JP2006282929A - 分子構造予測方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】高分子のフラグメントの個々の構造最適化を行うステップS2と分子動力学法によりフラグメントの乱雑な空間的配置を生成するステップS3とこの空間的配置を構成するフラグメントを暫定的に化学結合で連結するステップS4−1とフラグメントの連結結合のうちの2組の間で連結原子対を交換して絡み合いを持たないようにネットワークを変更するステップS4−2とネットワークに対して構造最適化と分子動力学計算を行うステップS5と上記ステップで得られる試行構造から、微視的な構造パラメータが適切な値を取っているものを分子構造モデルとして選択するステップとS6と実験的物性値を再現することを条件に適切な分子構造モデルを選択するステップを備える。
【選択図】図1
Description
これらの手法は原子、電子の運動を古典力学、量子力学の方程式に従って計算する方法で、物質の性質を分子レベルに遡って求めるために使用される手法である。
ここで、適切な分子構造モデルとは、現実の高分子の特徴を有する分子構造のことを意味し、具体的には原子や原子団の組成および密度等の巨視的な構造パラメータが実物とほぼ等しく、結合長、結合角、二面体角、非結合原子間距離等の微視的な構造パラメータが実物のものに近い値をとる構造のことを意味する。以下では、この意味で適切な分子構造モデルを予測することをモデリングと言う。
一方、網状高分子に関してはアモルファス構造の適当なモデリングの方法が無いために、これまで分子シミュレーションが実施されていない。
なお、高分子材料の形態予測に関しては、以下の文献がある。
このような試行探索において、モデリングの対象とする高分子の架橋の度合いが高い場合、失敗試行の割合が多くなるために相当数の試行構造を作成する必要がある。
請求項1記載の発明は、次に挙げる7個のステップを含む方法である。
1)アモルファス網状高分子の構成原子団(以下、フラグメントと言うことがある。)の個々の構造最適化を行うステップと、
2)分子動力学法あるいはモンテカルロ法を使用してフラグメントの乱雑な空間的配置を生成するステップと、
3)与えられた空間的配置を構成するフラグメントを暫定的に化学結合により連結するステップと、
4)フラグメントの連結結合にうちの2組の間で連結原子対を交換することによって、絡み合いを持たないように連結結合のネットワークを変更するステップと、
5)出来上がったネットワークの分子構造に対して構造最適化計算と分子動力学計算およびモンテカルロ計算を行うステップと、
6)上記5つのステップによって得られるアモルファス網状高分子の試行構造から、結合長、結合角などの微視的な構造パラメータが適切な値を取っているものを分子構造モデルとして選択するステップと、
7)実験的に得られる物性値を再現することを条件に、アモルファス網状高分子の分子構造モデルとしてより適切な分子構造モデルを選択するステップを備えるものである。
網状高分子をフラグメントへ分割する仕方は、モデリング対象の網状高分子の可能なネットワークトポロジーが網羅されるという条件で、これ以上分割する必要のない原子団のまとまりとすれば良い。
ステップ1)では、アモルファス網状高分子のフラグメントの個々の構造最適化を行うが、これは高分子中における構成原子団の構造が高分子の種類によらず
ほぼ一定で、孤立の構成原子団の構造が大部分保持さているからである。
このように、ステップ5)までの手法により、多数のアモルファス網状高分子の試行構造が得られる。
なお、ステップ6)、ステップ7)の手順において、将来、物性値を予測することができる理論的な方法や経験的な法則が開発された場合には、その物性値をこれらのステップ6)、7)の選択に利用することが可能である。
図1は、与えられた網状高分子のフラグメントから分子構造モデルを得るまでの一連のデータ処理のフローチャートである。上述のステップ1)ないし7)はそれぞれフローチャートのS2,S3、S4−1,S4−2、S5、S6−1およびS6−2に該当する。
図2−1)ないし−5)はそれぞれ、図1のフローチャートの各ステップS1,S3,S4−1,S4−2,S5の処理を視覚的に表現するものである。
・ステップS2は、フラグメントの種類ごとに単独フラグメントの構造最適化を行う部分である。
・ステップS2−1では、フラグメントの構造最適化のための初期構造(仮構造)を与える。構造最適化に使用するソフトウェアの入力書式に従って初期構造を指定する。
・ステップS3は、フラグメントの乱雑な空間的配置を複数個発生させる部分である(図2−2))。
・ステップS3−1では、ステップS−2で決定したフラグメントの最適化構造を、必要な個数だけ複製し適当に空間的に配置する。
なお、分子動力学計算法あるいはモンテカルロ計算法は、巨大分子や分子集合体の構造を乱雑化するための手段としてしばしば使用される。このことは、例えば参考文献1に記載されている。
・ステップS4−1では、フラグメントを暫定的に連結する(図2−3))。
・ステップS4−1−1では、連結される可能性のある原子対の距離を計算しテーブル化する。図2の例においては、異なるフラグメント上にある不飽和のSi原子とO原子の任意の対が連結される可能性がある。
・ステップS4−1−3では、ステップS−4−1−2での操作によって全ての不飽和原子価を飽和させられない場合を判断する。ステップS4−1−2のように連結を決定し不飽和原子価を飽和させられない場合として、たとえば最後に連結する原子対が同一フラグメント上にあるという場合がある。
このために、長距離の連結が出来るだけなくなる様に連結原子対の組み合わせを交換する(図2−4))。
ステップS4−2−1からステップS4−2−4の操作を5回繰り返す。
・ステップS4−2の上述の一連の処理は、図3に示したフローチャートのように整理して示すことができる。
・S5−1では、次ぎに行う分子動力学計算に使う初期構造を得るための構造最適化を行う。
・ステップ6は、ステップ5)までに得られた分子構造から分子構造モデルとして適切なものを選択する部分である。
・ステップS6−2では、実験的に物性値が測定されている場合には、この測定結果が計算によって良く再現されるような構造を選択する。
手作業以外の処理は、4種の独立したプログラム(分子構造最適化プログラム、分子動力学計算あるいはモンテカルロ計算のプログラム、ネットワーク生成プログラム、物性計算プログラム)で処理され、これらのプログラムはパーソナルコンピュータやワークステーション上で稼動する。ネットワーク生成プログラムは上記のステップ3)と4)の操作(フローチャートではS4の操作)を行う。物性計算プログラムが使用されない場合もある。また、分子動力学計算あるいはモンテカルロ計算が物性計算を兼ねる場合もある。
この例のシロキサン膜モデルは、ユニットセル内に図5に示した5種のフラグメントを持ち、これらの結合価不飽和のSi原子とO原子を連結することによって作成される。
ステップ1)と5)の構造最適化計算およびステップ2)と5)の分子動力学計算にはMM3分子力場(参考文献3)を使用した。また、構造最適化計算および分子動力学計算にはプログラムパッケージTinker(参考文献4)を使用した。
表2に、上記343個の試行構造のなかで、結合長の偏差の小さい構造(Si−O、Si−H、Si−C、C−Hの結合種それぞれに関して最大値と最小値との差が0.05オングストローム以下の構造)を6種選択し、リストとした。実際には、Si−H、Si−C、C−Hは結合長偏差が小さく、表の値はSi−O結合のものである。なお、シロキサン高分子では、結合がイオン結合的であるので、結合角、二面角がかなり大きな範囲に分布するので、分子構造モデル選定の参照にはしていない。表2から結合長が、標準値の近傍に分布する構造が得られたことがわかる。
上述の343個の試行構造を得るのに費やした時間は2日の程度である。本発明の方法を使用しない場合、図7に示した構造のようにアモルファス網状高分子の構造を良く表現する分子構造モデルをこの時間の範囲で得ることは容易ではない。
[1] F.Nardi and R.C.Wade,in Molecular Dynamics:From Classical to Quantum Method,ed.P.B.Balbuena and J.M.Seminario,Elsevier,1999,pp.859-898
[2] H. J. C. Berendsen, J. P. M. Postma, W. F. van Gunsteren, A. DiNola, and J. R. Haak, J. Chem. Phys., 81, 3684 (1984).
[3] N. L. Allinger, Y. H. Yuh, and J.-H. Lii, J. Am. Chem. Soc., 111, 8551 (1989)., J.-H. Lii and N. L. Allinger, J. Am. Chem. Soc., 111, 8566 (1989)., J.-H. Lii, and N. L. Allinger, J. Am. Chem. Soc., 111, 8576 (1989).
[4] Ponder, J. W. TINKER: Software Tools for Molecular Design, 3.9 ed.; Washington University School of Medicine: Saint Louis, MO, 2001.
Claims (1)
- 与えられた構成原子団に基づいて、アモルファス網状高分子の分子構造モデルを予測する方法であって、
1)アモルファス網状高分子を構成する構成原子団の個々の構造の最適化を行うステップと、
2)分子動力学法あるいはモンテカルロ法を使用して構成原子団の乱雑な空間的配置を決めるステップと、
3) 与えられた空間的配置を構成する構成原子団を暫定的に化学結合により連結するステップと、
4)構成原子団の連結結合のうちの2組の間で連結原子対を交換することによって、絡み合いを持たないように連結結合のネットワークを変更するステップと、
5) 出来上がったネットワークの分子構造に対して構造最適化計算と分子動力学計算およびモンテカルロ計算を行うステップと、
6)上記5つのステップによって得られるアモルファス網状高分子の試行構造から、結合長、結合角などの微視的な構造パラメータが適切な値を取っているものを分子構造モデルとして選択するステップと、
7)実験的に得られる物性値を再現することを条件に、アモルファス網状高分子の分子構造モデルとしてより適切な分子構造モデルを選択するステップを備えることを特徴とする分子構造予測方法。
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