JP2006513693A - 非復帰変異可能なβ−酸化遮断カンジダ・トロピカリス - Google Patents

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Abstract

【解決手段】 C.tropicalisの遺伝子改変株であって、POX4及び/又はPOX5座で野生型活性に変異しないものが開示されている。その株はβ−酸化が遮断され、POX4及び/又はPOX5遺伝子の一部分を欠失する構成体との相同性組換によって形質変換される。改変株は株の宿主細胞内で生産されるジカルボン酸の産出を増加させるために使用されてもよい。また、C.tropicalis宿主細胞内のβ−酸化経路を遮断する方法が提供される。

Description

関連出願の引用
本願は、先に出願され、同時に係属している2002年5月23日に出願された対応米国仮出願番号第60/383,332号の35U.S.C.§119(e)に基づく利益を主張するものであって、その内容を参照としてここに組み込む。
連邦政府の後援を受ける研究開発であることの陳述
本発明は、少なくとも部分的に、商務省標準技術研究所先端技術計画協定番号70NANB8H4033の認可の下で助成された。従って、政府は本発明において一定の権利を有することができる。
本発明の背景
脂肪族二酸は、香料、ポリマー、接着剤、マクロライド系抗生物質の製造原料として有用な可変性の化学的中間体である。長鎖α,ω−ジカルボン酸の合成にはいくつかの化学的な手段が利用可能であるが、その一方で、合成は容易でなく、殆どの方法ではより短鎖のものを含む混合物になる。その結果、高度な精製工程が必要になる。長鎖二酸は、アルカン、脂肪酸又はそれらエステルの微生物の形質変換によっても産生され得ることが知られているが、現行の生物学的取組みでの限界のため、化学合成が最も商業的に実現可能な経路にとどまっている。
いくつかの酵母株は、炭素源としてアルカン又は脂肪酸で培養された際、副産物としてα,ω−ジカルボン酸を排出することが知られている。特に、C.albicans, C.cloacae, C.guillermondii, C.intermedia, C.lipolytica, C.maltosa, C.parapsilosis及びC.zeylenoidesのようなカンジダ族に属する酵母はそのようなジカルボン酸を産生することが知られている(Agr. Biol. Chem. 35:2033-2042 (1971))。また、種々のC.tropicalis株がC11からC18の鎖長範囲でジカルボン酸を産生することも知られており(Okinoら、"Production of Macrocyclic Musk Compounds via Alkanedioic Acids Produced From N-Alkanes"、Lawrenceら(編)、Flavors and Fragrances: A World Perspective. Proceeding of the 10th International Conference of Essential Oils, Flavors and Fragrances, Elsevier Science Publishers BV Amsterdam,pp.753-760(1988))、それはBuhler及びSchindler、Aliphatic Hydrocarbons in Biotechnology、H. J. Rehm及びG. Reed (編)、Vol. 169, Verlag Chemie, Weinheim (1984)で再検討されたように、いくつかの特許の基礎となっている。
アルカン及び脂肪酸を代謝する酵母による生化学的プロセスの研究によって、3種の酸化反応が明らかになった:アルカンのアルコールへのα−酸化、脂肪酸のα,ω−ジカルボン酸へのω−酸化、脂肪酸の二酸化炭素及び水への分解β−酸化。先の2種の酸化はミクロソーム酵素により触媒され、一方、後の1種はペルオキシソームによって行われる。C.tropicalisでは、ω−酸化経路での第1ステップは、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ及びNADPHシトクロムリダクターゼを包む膜結合酵素複合体(ω−ヒドロキシラーゼ複合体)により触媒される。このヒドロキシラーゼ複合体は、例えば、参考としてここに組み込むGilewiczら、Can. J. Microbiol. 25:201(1979)で詳述されているように、アルカン及び脂肪酸における末端メチル基の一次酸化を担っている。その複合体のシトクロムP450及びNADPHリダクターゼ成分をコードする遺伝子は、それぞれP450ALK及びP450REDとして同定されている。また、例えば、参考としてここに組み込むSanglardら、Gene 76:121-136(1989)で詳述されるように、クローン化及び配列決定されている。P450ALKは、P450ALK1とも称されている。つい最近では、ALK遺伝子は記号CYPで表され、RED遺伝子は記号CPRで表されている。例えば、参照としてここに組み込むNelsonのPharmacogenetics 6(1):1-42 (1996)を参照。また、それぞれ、参照としてここに組み込むOhkumaら、DNA and Cell Biology 14:163-173 (1995)、Seghezziら、DNA and Cell Biology 、11:767-780 (1992)及びKargelら、Yeast 12:333-348 (1996)を参照。さらに、CPR遺伝子は、現在NCP遺伝子とも称される(例えば、De Backerら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 45:1660(2001)を参照)。また、例えば、P450ALKはNelsonの用語集、supraによりCYP52とも表されている。
脂肪酸は、2つの付加的な酸化工程の後、アルコールオキシダーゼ(例えば、参照としてここに組み込むKempらのAppl.Microbiol. and Biotechnol. 28:370-374(1988)等に詳述されているように)及びアルデヒド脱水素酵素により触媒され、アルカンから最終的に形成される。脂肪酸は、同一又は類似の経路によって、対応するジカルボン酸にさらに酸化され得る。脂肪酸のω−酸化は、ω−ヒドロキシ脂肪酸及びそのアルデヒド誘導体を経て、CoA活性化を必要とすることなく、対応するジカルボン酸を生じさせる。しかし、ペルオキシソームにおけるβ−酸化経路によって、対応するアシル−CoAエステルに対する活性化の後、脂肪酸及びジカルボン酸の双方が分解されることになり、鎖短を招く。哺乳動物系において、ω−酸化での脂肪酸及びジカルボン酸双方の生成物は、等しい割合で、それらのCoAエステルを活性化し、ミトコンドリア及びペルオキシソームのβ−酸化双方に対する基質となる(J.Biochem.,102:225-234(1987))。酵母では、ペルオキシソームにおいてβ−酸化が単独で行われる(Agr.Biol.Chem. 49:1821-1828 (1985))。
C.tropicalisを含むほとんどの酵母による発酵によって産生されたジカルボン酸は、おおむね、1以上の炭素原子対程度、本来の基質よりも短くなり、混合物が通常である(Oginoら、"Studies of Utilization of Hydrocarbons by Yeasts Part II. Diterminal Oxidation of Alkanes by Yeast", Agr. Biol. Chem., Vol.29, No.11, pp.1009-1015 (1965)、Shiioら、"Microbial Production of Long-chain Dicarboxylic Acids from n-Alkanes, Part I. Screening and Properties of Microorganism Producing Dicarboxylic Acids", Agr. Biol. Chem., Vol. 35, No. 13, pp. 2033-2012(1971); Rehmら、"Mechanisms and Occurrence of Microbial Oxidation of Long-chain Alkanes", Institute for Microbiologie, pp. 176-217 (1980); Hillら、"Studies on the Formation of Long-chain Dicarboxylic Acids from Pure n-alkanes by a Mutant of Candida tropicalis", Appl. Microbiol. Biotechnol., 24:168-174 (1986))。これは、基質及び生成物のペルオキシソームのβ−酸化経路による分解のためである。この一連の酵素反応は、反復して2炭素アセチル−CoA分子を切断することによって活性化アシル−CoAの連続的な短縮化に導く。その経路における最初のステップは、アシル−CoAからそのエノイル−CoA誘導体への酸化を伴い、アシル−CoAオキシダーゼにより触媒される。エノイル−CoAは、3−ケトアシル−CoAチオラーゼによるα及びβ炭素間の切断に不可欠なものとして、エノイル−CoAヒドラターゼ及び3−ヒドロキシアシル−CoAデヒドロゲナーゼの反応によって、さらにβ−ケト酸に代謝される。これらの後半の反応を部分的に遮断する変異体は、不飽和あるいは3−ヒドロキシ−モノカルボン酸又は3−ヒドロキシ−ジカルボン酸を形成するに至る(Meussdoeffer, 1998)。これらの好ましくない副産物が、しばしばジカルボン酸の生物学的産生に付随する。
二酸の形成は、適当な変異体を用いることにより、実質的に増加させることができることが知られている(Shiioら、supra;Furukawaら、"Selection of High Brassylic Acid Producing Strains of Torulopsis candida by Single-Cell Cloning and by Mutation", J. Ferment. Technol., Vol. 64, No.2, pp. 97-101 (1986);Hillら、supra; Okinoら、supra)。野生型酵母は、たとえあるとしても、ジカルボン酸をほとんど産生しないが、その一方、アルカン、脂肪酸又はジカルボン酸の基質での成長能において部分的に欠陥を有する変異体は、しばしばジカルボン酸の収率を高める効果を示す。しかし、これらの変異体は、成長のための炭素源として、これらの化合物を利用する能力が減少していること以外に特徴づけることはできなかった。おそらく、ジカルボン酸を産生するそれらの能力は、β−酸化経路の部分的な遮断によって高められている。また、β−酸化を遮断することが知られている化合物(つまり、アクリレート)は、ジカルボン酸の収率の増加をもたらすことも知られている(Jianlongら、"The Regulation of Alanine on the Fermentation of Long-Chain Dicarboxylic Acids in Candida tropicalis NpcoN22"、p.4 (1988))。
H5343(ATCC No.20962)のようなβ−酸化が遮断されたC.tropicalis株が米国特許第5,254,466号に開示されており、その全内容を参照としてここに組み込む。これらのC.tropicalis株は、染色体POX4A、POX4B及び双方のPOX5遺伝子が破壊されている。POX遺伝子の破壊は、URA3栄養性マーカーが、アシルCoAオキシダーゼ、POX4又はPOX5をコードする遺伝子を有する構成体に挿入され、標的有機体に形質転換された、挿入破壊により行われる。相同な組換えにより、POX4及びPOX5が破壊された有機体を産出した。
POX4及びPOX5遺伝子は、長鎖アシルCoAオキシダーゼの特異なサブユニットをコードし、それらはPXP−4及びPXP−5とそれぞれ称されるペルオキシソームポリペプチド(PXP)である。これらのPXPをコードするPOX4及びPOX5遺伝子の破壊は、その第1の反応(アシルCoAオキシダーゼにより触媒される)で、β−酸化経路を効果的に遮断し、β−酸化経路によるジカルボン酸生成物の分解及び/又は再利用を妨げる一方、それによって、ω−酸化経路へ基質を転嫁する。従って、不飽和化、水酸化又は炭素鎖短縮化等のβ−酸化経路の通過に伴う望ましくない鎖の改変をもたらす生合成経路はもはや機能しないので、4つ全てのPOX遺伝子を破壊したC.tropicalis株は、実質的に純粋なα,ω−ジカルボン酸の産生を増量させて合成する。
また、C.tropicalis株は、増幅された1以上のシトクロムP450(P450ALK)遺伝子及び/又はリダクターゼ(P450RED)遺伝子を有してもよく、その結果、P450遺伝子の増幅による律速ω−水酸化酵素の増量をもたらし、ω−酸化経路を通る基質流の割合を増加させる。CPR(リダクターゼ)遺伝子の特別な例は、例えば、それぞれの内容を参考としてここに組み込む米国特許第6,331,420号及び国際出願第PCT/US99/20797号で詳述されるように、C.tropicalis 20336のCPRA及びCPRB遺伝子を含む。他に公知のC.tropicalis株は、4つ全てのPOX遺伝子がURA3選択マーカーにより破壊された増幅H5343株であるAR40を含み、それは、また、3つの付加的なシトクロムP450遺伝子の複製及び2つの付加的なリダクターゼ遺伝子であるP450RED遺伝子の複製を含んでいる。株R24は、URA3選択マーカーにより4つ全てのPOX遺伝子が破壊され、またリダクターゼ遺伝子の複数の複製を含む、増幅H5343株である。株AR40及びR24は、米国特許第5,620,878号及び第5,648,247号に記載されており、その内容はそれぞれ参考としてここに組み込む。
これらの株は、ジカルボン酸生産プロセスでの使用のために創り出され、何年もの間採用されている、新たな改変株の基礎となっている。しかし、β−酸化遮断酵母株を用いる脂肪酸及び/又はアルカン基質の発酵においては、そのような株はPOX4座で復帰変異を示す。野生型POX4遺伝子への復帰変異によって、β−酸化経路はもはや遮断されず、ジカルボン酸の産生の減少をもたらす。従って、野生型活性に復帰変異していない、安定したPOX4破壊を含む改良酵母株の存在が必要である。
本発明の要約
β−酸化経路が遮断され、染色体標的遺伝子の一部が欠失した新規の酵母株を開示する。染色体標的遺伝子の一部の欠失は、その株が野生型活性に復帰変異しない十分なサイズの欠失である。
好ましい実施態様では、酵母株がC.tropicalisであって、染色体標的遺伝子がPOX4遺伝子又はPOX5遺伝子である。POX4又はPOX5遺伝子の一部分の欠失は、非復帰変異可能なβ−酸化が遮断されたC.tropicalis株をもたらす。より好ましい実施態様では、β−酸化経路の他の遺伝子の破壊ならびにシトクロムP450遺伝子及び/又はリダクターゼ遺伝子の増幅である。このように、得られた株は、遮断されたβ−酸化経路及び律速ω−ヒドロキシラーゼの増量の双方を伴い、それは、ω−酸化経路を通る基質流の割合を増加させ、実質的に純粋なα,ω−ジカルボン酸の産生をもたらす。
POX4遺伝子は、POX4A、POX4B又はPOX4AとPOX4Bとの双方であってもよい。POX5遺伝子は、いくつかの実施態様では、染色体POX5遺伝子の双方の複製とすることができる。いくつかの実施態様では、POX4A、POX4B、POX5、染色体POX5遺伝子の双方の複製又はそれらのいかなる組み合わせであってもよい。
好ましくは、染色体標的遺伝子、つまり、POX4又はPOX5の一部分の欠失が、前記POX4又はPOX5に相同性を有するDNA配列で両端に隣接された選択マーカー遺伝子を含むDNA断片を有する前記POX4又はPOX5遺伝子の相同な組換えにより生じるが、前記DNA配列は連続していない。得られるベクターはここでPOX4欠失破壊カセット又はPOX5欠失破壊カセットと言及する。選択マーカーは、DNA断片が形質転換した細胞に特定のフェノタイプを与えるものである。より好ましくは、選択マーカーが形質転換した細胞に、例えば、特定のピリミジンに対して、原栄養のフェノタイプを与え、それによって、形質転換細胞は、その後、ピリミジン欠乏培地でのそれらの成長能により選択可能となる。最も好ましい態様では、選択マーカー遺伝子はURA3である。
本発明によれば、PXO4欠失破壊カセットで形質転換された酵母の宿主細胞は、部分的に欠失したPOX4遺伝子で置換されたその染色体POX4遺伝子を有する。同様に、POX5欠失破壊カセットで形質転換された酵母の宿主細胞は、部分的に欠失したPOX5遺伝子で置換されたその染色体POX5遺伝子を有する。いずれの場合でも、得られる酵母株はそのβ−酸化経路が遮断され、野生型活性に復帰変異しないであろう。
特に好ましい態様では、C.tropicalis H53は、POX4からの2つの連続しないフランキング配列が隣接した647bpプロモーター、803bp ORF及び226bp UTRを含む1676bp URA3選択マーカー遺伝子を含むPOX4欠失破壊カセットで形質転換されている。C. tropicalisゲノムに組み込まれた場合、POX4欠失破壊カセットはPOX4ORFの653bpを欠失し、1676bp URA3選択マーカーを挿入する。H53(POX5/POX5)における欠失POX4対立遺伝子を含む、その得られた形質転換C. tropicalis株はHDC100と呼ばれる。
本発明の別の側面によれば、β−酸化経路の1以上の遺伝子の一部分を欠失させることによって、それらのβ酸化経路を有する形質転換酵母株を生産する方法を提供する。好ましくは、これらの株が、酵母ゲノムとの相同な組換えの後、宿主細胞における標的遺伝子の部分的な欠失をもたらすベクターで酵母宿主細胞を形質転換することによって生産される。より好ましくは、標的遺伝子がPOX4又はPOX5であり、ベクターが、それぞれ、POX4欠失破壊カセット又はPOX5欠失破壊カセットとして示される。POX4欠失破壊カセットは、POX4遺伝子の一部分に対して相同性を有するDNA断片と、選択マーカー遺伝子と、POX4遺伝子の異なる部分に対して相同性を有するDNA断片とを含む。POX5欠失破壊カセットは、POX5遺伝子の一部分に対して相同性を有するDNA断片と、選択マーカー遺伝子と、POX5遺伝子の異なる部分に対して相同性を有するDNA断片とを含む。POX4欠失破壊カセットで形質転換された酵母宿主細胞は、部分的に欠失したPOX4遺伝子で置換されたその染色体POX4遺伝子と、選択マーカー遺伝子とを有する。同様に、上述したPOX5欠失破壊カセットで形質転換された酵母宿主細胞は、部分的に欠失したPOX遺伝子で置換されたその染色体POX5遺伝子と、選択マーカー遺伝子とを有する。
本発明のさらに別の側面によれば、β−酸化経路が遮断され、染色体標的遺伝子の一部が欠失された形質転換酵母株で培養培地を発酵させることにより、収量を増加させ、実質的に純粋なα,ω−ジカルボン酸の特異的生産性を増加させる方法を提供する。好ましい実施態様では、変質転換酵母株は、そのPOX4遺伝子の一部分が欠失されたC.tropicalis宿主を含む。いくつかの実施態様では、C.tropicalis 株は、そのPOX4遺伝子の一部分の欠失を含む破壊されたPOX4及びPOX5遺伝子の全てを有してもよく、また、1以上の増幅されたシトクロムP450(P450ALK)遺伝子及び/又はリダクターゼ(P450RED)遺伝子を有してもよい。好ましくは、培養培地が窒素源、有機基質及び補基質を含む。より好ましい実施態様では、培養培地の窒素源が通常微生物を培養する過程で使用される無機又は有機窒素源である;有機基質は、脂肪族化合物の少なくとも1つの炭素末端がメチル基である脂肪族化合物であり、脂肪族化合物が約4から約22の炭素原子を有する;補基質はブドウ糖、果糖、麦芽糖、グリセロール及び酢酸ナトリウムからなる群から選択される。
C. tropicalisのPOX4遺伝子の調節及びコード領域を含む完全なDNA配列を示す。 C. tropicalis ATCC20336からURA3Aをコードする完全なDNA配列を示す。
本発明は、遮断されたβ−酸化経路を有する改良酵母株を提供する。その対象酵母株はβ−酸化経路の1以上の遺伝子が欠失した部分を有しており、野生型活性への復帰変異が回避されているため当技術分野における改良である。好ましくは、酵母株はカンジダ属に属する。本発明で使用することができるカンジダ種の例は、限定されるものでないのが、C. albicans, C. cloacae, C. guillermondii, C. intermedia, C. lipolytica, C. maltosa, C. parasilosis及びC. zeylenoidesを含む。より好ましい実施態様においては、酵母はC.tropicalisである。
1つの実施形態では、本発明は、染色体POX4遺伝子の欠失を有する酵母株を含む。その欠失の大きさは変動してもよいが、その酵母株が発酵のストレスに付されると、POX4座で野生型活性への復帰変異を妨げるのに十分な大きさである。さらに、欠失は1ヌクレオチド程度を含んでいてもよいが、好ましくは酵母株は、POX4遺伝子の約400から約900ヌクレオチド又は塩基対(bp)の欠失を有している。より好ましくは、対象酵母株は、約500から約800bpのPOX4遺伝子の欠失を有している。さらに好ましくは、欠失はPOX4遺伝子の約650pbを含む。最も好ましい実施態様では、欠失は、POX4遺伝子配列のヌクレオチド1178−1829に対応する、POX4遺伝子からの653bpの配列である(図1参照)。
本発明の改良酵母株は、酵母ゲノムとの相同な組換えの後、宿主細胞における標的遺伝子の部分的な欠失をもたらすベクターで酵母宿主細胞を形質転換することにより生産される。酵母染色体POX4遺伝子を置換するために、例えば、POX4欠失破壊カセットを用いることができる。同様に、酵母染色体POX5遺伝子を置換するために、POX5欠失破壊カセットを用いることができる。
ベクターは、宿主細胞に外来核酸分子を導入することができるあらゆる線状又は環状の核酸分子として定義される。好ましくは、ベクターは組込み型ベクターである。組込み型ベクターは、宿主細胞のゲノムにおける標的部位に対し、相同性のある核酸配列を有するものであるため、ベクター核酸は、宿主細胞の核DNAに組み込まれるかもしれない。
線状DNAベクターは、天然でない(外来)DNAの細胞への導入を避けることが望まれる場合に有利であろう。例えば、細胞に本来備わっているDNA配列に隣接する所望の標的遺伝子からなるDNAは、電気穿孔法、酢酸リチウム形質転換、スフェロプラスト等により、細胞に導入されてもよい。フランキングDNA配列は選択マーカー及び/又は他の遺伝子工学の手段を含んでもよい。
非復帰変異可能なβ−酸化遮断酵母株を産生するために、宿主細胞のゲノムにおける標的部位に対し相同性を有する組込み型ベクターを用いることができる。好ましくは、ベクター内に含まれる核酸配列は、選択マーカー遺伝子、非機能複製又は複製を含み、それは、宿主の核DNA内に存在してもよい。ベクター内の核酸配列が宿主のゲノムのいくらかの部分に相同性を有するという事実は、相同性のある領域で、それをゲノムに組込み可能にさせる。より好ましくは、核酸配列はDNAである。ここで用いられるように、用語「組込み可能」は宿主配列のどちらか一端に共有結合された領域として宿主ゲノムに導入され得ることを意味する。ベクターからの核酸配列が組み込まれた宿主ゲノムの領域は標的部位と定義される。本発明によれば、標的部位は、β−酸化経路に必要とされる酵素をコードする遺伝子である。好ましくは、標的遺伝子は、POX4又はPOX5である。最も好ましくは、標的遺伝子はPOX4である。
非復帰変異可能なβ−酸化遮断酵母株を産生するために使用されるベクターは、その中に含まれる欠失と共に標的遺伝子を含む。そのようなベクターは、天然酵母ゲノムにおけるβ−酸化経路の酵素をコードする遺伝子に対し相同性を有するDNA断片と、選択マーカー遺伝子と、天然酵母ゲノムにおけるβ−酸化経路の酵素をコードする遺伝子の異なった部分に対して相同性を有するDNA断片とを含む、一連に配列された線状DNA断片を含んでいてもよい。従って、選択マーカーは、β−酸化経路の酵素をコードする天然酵母ゲノムにおける遺伝子に相同であるDNA配列の両端に隣接するが、その配列は連続的ではない。
例えば、ベクターはPOX4欠失破壊カセット又はPOX5欠失破壊カセットを含んでいてもよい。POX4欠失破壊カセットは、POX4遺伝子の一部に対して相同性を有するDNA断片と、選択マーカー遺伝子と、POX4遺伝子の異なる部分に対して相同性を有するDNA断片とを含む。POX5欠失破壊カセットは、POX5遺伝子の一部に対して相同性を有するDNA断片と、選択マーカー遺伝子と、POX5遺伝子の異なる部分に対して相同性を有するDNA断片とを含む。上述したPOX4欠失破壊カセットで形質転換された酵母宿主細胞は、部分的に欠失したPOX4遺伝子で置換されたその染色体POX4遺伝子を有する。同様に、上述したPOX5欠失破壊カセットで形質転換された酵母宿主細胞は、部分的に欠失したPOX5遺伝子で置換されたその染色体POX5遺伝子を有する。
破壊カセットは、欠失がある標的遺伝子に対応するDNA配列に、選択マーカーをサブクローニングすることにより構築することができる。標的遺伝子に無関係のいかなる種類の選択マーカーが使用されてもよい。好ましくは、選択マーカーは、破壊カセットが形質転換される細胞に対して特定のフェノタイプを与えるものである。最も好ましくは、選択マーカーは、可逆的に栄養要求性に変化しうる形質転換細胞に対し、原栄養のフェノタイプを与えるものであるので、所望により、同一の選択マーカーが、その後、同一株での複数の遺伝子破壊に使用されてもよい。
例えば、特定のピリミジンに栄養要求性であるC.tropiclis形質転換宿主は、特定のピリミジンの合成に必要な機能選択マーカー遺伝子を含むPOX4又はPOX5欠失破壊カセットにより原栄養型に形質転換されてもよい。得られる形質転換体は、前記特定のピリミジンに対する原栄養型とされており、ピリミジン欠乏培地で成長するそれらの機能により選択される。これらの形質転換体は、前記欠失を含む非機能標的遺伝子での機能標的遺伝子の置換により標的遺伝子欠失を含む。
酵母がC. tropicalisである場合、適切なマーカー遺伝子は、限定されるものではないが、URA3A、URA3B又はHIS4遺伝子を含む。選択マーカーがURA遺伝子である場合、宿主細胞はウラシルに対して栄養要求性であり、選択マーカーがHIS4遺伝子である場合、宿主細胞はヒスチジンに対して栄養要求性である。
好ましい実施態様では、ウラシルに対して栄養要求性(Ura-)であるC. tropicalis 形質転換宿主は、選択マーカーとしてのURA3機能遺伝子を含む破壊カセットでウラシル原栄養型に形質転換される。形質転換された細胞はウラシルの無い状態で成長する機能により選択される。
酵母形質転換宿主細胞が、特定のフェノタイプ、例えばウラシルに対してすでに原栄養型である場合、得られる形質転換株におけるpox−フェノタイプの確認は、単独の炭素源として、デカン及びドデカンのようなアルカンを含有する培地での成長能がない株によって、行うことができる。
好ましくは、標的遺伝子、つまりPOX4のオープン・リーディング・フレーム(ORF)の重要な部分が、選択マーカー遺伝子、つまりURA3の導入前又は導入中に除去される。選択マーカー遺伝子は、5'−POX4配列の一端及び3'−POX4配列の他端に隣接している。5'−POX4配列及び3'−POX4配列は連続しておらず、POX4遺伝子の異なる部分に対応している。従って、形質転換細胞は、2つのPOX4フランキング配列間のゲノム領域に位置したPOX4遺伝子のヌクレオチドを欠いている。標的遺伝子のORFの一部分を欠失することにより、選択マーカー遺伝子の除去は、野生型機能、つまりβ−酸化に対する復帰変異をもたらさないだろう。
特に好ましい実施態様では、C.tropicalis H53は、1676bp URA3選択マーカー遺伝子からなるPOX4破壊カセットで形質転換されてもよく、1676bp URA3選択マーカー遺伝子は、POX4から2つの連続しないフランキング配列に隣接した、647bpプロモーター、803bp ORF及び226bp UTRを含む。C. tropicalisゲノムに組換えられる際、POX4破壊カセットは、POX4ORFのコード領域で653bpの欠失があり、1676bp URA3選択マーカーの導入がある酵母をもたらす。H53(pox5/pox5)における欠失POX4対立遺伝子を含む、得られた形質転換C.tropicalis株は、HDC100と呼ばれる。HDC100は非復帰変異可能(pox4△::URA3/pox4△::URA3 pox5/pox3)株である。形質転換細胞は、破壊されたPOX4及びPOX5遺伝子の4つ全てを有しているので、それらはβ−酸化経路の初期のステップで必要とされる酵素であるアシル−CoAオキシダーゼを殆ど又は全く産生せず、β−酸化が遮断されている。POX4遺伝子の一部欠失は、さらに機能プロテインをコードするPOX4遺伝子への組換えを妨げる。従って、野生型活性への復帰変異及びβ−酸化経路によるジカルボン酸生成物の再利用が避けられる。よって、得られたHDC100株は、β−ヒドロキシ酸、不飽和酸又はより短鎖の酸のような不要な副産物のいずれをも、殆ど産生しない。
得られたβ−酸化遮断C.tropicalis細胞は、β−酸化経路の1以上の遺伝子の一部が欠失した遺伝子組換えC. tropicalis株である。好ましくは、欠失は染色体POX4又はPOX5遺伝子の一部に対するものであり、いくつかの実施態様では、β−酸化経路の他の遺伝子も破壊されている。本発明の方法は、野生型株に用いてもよいが、β−酸化経路がすでに遮断され又は部分的に遮断された株に使用することが特に適している。以下の株はここに記載された方法を用いて形質転換することができる:H53、POX5遺伝子の双方が破壊されているもの;H5343、POX4及びPOX5遺伝子の4つ全てが破壊されているもの;H41、POX4A遺伝子が破壊されているもの;H41B、POX4B遺伝子が破壊されているもの;H43、POX4遺伝子の双方が破壊されているもの;H435、POX5遺伝子の一方及びPOX4遺伝子の双方が破壊されているもの;H51、POX5遺伝子の一方が破壊されているもの;H45、一方のPOX5及びPOX4A遺伝子が破壊されているもの;H534、POX5の双方の複製及びPOX4Aが破壊されているもの;及びH534B、POX5の双方の複製及びPOX4B遺伝子が破壊されているもの。本発明の教示によれば、上に挙げられたいずれの株もPOX4又はPOX5座で、1以上の対立遺伝子が破壊されるだけではなく、欠失を含むように、形質変換することができる。POX4又はPOX5遺伝子の欠失部分は、その株が野生型活性に復帰変異するのを妨げる。
他の実施態様では、C. tropicalis株が1以上の増幅されたシトクロムP450(P450ALK)遺伝子及び/又はリダクターゼ(P450RED)遺伝子を有していてもよく、それによりP450遺伝子増幅による律速ω−水酸化酵素の量的な増加及びω−酸化経路をとおる基質流の割合の増加をもたらす。好ましい実施態様では、米国特許第6,331,420号及び国際出願第PCT/US99/20797号に記載されるC. tropicalis20336のCPRA及びCPRB遺伝子を含むCPR(リダクターゼ)遺伝子が含まれる。
本発明の他の面は、ジカルボン酸を産生するこれらの形質転換酵母株の使用を包含する。好ましい実施態様では、POX遺伝子の破壊及び欠失により、競合するβ−酸化経路の機能不活性の結果、形質転換C. tropicalis株における基質流がω−酸化経路に転嫁される。最も好ましい実施態様は、その酵母株HDC100を利用することであり、それはβ−酸化が遮断されており、POX4遺伝子の一部分の欠失の結果、野生型活性に復帰変異しないであろう。これらの株は、適切な培地で培養された場合、実質的に純粋なα,ω−ジカルボン酸の特異的な産生の増加を示す。
α,ω−ジカルボン酸の産生を行う適切な培地は、容易に当該分野の当業者によって決定することができるが、最も好ましい実施態様では、培地は窒素源、有機基質及び補基質を含有する。
培養培地の窒素源は微生物を培養する過程において通常使用される、いかなる無機又は有機窒素源であってもよい。無機窒素源は硝酸ナトリウム又は硝酸カリウム等の硝酸アルカリ金属;硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩等を含む。有機窒素源は尿素、コーン・スティープ・リカー、酵母エキス、当該分野の当業者に公知の他の有機窒素源を含む。
培養培地の有機基質は、約4から約22の炭素原子を有するいかなる脂肪族化合物であってもよく、それは、末端炭素の少なくとも一つがメチル基、末端カルボキシル基及び/又はバイオ酸化によりカルボキシル基に酸化し得る末端官能基である。そのような化合物は、アルカン、アルケン、アルキン、カルボン酸及びそれらのエステルならびにアレーンを含む。好ましい基質は、約4から約22の炭素原子を有するアルカン及び脂肪酸並びにアシル部分が約4から約22の炭素原子を含むそれらのメチル又はエチルエステルである。最も好ましい基質はドデカン、トリデカン、テトラデカン、オレイン酸、オレイン酸メチル、パルミチン酸メチル、パルミトオレイン酸メチル及びミリスチン酸メチルである。
補基質はグルコース、フルクトース、マルトース、グリセロール、酢酸ナトリウム及びそれらの組み合わせを含んでもよい。好ましい補基質はグルコースである。本発明の方法で使用されるC.tropicalis株のβ−酸化経路は全体的又は部分的に遮断され、かつエネルギーは基質の酸化から得られないため、補基質は必要である。基質に所定の割合でグルコースを加えることにより、α,ω−ジカルボン酸への基質の部分的酸化を行わせながら、細胞へのエネルギー源の供給の均衡をとる。
以下の実施例は本発明を説明するものではあるが、限定するものではない。
実施例
POX4破壊構成体を、1676bp(647bpプロモーター、803bpORF及び226bpUTR)URA3選択マーカー遺伝子を導入する一方、POX4ORFの653bpを欠失するよう設計した。PCRプライマーはPOX4ORFの2つのフランキング領域(590bp及び815bp)を増幅するように設計した。これらのプライマーはURA3遺伝子のクローニングを促進するために制限感受性クローニング部位を含んでいた。フランキングPOX4領域の順調なPCRによって、DNAを制限し、ゲル分離し、所望のPOX4破壊構成体を産生するためのライゲーションで使用した。この構成体は、C. tropicalis H53(pox5/pox5)ura- をpox4/pox4 URA+フェノタイプに形質転換するために使用した。4つのC. tropicalis pox5/pox5 pox4/pox4同型接合体を、サザン分析により確認した。さらに、これらの株は、それらのpox−フェノタイプを示すドデカン/デカンで、成長能がなかった。これらの株をHDC100−1、−2、−3及び−4と名付けた。
実施例1
POX4のフランキング配列の生成
破壊カセットを直接組込んでPOX4フランキング配列を生成するために、2組のPCRプライマーを設計した。
Figure 2006513693
Figure 2006513693
これら2つのフランキング配列のPCR断片を精製し、AscI、PacI及びPmeI制限酵素 (Set#1断片に対してAscI及びPacI及びSet#2断片に対してPacI及びPmeI)で制限し、精製されたゲル、ニューイングランドバイオラボ(バーバリー、マサチューセッツ州)から購入したプラスミドpNEB193のAscI-PmeI消化物で浄化されたQiaexIIにライゲートした。ライゲーションは16℃で16時間、T4 DNAリガーゼ〈ニューイングランドバイオラボ〉を使用して、DNA末端と等モル数で行った。製造業者の推奨に従って、ライゲーションは大腸菌XL1−Blue細胞 (ストレートジーン、ラホーヤ、カリフォルニア州)に形質転換した。白色コロニーを分離し、成長させ、プラスミドDNAを分離し、AscI-PmeIで消化し、pNEB193へのフランキング配列の挿入を確認した。
制限酵素−感受性クローニング部位を、斜体で示したように、各プライマーに組み込んだ。プライマーセット番号1は、塩基対587−1177でDNA領域を増幅するために使用した。同様にプライマーセット番号2は、塩基対1830−2645でDNA領域を増幅するために使用した。
これらの断片は、以下の実施例2により生産された栄養マーカー(URA3)にライゲートされ、カンジダ・トロピカリスゲノムに組み込まれる際、ヌクレオチド1178−1829でPOX4ORFの653塩基対の欠失を生じた(図1参照)。
実施例2
URA3選択マーカーの生成
プライマーセットを、PacI制限感受性クローニング部位を含む1676塩基対URA3を増幅するために作った。
Figure 2006513693
プライマーを、C. tropicalis 20336のURA3A遺伝子の1712bp配列に基づき設計し、合成した(図2参照)。上述したプライマー179a及び179bを、C. tropicalis 20336ゲノムDNAと共にPCRで用い、図2に示すようにヌクレオチド9及び1685間のURA3A配列を増幅した。これらのプライマーは、固有のPacI制限部位をも、得られた増幅URA3A断片に導入するために設計した。URA3A遺伝子のPCR断片を精製し、PacI制限酵素で制限した。得られたベクターはPacI制限−感性クローニング部位と共に1676bp(647bpプロモーター、803bp ORF及び226bp UTR)URA3選択マーカー遺伝子を有する。
実施例3
POX4−欠失破壊構成体の生成
この破壊構成体を生成するために、実施例2により産生されたPacI制限−感受性クローニング部位を有する1676bpURA3選択マーカー遺伝子を、実施例1により産生されたPOX4フランキング断片を含むPacI制限及び脱燐酸化pNEB193 ベクターにクローニングした。本発明の好ましい観点では、合成制限部位配列により特に提供されたDNA以外にいかなる外来DNAも、C.troicalisゲノムにクローニングされたDNAに組み込まなかった。すなわち、制限部位DNAのほかは、天然C.tropicalisDNA配列のみがゲノムに組み込まれた。
実施例1に従って産生されたPOX4フランキング断片を含有するPacI制限pNEB 193ベクターは、PacI、精製されたQiaex IIで消化され、製造業者の推奨に従って、エビアルカリホスファターゼ(SAP、ユナイティッドステーツ バイオケミカル クレーブランド、オハイオ)で脱燐酸化した。POX4フランキング断片を含む約500ngのPacI 線状pNEB193ベクターを、DNA末端1pmolにつき0.2単位の酵素の濃度で、SAPを使用して、37℃で1時間、脱燐酸化した。その反応は、65℃での20分間の熱不活化により停止させた。
次いで、上記の実施例2に記載された方法から誘導されたPacI URA3A断片を、PacIで消化されたPOX4フランキング断片を含む脱燐酸化pNEB193ベクターにライゲートした。ライゲーション法は、上の実施例1と同様の方法に従った。ライゲーション混合物を、大腸菌XL1 Blue MRF' (遺伝子層)に形質転換した。形質転換体を選択し、ベクター配列、POX4フランキング配列、URA3A選択マーカー遺伝子を含み、POX4フランキング配列間(ヌクレオチド1178-1829のPOX4ORFの653塩基対(図1参照))の領域を欠く、適切な構成体をスクリーニングした。適切と認定された構成体を配列決定し、URA3Aと比較して、PCRがアミノ酸変化を起こしうるDNA塩基の変化を導入していないことを確認した。
実施例4
酢酸リチウムを使用したC. tropicalisの形質転換
上の実施例3で述べた構成体のライゲーション及び確認の後に、AscI及びPmeIによって、酢酸リチウム変質転換プロトコルにより、予めPOX5遺伝子においてウラシル原栄養性が破壊されたカンジダ・トロピカリス株(H53)を形質転換するために使用した3083塩基対断片を遊離した。
C.tropicalisを形質転換するために使用した酢酸リチウム形質転換プロトコルは、参照としてここに組み込まれるMolecular Biology, Supplement 5, 13.7.1 (1989)におけるCurrent Protocolsに記載された一般的な方法に従った。YEPD5mlを凍結株からC. tropicalis H53(予めウラシル原栄養性が破壊された)に接種し、30℃、170rpmにて、一晩、New Brunswick shakerで培養した。翌日、一晩の培養物10μlを50mlYEPDに接種し、30℃、170rpmで成長させた。次の日、細胞を、1.0のOD600で採取した。その培養物を、50mlのポリプロピレン製チューブに移し、1000Xgで10分間遠心分離した。細胞沈殿物を10mlの無菌TE(10mM Tris-CL及び1mM EDTA、pH8.0)に再懸濁した。細胞を、再度、1000Xgで10分間遠心分離し、細胞沈殿物を10 mlの無菌の酢酸リチウム溶液[LiAc(0.1 M酢酸リチウム、10mM Tris-Cl、pH 8、1mM EDTA)] に再懸濁した。続いて、1000Xgで10分間遠心分離し、沈殿物を0.5mlのLiAcに再懸濁した。この溶液を、50rpmで穏やかに振盪させながら、30℃で一時間培養した。この懸濁液のアリコート0.1 mlを、30分間振盪させずに30℃で、形質転換DNA5μgとともに培養した。0.7mlPEG溶液(40%wt/vol ポリエチレングリコール3340、0.1M酢酸リチウム、10mM Tris-Cl、pH8.0、1mM EDTA)を加え、30℃で45分間培養した。次いで、チューブを、42℃で5分間放置した。0.2mlのアリコートを、ウラシル欠乏の合成完全培地(SC−ウラシル)(参照としてここに組み込むKaiserら、Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, USA, 1994)上に載置した。形質転換体の成長を5日間モニターした。3日後、いくらかの形質転換体を選び取り、ゲノムDNAの製造及びスクリーニングのためにSC−ウラシルプレートに移した。形質転換体は株HDC100として同定した。
実施例5
形質転換体分析
次いで、実施例4に従って製造された形質転換体を分析した。形質転換体を、初めに単独の炭素源としてのドデカン及びデカンを含有する培地上に載置した。ウラシルの原栄養性を保持する間、この培地で成長しないか又はゆっくり成長した(POX4遺伝子の一方又は両方が破壊されたことを示す)形質転換体を、サザン分析した。サザン分析からのバンドシグナルの強度を、組込みイベント(つまり、存在するURA3A選択マーカー遺伝子の複製が多くなればなるほど、交配シグナルは強くなる)の基準として使用した。
形質転換体を、30℃、170rpmで、ゲノムDNAの製造用SC−ウラシル培地で成長させた。形質転換体からのゲノムDNAの分離に続いて、DNAを、PacI又はEcoRIで消化し、その消化物を、標準サザン法により分析した。0.95%アガロースゲルを、サザンハイブリダイゼーションブロットの調製のために使用した。Sambrookら、Molecular Cloning:A laboratory Manual 2ed. Cold Spring Harbor Press, USA (1989)のアルカリ移動方法に従って、ゲルからのDNAをMagnaCharge ナイロンフィルター膜(MSI Technologies, ウエストボロ、マサチューセッツ州)に転写した。サザンハイブリダイゼーションでは、1.7kb URA3DNA断片を、PacI消化物のハイブリダイゼーションプローブとして使用し、6.6KbPOX4プローブをEcoRI消化物に使用した。300ngのURA3A DNAをECL直接標識及び検出システム (アマーシャム) を使用して標識付けし、サザンをECLキット仕様書にしたがって行った。ブロットを0.125ml/cm2に対応する30mlのハイブリダイゼーション液量で分析した。42℃で、1時間のプレハイブリダイゼーションに続いて、300 ngのURA3Aプローブを加え、42℃で16時間ハイブリダイゼーションを続けた。ハイブリダイゼーションに続いて、ブロットを、42℃で、20分ごとに、尿素を含む一次洗浄液で2回洗浄した。RTで二次洗浄を5分間、2回行い、その後それぞれの使用法に応じて検出した。ブロットは推奨により16時間空気にさらした。
破壊/欠失構造を受けたこれらの株は、予期した1.676 Kb 帯を産生しただけであった。11.8Kb 断片の存在は、POX4遺伝子が破壊されたことを示した。10.8Kb 断片はPOX4遺伝子が野生型であることを示した。野生型対立遺伝子及び破壊対立遺伝子の双方が存在するこれらのケースにおいて、これらの株を5-フルオロオロト酸 (5−FOA)処理に付して、URA3選択マーカーを再生した。
株を、Ura+細胞に有害であるウラシル経路中間体の類似物である、5−FOA の種々の濃度を含む培地で成長について試験した。双方の株は、YEPD 培地(2% バクト−ペプトン、2%グルコース、1% バクト−酵母抽出物)で中間ログフェーズに成長し、種々の希釈でFOA培地(Boekeら、[1984] Molec. Gen. Genet 197; p345-346)又はYEPD培地に載置された。
ウラシル栄養要求体と同定された株を、非破壊POX4対立遺伝子を破壊するために再び破壊構造体に形質転換した。単一の11.8 Kb帯が存在することは、POX4遺伝子の双方の対立遺伝子の破壊を示した。4つのC.tropicalis pox5/pox5 pox4/pox4 同型接合体がサザン分析により確認された。これらの株はHDC100−1、−2、−3及び−4であった。
実施例6
非復帰変異の発酵分析
株H5343又はその後代を用いた発酵条件下において、β−酸化への復帰変異は、概して、基質導入後約72時間起こった。この条件はグルコースの制限により促進することができる。H5343でのベータ酸化を誘導する同一条件での発酵がHDC100に適用される場合、β−酸化へのいかなる復帰変異も観察されなかった。これはβ−酸化がHDC100において依然として遮断されていることを示した。さらに、これらの発酵培養物のサンプルが単一の炭素源としてドデカン及びデカンを含有する培地に置かれた時、それらのpox−フェノタイプを示す、HDC100のいかなる成長も観察されなかった。
ここに開示された実施態様に種々の改変がなされることは理解されるだろう。従って、上記の詳述に限定されるものではなく、単に好ましい実施態様の例示にすぎない。当業者はここに添付されたクレームの範囲及び意図において他の改変に想到するであろう。

Claims (43)

  1. 破壊染色体POX4遺伝子を有するカンジダ・トロピカリス細胞であって、
    前記POX4遺伝子の一部が、選択マーカー遺伝子を含むDNA断片との相同な組換えによって欠失され、前記選択マーカー遺伝子が、前記POX4遺伝子の連続しない部分に相同性を有するDNA配列の両端に隣接しており、
    前記POX4遺伝子の欠失部分の存在により機能POX4遺伝子の組換えを妨げるカンジダ・トロピカリス細胞。
  2. POX4遺伝子がPOX4Aである請求項1に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  3. POX4遺伝子がPOX4Bである請求項1に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  4. POX4遺伝子がPOX4A及びPOX4Bの双方を含む請求項1に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  5. DNA断片がURA3選択マーカー遺伝子を含む請求項1に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  6. 株H53を含む請求項1に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  7. 実質的に純粋なα,ω−ジカルボン酸を生産する方法であって、
    窒素源、有機基質及び補基質を含む培養培地において請求項1に記載のカンジダ・トロピカリス細胞を培養することを含む方法。
  8. 破壊染色体POX4遺伝子を有するカンジダ・トロピカリス細胞であって、
    前記POX5遺伝子の一部が、選択マーカー遺伝子を含有するDNA断片との相同な組換によって欠失され、前記選択マーカー遺伝子が、前記POX5遺伝子の連続しない部分に相同性を有するDNA配列の両端に隣接し、前記POX5遺伝子の欠失部分の存在により機能POX5遺伝子への組換えを妨げるカンジダ・トロピカリス細胞。
  9. 染色体POX5遺伝子の双方の複製を含む請求項8に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  10. DNA断片がURA3選択マーカー遺伝子を含む請求項8に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  11. 株H53を含む請求項8に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  12. 実質的に純粋なα,ω−ジカルボン酸を生産する方法であって、
    窒素源、有機基質及び補基質を含む培養培地において請求項8に記載のカンジダ・トロピカリス細胞を培養することを含む方法。
  13. 破壊染色体POX4及びPOX5遺伝子を有するカンジダ・トロピカリスであって、
    前記POX4及びPOX5遺伝子の双方の一部が、選択マーカー遺伝子を含むDNA断片との相同な組換えによって欠失され、前記選択マーカー遺伝子が前記POX4及びPOX5遺伝子の双方の連続しない部分に相同性を有するDNA配列の両端に隣接しており、
    POX4及びPOX5遺伝子の双方の欠失部分の存在により機能POX4及びPOX5遺伝子への組換えを妨げるカンジダ・トロピカリス細胞。
  14. POX4遺伝子がPOX4Aである請求項13に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  15. POX4遺伝子がPOX4Bである請求項13に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  16. POX4遺伝子がPOX4A及びPOX4Bの双方を含む請求項13に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  17. 染色体POX5遺伝子の双方の複製を含む請求項13に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  18. DNA断片がURA3選択マーカー遺伝子を含む請求項13に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  19. 株H53を含む請求項13に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  20. POX4遺伝子がPOX4Aである請求項17に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  21. POX4遺伝子がPOX4Bである請求項17に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  22. POX4遺伝子がPOX4A及びPOX4Bの双方である請求項17に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  23. 実質的に純粋なα,ω−ジカルボン酸を生産する方法であって、
    窒素源、有機基質及び補基質を含む培養培地において請求項13に記載のカンジダ・トロピカリス細胞を培養することを含む方法。
  24. 選択マーカー遺伝子を含むDNA断片を有するPOX4遺伝子の一部を相同な組換えによって破壊することを含むカンジダ・トロピカリス宿主細胞のβ−酸化経路を完全に遮断する方法であって、
    前記選択マーカー遺伝子が、前記POX4遺伝子の連続しない部分に相同性を有するDNA配列の両端に隣接しており、
    前記POX4遺伝子の欠失部分の存在が機能POX4遺伝子の組換えを妨げる方法。
  25. POX4遺伝子がPOX4Aである請求項24に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  26. POX4遺伝子がPOX4Bである請求項24に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  27. POX4遺伝子がPOX4A及びPOX4Bの双方を含む請求項24に記載の方法。
  28. DNA断片がURA3選択マーカー遺伝子を含む請求項24に記載の方法。
  29. カンジダ・トロピカリス宿主細胞が株H53を含む請求項24に記載の方法。
  30. 選択マーカー遺伝子を含むDNA断片を有するPOX5遺伝子の一部を相同な組換えによって破壊することを含むカンジダ・トロピカリス宿主細胞のβ−酸化経路を完全に遮断する方法であって、
    前記選択マーカー遺伝子が前記POX5遺伝子の連続しない部分に相同性を有するDNA配列の両端に隣接しており、
    POX5遺伝子の欠失部分の存在が機能POX5遺伝子の組換えを妨げる方法。
  31. 宿主細胞が染色体POX5遺伝子の双方の複製を含む請求項30に記載の方法。
  32. DNA断片がURA3選択マーカー遺伝子を含む請求項30に記載の方法。
  33. カンジダ・トロピカリス宿主細胞が株H53を含む請求項30に記載の方法。
  34. 選択マーカー遺伝子からなるDNA断片を有するPOX4及びPOX5遺伝子の双方の一部を相同な組換えによって破壊することを含むカンジダ・トロピカリス宿主細胞のβ−酸化経路を完全に遮断する方法であって、
    前記選択マーカー遺伝子が前記POX4及びPOX5遺伝子の双方の連続しない部分に相同性を有するDNA配列の両端に隣接しており、
    POX4及びPOX5遺伝子の双方の欠失部分の存在が機能POX4及びPOX5遺伝子の組換えを妨げる方法。
  35. POX4遺伝子がPOX4Aである請求項34に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  36. POX4遺伝子がPOX4Bである請求項34に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  37. POX4遺伝子がPOX4A及びPOX4Bの双方を含む請求項34に記載の方法。
  38. 宿主細胞が染色体POX5遺伝子の双方の複製を含む請求項34に記載の方法。
  39. DNA断片がURA3選択マーカー遺伝子を含む請求項34に記載の方法。
  40. カンジダ・トロピカリス宿主細胞が株H53を含む請求項34に記載の方法。
  41. POX4遺伝子がPOX4Aである請求項38に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  42. POX4遺伝子がPOX4Bである請求項38に記載のカンジダ・トロピカリス細胞。
  43. POX4遺伝子がPOX4A及びPOX4Bの双方を含む請求項38に記載の方法。

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JP2016034289A (ja) * 2009-11-11 2016-03-17 エボニック デグサ ゲーエムベーハーEvonik Degussa GmbH カンジダトロピカリス細胞及びその使用

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