵素的に有用である。そのようなシアリルトランスフェラーゼ酵素は、多酵素系でオリゴ糖および誘導体を合成するために用いることができる(Ichikawaら、J. Am. Chem.Soc., 113:4698(1991); Ichikawaら、J. Am. Chem. Soc., 113:6300(1991))。最後に、本発明のシアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーをコードするDNA、特にその触媒ドメインにおける保存相同領域は、当該シアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーの中の他の酵素をコードする遺伝子をクローニングする手段を提供するうえで有用である。このシアリルトランスフェラーゼおよびこれをコードするDNAの他の用途は当業者には明瞭であろう。
詳細な説明
本発明は用いられている通り、シアリルトランスフェラーゼまたはシアリルトランスフェラーゼ誘導体は、ラットGalβ1,4GlcNAcα2,6シアリルトランスフェラーゼ以外のシアリルトランスフェラーゼ酵素を指し、これは、触媒ドメインに保存相同領域を含み、糖蛋白、糖脂質、オリゴ糖等の糖鎖末端部位にシアル酸を移転させる酵素活性を有する。酵素的に機能を有するシアリルトランスフェラーゼの例は、CMP−シアル酸から受容体オリゴ糖へシアル酸を移転させることができる酵素であり、この場合、オリゴ糖受容体は、個々のシアリルトランスフェラーゼにしたがって異なる。
“保存相同領域”とは、2つのシアリルトランスフェラーゼを整列比較すれば他のシアリルトランスフェラーゼ内の同じ一続きのアミノ酸と実質的に同一となる、あるシアリルトランスフェラーゼ内の一続きのアミノ酸を指す。本発明のシアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーにおいて、保存相同領域は触媒ドメイン内に存在し、少なくとも約7個、好ましくは少なくとも約20個、最も好ましくは図2の残基156−210または図1の残基142−196のアミノ酸配列を有する少なくとも約55個を越える連続アミノ酸として広がっている。保存相同領域が一旦確認されると、この保存領域のアミノ酸配列の変異型(variant)を作製し、次の3クラスのうちの1つまたは2つ以上のクラスに分類することができる。すなわち、置換変異型、挿入変異型または欠失変異型である。通常、これらの変異型は、シアリルトランスフェラーゼをコードするDNA内の部位特異的変異誘発ヌクレオチドによって調製され、これによって保存相同領域変異型を含むシアリルトランスフェラーゼをコードするDNAが作製される。
本発明のシアリルトランスフェラーゼは以下を含む:ラットGalβ1,3(4)GlcNAcα2,3シアリルトランスフェラーゼ(本明細書では “α2,3−N”または “ラットST3N”と呼び、配列番号4として区別される)で、これはNeuNAcα2,3Galβ1,3GlcNAcおよびNeuAcα2,3Galβ1,4GlcNAc配列を形成し、これらはしばしば複雑なN−連結オリゴ糖で終結する;ブタGalβ1,3GalNAcα2,3シアリルトランスフェラーゼ(本明細書では “α2,3−O”またはブタST3O”と呼び、配列番号2として区別される)で、これはNeuAcα2,3Galβ1,3GalNAcを形成し、これは、ある種のガングリオシド上の末端配列と同様にスレオニンまたはセリンにO−連結された糖鎖で見出される;ヒトGalβ1,3(4)GlcNAc∝2,3シアリルトランスフェラーゼ(本明細書では “ヒトST3N”と呼び、配列番号10として区別される);ST3(また別には “ヒトSTZ”と呼ばれる)として区別され、配列番号17で説明されるシアリルトランスフェラーゼ;ラットSTXとして区別される蛋白で配列番号8で説明される;配列番号14のヒトSTX;ヒトGalβ1,3GalNAcα2,3シアリルトランスフェラーゼ(ST30とも呼ばれ、配列番号16で説明される)。その触媒ドメインにおいてこれら4種のシアリルトランスフェラーゼのいずれかと少なくとも90%相同なシアリルトランスフェラーゼは、本発明の範囲内に入ると考えられる。そのような相同な酵素は、本明細書では触媒ドメイン相同体(ホモログ)と呼ばれる。
当該用語が本明細書で用いられる場合にシアリルトランスフェラーゼの範囲に含まれるものは、ラットおよびブタのシアリルトランスフェラーゼ(図1または2で説明)の天然の糖付加およびアミノ配列を有するシアリルトランスフェラーゼ、他の動物種(例えばウシ、ヒトなど)もしくは他の組織由来の類似(アナログ)シアリルトランスフェラーゼ、そのようなシアリルトランスフェラーゼの糖除去もしくは糖未付加誘導体、シアリルトランスフェラーゼのアミノ酸配列変異型およびトランスフェラーゼのインビトロ精製共有結合誘導体である。シアリルトランスフェラーゼのこれら形態の全ては、保存相同領域を含み酵素的に活性を有するが、また酵素活性を持たないときは、酵素活性を有するシアリルトランスフェラーゼと共通な少なくとも1つの免疫エピトープを含む。
シアリルトランスフェラーゼのアミノ酸配列変異型は、以下の3種類のうち1つまたは2つ以上のクラスに分類される。すなわち置換、挿入または欠失変異型である。通常、これらの変異型は、シアリルトランスフェラーゼをコードするDNA内のヌクレオチドの部位特異的変異誘発によって変異型をコードするDNAを作製し、その後組換え体細胞培養でこのDNAを発現させることによって調製される。しかしながら、約100−150残基までの残基を有する変異型シアリルトランスフェラーゼフラグメントは、インビトロ合成を用いて都合よく調製することができる。アミノ酸配列変異型は、その変異型の予め分かっている性質、そのシアリルトランスフェラーゼのアミノ酸配列の天然に存在する対立形質または種間変更(バリエーション)からそれらを区別する特性によって特徴付けられる。保存相同領域における変異型は、その天然に存在する類似体と質的に同じ生物活性を示す。
アミノ酸配列変更を導入する部位は予め決まっているとしても、変異それ自体は予め決められている必要はない。例えば、ある部位で最適な変異を得るためには、標的コドンまたは領域に不規則変異誘発を実施し、発現シアリルトランスフェラーゼ変異型を所望活性の最適組み合わせについてスクリーニングすることができる。既知の配列を有するDNAの予め決められた部位に置換変異を起こす技術は周知で、例えばM13プライマー変異誘発またはPCR基本変異誘発がある。
アミノ酸置換は典型的にはただ1つの残基に関するものであり、挿入は通常、約1から10個のアミノ酸残基の規模で、欠失は約1から30残基の範囲であろう。欠失または挿入は好ましくは隣接ペアーで実施される。すなわち2残基の欠失または2残基の挿入である。置換、欠失、挿入またはそのいずれの組み合わせでも連合させて最終的構築物に到達できる。明らかに、変異型シアリルトランスフェラーゼをコードするDNAで惹起できる変異は、配列をリーディングフレームの外に配置するものであってはいけない。さらにまた、二次的なmRNA構造を生じるような相補的領域を創り出すものであってもいけない(EP75、444A)。
置換変異型は、図1、2、14、16または17の少なくとも1個の残基が除去され、異なる残基がその場所に挿入されているものである。そのような置換は、シアリルトランスフェラーゼの特性を微妙に調節することを所望する場合、以下の表1にしたがって実施できる。
機能または免疫学的同一性における実質的な変化は、表1のものより保存性が少ない置換を選択することによって、すなわち(a)置換領域内のポリペプチドの骨格構造(例えばシート構造または螺旋構造)、(b)標的部位の分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖の嵩の維持に対するそれらの作用がより顕著に異なる残基を選択することによって行われる。一般に、シアリルトランスフェラーゼ特性において最大の変化を生じると期待される置換は、(a)親水性残基(例えばセリルもしくはスレオニル)が疎水性残基(例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリルもしくはアラニル)のために(もしくは疎水性残基によって)置き換えられる置換、(b)システインもしくはプロリンが他のいずれかの残基のために(もしくは残基によって)置き換えられている置換、(c)陽性側鎖(例えばリジル、アルギニルもしくはヒスチジル)が陰性残基(例えばグルタミルもしくはアスパチル)のために(もしくは陰性残基によって)置き換えられている置換、(d)大きい側鎖を有する残基(例えばフェニルアラニン)が側鎖を持たないもの(例えばグリシン)のために(もしくは側鎖を持たないものによって)置き換えられている置換であろう。
主要な置換変異型または欠失変異型の種類は、シアリルトランスフェラーゼの膜通過および/または細胞質領域を含むものである。シアリルトランスフェラーゼの細胞質ドメインは、図1および2に示した開始コドンに始まり、さらに約11の付加残基に続くアミノ酸残基配列である。ラットおよびブタのそれぞれ残基10−28および12−27は、転移停止配列として機能すると考えられている。Phe−Val−Arg−AsnおよびPro−Met−Arg−Lys−Lys−Ser−Thr−Leu−Lys−残基によってそれぞれラットまたはブタに導入された構造的湾曲およびこれらの残基の陽性電荷の性質は、下記の膜通過領域と一緒になって、細胞膜を通過してシアリルトランスフェラーゼが移転するのを停止させる。
シアリルトランスフェラーゼの膜通過領域は、ブタの配列では約残基12−27に(ここでは図2に示すようにAlaは+1である)、ラット配列では類似の場所に位置する。この領域は、細胞膜の脂質二重層を跨ぐために適した大きさの高度に疎水性のドメインである。ゴルジまたは小胞体にシアリルトランスフェラーゼを固着させるために、これは、細胞質ドメインと協力して機能すると考えられている。
細胞質ドメインおよび膜通過ドメインのいずれかまたは両方の欠失または置換は、水溶液中にシアリルトランスフェラーゼを維持するために洗剤(デタージェント)を必要としないようにその細胞または膜の脂質親和性を減少させ、さらにその水溶性を改善することによって組換え体シアリルトランスフェラーゼの回収を促進させるであろう(例えば、参照により本明細書に含まれる、可溶性β−ガラクトシドα2,6−シアリルトランスフェラーゼの製造を開示する米国特許第5032519号を参照のこと)。一方、膜通過配列を保持しながら細胞質ドメインだけの欠失は、洗剤で可溶化されるシアリルトランスフェラーゼをもたらすであろう。細胞質ドメイン欠失シアリルトランスフェラーゼはより膜に入り込み易く、それによって、その酵素活性を達成することが可能となるであろう。好ましくは、細胞質ドメインまたは膜通過ドメインは、置換よりむしろ欠失させられる(例えば、可溶性シアリルトランスフェラーゼを産生するために、ラットα2,3−Nシアリルトランスフェラーゼでは転移停止配列のためのアミノ酸1−33)。
細胞質および/または膜通過(C−T)欠失または置換シアリルトランスフェラーゼは、組換え体細胞培養で直接、またはシグナル配列(好ましくは宿主相同シグナル)との融合として合成できる。例えば、原核細胞発現ベクターを構築する場合は、C−Tドメインは、細菌のアルカリホスファターゼ、lppまたは熱安定性エンテロトキシンIIリーダーに有利なように欠失させられ、さらに酵母では、これらのドメインは酵母のインベルターゼ、アルファ因子または酸性ホスファターゼリーダーによって置換される。哺乳類細胞の発現では、C−Tドメインは、哺乳類細胞ウイルスの分泌リーダー、例えば単純疱疹gDシグナルによって置換される。分泌リーダーが宿主によって “認識”されると、宿主のシグナルペプチダーゼは、C−T欠失シアリルトランスフェラーゼにそのC−末端で融合させたリーダーポリペプチドの融合を切断することができる。C−T欠失シアリルトランスフェラーゼの利点は、培養液中に分泌させることができるということである。この変異型は水溶性で細胞膜脂質に対して相応の親和性を持たず、したがって組換え体細胞培養からの回収は極めて簡単である。
洗剤(例えば非イオン性洗剤)の添加は、膜固着配列を含む蛋白の可溶化、安定化および/またはその生物学的活性の強化のために実施できる。例えば、デオキシコール酸は好ましい洗剤であり、トゥイーン、NP−40およびトリトンX−100は他の洗剤同様用いることができる。洗剤の選択は、特定の環境条件および含まれるポリペプチドの性質に基づいて実施者の判断で決定できる。
置換または欠失変異誘発は、N−またはO−連結糖付加部位を排除するために用いられる。また別に、糖未付加シアリルトランスフェラーゼは組換え体細胞培養で産生される。システインまたは他の不安定な残基の除去もまた、例えばシアリルトランスフェラーゼの酸化耐性の増強のために望ましい。潜在的な蛋白分解部位(例えばArgArgのような二塩基残基)の欠失または置換は、その塩基性残基の1つを欠失させるか、またはそのうちの1つをグルタミルもしくはヒスチジル残基によって置換することによって達成される。
シアリルトランスフェラーゼの挿入アミノ酸配列変異型は、1つまたは2つ以上のアミノ酸が標的シアリルトランスフェラーゼの予め決められた部位に導入されたものである。最も普通には、挿入変異型は、異種蛋白またはポリペプチドのシアリルトランスフェラーゼのアミノ末端もしくはカルボキシ末端への融合である。
シアリルトランスフェラーゼをコードするDNAは、ラットまたはブタ以外の他の起源から、(a)特定動物の例えば肝臓または下顎腺のような種々の組織からのcDNAライブラリーを得、(b)cDNAライブラリー中の相同配列を含むクローンを検出するために、シアリルトランスフェラーゼまたはそのフラグメント(通常30bp以上)の保存相同領域をコードする標識DNAとのハイブリダイゼーション解析を実施し、さらに(c)制限酵素解析および核酸配列決定によってクローンを分析して完全な長さのクローンを同定することによって得られる。完全な長さのクローンがライブラリーに存在しない場合は、種々のクローンから適切なフラグメントを回収し、クローンに共通の制限部位をつなぎ合わせて、完全な長さのクローンを組み立てる。
本発明によって産生されるシアリルトランスフェラーゼの状態を説明する場合の “実質的遊離形”または “実質的に純粋”とは、例えば血液および/または組織から抽出および精製によってシアリルトランスフェラーゼが得られる場合のように、その天然に存在するインビボの生理学的環境でシアリルトランスフェラーゼに通常付随する蛋白または他の物質を含まないことを意味する。本発明の方法によって製造されるシアリルトランスフェラーゼは、全蛋白の95重量%以上又はこれに等しいシアリルトランスフェラーゼであり;ポリアクリルアミドゲル電気泳動でただ1本の濃いバンドを構成し(クーマシーブルー染色);少なくとも約500nmole/mg蛋白/分の比活性度を有した。
本明細書で用いられている “実質的な類似性”または “実質的な同一性”という用語はポリペプチド配列または核酸配列の特性を表し、この場合、このポリペプチド配列は対象配列と比較して少なくとも70%配列同一性を有し、この核酸配列は対象配列と比較して少なくとも80%の配列同一性を有する。配列同一性の%は、その合計が対象配列の35%未満である小さな欠失または付加を排除して計算される。対象配列は大きな配列のサブセット、例えば図1および2に示したようなものであってもよい。しかしながら対象配列はポリヌクレオチドの場合は少なくとも長さが18ヌクレオチドで、ポリペプチドの場合は少なくとも6アミノ酸残基の長さである。
一般に、原核細胞が、本発明で有用なベクターを構築するDNA配列のクローニングに用いられる。例えば、大腸菌K12の株294(ATCC 31446号)は特に有用である。使用可能な他の微生物株には、大腸菌Bおよび大腸菌X1776(ATCC 31537号)が含まれる。但しこれらは例示であり、これらに限られるものではない。
原核細胞はまた発現にも用いられる。前述の株の他、大腸菌W3110(F-λ-、原栄養株、ATCC 27325号)、桿菌(例えば枯草菌)および他の腸内細菌科(例えばネズミチフス菌または霊菌)並びに種々のシュードモナス種を用いることができる。
一般に、宿主細胞に適合する種に由来するプロモーターおよび制御配列を含むプラスミドベクターが、これらの宿主とともに用いられる。通常、ベクターはマーカー配列と同様に複製部位を含み、マーカー配列は形質転換細胞において表現型選別を提供することができる。例えば、大腸菌は,典型的にはpBR322(大腸菌種に由来;Bolivarら、Gene,2:95(1977))を用いて形質転換される。pBR322は、アンピシリンおよびテトラサイクリン耐性遺伝子を含み、したがって形質転換細胞を区別する容易な手段を提供する。pBR322プラスミド(または他の微生物プラスミド)は、組換え体DNA構築物で通常用いられるプロモーターおよび他の制御成分を含むか、または含むように改造されねばならない。
原核細胞宿主とともに使用するために適したプロモーターは、例えばβ−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系(Changら、Nature, 275:615(1976);Goeddelら、Nature, 281:544(1979))、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系(D. Goeddel, Nucleic Acids Res., 8:4057(1980))およびtacプロモーターのようなハイブリッドプロモーター(H. de Boer, PNAS(USA) 80:21−25(1983))を含む。しかしながら、機能的な他の細菌プロモーターも適切である。それらのヌクレオチド配列は一般に既知で、したがって当業者には、シアリルトランスフェラーゼをコードするDNA(Siebenlist, Cell, 2(1980))にリンカーまたはアダプターを用いてそれらを作動できるように連結し、必要ないずれの制限部位をも提供することが可能である。細菌系で使用するプロモーターはまた、シアリルトランスフェラーゼをコードするDNAに作動できるように連結したシャイン−ダルガーノ(Shine−Dalgarno(S.D.))配列を含むであろう。
原核細胞に加え、真核微生物(例えば酵母培養物)もまた用いることができる。ビール酵母または通常のパン酵母が最も普通に用いられる真核微生物であるが、他の多くの株も普通に入手できる。酵母菌属での発現には、例えばプラスミドYRp7(Stinchombら、Nature, 282:39(1979); Kingsmanら、Gene, 7:141(197); Tschemperら、Gene, 10:157(1980))が通常用いられる。このプラスミドは既にtrpl遺伝子を含むが、これはトリプトファンの中で増殖する能力を欠く酵母の変異株(例えばATCC 44076号またはPEP4−1(Jones, Genetics, 85:12(1977))のための選別マーカーを提供する。酵母宿主細胞ゲノムの特徴としてのtrpl損傷部の存在は、したがってトリプトファンの非存在下での増殖によって形質転換を検出する効果的な環境を提供する。
酵母宿主とともに用いる適切なプロモーター配列には、3−ホスホグリセレートキナーゼ(Hitzemanら、J. Biol. Chem., 255:2073(1980))または他の解糖酵素(glycolytic enzyme) (Hessら、J. Adv. Enzyme Reg., 7:149(1968); Holland, Biochemistry, 17:4900(1978))、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルベートデカルボキシラーゼ、ホスホフラクトキナーゼ、グルコース−6−ホスフェートイソメラーゼ、3−ホスホグリセレートムターゼ、ピルベートキナーゼ、トリオセホスフェートイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼおよびグルコキナーゼが含まれる。
他の酵母プロモーター(これらは、発育条件によって制御される転写に関するまた別の利点をもつ誘発可能プロモーターである)は、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸ホスファターゼ、窒素代謝に付随する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ並びにマルトースおよびガラクトース利用に必要な酵素のためのプロモーター領域である。酵母の発現で使用する適切なベクターおよびプロモーターは、さらに欧州特許出願公告第73657A号(R. Hitzemanら)に開示されている。酵母エンハンサーはまた、酵母プロモーターとともに有利に用いられる。
“制御領域”は真核細胞遺伝子の5’および3’末端の特異的な配列を指し、これは、転写または翻訳のいずれかの制御に深く関わっているであろう。実質的に全ての真核細胞遺伝子がAT富裕領域を有し、これは、転写開始部位から約25−30塩基上流に位置する。多くの遺伝子の転写開始から70−80塩基上流に認められるまた別の配列はCXCAAT領域である(ここでXはいずれのヌクレオチドでもよい)。殆どの真核細胞遺伝子の3’末端にAATAAA配列が存在し、これはポリA尾部(テール)を転写されたmRNAに付加するためのシグナルであろう。
哺乳類宿主細胞でベクターからの転写を制御する好ましいプロモーターは、種々の起源、例えばウイルス(例えばポリオーマ、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、および最も好ましいサイトメガロウイルス)から、または異種哺乳類プロモーター(例えばベータアクチンプロモーター)から得られるであろう。SV40ウイルスの初期および後期プロモーターはSV40制限フラグメントとして都合よく得られるが、これはまたSV40ウイルスの複製起点を含んでいる(Fiersら、Nature, 273:113(1978))。ヒトサイトメガロウイルスの即時初期(immediate early) プロモーターは、HindIIIE制限フラグメントとして都合よく得られる(P.J. Greenawayら、Gene, 18:355−360(1982))。もちろん、宿主細胞または関連種からのプロモーターもまた本明細書で有用である。
エンケファリナーゼをコードするDNAのより高等な真核細胞での転写は、ベクターにエンハンサー配列を挿入することによって増強される。エンハンサーは、通常約10−3000bpでシス−作動性DNA成分であり、プロモーターに作用しその転写を増強する。エンハンサーは比較的方向性と存在場所に左右されず、イントロン内(J.L. Banerjiら、Cell, 33:729(1983))だけでなくコード配列自体(T.F. Osborneら、Mol. Cell Bio., 4:1293(1984))の中の転写ユニットの5’(L. Laiminsら、PNAS, 78:993(1981))および3’(M.L. Luskyら、Mol. Cell Bio., 3:1108(1983))に見出された。多くのエンハンサー配列が哺乳類で分かってきた(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテインおよびインスリン)。しかしながら、典型的には真核細胞ウイルスのエンハンサーが用いられるであろう。例としては、複製開始点の後期側のSV40エンハンサー(塩基100−270)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製開始点の後期側のポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスのエンハンサーが含まれる。
真核宿主細胞で用いられる発現ベクター(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒトまたは他の多細胞生物からの核導入細胞)はまた、mRNA発現に影響を与える可能性がある転写の終了に必要な配列を含む。これらの領域は、シアリルトランスフェラーゼをコードするmRNAの非翻訳部分においてポリアデニル化セグメントとして転写される。この3’非翻訳領域はまた転写終了部位を含む。
発現ベクターは選別遺伝子(また選別可能マーカーとも呼ぶ)を含むことができる。哺乳類細胞用の適切な選別可能マーカーの例は、ジヒドロホレート還元酵素(DHFR)、オルニチンデカルボキシラーゼ、多剤耐性生化学マーカー、アデノシンデアミナーゼ、アスパラギン合成酵素、グルタミン合成酵素、チミジンキナーゼまたはネオマイシンである。そのような選択可能マーカーは、哺乳類宿主細胞に首尾よく移すことができ、形質転換された宿主細胞は、選択的強制下に置かれたときに生存することができる。選択方法には広範囲に用いられる2つの異なる種類がある。第一の種類は細胞の代謝に基づくもので、補充培地に依存しないで増殖する能力を欠く変異細胞を使用する。CHODHFR−細胞とマウスLTK−細胞が2つの例である。これらの細胞は、チミジンまたはヒポキサンチンのような栄養物の添加がなければ増殖することができない。これらの細胞は完全なヌクレオチド合成経路に必要なある種の遺伝子を欠くので、補充培地でこの失われたヌクレオチド合成経路が提供されなければ生存することができない。培地を補充するまた別の方法は、完全なDHFRまたはTK遺伝子をそれぞれの遺伝子を欠く細胞に導入し、それによってその増殖要件を変更させることである。DHFRまたはTK遺伝子で形質転換されなかった個々の細胞は、非補充培地で生存することができない。
第二の種類は優性遺伝子選別で、いずれの細胞タイプにおいても用いられる選別計画と呼ばれ、変異細胞株の使用を必要としない。この方法は典型的には宿主細胞の増殖を停止させる薬剤を使用する。新規な遺伝子を有する細胞は、薬剤耐性を伝える蛋白を発現し、その選別に生き残るであろう。そのような優性遺伝子選別の例は、ネオマイシン(P. Southern & P. Berg, J. Molec. Appl. Genet.,1:327(1982)) 、ミコフェノール酸(R.C. Mulligan & P. Berg, Science, 209:1422(1980))、ヒグロマイシン(B. Sugdenら、Mol. Cell Biol., 5:410−413(1985))を用いる。上記の3つの例は、真核細胞性制御下で細菌の遺伝子を用い、それぞれ適切な薬剤G418もしくはネオマイシン(ゲンチシン)、xgpt(ミコフェノール酸)もしくはヒグロマイシンに対する耐性を伝える。
“増幅”とは細胞のクロモゾームDNA内の独立領域の増加または複製を指す。増幅は、選別薬剤、例えばDHFR遺伝子を不活性化させるメトトレキセート(MTX)を用いて達成される。DHFR遺伝子の多数のコピーの増幅または蓄積は、より大量のMTXの存在にもかかわらず産生されるより大量のDHFRをもたらす。増幅強制は、内在性DHFRの存在にもかかわらず、これまでにないような大量のMTXを培養液に添加することによって実施される。所望の遺伝子の増幅は、所望の蛋白をコードするDNAを含むプラスミドを哺乳類宿主細胞に同時トランスフェクトすることによって達成できる。同時に組み込まれたDHFRまたは増幅遺伝子については共同増幅と呼ぶ。細胞はより多くのDHFRを必要とし、この要請は、かつてなく大量のMTX濃度の中で増殖することができる細胞のみを選別することによって選別遺伝子の複製に応じることができるということである。所望の異種蛋白をコードする遺伝子が選別遺伝子とともに組み込まれているかぎり、この遺伝子の複製は所望の遺伝子の複製をしばしばもたらす。その結果、所望の異種蛋白をコードする増やされた遺伝子コピー(すなわち増幅遺伝子)はより多くの所望異種蛋白を発現する。
高等真核細胞でシアリルトランスフェラーゼをコードする本発明のベクターを発現させる適切な好ましい宿主細胞には以下が含まれる:SV40(COS−7、ATCC CRL 1651)形質転換サル腎CV1株;ヒト胎児腎株(293)(F.L. Grahamら、J. Gen. Virol., 36:59(1977));ベービーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞−DHFR(CHO、Urlaub & Chasin, PNAS(USA), 77:4216(1980));マウスセルトーリ細胞腫(TM4、J.P. Mather, Biol. Reprod., 23:243−251(1980));サル腎細胞(CV1、ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76、ATCC CRL1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL3A、ATCCCRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝細胞(HepG2、HB8065);マウス乳癌(MMT060562、ATCC CCL51);およびTRI細胞(J.P. Matherら、Annals N. Y. Acad. Sci., 383:44−46(1982)); バキュロウイルス細胞。
“形質転換”とは、DNAを生物に導入し、その結果、クロモゾーム外成分として、またはクロモゾームに組み込まれることによってそのDNAが複製できることを意味する。特に指定しないかぎり、宿主細胞の形質転換のために本明細書で用いられる方法は、グラハムとファンデルエブの方法である(F. Graham & A.Van der Eb, Virology, 52:456−457(1973))。しかしながら、細胞にDNAを導入するその他の方法、例えば核取り込み(nuclear ingestion) またはプロトプラスト融合もまた用いることができる。原核細胞または、実質的な細胞壁構成物を含む細胞を用いる場合、トランスフェクションの好ましい方法は、コーエンらが記載したように塩化カルシウムを用いるカルシウム処理である(F.N. Cohenら、Proc. Natl. Acad. Sci.USA, 69:2110(1972)) 。
構築したプラスミド内の正確な配列を確認する分析では、連結混合物(ligation mixture)を用いて大腸菌K12株294(ATCC31446)を形質転換させ、形質転換できたものを適宜アンピシリンまたはテトラサイクリン耐性によって選別する。形質転換体からプラスミドを調製し、メッシングら(Messingら、NucleicAcidsRes., 9:309(1981))の方法によって制限酵素処理およびまたは配列決定によって、またはマキサムら(Maxamら、Methods in Enzymology, 65:449(1980))の方法によって解析する。
宿主細胞は本発明の発現ベクターで形質転換させることができる。さらに、プロモーターを誘発し、形質転換細胞を選別しまたは遺伝子を増幅するために適切なように修飾した通常の栄養培地で培養できる。温度やpHなどの培養条件は、発現について選別した宿主細胞に以前に用いたようなもので、当業者には明瞭であろう。
“トランスフェクション”とは、いずれのコード配列が実際発現されるかどうかにかかわらず、宿主細胞による発現ベクターの取り込みを指す。トランスフェクションの多くの方法が当業者には既知で、例えばリン酸カルシウム法や電気的穿孔がある。トランスフェクションの成功は、一般にこのベクターの作動を示唆するものが宿主内で発生するとき認識される。
以下の実施例の理解を深めるために、頻繁に出現するある種の方法および/または用語を説明する。
“プラスミド”は先頭の小文字pで示され、および/または大文字および/または数字がそれに続く。本明細書で出発原料のプラスミドは市販されているか、または制約なく公的に入手可能であるか、または入手可能なプラスミドから文献記載の方法にしたがって構築できる。さらに、記載されたものに匹敵するプラスミドは当該技術分野で既知であり、当業者には明白であろう。
DNAの “消化”とは、DNA中の一定の配列でのみ作用する制限酵素によるDNAの触媒的切断を指す。本明細書で用いられる種々の制限酵素は市販されており、その反応条件、補助因子および他の要件は当業者に既知のものを用いた。分析目的には、典型的には1μgのプラスミドまたはDNAフラグメントを、約20μlの緩衝溶液中の約2単位の酵素とともに用いる。プラスミド構築のためにDNAを単離するには、典型的には5から50μgのDNAをより大容量中で20から250単位の酵素で消化する。特定の制限酵素のための適切な緩衝液および基質量は製造元によって特定されている。37℃で約1時間のインキュベーション時間を通常用いるが、供給元の指示にしたがい変動させることができる。消化後、反応物を直接ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、所望のフラグメントを単離する。
切断フラグメントのサイズによる分離は、ゲーデルら(Goeddelら、NucleicAcids Res., 8:4057(1980))の記載にしたがって8%のポリアクリルアミドゲルを用いて実施する。
“脱リン酸”とは、細菌のアルカリホスファターゼ(BAP)で処理することによって5’末端のリン酸塩を除去することを言う。この処理は、制限切断部位に別のDNAフラグメントが挿入されるのを妨害する、DNAフラグメントの2つの制限切断末端の “環状化”または閉鎖ループ形成を防止する。脱リン酸の手順および試薬は慣用的である(マニアーティスら、分子クローニング、133−134ページ、(1982))。BAPを用いる反応は50mMトリス中で68℃で実施し、酵素調製物中に存在する可能性がある一切のエクソヌクレアーゼ活性を抑制する。反応は1時間行う。反応の後、DNAフラグメントはゲル精製される。
“オリゴヌクレオチド”とは、一本鎖ポリデオキシヌクレオチドまたは2本の相補的なポリデオキシヌクレオチドのいずれかを意味し、これらは化学的に合成が可能である。そのような合成オリゴヌクレオチドは、5’リン酸塩を持たず、したがってATPとともにキナーゼの存在下でリン酸塩を付加しなければ別のオリゴヌクレオチドに連結できない。合成オリゴヌクレオチドは、脱リン酸されていないフラグメントには連結される。
“連結”とは、2本の二重鎖核酸フラグメント間にホスホジエステル結合を形成する工程を指す(マニアーティスら、上掲書、146ページ)。また別に指示しないかぎり、連結は、連結されるべきDNAフラグメントの約等モル量の0.5μgにつきT4DNAリガーゼ( “リガーゼ”)10単位を用いて既知の緩衝液と条件で達成できる。所望のコード配列と制御配列を含む適切なベクターの構築は標準的な連結技術を用いる。単離プラスミドまたはDNAフラグメントは、切断され、目的に適合させ、所望の形態に再連結して必要なプラスミドが形成される。
“充填”または “平滑末端化”とは、制限酵素切断核酸の粘着末端における一本鎖端が二重鎖に変換される工程を指す。この工程は粘着末端を除去し、平滑端を形成する。この処理は、ただ1つかまたは他のわずかの制限酵素によって創出される末端に対して粘着性を有する制限酵素切断端を、平滑切断制限エンドヌクレアーゼまたは他の充填された粘着端に適合できる末端に変換する有用な手段である。典型的には、平滑端形成は、DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメント8単位および各々250μMの4種のデオキシヌクレオシドトリホスフェートの存在下で、2−15μgの標的DNAを10mMのMgCl2 、1mMのジチオスレイトール、50mMのNaCl、10mMのトリス(pH7.5)緩衝液中で訳37℃でインキュベートすることによって達成される。一般にこのインキュベーションは、フェノールとクロロホルム抽出およびエタノール沈澱によって30分後に停止させる。
開示配列の部分に一致するポリヌクレオチドまたは相補的なポリヌクレオチドは、それぞれの生殖系(germline) 遺伝子を同定および/または単離するためにハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。そのようなポリヌクレオチドはまた、cDNAおよびゲノムライブラリーをスクリーニングして、cDNAおよび、本発明のシアリルトランスフェラーゼ配列と構造的におよび/または進化的に関連するポリヌクレオチドをコードする遺伝子を単離するために、ハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。また別に、そのようなポリヌクレオチドは、生殖系遺伝子配列または関連配列をポリメラーゼ鎖反応(PCR)によって増幅させるプライマーとして役立つであろう。
さらに別のシアリルトランスフェラーゼcDNAを同定し、単離するために用いられるハイブリダイゼーションプローブは、このヌクレオチドをベースにデザインされ、その推定アミノ酸配列は図1および2に示す。ハイブリダイゼーションプローブ(これは典型的には放射性同位元素の取り込みによって標識されている)は、ブタα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼのアミノ酸残基134からアミノ酸残基189に広がる55残基セグメントに対応する保存領域の全てまたは一部分をコードする縮退オリゴヌクレオチドの1つまたは2つ以上のプールから成る(図1)。特に、そのヘプタペプチドモチーフ、−Asp−Val−Gly−Ser−Lys−Thr−Thr−は高度に保存的で、このハイブリダイゼーションプローブは、このモチーフ(またはこのモチーフの変形(この場合1つまたは2つ以上のアミノ酸が修飾され、その結果このヘプタペプチドの少なくとも約4個または5個のアミノ酸が残存する))をコードする縮退オリゴヌクレオチドを含む。このヘプタペプチドモチーフの一本鎖または二本鎖アミノ酸置換変異型をコードする縮退オリゴヌクレオチドプローブはまた、関連シアリルトランスフェラーゼcDNA種をスクリーニングするために有用である。縮退オリゴヌクレオチドの他に、クローン化ポリヌクレオチドフラグメント(例えば図1および2に示されるようなもの)は、プローブとして用いることができる;望ましくは、そのようなプローブは、ヘプタペプチドモチーフと、さらに所望の場合は上記の保存55アミノ酸残基セグメントに亙る。
シアリルトランスフェラーゼをコードするゲノムクローンまたはcDNAクローンは、図1および2で示したようなシアリルトランスフェラーゼヌクレオチドを基にデザインしたハイブリダイゼーションプローブを用いてクローンライブラリーから分離することができる。cDNAクローンを所望する場合は、シアリルトランスフェラーゼを発現している細胞に由来するcDNAを含むクローンライブラリーが好ましい。また別に、図1および2に示した配列の全部または一部分に対応する合成ポリヌクレオチド配列は、オリゴヌクレオチドの化学的合成によって構築してもよい。さらに、図1および2に開示した配列データに基づくプライマーを用いてポリメラーゼ鎖伸長反応(PCR)を使って、ゲノムDNA、mRNAプールまたはcDNAクローンライブラリーからのDNAフラグメントを増幅してもよい。米国特許第4683195号および4683202号はPCR法を開示する。さらに、図1および2に開示した配列データに基づく1つのプライマーと、当該配列データに基づかない第二のプライマーを用いたPCR法もまた利用することができる。例えば、ポリアデニル化反応セグメントと相同なまたは相補的な第二のプライマーを用いることができる。
ヌクレオチド置換物、欠失物および付加物が本発明のポリヌクレオチドに取り込まれ得ることは、当業者には明白であろう。しかしながら、そのようなヌクレオチド置換物、欠失物および付加物は、図1および2に示したポリヌクレオチド配列の1つと、特異的ハイブリダイゼーションを生じるに足る厳格なハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするというこのヌクレオチドの能力を損なうものであってはならない。
図に示したヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、コードされるポリペプチド配列の全部または一部に対応するポリペプチドを当業者が製造することを可能にする。そのようなポリペプチドは、完全な長さのシアリルトランスフェラーゼまたはそのフラグメントおよびその類似体をコードするポリヌクレオチドの発現させることによって原核細胞または真核細胞で製造することができる。また別に、そのようなポリペプチドは化学的な方法によって合成でき、またはポリヌクレオチドの鋳型を用いて翻訳させるインビトロ翻訳系で産生することもできる。組み換えたい宿主で異種蛋白を発現させる方法、ポリペプチドの化学的合成の方法およびインビトロ翻訳の方法は当該技術分野で周知であるが、さらに、マニアーティスらの文献(Maniatisら、分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第2版、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1989))およびバーガーとキンメルの文献(Berger & Kimmel、酵素学の手法(Methods in Enzymology) 152巻、分子クローニング技術ガイド(Guide to Molecular Cloning Techniques)、アカデミックプレス刊、サンディエゴ、カリフォルニア(1987))に記載されている。
シアリルトランスフェラーゼのフラグメントは当業者には調製することができる。フラグメントまたは類似体の好ましいアミノ末端およびカルボキシ末端は、構造ドメインおよび/または機能ドメインの境界の近く、例えば酵素活性部位の近くに生じる。実質的に1つまたは2つ以上の機能ドメインを含むフラグメントは異種ポリペプチド配列に融合させることができる。この場合、得られた融合蛋白は、機能的特性、例えばフラグメントによって付与された酵素活性を示す。また別に、1つまたは2つ以上の機能ドメインが欠失している欠失ポリペプチドは、この失われたフラグメントによって通常付与されていた特性の消失を示す。
バキュロウイルスの真核細胞遺伝子発現は、クローニングされた遺伝子から機能的に活性な蛋白を大量に製造する最も有効な手段の1つである(M. Summers &V. Luckow (1988) Bio/Technology, 6:47、この文献は参照により本明細書に含まれる)。本発明のシアリルトランスフェラーゼポリペプチドは、クローニングされたポリヌクレオチドからバキュロウイルス発現系(Invitrogen Corporation、サンディエゴ、カリフォルニア)による発現で製造できる。
代表的なシアリルトランスフェラーゼおよびその組換え体発現産物は、以下のプロトコルにしたがって得られる:
1. ブタの肝シアリルトランスフェラーゼを外見的に均質となるまで精製した。
2. ブタシアリルトランスフェラーゼのN−末端アミノ酸配列を決定した。
3. NH2−末端配列近くの18アミノ酸に対応するオリゴヌクレオチドプローブを化学的に合成した。
4. a)ブタ下顎腺から得たランダムにプライム(つり上げ)したポリA+富裕mRNA、b)ラット肝から得たオリゴdTでプライムしたポリA+富裕mRNA、およびc)ラット脳から得たオリゴdTでプライムしたポリA+富裕mRNAを用いて、cDNAライブラリーをλgt10で構築した。
5. 例えば以下のようなシアリルトランスフェラーゼのアミノ酸配列のためのコドンに相補的な放射能標識合成デオキシオリゴヌクレオチドのプールを用いた:
a)5’ACC CTG AAG CTG CGC ACC CTG CTG GTG CTG TTC ATC TTC CTG ACC TCC TTC TT3’
b)5’GAC GTC GGG AGC AAG ACC ACC3’
6. ランダムにプライムしたブタ下顎腺ライブラリーを、化学的に合成し、さらにポリヌクレオチドキナーゼと32P−ATPで標識した長いオリゴヌクレオチドプローブおよび短いオリゴヌクレオチドプローブを用いてスクリーニングした。共に陽性を示したプラークを精製し、挿入物の配列を決定した。
7. オリゴdTでプライムしたブタ下顎腺ライブラリーを再スクリーニングするために、1個の32P標識挿入物を用いた。
8. ブタシアリルトランスフェラーゼの完全なリーディングフレームは、2個の重複クローンから得られた。ラットの肝および脳から得たcDNAは、得られたクローンのDNA配列分析によって決定したとき保存相同領域を含んでいた。
9. ブタシアリルトランスフェラーゼをコードする完全な長さのcDNAは、1つのプラスミドの2個の重複クローンから構築され、配列が決定された。図1および2のDNA配列の開示によって、シアリルトランスフェラーゼcDNAの保存相同領域からプローブを調製することができ、それによってこれらの種または他の種から、或いはこれらの種
もしくは他の種の他の組織から得られるcDNAもしくはゲノムライブラリーをプローブで調べることが極めて簡単になり、さらにプローブ検査の効率も高められ、シアリルトランスフェラーゼの精製、配列決定、さらにはプローブプールの調製の手間が不要になるということは評価されるべきところであろう。
10. ブタおよびラットのシアリルトランスフェラーゼをコードする完全な長さのcDNAは、続いて発現ベクターに適合させ、このベクターを用いて適切な宿主細胞を形質転換し、さらにこの宿主細胞を培養して所望のシアリルトランスフェラーゼを製造する。
11. 前述の手順によって製造された生物学的に活性な完全なシアリルトランスフェラーゼは、図4および5に示したようにまた別の形であってもよい。これらは、45kDaおよび48kDaの2つの分子量をもたらす。
本発明のポリヌクレオチド並びに組換え体によって製造されたシアリルトランスフェラーゼポリペプチドおよびフラグメントまたはそのアミノ酸置換変異型は、図1、2、3、5、7および8で提供した配列データを基に、または本発明の方法によって単離された新規なシアリルトランスフェラーゼcDNAから得られる配列データを基に調製できる。ポリヌクレオチドおよび組換え体によって製造されたシアリルトランスフェラーゼポリペプチドの製造は、当該技術分野で既知の方法およびマニアーティスらおよびバーガーとキンメルの記載にしたがって実施できる(Maniatisら、分子クローニング:実験室マニュアル、第2版、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1989);Berger & Kimmel、酵素学の手法 152巻、分子クローニング技術ガイド、アカデミックプレス刊、サンディエゴ、カリフォルニア(1987)、これらの文献は参照により本明細書に含まれる)。ポリヌクレオチド配列は、転写のために適切な条件の下でポリヌクレオチド配列の転写が起こるように、当該配列を発現制御配列に “機能的に連結”し(すなわち、発現制御配列の機能を保証できるように配置し)た後、宿主で発現させることができる。
“特異的ハイブリダイゼーション”とは、本明細書ではプローブヌクレオチド(例えば、本発明のポリヌクレオチドで、置換、欠失および/または付加を含むことがある)と特異的標的ポリヌクレオチド(例えば相補的な配列を有するポリヌクレオチド)との間のハイブリッド形成と定義されるが、ここでは、このプローブは専ら特異的標的とハイブリダイズし、その結果例えば、ただ1つのバンドが、真核細胞から調製された標的RNAを含むRNAのノザンブロット上で同定でき、および/またはプローブヌクレオチドがPCRプライマーとして用いられるとき、ただ1つの主要なPCR生成物が得られる。いくつかの事例では、標的配列は、1つ以上の標的ポリヌクレオチド種として存在する(例えば、特定の標的配列はシアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーに含まれる多数のメンバーとして、または、同じ遺伝子から転写され、別な態様でスプライスされたRNAとして生じる可能性がある。最適ハイブリダイゼーション条件は、プローブおよび標的の配列組成並びに長さ、並びに実施者によって選択された実験方法にしたがって変動するであろう。種々のガイドラインが適切なハイブリダイゼーション条件を選択するために用いられる(Maniatisら、分子クローニング:実験室マニュアル、第2版、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1989);Berger& Kimmel、酵素学の手法 152巻、分子クローニング技術ガイド、アカデミックプレス刊、サンディエゴ、カリフォルニア(1987)参照、この文献は参照により本明細書に含まれる)。
“アンチセンスポリヌクレオチド”は、(1)図1および2に示された配列の全部または一部分、および/または本発明の方法によって単離された新規なシアリルトランスフェラーゼcDNAから得られた配列と相補的なポリヌクレオチド、および(2)相補的な標的配列と特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドである。そのような相補的アンチセンスポリヌクレオチドは、ヌクレオチド置換、付加、欠失または転位を含むことができるが、ただし、関連標的配列(例えば図1または2と一致する)との特異的ハイブリダイゼーションがこのポリヌクレオチドの機能的特性として保持されている場合に限られる。相補的なアンチセンスポリヌクレオチドは、可溶性アンチセンスRNA、またはDNAオリゴヌクレオチド(これは個々のシアリルトランスフェラーゼmRNA種またはシアリルトランスフェラーゼmRNAファミリーの多数のメンバーと特異的にハイブリダイズすることができる)を含み、mRNA種の転写および/またはコードポリペプチドへの翻訳を阻害する(Chingら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:1006−10010(1989); Broderら、Ann. Int. Med., 113:604−618(1990); Loreauら、FEBS Letters, 274:53−56(1990); Holcenbergら、WO91/09865; WO91/04753; WO90/13641;EP386563、この文献は各々参照により本明細書に含まれる)。アンチセンスポリヌクレオチドはしたがって、コードされるポリペプチドの産生を抑制する。この点で、1つまたは2つ以上のシアリルトランスフェラーゼの転写および/または翻訳を抑制するアンチセンスポリヌクレオチドは、ポリペプチドに糖付加する細胞の能力および/または特性を変更することができる。
アンチセンスポリヌクレオチドは、トランスフェクト細胞または遺伝子導入細胞(例えば、個々人の造血幹細胞の全部または一部を再構成するために用いられる遺伝子導入多能性造血幹細胞)で、異種発現カセットから製造してもよい。また別に、アンチセンスポリヌクレオチドは、外部環境(インビトロ培養液またはインビボ循環系もしくは間隙体液のいずれか)に投与される可溶性オリゴヌクレオチドを含むことができる。外部環境に存在する可溶性アンチセンスポリヌクレオチドは、細胞質に到達して、特異的mRNA種の翻訳抑制することが示された。いくつかの実施例では、アンチセンスポリヌクレオチドはメチルホスホネート部分を含み、また別にはホスホロチオレートもしくはo−メチルリボヌクレオチドも用いることができ、さらにキメラオリゴヌクレオチドもまた用いることができる(Dagleら、(1990) Nucleic Acids Res., 18:4751)。幾つかの応用例では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ポリアミド核酸を含むことができる(Nielsenら、(1991) Science, 254:1497)。アンチセンスポリヌクレオチドに関する一般的な方法については、 “アンチセンスRNAおよびDNA”(Antisense RNA and DNA (1988)、D.A. Melton編、コールドスプリングハーバー研究所、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク)を参照のこと。
1つまたは2つ以上の配列に対して相補的なアンチセンスポリヌクレオチドは、同族のmRNA種の翻訳を抑制し、したがってそれぞれによってコードされるポリペプチド量を減少させるために用いられる。そのようなアンチセンスポリヌクレオチドは、1つまたは2つ以上のシアリルトランスフェラーゼのインビボでの生成を抑制することによって治療的機能を提供することができる。
シアリルトランスフェラーゼ導入遺伝子の1つまたは2つ以上の組み込まれたコピーを有する遺伝子導入動物を作ることができる。シアリルトランスフェラーゼ導入遺伝子は、機能的プロモーターに作動できるように連結され、さらに選択可能マーカー配列(例えばG−418耐性遺伝子)に連結されたシアリルトランスフェラーゼ蛋白をコードするポリヌクレオチド配列またはフラグメントを含むポリヌクレオチドである。
例えば薬剤スクリーニングおよび薬剤効果の評価のためのモデル系として使用するために、シアリルトランスフェラーゼ導入遺伝子を含む遺伝子導入モデル系および/または完全細胞系を、遺伝子操作を用いて開発することは可能である。さらに、そのようなモデル系は、シアリルトランスフェラーゼ代謝の基礎的生化学の解明のための手段を提供し、したがって、合理的薬剤デザインおよび実験的検査のための基礎を提供する。
遺伝子導入動物を作出する1つの方法は、胚幹(ES)細胞株でインビトロ相同組み換えを行うことによって所望の遺伝子に対する変異を起こし、続いてこの改変ES細胞株を宿主未分化胚芽細胞に極微注入(microinjection)し、さらに養育母の体内で培養することである(Frohman & Martin (1989) Cell, 56:145参照)。また別には、変異遺伝子またはその部分を一細胞胚に極微注入し、続いて養育母の体内で培養する技術も用いることができる。遺伝子導入動物、特に天然のシアリルトランスフェラーゼ蛋白またはそのフラグメントを発現する遺伝子導入動物には、種々の用途がある。また別に、変異によって変化(例えば変異誘発)した、酵素活性を有しまたは有しないシアリルトランスフェラーゼ蛋白をコードする導入遺伝子を宿す遺伝子導入動物は、所望にしたがって構築できる。遺伝子導入動物を作出する別の方法も当該技術分野で既知である。
また別に、部位誘導変異誘発および/または遺伝子変換は、シアリルトランスフェラーゼ対立遺伝子(内在性にしろトランスフェクションによるものにしろ)をインビボで変異させるために用いることができ、その結果、変異対立遺伝子が変異型のシアリルトランスフェラーゼをコードする。
また別に、相同組み換えは、シアリルトランスフェラーゼ配列を宿主ゲノムの特異的部位、例えば対応する宿主シアリルトランスフェラーゼ座位に挿入するために用いてもよい。相同組み換えの1つのタイプでは、1つまたは2つ以上の宿主配列が置換される、例えば宿主シアリルトランスフェラーゼ対立遺伝子(またはその部分)は変異シアリルトランスフェラーゼ配列(またはその部分)と置換される。そのような遺伝子置換法の他に、相同組み換えでは、シアリルトランスフェラーゼ(またはそのフラグメント)をコードするポリヌクレオチドを宿主シアリルトランスフェラーゼ座位以外の特定の部位に置くことを目的として用いることができる。相同組み換えは、変異シアリルトランスフェラーゼ対立遺伝子を取り込んだ、ヒト以外の遺伝子導入動物および/または細胞を作出するために用いることができる。ジーンターゲティングは、1つまたは2つ以上の内在性シアリルトランスフェラーゼ遺伝子を破壊し、さらに不活性化するために用いることができる。これらいわゆる “ノックアウト”遺伝子導入体は、他の遺伝子に関して当該技術分野で開示されている(WO91/10741; Kuhnら、(1991) Science, 708:707))。
以下の実施例は、本明細書発明に関して最良と思われる態様を詳述するもので、本発明を制限するものと解してはならない。本明細書の全ての引用文献は、参照により本明細書に含まれている。
実施例1
ブタシアリルトランスフェラーゼの精製
α2,3−Oシアリルトランスフェラーゼの2つの形態の精製
先に記載された2つの方法(J.E. Sadler, J. Biol. Chem., 254:4434−4443(1979); H.S. Conradtら、日独シアル酸シンポジウム詳録(Sialic Acids 1988 Proceedings of the Japanese−German Symposium on Sialic Acids(Schauer & Yamakawa編)、104−105ページ、Verlag Wissenschaft & Bildung刊、キール(1988))を組み合わせて、α2,3−Oシアリルトランスフェラーゼを精製した。この酵素は、ブタ肝臓のトリトンX−100抽出物をCDP−ヘキサノルアミンアガロースカラムで3回連続アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。第一および第三精製工程の溶出曲線は、図3と4にそれぞれ示した。図3は、シアリルトランスフェラーゼ活性の2つのピークが最初のアフィニティーカラムの溶出曲線で認められることを示している。これら2つのピークを、表示した分画をプールA、プールBにまとめることによって分け、後にこれら2つのプールは、異なる2種の分子量形のα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼに富むことが分かった。
各プールについての第二回目のアフィニティー精製によって、ブタ肝にまた存在している(J.E. Sadler, J. Biol. Chem., 254:4434−4443(1979))夾雑α2,6シアリルトランスフェラーゼの大半が除去された。第三回目のアフィニティークロマトグラフィーの後、カラム分画を分析したが、個々の分画は48kDa(図4A、分画4−6)または45kDa(図4B、分画2−6)分子量形のα2,3シアリルトランスフェラーゼに富むことが分かった。これら2種の蛋白は、それぞれA型およびB型と呼ぶ。両方のカラムの分画の比活性度は、8−10単位/mg蛋白であった。図4カラムAの分画6の強く見えるバンド(〜44kDa)はα2,3シアリルトランスフェラーゼではない。なぜならば、最後のアフィニティークロマトグラフィー工程で酵素活性がなく、その前のカラムの後のプールAおよびプールBの両方に主要な夾雑物質の1つであるからである。
シアリルトランスフェラーゼ活性を、基質としてラクトースおよび/または低分子量凍結防止糖蛋白を用いて調べた(J.E. Sadler, J. Biol. Chem., 254:4434−4443(1979))。この酵素は文献に記載された方法(J.E. Sadler, J. Biol. Chem., 254:4434−4443(1979); H.S. Conradtら、日独シアル酸シンポジウム詳録(Schauer & Yamakawa編)、104−105ページ、Verlag Wissenschaft & Bildung刊、キール(1988))を幾分改変してブタ肝から精製した。簡単に記せば、2kgの肝臓を緩衝液中で均質にし、文献(J.E. Sadler, J. Biol. Chem., 254:4434−4443(1979))のように膜を調製した。膜を緩衝液で3回抽出し(H.S. Conradtら、日独シアル酸シンポジウム詳録(Schauer & Yamakawa編)、104−105ページ、Verlag Wissenschaft & Bildung刊、キール(1988))、抽出物を1.5lのCDP−ヘキサノルアミンアガロースカラム(カラムI)(16umol/ml)に通した。このカラムを3Lの緩衝液Bで洗浄した後、緩衝液B中の0.05から1.0MのKCL(2.5l×2.5l)の直線勾配でカラムを溶出した。α2,3シアリルトランスフェラーゼを含む分画を、2つのプールAおよびBにまとめた。これはそれぞれピークの主要部分とその後続端を含む(図3参照)。このプールを緩衝液Bに対して透析し、もう一度CDP−ヘキサノルアミンアガロースでアフィニティークロマトグラフィーを施した(カラムIIAおよびIIB)。150mlのカラムをプールAに、30mlのカラムをプールBに用いた;カラムIからの2種の調製物(総量4kgの肝臓から)は、工程IIで同じカラムに添加された。α2,3シアリルトランスフェラーゼは、緩衝液B中の0−2.0mMのCTPの勾配で溶出させた(750ml、プールA;150ml、プールB)。α2,3シアリルトランスフェラーゼ活性をもつ分画をG50セファデックスで脱塩し、緩衝液で平衡させ、さらに活性分画を1.0mlのCDP−ヘキサノルアミンアガロースカラムに添加し(パートIII)、これを緩衝液B中の0.1から1.0mMのCTPの段階勾配(20工程、各々1.0ml)で溶出させた(図2)。活性分画をプールし、両方のカラムからまとめた収量は、比活性度が8−10単位/mg蛋白の2.5単位であった。
48kDaおよび45kDaのシアリルトランスフェラーゼペプチド(図4参照)をSDS−ポリアクリルアミドゲルでPVDF膜(ImmobilonTransfer、ミリポァー)に電気的に溶出して分離し、(U.K. Leammli, Nature, 227:680−685(1970))クマシーブリリアントブルー(シグマ)で染色した。シアリルトランスフェラーゼバンドを切り出し、アプライドバイオシステムズ社の475A蛋白配列決定装置を用いて、結合ペプチドをエドマン分解によるNH2−末端アミノ酸配列分析に付した。
シアリルトランスフェラーゼの48kDa(A型)および45kDa(B型)に富む分画をポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)に付し、PDVF膜にブロットを移し、NH2−末端配列決定によって調べた。22個のアミノ酸残基をもつ配列が各ペプチドから得られた(図5)。A型のNH2−末端配列は、小型は疎水性ペプチドの蛋白分解切断によって大型から得られるというサドラーらおよびウェスコットら(J. Biol. Chem., 254:4434−4443(1979); Wescottら、J. Biol. Chem., 260:13109−13121)の予想通り、アミノ酸の疎水性部分を含んでいた。この領域はおそらくA型に固有である、洗剤および膜に結合する特性の説明となると思われた。
実施例2
ブタシアリルトランスフェラーゼcDNA
ポリA+RNAは、インビトロゲン(Invitrogen)が供給するキットを用いて一本鎖cDNAを構築する鋳型として用いた。cDNAは、パーキンエルマーシータス(Perkin Elmer Cetus)が供給する試薬とプロトコルを用いてポリメラーゼ鎖伸長反応(PCR)を行うときの鋳型としての機能を有する。用いた特定条件は、変性、DNAアニーリングおよび重合反応について、それぞれ92°1分;50°2分;72°2分であった。PCR反応はST1の3’末端の120bp欠失に隣接する配列に一致するオリゴヌクレオチドである30bpをプライマーとした。増幅反応の生成物を2%アガロースゲルで分離した。ST1およびST2クローンに対応する120bpの違いがある2本の特異的なバンドが、臭化エチジウム染色で区別された。これらのバンドをゲル(Qiaexキット、Qiagen)から溶出させ、TAベクター(インビトロゲン)に再度クローニングし、明瞭に区別するために上記のように配列決定した。
RNA単離とcDNAライブラリーの構築
新鮮なブタ下顎腺(死後30分以内)を凍結し、ドライアイス−エタノール中で輸送した。全RNAを文献の方法にしたがって単離した(Chomczynski & Sacchi, Anal. Biochem., 162:156−159(1987))。ポリA+RNAはオリゴdT−セルロースクロマトグラフィー(ファルマシア)で精製した。二重鎖cDNAは、プライマーとしてランダムヘキサマーを用い、ファルマシアcDNA合成キットと供給元の推奨方法にしたがってポリA+RNAの逆転写によって合成した。EcoRIアダプターをEcoRI消化λgt10に連結し、インビトロパッケージングを行った(ProMega)。cDNAライブラリーは大腸菌C600の感染によるスクリーニングのためにこのパッケージ混合物とともにプレートに播種した。
cDNAクローンの単離と配列決定
特に明示しないかぎり、全ての工程はマニアーティスらの文献(分子クローニング:実験室マニュアル、コールドスプリングハーバー研究所、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1982)) にしたがって実施した。精製48kDaシアリルトランスフェラーゼペプチドのNH2−末端配列近くの18アミノ酸(図5参照)に対応する、53bpのオリゴヌクレオチドプローブ(5’ACCCTGAAGCTGCGCACCCTGCTGGTGCTGTTCATCTTCCTGACCTCCTTCTT3’)を、32Pで比活性107cpm/pmolとなるよう末端標識した。500000プラークを、以下のプレハイブリダイゼーション/ハイブリダイゼーション溶液でヌクレオチドハイブリダイゼーションによってスクリーニングした:37℃において、5×SSC、50mMのNaH2PO4(pH6.7)、20%ホルムアミド、5×デンハルト溶液、0.1%SDS、0.1mg/mlのサケ精子DNA(W. Wood, 分子クローニング技術ガイド、酵素学の手技、443ページ)。ニトロセルロースフィルター(Schleicher & Schuell 0.45m孔)を0.2×SSC、0.1%SDSで40分間、42℃で洗浄した。強くハイブリダイズした1クローン(λST1)を得たが、これは、48kDaおよび45kDaの精製シアリルトランスフェラーゼペプチドに一致するアミノ酸配列をコードする1個のオープンリーディングフレームを含んでいた。第二のクローン(λST2)は、λST1の3’末端から得た制限フラグメントプローブを用いてヌクレオチドハイブリダイゼーションによって単離した。このプローブ(0.5kbのPvuII−EcoRI制限フラグメント)を、ランダムプライミングキットおよび〔α−32P〕dCTP(アマーシャム)を用いて標識した。
ファージDNAのcDNA挿入物に対応するEcoRI制限フラグメントをpUCベクター(ファルマシア)でサブクローニングした。このサブクローンをファルマシアのT7キットを用いて配列決定した。配列データはDNASTAR(DNASTAR Inc., ウイスコンシン、米国)を用いてコンピューターで解析した。
図5に示したアミノ酸配列情報に基づきα2,3シアリルトランスフェラーゼのためのcDNAをクローンを得るために、幾つかのクローニング方法を試みた。最初の試みでは、48kDaおよび45kDa蛋白のNH2−末端配列に広がるプローブを(それらは完全な酵素では連続していると仮定して)作製する試みとして、ポリメラーゼ鎖反応プライマーを調製した。ふりかえれば、この方法は、45kDa種のために得られたアミノ酸配列が不正確であったために成功しなかった(図5および6参照)。その他の失敗した陽性クローンを得る試みでは、ブタ下顎腺cDNAをスクリーニングするために、プローブとして短い(16−20bp)縮退オリゴヌクレオチドを用いた。完全に成功であった方法は、A型のNH2−末端の17個アミノ酸からデザインした非縮退53bpオリゴヌクレオチドプローブを使用することであった。この53bpプローブを、λgt10ブタ下顎唾液腺cDNAライブラリーの500000個のプラークをスクリーニングするために用いた。ただ1つの1.6kbのクローン(λST1)が得られたが、これは共通ATG開始コドン(M. Kozak, Cell, 49:283−292(1986); M. Kozak, Nuc. Acids Res., 12:857−872(1984))、α2,3シアリルトランスフェラーゼのA型およびB型の両方のNH2−末端アミノ酸配列をコードするオープンリーディングフレームを含むが、インフレームの停止コドンは含まなかった。α2,3シアリルトランスフェラーゼの両方の形態のNH2−末端アミノ酸配列はλST1の翻訳されるオープンリーディングフレームに存在するという事実は、λST1クローンはα2,3シアリルトランスフェラーゼの一部分をコードするということを示唆している。
λST1の3’制限フラグメントをプローブとして用い、第二の重複クローンλST2を同じライブラリーから得た(図6)。λST2は、λST1から発生し、オープンリーディングフレームを完全なものにしている。これら2つのcDNAはただ1つのオープンリーディングフレーム(909−1029、下記参照)、600bpの5’非翻訳領域および1000bpの3’非翻訳領域をコードする。このヌクレオチド配列は、その1029bpのオープンリーディングフレームに対する翻訳されたアミノ酸配列とともに図7に示す。λST1の翻訳されるオープンリーディングフレームの推定アミノ酸配列と精製蛋白の直接分析によって得られたアミノ酸配列との間には良好な一致があった。
λST1およびλST2の重複領域の配列は、λST1のただ1つの120bpのギャップを除いて、その全長に亙って同一であった。この固有のオープンリーディングフレームは、λST1のこの妨害物の両側に連続している(図6)。この2種のcDNA形の1方または両方が真のmRNAを表しているか否かを決定するために、このギャップに隣接するプライマーを用いてPCR分析を、ブタ唾液腺のポリA+RNAの逆転写によって得られたcDNA鋳型で実施した。λST1およびλST2に対応する増幅PCRフラグメントをこの方法で検出した(データは示さず)。このPCR生成物をサブクローニングし、それらの同一性を確認するために配列決定した。両方ともλST1およびλST2の対応領域と同一であることが分かった。したがって、cDNA直接クローニングおよびPCR増幅の両方の結果は、ブタ下顎腺にはα2,3シアリルトランスフェラーゼについて2種のmRNA種が存在し、それらの違いはそのオープンリーディングフレームに120bpの挿入物が存在するか否かである。
シアリルトランスフェラーゼ蛋白(1029bpオープンリーディングフレーム)の予想サイズは39kDaで、4個の潜在的N−連結糖付加部位をもつ(E.Bouse, Biochem. J., 209:331−336(1983))(図7参照)。これらの部位のうち3か所を使用すれば、精製シアリルトランスフェラーゼA型について観察された約48kDaの予想サイズをもつ蛋白が得られるであろう。アミノ末端配列は極めて接近した状態で2つのATGコドンを含み、最初のもののみが、強力な共通翻訳開始部位内に存在する(M. Kozak, Cell, 49:283−292(1986); M. Kozak, Nuc.Acids Res., 12:857−872(1984))。カイト−ドゥーリットル水分析(Kyte−Doolittle Hydropathy analysis)(J. Mol. Biol., 157:105−132(1982))は、16個の疎水性残基から成る1つの潜在的な膜スパンニング領域はアミノ末端から11残基に位置することを明らかにした(図7)。この構造的特性は、α2,3シアリルトランスフェラーゼは、これまで調べられてきた他の糖転位酵素と同じように、II型の膜方向性を有し、このただ1つの疏水領域は、切断不可のアミノ末端シグナル/アンカードメインとして作用するであろうということを提唱する(J.C.Paulson & K.J. Colley, J. Biol. Chem. 264:17615−17618(1989)) 。
λST1およびλST2によってコードされるオープンリーディングフレームは、α2,3−OシアリルトランスフェラーゼのA型およびB型の両方から得られる完全なNH2−末端アミノ酸配列を含む。図6に示したように、A型のNH2−末端配列は、オープンリーディングフレームの仮定翻訳開始部位から8アミノ酸で、B型の対応するNH2−末端配列は、この蛋白のCOOH−末端に向かって27アミノ酸残基であることが分かった。α2,3シアリルトランスフェラーゼのB型は触媒的に完全な活性を有するので(J.I. Rearickら、J. Biol. Chem.,254:4444−4451(1979))、完全な長さの酵素の仮定イニシエーターのメチオニンとB型のアミノ末端との間の蛋白配列は、おそらく酵素活性に必要ではないであろう。したがって、シグナルアンカードメインと触媒ドメインとの間に存在するα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼの蛋白分解に感受性を有する領域は、以前に調べられたグリコシルトランスフェラーゼについて明らかにされたように幹領域のようである(J. Weinsteinら、J. Biol. Chem., 262:17735−17743(1987);J.C. Paulson & K.J. Colley, J. Biol. Chem., 264:17615−17618(1989)) 。
ブタまたはラット組織から全RNAの20mgを、記載の通り2.2Mのホルムアルデヒド(26)を含む1.0%アガロースゲル上で電気泳動し、ニトロセルロースフィルター(Schleicher & Schuell)に移した。ニトロセルロースフィルターを32P標識cDNAプローブでハイブリダイズし、先に述べたように洗浄した。
実施例3
可溶性ブタシアリルトランスフェラーゼの発現
α2,3−Oシアリルトランスフェラーゼの触媒ドメインおよびインスリンシグナル配列との間で、クローンλST2のC−末端890bpをベクターpGIR−199のN−末端部分に対して、両ベクターのリーディングフレームに含まれるSacI部位で融合させることによって、分泌可能キメラ蛋白を作製した。このキメラ、sp−STを制限酵素NheIおよびSmaIで消化し、1.0kbフラグメントを単離し、さらに、ポリリンカーに含まれる部位を切断するXbaIおよびSmaIで消化したpSVL(ファルマシア)でサブクローニングした。生じた構築物をpSVL−spSTと呼び、COS−1細胞でのα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼの可溶形の一時的発現のベクターとして用いた。供給元の推奨方法にしたがってリポフェクチンを用いて、高次コイルDNA、pSVLsp−STをCOS細胞にトランスフェクトした(50%密集細胞を含む60mmの培養皿に5μgDNA、20mlリポフェクチン試薬でトランスフェクション)。トランスフェクション後48時間して、COS−1細胞培養液を採取し、α2,3−Oシアリルトランスフェラーゼ活性のアッセーのためにセントリコン30フィルター(Amicon)で15×濃縮した。先に記載されたように(Sadler, J. Biol. Chem., 254:4434−4443(1979))、凍結防止糖蛋白受容体を用いてα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼ活性を決定した。
pSVL−spSTでトランスフェクション後48時間して、COS細胞(60mm培養皿)をメチオニン非含有培養液(DMEM、5%ウシ胎児血清)(ギブコ製)で洗浄し、同じ培養液で1時間培養した。150mCi/150ピコモルの35S−metエクスプレスラベル(NEN)を用いて、1.5mlのメチオニン非含有培養液中で細胞を2時間パルス標識した。続いてこれらの細胞をPSAで洗浄し、35S−メチオニン標識を含まない培養液中で標識追い出し(チェース)培養を5時間実施した。その後、分泌された蛋白を含むこの培養液を採取し、15倍濃縮してSDS−PAGEを行い、フルオログラフィーで解析した。
以前に述べたように、α2,3−OシアリルトランスフェラーゼのB型は酵素的に活性を有する、完全な長さの膜結合酵素の蛋白分解によって切断された生成物である。したがって、可溶性のキメラ蛋白は、B型の完全配列を含むかぎり、α2,3−Oシアリルトランスフェラーゼ活性を保持するであろうと期待される。そのような可溶性蛋白を作製するために、B−ペプチド配列のNH2−末端の上流の制限部位が、λST2cDNAとインスリンシグナル配列をコードするベクター、pGIR−199との融合部位として選ばれた。図8に示したように、この構築物はシグナルペプチド−ST(sp−ST)と呼ぶ融合蛋白をコードするが、これは、pGIRリンカーによってコードされる9アミノ酸がその後に続くインスリンシグナル配列と、α2、3−Oシアリルトランスフェラーゼの完全な仮定触媒ドメインから成る。このsp−ST構築物は、宿主哺乳類細胞にトランスフェクトした場合、38kDaの分泌蛋白合成を指令すると期待された。グリコシルトランスフェラーゼの可溶形の産生について同様な方法が用いられ成功した(J.C. Paulson & K.J Colley, J. Biol. Chem., 264:17615−17618(1989); K.J. Colleyら、j> Biol. Chem., 264:17619−17622(1989); R.D. Larsenら、Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 87:6674−6678(1990))。
sp−ST構築物をpSVL発現ベクターに配置し、一時的にCOS−1細胞にトランスフェクトした。48時間後に、このトランスフェクトした細胞をトランス35S−標識を含む培養液で2時間インキュベーションし、その後標識を含まない培養液で標識追跡培養を5時間行った。この培養液を採取し、15倍に濃縮してSDS−PAGE/フルオログラフィーで調べた。図9Bは、この培養液は専ら38kDaの、sp−ST蛋白として予想された大きさの蛋白種を含んでいることを示す。平行して実施したトランスフェクト培養物において、トランスフェクション後48時間して培養液を採取し、濃縮してα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼ活性について調べた。図9Cに示したように、sp−STを用いてトランスフェクションした細胞から得た培養液は、ミリ単位/mlのシアリルトランスフェラーゼを含んでいたが、一方、擬似トランスフェクト細胞は顕著な活性を示さなかった。
実施例4
ラット肝シアリルトランスフェラーゼの精製と配列決定
小胞体およびゴルジ装置に存在する膜蛋白である他のグリコシルトランスフェラーゼと同様に、シアリルトランスフェラーゼは少ししか存在しない蛋白であり精製が困難で、それがこの種類ではわずか2種のみしかクローニングされていない理由である。Galβ1,3(4)GlcNAcα2,3シアリルトランスフェラーゼ( “α2,3−N”)は、バインシュタインら(J. Weinsteinら、J. Biol. Chem., 257:13835−13844(1982); J. Weinsteinら、J. Biol. Chem., 13845−13853(1982))によって初めて1982年にラット肝から800000倍精製され、約10μg/ng組織が得られた。アミノ酸配列情報を得るため、または通常の方法を用いてこの酵素に対する抗体を作製する試みがいくつか為されたが、得られたのが少量の希薄蛋白であったので、これらの試みは成功しなかった。代替方法として、質量分析法が、生物学的に重要な巨大分子の構造解析に大きな役割を果たしてきた。新しいイオン化法および装置の開発は、解析可能な質量範囲を広げ、さらに検出感度を高めた。高速連続質量分析法は、翻訳後修飾および化学的修飾の決定同様(T.E. Deverら、J. Biol. Chem., 264:20518−20525(1989);C.A. Settineriら、Biomed. Environ. Mass Spectrom.,19:665−676(1990); W.E. DeWolf Jr.,ら、Biochem., 27:90993−9101(1988))、蛋白の配列決定のため(W.R. Mathewsら、J. Biol. Chem., 262:7537−7545(1987))の強力な技術として、今日確立されている。したがって、シアリルトランスフェラーゼのアミノ酸配列を提供するために質量分析法を用いた。
還元とカルボキシメチル化−約13μgのGalβ1,3(4)GlcNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(α2,3N)を、30mMのカコジル酸ナトリウム(pH=6.5)、100mMNaCl、0.1%トリトンCF−54および50%グリセロールを含む350mlに保存した。トリスHCl(pH=8.0)、グアニジンHClおよびジチオスレイトールを、それぞれ最終濃度0.2M、6Mおよび7mMで加えた。還元はアルゴン下で1.5時間60℃で実施した。0.2MトリスHCl緩衝液2.5ml中のヨード酢酸ナトリウム(1.32mg)をこの混合物に加えた。アルキル化はアルゴン下の暗室で1.5時間室温で実施した。
透析−ベセスダリサーチラブ(Bethesda Research Labs, ”BRL”)のBRL調製透析膜(カットオフ分子量12−14kDa)
付きマイクロダイアリシスシステムを用いて、4リットルの50mMN−エチルモルホリンアセテート緩衝液(pH=8.1)に対して、還元しカルボキシメチル化したα2,3Nを透析した。透析が完了したとき、10%SDSを透析ウェルに添加し、最終SDS濃度を約0.1%とした。ウェルの内容物を集め、スピードバック(SpeedVac)濃縮装置(Savant)を用いて乾燥させた。SDSを除去するのために、コーニッグズバーグ(Kornigsberg)沈澱を実施した(W.H. Kornigsberg & L. Henderson, Methodsin Enzymology, 91:254−259(1993)) 。
トリプシン消化−沈澱α2,3Nを消化緩衝液(100mMのトリスHCl、2M尿素、1mMのCaCl2、pH=8.0)に溶解させ、約2mg/mlの蛋白濃度を得た。α2,3Nを10%トリプシン(w/w)(ベーリンガーマンハイム、配列決定グレード、1mMのHClに溶解)で消化した。7時間消化した後、さらに適量のトリプシン液を混合物に加え、最終トリプシン濃度を約13%にした。18時間後に消化を停止させた。得られたトリプシン消化物を逆相HPLC(ABI C18カラム、1.0X100mm)でABI140A溶媒分配系を用いて分離した。溶媒Aは、0.1%TFA水溶液であった。溶媒Bは70%アセトニトリル/30%水中の0.08%TFAであった。この系は50ml/分の流速で実施した。注入後10分して、溶媒Bの%を0%から50%まで90分かけて増加させ、続いて30分で100%まで増加させた。ABI783A吸収検出装置を用いて215nmでペプチドを検出した。分画の幾つかをHCl/n−ヘキサノール混合物を用いてエステル化した。
質量分析法−液体二次イオン質量分析(LSIMS)発生源および高磁場を装備したクラトス(Kratos)MS50S二重フォーカシング質量分析装置を用いて、LSIMS実験を実施した。採取分画の各々の約1/5をLSIMS分析に使用した。1%TFAで酸性にしたグリセロール−チオグリセロール1:1の混合物1μlを液体マトリックスとして用いた。サンプルをプローブチップから再度集めた。最も豊富な分子イオンを、衝突誘発解離(CID)分析のために選んだ。これらの実験は、電気光学マルチチャンネルアレー検出装置を搭載したクラトスコンセプトIIHHで4セクター質量分析装置で実施した。この装置は、質量範囲の連続した4%セグメントを同時に記録することができる。衝突エネルギーは4keVに設定し、衝突ガスはヘリウムで、その圧は、選択前駆体イオンの充満度を最初の体積の30%に減少させるように調節した。各サンプルの残りを添加し、上記マトリックス1mlを加えた。高エネルギーCIDデータはコンピューターの支援なしに解析した。
テンダム質量分析法は、強力な蛋白配列決定方法で、通常のエドマン法を凌ぐ利点を示す。等モル混合物でさえ、この方法によれば配列決定が可能である。質量分析法による解析のために、HPLCから得られた僅かのペプチド分画は先ずエステル化で疎水性が高められ、したがってその蒸着効果が改善される(A.M. Falick & D.A. Maltby, Anal. Biochem., 182:165−169(1989)) 。各分画のLSIMS分析は多数の分子イオンを示し、各々において1ペプチドより多いペプチドの存在を示唆した。最も豊富な30分子イオンをCID分析のために選んだ。これらの実験では、対象となっているイオンの12C同位元素のピークが最初の質量分析装置で選択された。衝突セル(2つの質量分析装置に配置)中でのヘリウムとの衝突によって誘発される解離から生じるこの種のフラグメントのみが、第二の質量分析装置の末端で検出される。高エネルギー衝突誘発解離(CID)分析では、フラグメント化は主にペプチドのバックボーンにそって生じる。多数切断、すなわちアミノ酸側鎖におけるフラグメント化もまた観察される。ペプチド鎖にそったフラグメント化は、アミノ酸残基重量によって異なるイオンシリーズを生じ、したがって、対応するアミノ酸配列が推定できる。高エネルギーモードのフラグメント化によってアミノ酸同一性についての新たな情報が提供され、したがって得られた配列が確認でき同重核Leu/Ile間の区別が可能になる(R.S. Johnsonら、Anal. Chem., 59:2621−2625(1987))。側鎖のフラグメント化は、塩基性アミノ酸、すなわちArg、LysまたはHisが配列内に存在するときに主に観察される(R.S. Johnsonら、Int. J. Mass Spectrom. Ion Proc., 86:137−154(1988)) 。一般的には、N−末端に存在するか、またはその近くの塩基性アミノ酸残基の優先的プロトン化は、分子のこの末端に好ましい電荷保持をもたらす。C−末端またはその近くに塩基性アミノ酸を含むペプチドは、殆どC−末端フラグメントを示すであろう。したがって、トリプシンは初期消化について利点を有する。高エネルギーCIDデータの解析によって、結局14配列が得られた(表2および図9参照)。
CIDスペクトル分析によって、トリプシン消化の間に幾つかの副反応が生じることが明らかになった。2つのトリプシン自己消化産物がm/z659.3および1153.6で識別された(図9)。長時間のインキュベーションと適切なスカベンジャーの欠如のために、幾つかのトリプシン消化ペプチドがそのN−末端でカルバミル化された。そのような副反応がエドマン分解を阻害する一方で、質量分析による配列決定では、N−末端修飾は有用ですらあるだろう。実際、これらの修飾ペプチドのCID分析は、上記の配列の幾つかを確認する上で有用で、1例では、N−末端ロイシンまたはイソロイシンとの間の違いを識別する手段を提供した(図10)。
実施例5
ラット肝シアリルトランスフェラーゼ
特異的cDNAプローブの増幅−α2,3N由来の14個のペプチドのうち11個のアミノ酸配列に基づき、センス鎖とアンチセンス鎖の両方の22個の縮退オリゴヌクレオチドプールを合成した(Genosys)。最初のPCR実験は、ペプチド11とペプチド1は以前にクローニングされたシアリルトランスフェラーゼ、Galβ1,4GlcNAcα2,6−シアリルトランスフェラーゼ(J. Weinsteinら、J. Biol. Chem., 257:13835−13844(1982))および上記に述べたα2,3−O(図11)の中心近くに位置する領域と相同であるという観察に基づいてデザインした。2群のPCR実験は、ペプチド11に対するセンスプライマーまたはペプチド1に対するアンチセンスプライマーを他方のオリゴヌクレオチドプライマーと対にしたもの、およびラット肝の全RNAを鋳型として合成した最初の鎖のcDNAを用いて実施した。鋳型の溶融工程(94℃で5分)から開始して、増幅は、ジーンアンプ(GeneAmp)TMDNA増幅試薬キットを用いて、アンプリタック(AmpliTaq)TMDNAポリメラーゼ(パーキンエルマー・シータス製)とともに、94℃で1分、37℃で1分、72℃で2分のサイクルを35回行い最後に延長工程(72℃で15分)で終了した。幾つかのcDNAフラグメントをこれらのPCR反応で作製した。ペプチド11とペプチド1はアミノ酸の連続した一続きを示していると仮定して、また別のPCR実験セットを、特異的cDNAフラグメントを同定するためにネスティッド(nested)プライマー法(K.B.Mullis & F. Faloona, Methods Enzymol. 155:335−350(1987))を用いて実施した。この方法を用いて、特異的なcDNAフラグメント、11センス−14アンチセンス(11s−14as)が識別された。この11s−14ascDNAフラグメントをブルースクリプト(Bluescript) プラスミド( ストラテジーン製)でサブクローニングし、ユニバーサルプライマー(ストラテジンーン製)およびシークェナーゼバージョン(Sequenase Version)2.0キット(USB)を用いて配列決定した。
シアリルトランスフェラーゼのクローニング−ファルマシア製のcDNA合成キットを用いて、ラット肝ポリ(A)+RNAからcDNAライブラリーを構築した(U. Gubler & B.J. Hoffman, Gene 25:263−269(1983))。オリゴ(dT)をプライマーとしてcDNAを合成し、EcoRI−NotIリンカーに連結した。続いてcDNAをEcoRI切断λgt10DNA(プロメガ製)に連結した。DNAパッケージング抽出物(ストラテジーン)を用いてインビトロパッケージングを実施した後、ファージを宿主株、大腸菌C600hfl−(プロメガ)上に播種した。約100万個のプラークを11s−14ascDNAプローブでスクリーニングした(U. Gubler & B.J. Hoffman, Gene 25:263−269(1983))。2個の陽性ファージをプラーク精製し、配列決定のためにブルースクリプトプラスミドベクター(ストラテジーン)でサブクローニングした。
cDNAクローンの単離−デイホッフ(Dayhoff)の蛋白データベースを用いて、既知の蛋白との相同性についてペプチド配列をスクリーニングした。この調査はα2,3−Nおよび他のクローン化シアリルトランスフェラーゼとの間の相同性の最初の証拠を提供した。この分析から、ペプチド11(表2)は、ラットおよびヒトβ−ガラクトシドa−2,6−シアリルトランスフェラーゼの両方(これら2つの酵素は88%保存されている: T.J. Guら、FEBS 275:83−86(1990); P.Lance, Biochem. Biophys. Res. Commun. 164:225−232(1989))に存在する配列と相同であることが分かった。この分析をブタα2,3−O(別の新たなペプチド)にまで広げたとき、ペプチド1(表2)は両方のクローン化シアリルトランスフェラーゼの配列と相同であることが分かった。先にクローン化シアリルトランスフェラーゼに存在する配列とこれらのペプチドとの整列比較によって、これら2つのペプチドは、トリプシン消化の間に切断される連続した一続きのアミノ酸を表していることが提唱された(図11)。
ペプチド11とペプチド1は、他の2つのクローン化シアリルトランスフェラ
ーゼの中心の保存相同領域として以前に識別された配列と相同性を示すということを認識することによって、本発明者らのクローニングによる攻略方法の基礎が得られた(図11)。ペプチド11とペプチド1はこの蛋白の中心部近くに存在するかもしれないと、本発明者らは仮定し、そこで長いcDNAプローブを作製するべくPCR実験をデザインした。14シアリルトランスフェラーゼペプチドのアミノ酸配列に基づき、センスおよびアンチセンスの両方の縮退オリゴヌクレオチドプライマーをPCR実験に使用するために合成した。これらの実験ではプライマー11センスおよび1アンチセンスは他のプライマーと対にし、α2,3−Nの長いcDNAフラグメントを増幅させることを試みた。これらの実験ではいくつかのcDNAフラグメントが増幅された。ペプチド11とペプチド1は連続した一続きのアミノ酸を表していると仮定して、プライマー11およびプライマー1を続いてネスティッドプライマー法(K.B. Mullis & F. Faloona, Methods Enzymol. 155:335−350(1987))に用いて、特異的cDNAフラグメントを同定した。プライマー11センスおよび14アンチセンスを用いて増幅させたフラグメントは、1センスおよび14アンチセンスプライマーを用いて増幅させたフラグメントと殆ど同じ大きさで、このことは、生成されたフラグメントはプライマーによるアニーリングの結果で、人工産物ではないことを示唆している。
11センス−14アンチセンスフラグメントのクローニングおよび性状決定によって、ペプチド11と1は実際連続していることが分かった。このcDNAフラグメントの配列と2つのクローン化シアリルトランスフェラーゼとの比較によって、この相同性はペプチド1から伸長し、18アミノ酸まで広がることが分かった。その相同性の故に、本発明者らは、11s−14ascDNAフラグメントはシアリルトランスフェラーゼmRNAから増幅されたと確信した。この配列はまた、このcDNAフラグメントは、ラット肝に豊富なGalb1,4GlcNAcα2、6−シアリルトランスフェラーゼのフラグメントではないことを示した(J. Weinsteinら、J. Biol. Chem. 257:13835−13844(1982))。
11センス−14アンチセンスフラグメントを用いて、オリゴdTをプライマーとしてラット肝cDNAライブラリーをスクリーニングし、スクリーニングした100万個の中から2つの陽性クローンが得られた。陽性クローンの特性を明らかにすることによって、クローンST3N−1は2.1kbの挿入物を含み、一方、クローンST3N−2は極めて短く、長さはわずか1.5kbであることが分かった。ノザン分析によって、Galα2,3−STmRNAは2.5kb(下記参照)であることを示唆されたが、このことは、ST3N−1はGalα2,3−STの完全なコード配列を含むかもしれない可能性を示している。
α2、3−Nシアリルトランスフェラーゼの一次構造−配列分析によって、クローンST3N−1はシアリルトランスフェラーゼの完全なオープンリーディングフレームを含んでいることが明らかにされた(図2)。それは、82bpの5’非翻訳領域、長さが1122bpのオープンリーディングフレーム、約1kbの3’非翻訳領域およびポリ(A)尾部から成る。クローンST3N−1のオープンリーディングフレームは、予想分子量42033の374アミノ酸蛋白をコードする。ただ1つのアミノ酸の違いを除けば、このオープンリーディングフレームは、精製シアリルトランスフェラーゼの質量分析から得られた14ペプチド配列の全てをコードする。このことは、クローンST3N−1のcDNAは確かにシアリルトランスフェラーゼのそれであるということを立証する。他のクローン化グリコシルトランスフェラーゼで観察されたように(J.C. Paulson & K.J. Colley, J. Biol. Chem. 264:17615−17618(1989))、α2,3−Nは、短いN−末端細胞質尾部、約20残基のシグナルアンカー配列、および酵素の触媒ドメインを含む大型のC−末端領域を有することが予想される。
実施例6
可溶性ラットシアリルトランスフェラーゼの発現
酵素的性状を明らかにするためにシアリルトランスフェラーゼの可溶形を製造する目的で、この酵素の触媒ドメインおよびインスリンの切断可能シグナル配列を含む融合蛋白を、哺乳類発現ベクターpSVL(ファルマシア)で構築した。特に、シアリルトランスフェラーゼの触媒ドメインを、膜通過ドメインの下流、+182位(図11)の5’プライマー、およびポリA付加部位の上流3’UTRに位置する3’プライマーを用いてPCRによって増幅させた。PCR反応は、55℃のアニーリング温度で上記に述べたように実施した。PCR生成物をpGIR−199(K. Drickamerより分与)のBamHI−EcoRI部位でサブクローニングし、pGIRベクターに存在するインスリンシグナル配列とインフレームのシアリルトランスフェラーゼとの融合が得られた(E.C. Husehら、J. Biol. Chem. 261:4940−4947(1986))。得られた融合蛋白を発現ベクターpSVLのXbaI−SmaI部位に挿入し、プラスミドpBD122を生じた。
COS−1細胞での一時的発現のために、この発現プラスミドpBD122(20mg)を、100mmプレートのCOS−1細胞に製造元(BRL)の推奨にしたがってリポフェクチンを用いてトランスフェクトした。48時間後、細胞培養液を採取し、セントリコン10微量濃縮装置を用いて濃縮した。濃縮培養液を、受容体基質としてオリゴ糖を用いてシアリルトランスフェラーゼ活性を測定した。オリゴ糖へのシアル酸の転移は、イオン交換クロマトグラフィーを用いてモニターした(J.E. Sadlerら、J. Biol. Chem. 254:5934−5941(1979); J.C. Paulsonら、J. Biol. Chem. 264:10931−10934(1989))。
クローンST3N−1はα2,3−Nシアリルトランスフェラーゼをコードしないことを示すために、このクローンをCOS−1細胞で発現させてみた。クローンST3N−1のアミノ酸配列は、この蛋白が、細胞内のゴルジ装置に酵素を付着させると推定されているNH2−末端シグナル−アンカー配列を含むことを示した(J.C. Paulson & K.J. Colley, J.Biol.Chem. 264:17615−17618(1989))。この酵素の機能分析を容易にするために、発現時に細胞から分泌される可溶形酵素を産生させることが望まれた。シアリルトランスフェラーゼのNH2−末端のシグナル−アンカー配列を置換するために、切断可能インスリンシグナル配列を用いて融合蛋白を構築した。発現プラスミドpBD122をCOS−1細胞で発現させたとき、この酵素は細胞から分泌され、シアリルトランスフェラーゼ活性を示した。
α2,3−Nシアリルトランスフェラーゼの酵素特性は、最初に精製蛋白で決定された(J. Weinsteinら、J. Biol. Chem. 257:13845−13853(1982)) 。シアリルトランスフェラーゼは、Galβ1,3GlcNAcまたはGalβ1,4GlcNAcのいずれかの配列を含むβ−ガラクトシド受容体を利用することが分かったが、これらの配列はNeuAcα2,3Galβ1,3GlcNAcおよびNeuAcα2,3Galβ1,4GlcNAcを形成し、これらはしばしば複合型N−連結オリゴ糖を集結させるために見出される。発現プラスミドpBD122をトランスフェクトした細胞から分泌されるこの酵素は、Galβ1,3GlcNAcまたはGalβ1,4GlcNAcのいずれかの配列を含むβガラクトシド受容体を利用することができた(表2)。親ベクターをトランスフェクトした細胞はそのようなシアリルトランスフェラーゼ活性を分泌しなかった。分泌酵素はまた、アシアロ−α1酸性糖蛋白(asialo−α1 acid glycoprotein)をシアリル付加することができる。このデータは精製α2,3−Nの酵素特性と一致する。
実施例7
バキュロウイルスでのα2,3−Nシアリルトランスフェラーゼの発現
末端四糖類シアリルルイス(sialyl Lewisx)(Slex:SA2,3Galβ1,4GlcNAc〔α1,3Fuc〕)は、P−セレクチンおよびE−セレクチンのためのリガンドとして同定された。さらにSLex構造を含む合成オリゴ糖は、セレクチン−リガンド相互作用を阻害する候補物質である。SLexの完全な化学合成は技術的、経済的に困難であるが、末端シアル酸およびフコース残基を化学的に合成したコアー糖類に特異的に付着させるグリコシルトランスフェラーゼの使用は、遊離SLexの合成を可能にするであろう。α2,3−Nシアリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子をラット肝cDNAライブラリーからクローニングしたところ、トランスフェクトCOS−1細胞で発現させたとき特異的α2,3(Galβ1,3/4GlcNAc)シアリルトランスフェラーゼ活性を有することが示された(Wenら、論文準備中)。このポリペプチドの酵素部分をコードする(しかし疎水性シグナル/膜アンカードメインは欠落している)cDNAクローンの一部分を前−インスリンシグナル配列に融合させ、可溶性分泌性α2、3NST蛋白をコードするcDNAを形成した。このcDNAをバキュロウイルストランスファーベクターでクローニングし、野性型バキュロウイルスDNAの存在下でSf−9昆虫細胞にトランスフェクトするために用いた。α2,3−NシアリルトランスフェラーゼcDNAを含む組換え体ウイルスを単離して精製し、Sf−9昆虫細胞を感染させるために用いた。感染細胞は大量のα2,3NSTを培養液中に分泌し、この蛋白をイオン交換クロマトグラフィーで精製した。
Sf−9細胞はATCCから購入した。DNAベクターpGIR199およびpBlueBacは、ポールソン(J.C. Paulson) およびインビトロゲン(Invitrogen、サンディエゴ、カリフォルニア)からそれぞれ入手した。Sf−9細胞は、0.3および1.5×106細胞/mlの細胞密度でグレース昆虫培養液(0.33%ラクトアルブミン水解物および0.33%イーストレートを補充(ギブコ(グランドアイランド、ニューヨーク)より入手))プラス10%熱不活化ウシ胎児血清(JRH Biosciences、レネキサ、カンザス)中でスピンナー培養で増殖させた。この培養液をGCMS+10%FCSと呼ぶ。
α2,3−Nシアリルトランスフェラーゼの可溶形を以下のようにして作製した。完全なα2,3−NシアリルトランスフェラーゼmRNAを示すcDNAをPCRのための鋳型として、さらにアンプリマーとして2種のオリゴヌクレオチドを用いた。これら2種のオリゴヌクレオチドは、この酵素のシグナル/アンカー連合領域の丁度C−末端位(5’)と、さらに3’非翻訳領域のポリ(A)付加部位の上流(3’)とハイブリダイズする。両オリゴヌクレオチドはその5’末端にBamHI部位(この部位はPCR産物をpGIR199のBamHI部位でクローニングすることを可能にする)をコードし、これを前−インスリンシグナル配列とインフレームで融合させた。隣接NheI部位を遺伝子融合を解き放つために用い、バキュロウイルスポリヘドロンプロモーターの制御下で、バキュロウイルストランスファーベクターpBluebacでこのcDNAフラグメントをクローニングした。全ての組換え体DNA操作は、酵素の製造元の指示書の推奨する条件下で実施した。pBluebacベクターは異なるバキュロウイルスプロモーターの制御下にある大腸菌β−ガラクトシダーゼ遺伝子を含んでおり、組み換えを受けこのDNAを取り込んだウイルスは、発色団X−galを青い生成物に変換できる。
組換え体バキュロウイルスの作製は、製造元の推奨するプロトコルに正確に従いながらMaxBac発現系(インビトロゲン)を用いて実施した。簡単に記せば、プラスミドおよび野性型ウイルスDNAを混合し、リン酸カルシウム法によってSf−9細胞をトランスフェクトするために用いた。ウイルスはトランスフェクト細胞から産生され、培養液中に放出された。組換え体ウイルスは、150μg/mlの濃度でプラーク培地に含まれるX−galに対するβ−ガラクトシダーゼの作用によって生じる青色によるプラークアッセーで同定され、さらに、希釈/プラーク形成を繰り返すことによって野性型ウイルスから精製した。精製されたウィルスは、500mlの新鮮なSf−9細胞の感染により増やされた。α2,3−Nシアリルトランスフェラーゼの感染細胞培養液中への分泌をもたらす能力について、幾つかのクローンを、下記に述べるようにシアリルトランスフェラーゼ放射能アッセーで適量の培養液を直接検査することによって調べた。
大量のウイルスを増殖させるために、5mlのGCMS+10%FCSの入った25cm2の組織培養フラスコ中の3×106Sf−9細胞を、野性型を含まないただ1個の青色プラークで感染させ、さらに27℃で5−7日間増殖させた。得られた5mlのウイルスストックを遠心で清澄にし、さらに増殖させた。5mlのストック中のウイルス力価は1×108プラーク形成単位(pfu)であると仮定して、1×107細胞/mlの細胞濃度に対して感染多重度(moi)1で増殖期のSf−9細胞(0.5−1.5×106細胞/ml)を感染させた。細胞をGCMS+10%FCSで10倍希釈し、27℃で5−7日間増殖させた。得られたウイルスを清澄にし、プラークアッセーでウイルス力価を求めた。通常は、109pfu/mlより高かった。α2,3−Nシアリルトランスフェラーゼを発現させるために、増殖期の2.5×109Sf−9細胞をテントレーセルファクター(CF−10と呼ぶ)(Nunc、ナッパビル、イリノイ)の各層に播種した。各CF−10の全増殖面積は6000cm2で、細胞は300mlの容量でmoi=5の組換え体バキュロウイルスで感染させた。1時間のインキュベーション後、1リットルのエクセル−400(JRH Biosciences)(血清非含有培養液)を加え27℃で72時間細胞をインキュベーションした。培養液を採取し、清澄にしてさらに0.2μmのフィルターユニットで濾過した。新しい培養液(2%ウシ胎児血清補充エクセル400)を加え、さらに48時間27℃で細胞をインキュベーションした。培養液を採取し、清澄にし濾過した。
α2,3−Nシアリルトランスフェラーゼ活性を、改造した文献記載のアッセー(Sadlerら、(1979))を用いて調べた。30μlの容量で、14μlのサンプルに3.5μlのラクト−N−テトロース(Galβ1,3GlcNAcβ1,3Galβ1,4Glc)および下記のアッセーミックス12.5μlを混合した。サンプルを簡単に混合し、反応管の底を上にして1回転させ、37℃で10分インキュベーションした。続いて直ちに反応物を5mMのリン酸緩衝液(pH6)の1mlで希釈し、0.5mlのイオン交換カラムに添加した。カラムを通過させ、1mlの洗浄液をシンチレーション管に採取し計測した。1単位は、1分間に1マイクロモルのシアル酸を受容体に転移させるために必要な酵素量と規定される。
反応動態が直線範囲に保たれるよう(カラムからの排出は約10000cpm)、サンプルは清澄上清または希釈上清のいずれかから成る。アッセーミックスは、0.65ml(50μCi)の〔14C〕−CMP−シアル酸(NEN、ボストン、マサチューセッツ)を乾燥させ、2.3mgのCMP−シアル酸を含む水0.65mlに再懸濁させて調製した。これに、カコジル酸ナトリウム緩衝液(pH6)の1M溶液の0.96、0.48mlの20%トリトンCF−54、0.29mlのウシ血清アルブミン溶液(50mg/ml)(以上全てシグマより、セントルイス、ミズーリー)、さらに水を加えて全量を8mlとする。アッセーミックスの比活性を求め、適量ずつに分け−20℃で保存した。使用したイオン交換樹脂は、AG1−X8、200−400メッシュ、リン酸型(バイオラッド、リッチモンド、カリフォルニア)である。
α2,3−Nシアリルトランスフェラーゼの濃縮と精製−α2,3NSTを含む培養液(1−3リットル)を濾過し、S1Y10カートリッジを搭載したアミコンCH2PRS螺旋カートリッジシステムで約250mlに濃縮した。続いてこのユニットをダイアフィルトレーションモードで作動させ、3倍量の10mMカコジル酸、25mMのNaCl、25%グリセロール(pH5.3)(緩衝液A)とともに濃縮上清を脱塩した。続いて、緩衝液Aで平衡化したS−セファロースファーストフロー(ファルマシア)のカラム(2.5×17cm)に、流速2ml/分でサンプルを加えた。全てのサンプルを添加し終えてから、カラム流出液のOD280が基線に戻るまで、緩衝液Aでカラムを洗浄した(1.6カラム容積)。続いて、50mMカコジル酸、1MのNaCl、255グリセロール(pH6.5)でα2,3NSTをカラムから溶出させた。α2,3NSTを含む分画を集め、1リットルの50mMカコジル酸、0.5モルのNaCl、50%グリセロール(pH6.0)に対して一晩透析し、−80℃で保存した。
実施例8
ラットα2,3−Nシアリルトランスフェラーゼの組織分布
クローン化ラットシアリルトランスフェラーゼの組織分布の状態を調べるために、全RNAを種々のラット組織から分離し、シアリルトランスフェラーゼの32P標識cDNAで調べた。〜2.5kbのmRNAに対するハイブリダイゼーションは調べた全ての組織で認められた。2つのシアリルトランスフェラーゼクローンで認められたように、α2,3−Nシアリルトランスフェラーゼは、ラットの組織で弁別的な発現を見せた。最高レベルのα2,3−NシアリルトランスフェラーゼmRNAは脳で観察された。肝、腎、結腸、心、卵巣および肺は中間レベルのメッセージを発現し、一方、下顎腺、脾、腸では低レベルのmRNAが認められた。対照的に、最高レベルのGalβ1,4GlcNAcα2,6−シアリルトランスフェラーゼmRNA(4.7および4.3kb、41、46)はラット肝および下顎腺で認められ、一方、低レベルのmRNAは心、卵巣および脳で認められた。
実施例9
触媒ドメインの保存相同領域
シアリルトランスフェラーゼファミリーの保存領域−3つのクローン化シアリルトランスフェラーゼの一次構造の比較によって、広範囲の相同性をもつ領域が明らかになった(図12)。この領域は、α2,3−Nシアリルトランスフェラーゼの残基156から残基210の55アミノ酸から成り、3種全ての酵素の間で42%のアミノ酸同一性と、58%の保存アミノ酸を有する。この3種全てのシアリルトランスフェラーゼの配列はこの領域以外では顕著な相同性はもたない。この相同な領域は酵素の触媒ドメインの中心近くに位置するので、この領域は、これらシアリルトランスフェラーゼの酵素活性について必要な保存構造を表しているのかもしれない。
グリコシルトランスフェラーゼのシアリルトランスフェラーゼファミリーのうち3種がクローニングされた。クローニングされた3種全てのシアリルトランスフェラーゼの配列で85%が顕著な相同性をもたないが、各分子の中心の55アミノ酸領域が高度に保存されており、これはシアリルトランスフェラーゼファミリーの蛋白モチーフを示唆している。蛋白モチーフは、特異的領域におけるよく保存された1群のアミノ酸である。この領域外の他のアミノ酸残基は通常あまり保存されていない。そこで同じモチーフを含む蛋白でも全体的な相同性は低い。この定義によれば、3種のクローン化シアリルトランスフェラーゼの一次構造によって限定される保存領域は、シアリルトランスフェラーゼファミリーのモチーフである。
蛋白モチーフは、しばしば触媒反応およびリガンド結合に深く関与する(T.C.Hodgman, Comput. Applic. Biosci. 5:1−13(1989); A. Bairoch, プロサイト:蛋白の部位とパターンの字引(Prosite:A Dictionary of Protein Sites & Patterns)、第5版、University of Geneva (1990); M.J.E. Sternberg, Nature 349:111(1991))。3種のクローン化シアリルトランスフェラーゼの全てが、末端ガラクトースのα2,3または2,6結合においてCMP−NeuAcからシアル酸の転移を触媒し、以下の配列を形成する:
NeuAcα2,3Galβ1,3(4)GlcNAc− (ST3N)
NeuAcα2,3Galβ1,3GlcNAc− (ST3O)
NeuAcα2,3Galβ1,4GlcNAc− (ST6N)
この3種の酵素は全て共通の機能を有する。保存領域の残基の50%以上が、電荷を有するアミノ酸または極性アミノ酸のいずれかであり、これら酵素の表面に存在することと矛盾しない。この3種全てのシアリルトランスフェラーゼ間で同一の保存領域に一続きの7個のアミノ酸、Asp.Val.Gly.Ser.Lys.Thr.Thr(図12)が存在することは驚くべきことである。
実施例10
保存相同領域を用いた新規なシアリルトランスフェラーゼのクローニング
シアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーの中の別の遺伝子をクローニングするために保存相同領域を用いた。
縮退オリゴヌクレオチドによるPCRクローニング−保存相同領域の5’および3’末端に対応する2つの縮退オリゴヌクレオチド(図13)を合成したGenosys)。5’および3’プライマーの配列は、それぞれ5’GGAAGCTTTGSCRNMGSTGYRYCRTCGTおよび5’CCGGATCCGGTRGTYTTNSNSCCACRTC(N=A+G+T+C、S=G+C、R=A+G、M=A+C、Y=C+T)である。PCR実験は、各プライマー100ピコモルと、鋳型として新生児ラットの脳から合成した最初の鎖のcDNAとを用いて実施した。増幅は、94℃1分、37℃1分および72℃2分の30サイクルで行った。PCR生成物をBamHIとHindIIIで消化し、ブルースクリプトKS(ストラテジーン、11099 North Torrey Pines Road、ラホイヤ、カリフォルニア)のこれらの部位でサブクローニングした。サブクローンはT3プライマーを用いた配列決定によって性状を調べた。これらのサブクローンの1つから得た増幅フラグメント、SM1を、シアリルトランスフェラーゼをコードするSM1含有遺伝子のスクリーニングのために用いた。
SM1含有遺伝子のクローニング−任意プライミングで作製した新生児ラット脳cDNAをEcoRI−NotIリンカーで連結し、続いてその後、EcoRI消化λgt10に連結した。生じたライブラリーをストラテジーンギガパックIIパッケージング抽出物を用いてパッケージングし、大腸菌C600hfl上に播種した。クローン化SM1PCRフラグメントを用いて、約106プラークをスクリーニングした。4個のクローン、STX1−4を精製し、さらに分析するためにブルースクリプト(ストラテジーン)のNotI部位にサブクローニングした。
ノザン分析−先に記載された酸フェノール工程(P. Chomoznsyi, Anal. Biochem. 162:136−159(1987))を用いて、ラット組織から全RNAを抽出した。新生児RNAサンプルを出生後4日以内の子ラットから単離した。RNAをホルムアルデヒド含有1%アガロースゲルで電気泳動し、ニトロセルロースに移し以下の標準的工程(M. Krieger, 遺伝子の移入と発現(Gene transfer & Expression)、ストックトンプレス、ニューヨーク、ニューヨーク(1990))でハイブリダイズさせた。STX1から単離したゲル精製放射能標識900bpEcoRIフラグメントを用いてノザンブロットで調べた。
STXの可溶形の構築−オープンリーディングフレームの最初の31アミノ酸を欠くSTXの短縮形( “ラットSTX”とも呼ぶ)を、インフレームのBanHI部位を含む5’プライマーとstpコドンの50bp下流に位置する3’プライマーとを用いてPCR増幅によって調製した。増幅は、94℃1分、45℃1分および72℃2分の30サイクルで実施した。融合ベクターpGIR201protAを、pRIT5(ファルマシアLKBバイオテック社、1025 Atlamtic Avenue, 101号室、アラメダ、カリフォルニア 94501)から単離した、蛋白AIgG結合ドメインをコードするBcII/BamHIフラグメントをpGIR201(Dr. K. Drickamer(Columbia University)より分与)のBamHI部位に挿入することによって構築した。増幅フラグメントをpGIR201protAのBamHI部位でサブクローニングし、ベクターに存在するインスリンシグナル配列と蛋白Aとに融合したSTXを得た。この融合蛋白を含むNheフラグメントをプラスミドpSVLでサブクローニングし、発現プラスミドAX78を得た。
STXの可溶形の発現−発現プラスミドAX78(10μg)を10cmプレートのCOS−1細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション後2日して、培養液を採取し、IgGセファロース(ファルマシア)とともに室温で1時間インキュベーションした。オリゴ糖、凍結防止糖蛋白、混合ガングリオシドおよび受容体基質としてノイラミニダーゼ処理新生児ラット脳膜を用いて、シアリルトランスフェラーゼ活性についてビーズを調べた。これら受容体へのシアル酸の転移は、イオン交換(J. Weinsteinら、J. Biol. Chem. 257:13835−13844(1982))、サイズ排除(size exclusion, Id)および下降型ペーパークロマトグラフィー(R.D. McCoyら、J. Biol. Chem. 260:12695−12699(1985))を用いて測定した。
全く同じトランスフェクションをパルス−チェース標識実験のために実施した。36時間の発現時間経過後、プレートを37℃で2.5mlのDMEM−メチオニンとともにインキュベーションした。1時間後、250μCiの35S−トランスラベル(アマーシャム、2636 S. Clairebrook、アーリントンハイツ、イリノイ 60005)を培養液に添加し、プレートをさらに3時間培養した。終了時に、プレートを洗浄し、完全DMEMとともに一晩インキュベーションした。標識融合蛋白をIgGセファロース(ファルマシア)とともにインキュベーションすることによって単離した。結合させた後、ビーズを洗浄しレムリー(Laemalli) サンプル緩衝液中で煮沸し、遊離蛋白をSDS−PAGE/フルオログラフィーで解析した。
性状決定シアリルトランスフェラーゼで認められた保存相同領域と関連する領域のPCR増幅−性状を調べたシアリルトランスフェラーゼの保存相同領域に存在するアミノ酸の約70%が保存されているが、この保存相同領域の末端のアミノ酸配列に最大の連続保存領域が見出される(図13)。保存相同領域のC−末端近くのアミノ酸配列は、連続した7個の不変残基をもつ一続きを含むことが分かっている。このアミノ酸配列の強い保存性は、コドン使用で観察される全てのバリエーションを含む256倍の縮退度を用いる比較的複雑性の低いオリゴヌクレオチドのデザインを許容するものであった。保存相同領域のN−末端に対応するオリゴヌクレオチドのデザインはより困難であった。この領域に存在するアミノ酸は、保存相同領域の反対側の末端部に見出される変動性よりさらに強い変動性を示す。オリゴヌクレオチドデザインは、アミノ酸の高コドン重複性によってさらに複雑になった。これらの要素を補償するために、保存相同領域の5’末端からのオリゴヌクレオチドは1026倍の縮退度で合成した。この程度の複雑度がPCRE実験を許容する縮退度の限界に近いので、保存相同領域のこの領域をコードすることが分かったヌクレオチド配列の全てとなる。
神経系の発生は、細胞表面の炭水化物発現で見出される劇的な変化から明らかなように、グリコシルトランスフェラーゼがダイナミックな調節を受ける複雑な過程である。この理由のために、新規なシアリルトランスフェラーゼを分離しようと起源として新生児ラット脳が選択された。新生児ラット脳cDNAを鋳型として用い、縮退プライマーによるPCR実験の結果150bpバンドの増幅が得られたが、これは保存相同領域の既知のサイズと一致する。サブクローニングと配列決定によって、このバンドは2つのDNAフラグメントの混合物であることが明らかにされた。性状が明らかにされた30個の単離物のうち、56%は∝保存相同領域をコードし、残りのクローンは固有の保存相同領域、SM1をコードした。いくらか驚いたことには、SM1は、先にクローニングされた3つのシアリルトランスフェラーゼで不変であることが分かったアミノ酸で5つの変化を含んでいる。これらの変化が不変残基の総数を減少させる一方で、SM1の性状が明らかにされることによって提供される新規な配列情報は、共通配列の全体的な保存性を高める。
SM1の予想アミノ酸配列は個々の保存相同領域のいずれに対する偏りも示さない。いくつかの位置(アミノ酸1、2、53、54)では、SM1は∝2,6保存相同領域と類似し、他の位置(アミノ酸8、9、54、55)では、SM1は∝2,3保存相同領域で認められる配列を示す。保存相同領域が85%保存されている一方で、この類似性バランスによって、SM1はシアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーのその他の種類に対して約45%相同性をもつこととなる。
SM1含有遺伝子の一次構造−1.5kbクローンSTX1の配列解析によって、以前のPCR実験によって特徴が明らかにされたSM1保存相同領域をコードする、連続した375アミノ酸のオープンリーディングフレームが同定された(図14)。STX1の推定アミノ酸配列によって、この蛋白は、他のクローン化グリコシルトランスフェラーゼの各々で認められたようにII型膜通過蛋白であることが示唆される。STX1の予想アミノ酸配列は、この蛋白のアミノ末端から8残基の疎水性領域の存在を示唆する。この領域はシグナルアンカードメインとして作用するかもしれない。保存相同領域はこの蛋白の中心近くに位置する。STX蛋白の全体的な大きさ並びに、疎水性領域および保存相同領域の相対位置は、クローン化シアリルトランスフェラーゼの一次配列特性に極めて類似する。STXは、この保存相同領域以外では、他のクローン化シアリルトランスフェラーゼとは相同性を示さないが、これら遺伝子の著しい構造類似性は、STXが、このシアリルトランスフェラーゼファミリーに属する種類であることを明確にする。
STXの酵素的特性−シアリルトランスフェラーゼの天然に存在する可溶形は、種々の分泌物および体液で見出される(J.C. Paulsonら、J. Biol. Chem. 252:2356−2367(1977); R.L. Hudginら、Can. J. Biochem. 49:829−837(1971))。これらの可溶形は、シアリルトランスフェラーゼの幹領域を切断する蛋白分解消化によって膜通過アンカーから触媒ドメインが遊離することにより生じる。可溶性シアリルトランスフェラーゼは、内在性シグナルアンカードメインを切断可能なシグナル配列で置換することにより、組み換えによって構築することができる(K.J. Colleyら、J. Biol. Chem. 264:17619−17622(1989)) 。STXの機能解析を容易にするために、最初の31アミノ酸を切断可能なインスリンシグナル配列と蛋白AIgG結合ドメインとで置換することによって、この蛋白の可溶形を作製した。IgG結合ドメインは、可溶性STX蛋白の検出を促進するために構築物に加えた。ST3Nとの同様な融合物が発現細胞から活発に分泌され、IgGセファロースに結合し、さらに酵素的に活性を有していた。蛋白A/STX融合(AX78)を含む発現プラスミドをCOS−1細胞で発現させたとき、85kd蛋白が単離された。この融合蛋白の大きさは、ポリペプチドの予想分子量よりも15kd大きく、このことは、多数のSTX潜在N−連結グリコシル付加部位が利用されていることを示唆している。
種々の受容体基質を用いて、結合した融合蛋白をシアリルトランスフェラーゼ活性について分析した。Galβ1,3(4)GlcNAc配列を含むβ−ガラクトシド受容体を用いたとき活性は検出されず、同様に、凍結防止糖蛋白のO−連結オリゴ糖へのシアル酸転移も検出されなかった。脳組織におけるSTXの発現は、この遺伝子は糖脂質の生合成に深く関与している可能性を示唆するが、しかしながら、成獣のウシの脳から分離した混合ガングリオシドは受容体基質として役立たなかった。ノイラミニダーゼ処理新生児脳の膜は、受容体として作用する僅かな能力を示すただ1つの基質であった。処理膜をSTX融合蛋白とともにインキュベーションしたとき、バックグラウンドに対して50%の活性増加が得られた。
STXの発生における発現と組織特異的発現−STX遺伝子の発現パターンとメッセージサイズを知るために、STX1から単離した900bpのEcoRIフラグメントをプローブとしてノザンブロットを調べた。調べた種々の組織のうち、5.5kbメッセージのハイブリダイゼーションは新生児ラット脳のRNAでのみ認められた。関連する保存相同領域に対する交差ハイブリダイゼーションは認められなかった。STXの限定発現は、性状が明らかにされたシアリルトランスフェラーゼで認められた差別的な組織特異的発現から離脱している。これら遺伝子の各々が独立して調節され、その結果、組織特異的発現の種々のパターンが生じる一方で、各シアリルトランスフェラーゼは、一般的に種々の多くの組織で様々に発現される(J.C.Paulsonら、J. Biol. Chem. 264:10931−10934(1989))。対照的に、STXは新生児脳でのみ発現され、その発現は、当該メッセージが新生児腎で検出されなかったので、胎児の現象として一般化できないようである。
実施例11
ヒトGalβ1,3(4)GleNAc∝2,3−シアリルトランスフェラーゼのクローニングと発現
縮退オリゴヌクレオチドを用いたPCRクローニング−先の実験で明らかになった配列の相同性に基づき、150bpの増幅フラグメントが得られることが予想される2つの縮退オリゴヌクレオチドを合成した(Genosys)。5’および3’プライマーの配列は、それぞれ、5’GGAAGCTTTGSCRNMGSTGYRYCRTCGTおよび5’CCGGATCCGGTRG TYTTNSNSCCSACRTC(N=A+G+T+C、S=G+C、R=A+G、M=A+C、Y=C+T)である。PCR増幅のためには、ヒト胎盤全RNAから合成した最初の鎖のcDNAを、100ピコモルの各プライマーと混合した。pfuポリメラーゼ(ストラテジーン)を用いて30サイクル(95℃1分、37℃1分および73℃2分)で実施し、生成物をBamHIとHindIIIで消化し、ブルースクリプトSK(ストラテジーン)のこれらの部位でサブクローニングした。クローンはT7プライマーを用いて配列決定した。
ヒトST3NcDNAの単離−ランダムにプライムされたヒト胎盤cDNAをEcoRIリンカーに連結し、続いてその後EcoRI消化λZAPII(ストラテジーン)に連結した。得られたライブラリーをストラテジーンギガパックIIパッケージ抽出物を用いてパッケージを行い、大腸菌XL−1ブルー(ストラテジーン)上に播種した。上記のクローニングしたPCRフラグメントを用いて約100万個のプラークをスクリーニングした。2つの陽性クローンをプラーク精製し、続いてR408ヘルパーファージを用いてインビボ切り出しによってブルースクリプトベクター中に切り出した。
ヒトST3Nの可溶形の構築−ヒトST3Nの短縮形(オープンリーディングフレームの最初の61アミノ酸を欠く)を、インフレームのBamHI部位を含む5’プライマーと終止コドンの50bp下流に位置する3’プライマーを用いてPCRによって増幅した。PCR反応はpfuポリメラーゼを用いて、95℃45秒、55℃45秒および73℃90秒の30サイクルで実施した。融合ベクターpGIR201protAは、pRIT5(ファルマシア)から単離され蛋白AIgG結合ドメインをコードするBcII/BamHIフラグメントを、pGIR201(ドリッカマー博士より分与)のBamHI部位に挿入することによって構築した。続いて、各PCRフラグメントをpGIR201protAのBamHI部位にサブクローニングし、その結果ヒトST3Nをベクター内に存在するインスリンシグナル配列と蛋白Aに融合させた。その後得られた各融合蛋白を発現ベクターpSVLに挿入し、発現プラスミドA3NHPを得た。
シアリルトランスフェラーゼの可溶形の発現と酵素活性の分析−発現プラスミド(10μg)を100mmプレートのCOS−1細胞にリポフェクチン(BRL)を用いてトランスフェクトした。48時間後、細胞培養液を採取し、IgGセファロース(ファルマシア)とともに1時間インキュベーションした。オリゴ糖および受容体基質として糖蛋白を用いてシアリルトランスフェラーゼについてビーズを分析した。基質へのシアル酸の転移は、イオン交換またはセファデックスG−50クロマトグラフィーを用いてモニターした。
ノザン解析−解析のために、多数の組織のポリ(A)+RNAのノザンブロットをクロンテックラボラトリーズ(Clontech Laboratories)から購入した。クローンST3NHP1のcDNA挿入物をゲル精製し、放射能標識(>1×109cpm/mg)し、プローブとして使用した。
結果−ヒト胎盤cDNAを鋳型として用い、保存領域に対する縮退プライマーによるPCR実験の結果、150bpバンドの増幅が得られ、これを個々のクローンの分析のためにサブクローニングした。50個のクローンのうちで、配列決定された3個は、ラットST3Nのヒト相同体であることを証明した(実施例4−6参照)。完全なコード配列を得るために、ヒトST3N150bpフラグメントを用いて、ヒト胎盤cDNAライブラリーをスクリーニングした。2個のハイブリダイズ陽性クローンを単離した。陽性クローンの性状を調べることによって、クローンST3NHP−1は1.3kb挿入物を含み、一方、クローンST3NHP−2は長さが1.1kbのものを含むことが明らかになった。配列分析は、クローンST3NHP−1はシアリルトランスフェラーゼの完全なオープンリーディングフレームを含むことを明らかにした。それは、155塩基対の5’非翻訳領域、長さが1125塩基対のオープンリーディングフレームおよび13塩基対の3’非翻訳領域から成る。図15は、ST3NHP−1cDNAのオープンリーディングフレームとラットST3Nの対応する部分とのヌクレオチド配列の比較を示す。ST3NHP−1とラットST3Nとの間にはヌクレオチド配列レベルで91%相同性が、さらに97%保存性がアミノ酸配列レベルで観察された(図16)。この違いは、ヒト蛋白の幹領域のただ1つのアミノ酸挿入(Glu)を含む。この挿入は、ヒト∝2,6−シアリルトランスフェラーゼについての同様な発見に匹敵するが、この酵素は、ラットのそれと比較したとき幹領域に3個の新たな付加残基E−K−Kをコードする。
発現プラスミド、A3NHP(ヒト)をCOS−1細胞で発現させたとき、シアリルトランスフェラーゼ活性を示す約80kdの蛋白が各形質転換細胞から分泌された。これら融合蛋白の基質特異性特性を明らかにするために、IgGセファロースで精製し、表の受容体基質に対するシアリルトランスフェラーゼ活性について分析した。表3に示したように、ヒトおよびラット融合蛋白間で顕著な違いは存在しない。これらの結果は、ヒトST3N酵素はラットの酵素と極めて類似していることを示唆している(実施例4−6)。ラットの酵素は専ら1型鎖(Galβ1,3GlcNAc)に作用することが分かっており、触媒効果は低いながらも2型鎖(Galβ1,4GlcNAc)のシアル酸付加もまた触媒することができる。
*活性は、それぞれLNTで得られたものに対する比較である。1型および2型鎖(14)の両方に対するラットST3N動力学的定数は、これらKm値(それぞれ0.1−0.6および2−4mM)と本質的に異なり、さらに同様な相対的Vmax(それぞれ1.0−1.2および0.8−1.0)を有する。アシアロ−∝1酸性糖蛋白については、この濃度はガラクトース濃度に比較して0.2mMに設定された。
実施例12
ST3シアリルトランスフェラーゼのクローニングと発現
縮退オリゴヌクレオチドによるPCRクローニング−先きの実施例で示した配列の相同性に基づいて、先に述べたものと同じ態様で2つの縮退オリゴヌクレオチドを合成した。PCR増幅のためには、ヒト胎盤全RNA(Clontech)から合成した最初の鎖のcDNAを、各プライマー100ピコモルと合わせた。pfuポリメラーゼ(ストラテジーン)を用い30サイクル(95℃1分、37℃1分、73℃2分)で実施し、生成物をBamHIおよびHindIIIで消化し、ブルースクリプトSK(ストラテジーン)のこれらの部位にサブクローニングした。T7プライマー(ストラテジーン)を用いてこのクローンの配列を決定した。
ヒトシアリルトランスフェラーゼのクローニング−任意にプライムされたヒト胎盤cDNAをEcoRIリンカーに連結し、続いてEcoRI消化λZAPII(ストラテジーン)に連結した。得られたライブラリーを、ストラテジーンギガパックIIパッケージング抽出物を用いてパッケージし、大腸菌XL−1ブルー(ストラテジーン)上に播種した。約100万個のプラークを上記のクローン化PCRフラグメントでスクリーニングした。6個の陽性クローンをプラーク精製し、続いてR408ヘルパーファージを用いてインビボ切り出しによってブルースクリプトベクター中に切り出した。
ノザン分析−分析のために多数の組織のポリ(A)+RNAのノザンブロットをクロンテックラボラトリーズから購入した。ST3−1から単離したゲル精製放射能標識(>1×109cpm/μg)1.3kbEcoRIフラグメントをプローブとして、ブロットを調べた。
シアリルトランスフェラーゼの可溶形の構築−長型の最初の39アミノ酸を欠くST3(またSTZとも呼ばれる)短縮形を、インフレームのBamHI部位を含む5’プライマーおよび終止コドンの下流50bpに位置する3’プライマーを用いてPCRによって増幅させた。PCR反応は、pfuポリメラーゼを用いて95℃45秒、58℃45秒、73℃90秒の30サイクルで実施した。融合ベクターpGIR201protAを前述のように構築した(13、16)。このPCRフラグメントをpGIR201protAのBamHI部位にサブクローニングし、ST3をベクター中に存在するインスリンシグナル配列と蛋白Aに融合させた。得られた融合蛋白を発現ベクターpSVLに挿入し、発現プラスミドAZ3を得た。
シアリルトランスフェラーゼ(ST3)の可溶形の発現と酵素活性の分析−発現プラスミド(10μg)を100mmプレートのCOS−1細胞に、製造元の推奨にしたがってリポフェクチン(BRL)を用いてトランスフェクトした。48時間して、細胞培養液を集め、セントリコン10(アミコン製)を用いて超遠心によって濃縮した。オリゴ糖、糖蛋白および受容体基質として糖脂質を用いて、シアリルトランスフェラーゼ活性について濃縮培養液をアッセーした。基質へのシアル酸の転移はイオン交換またはセファデックスG−50クロマトグラフィーを用いてモニターした。
トランスフェクションCOS−1細胞のパルスチェース標識−この目的のために同一のトランスフェクションを実施した。48時間の発現期間経過後に、プレートを5%ウシ胎児血清(GIBCO)を含む、Met非含有DMEM培養液で洗浄し、同じ培養液で1時間培養した。250μCi〔35S〕−Metイクスプレスラベル(Du Pont−New England Nuclear)を用いて、2.5mlのMet非含有培養液中で3時間細胞をパルス標識した。これらの細胞を続いてPBSで洗浄し、さらに5%ウシ胎児血清を含む完全DMEMで一晩標識追い出し培養を実施した。続いて、分泌蛋白を含むこの培養液を採取し、IgGセファロース(ファルマシア)とともにインキュベートした。結合後、ビーズを洗浄し、レマリー(Laemalli)サンプル緩衝液中で煮沸し、遊離蛋白にSDS−PAGEを施しフルオログラフィーで解析した。
シアリルトランスフェラーゼの連結特異性分析−COS−1細胞で発現させたST3酵素、ST3NまたはST6N酵素をそれぞれ含む濃縮培養液を用いて、CMP〔14C〕NeuAc(Du Pont−New England Nuclear)でアシアロ∝1酸性糖蛋白をシアル酸付加した。14C標識生成物をセファデックスG−50カラムでゲル濾過によって分離し、続いて濃縮し水で洗浄して、セントリコン10(アミコン)を用いて塩を除去した。このシアル酸付加糖蛋白をニューカッスル病ウイルスのシアリダーゼ(Oxford Glycosystem製)による消化に付した。この酵素は、ガラクトースもしくはN−アセチルガラクトサミンに連結された非還元性末端シアル酸∝2,3、またはシアル酸に連結された∝2,8に対して強い特異性を有する。処理生成物をセファデックスG−50カラムに添加し、溶出液の液体シンチレーション計測によって〔14C〕NeuAcの遊離をモニターした。
ST3の2つの形態の一次構造−ST3シアリルトランスフェラーゼを含む遺伝子の完全なコード配列を単離するために、SM3の150bpフラグメントを用いて、ヒト胎盤cDNAライブラリーをスクリーニングした。6個のハイブリダイゼーション陽性クローン(ST3−1〜6)を分離した。陽性クローンの性状を調べることによって、クローンST3−1は1.8kbの挿入物を、クローンST3−2、3および4は1.3kbを、クローンST3−5は1.2kbを、さらにクローンST3−6は長さが1.1kbの挿入物を含むことが明らかにされた。それらの配列分析によって、cDNAは2種の形態、長型および短型として生じ、さらにクローンST3−1およびST3−2は、それらの完全なオープンリーディングフレームをそれぞれ含むことが明らかになった。長型(ST3−1)のアミノ末端配列は、近接した状態で3つのインフレームのATGコドンを含む。もし最初のATGコドンが翻訳の開始位置であるならば、たとえ当該ATGコドンが、そのコドンに対して−3位に存在するピリミジンによる翻訳開始については貧弱な配列状況であるにしても、長型、ST3−1は、159塩基対5’非翻訳領域、長さが996塩基対のオープンリーディングフレームおよび約0.6kbの3’非翻訳領域から成る。このクローンのオープンリーディングフレームは、4つの潜在的N連結グリコシル付加部位をもつ332個のアミノ酸をコードする(図17)。カイト−ドゥーリットル水分析によって、アミノ末端から7残基の位置にある18個の疎水性残基から成る1個の潜在的膜スパンニング領域が明らかにされた。この構造特性は、この遺伝子は、これまで調べられてきた他のグリコシルトランスフェラーゼ同様、II型の膜トポロジーを有し、さらにこのただ1つの疎水性領域は、切断不可のアミノ末端シグナルアンカードメインとして機能することを示唆している。
他の典型的クローン化シアリルトランスフェラーゼに対する相同性−ST3と先の実施例の3つのクローン化シアリルトランスフェラーゼとの比較によって、限定的ではあるが明瞭な相同性が明らかにされた(図18)。ST3のアミノ酸配列は、触媒ドメインにおいてST3Nのそれと38%同一性を有する。広範囲な相同性領域は仮定触媒ドメインの中心近くに位置し、この領域の整列比較ではこの配列に幾つかのギャップの導入が必要とされるが、一方、触媒ドメイン全体の他の位置に幾つかの保存的置換が存在する。
他のクローン化グリコシルトランスフェラーゼとのST3(STZ)の整列比較を図19に示す。STZ蛋白および他の3つのクローン化シアリルトランスフェラーゼの一次構造の比較は、長さが332から403個のアミノ酸の範囲の4つの酵素の最も短いものを示す(図19)。モチーフでの印の付いた列は、4つの残基のうち2つ以上で共通である残基を示している。大文字は3つまたは4つの配列で同一であることが分かった配列を示し、小文字は4つの配列のうち2つで見出された残基を示す。この3つのクローン化シアリルトランスフェラーゼはヒトGalβ1,3(4)GlcNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3N)、、ブタGalβ1,3(4)GlcNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST30)およびラットGalβ1,3(4)GlcNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST6N)である。他の3つのシアリルトランスフェラーゼ配列の以前の比較によって、高い保存性を有する限定領域が見出され、その結果共通のシアリルモチーフが明らかとなった(D.X. Wen, B.D. Livingston,K.F. Medzihradzky, S. Kelm, A.L. Burlingame & J.C. Paulson(1992)、J. Biol. Chem. 267:21011−21019; K. Drickamaer(1993)、Glycobiology 3:2−3; B.D. Livingston & J.C. Paulston(1993)、J. Biol. Chem. 268:11504−11507 )。ドリッカマーの文献(K. Drickamaer(1993)、Glycobiology 3:2−3)に従いながら、さらに12ギャップを導入してそれらの配列の整列比較をさらに最適化することによって、以前には認められなかった広範囲の配列相同性が明らかとなった(図19)。実際、比較のために整列させた蛋白によって、72個の位置で3つまたはそれ以上の配列において、さらに180個の位置で2つまたはそれ以上の配列において同一性が明らかとなった。他の3つの配列に対してSTZの最高の相同性は、ST3Nの整列比較配列全体にわたって35%同一性を有するST3Nの配列で認められた。
これらの観察は、これらの遺伝子は、全体的な構造において以前に認識されたものよりももっと多く保存されていることを示唆している。
ST3の可溶形の発現とその酵素的特性−ST3の機能分析を容易にするために、発現されたときに細胞から分泌される可溶形酵素を製造することが所望された。この蛋白の可溶形は、最初の39アミノ酸を切断可能なインスリンシグナル配列とプロテインAIgG結合ドメインとで置換することによって作製した。プロテインA/ST3融合(AZ3)を含む発現プラスミドをCOS−1細胞で発現させたとき、約80kd蛋白が分泌された。融合蛋白のサイズは、このペプチドの予想分子量より約15kd大きく、このことは、多数のST3潜在N連結グリコシル付加部位が利用されていることを示唆している。
この融合蛋白の基質特異性の特性を調べるために、表4に示したように種々の受容体基質を用いてAZ3をトランスフェクションさせた細胞から得た培養液を調べた。それを他の2つのクローン化∝2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3NおよびST3O)のそれと比較するために、先の実施例で述べたように各発現プラスミドを用いて同じ実験を実施した。
表4に示したように、シアル酸は、ST3酵素によって凍結防止糖蛋白、アシアロ−フェツインおよびアシアロ−∝1−酸性糖蛋白中に取り込まれたが、一方、ヒツジの下顎腺アシアロ−ムチンは受容体にはならなかった。さらに、調べた他のいずれの糖蛋白(完全なフェツインおよび∝1−糖蛋白(結果は示さず)を含む)でも顕著な量のシアル酸取り込みはなかった。これらのうちで、アシアロ−フェツインは最良の受容体で、これはGalβ1,3GalNAcおよびGalβ1,4GlcNAc配列の両方を含んでいる。アシアロ−ムチン中に取り込まれる少量のシアル酸さえ、少量のGalβ1,3GalNAc構造を含むそのオリゴ糖の微量異種成分によって生じたものと言える。対照的に、ST3O酵素は、糖蛋白のGalβ1,3GalNAc配列に極めて特異的で、ST3N酵素は、低い効率とはいえGalβ1,4GlcNAc末端をもつ受容体に作用する。
糖脂質を受容体基質として用いたとき、ST3酵素に対する好ましい糖脂質は、GM1をもつアシアロ−GM1および、その程度は低下するが基質としてまた作用するラクト−ネオテトラオシルセラミド(nLc4)である(表4)。さらに、低いけれども明瞭な取り込みはラクトシルセラミド(LacCer)でもまた認められた。対照的に、ST3O酵素は、アシアロ−GM1およびGM1に良好に作用し、一方、全ての糖脂質、ラクト−ネオテトラオシルセラミドでさえST3N酵素にとって極めて貧弱な受容体である。
ST3酵素の連結特異性−ST3酵素はGalβ1,3GalNAcおよびGalβ1,4GlcNAc配列を利用し、それらの2,3シアリル付加オリゴ糖は受容体基質として役立たないので、この酵素は∝2,3−シアリルトランスフェラーゼであると考えられる。ST3酵素によって形成される生成物の連結特異性を確認するために、ニューカッスル病ウイルスシアリダーゼを用いた。この酵素は、NeuAc∝2,6GalおよびNeuAc∝2,6GalNAc連結を含むオリゴ糖が無傷のまま残る条件下で、アスパラギンにN−連結された糖蛋白オリゴ糖およびスレオニンまたはセリンにOー連結された糖蛋白オリゴ糖の両方に含まれるNeuAc∝2,3Gal連結の加水分解について厳密な特異性を示すことが知られている。各〔14C〕NeuAc標識∝1−酸性糖蛋白を、それぞれST3、ST3NおよびST6N酵素を用いてアシアロ−誘導体から生成した。続いて、これらの標識生成物をニューカッスル病ウイルスのシアリダーゼで加水分解した。全〔14C〕NeuAcの83%、82%および0%が、ST3、ST3NおよびST6N生成物からそれぞれ遊離された。この結果は、ST3酵素によって形成されたシアリル付加生成物はNeuAc∝2,3Gal連結を有し、したがってST3酵素はβ−ガラクトシド∝2、3−シアリルトランスフェラーゼであることを示している。
実施例13
ヒトST3Oシアリルトランスフェラーゼのクローニングと発現
ヒトGalβ1,3GalNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼヒトST3O遺伝子シアリルモチーフのPCRクローニング−保存シアリルモチーフの配列情報に基づいて、2つの縮退オリゴヌクレオチドを合成した(Genosis)。これは、150bp増幅フラグメントを生じるであろうと予想された。5’および3’配列は、それぞれ5’GGAAGCTTTGSCRNMGSTGYRYCRTCGTおよび5’CCGGATCCGGTRGTYTTNSNSCCSACRTC(N=A+G+T+C、S=G+C、R=A+G、M=A+C、Y=C+T)であった。PCR増幅では、ヒト胎盤またはヒト胎児脳の全RNA(クロンテック)から合成された最初の鎖のcDNAを、100ピコモルの各プライマーと合わせた。pfuポリメラーゼを用いて30サイクル(95℃1分、37℃1分、73℃2分)実施し、生成物をBamHIとHindIIIで消化して、ブルースクリプトSK(ストラテジーン)のこれらの部位でサブクローニングした。ヒト胎盤から得られた50個のクローンをT7プライマー(ストラテジーン)を用いて配列決定し、ブタの配列との相同性の判定によって、これらの8クローンはヒトST3Oシアリルモチーフを含んでいると判定した。
ヒトST3OシアリルトランスフェラーゼcDNAのクローニング−ランダムにプライムされたヒト胎盤cDNAをEcoRIリンカーに連結し、続いてEcoRI消化λZAPII(ストラテジーン)に連結した。得られたライブラリーをストラテジーンギガパックIIパッケージング抽出物を用いてパッケージし、大腸菌XL−1ブルー(ストラテジーン)上に播種した。約100万個のプラークを上記のクローン化PCRフラグメントでスクリーニングした。4個の陽性クローン(hST3O−1〜4)をプラーク精製し、続いて、R408ヘルパーファージを用いてインビボ切り出しによってブルースクリプトベクターに切り出した。陽性クローンの特性を明らかにすることによって、クローンhST3O−1は3.0kb挿入物を、クローンhST3O−2は2.7kb、クローンhST3O−3は2.2kb、さらに、クローンhST3O−4は長さが2.2kb挿入物を含むことが明らかにされた。配列分析によって、これらcDNAは、その5’末端が異なる2つの型をもつことが明らかになった。hST3OcDNAの2つの型の完全なコード配列は、hST3O−1(長い)およびhST3O−2(短い)のcDNA挿入物に含まれ、その各々は同一の蛋白配列をコードし、その5’非翻訳配列のみに違いが存在した。特に、短型のヌクレオチド配列はヌクレオチド−153からヌクレオチド−37の欠失を有し(図20)、おそらくこれは、それがコンセンサススプライス部位と境を接するためにまた別のスプライシングが生じたためであろう。もっとも大きなクローン、hST3O−1(3kb)は、約0.9kbの5’非翻訳領域、長さが1023塩基対のオープンリーディングフレーム、約1.1kbの3’非翻訳領域から成る。
可溶形ヒトST3Oの構築−オープンリーディングフレームの最初の44アミノ酸を欠くヒトST3Oの短縮形を、インフレームのBamHI部位を含む5’プライマー(5’CGGGATCCCGAGCTCTCCGAGAACCTGAA)およびEcoRI部位をもつ終止コドンの下流50bpに位置する3’プライマー(5’CGGAATTCTGGGGCTGGAAATGCAGAG)によって増幅させた。PCR反応はpfuポリメラーゼを用いて、30サイクル(95℃45秒、55℃45秒、73℃90秒)で実施した。このPCR精製物をpGIR199(K.ドリッカマー博士(コロンビア大学)より分与)のBamHI−EcoRI部位でサブクローニングし、pGIRベクターに存在するインスリンシグナル配列とシアリルトランスフェラーゼのインフレーム融合物を得た。得られた融合蛋白を含むcDNAをpGIR構築物から切り出し、発現ベクターpSVLのXbal−SmaI部位に挿入し、発現プラスミドI3OHPを得た。
可溶形シアリルトランスフェラーゼの発現と酵素活性の分析−製造元の推奨にしたがってリポフェクチン(Life Technologies, Inc.)を使用し、発現プラスミド(10μg)を100mmプレートのCOS−1細胞にトランスフェクトした。48時間後、細胞培養液を集め、α2、3−シアリルトランスフェラーゼ活性測定のためにセントリコン10(アミコン)を用いて超遠心によって約10倍に濃縮した。活性は、受容体基質として二糖類(Galβ1,3GalNAcおよびGalβ1,4GlcNAc)、糖蛋白、凍結防止糖蛋白)(Galβ1,3GalNAcα−O−Thr)および糖脂質、アシアロ−GM1およびGM1を用いて求めた。各基質へのシアル酸の転移は、先に記載されたように(Weinsteinら、J. Biol. Chem. 275:13835−13844(1982))イオン交換(二糖類)またはセファデックスG−50クロマトグラフィーを用いてモニターした。
結果:ヒトGalβ1,3GalNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(hST3O)cDNAのクローニングと発現−上記で述べたように、ヒトGalβ1,3GalNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(hST3O)のcDNAをPCR法によってクローニングし、保存シアリルモチーフをコードするcDNAフラグメントを得た。続いてヒト胎盤由来の標準cDNAライブラリーをスクリーニングした。図20は、hST3Oのヌクレオチド配列と推定アミノ酸配列を示す。ブタST3O配列との比較によって、予想コード領域にはヌクレオチド配列レベルで84%相同性、アミノ酸配列レベルで86%保存性が存在することが示された。ヒト蛋白における違いは、細胞質尾部のただ1つのアミノ酸の欠失および幹領域の2つのアミノ酸の欠失を含む。
5’および3’非翻訳領域の比較は相対的に低い相同性(50%未満)を明らかにした。その5’末端が異なる2つのcDNAをクローニングした(実験方法の項)。2つのcDNAの長い方は極めて長い(930bp)5’非翻訳領域を有し、これは多数の上流ATGコドンと上流オープンリーディングフレーム( “ミニ−シストロン”)を含んでいる。仮定翻訳開始部位から上流に16個のATGコドンが存在する。7個はインフレームの終止コドンが直ぐ後に続き、一方、8個は、終止コドンまで13アミノ酸から48アミノ酸の範囲の短いオープンリーディングフレームがその後に続く。2つのcDNAの短い方では1つまたは2つ以上のエクソンが欠落しており、3個の上流ATGを含む203bpをコードする。上流ATGコドンは強く翻訳を抑制する(Kozak, J. Biol. Chem. 266:19867−19870(1991))ので、5’非翻訳領域は、hST3O遺伝子発現の翻訳制御に重要な役割を果たすかもしれない。
hST3OcDNAはGalβ1,3GalNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼをコードし、密接に関連する蛋白はコードしないことを証明するために、組換え体ヒトST3O融合蛋白可溶形を、シアリルトランスフェラーゼの最初の44アミノ酸を切断可能インスリンシグナル配列(Experimental Procedure)で置換することによって作製した。続いて、トランスフェクトCOS−1細胞で産生されたhST3O蛋白を組換え体ブタST3O酵素のそれと比較した。ブタおよびヒトの蛋白の両方の発現プラスミドは、トランスフェクトCOS−1細胞の培養液中にシアリルトランスフェラーゼ活性を示す約38000ダルトンの蛋白を産生した(データは示さず)。それらの基質特異性の性状を明らかにするために、トランスフェクション後48時間して培養液を採取し濃縮して、受容体基質一覧に対してシアリルトランスフェラーゼ活性についてアッセーした。表5に示したように、非受容体の二糖類(Galβ1,4GlcNAc)、好ましい受容体配列(Galβ1,3GalNAc−R)、およびST3Oシアリルトランスフェラーゼとリーらが報告した(1994)同様な特異性をもつ相同なネズミの酵素とを区別する2つの受容体基質を含む受容体基質間で認められる顕著な違いは存在しなかった。
実施例14
ヒトSTXのクローニング
ヒトSTX(hSTX)遺伝子シアリルモチーフのPCRクローニング−保存シアリルモチーフの配列情報に基づいて、150bpの増幅フラグメントが得られると予想される、2つの縮退オリゴヌクレオチドを合成した(Genosis)。5’および3’プライマーは、それぞれ5’GGAAGCTTTGSCRNMGSTGYRYCRTCGTおよび5’CCGGATCCGGTRGTYTTNSNSCCSACRTC(N=A+G+T+C、S=G+C、R=A+G、M=A+C、Y=C+T)であった。PCR増幅のためには、ヒト胎盤またはヒト胎児脳の全RNA(クロンテック)から合成した最初の鎖cDNAを、100ピコモルの各プライマーと合わせた。pfuポリラーゼ(ストラテジーン)を用いて30サイクル(95℃1分、37℃1分、73℃2分)で実施し、生成物をBamHIとHindIIIで消化し、ブルースクリプトSK(ストラテジーン)のこれらの部位でサブクローニングした。ヒト胎児脳から得られた30クローンをT7プライマーを用いて配列決定した。ラット配列との相同性で判定したとき、それらのうちの12個がSTX遺伝子のシアリルモチーフを含んでいた。
ヒトSTX(hSTX)cDNAのクローニング−ヒトSTX(hSTX)cDNAを、上記のようにして得た150bp増幅シアリルモチーフの配列情報から得られた5’プライマー(5’GGCTATGGGCAGGAGATTGAC)、およびラットSTX配列に由来する3’プライマー(5’TCCTTACGTAGCCCCGTCACACTTGG)を用い、鋳型としてヒト胎児脳全RNA(クロンテック)から逆転写したcDNAを使ってPCRによって増幅させた。PCR生成物(0.62bp)、hSTXをサブクローニングし配列決定した。
結果:ヒトSTXcDNAのクローニング−ヒトSTX(hSTX)遺伝子の部分cDNA(620bp)を実験方法で述べた通り単離した。図21は、hSTXcDNAのヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を示す。ラットSTX配列との比較によって、ヌクレオチドレベルでは90%相同性が存在することが示唆された。アミノ酸レベルでは、保存度は98%である。これは、2種の哺乳動物種間で比較されたシアリルトランスフェラーゼ遺伝子と他のグリコシルトランスフェラーゼとの間で今日までに認められた最高の保存度である。
本発明の代表的な実施例を記載してきたが、本明細書に開示したものは代表例のみであり、その他の種々なる変更、応用、改造が本発明の範囲内において実施可能であることは当業者には理解されよう。したがって、本発明は本明細書で詳述された実施例に限定されないで、むしろ以下の請求の範囲によってのみ制限される。
ブタのGalβ1,3GalNAcα2,3シアリルトランスフェラーゼ( “α2,3−O”)。ブタα2,3−0mRNAのヌクレオチド配列は、2個の重複クローンλST1およびλST2のDNA配列分析から決定された。α2,3−0ポリペプチドの予想アミノ酸配列はそのDNA配列の上部に示し、類似精製蛋白のN−末端の最初の残基から番号付けした。仮説シグナルアンカー配列は白枠で表示した。Asn−X−Thrによる潜在的糖付加部位は星印(*)で示した。この配列は、重複クローンλST1およびλST2によってコードされるα2,3シアリルトランスフェラーゼの長形型に一致する。配列番号1および2を参照。
ラットGalβ1,3(4)GlcNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ( “α2,3−N”)。ラットα2,3−NmRNAのヌクレオチド配列はDNA配列分析から決定された。シアリルトランスフェラーゼポリペプチドの推定アミノ酸はそのDNA配列の上部に示し、N−末端蛋白配列決定にしたがい成熟蛋白の最初の残基から番号付けした。配列番号3および4参照。
図2Aの続きである。
CDP−ヘキサノルアミンアガロース上でのα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼの精製(KC1溶出)。2kgのブタ肝臓由来ホモジネートをCDP−ヘキサノルアミンアガロースカラムに添加し、KC1の直線状勾配で溶出させた(実験方法参照)。蛋白濃度および受容体基質としてラクトースを用いるシアリルトランスフェラーゼ活性は、個々の分画について決定した。2つの酵素活性ピークを表示の通りプールAおよびプールBに分けた。
CDP−ヘキサノルアミンアガロース上でのα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼの精製(カラムIII、CDP溶出)。酵素活性は、特異的受容体基質凍結防止糖蛋白(antifreeze glycoproteoin(AFGP))を用いて求めた。カラムAおよびBで、酵素活性の溶出は、それぞれ48kDaおよび45kDaの蛋白種と専ら相関性を示した。これら2つの種、α2,3シアリルトランスフェラーゼの形態Aおよび形態Bは、比活性度が8−10ユニット/mg蛋白であった。48kDaおよび45kDa種をPVDF膜に移し、NH2−末端配列決定によって分析した。
CDP−ヘキサノルアミンアガロース上でのα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼの精製(カラムIII、CDP溶出)。酵素活性は、特異的受容体基質凍結防止糖蛋白(antifreeze glycoproteoin(AFGP))を用いて求めた。カラムAおよびBで、酵素活性の溶出は、それぞれ48kDaおよび45kDaの蛋白種と専ら相関性を示した。これら2つの種、α2,3シアリルトランスフェラーゼの形態Aおよび形態Bは、比活性度が8−10ユニット/mg蛋白であった。48kDaおよび45kDa種をPVDF膜に移し、NH2−末端配列決定によって分析した。
48kDaおよび45kDaα2,3−OシアリルトランスフェラーゼペプチドのNH2−末端アミノ酸配列。48kDaペプチドのNH2−末端近くの推定シグナルアンカードメインを含む16個の疎水性アミノ酸には下線が付されている。
2個のシアリルトランスフェラーゼのドメイン構造および相同領域の比較。A:α2,6シアリルトランスフェラーゼおよびα2,3−Oシアリルトランスフェラーゼの一次配列の整列比較は、64%の配列同一性および84%の配列相同性をもつ45個のアミノ酸領域を明らかにした。
2個のシアリルトランスフェラーゼのドメイン構造および相同領域の比較。B:図6Aの相同性ドメインはα2,6シアリルトランスフェラーゼのエクソン2および3の間の結合部に広がり、両酵素の触媒ドメイン内に存在する。
2つのα2,3−OシアリルトランスフェラーゼcDNAクローンの制限地図および配列決定の仕方。
触媒的に活性な可溶性α2,3−Oシアリルトランスフェラーゼ発現。A:α2,3−Oシアリルトランスフェラーゼの可溶形の発現を指令するcDNA、sp−STを野性型シアリルトランスフェラーゼの細胞質ドメインとシグナルアンカードメインをインスリンシグナルペプチドで置き換えることによって構築した。sp−STは38kDa(宿主細胞にトランスフェクトしたとき分泌される蛋白種)をコードすると予想された。B:sp−STを発現ベクターpSVLに挿入し、COS−1細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間して、細胞をTran35S標識を含む培養液中で2時間パルス標識し、その後標識を含まない培養液で5時間追跡期間をおいた。この培養液を採取し、15倍に濃縮し、SDS−PAGE/フルオログラフィーで解析した。sp−STおよび擬似トランスフェクト細胞の培養液サンプルをそれぞれ2つずつ調べた。C:COS−1細胞にリポフェクチン(+sp−ST)またはリポフェクチン単独(擬似)を7Bと同じ態様でトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間して、培養液を採取し、15倍に濃縮し、特異的受容体基質AFGPとともにシアリルトランスフェラーゼ活性について調べた(J.E. Sadlerら、J. Biol. Chem., 254:4434−4443(1979))。
Galα2,3−Nシアリルトランスフェラーゼ酵素の配列決定された最長トリプシン消化ペプチドのCIDスペクトル。このペプチド配列は、Leu−Thr−Pro−Ala−Leu−Asp−Ser−Leu−His−Cys* −Argで、MH+=1283.6である。Cys* はカルボキシメチルシステインを表す。N−末端で電荷を保持するイオンはa、b、cイオンと表示され、C−末端イオンはx、y、zフラグメントと称される(K. Biemann, Meth. Enzymol., 193:886−887(1990))。最初のイオン(a、x)は、α炭素とカルボニル基との間の切断産物である。イオンyおよびbは、ペプチド結合が切断されたときに形成される。イオンcおよびzは、アミノ基とα炭素との間の切断によって存在する。これらのフラグメントの番号付けは、常に対応する末端から開始する。側鎖のフラグメント化はアミノ酸のβおよびγ炭素との間で発生し、いわゆるd(N−末端)およびw(C−末端)イオンが得られる。観察されたフラグメントイオンは表に示す。同じイオンシリーズに属するイオンは並べて表示した。
Galα2,3−Nシアリルトランスフェラーゼ酵素のカルバミル付加トリプシン消化ペプチドのCIDスペクトル。ペプチド配列は、Leu−Asn−Ser−Ala−Pro−Val−LysでMH+=771.4である。フラグメント化は、リジン残基のε−アミノ基ではなくN−末端での修飾を明瞭に示唆した。m/z669(w7)における豊富なイオンによって、このペプチドにおけるN−末端ロイシンの存在が確信される。星印を付したイオンはマトリックス関連バックグラウンドイオンである(Falickら、Rapid Commun. Mass Spectrom., 4:318(1990))。観察されたフラグメントイオンは表に示す。同じイオンシリーズに属するイオンは並べて表示した。
先にクローニングしたシアリルトランスフェラーゼを含むGalβ1,3(4)GlcNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3N)由来ペプチド1および11のアラインメント(整列比較)。Galβ1,4GlcNAcα2,6−シアリルトランスフェラーゼ(ST6N)およびGalβ1,3GalNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3O)は白棒で示した。黒棒はシグナルアンカー配列を示す。斜線棒は、2つのシアリルトランスフェラーゼ間で確認された相同領域を示す。
クローニングされた3種のシアリルトランスフェラーゼ。この3種のクローン化シアリルトランスフェラーゼは、ラットGalβ1,3(4)GLcNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3N)、ブタGalβ1,3GalNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3O)およびラットGalβ1,4GlcNAcα2,6−シアリルトランスフェラーゼ(ST6N)である。この領域はGalβ1,3(4)GlcNAcα2,3−シアリルトランスフェラーゼ(ST3N)の残基156から残基210までの55アミノ酸から成る。アミノ酸同一性は枠で示した。
増幅フラグメントSM1の推定アミノ酸配列および先に性状決定された保存相同領域との比較。相同性を有する共通保存領域は、クローニングして性状を決定したシアリルトランスフェラーゼと増幅フラグメントSM1との保存相同領域の比較から作製した。不変アミノ酸は大文字で示し、一方、50%以上の保存相同領域に存在するアミノ酸は小文字で示した。rまたはqが見出される部位はbで示し、iまたはvが見出される部位はxで示した。下線部アミノ酸は、縮退プライマーのデザインに用いた領域を表す。増幅フラグメントで見出された先の不変アミノ酸には星印を付した。
STX1のヌクレオチド配列と推定アミノ酸配列。最も長いオープンリーディングフレームの推定アミノ酸配列は、保存相同領域SM1(アミノ酸154−208))(波線枠で示す)をコードする。推定シグナルアンカー(アミノ酸8−23)配列は枠で囲み、潜在的N連結糖付加部位は下線で示した。配列番号7および8参照。
図14Aの続きである。
対応するラット酵素との比較を示す、ヒトGalβ1,3(4)GlcNAc∝2,3−シアリルトランスフェラーゼのヌクレオチド配列。
対応するラット酵素との比較を示す、ヒトGalβ1,3(4)GlcNAc∝2,3−シアリルトランスフェラーゼのアミノ酸配列。
ST3シアリルトランスフェラーゼのヌクレオチド/アミノ酸配列。
相同なモチーフを示す本発明のシアリルトランスフェラーゼのアミノ酸配列の比較。
相同なモチーフを示す本発明のシアリルトランスフェラーゼのアミノ酸配列のまた別の比較。
図19Aの続きである。
ヒトST30をコードするcDNAのヌクレオチド配列と推定アミノ酸配列。
図20Aの続きである。
ヒトSTXをコードするcDNAのヌクレオチド配列と推定アミノ酸配列(PCRプライマーの部位には下線を付し、潜在的なN−糖付加部位には星印を付した)。