本発明の第一は、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記カソード触媒層の端部と隣接して形成された第一のガスケット層と、前記高分子電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層と、を有する、電解質膜−電極接合体の製造方法であって、高分子電解質膜のカソード触媒層側表面に、第一のガスケット層を形成し、さらに該第一のガスケット層上に第一の剥離層を形成した後、該第一のガスケット層及び第一の剥離層からなる層の端部の少なくとも一部とカソード触媒層の端部とが重なるように、カソード触媒層をさらに形成した後、該第一の剥離層を除去する工程;および高分子電解質膜のアノード触媒層側表面に、アノード触媒層を形成する工程を有し、かつ第一のガスケット層は、有効アノード触媒層の面積が有効カソード触媒層の面積より大きくなるように形成されることを特徴とする、電解質膜−電極接合体の製造方法に関する。
また、本発明の第二は、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記カソード触媒層の端部と隣接して形成された第一のガスケット層と、前記高分子電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層と、を有する、電解質膜−電極接合体の製造方法であって、第一のガスケット層に第一の剥離層を形成して積層体(1)を形成した後、該第一の剥離層が形成されていない側の第一のガスケット層面が高分子電解質膜のカソード触媒層側表面と合わさるように、該積層体(1)を高分子電解質膜のカソード触媒層側表面に配置した後、該積層体(1)の端部とカソード触媒層の端部とが重なるように、カソード触媒層をさらに形成した後、該第一の剥離層を除去する工程;および高分子電解質膜のアノード触媒層側表面に、アノード触媒層を形成する工程を有し、かつ第一のガスケット層は、有効アノード触媒層の面積が有効カソード触媒層の面積より大きくなるように形成されることを特徴とする、電解質膜−電極接合体の製造方法に関する。
なお、本明細書では、カソード触媒層の端部に形成・配置されるガスケット層を、単に「第一のガスケット層」と称する。
本明細書において、「有効アノード触媒層」とは、アノード触媒層のうち、運転(発電)時に2H2→4H++4e−の反応が起こる領域を意味し、具体的には、剥離層により除去された後のアノード触媒層領域であり、単に「アノード触媒層」と称する場合には、高分子電解質膜上に形成されたすべてのアノード触媒層を意味し、即ち、上記有効アノード触媒層に加えて、以下で詳述するが第二のガスケット層との重複部分(剥離層の剥離により除去される部分)をも含む。
また、本明細書において、「有効カソード触媒層」とは、カソード触媒層のうち、運転(発電)時にO2+4H++4e−→2H2Oの反応が起こる領域を意味し、具体的には、剥離層により除去された後のカソード触媒層領域であり、単に「カソード触媒層」と称する場合には、高分子電解質膜上に形成されたすべてのカソード触媒層を意味し、即ち、上記有効カソード触媒層に加えて、第一のガスケット層との重複部分(剥離層の剥離により除去される部分)をも含む。
本発明の方法は、ガスケット層及び剥離層を順次高分子電解質膜上に形成するあるいは予めガスケット層及び剥離層を積層したものを高分子電解質膜上に形成した後、当該ガスケット層及び剥離層の積層体の端部と触媒層の端部とが重なるように触媒層を、積層体の端部から電解質膜の中央部方向に高分子電解質膜上に形成し、さらに触媒層の形成後に剥離層を取り除くことを特徴とするものである。このような方法によると、ガスケット層の端部と触媒層の端部は重複せずに密接に接触した状態で接合できる。このため、本方法によって製造されるMEAは、劣化要因となりうる重複部分や電解質膜の暴露部分が存在しないので、触媒層端部での起動停止におけるカソード触媒の腐食やOCV保持時の電解質膜の分解が有意に抑制でき、耐久性に優れたものとなりうる。
また、本発明の方法によって製造される電解質膜−電極接合体(以下、単に「MEA」とも記載する。)は、有効アノード触媒層の面積が有効カソード触媒層の面積より大きくなるように、少なくともカソード触媒層の端部、好ましくはカソード触媒層及びアノード触媒層双方の端部がガス不透過性のガスケット層でシールされることを特徴とするものである。なお、本明細書では、面積とは幾何学的な面積を意味し、触媒等の表面積を意味するわけではない。このような構成により、アノード下流の空気存在部に対向するカソード触媒層領域の面積を低減できる、即ち、カソード電位と電解質電位との差が大きい部分を有意に低減できるため、カソード触媒層のカーボンの腐食が効果的に防止/抑制できる。また、少なくともカソード触媒層の端部(好ましくはカソード触媒層及びアノード触媒層双方の端部)をガス不透過性のガスケット層でシールしているため、酸素のクロスリークが特に顕著に起こるカソード触媒層が存在しないあるいはこのようなカソード触媒層領域を有意に低減できる。したがって、本発明のMEAは、カソード触媒層のみが存在する周囲部がほとんどまたは全く存在せず、カソード触媒層端部でのカソードからアノードへの酸素のクロスリークがほとんどまたは全く起こらない構造をとることができる。したがって、従来重大な問題となっていた電解質膜の劣化をも効果的に防止/抑制することができる。したがって、本発明の電解質膜−電極接合体を用いた燃料電池は、起動停止/連続運転時及びOCV時の性能を長期間維持でき、また、燃費も向上できる。
本発明において、有効アノード触媒層の面積が有効カソード触媒層の面積よりも大きくなることが必須の要件であるが、この際、有効アノード触媒層と有効カソード触媒層の位置関係は、特に制限されないが、図10(a)のように、MEAの厚み方向に対して、有効アノード触媒層内に有効カソード触媒層が完全に含まれる場合;または図10(b)のように、MEAの厚み方向に対して、有効カソード触媒層が部分的に有効アノード触媒層内に含まれる場合のいずれであってもよいが、前者の場合がより好ましい。同様にして、各触媒層の位置関係に関しても、特に制限されないが、図10(a)のように、MEAの厚み方向に対して、アノード触媒層内にカソード触媒層が完全に含まれる場合;図10(b)のように、MEAの厚み方向に対して、カソード触媒層が部分的にアノード触媒層内に含まれる場合;または図10(c)のように、MEAの厚み方向に対して、カソード触媒層がアノード触媒層と同位置に配置される場合のいずれであってもよいが、カソード触媒層がアノード触媒層と同位置に配置される場合及びアノード触媒層内にカソード触媒層が完全に含まれる場合がより好ましく、アノード触媒層内にカソード触媒層が完全に含まれる場合が特に好ましい。
本発明の方法の好ましい一実施態様を、図4を参照しながら、以下に詳細に説明する。
本発明の方法では、第一のガスケット層2cが高分子電解質膜1のカソード触媒層側表面に形成される(ガスケット層形成工程:図4(a))。この際、ガスケット層の形成方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、接着剤を、5〜30μmの厚みになるように高分子電解質膜のカソード触媒層側表面に塗布した後、ガス不透過材料を10〜200μmの厚みになるように塗布し、これを25〜150℃で、10秒〜10分間加熱することによって硬化させる方法が使用できる。または、予め、ガス不透過材料をシート状に成形した後に、この不透過層(膜)に接着剤を塗布して、ガスケット層を形成した後、これを高分子電解質膜のカソード触媒層側表面に貼り合わせてもよい。この際、不透過層(膜)の厚みは、特に制限されないが、15〜40μmが好ましく、また、接着層もまた、特に制限されないが、10〜25μmが好ましい。なお、本発明の方法では、上記第一のガスケット層の形成は必須であるが、第一のガスケット層をカソード触媒層の端部に設けることによって、カソード触媒層のカーボンの腐食や電解質膜の劣化が起こりやすい部分のガス透過性を有意に低く抑えることができる。また、高分子電解質膜1のアノード触媒層側表面には、第二のガスケット層2aが形成される(図4(a))が、該第二のガスケット層の形成方法は、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
本発明において、カソード触媒層は、第一のガスケット層の周辺部のうち、少なくとも一部と重複するように、第一のガスケット層の周辺部の内側に高分子電解質膜上で形成される。しかしながら、カソード触媒層のカーボンの腐食や高分子電解質膜の劣化の防止/抑制効果などを考慮すると、カソード触媒層の端部が第一のガスケット層の周辺部全域にわたって密着した状態で形成されることが好ましい。なお、本発明において、第一のガスケット層は、電解質膜の周辺部の少なくとも一部を被覆するよう形成されるが、カソード触媒層のカーボンの腐食や電解質膜の劣化の抑制を考慮すると、周辺部のガスシール性が保たれていることが好ましく、従って、第一のガスケット層は、電解質膜の全周辺部にわたって額縁状に形成されることが好ましい。有効触媒層領域の制御が正確にかつ容易に行なうことができ、さらに、ガスケット層で触媒層の周囲部をきっちり(低いガス透過率で)シールすることができるという利点があるからである。
また、上記ガスケット層形成工程において、有効アノード触媒層の面積が有効カソード触媒層の面積より大きくなるように、図4(a)に示されるように、第一のガスケット層の電解質膜中心側の端部が第二のガスケット層の電解質膜中心側の端部を超えるように(塗布面積がより大きくなるように)、第一及び第二のガスケット層の少なくとも一部が形成される。
上記第一及び第二のガスケット層は、気体、特に酸素(カソード側)ガスや水素(アノード側)ガスに対して不透過であればよいため、上記したように、一般的には、高分子電解質膜との接着を目的とする接着層及びガス不透過材料からなる不透過層から構成される。この際、不透過層を構成する材料は、膜にした際に酸素や水素ガスに対して不透過性を示すものであれば特に制限されない。具体的には、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。また、接着層に使用できる材料もまた、高分子電解質膜やカソード/アノード触媒層と、ガスケット層を密接に接着できるものであれば特に制限されないが、ポリオレフィン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー等のホットメルト系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル、ポリオレフィン等のオレフィン系接着剤などが使用できる。
また、本発明の方法で用いられる高分子電解質膜としては、特に限定されず、以下に詳述する触媒層に用いたものと同様の高分子電解質からなる膜が挙げられる。また、デュポン社製の各種のNafion(デュポン社登録商標)やフレミオンに代表されるパーフルオロスルホン酸膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜など、一般的に市販されている固体高分子型電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。前記高分子電解質膜に用いられる高分子電解質と、各触媒層に用いられる高分子電解質とは、同じであっても異なっていてもよいが、各触媒層と高分子電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
前記高分子電解質膜の厚みとしては、得られるMEAの特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜100μmである。製膜時の強度やMEA作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、MEA作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
次に、本発明の方法では、上記のようにして電解質膜1上に形成された第一のガスケット層2c及び第二のガスケット層2aの上に、第一の剥離層3c及び第二の剥離層3aがそれぞれさらに形成される(図4(b))。この際、剥離層を構成する剥離層形成材料は、さらに形成された触媒層の端部を、重複した部分のみを選択的に除去できるようにかつスムーズに剥離できるものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂あるいは熱硬化性アクリル樹脂を含む材料等が挙げられる。これらの剥離層形成材料は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもいずれでもよい。または、適当な樹脂シートを上記したような剥離層形成材料で被覆したものを、例えば、接着層を介してあるいは熱で溶融させることにより、第一の及び第二のガスケット層上に貼り付けてもよい。
前記第一の剥離層及び第二の剥離層の厚みとしては、を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。
なお、上記方法では、高分子電解質膜のカソード触媒層側表面に、第一のガスケット層及び第一の剥離層を順次形成する方法を開示したが、予め第一のガスケット層及び第一の剥離層からなる積層体(1)を形成した後、この積層体(1)を、第一の剥離層が形成されていない側の第一のガスケット層面が高分子電解質膜のカソード触媒層側表面と合わさるように高分子電解質膜のカソード触媒層側表面に配置してもよい。この際、積層体(1)の形成方法は、特に制限されず、離型紙に、上記したような接着剤を所定の厚みになるように塗布した後、これに、上記したガス不透過材料を所定の厚みになるように塗布、硬化させて第一のガスケット層を形成した後、これに上記したような剥離層形成材料をさらに所定の厚みになるように塗布、硬化させることによって得られる。または、上記各材料をシート状に成形したものを、それぞれ、貼り合せることによって、積層体(1)を得てもよい。または、上記層の形成とシートを組み合わせてもよく、例えば、剥離層形成材料をシート状に成形したものの上に、上記ガス不透過材料及び接着剤を、順次、所定の厚みになるように塗布した後、硬化させる方法も使用できる。
さらに、本発明の方法では、上記のようにして第一のガスケット層2c及び第二のガスケット層2aの上にそれぞれ形成された第一の剥離層3c及び第二の剥離層3aに対して、当該剥離層の端部と各触媒層の端部とが少なくとも一部が重複するように、それぞれ、カソード触媒層4c及びアノード触媒層4aがさらに形成される(図4(c))。
本発明の方法では、有効カソード触媒層の端部と有効アノード触媒層の端部は、第一/第二のガスケット層と剥離層、あるいは積層体(1)/(2)の電解質膜上の形成位置によって容易に規定できるため、各触媒層の位置合わせが正確である必要は必ずしもない。具体的には、カソード触媒層及びアノード触媒層は、その端部が、第一/第二のガスケット層と剥離層、あるいは積層体(1)/(2)の端部と重複する限り、いずれの位置で終了していてもよく、すなわち、これらの触媒層の端部が、電解質膜−電極接合体の厚み方向に対して、ほぼ同位置で終結していてもよいが、カソード触媒層の端部とアノード触媒層の端部の位置がずれていてもよい。したがって、本発明の方法によると、従来非常に注意が払われていた触媒層の形成位置について考慮する必要がなく、製造工程を有意に簡略化することができる。なお、アノード触媒層の端部が、電解質膜−電極接合体の厚み方向に対して、カソード触媒層の端部を超えて終結することが好ましい。これは、本発明では、有効アノード触媒層の面積が有効カソード触媒層の面積より大きいことが必須であるため、このようにカソード触媒層を予めアノード触媒層の大きさより小さくしておくことにより、使用する触媒や電解質の量を少なく抑えられ、また、ガスケット層部分との重複も少なくできるため、経済的に好ましいからである。以降においては、「第一/第二のガスケット層と剥離層、あるいは積層体(1)/(2)」を、一括して、「本発明に係る積層体」と称する。
本発明において、カソード触媒層に用いられる触媒成分は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、アノード触媒層に用いられる触媒成分もまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード触媒をして合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できるが、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が10〜70原子%とすることが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、カソード触媒層に用いられる触媒成分及びアノード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択できる。以下の説明では、特記しない限り、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義であり、一括して、「触媒成分」と称する。しかしながら、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択される。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。この際、触媒インクに用いられる触媒粒子の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って酸素還元活性が低下する現象が見られる。従って、触媒インクに含まれる触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらにより好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmの粒状であることが好ましい。担持の容易さという観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値により測定することができる。
本発明において、上述した触媒粒子は導電性担体に担持された電極触媒として触媒インクに含まれる。
前記導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
前記導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gとするのがよい。前記比表面積が、20m2/g未満であると前記導電性担体への触媒成分および高分子電解質の分散性が低下して十分な発電性能が得られない恐れがあり、1600m2/gを超えると触媒成分および高分子電解質の有効利用率が却って低下する恐れがある。
また、前記導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。
前記導電性担体に触媒成分が担持された電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%とするのがよい。前記担持量が、80質量%を超えると、触媒成分の導電性担体上での分散度が下がり、担持量が増加するわりに発電性能の向上が小さく経済上での利点が低下する恐れがある。また、前記担持量が、10質量%未満であると、単位質量あたりの触媒活性が低下して所望の発電性能を得るために多量の電極触媒が必要となり好ましくない。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
本発明のカソード触媒層/アノード触媒層(以下、単に「触媒層」とも称する)には、電極触媒の他に、高分子電解質が含まれる。前記高分子電解質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくとも高いプロトン伝導性を有する部材であればよい。この際使用できる高分子電解質は、ポリマー骨格の全部又は一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質とに大別される。
前記フッ素系電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
前記炭化水素系電解質として、具体的には、ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸等が好適な一例として挙げられる。
高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましく、なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
本発明の方法では、上記したような電極触媒、高分子電解質及び溶媒からなる触媒インクを、本発明に係る積層体の端部をも被覆するように、高分子電解質膜表面に塗布することによって、触媒層が形成される。この際、溶媒としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶媒が同様にして使用できる。具体的には、水や、シクロヘキサノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。また、溶媒の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できるが、触媒インクの塗布性、乾燥性を考慮して、触媒インク中の固形分(電極触媒,高分子電解質、及びその他添加固形物)の質量割合が、1〜30質量%、より好ましくは5〜25質量%となるようにすることが好ましい。
本発明の触媒インクは、増粘剤を含んでもよい。増粘剤の使用は、触媒インクの粘性を塗布方式にあわせて適正化する場合などに有効である。この際使用できる増粘剤は、特に制限されず、公知の増粘剤が使用できるが、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ポリビニルアルコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。増粘剤を使用する際の、増粘剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されないが、触媒インクの全質量に対して、好ましくは5〜40質量%である。
本発明の触媒インクは、電極触媒、電解質及び溶媒、ならびに必要であれば撥水性高分子および/または増粘剤、が適宜混合されたものであればその調製方法は特に制限されない。例えば、電解質を極性溶媒に添加し、この混合液を加熱・攪拌して、電解質を極性溶媒に溶解した後、これに電極触媒を添加することによって、触媒インクが調製できる。または、電解質を溶媒に一旦分散/懸濁させた後、上記分散/懸濁液を電極触媒と混合して、触媒インクを調製してもよい。また、電解質が予め上記他の溶媒中に調製されている市販の電解質分散液(例えば、デュポン製のNafion分散液:水と1−プロパノールの混合溶媒中に5質量%の濃度でNafionが分散/懸濁したもの)をそのまま上記方法に使用してもよい。
上記したような触媒インクを、高分子電解質膜上に、あるいは積層体の一部を被覆しながら高分子電解質膜上に、塗布して、各触媒層が形成される。この際、高分子電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。例えば、触媒インクを高分子電解質膜上に、乾燥後の厚みが5〜20μmになるように、塗布し、25〜170℃、より好ましくは60〜150℃で、5分〜1時間、より好ましくは10〜30分間、乾燥する。この乾燥は真空または減圧下で行ってもよい。この際、触媒インクの塗布方法は、特に制限されず、バーコーター法、ダイコーター法、リバースコーター法、コンマコーター法、グラビアコーター法、ドクターナイフ法、スクリーン印刷法、沈積法、あるいはスプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。なお、上記工程において、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。
本発明のMEAに用いられる高分子電解質膜としては、特に限定されず、電極触媒層に用いたものと同様の高分子電解質からなる膜が挙げられる。また、デュポン社製の各種のNafion(デュポン社登録商標)やフレミオンに代表されるパーフルオロスルホン酸膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜など、一般的に市販されている固体高分子型電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。前記高分子電解質膜に用いられる高分子電解質と、各電極触媒層に用いられる高分子電解質とは、同じであっても異なっていてもよいが、各電極触媒層と高分子電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
前記高分子電解質膜の厚みとしては、得られるMEAの特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜100μmである。製膜時の強度やMEA作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、MEA作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
また、高分子電解質膜には、上記のようなフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜のみならず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などから形成された多孔質状の薄膜に、りん酸やイオン性液体等の電解質成分を含浸したものも含まれる。
なお、上記では、直接塗布することにより、高分子電解質膜に、直接アノード/カソード触媒層またはガスケット層を形成する方法について述べてきたが、本発明のMEAは、転写法などの他の方法によって製造されてもよい。このような場合の製造方法は、特に制限されず、公知の転写方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できるが、例えば、以下のような方法が使用できる。すなわち、上記で調製したような触媒インクを転写用基材上に塗布・乾燥して、触媒層を形成する。この際、転写用基材としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート等の、ポリエステルシートなどの公知のシートが使用できる。なお、転写用基材は、使用する触媒インク(特にインク中のカーボン等の導電性担体)の種類に応じて適宜選択される。また、上記工程において、触媒層の厚みは、水素の酸化反応(アノード側)及び酸素の還元反応(カソード側)の触媒作用が十分発揮できる厚みであれば特に制限されず、従来と同様の厚みが使用できる。具体的には、触媒層の厚みは、1〜30μm、より好ましくは1〜20μmである。また、転写用基材上への触媒インクの塗布方法は、特に制限されず、バーコーター法、ダイコーター法、リバースコーター法、コンマコーター法、グラビアコーター法、ドクターナイフ法、スクリーン印刷法、沈積法、あるいはスプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。また、塗布された触媒層の乾燥条件もまた、触媒層から極性溶媒、分散媒を完全に除去できる条件であれば特に制限されない。具体的には、25〜170℃、より好ましくは60〜150℃で、5〜1時間、より好ましくは10〜30分間、乾燥する。この乾燥は真空または減圧下で行ってもよい。この際、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。次に、このようにして作製された触媒層で高分子電解質膜を挟持した後、当該積層についてホットプレスを行なう。この際、ホットプレス条件は、触媒層及び高分子電解質膜が十分密接に接合できる条件であれば特に制限されないが、100〜200℃、より好ましくは110〜170℃で、電極面に対して1〜5MPaのプレス圧力で行なうのが好ましい。これにより高分子電解質膜と触媒層との接合性を高めることができる。ホットプレスを行なった後、転写用基材を剥がすことにより、触媒層と高分子電解質膜とからなるMEAを得ることができる。
さらに、本発明の方法では、上記のようにして、触媒層の端部と積層体の端部とが少なくとも一部が重複するように、触媒層が形成された(図4(c))後、剥離層3cを除去する。これによって、剥離層と重複している触媒層部分が簡単に除去でき、これにより触媒層の端部とガスケット層の端部とが密接に連結した電解質膜−電極接合体が得られる(図4(d))。
上記剥離層の除去工程において、剥離層の除去方法及び条件は、剥離層と重複している触媒層部分が速やかにかつ重複部分が残らないような条件であれば特に制限されないが、例えば、剥離層を電解質膜の外側方向に0.1〜20m/分の速度で引張りながら捲き取る方法などが好ましく使用できる。
なお、図4(a)〜(d)においては、カソード側に加えて、アノード側にも第二のガスケット層、第二の剥離層を設けた特に好ましい例を記載したが、本発明は、本明細書の記載を通じて明らかなように、カソード側に第一のガスケット層及び第一の剥離層を設けることを必須とするのみであり、必ずしもアノード側にも第二のガスケット層、第二の剥離層を設ける必要はない。
すなわち、本発明では、第一のガスケット層をカソード触媒層の端部に形成することを必須の構成要件とするが、アノード触媒層側の端部にもガスケット層をさらに形成することが好ましい。換言すると、本発明のMEAの好ましい形態としては、カソード触媒層、高分子電解質膜及びアノード触媒層を有する電解質膜−電極接合体において、第一のガスケット層の端部の少なくとも一部と重複するようにカソード触媒層が形成されかつ第二のガスケット層の端部の少なくとも一部と重複するようにアノード触媒層が形成され、該第一及び第二のガスケット層は、第二のガスケット層が形成されないアノード触媒層領域の面積は第一のガスケット層が形成されないカソード触媒層領域の面積より大きくなるように、カソード触媒層及びアノード触媒層の端部に形成される。このように、アノード触媒層側の端部にもガスケット層を形成することで、有効カソード触媒層と有効アノード触媒層との位置合わせが正確にかつ容易に行なえ、起動停止/連続運転中のカソード触媒のカーボン腐食やOCV保持時の電解質膜の分解が有効に防止/抑制できるからである。なお、本明細書では、このアノード触媒層の端部に形成されるガスケット層を、単に「第二のガスケット層」と称する。
本発明において、アノード触媒層は、第二のガスケット層の周辺部のうち、少なくとも一部と重複するように、第二のガスケット層の周辺部の内側に高分子電解質膜上で形成される。しかしながら、アノード触媒層のカーボンの腐食や高分子電解質膜の劣化の防止/抑制効果などを考慮すると、アノード触媒層の端部が第二のガスケット層の周辺部全域にわたって密着した状態で形成されることが好ましい。なお、本発明において、第二のガスケット層は、電解質膜の周辺部の少なくとも一部を被覆するよう形成されるが、アノード触媒層のカーボンの腐食や電解質膜の劣化の抑制を考慮すると、周辺部のガスシール性が保たれていることが好ましく、従って、第二のガスケット層は、電解質膜の全周辺部にわたって額縁状に形成されることが好ましい。有効触媒層領域の制御が正確にかつ容易に行なうことができ、さらに、ガスケット層で触媒層の周囲部をきっちり(低いガス透過率で)シールすることができるという利点があるからである。
なお、第二のガスケット層及び第二の剥離層の材料、厚み及び形成方法などは、第一のガスケット層及び第一の剥離層で述べたのと同様であるため、これらの説明を省略する。
本発明では、上記したような第一のガスケット層の形成工程、第一の剥離層の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程;ならびに積層体(1)の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程は、毎葉で行なわれても、あるいは連続的に行なわれてもいずれでもよいが、生産性を考慮すると、連続的に行なわれることが好ましい。
以下、第一のガスケット層の形成工程、第一の剥離層の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程;ならびに積層体(1)の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程を連続的に行う方法を、図5〜9を参照しながら詳細に説明する。
まず、図5に示される実施形態は、第一のガスケット層の形成工程、第一の剥離層の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程を連続的に行なう例である。図5に示されるように、電解質膜のロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で、電解質膜を送る。ここで、予め接着面は離型シートで保護されたガスケット層を、上記したようにして、ガス不透過材料及び接着剤で作製しておく。このガスケット層から離型シートを離型シート捲取ロールではがしながら、ガスケット層を、ガスケットロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で送り出し、電解質膜の所定の位置にガスケット層がくるように、電解質膜に接着していく。この際、ガスケット層の接着面が電解質膜面側に配置されるよう、ガスケットロールを適宜調節する。さらに、剥離層形成材料によるシート材を、剥離シートロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で送り出し、ガスケット層上に配置して、積層体を形成する。続いて、上記した触媒インクを、積層体の端部の少なくとも一部と触媒層の端部とが重なるように、電解質膜上に塗布し、硬化させて、触媒層を形成する。最後に、除去剥離シート捲取ロールで、剥離層を取り除くことによって、触媒層の端部とガスケット層が密接に連結した電解質膜−電極接合体が得られ、これを、電解質膜−電極接合体捲取ロールで回収する。なお、上記工程は、カソード側及びアノード側双方において、同様にして適用できる。
また、上記図5の方法において、経済的な観点及び製造の容易性の観点から、積層体(1)を大きなサイズでシート状に製造した場合には、第一のガスケット層を電解質膜上に形成した後あるいは積層体(1)を形成した後、触媒層の形成部分に相当する部分を打ち抜きなどによって、取り除いてもよい。
または、図6のようにして、第一のガスケット層の形成工程、第一の剥離層の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程を連続的に行なってもよい。すなわち、電解質膜のロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で、電解質膜を送る。次に、ガスケット層形成材料の溶液を電解質膜上に塗布して、硬化することによって、ガスケット層を形成する。次に、剥離層形成材料の溶液をガスケット層上に塗布して、積層体を形成する。続いて、上記した触媒インクを、積層体の端部の少なくとも一部と触媒層の端部とが重なるように、電解質膜上に塗布し、硬化させて、触媒層を形成する。最後に、除去剥離シート捲取ロールで、剥離層を取り除くことによって、触媒層の端部とガスケット層が密接に連結した電解質膜−電極接合体が得られ、これを、電解質膜−電極接合体捲取ロールで回収する。なお、上記工程は、カソード側及びアノード側双方において、同様にして適用できる。
次に、積層体(1)の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程を連続的に行う方法を、図7を参照しながら詳細に説明する。予め接着面は離型シートで保護されたガスケット層を、上記したようにして、ガス不透過材料及び接着剤で作製しておく。図7に示されるように、このガスケット層から離型シートを離型シート捲取ロールではがしながら、ガスケット層を、ガスケットロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で送り出す。このガスケット層上に、剥離層形成材料によるシート材を、剥離シートロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で、配置して、積層体(1)を形成する。さらに、この積層体(1)を、別途、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で、電解質膜のロールから送られてきている電解質膜の所定の位置に配置されるように、電解質膜と貼り合せる。この際、この際、ガスケット層の接着面が電解質膜面側に配置されるよう、ガスケットロール及び剥離シートロールを適宜調節する。続いて、上記した触媒インクを、積層体(1)の端部の少なくとも一部と触媒層の端部とが重なるように、電解質膜上に塗布し、硬化させて、触媒層を形成する。最後に、除去剥離シート捲取ロールで、剥離層を取り除くことによって、触媒層の端部とガスケット層が密接に連結した電解質膜−電極接合体が得られ、これを、電解質膜−電極接合体捲取ロールで回収する。なお、上記工程は、カソード側及びアノード側双方において、同様にして適用できる。
また、上記図7の方法において、経済的な観点及び製造の容易性の観点から、積層体(1)を大きなサイズでシート状に製造した場合には、積層体(1)を形成した後であってかつ電解質膜と貼り合わせる前に、触媒層の形成部分に相当する部分を打ち抜きなどによって、取り除いてもよい。
または、図8のように、積層体(1)の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程を連続的に行なってもよい。すなわち、図7と同様にして、形成したガスケット層に、剥離層形成材料の溶液をガスケット層上に塗布して、積層体(1)を形成する。さらに、この積層体(1)を、別途、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で、電解質膜のロールから送られてきている電解質膜の所定の位置に配置されるように、電解質膜と貼り合せる。この際、この際、ガスケット層の接着面が電解質膜面側に配置されるよう、ガスケットロール及び剥離シートロールを適宜調節する。続いて、上記した触媒インクを、積層体(1)の端部の少なくとも一部と触媒層の端部とが重なるように、電解質膜上に塗布し、硬化させて、触媒層を形成する。最後に、除去剥離シート捲取ロールで、剥離層を取り除くことによって、触媒層の端部とガスケット層が密接に連結した電解質膜−電極接合体が得られ、これを、電解質膜−電極接合体捲取ロールで回収する。なお、上記工程は、カソード側及びアノード側双方において、同様にして適用できる。
また、上記図8の方法において、経済的な観点及び製造の容易性の観点から、積層体(1)を大きなサイズでシート状に製造した場合には、積層体(1)を形成した後であってかつ電解質膜と貼り合わせる前に、触媒層の形成部分に相当する部分を打ち抜きなどによって、取り除いてもよい。
上記図6〜8に示される実施形態は、電解質膜の片面ずつに対して、別工程で、第一のガスケット層の形成工程、第一の剥離層の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程;ならびに積層体(1)の形成工程、及びカソード触媒層の形成工程を連続的に行なっていたが、カソード触媒層側及びアノード触媒層側双方について、同時に、上記連続工程を行なってもよい。このような方法は、大規模な設備を必要としないため、また、工程数を減らすことができるため、大量生産時には特に好適に使用される。以下、当該方法を、図9を参照しながら説明する。
図9に示されるように、電解質膜のロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で、電解質膜を送る。ここで、予め接着面は離型シートで保護された第一/第二のガスケット層を、上記したようにして、それぞれ、ガス不透過材料及び接着剤で作製しておく。第一のガスケット層から離型シートを離型シート捲取ロールではがしながら、第一のガスケット層を、第一のガスケットロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で送り出し、高分子電解質膜のカソード触媒層側表面の所定の位置に第一のガスケット層がくるように、電解質膜に接着していく。これと同時に、第二のガスケット層から離型シートを離型シート捲取ロールではがしながら、第二のガスケット層を、第二のガスケットロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で送り出し、高分子電解質膜のアノード触媒層側表面の所定の位置に第二のガスケット層がくるように、電解質膜に接着していく。この際、これらのガスケット層の接着面が電解質膜面側に配置されるよう、第一/第二のガスケットロールを適宜調節する。さらに、カソード触媒層(第一のガスケット層が形成されている)側用の剥離層形成材料による第一のシート材(第一の剥離層)を、第一の剥離シートロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で送り出し、第一のガスケット層上に配置して、第一の積層体を形成する。これと同時に、アノード触媒層(第二のガスケット層が形成されている)側用の剥離層形成材料による第二のシート材(第二の剥離層)を、第二の剥離シートロールから、一定速度で、好ましくは0.1〜20m/分の速度で送り出し、第二のガスケット層上に配置して、第二の積層体を形成する。続いて、カソード触媒層(第一の積層体が形成されている)側用のカソード触媒インクを、第一の積層体の端部の少なくとも一部とカソード触媒層の端部とが重なるように、電解質膜上に塗布し、硬化させて、カソード触媒層を形成する。これと同時に、アノード触媒層(第二の積層体が形成されている)側用のアノード触媒インクを、第二の積層体の端部の少なくとも一部とアノード触媒層の端部とが重なるように、電解質膜上に塗布し、硬化させて、アノード触媒層を形成する。最後に、第一及び第二の除去剥離シート捲取ロールで、それぞれ、第一及び第二の剥離層を取り除くことによって、カソード/アノード触媒層の端部と第一/第二のガスケット層が密接に連結した電解質膜−電極接合体が得られ、これを、電解質膜−電極接合体捲取ロールで回収する。
なお、本発明の方法によって製造されるMEAは、下記に詳述されるように、一般的にガス拡散層をさらに有してもよく、この際、ガス拡散層は、上記方法において、転写用台紙を剥がし、得られた接合体をさらにガス拡散層で挟持することによって、触媒層と高分子電解質膜との接合後にさらに各触媒層に接合することが好ましい。
この際、MEAに用いられるガス拡散層としては、特に限定されず公知のものが同様にして使用でき、例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とするものなどが挙げられる。前記基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。厚さが、30μm未満であると十分な機械的強度などが得られない恐れがあり、500μmを超えるとガスや水などが透過する距離が長くなり望ましくない。
前記ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことを目的として、前記基材に撥水剤を含ませることが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、前記ガス拡散層は、前記基材上に撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層を有するものであってもよい。
前記カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
前記カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、前記基材に用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。
前記カーボン粒子層における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。
前記カーボン粒子層の厚さは、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
ガス拡散層に撥水剤を含有させる場合には、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層に用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。
ガス拡散層において基材上にカーボン粒子層を形成する場合には、カーボン粒子、撥水剤等を、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などの溶媒中に分散させることによりスラリーを調製し、前記スラリーを基材上に塗布し乾燥、もしくは、前記スラリーを一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これを前記ガス拡散層上に塗布する方法などを用いればよい。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃程度で熱処理を施すのが好ましい。
本発明の方法によって製造される電解質膜−電極接合体は、上述した通り、触媒担体として用いられるカーボン担体の腐食、および、電解質膜−電極接合体に含まれる電解質成分の劣化を抑制することが可能となる。また、ガスケット層を設けることにより、触媒層の面積および配置を容易に決定することが可能となり、各触媒層を予め正確に位置合わせしなければいけない必要がないため、工業的な大量生産を考慮すると非常に望ましい。従って、かような電解質膜−電極接合体を用いることにより、製造工程が容易であり、耐久性にも優れる信頼性の高い高分子電解質型燃料電池を提供することができる。
なお、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池を例に挙げて説明したが、燃料電池の種類としては特に限定されず、この他にも、アルカリ型燃料電池、リン酸型燃料電池に代表される酸型電解質の燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能なことから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。
前記高分子電解質型燃料電池は、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求されることによるカーボン担体の腐食、および、運転時に高い出力電圧が取り出されることにより高分子電解質の劣化が生じやすい自動車などの移動体用電源として用いられるのが特に好ましい。
前記燃料電池の構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用すればよいが、一般的にはMEAをセパレータで挟持した構造を有する。
前記セパレータとしては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、従来公知のものであれば制限なく用いることができる。セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するための流路溝が形成されてもよい。セパレータの厚さや大きさ、流路溝の形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
また、各触媒層に供給されるガスが外部にリークするのを防止するために、ガスッケット層上にさらにガスシール部が設けられてもよい。前記ガスシール部を構成する材料としては、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴムなどのゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステルといった熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ガスシール部の厚さとしては、2mm〜50μm程度、望ましくは1mm〜100μm程度とすればよい。
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してMEAを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。