しかし、従来のインクジェットプリントヘッドは、インク室の形状やインク室の中におけるインクの流れが必ずしも均一でないことに起因して、インク室に古いインクが滞留し、印刷品質の低下を招来する場合があった。又、インクがインク室に充填される際にエアが抜け難く、そのエアによって吐出不良が発生し、印刷欠陥が生じる場合があった。インクジェットプリントヘッドを採用する印刷機器には、高品質の印刷の実現が求められており、このような品質低下に直結する問題の発生につながる要素は、徹底的に排除しておくことが望ましい。
本発明は、このような従来技術の抱える課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、インク室に古いインクが滞留し難く、インクの充填の際にエアの抜けが良好であり、長期にわたり品質の高い印刷を実現し得るインクジェットプリントヘッドを提供することである。検討が重ねられた結果、以下に示す手段によって、上記目的が達成されることが見出された。
即ち、先ず、本発明によれば、流体が注入される注入孔と、その注入孔に連通する加圧室と、その加圧室に連通し加圧室で加圧された流体が吐出される吐出孔と、を具備する、1又は複数の吐出機構部を備え、その吐出機構部の加圧室は壁部によって形成され、その壁部の加圧室を形成する面に角部を有する吐出デバイスであって、壁部の加圧室を形成する面(加圧室形成面ともいう)を被覆する加圧室内薄膜を備え、その加圧室内薄膜の厚さが、壁部の角部において他の部分より厚くなり、(その結果)加圧室内薄膜によって又は壁部と加圧室内薄膜とによって形成される加圧室内空間が、曲面で形成されている吐出デバイスが提供される。
本発明に係る吐出デバイスは、加圧室内薄膜の厚さが、注入孔と吐出孔とを結ぶ方向に傾斜していることが好ましい。
本発明に係る吐出デバイスは、換言すれば、加圧室内薄膜が又は壁部と加圧室内薄膜とが、曲面を構成して加圧室内空間を作っていて、加圧室内薄膜が存在しないとすれば流体が澱みがちな壁部の角部(すみぶとよぶ、隅部とも記し、コーナー部を意味する)を、加圧室内薄膜によって滑らかな曲面による空間に変えているものである。曲面は、例えば、注入孔と吐出孔とを結ぶ方向に平行な断面において、算術表面粗さ(Ra)が、0.01〜1.0μm程度の曲面であることが好ましい。
本発明に係る吐出デバイスは、更に、加圧室を形成する壁部が積層体で構成され、壁部の加圧室を形成する面に(上記角部に加えて)段差を有する吐出デバイスであって、加圧室内薄膜が段差を被覆し、(その結果)加圧室内空間が、平滑面で形成されているものであることが好ましい。
本発明に係る吐出デバイスの上記好ましい態様は、換言すれば、加圧室内薄膜が、平滑面を構成して加圧室内空間を作っていて、加圧室内薄膜が存在しないとすればエアが溜まりがちな壁部の段差を、加圧室内薄膜によって滑らかな面による空間に変えているものである。平滑面とは、曲面である場合を含み、段差が存在しない滑らかな面である。
本発明に係る吐出デバイスにおいては、注入孔及び吐出孔はそれぞれ壁部によって形成された貫通孔であり、壁部の注入孔を形成する面(注入孔形成面ともいう)を被覆する注入孔内薄膜、及び壁部の吐出孔を形成する面(吐出孔形成面ともいう)を被覆する吐出孔内薄膜を備え、注入孔内薄膜の厚さが、吐出デバイスの外部側から加圧室内空間側へ向けた方向に徐々に薄くなるように傾斜をしており、注入孔内薄膜によって又は壁部と注入孔内薄膜とによって形成される注入孔内空間がテーパー状に形成され、且つ、吐出孔内薄膜の厚さが、加圧室内空間側から吐出デバイスの外部側へ向けた方向に徐々に薄くなるように傾斜をしており、吐出孔内薄膜によって又は壁部と吐出孔内薄膜とによって形成される吐出孔内空間がテーパー状に形成されていることが好ましい。
本発明に係る吐出デバイスの上記好ましい態様は、換言すれば、注入孔内薄膜が又は壁部と注入孔内薄膜とがテーパー状の注入孔内空間を作り、吐出孔内薄膜が又は壁部と吐出孔内薄膜とがテーパー状の吐出孔内空間を作っているものである。尚、本明細書において、注入孔及び吐出孔を貫通孔ともいい、注入孔内薄膜及び吐出孔内薄膜を貫通孔内薄膜ともいい、注入孔内空間及び吐出孔内空間を貫通孔内空間ともいい、注入孔形成面及び吐出孔形成面を貫通孔形成面ともいう。
テーパー状とは、断面が徐々に狭まる又は拡がる形状であることを意味し、例えば切頭円錐形状が該当する。貫通孔内空間がテーパー状であるため、貫通孔内薄膜によって又は壁部と貫通孔内薄膜とによって形成される貫通孔内空間は、その一の開口と他の開口とで開口の大きさ(面積)が異なるものとなる。
本発明に係る吐出デバイスは、加圧室(加圧室内空間)をインク室として用い、吐出孔(貫通孔内空間)をインクを吐出するノズルに通じるインク吐出孔として用い、注入孔(貫通孔内空間)をインクタンクに通じるインク供給孔として用いることにより、インクジェットプリントヘッドの主要部品として利用可能なものである。
本明細書において、単に薄膜というときは、加圧室内薄膜と、注入孔内薄膜及び吐出孔内薄膜(貫通孔内薄膜)の全てを指す。本発明に係る吐出デバイスの好ましい態様は、貫通孔形成面及び加圧室形成面の全てに薄膜が形成され、薄膜の厚さが、傾斜をしているものである。更に、本発明に係る吐出デバイスにおいては、加圧室内薄膜と貫通孔内薄膜とが一体化して継ぎ目のない薄膜になっていることが好ましい。
薄膜のうち加圧室内薄膜の厚さは、注入孔と吐出孔を結ぶ方向に傾斜をしているが、これは、注入孔と吐出孔を結ぶ方向に平行な断面において、加圧室内薄膜が一定の厚さではなく、一の部分から他の部分に向けて徐々に厚くなり又は薄くなっている態様を意味する。換言すれば、注入孔と吐出孔を結ぶ方向に平行な断面において、壁部とともに加圧室内薄膜をみた場合に、壁部位置を基準とすれば加圧室内薄膜の表面位置が連続的に傾斜しているものである。注入孔と吐出孔を結ぶ方向に平行な断面は、加圧室内薄膜の厚さの態様を特定する面であり、自らの面内に注入孔と吐出孔を含んで加圧室内薄膜の厚さの態様が認識出来る断面であればよく、限定されるものではない。又、加圧室内薄膜の厚さの傾斜の態様は、即ち加圧室内薄膜が徐々に厚くなるか徐々に薄くなるかは、貫通孔の形成された位置・場所及び加圧室の形状により変わり、一義的に定まるものではない。
本明細書において、加圧室とは、壁部に備わる注入孔及び吐出孔(貫通孔)を除き、壁部で区画された空間を意味する。そして、加圧室内薄膜は、壁部の加圧室形成面の一部又は全てを被覆するものであり、加圧室形成面に設けられ得るものであるから、加圧室内薄膜によって又は壁部と加圧室内薄膜とによって形成される空間である加圧室内空間は、加圧室で構成される空間に含まれる空間になる。同様に、注入孔内薄膜は、壁部の注入孔形成面の一部又は全てを被覆するものであり、注入孔形成面に設けられ得るものであるから、注入孔内薄膜によって又は壁部と注入孔内薄膜とによって形成される空間である注入孔内空間は、注入孔で構成される空間に含まれる空間になり、又、吐出孔内薄膜は、壁部の吐出孔形成面の一部又は全てを被覆するものであり、吐出孔形成面に設けられ得るものであるから、吐出孔内薄膜によって又は壁部と吐出孔内薄膜とによって形成される空間である吐出孔内空間は、吐出孔で構成される空間に含まれる空間になる。
本明細書において、加圧室形成面は、空間である加圧室を形成する壁部の面であって、加圧室に接している面を指し、これを加圧室内面ともよぶ。それに対し、空間である加圧室を形成する壁部の面であって、加圧室に接していない面を、加圧室外面とよぶ(加圧室外面はダミー加圧室に接している場合がある)。
本発明に係る吐出デバイスにおいて、貫通孔(注入孔及び吐出孔)は、壁部に合わせて2つ設けられていればよく、その位置については限定されない。又、貫通孔の形状、大きさ(径)は、限定されるものではないが、例えば、断面が円形であり、その径が10〜1000μm程度であることが好ましい。
本発明に係る吐出デバイスにおいて、薄膜は、限定されるものではないが、バリア膜、電極膜、絶縁膜、保護膜、防湿膜からなる膜群から選ばれる一の単層膜又は二以上の多層膜で構成されることが好ましい。又、本発明に係る吐出デバイスにおいては、加圧室を形成する壁部は、セラミックス材料で構成され、焼成一体化されていることが好ましい。
本発明に係る吐出デバイスでは、壁部が2つの側壁とその2つの側壁を接続する天井壁及び底壁とを含んでなり、2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によって加圧室の容積が変化し流体を加圧するものであることが好ましい。この場合、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成されればよく、加圧室を形成する残りの壁部である天井壁及び底壁は変位を生じないものであってもよいが、天井壁及び底壁の何れか又は両方が圧電/電歪作動部で構成される態様であってもよい。又、壁部によって形成される加圧室の形状は限定されるものではないが、より好ましい加圧室の形状は、長手方向の断面において高さに比して幅の狭い角筒形を表す形状、即ちスリット状である。スリット状の加圧室とは、それを形成する壁部の構成要素のうち、相対的に2つの側壁が長く天井壁及び底壁が短いことを表す。尚、本態様において、壁部がそれぞれ、側、天井、底、の語で修飾され表現されるが、絶対的な、方向乃至位置関係を示すものではない。即ち、例えば必ずしも重力方向に位置する壁部が底壁であるわけではない。又、側壁が圧電/電歪作動部で構成され、と表現されるが、側壁の一部が圧電/電歪作動部で構成される場合を含む。より好ましくは、側壁全体が圧電/電歪作動部を構成する態様である。
本発明に係る吐出デバイスは、壁部が2つの側壁とその2つの側壁を接続する天井壁及び底壁とを含んでなり、2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によって加圧室の容積が変化し流体を加圧するものである場合に、2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部は圧電/電歪体と少なくとも一対の駆動電極とで構成され変位を発現する。この圧電/電歪作動部の態様は、限定されるものではないが、側壁の高さ方向に交互に積層をされた層状の圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生することが好ましい。更に、この態様の場合に、層状の圧電/電歪体の数は限定されず、1乃至複数であってよい。圧電/電歪作動部の最小構成は、1層の圧電/電歪体を挟んで一対の駆動電極が形成される態様であるが、変位効率を向上させるためには、圧電/電歪体は、より薄く、多層であることが好ましい。層状の圧電/電歪体、と表現されるが、後述する板状の圧電/電歪体、と対比させて表したものであり、層状及び板状の語が圧電/電歪体の厚さを限定するわけではない。又、側壁の高さ方向、と表現されるが、側壁の幅方向、と対比させ相対的な方向として表したものであり、高さ及び幅の語が絶対的な方向を示すわけではない。即ち、必ずしも重力方向の反対方向が高さ方向ではない。
又、本発明に係る吐出デバイスは、壁部が2つの側壁とその2つの側壁を接続する天井壁及び底壁とを含んでなり、2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によって加圧室の容積が変化し流体を加圧するものである場合において、2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、側壁の幅方向に交互に積層をされた板状の圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの横効果により変位を発生することが好ましい。駆動電極が側壁の幅方向に圧電/電歪体と積層をされてその側壁を構成するから、積層の最外層に現れた駆動電極が加圧室内面(及び加圧室外面)にあたる場合があり、このときには、少なくとも加圧室内面において駆動電極は本発明にいう薄膜として形成される場合がある。この態様の場合には、1つの壁部あたりの板状の圧電/電歪体の数は限定されず、1又は複数であってよい。圧電/電歪作動部の最小構成は、1枚の圧電/電歪体を挟んで、その両側面に一対の駆動電極が形成される態様である。圧電/電歪体が複数備わる場合には側壁の幅方向に積層され、複数の圧電/電歪体の間の面にも電極が形成される。既に述べたように、板状の圧電/電歪体と表現されるが、圧電/電歪体の厚さを限定するわけではない。板状の圧電/電歪体は複数備わることが好ましい。変位効率が向上するからである。板状の圧電/電歪体が複数備わる場合には、駆動電極は圧電/電歪体の側面に形成され、圧電/電歪体と圧電/電歪体との間の面にも形成されるので、圧電/電歪体と少なくとも一対の駆動電極とが、側壁の幅方向に交互に積層をされる態様となる。
本発明に係る吐出デバイスは、別の態様として、壁部が、その一部に他の部分より相対的に薄い薄壁を含んでなり、その薄壁に圧電/電歪素子が接合され、その圧電/電歪素子の変位に基づく薄壁の変形によって加圧室の容積が変化し流体を加圧するものであってもよい。
尚、電界誘起歪みの縦効果とは、分極方向に電界を加えたときに同じ方向に伸縮するような圧電/電歪作動部(圧電/電歪体)の変形をいい、電界誘起歪みの横効果とは、分極方向に電界を加えたときに垂直方向に伸縮するような圧電/電歪作動部(圧電/電歪体)の変形をいう。本明細書において、圧電/電歪と称しているが、電界によって誘起される歪みを利用する作動部又は素子であって、狭義の意味での、印加電界に概ね比例した歪み量を発生する圧電効果又は印加電界の二乗に概ね比例した歪み量を発生する電歪効果を利用するものに限定されるものではなく、強誘電体材料全般にみられる分極反転、反強誘電体材料にみられる反強誘電相−強誘電相転移、等の現象を利用するものも含まれる。本発明に係る吐出デバイスにおいて、より好ましいものは、壁部の材料として強度面に優れるセラミックを用いたものである。又、分極にかかる処理が行われるか否かについては、圧電/電歪作動部(圧電/電歪素子)の圧電/電歪体に用いられる圧電/電歪材料の性質に基づいて適宜決定される。
次に、本発明によれば、流体が注入される注入孔と、その注入孔に連通する加圧室と、その加圧室に連通し加圧室で加圧された流体が吐出される吐出孔と、を具備する、1又は複数の吐出機構部を備え、その吐出機構部の加圧室は壁部によって形成され、その壁部の加圧室を形成する面に角部を有する吐出デバイスを製造する方法であって、壁部を成形して加圧室を形成し、更に壁部に加圧室に通じる注入孔と吐出孔を設け、吐出機構部を作製した後に、その吐出機構部の各々の注入孔と吐出孔の何れか又は両方を介して加圧室の中へ液状の成膜材料を充填し加圧室の中を成膜材料で満たし、その後に、加圧室の中と外との間に圧力差を生じさせ、注入孔と吐出孔の何れか一方を介して加圧室の中から加圧室の外へ余剰の成膜材料を排出し、壁部の注入孔と吐出孔を形成する面及び壁部の加圧室を形成する面に残った成膜材料を乾燥させて、壁部の加圧室を形成する面を被覆するとともに注入孔と吐出孔とを結ぶ方向にその厚さが傾斜し壁部の角部において他の部分より厚い加圧室内薄膜を設ける工程を有する吐出デバイスの製造方法が提供される。
本発明に係る吐出デバイスの製造方法によれば、上記の工程のうち吐出機構部を作製した後に、注入孔と吐出孔の何れか又は両方を介して加圧室の中へ液状の成膜材料を充填し加圧室の中を成膜材料で満たした後に、加圧室の中と外との間に圧力差を生じさせ、注入孔と吐出孔の何れか一方を介して加圧室の中から加圧室の外へ余剰の成膜材料を排出し、壁部の注入孔と吐出孔を形成する面及び壁部の加圧室を形成する面に残った成膜材料を乾燥させるので、壁部の加圧室形成面の角部に他の部分より厚い加圧室内薄膜が設けられ、加圧室内薄膜によって又は壁部と加圧室内薄膜とによって形成される加圧室内空間が曲面で形成される。又、注入孔形成面を被覆する注入孔内薄膜の厚さが、注入孔の一の開口側(例えば吐出デバイスの外部側)から他の開口側(例えば加圧室内空間側)へ向けた方向に徐々に薄くなるように傾斜をしており、(その結果)注入孔内薄膜によって又は壁部と注入孔内薄膜とによって形成される注入孔内空間がテーパー状に形成され、吐出孔内薄膜の厚さが、吐出孔の一の開口側(例えば加圧室内空間側)から他の開口側(例えば吐出デバイスの外部側)へ向けた方向に徐々に薄くなるように傾斜し、(その結果)吐出孔内薄膜によって又は壁部と吐出孔内薄膜とによって形成される吐出孔内空間がテーパー状に形成される。
本発明に係る吐出デバイスの製造方法において、加圧室の中と外との間に圧力差を生じさせる好ましい方法は、例えば、注入孔と吐出孔の何れか一方より真空ポンプ等を用いて真空引きを行うことである。又、液状の成膜材料として、例えば熱硬化性樹脂を用いた場合には、上記乾燥の他に熱処理を施すことが好ましい。液状の成膜材料が、樹脂ではなく、例えば圧電/電歪材料を主成分とする材料(セラミックスラリー等)を使用する場合には、乾燥の後に焼成するための熱処理が必要となる。成膜材料は、圧電/電歪材料と同種の材料であってもよく、ガラス材料でもよい。
本発明に係る吐出デバイスの製造方法では、加圧室の中を液状の成膜材料で満たした後に、例えば真空ポンプを用いて真空引きにより注入孔と吐出孔の何れか一方を介して加圧室の中から加圧室の外へ余剰の成膜材料を排出し、加圧室の中に残った成膜材料の乾燥をして、成膜材料の被膜化を行う。2つの貫通孔(注入孔と吐出孔)及び加圧室において圧力損失が生じるため、一方の貫通孔から加圧室を通じ他方の貫通孔に至る経路において圧力差が生じ、真空引きされる(真空ポンプに近い)側の貫通孔(例えば吐出孔)の近傍では、他方の貫通孔(例えば注入孔)の近傍周辺に比べて、より大きな吸引力によって成膜材料の余剰分が排出されるので、成膜材料の被膜化によって得られる薄膜の厚さは、より薄くなる。従って、薄膜のうち壁部の加圧室を形成する面の一部又は全てを被覆するもの(加圧室内薄膜)は、その厚さが、注入孔と吐出孔を結ぶ方向に傾斜化され、その加圧室内薄膜によって又は壁部と加圧室内薄膜とによって形成される加圧室内空間は曲面で形成されることになる。
又、薄膜のうち壁部の注入孔を形成する面の一部又は全てを被覆するもの(注入孔内薄膜)は、その厚さが、注入孔の一の開口側から他の開口側へ向けた方向に傾斜化され、その注入孔内薄膜によって又は壁部と注入孔内薄膜とによって形成される注入孔内空間はテーパー状に形成されることになり、同様に、薄膜のうち壁部の吐出孔を形成する面の一部又は全てを被覆するもの(吐出孔内薄膜)は、その厚さが、吐出孔の一の開口側から他の開口側へ向けた方向に傾斜化され、その吐出孔内薄膜によって又は壁部と吐出孔内薄膜とによって形成される吐出孔内空間はテーパー状に形成されることになる。
本発明に係る吐出デバイスの製造方法において、壁部の構造やその成形手段は限定されない。壁部が2つの側壁とその2つの側壁を接続する天井壁及び底壁とを含んでなり、2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によって加圧室の容積が変化し流体を加圧するものである場合には、2つの側壁を圧電/電歪材料を含んで構成する。更に、天井壁及び底壁については、圧電/電歪材料を含んで構成してもよく、そうでない材料であってもよい。壁部の成形手段としては、少なくとも2つの側壁を圧電/電歪体を含んで構成するために、加圧室を形成する壁部のうち少なくとも2つの側壁及び底壁を作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる。天井壁は別途作製し後付けすればよい。又、加圧室を形成する壁部のうち2つの側壁、底壁、及び天井壁の全てを作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる。この方法では、加圧室を形成する壁部の全てが一体化される。
本発明に係る吐出デバイスの製造方法においては、壁部に注入孔及び吐出孔(貫通孔)を形成する手段、工程は限定されず、加圧室の中へ成膜材料を導入し充填する前に、何れかの方法で形成しておけばよい。
本発明に係る吐出デバイスにおいて、加圧室は作製し易い(例えば)直方体形の空間であり、加圧室を形成する壁部自体が滑らかな曲線で構成されるようなものではない。この態様は、加圧室を形成する壁部の加圧室形成面に角部を有するものであり、そのまま用いると、その角部においてインクが滞留し易く、印刷品質の低下が起き易くなる。又、インクを充填する際に、その角部からエアの抜けが悪く、角部にエアが残るため、その残存したエアによってインクの吐出が妨げられ、印刷されない部分が生まれるという印刷欠陥等のトラブルが起き易くなる。加圧室形成面に、概ね均一の厚さの薄膜を形成しても同じ問題が起き易いと考えられる。
しかし、本発明に係る吐出デバイスは、壁部の加圧室を形成する面を被覆する加圧室内薄膜を備え、その加圧室内薄膜の厚さが、注入孔と吐出孔とを結ぶ方向に傾斜し、壁部の角部において他の部分より厚くなり、加圧室内薄膜によって又は壁部と加圧室内薄膜とによって形成される加圧室内空間が曲面で形成されているものであり、加圧室内空間において、液体の溜まりやエアの溜まりが生じ難い。従って、本発明に係る吐出デバイスをインクジェットプリントヘッドとして適用した場合に、加圧室の中でインクが滞留し難く、印刷品質の低下が起き難くなる。又、インクを充填する際にエアの抜けが良好になりエアが残存しないため、印刷されない部分が生まれるという印刷欠陥等のトラブルが起き難くなる。
即ち、本発明に係る吐出デバイスを用いたインクジェットプリントヘッドは、長期にわたり、品質の高い印刷を実現し得るものになる。更に、加圧室の洗浄性向上が期待出来るので、インクジェットプリントヘッドのように単一種類の液体を吐出するような吐出デバイスとしてではなく、多種類の液体を吐出するディスペンサとして適用した場合に、洗浄性に優れる点が利点となる。即ち、多種類の液体の置換が確実且つ迅速に行えるというメリットが得られる。尚、ディスペンサの具体的用途としては、フォトリソグラフィに代わる電極や機能膜の直接描画プロセス、あるいはDNAチップ等のバイオ材料のパターンニングが挙げられる。
又、本発明に係る吐出デバイスは、加圧室を形成するために壁部を積層体で構成することが出来る。この態様は、例えば、グリーンシート積層法(後述する)を用いて壁部を成形することが出来、作製し易いものであるが、一方、積層方向に平行な端面(積層界面が現れる面)にあたる壁部の加圧室形成面には、その積層構造に起因して段差が生じてしまう(段差の態様については図11参照)。パンチとダイによる打抜加工装置やレーザー加工装置を用いてシート(板状体)に孔を開ける加工を施す際に、そのシートの孔を形成する面が完全に垂直になるように加工することは困難だからである(段差が生じる原因・作用については特許文献2を参照)。従って、そのまま用いると、その段差においてインクが滞留し易く、印刷品質の低下が起き易くなる。又、インクを充填する際に、その段差からエアの抜けが悪く、段差部分にエアが残るため、その残存したエアによってインクの吐出が妨げられ、印刷されない部分が生まれるという印刷欠陥等のトラブルが起き易くなる。
しかし、本発明に係る吐出デバイスは、壁部の加圧室を形成する面を被覆する加圧室内薄膜を備え、その加圧室内薄膜が段差を被覆し、加圧室内空間が平滑面で形成されているものであるため、加圧室内空間において、液体の溜まりやエアの溜まりが生じ難い。従って、本発明に係る吐出デバイスをインクジェットプリントヘッドとして適用した場合に、加圧室の中でインクが滞留し難く、印刷品質の低下が起き難くなる。又、インクを充填する際にエアの抜けが良好になりエアが残存しないため、印刷されない部分が生まれるという印刷欠陥等のトラブルが起き難くなる。
即ち、本発明に係る吐出デバイスを用いたインクジェットプリントヘッドは、長期にわたり、品質の高い印刷を実現し得るものになる。更に、加圧室の洗浄性向上が期待出来るので、インクジェットプリントヘッドのように単一種類の液体を吐出するような吐出デバイスとしてではなく、多種類の液体を吐出するディスペンサとして適用した場合に、洗浄性に優れる点が利点となる。
本発明に係る吐出デバイスにおいては、加圧室内薄膜は、壁部の加圧室形成面の全面を被覆するものでなくてもよく、そうであっても壁部の角部を曲面化し段差を平滑化(曲面ではあるが平坦化)することは可能である。但し、より好ましい態様は、加圧室内薄膜が壁部の加圧室形成面の全面を被覆するものであり、更には、注入孔内薄膜が壁部の注入孔形成面の全面を被覆するものであり且つ吐出孔内薄膜が壁部の吐出孔形成面の全面を被覆するものであり、注入孔内薄膜と加圧室内薄膜と吐出孔内薄膜とが継ぎ目なく一体化している態様である。このような態様では、薄膜を絶縁膜とすることにより利用する流体(液体)を電気的に完全に絶縁することが可能である。又、流体が流れる全ての空間が薄膜で形成されるため、表面の濡れ性が向上し、その化学的効果によって、洗浄性が更に向上する。更に、壁部にクラックが生じていても、薄膜を形成する際に(製造方法において)液状の成膜材料がクラックに侵入し修復される。微細な異物が混入した場合も、薄膜の中にそれを固着させることが可能である。尚更には、利用する流体(液体)に合致した適切な材料を選択することにより、壁部を構成する材料には影響されない。即ち、多用な材料を用いて壁部を構成してモジュール化するような場合においても、薄膜で被覆することにより、利用する流体(液体)に対しては、成膜材料の相性を考慮するだけでよく、製造設計上、便宜である。例えば、壁部の構成材料が異なれば、それぞれの材料と流体との反応性や濡れ性を考慮しなければならないが、薄膜で被覆することにより、そのような必要はなくなる。加えて、成膜材料に柔軟性材料を用いることにより、加圧室の容積を変化させるための、例えば圧電/電歪作動部(圧電/電歪体)の変位特性の低下が起き難い。
本発明に係る吐出デバイスの製造方法は、加圧室の中を成膜材料で満たした後に、加圧室の中と外との間に圧力差を生じさせ、注入孔と吐出孔の何れか一方を介して余剰の成膜材料を排出し、壁部の注入孔と吐出孔を形成する面及び壁部の前記加圧室を形成する面に残った成膜材料を乾燥させるという簡便な方法によって、壁部の貫通孔形成面(注入孔形成面及び吐出孔形成面)と加圧室形成面とを被覆する薄膜を、その厚さを傾斜させて、形成することが出来る。従って、本発明に係る吐出デバイスを作製する手段として、好適な手段である。
以下、本発明の吐出デバイス及びその製造方法について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
先ず、本発明に係る吐出デバイスについて説明する。図1は、本発明に係る吐出デバイスの一実施形態を示す斜視図である。又、図2は、図1に示される吐出デバイス1を切断線100で切断したときの断面図であり、図3は、図1に示される吐出デバイス1を切断線101で切断したときの断面図である。図1、図2及び図3に示される吐出デバイス1は、図中において上面に、1つの加圧室3毎に、注入孔8a及び吐出孔8b(貫通孔8)を有しており、印刷機器のインクジェットプリントヘッドや各種のマイクロポンプ(液体移送装置、液体吐出装置)の主要部品として利用可能なものである。
吐出デバイス1は、2つの側壁6と、その2つの側壁6を接続する天井壁7及び底壁2と、を含む壁部を有し、その壁部により形成された概ねスリット状の直方体形をなす加圧室3を具備する、2つの吐出機構部21を備えている。各々の吐出機構部21において、注入孔8a及び吐出孔8b(貫通孔8)は、加圧室3の中と外とを通じ、天井壁7に開いている。個々の加圧室3毎に、2つの側壁6は圧電/電歪作動部4として構成され、その圧電/電歪作動部4の変位によって、加圧室3の容積が変化する。複数の加圧室3の間の空間は、ダミー加圧室15として構成され、一の加圧室3と他の加圧室3とは完全に独立している。
吐出デバイス1では、注入孔8a及び吐出孔8bが、圧電/電歪作動部4で構成される2つの側壁6ではない天井壁7に開いているが、本発明に係る吐出デバイスでは、注入孔及び吐出孔が備わる場所・位置は壁部のうち何れかであればよく、限定されるものはない。吐出デバイス1と同様に加圧室がスリット状の直方体形をなす場合には、壁部の構成要素として短手方向の側壁が存在することになるが、その短手方向の側壁に貫通孔を設けてもよく、あるいは、底壁であってもよい。
図7は、図1〜図3に示される吐出デバイス1の、1つの加圧室3及びそれを形成する壁部のみを模式的に示し加圧室3を透視して表した斜視図である(貫通孔は省略している)。図7に示されるように、スリット状の直方体形をなす加圧室3を形成する壁部は、長手方向の側壁である2つの側壁6、天井壁7、底壁2の他に、短手方向の側壁である2つの側壁5によって形成されており、貫通孔8は天井壁7に開いている。
本発明に係る吐出デバイスにおいては、加圧室は直方体形に限定されるわけではない。図8は、図7と同様に1つの加圧室及びそれを形成する壁部のみを表した斜視図であり、加圧室が直方体形ではない場合の実施形態を示す図である(貫通孔は省略している)。加圧室が図8に示されるような船形をしている場合においても、加圧室が貫通孔を除き密閉された空間であるためには、図7に示される吐出デバイスにおける短手方向の側壁5のように平面の壁ではないが、それに相当する壁部構成要素55が存在する。そして、この部分の態様は加圧室によって変わり得るため、本発明に係る吐出デバイスでは、その形態は、加圧室を具備すること及びその加圧室が2つの側壁とその2つの側壁を接続する天井壁及び底壁とを含む壁部により形成されること、により特定される。尚、本明細書において、単に側壁というときには圧電/電歪作動部で構成される長手方向の側壁を指す。
吐出デバイス1には、図2及び図3に示されるように、壁部の加圧室形成面(加圧室3を形成する壁部の面のうち空間である加圧室3に接している面)及び貫通孔形成面(貫通孔8を形成する壁部の面のうち空間である貫通孔8に接している面)に、それらの面を、全て、継ぎ目なく被覆する、薄膜17が形成されている。本実施形態においては、加圧室内薄膜と貫通孔内薄膜とは一体化されているので、これらを合わせて単に薄膜とよぶこととする。薄膜17は、加圧室内薄膜及び貫通孔内薄膜(注入孔内薄膜及び吐出孔内薄膜)にあたるものであり、加圧室内において加圧室形成面を被覆する部分が加圧室内薄膜であり、注入孔内において注入孔形成面を被覆する部分が注入孔内薄膜であり、吐出孔内において吐出孔形成面を被覆する部分が吐出孔内薄膜である。又、図3に示される断面は、注入孔8aと吐出孔8bを結ぶ方向に平行な断面の1つにあたるものである。
図3に明示されるように、薄膜17(加圧室内薄膜)の厚さは、加圧室内においては注入孔8aと吐出孔8bを結ぶ方向に傾斜をしている。そして、薄膜17(加圧室内薄膜)が加圧室内において曲面を構成し、薄膜17(加圧室内薄膜)によって形成される加圧室内空間33は曲面で形成される空間となっており、液体の溜まりになり得る部分が存在しない。加えて、加圧室3を形成する面のうち天井壁7による面において、注入孔8a側から吐出孔8b側へ向けて、薄膜17の厚さが徐々に薄くなっている。又、加圧室3を形成する面のうち2つの側壁5及び底壁2による面においては、側壁5と底壁2とで形成される2つの角部近傍で薄膜17が厚くなり、更には、注入孔8a側から吐出孔8b側へ向けて、薄膜17の厚さは徐々に薄くなっている。
又、吐出デバイス1は、図3に示される断面において、薄膜17(貫通孔内薄膜)の厚さが、注入孔8aと吐出孔8bのそれぞれにおいて、一の開口側から他の開口側へ向けて傾斜している。具体的には、図3中の右側の吐出孔8bにおいて、図中の下側(加圧室内空間33側)の開口側から図中の上側(吐出デバイス1の外部側)の開口側へ向けて薄膜17の厚さが徐々に薄くなっており、一方、図3中の左側の注入孔8aにおいては、図3中の上側(吐出デバイス1の外部側)の開口側から図3中の下側(加圧室内空間33側)の開口側へ向けて薄膜17の厚さが徐々に薄くなっている。その結果、注入孔内空間88aにおいて、図3中の下側(加圧室内空間33側)の開口が図3中の上側(吐出デバイス1の外部側)の開口より大きくなり、吐出孔内空間88bにおいて、図3中の上側(吐出デバイス1の外部側)の開口が、図3中の下側(加圧室内空間33側)の開口より大きくなっている。即ち、注入孔内空間88aは、加圧室内空間33側へ向けて断面が徐々に拡がるテーパー状に形成され、吐出孔内空間88bは、加圧室内空間33側へ向けて断面が徐々に狭まるテーパー状に形成されている。
図9は、インクジェットプリントヘッドに適用される従来の吐出デバイスの一例を示す図であり、図3に対応させて模式的に描かれた断面図である。図9に示される吐出デバイスでは、薄膜317の厚さが概ね均一であり、薄膜317が形成する加圧室内空間333は加圧室3と概ね同じ形状(例えば直方体形)になっている。この場合、例えば側壁5と底壁2とで形成される2つの角部近傍でインクが溜まり、澱みを生じ易くなり、更には、インクを充填する際にエアの抜けが悪い。そうすると、印刷品質の低下、及び残存したエアによって印刷されない部分が生まれるという印刷欠陥が誘発されるが、本発明に係る吐出デバイスによれば、そのような問題は回避出来る。
吐出デバイス1は、インクジェットプリントヘッドとして適用される場合には、加圧室3がインク室(液体加圧室)になり、注入孔8aがインク供給孔(液体供給孔)になり、吐出孔8bがインク吐出孔(液体吐出孔)になり、圧電/電歪作動部4(側壁6)が(図2中における上下方向に)伸縮し、加圧室3の容積を変化させ、注入孔8aを通じて加圧室3に充填されたインク(液体)を吐出孔8bから吐出させることが出来る。
ところで、図1〜図3では、吐出デバイス1の圧電/電歪作動部4の具体的態様は示されていない。本発明に係る吐出デバイスにおいては、圧電/電歪作動部の具体的な態様は限定されず、種々の態様があり得る。例えば、圧電/電歪体の積層態様、あるいは変位を生じる圧電/電歪作動部として機能させるべく圧電/電歪体に電界をかけるための駆動電極の形成態様、等によって分類することが出来る。
又、薄膜は、吐出デバイス1のように貫通孔形成面及び加圧室形成面を全て被覆せず、それらの一部を被覆するものであってもよい。そして、薄膜は、その圧電/電歪作動部の態様によって、あるいは、加圧室の中に充填され薄膜と接する液体の性状によって、例えば電極膜、絶縁膜、保護膜、防湿膜等のうちの一の単層膜乃至二以上の多層膜で構成される種々の態様になり得る。
以下、圧電/電歪作動部及び薄膜の具体的態様を表した吐出デバイスについて、図4及び図5を参酌しながら説明する。図4、図5では、1つの吐出機構部のみが示されるが、これらはそれぞれ加圧室を具備する複数の吐出機構部が備えるものであって、図4、図5に示される吐出デバイスの、注入孔及び吐出孔やダミー加圧室等を含む吐出デバイスとしての全体構成は、図1〜図3に示される吐出デバイス1に準じる。
図5に示される吐出デバイス110は、側壁を構成する圧電/電歪作動部が、側壁の高さ方向に交互に積層をされた、層状の圧電/電歪体と一対の駆動電極とを有する態様をなし、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生するものである。他方、図4に示される吐出デバイス90は、側壁を構成する圧電/電歪作動部が、板状の圧電/電歪体とその圧電/電歪体の側面に形成された一対の駆動電極とを有する態様であり、電界誘起歪みの横効果により変位を発生するものである。
図5は、本発明に係る吐出デバイスの一実施形態を示す図であり、加圧室の断面図である。又、図11は、図5で丸囲いしたA部分を拡大した部分断面図である。図示される吐出デバイス110は、グリーンシート積層法で作製されたものであり、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部34で構成され、その圧電/電歪作動部34は、側壁6の高さ方向に交互に積層をされた、複数の層状の圧電/電歪体114と駆動電極28,29とを有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生する。圧電/電歪体114は、側壁6において9層備わり、その圧電/電歪体114を挟んで極性の異なる駆動電極28,29が合計10層(9対)積層されている。
吐出デバイス110では、駆動電極28,29が層状を呈し、それらの端部は、両方とも圧電/電歪体114の積層断面に露出している。又、それぞれ複数の駆動電極28,29を、それぞれ接続する配線は、側壁6の表面に外部電極として形成されておらず、(図示しないが)圧電/電歪体114自体の中に設けられている。具体的には、圧電/電歪作動部34に変位を生じさせるための外部から駆動電極28,29のそれぞれに電源を供給する配線は、圧電/電歪体114の内部にビアホール等により引き回すことで、圧電/電歪体114の所望の位置に、別途、形成することが出来る。
吐出デバイス110では、駆動電極28,29の端部が圧電/電歪体114の積層断面に露出しているので、加圧室3に導電性液体が充填されると短絡してしまう。又、吐出デバイス110はグリーンシート積層法で作製されたものであるため、図11に示されるように、圧電/電歪体114の断面が台形になる結果、段差が形成され、このままでは液溜まりやエア抜け不良の原因になる。そのため、側壁6の加圧室内面及び加圧室外面に、絶縁膜117が形成されている。加圧室3に充填される液体の性状等によっては、絶縁膜の代わりに保護膜、防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。図5に示される断面では明示されないが、加圧室内面側の絶縁膜117は、図3に示される吐出デバイス1における薄膜17と同様に、注入孔と吐出孔を結ぶ方向に平行な断面において、その厚さが傾斜をしており、絶縁膜117により囲われた加圧室内空間33は、曲面で形成され、液体の溜まりになり得る部分が存在しない。
吐出デバイス110において、層状の圧電/電歪体114は、例えば駆動電極28から駆動電極29へ向けた方向(図5中において上下方向(縦方向))に分極されている(挟まれる駆動電極により各圧電/電歪体114毎に分極方向は異なる)。そして、図示されない配線を介して、駆動電極28側を正、駆動電極29側を負にして駆動電極28,29間に電圧を印加することにより、先に記した分極方向と同じ方向の電界が形成される。換言すれば、吐出デバイス110は、分極が互いに反対方向の圧電/電歪体114が駆動電極28,29を挟んで積層され、各々の圧電/電歪体114においては、分極と駆動電界とが同一方向になっている。その結果、圧電/電歪体114に電界誘起歪みが発現し、その電界誘起歪みの縦効果による変位に基づき、圧電/電歪作動部34は、駆動電極28,29で挟まれる圧電/電歪体114が図5中において概ね上下方向に(側壁6の高さ方向と同じ方向に)伸縮し、加圧室3の容積を変化させる。
図4は、本発明に係る吐出デバイスの一実施形態を示す図であり、加圧室の断面図である。図示される吐出デバイス90は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部4で構成され、その圧電/電歪作動部4は、側壁6の幅方向(図4中において横方向)に交互に積層をされた板状の圧電/電歪体14及び一対の駆動電極28,29を有し、電界誘起歪みの横効果により圧電/電歪体14が変位を発生し、加圧室3の容積を変化させる。
吐出デバイス90では、一対の駆動電極28,29が側壁6の加圧室内面及び加圧室外面に形成されている態様になり、加圧室内面に形成された駆動電極28が加圧室内面を全て被覆する電極膜として形成されている。側壁6の加圧室内面及び加圧室外面には、駆動電極28,29の上に、保護膜177が形成されている。加圧室内面側の保護膜177は、(駆動電極28(電極膜)の上から)加圧室内面を全て被覆している。加圧室3に充填される液体の性状等によっては、保護膜の代わりに防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。図4に示される断面では明示されないが、加圧室内面側の保護膜177は、図3に示される吐出デバイス1における薄膜17と同様に、注入孔と吐出孔を結ぶ方向に平行な断面において、その厚さが傾斜をしており、保護膜177により囲われた加圧室内空間33は、曲面で形成されており、液体の溜まりになり得る部分が存在しない。
吐出デバイス90において、板状の圧電/電歪体14は、例えば駆動電極28から駆動電極29へ向けた方向(図4中において左右方向(横方向))に分極されている。そして、駆動電極28側を正、駆動電極29側を負にして駆動電極28,29間に電圧を印加することにより、先に記した分極方向と同じ方向の電界が形成される。即ち、吐出デバイス90では、分極と駆動電界とが同一方向になっている。その結果、圧電/電歪体14に電界誘起歪みが発現し、その電界誘起歪みの横効果による変位に基づき、圧電/電歪作動部4は、駆動電極28,29で挟まれる圧電/電歪体14が図4中において概ね上下方向に(側壁6の高さ方向と同じ方向に)伸縮し、加圧室3の容積を変化させる。
次に、本発明に係る吐出デバイスを用いたマイクロポンプについて説明する。図6の(a)と(b)は、マイクロポンプの一実施形態を示す断面図であり、図6の(a)はポンプ部の加圧室の容積が変化していない状態(OFF、加圧室容積最大)を表し、図6の(b)はポンプ部の加圧室の容積が変化した状態(ON、加圧室容積最小)を表している。図6の(a)と(b)に示されるマイクロポンプ60は、ポンプ部62と流路部61とを有し、ポンプ部62に、図1〜図3に示される吐出デバイス1を適用したものである。即ち、ポンプ部62は、2つの側壁とその2つの側壁を接続する天井壁7及び底壁2とを含む壁部により形成された加圧室3を具備し、2つの側壁(図6の(a)と(b)では示されず図2に示される側壁6)が圧電/電歪作動部で構成され、天井壁7に加圧室3に通じる注入孔8aと吐出孔8bが形成されている。一方、流路部61は、ポンプ部62の注入孔8aと吐出孔8bにそれぞれ連通する2つの流路63,64を具備している。
ポンプ部62の圧電/電歪作動部の変位によって、加圧室3の容積が最小の状態(図6の(b)の状態)から最大の状態(図6の(a)の状態)へ変化するときに、液体は流路部61の流路63側から加圧室3に吸い込まれる(図6の(a)の矢印方向に液体が流れる)。そして、加圧室3の容積が最大の状態(図6の(a)の状態)から最小の状態(図6の(b)の状態)へ変化するときに、液体は流路部61の加圧室3から流路64側へ圧送される(図6の(b)の矢印方向に液体が流れる)。この動作の繰り返しにより、マイクロポンプ60は、液体移送装置又は液体吐出装置として機能する。
図6の(a)と(b)に示されるマイクロポンプ60は、ポンプ部62が吐出デバイス1で構成されることにより、ポンプ部62の注入孔形成面、吐出孔形成面及び加圧室形成面の全面が薄膜17で被覆されており、更に、薄膜17は、流路部の流路を形成する面(流路形成面ともいう)まで延長して設けられている。即ち、マイクロポンプ60は、流路形成面、貫通孔形成面及び加圧室形成面の全面が継ぎ目なく薄膜17で被覆されたものであり、液体が通る流路、貫通孔及び加圧室は、流路部61の実体部(流路部の壁部)とポンプ部62の壁部、及び薄膜17とによって、二重に保護されているため、耐久性に優れ、液体がマイクロポンプの外に漏れるおそれが殆どない。
既に説明した図9に示される従来の吐出デバイスでは、薄膜317の厚さが概ね均一であり、注入孔内空間888a、吐出孔内空間888bはともに貫通孔8と概ね同じ形状(例えば円筒形)になっている。この吐出デバイスをマイクロポンプのポンプ部として適用した場合、液体を加圧室内空間333から外へ送り出すときの圧力損失は、注入孔内空間888aを通っても吐出孔内空間888bを通っても同じである。換言すれば、液体を、加圧室3の外から注入孔内空間888aを通じて加圧室内空間333へ導入し吐出孔内空間888bを通じて加圧室3の外へ排出する場合(液体を図9における矢印方向に流す場合)でも、液体をその反対方向に流す場合でも、注入孔内空間888aと吐出孔内空間888bにおける圧力損失は変わらない。従って、加圧室3の容積変化によって発生する圧力を、液体吐出孔(液体排出孔)となる何れか一方の貫通孔内空間側(貫通孔側)へ効率よく伝えることが出来ない。そのため、別途、例えば貫通孔内空間にオリフィスを設ける必要がある。
一方、マイクロポンプ60のポンプ部62では、注入孔内空間88aが加圧室内空間33側へ向けて断面が徐々に拡がるテーパー状に形成され、吐出孔内空間88bが加圧室内空間33側へ向けて断面が徐々に狭まるテーパー状に形成されており、液体を、加圧室3の外から注入孔内空間88aを通じて加圧室内空間33へ導入し吐出孔内空間88bを通じて加圧室3の外へ排出するとき(液体を図3における矢印方向に流すとき)の注入孔内空間88aにおける圧力損失ΔP1と、吐出孔内空間88bにおける圧力損失ΔP3と、液体を、加圧室3の外から吐出孔内空間88bを通じて加圧室内空間33へ導入し注入孔内空間88aを通じて加圧室3の外へ排出するとき(液体を図3における矢印方向とは反対の方向に流すとき)の注入孔内空間88aにおける圧力損失ΔP2と、吐出孔内空間88bにおける圧力損失ΔP4と、の間には、ΔP1<ΔP4、且つΔP2>ΔP3が成立するので、オリフィス(圧力調整機構)を設けなくても、加圧室の容積変化によって発生する圧力を、液体を図3における矢印方向に流すようにのみ、効率よく用いることが可能である。
このマイクロポンプは、ポンプ部を本発明に係る吐出デバイスで構成するものである。そして、その本発明に係る吐出デバイスは、好ましい態様において、壁部の貫通孔(注入孔及び吐出孔)を形成する面の一部又は全てを被覆する貫通孔内薄膜(注入孔内薄膜及び吐出孔内薄膜)を備え、貫通孔内薄膜の厚さが、それぞれの貫通孔において、その貫通孔の一の開口側から他の開口側へ向けた方向に傾斜をしており、貫通孔内薄膜によって又は壁部と貫通孔内薄膜とによって形成される貫通孔内空間がテーパー状に形成されているものであり、貫通孔内薄膜の厚さの傾斜の態様・程度によって、それぞれの貫通孔(注入孔又は吐出孔)において一の開口側と他の開口側との間の圧力差(差圧)を調整することが可能である。従って、一般に、ポンプに必要なオリフィスと呼ばれる圧力調整機構を導入することなく、加圧室の容積変化によって発生する圧力を、吐出孔となる貫通孔側のみへ効率よく伝えて液体の吐出を実現することが出来る。換言すれば、注入孔と吐出孔が同径の場合には、効率よく圧力を伝達出来ないが、本発明に係る吐出デバイスを用いたマイクロポンプは、貫通孔内薄膜の厚さの傾斜の態様・程度を調整することによって、貫通孔(注入孔及び吐出孔)の、加圧室に通じる開口の大きさを変えられるので、オリフィスを設けたのと同様な効果が得られ、別途のオリフィスを設けなくても、効率的に液体を吐出することが可能なのである。又、ポンプ部として用いる本発明に係る吐出デバイスは、既述の如く、加圧室内空間が曲面で形成されているため、液体の流れに澱み・滞留部分が生じ難い。
次に、本発明に係る吐出デバイスを用いた液滴吐出装置について説明する。図12は、液滴吐出装置の一実施形態を示す断面図であり、これは特許文献3に開示されている液滴吐出装置と同態様の装置である(特許文献3の図4参照)。図12に示される液滴吐出装置210は、ポンプ部(特許文献3においてアクチュエータ部)262と流路部261とを有し、ポンプ部262に、本発明に係る吐出デバイスを適用したものである。このポンプ部262として適用される吐出デバイスは、上記吐出デバイス1とは異なる態様であり、壁部236が、その一部に他の部分より相対的に薄い薄壁を含んでなり、その薄壁に圧電/電歪素子234が接合され、その圧電/電歪素子234の変位に基づく薄壁の変形によって加圧室3の容積が変化し流体を加圧するものである。壁部236には、加圧室3に通じる注入孔8aと吐出孔8bが形成されている。一方、流路部261は、ポンプ部262の注入孔8aと吐出孔8bにそれぞれ連通する2つの流路263,264を具備している。
図12に示される液滴吐出装置210は、ポンプ部262が本発明に係る吐出デバイスで構成されることにより、ポンプ部262の注入孔形成面、吐出孔形成面及び加圧室形成面の全面が薄膜17で被覆されており、更に、薄膜17は、流路部261の流路を形成する面(流路形成面ともいう)まで延長して設けられている。即ち、液滴吐出装置210は、流路形成面、貫通孔形成面及び加圧室形成面の全面が継ぎ目なく薄膜17で被覆されたものであり、液体が通る流路、貫通孔及び加圧室は、流路部261の実体部(流路部の壁部)とポンプ部262の壁部、及び薄膜17とによって、二重に保護されているため、耐久性に優れ、液体が液滴吐出装置の外に漏れるおそれが殆どない。又、ポンプ部262として用いる本発明に係る吐出デバイスは、加圧室内空間33が曲面で形成されているため、液滴吐出装置210全体として液体の流れに澱み・滞留部分が生じ難い。
次に、本発明に係る吐出デバイスの製造方法について説明する。本発明に係る吐出デバイスの製造方法が対象とするものは、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数の加圧室を具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に注入孔と吐出孔が備わるとともに、加圧室内薄膜の厚さが、注入孔と吐出孔を結ぶ方向に傾斜をしており、且つ、貫通孔内薄膜の厚さが、それぞれの貫通孔において、その貫通孔の一の開口側から他の開口側へ向けた方向に傾斜をしている吐出デバイスであり、本発明に係る吐出デバイスの好ましい態様に相当するものである。
本発明に係る吐出デバイスの製造方法において、壁部により加圧室を形成する手段は限定されない。好ましい方法としてはセラミックグリーンシート積層法を挙げることが出来る。そして、壁部を構成する側壁、天井壁、及び底壁を焼成一体化させる工程を採用することが好ましい。
図10(a)〜図10(c)は、本発明に係る吐出デバイスの製造方法の概略工程の一例を示す説明図である。作製対象は、図5に示される吐出デバイス110である。既に記したように吐出デバイス110は、貫通孔やダミー加圧室等を含む吐出デバイスとしての全体構成は、図1〜図3に示される吐出デバイス1に準じた複数の加圧室を具備する構成であり、液体を加圧室から吐出するためのノズル乃至液体を加圧室へ入れるための導入孔として天井壁に備わる注入孔8aと吐出孔8bを利用し、インクジェットプリントヘッドやマイクロポンプのポンプ部等として適用可能なものである。
先ず、圧電/電歪材料を主成分とする所定枚数のセラミックグリーンシートを用意する。セラミックグリーンシートは、従来知られた方法により作製出来る。例えば、圧電/電歪材料粉末を用意し、これにバインダ、溶剤、分散剤、可塑剤等を望む組成に調合してスラリーを作製し、これを脱泡処理後、ドクターブレード法、リバースロールコーター法等のグリーンシート成形法によって、セラミックグリーンシートを形成することが可能である。尚、本明細書において、セラミックグリーンシートを、単にグリーンシートとも記す。
得られたセラミックグリーンシートに対し、例えばパンチとダイによる打抜加工により、図10(a)に示されるような、グリーンシート602,615,619を得る。グリーンシート602,619は各1枚でよく、グリーンシート615は複数枚用意する。グリーンシート615は、のちに側壁(圧電/電歪作動部)のうちの圧電/電歪体になるものであり、のちに加圧室を構成するスリット孔605と、のちにダミー加圧室を構成するスリット孔625と、のちに個別配線用のビアホールを構成する円孔628と、のちに共通配線用のビアホールを構成する円孔629とが形成されたグリーンシートである。グリーンシート602は、のちに底壁を構成するものであり、のちにダミー加圧室を構成するスリット孔625が形成されたグリーンシートである。グリーンシート619は、のちに天井壁を構成するものであり、のちにダミー加圧室を構成するスリット孔625と、のちに吐出デバイス110の注入孔8a、吐出孔8b(図10(c)参照)を構成する微円孔608とが形成されたグリーンシートである。尚、微円孔608は、その径が200μm以下になるように加工される。又、各1枚作製するグリーンシート602とグリーンシート619については、圧電/電歪材料ではない別の材料を用いてもよい。
次に、図10(b)に示されるように、複数枚のグリーンシート615の円孔628,629を導電性材料で埋めてビアホール128,129を形成するとともに、そのグリーンシート615の半々ずつに、ビアホール128に接続される導体膜(導電性材料を主成分とする膜)318、及びビアホール129に接続される導体膜319を形成して、それぞれ複数枚のグリーンシート614,616を得る。尚、導体膜は、スクリーン印刷、フォトリソグラフィ等の手段により所定のパターンで形成出来る。
グリーンシート614,616において、5つのスリット孔605はのちに加圧室を構成する孔であり、スリット孔625に対し相対的に大きく開けられる。6つのスリット孔625は、のちに加圧室と加圧室との間の空間であるダミー加圧室を構成する孔であり、スリット孔605を挟むように配置される。スリット孔605とスリット孔625との間のグリーンシート実体部分が、のちに側壁を構成する。導体膜318は、その一部がのちに一の駆動電極になり、且つその一部が個別配線として用いられるものであり、導体膜319は、その一部がのちに他の駆動電極になり、且つその一部が共通配線として用いられるものである。導体膜318,319は、ともに、のちに加圧室を構成するスリット孔605を形成する面、及び、のちにダミー加圧室を構成するスリット孔625を形成する面に、それぞれ露出されるように設けられる。
次に、グリーンシート602を最下層、グリーンシート619を最上層として、それらの間に、加圧室を形成するために複数のグリーンシート614,616を交互に積層しつつ、グリーンシート602,614,616,619を圧着して所定の厚さを有するセラミックグリーン積層体を得て、それを焼成一体化して焼成積層体を得る(図示しない)。この焼成積層体は、グリーンシート614,616のスリット孔605を連通させてなる5つの加圧室と、その加圧室に通じる貫通孔と、グリーンシート602,614,616,619のスリット孔625を連通させてなる6つのダミー加圧室と、を備えたものになっている。
次いで、焼成積層体に対して、注入孔と吐出孔を通じて、加圧室の中へ、液状にした成膜材料を導入し、加圧室の中を液状の成膜材料で満たす。所定時間が経過したら、一方の貫通孔(最終的に得られる吐出デバイス110(図10(c)参照)における例えば吐出孔8b)に配管を介して真空ポンプを接続し、加圧室の中を真空引きし(減圧吸引し)、加圧室の中から加圧室の外へ余剰の成膜材料を排出する。そして、一定時間、乾燥させ、加圧室の中に残った成膜材料を固化させて成膜材料を被膜化し、貫通孔形成面及び加圧室形成面(加圧室内面)の全ての面に保護膜を形成する。又、併せて、加圧室外面のうちダミー加圧室を形成する面にも保護膜を形成する。成膜手段は限定されない。尚、加圧室外面の保護膜のパターニングは、予めフォトレジストを塗布し露光することで行ってもよいし、加圧室外面の全ての面に成膜した後に不必要な部分を研削等の手法により切除してもよい。
具体的には、例えば、成膜材料として1液性加熱硬化型アクリル樹脂を用い、希釈剤としてPGMEA(ジエチレングリコールメチルエーテル)を使用して所望の粘度に調整し、液状の成膜材料とすることが出来る。粘度は、薄膜の厚さを支配するパラメータであるため任意に選択する。好ましい粘度範囲は0.1〜1000cpsである。又、減圧吸引(真空引き)のための吸引圧力は−40kPa程度が好ましい。成膜材料の固化(硬化)処理は、100℃×2Hr、180℃×3Hrの条件下で行うことが好ましい。
そして、必要に応じて、外部配線接続、圧電/電歪体の分極処理等を行えば、吐出デバイス110が得られる(図10(c))。吐出デバイス110において、ダミー加圧室15と注入孔8a、吐出孔8bは外観に現れるが、加圧室は内部に形成され露わになっていない。尚、得られた吐出デバイス110は複数の加圧室を具備する吐出デバイスであるが、本発明に係る吐出デバイスは加圧室が1つでもよく、そのような吐出デバイスは、上記製造工程に従って、複数の加圧室を具備する吐出デバイスを得た後に、加工により分断するか、又は、上記製造工程において、グリーンシート615のスリット孔605(のちに加圧室を構成するもの)を1つにして、グリーンシート602,615,619のスリット孔625(のちに加圧室を構成するもの)を2つにすることにより、作製することが出来る。
次に、本発明に係る吐出デバイス及び本発明に係る吐出デバイスの製造方法に用いられる材料について説明する。先ず、圧電/電歪体の材料(圧電/電歪材料)について説明する。圧電/電歪材料は、圧電効果若しくは電歪効果等の電界誘起歪みを起こす材料であれば、問われるものではない。結晶質でも非晶質でもよく、又、半導体セラミックスや強誘電体セラミックス、あるいは反強誘電体セラミックスを用いることも可能である。用途に応じて適宜選択し採用すればよい。又、分極処理が必要な材料であっても必要がない材料であってもよい。具体的には、好ましい材料として、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、マグネシウムタングステン酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ナトリウムビスマス、チタン酸ビスマスネオジウム(BNT)、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス、銅タングステンバリウム、鉄酸ビスマス、あるいはこれらのうちの2種以上からなる複合酸化物を挙げることが出来る。
又、これらの材料には、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、セリウム、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、リチウム、ビスマス、スズ、銅等の酸化物が固溶されていてもよい。更に、上記材料等に、ビスマス酸リチウム、ゲルマン酸鉛等を添加した材料、例えば、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、及びマグネシウムニオブ酸鉛の複合酸化物に、ビスマス酸リチウム乃至ゲルマン酸鉛を添加した材料は、圧電体の低温焼成を実現しつつ高い材料特性を発現出来るので好ましい。尚、圧電材料の低温焼成化は、ガラス(例えば珪酸塩ガラス、硼酸塩ガラス、燐酸塩ガラス、ゲルマン酸鉛ガラス、又はそれらの混合物)の添加によっても実現させることが出来る。但し、過剰な添加は、材料特性の劣化を招くため、要求特性に応じて添加量を決めることが望ましい。
次に、電極の材料としては、導電性の金属及び酸化物が採用される。例えば、電極の材料としては一般には、室温で固体であって、導電性の金属が採用され、例えば、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、又は鉛等の金属単体又はこれら2種類以上からなる合金、例えば、銀−白金、白金−パラジウム、銀−パラジウム等を1種単独で又は2種類以上を組み合わせたものを用いることが好ましい。又、これらの材料と、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化セリウム、ガラス、又は圧電/電歪材料等との混合物、サーメットであってもよい。これらの材料の選定にあたっては、圧電/電歪材料の種類に応じて選択することが好ましい。酸化物電極としては酸化インジウムスズ(ITO)、酸化イリジウム、酸化ルテニウムを使用することが出来る。尚、ここでいう電極とは、主に電極膜、駆動電極等として表現されるものを指し、電極の材料は、製造方法の説明においてのちに電極になる導体膜を構成する材料にあたる。又、ビアホールや、必要な電極端子、配線等を構成する材料も、上記電極の材料に準じた材料を採用出来る。
薄膜(加圧室内薄膜及び貫通孔内薄膜)の1つである保護膜の材料としては、ビスマス−亜鉛−硼珪酸ガラス、二酸化珪素、窒化珪素、硼酸−燐酸−珪酸ガラス(BPSG)、燐酸−珪酸ガラス(PSG)等が用いられる。又、薄膜の他の1つである絶縁膜の材料としては、酸化タンタル、酸化アルミナ、酸化チタン等が用いられ、又、薄膜である防湿膜の材料としては、二酸化珪素、窒化珪素等が用いられる。薄膜であるバリア膜の材料としては、窒化チタン、窒化タンタル、窒化ニオブ等が用いられる。