JP2007000801A - 分離膜の性能向上方法及び装置並びにその方法により処理された分離膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】標準圧力以下で運転する場合の分離膜の分離性能の低下を低減し、結果的に分離膜の分離性能を向上させることが可能な、分離膜の性能向上方法及び装置並びにその方法により処理された分離膜を提供する。
【解決手段】標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減すべく、分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上させることを特徴とする分離膜の性能向上方法、及び性能向上装置並びにその方法により処理された分離膜。
【選択図】なし
【解決手段】標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減すべく、分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上させることを特徴とする分離膜の性能向上方法、及び性能向上装置並びにその方法により処理された分離膜。
【選択図】なし
Description
本発明は、分離膜、特に逆浸透膜(以下、RO膜と呼ぶこともある。)またはナノ濾過膜(以下、NF膜と呼ぶこともある。)を改質し、その性能を向上させる分離膜の性能向上方法および装置、並びにその方法により処理された分離膜に関する。
従来、海水の淡水化や超純水、各種製造プロセス用水を得る方法として、例えばRO膜やNF膜を分離膜とするモジュールを用い、原水中からイオン成分や低分子成分を分離する方法が知られている。以前と比較すると、RO膜やNF膜の性能は格段に向上しており、高阻止性能・低圧力運転が可能な膜も使われている。
しかし、近年要求される超純水のレベルは非常に高く、RO膜単独では不十分であることはもちろん、後段に電気再生式脱塩装置(EDI)を設置する場合においても、RO膜を2段にして用いなければならないケースがあった。
特許文献1には、半透性膜を高温で有機酸に浸漬し、高脱塩性・高透水性を併せ持つ膜の製造方法が提案されている。しかしこの方法では、高温で処理されるため、モジュール形態での処理は困難であるし、条件によっては透過水量の大幅な低下を招くことがあった。
また、特許文献2には、海水にpH=5未満でタンニン酸を添加して、透塩率を低下させる方法が提案されている。しかしこの方法は、海水の処理に限定されたものであり、本発明で想定している、地下水や井戸水、河川水、湖水、雨水、工業用水、水道水、ゴミ浸出水、下排水処理水、各種工程回収水などのいわゆる原水を、必要に応じて除濁した原水の脱塩は含まれていない。
特開2003-117360号公報
特開昭58-109182号公報
上記のようにより高いレベルの分離性能が要求されつつある分離膜においては、以下のような問題が懸念される。例えばRO膜の性能は常用されると想定される標準圧力で発揮される透過水量、分離性能で表記される。一般的に透過水量は操作圧=供給水圧−透過水圧に比例することは理解しやすい。一方、分離性能には特殊な圧力依存性があり、通常使用される標準圧力以上では分離性能はほぼ一定であるのに対し、標準圧力以下では分離性能が急速に低下することはあまり意識されていない。しかしこの点が実際のRO膜装置運転上に幾つかの問題点の原因となっている。以下にその例を示す。
通常RO膜を運転していくと、徐々に透過水量が低下する。原因は、膜の圧密化や汚れ、通水差圧の上昇による有効操作圧の減少等が原因である。そのため、その透過水量減少を見込んで、運転初期は低圧で運転し、透過水量が減少したら圧力を徐々に上げて一定の透過水量を得られるようなポンプを選定し運転する方法が一般的である。運転初期から高い圧力で運転するポンプを選定することも可能であるが、高い圧力で運転すると電力コストが高くなる、配管材に高圧仕様が必要等のデメリットがあり、一般的ではない。
また、小型の装置においては、適したサイズの膜モジュールが無く、結果的に低圧運転となってしまい、分離性能が低い状態で運転せざるをえない等の問題点があった。
すなわち、RO膜を標準圧力以下で運転する場合、膜の分離性能の低下を軽減する方法及び、分離性能の低下を軽減した膜が必要とされていた。特に、シリカ、TOC成分の分離性能の低下防止策が必要であった。
本発明の課題は、上記のような必要性に鑑み、とくに標準圧力以下で運転する場合の分離膜の分離性能の低下を低減し、結果的に分離膜の分離性能を向上させることが可能な、分離膜の性能向上方法及び装置並びにその方法により処理された分離膜を提供することにある。
前述のような現状の技術レベルに対し、本発明者らは鋭意検討を行なった結果、(1)ある種の有機物質を用いることで、既存の分離膜、特にRO膜やNF膜の阻止性能を低圧運転においても格段に向上させることができること、(2)処理の際の透過流束をコントロールすることで、適切な分離膜の改質処理が実現できること、(3)処理の際のpHをコントロールすることで、適切な処理が実施できること、などを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る分離膜の性能向上方法は、標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減すべく、分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上させることを特徴とする方法からなる。この方法を用いることで、製膜後の後処理により、分離膜の性能向上が実現する。
ここで言う標準圧力とは、メーカーが提供しているカタログや技術資料に記載されている、性能表示のための試験圧力のことであり、実際に膜を使用する際の設定の目安となるものであり、例えば0.3MPa、0.5MPa、0.75MPa、1.5MPaのようなある圧力値に設定される。多くの場合、25℃における透過流束を1m/day前後(0.5〜3.0m/day程度)になるように設定されているようである。なお、本発明において、上記ポリフェノールを含む有機物質を含む水の加圧通水の圧力は特に限定されないが、例えば、0.5〜1.5MPa程度の圧力を適用できる。
また、本発明に係る分離膜の性能向上方法は、1基の前段の分離膜モジュールまたは2基以上並列配置された前段の分離膜モジュール群の中間濃縮水が、1基の後段の分離膜モジュールまたは2基以上並列配置された後段の分離膜モジュール群に供給される、2段以上の多段式膜分離において、標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減すべく、ポリフェノールを含む有機物質を含む水を前段から加圧通水し、前段および後段の分離膜モジュール群全体の分離膜の阻止性能を向上させることを特徴とする方法からなる。多段配置の膜分離においては、後段の方が劣化しやすい場合があり、特に後段の性能回復が必要である。本方法によれば、前段から有機物質を流すことにより、前段の処理が行なわれた上で、濃縮された処理液が後段に供給されるため、より高濃度の処理液によって後段が処理されることになり、劣化の大きい後段が効果的に処理される。
上記多段式膜分離においては、前段の1バンクに含まれる膜エレメントの本数が、その直後段の1バンクに含まれる膜エレメントの本数よりも多いことが好ましい。後段の方が本数が少ないことで、処理液が十分に濃縮され、後段がより効果的に処理できる。バンクとは膜処理装置において、同一段に並列に配列されたモジュールの集合体を言う。
上記のような処理(膜の改質処理)によって、標準圧力以下における分離性能が改善されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下の膜透過現象を表す理論式において、反射係数σが改善されたことが要因であると推定される。また、定性的には、膜の比較的大きな欠陥部位に処理剤が入り込み、欠陥を埋めることによって定常的な溶質のリーク量が減少するためであると推定される。
Jv=A(ΔP−σΔπ)
Js=BΔC+(1−σ)JvCS
ここで、
Jv:透過流束
Js:溶質透過流束
ΔP:膜間差圧
Δπ:浸透圧
ΔC:膜間濃度差
Cs:膜間平均濃度
A:水透過係数
B:溶質透過係数
である。
Jv=A(ΔP−σΔπ)
Js=BΔC+(1−σ)JvCS
ここで、
Jv:透過流束
Js:溶質透過流束
ΔP:膜間差圧
Δπ:浸透圧
ΔC:膜間濃度差
Cs:膜間平均濃度
A:水透過係数
B:溶質透過係数
である。
本発明に係る分離膜の性能向上方法においては、上記分離膜として、逆浸透膜またはナノ濾過膜を使用することが好ましい。これにより、例えば、膜の塩類阻止性能、シリカやホウ素等の非解離成分阻止性能、有機成分阻止性能の向上が可能となる。
また、本発明に係る分離膜の性能向上方法においては、前記分離膜として、スパイラル型膜エレメントを使用することが好ましい。スパイラル型膜エレメントは、コストも安く、汎用性も高いため、この構造の膜に対して性能向上処理ができる利点は大きい。
また、前記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜を使用することが好ましい。好適な素材は、芳香族ポリアミド、好ましくは全芳香族ポリアミド、さらに好ましくは架橋全芳香族ポリアミドである。膜にポリアミド系素材を含む場合には、性能向上処理の効果がより大きくなる。
また、上記有機物質の平均分子量としては、200〜5000であることが好ましい。この有機物質の平均分子量は、より好ましくは200〜3000、さらに好ましくは200〜2000である。平均分子量が200未満だと、有機物質が膜を透過してしまう場合があるため効果が低い。一方、平均分子量が5000を超えると、膜のファウリングを引き起こして、透過流束の低下を招くのみで、阻止性能向上にはあまり寄与しない。
上記有機物質としては、とくに、タンニン酸を用いることが好ましい。すなわち、ポリフェノール類の中でもとりわけタンニン酸の効果が高く、この物質を用いるのが良い。
タンニン酸としては、とくに、加水分解型タンニンを用いることが好ましい。タンニン酸には加水分解型と縮合型があるが、とりわけ前者の方が効果が高い。
中でもとくに、上記タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものを用いることが好ましい。五倍子から抽出されたタンニン酸(以下、五倍子タンニンと呼ぶこともある。)は、一般に平均分子量が約1700程度のものが多く、本発明に係る分離膜の阻止性能向上に好適である。
上記加圧通水時の透過流束は、0.3〜5.0m/dayの範囲とすることが好ましい。より好ましい透過流束の範囲は、0.5〜3.0m/day、さらに好ましくは0.7〜2.0m/dayの範囲である。透過流束が 0.3m/day未満では、有機物質の吸着効果が低く、阻止性能の向上が見込めない。透過流束が5.0m/dayを超えると、ファウリングを起こす場合があり、好ましくない。従来、海水淡水化用の中空糸RO膜にてタンニン酸処理をする場合もあったが、処理の際の透過流束が非常に低く、効果が不十分であった。本方法では、0.3〜5.0m/dayと高い透過流束にて処理を行なうことで、高い阻止性能向上効果を実現できる。
また、本発明に係る方法では、前記有機物質を含む水に酸を添加して、pHを1〜5とすることが好ましい。pHをこの範囲にコントロールすることにより、有機物質の沈殿を防ぎ、阻止性能向上を適切に実施することができる。
酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、カルボン酸、などを用いることができる。とくに、クエン酸は入手が容易で、毒性も低いことから用いやすく、操作性が良い。
本発明は、上記のような分離膜の性能向上方法により処理された分離膜も提供する。
本発明に係る分離膜の性能向上装置は、標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減し、分離膜の阻止性能を向上させるべく、分離膜にポリフェノールを含む有機物質を含む水を加圧通水する手段を有することを特徴とするものからなる。
また、本発明に係る分離膜の性能向上装置は、1基の前段の分離膜モジュールまたは2基以上並列配置された前段の分離膜モジュール群と、該前段の中間濃縮水が供給される、1基の後段の分離膜モジュールまたは2基以上並列配置された後段の分離膜モジュール群とを有する、2段以上の多段式膜分離装置に、標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減し、前段および後段の分離膜モジュール群全体の分離膜の阻止性能を向上させるべく、ポリフェノールを含む有機物質を含む水を前段から加圧通水する手段を設けたことを特徴とするものからなる。
この多段式膜分離装置においては、前段の1バンクに含まれる膜エレメントの本数が、その直後段の1バンクに含まれる膜エレメントの本数よりも多いことが好ましい。
また、本発明に係る分離膜の性能向上装置においても、上記分離膜は、逆浸透膜またはナノ濾過膜からなることが好ましい。
また、上記分離膜として、スパイラル型膜エレメントが使用されていることが好ましい。
また、上記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜が使用されていることが好ましい。
また、上記有機物質の平均分子量が、200〜5000であることが好ましい。より好ましくは200〜3000、さらに好ましくは200〜2000の範囲である。
また、上記有機物質として、タンニン酸が用いられることが好ましい。タンニン酸としては、加水分解型タンニンが用いられることが好ましい。とくに、タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものが用いられることが好ましい。
また、上記加圧通水する手段による加圧通水時の透過流束が、0.3〜5.0m/dayの範囲とされていることが好ましい。より好ましい透過流束の範囲は、0.5〜3.0m/day、さらに好ましくは0.7〜2.0m/dayの範囲である。
さらに、上記有機物質を含む水に酸を添加し、pHを1〜5とする手段を有することが好ましい。酸としては、クエン酸が使用されることが好ましい。
本発明によれば、標準圧力より低い圧力での運転時に、分離膜の阻止性能の低下を抑制することができ、システム設計が非常にしやすくなる。また、望ましい運転状態を安定して継続することが可能になり、分離膜の長寿命化も可能になる。さらに、ランニングコストの低減にもつながり、産業上の利用価値は非常に大きい。
以下に、本発明の望ましい実施の形態について説明する。但し、以下に説明する実施の形態は、本発明の実施態様の例を示すものであり、本発明の内容を制限するものではない。
本発明の第1の実施形態における分離膜の性能向上方法(分離膜モジュールの性能向上処理方法)を図1を参照して説明する。図1は、本実施形態の分離膜の性能向上方法を実施する、膜処理装置の概略機器系統を示している(圧力計、流量計、弁などは適宜省略してある。)。図1において、1はタンク、2はポンプ、3は分離膜モジュール、4は圧力調節弁、5〜9はボール弁を、それぞれ示している。なお、分離膜モジュール3は、分離膜そのものである膜エレメント31と、膜エレメント31を格納するための耐圧容器であるベッセル32からなる。
ベッセル32内に新品の膜エレメント31を装填後、弁5を閉の状態でタンク1に水(純水が好ましい。)を十分量入れ、弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ純水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。なお、本発明でいう圧力がかからない状態とは、透過水が得られないほどの低圧の状態をいう。
次にポンプ2停止後、弁5を閉として、タンク1に水(純水が好ましい。)を所定量入れ、処理薬品である有機物質を所定量加えて、十分に溶解する。酸を添加する場合は、同時に加え、所定のpHとなるように調整する。弁7、9を閉、弁5、6、8を開、弁4を所定の圧力になるように開として、ポンプ2を起動し、ポリフェノールを含む水(薬液)を膜エレメント31に加圧通水する。処理中にpHの測定を行ない、変動する場合には、適宜酸を加えて調整する。
所定時間経過後、ポンプ2を停止し、弁9を開けてタンク1内の薬液を排出する。水(純水が好ましい。)でタンク1を水洗後、弁9を閉として水(純水が好ましい。)を貯留する。弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ純水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。また弁6も開として、循環ラインの水洗も適宜行なう。
膜エレメントは使用して汚染・劣化したものでもよい。その場合、水洗処理と薬液による性能向上処理の間に酸またはアルカリによる薬品処理を行うことが好ましく、具体的には、次のような操作を行えばよい。ポンプ2停止後、弁5を閉として、タンク1に洗浄用薬品を所定濃度で調製する。弁7、8、9を閉、弁5、6を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水した後、温度の上昇を防ぐため、ポンプ2を停止する。最後にポンプ2を再起動し、しばらく通水する。処理薬品として、酸・アルカリ両方を用いる場合には、間で水洗をして、この処理操作を繰り返す。また、全ての処理終了後にも水洗を行なう。
次に、本発明の第2の実施形態における分離膜モジュールの性能向上方法を図2を参照して説明する。図2は本実施形態の処理方法を実施する、多段式(本形態は2段式)膜処理装置の概略機器系統図である(圧力計、流量計、弁などは適宜省略してある)。1はタンク、2はポンプ、3a〜3cは分離膜モジュール、4a〜4cは圧力調節弁、5〜9はボール弁を示している。なお、分離膜モジュール3a〜3cは、分離膜そのものである膜エレメント31a〜31cと、膜エレメントを格納するための耐圧容器であるベッセル32a〜32cからなる。
ベッセル32a〜32c内に新品の膜エレメント31a〜31cを装填後、弁5を閉の状態でタンク1に水(純水が好ましい。)を十分量入れ、弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4a〜4cを適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ純水を補給しながら、分離膜モジュール3a〜3cを水洗する。
次にポンプ2停止後、弁5を閉として、タンク1に水(純水が好ましい。)を所定量入れ、処理薬品である有機物質を所定量加えて、十分に溶解する。酸を添加する場合は、同時に加え、所定のpHとなるように調整する。弁7、9を閉、弁5、6、8を開、弁4a〜4cを所定の圧力になるように開として、ポンプ2を起動し、ポリフェノールを含む水(薬液)を膜エレメント31に加圧通水する。処理中にpHの測定を行ない、変動する場合には、適宜酸を加えて調整する。
所定時間経過後、ポンプ2を停止し、弁9を開けてタンク1内の薬液を排出する。水(純水が好ましい。)でタンク1を水洗後、弁9を閉として水(純水が好ましい。)を貯留する。弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4a〜4cを適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ純水を補給しながら、分離膜モジュール3a〜3cを水洗する。また弁6も開として、循環ラインの水洗も適宜行なう。
膜エレメントは使用して汚染・劣化したものでもよい。その場合、水洗処理と薬液による性能向上処理の間に酸またはアルカリによる薬品処理を行うことが好ましく、具体的には、次のような操作を行えばよい。ポンプ2停止後、弁5を閉として、タンク1に処理薬品を所定濃度で調製する。弁7、8、9を閉、弁5、6を開、弁4a〜4cを適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水した後、温度の上昇を防ぐため、ポンプ2を停止する。最後にポンプ2を再起動し、しばらく通水する。処理薬品として、酸・アルカリ両方を用いる場合には、間で水洗をして、この処理操作を繰り返す。また、全ての処理終了後にも水洗を行なう。
この第1の形態、第2の形態では、膜エレメントを、使用する若しくは使用していた装置と別の装置にて処理する方法を示したが、実際に膜エレメントを使用する現場にて、タンク1として原水タンクを用いて、インラインで処理を行なってもよい。そうすることで、エレメントの取り出し、再充填等の手間がなく、簡易にできて良い。また、2段式の分離膜装置に限らず、3段以上の分離膜装置に適用してもよく、各段におけるエレメントやモジュールの数も任意に設定することができる。
性能向上処理後の水洗操作は、性能向上処理後できるだけ早急に行なうのが良い。性能向上処理後、長期間分離膜と処理薬品が接触した状態が続くと、処理の効果が現れないばかりか、透過水量の大幅な減少を招いてしまう。この原因は必ずしも明らかではないが、膜表面への有機物質の吸着が極度に進行し、ファウリング物質になるためと推定される。したがって、少なくとも24時間以内に水洗操作を行なうことが好ましい。第2の形態においては、全ての膜エレメントに性能向上処理を施す例を示したが、一部の膜エレメントに処理をしたい場合は、各膜エレメントを含む分離膜モジュールに透過水弁を設置し、処理したい膜エレメント以外の透過水弁を閉とすればよい。このようにすることで、処理したい膜エレメントのみに加圧通水され、目的とする膜エレメントのみが処理される。
性能向上処理後の分離膜は、水処理装置全体のシステム中で用いることができる。例えば、原水を凝集沈殿、砂濾過、膜濾過等の方法で除濁処理後、改質処理をした分離膜を用いたり、後段に電気再生式脱塩装置(EDI)を用いたりすることもできる。
性能向上薬品である有機物質の濃度は、特に限定されないが、50〜500mg/L、好ましくは80〜200mg/Lであることが、効率良い処理をするために好ましい。50mg/L未満では処理の効果が低く、500mg/Lを超えるとファウリングを起こす場合があり、好ましくない。
処理時間は、特に限定されないが、5分〜24時間、好ましくは10分〜6時間であることが、効率の良い処理をするために好ましい。5分未満では処理の効果が薄く、24時間を超えるとファウリングを起こす場合があり、好ましくない。
処理前後で、処理の効果を確認する方法としては、各種操作圧力にて塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムなどの電解質水溶液を用いて、塩類の阻止性能を評価する他、シリカ(ケイ酸ナトリウム)やアルコール類等のTOC成分の阻止性能を評価することが好ましい。通常、RO膜やNF膜の性能評価は電解質水溶液を用いることが多いが、性能向上処理によって、非電解質成分の阻止性能も回復するため、シリカやTOCの阻止性能を、塩類阻止性能と合わせて、性能回復の指標として用いるのが良い。
本発明で言うポリフェノールとは、複数の水酸基が結合した芳香族化合物を総称した、一般的なポリフェノール類のことを指す。ポリフェノールとしては、例えば、アントシアニン、カテキン、タンニン、ルチン、ケルセチン、イソフラボン、フラボノイド、フミン類、フルボ酸、などが挙げられるが、特に限定はされない。
タンニンはタンニン酸、タンニン類とも呼ばれ、混同して用いられるが、本明細書中では全て同義で用いている。また、五倍子タンニンのことをガロタンニンと呼ぶこともある。なお五倍子とは、ヌルデ属植物の虫コブのことである。
タンニン酸には、加水分解型と縮合型がある。前者の原料の例としては、五倍子、没食子、チェストナット(Chestnut)、オーク(Oak Wood)、ユーカリプタス(Eucalyptus)、ディビディビ(Divi-Divi)、タラ(Tara)、スマック(Sumac)、ミラボラム(Myrabolam)、アルガロビア(Algarobilla)、バロニア(Valonea)、胡桃、栗、木苺、グミ、ザクロ、アカメガシワ、ウルシ科、サンシュユ、ゲンノショウコ、などが挙げられる。後者の原料の例としては、ケプラチョ(Quebracho)、ビルマカッチ(Burma Cutch)、ワットル(Wattle)、ミモザ(Mimosa)、スプルース(Spruse)、ヘムロック(Hemlock)、マングローブ(Mangrove)、カシワ樹皮(Oak bark)、アバラム、ガンビア(Gambier)、茶、柿渋、ユキノシタ、ブドウ、リンゴ、蓮根、コーヒー、しそ、ボケ、椿、ローズマリー、パセリ、サルビアの花、ヒマワリ、などが挙げられる。なお、加水分解型はピロガロール型(Hydrolyzable Tannin)、縮合型はカテコール型(Condensel Tannin)とも呼ばれる。
前記洗浄に用いる酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、シュウ酸などが挙げられる。また、洗浄に用いるアルカリとしては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。酸はpH=1〜3で、アルカリはpH=10〜13の範囲で用いることが、高い洗浄効果を得るために好ましい。酸・アルカリ両方で洗浄する場合は、先に酸洗浄を行なうことが良い。これは、金属類が残留した状態でアルカリ洗浄を行なった場合、スケールの発生や加水分解の促進が懸念されるためである。
前記有機物質を含む水に酸を添加し、pHを1〜5としてもよい。pHをこの範囲にコントロールすることにより、有機物質の沈殿を防ぎ、性能回復を適切に実施することができる。酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、カルボン酸、などを用いることができ、特にクエン酸は入手が容易で、毒性も低いことから用いやすく、操作性が良い。
前記実施の形態では、洗浄・性能向上処理にその処理専用の装置を用いる例を示したが、実際の装置に装着した状態で、装置の原水タンクや高圧ポンプ、薬品洗浄ライン等を用いて処理を行なってもよい。
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
実施例1
五倍子タンニンを用いて、図1に示す装置にて、前記方法により性能向上処理(改質処理)を行なった。膜は日東電工社製LES90-D4(標準圧力:0.5MPa)を用いた。薬液中の五倍子タンニン濃度は100mg/Lとした。処理時間は1時間、処理時の透過流束は、1.0m/dayとした。
五倍子タンニンを用いて、図1に示す装置にて、前記方法により性能向上処理(改質処理)を行なった。膜は日東電工社製LES90-D4(標準圧力:0.5MPa)を用いた。薬液中の五倍子タンニン濃度は100mg/Lとした。処理時間は1時間、処理時の透過流束は、1.0m/dayとした。
実施例2
実施例1において、使用した有機物質を、ミラボラムから抽出されたタンニンとした以外は、実施例1と同じ方法にて処理を行なった。
実施例1において、使用した有機物質を、ミラボラムから抽出されたタンニンとした以外は、実施例1と同じ方法にて処理を行なった。
比較例1
改質処理を行なわず、水洗のみを実施した。膜は日東電工社製LES90-D4(標準圧力:0.5MPa)を用いた。
改質処理を行なわず、水洗のみを実施した。膜は日東電工社製LES90-D4(標準圧力:0.5MPa)を用いた。
上記処理後、および保存後、それぞれの膜のNaCl透過率(透塩率)、Ca2+透過率、シリカ透過率、イソプロピルアルコール(IPA)透過率、透過水量を測定し、性能評価を行なった。なお、透塩率は導電率にて、IPA透過率はTOCにて評価した。結果を表1に示す。
表1に示したように、水洗のみの比較例1では、低圧運転時において、分離性能の大幅な低下が起こった。一方、タンニン酸による処理を行なった実施例1、2では、低圧運転時においても、分離性能の低下は限定的であった。つまり、結果的に分離性能の向上が達成できたことを確認できた。
本発明に係る分離膜の性能向上方法および装置は、とくに低圧運転時の逆浸透膜やナノ濾過膜の性能向上に好適なものであり、中でも、多段処理における、後段、装置全体の分離膜の性能向上に好適なものである。性能向上された分離膜により、地下水や井戸水、河川水、湖水、雨水、工業用水、水道水、ゴミ浸出水、下排水処理水、各種工程回収水などの原水の処理効果を高めることができる。
1 タンク
2 ポンプ
3、3a、3b、3c 分離膜モジュール
4、4a、4b、4c 圧力調節弁
5、6、7、8、9 ボール弁
31、31a、31b、31c 分離膜としての膜エレメント
32、32a、32b、32c 耐圧容器としてのベッセル
2 ポンプ
3、3a、3b、3c 分離膜モジュール
4、4a、4b、4c 圧力調節弁
5、6、7、8、9 ボール弁
31、31a、31b、31c 分離膜としての膜エレメント
32、32a、32b、32c 耐圧容器としてのベッセル
Claims (27)
- 標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減すべく、分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上させることを特徴とする、分離膜の性能向上方法。
- 1基の前段の分離膜モジュールまたは2基以上並列配置された前段の分離膜モジュール群の中間濃縮水が、1基の後段の分離膜モジュールまたは2基以上並列配置された後段の分離膜モジュール群に供給される、2段以上の多段式膜分離において、標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減すべく、ポリフェノールを含む有機物質を含む水を前段から加圧通水し、前段および後段の分離膜モジュール群全体の分離膜の阻止性能を向上させることを特徴とする、分離膜の性能向上方法。
- 前記多段式膜分離において、前段の1バンクに含まれる膜エレメントの本数が、その直後段の1バンクに含まれる膜エレメントの本数よりも多いことを特徴とする、請求項2に記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記分離膜として、逆浸透膜またはナノ濾過膜を使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記分離膜として、スパイラル型膜エレメントを使用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜を使用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記有機物質の平均分子量が、200〜5000であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記有機物質として、タンニン酸を用いることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記タンニン酸として、加水分解型タンニンを用いることを特徴とする、請求項8に記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものを用いることを特徴とする、請求項8または9に記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記加圧通水時の透過流束は、0.3〜5.0m/dayの範囲とすることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記有機物質を含む水に酸を添加し、pHを1〜5とすることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の分離膜の性能向上方法。
- 前記酸として、クエン酸を使用することを特徴とする、請求項12に記載の分離膜の性能向上方法。
- 請求項1〜13のいずれかに記載の分離膜の性能向上方法により処理された分離膜。
- 標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減し、分離膜の阻止性能を向上させるべく、分離膜にポリフェノールを含む有機物質を含む水を加圧通水する手段を有することを特徴とする、分離膜の性能向上装置。
- 1基の前段の分離膜モジュールまたは2基以上並列配置された前段の分離膜モジュール群と、該前段の中間濃縮水が供給される、1基の後段の分離膜モジュールまたは2基以上並列配置された後段の分離膜モジュール群とを有する、2段以上の多段式膜分離装置に、標準圧力より低い運転圧力での分離性能低下を低減し、前段および後段の分離膜モジュール群全体の分離膜の阻止性能を向上させるべく、ポリフェノールを含む有機物質を含む水を前段から加圧通水する手段を設けたことを特徴とする、分離膜の性能向上装置。
- 前記多段式膜分離装置において、前段の1バンクに含まれる膜エレメントの本数が、その直後段の1バンクに含まれる膜エレメントの本数よりも多いことを特徴とする、請求項16に記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記分離膜が、逆浸透膜またはナノろ過膜からなることを特徴とする、請求項15〜17のいずれかに記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記分離膜として、スパイラル型膜エレメントが使用されていることを特徴とする、請求項15〜18のいずれかに記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜が使用されていることを特徴とする、請求項15〜19のいずれかに記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記有機物質の平均分子量が、200〜5000であることを特徴とする、請求項15〜20のいずれかに記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記有機物質として、タンニン酸が用いられることを特徴とする、請求項15〜21のいずれかに記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記タンニン酸として、加水分解型タンニンが用いられることを特徴とする、請求項22に記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものが用いられることを特徴とする、請求項22または23に記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記加圧通水する手段による加圧通水時の透過流束が、0.3〜5.0m/dayの範囲とされていることを特徴とする、請求項15〜24のいずれかに記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記有機物質を含む水に酸を添加し、pHを1〜5とする手段を有することを特徴とする、請求項15〜25のいずれかに記載の分離膜の性能向上装置。
- 前記酸として、クエン酸が使用されることを特徴とする、請求項26に記載の分離膜の性能向上装置。
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