しかしながら従来の絶縁型信号伝送装置では、信号経路に存在する様々な誤差要因(信号経路を形成する各種素子の特性における、初期ばらつき・温度変化による精度ばらつき・劣化に代表される経時変化による精度ばらつき等)を補正するための回路が存在しないため、これらのばらつきの影響を排除できない。すると当該ばらつきに起因して、入力信号を正確に伝送することができず、計測対象の電圧のセンシングを正確に行うことができないため問題である。
本発明は前記従来技術の課題の少なくとも1つを解消するためになされたものであり、信号伝送経路を形成する各種素子の特性における、初期ばらつき・温度変化による精度ばらつき・劣化に代表される経時変化による精度ばらつき等の誤差要因の影響を排除し、入力信号を正確に伝送することが可能である絶縁型信号伝送装置、絶縁型信号処理装置および絶縁型信号伝送方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、請求項1に係る絶縁型信号伝送装置は、アナログ入力信号を、絶縁伝送部を介して信号伝送装置出力信号として出力する絶縁型信号伝送装置において、基準入力信号を発生する基準入力信号発生部と、アナログ入力信号の入力端子から絶縁伝送部までの経路上に備えられ、基準入力信号とアナログ入力信号とを択一に選択するスイッチ部とを備えることを特徴とする。
本発明に係る絶縁型信号伝送装置は、アナログ入力信号に対応する出力信号を、絶縁を保って伝送した上で出力することが可能な装置である。アナログ入力信号および信号伝送装置出力信号は、電圧または電流による信号である。ここでアナログ入力信号としては例えば、制御対象である負荷の母線電圧などが挙げられる。また絶縁伝送部としては例えば、フォトカプラやトランス等が挙げられる。基準入力信号発生部は、温度変化等の影響を受けない、安定した正確な電圧や電流を発生することが可能な回路である。スイッチ部は、アナログ入力信号の入力端子から絶縁伝送部までの経路上に備えられる。
基準入力信号発生部は、基準入力信号を発生する。そしてスイッチ部によって、基準入力信号とアナログ入力信号とが択一に選択された上で、絶縁伝送部により伝送され、信号伝送装置出力信号が得られる。
これにより、基準入力信号が信号経路を経て信号伝送装置出力信号として出力されたときの実測値を得ることができる。ここで、基準入力信号は、温度変化等の影響を受けにくい正確な信号であることから、信号伝送装置出力信号には信号経路の誤差要因(信号経路を形成する各種素子の特性における、初期ばらつき・温度変化による精度ばらつき・劣化に代表される経時変化による精度ばらつき等)が正確に現れている。よって当該実測値を用いて、アナログ入力信号と信号伝送装置出力信号との相関を補正することが可能となる。例えば基準入力信号が1つである場合には、相関関数にオフセットをかける補正を行うことができる。また基準入力信号が2つ以上である場合には、相関関数のゲイン(変化割合)の補正を行うことができる。
これにより信号経路を構成する各種素子の特性にイニシャル素子ばらつきが存在する場合等においても、正確にアナログ入力信号を伝送することが可能となる。よって、信号伝送装置出力信号から正確なアナログ入力電圧を得ることが可能となる。
また請求項2に係る絶縁型信号伝送装置は、請求項1に記載の絶縁型信号伝送装置において、絶縁伝送部から信号伝送装置出力信号の出力端子までの経路上に備えられ、相異なる少なくとも2つの基準入力信号に応じて絶縁伝送部から出力される絶縁伝送部基準出力信号が入力され、該絶縁伝送部基準出力信号に基づいて絶縁伝送部における入出力信号間の相関式を算出し、該相関式を用いて絶縁伝送部の出力信号からアナログ入力信号に応じた信号伝送装置出力信号を演算する演算部を備えることを特徴とする。
演算部は、絶縁伝送部から信号伝送装置出力信号の出力端子までの経路上に備えられる。また演算部には相異なる少なくとも2つの絶縁伝送部基準出力信号が入力される。絶縁伝送部基準出力信号は、基準入力信号に応じて絶縁伝送部から出力される信号である。また演算部は、絶縁伝送部基準出力信号を用いて、絶縁伝送部に入力される信号と絶縁伝送部から出力される信号との相関式を演算する。そして得られた当該相関式を用いて、絶縁伝送部の出力信号からアナログ入力信号に応じた信号伝送装置出力信号を算出する。相関式の演算には、少なくとも2つの絶縁伝送部基準出力信号が用いられる。よって相関式におけるゲイン(絶縁伝送部から出力される信号に対する、絶縁伝送部に入力される信号の変化割合)を演算することが可能となる。ゲインの演算方法は、例えば、2つの絶縁伝送部基準出力信号が得られている場合には、直線補間することで1次関数を得る方法が挙げられる。また3つ以上の複数の絶縁伝送部基準出力信号が得られている場合には、最小二乗法を用いる補間方法や、これらの平均値を算出する補間方法が挙げられる。そして演算部は、演算したアナログ入力信号に応じた信号伝送装置出力信号を絶縁型信号伝送装置の出力信号として出力する。
これにより、信号経路を構成する各種素子の特性にイニシャル素子ばらつきが存在する場合等においても、これらの誤差要因が補正され取り除かれた相関式を算出し使用することで、絶縁伝送部の出力信号から正確なアナログ入力電圧を得ることが可能となる。またこれにより、信号経路を構成する各種素子に温度変化による特性ばらつきが存在したり、劣化等の経時変化による特性ばらつきが存在した場合においても、演算部で当該相関式を適宜更新することにより、これらの特性ばらつきの経時的な影響を排除できるため、絶縁伝送部の出力信号から正確なアナログ入力電圧を算出することが可能となる。よって、正確にアナログ信号を伝送することが可能となる。
また請求項3に係る絶縁型信号伝送装置は、請求項1に記載の絶縁型信号伝送装置において、基準入力信号発生部は、所定電圧の基準電圧を発生する基準電圧発生回路と、該基準電圧を分圧する分圧回路とを備えることを特徴とする。
基準電圧発生回路は、素子の初期ばらつきや温度変化によって変動を受けない正確な所定電圧の基準電圧を発生する。分圧回路は、該基準電圧を分圧する。よって、正確な値を有する複数の異なる基準電圧を得ることができる。
またこのとき、分圧回路は、同一構成の抵抗素子を複数備えて構成される形態としてもよい。これにより、環境温度の変化等によっても分圧比が変動することを抑制することが可能である。よって温度変化に伴う抵抗値の変動幅のばらつきに起因する、分圧回路の分圧ばらつきを低減することが可能となる結果、正確な複数の異なる基準電圧を得ることができる。
また請求項4に係る絶縁型信号伝送装置は、請求項1に記載の絶縁型信号伝送装置において、スイッチ部と絶縁伝送部との経路間に、2値信号変換器を備えることを特徴とする。
2値信号変換器は、スイッチ部と絶縁伝送部との経路間に備えられる。2値信号変換器は、アナログ入力信号を2値信号に変換する。そして絶縁伝送部は、当該変換後の2値信号を伝送する。2値信号には例えば、アナログ信号のレベルに対応したパルスデューティを有する電気パルス信号や、所定のビット数を備えたビット信号を用いることができる。
アナログ信号を伝送可能な絶縁伝送部は、製造が難しく、信頼性、信号の伝送精度、経時劣化に対する耐性等が低くなる場合がある。しかし本発明では2値信号変換器を備えるため、2値信号を伝送可能な絶縁伝送部を用いれば足りる。これにより、アナログ信号を伝送可能な絶縁伝送部を用いることに起因する誤差要因を排除することができる。例えば絶縁伝送部としてフォトカプラを用いる場合には、リニア型のフォトカプラを用いる必要がなくなり、当該絶縁型信号伝送装置の信頼性を向上させることができる。
また請求項5に係る絶縁型信号伝送方法は、
アナログ入力信号を、絶縁伝送して信号伝送出力信号として出力する絶縁型信号伝送方法において、基準入力信号を発生するステップと、基準入力信号を絶縁伝送して絶縁伝送時基準出力信号を取得するステップと、該絶縁伝送時基準出力信号を用いて、絶縁伝送の前後における信号の相関を取得するステップと、該相関式を用いて絶縁伝送された信号からアナログ入力信号に応じた信号伝送出力信号を演算するステップとを備えることを特徴とする。
絶縁伝送時基準出力信号は、基準入力信号を絶縁伝送して得られる出力信号である。絶縁伝送の前後における信号の相関式は、絶縁伝送時基準出力信号を用いて算出される。そして当該相関式は実測値の絶縁伝送時基準出力信号に基づいて算出されているため、当該信号経路に累積して実在する誤差要因が考慮された式となっており、絶縁伝送の前後における信号間の相関を正確に表す式となる。よって当該相関式を用いれば、絶縁伝送された信号から正確なアナログ入力信号が演算される。
これにより、信号経路を構成する各種素子の特性にイニシャル素子ばらつきが存在する場合等においても、これらの誤差要因が補正され取り除かれた相関式を用いることで、
絶縁伝送された信号からアナログ入力信号に応じた正確な信号伝送出力信号を演算し、演算された信号伝送出力信号を出力信号として出力することが可能となる。
すなわち正確にアナログ入力信号を伝送することが可能となる。
また請求項6に係る絶縁型信号伝送方法は、請求項5に記載の絶縁型信号伝送方法において、絶縁伝送の前後における信号の相関を取得するステップは、アナログ入力信号の絶縁伝送の開始に先立ちまたは/およびアナログ入力信号の絶縁伝送の開始に伴って行われることを特徴とする。
絶縁伝送の前後における信号の相関を取得するステップは、アナログ入力信号の絶縁伝送の開始に先立ち、または/およびアナログ入力信号の絶縁伝送の開始に伴って行われる。よって、当該相関式をこれらのタイミングで適宜更新することが可能となる。これにより、信号経路を構成する各種素子に温度変化による特性ばらつきが発生する場合や、劣化等の経時変化による特性ばらつきが発生する場合においても、これらの特性ばらつきの経時的影響を排除することができ、正確にアナログ信号を伝送することが可能となる。よって絶縁伝送された信号から正確なアナログ入力電圧を算出することが可能となる。
また請求項7に係る絶縁型信号伝送装置は、アナログ入力信号を、絶縁伝送部を介して信号伝送装置出力信号として出力する絶縁型信号伝送装置において、基準入力信号を発生する基準入力信号発生部と、アナログ入力信号の入力端子から絶縁伝送部までの経路上に備えられ、基準入力信号とアナログ入力信号とを択一に選択するスイッチ部と、スイッチ部から入力される信号のレベルに応じたデューティを有する電気パルスを絶縁伝送部に出力するPWM変換部と、基準入力信号を絶縁伝送して得られる絶縁伝送部基準出力信号に基づいて絶縁伝送部における入出力信号間の相関式を算出し、該相関式を用いて絶縁伝送部の出力信号からアナログ入力信号に応じた信号伝送装置出力信号を演算する演算部とを備えることを特徴とする。
基準入力信号発生部は、基準入力信号を発生する。スイッチ部は、基準入力信号とアナログ入力信号とを択一に選択し、PWM変換部へ出力する。PWM変換部は、スイッチ部から入力される信号のレベルに応じたデューティを有する電気パルスを、絶縁伝送部に出力する。
当該電気パルスは、絶縁伝送部によって絶縁伝送される。演算部は、基準入力信号を絶縁伝送して得られる絶縁伝送部基準出力信号を用いて、絶縁伝送部における入出力信号間の相関式を算出する。そして当該相関式を用いて、絶縁伝送部の出力信号からアナログ入力信号に応じた信号伝送装置出力信号が演算され、出力される。
演算部で算出される相関式は、実測値の絶縁伝送部基準出力信号に基づいて算出されるため、当該信号経路に累積して実在する誤差要因が考慮された式となっており、絶縁伝送部に入力される信号と出力される信号との相関を正確に表す式となっている。よって、信号経路を構成する各種素子の特性にイニシャル素子ばらつきが存在する場合等においても、相関式においてはこれらの誤差要因が補正され取り除かれる。また信号経路を構成する各種素子に温度変化による特性ばらつきが発生する場合や、劣化等の経時変化による特性ばらつきが発生する場合においても、演算部で当該相関式を適宜更新することにより、これらの特性ばらつきの経時的な影響が補正され取り除かれる。よって正確にアナログ信号を伝送することが可能となる。
また請求項8に係る絶縁型信号処理装置は、アナログ入力信号を絶縁伝送部を介して信号伝送装置出力信号として出力する請求項1に記載の絶縁型信号伝送装置に加え、さらに信号伝送装置出力信号が入力される演算部を備える絶縁型信号処理装置であって、該演算部は、相異なる少なくとも2つの基準入力信号に応じて絶縁型信号伝送装置から出力される基準出力信号が入力され、基準出力信号に基づいて絶縁型信号伝送装置の入出力信号間の相関式を算出し、該相関式を用いて信号伝送装置出力信号からアナログ入力信号に応じた信号を演算することを特徴とする。
絶縁型信号処理装置は、絶縁型信号伝送装置に加えて、演算部を備える。絶縁型信号伝送装置からは、相異なる少なくとも2つの基準入力信号に応じて、基準出力信号が出力される。そして基準出力信号は演算部に入力される。演算部では、基準出力信号に基づいて絶縁型信号伝送装置の入出力信号間の相関式が算出され、該相関式を用いて、信号伝送装置出力信号からアナログ入力信号に応じた信号が演算される。ここで演算部とは、相関式による演算を行うことを主目的とする回路ではないCPU等であってもよい。
これにより、絶縁型信号伝送装置が、アナログ入力信号と基準入力信号とを選択して絶縁伝送部を介して絶縁伝送する機能のみを備える場合においても、演算部により、実測値を用いて、アナログ入力信号と信号伝送装置出力信号との相関を補正することが可能となるため、信号伝送装置出力信号から正確なアナログ入力電圧を得ることが可能となる。
本発明によれば、信号伝送経路を形成する各種素子の特性における、初期ばらつき・温度変化による精度ばらつき・劣化に代表される経時変化による精度ばらつき等の誤差要因の影響を排除し、入力信号を正確に伝送することが可能である絶縁型信号伝送装置、絶縁型信号処理装置および絶縁型信号伝送方法を提供することが可能となる。そして出力信号から正確なアナログ入力電圧を算出することができるため、絶縁伝送を介した計測対象の電圧センシングを正確に行うことが可能となる。
以下、本発明の絶縁型信号伝送装置および絶縁型信号伝送方法について具体化した実施形態を図1乃至図3に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。第1実施形態を説明する。図1に本発明に係る絶縁型信号伝送装置10を示す。
絶縁型信号伝送装置10は、絶縁を維持したまま、アナログ入力電圧Vinの電圧をCPU16に伝え、アナログ入力電圧Vinをセンシングする装置である。パワー系の回路(アナログ入力電圧Vin側の回路)と、制御系回路(CPU16側の回路)に分かれるときに、フォトカプラ4を介して信号伝達をすることにより、パワー系回路によって生じたノイズが制御系に伝達して、CPU16が誤動作することを防止することができる装置である。
絶縁型信号伝送装置10は、入力電圧分圧部1、第1スイッチ部12、電圧−PWM変換部3、基準電圧発生部14、基準電圧分圧部11、第2スイッチ部13、フォトカプラ4、DA変換部6、CPU16を備える。電圧−PWM変換部3と基準電圧発生部14は、集積回路15に搭載されているものを使用してもよい。(例えば、テキサス・インスツルメンツ社製のTL594)。第1スイッチ部12はスイッチSW1およびSW2を備える。また第2スイッチ部13はスイッチSW3およびSW4を備える。またDA変換部6は、バッファ17、抵抗素子R5、キャパシタC1を備える。
絶縁型信号伝送装置10には、不図示のモータが接続される。そしてモータの母線電圧が、電圧センシング対象であるアナログ入力電圧Vinとされる。アナログ入力電圧Vinの入力端子は、入力電圧分圧部1および第1スイッチ部12のスイッチSW1を介して電圧−PWM変換部3に接続される。また基準電圧発生部14の出力端子は、基準電圧分圧部11、第2スイッチ部13のスイッチSW3およびSW4、第1スイッチ部12のスイッチSW2を介して電圧−PWM変換部3に接続される。電圧−PWM変換部3の出力端子は、フォトカプラ4を介して、CPU16の入力端子IN1に接続される。入力端子IN1は、パルスのデューティを測定可能なデジタル入力端子である。また電圧−PWM変換部3の出力端子は、フォトカプラ4およびDA変換部6を介して、CPU16の入力端子IN2に接続される。入力端子IN2はアナログ入力端子である。
基準電圧発生部14からは、基準電圧Vrefが出力される。基準電圧Vrefは、初期ばらつき・温度変化による精度ばらつきが十分小さく、また劣化に代表される経時変化による精度ばらつきがない高精度の電圧である。基準電圧発生部14の出力端子は基準電圧分圧部11に接続される。
基準電圧分圧部11は、同一構成の抵抗素子R1乃至R4が直列接続された構成を備える。基準電圧分圧部11のノードN1はスイッチSW3へ接続され、ノードN2はスイッチSW4へ接続される。基準電圧分圧部11は同一構成の抵抗素子R1乃至R4を備えて構成されるため、環境温度の変化等によっても分圧比が変動することを抑制することが可能である。よって正確な分圧V1(ノードN1)および分圧V2(ノードN2)を得ることができる。
スイッチSW3およびSW4の他端は共通接続された上で、スイッチSW2に接続される。また入力電圧分圧部1のノードN3は、スイッチSW1に接続される。スイッチSW1乃至SW4には、電圧制御型のスイッチング素子(MOSトランジスタ)が用いられている。これにより、スイッチで電流を消費しないため、電圧降下の発生を抑止できる。よって当該絶縁型信号伝送装置10の出力信号に誤差が発生することを防止できる。またスイッチSW1乃至SW4には、不図示の信号線が接続され、CPU16により制御される。
絶縁型信号伝送装置10の動作を説明する。第1実施形態では、CPU16の入力端子IN1に直接パルス信号を入力する場合を説明する。また例として、基準電圧Vrefが5.00(V)である場合を説明する。このとき、基準電圧分圧部11の抵抗素子R1乃至R4は全て同一構成であるため、ノードN1における分圧V1は2.50(V)、ノードN2における分圧V2は1.25(V)となる。また2.50(V)の分圧V1は、400(V)のアナログ入力電圧Vinに対応するとする。また1.25(V)の分圧V2は、200(V)のアナログ入力電圧Vinに対応するとする。なお、分圧V1、V2とアナログ入力電圧Vinとの対応は、入力電圧分圧部1の分圧比や、電圧−PWM変換部3の入力電圧のレンジによって、回路設計により予め定められるものであり、既知とされる。
図2の動作フローチャートを説明する。絶縁型信号伝送装置10は、当該装置の起動・電源投入時や、絶縁型信号伝送装置10に接続されたモータの回転指令のない状態での一定時間経過ごとに、「調整モード」に移行し、アナログ入力電圧Vinの電圧センシング特性を調整する。そして回転指令に応じて「動作モード」に移行し、モータ回転動作時における電圧センシングを行い、モータの動作を監視する。
ステップS0ではCPU16において、絶縁型信号伝送装置10のステータスが電源投入時、または、モータ回転指令(RUN信号)時であるか否かが判断される。電源投入時ではない場合および回転指令のない状態で一定時間が経過していない場合(S0:N)には、ステップS8へ進みフローが終了される。一方、電源投入時または回転指令のない状態で一定時間が経過している場合(S0:Y)には、ステップS1に進み「調整モード」に移行する。
ステップS2において、スイッチSW2およびSW3が導通状態、スイッチSW1およびSW4が非導通状態とされ、基準入力信号である分圧V1が選択され、電圧−PWM変換部3に入力される。分圧V1は、前述のとおり環境温度の変化等においても変動が小さく、ほぼ正確に2.50(V)の値を示す。ここで電圧−PWM変換部3への入力電圧=2.50(V)は、アナログ入力電圧Vin=400(V)に相当する。電圧−PWM変換部3からは、分圧V1のレベルに応じたデューティを有するパルス信号P1が出力される。パルス信号P1はフォトカプラ4を介して絶縁伝送され、パルス信号P1aとして出力される。
電圧−PWM変換部3を備える利点を説明する。アナログ信号を伝送可能なリニア型フォトカプラは、製造が難しく、信頼性、信号の伝送精度、経時劣化に対する耐性等が低くなる場合がある。しかし本実施形態では、電圧−PWM変換部3においてアナログ信号をパルス信号に変換しているため、フォトカプラ4にはリニア型を用いる必要がなく、2値信号を伝送可能なものを使用すれば足りる。これにより、リニア型フォトカプラを用いることに起因する誤差要因を排除することができ、絶縁型信号伝送装置10の信号伝送における精度・信頼性を向上させることができる。
絶縁伝送後のパルス信号P1aは、CPU16の入力端子IN1に入力される。本実施形態では、例として、電圧−PWM変換部3から出力されたパルス信号が信号経路を伝送される間に誤差が発生し、その結果デューティD1(80(%))のパルス信号が入力IN1に入力される場合を説明する。デューティD1には、電圧−PWM変換部3からCPU16に至るまでの信号経路の誤差要因(フォトカプラ4に代表される、信号経路を形成する各種素子の特性における初期ばらつき・温度変化による精度ばらつき・劣化に代表される経時変化による精度ばらつき等)が含まれている。そしてデューティD1は、アナログ入力電圧Vin=400(V)に対応するデューティであるとして、CPU16の不図示のメモリに記憶される。
次にステップS3に進み、スイッチSW2およびSW4が導通状態、スイッチSW1およびSW3が非導通状態とされ、基準入力信号である分圧V2が選択され、電圧−PWM変換部3に入力される。分圧V2は、前述の通り正確に1.25(V)の値を示す。ここで電圧−PWM変換部3への入力電圧=1.25(V)は、アナログ入力電圧Vin=200(V)に相当する。電圧−PWM変換部3からは、分圧V2に応じたデューティを有するパルス信号P2が出力される。パルス信号P2はフォトカプラ4を介して絶縁伝送され、パルス信号P2aとして出力される。
絶縁伝送後のパルス信号P2aはCPU16の入力IN1に入力される。本実施形態では、例として、電圧−PWM変換部3から出力されたパルス信号が信号経路を伝送される間に誤差が発生し、その結果デューティD2(30(%))のパルス信号が入力IN1に入力される場合を説明する。デューティD2には、電圧−PWM変換部3からCPU16に至るまでの信号経路の誤差要因が含まれている。そしてデューティD2は、アナログ入力電圧Vin=200(V)に対応するデューティであるとして、CPU16の不図示のメモリに記憶される。
ステップS4乃至6において、CPU16によって計算が行われ、入力端子IN1に入力されるパルス信号の出力デューティDoutとアナログ入力電圧Vinとの相関(図3)を示す入力電圧換算式が算出される。まずステップS4において、入力電圧換算式のゲインαの計算が行われる。ゲインαは、入力電圧換算式における傾きである。ここで、分圧V2に対応するアナログ入力電圧(=200(V))を、アナログ入力電圧Vin2と表記する。下式(1)に示すように、ゲインαは、分圧V1と分圧V2とが入力された場合における、2点間のデューティを直線補間することで得られる。
ゲインα=Vin2/(D1−D2)
=200/(80−30)=4.0(V/%) ・・・式(1)
次にステップS5において、入力電圧換算式のオフセットβの計算が行われる。分圧V1に対応するアナログ入力電圧(=400(V))を、アナログ入力電圧Vin1と表記する。オフセットβは入力電圧換算式におけるY切片であり、下式(2)で得られる。
オフセットβ--=Vin1−(α×D1)
=400−(4.0×80)=80.0(V) ・・・式(2)
以上得られたゲインα、オフセットβにより、ステップS6において以下に示す入力電圧換算式(3)が得られる。
アナログ入力電圧Vin=α×Dout+β
=4.0×Dout+80.0(V) ・・・式(3)
そして回転指令に応じてステップS7に進み、絶縁型信号伝送装置10は「動作モード」に移行する。動作モードでは、スイッチSW1が導通状態、スイッチSW2が非導通状態とされ、電圧−PWM変換部3の入力信号としてアナログ入力電圧Vinが選択される。そしてモータ回転中の母線電圧であるアナログ入力電圧Vinが、絶縁型信号伝送装置10を介して出力デューティDoutを有するパルス信号としてCPU16へ伝送される。そして出力デューティDoutが、入力電圧換算式(3)によりアナログ入力電圧Vinに応じた値に換算されることで、アナログ入力電圧Vinのセンシングが行われる。
例として、モータ回転中の母線電圧が360(V)である場合の動作を説明する。このときアナログ入力電圧Vinも360(V)となり、ノードN3における分圧V3は2.25(V)となる。分圧V3は電圧−PWM変換部3に入力され、電圧−PWM変換部3からは分圧V3に応じたデューティのパルス信号が出力される。当該パルス信号はフォトカプラ4によって絶縁伝送され、電圧−PWM変換部3からCPU16までの経路における誤差要因を累積した状態のデューティ(70%)となり、CPU16の入力IN1に入力される。ここで、誤差要因が累積されたデューティは、入力電圧換算式(3)に従った値となる。CPU16は、入力されるパルス信号のデューティ(70%)から、ステップS6で得られた入力電圧換算式(3)を用いてアナログ入力電圧を算出し、アナログ入力電圧Vin=360(V)であるとのセンシング結果を取得する。
以上詳細に説明したとおり、第1実施形態に係る絶縁型信号伝送装置10では、分圧V1(アナログ入力電圧Vin=400(V)に対応)を絶縁伝送して得られるデューティD1のパルス信号P1a、および、分圧V2(アナログ入力電圧Vin=200(V)に対応)を絶縁伝送して得られるデューティD2のパルス信号P2aを得ることができる。そして上記2点の実測のデューティ値を用いて、CPU16において入力電圧換算式を作成することにより、アナログ入力電圧Vinとパルス信号の出力デューティDoutとの相関を知ることができる。
ここで、分圧V1および分圧V2は、温度変化等の影響を受けにくい正確な電圧であることから、パルス信号P1a、P2aのデューティD1、D2には電圧−PWM変換部3からCPU16に至るまでの信号経路の誤差要因(フォトカプラ4に代表される、信号経路を形成する各種素子の特性における初期ばらつき・温度変化による精度ばらつき・劣化に代表される経時変化による精度ばらつき等)が正確に現れている。そして入力電圧換算式は、実測値であるパルス信号P1a、P2aに基づいて算出されているため、当該信号経路に累積して実在する誤差要因が考慮され、誤差が取り除かれた式となる。
これにより、信号経路を構成する各種素子の特性に初期ばらつきが存在する場合等においても、これらの誤差要因を取り除く補正が行われた入力電圧換算式を取得することができる。また信号経路を構成する各種素子に温度変化による特性ばらつきが存在する場合や、劣化等の経時変化による特性ばらつきが存在する場合においても、電源投入時や、回転指令のない状態で一定時間経過ごとに、CPU16で入力電圧換算式を更新することにより、これらの特性ばらつきの影響を取り除く補正を行うことができる。よって、絶縁型信号伝送装置10を用いて、アナログ入力電圧Vinを正確にCPU16へ伝送することが可能となる。そしてCPU16に入力されるパルス信号のデューティから、正確なアナログ入力電圧Vinを算出することが可能となる。
第2実施形態を図1を用いて説明する。第2実施形態は、フォトカプラ4から出力されるパルス信号を、DA変換部6を介してアナログ信号に変換した上で、CPU16の入力端子IN2に入力する形態である。DA変換部6は、バッファ17、抵抗素子R5、キャパシタC1を備える。抵抗素子R5およびキャパシタC1によって積分器が構成される。その他の形態は第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
動作を説明する。第1実施形態と同様にして、電源投入時などの所定タイミングで「調整モード」に移行し、分圧V1が電圧−PWM変換部3に入力される。電圧−PWM変換部3からは、分圧V1に応じたデューティを有するパルス信号P1が出力される。パルス信号P1はフォトカプラ4を介して絶縁伝送され、パルス信号P1aとして出力され、DA変換部6に入力される。パルス信号P1aは、DA変換部6によって、パルス信号P1aのデューティに応じた電圧値E1に変換される。そして電圧値E1は、CPU16の入力IN2に入力される。電圧値E1は、アナログ入力電圧Vin=400(V)に対応する電圧値であるとして、CPU16の不図示のメモリに記憶される。
また同様にして、分圧V2に応じたパルス信号P2aがDA変換部6に入力され、電圧値E2に変換される。電圧値E2は、アナログ入力電圧Vin=200(V)に対応する電圧値であるとして、CPU16の不図示のメモリに記憶される。
記憶された電圧値E1、E2に基づき、CPU16によって計算が行われ、入力端子IN2に入力される電圧値とアナログ入力電圧Vinとの相関を表す入力電圧換算式が算出される。算出方法は第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。そして入力電圧換算式の取得後、回転指令に応じて「動作モード」に移行し、得られた入力電圧換算式を用いて、アナログ入力電圧Vinのセンシングが行われる。
以上詳細に説明したとおり、第2実施形態では、分圧V1(アナログ入力電圧Vin=400(V)に対応)を絶縁伝送して得られる電圧値E1、および、分圧V2(アナログ入力電圧Vin=200(V)に対応)を絶縁伝送して得られる電圧値E2を得ることができ、電圧値E1およびE2に基づいて入力電圧換算式を算出することができる。
フォトカプラ4には応答遅れが存在する場合があり、応答遅れによってパルス信号のデューティ波形にひずみが発生する。また電圧−PWM変換部3の起動時においては、電圧−PWM変換部3の出力パルスの周期が不安定となる場合がある。また環境温度の変化に応じて、電圧−PWM変換部3の出力パルスの周期が変化する場合がある。これらの場合に、直接パルス信号をCPU16に入力すると、正確なデューティが読み込めず、その結果アナログ入力電圧Vinのセンシングに誤差が発生する。よってDA変換部6を用い、パルス信号のデューティを電圧値に変換した上でCPUに入力することで、デューティ波形のひずみやパルス信号の周期変動の影響を取り除くことができる。これにより、精度の高いアナログ入力電圧Vinのセンシングが可能となる。
また第1実施形態と同様に、信号経路を構成する各種素子の特性に初期ばらつきが存在する場合等においても、入力電圧換算式において、これらの誤差要因を取り除く補正を行うことができる。よって、CPU16の入力IN2に入力される電圧値から、正確なアナログ入力電圧Vinを算出することが可能となる。
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは言うまでもない。CPU16は、電源投入時、またはモータの回転指令のない状態での一定時間経過ごとに「調整モード」に移行するとしたが、この形態に限られない。負荷の動作中においても調整モードに移行し、入力電圧換算式の更新を行ってもよいことは言うまでもない。例えばモータにおいては、減速指令時直前にも調整モードへの移行を行うことができる。これにより、入力電圧換算式の更新の頻度を高めることができるため、より高精度な電圧センシングが可能となる。なおこの場合、調整モードの実行がモータの回転に与える影響を確認した上で調整モードに移行する必要がある。
また本実施形態では、絶縁型信号伝送装置10は演算部としてのCPU16を備えるとし、アナログ入力電圧Vinの演算をCPU16でソフトウエア的に行うとしたが、この形態に限られない。演算部としての演算処理をハードウエア的に行う専用回路(DSP等)を、CPU16に代えて備える形態としてもよいことは言うまでもない。
また絶縁型信号伝送装置10は演算部としてのCPU16を備えるとしたが、この形態に限られず、絶縁型信号伝送装置10に演算部を備える形態であってもよい。すなわち絶縁型信号伝送装置は、アナログ入力電圧Vinと分圧V1およびV2とを選択して、フォトカプラ4を介して絶縁伝送する機能のみを備える、文字通りの伝送装置であってもよい。この場合には、絶縁型信号伝送装置の出力信号が入力される演算部(例えばCPU)が備えられ、絶縁型信号伝送装置と演算部とによって絶縁型信号処理装置が構成される。そして当該絶縁型信号伝送装置の出力信号が演算部に入力される。演算部は、絶縁型信号伝送装置の出力信号から、アナログ入力電圧Vinに応じた値を算出する。よってこの形態によっても、精度の高いアナログ入力電圧Vinのセンシングが可能となる。
また本実施形態では、基準入力信号は分圧V1とV2の2点としたが、この形態に限られず、基準入力信号が1つであってもよいことは言うまでもない。この場合には、相関関数にオフセットをかける補正を行うことができる。
また本実施形態では、入力電圧換算式の算出方法は2点間の直線補間であるとしたが、この形態に限られない。3つ以上の基準入力信号を用意し、それぞれの基準入力信号に対応するデューティを用いて変化割合を算出する補間方法であってもよいことは言うまでもない。3点以上のデータを用いて変化割合を算出する方法としては、例えば最小二乗法がある。この場合には、より入力電圧換算式の精度を高めることが可能となる。
また本実施形態では、絶縁伝送部にフォトカプラ4を使用するとしたが、この形態に限られず、トランス等を用いてもよいことは言うまでもない。またフォトカプラには、アナログ値を伝送可能なリニアフォトカプラを用いてもよく、この場合には、電圧−PWM変換部3を不要とすることができる。
また本実施形態では、電圧−PWM変換部3は、入力電圧を電圧レベルに対応したパルスデューティを有する電気パルス信号に変換するとしたが、この形態に限られない。CPUのポートに応じて、所定のビット数を備えたビット信号に変換する形態としてもよいことは言うまでもない。
尚、フォトカプラ4は絶縁伝送部の一例、分圧V1およびV2は基準入力信号の一例、基準電圧発生部14は基準電圧発生回路の一例、基準電圧分圧部11は分圧回路の一例、パルス信号P1aおよびP2a、電圧値E1および電圧値E2は絶縁伝送部基準出力信号の一例、CPU16は演算部の一例、電圧−PWM変換部3は2値信号変換器のそれぞれ一例である。