JP2006329186A - レーザ点火装置 - Google Patents

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【課題】エンジンに取り付けられたレーザ発振器に電流を印加することによりレーザ光を発振させ、燃焼室内の混合気に集光させ着火することにより点火を行うレーザ点火装置において、エンジンの運転状況に応じた適切な発振制御を可能とする。
【解決手段】本レーザ点火装置100は、燃焼室201を有するエンジンに取り付けられるとともに、電流を印加することによりレーザ光L1を発振するレーザ発振器10を備えている。燃焼室201内にて圧縮された混合気に対し、レーザ発振器10からのレーザ光を集光させ着火することにより点火を行う。このようなーザ点火装置100において、燃焼室201内の圧力をECU300によって算出し、この圧力に基づいて、電源20からレーザ発振器10に印加する印加電流を制御する。それによりレーザ発振器10から発振されるレーザ光L1の出力エネルギーを制御する。
【選択図】図1

Description

本発明は、エンジンに取り付けられたレーザ発振器に電流を印加することによりレーザ光を発振させ、燃焼室内の混合気に集光させ着火することにより点火を行うレーザ点火装置に関する。
一般に、この種のレーザ点火装置としては、レーザ発振器から照射されたレーザをエンジンの燃焼室内で集光し、当該燃焼室内の混合気を着火させる装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
具体的には、燃料噴射弁であるインジェクタから供給された燃料は、吸気管あるいは燃焼室において空気と混合され、燃焼室内にて混合気を形成する。そして、燃焼室の混合気は、ピストンの往復運動により圧縮された後、上記レーザ発振器から照射したレーザ光の集光部でのエネルギー密度がある一定値以上に達するとブレイクダウンが引き起こされ、プラズマが生成し、その熱で着火燃焼して動力が得られる。
ところで、エンジンの燃焼室内の状態は、その時の運転状況、たとえば燃焼室の圧力、温度ならびにエンジンの回転速度、負荷などによって大きく変動する。
すべての運転領域において、確実な着火と燃焼速度の向上を図るためには、運転状況に合わせた最適なレーザの発振制御が必要であるが、従来のレーザ点火装置においては、エンジンの運転状況に応じた発振制御が十分になされていなかった。
また、エンジンに備え付けるレーザとしては、安定して点火が可能なパワー密度(集光部分における単位面積当たりのパワー)を有し、かつエンジン搭載が可能な小型のレーザが求められる。
レーザ光源の高パワー化技術として、Qスイッチングによる短パルス化がある。特に、Qスイッチ素子に受動Qスイッチング技術である可飽和吸収体を用いた半導体レーザ励起の固体レーザ光源が近年着目されている。
これは、レーザ媒質、Qスイッチ素子である可飽和吸収体、さらにレーザ媒質および可飽和吸収体の外側に配置されたミラーにより構成される共振器と、この共振器に励起光を入射する励起光源とを備えるという簡易な構成(特許文献2、非特許文献1参照)で、かつ小型であるという点でエンジン搭載の面で好適であるが、あらゆるエンジン条件で安定した着火を得るには、不十分である。
特開10−196471号公報 特開2003−198019号公報 信学技報 LQE2004−6
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、エンジンに取り付けられたレーザ発振器に電流を印加することによりレーザ光を発振させ、燃焼室内の混合気に集光させ着火することにより点火を行うレーザ点火装置において、エンジンの運転状況に応じた適切な発振制御を可能とすることを目的とする。
また、本発明は、受動Qスイッチング技術である可飽和吸収体を用いたレーザ点火装置において、パルス幅の短縮を行いパワー密度の増大が図れ、低エネルギーのレーザでも安定したエンジンの着火性を実現することを、他の目的とする。
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、混合気の着火、燃焼が行われる燃焼室(201)を有するエンジンに取り付けられ、電流を印加することによりレーザ光を発振するレーザ発振器(10)を備えており、燃焼室(201)内にて圧縮された前記混合気に対し、レーザ発振器(10)からの前記レーザ光を集光させ着火することにより点火を行うレーザ点火装置において、前記エンジンの運転状態を示すエンジン条件に基づいて、レーザ発振器(10)に印加する電流を制御することによりレーザ発振器(10)から発振されるレーザ光の出力エネルギーを制御することを特徴としている。
本発明のレーザ点火装置においては、レーザ発振器(10)は電流を印加することによりレーザ光を発振するものであり、このようなレーザ発振器(10)は、印加電流の大きさでレーザ光の出力エネルギーが変わるものである。
そのため、エンジン条件に基づいてレーザ発振器(10)への印加電流を制御することにより、本発明のレーザ点火装置においては、エンジンの運転状況に応じた適切な発振制御が可能となる。
ここで、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載のレーザ点火装置においては、前記エンジン条件として燃焼室(201)内の圧力を算出し、この算出された圧力に基づいてレーザ発振器(10)に印加する電流を制御することによりレーザ発振器(10)から発振されるレーザ光の出力エネルギーを制御するものにできる。
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載のレーザ点火装置において、燃焼室(201)内の圧力が低いほどレーザ発振器(10)に印加する電流を大きくし、燃焼室(201)内の圧力が高いほどレーザ発振器(10)に印加する電流を小さくすることを特徴としている。
本発明者らの検討によれば、燃焼室(201)内の圧力が低いほど、混合気の着火を行うためにレーザ光の出力エネルギーを大きくする必要があり、燃焼室(201)内の圧力が高いほど、レーザ光の出力エネルギーを小さくしても当該混合気の着火を行えることがわかった(図4参照)。
そして、本発明のように、燃焼室(201)内の圧力が低いほどレーザ発振器(10)に印加する電流を大きくすれば、発振されるレーザ光の出力エネルギーは大きくなり、燃焼室(201)内の圧力が高いほどレーザ発振器(10)に印加する電流を小さくすれば、発振されるレーザ光の出力エネルギーは小さくなる。そのため、混合気の着火が適切に可能となる。
つまり、本発明によれば、エンジン条件である燃焼室(201)内の圧力に基づいて、レーザ発振器(10)への印加電流を制御することにより、エンジンの運転状況に応じた適切な発振制御が可能となる。
さらに、請求項4に記載の発明では、請求項3に記載のレーザ点火装置において、レーザ発振器(10)から点火時期の直前に点火用のレーザ光よりもエネルギーの小さい検出用のレーザ光を発振させることにより、前記点火用のレーザ光の集光位置(203)における混合気密度を検出し、検出された混合気密度に基づいてレーザ発振器(10)に印加する電流を制御するようになっていることを特徴としている。
それによれば、燃焼室内の混合気に流動や分布がある場合でも、点火の前に点火用のレーザ光の集光位置(203)における混合気密度を検出できるから、この検出された混合気密度に基づいて、レーザ発振器(10)に印加する電流をより精度よく制御することができる。
ここで、請求項5に記載の発明のように、請求項4に記載のレーザ点火装置においては、前記検出された混合気密度が低いほどレーザ発振器(10)に印加する電流を大きくし、前記検出された混合気密度が高いほどレーザ発振器(10)に印加する電流を小さくするものにできる。
本発明者らの検討によれば、混合気密度と着火に必要なレーザ光の出力エネルギーとの関係は、上記燃焼室(201)内の圧力と当該出力エネルギーとの関係と同様である。そのため、本発明のようにすれば、検出された混合気密度に基づくレーザ発振器(10)への印加電流の制御を適切に行える。
また、請求項6に記載の発明では、請求項1〜請求項5に記載のレーザ点火装置において、レーザ発振器(10)は、印加された電流が大きくなるにつれて多重発振が可能なものであることを特徴としている。
このようにレーザ発振器(10)を多重発振させて発振期間を増大させることで、レーザ光の集光位置における混合気密度に時間的なばらつきがあっても、確実に着火させることができ、好ましい。
また、請求項7に記載の発明では、請求項1〜請求項6に記載のレーザ点火装置において、1回の燃焼行程において、正規の点火時期の後に再度レーザ光を発振し燃焼を行うようになっていることを特徴としている。
それによれば、燃焼室(201)内において、正規の点火時期の後に残存する燃料やカーボンなどを燃焼させることができる。
請求項8に記載の発明は、レーザ発振器(100)が、励起光(14)を発する励起光源(12)と励起光(14)が入射されることによりレーザ光を発振する共振器(13)とを備えているレーザ点火装置、すなわち可飽和吸収体を用いたレーザ点火装置に関するものである。
そして、本発明では、この点火装置における共振器(13)を、励起されることにより光を放出するレーザ媒質(15)と、レーザ媒質(15)の入射側に設けられ、励起光(14)は透過し且つレーザ媒質(15)より放出された光は全反射するコーティング膜(19)と、レーザ媒質(15)より放出された光を入射し、その入射光パワーが大きいほど吸収が小さく、その入射光パワーが吸収飽和閾値を超えているときに透明である可飽和吸収体(16)と、可飽和吸収体(16)の出射側に設けられレーザ媒質(15)より放出された光の一部が透過し且つ残部が反射するミラー(17)とにより構成したことを特徴とする。
それによれば、レーザ媒質(15)の入射側にコーティング膜(19)を設けることで、レーザ媒質(15)内に入った励起光(14)をレーザ媒質(15)内で2回以上反射させることができるため、レーザ媒質(15)の長さを、従来よりも1/2以下まで短くできる。
よって、本発明によれば、結果的に、共振器長を短くすることができ、それによって、パルス幅の短縮を行いパワー密度の増大が図れ、低エネルギーのレーザでも安定したエンジンの着火性を実現することができる。
この構成において、レーザ媒質(15)の出射側に、励起光(14)を反射する反射膜(20)が設けられているものとすれば、レーザ媒質(15)内での励起光(14)の反射を、より促進できるため、レーザ媒質(15)の短縮化すなわち共振器長を短くするうえで好ましい。
また、この構成において、可飽和吸収体(16)としてセラミックCr:YAGを用いることで、Cr濃度を増大させて可飽和吸収体(16)の長さを短くし、共振器長を短くすることができる。
また、この構成において、レーザ媒質(15)と可飽和吸収体(16)とミラー(17)とを、密着して一体化すれば、共振器長を短くできる。
また、この構成において、可飽和吸収体(16)の出射側にミラーコーティングを施し、このミラーコーティングされた膜(21)をミラーとして機能させるようにすれば、可飽和吸収体(16)の出射側に施されたミラーコーティングが、ミラーの機能を果たすため、結果として、共振器長を短くすることができる。また、部品点数の削減、光軸ズレ防止、光軸あわせの簡素化も可能となる。
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るレーザ点火装置100を、混合気の着火、燃焼が行われる燃焼室201を有するエンジンのエンジンヘッド200に取り付けた状態を示す概略断面図である。本実施形態では、筒内直接噴射式自動車用エンジンへの適用について述べるが、混合気の着火、燃焼が行なわれる燃焼室を有するエンジンであれば、これに限定されない。
[構成等]
本実施形態のレーザ点火装置100は、大きくは、レーザ光L1を発振するレーザ発振器10と、このレーザ発振器10に対しレーザ光L1の発振を行うための電流(つまり、印加電流)を印加する電源20と、エンジンの運転状態を示すエンジン条件を検出するためのセンサ群31〜36と、このセンサ群31〜36から検出されたエンジン条件に基づいて電源20からの印加電流を制御する制御回路としてのECU30とを備えて構成されている。
レーザ発振器10は、その本体を区画形成するケース11を備えており、このケース11は、たとえば、樹脂、金属、セラミックなどから形成されている。
図1に示される例では、このレーザユニットケース11は、中空筒形状をなすものであり、その中空部においては上端側から、図2に示されるような励起光源12および光共振器13が収納されている。
図2は、上記電源20およびレーザ発振器10の内部構成を示す図である。このレーザ発振器10は、ECU30からの点火信号を受けた電源20から印加電流が印加されたとときに励起光を出射する励起光源12を備え、この励起光を光共振器13に入射させることにより光共振器13からレーザ光L1を発振するようになっている。
電源20は回路基板などからなるもので、励起光源12すなわちレーザ発振器10の駆動回路として構成されている。この電源20から発せられる印加電流は、上述したように、ECU30によって制御される。
具体的には、ECU30からの点火信号によって印加電流を発するタイミングが制御され、エンジン条件(たとえば、燃焼室201内の圧力など)に応じて印加電流の大きさが制御されるようになっている。
励起光源12は、半導体レーザやフラッシュランプなどからなるもので、上述したように、電源20からの駆動信号としての印加電流(パルス電流)が励起光源12に入力されることにより、励起光源12から励起光が出射される。
また、光共振器13は、ケース11の中空部において励起光源12の下方に収納固定されているもので、この光共振器13は、図示しないが、たとえば、レーザ媒質と受動Qスイッチ素子としての可飽和吸収体とを共振光路上に配置し、その両端部にミラーを配置してなる共振器として構成されたものにできる。
この場合、上記レーザ媒質は、励起されることにより光を放出するものであり、励起光源12から出射された励起光が入射することにより、励起されるようになっている。
また、上記可飽和吸収体は、入射する光のパワーが大きいほど吸収が小さいものであり、入射光パワーが吸収飽和閾値以下であるときには入射光を吸収するが、入射光パワーが吸収飽和閾値を超えているときには吸収が飽和して透明となる。可飽和吸収体は、このような性質が利用されて、受動Qスイッチ素子として用いられる。
そして、光共振器13は、上記可飽和吸収体が透明であるときに上記レーザ媒質より放出された光を共振させるとともに、その光の一部を上記可飽和吸収体より出射するものである。
この可飽和吸収体から出射されるレーザ光L1は、レーザ共振器10から発振されるレーザ光L1すなわち本実施形態のレーザ点火装置100から発振されるレーザ光L1である。
限定するものではないが、たとえば、本実施形態において、上記レーザ媒質はNd:YAG結晶であり、上記可飽和吸収体はCr:YAG結晶である。この場合、励起光源12としては、上記レーザ媒質に含まれるNdイオンを上準位に励起し得る波長810nm付近の励起光を出力する半導体レーザ光源が用いられる。
このように、本例のレーザ共振器10は、ケース11、励起光源12、光共振器13を有し、受動Qスイッチ素子としての上記可飽和吸収体を用いたレーザ光源を構成しているが、本実施形態のレーザ共振器10としては、駆動回路としての電源20からの信号すなわち印加電流信号によってレーザ光L1を発振するものであれば、これに限定されるものではない。
また、図示しないが、本実施形態のレーザ共振器10においては、ケース11内に、光共振器13から発振されたレーザ光L1を燃焼室201へ導くための各種の光学系が備えられている。
そのような光学系としては、たとえば、レーザ光L1の径を拡大して出射する機能を有するビームエキスパンダ、このビームエキスパンダからのレーザ光L1を集光する集光レンズなどが挙げられる。この集光レンズから出射されたレーザ光L1はエンジンヘッド200の燃焼室201へ導かれ所定の焦点位置203(図1参照)に集光する。
このように、本レーザ点火装置100は、燃焼室201内にて圧縮された混合気に対し、レーザ発振器10からのレーザ光L1を集光させることで混合気を着火させるようになっている。それにより、エンジンの点火が行われる。
このようなレーザ点火装置100においては、図1に示されるように、レーザ発振器10は、エンジンヘッド200における燃焼室201に達する取付穴204に挿入され、ネジ結合などにより取り付け固定されている。
また、本実施形態のレーザ点火装置100においては、電源20およびECU30、センサ群31〜36が、レーザ発振器10から発振されるレーザ光L1の出力エネルギーを制御するレーザ光発振制御手段20、30〜36として構成されている。なお、これら各部10、20、30〜36は配線により電気的に接続されている。
このレーザ光発振制御手段20、30〜36は、ECU30およびセンサ群31〜36によりエンジン条件を検出するとともに、このエンジン条件に基づいてECU30が電源20を制御し、電源20から発せられるレーザ発振器10への印加電流を制御するものである。それによりレーザ発振器10から発振されるレーザ光L1の出力エネルギーを制御するようにしている。
ここで、図1に示されるように、本実施形態のエンジンは、上記エンジンヘッド200の下部に設けられた燃焼室201、燃焼室201へ空気を吸入するためのインテークマニホルド205、燃焼室201から排気を行うためのエグゾーストマニホルド206、燃焼室201へ燃料ガス207を噴射するインジェクタ208、燃焼室201内の混合気を圧縮するためのピストン209を有しており、また、図示しない吸気バルブ、排気バルブを備える。
そして、燃焼室201では、燃料ガス207と空気とが混合された混合気に対して、レーザ発振器10から導かれたレーザ光L1が照射され、それによって、当該エンジンにおける燃焼を引き起こすことが可能になっている。
また、ECU30は、自動車のECUであり、エンジン条件などに基づいた各種の制御をするものであり、また、各センサ群31〜36は、自動車に一般的に搭載されているものである。
具体的に、これらセンサ群31〜36は、燃焼室201内の圧力を計測するための筒内圧センサ31、エンジンにおけるスロットバルブの開閉レベルを計測するためのスロットルセンサ32、エンジンへの吸入空気量を計測するための吸入空気量センサ33、インテークマニホルド(吸気管)内の圧力を計測するための吸気圧センサ34、EGR量を測定するためのEGRセンサ35、吸入空気温度を計測するための吸入空気温度センサ36などからなる。
そして、ECU30は、これら各種センサ群31〜36の信号からエンジン条件を求め、それに基づいて燃料ガス207の噴射量や点火信号を制御したり、燃焼室201内におけるレーザ光L1の焦点位置203およびその焦点位置203での点火エネルギー(すなわちレーザ光L1の強度)などを求める。
ここで、本実施形態では、エンジン条件として筒内圧センサ31などから燃焼室201内の圧力を算出するようにしている。
つまり、本実施形態のレーザ光発振制御手段20、30〜36においては、ECU30およびセンサ群31〜36により燃焼室201内の圧力を算出し、ECU30からは、算出された圧力情報および点火信号が電源20に送られ、それによって、電源20から発せられるレーザ発振器10への印加電流が制御されるようになっている。
[作動等]
次に、レーザ点火装置100の作動について説明する。まず、図1に示されるように、エンジンのエンジンヘッド200に対し、正規の取付位置にてレーザ点火装置100が取り付けられる。
続いて、ECU30にエンジンの運転状態を示すエンジン条件が入力される。ECU30は、このエンジン条件に基づき、燃焼室201内の圧力を算出するとともに、インジェクタ208からの燃料ガス207の噴射量を求め、点火信号を作成する。
この時、図示しない上記吸気バルブを介して吸入空気が燃焼室201内に導入される。そして、ECU30は、エンジン条件に応じてレーザ点火装置100から発振されるレーザ光L1の焦点の位置を決定する。
この後、ECU30は、インジェクタ208に燃料ガス207を噴射する信号を出力する。これを受けたインジェクタ208は、燃料ガス207を燃焼室201内に噴射する。この燃料噴射とほぼ同時期に、ECU30は、電源20に対して、上記算出された圧力情報および点火信号を出力する。
そして、上記図2に示されるように、この圧力情報および点火信号を受けた電源20から印加電流がレーザ発振器10へ入力される。
レーザ発振器10では、印加電流を受けた励起光源12からの励起光が、光共振器13内の上記レーザ媒質、Qスイッチとしての上記可飽和吸収体を通過した後、上記ミラーで反復を繰り返すことでエネルギーが増幅され、可飽和吸収体の飽和強度を超える強度になるとレーザ光L1が可飽和吸収体を透過し、レーザ光L1が発振される。
そして、図1に示されるように、光共振器13すなわちレーザ発振器10から発振されたレーザ光L1が燃焼室201の焦点位置203に導かれる。
このように、燃焼室201内において、インジェクタ208から燃料ガス207が噴射されてレーザ光L1が導かれると、レーザ光L1の焦点位置203において混合気が着火し、燃焼が起こる。そして、燃焼したガスは図示しない排気バルブを介して燃焼室201から排気される。上記燃料の燃焼は、ECU30によって繰り返し行われる。
[効果等]
ところで、本実施形態によれば、上述したように、混合気の着火、燃焼が行われる燃焼室201を有するエンジンに取り付けられ、電流を印加することによりレーザ光L1を発振するレーザ発振器10を備えており、燃焼室201内にて圧縮された混合気に対し、レーザ発振器10からのレーザ光L1を集光させ着火することにより点火を行うレーザ点火装置において、エンジンの運転状態を示すエンジン条件に基づいて、レーザ発振器10に印加する電流(印加電流)を制御することによりレーザ発振器10から発振されるレーザ光L1の出力エネルギーを制御することを特徴とするレーザ点火装置100を提供することができる。
本実施形態のレーザ点火装置100においては、レーザ発振器10は電流を印加することによりレーザ光L1を発振するものであり、このようなレーザ発振器10は、印加電流の大きさでレーザ光L1の出力エネルギーが変わるものである。
そのため、エンジン条件に基づいてレーザ発振器10への印加電流を制御することにより、本実施形態のレーザ点火装置100においては、エンジンの運転状況に応じた適切な発振制御が可能となる。
特に、エンジン条件として限定するものではないが、本実施形態のレーザ点火装置100では、エンジン条件として燃焼室201内の圧力を算出し、この算出された圧力に基づいてレーザ発振器10に印加する電流を制御することによりレーザ発振器10から発振されるレーザ光L1の出力エネルギーを制御するようにしている。
それによれば、エンジン条件である燃焼室201内の圧力に基づいて、レーザ発振器10への印加電流を制御することにより、エンジンの運転状況に応じた適切な発振制御が可能となる。
このような本実施形態のレーザ点火装置100による効果について、より具体的に説明する。
上述したが、本実施形態のレーザ点火装置100においては、レーザ発振器10を、上記図2に示されるような構成とすることにより、電源20からの印加電流が大きくなるにつれて多重発振が可能なものとしている。
図3は、電源20から出力される印加電流とレーザ発振器10から発振されるレーザ光L1の出力エネルギー(図3ではレーザ出力エネルギーと図示)との関係を示す図であり、この関係は本発明者らの実験的調査により求めたものである。この図3に示されるように、レーザ発振器10は、印加電流があるしきい値に達すると、レーザ光L1が多重発振し、出力エネルギーと発振期間が段階的に増えていく。
また、上述したが、本実施形態では、電源20から発せられる印加電流は、ECU30により算出された燃焼室201内の圧力に応じて、その大きさが制御されるようになっている。
図4は、燃焼室201内の圧力を変えた場合に、着火に必要な最小のレーザ出力エネルギーとの関係を示す図であり、この関係は本発明者らの実験的調査により求めたものである。この図4に示されるように、燃焼室201内の圧力が低いほど、レーザ光L1に要求される最小エネルギーは増加する。
そして、このような関係を利用し、本実施形態では、燃焼室201内の圧力に応じて励起光源12に印加する電源20からの印加電流を変えることで、適切なレーザ出力エネルギーを供給するようにし、それによって、すべての運転領域において、確実な着火と燃焼速度の向上を図るようにしている。
上記図4からわかるように、燃焼室201内の圧力が低いほど、混合気の着火を行うためにレーザ光L1の出力エネルギーを大きくする必要があり、燃焼室201内の圧力が高いほど、レーザ光L1の出力エネルギーを小さくしても当該混合気の着火を行えることがわかる。
そのため、本実施形態においては、燃焼室201内の圧力が低いほどレーザ発振器12への印加電流を大きくし、燃焼室201内の圧力が高いほどレーザ発振器12への印加電流を小さくすることができる。このことについて、図5に具体的に示す。
図5は、点火信号、印加電流、レーザ出力(レーザ光L1の出力形態)のタイミングチャートを示す図であり、(a)は高負荷時の場合、(b)は軽負荷時の場合をそれぞれ示す。ECU30から発せられる点火信号の立ち下がりに同期して、電源20から印加電流が発せられ、それを受けたレーザ発振器10からレーザ光L1が出力される。
たとえば、エンジンの高負荷時には燃焼室201内の圧力が高いため、点火に必要なレーザ出力エネルギーは比較的少なくてもよい。そこで、図5(a)に示されるように、励起光源12への印加電流を比較的小さくし、レーザを単発で発振させることで、着火を行うようにする。
一方、エンジンの軽負荷時には燃焼室201内の圧力が低いため、点火に必要なエネルギが増大する。そこで、図5(b)に示されるように、励起光源12への印加電流を高負荷時に比べて大きくし、レーザを多重発振させる。それにより、供給エネルギーと着火時間(レーザの発振時間)を増大させて、確実な着火を行なうようにする。
また、本実施形態のレーザ点火装置100においては、レーザ発振器10が、電源20からの印加電流が大きくなるにつれて多重発振が可能なものであることも特徴のひとつである。
このようにレーザ発振器10を多重発振させて発振期間を増大することで、レーザ光L1の集光位置203における混合気密度に時間的なばらつきがあっても、確実に着火させることができ、好ましい。
[変形例]
図6は、本実施形態の変形例における点火信号、印加電流、レーザ出力のタイミングチャートを示す図である。
この変形例では、1回の燃焼行程において、正規の点火時期にレーザ光L1の発振を行い点火を行った後に再度レーザ光を発振し燃焼を行うようにしている。図6に示される例では、多重点火を多数回行っている。
一般に、エンジン始動時および始動直後は運転性の確保のためにエンジンへの燃料供給量を増量する。そのため、レーザの発振を正規の点火時期のみ1回行った場合、この1回の燃焼で燃焼しない燃料が残存する可能性がある。
図6では、吸入、圧縮、膨張、排気という1回の燃焼行程の中で、TDC(上死点)近傍にて行う正規の点火時期において、レーザ発振させて主燃焼を行う。そして、燃焼行程の後半、本例では膨張行程において2回目のレーザ発振を行う。
このように、正規の点火時期だけでなく、燃焼行程の後半にも再度レーザを入射すると、主燃焼で燃焼しない燃料、すなわち正規の点火時期の後に残存する燃料やカーボンなどを燃焼させることができるため、排温が上昇し、排気浄化用触媒の早期活性化の促進が可能である。
このとき、図6に示されるように、燃焼行程後半では燃焼室201内の圧力が低下するため、その圧力に応じた点火エネルギーを供給するように、燃焼行程後半の印加電流は主燃焼よりも大きな印加電流を与えるように制御を行うことが好ましい。
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係るレーザ点火装置110をエンジンヘッド200に取り付けた状態を示す概略断面図である。
本実施形態のレーザ点火装置110も、燃焼室201を有するエンジンに取り付けられ、電流を印加することによりレーザ光L1を発振するレーザ発振器10を備えており、燃焼室201内にて圧縮された混合気に対し、レーザ発振器10からのレーザ光L1を集光させ着火することにより点火を行うレーザ点火装置において、エンジンの運転状態を示すエンジン条件に基づいて、レーザ発振器10に印加する電流(印加電流)を制御することによりレーザ発振器10から発振されるレーザ光L1の出力エネルギーを制御することを特徴とするものであることは上記実施形態と同様である。
それにより、エンジンの運転状況に応じた適切な発振制御が可能となることは、上記実施形態と同様である。
また、本実施形態のレーザ点火装置110においても、エンジン条件として燃焼室201内の圧力を算出し、この算出された圧力に基づいてレーザ発振器10に印加する電流を制御するようにしている。さらに、レーザ発振器10が、電源20からの印加電流が大きくなるにつれて多重発振が可能なものであることも、上記同様である。
ここにおいて、本実施形態のレーザ点火装置110においては、レーザ発振器10から点火時期の直前に点火用のレーザ光L1よりもエネルギーの小さい検出用のレーザ光を発振させることにより、点火用のレーザ光L1の集光位置203における混合気密度を検出し、検出された混合気密度に基づいてレーザ発振器10に印加する電流を制御するようになっていることを特徴としている。
つまり、本レーザ点火装置110は、上記実施形態のレーザ点火装置100と同様の構成を有することに加えて、さらに、上記検出用のレーザ光を発振させることによる混合気密度検出手段40〜42を付加したものである。
この混合気密度検出手段は、図7に示される例では、エンジンヘッド200に設けられ燃焼室201の焦点位置203が観察可能な窓部40、バンドパスフィルタ41、およびフォトディテクタ(光検出器)42により構成される。
レーザ発振器10から発振される検出用のレーザ光が、燃焼室201内の焦点位置203に導かれるが、このとき、この焦点位置203における散乱光強度が、窓部40からバンドパスフィルタ41を介して、フォトディテクタ42にて検出される。混合気密度により散乱光は変化するため、そのフォトディテクタ42からの検出信号が、ECU30に送られ、混合気密度の情報として、印加電流の制御に用いられる。
なお、バンドパスフィルタ41は、レーザの発光波長だけ通すものにすることで、燃焼室201内で乱反射した散乱光ノイズの除去、および過大な光量が入射することによるフォトディテクタ42の破損を防止するのに用いられる。
本実施形態のレーザ点火装置110による作用効果について、図8、図9を参照して具体的に説明する。図8は、本実施形態のレーザ点火装置110の作動説明図、図9は、本実施形態における印加電流、フォトディテクタ検出信号のタイミングチャートを示す図である。
まず、検出用レーザ光の発振を行う。ここでは、点火時期の直前に、ECU30からレーザ発振器10に発振信号を与え、点火用のレーザ光L1よりもエネルギーの小さい検出用のレーザ光を燃焼室201内の焦点位置203に発振する。このとき、印加電流を点火しないような低い値とする。
次に、焦点位置203における散乱光強度の検出を行う。レーザ発振器10から発光した検出用のレーザ光は、燃焼室201内の混合気で減衰し、窓部40、バンドパスフィルタ41を通して、フォトディテクタ42に到達する。このとき、レーザの散乱光は、混合気密度に比例して減衰し、弱くなる。
フォトディテクタ42は、光の入射エネルギー量に応じた信号を検出信号として出力するため、あらかじめ混合気密度とフォトディテクタ42の検出信号との関係を調べて求めておけば、焦点位置203における混合気密度を判定することができる(混合気密度の判定)。
ここで、雰囲気密度と着火に必要な最小のレーザ出力エネルギーとの関係は、上記図4に示されるような燃焼室201内の圧力と当該エネルギーとの関係と同様の関係となる。つまり、雰囲気密度と当該出力エネルギーとの関係上記図4において、横軸を混合気密度に置き換えたものとなり、燃焼室201内の混合気密度が低いほど、レーザ光L1に要求される最小エネルギーは増加する。
次に、印加電流の決定を行うが、ここでは、この混合気密度と上記出力エネルギーとの関係を用いることで、フォトディテクタ42の検出信号から、着火に必要な最小のレーザ出力エネルギーを求める。
そして、その求められた出力エネルギーに応じた印加電流を決定する。具体的には、検出された混合気密度が低いほどレーザ発振器10への印加電流を大きくし、検出された混合気密度が高いほどレーザ発振器10への印加電流を小さくする。
そして、点火用レーザ光の発振においては、点火時期に来たら、着火に必要な最小のレーザ出力エネルギー以上のエネルギーとなるように、レーザ発振器10に供給する印加電流を制御する。それにより、レーザ検出器10から点火用のレーザ光L1が発振され、点火が行われる。
たとえば、図9において(a)、(b)はそれぞれ、フォトディテクタ42の検出信号の出力が小さい場合、大きい場合を示すが、当該検出信号の出力が小さい場合は、混合気密度が大きく、着火に必要な最小のレーザ出力エネルギーは比較的小さいものとなるため、点火時期における印加電流も比較的小さくてよい(図9(a)参照)。
一方、当該検出信号の出力が大きい場合は、混合気密度が小さく、着火に必要な最小のレーザ出力エネルギーは比較的大きいものとなるため、点火時期における印加電流は比較的大きいものとなる(図9(b)参照)。
このように、本実施形態によれば、点火の前に、点火用のレーザ光の集光位置203における混合気密度を検出できるから、この検出された混合気密度に基づいて、レーザ発振器10に印加する電流をより精度よく制御することができる。
ここで、混合気密度検出手段は、図示例のように、エンジンヘッド200に設けられたものでなくてもよい。たとえば、フォトディテクタ42をレーザ発振器10のケース11内に設け、レーザ発振器10と一体化させてもよい。
その場合、ケース11に開口部を設け、その開口部からフォトディテクタ42が焦点位置203に臨むようにすれば、ガラスなどからなる窓部40を通さなくても、フォトディテクタ42による検出が可能となる。窓部40を通して検出を行うときには、窓部40の曇りなどによる検出精度の低下が懸念されるが、この場合には、そのような懸念は回避することができる。
なお、上記第1および第2の各実施形態に示されるレーザ点火装置以外にも、次にのべるような実施形態を提供することができる。
(1)の制御方法:混合気の着火、燃焼が行われる燃焼室201を有するエンジンに取り付けられ、電流を印加することによりレーザ光を発振するレーザ発振器10を備え、燃焼室201内にて圧縮された混合気に対し、レーザ発振器10からのレーザ光を集光させ着火することにより点火を行うレーザ点火装置の制御方法において、エンジンの運転状態を示すエンジン条件に基づいて、レーザ発振器10に印加する電流を制御することによりレーザ発振器10から発振されるレーザ光の出力エネルギーを制御することを特徴とするレーザ点火装置の制御方法。
(2)の制御方法:(1)に記載の制御方法において、エンジン条件として燃焼室201内の圧力を算出し、この算出された圧力に基づいてレーザ発振器10に印加する電流を制御することによりレーザ発振器10から発振されるレーザ光の出力エネルギーを制御することを特徴とするレーザ点火装置の制御方法。
(3)の制御方法:(1)または(2)に記載の制御方法において、燃焼室201内の圧力が低いほどレーザ発振器10に印加する電流を大きくし、燃焼室201内の圧力が高いほどレーザ発振器10に印加する電流を小さくすることを特徴とするレーザ点火装置の制御方法。
(4)の制御方法:(3)に記載の制御方法において、レーザ発振器10から点火時期の直前に点火用のレーザ光よりもエネルギーの小さい検出用のレーザ光を発振させることにより、点火用のレーザ光の集光位置203における混合気密度を検出し、検出された混合気密度に基づいてレーザ発振器10に印加する電流を制御するようになっていることを特徴とするレーザ点火装置の制御方法。
(5)の制御方法:(4)に記載の制御方法において、検出された混合気密度が低いほどレーザ発振器10に印加する電流を大きくし、検出された混合気密度が高いほどレーザ発振器10に印加する電流を小さくすることを特徴とするレーザ点火装置の制御方法。
(6)の制御方法:(1)〜(5)に記載の制御方法において、レーザ発振器10は、印加された電流が大きくなるにつれて多重発振が可能なものであることを特徴とするレーザ点火装置の制御方法。
(7)の制御方法:(1)〜(6)に記載の制御方法において、1回の燃焼行程において、正規の点火時期の後に再度レーザ光を発振し燃焼を行うようになっていることを特徴とするレーザ点火装置の制御方法。
また、エンジンとしては、混合気の着火、燃焼が行われる燃焼室を有するものであれば、自動車用エンジンに限定されない。
要するに、上記第1および第2実施形態および上記(1)〜(7)の各制御方法は、エンジンに取り付けられたレーザ発振器に電流を印加することによりレーザ光を発振させ、燃焼室内の混合気に集光させ着火することにより点火を行うレーザ点火装置において、エンジンの運転状態を示すエンジン条件に基づいて、レーザ発振器に印加する電流を制御することによりレーザ発振器から発振されるレーザ光の出力エネルギーを制御することを要部とするものであり、その他の部分については、適宜設計変更が可能である。
(第3実施形態)
図10は、本発明の第3実施形態に係るレーザ発振器としてのレーザ点火装置100を、混合気の着火、燃焼が行われる燃焼室201を有するエンジンのエンジンヘッド200に取り付けた状態を示す概略断面図である。
なお、図10では、筒内直接噴射式自動車用エンジンに対して適用した場合を示しているが、混合気の着火、燃焼が行なわれる燃焼室を有するエンジンであれば、これに限定されない。
また、図11は、図10中のレーザ点火装置100の詳細な概略断面図である。このレーザ点火装置100は、受動Qスイッチング技術を用いた半導体レーザ励起の固体レーザで構成されたレーザ発振器である。
レーザ点火装置100は、励起光14を発する励起光源12と励起光14が入射されることによりレーザ光L1を発振する共振器13とを備えている。共振器13は、ケース11に収納されており、このケース11は、たとえば、樹脂、金属、セラミックなどから形成されている。
このケース11は、図11に示されるような中空筒形状をなすものであり、その中空部に共振器13が収納されており、上端側から励起光源である半導体レーザ12からの励起光14が入射される構成となっている。
共振器13は、レーザ媒質15と、Qスイッチ素子である可飽和吸収体16と、さらにレーザの出射側に配置されたミラー17とで構成される。それぞれの部品は、平行度を調整するために隙間を空けて配置されており、平行度調整冶具18にて平行度が調整されている。
レーザ媒質15は、励起されることにより光を放出するものであり、励起光源である半導体レーザ12からの励起光14が入射することで、このレーザ媒質15が励起されるようになっている。
可飽和吸収体16は、入射する光のパワーが大きいほど吸収が小さいものであり、入射光パワーが吸収飽和閾値以下であるときには入射光を吸収するが、入射光パワーが吸収飽和閾値を超えたときには吸収が飽和して透明となる。
可飽和吸収体16は、このような性質を利用し、受動Qスイッチ素子として用いる。ミラー17においては、レーザ媒質15より放出された光の一部が透過し且つ残部が反射する機能を有するものである。
また、図2に示されるように、レーザ媒質15の入射側には、励起光14は透過し、レーザ媒質より放出された光は全反射するコーティング膜19が施されている。レーザ媒質15に施したコーティング膜19とミラー17にこのような機能を持たせることで、共振器13内で光を共振させるようになっている。
次に、レーザ点火装置100の作動について説明する。ECU202からの点火信号を受けた電源203から印加電流が印加されると、励起光源である半導体レーザ12から共振器13に励起光14が入射する。
この励起光14が入射し、レーザ媒質15の励起が開始された当初は、レーザ媒質15の反転分布は小さいので、レーザ媒質15より放出されて可飽和吸収体16に入射する光のパワーは小さい。それゆえ、レーザ媒質15の励起が開始された当初は、可飽和吸収体16は吸収が大きく不透明であるので、共振器13のQ値は小さく、レーザ発振は起きない。
共振器13のQ値が小さくレーザ発振していない期間もレーザ媒質15は励起され続けて、レーザ媒質15の反転分布は次第に大きくなっていき、レーザ媒質15より放出されて可飽和吸収体16に入射する光のパワーも次第に大きくなっていく。
やがて、レーザ媒質15より放出されて可飽和吸収体16に入射する光のパワーが吸収飽和閾値を超えると、可飽和吸収体16は吸収が急激に小さくなり(つまり透明になり)、共振器13のQ値は大きくなって、レーザ媒質15において誘導放出が急激に進み、その結果、レーザ発振が起きる。そして、出射されたパルスレーザ光L1をレンズなどによって混合気で満たされた燃焼室内201に集光させる。
そして、燃焼室201内の集光部204におけるレーザ光のエネルギー密度が、ある一定値以上に達すると、ブレイクダウンが引き起こされ、プラズマが生成し、その熱で着火する。
ところで、あらゆるエンジン条件で安定した着火を行うには、集光部204でのエネルギー密度を高め、確実にブレイクダウンを引き起こす必要がある。エネルギー密度を高めるには、レーザ出力を高めるか、集光範囲を狭めるか、レーザのパルス幅(照射時間)を短くする必要がある。
レーザ出力を高める場合、励起光14の強度を高めるなどの方法が考えられるが、半導体レーザ12の体格や投入電力が大きくなり、また半導体レーザ12およびレーザ媒質15から多量の熱が発生するため、大掛かりな冷却機構が必要である。
また、集光範囲を狭めた場合、プラズマから発生した火炎の伝播面積が少なくなり、安定した着火が得られない可能性がある。
そこで、本実施形態では、共振器長を短くし、レーザから出射されるレーザのパルス幅を、たとえば2ns以下まで短くすることで、パワー密度を高めて安定した着火を実現するようにしている。
上述したように、本実施形態では、励起光14は透過し且つレーザ媒質15より放出された光は全反射するコーティング膜19を、レーザ媒質15の入射側に設けることで、レーザ媒質15内に入った励起光14をレーザ媒質15内で2回以上反射させることができる。そのため、本実施形態では、レーザ媒質15の長さを、従来よりも1/2以下まで短くすることができる。
よって、本実施形態よれば、結果的に、共振器長を短くすることができ、それによって、パルス幅の短縮を行いパワー密度の増大が図れ、低エネルギーのレーザでも安定したエンジンの着火性を実現することができる。
また、本実施形態では、図11に示されるように、レーザ媒質15の出射側に、励起光14を反射する反射膜20が設けられている。それにより、レーザ媒質15内での励起光14の反射を、より促進できる。ため、レーザ媒質(15)の短縮化すなわち共振器長を短くするうえで好ましい。
このことについて、さらに述べるならば、通常、レーザ媒質15に入射した励起光14の一部はレーザ媒質15に吸収され、エネルギー準位を高めるのに使われるが、大部分がレーザ媒質15を透過し放出される。
そこで、レーザ媒質15の出射側に励起光14の反射膜20をコーティングすることで、レーザ媒質15内に励起光14を再度入射させることができる。これにより、励起光源12のエネルギーを増やすことなく励起強度を増大できる。
通常、レーザ媒質15を短縮すると励起光14の吸収効率が低下するが、上記手法によって励起光強度を増大させることで、レーザ出力を低下させることなく、レーザ媒質15の長さを約1/2に短縮することが可能である。
また、本実施形態においては、可飽和吸収体16にセラミックCr:YAGを用いて共振器長を短くすることも可能である。セラミックCr:YAGでは、Cr濃度を増大することができるため、同じ光透過率でも単結晶のCr:YAGに比べて厚みを薄くすることができる。
次に、本実施形態の変形例を述べておく。図12は、本実施形態の第1の変形例としてのレーザ点火装置の内部構成を示す図である。
図12に示されるように、通常は隙間を有するレーザ媒質15、可飽和吸収体16、ミラー17について、これら3者の間を隙間を空けずに、密着させて一体化することで、共振器長を短くする。
この場合、光共振器13を区画形成するケース11について、レーザ媒質15と可飽和吸収体16とミラー17との間の平行度の調整が必要ないように、加工精度を上げて作製し、レーザ媒質15、可飽和吸収体16、ミラー17を密着させて一体化することで共振器長を短くすることができる。
また、図13は、本実施形態の第2の変形例としてのレーザ点火装置の内部構成を示す図である。
図13に示される例では、可飽和吸収体16の出射側にミラーコーティングを行い、このミラーコーティングされた膜21をミラーとして機能させることで、共振器長を短縮化している。
このようにすれば、可飽和吸収体16の出射側に施された膜21、上記図11、図12に示されるようなミラー17の機能を果たす。つまり、本例では、この膜21が共振器13におけるミラー21に相当する。
そのため、本例では、別体のミラーの配置が不要となるため、結果として、共振器長を短くすることができる。また、別体のミラーの配置が不要となることに伴い、部品点数の削減、光軸ズレ防止、光軸あわせの簡素化も可能となる。
また、本発明者らの検討によれば、本実施形態のレーザ点火装置100において、レーザ媒質15にNd:YAGを用いた場合、共振器長を最短にするには、次のようなコーティングを各部に施すことが望ましい。
まず、レーザ媒質としてNd:YAGを用いた場合の当該レーザ媒質のコーティングについては、入射側に波長1064nmの光を99%以上反射するコーティングと励起光(たとえば波長808nmまたは885nmの光)を95%以上透過させるコーティングを施し、出射側に励起光を95%以上反射するコーティングと1064nmの光を95%以上透過するコーティングを実施する。
また、可飽和吸収体としてCr:YAGを用いた場合の当該可飽和吸収体の1064nmの光における透過率については、20〜50%の値となるように、Cr濃度または可飽和吸収体の厚みを調整する。
さらに、ミラーのコーティングについては、1064nmの光を50〜70%の値で反射するコーティングを実施する。それによって、1064nmの光を50〜70%の値で反射するミラー17を有するレーザ点火装置100が実現される。
なお、本第3実施形態において上述した各種のコーティング膜19、20、21は、たとえばシリコン酸化膜やチタンの酸化膜などを用いて、スパッタや蒸着などの成膜法にて形成することができる。
また、これらの膜についての反射や透過の度合の調整は、一般的な手法を採用することができ、たとえば膜を、上記シリコン酸化膜を積層した積層膜として構成し、その層の数や厚さなどを変えれば、当該調整が可能となる。
本発明の第1実施形態に係るレーザ点火装置をエンジンに取り付けた状態を示す概略断面図である。 電源およびレーザ発振器の内部構成を示す図である。 印加電流とレーザ出力エネルギーとの関係を示す図である。 燃焼室内の圧力と着火に必要なレーザ出力エネルギーとの関係を示す図である。 点火信号、印加電流、レーザ出力のタイミングチャートを示す図であり、(a)は高負荷時の場合、(b)は軽負荷時の場合をそれぞれ示す図である。 上記第1実施形態の変形例における点火信号、印加電流、レーザ出力のタイミングチャートを示す図である。 本発明の第2実施形態に係るレーザ点火装置をエンジンに取り付けた状態を示す概略断面図である。 上記第2実施形態のレーザ点火装置の作動説明図である。 上記第2実施形態における印加電流、フォトディテクタ検出信号のタイミングチャートを示す図である。 本発明の第3実施形態に係るレーザ点火装置をエンジンに取り付けた状態を示す概略断面図である。 図10中のレーザ点火装置の内部構成を示す概略断面図である。 上記第3実施形態の第1の変形例としてのレーザ点火装置の内部構成を示す概略断面図である。 上記第3実施形態の第2の変形例としてのレーザ点火装置の内部構成を示す概略断面図である。
符号の説明
10…レーザ発振器、12…励起光源としての半導体レーザ、
13…共振器、14…共振器からの励起光、
15…レーザ媒質、16…可飽和吸収体、
17…ミラー、19…コーティング膜、20…反射膜、
21…コーティングされた膜、100…レーザ点火装置、
200…エンジンヘッド、201…燃焼室、
203…焦点位置、L1…レーザ光。

Claims (12)

  1. 混合気の着火、燃焼が行われる燃焼室(201)を有するエンジンに取り付けられ、電流を印加することによりレーザ光を発振するレーザ発振器(10)を備えており、
    前記燃焼室(201)内にて圧縮された前記混合気に対し、前記レーザ発振器(10)からの前記レーザ光を集光させ着火することにより点火を行うレーザ点火装置において、
    前記エンジンの運転状態を示すエンジン条件に基づいて、前記レーザ発振器(10)に印加する電流を制御することにより前記レーザ発振器(10)から発振されるレーザ光の出力エネルギーを制御することを特徴とするレーザ点火装置。
  2. 前記エンジン条件として前記燃焼室(201)内の圧力を算出し、この算出された圧力に基づいて前記レーザ発振器(10)に印加する電流を制御することにより前記レーザ発振器(10)から発振されるレーザ光の出力エネルギーを制御することを特徴とする請求項1に記載のレーザ点火装置。
  3. 前記燃焼室(201)内の圧力が低いほど前記レーザ発振器(10)に印加する電流を大きくし、前記燃焼室(201)内の圧力が高いほど前記レーザ発振器(10)に印加する電流を小さくすることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ点火装置。
  4. 前記レーザ発振器(10)から点火時期の直前に点火用のレーザ光よりもエネルギーの小さい検出用のレーザ光を発振させることにより、前記点火用のレーザ光の集光位置(203)における混合気密度を検出し、検出された混合気密度に基づいて前記レーザ発振器(10)に印加する電流を制御するようになっていることを特徴とする請求項3に記載のレーザ点火装置。
  5. 前記検出された混合気密度が低いほど前記レーザ発振器(10)に印加する電流を大きくし、前記検出された混合気密度が高いほど前記レーザ発振器(10)に印加する電流を小さくすることを特徴とする請求項4に記載のレーザ点火装置。
  6. 前記レーザ発振器(10)は、印加された電流が大きくなるにつれて多重発振が可能なものであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載のレーザ点火装置。
  7. 1回の燃焼行程において、正規の点火時期の後に再度レーザ光を発振し燃焼を行うようになっていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載のレーザ点火装置。
  8. 混合気の着火、燃焼が行われる燃焼室(201)を有するエンジンに取り付けられ、電流を印加することによりレーザ光を発振するレーザ発振器(100)を備え、
    前記レーザ発振器(100)は、励起光(14)を発する励起光源(12)と前記励起光(14)が入射されることにより前記レーザ光を発振する共振器(13)とを備えているレーザ点火装置において、
    前記共振器(13)は、励起されることにより光を放出するレーザ媒質(15)と、
    前記レーザ媒質(15)の入射側に設けられ、前記励起光(14)は透過し且つ前記レーザ媒質(15)より放出された光は全反射するコーティング膜(19)と、
    前記レーザ媒質(15)より放出された光を入射し、その入射光パワーが大きいほど吸収が小さく、その入射光パワーが吸収飽和閾値を超えているときに透明である可飽和吸収体(16)と、
    前記可飽和吸収体(16)の出射側に設けられ前記レーザ媒質(15)より放出された光の一部が透過し且つ残部が反射するミラー(17)とにより構成されていることを特徴とするレーザ点火装置。
  9. 前記レーザ媒質(15)の出射側には、前記励起光(14)を反射する反射膜(20)が設けられていることを特徴とする請求項8に記載のレーザ点火装置。
  10. 前記可飽和吸収体(16)は、セラミックCr:YAGよりなることを特徴とする請求項8または9に記載のレーザ点火装置。
  11. 前記レーザ媒質(15)と前記可飽和吸収体(16)と前記ミラー(17)とを、密着して一体化することを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1つに記載のレーザ点火装置。
  12. 前記可飽和吸収体(16)の出射側にミラーコーティングを施し、このミラーコーティングされた膜(21)を前記ミラーとして機能させることを特徴とする請求項8ないし11のいずれか1つに記載のレーザ点火装置。
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