(第1の実施形態)
以下、本発明にかかるピエゾインジェクタの駆動装置をディーゼルエンジンに搭載されるピエゾインジェクタに適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態にかかるエンジンシステムの全体構成を示す。図示されるように、燃料タンク2の燃料は、高圧燃料供給ポンプ4によって汲み上げられ、コモンレール6に加圧供給される。コモンレール6で高圧状態で蓄えられた燃料は、高圧燃料通路8を介して、4気筒のディーゼルエンジンの各々の気筒に設けられるピエゾインジェクタPIに供給される。また、ピエゾインジェクタPIの各々は、その内部から出てきたリーク燃料を燃料タンク2に戻すための低圧燃料通路9に接続されている。
ここで、図2に基づき、ピエゾインジェクタPIの構成について説明する。
ピエゾインジェクタPIのボディ10の先端には、円柱状のニードル収納部12が設けられている。そして、ニードル収納部12には、その軸方向に変位可能なノズルニードル14が収納されている。ノズルニードル14は、ボディ10の先端部に形成されている環状のニードルシート部16に着座することで、ニードル収納部12を外部(ディーゼルエンジンの燃焼室)から遮断する一方、ニードルシート部16から離座することで、ニードル収納部12を外部と連通させる。また、ニードル収納部12には、上記高圧燃料通路8へ供給された高圧燃料が供給される。
ノズルニードル14の背面側(ニードルシート部16と対向する側の反対側)は、背圧室20に対向している。背圧室20には、高圧燃料通路8からの燃料がオリフィス22を介して供給される。また、背圧室20には、ノズルニードル14をニードルシート部16側へ押すニードルスプリング24が備えられている。
背圧室20は、ボール26を介して上記低圧燃料通路9に連通可能とされている。ボール26は、その背面側が、環状のバルブシート部30に着座することで、低圧燃料通路9と背圧室20とを遮断し、ボディ10の先端側へ変位することで、低圧燃料通路9と背圧室20とを連通させる。
ボール26のうちバルブシート部30側は、プレッシャピン32を介して小径ピストン34と連結されている。小径ピストン34の後部側は、小径ピストン34よりも径の大きな大径ピストン36の先端と対向している。そして、小径ピストン34、大径ピストン36、及びボディ10の内周面によって変位伝達室38が区画形成されている。変位伝達室38には、例えば燃料等の適宜の流体が充填されている。
一方、大径ピストン36は、そのボディ10の後方側がピエゾ素子PEと連結されている。ちなみに、ピエゾ素子PEは、大径ピストン36と対向する側の裏面側がボディ10に固定されている。
ピエゾ素子PEは、複数の圧電素子が積層されてなる積層体(ピエゾスタック)を備え、これが逆圧電効果により伸縮することによりアクチュエータとして機能する。具体的には、ピエゾ素子PEは、容量性の負荷であり、充電されることで伸長し、放電されることで縮小する。ちなみに、本実施形態にかかるピエゾ素子PEは、PZT等の圧電材料の圧電素子を利用したものである。
ピエゾ素子PEへ電流が供給されずピエゾ素子PEが収縮状態にあるときには、高圧燃料通路8の高圧燃料により力が及ぼされることから、ボール26や小径ピストン34はボディ10の後方に位置することとなる。このとき、ボール26により背圧室20と低圧燃料通路28とは遮断されている。このため、背圧室20内の燃料の圧力(コモンレール6内の燃料の圧力)とニードルスプリング24の弾性力とによって、ノズルニードル14は、ボディ10先端側へと押され、ニードルシート部16に着座した状態(閉弁状態)となる。
一方、ピエゾ素子PEに電流が供給されることでピエゾ素子PEが伸長状態となると、ボール26は、ボディ10の先端側へ移動する。これにより、背圧室20が低圧燃料通路9と連通される。その結果、背圧室20内の燃料の圧力が低下し、ニードル収納部12内の高圧燃料がノズルニードル14をボディ10の後方へ押す力が、背圧室20内の燃料及びニードルスプリング24がノズルニードル14をボディ10の前方へ押す力よりも所定以上大きくなると、ノズルニードル14は、ニードルシート部16から離座した状態(開弁状態)となる。
先の図1に示したエンジンシステムには、ディーゼルエンジンの運転状態を検出するセンサとして、例えばコモンレール6内の燃料の圧力を検出する燃圧センサ40や、同エンジンの冷却水の温度を検出する水温センサ42、バッテリの温度を検出するバッテリ電圧センサ44等を備えている。
これら各種センサの検出結果は、マイクロコンピュータを備えて構成される電子制御装置(ECU50)に取り込まれる。そして、ECU50では、こうした検出値に基づき、ピエゾインジェクタPI等、ディーゼルエンジンの各種アクチュエータを操作する。ここで、ピエゾインジェクタPIの操作は、実際には、ドライバユニット(EDU60)を介して行われる。次に、EDU60について詳述する。
図3に、EDU60の構成を示す。
図示されるように、EDU60は、駆動回路62と制御回路90とを備えて構成されている。
ここで、ピエゾ素子PEを駆動する駆動回路について説明する。
バッテリBから供給される電力は、フィルタ64を介して、昇圧回路であるDC/DCコンバータ66に供給される。DC/DCコンバータ66は、バッテリBの電圧(例えば「12V」)を、ピエゾ素子PEを充電するための高電圧(例えば「200〜300V」)に昇圧する。
DC/DCコンバータ66の昇圧電圧は、コンデンサ68に印加される。コンデンサ68は、その一方の端子がDC/DCコンバータ66側に接続され、また他方の端子が接地されている。そして、DC/DCコンバータ66の昇圧電圧がコンデンサ68に印加されると、コンデンサ68はピエゾ素子PEに供給するための電荷を蓄える。ちなみに、コンデンサ68は、ピエゾ素子PEへの一回の充電処理によってはその電圧がほとんど変化しないような容量(例えば「数100μF」程度)を有するものであることが望ましい。
コンデンサ68のうちの高電位となる端子側、すなわち、DC/DCコンバータ66側は、充電スイッチ70と充放電コイル72との直列接続体を介して、ピエゾ素子PEの高電位となる端子側に接続されている。そして、ピエゾ素子PEの低電位となる端子側は、接地されている。
充電スイッチ70と充放電コイル72との間には、放電スイッチ74の一方の端子が接続されており、放電スイッチ74の他方の端子は、接地されている。
放電スイッチ74には、ダイオード76が並列接続されている。このダイオード76は、そのカソード側がコンデンサ68及び充放電コイル72との間に、またそのアノード側が接地側にそれぞれ接続されている。このダイオード76は、コンデンサ68、充電スイッチ70、充放電コイル72と共に、ピエゾ素子PEを充電するチョッパ回路を構成するものであり、フリーホイーリングダイオードとして機能する。
一方、充電スイッチ70には、ダイオード78が並列接続されている。このダイオード78は、そのカソード側がコンデンサ68側と、またそのアノード側が放電スイッチ74側と接続されている。このダイオード76は、コンデンサ68、充放電コイル72、放電スイッチ74と共に、ピエゾ素子PEの電荷を放電するチョッパ回路を構成するものであり、フリーホイーリングダイオードとして機能する。
ちなみに、ピエゾ素子PEの低電位となる端子側と接地との間には抵抗80が接続されており、ピエゾ素子PE及び抵抗80間の電位の監視により、ピエゾ素子PEを介して流れる電流量を監視可能となっている。また、充放電コイル72とピエゾ素子PEとの間に接続されているダイオード82は、ピエゾ素子PEの電圧がマイナスとなることを防止している。
この駆動回路62は、チョッパ制御によりピエゾ素子PEへの充電や放電を行うものである。
すなわち、充電スイッチ70のオン・オフ操作によるチョッパ制御により、ピエゾ素子PEを介して流れる電流を増減させつつピエゾ素子PEの充電がなされる。具体的には、充電スイッチ70がオン操作されることによって、コンデンサ68、充電スイッチ70、充放電コイル72、ピエゾ素子PEからなる閉ループ回路が形成される。これにより、コンデンサ68の電荷がピエゾ素子PEに充電される。このとき、ピエゾ素子PEを介して流れる電流量が増加する。一方、充電スイッチ70のオン操作の後、充電スイッチ70がオフ操作されることで、充放電コイル72、ピエゾ素子PE、ダイオード76からなる閉ループ回路が形成される。これにより、充放電コイル72のフライホイールエネルギが、ピエゾ素子PEに充電される。このとき、ピエゾ素子PEを介して流れる電流量が減少する。
上記態様にて充電スイッチ70が操作される降圧チョッパ制御が行われることで、ピエゾ素子PEが充電される。
また、放電スイッチ74のオン・オフ操作によるチョッパ制御により、操作電流を増減させつつピエゾ素子PEの放電がなされる。具体的には、放電スイッチ74がオン操作されることで、放電スイッチ74、充放電コイル72、ピエゾ素子PEによって閉ループ回路が形成される。これにより、ピエゾ素子PEが放電される。このとき、ピエゾ素子PEを介して流れる電流量が増加する。更に、放電スイッチ74のオン操作の後、放電スイッチ74がオフ操作されることで、コンデンサ68、ダイオード78、充放電コイル72、ピエゾ素子PEによって閉ループ回路が形成される。これにより、充放電コイル72のフライホイールエネルギがコンデンサ68に回収される。
上記態様にて放電スイッチ74が操作される昇圧チョッパ制御が行われることで、ピエゾ素子PEが放電される。
一方、上記制御回路90は、上記充電スイッチ70や放電スイッチ74、DC−DCコンバータ66等の操作の態様を指示するための指示情報を載せた信号がECU50から出力されると、これを取り込み、指示情報に基づき上記各操作を行う回路である。
ところで、本実施形態では、EDU60とECU50とが別体となっている。このため、ECU50は、EDU60からのノイズを好適に回避することができる。ただし、EDU60とECU50とでは、そのグランド電位が異なり得る。これは、EDU60の駆動回路62に大電流が流れ、グランド配線の寄生抵抗による電圧降下が大きな値となりやすいことによる。そして、このようにグランド電位が異なると、ECU50からEDU60に3値以上の値を有する情報が電圧値にて表現された信号を送る場合には、情報を正確に伝えることができなくなるおそれがある。
そこで本実施形態では、上記指示情報を電流値によって表現する指示信号を用い、制御回路90内でこの指示信号の有する指示情報を電圧信号に変換する構成とした。ここで、制御回路90のうち、充電スイッチ70の操作を行う部分について詳述する。
ピエゾ素子PEの充電に際しては、制御回路90は、上記指示情報に基づき充電スイッチ70をオンする時間を設定するとともに、上記ピエゾ素子PE及び抵抗80間の電位に基づき検出されるピエゾ素子PEを介して流れる電流がゼロとなるタイミングで、充電スイッチをオフ操作からオン操作へ切り替える。そして、この充電スイッチ70のオン・オフ操作によるピエゾ素子PEの充電処理を、上記指示情報によって指示された充電期間に渡って継続する。
詳しくは、制御回路90では、充電処理を行なうための信号として、ECU50から、噴射期間を指示する指示情報を表現する噴射信号と、充電の終了タイミングを指示する指示情報を表現する充電終了タイミング信号と、充電スイッチ70のオン操作の終了タイミングを指示する指示情報を表現するオン操作終了タイミング信号とを取り込む。ここで、噴射信号は、噴射期間の間論理「H」となる信号である。これに対し、充電終了タイミング信号とオン操作終了タイミング信号とは、終了タイミングに対応した連続的な電流値を有する信号(3値以上の値を有する信号)である。
上記充電終了タイミング信号は、制御回路90内の抵抗91を流れることによって、充電終了タイミングに対応する電圧値V1に変換される。この電圧値V1は、電圧バッファ92により所定の期間に渡ってラッチされる。このラッチ期間の終了時は、ここでは、噴射信号の立ち下がりエッジを検出するタイミングとされている。電圧バッファ92は、所定値Δ1に、上記電圧値V1を加算した基準電圧Vref1を比較器93のマイナス入力端子に印加する。一方、比較器93のプラス入力端子には、タイマ回路94の出力信号が印加されている。
このタイマ回路94は、上記噴射信号が論理「H」となってから徐々にその出力信号の電圧値を減少させる回路である。詳しくは、タイマ回路94は、電源電圧と接地との間に接続されるスイッチング素子94aと、コンデンサ94c及び抵抗94bとの並列接続体とがノードaにて直列接続されてなる回路である。ここで、スイッチング素子94aは、論理「H」の信号が印加されるときにオンとされる素子である。このスイッチング素子94aには、インバータIVにより論理反転された噴射信号が印加される。
一方、上記オン操作終了タイミング信号は、制御回路90内の抵抗95を流れることによって、オン操作の終了タイミングに対応する電圧値V2に変換される。この電圧値V2は、電圧バッファ96により所定の期間に渡ってラッチされる。このラッチ期間の終了時は、ここでは、噴射信号の立ち下がりエッジを検出するタイミングとされている。電圧バッファ96は、所定値Δ2に、上記電圧値V2を加算した基準電圧Vref2を比較器97のマイナス入力端子に印加する。一方、比較器97のプラス入力端子には、タイマ回路98の出力信号が印加されている。
このタイマ回路98は、上記充電スイッチ70のオン操作の開始タイミングから徐々にその出力信号の電圧値を減少させる回路である。詳しくは、タイマ回路98は、電源電圧と接地との間に接続されるスイッチング素子98aと、コンデンサ98c及び抵抗98bとの並列接続体とがノードbにて直列接続されてなる回路である。ここで、スイッチング素子98aは、論理「H」の信号が印加されるときにオンとされる素子である。
比較器97の出力は、インバータ100により論理反転された後、フリップフロップ102のリセット端子に取り込まれる。フリップフロップ102のセット端子には、ピエゾ素子PEと抵抗80との間の電位に基づきピエゾ素子PEを介して流れる電流量がゼロとなるタイミングを検出するゼロクロス検出回路106の出力が印加される。このゼロクロス検出回路106は、ピエゾ素子PEを介して流れる電流量がゼロとなると短時間論理「H」となるワンショットパルスを出力する。
上記フリップフロップ102の出力と噴射信号との論理積の反転信号は、NAND回路108の出力として、上記スイッチング素子98aに印加される。このため、スイッチング素子98aでは、噴射信号が論理「H」であって、且つフリップフロップ102の出力が論理「H」となっているときにオフとされる。
また、上記フリップフロップ102の出力と比較器93の出力と噴射信号との論理積信号は、AND回路110の出力として、ドライバ回路112を介して充電スイッチ70に印加される。
ここで、制御回路90によるピエゾ素子PEの充電処理について、図4に基づき詳述する。
図4(a)は上記噴射信号の推移を示し、図4(b)はタイマ回路94の出力(ノードaの電位)の推移を示し、図4(c)はタイマ回路98の出力(ノードbの電位)の推移を示し、図4(d)は充電スイッチ70の操作態様の推移を示し、図4(e)はピエゾ素子PEを介して流れる電流(操作電流)の推移を示し、図4(f)はピエゾ素子PEに供給される電気エネルギの推移を示す。
図示されるように、時刻t1に噴射信号が論理「H」となる以前では、噴射信号が論理「L」であったために、インバータIVの出力が論理「H」であり、スイッチング素子94aがオンとされている。このため、ノードaの電位は、比較器93のマイナス入力端子に印加されている基準電圧Vref1よりも十分に大きい。また、このとき、NAND回路108の出力が論理「H」であり、スイッチング素子98aがオンとされている。このため、ノードbの電位は、比較器97のマイナス入力端子に印加されている基準電圧Vref2よりも十分に大きい。
こうした状態で、時刻t1に噴射信号が論理「H」となると、インバータIVの出力が論理「L」に反転するため、スイッチング素子94aがオフとされる。これにより、ノードaの電位は、抵抗94bとコンデンサ94cとで決まる時定数に従って低下し始める。また、このとき、NAND回路108の出力が論理「L」に反転するため、スイッチング素子98aがオフとされる。これにより、ノードbの電位は、抵抗98bとコンデンサ98cとで決まる時定数に従って低下し始める。
ただし、ノードaの電位やノードbの電位が低下し始めたとしても、これらが基準電圧Vref1,Vref2よりも大きい間は、比較器93,97の出力は論理「H」となっている。このため、AND回路110の出力は、論理「H」となり、充電スイッチ70がオン操作される。
ただし、時刻t2にノードbの電位が基準電圧Vref2以下となると、比較器97の出力が論理「L」となる。これにより、インバータ100が論理「H」の信号を出力するため、フリップフロップ102がリセットされる。これにより、AND回路110の出力が論理「L」に反転し、充電スイッチ70がオフ操作される。
充電スイッチ70がオフ操作されると、ピエゾ素子PEを介して流れる電流量が減少する。そして、時刻t3にピエゾ素子PEを介して流れる電流量がゼロとなると、上記ゼロクロス検出回路106により、短時間論理「H」となるワンショットパルスが出力される。これにより、フリップフロップ102がセットされる。
このフリップフロップ102のセットにより、AND回路110の出力が再度論理「H」となり、充電スイッチ70がオン操作される。また、フリップフロップ102のセットにより、NAND回路108が再度論理「L」となり、スイッチング素子98aが再度オフとされるために、ノードbの電位が低下し始める。
このようにして、ノードbの電位が基準電圧Vref2よりも高い間、充電スイッチ70のオン操作が行われるとともに、ピエゾ素子PEを介して流れる電流量がゼロとなるタイミングで充電スイッチ70がオフ操作からオン操作に切り替えられる。そして、このオン・オフ操作の繰り返しによりピエゾ素子PEの充電が行われる。この充電は、ノードaの電位が基準電圧Vref1以下となる時刻t4まで行われる。
上記充電終了タイミングは、抵抗94bとコンデンサ94cとによって定まるノードaの電位の低下速度と基準電圧Vref1とによって設定できる。また、上記オン操作終了タイミングは、抵抗98bとコンデンサ98cとによって定まるノードbの電位の低下速度と基準電圧Vref2とによって設定できる。特に、ECU50では、充電終了タイミング信号やオン操作終了タイミング信号を調整することで、基準電圧Vref1,Vref2を所望の値に設定することができる。そして、例えば図4に2点鎖線で示すように、基準電圧Vref1、Vref2を変更することで、オン操作時間や、充電時間を変更することができる。
次に、充電終了タイミング信号やオン操作終了タイミング信号の生成の処理について説明する。図5に、上記処理の手順を示す。この処理は、ECU50により実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、バッテリ電圧センサ44によって検出されるバッテリBの電圧、水温センサ42によって検出される冷却水温、燃圧センサ40によって検出されるコモンレール6内の燃料の圧力に基づき、ピエゾ素子PEを伸長制御するために要求される電気エネルギを算出する。
ここで、燃圧は、ピエゾインジェクタPIを開弁させるのに必要なエネルギを変動させる要因である。これは、ピエゾインジェクタPIを開弁させるためには、換言すれば、先の図2に示したノズルニードル14をボディ10の後方に変位させるためには、高圧燃料通路8内の燃料がボール26をバルブシート部30側へ押す力に打ち勝つ力をピエゾ素子PEによって発生させなければならないことによる。このため、本実施形態では、燃圧に応じてピエゾ素子PEに供給する電気エネルギを、図6に示す態様にて可変設定する。図6に示されるように、燃圧が高いほど、ピエゾ素子PEに供給する電気エネルギ量が増大している。また、燃圧が高いほどピエゾ素子PEの充電時間も増大している。ちなみに、本実施形態では、1回の充電時間において、充電スイッチ70のオン操作時間が一定となるような操作を行なうことで、ピエゾ素子PEに供給される電気エネルギを時間に略比例して上昇させる。
また、ピエゾインジェクタPIに供給される燃料の温度が低いと、燃料の粘性が高まることから、ピエゾインジェクタPIを駆動するために要求されるエネルギ量が増大する。更に、ピエゾインジェクタPIの温度が低いと、ノズルニードル14や、小径ピストン34、大径ピストン36等とボディ10との摩擦力が大きくなり、ピエゾインジェクタPIを駆動するために要求される電気エネルギ量が増大する。更に、冷間始動時等にバッテリBの電圧が低いと、ピエゾ素子PEに対する充電を所望に行なうことができなくなるおそれがあるため、このときにはピエゾ素子PEに対する充電量が多くなるような操作を優先することが望ましい場合がある。
こうした観点から、上記各パラメータに基づき、要求される電気エネルギ量を算出する。ちなみに、冷却水温は、ピエゾインジェクタPIの温度や燃料の温度と相関を有するパラメータを例示している。
続くステップS12では、要求される電気エネルギをピエゾ素子PEに供給するための充電時間やオン操作時間を算出する。ここでは、要求される電気エネルギ量が大きいほど、充電時間を長くする。また、コモンレール6内の燃圧等に基づき、オン操作時間についても可変設定する。
続くステップS14では、ステップS12で算出される充電時間やオン操作時間に基づき、充電終了タイミング信号やオン操作終了タイミング信号を生成する。
このように、本実施形態では、要求される電気エネルギ量に応じてピエゾ素子PEに供給する電気エネルギ量を可変設定することで、要求に見合った電気エネルギを過不足なく与えることができる。特に、ディーゼルエンジンでは、一回の燃焼行程に対して多段階の燃料噴射にて対処することが常であるが、この多段噴射の噴射回数が最も多くなるときとコモンレール6内の燃圧が最も高くなるときとは通常異なる。このため、段数が最大となるときの各噴射において要求される電気エネルギ量は、コモンレール6内の燃圧が最も高くなるときのものよりも通常小さくなる。このため、DC−DCコンバータ66やコンデンサ68の能力を、コモンレール6内の燃圧が最も高くなるときに燃料噴射段数が最大となるとしたときに要求される能力とすることは、DC−DCコンバータ66やコンデンサ68を冗長設計することとなる。これに対し、図5に示す処理を行うなら、DC−DCコンバータ66やコンデンサ68の大型化を抑制することができる。
特に、本実施形態では、燃圧等に基づき可変設定するパラメータとして充電時間を含めた。この充電時間は、充電スイッチ70のオン操作時間やオフ操作時間よりもかなり長いスケールの時間であるために、この充電時間の可変設定は、オン操作時間等の可変設定と比較して精度良く行うことができる。
更に、充電終了タイミング信号や、オン操作終了タイミング信号を、これら充電終了タイミングやオン操作終了タイミングを指示する指示情報が電流値によって表現されたものとした。そして、これら電流値が抵抗91や抵抗95によって電圧値V1,V2に変換されることで、ECU50とEDU60とのグランド電位が互いに異なったとしても、これら電圧値V1,V2は指示情報を正確に表現したものとなる。このため、EDU60において、指示情報に正確に従って充電スイッチ70の操作を行うことができる。
加えて、本実施形態では、充電時間やオン操作時間の指示を、充電終了タイミングやオン操作終了タイミングの指示として行った。しかも、充電終了タイミング信号やオン操作終了タイミング信号の有する指示情報は、これら終了タイミングの上限値からの差分を、電流値がゼロのときゼロとなる態様にて定める情報とした。このため、たとえECU50からEDU60に充電終了タイミング信号やオン操作終了タイミング信号を出力する信号線が断線したとしても、充電時間やオン操作時間はゼロとはならない。このため、こうした断線時であっても、ディーゼルエンジンの停止を回避することができる。すなわち、電圧バッファ92では、断線時であっても所定値Δ1を出力するよう構成されており、この所定値Δ1によって充電時間の上限値が定められている。また、電圧バッファ96では、断線時であっても所定値Δ2を出力するよう構成されており、この所定値Δ2によってオン操作時間の上限値が定められている。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)充電スイッチ70のオン操作時間や、ピエゾ素子PEの充電時間を指示する指示情報を含む指示信号(充電終了タイミング信号、オン操作終了タイミング信号)を、電圧値以外のパラメータによって表現した。これにより、ECU50とEDU60とのグランド電位に差が生じていたとしても、指示情報を指示信号の電圧値によって表現する場合に生じる問題を回避することができる。
(2)EDU60が、指示信号を指示情報に対応する電圧値に変換する変換回路(抵抗91、95)を備える構成とした。このため、EDU60により、指示情報を正確に表現する電圧値を取得することができる。
(3)上記指示信号を、指示情報に対応する量の電流値によって同情報を表現するものとした。これにより、上記抵抗91,95における電圧降下によって電流を電圧に変換することで、この変換を簡易に行うことができる。
(4)充電時間やオン操作時間の指示を、それらの終了タイミングの指示とするとともに、EDU60では、所定値Δ1,Δ2によってあらかじめ定められた上限値の範囲内で指示情報によって指示される終了タイミングに従って充電を行った。これにより、上記指示信号を載せる信号線が断線したとしても、燃料噴射が行われ、ディーゼルエンジンの駆動力が不足することを回避することができる。
(5)冷却水温や燃圧、バッテリBの電圧に基づき指示信号を生成した。これにより、ピエゾ素子PEに要求されるエネルギ量に見合った電気エネルギを過不足なく与えることができる。
(6)ディーゼルエンジンの運転状態に応じて、充電時間を可変設定した。これにより、オン操作時間やオフ操作時間を可変設定することによってのみエネルギ量を調整する場合と比較して、要求されるエネルギ量の供給を精度良く行うことができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図7に本実施形態のEDU60を示す。ちなみに、図7では、先の図3に示した部材と同様の機能を有する部材には便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、充電時間終了タイミングやオン操作終了タイミングについての指示情報を、デューティ比によって表現する。そして、EDU60の制御回路90は、デューティ比を電圧値に変換する電圧変換回路120,122を備える。ここで、電圧変換回路120は、充電終了タイミング信号を取り込み、そのデューティ比を電圧値に変換し、所定値Δ1を加算して比較器93のマイナス入力端子に印加する。また、電圧変換回路122は、オン操作終了タイミング信号を取り込み、そのデューティ比を電圧値に変換し、所定値Δ2を加算して比較器97のマイナス入力端子に印加する。
これら電圧変換回路120,122による信号の変換態様を図8に例示する。図8(a)は、指示信号(充電終了タイミング信号、オン操作終了タイミング信号)の推移を示しており、図8(b)は、電圧変換回路120(122)の出力する電圧である基準電圧Vref1(Vref2)を示している。
これら電圧変換回路120、122では、デューティ比を検出するために取り込まれる信号が論理「H」であるか論理「L」であるかを判断すればよいため、ECU50とEDU60とのグランド電位が互いに異なっていたとしても、指示情報を正確に取り出すことができる。
以上説明した本実施形態によっても、先の第1の実施形態の上記(1)、(2)、(4)〜(6)の効果に準じた効果を得ることができることに加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(7)指示信号として上記指示情報に対応するデューティ比を有する信号を用いた。これにより、ECU50からEDU60に指示情報を正確に伝えることができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図9に本実施形態のEDU60を示す。ちなみに、図9では、先の図3に示した部材と同様の機能を有する部材には便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、充電時間終了タイミングやオン操作終了タイミングについての指示情報を、2進数にて表現する。すなわち、充電時間終了タイミングやオン操作時間終了タイミングをディジタル信号とし、その論理「H」及び論理「L」と対応する2進数にて指示情報を表現する。そして、EDU60の制御回路90は、ディジタル信号をアナログ信号に変換するディジタル/アナログコンバータ(D/Aコンバータ130,132)を備える。ここで、D/Aコンバータ130は、充電終了タイミング信号を取り込み、その2進数のデータ(ディジタルデータ)をアナログの電圧値に変換し、所定値Δ1を加算して比較器93のマイナス入力端子に印加する。また、D/Aコンバータ132は、オン操作終了タイミング信号を取り込み、そのディジタルデータをアナログの電圧値に変換し、所定値Δ2を加算して比較器97のマイナス入力端子に印加する。
これらD/Aコンバータ130、132では、取り込まれる信号が論理「H」であるか論理「L」であるかを判断すればよいため、ECU50とEDU60とのグランド電位が互いに異なっていたとしても、指示情報を正確に取り出すことができる。
ちなみに、本実施形態では、指示情報が2進数表記されているために、ECU50及びEDU60間において生じるノイズに対する高い耐性を有する反面、指示情報は離散的な値となっている。
以上説明した本実施形態によっても、先の第1の実施形態の上記(1)、(2)、(4)〜
(6)の効果に準じた効果を得ることができることに加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(8)指示信号として上記指示情報を2進数にて表現する信号を用いた。これにより、ECU50からEDU60に指示情報を正確に伝えることができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・充電時間やオン操作時間の指示を、それらの終了タイミングの指示とするとともに、あらかじめ定められた上限値の範囲内で指示情報によって指示される終了タイミングに従って充電を行う手法としては、上記各実施形態で例示したものに限らない。例えばタイマ回路94が噴射信号の立ち上がりエッジから徐々に電圧値を上昇させて且つ、基準電圧Vref1に達したときに充電終了となる構成としてもよい。この場合であれ、充電終了タイミング信号が基準電圧Vref1と上限値との差分を設定するなどすることで、充電終了タイミング信号がないときに基準電圧Vref1が上限値とされる設定を簡易に実現することができ、ひいては先の第1の実施形態の上記(4)の効果を得ることができる。
・充電時間や充電スイッチ70のオン操作時間を指示する指示情報としては、それらの終了タイミングを指示するものに限らない。この場合であっても、先の各実施形態の上記(1)〜(3)、(5)〜(8)等の効果を得ることはできる。
・ディーゼルエンジンの運転状態に基づき、オン操作時間を可変設定しなくても、充電時間を可変設定することで要求に見合った電気エネルギをピエゾ素子PEに供給することはできる。
・要求される電気エネルギをピエゾ素子PEに供給すべく、EDU60に出力する信号としては、上記充電時間やオン操作時間を指示するものに限らない。例えば特開平2005−39990号公報に例示されるように、ピエゾ素子PEの電気的な状態量を操作する操作手段として、ピエゾ素子PEに与える電力をフィードバック制御するものにあっては、その目標とする電力を指示する情報を有してもよい。更に、放電処理時においても、オン操作時間やオフ操作時間を可変設定する場合には、上記各実施形態と同様の手法を用いることが有効である。
・更に、ピエゾ素子PEの伸長制御を行うべく、伸縮量と相関を有するピエゾ素子PEの電気的な状態量を駆動回路を介して操作する操作態様としては、ピエゾ素子PEの電流が時間に略比例して変化するものに限らない。例えばピエゾ素子PEの電圧が時間に略比例して上昇するような操作を行なってもよい。これは、例えばピエゾ素子PEを介して流れる電流量が上限値となるタイミングで充電スイッチ70をオン操作からオフ操作へ切り替え、電流量がゼロとなるタイミングでオフ操作からオン操作へ切り替えることで実現することができる。そして、この際、上限値を可変設定するための指示情報を上記実施形態に例示した態様にて伝えるようにしてもよい。
・チョッパ制御を行う駆動回路としては、例えば特開平8−177678号公報等に例示されるように、トランスのフライバック電流を用いたチョッパ制御を行うものであってもよい。また、例えばピエゾ素子PEの充電処理や放電処理を、チョッパ制御以外の手法で行ってもよい。
・駆動回路を介してピエゾ素子PEの電気的な状態量の操作の態様を指示する指示情報を載せた信号としては、上記電流値やディジタル信号(デューティ比を有する信号、ディジタルデータを有する信号を例示)によって同情報を表現するものに限らない。例えば指示情報を信号波としてこれがFM変調されたものであってもよい。
・ピエゾインジェクタPIの構造としては、先の図2に例示したものに限らない。この際、ピエゾ素子の変位に応じて開弁及び閉弁の2値的な動作をするものに限らず、例えば米国特許第6520423号明細書に記載されているように、ピエゾ素子PEの変位に応じてノズルニードルのリフト量を連続的に調整可能なインジェクタであってもよい。ただし、ピエゾ素子PEの動力を伝達させるピエゾインジェクタPI内の動力伝達系において、ピエゾ素子PEの変位開始に際し、ピエゾ素子PEの変位に対向するように燃圧が加わる構成である場合には、燃圧に基づき状態量の操作態様を可変とすることが特に有効である。
・その他、内燃機関としては、ディーゼルエンジンに限らず、例えば筒内噴射式ガソリンエンジンであってもよい。
PI…ピエゾインジェクタ、PE…ピエゾ素子、50…ECU(指示手段の一実施形態)、60…ドライバユニット(操作手段の一実施形態)、62…駆動回路、90…制御回路(操作手段の一実施形態)。