JP2006265093A - 炭化シートの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】
最高炭化温度および昇温速度を一定の範囲内に設定することによって、導電性に優れ、かつ得られる炭化シートの表面品位を著しく向上させることができる炭化シートの製造方法を提供する。
【解決手段】
炭素繊維または/および炭素繊維前駆体を含む炭化シート前駆体を炭化焼成炉内に連続的に走行させて炭化シートを製造する方法であって、前記炭化焼成炉内の最高炭化温度を1400〜1800℃の範囲内に設定とし、かつ前記炭化焼成炉内において、1100℃から最高炭化温度までの炭化過程のシートの温度上昇勾配を10〜3000℃/minの範囲に設定することを特徴とする炭化シートの製造方法。
【選択図】 図1

Description

本発明は、最高温度1400℃以上の高温雰囲気下で炭化シート前駆体を炭化処理する際、得られる炭化シートの表面品位を著しく向上させることができる炭化シートの製造方法に関するものである。
炭素繊維から構成される織物、不織布および紙などの形態からなる炭化シートは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成形や、コンクリート構造物の補修・補強や、電波吸収体や燃料電池の電極等、多種多用な用途に利用されている。
物質の炭素化には、一般的に1400℃以上の高温不活性雰囲気下での加熱処理が必要であるとされている。そのような高温不活性雰囲気下にてシート状物を炭化処理する焼成炉には、一般的にバッチ式の炭化焼成炉と連続式の炭化焼成炉がある。それらのうち、連続式の炭化焼成炉は、対象物を大量に炭化処理する際の生産効率に優れる特長を有する。
連続式の炭化焼成炉における対象物の搬送方法としては、炉内を駆動する特殊なベルトコンベアに搬送させる方式(特許文献1参照)や、焼成炉内または炉外に対象物駆動用のダッシュローラを設け焼成炉内のマッフル上を引き摺って搬送させる方式(特許文献2参照)などがある。それらのうち、上記ベルトコンベア搬送方式においては、使用によりベルトコンベアが熱的ダメージを受けるためベルトコンベアを定期的に交換する必要があり、ランニングコスト面で劣る方法である。そのため、上記引摺り搬送方式が好適な搬送方法であると言える。
しかしながら、上記連続式の炭化焼成炉における共通の問題点として、炭化処理した炭化シート上にシワや起伏が発生することが挙げられる。炭化シートにシワや起伏が発生すると、例えば、それを燃料電池の電極などの用途に使用した場合、プロトン交換膜との剥離を誘発するため、電池特性を著しく低下させてしまう。
ここで炭化シートに発生するシワとは、炭化シートの走行方向とほぼ平行に発生する細長い凸部のことである。また、起伏とは、炭化シートの走行方向とは関係なくランダムな方向に発生する凹凸のことであり、形状が一定していない。
従来、上記炭化シートに発生するシワの抑制方法として、上記のように、炭化シートを引摺り搬送させ、可能な限り低張力で炭化処理を行う方法が開示されている(特許文献2参照)。ところが、炭化シートを低張力で搬送しただけでは、シワの抑制には一定の効果があるもののシワの完全解消には至らず、逆に起伏が多く発生し表面品位に優れた炭化シートを得ることは困難であった。
上記の炭化シートに発生するシワや起伏の発生メカニズムは明確になっていないが、炭素材料の特性として、1800℃以上の温度から急激にクリープを起こして軟化する現象が報告されており、その軟化により炭化シート前駆体に残留する内部応力が緩和されてシワや起伏が発生するものと推測できる。一方で、炭化最高温度が低すぎると炭化シートの炭化度が不十分となり、導電性が低下するため電波吸収体や燃料電池の電極のような目的の用途に適用できなくなる。
また、炭化中のシートにおける1100℃から最高温度までの温度上昇勾配も重要なパラメータの一つである。1100℃から最高温度までの温度上昇勾配を特に制限しない炭化シートの製造方法も開示されている(特許文献3参照)が、温度上昇勾配を適正な範囲に設定しないと、例えば、炭化シート前駆体の炭化反応が急激に進み、炭化シート内で炭化進行度のバラツキが生じてシート内に内部応力が発生し、シワや起伏の原因となることが考えられる。
以上のように、これまでには炭化最高温度と、1100℃から最高温度までの温度上昇勾配に着目した炭化シートの製造方法は提案されていない。
特開2004−183123号公報 特開2004−176245号公報 特開2003−147640号公報
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、最高炭化温度を一定の範囲内に設定することによって、導電性に優れ、かつ得られる炭化シートの表面品位を著しく向上させることができる炭化シートの製造方法を提供することにある。
本発明の炭化シートの製造方法は、上記の目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)炭素繊維または/および炭素繊維前駆体を含む炭化シート前駆体を炭化焼成炉内に連続的に走行させて炭化シートを製造する方法であって、前記炭化焼成炉内の最高炭化温度を1400〜1800℃の範囲内に設定し、かつ前記炭化焼成炉内において、1100℃から最高炭化温度までの炭化過程のシートの温度上昇勾配を10〜3000℃/minの範囲に設定することを特徴とする炭化シートの製造方法。
(2)前記炭化焼成炉内における炭化シート前駆体の搬送方法が引摺り搬送方式である前記(1)に記載の炭化シートの製造方法。
(3)前記炭化シート前駆体内に含まれる炭素繊維または炭素繊維前駆体間の交差部分少なくとも一部に結着剤が付着している炭化シート前駆体を炭化焼成炉内に連続的に走行させる前記(1)または(2)に記載の炭化シートの製造方法。
(4)炭化シート前駆体内に含まれる結着剤が、熱硬化性樹脂を含む前記(3)に記載の炭化シートの製造方法。
(5)結着剤が、熱硬化性樹脂100重量部に対し、5〜40重量部の黒鉛粉末を含む前記(4)に記載の炭化シートの製造方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の炭化シートの製造方法により製造された炭化シート。
(7)厚さが0.1〜0.5mmの範囲である前記(6)に記載の炭化シート。
(8)形態が不織布形態である前記(6)または(7)に記載の炭化シート。
(9)無作為な方向に分散している炭素短繊維が有機物の炭化物で結着されてなることを特徴とする前記(8)に記載の炭化シート。
(10)厚さ方向の電気抵抗が0.1〜50mΩ・cm2の範囲である前記(6)〜(9)のいずれかに記載の炭化シート。
(11)幅200mm以上、長さ3m以上の炭化シートの任意の位置から縦横200mmの試験片を切り出して測定した炭化シートの断面の最大反り量が0〜3mmである前記(6)〜(10)いずれかに記載の炭化シート。
本発明によれば、シワと起伏の発生を抑制した炭化シートの製造が可能となる。また、本発明により得られた炭化シートは、低い電気抵抗を示すとともに、上記シワや起伏が極めて少なく、例えば、これを燃料電池の電極などの用途に使用した場合、プロトン交換膜との接着面の剥離を抑制することができ、燃料電池のセル耐久性を大きく向上させることができる。
以下、本発明における最良の実施形態の例について、図面を参照しながら説明する。
連続式の炭化焼成炉における対象物の搬送方法として、炭化焼成炉内を駆動する特殊なベルトコンベアにより対象物を搬送させる方式や、炭化焼成炉内または炭化焼成炉外に対象物駆動用のダッシュローラを設け焼成炉出口側で張力を付与し、マッフル上を引き摺って搬送させる方式などが用いられる。それらのうち、ベルトコンベア搬送方式は、使用によりベルトコンベアが熱的ダメージを受けるためベルトコンベアを定期的に交換する必要があり、ランニングコスト面で劣ることから、連続式の炭化焼成炉における対象物の搬送方法として、引摺り搬送方式が好適な搬送方法であると言える。以下、連続式の炭化焼成炉における対象物の搬送方法として、引摺り搬送方式を連続式炭化焼成炉に適用した場合を例にとって説明する
図1は、本発明に適用される引摺り搬送方式の連続式炭化焼成炉の一例を示す概略断面図である。図1において、該連続式炭化焼成炉は、加熱部1、予熱部2および冷却部3で構成され、同炭化焼成炉内は不活性雰囲気(窒素)で置換されている。同炭化焼成炉の入口および出口には炭化シート前駆体6および炭化シート5を駆動用するための駆動ロール4、4が設置されており、同炭化焼成炉内のマッフル上を引摺りながら炭化シート前駆体6を走行させながら連続的に炭化させ、炭化シート5を得ることができる。同炭化焼成炉は、駆動ロール4、4の回転数を調整することにより炭化シート5に掛かる張力を制御することができる。好ましい張力の範囲は0.5〜500N/mである。
炭化シート前駆体を炭化焼成炉に連続的に走行させて炭化シートを製造する際、炭化焼成炉内の最高炭化温度を1400〜1800℃の範囲内に設定すると、得られる炭化シートのシワや起伏の発生を抑制することができる。最高炭化温度が1400℃未満では、得られた炭化シートが十分に炭化されず力学的強度が低下したり、電気抵抗が増大したりする。また、最高炭化温度が1800℃を超えると急激にシワや起伏が発生しやすくなる。最高炭化温度の範囲は、好ましくは1500〜1800℃の範囲であり、更に好ましくは1600〜1750℃の範囲である。
また、炭化焼成炉に導入された炭化シート前駆体は、1100℃の温度から1400〜1800℃の最高炭化温度まで加熱されるが、このとき炭化過程にあるシートの温度上昇勾配が好ましくは10〜3000℃/minの範囲であると得られる炭化シートのシワや起伏を抑制することができ、加えて導電性が良好になる。温度上昇勾配を10℃/min未満とすると、ライン速度を低下させるか炭化焼成炉長を長く取らねばならず、生産性や設備コスト面で問題が生ずる。また、温度上昇勾配を3000℃/min以上とすると、炭化シート前駆体の炭化反応が急激に進み、炭化シート内で炭化進行度のバラツキが生じてシート内に内部応力が発生し、シワや起伏の原因となることがある。また、結着剤を使用した場合は、結着剤炭化物にクラックが生じやすくなり、導電性低下の要因となることがある。温度上昇勾配はより好ましくは20〜2500℃/minの範囲であり、更に好ましくは25〜2000℃の範囲である。
ここで、炭化シート前駆体を炭化焼成炉に導入する前段階として、炭化シート前駆体を前処理炉(図示せず)に導入し、炭化を低温(好ましくは最高温度400〜600℃)で促進させ、あらかじめ分解ガスを発生させる方法も用いることができる。
本発明において炭化処理される炭化シート前駆体は、炭素繊維または/および炭素繊維前駆体を含む。炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、およびフェノール系炭素繊維のいずれでも良いが、得られた炭素繊維シートの力学的強度(曲げ強度や引張強度など)が高くなるPAN系炭素繊維またはピッチ系炭素繊維を用いることが好ましく、織物や不織布などシート状への加工が容易なPAN系炭素繊維が更に好ましい。本発明では、炭素繊維と炭素繊維前駆体とを混合した炭化シート前駆体を用いることもできる。炭素繊維および炭素繊維前駆体を炭化処理した後の繊維径としては6〜30μmが好適である。
炭素繊維または/および炭素繊維前駆体を炭化シート前駆体としてシート状の形態に加工する際、シート状の形態が織物形態の炭化シート前駆体の場合は、炭素繊維または/および炭素繊維前駆体を好ましくは1.0〜9.0dtex(デシテックス)の紡績糸に加工し、その紡績糸を用いて、平織り、綾織りおよび繻子織りなどの織組織でシート状に製織する方法を適用することができる。このとき、製織時には上記紡績糸から発生するケバを抑制し製織性を向上させる目的で紡績糸に対し、好適には0.1〜20wt%の糊材を付着させることもできる。糊材の成分としては、澱粉やポリビニルアルコール(PVA)などを用いることができる。製織後の炭化シート前駆体の目付は好ましくは70〜300g/mである。
また、シート状の形態が不織布形態の炭化シート前駆体の場合は、上記炭素繊維または/および炭素繊維前駆体をカーディングした後に、ニードルパンチや水流交絡により繊維を交絡させ不織布を得る方法や、長さ1〜300mmの短繊維にカットした炭素繊維に、バインダーを付着させながら抄紙して得る方法を適用することができる。バインダーの成分としては、澱粉やPVAなどを用いることができ、バインダーの付着量はシート重量に対し0.1〜50wt%が好適である。
また、前記の織物形態または不織布形態の炭化シート前駆体は、カレンダーロールやホットプレスによって加熱加圧処理することもできる。加熱加圧する工程を含むことは、炭化シート前駆体の厚みを薄く、密度を高く、表面を平滑にすることができるため、好ましい態様である。
本発明においては、前記炭化シート前駆体に結着剤を浸透、付着させることにより、前記炭化シート前駆体内に含まれる炭素繊維または/および炭素繊維前駆体における繊維間の交差部分の少なくとも一部に結着剤を介在させて各繊維間を強固に固定し、窒素雰囲気下で炭化処理することで繊維間に結着剤炭化物を残留させ、得られる炭化シートのシワを抑制するとともに力学的強度を向上させることができる。
図2は炭化シート前駆体中に含まれる炭素繊維または/および炭素繊維前駆体7と結着剤8との状態を例示する模式図である。前記結着剤は、図2のように繊維の交差部分の少なくとも一部に介在することが望ましい。繊維間の交差部分以外には結着剤炭化物が介在しても、介在せず空孔となっていてもよい。
また、繊維間を結着剤炭化物で補填することにより、導電性を向上させる効果がある。
炭化シート前駆体内に含まれる結着剤としては、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂やピッチなどを用いることが好ましいが、炭化処理後の残炭が多く炭化後も結着力を保持できる熱硬化性樹脂が最も好ましい。
結着剤の組成としては、熱硬化性樹脂100重量部に対し、黒鉛粉末を好ましくは5〜40重量部含有させ、混合物として使用することが好ましい。これにより、結着剤炭化物自体の強度が増し、結着剤炭化物に発生するクラックを抑制することができるので、更に力学的強度や導電性が良好となる。黒鉛粉末の種類としては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛および膨張化黒鉛などを用いることができるが、結着剤補強の観点から、黒鉛化度が最も高く、かつ表面積の大きい鱗片状黒鉛が最も好ましい。熱可塑性樹脂100重量部に対する黒鉛粉末の比率は、上記のとおり5〜40重量部の範囲が好ましい。黒鉛粉末の比率が5重量部未満になると結着剤炭化物自体の補強効果が小さくなる。また、黒鉛粉末の比率が40重量部を超えると結着力が低下して黒鉛粉末の脱落などが生じることがある。黒鉛粉末の比率はより好ましくは5〜30重量部の範囲であり、更に好ましくは8〜20重量部の範囲である。
本発明の炭化シートの製造工程において、結着剤を浸透、付着させた炭化シート前駆体を緻密化するため、ホットプレスを用いて加熱加圧処理することがある。加熱加圧処理時に、炭化シート前駆体を1〜5層積層し連続的に成形することにより自由な目付の炭化シート前駆体を設計することもできる。
加熱加圧処理温度は、好ましくは160〜300℃であり、さらに好ましくは170〜230℃である。温度が低すぎる場合、加熱加圧処理による炭化シート前駆体の緻密化効果が不十分で、特に140℃未満の温度ではその効果が小さい。温度が高すぎる場合、空気中では炭化シート前駆体の酸化が進行し、強度低下などの問題を起こすことがあり、さらに高温のため設備維持や工程管理が難しくなる。
加熱加圧処理における圧力(面圧)は、好ましくは2〜25MPaであり、より好ましくは3〜15MPaである。圧力が低いと炭化シート前駆体の緻密化効果が不十分であり、圧力が高いと焼成後の炭化シートの気体透過性が低下して燃料電池のガス拡散層として良好な特性を発揮できなくなる傾向を示す。また、圧力が高すぎると加圧面であるプレス面や離型紙に接着する等の問題が起こり、さらに、プレス設備も25MPaで1mを加圧するためには2550tfの加圧力が必要となり、大規模なプレスシステムを用いるか、生産効率を落とし1回当たりの処理面積を小さくする必要が生じる。
加熱加圧処理時間は、好ましくは1.5〜10分であり、さらに好ましくは3.5〜6分である。加熱加圧処理時間が短いと加熱加圧による緻密化効果が十分得られず、また、10分を超える加熱加圧を行っても、それ以上の緻密化効果の増大はあまり期待できない。
炭化シートの厚さは、0.1〜5.0mmの範囲が好適である。厚さが0.1mm未満である場合は、上記製造方法における引摺り搬送時にかかる張力(動摩擦力)により破断しやすく、炭化処理が不可能となることがある。また、厚さが5.0mmを超える場合は炭化シートの熱容量が大きくなり、炭化に必要な熱エネルギーが多量に必要となり、炭化焼成炉内を引摺り走行させる際の走行速度が著しく低下し、生産性に劣る傾向がある。炭化シートの厚さは、より好ましくは0.1〜4.0mmの範囲であり、更に好ましくは0.1〜3.0mmの範囲である。炭化シートの厚さは、炭化シートを面圧で0.15MPaに加圧した際の厚さを測定することで得られる。
炭化シートの形態としては、上記のように不織布形態や織物形態などを取ることができるが、より好適な炭化シートの形態としては加工費が安価である不織布形態であり、さらに好ましくは無作為な方向に分散している炭素短繊維が有機物の炭化物で結着されてなる不織布形態の炭化シートであり、炭素短繊維が分散した状態となっている。ここで、分散した状態とは、炭素短繊維が顕著な配向を持たず概ねランダムに、例えば、無作為な方向に存在している状態である。例えば、後述する抄造法により炭素短繊維がシート面内において分散した状態は、シート強度を高くできるため好ましい態様である。
上記の製造方法によって得られた炭化シートは、最高温度が1800℃で炭化処理されることにより厚さ方向の電気抵抗が0.1〜50mΩ・cmの範囲となる。厚さ方向の電気抵抗は低い方が好ましいが、0.1mΩ・cmを下回る炭化シートを作製することは炭素材料の特性上不可能である。電気抵抗が50mΩ・cmを超えると炭化シートの強度や導電性が失われ、電波吸収体、燃料電池の電極等の用途に適応できなくなる。電気抵抗はより好ましくは0.5〜40mΩ・cmであり、更に好ましくは1〜30mΩ・cmである。
電気抵抗の測定は、以下のように行う。金メッキしたステンレスブロックに電流用と電圧用の端子を設けたものを2個用意し、金メッキステンレスブロック2個の間に20mm×25mmに切った炭化シートを挟み込んで、1MPaの圧力がかかるよう加圧する。このとき電圧用端子はサンプルを挟んだ面の近くに、電流用端子はサンプルを挟んだ面の反対側の面近傍に来るように配置する。電流用端子間に1Aを流し、電圧用端子間で電圧V(V)を測定して、次の(1)式により抵抗値を算出する。
電気抵抗(mΩ・cm)=V×2×2.5×1000…………(1)
上記の製造方法によって、幅200mm以上、長さ3m以上の長尺の炭化シートを得ることができる。得られた幅200mm以上、長さ3m以上の長尺の炭化シートは、他の製造方法によって得られた炭化シートと比較して表面品位に優れ、任意の位置から縦横200mmの試験片を切り出して断面を測定したときの最大反り量が0〜3mmの範囲となる。
図3は、炭化シートの最大反り量測定方法を説明するための装置の概略斜視図と概略側面図である。
図3において、定盤などの基準面9の上に上記試験片10を無負荷の状態で乗せ、測定点11において、基準面9から試験片10までの距離を反り量13として測定する。基準面9から試験片10までの距離の測定は、例えば、反射型レーザ変位計などを用いることができる。測定点11の間隔12は2.5mm以下とし、一辺が間隔12の正方格子状に測定点11を設定する。試験片上の全ての測定点11における反り量13の中で、最も大きな反り量を、試験片10の最大反り量とする。このとき、シワや起伏の有無を目視で判定した。
[実施例1]
ポリアクリロニトリル系酸化繊維(単繊維繊度1.3dtex)を紡績して5.0dtexの紡績糸を作製し、その紡績糸を平織りにした後、ロールプレス機にて圧縮処理(ロール温度は200℃、プレス線圧は50kgf/cm)し、幅500mm、長さ100m、目付130g/mの炭化シート前駆体を作製した。
上記炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1750℃、窒素雰囲気)中を0.5m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は108℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.14mm、最大反り量は1.0mm、厚さ方向の電気抵抗は5.5mΩ/cm、シワおよび起伏は発生していなかった。結果を表1に示す。
[実施例2]
炭素繊維(東レ株式会社製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300−6K、平均単繊維径7μm、単繊維数6000本)を12mm長にカットして水槽に分散させて連続的に抄紙し、PVAをバインダー(PVA付着量は、炭素繊維80wt%に対し20wt%)として用いた炭素繊維紙ロールを作製した。得られた炭素繊維紙に、結着剤としてフェノール樹脂を連続的に含浸させ、炭素繊維紙の結着剤含浸ロールを作製した。このときのフェノール樹脂付着量は50wt%であった。その後、一定のタイミングで上下するプレス機に挿入しながら間欠的に引き取ることでプレスを行い、幅500mm、長さ100m、目付110g/mの炭化シート前駆体を作製した。
上記炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1750℃、窒素雰囲気)中を0.5m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は108℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.15mm、目付は60g/m、最大反り量は0.7mm、厚さ方向の電気抵抗は5.3mΩ/cm、炭化シート上にシワおよび起伏は発生していなかった。結果を表1に示す。
[実施例3]
炭素繊維(東レ株式会社製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300−6K、平均単繊維径7μm、単繊維数6000本)を12mm長にカットして水槽に分散させて連続的に抄紙し、PVAをバインダー(PVA付着量は炭素繊維80wt%に対し20wt%)として用いた炭素繊維紙ロールを作製した。得られた炭素繊維紙に、結着剤としてフェノール樹脂および黒鉛粉末を連続的に含浸させ、炭素繊維糸の結着剤含浸ロールを作製した。このときのフェノール樹脂付着量は50wt%であり、黒鉛粉末は10wt%であった。その後、一定のタイミングで上下するプレス機に挿入しながら間欠的に引き取ることでプレスを行い、幅500mm、長さ100m、目付110g/mの炭化シート前駆体を作製した。
上記炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1750℃、窒素雰囲気)中を0.5m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭素短繊維が無作為な方向に分散しており有機物の炭化物で結着されてなる不織布形態の炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は108℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.15mm、目付は60g/m、最大反り量は0.3mm、厚さ方向の電気抵抗は5.0mΩ/cm、炭化シート上にシワおよび起伏は発生していなかった。結果を表1に示す。
[実施例4]
ポリアクリロニトリル系酸化繊維(単繊維繊度1.3dtex)90wt%と、炭素繊維(東レ株式会社製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300−6K、平均単繊維径7μm、単繊維数6000本)10wt%とを混紡し4.8dtexの紡績糸を作製し、その紡績糸を平織りにした後、ロールプレス機にて圧縮処理(ロール温度は200℃、プレス線圧は50kgf/cm)し、幅500mm、長さ100m、目付125g/mの炭化シート前駆体を作製した。
上記炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1750℃、窒素雰囲気)中を0.5m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は108℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.14mm、最大反り量は1.0mm、厚さ方向の電気抵抗は5.2mΩ/cm、シワおよび起伏は発生していなかった。結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例3で作成した炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1500℃、窒素雰囲気)中を0.5m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭素短繊維が無作為な方向に分散しており有機物の炭化物で結着されてなる不織布形態の炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は67℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.14mm、目付は60g/m、最大反り量は0.6mm、厚さ方向の電気抵抗は6.5mΩ/cm、炭化シート上にシワおよび起伏は発生していなかった。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1で作製した炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1850℃、窒素雰囲気)中を0.5m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は125℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.14mm、最大反り量は8.0mm、厚さ方向の電気抵抗は5.5mΩ/cm、シワおよび起伏が多く発生した。結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1で作製した炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1850℃、窒素雰囲気)中を14.0m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は3500℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.25mm、最大反り量は9.5mm、厚さ方向の電気抵抗は60.2mΩ/cm、シワおよび起伏が多く発生した。結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例1で作製した炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1300℃、窒素雰囲気)中を0.5m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は42℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.14mm、最大反り量は1.0mm、厚さ方向の電気抵抗は80.5mΩ/cm、シワおよび起伏は発生しなかった。結果を表1に示す。
[比較例4]
実施例3で作成した炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1950℃、窒素雰囲気)中を0.5m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は142℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.14mm、目付は60g/m、最大反り量は5.3mm、厚さ方向の電気抵抗は5.5mΩ/cm、起伏は発生しなかったが、3mm以上のシワが発生した。結果を表1に示す。
[比較例5]
実施例3で作成した炭化シート前駆体を、加熱部の長さが2mである前処理炉(最高温度650℃、窒素雰囲気)、および加熱部の長さが3mの炭化処理炉(最高温度1850℃、窒素雰囲気)中を0.5m/minの速度で連続的に引き摺り走行させ、炭化シートを得た。このときの炭化処理炉内の温度勾配は125℃/minであった。得られた炭化シートの厚さは0.14mm、目付は60g/m、最大反り量は2.3mm、厚さ方向の電気抵抗は5.8mΩ/cm、起伏は発生しなかったが、シワが発生した。結果を表1に示す。
本発明は、連続式炭化焼成炉に限らず、バッヂ式の炭化焼成炉など、シート状物を炭化処理するあらゆる製造方法に対して応用することができるが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。
図1は、本発明に適用される引摺り搬送方式の連続式炭化焼成炉の一例を示す概略断面図である。 図2は、炭化シート前駆体中に含まれる炭素繊維または/および炭素繊維前駆体と結着剤の状態を例示する模式図である。 図3は、炭化シートの最大反り量測定方法を説明するための装置の概略斜視図と概略側面図である。
符号の説明
1 加熱部
2 予熱部
3 冷却部
4 駆動ロール
5 炭化シート
6 炭化シート前駆体
7 炭素繊維および/または炭素繊維前駆体
8 結着剤
9 基準面
10 試験片
11 測定点
12 測定点の間隔
13 反り量

Claims (11)

  1. 炭素繊維または/および炭素繊維前駆体を含む炭化シート前駆体を炭化焼成炉内に連続的に走行させて炭化シートを製造する方法であって、前記炭化焼成炉内の最高炭化温度を1400〜1800℃の範囲内に設定し、かつ前記炭化焼成炉内において、1100℃から最高炭化温度までの炭化過程のシートの温度上昇勾配を10〜3000℃/minの範囲に設定することを特徴とする炭化シートの製造方法。
  2. 炭化焼成炉内における炭化シート前駆体の搬送方法が引摺り搬送方式である請求項1記載の炭化シートの製造方法。
  3. 炭化シート前駆体内に含まれる炭素繊維または炭素繊維前駆体間の交差部分の少なくとも一部に結着剤が付着している炭化シート前駆体を、炭化焼成炉内に連続的に走行させる請求項1または2記載の炭化シートの製造方法。
  4. 炭化シート前駆体内に含まれる結着剤が、熱硬化性樹脂を含む請求項3記載の炭化シートの製造方法。
  5. 結着剤が、熱硬化性樹脂100重量部に対し5〜40重量部の黒鉛粉末を含む請求項4記載の炭化シートの製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の炭化シートの製造方法により製造された炭化シート。
  7. 厚さが0.1〜5.0mmの範囲である請求項6記載の炭化シート。
  8. 形態が不織布形態である請求項6または7記載の炭化シート。
  9. 無作為な方向に分散している炭素短繊維が有機物の炭化物で結着されてなることを特徴とする請求項8記載の炭化シート。
  10. 厚さ方向の電気抵抗が、0.1〜50mΩ・cmの範囲である請求項6〜9のいずれかに記載の炭化シート。
  11. 幅200mm以上で、長さ3m以上の炭化シートの任意の位置から縦横200mmの試験片を切り出して断面を測定したときの最大反り量が、0〜3mmである請求項6〜10のいずれかに記載の炭化シート。
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