JP2006320974A - 合金鋼の高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆高速度工具鋼製歯切工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 高速度工具鋼で構成された歯切工具本体の表面に、(a)いずれも(Cr,Al,Si)Nからなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの層厚をそれぞれ有し、(b)上記上部層は、いずれも5〜20nm(ナノメ−タ−)の層厚を有する薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、上記薄層Aは、組成式:(Cr1-(A+B)AlASiB)Nを満足する(Cr,Al,Si)N層、上記薄層Bは、組成式:(Cr1-(C+D)AlCSiD)Nを満足する(Cr,Al,Si)N層、からなり、(c)上記下部層は、単一相構造を有し、組成式:(Cr1-(E+F)AlESiF)Nを満足する(Cr,Al,Si)N層、からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる。
【選択図】 なし
Description
従来、一般に自動車や航空機、さらに各種駆動装置などの構造部材として各種歯車が用いられ、これら歯車の歯形の歯切加工に、ソリッドホブ(例えば図3の概略斜視図参照)やピニオンカッタ(例えば図4の概略斜視図参照)、さらにシェービングカッタなどの歯切工具が用いられている。
また、被覆歯切工具として、例えば図3や図4に示される形状に機械加工された高速度工具鋼で構成された歯切工具本体を基体とし、この基体の表面に、組成式:(Al1-(X+Y)CrX SiY)N(ただし、原子比で、Xは0.20〜0.75、Yは0.01〜0.30を示す)を満足するCr,Al及びSiを主成分とする複合窒化物層からなる硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆歯切工具が提案され、前記硬質被覆層を構成する複合窒化物層は、優れた耐摩耗性を備えることが知られている。
さらに、上記の被覆歯切工具が、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の基体を装入し、ヒータで装置内を、例えば雰囲気を2Paの真空雰囲気として、400℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と所定組成を有するCr−Al−Si合金がセットされたカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電圧:35V、電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記基体(歯切工具本体)には、例えば−200Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記基体の表面に、上記(CrAl,Si)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより製造されることも知られている。
近年の歯切加工装置の高性能化はめざましく、一方で歯切加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、歯切加工は高速化の傾向にあるが、上記従来の被覆歯切工具においては、これを通常の歯切加工条件で用いた場合には大きな問題はないが、これを高い発熱を伴う合金鋼等の高速歯切加工条件で用いた場合には、耐欠損性、耐摩耗性はまだ十分とはいえず、欠損(カケ、チッピング)の発生により、あるいは、硬質被覆層の摩耗進行により、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐欠損性、耐摩耗性を発揮する被覆歯切工具を開発すべく、上記従来の被覆歯切工具を構成する硬質被覆層に着目し、研究を行った結果、
(a)硬質被覆層を構成するCrとAlとSiの複合窒化物[以下、(Cr,Al,Si)Nで示す]層の成分であるSiの含有割合を多くすれば層の耐熱塑性変形性が向上するようになるが、その含有割合は精々1〜10原子%程度までで、これ以上含有させると、Al成分の含有割合が45〜65原子%であることと相俟って、Cr成分の含有割合が低下するようになることから、上記の従来の(Cr,Al,Si)N層の具備する特性のうち、特に高温強度が低下し、その結果、耐欠損性に劣るものとなる。一方、所定の高温強度を確保し得る程度に十分な量のCr成分を含有させようとすれば、この場合Al成分の含有割合はきわめて低い状態となるのが避けられず、そうすると、硬質被覆層の高温硬さは低いものとなること。
(b)上記(a)の(Cr,Al,Si)N層に比して、Si含有割合をきわめて高く、一方Si成分の含有割合を高めた分、Al含有割合を低くして、
組成式:[Cr1-(A+B)AlASiB]N(ただし、原子比で、Aは0.01〜0.10、Bは0.35〜0.50を示す)を満足するものとし、もってAl成分の低含有によって高温硬さおよび高温耐酸化性は不十分となるが、高Si含有によって耐熱塑性変形性を一段と向上せしめた(Cr,Al,Si)N層(以下、薄層Aという)と、
上記薄層Aに比して、相対的にAl含有割合を相対的に高く、一方Si含有割合を相対的に低くして、
組成式:[Cr1-(C+D)AlCSiD]N(ただし、原子比で、Cは0.20〜0.35、Dは0.15〜0.30を示す)を満足するものとし、もって前記薄層Aに比して、低Si含有で相対的に耐熱塑性変形性は低いものとなるが、Al含有割合を相対的に高くした分高い高温硬さおよび高温耐酸化性を有する(Cr,Al,Si)N層(以下、薄層Bという)、
を、それぞれの一層平均層厚を5〜20nm(ナノメーター)の薄層とした状態で、交互積層すると、この結果の薄層Aおよび薄層Bの交互積層構造の(Cr,Al,Si)N層(この場合、前記薄層Aおよび薄層Bとも35原子%以上のCr成分を含有するので、高い高温強度を保持する)においては、上記の高Si含有の薄層Aによるすぐれた耐熱塑性変形性と、上記の相対的に高いAl含有の薄層Bによる高温硬さおよび高温耐酸化性を具備するようになること。
(c)上記(b)の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有する(Cr,Al,Si)N層は、合金鋼の高速歯切加工で要求される、すぐれた耐熱塑性変形性および高温強度を有するが、前記薄層Aおよび薄層Bとも相対的にAl成分の含有割合が低いので、十分満足する高温硬さおよび高温耐酸化性を具備するものではなく、一方上記(a)の(Cr,Al,Si)N層、すなわち、
組成式:[Cr1-(E+F)AlESiF]N(ただし、原子比で、Eは0.45〜0.65、Fは0.01〜0.10を示す)を満足する単一相構造の(Cr,Al,Si)N層は、合金鋼の高速歯切加工で要求される十分な耐熱塑性変形性を具備するものではないが、Al成分の高含有によってすぐれた高温硬さおよび高温耐酸化性を具備するので、これを上記の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有する(Cr,Al,Si)N層の下部層として硬質被覆層を構成すると、この結果の硬質被覆層は、すぐれた耐熱塑性変形性および高温強度、さらにすぐれた高温硬さおよび高温耐酸化性を備えたものとなるので、この硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆歯切工具は、上記の高熱発生を伴う合金鋼の高速歯切加工でも、偏摩耗の原因となる熱塑性変形の発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮すること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(a)いずれも(Cr,Al,Si)Nからなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの平均層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも一層平均層厚が5〜20nm(ナノメ−タ−)の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:[Cr1-(A+B)AlASiB]N(ただし、原子比で、Aは0.01〜0.10、Bは0.35〜0.50を示す)を満足する(Cr,Al,Si)N層、
上記薄層Bは、
組成式:[Cr1-(C+D)AlCSiD]N(ただし、原子比で、Cは0.20〜0.35、Dは0.15〜0.30を示す)を満足する(Cr,Al,Si)N層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:[Cr1-(E+F)AlESiF]N(ただし、原子比で、Eは0.45〜0.65、Fは0.01〜0.10を示す)を満足する(Cr,Al,Si)N層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる、合金鋼の高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する被覆歯切工具に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆歯切工具の硬質被覆層に関し、上記の通りに数値限定した理由を説明する。
(a)下部層の組成式および平均層厚
上記の通り、硬質被覆層を構成する(Cr,Al,Si)N層におけるAl成分には高温硬さ、同Cr成分には高温強度を向上させると共に、AlおよびCrが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させ、さらに同Si成分には耐熱塑性変形性を向上させる作用があり、下部層ではAl成分の含有割合を相対的に多くして、高い高温硬さおよび高温耐酸化性を維持するが、Alの含有割合を示すE値がCrとSiとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.45未満では、所望のすぐれた高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができず、摩耗進行が急激に促進するようになり、一方Alの割合を示す同E値が同0.65を越えると、高温強度が急激に低下し、この結果チッピング、微少欠けなどの欠損が発生し易くなることから、E値を0.45〜0.65と定めた。
上部層の薄層Aの(Cr,Al,Si)NにおけるSi成分には、上記の通り相対的にその含有割合を高くして、耐熱塑性変形性を向上させ、もって高熱発生を伴う高硬度鋼の高速切削加工で偏摩耗の原因となる熱塑性変形の発生を防止する作用があるが、その含有割合を示すB値がCrとAlの合量に占める割合で、0.35未満では前記作用に所望のすぐれた効果を確保することができず、一方同B値が0.50を越えると、隣接して相対的に高温硬さおよび高温耐酸化性のすぐれた薄層Bが存在しても、上部層の高温硬さおよび高温耐酸化性の低下は避けられず、摩耗が促進するようになることから、B値を0.35〜0.50と定めた。
上部層の薄層Bにおいては、Si成分の含有割合を相対的に低くし、Al成分の含有割合を高く維持することで、相対的に高い高温硬さおよび高温耐酸化性を具備せしめ、隣接する薄層Aの高温硬さおよび高温耐酸化性の不足を補強し、もって、前記薄層Aの有するすぐれた耐熱塑性変形性と、前記薄層Bの有する高温硬さおよび高温耐酸化性を具備した上部層を形成するものであるが、組成式におけるAlの含有割合を示すC値が0.20未満では、所望の高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができず、摩耗進行が促進するようになり、一方同C値が0.35を越えると、上部層全体の高温強度が低下するようになり、欠損発生の原因となることから、C値を0.20〜0.35と定めた。
それぞれの一層平均層厚が5nm未満ではそれぞれの薄層を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果上部層に所望のすぐれた耐熱塑性変形性および所定の高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができなくなり、またそれぞれの一層平均層厚が20nmを越えるとそれぞれの薄層がもつ欠点、すなわち薄層Aであれば高温硬さおよび高温耐酸化性不足、薄層Bであれば耐熱塑性変形性不足が層内に局部的に現れ、これが原因で欠損が発生し易くなったり、摩耗進行が促進されるようになることから、それぞれの一層平均層厚を5〜20nmと定めた。
その平均層厚が0.5μm未満では、自身のもつすぐれた耐熱塑性変形性および高温硬さを硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が1.5μmを越えると、欠損が発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜1.5μmと定めた。
つぎに、この発明の被覆歯切工具を実施例により具体的に説明する。
歯切工具本体として、材質がJIS・SKH55および同SKH51の高速度工具鋼からなる直径:110mm×長さ:170mmの寸法をもった素材から、機械加工にて外径:108mm×長さ:160mmの全体寸法をもち、かつ3条右捩れ×12溝の形状をもった図3に概略斜視図で示されるソリッドホブを製造した。
(a)ついで、上記の2種の材質の歯切工具本体(ソリッドホブ)を基体とし、これらの基体のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、一方側のカソード電極(蒸発源)として、それぞれ表1に示される目標組成に対応した成分組成をもった上部層の薄層A形成用Cr−Al−Si合金、他方側のカソード電極(蒸発源)として、同じくそれぞれ表1に示される目標組成に対応した成分組成をもった表面層の薄層B形成用Cr−Al−Si合金を前記回転テーブルを挟んで対向配置し、また前記両Cr−Al−Si合金から90度ずれた位置に前記回転テーブルに沿ってカソード電極(蒸発源)として下部層形成用Cr−Al−Si合金を装着し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を400℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する歯切工具本体基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Cr−Al−Si合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって歯切工具本体基体表面を前記Cr−Al−Si合金によってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する歯切工具本体基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Cr−Al−Si合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記歯切工具本体基体の表面に、表1に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Cr,Al,Si)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する歯切工具本体基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、前記薄層A形成用Cr−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記歯切工具本体基体の表面に所定層厚の薄層Aを形成し、前記薄層A形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層B形成用Cr−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Bを形成した後、アーク放電を停止し(この場合薄層Bの形成から開始してもよい)、再び前記薄層A形成用Cr−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成と、前記薄層B形成用Cr−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成を交互に繰り返し行い、もって前記歯切工具本体基体の表面に、層厚方向に沿って表1に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表1に示される全体目標層厚で蒸着形成することにより、本発明被覆歯切工具1〜6をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記の2種類の材質の基体(歯切工具本体)を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、カソード電極(蒸発源)として、それぞれ表2に示される目標組成に対応した成分組成をもったCr−Al−Si合金を装着し、まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を400℃に加熱した後、前記歯切工具本体基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Cr−Al−Si合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって歯切工具本体基体表面を前記Cr−Al−Si合金でボンバード洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記歯切工具本体基体に印加するバイアス電圧を−100Vに下げて、前記Cr−Al−Si合金のカソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記歯切工具本体基体の表面に、表2に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Cr,Al,Si)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、被覆歯切工具1〜6(以下、比較被覆歯切工具1〜6と云う)をそれぞれ製造した。
つぎに、上記の本発明被覆歯切工具1〜6および比較被覆歯切工具1〜6を用いて、材質がJIS・SCr420Hの低合金鋼にして、モジュール:2.5、圧力角:20度、歯数:28、ねじれ角:25度左捩れ、歯幅:50mmの寸法および形状をもった歯車の加工を、
切削速度(回転速度):220m/min、
送り:2.0mm/rev、
加工形態:クライム、シフトなし、ドライ(エアーブロー)、
の条件で高速ドライ歯切加工(上記の材質がJIS・SCr420Hの低合金鋼歯車の加工の場合の切削速度は通常120m/min)で行い、
逃げ面摩耗幅が0.2mmに至るまでの歯車加工数を測定した。この測定結果を表1,2それぞれに示した。
また、歯切工具本体として、同じく材質がJIS・SKH55および同SKH51の高速度工具鋼からなる外径:110mm×厚さ:20mmの寸法をもった素材から、機械加工にてピッチ円直径:105mm×厚さ:18mmの全体寸法をもち、かつカッタ歯数:44の形状をもった図4に概略斜視図で示されるディスク型ピニオンカッタ(JIS・B・4356記載の100形)を製造した。
つぎに、上記の本発明被覆歯切工具7〜12および比較被覆歯切工具7〜12を用いて、材質がJIS・SCr420Hの低合金鋼にして、モジュール:2.25、圧力角:20度、歯数:44、歯幅:20mmの寸法および形状をもった歯車の加工を、
ストローク数:900ストローク/min、
円周送り:0.5mm/ストローク、
半径送り:0.015mm/ストローク、
の条件で高速歯切加工(上記の材質がJIS・SCr420Hの低合金鋼歯車の加工の場合のストローク数は通常600ストローク/min)で行い、逃げ面摩耗幅が0.2mmに至るまでの歯車加工数を測定した。この測定結果を表1,2にそれぞれ示した。
また、上記の硬質被覆層の構成層の平均層厚を透過型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表1,2に示される結果から、本発明被覆歯切工具は、いずれも硬質被覆層がそれぞれ組成の異なる、(Cr,Al,Si)Nからなる単一相構造の下部層と、層厚がそれぞれ5〜20nmの薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有する上部層で構成することによってすぐれた耐熱塑性変形性と所定の高温硬さ、高温強度および高温耐酸化性を具備せしめ、同単一相構造の下部層がすぐれた高温硬さおよび高温耐酸化性を有することから、特に高熱発生を伴なう合金鋼の高速歯切加工でも、硬質被覆層がすぐれた耐欠損性、耐熱塑性変形性を発揮し、この結果切刃部に欠損の発生はなく、また、偏摩耗の原因となる熱塑性変形の発生もなく、切刃部は正常摩耗形態をとり、欠損の発生もなくすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。
上述のように、この発明の被覆歯切工具は、通常の条件での歯切加工は勿論のこと、特に各種の合金鋼製歯車などの歯切加工を、高い発熱を伴う高速歯切加工条件で行なった場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性、耐欠損性を発揮し、長期に亘ってすぐれた性能を示すものであるから、歯切加工装置の高性能化、並びに歯切加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 高速度工具鋼で構成された歯切工具本体の表面に、
(a)いずれもCrとAlとSiの複合窒化物からなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも5〜20nm(ナノメ−タ−)の層厚を有する薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:(Cr1-(A+B)AlASiB)N(ただし、原子比で、Aは0.01〜0.10、Bは0.35〜0.50を示す)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層、
上記薄層Bは、
組成式:(Cr1-(C+D)AlCSiD)N(ただし、原子比で、Cは0.20〜0.35、Dは0.15〜0.30を示す)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:(Cr1-(E+F)AlESiF)N(ただし、原子比で、Eは0.45〜0.65、Fは0.01〜0.10を示す)を満足するCrとAlとSiの複合窒化物層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなること、
を特徴とする合金鋼の高速歯切加工で硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮する表面被覆高速度工具鋼製歯切工具。
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