JP2006252760A - 磁気記録媒体およびそれを用いた磁気記録装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】最短記録マーク長が100nm未満のような微小な記録マークを形成して高密度記録を行う場合でも、十分な信号品質で記録が可能であり、かつ、層構造の簡素化が可能な磁気記録媒体および磁気記録装置を提供する。
【解決手段】基板2と、情報を磁気的に記録するための磁性層4とを備え、上記基板2と磁性層4との間に、非磁性金属元素からなる下地層3が設けられた磁気記録媒体1において、上記磁性層4が加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するものであって、基板2と磁性層4との間に、平均層厚が10nm以下の非磁性金属元素からなる下地層3を磁性層4に接するように設ける。これにより、下地層3表面の微小な凹凸により、磁性層4の磁壁移動が効果的に抑制され、その結果、微小な記録マークを安定して形成できる。
【選択図】図1
【解決手段】基板2と、情報を磁気的に記録するための磁性層4とを備え、上記基板2と磁性層4との間に、非磁性金属元素からなる下地層3が設けられた磁気記録媒体1において、上記磁性層4が加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するものであって、基板2と磁性層4との間に、平均層厚が10nm以下の非磁性金属元素からなる下地層3を磁性層4に接するように設ける。これにより、下地層3表面の微小な凹凸により、磁性層4の磁壁移動が効果的に抑制され、その結果、微小な記録マークを安定して形成できる。
【選択図】図1
Description
本発明は、磁性層の記録領域に対し光ビーム(熱源)による昇温および磁界の印加によって磁気的に情報を記録する磁気記録装置に好適に用いられる磁気記録媒体およびそれを用いた磁気記録装置に関するものである。
近年、DVD(Digital Versatile Disc)や光磁気ディスクに代表される光メモリ、およびハードディスクに代表される磁気メモリの高密度化は著しい。中でも高密度磁気記録再生技術の1つとして、光アシスト磁気記録再生方式が開発されている。例えば、特許文献1には、略室温に補償点(磁気的補償温度)を有するN形フェリ磁性体からなる記録層が形成された磁気記録媒体、およびそれを使用したレーザ光による光アシスト磁気記録再生方式(以下、第1の従来技術と称する)が開示されている。
このような光アシスト磁気記録再生方式では、記録時には、磁気記録媒体の記録領域をレーザ光により昇温させ、保磁力を十分に低下させた状態で、記録用磁気ヘッドにより外部磁場を記録領域に印加することで、情報の記録を行う。その際に記録マーク(磁気ビット)が形成される領域は、レーザ光照射領域と磁場印加領域とが重なり合う領域に限定される。すなわち、これらの位置関係を図17を用いて説明すると、磁気ヘッドによる磁場印加領域111と、レーザ光照射による昇温領域(光スポットに対応する)112との重ね合わせ部分が記録領域113となり、この記録領域113に、記録マーク114が形成される。その結果、従来と同様の数μm幅の記録用磁気ヘッドを用いながら、レーザ光のビームスポット径(昇温領域112の径;0.5μm以下)と同等の幅を持つ狭いトラック115を磁気記録媒体上に記録することが可能となる。
また、再生時にも、磁気記録媒体の再生領域をレーザ光により昇温させ、残留磁化の強度を大きくした状態で、再生用磁気ヘッドにより再生領域から情報が読み出される。その際に再生される領域もまた、レーザ照射領域と再生ヘッド領域とが重なり合う領域に限定される。その結果、幅の広い再生用磁気ヘッドを用いながら、狭いトラックピッチで記録されたトラックをクロストークを抑えて再生することが可能となる。
このようにして、第1の従来技術である光アシスト磁気記録再生方式は、熱源にレーザ光を用いて磁場印加領域より狭い領域を選択的に昇温することにより、記録トラック幅を縮小すると共にクロストークを低減し、その結果、高密度の記録再生が行えるという特徴を持っている。
また、上記の光アシスト磁気記録再生方式では、磁気記録媒体として、ディスク基板上に、下地層として窒化アルミニウム(AlN)膜を60nm成膜し、次いで、記録層および保護層をこの順でAlN膜上に成膜したものが用いられている。上記のAlN下地層は、光の反射を防止して昇温効率を高めるために設けられたものである。すなわち、上記のAlN下地層は、磁気記録媒体に入射した光の吸収率(記録層に吸収される光の割合)を向上させ、記録感度を向上させるために使用されていた。
一方、非特許文献1には、光を照射せず、磁気ヘッドのみによって記録を行う従来の垂直磁気記録方式に用いる垂直磁気記録媒体において、凹凸構造を持つ下地層を備える垂直磁気記録媒体(以下、第2の従来技術と称する)が開示されている。これによれば、磁壁の移動を抑えること、すなわち、いわゆる磁壁移動のピニング(束縛)を行うことができ、その結果、記録密度を向上させることができる。なお、凹凸構造を持つ下地層としては、NiP層が挙げられている。
また、非特許文献2の第235頁には、凹凸構造を持つ下地層として同じくNiP層を用いた例が開示されている。しかしながら、実際には磁性体であるNiが析出した場合でもTbFeCoとNiが交換結合しないように、NiP下地層と、TbFeCo磁性層との間に、炭素層を挿入する必要があることが記載されている。
また、非特許文献3の第188頁には、ガラス基板とTbFeCo記録層との間にアルミニウム層を設けた光磁気記録媒体(以下、第3の従来技術と称する)が開示されている。
特開平4−176034号公報
論文 K. Ozaki et al.,"TbFeCo as a Perpendicular Magnetic Recording Material",J. Mang. Soc. Japan, 25, 322-327 (2001)
松本幸治等,「MO膜を用いた磁気記録媒体」,第25回応用磁気学会予稿集
論文 H. Kawano, et al.,"EFFECT OF AIR GAP ON WRITE AND READOUT CHARACTERISTICS OF MAGNETO-OPTICAL MEDIA WITH SOLID IMMERSION LENS", Technical Digest of Joint MORIS/APDSC 2000
情報記録媒体においては、記録周波数(磁界変調方式の場合には磁界印加の周波数)を上げて、最短記録マーク長(1ビットの情報に対応する最小単位の記録マークのトラック方向に沿った長さ;図17のMに相当する)を短くすればするほど、高密度の記録が可能になる。
しかしながら、特許文献1に記載されている光アシスト磁気記録方法では、用いられている磁気記録媒体の性能が不十分であったため、最短記録マーク長が200nm以下の記録マークを形成することは困難であり、記録密度の向上に限界がある。
これは、上記特許文献1で用いられている磁気記録媒体の記録再生評価を行った結果、最短記録マーク長が約200nm以下に差し掛かる辺りから、信号品質が急激に劣化する現象が現われるという事実に基づいている。さらには、磁気記録媒体に形成された記録マークを磁気力顕微鏡(MFM;Magnetic Force Microscope)により観察した結果、最短記録マーク長が約200nmに差し掛かる辺りから、個々の記録マークに乱れが生ずる現象、例えば、記録マーク同士が引っ付き合う現象や、記録マークが消えて無くなる現象等が発生し、トラック幅の現象としてみると、トラック幅が次第に細くなり最終的には途切れを生じるという現象等が発生した。よって、従来の磁気記録媒体では、光アシスト磁気記録装置としての信頼性を考えた場合、実際に使用できる最短記録マーク長は250nmが限界であった。
このように記録マークの形状が安定しない要因の一つとして、交換相互作用力が考えられる。記録マークが小さくなるに従い、記録マークに働く力の中でも、交換相互作用力の占める割合は大きくなる。記録層が、TbFeCo磁性体等の略室温に補償点を有するN形フェリ磁性体からなる場合には、交換相互作用力は、隣り合う記録マークの磁化方向を同一方向に揃えるように働く力となる。特に、記録領域に対して昇温を行う光アシスト記録再生法においては、記録時には著しく記録再生領域の磁気異方性(保磁力)が低下するため、交換相互作用力の占める割合が大きくなる。そのため、記録マークを形成しようにも、周辺の磁化状態から交換相互作用力により影響を受け、磁壁(磁気壁)が簡単に移動してしまい、上記の現象につながると考えられる。最短記録マーク長が200nm以下の記録マークを安定して形成するには、例えば、磁壁移動の束縛部位(ピニングサイト)を導入する等、磁壁移動を抑える何らかの手段が必要であった。
また、前述した第2の従来技術は、実際には、基板と記録層との間に3つの下地層が必要である。すなわち、第2の従来技術は、高密度記録を可能にするための下地層としてニッケル燐(NiP)層を用いている。NiP層は、スパッタ製膜時に、または経時変化により、極少量ではあるが、層分離を起こし、その結果として、構成元素であるNiが析出することがある。このNiも強磁性体(軟磁性体)であるため、この様な場合にも、析出したNiと記録層(磁性層)とが交換結合しないために、下地層と記録層との間に炭素保護層を設ける必要がある。そして、光アシスト記録再生によりレーザ昇温を行った場合、NiPの層分離は加速して進む。その結果、記録再生領域のランダムな位置において、Niの析出が起こり、軟磁性体に変化する。また、この変化は、不可逆なものであり、かつ、記録層の磁気ビットの位置や形状とは一致しないため、再生信号に対しノイズを発生させる要因になると考えられる。また、下地層と基板との間に窒化シリコン層(接着層)を設ける必要がある。そのため、層構造が複雑であり、層数の多い分だけ作製プロセスが増え、量産化が困難である。また、第2の従来技術は、下地層が、ニッケル燐(NiP)からなるため、レーザ光による昇温時に軟磁性体に変化する。そのため、記録層の磁気信号に影響が出るという問題が生じる。
また、前述した第3の従来技術では、アルミニウム層が窒化シリコン層で挟持されており、アルミニウム層がTbFeCo記録層に接しておらず、かつ、アルミニウム層を反射層として利用しているため、アルミニウム層の厚みが40nmと厚い。また、アルミニウム層は、凹凸があると、反射層としての機能が低下し、反射効率が悪くなる。それゆえ、アルミニウム層を反射層として利用する場合、十分な反射効率を得るためには、アルミニウム層を平坦にすることが必要である。そのため、TbFeCo記録層の磁壁移動を十分に抑えることができない。
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、十分な信号品質で高密度記録を行うことが可能であり、かつ、層構造の簡素化が可能な磁気記録媒体およびそれを用いた磁気記録装置を提供することにある。
本発明の磁気記録媒体は、上記の課題を解決するために、基板と、情報を磁気的に記録するための磁性層とを備え、上記基板と磁性層との間に、非磁性金属元素からなる下地層が設けられた磁気記録媒体において、上記磁性層が加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するものであって、上記下地層が該磁性層と接していることを特徴としている。
上記各構成によれば、非磁性金属元素からなる下地層を用いたので、非磁性金属元素の結晶粒あるいはアモルファス粒に由来した凹凸を磁性層に接する下地層表面に形成できる。そして、この凹凸は、従来の光アシスト磁気記録媒体に用いられている窒化アルミニウムからなる下地層表面の凹凸と比較して微小なサイズ(凸部の径)を有している。この磁性層と接する下地層表面の凹凸は、磁性層の磁壁移動を妨げる束縛部位(ピニングサイト)として作用する。このため、上記各構成では、窒化アルミニウムからなる下地層を備える従来の光アシスト磁気記録媒体(第1の従来技術)と比較して、磁性層の磁壁移動をより短い距離に抑えることができる。また、上記各構成では、非磁性金属元素からなる下地層を磁性層と接するように設けたことで、磁性層の基板側に窒化シリコン層を介してアルミニウム層を設けた第3の従来技術と比較して、磁性層の磁壁移動を効果的に抑えることができる。
以上のことから、上記各構成の磁気記録媒体では、微小な記録マークを安定して形成できる。その結果、最短記録マーク長が100nm以下のような微小な記録マークを形成して高密度記録を行う場合においても、十分な信号品質が得られる。
この効果は、磁性層が加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するためのものである場合にも顕著に現われる。それは次のような理由による。加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録する場合においては、記録時に記録領域を昇温するため、磁性層は、保磁力が低下すると共に磁気異方性が著しく低下する。そのため、磁壁移動が起こり易く、下地層による磁壁移動の抑制がより重要となる。その結果、下地層による高密度記録時の信号品質を向上させる効果がより一層顕著となる。
さらに、上記各構成によれば、下地層が非磁性金属元素からなるので、下地層が磁性金属元素からなる第2の従来技術のように昇温等により磁性体が析出する不具合が無い。それゆえ、下地層と磁性層との間に炭素保護層等の保護層を設ける必要がなく、また、下地層と基板との間に窒化シリコン層(接着層)を設ける必要がない。そのため、第2の従来技術に対して層構造の簡素化(層数の低減)が可能となり、量産化が容易である。したがって、上記各構成によれば、昇温による熱劣化が少なく、かつ、層構造の簡素化が可能であり、量産化が容易な磁気記録媒体を提供できる。
本発明の磁気記録媒体は、上記の課題を解決するために、基板と、情報を磁気的に記録するための磁性層とを備え、上記基板と磁性層との間に、非磁性金属元素からなる下地層が設けられた磁気記録媒体において、上記下地層の平均層厚が、10nm以下であることを特徴としている。
上記各構成によれば、金属元素からなる下地層を用いたので、金属元素の結晶粒あるいはアモルファス粒に由来した凹凸を磁性層に接する下地層表面に容易に形成できる。そして、この凹凸は、従来の光アシスト磁気記録媒体に用いられている窒化アルミニウムからなる下地層表面の凹凸と比較して微小なサイズ(凸部の径)を有している。これにより、従来の磁気記録媒体(第1の従来技術および第3の従来技術)と比較して、微小なサイズ(凸部の径)を有する凹凸を磁性層と接する層(下地層または下地層と磁性層との間に存在する層)の表面に形成することができる。この磁性層と接する層表面の凹凸は、磁性層の磁壁移動を妨げる束縛部位(ピニングサイト)として作用する。このため、従来の光アシスト磁気記録媒体と比較して、磁性層の磁壁移動をより短い距離に抑えることができ、微小な記録マークを安定して形成できる。その結果、最短記録マーク長が100nm以下のような微小な記録マークを形成して高密度記録を行う場合においても、十分な信号品質が得られる。
この効果は、磁性層がTbFeCo磁性体等の非晶質(アモルファス)磁性体からなる場合や、磁性層が加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するためのものである場合に顕著に現われる。それは、前述したように、これらの場合には、磁壁移動が起こりやすいため、磁性層の磁壁移動を抑制することがより重要になるからである。
また、上記各構成においても、下地層が非磁性金属元素からなるので、下地層が磁性金属元素からなる第2の従来技術のように昇温等により磁性体が析出する不具合が無い。それゆえ、下地層と磁性層との間に炭素保護層等の保護層を設ける必要がなく、また、下地層と基板との間に窒化シリコン層(接着層)を設ける必要がない。そのため、第2の従来技術に対して層構造の簡素化(層数の低減)が可能となり、量産化が容易である。したがって、上記各構成によれば、昇温による熱劣化が少なく、かつ、層構造の簡素化が可能であり、量産化が容易な磁気記録媒体を提供できる。
また、上記各構成によれば、下地層の平均層厚が10nm以下であるので、層厚40nmのアルミニウム層を用いた第3の従来技術と比較して、より微小なサイズ(凸部の径)を有する凹凸を磁性層と接する層(下地層または下地層と磁性層との間に存在する層)の表面に形成することができる。それゆえ、磁性層の磁壁移動をより短い距離に抑えることができ、微小な記録マークを安定して形成できる。その結果、最短記録マーク長が100nm以下となるような高密度記録を行う場合の信号品質をさらに向上させることができる。
上記各構成の磁気記録媒体において、上記下地層の平均層厚は、2〜10nmの範囲内(2nm以上10nm以下)であることが好ましい。
上記構成によれば、下地層の平均層厚が2nm以上であるので、十分大きなサイズ(凸部の径)の凹凸を磁性層と接する層の表面に形成することができる。このため、磁壁移動を効果的に抑えることができる。それゆえ、微小な記録マークを安定して形成でき、高密度記録を十分な信号品質で行うことができる。
また、上記各構成の磁気記録媒体において、上記下地層の平均層厚は、2〜6nmの範囲内(2nm以上6nm以下)であることがさらに好ましい。
上記構成によれば、下地層の平均層厚が2〜6nmであるので、より微小で、かつ、十分大きなサイズ(凸部の径)の凹凸を磁性層と接する層の表面に形成することができる。このため、磁壁移動を効果的に抑えることができ、かつ、磁壁移動を短い距離に抑えることができる。それゆえ、さらに微小な記録マークを安定して形成でき、更なる高密度記録を十分な信号品質で行うことができる。
本発明の磁気記録媒体は、上記の課題を解決するために、基板と、情報を磁気的に記録するための磁性層とを備え、上記基板と磁性層との間に、磁性層側の表面に凹凸を有する下地層が設けられた磁気記録媒体において、上記下地層は、非磁性金属元素からなり、上記凹凸は、凸部の径が100nm未満であることを特徴としている。
また、本発明の磁気記録媒体は、下地層の表面形状が磁性層表面に引き継がれ、磁性層の表面にまで凹凸を有することを特徴としている。
上記構成によれば、凸部の径が100nm未満の凹凸を下地層の磁性層側表面に形成したので、表面の凸部の径が100nm以上である窒化アルミニウム層を下地層として用いた従来の光アシスト磁気記録媒体や、層厚40nmのアルミニウム層を用いた第3の従来技術と比較して、より微小なサイズ(凸部の径)を有する凹凸を磁性層と接する層(下地層または下地層と磁性層との間に存在する層)の表面に形成することができる。このため、従来の光アシスト磁気記録媒体や第3の従来技術と比較して、磁性層の磁壁移動をより短い距離に抑えることができ、微小な記録マークを安定して形成できる。その結果、最短記録マーク長が100nm以下のような微小な記録マークを形成して高密度記録を行う場合においても、十分な信号品質が得られる。
さらに、上記構成によれば、下地層が非磁性金属元素からなるので、下地層と磁性層との間に炭素保護層を設ける必要がなく、また、下地層と基板との間に窒化シリコン層(接着層)を設ける必要がない。そのため、第2の従来技術よりも層の数を少なくして、量産化が容易な磁気記録媒体を提供することが可能となる。
なお、本願明細書において、「凸部の径」とは、凹部の底の高さを基準としそれより高い部分を凸部として考えた場合における凸部の径を指すものとする。また、本願明細書において、「凸部の径が100nm未満である」とは、凸部の径の平均値が100nm未満であることを指すものとする。
前記のいずれかの構成を備える磁気記録媒体において、上記非磁性金属元素は、アルミニウムであることが好ましい。
上記構成によれば、より微小なサイズ(凸部の径)を有する凹凸を磁性層と接する表面に形成することができ、また、下地層表面の凹凸と同程度の大きさおよび密度の凹凸を、磁性層における外側表面(基板と反対側の面)に形成でき、磁壁移動をより効果的に抑制できる。その結果、最短記録マーク長が100nm以下のような微小な記録マークを形成して高密度記録を行う場合の信号品質をさらに向上させることができる。
前記のいずれかの構成を備える磁気記録媒体は、25℃以上の磁気的補償温度を有することが好ましい。
これにより、熱安定性が高く、光アシスト磁気記録に適した磁気記録媒体を提供することができる。
上記の25℃以上の磁気的補償温度を有する磁気記録媒体を実現するためには、下地層に合わせて磁性層の設計をすればよい。
なお、本願発明において、「磁気的補償温度」とは、キュリー温度未満で、見かけ上の磁化が略0になる温度を指すものとする。
本発明の磁気記録媒体は、上記磁性層が、複数の記録マークからなるトラックを形成されるためのものであり、上記下地層における磁性層側の表面が凹凸構造を備え、上記下地層における磁性層側の表面の凸部の径が、上記トラックの最短記録マーク長(トラック長手方向の寸法)よりも小さいことが好ましい。
これにより、磁性層の磁壁移動を、記録マーク同士が引っ付き合う等の記録マークの乱れを防止するのに十分な程度にまで抑制することができ、その結果、十分な信号品質で記録された磁気記録媒体を提供できる。
また、本発明の磁気記録媒体は、上記磁性層に、40ギガビット毎平方インチ〔Gb/inch2 〕(6.2ギガビット毎平方センチメートル〔Gb/cm2 〕)以上の面記録密度で情報が記録されていることが好ましい。
面記録密度を40ギガビット毎平方インチ以上にまで高めた場合、最短記録マーク長は非常に短く(例えば、80nm)にまで短くなる。本発明の磁気記録媒体では、従来よりも微小な凹凸を磁性層に接する表面に形成できるので、このような面記録密度を高めた場合においても、信号品質の低下を防止できる。その結果、40ギガビット毎平方インチ以上の面記録密度で情報が記録され、かつ、十分な信号品質を有する磁気記録媒体を提供することができる。
本発明の磁気記録装置は、上記の課題を解決するために、前記のいずれかの構成を備える磁気記録媒体に対し、磁性層に情報を磁気的に記録する磁気記録装置であって、上記磁性層の磁化方向を決定するための磁界を磁性層に印加する磁界印加手段を備えることを特徴としている。
上記構成によれば、前記の特徴を備える磁気記録媒体を用いたので、十分な信号品質で高密度記録を行うことが可能な磁気記録装置を提供できる。
本発明の磁気記録装置は、上記の課題を解決するために、前記のいずれかの構成を備える磁気記録媒体に対し、磁性層に情報を磁気的に記録する磁気記録装置であって、上記磁性層を局所的に加熱するための光ビームを磁性層に照射する光照射手段と、上記磁性層における光ビームが照射された領域の少なくとも一部に対して、上記磁性層の磁化方向を決定するための磁界を印加する磁界印加手段とを備えることを特徴としている。
上記構成によれば、前記の特徴を備える磁気記録媒体を用いたので、十分な信号品質で高密度記録を行うことが可能な磁気記録装置を提供できる。
また、上記構成によれば、光照射手段による光ビームの照射により磁性層を局所的に加熱すると共に、磁性層における光ビームが照射された領域の少なくとも一部に磁界印加手段により磁界を印加する磁気記録方式、すなわち、いわゆる光アシスト磁気記録方式を用いたので、記録される領域が、光ビーム照射領域と磁界印加領域とが重なり合う領域に限定される。それゆえ、記録トラック幅を縮小することができ、高密度の記録が行える。
さらに、光アシスト磁気記録方式においては、記録時に記録領域(記録マーク)を昇温するため、磁性層は、保磁力が低下すると共に磁気異方性が著しく低下する。そのため、光アシスト磁気記録方式においては、磁壁移動が起こり易く、下地層による磁壁移動の抑制がより重要となる。その結果、光アシスト磁気記録方式においては、下地層による高密度記録時の信号品質を向上させる効果がより一層顕著となる。
本発明の磁気記録媒体は、以上のように、基板と、情報を磁気的に記録するための磁性層とを備え、上記基板と磁性層との間に、非磁性金属元素からなる下地層が設けられた磁気記録媒体において、上記磁性層が、加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するための磁性層であり、上記下地層が該磁性層と接している構成である。
上記構成によれば、下地層が非磁性金属元素からなるので、従来の光アシスト磁気記録媒体と比較して、微小なサイズ(凸部の径)を有する凹凸を磁性層と接する層の表面に形成することができ、磁性層の磁壁移動をより短い距離に抑えることができる。また、下地層が磁性層と接しているので、第3の従来技術と比較して、磁性層の磁壁移動を効果的に抑えることができる。その結果、上記構成は、微小な記録マークを安定して形成でき、十分な信号品質で高密度記録を行うことができる。また、磁性層が加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するためのものである場合には、磁壁移動が起こり易いので、この効果が顕著に現われる。
さらに、上記構成によれば、下地層が、非磁性金属元素からなり、保護層や接着層を必要としないので、第2の従来技術よりも層構造を簡素化することが可能となる。
したがって、本発明の磁気記録媒体は、十分な信号品質で高密度記録を行うことが可能であり、かつ、層構造の簡素化が可能な磁気記録媒体を提供できるという効果を奏する。
本発明の磁気記録媒体は、以上のように、基板と、情報を磁気的に記録するための磁性層とを備え、上記基板と磁性層との間に、非磁性金属元素からなる下地層が設けられた磁気記録媒体において、上記磁性層が、加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するための磁性層であり、上記下地層の平均層厚が10nm以下である構成である。
上記構成によれば、下地層が、非磁性金属元素からなり、かつ、平均層厚が10nm以下であるので、従来の光アシスト磁気記録媒体や第3の従来技術と比較して、微小なサイズ(凸部の径)を有する凹凸を磁性層と接する層の表面に形成することができる。このため、従来の光アシスト磁気記録媒体や第3の従来技術と比較して、磁性層の磁壁移動をより短い距離に抑えることができ、微小な記録マークを安定して形成できる。その結果、上記構成は、十分な信号品質で高密度記録を行うことができる。また、磁性層が加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するためのものである場合には、磁壁移動が起こり易いので、この効果が顕著に現われる。
さらに、上記構成によれば、下地層が、非磁性金属元素からなり、保護層や接着層を必要としないので、第2の従来技術よりも層構造を簡素化することが可能となる。
上記構成の磁気記録媒体において、上記下地層の平均層厚は、2〜10nmの範囲内(2nm以上10nm以下)であることが好ましい。
上記構成によれば、下地層の平均層厚が2nm以上であるので、十分大きなサイズ(凸部の径)の凹凸を磁性層と接する層の表面に形成することができる。このため、磁壁移動を効果的に抑えることができ、かつ、磁壁移動を短い距離に抑えることができる。それゆえ、さらに微小な記録マークを安定して形成でき、更なる高密度記録を十分な信号品質で行うことができるという効果を奏する。
したがって、本発明の磁気記録媒体は、十分な信号品質で高密度記録を行うことが可能であり、かつ、層構造の簡素化が可能な磁気記録媒体を提供できるという効果を奏する。
本発明の磁気記録媒体は、以上のように、基板と、情報を磁気的に記録するための磁性層とを備え、上記基板と磁性層との間に、磁性層側の表面に凹凸を有する下地層が設けられた磁気記録媒体において、上記下地層は、非磁性金属元素からなり、上記凹凸は、凸部の径が100nm未満である構成である。
上記構成によれば、従来の光アシスト磁気記録媒体や第3の従来技術と比較して、微小なサイズ(凸部の径)を有する凹凸を磁性層と接する層の表面に形成することができる。このため、従来の光アシスト磁気記録媒体や第3の従来技術と比較して、磁性層の磁壁移動をより短い距離に抑えることができ、微小な記録マークを安定して形成できる。その結果、十分な信号品質で高密度記録を行うことができる。
さらに、上記構成によれば、下地層が、非磁性金属元素からなり、保護層や接着層を必要としないので、第2の従来技術よりも層構造を簡素化することが可能となる。
したがって、本発明の磁気記録媒体は、十分な信号品質で高密度記録を行うことが可能であり、かつ、層構造の簡素化が可能な磁気記録媒体を提供できるという効果を奏する。
前記のいずれかの構成を備える磁気記録装置において、上記非磁性金属元素は、アルミニウムであることが好ましい。
上記構成によれば、より微小なサイズ(凸部の径)を有する凹凸を磁性層と接する表面に形成することができる。その結果、最短記録マーク長が100nm以下のような微小な記録マークを形成して高密度記録を行う場合の信号品質をさらに向上させることができる。
前記のいずれかの構成を備える磁気記録媒体は、25℃以上の磁気的補償温度を有することが好ましい。
これにより、熱安定性が高く、光アシスト磁気記録に適した磁気記録媒体を提供することができるという効果を奏する。
本発明の磁気記録装置は、以上のように、前記のいずれかの構成を備える磁気記録媒体に対し、磁性層に情報を磁気的に記録する磁気記録装置であって、上記磁性層の磁化方向を決定するための磁界を磁性層に印加する磁界印加手段を備える構成である。
上記構成は、前記の特徴を備える磁気記録媒体を用いたことで、十分な信号品質で高密度記録を行うことが可能な磁気記録装置を提供できるという効果を奏する。
本発明の磁気記録装置は、以上のように、前記のいずれかの構成を備える磁気記録媒体に対し、磁性層に情報を磁気的に記録する磁気記録装置であって、上記磁性層を局所的に加熱するための光ビームを磁性層に照射する光照射手段と、上記磁性層における光ビームが照射された領域の少なくとも一部に対して、上記磁性層の磁化方向を決定するための磁界を印加する磁界印加手段とを備える構成である。
上記構成は、前記の特徴を備える磁気記録媒体を用いたことで、十分な信号品質で高密度記録を行うことが可能な磁気記録装置を提供できるという効果を奏する。また、上記構成によれば、光アシスト磁気記録方式を用いたので、記録される領域が、光ビーム照射領域と磁界印加領域とが重なり合う領域に限定される。それゆえ、記録トラック幅を縮小することができ、高密度の記録が行える。さらに、光アシスト磁気記録方式においては、磁壁移動が起こり易く、下地層による高密度記録時の信号品質を向上させる効果がより一層顕著となる。
本発明の実施の一形態について図1、図2、および図17に基づいて説明すれば、以下の通りである。
図1に示すように、本実施の形態に係る磁気記録媒体1は、レーザ光による昇温によって記録領域に対し磁気的に情報を記録または再生する光アシスト磁気記録再生方法に用いられる磁気記録媒体である。
磁気記録媒体1は、基板2上に、非磁性金属元素からなる下地層3、非晶質磁性体からなる非晶質磁性層(磁性層)4、保護層5、および潤滑層6をこの順で形成したものである。そして、下地層3表面に凹凸が形成され、この凹凸が形成された表面上に非晶質磁性層4が形成されている。
基板2としては、非晶質磁性層4を変形させることなく保持できる程度の強度を有し、かつ、非晶質磁性層4側の面がほぼ平滑な基板であればよく、例えばガラス基板、アルミニウム(Al)基板、プラスチック基板、シリコン基板等を用いることができるが、ガラス基板が特に好適である。基板2の平均粗さ(Ra)は、下地層3表面を十分に均一な凹凸とするために、1nm未満であることが好ましい。また、基板2表面は、逆スパッタ等によりクリーニングすることが好ましい。
下地層3表面の凹凸の大きさは、凸部の径Dが100nm未満であることが好ましく、凸部の径Dが50nm以下であることがより好ましく、凸部の径Dが10〜50nmの範囲内であることがさらに好ましい。また、下地層3表面の凸部の径Dは、基本的には、非晶質磁性層4に形成する記録マークの最短記録マーク長(1ビットの情報に対応する最小単位の記録マークのトラック方向に沿った長さ)より小さい方が好ましい。したがって、例えば、最短記録マーク長を50nmにする場合は、下地層3表面の凸部の径Dが50nm未満であることが望ましい。また、より小さい記録マークを非晶質磁性層4に安定して形成するために、下地層3表面の凸部の径Dは、小さければ小さい方が望ましい。
また、下地層3表面の凹凸の大きさは、基板2自身が持つ凹凸(うねり)の大きさに埋もれないために、凸部の高さHが、少なくとも基板2表面の凸部の高さ以上であることが好ましい。現在一般的に用いられている基板2表面の凸部の高さが約3nmであることを考慮すれば、下地層3表面の凸部の高さHは、3nm以上であることが好ましい。また、磁壁が凸部を超えて移動することを防止するために、下地層3表面の凸部の高さHは、高ければ高い方が望ましい。
また、下地層3表面の凸部の高さHを高くするためには、下地層3の平均層厚を厚くすることで可能となり、下地層3の平均層厚を厚くするにしたがって、下地層3表面の凸部の径Dが大きくなる。そのため、下地層3表面の凸部の高さHの上限は、下地層3表面に形成しようとする凹凸の凸部の径Dによって決まる。例えば、下地層3として、凸部の径Dが50nm以下の凹凸を有するアルミニウム層を形成しようとした場合、下地層3表面の凸部の高さHの上限は、10nm程度になる。また、下地層3表面の凹凸は、十分に高い密度で形成されていることが望ましい。なお、本願明細書において、「凸部の高さ」とは、凹部の底の高さを基準としそれより高い部分を凸部として考えた場合の凸部の高さを指すものとする。
下地層3を構成する非磁性金属元素は、凸部の径Dが100nm未満の凹凸を形成可能な非磁性金属元素であることが好ましい。このような非磁性金属元素としては、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)等が挙げられるが、アルミニウム(Al)が特に好ましい。また、これら金属元素を主成分とする合金を用いてもよい。
下地層3表面に凹凸を形成するには、物質(非磁性金属元素)が自然にその形を形作る自己形成法を用いて物質の層を形成した時に、物質表面に結晶粒やアモルファス粒等の微粒子が形成されることを利用すると良い。具体的には、下地層3表面に凹凸を形成する方法としては、多結晶の非磁性金属単体層あるいは多結晶の非磁性合金層を基板2上に堆積させ、多結晶の非磁性金属単体層あるいは多結晶の非磁性合金層の表面に微結晶粒を形成させる方法;非晶質の非磁性金属単体層あるいは非晶質の非磁性合金層を基板2上に堆積させ、非晶質の非磁性金属単体層あるいは非晶質の非磁性合金層の表面にアモルファス粒を形成させる方法等が好適である。
下地層3表面の凹凸の凸部の径Dや高さHは、主に下地層3の平均層厚により制御することができる。下地層3を自己形成法で形成した場合、下地層3表面の凹凸の凸部の径Dは、下地層3の平均層厚に依存し、下地層3の平均層厚が薄いほど小さくなる。そのため、下地層3の平均層厚は、凸部の径Dが前述した好ましい数値範囲を満たすように設定することが好ましい。例えば、後段の実施例で説明するように、下地層3としてアルミニウム膜を直流(DC)マグネトロンスパッタ法により基板2上に成膜した場合、アルミニウム膜の平均層厚を10nm以下とすることにより、凸部の径Dが100nm未満の微小な凹凸が高密度で下地層3表面に形成される。また、下地層3としてアルミニウム膜を直流(DC)マグネトロンスパッタ法により基板2上に成膜した場合、アルミニウム膜の平均層厚を6nm以下とすることにより、凸部の径Dが50nm以下の微小な凹凸が高密度で下地層3表面に形成される。このことから、下地層3の平均層厚は、10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましいと考えられる。
また、下地層3を自己形成法のみによって形成する場合には、下地層3表面の凹凸の凸部の径Dおよび高さHは、平均層厚にほぼ比例する。上述のように下地層3表面の凹凸の凸部の径Dを50nm以下、凸部の高さHを3nm以上の関係にするには、下地層3の平均層厚を2〜6nmにすればよい。これにより、下地層3表面の凹凸の凸部の径Dが10〜50nm、凸部の高さHが3〜10nmとなり、上記の関係を満たすことができる。すなわち、下地層3の平均層厚を2〜6nmにすることで、基板2自身が持つ凹凸の大きさに埋もれず、かつ、磁壁移動を十分に短い距離に抑えることができる微小な凹凸を形成できる。それゆえ、微小な記録マークを非晶質磁性層4に安定して形成できる。
なお、本願明細書において、「平均層厚」とは、以下のようにして間接的に求めた膜厚を指すものとする。すなわち、まず、測定対象の膜を構成する材料と同一の材料を、測定対象の膜の成膜条件と同じ条件で、膜厚に対して膜表面の凹凸が無視できるほどに十分な層厚に成膜し、得られた膜を試料とする。次いで、この試料の膜厚を測定し、膜厚の測定値と成膜時間とから、成膜速度(単位時間当たりに成膜される膜厚)を算出する。そして、この成膜速度を基に、測定対象の膜の成膜時間から測定対象の膜(層)の膜厚(平均層厚)を求める。この平均層厚は、層の質量を密度に応じた層厚に換算したものと考えることもできる。
非晶質磁性層4を構成する非晶質磁性体は、光アシスト磁気記録が行える磁性体、すなわち、補償温度が室温付近のフェリ磁性体であればよいが、非晶質の希土類−遷移金属合金であることが特に好ましい。非晶質の希土類−遷移金属合金としては、TbFe、GdFe、DyFeCo、TbFeCo等が挙げられるが、TbFeCoが特に好ましい。なお、本願明細書において、「TbFe」のような合金の表記は、特定の組成比の合金を指すものではなく任意の組成比の合金を指すものとする。
保護層5は、磁気ヘッドとの接触時に非晶質磁性層4に傷が付かないように非晶質磁性層4を保護するためのものである。保護層5としては、特に限定されるものではないが、炭素層や窒化炭素層等の炭素系保護層、特に炭素層が好適に用いられる。
潤滑層6は、磁気ヘッドとの接触時の摩擦を低減するためのものである。潤滑層6としては、フッ素系潤滑剤、特にパーフルオロポリオキシアルカン(パーフルオロポリエーテル)系の潤滑剤が好適に使用される。
以上のように、本実施形態に係る磁気記録媒体1は、基板2上に下地層3が設けられ、この下地層3上に、加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するための非晶質磁性層4が設けられた磁気記録媒体であって、下地層3が、非磁性金属元素からなり、非晶質磁性層4と接する表面に凹凸を有している構成である。
上記構成において、下地層3表面の凹凸は、非晶質磁性層4の磁壁移動を妨げる束縛部位(ピニングサイト)として作用する。そして、上記構成では、下地層3が非磁性金属元素からなるので、下地層3表面の凹凸は、非磁性金属元素の結晶粒あるいはアモルファス粒に由来した微小なサイズ(凸部の径D)の凹凸となり、従来の光アシスト磁気記録媒体に用いられている窒化アルミニウムからなる下地層3表面の凹凸と比較して微小なサイズ(凸部の径D)になる。これにより、従来の光アシスト磁気記録媒体と比較して、非晶質磁性層4の磁壁移動をより短い距離に抑えることができる。また、上記構成では、非磁性金属元素からなる下地層3を非晶質磁性層4と接するように設けたことで、磁性層の基板側に窒化シリコン層を介してアルミニウム層を設けた第3の従来技術と比較して、磁性層の磁壁移動を効果的に抑えることができる。これらにより、上記構成では、微小な記録マークを安定して形成できる。その結果、最短記録マーク長が100nm以下のような微小な記録マークを形成して高密度記録を行う場合においても、十分な信号品質が得られる。
特に、光アシスト記録再生法においては、記録および再生時に、対象とする記録マークを昇温するため、保磁力の低下と共に磁気異方性が著しく低下する。そのため、非晶質磁性層4の磁壁移動を抑制することがより重要になり、非晶質磁性層4の磁壁移動を妨げる下地層3の効果がより顕著に現われる。
また、上記構成では、下地層3が非磁性金属元素からなるので、下地層3と非晶質磁性層4との間に炭素保護層を設ける必要がなく、また、下地層3と基板2との間に窒化シリコン層(接着層)を設ける必要がない、そのため、上記構成では、基板2と非晶質磁性層4との間に存在する層が1層のみとなっている。そのため、第2の従来技術よりも層の数を少なくして、量産化が容易な磁気記録媒体を提供することができる。
また、仮に、下地層3が第2の従来技術のようにニッケル燐(NiP)からなっていたとすれば、レーザ光による昇温時に軟磁性体に変化するため、記録層の磁気信号に影響が出るという問題が生じる。また、上記の軟磁性体への変化は、不可逆なものであり、また、形成される軟磁性体の位置はランダムである。そのため、上記の軟磁性体への変化が、再生時の磁気信号に対するノイズとして現れるという問題が発生する。これに対し、上記構成では、下地層3が非磁性金属元素からなるので、このような問題が生じることがない。
また、以上のように、本実施形態に係る磁気記録媒体1は、好ましくは、下地層3の平均層厚が、10nm以下である構成である。
上記構成によれば、下地層3の平均層厚が10nm以下であるので、層厚40nmのアルミニウム層を用いた第3の従来技術と比較して、より微小な凸部の径を有する凹凸を下地層3表面に形成することができる。それゆえ、非晶質磁性層4の磁壁移動をより短い距離に抑えることができ、微小な記録マークを安定して形成できる。その結果、最短記録マーク長が100nm以下となるような高密度記録を行う場合の信号品質をさらに向上させることができる。
なお、ここでは、下地層3の平均層厚が10nm以下である光アシスト磁気記録用磁気記録媒体について説明したが、下地層3の平均層厚が10nm以下である磁気記録媒体1は、他の方式の磁気記録用の磁気記録媒体、例えば、磁界印加のみによって記録を行う磁気記録用の磁気記録媒体にも有用である。
また、以上のように、本実施形態に係る磁気記録媒体1は、好ましくは、非晶質磁性層4と接する下地層3表面に、凸部の径Dが100nm未満の凹凸が形成されている構成である。
上記構成によれば、非晶質磁性層4と接する下地層3表面に、凸部の径Dが100nm未満の凹凸を形成したので、表面の凸部の径Dが100nm以上である窒化アルミニウム層を下地層として用いた場合と比較して、非晶質磁性層4の磁壁移動をより短い距離に抑えることができ、微小な記録マークを安定して形成できる。その結果、最短記録マーク長が100nm以下のような微小な記録マークを形成して高密度記録を行う場合においても、十分な信号品質が得られる。
なお、ここでは、磁気記録媒体1を光アシスト磁気記録用磁気記録媒体として説明したが、磁気記録媒体1は、他の方式の磁気記録用の磁気記録媒体、例えば、磁界印加のみによって記録を行う磁気記録用の磁気記録媒体としても使用可能である。
また、ここでは、光アシスト磁気記録用の磁性層として非晶質磁性層4を用いたが、非晶質磁性層4に代えてPt/Co多層構造(Pt層とCo層とを積層した構造)を持つ熱磁気記録用の磁性層を用いてもかまわない。ただし、この場合は、層数が著しく増加するため、TbFeCo等の非晶質磁性層4の方が好ましい。
さらに、ここでは、非晶質磁性層4を備える光アシスト磁気記録用磁気記録媒体について説明したが、凸部の径Dが100nm未満の凹凸を表面に有する非磁性金属元素からなる下地層3を、基板2と磁性層との間に位置する(好ましくは磁性層に接する)ように設けることで、磁性層の種類に関係なく高密度記録時の信号品質を向上できる。
次に、上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置(磁気記録装置)の実施の一形態について説明する。
図2に示すように、本実施形態の磁気記録再生装置は、光アシストのためのレーザピックアップ(光照射手段)11、磁気ヘッド(磁界印加手段)12、および磁気記録媒体1を回転させるためのスピンドル(本体)13、および対物レンズ15を備えている。
レーザピックアップ11は、レーザ光源(図示しない)を備えている。このレーザ光源は、非晶質磁性層4を局所的に加熱するための光ビーム(レーザ光)14を磁気記録媒体1の基板2側から下地層3を通して非晶質磁性層4に照射するようになっている。対物レンズ15は、レーザ光源からの光ビーム14を非晶質磁性層4に集光するようになっている。
磁気ヘッド12は、磁気記録媒体1に対してレーザピックアップ11と反対側の位置に配置されている。磁気ヘッド12は、非晶質磁性層4における光ビーム14が照射された領域の少なくとも一部に対して、上記磁性層の磁化方向を決定するための磁界を印加するようになっている。
次に、上記磁気記録再生装置を用いた光アシストによる磁気記録媒体1の磁気記録方法について説明する。この方法では、磁界変調方式によって記録を行う。ただし、これに限らず、磁気記録媒体1は、光変調方式においても同様に記録可能である。
まず初めに、レーザピックアップ11と磁気ヘッド12の位置合わせを行い、光照射領域と磁場印加領域とを一致させてから、直流消去(DCイレース)により非晶質磁性層4の磁化方向を一定とする。つまり、非晶質磁性層4の磁化方向を初期化する。
次いで、磁気ヘッド12による磁界印加と同時に、光ビーム14の照射による昇温を行うことにより、記録しようとする情報に応じて非晶質磁性層4の領域毎の磁化方向を決定する。
すなわち、レーザピックアップ11内のレーザ光源から照射された光ビーム14は、図2に示すように、磁気記録媒体1内の非晶質磁性層4における所望の記録部位に集光され、光ビーム14が照射された記録部位の温度は、記録部位の保磁力が十分小さく(1kOe程度)なる温度まで上昇される。そして、記録したい情報を変調した信号磁界を磁気ヘッド12に印加して上記記録部位に記録する。この際、保磁力が低下してほぼ1kOeになっている部位のみ記録が行われる。次に、光ビーム14の照射を停止し、上記記録部位の温度が降下して、記録動作が終了する。
以上のようにして、図17に示すように、磁気ヘッド12による磁場印加領域111と、レーザ光照射による昇温領域(光スポットに対応する)112との重ね合わせ部分が記録領域113となり、この記録領域113に記録マーク114が形成される。
なお、この光アシスト磁気記録方式では、光ビーム(レーザ光)14を磁気記録媒体1の基板2側から下地層3を通して非晶質磁性層4に照射するようになっているので、下地層3は、十分な量のレーザ光を透過しうるような薄い層厚、具体的には、少なくとも100nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。なお、磁気記録媒体1に対し、図1の潤滑層6側から光ビーム14を入射させる場合には、下地層3の厚みが100nmより厚くとも、レーザ光を遮蔽することはない。
次に、上記磁気記録再生装置を用いた磁気記録媒体1の再生方法について説明する。
まず、レーザピックアップ11内のレーザ光源から光ビーム14が非晶質磁性層4の再生部位に照射される。これにより、光ビーム14が照射された再生部位の温度が上昇すると共に、この再生部位の残留磁化が上昇する。この際、残留磁化が最大となる温度付近まで昇温するのが好ましい。なお、この時、光ビーム14が照射されていない部位から発生する残留磁化は小さい。これは、光ビーム14が照射されていない部位は室温に保たれているからである。
そして、磁気ヘッド12により残留磁化の大きくなった再生部位からの漏れ磁束を検知する。次に、再生部位に対して行われている光ビーム14の照射を停止し、再生部位の温度が降下して、再生動作が終了する。
なお、本実施形態では、本発明に係る磁気記録媒体に対して情報を記録する磁気記録装置として、磁気ヘッドによる磁界印加と、レーザ光による加熱によって記録を行う磁気記録装置を説明した。しかしながら、本発明に係る磁気記録媒体に対する情報の記録には、これに限らず、磁気ヘッドによる磁界印加のみによって記録を行う磁気記録装置を使用してもかまわない。しかし、高密度記録時の熱ゆらぎによる信号対雑音比(S/N比)の劣化を抑えるためには、加熱と磁界印加とを組み合わせた、いわゆる光アシスト磁気記録方式の方が好ましい。また、本発明は、磁気光学効果によって信号を再生する光磁気記録媒体や光磁気記録装置に適用することも可能である。
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
まず、凹凸表面を有する下地層の作製例について実施例1および比較例1・2に基づいて説明する。
なお、以下の実施例におけるアルミニウム膜の平均膜厚は、次の方法で求めた。まず、所定の条件でアルミニウム膜を25分間だけ成膜し、その後、微小段差測定器によりアルミニウム膜の膜厚を求めると、70nmであった。したがって、平均の成膜速度は、毎分2.8nmと算出された。そして、上記の条件と同一の条件で、種々の成膜時間でアルミニウム膜を成膜し、成膜時間と成膜速度(毎分2.8nm)との積を平均膜厚とした。
〔実施例1〕
本実施例では、図4に示すように、凹凸表面を有する下地層3としてアルミニウム膜を基板2上に成膜した観察試料を作製し、このアルミニウム膜の表面形状(表面構造)を原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscope)を用いて観察した。なお、この表面観察は、アルミニウム膜により記録密度が向上した原因を探るために、本願発明者等がアルミニウム膜の表面形状に着目して行ったものである。
本実施例では、図4に示すように、凹凸表面を有する下地層3としてアルミニウム膜を基板2上に成膜した観察試料を作製し、このアルミニウム膜の表面形状(表面構造)を原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscope)を用いて観察した。なお、この表面観察は、アルミニウム膜により記録密度が向上した原因を探るために、本願発明者等がアルミニウム膜の表面形状に着目して行ったものである。
まず、基板2としてのガラスディスク基板を用意し、無線周波数(RF)スパッタによる逆スパッタ(エッチング)を行うことで、ガラスディスク基板表面のクリーニングを行った。
次に、ガラスディスク基板上に、直流(DC)マグネトロンスパッタ法により、アルミニウム膜を平均膜厚(平均層厚)が3.7nmとなるように成膜し、観察試料(以下、「第1の試料」と称する)を得た。また、スパッタ条件は、スパッタ圧を0.5Pa、電源を直流300Wとし、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスを用い、アルゴンガスの流量は50SCCM一定とした。なお、「SCCM」とは、“standard cubic centimeters per minute”の略であり、1分あたりに流れるガスの体積を標準状態の体積に換算した流量の単位である。
また、第1の試料とは別に、アルミニウム膜の平均膜厚を2.8nmおよび5.6nmに変更する以外は第1の試料と同様にして成膜を行うことにより、2種類の観察試料(以下、「第2の試料」および「第3の試料」と称する)を作製した。
次に、第1〜第3の試料のアルミニウム膜表面を原子間力顕微鏡を用いて観察し、アルミニウム膜の平均膜厚によって表面の構造がどのように変化するかを評価した。原子間力顕微鏡による表面観察(測定)は、デジタルインスツルメント(DI)社製のMMAFMを用い、コンタクトモードにより行った。
原子間力顕微鏡による観察の結果、アルミニウム膜の成膜条件をスパッタ圧0.5Pa、平均膜厚3.7nmとした第1の試料の場合には、図5に示す通り、アルミニウム膜表面にアルミニウムの結晶粒と思われる構造物(凸部)が高密度で存在している様子が観察できた。これら結晶粒の形状は、角錐形であり、その平均的な大きさは、粒径(凸部の径D)が35nm、高さ(凸部の高さH)が6nmであり、アルミニウム膜表面の1μm×1μm領域の平均粗さ(Ra)が1.56nmであることが判った。なお、図5において、x軸はアルミニウム膜面の法線方向、y軸はアルミニウム膜面に平行な方向を示す。また、本実施例および以下の実施例および比較例において、「結晶の粒径」とは、結晶の平均粒径を指すものとする。
このとき、アルミニウム膜表面をその法線方向から観察した結果を図8に示す。
また、アルミニウム膜の平均膜厚を変化させた第2および第3の試料を、原子間力顕微鏡による観察した。その結果、結晶粒の形状には第1の試料からの変化は見られなかったが、図7に示すように、結晶粒の粒径(凸部の径D)および結晶粒の高さ(凸部の高さH)が共に、平均膜厚にほぼ比例して増減した。また、図示していないが、アルミニウム膜表面の平均粗さ(Ra)も、平均膜厚にほぼ比例して増減した。第2の試料では、結晶粒の高さは4nm、アルミニウム膜表面の平均粗さは1.11nmであった。したがって、スパッタ圧等の成膜条件が同じであれば、平均膜厚と、結晶粒の粒径および高さ並びにアルミニウム膜表面の平均粗さとの間に、比例関係が成立することが判明した。なお、図7は、横軸にアルミニウム膜の平均膜厚(2.8、3.7、および5.6nm)をとり、縦軸にはそれぞれの平均膜厚に対応する結晶粒の粒径(◆)と結晶粒の高さ(■)とをプロットしたものである。粒径および高さとも、平均膜厚と直線的な比例関係にあることが分かる。したがって、結晶粒の粒径を平均膜厚により制御できることが分かった。
この結果から、アルミニウム膜表面の平均膜厚が2〜6nmの範囲内であれば、アルミニウム膜表面の凸部の径D(結晶粒の粒径)が10〜50nm、凸部の高さH(結晶粒の高さ)が3〜10nmの範囲に収まると予想される。アルミニウム膜表面の平均膜厚が10nm以下であれば、アルミニウム膜表面の凸部の径D(結晶粒の粒径)が100nm未満になると予想される。
また、同一の平均膜厚(3.7nm)でスパッタ圧を0.25〜2.0Paまで変化させて作製した複数の観察試料について、原子間力顕微鏡によるアルミニウム膜表面の観察を行ったところ、スパッタ圧の変化により、結晶粒の形状に大きな変化は観察されなかった。ただし、詳細に観察すると、スパッタ圧を上げるに従い、表面構造はよりきめ細かくなり、その形状も円錐状に変化した。
また、アルミニウム膜の成膜後にRFスパッタによるエッチングを行うことで、アルミニウム膜の表面構造を加工した試料についても検討した。この試料は、第1の試料と同様の成膜条件で、平均膜厚4.7nmのアルミニウム膜をガラスディスク基板上に成膜し、その直後に、RFスパッタにより平均膜厚にして1nm分だけエッチングを行うことで作製した。
このエッチングを行った試料について、原子間力顕微鏡によりアルミニウム膜表面を観察した結果、基本的には、エッチングなしの場合と同じく形状は角柱状であった。また、結晶粒の粒径(凸部の径D)は、エッチング前の平均膜厚4.7nmから予測される値に等しい40nmであった。一方、結晶粒の高さは4nmであり、エッチング前の平均膜厚4.7nmから予測される値より低く、また、エッチング後の平均膜厚3.7nmから予測される値よりもさらに低かった。すなわち、エッチングにより減少するのは、結晶粒の高さのみであり、結晶粒の粒径には影響しないことが分かった。よって、結晶粒の高さをエッチングにより減少させることができることが判明した。
〔比較例1〕
比較のため、RFスパッタエッチングによりクリーニングを行ったガラスディスク基板のみについても、実施例1と同様に、原子間力顕微鏡で表面形状を観察した。その結果、粒径(凸部の径)300nm、高さ(凸部の高さ)3nmの円錐状の構造(凸部)が観察された。ただし、径と高さとの比を考えると100:1と小さく、この円錐状の構造は300nm周期のガラスディスク基板面のうねりが観測されたに過ぎないと言える。
比較のため、RFスパッタエッチングによりクリーニングを行ったガラスディスク基板のみについても、実施例1と同様に、原子間力顕微鏡で表面形状を観察した。その結果、粒径(凸部の径)300nm、高さ(凸部の高さ)3nmの円錐状の構造(凸部)が観察された。ただし、径と高さとの比を考えると100:1と小さく、この円錐状の構造は300nm周期のガラスディスク基板面のうねりが観測されたに過ぎないと言える。
このとき、原子間力顕微鏡でガラスディスク基板表面をその法線方向から観察した結果を図10に示す。
〔比較例2〕
比較のため、実施例1で用いたRFスパッタエッチングにより逆スパッタによるクリーニングを行ったガラスディスク基板上に、窒化アルミニウム(AlN)膜を5nmおよび60nmの平均膜厚となるように成膜した2種の試料を作製した。窒化アルミニウム膜の成膜は、無線周波数(RF)スパッタ法により行った。また、その成膜条件は、スバッタガスをアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスとし、これらの流量をアルゴンガス25SCCM、窒素ガス25SCCMとし、スパッタ圧を0.2Paとした。
比較のため、実施例1で用いたRFスパッタエッチングにより逆スパッタによるクリーニングを行ったガラスディスク基板上に、窒化アルミニウム(AlN)膜を5nmおよび60nmの平均膜厚となるように成膜した2種の試料を作製した。窒化アルミニウム膜の成膜は、無線周波数(RF)スパッタ法により行った。また、その成膜条件は、スバッタガスをアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスとし、これらの流量をアルゴンガス25SCCM、窒素ガス25SCCMとし、スパッタ圧を0.2Paとした。
そして、これらの試料についても、実施例1と同様に、原子間力顕微鏡での表面形状を観察した。その結果、窒化アルミニウム膜の平均膜厚が60nmの試料では、図6に示すように、大きさ(凸部の径)100nm、高さ(凸部の高さ)3nmの円錐状(あるいは円盤状)の構造物(凸部)が観察できた。また、窒化アルミニウム膜の平均膜厚が5nmの試料においても、ほぼ同様の表面構造が観察された。なお、図6において、x軸は窒化アルミニウム膜面の法線方向、y軸は窒化アルミニウム膜面に平行な方向を示す。
図5と図6との比較から、従来の光アシスト磁気記録媒体に下地層として用いられている平均膜厚60nmの窒化アルミニウム膜が比較的平坦な表面構造を有しているのに対して、実施例径)の凹凸を有していることが分かる。
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1の第1の試料(基板2としてのガラスディスク基板上に平均膜厚3.7nmのアルミニウム膜を下地層3として形成した試料)を用いて、前述した実施の形態の磁気記録媒体1を作製した。
本実施例では、実施例1の第1の試料(基板2としてのガラスディスク基板上に平均膜厚3.7nmのアルミニウム膜を下地層3として形成した試料)を用いて、前述した実施の形態の磁気記録媒体1を作製した。
まず、実施例1の第1の試料における下地層3としてのアルミニウム膜(以下、「Al下地層」と称する)の凹凸表面上に、非晶質磁性層4としてTbFeCo膜(Tb、Fe、およびCoからなる非晶質合金膜)を成膜した。次いで、非晶質磁性層(記録層)4上に1のアルミニウム膜は、高密度の微粒子状の物質により構成された微小なサイズ(凸部の、保護層5として、一般的なハードディスクに用いられている非晶質炭素(a−C)膜(C系保護層)を成膜した。TbFeCo膜においてピニング効果を得るためには、好ましくは、基板2に下地層3を成膜した後、TbFeCo膜を成膜する。
TbFeCo膜および非晶質炭素膜の成膜は、実施例1において第1の試料を作製するときのアルミニウム膜の成膜と同様に、直流(DC)マグネトロンスパッタ法を用いて行った。また、これらの膜の成膜条件は、スパッタガスをアルゴン(Ar)ガスとし、アルゴンガスの流量を50SCCM一定とした。
TbFeCo膜を成膜するためのスパッタにおいては、スパッタのターゲットとして、組成比がTb23at%(原子%)、Fe60at%、およびCo17at%の合金を用いた。また、このときのスパッタ圧は0.45Paとし、膜厚は50nmとした。成膜されたTbFeCo膜は、50℃に磁気的補償点(補償温度)を持ち、キュリー温度は250℃であった。一方、非晶質炭素膜の成膜条件は、スパッタ圧を1.0Paとし、膜厚を20nmとした。
最後に、潤滑層6として、パーフルオロポリオキシアルカン系の潤滑剤をディップコータにより非晶質炭素膜表面に塗布し、膜厚0.8nmの潤滑剤膜を形成した。
〔比較例3〕
比較のため、比較例1の試料(ガラスディスク基板)を用いて、従来の構造である、下地層を備えていない磁気記録媒体を作製した。Al下地層自体の効果を正確に評価するために、比較例1の試料から磁気記録媒体を作製する工程は、実施例2において第1の試料から磁気記録媒体を作成する工程と全く同一とした。したがって、本比較例の磁気記録媒体は、Al下地層を設けていない点以外は実施例2の磁気記録媒体と同様の構成を備えている。
比較のため、比較例1の試料(ガラスディスク基板)を用いて、従来の構造である、下地層を備えていない磁気記録媒体を作製した。Al下地層自体の効果を正確に評価するために、比較例1の試料から磁気記録媒体を作製する工程は、実施例2において第1の試料から磁気記録媒体を作成する工程と全く同一とした。したがって、本比較例の磁気記録媒体は、Al下地層を設けていない点以外は実施例2の磁気記録媒体と同様の構成を備えている。
〔比較例4〕
比較のため、比較例2の窒化アルミニウム膜をガラスディスク基板上に設けた試料を用いて、従来の構造である、平均膜厚60nmの窒化アルミニウム膜を下地層として備える磁気記録媒体を作製した。下地層の材質の違いによる効果を正確に評価するため、比較例2の試料から磁気記録媒体を作製する工程は、実施例2において第1の試料から磁気記録媒体を作成する工程と全く同一とした。したがって、本比較例の磁気記録媒体は、Al下地層の代わりに窒化アルミニウム膜を下地層として設けた点以外は実施例2の磁気記録媒体と同様の構成を備えている。
比較のため、比較例2の窒化アルミニウム膜をガラスディスク基板上に設けた試料を用いて、従来の構造である、平均膜厚60nmの窒化アルミニウム膜を下地層として備える磁気記録媒体を作製した。下地層の材質の違いによる効果を正確に評価するため、比較例2の試料から磁気記録媒体を作製する工程は、実施例2において第1の試料から磁気記録媒体を作成する工程と全く同一とした。したがって、本比較例の磁気記録媒体は、Al下地層の代わりに窒化アルミニウム膜を下地層として設けた点以外は実施例2の磁気記録媒体と同様の構成を備えている。
次に、実施例2および比較例3・4で作製した磁気記録媒体に対し、評価用の光アシスト磁気記録再生装置を用いて、実際に情報の記録再生を行い、記録再生特性の評価を行った。特に高密度記録の目安となる記録周波数特性の関係を詳細に調べた。また、形成された記録マークの形状を、磁気力顕微鏡(MFM)により観察した。
評価用の光アシスト磁気記録再生装置としては、前述した図2の構成を備える磁気記録再生装置を用いた。また、発振波長400nmのレーザ光源を備えるレーザピックアップ201を用い、開口数(NA;Numerical Aperture) が0.65の対物レンズ206を用いてレーザ光を集光した。磁気ヘッド202には、GMR(Giant Magneto Resistive;巨大磁気抵抗効果)素子と薄膜誘導型磁気ヘッドとを一体化したものを用いた。また、磁気ヘッド202の浮上量は、約28nmとした。スピンドル203の回転数(磁気記録媒体1の回転数)は、3600rpmとした。そのときの磁気記録媒体1の線速度は、11m/secであった。
この評価実験では、まず、直流消去(DCイレース)を行い、次いで、光アシストによる磁気記録を行った後、光アシストによる再生を行うことにより、磁気記録再生特性を測定した。直流消去の条件は、レーザ光源の出力(レーザパワー)を5mW、磁気ヘッド202の磁界電流(ヘッド磁界電流)を20mAとした。また、光アシストによる磁気記録の条件は、レーザ光源の出力を5mW、磁気ヘッド202の磁界電流を10mAとした。また、光アシストによる再生の条件は、レーザ光源の出力を2mW、GMR素子のバイアス電流を5mAとした。
本願発明者等は、磁気記録媒体の高密度記録化の指標として、記録周波数特性、すなわち、磁界印加の周波数(記録周波数)を変化させたときの信号品質の変化を求めた。
記録密度は、記録周波数に比例して変化し、最短記録マーク長は、記録周波数に反比例して変化する。本評価実験の磁気記録条件においては、磁気記録媒体1の線速度が11m/secであるので、磁気ヘッド202の記録周波数を25MHzとしたときの最短記録マーク長は220nm、磁気ヘッド202の記録周波数を50MHzとしたときの最短記録マーク長は110nmである。
また、本評価実験では、記録周波数が変化したときの搬送波信号レベル(C値)および雑音レベル(N値)を測定し、その比、すなわち搬送波対雑音比(C/N値)を、記録マークの信号品質を評価するパラメータとして求めた。得られた測定結果(記録周波数特性)を図3に示す。
図3に●印で示したプロット(Al下地媒体)は、Al下地層を用いた実施例2の磁気記録媒体の記録周波数特性の測定結果である。実施例2の磁気記録媒体では、記録周波数が80MHzまでの範囲内においては、C/N値の低下(落ち込み)の傾き(曲線の傾き)が目立って大きくなることはなく、高い記録周波数においても高い信号品質で信号が記録されることが分かった。さらに、磁気力顕微鏡による磁気像の観察においても、80MHzの記録周波数までトラック幅の狭化や途切れが起きないことが確認され、良好な特性が得られた。
図3に▲印で示したプロット(AlN下地媒体)は、窒化アルミニウム膜を下地層として用いた比較例4の磁気記録媒体の記録周波数特性の測定結果である。この場合、C値は、記録周波数25MHzを境に、急激に減少した。また、磁気像の観察においても、記録周波数が25MHzを超えると、トラック幅の狭小化に加え、記録マークが途切れる現象が起きた。これらは、記録周波数が25MHzを超えると、急激に記録マークが安定して存在できなくなり、信号品質が低下することを示している。この磁気記録媒体の性能としては、記録周波数25MHzが限度であるといえる。また、これからAlN下地媒体においては、最短記録マーク長は約200nmが限度であると予測される。
信号品質の観点から見た場合、窒化アルミニウム膜を下地層として用いた比較例4の磁気記録媒体では、25MHzの記録周波数においてはC/N値が40dB弱(38dB)であった。したがって、比較例4の磁気記録媒体では、40dBのC/N値を得る最小の最短記録マーク長は約220nmより長かった。
一般には、信号処理に要するC/N値は30dB以上とされており、信号品質としては最低限C/N値が30dB以上であることが望ましい。比較例4の磁気記録媒体では、30dBのC/N値が得られる最高の記録周波数は40MHz未満であった。記録周波数が40MHzのとき、最短記録マーク長は137nmとなる。したがって、比較例4の磁気記録媒体では、30dBのC/N値を得る最小の最短記録マーク長は137nmより長かった。
これに対し、Al下地層を用いた実施例2の磁気記録媒体では、50MHzの記録周波数で記録した場合、約40dB(39dB)のC/N値を達成できた。したがって、実施例2の磁気記録媒体では、40dBのC/N値を得る最小の最短記録マーク長は約110nmであった。また、65MHzの記録周波数で記録した場合、30dBのC/N値が得られた。記録周波数が65MHzのとき、最短記録マーク長は85nmとなる。したがって、実施例2の磁気記録媒体では、30dBのC/N値を得る最小の最短記録マーク長は85nmであった。
また、下地層のない比較例3の磁気記録媒体についても、同様に、記録周波数特性を測定したところ、40dBのC/N値を得る最小の最短記録マーク長は約200nmであった。
また、実施例2の磁気記録媒体の面記録密度を測定したところ、トラック幅0.3μm、最短記録マーク長70nmにおいて、30dBのC/N値が得られ、面記録密度は40ギガビット毎平方インチ(6.2ギガビット毎平方センチメートル)であった。さらに、トラック幅0.15μm、最短記録マーク長80nmにおいても、C/N値が30dBとなり、面記録密度は70ギガビット毎平方インチ(10.85ギガビット毎平方センチメートル)以上に達した。これらの面記録密度においては、比較例3・4の磁気記録媒体との差が顕著であり、大きな効果が得られた。
以上のように、実施例2の磁気記録媒体では、下地層としてアルミニウム膜を用いたことにより、比較例4の磁気記録媒体に比べて、磁気記録媒体としての性能が大幅に改善された。また、下地層としてアルミニウム膜を用いたことにより、基板と磁性層との間の層の数を1層にでき、量産化の容易な磁気記録媒体が得られた。
最後に、以上の実施例2、比較例3、および比較例4の3種類の磁気記録媒体(下地層がそれぞれ、Al、なし(基板)、AlN)の記録再生評価結果から求めた、40dBのC/N値を得る最小の最短記録マーク長(マーク長)を、原子間力顕微鏡観察から求めたTbFeCo膜と接する凹凸表面(アルミニウム膜表面、ガラス基板表面、または窒化アルミニウム膜表面)の粒径(凸部の径D)、高さ(凸部の高さH)、および表面粗さ(Ra)と共に、表1にまとめて示す。
表1より、40dBのC/N値を得る最小の最短記録マーク長が最も短いことから、アルミニウム膜を下地層として設けることが、高密度記録に有効なことが分かる。したがって、アルミニウム膜表面の微小な凹凸により、微小な記録マークを安定して存在させることができ、その結果、高密度の光アシスト記録再生が可能になると考えられる。また、表1より、十分高い信号品質(40dBのC/N値)を得るためには、最短記録マーク長に対して凸部の径Dが十分に小さいことが望ましい。
〔実施例3〕
実施例1で作製した、第1の試料におけるAl下地層の平均膜厚のみを2.8nmおよび5.6nmに変更した第2および第3の試料から、実施例2と同様にして磁気記録媒体を作製した。また、実施例1で作製した、Al下地層の成膜のスパッタ圧を0.25〜2.0Paまで変化させた試料(スパッタ圧以外は第1の試料と同じ)、および、RF逆スパッタエッチングを行った試料(Al下地層の平均膜厚は3.7nm)から、実施例2と同様にして磁気記録媒体を作製した。すなわち、凸部の径D(結晶粒径)が25〜50nm、凸部の高さH(結晶の高さ)が4〜9nmの凹凸構造を形成したAl下地層を用いて、磁気記録媒体を作製した。
実施例1で作製した、第1の試料におけるAl下地層の平均膜厚のみを2.8nmおよび5.6nmに変更した第2および第3の試料から、実施例2と同様にして磁気記録媒体を作製した。また、実施例1で作製した、Al下地層の成膜のスパッタ圧を0.25〜2.0Paまで変化させた試料(スパッタ圧以外は第1の試料と同じ)、および、RF逆スパッタエッチングを行った試料(Al下地層の平均膜厚は3.7nm)から、実施例2と同様にして磁気記録媒体を作製した。すなわち、凸部の径D(結晶粒径)が25〜50nm、凸部の高さH(結晶の高さ)が4〜9nmの凹凸構造を形成したAl下地層を用いて、磁気記録媒体を作製した。
そして、各磁気記録媒体について、実施例2の磁気記録媒体と同様に、評価用の光アシスト磁気記録再生装置により記録再生特性を測定した。その結果、目立った差は見られず、何れの場合においても記録の高密度化において、実施例2と同程度に良好な性能を示した。
したがって、平均膜厚が2.8〜5.6nmのAl下地層、すなわち、凸部の径D(結晶粒径)が25〜50nm、凸部の高さH(結晶の高さ)が4〜9nmの凹凸構造を形成したAl下地層が、光アシスト磁気記録の高密度化において大きな効果をもたらすことが判明した。
このことから、凸部の径Dが10〜50nm、凸部の高さHが3〜10nmの凹凸構造を形成したAl下地層を用いることにより、実施例2と同様の効果を得ることができると予想される。また、前述したように、Al下地層の平均膜厚が2〜6nmの範囲内であれば、Al下地層の凸部の径Dが10〜50nm、凸部の高さHが3〜10nmの範囲に収まると予想されるので、Al下地層の平均膜厚が2〜6nmの範囲内であれば、実施例2と同様の効果を得ることができると予想される。
以上のように、本発明に係る実施例によれば、光アシスト磁気記録媒体において、記録層(磁性層)の直下にAl下地層を形成することにより、高密度記録(最短記録マーク長にして100nm以下)においても、安定した記録マークを形成することができる。
なお、アルミニウムは、室温で成膜を行った場合、多結晶として形成される。そのため、上記の実施例では、Al下地層表面の凹凸は、アルミニウムの結晶粒によって形成されていると考えられる。
しかし、更なる高密度記録に対応するため、アルミニウム粒をより小さく形成したい場合は、基板2の温度を室温より低い温度に冷却して、アルミニウムの成膜を行うことが有効である。このような場合、より微細なアルミニウム粒が形成される。ただし、このとき、アルミニウム粒は、微細な非晶質粒(アモルファス粒)として形成されることがある。
〔実施例4〕
本実施例では、下地層3に凹凸の形状を形成するために、下地層3を形成する材料として、アルミニウム以外の材料を用いることを試みた。具体的には、下地層3を形成する材料として、アルミニウムに代えて銀(Ag)を用い、平均膜厚が2.5nmとなるようにAg膜を基板2上に成膜する以外は、実施例1と同様にして、観察試料(以下、「第4の試料」と称する)を作製した。
本実施例では、下地層3に凹凸の形状を形成するために、下地層3を形成する材料として、アルミニウム以外の材料を用いることを試みた。具体的には、下地層3を形成する材料として、アルミニウムに代えて銀(Ag)を用い、平均膜厚が2.5nmとなるようにAg膜を基板2上に成膜する以外は、実施例1と同様にして、観察試料(以下、「第4の試料」と称する)を作製した。
次に、第4の試料のAg膜表面を、実施例1と同様にして原子間力顕微鏡を用いて観察した。第4の試料を基板2の法線方向から原子間力顕微鏡で観察した結果を、図9に示す。
この場合、粒径(凸部の径)が30nm、高さ(凸部の高さ)が6nmの凹凸が高密度(密度が1200個/μm2)で形成されており、粒径、高さ共に、Al膜の場合とほぼ同様の大きさであることがわかった。また、Ag膜の平均膜厚を種々変更したところ、Al膜の場合と同様に、凹凸の大きさ(粒径および高さ)が平均膜厚に比例して変化した。
〔実施例5〕
次に、比較のため、実施例4で作製した第4の試料(比較例5のAg膜を基板に設けた試料)を用いて、Al膜以外の凹凸を備える下地層を設けた磁気記録媒体を作製した。下地層の材質の違いによる効果を正確に評価するため、第4の試料から磁気記録媒体を作製する工程は、実施例2において第1の試料から磁気記録媒体を作製する工程と全く同一とした。したがって、本実施例の磁気録媒体は、前述のAl下地層を備える第1の磁気記録媒体に比べて、下地層としての平均膜厚3.7nmのAl膜を平均膜厚2.5nmのAg膜に変更した以外は、全く同様の構成を備えている。
次に、比較のため、実施例4で作製した第4の試料(比較例5のAg膜を基板に設けた試料)を用いて、Al膜以外の凹凸を備える下地層を設けた磁気記録媒体を作製した。下地層の材質の違いによる効果を正確に評価するため、第4の試料から磁気記録媒体を作製する工程は、実施例2において第1の試料から磁気記録媒体を作製する工程と全く同一とした。したがって、本実施例の磁気録媒体は、前述のAl下地層を備える第1の磁気記録媒体に比べて、下地層としての平均膜厚3.7nmのAl膜を平均膜厚2.5nmのAg膜に変更した以外は、全く同様の構成を備えている。
次に、実施例2で作製した磁気記録媒体(以下、「第1の磁気記録媒体」と称する)、比較例3で作製した磁気記録媒体(以下、「第2の磁気記録媒体」と称する)、および実施例5で作製した磁気記録媒体(以下、「第3の磁気記録媒体」と称する)に対し、評価用の光アシスト磁気記録再生装置を用いて、実際に情報の記録再生を行い、記録再生特性の評価を行った。光アシスト記録再生方法としては、基本的には前述した実施例2の方法と同様であるが、レーザ光源として発振波長が650nmのものを用いている。
得られた測定結果(記録周波数特性)を図14に示す。
図14に●印で示したプロットは、Al下地層を用いた実施例2の第1の磁気記録媒体(図14では「Al下地媒体」と記す)の記録周波数特性の測定結果である。実施例2の第1の磁気記録媒体は、記録周波数が5MHzから50MHzまでの範囲において、C/N値の低下(落ち込み)の傾きが目立って大きくなることはなく、約40dB以上を保持できることが分かった。したがって、第1の磁気記録媒体は、良好な記録周波数特性が得られることが分かった。さらに、磁気力顕微鏡による磁気像の観察においても、記録周波数が5MHzから100MHzまでの範囲でトラック幅の狭化や途切れが起きないことが確認された。したがって、第1の磁気記録媒体は、良好な記録特性が得られることが分かった。
図14に▲印で示したプロットは、Ag下地層を用いた実施例5の第3の磁気記録媒体(図14では「Ag下地媒体」と記す)の記録周波数特性の測定結果である。実施例5の磁気記録媒体は、下地層を備えない従来の磁気記録媒体と比べて良好な記録周波数特性を持っていた。ただし、実施例5の磁気記録媒体は、記録周波数が5MHzから35MHzまでの範囲においては、C/N値が約40dB以上を保持していたが、記録周波数が35MHzを超えると、C/N値の低下(落ち込み)の度合い(曲線の傾き)が大きくなった。
図14に■印で示したプロットは、下地層を用いない比較例4の第3の磁気記録媒体(図14では「下地層無し媒体」と記す)の記録周波数特性の測定結果である。この場合、C値は、25MHzを境に大きく減少した。また、C/N値が約40dB以上を保持できるのは、記録周波数が5MHzから25MHzまでの範囲だけであった。また、磁気像の観察においても、記録周波数が25MHzを超えると、トラック幅の狭小化に加え、記録マークが途切れる現象が起きた。これらは、記録周波数が25MHzを超えると、急激に記録マークが安定して存在できなくなり、信号品質が低下することを示している。なお、下地層3として窒化アルミニウム(AlN)膜を用いた場合も、ほぼ、■印のプロットに近い値となった。
以上のように、実施例2および実施例5の磁気記録媒体では、下地層を用いたことにより、比較例3の磁気記録媒体に比べて、磁気記録媒体としての性能が改善された。
さらに、実施例2および実施例5の磁気記録媒体は、何れも下地層3表面に凹凸を備えるにも関わらず、下地層3としてアルミニウム膜を用いた実施例2の磁気記録媒体では、銀膜を用いた比較例3の磁気記録媒体と比べて、磁気記録媒体としての性能、特に記録周波数特性(記録密度)が大幅に向上した。
次に、実施例2の磁気記録媒体の周波数特性(記録密度)が実施例5の磁気記録媒体と比べて大幅に向上した原因を究明するために、本願発明者等は、下地層の表面形状に加え、磁気記録媒体の磁性層の表面形状についても詳細に調べた。
磁性層の表面観察のための試料は、次の様に作製した。実施例2、比較例3、および実施例5の磁気記録媒体は、基板2上に、下地層3、非晶質磁性層4、保護層5、潤滑層6の順に成膜して作製したが、この試料は、成膜を非晶質磁性層4までで止めた。すなわち、実施例2、比較例3、および実施例5の磁気記録媒体の作製方法において、保護層5および潤滑層6の成膜を省略し、最表面が非晶質磁性層4となる様に磁気記録媒体を作製した。これにより、図8に示す表面形状を持つAl下地層、図9に示す表面形状を持つAg下地層、図10に示す表面形状を持つガラスディスク基板(下地層無し)のそれぞれに対して非晶質磁性層が積層された3種類の磁気記録媒体が得られた。
Al下地層に非晶質磁性層が積層された磁気記録媒体、Ag下地層に非晶質磁性層が積層された磁気記録媒体、およびガラスディスク基板に非晶質磁性層が積層された磁気記録媒体のそれぞれの表面を、その法線方向から原子間力顕微鏡により観察した結果をそれぞれ、図11、図12、図13に示す。
図8および図11に示すように、下地層3としてAl膜を形成した場合、下地層3表面にAlの結晶粒またはアモルファス粒に由来した微小な凹凸が現れるだけでなく、磁性層表面にも、下地層3表面の凹凸と同程度の大きさおよび密度で微小な凹凸が観察された。これは、下地層3の表面形状がそのまま非晶質磁性層4表面に引き継がれた結果、このような形状になったことを示している。よって、下地層3表面の凹凸は、非晶質磁性層4表面に至るまで影響を及ぼし、大きなピニング効果を得ることができると考えられる。また、非晶質磁性層4表面の表面粗さを測定した結果、1.0nmであった。
また、上記磁気記録媒体の各構成要素(基板2、下地層3、および非晶質磁性層4)に加えて更に保護層5を備えた磁気記録媒体と、上記各構成要素に加えてさらに保護層5および潤滑層6を備えた磁気記録媒体の表面をそれぞれ、原子間力顕微鏡(AFM)により観察した。その結果、図18に示すように、両媒体とも下地層3の表面形状に応じた凹凸形状が見られた。つまり、磁気記録媒体の保護層5表面もしくは潤滑層6表面の形状を観察することにより、下地層3表面の形状を定量的に調べることが可能であることが確認された。したがって、高密度記録可能な磁気記録媒体であるか否かは、下地層3表面を直接測定しなくても、保護層4あるいは潤滑層5表面の測定により評価可能である。
図9および図12に示すように、下地層3としてAg膜を形成した場合、下地層3表面にはAgの結晶粒またはアモルファス粒に由来した微小な凹凸が見られるが、非晶質磁性層4表面には微少な凹凸はほとんど観測されなかった。また、非晶質磁性層4表面の表面粗さを測定した結果、0.5nmであった。また、非晶質磁性層4の膜厚を前述の磁気記録媒体の半分の25nmまで薄くする以外は、前述の磁気記録媒体と同様にして、最表面に非晶質磁性層4を備える磁気記録媒体を作製した。この膜厚25nmの非晶質磁性層4を備える磁気記録媒体についても、図示しないが、同様にして原子間力顕微鏡による観察を行った。その結果、非晶質磁性層4の凹凸は、ほとんど見られなかった。つまり、Ag下地層は、表面に微小な凹凸を備えてはいるが、非晶質磁性層4の表面に至るまで影響を及ぼしておらず、このことから、磁壁移動を抑える効果はAl下地層より低いと考えられる。よって、より高密度記録を行うには、Ag膜に比べ、Al膜を下地層とする方が良い。
図10および図13に示すように、下地層3を形成しなかった場合、すなわちガラスディスク基板(下地層なし)の場合、基板表面、非晶質磁性層表面共に、微小な凹凸はほとんど見られなかった。
したがって、本発明に係る凹凸形状の下地層3を備える磁気記録媒体において、非常に良好な記録周波数特性を得るため、すなわち、非常に高い記録密度の記録を可能とするためには、下地層3表面の凹凸形状が非晶質磁性層4表面まで引き継がれていることが好ましい。また、磁性膜の表面形状が特性の善し悪しを決める指標の1つであり、磁気記録媒体の保護層を除去、または保護層が薄い場合はそのまま磁気記録媒体の表面を原子間力顕微鏡により観察することで、磁壁移動を効果的に抑え、高密度記録が可能な磁気記録媒体であるかどうかを判断できることがわかった。
〔実施例6〕
次に、下地層3(アルミニウム膜)の平均膜厚の最適化(下地層3表面の凹凸の大きさの最適化)を行うため、下地層3の平均膜厚を、0、1.0nm、2.0nm、3.0nm、3.7nm、4.0nm、5.0nm、6.0nm、および8.0nmのそれぞれに変更する以外は、実施例1および実施例2の磁気記録媒体1の作製方法と同様にして、成膜を行い、一連の磁気記録媒体を作製した。
次に、下地層3(アルミニウム膜)の平均膜厚の最適化(下地層3表面の凹凸の大きさの最適化)を行うため、下地層3の平均膜厚を、0、1.0nm、2.0nm、3.0nm、3.7nm、4.0nm、5.0nm、6.0nm、および8.0nmのそれぞれに変更する以外は、実施例1および実施例2の磁気記録媒体1の作製方法と同様にして、成膜を行い、一連の磁気記録媒体を作製した。
作製した一連の磁気記録媒体は、光アシストによる磁気記録再生を行い、その周波数特性を評価することで、最も高密度で記録再生が可能となる下地層3の平均膜厚の条件を求めた。なお、光アシスト記録再生方法としては、基本的には前述した実施例2の方法と同様であるが、記録電流を30mA一定とし、かつ、レーザ光源として発振波長が650nmのものを用いている。
記録周波数特性評価の結果を図15に示す。図15からわかるように、下地層3の平均膜厚(図15では「下地層膜厚」と記す)が0nmの場合には記録周波数を25MHzまで上昇させたときに、下地層3の平均膜厚が1nmの場合には記録周波数を35MHzまで上昇させたときに、それぞれC/N値が急激に悪化した。これは、下地層3が1nm以下のように薄い場合は、下地層3表面の凹凸形状の大きさ(特に凸部の高さ)が十分ではなく、下地層3の効果を十分に発現するには至らなかったと考えられる。一方、下地層3の平均膜厚が2〜6nmの場合においては、少なくとも約50MHz以下の記録周波数では、周波数特性が急激に悪化し始めることはなく、特性はほぼ等しく良好であった。よって、下地層3としてのアルミニウム膜の膜厚が2〜6nmの磁気記録媒体では、100nmの記録マーク長においても、記録ビットを明確に形成することが可能であると言える。
また、原子間力顕微鏡により、上記磁気記録媒体の非晶質磁性層4表面の観察を行った。下地層3表面の凹凸により非晶質磁性層4が十分に分離される場合、非晶質磁性層4表面には下地層3表面の凹凸と同じ様な凹凸が現れる。
観察の結果、下地層3の平均膜厚が1.0nm以下の場合は、非晶質磁性層4表面には下地層3に由来する微小な凹凸はほとんど現れないことがわかった。これは、下地層3表面の凹凸の大きさ(特に凸部の高さH)が小さすぎるため、下地層3の効果(磁壁移動を抑制する効果)を十分に発現するに至らなかったためであると考えられる。
一方、下地層3の平均膜厚が2〜6nmである場合には、非晶質磁性層4表面に微少な凹凸構造がはっきりと観察できた。また、下地層3の平均膜厚が3.7nmである場合には、図11に示す凹凸構造が観察でき、非晶質磁性層4表面の凹凸の大きさは、代表的な凸部の径が30nmであった。このことから、この場合の下地層3表面の凹凸構造は、最短記録マーク長が目安として70nmとなる50ギガビット毎平方インチ(7.8ギガビット毎平方センチメートル)以上の記録密度に対しても、十分にピニングサイト(束縛部位)としての効果を発現することができると考えられる。また、このとき、非晶質磁性層4表面の凸部の径は、20〜50nmの範囲でばらつきがあった。
また、下地層3の平均膜厚が8.0nmである場合(6.0nmを超える場合)には、非晶質磁性層4表面には下地層3表面形状に由来すると思われる凹凸は現れたが、凹凸構造の凸部の径が70nm以上に達した。しかし、これでは、最短記録マーク長は長くなってしまい、高密度記録には利用することができないと考えられる。
したがって、下地層3としてアルミニウム膜を用いた場合には、アルミニウム膜の平均膜厚は、2〜6nmであることが好ましく、更なる高密度記録を可能にするためには、2〜4nmであることが最適であることが分かった。
〔実施例7〕
最後に、光アシストを行わず、室温で記録および再生を行う通常の磁気記録再生方式においても、下地層3の効果を確かめるため、次の試料を作製した。
最後に、光アシストを行わず、室温で記録および再生を行う通常の磁気記録再生方式においても、下地層3の効果を確かめるため、次の試料を作製した。
本実施例の磁気記録媒体は、その構成および作製方法は、基本的には実施例2の磁気記録媒体1と同様であり、基板2、Alからなる下地層3、TbFeCoからなる非晶質磁性層(記録層)4、炭素からなる保護層5、潤滑層6で構成される。ただし、本実施例の磁気記録媒体は、室温において記録再生を行うことが可能となるように、非晶質磁性層4におけるTbの量を調節した点が、実施例2の磁気記録媒体と異なる。すなわち、本実施例の磁気記録媒体は、非晶質磁性層4におけるTbの量を増加させることにより、室温における保磁力を減少させると共に、室温における磁化を増加させることで、室温において記録および再生が可能な磁気記録媒体とした。
本実施例では、Alからなる下地層3の厚みが、それぞれ、1.0nm、2.0nm、および3.7nmである3種類の磁気記録媒体を作製した。また、比較用の磁気記録媒体として、下地層3の厚みが0、すなわち下地層3無しの磁気記録媒体を作製した。
これら4種類の磁気記録媒体に対して記録再生を行い、記録再生特性を評価した。記録再生の方法としては、レーザ照射(光アシスト)は全く行わず、通常の磁気記録装置と同じく磁気ヘッドのみにより行った。図16に、その時の記録再生評価結果を示す。
図16のグラフから見て取れるよう、比較用の下地層3なしの磁気記録媒体に比べ、本発明に係る下地層3ありの磁気記録媒体は、明らかに周波数特性が向上しており、高密度記録が可能となることが確認できた。C/N値が30dB以上の条件では、比較用の下地層3なしの磁気記録媒体の場合には、記録周波数は60MHz以下であったが、本発明に係る下地層3が1.0nmおよび2.0nmの記録媒体では、100MHzを超える記録周波数を達成することができた。ただし、室温記録の場合には、光アシスト記録のようにトラック幅を縮めることはできない。
一方、下地層3の厚みを3.7nmとした場合には、磁気記録媒体の磁気特性が面内の異方性を示し、熱揺らぎの問題を生じるため、高密度記録には適さないことがわかった。よって、光アシストを行わない通常の磁気記録においても、Alからなる下地層3を少なくとも1.0nm以上の厚みで備えることにより高密度記録が可能となり、下地層3の厚みを1.0〜2.0nmとすることにより更なる高密度記録が可能となることがわかった。
本発明は、DVDや光磁気ディスクおよびハードディスクなど磁気的に情報を記録する磁気記録装置に好適に用いられる磁気記録媒体およびそれを用いた磁気記録装置に関するものである。
1 磁気記録媒体
2 基板
3 下地層
4 非晶質磁性層(磁性層)
5 保護層
6 潤滑層
11 レーザピックアップ(光照射手段)
12 磁気ヘッド(磁界印加手段)
2 基板
3 下地層
4 非晶質磁性層(磁性層)
5 保護層
6 潤滑層
11 レーザピックアップ(光照射手段)
12 磁気ヘッド(磁界印加手段)
Claims (8)
- 基板と、情報を磁気的に記録するための磁性層とを備え、上記基板と磁性層との間に、非磁性金属元素からなる下地層が設けられた磁気記録媒体において、
上記磁性層が加熱および磁界の印加によって情報を磁気的に記録するものであって、上記下地層が該磁性層と接していることを特徴とする磁気記録媒体。 - 上記下地層の平均層厚が、10nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
- 上記下地層の平均層厚が、2〜10nmの範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
- 上記下地層の表面に、凸部の径が100nm未満の凹凸を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 上記下地層の表面形状が磁性層表面に引き継がれ、磁性層の表面に凹凸を有することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
- 上記非磁性金属元素が、アルミニウムであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 25℃以上の磁気的補償温度を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体に対し、磁性層に情報を磁気的に記録する磁気記録装置であって、
上記磁性層を局所的に加熱するための光ビームを磁性層に照射する光照射手段と、
上記磁性層における光ビームが照射された領域の少なくとも一部に対して、上記磁性層の磁化方向を決定するための磁界を印加する磁界印加手段とを備えることを特徴とする磁気記録装置。
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JP2012226792A (ja) * | 2011-04-15 | 2012-11-15 | Toshiba Corp | 磁気記録媒体 |
-
2006
- 2006-04-20 JP JP2006117191A patent/JP2006252760A/ja active Pending
Cited By (2)
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