以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
[原料]
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(1)〜(3)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(1)〜(3)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(1) 2.5≦A+B≦3.0
(2) 0≦A≦3.0
(3) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液、分散液を意味している。
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
[ドープ製造方法]
上記原料を用いて、まずドープを製造する。図1にドープ製造ライン10を示す。ドープ製造ライン10には、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、溶媒とTACなどとを混合するための溶解タンク12と、TACを供給するためのホッパ13と、添加剤を貯留するための添加剤タンク14とが備えられている。さらに、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置15と、調製されたドープの温度を調整する温調機16と、濾過装置17とを備えている。さらに、調製されたドープを濃縮するフラッシュ装置30、濾過装置31なども備えられている。また、溶媒を回収するための回収装置32と、回収された溶媒を再生するための再生装置33とが備えられている。そして、このドープ製造ライン10は、ストックタンク41を介してフイルム製造ライン40と接続されている。
上記ドープ製造ライン10を用いて以下の方法でドープが製造される。まず始めに、バルブ18が開かれて、溶媒が溶媒タンク11から溶解タンク12に送られる。次にホッパ13に入れられているTACが、計量されながら溶解タンク12に送り込まれる。また、添加剤溶液は、バルブ19の開閉操作により必要量が添加剤タンク14から溶解タンク12に送り込まれる。
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンク12に送り込むことが可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパなどを用いて溶解タンク12に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク14の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、多数の添加剤タンクを用いてそれぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により溶解タンク12に送り込むこともできる。
前述した説明においては、溶解タンク12に入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、TAC、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、TACを計量しながら溶解タンク12に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク12に予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープと称する場合がある)に混合させることもできる。
溶解タンク12には、図1に示すようにその外面を包み込むジャケット20と、モータ21により回転する第1攪拌機22とが備えられている。さらに、図1に示すように溶解タンク12には、モータ23により回転する第2攪拌機24が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌機22は、アンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機24は、ディゾルバータイプの偏芯型撹拌機であることが好ましい。そして、溶解タンク12には、ジャケット20の内部に伝熱媒体を流すことにより温度調整されており、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。第1攪拌機22,第2攪拌機24のタイプを適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液25を得る。
次に、膨潤液25は、ポンプ26により加熱装置15に送られる。加熱装置15は、ジャケット付き配管であることが好ましく、さらに、膨潤液25を加圧することができる構成のものが好ましい。このような加熱装置15を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で膨潤液25中の固形分を溶解させてドープ27を得る。以下、この方法を加熱溶解法と称する。なお、この場合に膨潤液25の温度は、50℃〜120℃であることが好ましい。また、膨潤液25を−100℃〜−30℃の温度に冷却する冷却溶解法を行うこともできる。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでTACを溶媒に充分溶解させることが可能となる。ドープ27を温調機16により略室温とした後に、濾過装置17により濾過してドープ27中に含まれる不純物を取り除く。濾過装置17に使用される濾過フィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/hr以上であることが好ましい。濾過後のドープ27は、バルブ28を介してフイルム製造ライン40中のストックタンク41に送られここに貯留される。
ところで、上記のように、一旦膨潤液25を調製し、その後にこの膨潤液25をドープ27とする方法は、TACの濃度を上昇させるほど要する時間が長くなり、製造コストの点で問題となる場合がある。その場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを調製し、その後に目的の濃度とするための濃縮工程を行うことが好ましい。このような方法を用いる際には、濾過装置17で濾過されたドープをバルブ28を介してフラッシュ装置30に送り、このフラッシュ装置30内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示しない)により凝縮されて液体となり回収装置32により回収される。回収された溶媒は再生装置33によりドープ調製用の溶媒として再生されて再利用される。この再利用はコストの点で効果がある。
また、濃縮されたドープ27は、ポンプ34によりフラッシュ装置30から抜き出される。さらに、ドープ27に発生した気泡を抜くために泡抜き処理が行われることが好ましい。この泡抜き方法としては、公知の種々の方法が適用され、例えば超音波照射法が挙げられる。ドープ27は続いて濾過装置31に送られて、異物が除去される。なお、濾過の際のドープ27の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。そしてドープ27はストックタンク41に送られ、貯蔵される。
以上の方法により、TAC濃度が5質量%〜40質量%であるドープ27を製造することができる。より好ましくはTAC濃度が15質量%以上30質量%以下であり、最も好ましくは17質量%以上25質量%以下の範囲とすることである。また、添加剤(主には可塑剤である)の濃度は、ドープ中の固形分全体を100質量%とした場合に1質量%以上20質量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、TACフイルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
[溶液製膜方法]
次に、上記で得られたドープ27を用いてフイルムを製造する方法を説明する。図2はフイルム製造ライン40を示す概略図である。ただし、本発明は、図2に示すようなフイルム製造ラインに限定されるものではない。フイルム製造ライン40には、ストックタンク41、濾過装置42、流延ダイ43、回転ローラ44,45に掛け渡された流延バンド46及びテンタ式乾燥機47などが備えられている。さらに耳切装置50、乾燥室51、冷却室52及びフイルム巻取装置(以下、単に巻取装置という)53などが配されている。
ストックタンク41には、モータ60で回転する攪拌機61が取り付けられている。そして、ストックタンク41は、ポンプ62及び濾過装置42を介して流延ダイ43と接続している。
流延ダイ43の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものも、この流延ダイ43の材質として用いることができ、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ43を作製することが好ましい。これにより流延ダイ43内をドープ27が一様に流れ、後述する流延膜にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ43の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ43のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ43のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ43内部における剪断速度が1(1/sec)〜5000(1/sec)となるように調整されていることが好ましい。
流延ダイ43の幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフイルムの幅の1.01倍〜1.3倍であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ43に温調機を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ43にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ43の幅方向において所定の間隔で設け、ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ43に備えられていることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)62の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フイルム製造ライン40中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて製品フイルムの幅方向の任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値と最大値との差が3μm以下となるように調整することが好ましく、2μm以下に調整することがより好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
流延ダイ43のリップ先端には、硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ43と密着性が良く、ドープとの密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al2 O3 、TiN、Cr2 O3などが挙げられるが、なかでも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
流延ダイ43のスリット端に流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。この場合には、ドープを可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部、アセトン13質量部、n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒)を流延ビードの両端部、ダイスリット端部及び外気が形成する三相接触線の周辺部付近に供給することが好ましい。また、端部の片側それぞれに0.1mL/min〜1.0mL/minで供給することが、流延膜中への異物混合を防止するために好ましい。なお、この液を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
流延ダイ43の下方には、回転ローラ44,45に掛け渡された流延バンド46が設けられている。回転ローラ44,45は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド46は無端で走行する。流延バンド46は、その移動速度、すなわち流延速度が10m/分〜200m/分で移動できるものであることが好ましい。また、流延バンド46の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ44,45に伝熱媒体循環装置63が取り付けられていることが好ましい。流延バンド46は、その表面温度が−20℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。本実施形態において用いられている回転ローラ44,45内には伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ44,45の温度が所定の値に保持される。
流延バンド46の幅は特に限定されるものではないが、ドープ27の流延幅の1.05倍〜1.5倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは50m〜150m、厚みは1mm〜5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。流延バンド46は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド46の全体の厚みムラは0.5%以下のものを用いることが好ましい。
なお、回転ローラ44,45を直接支持体として用いることも可能である。この場合には、回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましく、また、回転ローラ44,45の表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そこで、回転ローラの表面にクロムメッキ処理などを行い、十分な硬度と耐久性を持たせる。なお、支持体(流延バンド46や回転ローラ44,45)の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2 以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下であることが好ましい。
流延ダイ43、流延バンド46などは流延室64に収められている。流延室64には、その内部温度を所定の値に保つための温調設備65と、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)66とが設けられている。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置67が流延室64の外部に設けられている。また、流延ダイ43から流延バンド46にかけて形成される流延ビードの背面部を圧力制御するための減圧チャンバ68が配されていることが好ましく、本実施形態においてもこれを使用している。
流延膜69中の溶媒を蒸発させるため送風口70,71,72が流延バンド46の周面近くに設けられている。また、流延直後の流延膜69に乾燥風が吹き付けられることによる流延膜69の面状変動を抑制するため流延ダイ43近傍の送風口70には遮風板73が設けられていることが好ましい。
渡り部80には、送風機81が備えられ、テンタ式乾燥機47の下流の耳切装置50には、切り取られたフイルム82の側端部(耳と称される)の屑を細かく切断処理するためのクラッシャ90が接続されている。
乾燥室51には、多数のローラ91が備えられており、蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置92が取り付けられている。そして、図2においては、乾燥室51の下流に冷却室52が設けられているが、乾燥室51と冷却室52との間に調湿室(図示しない)を設けても良い。また、この冷却室52の下流には、フイルム82の両縁にエンボス加工でナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ94が配置されている。
ナーリング付与ローラ94の下流には耳切装置95が配置されている。この耳切装置95は、図示しないエッジ位置コントローラでフイルム82の両縁位置を調整しながら行うオシレート切りでナーリングが付与されたフイルム82の両縁の余分な部分を切断除去する。なお、この耳切装置95にも上述のクラッシャ90が接続されているが、図面の煩雑化を防ぐため図示は省略している。また、巻取装置53は、本発明を実施したものであり、詳しくは後述するが連続的に搬送されてくるフイルム82を連続巻き取りできるように、本実施形態では2軸ターレット方式の巻取装置が用いられている。
次に、以上のようなフイルム製造ライン40を使用してフイルム82を製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ27は、攪拌機61の回転により常に均一化されている。ドープ27には、この攪拌の際にも可塑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を混合させることもできる。
ドープ27は、ポンプ62により濾過装置42に送られてここで濾過された後に、流延ダイ43から流延バンド46上に流延される。回転ローラ44,45の駆動は、流延バンド46に生じるテンションが104 N/m〜105 N/mとなるように調整されることが好ましい。また、流延バンド46と回転ローラ44,45との相対速度差は、0.01m/min以下となるように調整する。流延バンド46の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド46が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。この蛇行を制御するために流延バンド46の両端の位置を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づき流延バンド46の位置制御機(図示しない)にフィードバック制御を行い、流延バンド46の位置の調整を行うことがより好ましい。さらに、流延ダイ43直下における流延バンド46について、回転ローラ55の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。また、流延室64の温度は、温調設備65により−10℃〜57℃とされていることが好ましい。なお、流延室64の内部で蒸発した溶媒は回収装置67により回収された後に、再生させてドープ調製用溶媒として再利用される。
流延ダイ43から流延バンド46にかけては流延ビードが形成され、流延バンド46上には流延膜69が形成される。流延時のドープ27の温度は、−10℃〜57℃であることが好ましい。また、流延ビードを安定させるために、この流延ビードの背面が減圧チャンバ68により所望の圧力値に制御されることが好ましい。ビード背面は、前面よりも−2000Pa〜−10Paの範囲で減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ68にはジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制御されることが好ましい。減圧チャンバ68の温度は特に限定されるものではないが、用いられている有機溶媒の凝縮点以上にすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために流延ダイ43のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けることが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/min〜100L/minの範囲であることが好ましい。
流延膜69は、流延バンド46の走行とともに移動し、このときに送風口70,71,72により流延膜69に乾燥風があてられて溶媒の蒸発が促進される。そして、この乾燥風の吹き付けにより流延膜69の面状が変動することがあるが、遮風板73がこの変動を抑制している。なお、流延バンド46の表面温度は、−20℃〜40℃であることが好ましい。
流延膜69は、自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フイルム74として剥取ローラ75で支持されながら流延バンド46から剥ぎ取られる。剥ぎ取り時の残留溶媒量は、固形分基準で20質量%〜250質量%であることが好ましい。その後に多数のローラが設けられている渡り部80を搬送させて、テンタ式乾燥機47に湿潤フイルム74を送り込む。渡り部80では、送風機81から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フイルム74の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部80では下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより湿潤フイルム74にドローテンションを付与させることも可能である。
テンタ式乾燥機47に送られている湿潤フイルム74は、その両端部がクリップで把持されて搬送されながら乾燥される。また、テンタ式乾燥機47の内部を温度ゾーンに区画分割して、その区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。テンタ式乾燥機47を用いて湿潤フイルム74を幅方向に延伸させることも可能である。このように、渡り部80及び/またはテンタ式乾燥機47で湿潤フイルム74の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を0.5%〜300%延伸することが好ましい。
湿潤フイルム74は、テンタ式乾燥機47で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、フイルム82として下流側に送り出される。フイルム82の両側端部は、耳切装置50によりその両縁が切断される。切断された側端部は、図示しないカッターブロワによりクラッシャ90に送られる。クラッシャ90により、フイルム側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。なお、このフイルム両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フイルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
両側端部を切断除去されたフイルム82は、乾燥室51に送られ、さらに乾燥される。乾燥室51内の温度は、特に限定されるものではないが、50℃〜160℃の範囲であることが好ましい。乾燥室51においては、フイルム82は、ローラ91に巻き掛けられながら搬送されており、ここで蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置92により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室51の内部に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室51は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置50と乾燥室51との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフイルム82を予備乾燥すると、乾燥室51においてフイルム温度が急激に上昇することが防止されるので、これによりフイルム82の形状変化をより抑制することができる。
フイルム82は、冷却室52で略室温まで冷却される。なお、乾燥室51と冷却室52との間に調湿室(図示しない)を設けても良く、この調湿室でフイルム82に対して、所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付けられることが好ましい。これにより、フイルム82のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制することができる。
冷却室52で略室温まで冷却されたフイルム82の両縁は、ナーリング付与ローラ94によりエンボス加工でナーリングが付与される。なお、ナーリングされた箇所の凹凸が、1μm〜200μmであることが好ましい。そして、ナーリングが付与されたフイルム82の両縁の余分な部分は耳切装置95により切断除去される。
最後に、フイルム82を巻取装置53によりロール状に巻き取る。この際に、巻き取られるフイルム82は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム82の幅が600mm以上であることが好ましく、1300mm以上1800mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、1800mmより大きい場合にも効果がある。フイルム82の厚みが15μm以上100μm以下の薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
本発明の溶液製膜方法ではドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延、または逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフイルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用できる。
[表面処理]
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
さらに前記セルロースアシレートフイルムをベースフイルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1mg/m2 〜1000mg/m2 含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種の滑り剤を0.1mg/m2 〜1000mg/m2 含有することが好ましい。さらに、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1mg/m2 〜1000mg/m2 含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m2 〜1000mg/m2 含有することが好ましい。セルロースアシレートフイルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報(例えば、[1088]段落から[1265]段落)には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。これらは、本発明にも適用することができる。また、同公報には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載もある。更には適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。
また、本発明の製造方法により光学特性に優れるセルローストリアセテートフイルム(TACフイルム)を得ることができる。前記TACフイルムは、偏光板保護フイルムや写真感光材料のベースフイルムとして用いることができる。さらにテレビ用途の液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フイルムとしても使用可能である。特に偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどに用いられる。また、前記偏光板保護膜用フイルムを用いて偏光板を構成しても良い。
次に、本発明を実施した2軸ターレット方式の巻取装置53について、図3を用いて説明する。巻取装置53は大別して、ターレットアーム100、ターレットアーム100を回動自在に保持する保持台101、ターレットアーム100の両端に設けられた巻取軸102a,102b、これらの巻取軸102a,102bにそれぞれ取り付けられた巻芯103a,103bや、モータ104、張力測定用ローラ105、ガイドローラ106、ダンサローラ107、ダンサ機構108、張力測定用センサ109、レイオンロールユニット110、除電器111、及び制御部113等から構成されている。
ターレットアーム100は、図示しない駆動伝達機構及びモータを介して180°ずつ間欠回転される。これにより、ターレットアーム100の巻取軸102a,102bにそれぞれ取り付けられた巻芯103a,103bが、フイルム82をロール状に巻き取ってフイルムロール115を形成する巻取位置と、巻き取りが終了したフイルムロール115を取り外し可能な取外し位置とに交互にセットされる。
巻取位置にセットされた巻芯103aはモータ104によって回転駆動され、この巻芯103aが図中時計方向に回転されるとフイルム82がフイルムロール115に巻き取られる。そして、制御部113は、フイルムロール115が満巻になったら、フイルムカッタ(図示せず)等を駆動してフイルム82を所定の位置で切断する。切断されたフイルム82の先端は、図示しない巻付装置により空の巻芯103bに巻き付けられる。なお、巻芯103a,103bとしては、フイルム82をロール状に巻取り可能であれば、その外周の直径の大きさや材質などは特に限定はされず、本実施形態では巻芯103a,103bとして、例えば外周の直径が168mmのプラスチック製のものを用いる。
次いで、制御部113はターレットアーム100を180°間欠回転させ、フイルム82の先端が巻き付けられた巻芯103bを巻取位置にセットするとともに、満巻のフイルムロール115(巻芯103a)を取出し位置にセットする。フイルムロール115が取出し位置にセットされたら、フイルムロール115を巻取軸102aから取り外す。そして、この巻取軸102aに新たな空の巻芯103aを取り付ける。また、巻取位置にセットされた巻芯103bにフイルム82の巻き取りが開始される。
張力測定用ローラ105及びガイドローラ106は、フイルムロール115の搬送方向上流側に配置され、各ローラ105,106の間にはダンサローラ107がダンサ機構108により図中上下方向に移動自在に保持されている。そして、張力測定用ローラ105には、張力測定用センサ109が接続されている。この張力測定用センサ109は、フイルムロール115に巻き取られるフイルム82に付与される巻取り張力の大きさを検出する。また、ダンサ機構108は、ダンサローラ107に付与する加重を調整することで、フイルム巻取り時の巻取り張力の大きさを調整する。本実施形態ではこの巻取り張力がフイルム82の巻取り速度及び厚みとフイルムロール115の巻径とに応じた所定の範囲内、例えば400〜300Nに収まるようにダンサ機構108を制御する。
レイオンロールユニット110は、フイルムロール115の幅方向の長さよりも長く形成されたレイオンロール117と、このレイオンロール117を両端で保持する2本のアーム118(図2参照)と、両アーム118を回動自在に保持するアーム台119と、このアーム118を介して、レイオンロール117をフイルムロール117の周面を押圧する押圧位置、及びフイルムロール117の周面から退避した退避位置に移動させるスイング機構120とから構成され、フイルムロール115の周面にレイオンロール117を所定圧力で押圧させることで、フイルム巻取り時にフイルム82と一緒に巻き込まれたエアを除去する。
また、本実施形態では、フイルムロール115の巻径を算出できるように、フイルムロール115の近傍のパスローラ122にはパルスジェネレータ123が接続されている。制御部113は、パルスジェネレータ123から発信されるパルス数をカウントしてフイルムロール115の巻取り量を算出し、この巻取り量算出結果に基づいてフイルムロール115の巻径を算出する。そして、この巻径算出結果に基づき制御部113は、フイルムロール115の巻径の増加に応じてスイング機構120を駆動し、アーム118を図中反時計方向に回転させてレイオンロール117を巻径に応じた位置に移動させる。これにより、フイルムロール115の巻径が増加しても、ロール周面を巻径に応じた所定の圧力で押圧して、巻き込まれたエアを除去することができる。また、制御部113は、フイルムロール115が満巻になったらスイング機構120を駆動して、押圧位置にあるレイオンロール117を退避位置に移動させる。
除電器111は、フイルムロール115の周面にイオンを含むエア(以下、イオン風という)を吹き付けてロール周面の除電を行うエア吹付け型の電圧印加式除電器である。この除電器111は、ロール周面にイオン風を吹き付けられるようにフイルムロール115の近傍に配置される。そのため、上述のレイオンロール117と同様に、フイルムロール115の巻径の増加に応じて除電器111を移動(シフト)させる機構を別途に設けると、巻取装置53の製造コストが高くなってしまう。また、巻取装置自体の大きさが小さい場合には、このようなシフト機構を設置するスペースを確保できないという問題もある。
そのため、図4に示すように、本実施形態では除電器111がレイオンロール117を保持するアーム118に取り付けられている。従って、フイルムロール115の巻径の増加に応じてアーム118が図中時計方向に回転されることで、レイオンロール117と共に除電器111を移動させることができる。これにより、シフト機構等を設ける必要が無くなるので、巻取装置53の製造コストを低くすることができる。
除電器111は、大別してエア吹付け口125が形成された除電器本体(エアノズル)126と、この除電器本体126の内部に設けられたイオン発生ユニット127とから構成される。この除電器本体126は、そのエア吹付け口125がフイルムロール115の幅方向の長さよりも長くなるように形成され、その両端部がネジ129でそれぞれアーム118に固定されている。
除電器本体126には、エア送風源として所定圧の高圧エアを発生するブロア131(図3参照)がエア配管132を介して接続されている。このブロア131で発生させるエアの圧力は、フイルムロール115にイオン風を吹き付けられる圧力であればその値は特に限定はされない。また、エア配管132としては、アーム118が回転された時に除電器本体126の移動を妨げないようなゴム配管が用いられている。なお、本実施形態では、エア吹付け口125からフイルムロール115周面にイオン風を吹き付ける際に、その吹き付け圧力が長手方向で均一になるように、複数本のエア配管132が所定間隔で除電器本体126に接続されている。これにより、ブロア131で発生させたエアは、エア配管132を介してエア吹付け口125からその長手方向にわたって均一な圧力でフイルムロール115の周面に吹き付けられる。
イオン発生ユニット127は、フイルムロール115の幅方向と平行な方向に延びた除電バー本体134と、除電バー本体134の周面に所定ピッチPで、且つロール幅方向と平行な方向に並べて配置された複数の電極針135とから構成されている。また、各電極針135には、除電バー本体134内に配線された高圧ケーブル(図示せず)を介して高圧電源136(図3参照)が電気的に接続されている。この高圧電源136は、高圧ケーブルを介して約±7000Vの交流電圧を各電極針135に印加する。
除電バー本体134は硬質プラスチックなどの絶縁材料から形成され、その長手方向の長さは、フイルムロール115の幅方向の長さよりも長く形成されている。また、電極針135は、例えば単結晶シリコンやタングステンなどから形成されており、高圧電源136から交流電圧が印加されると、コロナ放電が生じて電極針135周囲の空気がイオン化される。これにより、ブロア131から送られてくるエアにイオンを含ませることができるので、フイルムロール115の周面にイオン風を吹き付けて除電することができる。
この際に、高圧電源136から印加される交流電圧の周波数(イオン発振周波数)が低いとフイルムロール115に巻き取られたフイルム82に除電ムラが発生してしまう。その結果、LCD製造メーカーでフイルム82に機能性を付与する塗布を行った際に、フイルム幅方向に電極針135と同じピッチP(図4参照)で並んだ塗工ムラ(塗布斑)の列が、フイルム搬送方向に沿って交流電圧の1波長(1サイクル)毎に生じてしまう。そのため、本実施形態では印加する交流電圧の周波数を20Hz以上にすることで、塗工ムラの発生を抑えるようにしている。
図5及び図6に示すように、本実施形態ではフイルムロール115の巻径の増加に応じて除電器111がレイオンロール117と共に移動されて、除電器111とフイルムロール115の周面との距離が短くなる。また、これと同時にフイルムロール115に対する電極針135の角度(イオン風の吹き付け角度)もフイルムロール115の巻径の増加に応じて変化する。そのため、除電器111とフイルムロール115の周面との距離や、電極針135の角度によってはロール周面の除電が十分に行われず、逆に除電器111による除電ムラが生じて、フイルム82に塗布を行った際に塗工ムラが発生するおそれがある。
そこで、本実施形態では図5及び図6に示すように、除電器111がフイルムロール115の巻径の増加に応じて移動される際に、除電器111の電極針135からその長軸方向に延びた第1の直線L1がフイルムロールの周面と交わる交点C1と電極針135の先端との間の距離(以下、単に電極−ロール間距離という)dが30mm≦d≦90mmの範囲に収まるとともに、この第1の直線L1と、電極針135の先端及びフイルムロール115の中心C2を通る第2の直線L2とのなす角度(以下、単に電極角度という)θが−25°≦θ≦25°の範囲に収まるように除電器111の取付位置が調整されている。この際に本実施形態では、直線L2に対して除電器111(直線L1)が時計方向に回転している場合を正の角度、直線L2に対して除電器111(直線L1)が反時計方向に回転している場合を負の角度で表している。なお、電極−ロール間距離dが30mm≦d≦90mmの範囲に収まっているか否か、電極角度θが−25°≦θ≦25°の範囲に収まっているか否かでフイルムロール115の周面の帯電量の大きさと、除電ムラ及び塗工ムラの発生とを比較した比較結果は後述するのでここでは説明を省略する。
以上のように本実施形態によれば、レイオンロール117を保持するアーム118に除電器111を取り付けるとともに、除電器111がフイルムロール115の巻径の増加に応じて移動される際に、電極−ロール間距離d及び電極角度θが上述の所定範囲に収まるように除電器111の取付位置を調整したので、フイルムロール115の周面の除電を十分に行うことができる。その結果、除電器111による除電ムラの発生を防止することができる。これにより、フイルムロール115から引き出されたフイルム82に塗布を行った際に塗工ムラが発生するのが防止される。また、除電器111の電極針135に印加する交流電圧の周波数が30Hz以上になるようにしたので、同様に塗工ムラが発生するのが防止される。
次に本実施形態の巻取装置53の作用について説明する。フイルム搬送路上流側から送られてくるフイルム82の先端が図示しない巻付装置により巻芯103aに巻き付けられたら、制御部113は高圧電源136を作動して、除電器111の各電極針135に30Hz以上の交流電圧(±7000V)を印加し、除電器本体126内部の空気をイオン化する。また、同時に制御部113は、ダンサ機構108を駆動してフイルム巻取り時の巻取り張力が約400〜300Nになるようにする。
次いで、制御部113はモータ104を駆動して所定の巻取り速度でフイルム82の巻き取りを開始するのと同時に、ブロア131を駆動してエアを発生させる。これにより、エア配管132を介して除電器111のエア吹付け口125からフイルムロール115の周面にイオン風が吹き付けられて、フイルムロールの周面、つまり、フイルムロール115に巻き取られるフイルム82が除電される。
また、フイルム巻取りが開始されたら制御部113は、パルスジェネレータ123から送信されるパルス信号に基づいてフイルムロール115の巻径を算出する。そして、この巻径算出結果に基づき、制御部113はスイング機構120を駆動して、フイルムロール115の巻径の増加に応じてアーム118を回転させ、レイオンロール117及び除電器111を巻径に応じた位置に移動させる。
本実施形態では、除電器111がフイルムロール115の巻径の増加に応じて移動される際に、電極−ロール間距離dが30mm≦d≦90mmの範囲に収まり、且つ電極角度θが−25°≦θ≦25°の範囲に収まるように除電器111の取付位置が調整されているので、フイルムロール115の周面の除電を十分に行うことができる。その結果、除電器111による除電ムラの発生が防止されるので、このフイルムロール115から引き出されたフイルム82に塗布を行った際に塗工ムラが発生するのが防止される。また、本実施形態では除電器111の電極針135に印加する交流電圧の周波数が20Hz以上になるようにしたので、同様に除電ムラ及び塗工ムラが発生するのが防止される。
そして、巻芯103aに巻き取られたフイルムロール115が満巻になったら、制御部113はモータ104の回転を停止させ、高圧電源136(除電器111)及びブロア131の作動を停止させるとともに、スイング機構120を駆動して押圧位置にあるレイオンロール117を退避位置に移動させる。制御部113は、フイルム82が所定の位置で切断され、その先端が空の巻芯103bに巻き付けられたら、モータ104を駆動してターレットアーム100を180°間欠回転させる。これにより、巻芯103bを巻取位置にセットされ、巻取りが終了したフイルムロール115が取外し位置にセットされる。フイルムロール115が取外し位置にセットされたら、フイルムロール115を巻取軸106aから取り外して、新たな空の巻芯103aを取り付ける。以下、フイルム82の供給が停止されるまで上述の処理を繰り返す。
なお、本実施形態ではフイルムロール115の周面にレイオンロール117を所定の圧力で押圧させて、フイルム巻取り時に巻き込まれたエアを強制的に除去しているが、本発明はこれに限定されるものでなく、フイルムロール115の周面に高圧エアを吹き付けてエアプレスを行うエアノズル等を設けて、巻き込まれたエアを強制的に除去するようにしてもよい。この場合にはエアノズルとフイルムロール115周面との距離が一定に保たれるように、フイルムロール115の巻径の増加に応じてエアノズルをシフトさせるシフト機構をスイング機構120の代わりに設ける。そして、電極−ロール間距離d及び電極角度θが上述の所定範囲に収まるように、エアノズルを保持する保持部材に除電器111を取り付ければよい。
また、本実施形態では、除電器111がレイオンロール117のフイルム巻取り方向上流側に取り付けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、アーム118を延長して除電器111をレイオンロール117のフイルム巻取り方向下流側に取り付けてもよい。これにより、レイオンロール117との摺接によってフイルムロール115の周面が帯電してもすぐに除電することができる。
なお、本実施形態の巻取装置53は2軸ターレット方式の巻取装置を例に説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものはなく、1軸または3軸以上のターレット方式のフイルム巻取装置にも適用してもよい。
また、本発明は、トリアセチルセルロースフイルムを製膜する製膜ラインのフイルム巻取装置に限定されるものではなく、LCD以外のディスプレイに用いられる保護フイルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フイルム、感熱記録紙、磁気記録テープ、写真フイルム、接着剤テープ等などの各種フイルムをロール状に巻き取るフイルム巻取装置に適用することができる。