JP2006274310A - 機械構造部材用鋼管の製造方法 - Google Patents

機械構造部材用鋼管の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 強度、加工性および高周波焼き入れ性に優れた機械部品・構造用鋼管を、従来に比べて格段に低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明はC:0.3超〜0.6%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.08%、Cr:0.05〜0.25%、肉厚5〜22mm、外表面に100〜500μmの脱炭層を持つ750℃以上の鋼管を、内表面および外表面からそれぞれ1mm内側までを除いた部分について700℃から550℃の間を3〜20℃/秒の冷却速度で外面側から冷却することにより製造する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、機械構造部材、特に歯車、シリンダ等の機械部品及びシャフト等の構造部に好適な鋼管の製造方法に関する。
自動車や産業機械に使用される機械部品は、棒鋼を素材として鍛造や切削により所定の形状に加工された後、調質熱処理により所定の機械的性質が付与されて使用される場合が多い。一方、機械部品のコストダウンの要請から、中空形状部品に対しては、必要とされる機械的性質を既に付与された鋼管を素材として用いることにより、鍛造工程の短縮および熱処理工程の省略を図る場合が増えてきている。しかし、一般に棒鋼素材よりも鋼管素材の方が高価なため、たとえ中空形状部品であっても鋼管化によるコストダウンの効果が得られない場合がある。
そこで、鋼管製造コストのさらなる低減のために、特許文献1〜7に記載のような、熱間製管後の調質熱処理を省略した、いわゆる非調質型の機械部品・構造用鋼管がいくつか提案されている。特許文献1〜6はいずれも合金元素の多量添加により焼き入れ性や析出強化能を向上させて所定の強度を得ようとするものである。そのために、必然的に合金コストの上昇が避けられないばかりでなく、製鋼プロセス上の困難さを伴う場合がある。特許文献7は600〜750℃という熱間圧延温度としてはかなり低温で圧延することによって金属組織を微細化し、強度を向上させようとするものである。しかしながら、低温圧延は厚板圧延では今や一般的な技術となっているものの、鋼管圧延に際しては工具との接触により疵や焼き付きが発生しやすい等の問題があることから、現実には適用範囲が大きく制限されている。
特許文献8〜10には熱間製管直後に加速冷却を行うことにより強度を向上させる技術が開示されている。特許文献8は未再結晶域で圧下率30%以上の低温圧延と1〜35℃/秒の加速冷却を組み合わせにより高強度を得るものであり、対象とする用途は原油タンカーの荷油管である。そのため、炭素含有量は0.03〜0.07%と低い。また、特許文献9は最終仕上げ圧延後の鋼管の内表面を放冷し、外表面をAr3点以上の温度から10〜60℃/秒で500〜400℃まで冷却し以降放冷するものである。対象とする用途は油井管であり、炭素含有量は0.1〜0.3%に規定されている。特許文献10も炭素量0.15〜0.4%の油井管であり、熱間圧延ままで直接焼き入れ、または加速冷却し、その後焼き戻しを行う。
しかし、機械部品用鋼管の場合、部品加工後に表面に高周波焼き入れを施して疲労特性や耐摩耗性が付与される場合が多いが、高周波焼き入れによる表面硬さは炭素量で決定されるために、一般的には0.3%を越える炭素量が必要とされている。このような高い炭素量の鋼管を何の配慮もせずに加速冷却すると、鋼管の表面近傍が局所的に著しく硬化し、その後の切断や機械加工が困難になるばかりでなく、場合によっては焼き割れが発生することもある。
しかし、特許文献8および9のような低い炭素量および用途ではそのような問題は生じないため、それらの先行例では加速冷却に対してのプロセス面あるいは素材面での配慮はほとんどなされていない。また特許文献10は炭素量の上限を0.4%と規定しているが、実施例には最大0.3%の炭素量までしか記載がなく、実質的には0.3%Cまでの適用に制限されるのに加えて、本特許文献では加速冷却後に焼き戻しを必須としている。
特開平05−202447号公報 特開平10−130783号公報 特開平10−204571号公報 特開平10−324946号公報 特開平11−36017号公報 特開2004−292857号公報 特開2001−247931号公報 特開第3252651号公報 特許第3503211号公報 特開平7−41856号公報
本発明は、上記課題に鑑みて、特に歯車、シリンダ等の機械部品及びシャフト等の構造部材に好適な機械構造部材用鋼管を、高価な合金を添加せず、また調質熱処理を行うことなく、安価に製造する方法を提供するものである。
本発明者らは、上記目的を達成するために、加速冷却の条件とその際の鋼管形状に対する金属組織および硬さの関係を種々検討した結果、ついに以下のような知見を得るに至った。
まず、合金元素の添加を抑制しつつ高周波焼き入れ性が確保できる、0.3%を越える量のCを含有する鋼管を加速冷却する際に、あらかじめ冷却表面に脱炭層を形成させておけば、表面の局所的な著しい硬化が抑制できることを見出した。
また、金属組織全体、あるいは一部がベイナイト組織になるとその後の切断や機械加工が困難になるため、フェライト+パーライトを主体とした組織が得られ、かつ、必要強度が達せられるような、ある限定された条件で加速冷却する必要があることを見出した。
さらに、長尺鋼管全長にわたって均一に冷却するためには、内面側からは冷却せずに外面側のみから、円周方向に回転させながら冷却することにより達せられることを見出した。
本発明は主に上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1) 質量%で、C:0.3%超〜0.6%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5%〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.08%を含有し、残部はFeおよび不可避元素からなる化学組成を有し、肉厚5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上の750℃以上の温度にある鋼管の外表面から肉厚方向に100〜500μmの脱炭層を形成し、内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、700℃から550℃の間を3〜20℃/秒の冷却速度で円周方向に回転させながら外表面側から冷却することを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
(2) 質量%で、C:0.3%超〜0.6%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5%〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.08%を含有し、残部はFeおよび不可避元素からなる化学組成を有し、熱間での延伸工程で肉厚5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上に造管した750℃以上の温度にある鋼管の外表面から肉厚方向に100〜500μmの脱炭層を形成し、かつ該鋼管の内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、700℃から550℃の間を3〜20℃/秒の冷却速度で円周方向に回転させながら外表面側から冷却することを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
(3) 質量%で、C:0.3%超〜0.6%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5%〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.08%を含有し、残部はFeおよび不可避元素からなる化学組成を有する円筒状ブルームを用いて、熱間での穿孔、圧延および延伸工程により肉厚5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上に造管した750℃以上の温度にある鋼管の外表面から肉厚方向に100〜500μmの脱炭層を形成し、かつ該鋼管の内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、700℃から550℃の間を3〜20℃/秒の冷却速度で円周方向に回転させながら外表面側から冷却することを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
(4) 質量%で、C:0.3%超〜0.6%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5%〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.08%を含有し、残部はFeおよび不可避元素からなる化学組成を有する円筒状ブルームを、下記式を満足する温度、時間で均熱保持した後、熱間での穿孔、圧延および延伸工程により肉厚5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上に造管した750℃以上の温度にある鋼管の内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、700℃から550℃の間を3〜20℃/秒の冷却速度で円周方向に回転させながら外表面側から冷却することを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
2.7335×1062 T-19.509 > t > 2.4726×1057 T-18.121 …(1)
ここで、T:温度(℃)、t:時間(分)
(5) 前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載した製造方法において、さらに質量%でCr:0.05〜0.25%を含有することを特徴とする、機械構造部材用鋼管の製造方法。
(6) 前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載した製造方法において、冷却後さらに500〜600℃で10〜60分の応力除去焼鈍を施すことを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
本発明では、外表面から肉厚方向に100〜500μmの脱炭層を有していることにより、表面に加工しやすい層を有する。また、この脱炭層は、少なくとも下記式を満足する温度、時間で均熱保持することで得ることができる。
2.7335×1062 T-19.509 > t > 2.4726×1057 T-18.121 …(1)
ここで、T:温度(℃)、t:時間(分)
また、本発明では、肉厚が5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上の鋼管において、内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、700℃から550℃の間の冷却速度を3〜20℃/秒として冷却するので、この部分はフェライト+パーライト組織を得ることができる。
さらに本発明において応力除去焼鈍を行った場合、楕円度100μm以下で残留応力の絶対値が150MPaとすることができ、しかも脱炭層が完全に除かれるので、表面に高周波焼き入れ可能な組織が現われている。
したがって、本発明の適用により、高周波焼き入れ性が良好で、切断や機械加工が容易な高強度の機械構造部材用鋼管を従来よりも低いコストで製造することが可能となる。なお、本発明の方法により製造された機械構造部材用鋼管は上述の脱炭層及びミクロ組織を有するため、特に外表面及び内表面が切削加工され、加工後に高周波焼き入れが施される歯車の素材として好適である。
以下に、本発明において鋼管の化学成分を限定した理由について説明する。なお、以下に示す「%」は、特段の説明がない限りは、「質量%」を意味するものとする。
C:Cは高周波焼き入れによりHv550以上の硬さを確保するために、下限を0.3超%と定めた。しかし、0.6%を越えて添加すると靱性および切削性が低下するので、上限を0.6%に定めた。
Si:Siは脱酸作用を有する他に、フェライトを固溶強化する効果も有する。しかし、入れすぎると靱性を損なう恐れがあるために添加量の範囲を0.05〜0.4%に制限した。
Mn:Mnはオーステナイト域を拡大させて初析フェライトを減らしパーライト分率を高めるとともに、パーライト変態開始温度を低下させてパーライトのラメラ間隔を狭くするために、フェライト+パーライト組織の強度の向上に寄与する。その効果を得るためには0.5%以上の添加が必要である。しかし入れすぎると焼き入れ性が上昇しすぎてベイナイト組織が生成しやすくなるために上限を1.0%と定めた。ベイナイト組織は機械加工性を低下させるとともに、やや靭性に劣り、本発明の組織としては好ましくない。
P:Pは靱性を低下させるためにできるだけ少ない方が望ましいが、過度に低減させようとするとコスト上昇を招くので、0.03%までを許容できる上限に定めた。
S:Sは切削性の向上に有効な元素であり、その効果を得るために0.005%以上添加することとした。しかし、過度に添加すると脆化するために上限を0.03%に定めた。
Al:Alは脱酸作用を有する他に、高温で鋼中の不可避Nと結合してAlNを形成し、オーステナイト粒の成長を抑制する効果がある。その効果は0.01%以上で発揮し、0.08%を越えると効果が飽和するために、添加量の範囲を0.01〜0.08%に定めた。
Cr:CrはMnと同様にフェライト+パーライト組織の硬さ向上に寄与する元素でありその効果を得るためには0.05%以上の添加が必要であるが、過度の添加はコスト上昇を招くとともにベイナイト組織が生成されやすくなるために、その上限を0.25%と定めた。
本発明においてはコスト上昇を招く合金元素の添加を極力抑えたが、MnやCrと同等の効果が得られる元素として、0.05〜0.5%のNi、0.05〜0.5%のMo、0.0002〜0.0015%のBも必要に応じて添加することが可能である。また、本発明では通常の不純物レベルのNは許容されるが、靱性の低下を防止するために、その量は0.0200%を越えないことが望ましい。
次に、本発明において製造工程を限定した理由について説明する。
まず、本発明では上記化学成分を有する750℃以上の鋼管を用いるのであるが、この鋼管は、例えば熱間での穿孔−圧延−延伸工程によって造管した直後のように、製造工程の最終段階で750℃以上の温度であれば、インラインでそのまま用いることが可能であり、製造コストの低減の観点からはむしろその方が好ましい。しかし、一旦鋼管製造工程を終了した後、オフラインで再加熱した鋼管を用いても一向に差し支えない。鋼管の温度を750℃以上と規定した理由は、次工程である加速冷却を開始する時の金属組織を確実にオーステナイト単相とするためである。鋼管の温度が高すぎるとオーステナイト粒径が粗大化し靱性の低下を招くために、1000℃以下であることが望ましい。
次にこの鋼管を加速冷却するのであるが、その際に、内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、変態途中である700℃から550℃の間の冷却速度を3〜20℃/秒にするように規定した。その理由は、3℃/秒以下では硬さがHv200以上の鋼管が得られないためであり、20℃/秒以上ではベイナイト組織が生成する恐れがあるからである。すなわち、フェライト+パーライト組織の硬さを上昇させるためにはフェライト分率を下げ、また、パーライトのラメラ間隔を狭める必要があるが、そのためにはAr3変態点より高い温度域から加速冷却を開始することによりAr3変態点をなるべく低下させ、さらに変態温度域でも十分な冷却速度を確保しなくてはならない。なお、加速冷却によるパーライト硬さの向上効果をより確実なものにするためには、3〜20℃/秒の冷却速度を400℃以下まで継続させることが望ましい。
なお、本発明では、冷却速度の条件が適用される範囲を内外の最表面から肉厚方向に1mmだけ内側の位置までを除いた部分に限定した。その理由は、後に説明するように本発明では外表面側から冷却するのであるが、そのため、外表面直下の冷却速度は20℃/秒を越えることは避けられず、また、外表面側の冷却速度の上限が限定される中で内表面直下の冷却速度を3℃/s以上に確保することは必ずしも容易ではないからである。しかしながら、機械部品素材用鋼管として用いられる場合には、通常は鋼管の内外表面から1mm程度は研削によって取り除かれる。また、構造用鋼管として用いられる場合でも十分に肉厚が厚い場合には内外表面から1mm以内の部位の強度は全肉厚の強度に大きな影響を与えないと考えられる。従って、実質的には鋼管の内外の最表面から肉厚方向に1mmだけ内側の位置までは冷却速度を規定する必要がない。
本発明では加速冷却の方法は水を鋼管の表面に直接当てる方法、管の接線方向に当てる方向、ミスト冷却など、任意に選定することができるが、加速冷却の際は、円周方向に回転させながら、内面側からは冷却せずに外面側のみから冷却することを規定した。その理由は、後に説明するように本発明の鋼管は長さが外径の5倍以上の長尺管であることから、鋼管の全長全厚にわたっての冷却速度のコントロールを可能とするためである。内面側から冷却すると冷却速度のコントロールが困難になる。
本発明では、本発明が適用できる鋼管の形状を、肉厚5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上に限定した。その理由は22mm以上の肉厚では、外表面側と内表面側とでの冷却速度の差が大きくなり、たとえ外表面から1mm内側の部位の冷速を本発明の上限である20℃/秒にしたとしても、内表面から1mm内側の部位で本発明の下限である3℃/秒の冷速を確保するのが困難であるからである。また、肉厚が5mm未満の場合には、たとえ長尺でも機械構造部材用鋼管としての材質の造り込みがそれほど困難ではないことに加えて、内外表面の削り代を差し引くと肉厚が薄すぎて、機械部品用としてはあまり一般的でないからである。鋼管の長さを外径の5倍以上と限定した理由は、長さが外径の5倍未満の短尺管は、棒鋼を素材として鍛造するという従来技術によって製造が可能であるが、長さが外径の5倍以上の長尺管は、棒鋼からの鍛造では座屈しやすく製造が困難であるためである。長尺鋼管素材を用いることによる鍛造材に対するコストメリットをより確実なものとするためには、鋼管の長さを外径の10倍以上とすることが望ましい。
また、本発明では、加速冷却する直前の鋼管に対して、外表面から肉厚方向に100〜500μmの脱炭層を有することが必要である。但し、円筒状ブルームを加熱して熱間での穿孔、圧延および延伸工程を経た750℃以上の鋼管の場合には、脱炭層厚さの規定に代えて、ブルームの加熱温度(T℃)と時間(t分)が下記(1)式を満たすことを条件とした。脱炭層厚さ、またはブルームの加熱条件を規定した理由は、前述のように、本発明の鋼管は外表面側からの加速冷却により製造するため、その場合、外表面近傍は著しく冷却速度が速くなるために焼き入れ硬化しやすいからである。この硬化組織は鋼管の切断や表面の切削加工を著しく困難にする。しかし、外表面に脱炭層が形成されていれば、外表面から1mm以内の冷却速度が著しく速い場合でも焼き入れ硬化することなく、外表面の切削が困難になるという問題を防止することができる。その効果を得るためには最低100μmの脱炭層厚さが必要である。脱炭層の存在はは表面の高周波焼き入れ性を著しく低下させるという問題はあるが、機械部品用に用いる場合には、通常は表面研削により1mm程度は取り除かれるために、脱炭層が必要以上に厚くなければ問題は生じない。
しかし、500μmを越えると、高周波焼き入れ性の確保に必要な表面研削深さが厚くなりすぎるために、上限を500μmに規定した。望ましい脱炭層の厚さは100〜200μmである。(1)式は円筒状ビレットを加熱して造管した場合に、加工度により多少の違いはあるが、形成される脱炭層厚さが概ね100〜500μmとなるようなビレット加熱条件を、図1に示すような実験結果からの回帰分析により得られた式である。
2.7335×1062 T-19.509 > t > 2.4726×1057 T-18.121 …(1)
ここで、T:温度(℃)、t:時間(分)
本発明では、内面側に対しては特に脱炭層の厚さの規定はしなかった。その理由は、外表面側からの冷却の場合、内表面側に行くほど冷却速度が遅くなり硬さ小さくなるために、内表面側には脱炭層は不要だからである。従って、内表面側の脱炭層の厚さはなるべく薄く抑える方が良い。ここで、本発明での脱炭層とは、粒状フェライトの面積率が80%以上の領域と定義することにする。
なお、本発明での鋼管とは、主として熱間で穿孔−圧延−延伸して製造される継ぎ目なし鋼管を対象にしているが、冷間または熱間で穿孔し、熱間押出プレスにより製造された継ぎ目なし鋼管や、ホットコイルを冷管または熱間でロールにより管状に成型し、両端面を溶接することにより製造された溶接鋼管も含まれるものとする。
なお、本発明ではさらに500〜600℃で10〜60分の応力除去焼鈍を施すことを本発明の1つの形態として規定した。その理由は、加速冷却を適用した場合、残留応力が生じやすいからである。大きい残留応力があると機械加工時あるいは高周波焼き入れ後に歪みが発生しやすくなり、機械部品の寸法精度が低下するからである。残留応力が熱処理条件をこのように定めた理由は、外表面の円周方向における残留応力の絶対値を150MPa以下にすることを主眼として、500℃未満では長時間を要し、600℃を越えると軟化が著しくなるからである。望ましくは530〜570℃で20〜40分とするのが良い。
(実施例1)
表1に示す化学成分の鋼を溶製し、転炉−連続鋳造プロセスにより直径170mmのブルーム鋳造した。これらの鋼のブルームを1230℃に加熱し、マンネスマン−プラグミル方式により穿孔−圧延−定型の後、900℃に再加熱し縮径圧延した直後の850℃から、リング冷却により管外面側から水冷した。冷却条件は、管の外表面から1mmだけ内側の位置の冷却速度を最大値、管の内表面の冷却速度を最小値として、750℃から550℃までを、i)15〜5℃/秒、ii)30〜8℃/秒、iii)5〜1℃/秒の3水準の冷却速度で、いずれも内表面が400℃に達するまで冷却した。縮径圧延後の管のサイズは、外径:120mm、肉厚:12mmとした。さらに、肉厚の影響を調べるために、外径:150mm、肉厚:25mmの管も製造し、管の外表面から1mmだけ内側の位置の冷却速度が20℃/秒となる条件、および管の内表面から1mmだけ内側の位置の冷却速度が3℃/秒となる条件で冷却した。なおその際、前者におけるの管内表面から1mmだけ内側の位置の冷却速度は1℃/秒であり、後者におけるの管外表面から1mmだけ内側の位置の冷却速度は40℃/秒であった。
通常の場合、管外面の平均的な脱炭層の厚さは200μmとしたが、さらに、脱炭層厚さの影響を調べるために、ブルームの加熱温度と時間を調節して、管外面の脱炭層厚さを600μmおよび20μmにした鋼管も試作した。
試作管の外表面および内表面からそれぞれ1mmだけ内側の位置に対して、金属組織を観察し、10kgにてビッカース硬さを測定した。金属組織は走査型電子顕微鏡にて最大5000倍まで拡大して観察し、フェライト+パーライト、ベイナイト(一部にフェライトを含む場合もある)、および、焼き戻しマルテンサイトの3通りに判別した。
また、靱性の評価のために、ハーフサイズの2mmUノッチ試験片を用いて+20℃にてシャルピー試験を行い、衝撃値を測定した。
さらに、試作した管を50mm長さに輪切りにし、内外表面を1mmづつ切削した後、外表面を10kHz×10秒の条件で高周波焼き入れし、表面硬さを測定した。その他、管の切断あるいは切削が容易に行えるか否かを判定した。管の製造条件および評価結果を表2に示す。
本発明例であるNo.1〜8は切断や切削が容易で、機械部品として必要な硬さおよび靱性を有し、高周波焼き入れ性に優れていた。
No.9および11はそれぞれC量およびMn量が高すぎて、本発明の製造条件によっても外面側がやや硬くなり、外面の切削や管の切断が困難であったのに加えて、靱性が劣った例である。
それに対して、No.10および12はC量およびMn量が低すぎて内面側の硬さが不足したために、内部の強度が十分でなかった例である。特にNo.10は高周波焼き入れ硬さがHv520と十分でなかった。
No.13はS量が低すぎて、全般的に切削性が良くなかった例である。
No.14〜16は、本発明内の化学成分の鋼にもかかわらず、冷却速度が速すぎたために外面側が硬くなりすぎて、外面の切削や管の切断が困難であったのに加えて、靱性が不十分であった例である。
No.17およびNo.18は、本発明内の化学成分の鋼にもかかわらず、冷却速度が遅すぎて内面側の硬さが不足したために、内部の強度が十分でなかった例である。
No.19は脱炭層が厚すぎて、1mm切削後の外表面の高周波入れ硬さが十分でなかった例である。
No.20は脱炭層が薄すぎて外表面近傍が著しく硬化したため、外面の切削や管の切断が困難であった例である。
No.21は管の肉厚が厚すぎたために、管の外表面から1mmだけ内側の位置の冷却速度を本発明の冷却速度の上限である20℃/秒にしたにもかかわらず、管の内表面から1mmだけ内側の位置の冷却速度が本発明の冷却速度の下限である3℃/秒に達することができず、内部の強度が十分でなかった例である。
No.22は管の肉厚が厚すぎたために、管の内表面から1mmだけ内側の位置の冷却速度を本発明の冷却速度の下限である3℃/秒にしたにもかかわらず、管の外表面から1mmだけ内側の位置の冷却速度が本発明の冷却速度の上限である20℃/秒を越えてしまい、外面側が硬くなりすぎて、外面の切削や管の切断が困難であった例である。
Figure 2006274310
Figure 2006274310
(実施例2)
実施例1で製造したNo.4に対して、種々の熱処理条件で応力除去焼鈍を施し、外表面の円周方向の残留応力および加工精度との関係を調査した。応力除去焼鈍後の管は50mm長さに輪切りにし、内外表面を1mmづつ切削した後、内表面を機械加工により歯切りして、内歯を10kHz×10秒の条件で高周波焼き入れすることによりリングギアを製作した。その加工精度を、リングギアの内径を中心に対して向かい合う歯の頂点間の距離として15°毎に測定し、6点の測定値の最大値と最小値との差を「楕円度」と定義して求めた。結果を表3に示す。No.4は応力除去焼鈍する以前から残留応力が150MPa以下であり、良品に分類される楕円度100μm以下を満足していた。No.4に対して、450℃で60分の応力除去焼鈍を施したNo.23は、熱処理温度が低すぎて応力除去焼鈍の効果がほとんど現れなかった例である。500℃で5分の応力除去焼鈍を施したNo.25は、時間が短かすぎたために最良品に分類される楕円度50μm以下はわずかに達しなかった例である。500〜600℃で10〜60分の応力除去焼鈍を施したNo.24およびNo.26〜29は、熱処理条件が適正であったために、必要硬さを確保しながらも楕円度50μm以下を達成することができた例である。No.30は楕円度に関しては著しく改善されたものの、熱処理温度が高すぎたために焼鈍中に軟化してしまい、硬さが著しく低下して内部の強度が十分でなくなった例である。
Figure 2006274310
本発明による鋼管において最適脱炭層厚が得られる加熱条件を示した図である。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.3%超〜0.6%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5%〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.08%を含有し、残部はFeおよび不可避元素からなる化学組成を有し、肉厚5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上の750℃以上の温度にある鋼管の外表面から肉厚方向に100〜500μmの脱炭層を形成し、かつ該鋼管の内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、700℃から550℃の間を3〜20℃/秒の冷却速度で円周方向に回転させながら外表面側から冷却することを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
  2. 質量%で、C:0.3%超〜0.6%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5%〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.08%を含有し、残部はFeおよび不可避元素からなる化学組成を有し、熱間での延伸工程で肉厚5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上に造管した750℃以上の温度にある鋼管の外表面から肉厚方向に100〜500μmの脱炭層を形成し、かつ該鋼管の内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、700℃から550℃の間を3〜20℃/秒の冷却速度で円周方向に回転させながら外表面側から冷却することを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
  3. 質量%で、C:0.3%超〜0.6%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5%〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.08%を含有し、残部はFeおよび不可避元素からなる化学組成を有する円筒状ブルームを用いて、熱間での穿孔、圧延および延伸工程により肉厚5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上に造管した750℃以上の温度にある鋼管の外表面から肉厚方向に100〜500μmの脱炭層を形成し、かつ該鋼管の内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、700℃から550℃の間を3〜20℃/秒の冷却速度で円周方向に回転させながら外表面側から冷却することを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
  4. 質量%で、C:0.3%超〜0.6%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5%〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、Al:0.01〜0.08%を含有し、残部はFeおよび不可避元素からなる化学組成を有する円筒状ブルームを、下記(1)式を満足する温度、時間で均熱保持した後、熱間での穿孔、圧延および延伸工程により肉厚5mm以上22mm以下、長さが外径の5倍以上に造管した750℃以上の温度にある鋼管を、該鋼管の内外の最表面から肉厚方向に1mm内側までを除いた部分に対して、700℃から550℃の間を3〜20℃/秒の冷却速度で円周方向に回転させながら外表面側から冷却することを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
    2.7335×1062 T-19.509 > t > 2.4726×1057 T-18.121 …(1)
    ここで、T:温度(℃)、t:時間(分)
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載した製造方法において、さらに質量%でCr:0.05〜0.25%を含有することを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載した製造方法において、冷却後さらに500〜600℃で10〜60分の応力除去焼鈍を施すことを特徴とする機械構造部材用鋼管の製造方法。
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